説明

MEMSセンサ

【課題】1つのチップへの集積回路との混載が可能でありながら、コンデンサを構成する第1電極および第2電極への外部からの直流電圧の印加が不要である、MEMSセンサを提供する。
【解決手段】シリコン基板2上には、第1電極9が設けられている。第1電極9は、複数の不揮発性メモリセル5からなる。各不揮発性メモリセル5のフローティングゲート6には、電荷が蓄積されている。第1電極9に対してシリコン基板2側と反対側には、第2電極16が設けられている。第2電極16は、第1電極9に対して間隔を空けて対向し、第1電極9との対向方向に振動可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により製造されるセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、音響/電気変換素子としてのコンデンサマイクでは、振動板およびバックプレートによりコンデンサが構成され、振動板またはバックプレートに直流電圧が印加された状態で、振動板の振動により生じるコンデンサの静電容量の変化が音声出力信号として取り出される。
このコンデンサマイクの一種として、エレクトレット現象(ある物質に強い電界をかけると、その電界を取り去った後でも電荷が残る現象)により帯電させた高分子フィルムを振動板に採用し、または、その帯電させた高分子フィルムをバックプレートに溶着させることによって、外部からの直流電圧の印加を不要とした、ECM(Electret Condenser Microphone)が知られている。
【特許文献1】特開2002−78091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近、ECMに代えて、MEMS技術により製造されるシリコンマイクの注目度が急激に高まっている。シリコンマイクは、シリコン基板上に、振動板とバックプレートとを微小な間隔を空けて対向配置した構造を有している。このようなシリコンマイクは、ECMなどのコンデンサマイクと比較して、1つのチップに集積回路との混載が可能であるという大きな利点を有している。
【0004】
しかしながら、シリコン基板上に帯電させた高分子フィルムをMEMS技術により形成することはできないので、シリコンマイクでは、外部から振動板またはバックプレートへの直流電圧の印加が必要である。
本発明の目的は、1つのチップへの集積回路との混載が可能でありながら、コンデンサを構成する第1電極および第2電極への外部からの直流電圧の印加が不要である、MEMSセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、半導体基板と、半導体基板上に形成され、電荷が蓄積された複数の不揮発性メモリセルからなる第1電極と、前記第1電極に対して前記半導体基板側と反対側に間隔を空けて対向し、前記第1電極との対向方向に振動可能な第2電極とを含む、MEMSセンサである。
この構成によれば、半導体基板上には、第1電極が設けられている。第1電極は、複数の不揮発性メモリセルからなる。各不揮発性メモリセルには、電荷が蓄積されている。第1電極に対して半導体基板側と反対側には、第2電極が設けられている。第2電極は、第1電極に対して間隔を空けて対向し、その対向方向に振動可能とされている。
【0006】
各不揮発性メモリセルに電荷が蓄積されていることにより(第1電極が帯電していることにより)、第1電極と第2電極との間には、電界(電位差)が生じている。そのため、外部から第1電極および第2電極に直流電圧を印加しなくても、第2電極が振動すると、第1電極および第2電極により構成されるコンデンサの静電容量が変化する。
また、半導体基板は、トランジスタなどからなる集積回路を形成するための半導体基板として利用することができる。これにより、MEMSセンサと集積回路とを1つのチップに混載させることができる。
【0007】
よって、このMEMSセンサは、1つのチップへの集積回路との混載が可能でありながら、コンデンサを構成する第1電極および第2電極への外部からの直流電圧の印加が不要である。
請求項2に記載のように、前記不揮発性メモリセルは、ポリシリコンからなるフローティングゲートと、前記フローティングゲート上に積層されたポリシリコンからなるコントロールゲートと、前記フローティングゲートと前記コントロールゲートとの間に介在され、窒化シリコン膜を1対の酸化シリコン膜で挟み込んだONO構造を有する絶縁膜とを備えていてもよい。
【0008】
この構成では、コントロールゲートの電圧を制御することにより、フローティングゲートに電荷(電子)を蓄積させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るシリコンマイクの構造を模式的に示す断面図である。
シリコンマイク1は、MEMS技術により製造されるセンサ(MEMSセンサ)である。シリコンマイク1は、半導体基板としてのシリコン基板2を備えている。シリコン基板2の表面は、酸化シリコン(SiO)からなるゲート絶縁膜3により覆われている。
【0010】
シリコン基板2には、メモリセル領域4が設定されている。メモリセル領域4には、複数の不揮発性メモリセル5が行列状に配置されている。各不揮発性メモリセル5は、シリコン基板2の表層部に、互いに間隔を空けて形成されたソース領域およびドレイン領域(いずれも図示せず)を備えている。また、各不揮発性メモリセル5は、ゲート絶縁膜3上に、ソース領域とドレイン領域との間に対向するフローティングゲート6と、フローティングゲート6上に積層されたコントロールゲート7とを備えている。フローティングゲート6およびコントロールゲート7は、不純物(たとえば、リン)が添加されたポリシリコンからなる。フローティングゲート6とコントロールゲート7との間には、ゲート間絶縁膜8が介在され、このゲート間絶縁膜8により、フローティングゲート6とコントロールゲート7とが絶縁されている。ゲート間絶縁膜8は、たとえば、窒化シリコン膜を1対の酸化シリコン膜で挟み込んだONO(酸化膜−窒化膜−酸化膜)構造を有する膜からなる。
【0011】
メモリセル領域4に行列状に配置された不揮発性メモリセル5は、シリコンマイク1におけるバックプレートとして機能する第1電極9を構成している。そして、各不揮発性メモリセル5のフローティングゲート6には、電荷(電子)が蓄積されている。これにより、第1電極9は、一様に帯電している。フローティングゲート6への電荷の蓄積は、コントロールゲート7の電圧を制御することにより達成される。
【0012】
メモリセル領域4の周囲において、ゲート絶縁膜3上には、リンシリケートガラス(PSG)からなる絶縁層10が形成されている。
絶縁層10上には、窒化シリコン(SiN)からなる下絶縁膜11が形成されている。下絶縁膜11は、平面視でメモリセル領域4を含むシリコン基板2上の全域を覆っている。下絶縁膜11は、絶縁層10の上面に沿ったベース部12と、第1電極9と対向する電極対向部13と、ベース部12と電極対向部13の周縁部の一部とを接続する接続部14とを一体的に有している。
【0013】
電極対向部13は、ベース部12よりも一段高い位置に形成されており、電極対向部13の下面と第1電極9(コントロールゲート7)の上面との間には、所定間隔(たとえば、4μm)が空けられている。また、電極対向部13の周縁部は、接続部14が形成されている一部分を除き、ベース部12との間に間隔を空けて、ベース部12から断絶されている。
【0014】
下絶縁膜11のベース部12上には、アルミニウムからなるパッド15が形成されている。
下絶縁膜11の電極対向部13上には、アルミニウムからなる第2電極16が形成されている。第2電極16は、図示しない配線を介して、パッド15と電気的に接続されている。
【0015】
下絶縁膜11上には、窒化シリコンからなる上絶縁膜17が形成されている。上絶縁膜17は、下絶縁膜11のベース部12上に積層されたベース部18と、下絶縁膜11の電極対向部13上に積層された電極被覆部19と、下絶縁膜11の接続部14と接する接続部20とを一体的に有している。
ベース部18は、パッド15の中央部を露出させるための開口21を有し、その開口21の周囲の部分によりパッド15の周縁部を被覆している。パッド15には、信号取り出し用配線が接続される。
【0016】
接続部20は、ベース部18と電極被覆部19の周縁部の一部とを接続している。この接続部20および下絶縁膜11の接続部14によって、下絶縁膜11の電極対向部13および上絶縁膜17の電極被覆部19は、電極対向部13の下面と第1電極9の上面との間に間隔を空けた状態で、第1電極9との対向方向に振動可能に支持されている。そして、第2電極16は、電極対向部13と電極被覆部19とに挟持されることにより、第1電極9との対向方向に振動可能とされている。
【0017】
以上のように、シリコン基板2上には、第1電極9が設けられている。第1電極9は、複数の不揮発性メモリセル5からなる。各不揮発性メモリセル5のフローティングゲート6には、電荷が蓄積されている。第1電極9に対してシリコン基板2側と反対側には、第2電極16が設けられている。第2電極16は、第1電極9に対して間隔を空けて対向し、第1電極9との対向方向に振動可能とされている。
【0018】
各不揮発性メモリセル5のフローティングゲート6に電荷が蓄積されていることにより、第1電極9がほぼ一様に帯電し、第1電極9と第2電極16との間には、ほぼ一様な電界(電位差)が生じている。そのため、外部から第1電極9および第2電極16に直流電圧を印加しなくても、第2電極16が振動すると、第1電極9および第2電極16により構成されるコンデンサの静電容量が変化する。第2電極16とパッド15とが電気的に接続されているので、第1電極9および第2電極16からなるコンデンサの静電容量が変化すると、パッド15に接続された信号取り出し用配線に、その静電容量の変化量に応じた電流が流れる。したがって、信号取り出し用配線を流れる電流に基づいて、第2電極16に入力された音圧の大きさを検出することができる。
【0019】
また、シリコン基板2は、トランジスタなどからなる集積回路を形成するための半導体基板として利用することができる。これにより、シリコンマイク1と集積回路とを1つのチップに混載させることができる。
よって、シリコンマイク1は、1つのチップへの集積回路との混載が可能でありながら、コンデンサを構成する第1電極9および第2電極16への外部からの直流電圧の印加が不要である。
【0020】
図2A〜2Fは、シリコンマイク1の製造方法を工程順に示す模式的な断面図である。
まず、図2Aに示すように、熱酸化処理により、シリコン基板2の表面に、ゲート絶縁膜3が形成される。シリコン基板2の表層部には、メモリセル領域4に、不揮発性メモリセル5のソース領域およびドレイン領域が予め作り込まれている。つづいて、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により、ゲート絶縁膜3上に、不純物が添加されたポリシリコン膜、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜および不純物が添加されたポリシリコン膜が順に形成され、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により、それらの膜がパターニングされる。これにより、メモリセル領域4において、ゲート絶縁膜3上に、複数の不揮発性メモリセル5のフローティングゲート6、コントロールゲート7およびゲート間絶縁膜8が形成される。
【0021】
次に、図2Bに示すように、CVD法により、ゲート絶縁膜3上に、リンシリケートガラスからなる第1絶縁膜22が形成される。第1絶縁膜22は、各不揮発性メモリセル5のフローティングゲート6、コントロールゲート7およびゲート間絶縁膜8を覆い、コントロールゲート7上における厚さが所定厚さ(たとえば、4μm)となるように形成される。
【0022】
その後、図2Cに示すように、CVD法により、第1絶縁膜22上に、窒化シリコンからなる第2絶縁膜23が形成される。第1絶縁膜22は、その全面が第2絶縁膜23により覆われる。
次いで、スパッタ法により、第2絶縁膜23上に、アルミニウム(Al)膜が形成される。そして、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により、そのアルミニウム膜がパターニングされる。これにより、図2Dに示すように、第2絶縁膜23上に、パッド15、第2電極16およびこれらを接続する配線(図示せず)が形成される。
【0023】
その後、図2Eに示すように、CVD法により、第2絶縁膜23上に、窒化シリコンからなる第3絶縁膜24が形成される。第2絶縁膜23上のパッド15および第2電極16などは、第3絶縁膜24により覆われる。
第3絶縁膜24の形成後、図2Fに示すように、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により、第2絶縁膜23および第3絶縁膜24におけるメモリセル領域4を取り囲む部分と、第3絶縁膜24におけるパッド15に対向する部分とが選択的に除去される。これにより、第2絶縁膜23は、ベース部12、電極対向部13および接続部14を有する下絶縁膜11となり、ベース部12と電極対向部13の周縁部との間に隙間25が形成される。第3絶縁膜24は、ベース部18、電極被覆部19および接続部20を有する上絶縁膜17となる。
【0024】
その後、隙間25を介して第1絶縁膜22にエッチング液(たとえば、ふっ酸)が供給されることにより、メモリセル領域4から第1絶縁膜22が選択的に除去される。これにより、第1絶縁膜22は、絶縁層10となる。また、下絶縁膜11の電極対向部13の下面と第1電極9(コントロールゲート7)の上面との間に空隙が形成され、電極対向部13および上絶縁膜17の電極被覆部19により挟持された第2電極16が振動可能な状態となり、図1に示すシリコンマイク1が得られる。
【0025】
本発明の一実施形態の説明は以上のとおりであるが、本発明は、他の形態で実施することもできる。たとえば、MEMSセンサの一例として、シリコンマイク1を取り上げたが、本発明は、シリコンマイク1に限らず、コンデンサの静電容量の変化量に基づいて、振動可能な第2電極に入力された音圧以外の圧力を検出可能な圧力センサや、第2電極に生じた加速度を検出可能な加速度センサなどに適用されてもよい。
【0026】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るMEMSセンサの一例としてのシリコンマイクの構造を模式的に示す断面図である。
【図2A】図2は、図1に示すシリコンマイクの製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【図2B】図2Bは、図2Aの次の工程を模式的に示す断面図である。
【図2C】図2Cは、図2Bの次の工程を模式的に示す断面図である。
【図2D】図2Dは、図2Cの次の工程を模式的に示す断面図である。
【図2E】図2Eは、図2Dの次の工程を模式的に示す断面図である。
【図2F】図2Fは、図2Eの次の工程を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 シリコンマイク(MEMSセンサ)
2 シリコン基板(半導体基板)
5 不揮発性メモリセル
6 フローティングゲート
7 コントロールゲート
8 ゲート間絶縁膜(絶縁膜)
9 第1電極
16 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
半導体基板上に形成され、電荷が蓄積された複数の不揮発性メモリセルからなる第1電極と、
前記第1電極に対して前記半導体基板側と反対側に間隔を空けて対向し、前記第1電極との対向方向に振動可能な第2電極とを含む、MEMSセンサ。
【請求項2】
前記不揮発性メモリセルは、
ポリシリコンからなるフローティングゲートと、
前記フローティングゲート上に積層されたポリシリコンからなるコントロールゲートと、
前記フローティングゲートと前記コントロールゲートとの間に介在され、窒化シリコン膜を1対の酸化シリコン膜で挟み込んだONO構造を有する絶縁膜とを備えている、請求項1に記載のMEMSセンサ。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図2E】
image rotate

【図2F】
image rotate


【公開番号】特開2009−141591(P2009−141591A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314847(P2007−314847)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】