説明

エピタキシャルシリコンウェハの製造方法及び基板洗浄装置

【課題】ゲッタリング能力を向上させることができ、かつ基板表面にエピタキシャル層を形成しても、積層欠陥が生じることを防止することのできるエピタキシャルシリコンウェハの製造方法を提供すること。
【解決手段】チョクラルスキー法により製造され、窒素をドープして引き上げられたシリコン単結晶を切り出して得られる基板上に、エピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェハの製造方法は、基板表面に基板洗浄装置1のバブリングタンク11で気化させたフッ酸を噴射して、該基板Wの表面を洗浄するフッ酸洗浄工程と、洗浄された基板Wの表面上にエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルシリコンウェハの製造方法及び基板洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコン単結晶の基板と、この基板表面に形成されたエピタキシャル層とを有するエピタキシャルシリコンウェハが知られている。
このようなエピタキシャルシリコンウェハのエピタキシャル層の金属不純物による汚染は、デバイス特性を悪化させるため、エピタキシャル層の金属不純物の汚染をゲッタリングにより排除することが行なわれている。
このゲッタリング能力を向上させる方法としては、結晶引き上げ中に窒素を添加してバルク内部に酸素析出核を形成させ、この酸素析出核内に金属不純物を捕捉し、金属不純物を除去するのである。
【0003】
このような窒素をドープした基板表面には、微小欠陥であるCOP(Crystal Originated Particle)が存在するが、このCOP内壁は酸化膜・窒化膜で覆われていることが知られている。
この状態で基板表面にさらにエピタキシャル層を形成した場合、COP内壁の酸化膜・窒化膜により積層欠陥(SF:Stacking Fault)が発生し、エピタキシャルウェハ表面の欠陥となることが判っている。
このため、従来、エピタキシャル層を形成する前に、基板をフッ酸溶液中に浸漬したり、表面をフッ酸溶液で洗浄するという技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、エピタキシャル層を形成する前に、基板をプレアニールするという技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−20200号公報
【特許文献2】特開2003−73191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1のようなフッ酸洗浄では、COP内壁の酸化膜・窒化膜を十分に除去することができないため、洗浄時間が長くかかるという問題がある。
また、フッ酸洗浄水中の貴金属イオンを十分に抑制しておかないと、貴金属イオンとシリコンの電荷優劣の影響により表面欠陥が発生するという問題がある。
さらに、前記特許文献2のようなエピタキシャル層形成前にプレアニールする方法によっても、一定の効果が得られるのだが、熱処理により表面に形成される析出物により再度欠陥が発生するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、ゲッタリング能力を向上させることができ、かつ基板表面にエピタキシャル層を形成しても、積層欠陥が生じることを防止することのできるエピタキシャルシリコンウェハの製造方法、及び基板洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、窒素ドープした基板表面のCOPが、図1の写真に示されるように、幅狭の溝条の形状をなし、フッ酸洗浄液が溝内に入りにくく、洗浄性が悪いため、COP内壁の酸化膜・窒化膜が十分に除去できないという知見に基づいて案出されたものである。
具体的には、本発明に係るエピタキシャルシリコンウェハの製造方法は、
チョクラルスキー法により製造され、窒素をドープして引き上げられたシリコン単結晶を切り出して得られる基板上に、エピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェハの製造方法であって、
前記基板表面に気化させたフッ酸を噴射して、該基板表面を洗浄するフッ酸洗浄工程と、
洗浄された前記基板表面上にエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程とを備えていることを特徴とする。
【0008】
以上において、前記フッ酸洗浄工程は、
タンク内に濃度調整されたフッ酸溶液を導入し、不活性なガスを導入してバブリングさせることにより、該フッ酸を気化させて加圧してフッ酸を噴射するのが好ましい。
ここで、不活性なガスは、アルゴン(Ar)等の不活性ガス(希ガス)のみを意味するのではなく、フッ酸と反応しないものであれば種々のものを採用することができ、好適には、窒素を採用することができる。
また、不活性なガスの温度としては、10℃以上、100℃以下が好ましい。
100℃を超えると、基板表面がエッチングされる可能性があるからである。一方、不活性なガスの温度の下限値は、フッ散水溶液の凝固点よりも高く、フッ酸水溶液が凝固しない温度であれば、特に制限はないが、生産性、製造コスト等の関係から常温に近い10℃以上であるのが好ましい。
さらに、バブリングとは、フッ酸水溶液中で不活性なガスを放出して多数の気泡を形成することをいい、例えば、フッ散水溶液中にメンブレンフィルタ等の多孔質材料を配置し、メンブレンフィルタ内部に不活性なガスを放出することにより、多数の細かな気泡を形成することができる。
【0009】
この発明によれば、気化させたフッ酸を基板表面に噴射することにより、図1のような幅狭の溝条のCOP内壁に気化させたフッ酸を十分に行き渡らせることができるため、COP内壁に生成した酸化膜・窒化膜を効率的に洗浄することができる。
また、フッ酸を気化させた状態で洗浄を行うことにより、フッ酸水溶液中に貴金属イオンが存在しても、この貴金属イオンが気化することがないため、基板表面が貴金属イオンによって汚染されることがなく、これによる表面欠陥の発生を防止することができる。
【0010】
本発明に係る基板洗浄装置は、前記のエピタキシャルシリコンウェハの製造方法に好適に用いることができるものであり、具体的には、
シリコンウェハの基板表面をフッ酸洗浄する基板洗浄装置であって、
内部にメンブレンフィルタが設けられ、該メンブレンフィルタ内部に不活性ガスが導入され、フッ酸水溶液中のフッ酸を気化させるバブリングタンクと、
気化されたフッ酸を加圧する加圧タンクと、
前記シリコンウェハ基板の表面に、気化されたフッ酸を噴射するノズルとを備えていることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図2には、本発明の実施形態に係るシリコンウェハの基板洗浄装置1が示されている。この基板洗浄装置1は、ニードル弁2、圧力レギュレータ3、MFC(Mass Flow Controller)4、ガス昇温器5、流量計6、圧力センサ7、精製フィルタ8、エアオペレータバルブ9、逆止弁10、バブリングタンク11、加圧タンク12、及び枚葉スピン洗浄装置13を備えている。
【0012】
MFC4は、不活性なガスである窒素の流量を制御する流量制御弁であり、ガス昇温器5は、バブリングタンク11に供給する窒素の温度を10℃〜100℃に調整する装置である。
流量計6及び圧力センサ7は、バブリングタンク11に供給する窒素の流量及び圧力を検出し、検出された流量及び圧力に基づいて、MFC4により窒素の流量制御を行う。
精製フィルタ8は、窒素中の塵埃を捕捉して清浄な窒素を、バブリングタンク11に供給するために設けられている。
【0013】
バブリングタンク11は、内部にメンブレンフィルタ14を配置した密閉タンクとして構成され、バブリングタンク11内部には、純水によって濃度調整されたフッ酸水溶液が導入されるとともに、メンブレンフィルタ14の内部には、ガス昇温器5によって温度調整された窒素が供給される。
このバブリングタンク11の内部に温度調整された窒素が供給されると、メンブレンフィルタ14から気泡が多数発生し、これに伴い、フッ酸水溶液中のフッ酸が気化し、気化したフッ酸は加圧タンク12に供給される。
【0014】
加圧タンク12は、バブリングタンク11で気化したフッ酸を貯留するタンクであり、同時に気水分離も行っている。尚、この加圧タンク12には、液面センサ15が設けられており、この液面センサ15の検出値に基づいて、バブリングタンク11へのフッ酸水溶液の供給量の制御を行っており、液面センサ15がHighのレベルになったら、エアオペレータバルブ9を開閉して酸を排出し、液面センサ15がLowのレベルになったら、フッ酸及び純水を供給する。この加圧タンク12には、配管部材及びエアオペレータバルブ9を介してノズル16が接続されている。
【0015】
ノズル16は、ウェハ基板Wの表面にバブリングタンク11で気化されたフッ酸を噴射するものである。このノズル16は、噴射口が旋回自在になっていて、フッ酸を噴射する際には、ウェハ基板Wの表面上に均一に気化されたフッ酸を噴射できるようになっている。
枚葉スピン洗浄装置13は、ウェハ基板Wが載置される載置台と、この載置台を回転駆動する駆動手段とを備えて構成され、ウェハ基板Wを載置して載置台を回転させることにより、ウェハ基板Wの表面に供給された洗浄剤を遠心力によって外周に飛散させる。
【0016】
次に、前述した基板洗浄装置1を用いてエピタキシャルシリコンウェハを製造する手順について説明する。
まず、チョクラルスキー法による引き上げに際し、チャンバ内に窒素を供給してシリコン単結晶のインゴットを製造する。
シリコン単結晶の引き上げ後、ワイヤソーでウェハ基板Wの切り出しを行った後、ウェハ基板Wの表裏面のラッピングを行う。
続けてウェハ基板Wのエッチングを行った後、両面研磨を行い、さらに表面の研磨を行う。
【0017】
ウェハ基板Wの研磨が終了したら、前記の基板洗浄装置1を用いて、ウェハ基板Wの洗浄を行う。洗浄に際しては、バブリングタンク11内部にフッ酸水溶液を濃度調整した状態で導入し、メンブレンフィルタ14内部にガス昇温器5で温度調整した窒素を導入し、バブリングタンク11内に気泡を多数発生させる。そうすると、フッ酸水溶液中のフッ酸が気泡とともに気化され、気化されたフッ酸は、加圧タンク12中に蓄積される。
【0018】
エアオペレータバルブ9の開度を調整してノズル16から気化されたフッ酸を噴射し、ウェハ基板Wの表面をフッ酸洗浄する。洗浄に際しては、枚葉スピン洗浄装置13を回転させつつ、ノズル16を旋回させウェハ基板Wの表面を均一にまんべんなく洗浄する。尚、フッ酸洗浄は、例えば、フッ酸濃度10質量%、25℃のガスを2min吹き付けることにより行う。
このような気化させたフッ酸により洗浄を行うことにより、図3に示されるように、ウェハ基板Wの表面に形成された溝条のCOPの内壁を覆う酸化膜・窒化膜が、効率的に除去される。
そして、フッ酸洗浄の後、ウェハ基板Wの表面にエピタキシャル層Epiを形成する。
エピタキシャル層Epiの形成に際しては、まず、水素存在下で熱処理を行ってCOPを完全にシュリンクさせ(HBake処理)、その後、通常のエピタキシャル層成長装置を用いてエピタキシャル層Epiを形成する。エピタキシャル層Epiの形成方法は、特に制限はなく、水素還元法、熱分解法、有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシャル法(MBE法)等種々の方法を採用することができる。
このようにウェハ基板Wの表面をフッ酸洗浄すると、ウェハ基板Wの表面に形成されたCOP内部の酸化膜・窒化膜が十分に除去されているため、積層欠陥が発生することがなく、エピタキシャルシリコンウェハ基板の製造歩留まりを大幅に向上させることができる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明の実施例について説明する。
前述した洗浄装置1により表面を洗浄したウェハ基板W上にエピタキシャル層Epiを形成し(実施例1)、積層欠陥の発生状況を、パーティクルカウンタを用いて測定した。洗浄条件は、フッ酸濃度10質量%、25℃のガスを2min吹き付けた。
効果の確認として、フッ酸洗浄を行わなかったものと(比較例1)、フッ酸水溶液中にウェハ基板Wを浸漬したものと(比較例2)、枚葉スピン洗浄装置を用いてフッ酸水溶液で洗浄したものと(比較例3)を用い、その表面にエピタキシャル層を形成したものについて、同様にパーティクルカウンタを用いて積層欠陥の発生状況を測定した。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から判るように、実施例1は、フッ酸洗浄を行わない比較例1と比較して積層欠陥の数が大幅に低減していることが確認された。また、フッ酸水溶液中に浸漬した比較例2及びフッ酸水溶液でスピン洗浄した比較例3と比較しても、積層欠陥の発生数が大幅に少なくなっており、本発明のエピタキシャルシリコンウェハの製造方法を採用することにより積層欠陥の発生を抑えることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の半導体ウェハ表面に形成されたCOPを表す写真。
【図2】本発明の実施形態に係る基板洗浄装置の構造を表す模式図。
【図3】本発明の実施形態の作用を説明する模式図。
【符号の説明】
【0023】
1…基板洗浄装置、2…ニードル弁、3…圧力レギュレータ、5…ガス昇温器、6…流量計、7…圧力センサ、8…精製フィルタ、9…エアオペレータバルブ、10…逆止弁、11…バブリングタンク、12…加圧タンク、13…枚葉スピン洗浄装置、14…メンブレンフィルタ、15…液面センサ、16…ノズル、Epi…エピタキシャル層、W…ウェハ基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により製造され、窒素をドープして引き上げられたシリコン単結晶を切り出して得られる基板上に、エピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェハの製造方法であって、
前記基板表面に気化させたフッ酸を噴射して、該基板表面を洗浄するフッ酸洗浄工程と、
洗浄された前記基板表面上にエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程とを備えていることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェハの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエピタキシャルシリコンウェハの製造方法において、
前記フッ酸洗浄工程は、
タンク内に濃度調整されたフッ酸溶液を導入し、不活性なガスを導入してバブリングさせることにより、該フッ酸を気化させて加圧してフッ酸を噴射することを特徴とするエピタキシャルシリコンウェハの製造方法。
【請求項3】
シリコンウェハの基板表面をフッ酸洗浄する基板洗浄装置であって、
内部にメンブレンフィルタが設けられ、該メンブレンフィルタ内部に不活性ガスが導入され、フッ酸水溶液中のフッ酸を気化させるバブリングタンクと、
気化されたフッ酸を加圧する加圧タンクと、
前記シリコンウェハ基板の表面に、気化されたフッ酸を噴射するノズルとを備えていることを特徴とする基板洗浄装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−311568(P2008−311568A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160100(P2007−160100)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000184713)SUMCO TECHXIV株式会社 (265)
【Fターム(参考)】