説明

III族窒化物半導体発光素子の製造方法およびIII族窒化物半導体発光素子、ランプ、電子機器、機械装置

【課題】第一n型半導体層のドーパント濃度に起因する結晶性の低下が生じにくく、かつ、高い出力の得られるIII族窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】第一有機金属化学気相成長装置において、基板上に第一n型半導体層を形成する第一工程と、第二有機金属化学気相成長装置において、前記第一n型半導体層上に、前記第一n型半導体層のドーパント濃度よりも高いドーパント濃度を有する前記第一n型半導体層の再成長層、第二n型半導体層、発光層およびp型半導体層を順次積層する第二工程と、を有することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体発光素子の製造方法およびIII族窒化物半導体発光素子、ランプ、電子機器、機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、短波長の光を発光する発光素子用の半導体材料として、III族窒化物半導体が注目を集めている。一般にIII族窒化物半導体は、サファイア単結晶を始めとする種々の酸化物結晶、炭化珪素単結晶またはIII−V族化合物半導体単結晶等を基板として、その上に有機金属気相化学反応法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)あるいは水素化物気相エピタキシー法(HVPE法)等によって積層されて形成される。
【0003】
現在のところ広く一般に採用されている結晶成長方法は、サファイアやSiC、GaN、AlN等からなる基板上に、n型半導体層と発光層とp型半導体層とを、有機金属化学気相成長法(MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法)を用いて順次積層する方法である。
そして、各半導体層の成長後、基板もしくはn型半導体層に負極を形成し、p型半導体層に正極を形成することによって発光素子が得られる。
【0004】
しかしながら、n型半導体層と発光層とp型半導体層とを基板上に連続して積層する方法では、これらの層が同一の成長室内で形成されるため、n型半導体層を形成する際に用いた不純物が発光層およびp型半導体層の形成に支障をきたしやすい。そのため、抵抗率の低いp型半導体層を形成することが困難であった。
【0005】
このような問題を解決する技術として、例えば、特許文献1には、所定の基板上に、少なくとも第一導電形の半導体層と第二導電形の半導体層とを順次成膜して化合物半導体装置を製造するに際し、前記それぞれの導電形の半導体層を、導電形に対応した異なる複数の独立した成長室で成膜するようにして成る化合物半導体装置の製造方法が提案されている。
【0006】
また、最近、III族窒化物半導体発光素子の発光出力を向上させるために、III族窒化物半導体発光素子に大電流が印加される場合が多くなってきている。そのため、このような条件にも耐え得る発光特性の優れたIII族窒化物半導体発光素子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-45538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体層を、導電形に応じて異なる成長室で成膜する方法としては、n型半導体層のうち第一n型半導体層までを第一有機金属化学気相成長装置(第一の成長室)で形成したのちに、第二n型半導体層と発光層とp型半導体層を、第二有機金属化学気相成長装置(第二の成長室)で積層する方法が知られている。
しかし、基板を第一有機金属化学気相成長装置から第二有機金属化学気相成長装置に移す際に第一n型半導体層の表面が劣化するため、発光層とp型半導体層の結晶性が低下するという問題があった。
また、従来のIII族窒化物半導体発光素子は、大電流を印加すると、電流が拡散しづらいという問題があった。電流を拡散させるためには、第一n型半導体層のドーパント濃度を高くし、第一n型半導体層のシート抵抗を低くすることが望ましいが、第一n型半導体層全体のドーパント濃度を高めると、第一n型半導体層の結晶性が低下する。このため、第一n型半導体層に孔があいてリーク電流が発生し、III族窒化物半導体発光素子の不良の原因となる。また、ドーパント濃度を高めると第一n型半導体層の応力が高まるため、第一n型半導体層上に、結晶性の高い発光層とp型半導体層を形成することができない。また、大口径基板上に第一n型半導体層を成長させる場合に応力が大きくなり、さらに、基板のそり量も大きくなるので結晶性の低下を招きやすい。直径4インチ、特に、6インチ以上の基板に対して重要な課題である。このため、十分な発光出力のIII族窒化物半導体発光素子を形成することができなかった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、第一n型半導体層のドーパント濃度に起因する結晶性の低下が生じにくく、かつ、高い出力の得られるIII族窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 第一有機金属化学気相成長装置において、基板上に第一n型半導体層を形成する第一工程と、第二有機金属化学気相成長装置において、前記第一n型半導体層上に、前記第一n型半導体層のドーパント濃度よりも高いドーパント濃度を有する前記第一n型半導体層の再成長層、第二n型半導体層、発光層およびp型半導体層を順次積層する第二工程と、を有することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
〔2〕 前記第一n型半導体層と前記再成長層のドーパントがSiであることを特徴とする〔1〕に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
〔3〕 前記第一n型半導体層のドーパント濃度が1×1018cm−3〜1×1019cm−3であり、前記再成長層のドーパント濃度が5×1018cm−3〜1×1020cm−3であることを特徴とする〔2〕に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
〔4〕 前記再成長層を形成する前に、前記有機金属化学気相成長装置内において窒素とアンモニアを含む雰囲気中で、圧力15kPa〜100kPa、前記基板温度500℃〜1000℃の条件下で熱処理を行うことを特徴とする〔1〕乃至〔3〕のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
〔5〕 基板上に、第一n型半導体層と、前記第一n型半導体層のドーパント濃度よりも高いドーパント濃度を有する前記第一n型半導体層の再成長層と、第二n型半導体層と、発光層と、p型半導体層とが積層されてなるIII族窒化物半導体発光素子。
〔6〕 前記p型半導体層および発光層の一部が切り欠けられて前記再成長層の一部が露出され、露出された前記再成長層上にn型電極が形成されていることを特徴とする〔5〕に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
〔7〕 〔5〕または〔6〕に記載のIII族窒化物半導体発光素子を備えることを特徴とするランプ。
〔8〕 〔7〕に記載のランプが組み込まれていることを特徴とする電子機器。
〔9〕 〔8〕に記載の電子機器が組み込まれていることを特徴とする機械装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法によれば、第一有機金属化学気相成長装置において第一n型半導体層を形成し、次いで第二有機金属化学気相成長装置に基板を移すことにより、第一n型半導体層が一旦冷却される。このため、第一n型半導体層がそれまでに被った熱履歴等によるストレス(残留応力)を低減できる。また、第一n型半導体層が、発光層及びp型半導体層とは別の成長室内で形成されるなるため、第一n型半導体層を形成する際に用いたドーパントに起因する発光層及びp型半導体層の不良を生じにくくすることができる。
また、第一n型半導体層上に当該第一n型半導体層の再成長層を形成することにより、第一n型半導体層表面の劣化による影響を抑えることができる。また、第一n型半導体層全体のドーパント濃度を高めるのではなく、再成長層の部分のみ高めることにより、結晶性の高い第一n型半導体層を形成できる。このため、ドーパント濃度に起因する第一n型半導体層の応力増加や結晶性低下を防ぐことができる。このため、第一n型半導体層への孔の発生を抑えることができる。このため、III族窒化物半導体発光素子の不良発生を抑えることができる。また、その後の工程において、再成長層上に、結晶性の高い発光層およびp型半導体層を形成できる。
また、再成長層のドーパント濃度を高めることにより、再成長層のシート抵抗が低下する。このため、III族窒化物半導体発光素子へ大電流を印加した際に、電流を再成長層において効果的に拡散できる。このため、発光層における発光が均一となり、特に大電流を印加した場合のIII族窒化物半導体発光素子の発光出力を向上することができる。
【0012】
本発明のIII族窒化物半導体発光素子によれば、第一n型半導体層全体ではなく、再成長層の部分に、第一n型半導体層よりも高濃度のドーパントが含有されているため、ドーパント濃度に起因する第一n型半導体層の応力増加や結晶性低下を防ぐことができる。
また、当該第一n型半導体層よりもドーパント濃度の高い再成長層が、第一n型半導体層と発光層との間に形成されているため、電流が再成長層において拡散される。このため、発光層における発光が均一となり、特に大電流をIII族窒化物半導体発光素子に印加した場合の発光出力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を用いて製造されたIII族窒化物半導体発光素子の一例を示した断面模式図である。
【図2】図2は、図1に示すIII族窒化物半導体発光素子を製造する工程を説明するための断面模式図である。
【図3】図3は、図1に示したIII族窒化物半導体発光素子を備えるランプの一例を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のIII族窒化物半導体発光素子1について、図1を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0015】
図1は、本発明のIII族窒化物半導体発光素子1の一例を示した断面模式図である。
図1に示す本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1は、基板11と、基板11上に積層された積層半導体層20と、積層半導体層20の上面に積層された透光性電極15と、透光性電極15上に積層されたp型ボンディングパッド電極16と、積層半導体層20の露出面20a上に積層されたn型電極17と、から概略構成されている。
【0016】
ここで、積層半導体層20は、基板11側から、少なくともn型半導体層12、発光層13、p型半導体層14がこの順に積層されて構成されている。また、図1に示すように、n型半導体層12、発光層13、p型半導体層14は、その一部がエッチング等の手段によって除去されており、除去された部分からn型半導体層12(第一n型半導体層12cの再成長層12d)の一部が露出されている。また、n型電極17が、露出面20a上に積層されている。
また、p型半導体層14の上面には、透光性電極15およびp型ボンディングパッド電極16が積層されている。また、p型電極18が、透光性電極15およびp型ボンディングパッド電極16によって構成されている。
【0017】
また、上記n型半導体層12は、第一n型半導体層としてのnコンタクト層12a(第一n型半導体層12cおよび第一n型半導体層12cの再成長層12d)と、第二n型半導体層としてのnクラッド層12bと、から構成されている。
また、上記p型半導体層14は、第一p型半導体層としてのpクラッド層14aと、第二p型半導体層としてのpコンタクト層14bと、から構成されている。
また、前記積層半導体層20は、後述のバッファ層21と下地層22とを含めてもよい。
【0018】
また、n型半導体層12、発光層13およびp型半導体層14を構成する半導体としては、III族窒化物半導体を用いることが好ましく、窒化ガリウム系化合物半導体を用いることがより好ましい。本発明におけるn型半導体層12、発光層13およびp型半導体層14を構成する窒化ガリウム系化合物半導体としては、一般式AlInGa1−x−yN(0≦x<1,0≦y<1,0≦x+y<1)で表わされる各種組成の半導体を何ら制限なく用いることができる。
【0019】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1は、p型電極18とn型電極17との間に電流を通じることで、積層半導体層20を構成する発光層13から発光を発せられるようになっている。また、III族窒化物半導体発光素子1は、発光層13からの光を、p型ボンディングパッド電極16の形成された側から取り出すことが可能なフェイスアップマウント型の発光素子である。なお、本発明のIII族窒化物半導体発光素子は、フリップチップ型の発光素子であってもよい。
以下、それぞれの構成について詳細に説明する。
【0020】
<基板11>
基板11としては、例えば、サファイア、SiC、シリコン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン亜鉛鉄、酸化マグネシウムアルミニウム、ホウ化ジルコニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化リチウムガリウム、酸化リチウムアルミニウム、酸化ネオジウムガリウム、酸化ランタンストロンチウムアルミニウムタンタル、酸化ストロンチウムチタン、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化モリブデン等からなる基板を用いることができる。上記基板の中でも、特に、c面を主面とするサファイア基板を用いることが好ましい。また、基板11の主面側に少なくとも規則的な凹凸形状を設けてもよい。
【0021】
(バッファ層21)
バッファ層21は、設けられていなくてもよいが、基板11と下地層22との格子定数の違いを緩和して、基板11の(0001)C面上にC軸配向した単結晶層の形成を容易にするために、設けられていることが好ましい。バッファ層21の上に単結晶の下地層22を積層すると、より一層結晶性の良い下地層22が積層できる。
【0022】
バッファ層21は、単結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)からなるものが特に好ましいが、多結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)からなるものであってもかまわない。
バッファ層21は、例えば、多結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)からなる厚さ0.01μm〜0.5μmのものとすることができる。バッファ層21の膜厚が0.01μm未満であると、バッファ層21により基板11と下地層22との格子定数の違いを緩和することができない場合がある。また、バッファ層21の膜厚が0.5μmを超えると、バッファ層21としての機能には変化が無いのにも関わらず、バッファ層21の成膜処理時間が長くなり、生産性が低下する問題がある。
【0023】
また、バッファ層21は、多結晶構造又は単結晶構造を有するものとすることができる。このような多結晶構造又は単結晶構造を有するバッファ層21を基板11上にMOCVD法またはスパッタ法にて成膜した場合、バッファ層21のバッファ機能が有効に作用するため、その上に成膜されたIII族窒化物半導体は良好な配向性及び結晶性を有する結晶膜となる。
【0024】
(下地層22)
下地層22の材料としては、AlGa1−xN(0≦x<1)を用いると結晶性の良い下地層22を形成できるため特に好ましいが、AlGaInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)を用いてもかまわない。
下地層22の膜厚は0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上であり、1μm以上であることが最も好ましい。下地層(AlGa1−xN層)22は1μm以上の膜厚で形成されることにより、結晶性が良好となる。また、III族窒化物半導体発光素子の小型化や、形成時間の短縮の観点により、下地層22の膜厚は10μm以下であることが好ましい。
【0025】
また、下地層22の結晶性を良くするために、下地層22には不純物をドーピングしないことが望ましい。
本実施形態の下地層22は後述するn型半導体層12、発光層13、p型半導体層14とは、異なる成長室で形成されたものである。そのため、下地層22には、n型半導体層12およびp型半導体層14形成で用いられたSi、Mg、Inなどの不純物は混入しない。そのため、結晶性の高い下地層22が形成される。
【0026】
<積層半導体層20>
(n型半導体層12)
n型半導体層12はさらに、nコンタクト層12aと、nクラッド層(第二n型半導体層)12bとから構成されている。
また、nコンタクト層12aは、第一n型半導体層12cと、第一n型半導体層12cの再成長層12dとから構成されている。
【0027】
第一n型半導体層12cの膜厚は、0.5〜5μmであることが好ましく、2μm〜4μmの範囲であることがより好ましい。第一n型半導体層12cの膜厚が上記範囲内であると、半導体の結晶性が良好に維持される。
【0028】
また、第一n型半導体層12cは、AlGa1−xN層(0≦x<1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成され、n型不純物(不純物)がドープされている。nコンタクト層12aに用いられるn型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、Ge、Sn等が挙げられ、SiおよびGeが好ましく、Siが最も好ましい。
また、ドーパントとしてSiを用いる場合、第一n型半導体層12cに含有されるドーパント濃度は、1×1018〜1×1019cm−3の範囲内であることが好ましい。
【0029】
本実施形態の再成長層12dは、n型電極17を設けるための層である。また、図1に示すように、再成長層12dには、n型電極17を設けるための露出面20aが形成されている。
再成長層12dは、第一n型半導体層12cと同一の材料からなり、第一n型半導体層12cよりも高濃度のドーパントが含有されている。また、ドーパントとしてSiを用いる場合、再成長層12dに含有されるドーパント濃度は、5×1018〜1×1020cm−3の範囲内であることが好ましい。ドーパント濃度が上記範囲内であることにより、再成長層12dのシート抵抗は、十分に低い値を保つことができる。また、再成長層12dとn型電極17との間の障壁の幅が狭くなるため、トンネル電流が生じやすくなる。このため、再成長層12dとn型電極17との間で、良好なオーミック接触が維持される。
【0030】
一方、再成長層12dのドーパント濃度が5×1018cm−3未満であると、再成長層12dのシート抵抗が高くなり好ましくない。また、再成長層12dのドーパント濃度が1×1020cm−3を超えると、再成長層12dの結晶性の低下およびシート抵抗が低くなりすぎ、III族窒化物半導体発光素子1の発光出力が低下するため好ましくない。
【0031】
また、再成長層12dの膜厚は、0.2μm〜3μmであることが好ましい。再成長層12dの膜厚が0.2μm〜3μmであることにより、nコンタクト層12aを形成している途中の段階でnコンタクト層12aの成長を中断し、成長室内から取り出して別の装置の成長室に移動し、その後nコンタクト層12aの成長を再開することによるnコンタクト層12aの結晶性への影響を少なくすることができる。このため、III族窒化物半導体発光素子1の発光出力を向上させる効果がより顕著となる。
【0032】
一方、再成長層12dの膜厚が0.2μm未満であると、再成長層12dの結晶性が十分なものとならず、好ましくない。また、再成長層12dの膜厚が3μmを超えると、第二有機金属化学気相成長装置の成長室内にドーパントや堆積物が多く残される。そのため、発光層13およびp型半導体層14を形成する際に第二有機金属化学気相成長装置を用いると、それらドーパントや堆積物に起因する発光層13およびp型半導体層14の不良が生じやすくなる。また、再成長層12dの成長時間が長くなり、生産性が低下する。
【0033】
nクラッド層12bは、nコンタクト層12aと発光層13との間に設けられている。nクラッド層12bは、発光層13へのキャリアの注入とキャリアの閉じ込めを行なう層であり、nコンタクト層12aと発光層13との結晶格子の不整合を緩和する発光層13のバッファ層としても機能する。また、nクラッド層12bはAlGaN、GaN、GaInNなどで形成することが可能である。なお、明細書中各元素の組成比を省略してAlGaN、GaInNと、前記述する場合がある。nクラッド層12bをGaInNで形成する場合には、発光層13のGaInNのバンドギャップよりも大きくすることが望ましいことは言うまでもない。
【0034】
nクラッド層12bは、単層または超格子構造のどちらの構造であっても構わない。nクラッド層12bが単層からなるものである場合、nクラッド層12bの膜厚は、5nm〜500nmであることが好ましく、より好ましくは5nm〜100nmである。
【0035】
本実施形態においては、nクラッド層12bは、単層であってもよいが、組成の異なる2つの薄膜層を繰り返し成長させて10ペア数(20層)〜40ペア数(80層)からなる超格子構造であることが好ましい。nクラッド層12bが超格子構造からなるものである場合、薄膜層の積層数が20層以上であると、nコンタクト層12aと発光層13との結晶格子の不整合をより効果的に緩和することができ、III族窒化物半導体発光素子1の出力を向上させる効果がより顕著となる。しかし、薄膜層の積層数が80層を超えると、超格子構造が乱れやすくなる場合もあり、発光層13に悪影響を来たす恐れが生じる。さらに、nクラッド層12bの成膜処理時間が長くなり、生産性が低下する問題がある。
【0036】
<発光層13>
発光層13は、障壁層13aと井戸層13bとが交互に複数積層された多重量子井戸構造からなる。また、多重量子井戸構造における積層数は3層から10層であることが好ましく、4層から7層であることがさらに好ましい。
【0037】
(井戸層13b)
井戸層13bの膜厚は、15オングストローム以上50オングストローム以下の範囲であることが好ましい。井戸層13bの膜厚が上記範囲内であることにより、より高い発光出力を得ることができる。
また、井戸層13bは、Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体であることが好ましい。Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体は、青色の波長領域の強い光を発光するものであるため、好ましい。また、井戸層13bには、不純物をドープすることができる。また、本実施形態における不純物としてはSiを用いることが好ましい。ドープ量は1×1016cm−3〜1×1017cm−3程度が好適である。
【0038】
(障壁層13a)
障壁層13aの膜厚は、20オングストローム以上100オングストローム未満の範囲であることが好ましい。障壁層13aの膜厚が薄すぎると、障壁層13a上面の平坦化を阻害し、発光効率の低下やエージング特性の低下を引き起こす。また、障壁層13aの膜厚が厚すぎると、駆動電圧の上昇や発光の低下を引き起こす。このため、障壁層13aの膜厚は70オングストローム以下であることがより好ましい。
また、障壁層13aは、GaNやAlGaNのほか、井戸層を構成するInGaNよりもIn比率の小さいInGaNで形成することができる。中でも、GaNが好適である。また、障壁層13aには、不純物をドープすることができる。本実施形態における不純物としてはSiを用いることが好ましい。ドープ量は1×1017cm−3〜1×1018cm−3程度が好適である。
【0039】
<p型半導体層14>
p型半導体層14は、通常、pクラッド層14aおよびpコンタクト層14bから構成される。また、pコンタクト層14bがpクラッド層14aを兼ねることも可能である。
【0040】
(pクラッド層14a)
本実施形態におけるpクラッド層14aは、発光層13の上に形成されている。pクラッド層14aは、発光層13へのキャリアの閉じ込めとキャリアの注入を行なう層である。pクラッド層14aとしては、発光層13のバンドギャップエネルギーより大きくなる組成であり、発光層13へのキャリアの閉じ込めができるものであれば特に限定されないが、AlGa1−xN(0≦x≦0.4)からなるものであることが好ましい。pクラッド層14aが、このようなAlGaNからなるものである場合、発光層13へのキャリアの閉じ込めの点で好ましい。
【0041】
pクラッド層14aの膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1〜400nmであり、より好ましくは5〜100nmである。pクラッド層14aのp型ドープ濃度は、1×1018〜1×1021/cmであることが好ましく、より好ましくは1×1019〜1×1020/cmである。p型ドープ濃度が上記範囲であると、結晶性を低下させることなく良好なp型結晶が得られる。また、pクラッド層14aは、薄膜を複数回積層してなる超格子構造であってもよい。
【0042】
(pコンタクト層14b)
pコンタクト層14bは、正極(p型電極)を設けるための層である。pコンタクト層14bは、AlGa1−xN(0≦x≦0.4)からなるものであることが、良好な結晶性の維持およびpオーミック電極との良好なオーミック接触の点で好ましい。また、pコンタクト層14bがp型不純物(不純物)を1×1018〜1×1021/cmを5×1019〜5×1020/cmの濃度で含有しているものである場合、良好なオーミック接触の維持、クラック発生の防止、良好な結晶性の維持の点で好ましい。p型不純物としては、特に限定されないが、例えばMgを用いることが特に好ましい。
【0043】
また、pコンタクト層14bはpコンタクト下層と、pコンタクト上層とが積層してなり、pコンタクト下層にMgが1×1019/cm〜1×1020/cm程度の濃度で含有され、pコンタクト上層にMgが2×1020/cm〜5×1020/cm程度の濃度で含有されることが特に好ましい。これにより、透光性電極15と接する部分(pコンタクト上層)は高濃度でMgが含有され、かつ、その表面は平坦に形成される。そのため、III族窒化物半導体発光素子1の発光出力をより向上させることが可能となる。
【0044】
また、pコンタクト層14bの膜厚は、特に限定されないが、10〜500nmであることが好ましく、より好ましくは50〜200nmである。pコンタクト層14bの膜厚がこの範囲であると、発光出力の点で好ましい。
【0045】
<n型電極17>
n型電極17は、ボンディングパットを兼ねており、積層半導体層20の再成長層12dの露出面20aに接するように形成されている。このため、n型電極17を形成する際には、少なくともp半導体層14および発光層13の一部を除去して再成長層12dを露出させたのちに、露出面20a上にn型電極17を形成する。n型電極17としては、各種組成や構造が周知であり、これら周知の組成や構造を何ら制限無く用いることができ、この技術分野でよく知られた慣用の手段で設けることができる。
【0046】
(透光性電極15)
透光性電極15は、p型半導体層14の上に積層されるものであり、p型半導体層14との接触抵抗が小さいものであることが好ましい。また、透光性電極15は、発光層13からの光を効率良くIII族窒化物半導体発光素子1の外部に取り出すために、光透過性に優れたものであることが好ましい。また、透光性電極15は、p型半導体層14の全面に渡って均一に電流を拡散させるために、優れた導電性を有していることが好ましい。
【0047】
透光性電極15の構成材料としては、In、Zn、Al、Ga、Sn、Ti、Bi、Mg、W、Ceのいずれか一種を含む導電性の酸化物、硫化亜鉛または硫化クロムのうちいずれか一種からなる群より選ばれる透光性の導電性材料が挙げられる。導電性の酸化物としては、ITO(酸化インジウム錫(In−SnO))、IZO(酸化インジウム亜鉛(In−ZnO))、AZO(酸化アルミニウム亜鉛(ZnO−Al))、GZO(酸化ガリウム亜鉛(ZnO−Ga))、フッ素ドープ酸化錫、酸化チタン等があげられる。
【0048】
また、透光性電極15の構造は、従来公知の構造を含めて如何なる構造であってもよい。透光性電極15は、p型半導体層14のほぼ全面を覆うように形成してもよく、また、隙間を開けて格子状や樹形状に形成してもよい。
【0049】
(p型ボンディングパッド電極16)
p型ボンディングパッド電極16はボンディングパットを兼ねており、透光性電極15の上に積層されている。p型ボンディングパッド電極16としては、各種組成や構造が周知であり、これら周知の組成や構造を何ら制限無く用いることができ、この技術分野でよく知られた慣用の手段で設けることができる。
p型ボンディングパッド電極16は、透光性電極15上であれば、どこへでも形成することができる。例えばn型電極17から最も遠い位置に形成してもよいし、III族窒化物半導体発光素子1の中心などに形成してもよい。
【0050】
(保護膜層)
図示しない保護膜層は、必要に応じて透光性電極15の上面および側面と、n型半導体層12の露出面20a、発光層13およびp型半導体層14の側面、n型電極17およびp型ボンディングパッド電極16の側面や周辺部を覆うよう形成される。保護膜層を形成することにより、III族窒化物半導体発光素子1の内部への水分等の浸入を防止でき、III族窒化物半導体発光素子1の劣化を抑制することができる。
保護膜層としては、絶縁性を有し、300〜550nmの範囲の波長において80%以上の透過率を有する材料を用いることが好ましく、例えば、酸化シリコン(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、窒化シリコン(Si)、窒化アルミニウム(AlN)等を用いることができる。このうちSiO、Alは、CVD成膜で緻密な膜が容易に作製でき、より好ましい。
【0051】
本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1においては、第一n型半導体層12c上に再成長層12dが設けられていることにより、nクラッド層12bの結晶性を、より一層良好なものにできる。このため、結晶性の高い発光層13およびp型半導体層14が形成される。
n型半導体層12全体ではなく、再成長層12dの部分のみ、高濃度のドーパントが含有されているため、ドーパント濃度に起因するn型半導体層12の応力増加や結晶性低下が防がれる。
【0052】
また、nコンタクト層12aよりもドーパント濃度が高く、シート抵抗の低い再成長層12dが、nコンタクト層12aと発光層13との間に形成されているため、電流が再成長層12dにおいて拡散される。このため、発光層13における発光が均一となり、特に大電流をIII族窒化物半導体発光素子1に印加した場合の発光出力を高めることができる。
【0053】
また、再成長層12dは第一n型半導体層12cよりもSi濃度が高いため、第一n型半導体層12c上にn型電極17を形成する場合よりも、再成長層12dとn型電極17との間の障壁の幅が狭くなる。このため、トンネル電流が生じやすく、再成長層12dとn型電極17との間で、良好なオーミック接触が維持される。
【0054】
以下、III族窒化物半導体発光素子1の製造方法について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明において参照する図面は、本発明を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際のIII族窒化物半導体発光素子1の寸法関係とは異なっている。
【0055】
図1に示す、本発明のIII族窒化物半導体発光素子1の製造方法は、一例として、まず、図2に示す積層半導体層20を製造する。積層半導体層20の製造方法は、基板11上にバッファ層21と下地層22と第一n型半導体層12cを形成する第一工程と、第一n型半導体層12cの再成長層12dと第二n型半導体層12bと発光層13とp型半導体層14とを順次積層する第二工程と、から概略構成されている。
以下、図2を用いて各工程について詳細に説明する。
【0056】
<第一工程>
はじめに、例えば、サファイア等からなる基板11を用意する。
次に、基板11を第一MOCVD装置(第一有機金属化学気相成長装置)の成長室内に設置し、MOCVD法によって、基板11上に、バッファ層21を形成する。
【0057】
(下地層22形成工程)
次いで、バッファ層21上に下地層22を第一MOCVD装置内で積層する。なお、本発明では、一例として、サファイア等からなる基板11上に、RFスパッタリング法を用いてAlNからなるバッファ層21を形成し、さらに第一MOCVD装置の成長室内で当該基板上に下地層22を順次積層してもよい。
【0058】
下地層22は0.1μm以上の膜厚で形成することが好ましく、0.5μm以上とすることがより好ましく、1μm以上とすることが最も好ましい。この膜厚以上にした方が結晶性の良好なAlGa1−xN層が得られやすい。また、III族窒化物半導体発光素子の小型化や、形成時間の短縮の観点により、下地層22の膜厚は10μm以下とすることが好ましい。
また、下地層22の結晶性を良くするために、下地層22には不純物をドーピングしないことが望ましい。
【0059】
(第一n型半導体層12c形成工程)
次いで前記下地層22を有する基板上に、第一n型半導体層12cを積層する。
第一n型半導体層12cを成長させる際には、水素雰囲気で、基板11の温度を1000℃〜1200℃の範囲とすることが好ましく、1080℃程度の温度とすることが特に好ましい。
また、第一n型半導体層12cを成長させる原料としては、トリメチルガリウム(TMG)などのIII族金属の有機金属原料とアンモニア(NH)などの窒素原料とを用い、熱分解によりバッファ層上にIII族窒化物半導体層を堆積させる。また、このときの第一MOCVD装置の成長室内の圧力は15〜80kPaとすることが好ましく、15〜60kPaとすることが特に好ましい。また、このときのキャリアガスは水素ガスのみであってもよいし、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスであってもよい。
【0060】
また、第一n型半導体層12cを形成する際に、ドーパントガスとしてn型不純物(不純物)を供給する。このとき、ドーパントガスとして用いられるn型不純物は特に限定されないが、Siを用いることが特に好ましい。また、ドーパントとしてSiを用いる場合、第一n型半導体層12cに、1×1018〜1×1019cm−3の範囲内の濃度でドーパントを含有させることが好ましい。
【0061】
<第二工程>
第二工程はさらに、第二MOCVD装置(第二有機金属化学気相成長装置)において、第一n型半導体層12c上に第一n型半導体層12cの再成長層12dを形成する工程と、nクラッド層(第二n型半導体層)12bを形成する工程と、発光層13を形成する工程と、p型半導体層14を形成する工程と、から構成されている。以下それぞれについて詳細を説明する。
【0062】
(再成長層12d形成工程)
まず、第一n型半導体層12cまでの各層の形成された基板11を第二MOCVD装置の成長室内に設置する。次いで、MOCVD法によって第一n型半導体層12c上に、第一n型半導体層12cの再成長層12dを形成する。このように、第一n型半導体層12c上に再成長層12dを形成することにより、第一n型半導体層12cの成長を中断し第一有機金属化学気相成長装置の成長室内から取り出して、その後第二有機金属化学気相成長装置の成長室内で第一n型半導体層12cの成長を再開することによる、第一n型半導体層12cの結晶性への影響を少なくすることができる。
また、再成長層12dを形成することにより、第一n型半導体層12c(再成長層12d)表面の平坦性を向上させることができる。そのため、再成長層12d上に結晶性の高いnクラッド層12bを形成することができる。このため、III族窒化物半導体発光素子1の出力を向上させる効果がより顕著となる。
【0063】
また、本実施形態においては、再成長層12dを形成する前に、第一n型半導体層12cまでの各層の形成された基板11に、窒素とアンモニアを含む雰囲気中で500℃〜1000℃の熱処理(サーマルクリーニング)を行うことが好ましい。熱処理の雰囲気は、窒素とアンモニアを含む雰囲気に代えて、例えば、窒素のみの雰囲気としてもよい。なお、水素のみの雰囲気では再成長層12dが分解されて結晶性の悪化を招くため好ましくない。また、このときの第二MOCVD装置の成長室内の圧力は15〜100kPaとすることが好ましい。100kPa以上の圧力に関しては、加圧仕様の装置であれば、加圧での熱処理をしても問題はない。また、工程が増えるが、専用の熱処理装置を用いても良い。
【0064】
このような条件で熱処理を行うことにより基板11の応力が緩和される。このため、結晶性の高い再成長層12dを形成できる。そのため、再成長層12d上に、結晶性の高いnクラッド層12bを形成できる。応力の大きさは、基板11の直径に比例して大きくなる。また、応力により基板のそりが生じ、半導体層形成の際に基板温度が基板面内で不均一になり、結晶性の低下を招く。従って、熱処理温度は、500℃〜1000℃が望ましい。6インチ以上の大口径基板の応力緩和は、700℃〜1000℃の温度範囲が、特に、望ましい。
【0065】
また、このような条件で熱処理を行うことにより、第一n型半導体層12cまでの各層の形成された基板11が第一有機金属化学気相成長装置の成長室内から取り出されることにより表面が汚染されていたとしても、再成長層12dを形成する前に汚染物質を除去することができる。このため、結晶性の高い再成長層12dを形成できる。そのため、再成長層12d上に、結晶性の高いnクラッド層12bを形成できる。
【0066】
なお、このような条件で熱処理を行わず、第一n型半導体層12c表面が汚染されたまま、応力が大きい場合、再成長層12d上に形成されるnクラッド層12bの結晶性が低下する。そのため、逆方向電流(IR)が低くならず、静電気放電(ESD)耐圧が不足し、III族窒化物半導体発光素子1の信頼性が低下する。
【0067】
また、第一工程における第一n型半導体層12cの成長条件と、第二工程における再成長層12dの成長条件は同一とすることが好ましい。すなわち、再成長層12dを成長させる際の基板温度は1000℃〜1200℃の範囲とすることが好ましく、1050℃〜1100℃の温度とすることが特に好ましい。再成長層12d形成の際の基板温度をこの範囲内とすることにより、結晶性の高い再成長層12dを形成できる。また、第一MOCVD装置と第二MOCVD装置の2つの装置を用い、第一MOCVD装置においてnコンタクト層12aを形成している途中の段階でnコンタクト層12aの成長を中断し、成長室内から取り出して第二MOCVD装置の成長室に移動し、その後nコンタクト層12aの成長を再開したことによるnコンタクト層12aの結晶性への影響を少なくできる。このため、第一工程成長層12cと再成長層12dとからなるnコンタクト層12aの結晶性が良好なものとなる。
【0068】
また、再成長層12dは、0.05μm〜2μmの膜厚で形成することが好ましい。再成長層12dをこの範囲内の膜厚で形成することにより、第一n型半導体層12cの成長を中断し第一有機金属化学気相成長装置の成長室内から取り出して、その後第二有機金属化学気相成長装置の成長室内で第一n型半導体層12cの成長を再開することによる、第一n型半導体層12cの結晶性への影響を少なくすることができる。そのため、III族窒化物半導体発光素子の出力を向上させる効果がより顕著となる。
【0069】
また、ドーパントとしてSiを用いる場合、再成長層12dに、5×1018〜1×1020cm−3の範囲内の濃度でドーパントを含有させることが好ましい。
【0070】
一方、ドーパントとしてSiを用いる場合に、再成長層12dに含有させるドーパント濃度が5×1018cm−3未満であると、再成長層12dのシート抵抗が高くなり好ましくない。また、再成長層12dのドーパント濃度が1×1020cm−3を超えると、再成長層12dのシート抵抗が低くなりすぎ、III族窒化物半導体発光素子1の発光出力が低下するため好ましくない。また、再成長層12dのドーパント濃度が1×1020cm−3を超えると、第一n型半導体層12cと再成長層12dとのドーパント濃度差が大きくなりすぎるため、第一n型半導体層12cと再成長層12dとの間の応力が大きくなり、好ましくない。
【0071】
(nクラッド層12b形成工程)
次いで、再成長層12d上にnクラッド層12bを形成する。また、n型クラッド層12bを超格子構造とする場合は、膜厚100オングストローム以下のIII族窒化物半導体からなるn側第一層と、n側第一層と組成が異なる膜厚100オングストローム以下のIII族窒化物半導体からなるn側第二層とを交互に20層〜80層繰返し積層すればよい。また、超格子構造のnクラッド層12bを形成する場合は、MOCVD法が生産効率の面で好ましい。また、上記n側第一層及びn側第二層には、それぞれドーパントを添加してもよい。また、ドープ構造/未ドープ構造の組み合わせとしてもよい。また、ドープされる不純物としては、上記材料組成に対して従来公知のものを、何ら制限無く適用できる。
【0072】
(発光層13形成工程)
次いで、多重量子井戸構造の発光層13を形成する。まず、井戸層13bと障壁層13aとを交互に繰返し積層する。このとき、n型半導体層12側及びp型半導体層14側に障壁層13aが配されるように積層する。
井戸層13bおよび障壁層13aの組成や膜厚は、所定の発光波長になるように適宜設定することができる。また、発光層13の成長させる際の基板温度は600〜900℃とすることができ、キャリアガスとしては窒素ガスを用いる。
【0073】
(p型半導体層14形成工程)
次いで、p型半導体層14を形成する。p型半導体層14の形成は、発光層13上にpクラッド層14aと、pコンタクト層14bとを順次積層すればよい。なお、pクラッド層14aを、超格子構造を含む層とする場合には、膜厚100オングストローム以下のIII族窒化物半導体からなるp側第一層と、p側第一層と組成が異なる膜厚100オングストローム以下III族窒化物半導体からなるp側第二層とを交互に繰返し積層すればよい。
【0074】
その後、積層半導体層20のp型半導体層14上に透光性電極15を積層し、例えば一般に知られたフォトリソグラフィーの手法によって所定の領域以外の透光性電極15を除去する。
続いて、例えばフォトリソグラフィーの手法によりパターニングして、所定の領域の積層半導体層20の一部をエッチングして再成長層12dの一部を露出させ、再成長層12dの露出面20aにn型電極17を形成する。
その後、透光性電極15の上にp型ボンディングパッド電極16を形成する。
以上のようにして、図1に示すIII族窒化物半導体発光素子1が製造される。
【0075】
本発明のIII族窒化物半導体発光素子1の製造方法によれば、第一有機金属化学気相成長装置において第一n型半導体層12cを形成し、次いで第二有機金属化学気相成長装置に基板11を移すことにより、第一n型半導体層12cが一旦冷却される。このため、第一n型半導体層12cがそれまでに被った熱履歴等によるストレス(残留応力)を低減できる。
また、第一n型半導体層12cが、発光層13及びp型半導体層14とは別の成長室内で形成されるため、第一n型半導体層12cを形成する際に用いたドーパントに起因する発光層13及びp型半導体層14の不良を生じにくくすることができる。
【0076】
また、第一n型半導体層12c上に当該第一n型半導体層12cの再成長層12dを形成することにより、第一n型半導体層12c表面の劣化による影響を抑えることができる。また、第一n型半導体層12c全体のドーパント濃度を高めるのではなく、再成長層12dの部分のみ高めることにより、結晶性の高い第一n型半導体層12cを形成できる。このため、ドーパント濃度に起因する第一n型半導体層12cの応力増加や結晶性低下を防ぐことができる。このため、第一n型半導体層12cに孔が発生することを抑えられる。このため、III族窒化物半導体発光素子1の不良発生を抑えることができる。
また、第一n型半導体層12c上に再成長層12dを形成することにより、再成長層12d上に、結晶性の高いnクラッド層12bを形成できる。このため、nクラッド層12b上に、結晶性の高い発光層13およびp型半導体層14を形成でき、III族窒化物半導体発光素子1の発光出力を向上できる。
【0077】
また、再成長層12dのドーパント濃度を高めることにより、再成長層12dのシート抵抗が低下する。このため、III族窒化物半導体発光素子1へ大電流を印加した際に、再成長層12dにおいて電流を効果的に拡散できる。このため、発光層13における発光が均一となり、特に大電流をIII族窒化物半導体発光素子1に印加した場合の発光出力を向上できる。
【0078】
また、ドーパントとしてSiを用いることにより、再成長層12dのX線ロッキングカーブの半値幅(XRC−FWHM)が小さくなり、結晶性が向上する。
また、再成長層12dは第一n型半導体層12cよりもSi濃度が高いため、第一n型半導体層12c上にn型電極17を形成する場合よりも、再成長層12dとn型電極17との間の障壁の幅が狭くなる。このため、再成長層12dとn型電極17との間にトンネル電流が生じやすく、再成長層12dとn型電極17との間で、良好なオーミック接触が維持される。
【0079】
<ランプ3>
本実施形態のランプ3は、本発明のIII族窒化物半導体発光素子1を備えるものであり、上記のIII族窒化物半導体発光素子1と蛍光体とを組み合わせてなるものである。本実施形態のランプ3は、当業者周知の手段によって当業者周知の構成とすることができる。例えば、本実施形態のランプ3においては、III族窒化物半導体発光素子1と蛍光体と組み合わせることによって発光色を変える技術を何ら制限されることなく採用できる。
【0080】
図3は、図1に示したIII族窒化物半導体発光素子1を備えるランプの一例を示した断面模式図である。図3に示すランプ3は、砲弾型のものであり、図1に示すIII族窒化物半導体発光素子1が用いられている。図3に示すように、III族窒化物半導体発光素子1のp型ボンディングパッド電極16がワイヤー33で2本のフレーム31、32の内の一方(図3ではフレーム31)に接続され、III族窒化物半導体発光素子1のn型電極17(ボンディングパッド)がワイヤー34で他方のフレーム32に接続されることにより、III族窒化物半導体発光素子1が実装されている。また、III族窒化物半導体発光素子1の周辺は、透明な樹脂からなるモールド35で封止されている。
【0081】
本実施形態のランプ3は、上記のIII族窒化物半導体発光素子1が用いられてなるものであるので、高い発光出力が得られるものとなる。
【0082】
また、本実施形態のランプ3を組み込んだバックライト、携帯電話、ディスプレイ、各種パネル類、コンピュータ、ゲーム機、照明などの電子機器や、それらの電子機器を組み込んだ自動車などの機械装置は、高い発光出力が得られるIII族窒化物半導体発光素子1を備えたものとなる。特に、バックライト、携帯電話、ディスプレイ、ゲーム機、照明などのバッテリ駆動させる電子機器においては、高い発光出力が得られるIII族窒化物半導体発光素子1を具備した優れた製品を提供することができるため、好ましい。
【実施例】
【0083】
以下に、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
以下に示す方法により、図1に示すIII族窒化物半導体発光素子1を製造した。
実施例1のIII族窒化物半導体発光素子1では、まず、第一MOCVD炉の成長室内において、直径150mmのサファイア基板11上に、AlNからなるバッファ層21、厚さ8μmのアンドープGaNからなる下地層22を積層した。次いで、厚さ3μmのSiドープn型GaNからなる第一n型半導体層12cを形成した。このとき、第一n型半導体層12cの形成の際の基板温度は1080℃、成長室内の圧力は40kPaとした。また、原料ガスと共に、ドーパントガスとしてSiHを供給し、4.0×1018/cmの濃度でSiを含有する第一n型半導体層12cを形成した。
【0084】
次に、第一n型半導体層12cまで形成された基板を第一MOCVD炉から一旦取り出して、第二MOCVD炉の成長室内に移した。次いで、第一n型半導体層12cまでの各層の形成された基板11を、窒素とアンモニアを含む雰囲気中で950℃、10分間の熱処理(サーマルクリーニング)を行った。また、このときの第二MOCVD装置の成長室内の圧力は95kPaとした。
【0085】
その後、第一n型半導体層12c上に厚さ1μmのSiドープn型GaNからなる再成長層12dを形成した。このとき、原料ガスと共に、ドーパントガスとしてSiHを供給し、5.0×1019/cmの濃度でSiを含有させた。また、その他の形成条件は、第一n型半導体層12c形成の条件と同じとした。
【0086】
次に、再成長層12d上に、厚さ80nmの超格子構造からなるnクラッド層12bを形成した。さらに、nクラッド層12b上に障壁層13aおよび井戸層13bを5回積層し、最後に障壁層を設けた多重量子井戸構造の発光層13を形成した。
【0087】
その後、発光層13上に厚さ20nmのMgドープ単層Al0.07Ga0.93Nからなるpクラッド層14a、厚さ170nmのMgドープp型GaNからなるpコンタクト層14bを順に積層した。pコンタクト層14bはpコンタクト下層と、pコンタクト上層とが積層してなり、pコンタクト下層にMgが5×1019/cmの濃度で含有され、pコンタクト上層にMgが2×1020/cm程度の濃度とした。次いで、pコンタクト層14b上に、厚さ200nmのITOからなる透光性電極15を一般に知られたフォトリソグラフィの手法により形成した。
【0088】
次に、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチングを施し、所望の領域に再成長層12dの露出面20aを形成し、その上にTi/Auの二層構造のn型電極17を形成した。
また、透光性電極15の上に、200nmのAlからなる金属反射層と80nmのTiからなるバリア層と1100nmのAuからなるボンディング層とからなる3層構造のp型ボンディングパッド構造16を、フォトリソグラフィの手法を用いて形成した。
以上のようにして、実施例1のIII族窒化物半導体発光素子1を得た。
【0089】
このようにして得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は300MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で35arcsec、(10−10)回折で165arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0090】
(実施例2)
実施例1の第一n型半導体層12cに1.0×1018/cmの濃度でSiを含有させた以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は280MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で32arcsec、(10−10)回折で160arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.1V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0091】
(実施例3)
実施例1の第一n型半導体層12cに1.0×1019/cmの濃度でSiを含有させた以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は310MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で36arcsec、(10−10)回折で168arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=23mW、逆方向電流IR(@20V)=0.2μAであった。
【0092】
(実施例4)
実施例1の再成長層12dに5.0×1018/cmの濃度でSiを含有させた以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は300MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で35arcsec、(10−10)回折で162arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.1V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0093】
(実施例5)
実施例1の再成長層12dに1.0×1020/cmの濃度でSiを含有させた以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は320MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で38arcsec、(10−10)回折で169arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=23mW、逆方向電流IR(@20V)=0.3μAであった。
【0094】
(実施例6)
実施例1の第一n型半導体層12cを1μmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は250MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で36arcsec、(10−10)回折で170arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.2μAであった。
【0095】
(実施例7)
実施例1の第一n型半導体層12cを4μmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は300MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で39arcsec、(10−10)回折で164arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0096】
(実施例8)
実施例1の再成長層12dを0.2μmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は270MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で33arcsec、(10−10)回折で170arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=23mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0097】
(実施例9)
実施例1の再成長層12dを3μmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は290MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で35arcsec、(10−10)回折で158arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0098】
(実施例10)
実施例1の熱処理(サーマルクリーニング)の際の第二MOCVD装置の成長室内の圧力を15kPaとした以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は290MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で34arcsec、(10−10)回折で167arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0099】
(実施例11)
実施例1の熱処理(サーマルクリーニング)の際の第二MOCVD装置の成長室内の圧力を100kPaとした以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は280MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で35arcsec、(10−10)回折で165arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0100】
(実施例12)
実施例1の熱処理(サーマルクリーニング)の際の第二MOCVD装置の成長室内の温度を500℃とした以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は290MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で40arcsec、(10−10)回折で172arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=21mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0101】
(実施例13)
実施例1の熱処理(サーマルクリーニング)の際の第二MOCVD装置の成長室内の温度を1000℃とした以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は300MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で38arcsec、(10−10)回折で168arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0102】
(実施例14)
実施例1の熱処理(サーマルクリーニング)を行わなかったこと以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は310MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で40arcsec、(10−10)回折で173arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=21mW、逆方向電流IR(@20V)=0.5μAであった。
【0103】
(実施例15)
実施例1のドーパントガスとしてGeを供給したこと以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は320MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で42arcsec、(10−10)回折で175arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=21mW、逆方向電流IR(@20V)=0.8μAであった。
【0104】
(実施例16)
実施例1の第一n型半導体層12cに露出面20aを形成し、その上にn型電極17を形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は300MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で38arcsec、(10−10)回折で166arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.3μAであった。
【0105】
(実施例17)
実施例1の熱処理(サーマルクリーニング)の際の第二MOCVD装置の成長室内の温度を400℃とした以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は280MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で39arcsec、(10−10)回折で167arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=0.3μAであった。
【0106】
(実施例18)
実施例1の熱処理(サーマルクリーニング)の際の第二MOCVD装置の成長室内の温度を1100℃とした以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は290MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で35arcsec、(10−10)回折で152arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=23mW、逆方向電流IR(@20V)=0.3μAであった。
【0107】
(比較例1)
半導体層20を第一MOCVD炉で一貫成長させて熱処理(冷却、サーマルクリーニング)を行わず、また、再成長層12dを形成しなかった以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は420MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で50arcsec、(10−10)回折で190arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.1V、発光出力Po=18mW、逆方向電流IR(@20V)=1μAであった。
【0108】
(比較例2)
実施例1の第一n型半導体層12cに5.0×1017/cmの濃度でSiを含有させた以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は300MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で40arcsec、(10−10)回折で160arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.3V、発光出力Po=19mW、逆方向電流IR(@20V)=0.6μAであった。
【0109】
(比較例3)
実施例1の第一n型半導体層12cに5.0×1019/cmの濃度でSiを含有させた以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は350MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で44arcsec、(10−10)回折で185arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=19mW、逆方向電流IR(@20V)=2μAであった。
【0110】
(比較例4)
実施例1の再成長層12dに1.0×1018/cmの濃度でSiを含有させた以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は300MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で35arcsec、(10−10)回折で165arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.3V、発光出力Po=20mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0111】
(比較例5)
実施例1の再成長層12dに2.0×1020/cmの濃度でSiを含有させた以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は370MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で45arcsec、(10−10)回折で184arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=18mW、逆方向電流IR(@20V)=3μAであった。
【0112】
(比較例6)
実施例1の第一n型半導体層12cを0.1μmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は270MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で33arcsec、(10−10)回折で170arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.3V、発光出力Po=19mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0113】
(比較例7)
実施例1の第一n型半導体層12cを5μmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は330MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で35arcsec、(10−10)回折で158arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=18mW、逆方向電流IR(@20V)=2μAであった。
【0114】
(比較例8)
実施例1の第一n型半導体層12cを0.5μmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は250MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で36arcsec、(10−10)回折で190arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3.3V、発光出力Po=19mW、逆方向電流IR(@20V)=0.2μAであった。
【0115】
(比較例9)
実施例1の第一n型半導体層12cを5μmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は380MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で43arcsec、(10−10)回折で164arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=15mW、逆方向電流IR(@20V)=3μAであった。
【0116】
(比較例10)
実施例1の熱処理(サーマルクリーニング)の際の第二MOCVD装置の成長室内の圧力を10kPaとした以外は実施例1と同様な操作を行い、III族窒化物半導体発光素子1を得た。得られたIII族窒化物半導体発光素子1の、nコンタクト層12aのnクラッド層12b側から深さ2μmの部分での残留応力は290MPaであった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅は、(0002)回折で34arcsec、(10−10)回折で167arcseであった。また、III族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電圧Vf=3V、発光出力Po=22mW、逆方向電流IR(@20V)=3μAであった。
【0117】
実施例1〜実施例18、比較例1〜比較例10のIII族窒化物半導体発光素子の順方向電圧、発光出力(Po)、逆方向電流(IR)の結果を表1に示す。
なお、実施例及び比較例のIII族窒化物半導体発光素子1についての順方向電圧Vfは、プローブ針による通電で電流印加値20mAにおける電圧を測定したものである。同じく、実施例及び比較例のIII族窒化物半導体発光素子1についての発光出力(Po)は、それぞれTO−18缶パッケージに実装し、テスターによって印加電流20mAにおける発光出力を測定したものである。また、逆方向電流(IR)は、発光素子に対して端子を逆方向に20V印加した時の漏れ電流を測定した時の値である。
【0118】
【表1】

【0119】
表1に示すように、実施例1〜実施例16のIII族窒化物半導体発光素子1はいずれも、逆方向電流(IR)が低く、また、比較的低い順方向電圧が得られた。また、いずれのIII族窒化物半導体発光素子1も、発光出力(Po)が20mW以上となり、高輝度で低消費電力であった。また、nコンタクト層12aの残留応力は比較的低かった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅の値が比較的低かった。
一方、比較例1〜比較例13で得られたIII族窒化物半導体発光素子1では、実施例1〜実施例16と比較して発光出力(Po)が低く、順方向電圧が比較的高く、かつ、漏れ電流(逆方向電流(IR)の値が大きかった。また、nコンタクト層12aの残留応力が高かった。また、nコンタクト層12aのXRC半値幅の値が高かった。
【0120】
以上により、実施例1〜実施例16で得られたIII族窒化物半導体発光素子1は、第一n型半導体層12c表面の劣化および第一n型半導体層12cの結晶性低下が防止できる。そのため、再成長層12d上に、結晶性の高いnクラッド層12b、発光層13およびp型半導体層14を順次積層できる。これにより、III族窒化物半導体発光素子1の発光出力を向上させることが可能となった。また、本発明の方法により、第一n型半導体層12cがそれまでに被った熱履歴等によるストレス(残留応力)が緩和され、nクラッド層12b、発光層13およびp型半導体層14のそれぞれの結晶性向上をもたらした結果、効果的に発光出力を向上させることができた。また、比較例1〜比較例13のIII族窒化物半導体発光素子1と比較して、漏れ電流が小さく高い発光出力が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0121】
1…III族窒化物半導体発光素子、3…ランプ、11…基板、12…n型半導体層、12a…nコンタクト層、12b…nクラッド層(第二n型半導体層)、12c…第一n型半導体層、12d…再成長層、13…発光層、14…p型半導体層、17…n型電極、20a…露出面、22…下地層、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一有機金属化学気相成長装置において、基板上に第一n型半導体層を形成する第一工程と、
第二有機金属化学気相成長装置において、前記第一n型半導体層上に、前記第一n型半導体層のドーパント濃度よりも高いドーパント濃度を有する前記第一n型半導体層の再成長層、第二n型半導体層、発光層およびp型半導体層を順次積層する第二工程と、を有することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第一n型半導体層と前記再成長層のドーパントがSiであることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記第一n型半導体層のドーパント濃度が1×1018cm−3〜1×1019cm−3であり、前記再成長層のドーパント濃度が5×1018cm−3〜1×1020cm−3であることを特徴とする請求項2に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記再成長層を形成する前に、前記有機金属化学気相成長装置内において窒素とアンモニアを含む雰囲気中で、圧力15kPa〜100kPa、前記基板温度500℃〜1000℃の条件下で熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
基板上に、第一n型半導体層と、前記第一n型半導体層のドーパント濃度よりも高いドーパント濃度を有する前記第一n型半導体層の再成長層と、第二n型半導体層と、発光層と、p型半導体層とが積層されてなるIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記p型半導体層および発光層の一部が切り欠けられて前記再成長層の一部が露出され、露出された前記再成長層上にn型電極が形成されていることを特徴とする請求項5に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
請求項5または6に記載のIII族窒化物半導体発光素子を備えることを特徴とするランプ。
【請求項8】
請求項7に記載のランプが組み込まれていることを特徴とする電子機器。
【請求項9】
請求項8に記載の電子機器が組み込まれていることを特徴とする機械装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−164749(P2012−164749A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22826(P2011−22826)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】