説明

CMOS半導体素子とその製造方法

【課題】窒素含有量の異なる金属をゲート電極材として用いたCMOSトランジスタにおいて、ゲート電極の抵抗を低減しCMOSトランジスタの微細化を実現する。
【解決手段】半導体基板上のNMOS領域とPMOS領域にゲート絶縁膜を介してそれぞれ窒素含有量の異なる下層金属層とその上に積層された上層金属層から成る2層構成のゲート電極が形成されたCMOS半導体素子であって、前記下層金属層を前記上層金属層よりゲート長方向の長さを短くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCMOS半導体素子とその製造方法に係り、特に金属ゲート電極を有するCMOSトランジスタとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CMOSトランジスタの製造に際しては、シリコン基板上のnMOS領域とpMOS領域に所定の仕事関数差、たとえば1eV程度の仕事関数差を持つ2種類のゲート電極材を用いてnMOSトランジスタ及びpMOSトランジスタを形成する必要がある。ゲート電極材として従来は専ら多結晶シリコンが用いられてきた。多結晶シリコンは導入不純物の種類によってその仕事関数を制御することができるため、たとえば、nMOS領域で用いられる多結晶シリコンにはAsをドープし、pMOS領域で用いられる多結晶シリコンにはBをドープすることにより容易にnMOS及びpMOS領域におけるゲート電極に所定の仕事関数差を設定することが可能である。
【0003】
しかし、近年におけるCMOSトランジスタ及びそれを用いた集積回路の高速・高集積化の要求に伴ってゲート電極の薄層化及びゲート長の短小化が進むにつれ多結晶シリコンの持つ高い抵抗率、さらには空乏化現象がトランジスタ特性の向上を阻む大きな要因となってきた。
【0004】
そこで、多結晶シリコンに代わって金属をゲート電極材として用いることが検討されており、具体的には、仕事関数の異なる2種類の金属をnMOS及びpMOSランジスタのゲート電極として用いることが提案されている。
【0005】
また、金属に窒素を導入した金属窒化物では窒素含有量によって仕事関数が変化することが知られており、この現象を利用すれば同一の金属膜に対する窒素含有量を制御することによりnMOS及びpMOSトランジスタのゲート電極に所定の仕事関数差を設定することが可能となる。(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−31296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
仕事関数の異なる2種類の金属を用いる方法では、金属の種類を適切に選択することにより比較的容易に所定の仕事関数差を設定することができる。しかし、この方法では半導体基板上に2種類の金属膜をそれぞれ別工程で形成しパターニングする必要があるため工程数が多くなりコスト高になるという問題がある。
【0007】
同一の金属膜に対する窒素含有量を制御する方法は上述の方法に比べて工程数が少なくなる点で優れている。しかし、この方法では所定の仕事関数差を得るために少なくとも一方の金属膜に対する窒素含有量を大きくしなければならない。ところが、窒素含有量が増加すると抵抗値もそれとともに増加することになりこれがCMOSトランジスタの特性を劣化させるという問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明は窒素含有量の異なる金属をゲート電極材として用いたCMOSトランジスタにおいて、ゲート電極の抵抗を低減しCMOSトランジスタの微細化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決は、半導体基板上のnMOS領域とpMOS領域にゲート絶縁膜を介してそれぞれ窒素含有量の異なる下層金属層とその上に積層された上層金属層から成る2層構成のゲート電極が形成されたCMOS半導体素子であって、前記下層金属層は前記上層金属層よりゲート長方向の長さが短いことを特徴とするCMOS半導体素子によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、下層金属層のゲート長方向の長さを上層金属層におけるそれより短くしている。その結果、下層金属層によって決められるゲート長を短小化したときのゲート電極の抵抗値の増加を上層金属層によって抑えることが可能となるのでCMOS半導体素子の高速・微細化の実現に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
窒素含有量の異なる金属をゲート電極材とするCMOSトランジスタにおけるゲート長の短小化とゲート電極の低抵抗化を簡単な工程で実現した。
【実施例1】
【0012】
図1(a)−(d)は本発明の実施例に係るCMOSトランジスタの製造方法を示す工程断面図である。まず、 図1(a)に示したように、シリコン基板1にnMOS領域1aとpMOS領域1bを形成する。nMOS領域1aとpMOS領域1bには、この後の工程でそれぞれnMOSトランジスタとpMOSトランジスタが形成されることになる。ここで、nMOS領域1aとpMOS領域1bは分離領域1cによって電気的に分離される。分離領域1cはシリコン基板1の選択酸化によって形成されるLOCOS構造あるいはトレンチ分離溝等の周知の構造を有する。
【0013】
ついで、nMOS領域1aとpMOS領域1b上にゲート絶縁膜として用いるHfO膜2を形成する。HfO膜以外にもHfO膜と同様な高誘電率を有するZrO等の絶縁膜を用いることができ、これらの絶縁膜は周知のCVD法、スパッタ蒸着法等により堆積させることができる。また、HfO膜、ZrO膜に代えて従来から用いられているシリコン基板1の熱酸化によるSiO2を用いることもできる。ついで、HfO膜2上にゲート電極の下層金属膜となるHf膜を堆積し窒素イオンの注入を行うことにより所定量の窒素が含有されたHfN膜3を形成する。ここで、Hf膜と同様に抵抗率が小さく且つ安定なZr膜及びその窒化物であるZrN膜を用いることもできる。
【0014】
続いて、HfN膜3上にゲート電極の上層金属膜となるMoN膜4を形成する。MoN膜4はMo膜を堆積した後窒素イオンの注入を行うことにより形成することができる。MoN膜はMo膜に比べて抵抗率が高くなるものの耐酸化性が高く後工程の熱処理による膜特性の劣化が少ないという利点があり、そのためMo膜に代えて用いられる。Mo膜、MoN膜以外にもW膜、WN膜を用いることもできる。
【0015】
ついで、図1(b)に示したように、nMOS領域1a上に選択的にレジスト膜5を形成する。そして、このレジスト膜5をマスクとしてpMOS領域1bに選択的に窒素をイオン注入する。これによりpMOS領域1bにおけるHfN膜3の窒素含有量をnMOS領域1aにおけるHfN膜3の窒素含有量より大きくしその間に所定の仕事関数差を設定する。たとえば、HfN膜3の窒素含有量がnMOS領域1a上で5×1021cm-3、pMOS領域1b上で1×1022cm-3となるようにイオン注入量を制御すると、nMOS領域1aとpMOS領域1b上におけるHfN膜3の仕事関数はそれぞれ4.1eV、5.1eVとなり、その間の仕事関数差を1eVに設定することができる。
【0016】
ついで、図1(c)に示したように、nMOS領域1aとpMOS領域1bにそれぞれゲート電極用のレジストパターン6a、6bを形成し、これをマスクにしてMoN膜4をドライエッチングし上層ゲート電極4a、4bを形成する。なお、通常は、パターン精度向上のためレジストパターン6a、6bに代えてSiN等からなるハードマスクを用いるが、ここでは簡単のため省略してある。
【0017】
ドライエッチングに際しては、エッチング装置内で下部エッチング電極を設けたウェーハ載置台にシリコン基板1を載置し、その上方で下部エッチング電極と対向する位置に上部エッチング電極を配置する。この状態でエッチング装置内にCl2ガス流量50cc、O2ガス流量10 ccを導入し、内部圧力を12Torrに設定する。そして、下部エッチング電極及び上部エッチング電極にそれぞれ200Wのパワーを印加することによりMoN膜4の異方性エッチングを行う。上記エッチング条件下でMoN膜4とその下に形成されているHfN膜3に対するエッチングの選択比はおよそ3:1となるため、HfN膜3は実質上エッチングされることなく残り、その結果、ゲート絶縁膜となるHfO膜2へのエッチングによるダメージは最小限に抑えられる。
【0018】
ついで、図1(d)に示したように、上層ゲート電極4a、4bをマスクにしてHfN膜3をドライエッチングすることにより下層ゲート電極3a、3bを形成する。
【0019】
ドライエッチングに際しては、上述のエッチング装置と同一構造のものを用いエッチング装置内にCl2ガス流量10cc、BCl3ガス流量50 ccを導入し、室内圧力を24Torrに設定する。そして、下部エッチング電極にはパワーを印加せず上部電極に400Wのパワーを印加するとMoN膜4とその下のHfN膜3に対するエッチングの選択比は1:5となってMoN膜からなる上層ゲート電極4a、4bは実質上エッチングされず、HfN膜3のみが等方性エッチングによりサイドエッチングされノッチゲート形状が得られる。
【0020】
ついで、図2(a)に示したように、上層ゲート電極4a、下層ゲート電極3a及び上層ゲート電極4b、下層ゲート電極3bをマスクとして不純物のイオン注入を行うことによりnMOS領域1aとpMOS領域1bにそれぞれ接合深さの浅いエクステンション領域7a、7bを形成する。このとき、下層ゲート電極3a、3bの端部直下にまでエクステンション領域7a、7bを形成するため図2(a)中矢印で示した斜め方向からイオン注入を行う。
【0021】
ついで、CVD法を用いて全面にSiO2膜を形成し異方性エッチングを行うと、図2(b)に示したように、上層ゲート電極4a、下層ゲート電極3a及び上層ゲート電極4b、下層ゲート電極3bの側壁にはそれぞれSiO2膜から成るサイドウォール膜8a、8bが残されることになる。続いて、上層ゲート電極4a、下層ゲート電極3a及び上層ゲート電極4b、下層ゲート電極3b、サイドウォール膜8a、8bをマスクとしてイオン注入を行い、接合深さがエクステンション領域より深いソース・ドレイン領域9a、9bを形成する。その後、周知の層間絶縁膜形成工程、配線工程を経てCMOSトランジスタが形成される。
【0022】
上記構成によれば、図1(d)に見られるように、nMOS領域1aとpMOS領域1bにおけるトランジスタのゲート長は下層ゲート電極3a、3bによって決められることになり、また、ゲート電極の抵抗は上層ゲート電極4a、4bにより決められることになる。したがって、下層ゲート電極3a、3bのゲート長の短小化及び薄層化により生じた抵抗値の増加は上層ゲート電極4a、4bの厚みを増加させあるいは長さを長くすることにより抑えることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
CMOSトランジスタのゲート電極の薄層化及びゲート長の短小化に伴うゲート電極の抵抗値の増加を抑えることができるので、CMOSトランジスタとそれを用いた集積回路の高速・高集積化を達成する上で有効である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係るCMOSトランジスタの製造方法を示す工程断面図(その1)
【図2】本発明の実施例に係るCMOSトランジスタの製造方法を示す工程断面図(その2)
【符号の説明】
【0025】
1 シリコン基板
1a nMOS領域
1b pMOS領域
2 HfO膜
3 HfN膜
3a、3b 下層ゲート電極
4 MoN膜
4a、4b 上層ゲート電極
7a、7b エクステンション領域
8a、8b サイドウォール膜
9a、9b ソース・ドレイン領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上のNMOS領域とPMOS領域にゲート絶縁膜を介してそれぞれ窒素含有量の異なる下層金属層とその上に積層された上層金属層から成る2層構成のゲート電極が形成されたCMOS半導体素子であって、
前記下層金属層は前記上層金属層よりゲート長方向の長さが短いことを特徴とするCMOS半導体素子。
【請求項2】
前記下層金属層としてHfあるいはZrを用いることを特徴とする請求項1記載のCMOS半導体素子。
【請求項3】
前記上層金属層に窒素が含有されていることを特徴とする請求項1記載のCMOS半導体素子。
【請求項4】
前記上層金属層としてMoあるいはWを用いることを特徴とする請求項3記載のCMOS半導体素子。
【請求項5】
半導体基板上のNMOS領域とPMOS領域にゲート絶縁膜を介してそれぞれ窒素含有量の異なる下層金属層を形成し、さらにその上に上層金属層を形成する工程と、
前記NMOS領域とPMOS領域にゲート電極用のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクにして前記上層金属層の異方性エッチングを行うことにより上層ゲート電極を形成する工程と、
前記上層ゲート電極をマスクにして前記下層金属層の等方性エッチングを行うことにより前記上層ゲート電極よりゲート長方向の長さが短い下層ゲート電極を形成する工程とを備えたことを特徴とするCMOS半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−157739(P2007−157739A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346316(P2005−346316)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】