説明

集積回路の制御電圧決定方法、TEG回路のゲート電圧決定方法、TEG回路試験方法及び試験装置

【課題】集積回路において、トランジスタのしきい値電圧などの特性変動あるいはばらつきが与える回路動作への影響を受けにくい集積回路およびTEG回路を提供する。
【解決手段】1対の抵抗デバイスMP1,MP2と、1対のN型差動トランジスタMN1,MN2と、該1対のN型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタMLとを備えた電流モード動作回路において、その電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧VLを、N型差動トランジスタのしきい値電圧などの特性変動に対して、集積回路の電圧利得が少なくとも1以上となるよう決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流モード動作回路及びそれを用いたTEG回路とその試験技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信デバイスやマイクロプロセッサの高速化に伴い、ロジック回路を数十GHzのRF帯域などの高周波で動作させる手法としてMOS電流モードロジック(MCML: MOS Current Mode Logic)回路が多用されるようになっている。
【0003】
非特許文献1に示されるように、近年のトランジスタにおいては、しきい値電圧(Vth)などの特性が設計値と比べて変動することが多く、そのため、MCML回路が動作しなかったり、動作範囲が限られるなどの克服すべき課題が存在し、研究が続けられている。ここでのしきい値電圧の変動とは、製造時にばらついてしまうことと、動作時に温度や電源電圧の変動による影響で変動することなどが含まれる。
【0004】
また、デバイス開発時には、ウエハのスクライブライン領域に評価試験用TEG(Test Element Group)を設けるが、高周波試験用のTEGに適した回路が開発されておらず、デバイス開発者からは、そのようなTEGの考案が待ち望まれていた。
【0005】
【非特許文献1】IEICE Technical Report, ED2006-103, SDM2006-111(2006-7), H. Na, M. Suemitsu and T. Endoh, The Guideline of Tolerable Vth Fluctuation for MCML (MOS Current Mode Logic) Inverter Circuit, July, 2006, p233-236
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、電流モードで動作する回路において、トランジスタのしきい値電圧の変動あるいはばらつきなどが与える、回路動作への影響を受けにくい電流モード動作回路を提供することである。
【0007】
本発明が解決しようとする別の課題は、高周波試験用TEG回路とその試験装置のために、安定した高周波動作をするTEG回路とその回路の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による集積回路の電流源の制御電圧決定方法は、1対の抵抗デバイスと、その各々に直列接続される1対のN型差動トランジスタと、該1対のN型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタとを備えた集積回路において、その電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を、N型差動トランジスタの特性変動に対して、当該集積回路の電圧利得が少なくとも1以上となるよう決定することを主な特徴とする。
【0009】
本発明による別の集積回路の電流源の制御電圧決定方法は、1対の抵抗デバイスと、その各々に直列接続される1対のN型差動トランジスタと、該1対のN型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタとを備えた集積回路において、その電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を、N型差動トランジスタの特性変動に対して、当該集積回路の入出力電圧に含まれるバイアス電圧の差が少なくなるよう決定することを主な特徴とする。
【0010】
上記2つの方法により、1対の抵抗デバイスと、1対のN型差動トランジスタと、電流源トランジスタとを備えた集積回路において、N型差動トランジスタのしきい値電圧の変動に着目して、効果的に電流源トランジスタの制御電圧を決定することができる。なおここで、抵抗デバイスは、P型トランジスタなどにより構成されることができる。また、集積回路には、電流モードロジック回路も含まれる。
【0011】
上述の態様には、さらに、しきい値変動を含む当該N型差動トランジスタの特性と当該抵抗デバイスの特性の両方の変動に応じて、該制御電圧を決定する態様も含む。
【0012】
これにより、N型差動トランジスタと特性の変動だけでなく、抵抗デバイスの特性の変動にも着目して、最適な制御電圧を決定することができる。なお、ここで抵抗デバイスがP型トランジスタで構成されていた場合には、抵抗デバイスの特性としてはP型トランジスタの特性としてしきい値などが含まれる。
【0013】
上述の態様には、当該集積回路が、インバータあるいはバッファ回路である態様も含む。
【0014】
本発明によるTEG回路試験方法は、1対の抵抗デバイスと、1対のN型差動トランジスタと、当該N型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタと、この電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を供給する制御電圧端子を備えたTEG回路において、当該制御電圧端子に、N型差動トランジスタの特性変動に対して、当該TEG回路の電圧利得が少なくとも1以上となるような電圧を印加し、当該TEG回路を試験することを主な特徴とする。
【0015】
本発明による別のTEG回路試験方法は、1対の抵抗デバイスと、1対のN型差動トランジスタと、当該N型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタと、この電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を供給する制御電圧端子を備えたTEG回路において、当該制御電圧端子に、N型差動トランジスタの特性変動に対して、当該TEG回路の入出力電圧に含まれるバイアス電圧の差が少なくなるような電圧を印加し、当該TEG回路を試験することを主な特徴とする。
【0016】
上記2つのの方法により、1対の抵抗デバイスと、1対のN型差動トランジスタと、電流源トランジスタと、その制御電圧端子を備えたTEG回路において、N型差動トランジスタの特性変動に着目して、効果的に電流源トランジスタの制御電圧を決定して制御電圧端子に電圧を印加することができるので、高周波動作可能なTEG回路での試験をすることができる。
【0017】
上述の態様には、さらに、しきい値変動を含む当該N型差動トランジスタの特性と該抵抗デバイスの特性の両方の変動に応じて、制御電圧を決定する態様や、当該集積回路が、インバータあるいはバッファ回路である態様も含む。
【0018】
本発明によるTEG回路試験方法の別の態様は、1対の抵抗デバイスと、その各々に直列接続される1対のN型差動トランジスタと、当該N型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタと、当該電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を供給する制御電圧端子を備えたTEG回路と、当該制御電圧端子に接続された電圧源とを有するTEG回路測定装置において、当該電圧源が、しきい値変動を含むN型差動トランジスタの特性の変動に対して、TEG回路の電圧利得が少なくとも1以上となるような電圧を印加し、当該TEG回路を試験することを主な特徴とする。
【0019】
本発明によるTEG回路のゲート電圧決定方法は、ゲートが接地された第1及び第2のPMOSトランジスタと、ドレインが該第1及び第2のPMOSトランジスタのドレインへそれぞれ接続された第1及び第2のNMOSトランジスタと、該第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのゲートへ接続された第1および第2の入力端子と、該第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのドレインへ接続された第1および第2の出力端子と、該第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのソースへ接続された第3のNMOSトランジスタと、該第3のNMOSトランジスタのゲートへ接続されたゲート端子と、を備えた電流モードロジックのTEG回路において、該第1および第2の入力端子に所定の電圧を印加し、該第1の入力端子でのバイアス電圧と該第2の出力端子において測定されるバイアス電圧の測定電圧との電圧差が少なくなるように、又は、該第2の入力端子でのバイアス電圧と前記第1の出力端子において測定されるバイアス電圧の測定電圧との電圧差が少なくなるように、該ゲート端子に印加する電圧を決定することを主な特徴とする。
【0020】
本発明によるTEG回路の試験方法および試験装置は、ゲートが接地された第1及び第2のPMOSトランジスタと、ドレインが該第1及び第2のPMOSトランジスタのドレインへそれぞれ接続された第1及び第2のNMOSトランジスタと、該第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのゲートへ接続された第1および第2の入力端子と、該第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのドレインへ接続された第1および第2の出力端子と、該第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのソースへ接続された第3のNMOSトランジスタと、該第3のNMOSトランジスタのゲートへ接続されたゲート端子とを備えた電流モードロジックのTEG回路と、さらに、第1及び第2及び第3の電圧源と、第1の電圧計とを有するTEG回路の測定装置において、該第1の電圧源から該第1の入力端子に第1のバイアス電圧の信号を印加し、該第2の電圧源から該第2の入力端子に第2のバイアス電圧の信号を印加し、該第2の出力端子でのバイアス電圧を第3のバイアス電圧として測定するか、又は、該第1の出力端子でのバイアス電圧を第4のバイアス電圧として測定し、該第1と第3のバイアス電圧の差、あるいは、該第2と第4のバイアス電圧の差が少なくなるように、該ゲート端子に与える制御電圧を決定し、前記第3の電圧源により該ゲート端子に制御電圧を印加することを主な特徴とする。
【0021】
上述の、本発明による集積回路の電流源の制御電圧決定方法は、該制御電圧について、該前記集積回路の設計時の動作可能最大周波数までの電圧利得が少なくとも1以上となるよう決定する態様を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明を用いることにより、集積回路において、最適な電流源のゲート電圧を決定することができる。これにより、トランジスタの特性が、しきい値電圧が製造時にばらついたり、温度変動あるいは電源電圧の変動によって影響を受けたとしても、当該回路を動作させることができるし、周波数特性も改善することができる。また、高速化にも効果がある。
【0023】
本発明のTEG回路およびそれを用いた試験装置を使うことにより、今までできなかった高周波でのTEG試験をすることができ、今後の高周波でのデバイス開発に利用でき、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図1から図6を使って説明する。
【0025】
図1に本発明を用いた集積回路である電流モード動作回路100の基本回路として、MCMLインバータ又はバッファ回路を示す。典型的な電流モード動作回路は3つのパートで構成される。すなわち、電流源トランジスタ(トランジスタML)、差動トランジスタ(トランジスタMN1、MN2)、そして、抵抗用トランジスタ(トランジスタMP1、MP2)である。差動トランジスタMN1,MN2のそれぞれのゲートに接続された入力端子IN1,IN2には、差動入力が与えられ、出力端子OUT1,OUT2には、差動出力信号が出力される。
【0026】
抵抗用トランジスタMP1,MP2には、PMOSトランジスタが用いられ、それぞれのゲートは接地されている。ここで、このゲートは、PMOSトランジスタが抵抗として動作するならば、接地接続以外の変形も可能である。例えば、所定の電圧に接続したり、各トランジスタのソース側に接続することもできる。また、PMOSトランジスタ以外は、例えば、DタイプNMOSトランジスタなどの各種デバイス、及び、配線を含む受動デバイスで構成してもかまわない。
【0027】
差動トランジスタMN1,MN2及び電流源トランジスタMLには、NMOSトランジスタが用いられる。本発明では、電流源トランジスタMLのゲートには、電流を可変するために、所望のゲート電圧が印加できるようにゲート端子VLが設けられている。なお、端子T1は電源(VDD)接続用の端子、端子T2は接地(GND)接続用の端子である。
【0028】
図2に、図1の電流モード動作回路でVLに設計時の定電圧を印加したときの問題点を示す。図2(a)に示すように、入力端子IN1に基準電圧Vin1_refのサイン波を与えたとすると、図2(b)に示すように、出力端子OUT2にはVin1_refとはオフセット電圧Voffsetが生じた基準電圧Vout2_refのサイン波が現れる。なお、ここで、IN1とOUT2の信号波形を比較するのは、IN1とOUT1は、波形が反転し、IN1とIN2には相補的な関係の差動信号が入力されることから、このように入・出力端子を選ぶことで比較が容易となることに、注意されたい。
【0029】
このオフセット電圧Voffsetが大きすぎると、出力波形が歪んだり、電流モード動作回路がロジック回路の場合には、ディジタル回路として動作しないことが考えられる。
【0030】
このオフセット電圧Voffsetが現れる理由を図3を使って説明する。図3に示すように、トランジスタMP1,MP2は、PMOSトランジスタであり、トランジスタMN1,MN2,MLはNMOSトランジスタである。特にMCML回路では、PMOSトランジスタのしきい値電圧VthpとNMOSトランジスタのしきい値電圧Vthnが、製造時にばらついたり、周辺温度の変化や、電源電圧の変化によっても影響を受けて変動しやすい。
【0031】
ここで、Vthpが変動すると、トランジスタMP1、MP2での負荷抵抗R1,R2の抵抗値に影響が出る。Vthnが変動すると、トランジスタMN1,MN2それぞれのドレイン−ソース間を流れる電流I1とI2に影響が出る。これらをVthp、Vthnそれぞれに考察して、影響を抑制する方針を示したのが表1及び表2である。
【0032】
【表1】

【0033】
表1には、Vthnが変動すると、それぞれのトランジスタを流れる電流I1,I2、抵抗用トランジスタでの電圧降下、出力端子での電圧にどのような影響出るかを示した。すなわち、Vthnが高くなると、I1,I2の電流値は小さくなり、したがって抵抗用トランジスタでの電圧降下も小さくなり、結果として出力端子での電圧は高くなり、図2(b)のオフセット電圧は増大する。これを抑制するには、電流源MLを流れる電流ILを増やせばよく、そのためには、ゲート電圧VLを増やせばよい。
【0034】
同様にして、Vthnが低くなると、出力端子電圧は低くなる。もし、図2(b)のOffsetがマイナスに振れた場合は、電圧VLを減らして、電流ILを減らせばよい。
【0035】
【表2】

【0036】
表2には、Vthpが変動すると、抵抗用トランジスタの抵抗値、抵抗用トランジスタでの電圧降下、出力端子での電圧にどのような影響出るかを示した。すなわち、Vthpが低くなり、しきい値が深くなると、抵抗R1、R2は大きくなり、したがって抵抗用トランジスタでの電圧降下も大きくなり、結果として出力端子での電圧は低くなる。図2(b)のオフセットがマイナスに振れた場合には、これを抑制するに、電流源を流れる電流ILを減らせばよく、そのためには、ゲート電圧VLを減らせばよい。
【0037】
同様にして、Vthpが高くなり、しきい値が浅くなると、抵抗R1、R2は小さくなり、したがって抵抗用トランジスタでの電圧降下も小さくなり、出力端子電圧は高くなり、図2(b)のオフセット電圧Voffsetは増大する。これを抑えるためには、電流源を流れる電流ILを増やせばよく、そのためには、ゲート電圧VLを増やせばよい。
【0038】
すなわち、電流モード動作回路100でVthn,Vthpがさまざまな原因で変動したとしても、電流源トランジスタのゲート電圧VLを適切に制御すれば、設計時に近い動作特性が期待できる。
【0039】
次に、図4及び図5を使って、回路に最適なゲート電圧VLを決定する方法について説明する。
【0040】
図4では、電流モード動作回路100を被試験対象のTEG回路502としたTEG試験装置500について説明する。
【0041】
TEG試験装置500は、試験ユニット520を備える。試験ユニットは、コントローラ522とそれらに接続された電圧源VS1(528),VS2(532),VS3(534)と電圧計VM1(530)を備える。電圧源VS1とVS2はそれぞれ差動入力IN1とIN2に接続されて入力電圧を供給し、電圧源VS3はゲート端子VLに接続されてゲート電圧を制御する。また、電圧計VM1は、OUT2に接続されて、電圧を測定する。図4の試験装置では、入力端子IN1に与える入力電圧と比較するために、出力端子OUT2に電圧計VM1を接続しているが、上述のように、入力端子IN2の入力電圧と比較する場合には、電圧計VM1は出力端子OUT1に接続される。コントローラ522はプロセッサ(CPU)524と記憶装置(メモリ)526を含む。プロセッサは、例えばインテル社製のコア(登録商標)シリーズなどの汎用プロセッサ、DSP,ASICなどの特定用途向けプロセッサあるいはゲートアレイでも良い。また、記憶装置は、RAM,ROM,フラッシュメモリなどの半導体メモリのほか、書き換え型あるいは読み出し専用の各種CDあるいはDVDなどのメディアアクセス機器を含むこともでき、各種データ及びプロセッサ524で実行可能なプログラムを格納することができる。コントローラ522は、パーソナルコンピュータ、あるいは、産業用コントローラなどを用いることができる。
【0042】
次に図5を用いて、測定ユニット520の動作を説明する。まずステップS10で、電圧源VS3からゲート端子に初期電圧を印加し、ステップS20で、電圧源VS1とVS2を用いて、入力端子IN1とIN2に所定の基準電圧V_refを印加する。ここで、基準電圧V_refとは、TEG回路502(あるいは電流モード動作回路100)の設計時に、回路に応じて決まる電圧で、理想的な回路条件において、入力電圧と出力電圧が等しくなるような電圧、あるいは、入出力電圧の電圧の差が極めて少なくなるような電圧である。基準電圧V_refは、TEG回路の設計に依存するが、一例としては、電源電圧VDDの50〜70%程度の直流電圧となる。
【0043】
次に、ステップS30において、電流計VM1で出力端子OUT2の電圧を測定し、ステップS40において、OUT2の電圧とIN1の電圧の差が所定の収束条件値よりも少ないか判定する。少ない場合(Yes)には、収束条件を満足する電圧VLが見つかったとして、ステップS60に進み、電圧源VS3の電圧をVLの最適値として記憶装置526に保管する。この電圧VLの最適値は、この後の各種試験の際に、VLの印加電圧の設定値として使われる。また、この電圧VLを記憶装置526に保管せずに、電圧源VS3に出力電圧値として設定しても良い。
【0044】
OUT2の電圧とIN1の電圧の差が所定の収束条件値以上だった場合(No)には、まだ収束条件を満たしていないので、ステップS50で電圧源VS3の印加電圧を所定の増加分DELTA_Vほど増加させ、ステップS30に戻る。
【0045】
なお、上述の説明において、入力端子IN1とIN2に与える基準電圧V_refとしては、直流電圧を与える他に、バイアス電圧成分が基準電圧V_refとなる交流電圧であってもよい。その場合、出力電圧としては、出力信号に含まれるバイアス電圧成分を取り出して測定し、比較することに注意されたい。従って、入力に交流信号も加味した場合には、基準電圧V_refには、入出力電圧に含まれるバイアス電圧の差が少なくなるような設計時の電圧が選ばれる。また、電圧VLの最適値としては、入出力電圧に含まれるバイアス電圧の差が少なくなるような値が求められる。
【0046】
以上のように決定したゲート電圧VLの効果をシミュレーションした結果を図6に示す。まず、図6(a)は、本発明による電流モード動作回路100あるいはそれを用いたTEG回路502において、VLを設計時の理想値である固定電圧、すなわち電源電圧である2.0Vとし、VthpあるいはVthnを変動させたときの、回路100あるいは502の交流信号入力に対するゲインの周波数特性を示すグラフである。Vthn及びVthpがΔVth=0Vのときと比べて、PMOSのしきい値Vthpは+0.1Vよりも−0.1V変動したときの方が大幅にゲインが下がり、NMOSのしきい値Vthnに対しては、+0.1V変動するとVthpが−0.1V変動したときよりも大幅にゲインが下がることが示されている。また、Vthnを−0.1Vしたときには、回路は動作しないことが示されている。
【0047】
このことから、ゲート電圧VLが固定の時、回路100あるいは502の動作は、しきい値電圧について言えば、VthpよりもVthnの変動の方が与える影響が大きい。
【0048】
次に、図6(b)では、Vthp,Vthnを±0.1V変動させた状態で、上述の方法で最適なゲート電圧VLを求めた場合の、回路100あるいは502のゲインの周波数特性を示す。このシミュレーション結果によると、Vthp,Vthnが変動しても、電圧VLを最適に設定することで、いずれも、理想状態であるVth=0の時とほぼ等しいゲイン及び周波数特性を示した。従って、回路動作に最低限求められる1以上のゲインを設計時の最高動作可能周波数(50GHz)まで実現できているばかりか、高速動作帯域での安定動作に不可欠な設計どおりの100倍以上のゲインを実現できている。すなわち、電圧利得を上げるようにすれば自ずと入力信号と出力信号の基準電圧は、一致するようになることを示している。
【0049】
従って、本発明を用いると、PMOSのしきい値電圧の変動に効果があるだけでなく、PMOSよりも回路動作に大きく影響するNMOSのしきい値電圧の変動に対しても効果がある。従って、回路の高速化にも大きく寄与する。また、本発明の回路をTEG回路に応用すれば、高周波用試験TEGとして、安定して動くことが期待できる上に、高周波での各種試験を行うためのTEGのプラットフォームとしても有効である。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について本発明を説明してきたが、本発明の思想に基づき、さまざまな変形・変更を施すことが可能である。例えば、MCMLインバータ又はバッファ回路以外のMCML回路に、本発明を容易に適用させることができよう。そのような回路としては、AND/OR,NAND/NOR、EXOR/EXNOR、フリップフロップ、SRAMがあげられる。また、図5で示した最適なVLを求めるアルゴリズムは、一例であって、さまざまなVLをスイープさせる方法に変形することが可能である。例えば、増加だけでなく減少させる方法、あるいは、バイナリサーチを使う方法、あるいは、ある程度の収束値まで求まったら、補間演算を施して、短時間で精度良く最適なVLを求めるなどの応用を考えることもできる。また、上記のVL決定方法は、電流モードロジック回路に限らず、電流源を備えて電流モードで動作するさまざまな回路にも適用できよう。
【0051】
さらに、本発明による試験装置についても、例えば、電圧計の代わりにオシロスコープを使うなどの変形も考えられよう。
【0052】
また、本発明の方法を利用して、温度や電源電圧の変動を検出して、最適なゲート電圧VLを再決定して、VLを設定し直すような回路、あるいは、動的にVLにフィードバックをかける回路も考えられよう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による電流モード動作回路の回路図である。
【図2】図1の回路の入力と出力の波形の関係を説明する模式グラフである。
【図3】図1の回路の動作を説明する模式図である。
【図4】本発明による測定装置のブロック図である。
【図5】本発明によるVL決定アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図6】本発明によるVLの決定による効果を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0054】
100 電流モード動作回路
500 試験装置
502 TEG回路
520 試験ユニット
522 コントローラ
524 プロセッサ
526 記憶装置
528,532,534 電圧源
530 電圧計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の抵抗デバイスと、
その各々に直列接続される1対のN型差動トランジスタと、
前記1対のN型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタとを備えた集積回路において、
前記電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を、前記N型差動トランジスタの特性変動に対して、前記集積回路の電圧利得が少なくとも1以上となるよう決定する、集積回路の電流源の制御電圧決定方法。
【請求項2】
1対の抵抗デバイスと、
その各々に直列接続される1対のN型差動トランジスタと、
前記1対のN型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタとを備えた集積回路において、
前記電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を、前記N型差動トランジスタの特性変動に対して、前記集積回路の入出力電圧に含まれるバイアス電圧の差が少なくなるよう決定する、集積回路の電流源の制御電圧決定方法。
【請求項3】
前記制御電圧を、しきい値変動を含む前記N型差動トランジスタの特性と前記抵抗デバイスの特性の両方の変動に応じて決定する、請求項1または2に記載の制御電圧決定方法。
【請求項4】
前記集積回路は、インバータあるいはバッファ回路である請求項1ないし3のいずれかに記載の制御電圧決定方法。
【請求項5】
1対の抵抗デバイスと、
その各々に直列接続される1対のN型差動トランジスタと、
前記N型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタと、
前記電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を供給する制御電圧端子を備えたTEG回路において、
前記制御電圧端子に、前記N型差動トランジスタの特性変動に対して、前記TEG回路の電圧利得が少なくとも1以上となるような電圧を印加し、前記TEG回路を試験するTEG回路試験方法。
【請求項6】
1対の抵抗デバイスと、
その各々に直列接続される1対のN型差動トランジスタと、
前記N型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタと、
前記電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を供給する制御電圧端子を備えたTEG回路において、
前記制御電圧端子に、前記N型差動トランジスタの特性変動に対して、前記TEG回路の入出力電圧に含まれるバイアス電圧の差が少なくなるような電圧を印加し、前記TEG回路を試験するTEG回路試験方法。
【請求項7】
前記制御電圧端子に印加する電圧は、しきい値変動を含む前記N型差動トランジスタの特性と前記抵抗デバイスの特性の両方の変動に対して決定した電圧を印加する、請求項5または6に記載のTEG回路試験方法。
【請求項8】
前記集積回路は、インバータあるいはバッファ回路である請求項5ないし7のいずれかに記載のTEG回路試験方法。
【請求項9】
1対の抵抗デバイスと、
その各々に直列接続される1対のN型差動トランジスタと、
前記N型差動トランジスタに動作電流を供給する電流源トランジスタと、
前記電流源トランジスタに流れる電流の制御電圧を供給する制御電圧端子を備えたTEG回路と、
前記制御電圧端子に接続された電圧源と
を有するTEG回路測定装置において、
前記電圧源が、しきい値変動を含む前記N型差動トランジスタの特性の変動に対して、前記TEG回路の電圧利得が少なくとも1以上となるような電圧を印加し、前記TEG回路を試験するTEG回路試験方法。
【請求項10】
ゲートが接地された第1及び第2のPMOSトランジスタと、
ドレインが前記第1及び第2のPMOSトランジスタのドレインへそれぞれ接続された第1及び第2のNMOSトランジスタと、
前記第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのゲートへ接続された第1および第2の入力端子と、
前記第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのドレインへ接続された第1および第2の出力端子と、
前記第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのソースへ接続された第3のNMOSトランジスタと、
前記第3のNMOSトランジスタのゲートへ接続されたゲート端子と、
を備えた電流モードロジックのTEG回路において、
前記第1および第2の入力端子に所定の電圧を印加し、前記第1の入力端子でのバイアス電圧と前記第2の出力端子において測定されるバイアス電圧の測定電圧との電圧差が少なくなるように、又は、前記第2の入力端子でのバイアス電圧と前記第1の出力端子において測定されるバイアス電圧の測定電圧との電圧差が少なくなるように、前記ゲート端子に印加する電圧を決定するTEG回路のゲート電圧決定方法。
【請求項11】
ゲートが接地された第1及び第2のPMOSトランジスタと、
ドレインが前記第1及び第2のPMOSトランジスタのドレインへそれぞれ接続された第1及び第2のNMOSトランジスタと、
前記第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのゲートへ接続された第1および第2の入力端子と、
前記第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのドレインへ接続された第1および第2の出力端子と、
前記第1及び第2のNMOSトランジスタのそれぞれのソースへ接続された第3のNMOSトランジスタと、
前記第3のNMOSトランジスタのゲートへ接続されたゲート端子と、
を備えた電流モードロジックのTEG回路と、
さらに、第1及び第2及び第3の電圧源と、
第1の電圧計と
を有するTEG回路の測定装置において、
前記第1の電圧源から前記第1の入力端子に第1のバイアス電圧の信号を印加し、前記第2の電圧源から前記第2の入力端子に第2のバイアス電圧の信号を印加し、前記第2の出力端子でのバイアス電圧を第3のバイアス電圧として測定するか、又は、前記第1の出力端子でのバイアス電圧を第4のバイアス電圧として測定し、前記第1と第3のバイアス電圧の差、あるいは、前記第2と第4のバイアス電圧の差が少なくなるように、前記ゲート端子に与える制御電圧を決定し、前記第3の電圧源により前記ゲート端子に制御電圧を印加するTEG回路の試験方法。
【請求項12】
請求項11記載の試験方法の試験を行うTEG回路の試験装置。
【請求項13】
前記制御電圧は、前記集積回路の設計時の動作可能最大周波数までの電圧利得が少なくとも1以上となるよう決定する請求項1記載の制御電圧決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−294547(P2008−294547A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135540(P2007−135540)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】