説明

センサー素子

【課題】この発明は、段差などを設けて勘合部保護を行い、気密封止性能が得られるセンサー素子を提供するものである。
【解決手段】主面上にダイヤフラムが構成される第1の基材と、前記第1の基材の反ダイヤフラム面側に配設される第2の基材と、前記第1の基材の前記ダイヤフラム直下に設けられるキャビティと、前記キャビティを気密封止するため前記第1の基材と前記第2の基材との接合位置に設けられる勘合部と、前記勘合部に設けられ、前記第1の基材と前記第2の基材との勘合状態を保護する段差部とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば半導体やMEMS(Micro−Electro−Mechanical System:以下MEMSと称す)技術を用いて得られるセンサー素子に関す
るものである。
【背景技術】
【0002】
近年のセンサーデバイスは半導体やMEMS技術を応用した微細加工や手法が取り入れられ、より繊細で複雑な構造を有する傾向にある。このセンサーデバイスのうち薄膜中空構造体を有するセンサー素子として、例えば圧力センサー、超音波センサー、流量センサーなどがある。
【0003】
これらのセンサー素子はウェハから設けられ、例えば素子背面からのICP−RIE(inductively coupled plasma - reactive ion etching:以下ICP-RIEと称す)を用いた深堀エッチングやKOH(水酸化カリウム)、TMAH(テトラ・メチル・アンモニウム・ハイドロオキサイド:以下TMAHと称す)薬液によるウェットエッチングによって配線や回路などのウェハ主面上直下にキャビティを設けたものである。例えば圧力センサーの場合には、薄膜応力制御によって検知部がキャビティ上に支持されたダイヤフラムが設けられる。
【0004】
また、圧力センサーには静電容量変化を電気信号に変換して検知する静電容量型とピエゾ抵抗型などがある。ピエゾ抵抗型は、ダイヤフラム内に複数のピエゾ抵抗からなるホイートストンブリッジ回路が形成される。このピエゾ抵抗型の圧力センサーは外圧によって起きるピエゾ抵抗の抵抗変化を電気信号に変換して検知する機能をセンサーに用いたものである。なお、ピエゾ抵抗型圧力センサーには、差圧センサーとキャビティを台座で気密封止して絶対圧を測定する絶対圧センサーがある。
【0005】
次に、従来の絶対圧のセンサー素子100構造について図7を用いて説明する。まず、図7(I)は従来のセンサー素子100を上面から見た構造平面図である。
【0006】
センサー素子100はピエゾ抵抗4と端子パッド7並びにそれらに接続される配線5や絶縁膜6などから構成される。また、図中の点線はダイヤフラム9位置を示している。また、図に設けられた4つのピエゾ抵抗4は全てダイヤフラム9内に形成される。
【0007】
更に、このダイヤフラム9直下にはキャビティ8aが形成されており、このキャビティ8aは真空で気密封止される。なお、16はSOI(Silicon on Insulator:以下SOIと称す)ウェハ10の背面側に出来たスクラッチであり、キャビティ8aからセンサー素子100の切断面までに達する。17はSOIウェハ10背面に残る付着異物である。なお、このセンサー素子100構造平面図はダイサー切断などによって切断、分離された形状を示している。
【0008】
次に、図7(II)は図7(I)の構造平面図に記す一点鎖線のA−A’部を切断して得
られるセンサー素子100構造の仮想断面構造図である。センサー素子100は、SOIウェハ10に対してもう一方のガラスウェハからなる台座11が貼り合わさって内部にキャビティ8aを備える構造を有している。13は勘合部である。
【0009】
次に、SOIウェハ10の主面上にはダイヤフラム9上に設けられたピエゾ抵抗4や配線5からなるホイートストンブリッジ回路が形成される。このホイートストンブリッジ回
路は絶縁膜6で被覆される。なお、スクラッチ16による隙間はSOIウェハ10背面側の勘合部13に出来たスクラッチを模している。
【0010】
続いて、図7(III)の仮想断面構造図について説明を行う。この断面構造図は図7(II)と同じく図7(I)の構造平面図に記す一点鎖線のB−B’部を切断して得られるセンサー素子100構造の断面構造を示している。17は勘合部13に出来た付着異物を模している。また、図では付着異物17が段差となって勘合部13が浮き上がる状態をイメージしている。
【0011】
次に、従来のセンサー素子100構造を得るための工程について図8のフロー図に添って番号順に説明を行う。図8は図7(I)の構造平面図に記す一点鎖線のC−C’部を切
断して得られるセンサー素子100構造の仮想断面構造の工程フロー図を示している。
【0012】
まず、この工程フロー図の10はSOIウェハであり、主面上側の面方位が(100)でシリコンなどから構成されるn型の活性層1、埋め込み酸化膜2、背面側の支持基板3から構成される特殊なウェハである。このSOIウェハ10は例えばSmart Cut技術であ
るUNIBONDやSIMOX(Separation by Implanted Oxygen)などによって製
造される。図8(1)では、SOIウェハ10上に不純物拡散法やイオン注入法により形成されたピエゾ抵抗4、端子パッド7が図示された位置に形成される。
【0013】
次に、SOIウェハ10の主面上を絶縁膜6で被覆する(図8(2))。なお、絶縁膜6はスパッタリングや化学的気相成長法(Chemical Vaor Deposition:以下CVDと称す)などの手法を用いてSOIウェハ10の主面上全面を覆う。この絶縁膜6で被覆する工程では端子パッド7上も覆ってしまうため、端子パッド7を開口するためのエッチング処理が必要となる。まず、端子パッド7の開口部を除く領域にレジストマスクを設けた後、例えばフッ素系ガスと酸素(O)の混合ガスを用いたドライエッチングで不要となる端子パッド7上の絶縁膜6の除去を行う。この工程を行うことで図8(2)の構造断面図が得られる。
【0014】
図8(3)以降は、SOIウェハ10の背面側処理が主体で処理される。図8(3)ではSOIウェハ10両面をマスクで覆うための処理を行う。まず、SOIウェハ10の主面上に保護マスク14を形成する。保護マスク14は主面保護を目的としているので、例えばレジストの全面ベタ塗りでも構わない。
【0015】
次に、SOIウェハ10の背面にキャビティ8a形成のための裏面マスク15のパターニングをレジストなどの感光剤にて行う。先ずレジスト塗布を行う。次に主面上のアライメントマークを利用して両面アライナーなどの設備でマスクとの重ね合わせ露光を行い、最後に現像液で現像処理することで図の開口部12のパターンを得る。
【0016】
次に、図8(4)ではSOIウェハ10の背面側よりICP−RIEを用いた深堀エッチングが行われる。このエッチングを行うことでダイヤフラム9直下にはキャビティ8aが形成される。なお、裏面マスク15は図示されているようにICP−RIEエッチング処理でプラズマに長時間晒されることで元の膜厚よりも薄くなる。このため裏面マスク15に選択される材料はシリコンとのエッチング選択比が求められ、支持基板3から埋め込み酸化膜2に達するまで掘り下げて行く過程で無くならない量の裏面マスク15膜厚若しくは材質選定が重要となる。
【0017】
次に、図8(5)ではSOIウェハ10両面に覆われた保護マスク14と裏面マスク15を酸素ガスを用いたプラズマアッシング装置やレジスト剥離液などの処理法を用いて除去する。以上の処理を経てSOIウェハ10背面の工程処理が完了する。最後に、図8(
6)で台座11との接合を行うことで従来のセンサー素子100構造が得られる。
【0018】
なお、図8(6)の13は勘合部を示している。図のようにSOIウェハ10背面のキャビティ8a以外は全て勘合部13として利用される。なお、特開2008−190970号公報ではでSOIウェハ10を用いたピエゾ抵抗型の圧力センサー素子工程が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2008−190970号公報
【特許文献2】特開2008−88017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述した従来のセンサー素子において、図8に示す断面構造の工程フロー図では、図8(3)の工程でSOIウェハ10の主面上に保護マスク14が設けられる。この段階ではSOIウェハ10背面は何も保護されておらず、工程処理に関わる設備に備えられる搬送系との接触が不可避となる。例えば、バキュームチャック接触によるスクラッチ16の発生や搬送ベルト、搬送ビームなどに残る付着異物17などがSOIウェハ10背面側に転写されて付着する。既存の半導体設備を流用してセンサー素子100の工程処理を行う場合を例として挙げると、従来からある半導体設備は片面プロセスが主流であったため、搬送ロボットなどで接触するウェハ背面側へのスクラッチ16などの傷や付着異物17による汚れはあまりケアされていない。
【0021】
図9にコーターデベロッパーにおける付着異物17とスクラッチ16の発生の一例を示す。図9(1)はコーターデベロッパーのコーターカップ28にSOIウェハ10が搬送されて回転している構造をイメージした図である。以下、レジスト塗布工程を例に挙げて説明を行う。まず、コーターデベロッパーには、受入、搬出のためのカセットキャリアがそれぞれ設けられ、移送にはゴムベルトなどの搬送ベルトやメタル材で出来た搬送ビームが用いられる。例えば搬出先のカセットキャリアから出たSOIウェハ10は図のコーターカップ28上に到着して、バキュームチャック29が上昇することで接触と吸着が行われる。このバキュームチャック29は例えばテフロン(登録商標)に吸引用の溝加工が施された3インチΦサイズのものである。
【0022】
次に、バキュームチャック29が図の位置に下降移動したのち、ノズル27を介してレジスト塗布が行われる。SOIウェハ10は高速回転により余分なレジストを飛ばしたのちに、ウェハ回転停止と吸着解除が行われてホットプレートが設けられた別の場所へ搬送ベルトによって移動を始める。図9(2)はレジスト塗布工程を完了したSOIウェハ10背面である。図のようにバキュームチャック29跡には円状のスクラッチ16が発生する。これはSOIウェハ10を吸着した段階で発生しており、バキュームチャック29にシリコン破片等など硬質なものが突き刺さったりした場合に起こる。更に、接触と吸着の段階でSOIウェハ10が若干θ方向に動く。これも連続したスクラッチ16がSOIウェハ10に出来る要因となる。このシリコン破片等はSOIウェハ10などから持ち込まれる。
【0023】
次に、図9(2)の付着異物17はSOIウェハ10高速回転中にレジストミスト31が発生してホットプレート側に流れ込んだものが、搬送ベルトに付着したのちにSOIウェハ10背面側に転写された付着異物17をイメージしたものである。この付着異物17は、ホットプレートへの移動に用いる搬送ビームも汚染させる。また、付着異物17が有機系であれば、陽極接合時に行う400℃前後の加熱工程で付着異物17からのガス放出が懸念される。このガス放出は勘合部13の接合不良を招く恐れがある。また、コーターデベロッパーを除く付着異物17の他の例として、メタル屑やシリコン片など無機質の付着異物17が工程処理中にSOIウェハ10背面に付着する場合がある。例えば数十μm径程度の小さいものであれば、図7(III)の断面構造図のように周囲が浮き上がることはなく、接合された台座11側から観察すると付着異物17自体が核となりその周囲が浮き上がって見える。この浮き上がった領域は未接合部として存在するため、勘合部13の接触面積が少なくなり気密封止性能低下が懸念される要因となっていた。以上のように、付着異物17の硬い柔らかいに関わらず、台座11との接合に至る過程で勘合部13に残存する付着異物17への対策が重要となっていた。
【0024】
次に、スクラッチ16は前述する設備の搬送系などとの接触で起きることが多い。ここでは搬送系との接触によって起こるスクラッチ16発生状況について述べる。例えばピンセットなどで移載する検査工程、プロセス設備のバキュームチャックや治工具などとの接触で起きる。勘合部13に出来るスクラッチ16には、深く抉れてシリコン屑が周囲に散在したものや溝が浅くシリコン屑の出ない細かめのものがある。キャビティ8aの気密性能に影響するものの例として、例えばスクラッチ16の溝深さが100Å(オングストローム)を超えるものや、周囲にシリコン屑を散りばめたものがあり、特にキャビティ8aから絶対圧センサー素子100切断面に達するスクラッチ16が対象となる。このようなスクラッチ16はリークパスとなってスローリークを引き起こす原因となるために、対策が必要となっていた。
【0025】
また、この付着異物17やスクラッチ16のうち、ピエゾ抵抗4や配線5のあるSOIウェハ10主面上に出来たものは実体顕微鏡で判別出来るため良否判定が行い易い。しかし、SOIウェハ10背面側にはチップアドレスなどが一切無く、発見しても場所の特定が難しい。また、深堀エッチング以降であれば、仮に付着異物17を発見してもダイヤフラム9損傷などの危険性が付き纏うため積極的に除去し難い。また、汚染による勘合部13の密着力低下は、ダイサー切断時に切断や分離時に欠けや剥がれが起こる恐れがあり、剥がれた部位が他のセンサー素子100に損傷を与える恐れがある。
【0026】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、付着異物の段差やスクラッチを介して起こるキャビティ内の気密封止性能低下や勘合部の密着力低下の問題を解決することを目的とするセンサー素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この発明に係わるセンサー素子は、主面上にダイヤフラムが構成される第1の基材と、前記第1の基材の反ダイヤフラム面側に配設される第2の基材と、前記第1の基材の前記ダイヤフラム直下に設けられるキャビティと、前記キャビティを気密封止するため前記第1の基材と前記第2の基材との接合位置に設けられる勘合部と、前記勘合部に設けられ、前記第1の基材と前記第2の基材との勘合状態を保護する段差部とを備えたものである。
【0028】
また、前記段差部は、前記第1の基材の反ダイヤフラム面側に保護層を設け、前記保護層によって前記勘合部に段差を付けて設けられたものである。
【0029】
また、前記段差部は、前記第1の基材と一体に構成されたものである。
【0030】
また、前記第2の基材は、前記段差部を気密封止するための溝加工が施されているものである。
【0031】
また、前記保護層にはゲッター効果を得るための機能を持たせた材料を選択して、前記キャビティ内の放出ガスを吸収して前記キャビティの気密性維持を図るようにしたもので
ある。
【0032】
また、前記保護層にはアルミ(Al)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)など、または、ゲッタリング効果が得られるジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、セリウム(Ce)、トリウム(Th)、酸化マグネシウム(MgO)などの少なくともいずれかを含む薄膜材料を選択したものである。
【0033】
また、前記第2の基材には、対向する金型形状に沿って加工された断面構造を得る手法で前記溝加工が施された
【発明の効果】
【0034】
この発明に係わるセンサー素子によれば、付着異物の段差やスクラッチを介して起こるキャビティ内の気密封止性能低下や勘合部の密着力低下の問題を解決することができるセンサー素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施の形態1におけるSOIウェハ背面側に保護層を形成して勘合領域が外部と接しないよう勘合保護を目的とした段差を設けたセンサー素子の構造平面図とA−A’部を切断して得られる断面構造図である。
【図2】この発明の実施の形態1における図1(a)センサー素子の構造平面図のA−A’部を切断して得られるセンサー素子を示す断面構造工程フロー図である。
【図3】この発明の実施の形態1における台座への溝加工を対向する金型形状に沿って加工を行い、断面構造を得る設備を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1で得られたセンサー素子のホイートストンブリッジ回路と気密試験で検出されるゲージ抵抗の出力電圧値読み取り位置と電源電圧を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1で得た気密信頼性試験結果のうち、窒素加圧日数に応じた出力変動値を測定してグラフ化した図である。
【図6】この発明の実施の形態2におけるSOIウェハを加工して背面側に勘合部段差を設けた図1(a)センサー素子の構造平面図のA−A’部を切断して得られるセンサー素子を示す断面構造工程フロー図である。
【0036】
【図7】従来のセンサー素子の構造平面図とA−A’部、B−B’部を切断して得られるセンサー素子の断面構造図であり、スクラッチ並びに付着異物段差によって起こる不具合事例をイメージした図である。
【図8】従来のセンサー素子の構造平面図である図7(I)のC−C’部を切断して得られるセンサー素子の断面構造工程フロー図である。
【図9】従来のセンサー素子のレジスト塗布工程におけるSOIウェハ背面へのスクラッチ発生や付着異物が転写事例をイメージした図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図1ないし図5に基づいて説明するが、各図において、同一、または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。図1はこの発明の実施の形態1におけるSOIウェハ背面側に保護層を形成して勘合領域が外部と接しないよう勘合保護を目的とした段差を設けたセンサー素子の構造平面図とA−A’部を切断して得られる断面構造図である。図2はこの発明の実施の形態1における図1(a)センサー素子の構造平面図のA−A’部を切断して得られるセンサー素子を示す断面構造工程フロー図である。図3はこの発明の実施の形態1における台座への溝加工を対向する金型形状に沿って加工を行い、断面構造を得る設備を示す図である。図4はこの発明の実施の形態1で得られたセンサー素子のホイートストンブリッジ回路と気密試験で検出されるゲージ抵抗の出力電圧値読み取り位置と電源電圧を示す図である。図5はこの発明の実施の形態1で得た気密信頼性試験結果のうち、窒素加圧日数に応じた出力変動値を測定してグラフ化した図である。
【0038】
この発明の実施の形態1について、センサーデバイス装置の一つであるセンサー素子200を例題に執って各図の説明を行う。
【0039】
まず、図1(a)は第1の基材であるSOIウェハ110からダイサーなどの手法によって切断、分離されたセンサー素子200全体を示す構造平面図である。センサー素子200は、図示されている通り正方形若しくは矩形の形状に切り出されており、この図中のセンサー素子200は例えば1.2mm×1.2mmの角サイズで設けられる。また、センサー素子200は、SOIウェハ110内に規則的に配列された状態で複数個一括して設けられる。
【0040】
以下、切断して得られたセンサー素子200の図1(a)構造平面図に記載される各図番について説明を行う。なお、本図面ではセンサー素子200の切断面に残存するダイシングラインの一部は省略する。
【0041】
先ず、200はこの発明の実施の形態1で得られるセンサー素子である。センサー素子200にはUNIBOND法で製造されたSOIウェハ110を用いる。SOIウェハ110は、面方位が(100)でシリコンなどから構成されるn型の活性層101とシリコン酸化膜からなる埋め込み酸化膜102、支持基板103で構成される。なお、ウェハ厚は例えば500μmである。
【0042】
次に、7は端子パッドであり、アルミを主成分としたスパッタ薄膜で形成されている。配置に関しては図の通り各々4個が並列で設けられる。4は例えば純物拡散法やイオン注入で得られたピエゾ抵抗である。このピエゾ抵抗4はダイヤフラム9に計4個配列される。5はピエゾ抵抗4と端子パッド7を電気的に繋ぐ配線である。この配線5は例えばイオン注入による拡散配線やアルミを主成分としたメタル材料から構成される。この配線5とピエゾ抵抗4がホイートストン回路で構成される。
【0043】
次に、6は例えば酸化シリコンや窒化シリコン膜などからなる絶縁膜であり、センサー素子200を構成するピエゾ抵抗4や配線5、端子パッド7を含むSOIウェハ110の主面上全面を被覆する。但し、端子パッド7上は開口する必要があるため、エッチングなどの加工法によって開口上の絶縁膜6は除去される。9はSOIウェハ110など回路を設ける側の主面上に微細加工や膜応力制御によって検知機能を有したダイヤフラムである。このダイヤフラム9は絶縁膜6などを含めた薄膜の応力制御によって一定の張りを保ちながら状態を保持している。ダイヤフラム9とその周辺には配線5や端子パッド7が設けられて外部に信号が伝達される機能を有する。
【0044】
次に、図中の構造平面図ではセンサー素子200の背面より設けられるものは全て点線で示している。まず、ダイヤフラム9の直下に設けられる点線部はキャビティ108aである。このキャビティ108aはSOIウェハ110の背面に例えば0.4mm角の四角型の開口部に形成したのち、ICP−RIEなどの深堀エッチングによって設けられる。
【0045】
次に、キャビティ108aより外側の点線はギャップ108bが設けられる位置を示している。このギャップ108bとキャビティ108aは空洞部108として繋がっており、同じ真空度に保たれる。また、ギャップ108b位置からセンサー素子200の切断面までに至る領域内には勘合部113が設けられる。この勘合部113の領域では第1の基材であるSOIウェハ110と第2の基材である台座111が接合される。このキャビティ108aより外側の点線から切断面に至る距離は例えば0.25mm幅で設計されている。また、勘合部113は端子パッド7の背面付近に設けられる。
【0046】
次に、図1(b)を用いてこの発明の実施の形態1で形成されるセンサー素子200について説明を行う。図1(b)は図1(a)に示すA−A’部を切断して得られる絶対圧センサー素子100の仮想断面構造図である。センサー素子200は、図のように第1の基材であるSOIウェハ110と第2の基材である台座111となる厚さ1mmのガラスが貼り合わさった構造を有している。この発明の実施の形態1では台座111に硼珪酸ガラスを用いた。
【0047】
このセンサー素子200は、従来のセンサー素子と比べて、(1)台座111となるガラス側にギャップ108bが設けられている。(2)このギャップ108bによってセンサー素子200の空洞部108の体積が広くなっている。(3)SOIウェハ110の背面には保護層118が設けられている。(4)SOIウェハ110の背面には保護層118領域が設けられるため、勘合部113となる接合面積が上述した従来のセンサー素子100よりも狭い点が異なる。
【0048】
このギャップ108bは例えばセンサー素子200の中心から例えば0.35mmで形成されており、ギャップ108bには保護層118が設けられる。この保護層118は、例えば厚さ0.5μm〜1μm程度のシリコン酸化膜であり、図1(a)の構造平面図に記すキャビティ108aのある点線からもう一方の点線間の範囲内に設けられる。また、勘合部113と保護層118間には図示されるように間隔126が設けられる。
【0049】
また、保護層118は勘合部113領域を保護する目的で形成される。この保護層118を設けることで勘合部13は段差部132によって保護される。また、保護層118を空洞部108内に気密封止するには台座111側への溝加工が必要となる。この溝加工によってギャップ108bが設けられる仕組みになっている。この発明の実施の形態1では台座111の溝深さは例えば5μmで加工した。
【0050】
以下、台座111への溝加工について説明する。ガラス加工には、薬液による等方性エッチング、サンドブラスト加工、ドライエッチング、レーザー加工、ダイヤモンドドリルによる機械加工、超音波加工などがある。一般的なガラスエッチングにはフッ酸を用いた等方性エッチングが用いられるが、硼珪酸ガラスを用いた場合では、組成中にナトリウム(Na)や硼素(B)などを含むため、これらの成分が影響してエッチング面が粗れ易くなる。特開2008−088017号公報ではドライプロセスによるガラス基板の加工法が紹介されている。なお、台座111に対して溝加工を行う場合には、溝形成と同時にアライメント形成も必要となる。この発明の実施の形態1ではサンドブラスト処理による溝加工を行った。
【0051】
次に、この発明の実施の形態1で得られるセンサー素子200の断面構造について図2の製造工程フロー図を用いて記号順に説明する。図2は、図1(a)に示すA−A’部を切断することで得られるセンサー素子200の仮想断面構造図である。なお、SOIウェハ110の主面上に設けられるピエゾ抵抗4や絶縁膜6の形成方法については上述した従来の工程フローと同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
まず、図2(A)はSOIウェハ110の主面上にピエゾ抵抗4などを順次設けた後に絶縁膜6で被覆してパッド開口を設けたのちに、SOIウェハ110の背面に対して保護層118とレジストマスク20を図示した位置に設けた構造断面図を示している。まず、
前述するまでの工程で発生したスクラッチ16や付着異物17を除去するため、SOIウェハ110の背面をクリーニングする。クリーニングはドライやウェットなどのエッチングや研磨など何れの手法でも良いが、SOIウェハ110の背面側の清浄性が要求される。
【0053】
次に、スパッタリングやCVDによってSOIウェハ110の背面にシリコン酸化膜形成を行う。次に、図示された領域をレジストマスク20で覆う。レジストマスク20はレジスト塗布後の両面アライナーによる写真製版や現像処理によって設けられる。なお、この写真製版処理の段階で各々の保護層118にアドレスナンバーをパターニングしておく。
【0054】
次に、図2(B)ではイオンビームなどの物理エッチングで、例えば45度の傾斜角度で段差部132の加工を行っている。これは、付着異物17が段差部132である保護層118の角で擦り取られた状態で残るため、付着異物17の大きさや状態よっては勘合部113へ影響を与える可能性がある。そのため保護層118に傾斜を設けて勘合部113領域から傾斜角度分だけ離している。また、パターニングされた保護層118上に設けるレジストマスク20の被覆性向上も兼ねる。
【0055】
最後に、レジストマスク20をプラズマアッシングなどで灰化して除去することで各々の保護層118にナンバーリングされる。なお、物理エッチング時に勘合部113は若干量ではあるがエッチングされる。
【0056】
次に、図2(C)ではSOIウェハ110の主面上を保護マスク114で全面塗布する。続いて保護層118が設けられたSOIウェハ110の背面に裏面マスク115を設ける。ここで使用される互いの保護マスク114、裏面マスク115には塗布膜厚が例えば2μmに厚さ調整されたポジ型のフォトレジストを用いた。なお、裏面マスク115は保護層118にパターニングされたアドレスナンバー領域も同様に覆われている。
【0057】
次に、図2(D)ではICP−RIEの深堀エッチングが行われる。まず、キャビティ108aが設けられる開口部112上の保護層118を例えばウェットエッチングで除去する。この保護層118の端面形状は傾斜を設けた段差部132よりも垂直に近い状態で加工されている。これは、キャビティ108a側の保護層118にイオンビームで傾斜角を設けると断面が先細りになるため深堀エッチング時に先端領域が膜減りするため、キャビティ108a形状に影響することを考慮したものである。
【0058】
次に、深堀エッチング後は、SOIウェハ110の背面から埋め込み酸化膜2に至るキャビティ108aが形成される。なお、ICP−RIEとは誘電結合プラズマによって高密度プラズマを発生するICP源を用いた反応性エッチングであり、ボッシュプロセス法が採用される。この手法ではテフロン(登録商標)系のポリマーガスによるキャビティ108aの加工部の側壁保護と六フッ化硫黄ガス(SF)での底面エッチングを必要回数だけ繰り返すパルスエッチングが行われる。これによってアスペクト比の高いキャビティ108aの形状が得られる。この深堀エッチングではSOIウェハ110の活性層101がエッチング加工される。また、埋め込み酸化膜2がエッチングストッパーとしての機能を果たしている。なお、このICP−RIEによる深堀エッチングでは裏面マスク115側もパルスエッチング回数に相応する量だけ目減りするが、エッチングの処理条件によっては無くなることもある。
【0059】
この裏面マスク115と保護マスク114は、例えば酸素ガスを主成分としたエッチングガスでプラズマアッシングによって灰化されて除去される。なお、必要であればレジスト除去に剥離液を用いても良い。
【0060】
次に、図2(E)ではSOIウェハ110の活性層101と断面が矩形のギャップ108bが設けられた台座111がアライメント調整によって互いに接合されることで図の構造を得る。最後にダイサー切断によって素子単位に切断されることで図1(a)のセンサー素子200が得られる。
【0061】
なお、この発明の実施の形態1では保護層118が空洞部108内に内臓された構造を有しているが、図2(F)ように保護層118を除去してから接合を行っても構わない。例えば、図2(D)のキャビティ108aの形成後に、例えばバッファードフッ酸液を用いて保護層118の除去を行い、図2(E)以降は同じ工程処理を踏むことで保護層118のレス構造が得られる。但し、キャビティ108a内の埋め込み酸化膜102も同じシリコン酸化膜のため、除去時に用いるエッチャントによってダメージを受ける。
【0062】
図2(F)では保護層118のレス構造を図示しているが、例えば接触面積の大きい付着異物17が保護層118上に残る場合は、それ自身がマスクとなるためウェットエッチングやドライエッチングなどの保護層118の除去だけでは前述する付着異物17とその直下にある保護層118の一部がSOIウェハ110の背面に残ることになる。
【0063】
更に、保護層118を物理エッチングによるパターニングで設けていることにより、勘合部113面を若干量オーバーエッチングしていることもあるため、台座111側には最低でも若干量エッチングした深さ分の溝加工が必要となる。なお、前述するオーバーエッチングにてSOIウェハ110の背面の活性層101に対して直接ナンバーリングを残すことが可能となる。
【0064】
また、仮に保護層118をウェットエッチングで設けて、図2(F)の断面構造を得るために、ウェットエッチングで保護層118の除去を行うとした場合、付着異物17とその直下の保護層118が完全にSOIウェハ110の背面より完全に除去できれば、キャビティ108aを除くSOIウェハ110の背面はスクラッチ16や付着異物17の無い平坦な面が得られる。
【0065】
このSOIウェハ110に対して無加工の台座111を接合すれば、上述した従来のセンサー素子100と同じ構造が得られる。但し、SOIウェハ110の背面のナンバーリングはウェットプロセスによって保護層118のパターニングが行われるために設けることが不可能になる。
【0066】
次に、図2(E)で行われる接合方法について以下に説明を行う。センサー素子200
のように、ダイヤフラム9直下のキャビティ108aを気密封止するには、2枚のウェハを直接張り合わせた直接接合装置や中間材を用いた中間層接合装置が用いられる。直接接合には、例えばガラスとシリコンを張り合わせて成る陽極接合が一般的に知られており、他の例としてシリコン直接接合、プラズマ活性化低温接合、常温表面活性化接合などがある。中間層接合の場合はメタルを用いた共晶結合、はんだ結合、有機接着などがそれに該当する。シリコンとガラス接合には陽極接合を用いることが多い。
【0067】
陽極接合法とは、SOIウェハ110のシリコンなどから構成されるn型の活性層101とガラスウェハからなる台座111を密着させてアルカリイオンが移動し易い400℃前後の温度まで加熱した状態で、台座111側にマイナス500V程度の直流電圧の印加を行うことで互いの基材が接合されて貼り合わされる。この処理を行うことで台座111に含まれるナトリウムイオンなどが負極側に移動して、台座111とSOIウェハ110の界面で静電気引力が発生する。これによりシリコンと酸素イオンとで化学反応が起きて大きな結合力を得ることができる。
【0068】
この陽極接合法の長所は、(1)強固な結合力が得られること、(2)ポリマーなどの中間材を用いないため脱ガス等の影響が少ない点が挙げられる。その反面、陽極接合後の熱応力によって変形が発生することが挙げられる。
【0069】
この発明の実施の形態1では陽極接合による気密封止を用いて処理を行った。まず、SOIウェハ110と同径サイズで厚み1mmの硼珪酸ガラスウェハからなる台座111を準備する。なお、台座111はSOIウェハ110に設けられるセンサー素子200と等間隔で同数の溝加工を施したウェハを用いる。この発明の実施の形態1では溝の深さを例えば5μmとした。
【0070】
次に、チャンバーを開放して装置内のステージ上に基材であるSOIウェハ110と台座11を重ね合わせた状態で配置する。次に、陰極、陽極の各プローブ針を接触させてチャンバーを閉じて真空引き、加熱、接合電圧印加、冷却の順に処理を進める。
【0071】
この発明の実施の形態1では真空引き到達真空度×10E−4Torr、設定温度400℃、セッティングから冷却までのトータル処理時間90minで処理を行うことで必要とするセンサー素子200を得た。
【0072】
この発明の実施の形態1では、SOIウェハ110を用いたが、両面研磨された面方位が(100)でn型の単結晶シリコンでも構わない。単結晶シリコン以外の他の材料として多結晶シリコン、サファイア等から形成されても構わない。
【0073】
また、保護層118にはシリコン酸化膜を用いたが、これに限定されるものではなく、他の材料として、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、絶縁材料では窒化シリコン膜や酸化シリコン膜、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの硬質な材料を用いても良い。これらはスパッタリングやCVDによって形成できる。
【0074】
また、保護層118にゲッタリング効果が得られる材料を選択しても構わない。ゲッター材として用いる材料を例としてあげると、例えば、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、セリウム(Ce)、トリウム(Th)、酸化マグネシウム(MgO)などがあり、少なくともいずれかを含む薄膜材料の選択する方が望ましい。
【0075】
また、この発明の実施の形態1では保護層118の段差部132の加工をイオンビームを用いて傾斜角45度で行っているが、裏面マスク115上の被覆性に問題なければ、保護層118のパターニングを例えば傾斜角0度の物理エッチングで設けても良い。例えば、図2(B)のうち、保護層118上にレジストマスク20を設けて、開口部112と勘合部113を同時処理しても構わない。この場合は保護層118は両端とも垂直に近い形で加工される。
【0076】
また、保護層118はキャビティ108a加工のためのハードマスクとして裏面マスク115と合わせて利用することが可能である。また、保護層118はキャビティ108a端と勘合部113間に設けているが、この範囲内であれば保護層118は何れの寸法幅で形成しても構わない。また、この発明の実施の形態1ではサンドブラストによる台座111の溝加工を行っているが、ウェットエッチングやドライエッチングによるガラス加工を用いても構わない。
【0077】
また、他の例として、図3に静電力を用いたガラスの形成法の一例を示す。金型23の形状に沿って台座111に外圧や静電引力を用いて溝加工を行う手法を用いても良い。これらの手法はガラスの熱ナノインプリントプロセス技術で得られるものである。この手法
を用いることでレジストなどのマスク形成過程が省かれる。
【0078】
まず、図3に示す通り、台座111が設けられるガラスウェハを金型23上に配置してヒーター25で加温を行う。なお、金型23にはガラスウェハ上に複数個の溝を一括して設けるための凹部21が設けられている。次に、台座111と電極24との間に電圧を加えると、金型23に接触している台座111面にはマイナスの負電荷が集まり、対向する金型23側にはプラスの正電荷が引き合う形で保持される。金型23の凹部21では、ガラス表面の成形部に静電引力が作用して凹部21に引き込まれるように金型23構造に応じた型形成が行われる。これによってガラスウェハには複数個の台座111が金型23に沿って一括形成される。
【0079】
また、この発明の実施の形態1では台座111の厚さを1mmとしたが、これに限定されるものではない。次に、この発明の実施の形態1の勘合部113の幅は0.25mm幅としたが、最低でも0.1mm以上の確保は必要である。0.1mm以下では空洞部108のリークが顕著に大きくなる確率が増してしまう。また、センサー素子200のサイズは機能的に問題なければ何れの形状、大きさでも構わない。
【0080】
この発明の実施の形態1では、0.5μm〜1μm程度のシリコン酸化膜で保護層118を形成して、台座111に深さ5μmの溝加工を施したものを用いたが、保護層118の厚さはこれに限定されるものではなく、厚いほど勘合部113への影響が無く望ましいが、台座111の溝深さよりも少ない膜厚で設ける必要がある。また、保護層118にゲッタリング効果が得られる薄膜材料を用いる場合は、その効果が期待出来る厚さで形成する方が望ましく、数μm程度は必要となる。また、台座111の溝深さに関しては、保護層118と干渉しないだけの溝深さで設ける必要がある。この要件を満たすのであれば何れの溝深さでも構わない。
【0081】
また、この発明の実施の形態1では、陽極接合による接合を用いているが、例えば図2(F)のように空洞部108に保護層118などを残さない構造が可能であれば、台座111をシリコンとした直接接合による気密封止を用いても良い。但し、接合温度が1000℃前後必要であるため、SOIウェハ110の主面上に設ける端子パッド7やピエゾ抵抗4、配線5のパターニングは気密封止以降の処理となる。
【0082】
次に、実施例の形態1で保護層118を設けた図2(D)のセンサー素子200をコーターデベロッパーに空搬送した結果、保護層118にはスクラッチ16が残ったが、勘合部113にはその影響は見られない。付着異物17に関しては保護層118端の角部に擦り取ったような形跡が残る場合があったが、勘合部113への付着抑止効果は得られていた。また、異物段差になり得る付着異物17も勘合部113には見られず、台座111が浮き上がるような不具合は発生していない。更に、保護層118に残る付着異物17は顕微鏡検査などでナンバーリング位置を特定できるため、陽極接合後にダイサー切断で素子単位に分離したのち不良品として取り除くことができる。
【0083】
図4はこの発明の実施の形態1のセンサー素子200を用いて気密信頼性試験を行った際のホイートストンブリッジ回路と入出力電圧位置を示している。気密信頼性試験は、センサー素子200を窒素加圧槽内に入れて、例えば5kgf/cm2以上の圧力で窒素加圧をダ
イヤフラムに常時加圧して出力電圧変化を見る試験である。
【0084】
まず、図4に示す電源22により5Vの電源電圧を加える。次に、Vout位置からの出力電圧2箇所を測定して双方の差分を求めた。なお、加圧信頼性試験は例えば最大400日まで行われ、加圧日数に応じた計測は一旦窒素加圧槽から取出した状態で行われる。出力電圧計測は標準大気圧環境下でダイヤフラム9に全く加圧しない一定圧の温度条件下で行
われ、センサー素子200の常温特性の出力電圧変動値を計測する。
【0085】
なお、気密封止される勘合部113にスローリーク又はリークパスに起因する異物段差などがあれば、ピエゾ抵抗4の出力電圧も変化する。更に、勘合部113の接合不良の状態によっては加圧する初期段階から出力電圧が大きくずれてしまう。
【0086】
図5は窒素加圧日数による出力変動値を計測した結果をグラフ化したものである。このグラフには上述した従来のセンサー素子100とこの発明の実施の形態1および後述する実施の形態2で得られたセンサー素子200の計3本の曲線が出力されている。なお、グラフの横軸は窒素加圧日数を示し、縦軸は出力変動値である。
【0087】
図5の出力変動値は初期値を0Vとしており、点線内の領域までを変動誤差範囲内とする。この点線の枠内は上述した従来のセンサー素子100を複数個計測した際に得られた出力変動の上限値と下限値の実績を示しており、この範囲内であれば上述した従来のセンサー素子100と同等の試験結果が得られていることを表している。グラフ結果から分かるように、何れの条件で設けたセンサー素子200でも点線内に納まることが分かった。以上の結果より、この発明の実施の形態で得られたセンサー素子200は従来と同等の出力変動値を得ることが証明できた。
【0088】
以上のように、ダイヤフラム9直下にキャビティ108aが設けられ、このキャビティ108aはSOIウェハ110と台座111との貼り合せで気密封止されており、気密封止される勘合部113領域が外部と接しないよう段差部132を設けたことにより、勘合部113の清浄性が保たれることでセンサー素子200の気密性能の保持機能が増して長期信頼性向上を図ることができる。
【0089】
また、SOIウェハ110の背面に保護層118を設けて、この保護層118が段差部132としての役割を果たすことで、SOIウェハ110の背面側の処理工程で発生するスクラッチ16や付着異物17を勘合部113に発生するのを防ぐことができる。
【0090】
また、付着異物17の段差による乗り上げで隣接するセンサー素子200に勘合部113の不良などのダメージを与えていたが、この付着異物17は保護層118と共にセンサー素子200内に内臓されて封止されたことで、他のセンサー素子200に対して影響を無くすことが出来るため、歩留まり向上を図ることができる。
【0091】
また、保護層118などにナンバーリングなどを取り入れることで不具合要因の場所特定が可能となり、検査機能の向上を図ることができる。
【0092】
また、台座111の溝加工は、スクラッチ16や付着異物17が残存する保護層118全体を覆うためのキャビティ拡張機能を備えたことで、付着異物17を対象のセンサー素子200の空洞部108内に封じ込めることが出来るため、勘合部113への乗り上げの影響が無くなり、センサー素子200の歩留まり向上を図ることができる。
【0093】
また、保護層118に対してゲッター効果機能を付加したことで、キャビティ108a内の放出ガスを吸収してキャビティ108aの気密性維持を図る効果を得ることができる。
【0094】
また、金型23の形状に沿った台座111の加工を行うことにより、上述した従来よりも簡便に必要形状を得ることができる。
【0095】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2を図6に基づいて説明する。図6はこの発明の実施の形態2におけるSOIウェハを加工して背面側に勘合部段差を設けた図1(a)センサー素子の構造平面図のA−A’部を切断して得られるセンサー素子を示す断面構造工程フロー図である。以下、図面の番号順に添って説明を行う。
【0096】
まず、図6(1)はピエゾ抵抗4や絶縁膜6などが設けられたSOIウェハ110の構造断面図である。次に、図6(2)ではSOIウェハ110の背面に例えばレジスト材からなる厚み1μmのレジストマスク20を設ける。次に、例えばフッ素系ガスと酸素(O)の混合ガスによってRIE(reactive ion etching)ドライエッチング処理を行い、図中の勘合部113の段差部132を活性層101に設ける。この勘合部113の段差部132は1μm深さで設けた。次に、SOIウェハ110の背面に残るレジストマスク20をプラズマアッシャーで灰化して除去する。
【0097】
次に、図6(3)では、保護マスク114であるレジスト材をSOIウェハ110の主面上に全面塗布したのち、SOIウェハ110の背面の勘合部113の段差部132からキャビティ108aの開口部112までを裏面マスク115でパターニングする。なお、ここで用いるレジスト材は両面とも同一のフォトレジスト、同じ2μm膜厚である。
【0098】
図6(4)ではICP−RIEによる深堀エッチングが行われ、図6(5)にて保護マスク114、裏面マスク115をプラズマアッシングにて除去することにより、SOIウェハ110側への処理が完了する。最後に、深さが5μmになるよう溝加工が施された台座111との陽極接合を行うことで必要とするセンサー素子200の構造を得ることが出来る(図6(6))。
【0099】
この発明の実施の形態2では、保護層118を形成する代わりにSOIウェハ110の活性層101を加工して勘合部113の段差部132を設けたことを特徴としている。
【0100】
この発明の実施の形態2では図6(2)の勘合部113と段差部132を混合ガスのRIEドライエッチングで設けているが、イオンビームを用いた物理エッチングで傾斜を付けて加工しても良い。
【0101】
また、図6の工程処理前までにSOIウェハ110の主面上のパターニング工程で発生したスクラッチ16や付着異物17を除去するため、SOIウェハ110の背面をクリーニングする方が望ましい。但し、図6(2)の勘合部113と段差部132の加工で勘合領域の清浄性が得られるのであれば、前述するクリーニングは不要である。
【0102】
また、裏面マスク115はレジスト単独で形成されているが、例えば図6(2)工程でSOIウェハ110の背面側にゲッター材とレジストマスクを積層で順次設けても良い。
【0103】
また、勘合部113は端子パッド7直下付近に設けられるため、勘合部113の段差部132深さは1μm深さに限定されるものではなく、0.5μmでも同様の効果は得られる。また、深い方に関してはワイヤボンド等による接合影響が無い程度に加工される方が望ましい。
【0104】
また、勘合部113の段差部132の深さと台座111に設けた溝の深さは一致せず、台座111の溝側を深く設ける必要がある。
【0105】
また、この発明の実施の形態2では、SOIウェハ110を用いているが、両面研磨された面方位が(100)でn型の単結晶シリコンでも構わない。単結晶シリコン以外の他の材料として多結晶シリコン、サファイア等から形成されても構わない。
【0106】
また、この発明の実施の形態2では、SOIウェハ110と台座111との陽極接合であり、図6(6)で図示した断面構造を得ているが、溝加工された台座111を用いてシリコンとシリコンとを直接接合して空洞部108を得たのちに、ピエゾ抵抗4や配線5、端子パッド7を設けても構わない。
【0107】
以上のように、保護層118の代わりにSOIウェハ110の背面に直接段差加工を施して勘合113領域が外部と接触しないようにしたことにより、保護層118を設けた場合と同様の効果を得ることができる。
【0108】
次に、この発明の実施の形態2で得られたセンサー素子200を用いてコーターデベロッパーに空搬送した結果、この発明の実施の形態1と同じ効果がSOIウェハ110の背面側に得られた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
この発明は、付着異物の段差やスクラッチを介して起こるキャビティ内の気密封止の性能低下や勘合部の密着力低下の問題を解決することができるセンサー素子の実現に好適である。
【符号の説明】
【0110】
9 ダイヤフラム
23 金型
101 活性層
102 埋め込み酸化膜
103 支持基板
108 空洞部
108a キャビティ
108b ギャップ
100 センサー素子
110 SOIウェハ
111 台座
113 勘合部
118 保護層
132 段差部
200 センサー素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面上にダイヤフラムが構成される第1の基材と、前記第1の基材の反ダイヤフラム面側に配設される第2の基材と、前記第1の基材の前記ダイヤフラム直下に設けられるキャビティと、前記キャビティを気密封止するため前記第1の基材と前記第2の基材との接合位置に設けられる勘合部と、前記勘合部に設けられ、前記第1の基材と前記第2の基材との勘合状態を保護する段差部とを備えたことを特徴とするセンサー素子。
【請求項2】
前記段差部は、前記第1の基材の反ダイヤフラム面側に保護層を設け、前記保護層によって前記勘合部に段差を付けて設けられたことを特徴とする請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項3】
前記段差部は、前記第1の基材と一体に構成されたことを特徴とする請求項1または請求項2項に記載のセンサー素子。
【請求項4】
前記第2の基材は、前記段差部を気密封止するための溝加工が施されていることを特徴とした請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項5】
前記保護層にはゲッター効果を得るための機能を持たせた材料を選択して、前記キャビティ内の放出ガスを吸収して前記キャビティの気密性維持を図るようにしたことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項6】
前記保護層にはアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)など、または、ゲッタリング効果が得られるジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、セリウム(Ce)、トリウム(Th)、酸化マグネシウム(MgO)などの少なくともいずれかを含む薄膜材料を選択したことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項7】
前記段差部は、前記第1の基材の反ダイヤフラム面に段差を付けて設けられたことを特徴とする請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項8】
前記第2の基材には、対向する金型形状に沿って加工された断面構造を得る手法で前記溝加工が施されたことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項9】
前記第1の基材は、活性層、埋め込み酸化膜、支持基板で構成されることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項10】
前記第2の基材は、前記第1の基材と同質のもの若しくはガラスウェハからなる台座で構成されることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項11】
圧力センサーに適用されることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のセンサー素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−233847(P2012−233847A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104247(P2011−104247)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】