説明

Znがドープされた3B族窒化物結晶、その製法及び電子デバイス

【課題】高抵抗且つ低転位密度のZnドープ3B族窒化物結晶を提供する。
【解決手段】本発明のZnドープ3B族窒化物結晶は、比抵抗が1×102Ω・cm以上、3B族窒化物結晶中のZn濃度が1.0×1018atoms/cm3以上2×1019atoms/cm3以下、エッチピット密度が5×106/cm2以下のものである。この結晶は、液相法(Naフラックス法)により得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Znがドープされた3B族窒化物結晶、その製法及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の基地局用のパワーアンプに代表される高周波デバイスとしては、現在のところ砒化ガリウム(GaAs)が用いられている。一方、窒化ガリウム(GaN)を用いた高周波デバイスは、GaAsを用いた高周波デバイスよりも、数多くの有利な特性を持っている。例えば、GaNはバンドギャップがGaAsと比べて広く絶縁破壊電界が大きいため、GaNを用いた高周波デバイスはGaAsを用いた高周波デバイスよりも高耐圧化が可能になる。その結果、高い電圧を印加して大電流を流すことが可能となり、高出力化に適している。一方、高周波デバイスに用いられるGaNは高抵抗であることが要求されるが、ノンドープGaNの比抵抗は0.1Ω・cm程度であるため、不純物ドープによる高抵抗のGaNの開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高抵抗GaN層として、ZnドープGaN層が開示されている。具体的には、ZnドープGaN層を比抵抗1Ωcm以上1×105Ωcm以下のGaN層として利用することや、Znのドープ量を1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下とするのが好ましいこと(単位は正しくはatoms/cm-3と思われる)、Znのドープ量が1×1016cm-3未満だと高抵抗にすることが困難なため好ましくなく1×1019cm-3 を超えるとGaNの結晶性が悪化するおそれがあるため好ましくないこと等が開示されている。このようなZnドープGaN層は、特許文献2に記載されているように、分子線エピタキシャル法(MBE法)つまり気相法によって形成される。一方、特許文献3では、フラックス法において、ZnドープGaN結晶の作製が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−257998号公報
【特許文献2】特開2001−247399号公報
【特許文献3】国際公開2005/064661号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、気相法によって得られるZnドープGaN層は、転位密度の低い高品質なものを得るのが難しいという問題があった。一方、特許文献3では、フラックス法によるZnドープGaN結晶の作製が試みられているが、フラックス組成中のZn添加量はごくわずかな量(フラックスに対し、0.001〜0.1モル%)に限られていた。また、本発明者らが特許文献3の実施例4を追試したところ、上述のZn添加量では、GaN結晶中のZn取り込み量は3×1016〜1×1017atoms/cm3であり、ホール測定による比抵抗は0.5〜1.1Ω・cmであった。この比抵抗は、Zn無添加で育成した場合の10倍程度の抵抗値でしかない。ここで、特許文献3に記載のテスターや4探針法(特許文献3における「4端子法」は正しくは「4探針法」である)における抵抗測定では、接触抵抗の影響が大きく、その分離が困難であり、精確性に欠けるため、オーミック電極を取り付けたサンプルをホール測定を採用したところ、上述のように比抵抗が低いことが判明した。このため、Zn添加量を0.1モル%よりも増やしたところ、ガリウムが全く窒化しなくなり、結晶育成が困難となることが確認された。したがって、特許文献3では、再現良くZn添加による高抵抗窒化ガリウム結晶の育成方法は確立されていなかったといえる。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、高抵抗且つ低転位密度のZnドープ3B族窒化物結晶を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、系内に炭素を添加したNaフラックス法でZnドープGaNを作製することを詳細に検討した結果、従来よりもZnを高濃度に添加した組成でも結晶育成が可能であることを見い出した。具体的には、気相法と同様、Znドープ量が多いと高抵抗になるが結晶性が悪くなることを確認する一方、気相法に比べて比抵抗を高くすることができることや転位密度を低く抑えることができる好適な条件があることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のZnドープ3B族窒化物結晶は、比抵抗が1×102Ω・cm以上1×109Ω・cm以下、3B族窒化物結晶中のZn濃度が1.0×1018atoms/cm3以上2.0×1019atoms/cm3以下、エッチピット密度が1×106/cm2以下である。このZnドープ3B族窒化物結晶は、従来のフラックス法で製造されていたものに比べて、Zn濃度が高く、比抵抗の値が高く、かつ気相法で育成したものよりも転位密度が低い。このため、このZnドープ3B族窒化物結晶に高電圧を印加したとしても漏れ電流が発生することがない。なお、電子デバイス特性の観点から、比抵抗は1×106Ω・cm以上が好ましい。
【0009】
ここで、3B族窒化物としては、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化タリウム(TlN)などが挙げられるが、このうち窒化ガリウムが好ましい。
【0010】
本発明のZnドープ3B族窒化物結晶がZnドープ窒化ガリウム結晶の場合、波長330〜385nmの光(例えば水銀ランプの光)を照射したときに440〜470nmにピークを有するブロードな蛍光(青色の蛍光)を発する。Naフラックス法により作製した窒化ガリウムの結晶は、一般にこの波長の光を照射すると青色の光を発する。これに対して、気相法により作製した窒化ガリウムの結晶は、同様の光を照射すると黄色の蛍光を発する。このため、この波長の光を照射したときに発する蛍光の色によって、Naフラックス法による結晶か気相法による結晶かを区別することができる。
【0011】
本発明の電子デバイスは、上述した本発明のZnドープ3B族窒化物結晶を利用したものである。この電子デバイスとしては、例えば、ハイブリッド自動車用のインバータに用いられるパワーデバイス(電界効果トランジスタ)や携帯電話の基地局用の高周波パワーアンプ(HEMT)などが挙げられる。
【0012】
本発明のZnドープ3B族窒化物結晶の製法は、種結晶基板を3B族金属、フラックス及び亜鉛を含む混合融液に浸漬して窒素ガスを含む加圧雰囲気下で加熱した状態で前記種結晶基板上にZnドープ3B族窒化物の結晶を成長させる方法であって、前記混合融液として炭素が添加されたものを用い、該混合融液中の亜鉛濃度を3B族金属に対して0.04〜1.5mol%とするものである。この製法によれば、従来の気相法で製造されていたものに比べて、比抵抗の値が高く、転位密度が低いZnドープ3B族窒化物結晶が得られる。ここで、亜鉛濃度が下限値を下回る場合には、得られるZnドープ3B族窒化物結晶の比抵抗が十分高くならないため好ましくない。また、亜鉛濃度が上限値を上回る場合には、結晶性が低下するため好ましくない。亜鉛濃度は、0.2〜1.5モル%とするのが好ましく、0.5〜1.0モル%とするのがより好ましい。また、炭素は、フラックスに対して0.3〜1.0モル%添加するのが好ましい。炭素の濃度が下限値を下回る場合には、亜鉛によるガリウムの窒化阻害を抑制する効果が弱くなるた好ましくなく、上限値を上回る場合には、無極性面が発達し、亜鉛を添加された結晶育成が困難になるため好ましくない。
【0013】
なお、フラックス中に炭素を添加すること自体は、国際公開2008/059901号パンフレットに記載がある。しかしながら、このパンフレットにおける炭素を添加する効果は、核発生を抑制することと、無極性面の成長が促進されることである。本発明における炭素を添加する効果は、亜鉛を用いた場合のガリウムの窒化阻害を抑制することであり、この点はこれまで知られていなかった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】結晶板製造装置10の上部を水平に切断したときの断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】耐圧容器12の全体の構成を示す説明図である。
【図4】揺動装置70により耐圧容器12を傾けたときの断面図である。
【図5】ZnドープGaN結晶板の透過顕微鏡像の写真である。
【図6】ZnドープGaN結晶板のXRCのグラフである。
【図7】ZnドープGaN結晶板の電圧と比抵抗との関係を表すグラフである。
【図8】Zn添加量とZnドープGaN中のZn濃度(Znドープ量)との関係を表すグラフである。
【図9】比抵抗のZn濃度依存性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のZnドープ3B族窒化物結晶を製造する好適な装置について、図面を用いて以下に説明する。図1は、結晶板製造装置10の上部を水平に切断したときの断面図、図2は、図1のA−A断面図、図3は、耐圧容器12の全体構成を示す説明図(断面図)である。なお、図1及び図2では、便宜上、窒素ガスボンベ22や真空ポンプ26などの周辺機器は省略した。
【0016】
結晶板製造装置10は、図1に示すように、耐圧容器12と、この耐圧容器12を揺動可能な揺動装置70とを備えている。
【0017】
耐圧容器12は、鍔の付いた容器本体12aと、同じく鍔の付いた容器蓋12bとからなる。この耐圧容器12は、図3に示すように、内部にヒータカバー14で囲まれた加熱空間16を有している。この加熱空間16は、ヒータカバー14の側面の上下方向に配置された上段ヒータ18a、中段ヒータ18b及び下段ヒータ18cのほか、ヒータカバー14の底面に配置された底部ヒータ18dによって内部温度が調節可能となっている。この加熱空間16は、ヒータカバー14の周囲を覆うヒータ断熱材20によって断熱性が高められている。また、耐圧容器12には、窒素ガスボンベ22の窒素導入パイプ24a,24bが接続されると共に真空ポンプ26の真空引き配管28が接続されている。窒素導入パイプ24aは、耐圧容器12、ヒータ断熱材20、ヒータカバー14及びコンテナ42を貫通してコンテナ42の内部に窒素ガスを導入可能となっている。窒素導入パイプ24bは、耐圧容器12を貫通して耐圧容器12の内部に窒素ガスを導入可能となっている。窒素導入パイプ24a,24bのうち窒素ガスボンベ22から耐圧容器12に至るまでの部分はフレキシブルパイプで構成されている。また、窒素導入パイプ24aには流量を調節可能なマスフローコントローラ25が取り付けられ、窒素導入パイプ24bにはパイプの開閉が可能なバルブ27が取り付けられている。真空引き配管28は、耐圧容器12を貫通し、耐圧容器12とヒータ断熱材20との隙間に開口している。ヒータカバー14は、完全に密閉されているわけではないため、ヒータカバー14の外側が真空状態になればその内側も真空状態になる。この真空引き配管28はフレキシブルパイプで構成されている。耐圧容器12には、更にバルブ49の付いた窒素排気パイプ48が取り付けられている。この窒素排気パイプ48は、バルブ49を開くことによりコンテナ42の内部と外気とが連通するようになっている。この窒素排気パイプ48のうち耐圧容器12の外側部分は、フレキシブルパイプで構成されている。
【0018】
耐圧容器12の内部には、嵩上げ台30の上にコンテナ42が配置されている。コンテナ42は、有底筒状でインコネル製のコンテナ本体42aと、このコンテナ本体42aの上部開口を閉鎖するインコネル製のコンテナ蓋42bとを備えている。コンテナ蓋42bには、窒素導入パイプ24aと共に、導入した窒素がコンテナ42の内部空間からオーバーフローする分を排出するための窒素排気パイプ48も併設されている。コンテナ42の内部には、有底筒状の本体と蓋とを備えた中間容器60が収容され、この中間容器60の内部には、有底筒状の本体と蓋とを備えたアルミナ製の育成容器50が配置されている。育成容器50には、育成原料(例えばナトリウム/ガリウム/亜鉛/炭素)の混合融液が入っており、その混合融液中に円板状でアルミナ製の種結晶基板トレー52が配置されている。この種結晶基板トレー52は、一端がトレー台56に接し、他端が育成容器50の底面に接している。また、種結晶基板トレー52は、中央部分に円板状の種結晶基板54をはめ込むための凹みを有している。種結晶基板54は、サファイア基板の表面にGaNの薄膜が気相法により形成されたものを用いてもよいし、GaNの基板を用いてもよい。
【0019】
揺動装置70は、図1及び図2に示すように、耐圧容器12を載置する基台72と、この基台72の周囲に立設された4本の柱73の上方にそれぞれ取り付けられたブラケット74と、各ブラケット74と基台72との間に接続された伸縮機構76とを備えている。基台72は、平面視したときの形状が略四角形である板状部材であり、中央に耐圧容器12を載置可能となっている。ブラケット74は、サーボモータを有するアクチュエータ78を水平軸により揺動可能に支持している。伸縮機構76は、下方にシリンダ77が取り付けられたアクチュエータ78と、シリンダ77に取り付けられボールネジを介して上下方向に伸縮可能な可動シャフト80と、この可動シャフト80の下端に取り付けられたユニバーサルジョイント82と、基台72に固定されユニバーサルジョイント82を支持する支持シャフト84とを備えている。そして、図2において、互いに向かい合う一対の伸縮機構76,76(左側及び右側の伸縮機構76,76)の一方の可動シャフト80(右側の可動シャフト80)を伸ばし他方の可動シャフト80(左側の可動シャフト80)を縮めることにより、基台72は図4のように斜めに傾斜する。このとき、各支持シャフト84は基台72に固定されているが、支持シャフト84と可動シャフト80との間には全方位の角度に対応するユニバーサルジョイント82が介在しており、また、アクチュエータ78はブラケット74に揺動可能に取り付けられているため、支障なく基台72を斜めに傾斜させることができる。そして、4つのアクチュエータ78を図示しないシーケンサにより制御すれば、基台72を水平面に対して所定角度だけ傾斜させた状態で回転させることができる。これにより、基台72に載置された耐圧容器12内の育成容器50中の混合融液を回転させたり、混合融液に上下方向の対流を起こさせたりすることができる。
【0020】
このようにして構成された本実施形態の結晶板製造装置10の使用例について説明する。この結晶板製造装置10は、フラックス法によりZnドープ3B族窒化物結晶を製造するのに用いられる。以下には、Znドープ3B族窒化物結晶としてZnドープGaN結晶を製造する場合を例に挙げて説明する。この場合、種結晶基板54としては、GaNテンプレート、3B族金属としては金属ガリウム、フラックスとしては金属ナトリウムを用意する。まず、育成容器50内で種結晶基板54を金属ガリウム、金属ナトリウム、金属亜鉛及び炭素を含む混合融液に浸漬する。続いて、真空ポンプ26により、耐圧容器12内部を10-2Pa台まで真空引きし、内部に残留する水分、酸素を低減する。その後、所定の圧力まで窒素ガスを導入し、加熱空間16が所定の結晶成長温度になるように各ヒータ18a〜18dを制御しながら混合融液に窒素ガスを供給し続ける。その後、アクチュエータ78を制御して基台を水平面に対して所定角度(例えば5〜15°)傾斜させた状態で時計回りや反時計回りに所定周期(例えば30〜300秒)で切り替えながら所定の速度(例えば1〜10rpmの速度)で回転させることにより、育成容器50の内容物を強制的に攪拌する。こうすることにより、種結晶基板54に対して混合融液を絶えず移動させることができる。この際、種結晶基板54の最も結晶成長の速い面を上向きとするのが好ましい。こうすれば、常に気液界面で窒素が溶け込んだ原料を種結晶に供給することになり、高品質な3B族金属窒化物を得やすい。この状態を維持することにより、混合融液中で種結晶基板54上にZnドープGaNの結晶が成長する。なお、混合融液に炭素を適量加えると、亜鉛によるガリウム原料の窒化阻害が抑制される。育成容器50内の混合融液中で成長したZnドープGaN結晶板は、冷却後、容器に有機溶剤(例えばイソプロパノールやエタノールなどの低級アルコール)を加えて該有機溶剤にフラックスなどの不要物を溶かすことにより回収することができる。
【0021】
上述したようにZnドープGaN結晶板を製造する場合、結晶成長温度は800〜950℃に設定するのが好ましく、850〜900℃に設定するのがより好ましい。加熱空間16の温度を均一にするには、上段ヒータ18a、中段ヒータ18b、下段ヒータ18c、底部ヒータ18dの順に温度が高くなるように設定したり、上段ヒータ18aと中段ヒータ18bを同じ温度T1に設定し、下段ヒータ18cと底部ヒータ18dをその温度T1よりも高い温度T2に設定したりするのが好ましい。また、窒素ガスの圧力は、2〜5MPaに設定するのが好ましく、2.5〜4MPaに設定するのがより好ましい。窒素ガスの圧力を調整するには、まず、真空ポンプ26を駆動して真空引き配管28を介して耐圧容器12の内部圧力を高真空状態(例えば1Pa以下とか0.1Pa以下)とし、その後、真空引き配管28を図示しないバルブによって閉鎖し、窒素ガスボンベ22から窒素導入パイプ24aを介して加熱空間16に窒素ガスを供給することにより行う。GaN結晶が成長している間、炉内の構造物から不純物が拡散することによりコンテナ42の内部の雰囲気が汚染されることを防ぐために、結晶成長中は加熱空間16に窒素ガスをマスフローコントローラ25により所定流量となるように供給し続ける。この間、窒素導入パイプ24bはバルブ27により閉鎖する。なお、オーバーフローした窒素ガスは窒素排気パイプ48を介して大気へ放出される。
【0022】
以上詳述したように、本実施形態の結晶板製造装置10によれば、比抵抗の値が高く転位密度の低いZnドープGaN結晶板を得ることができる。また、育成容器50内の内容物を強制的に撹拌するため、Znが均一に分散しやすく、ZnドープGaN結晶が均質になりやすい。更に、上、中、下段ヒータ18a〜18cに加えて底部ヒータ18dを配置したため、加熱空間16のうち温度が不均一になりやすい底面付近も含めて全体を均一な温度に維持することができる。
【0023】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0024】
例えば、上述した実施形態では、揺動装置70により基台72に載置された耐圧容器12内の育成容器50中の融液を回転させたり対流させたりするようにしたが、揺動装置70の代わりに基台72を回転させる回転機構を採用して融液を回転させたり対流させたりするようにしてもよい。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
まず、直径2インチ、厚さ0.43mmのc面サファイア基板の表面に、550℃にてGaN低温バッファ層を70nm成膜し、その後、厚さ10μmのGaN薄膜を1050℃にて気相により成膜し、種結晶基板54として利用可能なGaNテンプレートを得た。次いで、このGaNテンプレート基板上に、フラックス法によってZnドープGaN単結晶を育成した。以下、図1〜図4を参照して具体的に説明する。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、内径φ70mmの育成容器50としてのアルミナ坩堝の中にトレー台56を置き、種結晶基板トレー52をトレー台56に立て掛けて角度が10°になるよう育成容器50の底面中央に斜めに置き、その種結晶基板トレー52の中央に種結晶基板54として先ほどのGaNテンプレートを配置した。そして、金属ナトリウム34g、金属ガリウム38g、炭素90mg、亜鉛175mgを育成容器50内に充填した。このときのNaに対するGaの割合は27mol%、Naに対する亜鉛の割合は0.18mol%、Gaに対する亜鉛の割合は0.49mol%、Naに対する炭素の割合は0.5mol%であった。亜鉛の原料は、直径1mmのワイヤー状のものを3mm程度の大きさに切断したものを適量用いた。この育成容器50を中間容器60に入れ、この中間容器60をコンテナ本体42aに入れてコンテナ蓋42bを閉じたあと、コンテナ42を耐圧容器12の容器本体12aに入れ、容器蓋12bを閉めて基台72の上に設置した。続いて、耐圧容器12の内部圧力を高真空状態とした後、真空引き配管28の図示しないバルブを閉じた。続いて、窒素ガスボンベ22から窒素導入パイプ24a,24bを介して耐圧容器12内及びコンテナ42内に窒素ガスを供給し、窒素ガス圧力を13.2MPaに調整した。また、コンテナ42の内部温度が870℃になるように各ヒータ18a〜18dの温度制御を行った。なお、温度が870℃、窒素ガス圧力が13.2MPaになるまで2時間かけて昇温加圧した。その後、4つのアクチュエータ78をそれぞれシーケンサを用いて制御することにより、耐圧容器12を水平方向に対して10°に傾けた状態で時計回りと反時計回りとを60秒周期で交互に切り替えることで、育成容器50内の溶液を攪拌しながら100時間保持することにより結晶成長させた。なお、耐圧容器12の回転速度は5rpmとした。その後、30時間かけて室温まで徐冷した。その後、耐圧容器12から育成容器50を取り出し、エタノールを用いて、フラックスを除去し、種結晶基板54上に成長したZnドープGaN結晶板を回収した。このZnドープGaN結晶板は、大きさはφ2インチであり、厚さは約1.0mmであり、焦げ茶色を呈していた(図5の透過顕微鏡像を参照)。このZnドープGaN結晶板を研磨し、ホール測定により室温における比抵抗を測定したところ、測定上限オーバーであった。このときの測定上限が104Ω・cmであったことから、それ以上の高抵抗であることがわかった。次に、サンプルの表裏にオーミック電極を形成し、2端子法により、室温における比抵抗を測定したところ、105Ω・cmであった。また、基板中央のXRC半値幅は(0002)反射が120秒(arcsec、以下同じ)、(10−12)反射が150秒であり、リン酸:硫酸=3:1の混合液を用いて250℃、140分エッチングしたときのエッチピット密度(EPD)は5×105/cm2であった。EPDの具体的な測定手順は、まず、微分干渉顕微鏡にて、400倍のレンズにて120×150ミクロンの視野を無作為に選び、5枚撮影した。次に、撮影した画像データから、100ミクロン角の領域で、ピットが何個あるかを数えた。例えば、ピットが10個あれば、EPDは1×105/cm2となる。画像の枚数が多いほど精度の高い値となるが、ここでは5枚の画像データの平均値をもってEPDとした。なお、ZnドープGaN結晶中には炭素はほとんど取り込まれず、SIMS分析で検出下限以下(約0.1ppm以下)であった。
【0026】
[実施例2]
亜鉛を310mgにした以外は実施例1と同様にZnドープGaN結晶の育成を行った。このときのNaに対する亜鉛の割合は0.32mol%、Gaに対する亜鉛の割合は0.87mol%であった。このZnドープGaN結晶板は、大きさがφ2インチであり、厚さが約1.2mmであり、実施例1よりも濃い焦げ茶色を呈していた。このZnドープGaN結晶板を研磨し、ホール測定により室温における比抵抗を測定したところ、測定上限オーバーであった。このときの測定上限が104Ω・cmであったことから、それ以上の高抵抗であることがわかった。次に、サンプルの表裏にオーミック電極を形成し、2端子法により室温における比抵抗を測定したところ、室温において、106Ω・cmであった。基板中央のXRC半値幅は(0002)反射が130秒、(10−12)反射が170秒であり、リン酸:硫酸=3:1の混合液を用いて250℃、140分エッチングしたときのEPDは7×105cm2であった。
[実施例3]
ガリウムを3g、ナトリウムを4.5g、炭素を10mg、亜鉛を5.7mg用い、育成容器50としてφ17mm×高さ50mmの円筒平底坩堝を用い、13mm×18mmのGaN自立基板(市販のハイドライド気相成長法(HVPE法)による)を斜めに配置(約70度)して、870℃、4.1MPaにて120時間保持したこと以外は実施例1と同様の結晶育成を行った。そうしたところ、種結晶基板上に焦げ茶色を呈したGaN結晶が約1mm成長した。このときのNaに対する亜鉛の割合は0.042mol%、Gaに対する亜鉛の割合は0.18mol%であった。種結晶基板を除去し、厚さ0.5mm、3〜5mm角の研磨したサンプルを切り出し、ホール測定にて室温における比抵抗を測定したところ、102Ω・cmであった。SIMS分析により亜鉛濃度を調べたところ、1.3×1018atoms/cm3であった。XRC半値幅は(0002)反射が100秒、(10−12)反射が120秒であった。リン酸:硫酸=3:1の混合液を用いて250度、140分エッチングしたときのEPDは1×105/cm2 であった。
【0027】
[実施例4]
亜鉛を25mg用いた以外は、実施例3と同様にしてZnドープGaN結晶板を作製した。実施例3と同様にして比抵抗、亜鉛濃度、XRC半値幅及びEPDを測定したところ、比抵抗は1×106Ω・cm、SIMS分析による亜鉛濃度は8×1018atoms/cm3、XRC半値幅は(0002)反射が150秒、(10−12)反射が180秒、EPDは7×105/cm2であった。
【0028】
[実施例5]
亜鉛を205mg用いた以外は、実施例3と同様にしてZnドープGaN結晶板を作製した。実施例1と同様にして亜鉛濃度、XRC半値幅及びEPDを測定したところ、SIMS分析による亜鉛濃度は1.8×1019atoms/cm3、XRC半値幅は(0002)反射が294秒、(10−12)反射が376秒(図6参照)、EPDは5×106/cm2であった。また、電圧と比抵抗との関係を図7に示す。図7からわかるように、比抵抗は、10〜20Vの低電圧領域では1×1010〜1×1012Ω・cmと非常に高い値であったが、100〜500Vの高電圧領域では1×108〜1×109Ω・cmになった。
【0029】
図8は、実施例3〜5の結果に基づいて作成したZn添加量とZnドープGaN中のZn濃度(Znドープ量)との関係を表すグラフである。このグラフからわかるように、Zn添加量が増加するにつれてZn濃度が増加した。図9は、実施例3〜5の結果に基づいて作成した比抵抗のZn濃度依存性のグラフである。このグラフからわかるように、Zn濃度が増加するにつれて比抵抗も増加した。なお、実施例3〜5の結果から、Zn濃度が増加するにつれて、XRC半値幅が広くなりEPDが大きくなることもわかった。
【0030】
[比較例1]
亜鉛を用いないこと以外は実施例1と同様にGaN結晶育成を行った。得られたGaN結晶の大きさはφ2インチであり、厚さは約1.0mmであり、無色透明であった。このGaN結晶板を研磨し、厚さ0.5mm、6mm角の研磨サンプルを切り出して、ホール測定により比抵抗を測定したところ、室温において0.2Ω・cmであった。残留キャリア濃度は4×1016/cm3、電子移動度は800cm2/V・secであった。基板中央のXRC半値幅は(0002)反射が80秒、(10−12)反射が100秒であり、リン酸:硫酸=3:1の混合液を用いて250℃、140分エッチングしたときのEPDは1×104/cm2 から5×105/cm2 の範囲であり、平均は2×105/cm2 であった。
【0031】
[比較例2]
炭素を用いないこと以外は実施例1と同様にGaN結晶育成を試みた。原料中のガリウムは全く窒化せず、GaN結晶は全く成長していなかった。
【0032】
[比較例3]
亜鉛を1mgにし、炭素を用いなかったこと以外は、実施例3と同様にGaN結晶育成を試みた。そうしたところ、種結晶基板上に無色透明のGaN結晶が約1mm成長した。種結晶基板を除去し、厚さ0.5mm、6mm角の研磨したサンプルを切り出し、オーミック電極を形成し、ホール測定にて室温における比抵抗を測定したところ、1.1Ω・cmであった。SIMS分析により、亜鉛濃度を調べたところ、3×1016atoms/cm3であった。XRC半値幅は(0002)反射が90秒、(10−12)反射が110秒であった。リン酸:硫酸=3:1の混合液を用いて250度、140分エッチングしたときのEPDは1×105/cm2であった。
【符号の説明】
【0033】
10 結晶板製造装置、12 耐圧容器、12a 容器本体、12b 容器蓋、14 ヒータカバー、16 加熱空間、18a 上段ヒータ、18b 中段ヒータ、18c 下段ヒータ、18d 底部ヒータ、20 ヒータ断熱材、22 窒素ガスボンベ、24a 窒素導入パイプ、24b 窒素導入パイプ、25 マスフローコントローラ、26 真空ポンプ、27 バルブ、28 真空引き配管、30 嵩上げ台、42 コンテナ、42a コンテナ本体、42b コンテナ蓋、48 窒素排気パイプ、49 バルブ、50 育成容器、52 種結晶基板トレー、54 種結晶基板、56 トレー台、60 中間容器、70 揺動装置、72 基台、73 柱、74 ブラケット、76 伸縮機構、77 シリンダ、78 アクチュエータ、80 可動シャフト、82 ユニバーサルジョイント、84 支持シャフト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比抵抗が1×102Ω・cm以上、3B族窒化物結晶中のZn濃度が1.0×1018atoms/cm3以上2×1019atoms/cm3以下、エッチピット密度が5×106/cm2以下である、Znドープ3B族窒化物結晶。
【請求項2】
前記3B窒化物は、窒化ガリウムである、
請求項1に記載のZnドープ3B族窒化物結晶。
【請求項3】
波長330〜385nmの光を照射したときに440〜470nmにピークを有するブロードな蛍光を発する、
請求項2に記載のZnドープ3B族窒化物結晶。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のZnドープ3B族窒化物結晶を利用した電子デバイス。
【請求項5】
種結晶基板を3B族金属、フラックス及び亜鉛を含む混合融液に浸漬して窒素ガスを含む加圧雰囲気下で加熱した状態で前記種結晶基板上にZnドープ3B族窒化物の結晶を成長させる方法であって、
前記混合融液として炭素が添加されたものを用い、該混合融液中の亜鉛濃度を3B族金属に対して0.04〜1.5mol%とする、
Znドープ3B族窒化物結晶の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−20896(P2011−20896A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167901(P2009−167901)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発−窒化物系化合物半導体基板・エピタキシャル成長技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(598058298)
【Fターム(参考)】