説明

インホイールモータ用吸振機

【課題】微少入力時においても、ダイナミックダンパの効果を損なうことないダンパを備えたインホイールモータ用吸振機を提供する。
【解決手段】インホイールモータ用吸振機20のダンパーとして、導体から成る板部材31と、この板部材31の両側に配置される、1対の永久磁石32a,32aとこの永久磁石32aの上記板部材31とは反対側の面に取付けられた軟磁性体から成るヨーク部材32b,32bとを備えた磁石ユニット32Uを複数段重ねて構成される磁界発生手段32と、上部及び下部取付部材33,34と、上記板部材31と上記永久磁石32aとの間に配置される、上記板部材31側が開放された箱状の収納部材35aに多数の球35bが収納されたころ部材35とを備えた磁気ダンパ装置30を用いるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を駆動するモータを車輌の足回り部品に対してフローティングマウントするためのインホイールモータ用吸振機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、足回りにバネ等のサスペンション機構を備えた車輌においては、、ホイールやナックル、サスペンションアームといったバネ下に相当する部品の質量、いわゆるバネ下質量が大きい程、凹凸路を走行したときにタイヤの接地力が変動し、ロードホールディング性が悪化する。しかしながら、従来は、上記駆動用モータが車輌の足回りを構成する部品の一つである、アップライトまたはナックルと呼ばれる部品に接続されているため、インホイールモータの搭載によりバネ下質量が増加してしまいロードホールディング性が悪化してしまうといった問題点があった。
そこで、インホイールモータを、緩衝機構または緩衝部材を介して、車輌バネ下部に配置されるナックル等の足回り部品に対して弾性支持することにより、上記モータを車輌の足回り部品(車輌バネ下部)に対してフローティングマウントする構成のインホイールモータシステムが提案されている。これにより、上記インホイールモータの質量を車輌バネ下部から切り離してダイナミックダンパの質量として作用させることができるので、悪路走行時における接地性能、及び、乗り心地性能をともに大幅に向上させることができる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
上記特許文献1〜3に用いられているインホイールモータは、径方向内側が開放された、モータロータが取付けられた回転側ケースと、このモータケースと同心円状に配置され、上記モータロータと所定の間隔を隔ててモータステータが取付けられた、径方向外側が開放された非回転側ケースとを軸受けを介して回転可能に連結した、中空形状のアウターロータ型の電気モータであるが、本出願人は、図5に示すような、インナーロータ型の電気モータ10を、インホイールモータ用吸振機20Aを用いて、車輌バネ下部品であるナックル5にフローティングマウントする構成のインホイールモータシステムについても提案している(特願2006−26385号)。
図6(a),(b)は、上記インナーロータ型の電気モータ(インホイールモータ)10を車輌バネ下部にフローティングマウントするための緩衝機構であるインホイールモータ用吸振機20Aの構成を示す図で、図7はこのインホイールモータ用吸振機20に用いられているバネ付き直動ガイド23の構成を示す図である。
このインホイールモータ用吸振機20Aは、車輪の非回転側の部材を支持するナックル5に取付けられるナックル側取付部材22と、直動ガイド23Aとバネ部材23Bとを備えたバネ付き直動ガイド23と、上記直動ガイド23Aのガイドシャフト23bの上端側と下端側とにそれぞれ連結される上下のガイド受け部材24,25と、上記上側のガイド受け部材24と上記モータケース10aの上面側とを連結する揺動防止部材26と、上記ガイドシャフト23bに平行に配置された、シリンダ27aと図示しないピストンとこのピストンに連結されたシリンダロット27bとを有するダンパ27とを備えており、上記ナックル側取付部材22は、上記直動ガイド23Aのガイドベアリング23aを固定するガイド固定部材22aと、このガイド固定部材22aと一体に構成された、上記バネ付き直動ガイド23を支持するガイド固定部材22aをナックル5に取付けるためのたナックル取付部材22bとから構成されている。なお、図5及び図6において、符号27,28は、上記直動ガイド23Aへの塵芥や泥水の侵入を防止するために、上記ガイド固定部材22aと上記下側ガイド受け部材25との間と、上記ガイド固定部材22aと上記上側ガイド受け部材24との間とに取付けられたジャバラ状のブーツ28,29である。
【0004】
上記インホイールモータ用吸振機20Aを用いてインホイールモータ10を車輌バネ下部に弾性支持する際には、モータ側取付部材21、ナックル側取付部材22、直動ガイドユニット23、上下のガイド受け部材24,25、揺動防止部材26、ダンパ27、及び、ジャバラ状のブーツ28,29を一体に組上げてユニット化した後に、ナックル取付部材22bをナックル5の上部側に、モータ側取付部材21をモータケース10aの側面側に、揺動防止部材26を上記モータケース10aの上側面側にそれぞれ取付ける。これにより、図5に示すように、インホイールモータ10を車輌バネ下部品であるナックル5に容易にフローティングマウントできる。
なお、図5において、符号1はタイヤ、符号3はストラットで、上記インホイールモータ10の出力軸とホイール2とは、図示しないフレキシブルカップリングにより連結されている。
【特許文献1】WO 02/083446 A1
【特許文献2】特開2005−126037号公報
【特許文献3】特開2005−225486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のインホイールモータ用吸振機20Aでは、ダンパ27として、オイルダンパが用いられている。オイルダンパは小型コンパクトで、エネルギー吸収量も大きくとれるだけでなく、減衰特性も、速度比例、速度2乗比例など様々に変化させることができるという利点を有するが、エネルギー吸収に液体(オイル)を使用しているため、シールが必須となっている。したがって、シールに起因する摩擦を完全になくすことができず、そのため、微少入力時にダイナミックダンパの効果が低下する恐れがあった。
【0006】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、微少入力時においても、ダイナミックダンパの効果を損なうことないダンパを備えたインホイールモータ用吸振機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に記載の発明は、車輪を駆動するモータを車輌バネ下部にフローティングマウントするための、弾性部材、ダンパ、及び、上記弾性部材とダンパの作動方向を案内する直動ガイドとを備えたインホイールモータ用吸振機において、上記ダンパとして、導体から成る、上記直動ガイドの案内方向に延長する板部材と、この板部材の両側に上記板部材と所定の距離離隔して配置された磁石とを備えた磁気ダンパを用いたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインホイールモータ用吸振機において、上記板部材と上記磁石との間に、上記板部材を上記直動ガイドの案内方向に案内するガイド部材を配設したものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のインホイールモータ用吸振機において、上記磁石を、上記板部材の両側に配置された複数の磁石対から構成したものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のインホイールモータ用吸振機において、上記磁石もしくは磁石対を電磁石から構成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車輪を駆動するモータを車輌バネ下部にフローティングマウントするためのインホイールモータ用吸振機に用いられるダンパとして、導体から成る、上記直動ガイドの案内方向に延長する板部材と、この板部材の両側に上記板部材と所定の距離離隔して配置された磁石とを備えた磁気ダンパを用いたので、微少入力時においても、インホイールモータのダイナミックダンパ効果を更に安定して発揮させることができる。
このとき、上記板部材と上記磁石との間に、上記板部材を上記直動ガイドの案内方向に案内するガイド部材を配設すれば、ダンパの作動時において、上記板部材と上記磁石との距離が一定になるので、上記ダンパの動作を更に安定させることができる。
また、上記磁石を、上記板部材の両側に配置された複数の磁石対から構成して、磁石対の数を変更可能としておけば、当該ダンパの減衰特性を容易に変更することができる。
また、上記磁石もしくは磁石対を電磁石から構成すれば、上記板材に印加する磁界の大きさを更に容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の最良の形態について、図面に基づき説明する。
なお、以下の説明中、従来例と共通する部分については同一符号を用い、その詳細な説明を省略する。
図1は本最良の形態に係るインホイールモータシステムの緩衝装置として用いられるインホイールモータ用吸振機(以下、吸振機という)20の構成を示す図で、同図において、21はモータ側取付部材、22はガイド固定部材22aとナックル取付部材22bとを一体に構成したナックル側取付部材、23は直動ガイド23Aとバネ部材23Bとを備えたバネ付き直動ガイド、24,25は上下のガイド受け部材、26は揺動防止部材、30は本発明による磁気ダンパ装置である。
磁気ダンパ装置30は、図2に示すように、上記直動ガイド23Aの案内方向に延長する導体から成る板部材31と、この板部材31の両側に上記板部材31と所定の距離離隔して配置され、上記板部材31の厚み方向に直交する方向に静磁界を発生させる磁界発生手段32と、上記板部材31の上端部を上記ガイド固定部材22aに設けられたダンパ取付け部22dに取付けるための上部取付部材33と、上記磁界発生手段32を上記モータ側取付部材21の中央の脚部21dに取付けるための下部取付部材34と、上記板部材31と上記磁界発生手段32との間に設けられ、上記板部材31に当接する多数の球を有するころ部材35とを備えている。
磁界発生手段32は、上記板部材31の両側に配置される1対の永久磁石32a,32aとこの永久磁石32aの上記板部材31とは反対側の面に取付けられた鉄やケイ素鋼板などの軟磁性体から成るヨーク部材32b,32bとを備えた磁石ユニット32Uを複数段重ねたもので、上記ヨーク部材32bは上記永久磁石32aとともに磁気回路を形成し、上記永久磁石32aの漏れ磁界を少なくして、上記板部材31に効率よく磁界を印加するよう機能する。
上記板部材31の材料としては、アルミニウム、鉄、鋼などの導体が用いられる。また、上記永久磁石32aとしては、ネオジウム磁石などの永久磁石が用いられる。なお、永久磁石としては、バリウムフェライトなどのフェライト磁石を用いてもよいが、ネオジウム磁石などの飽和磁束密度の高い希土類磁石を用いる方が効率がよい。
また、ころ部材35は、上記磁界発生手段32の永久磁石32a側に配置される、上記永久磁石32a側が開放された箱状の収納部材35aに多数の球35bを収納したもので、上記収納部材35aの裏面側が永久磁石32aに当接し、上記球35bが上記板部材31に当接するように構成されている。これにより、上記ころ部材35は上記板部材31と上記磁界発生手段32との距離を一定に保持するスペーサの機能と、上記板部材31を上記直動ガイド23Aの案内方向に案内するガイド部材の機能とを有することになる。
【0010】
磁気ダンパは、磁界中に導体を通過させ、上記導体内に渦電流を発生させることにより、上記導体の運動を減衰させるようにしたもので、上記渦電流が上記導体の電気抵抗によって熱エネルギーに変換されて消費されることにより、上記導体の運動エネルギーの一部が吸収される。すなわち、上記導体Aは、運動速度の方向と逆向きの力(制動力)を受けてその運動が減衰する。具体的には、図3に示すように、導体Aが磁束密度B[T]の磁界中を磁界方向と直交する方向に移動する場合を考えると、上記導体Aの厚みをt[m]、導体の固有抵抗をρ[Ωm]、磁界の断面積をαβ[m2]とすると、磁気ダンパの減衰定数Cは以下の式(1)のようになる。
C=KαβtB2/ρ‥‥(1)
ここで、Kは導体面積と磁界面積との比で決まる定数で、導体面積/磁界面積≪1である場合には、0.5となる。
一方、導体が磁界中を通過するときの速度をvとすると、上記導体に働く減衰力Dは、D=Cvとなる。このように、磁気ダンパは速度の1乗に比例する。
図4は、本発明による磁気ダンパ装置30を搭載したインホイールモータ用吸振機20を用いて、インホイールモータ10を車輌バネ下部材であるナックル5にフローティングマウントした図で、車輌の凹凸路走行時において、インホイールモータ10がナックル5に対して上下方向に揺動した場合、それに伴って、磁気ダンパ装置30の板部材31は上記磁界発生手段32の永久磁石32aの作る磁界中を上下方向に移動するが、このとき、上記板部材31は、制動力を受けてその運動が減衰する。本例の磁気ダンパ装置30では、上記板部材31が、ころ部材35によりその移動方向が上記直動ガイド23Aの案内方向になるようにガイドされるとともに、上記板部材31と上記磁界発生手段32との距離が一定に保持されるように構成されているので、上記上記板部材31は一様な磁界中を運動することになるので、その減衰効果を確実に発揮することができる。
また、上記磁気ダンパ装置30は、オイルダンパとは異なり、移動時の摩擦がないので、微少入力時においても、ダイナミックダンパの効果を損なうことないので、インホイールモータのダイナミックダンパ効果を安定して発揮させることができる。
【0011】
以下に、上記磁石ユニット32Uが1個である場合のダンパ計算の一例を示す。
磁石としてネオジウム磁石を使用した場合、磁界の強さはB=0.5[T]である。ここで、K=0.5と仮定し、永久磁石32a寸法αとβを、それぞれ0.12[m]、0.06[m]とし、導体である板部材31厚みをt=0.06[m]、材質をアルミニウム(固有抵抗ρ=2.5×10-8[Ωm])とすると、上記磁気ダンパの減衰定数はC=310[Ns/m]となる。したがって、上記図2のように、磁石ユニット32Uを6個重ねた磁気ダンパ装置30では、減衰定数はC=1860[Ns/m]となる。したがって、可動質量を30kg、フローティングの固有振動数を7Hzとすれば、このダンパユニット1本で臨界減衰比は10%となる。
本例では、このように、上記磁界発生手段32を複数個の磁石ユニット32Uから構成しているので、上記磁石ユニット32Uの個数を変更するだけで、磁気ダンパ装置30の減衰定数を変更することが可能となる。したがって、実車の走行試験時等において、減衰定数が変化した場合の車輌への影響を確認するためもチューニングも容易に行うことができる。
【0012】
このように、本最良の形態によれば、インホイールモータ用吸振機20のダンパーとして、導体から成る板部材31と、この板部材31の両側に配置され、上記板部材31の厚み方向に直交する方向に静磁界を発生させるる磁界発生手段32と、上部及び下部取付部材33,34と、上記板部材31と上記磁界発生手段32との間に配置される、上記板部材31に当接する多数の球を有するころ部材35とを備えた磁気ダンパ装置30を用いるようにしたので、微少入力時においても、インホイールモータのダイナミックダンパ効果を安定して発揮させることができる。
このとき、上記磁界発生手段32を、1対の永久磁石32a,32aとこの永久磁石32aの上記板部材31とは反対側の面に取付けられた軟磁性体から成るヨーク部材32b,32bとを備えた磁石ユニット32Uを複数段重ねた構成とすれば、上記磁石ユニット32Uの個数を変更するだけで、磁気ダンパ装置30の減衰定数を容易に変更することができる。
【0013】
なお、上記最良の形態では、上記板部材31をナックル5側に取付け、磁界発生手段32をインホイールモータ10側に取付けた構造としたが、上記板部材31をインホイールモータ10側に取付け、磁界発生手段32をナックル5側に取付けるようにしてもよい。
また、上記例では、磁界発生手段32として永久磁石32aを用いたが、電磁石を用いてもよい。これにより、チューニングを更に容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、インホイールモータ用吸振機のダンパーとして磁気ダンパを用いたので、微少入力時においても、インホイールモータのダイナミックダンパ効果を更に安定して発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の最良の形態に係るインホイールモータ用吸振機の構成を示す図である。
【図2】本発明による磁気ダンパの構成を示す図である。
【図3】磁気ダンパの減衰係数の試算方法を説明するための図である。
【図4】本発明のインホイールモータ用吸振機を搭載したインホイールモータシステムの構成を示す図である。
【図5】従来のインホイールモータ用吸振機を搭載したインホイールモータシステムの構成を示す図である。
【図6】従来のインホイールモータ用吸振機の構成を示す図である。
【図7】バネ付き直動ガイドの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
20 インホイールモータ用吸振機、21 モータ側取付部材、22 ナックル側取付部材、22a ガイド固定部材、22b ナックル取付部材、
23 バネ付き直動ガイド、23A 直動ガイド、23B バネ部材、
24,25 ガイド受け部材、26 揺動防止部材、28,29 ジャバラ状のブーツ、
30 磁気ダンパ装置、31 板部材、32 磁界発生手段、32a 永久磁石、
32b ヨーク部材、32U 磁石ユニット、33 上部取付部材、
34 下部取付部材、35 ころ部材、35a 収納部材、35b 球。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するモータを車輌バネ下部にフローティングマウントするための、弾性部材、ダンパ、及び、上記弾性部材とダンパの作動方向を案内する直動ガイドとを備えた吸振機であって、上記ダンパが、導体から成る、上記直動ガイドの案内方向に延長する板部材と、この板部材の両側に上記板部材と所定の距離離隔して配置された磁石とを備えた磁気ダンパであることを特徴とするインホイールモータ用吸振機。
【請求項2】
上記板部材と上記磁石との間に、上記板部材を上記直動ガイドの案内方向に案内するガイド部材を配設したことを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータ用吸振機。
【請求項3】
上記磁石を、上記板部材の両側に配置された複数の磁石対から構成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインホイールモータ用吸振機。
【請求項4】
上記磁石もしくは磁石対を電磁石から構成したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のインホイールモータ用吸振機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−185184(P2008−185184A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21091(P2007−21091)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】