説明

ハイブリッド電気自動車の制御装置

【課題】定速走行制御下における燃費性能の改善を図ると共に、高度な安全性を有するハイブリッド電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド電気自動車(1)の制御装置(26)は、走行路面の勾配情報を取得する手段(17)と、走行速度を検出する手段(16)と、車間距離を検出する手段(18)と、走行路面が下り勾配を有する場合に、下り勾配の最下地点bより手前側に設定された惰性走行開始地点aから惰性走行を開始し、車間距離が所定車間距離L1未満となった場合に前記惰性走行を中止する制御手段(26)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で下り勾配を有する走行路面を走行するハイブリッド電気自動車において、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関、及び、バッテリに蓄えられた電力で駆動可能な電動機の少なくとも一方を動力源として走行可能なハイブリッド電気自動車が注目されている。ハイブリッド電気自動車では、減速時に電動機を回生駆動させることにより回生エネルギーをバッテリに充電し、該バッテリに充電した電力で電動機を力行駆動させることで、内燃機関の燃料消費量を削減し、燃費性能の改善を図っている。
【0003】
この種のハイブリッド電気自動車に関して、走行速度を予め設定された設定速度に維持することによってドライバーの運転負担を軽減する定速走行制御(いわゆるオートクルーズ制御)がある。定速走行制御では、車両の走行条件に応じて、走行速度が設定速度に維持されるように内燃機関及び電動機等の動力源、或いは、サービスブレーキや回生ブレーキなどの制動手段の制御が行われる。
【0004】
ここで、定速走行制御下にあるハイブリッド電気自動車の走行路面前方に先行車両が存在する場合、走行速度を調整することにより先行車両との車間距離を十分に確保し、車両の安全性を確保する必要がある。例えば特許文献1では、動力源である内燃機関と電動機の出力値を先行車両との車間距離に基づいて調整することによって走行速度を調整し、定速走行制御下にある車両の安全性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−291919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハイブリッド電気自動車の技術分野では、更なる燃費性能の改善を図るため、様々な観点から研究開発が進められている。その一例として、走行中の車両が有する慣性力を利用して惰性走行を行わせることにより(このとき、内燃機関への燃料の供給は遮断される)、内燃機関の燃料消費量を削減し、燃費性能を改善する試みがなされている。上記特許文献1においても、車間距離が小さくなった場合に惰性走行を行わせることによって、車両の安全性の確保と共に、燃料消費量の削減を行っている。しかしながら、「車間距離が小さくなる」という条件が満たされない場合には惰性走行は実施されないため、走行条件によっては惰性走行が全く実施されず、燃料消費量の削減が十分に行えないという問題がある。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、定速走行制御下における燃費性能の改善を図ると共に、高度な安全性を有するハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るハイブリッド電気自動車の制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で下り勾配を有する走行路面を走行するハイブリッド電気自動車において、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置であって、前記ハイブリッド電気自動車の走行速度を検出する走行速度検出手段と、前記ハイブリッド電気自動車の先行車両との車間距離を検出する車間距離検出手段と、前記下り勾配の最下地点より手前側に設定された惰性走行開始地点から惰性走行を開始し、前記車間距離検出手段によって検出された車間距離が予め設定された所定車間距離未満となった場合に前記惰性走行を中止する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、下り勾配を走行中のハイブリッド自動車において走行速度が定速走行制御により設定速度に維持されている場合に、当該下り勾配の最下地点より手前にある惰性走行開始地点から惰性走行が実施される。このように最下地点の手前側から惰性走行を開始することにより、定速走行制御における設定速度の許容範囲内において惰性走行を行い、燃費性能を効果的に向上させることができる。一方、惰性走行は車両が有する慣性力を利用して走行を行うため、下り勾配を走行中の走行速度が増大し、先行車両との車間距離を十分に確保できなくなる場合があり、危険である。そこで本発明では、惰性走行中に他車両との車間距離が所定車間距離未満となった場合に惰性走行を中止することにより、車両の安全性を確保することができる。このように本発明では、定速走行制御下における燃費性能の改善を図ると共に、高度な安全性を実現することができる。
【0010】
好ましくは、前記制御手段は、前記車間距離検出手段により検出された車間距離の時間変化から前記ハイブリッド電気自動車の前記先行車両に対する相対速度を算出し、前記所定車間距離を前記算出した相対速度が大きくなるに従って増加するように設定するとよい。この場合、相対速度が大きい場合(即ち、車間距離が狭まる速度が速い場合)、惰性走行を中止するタイミングの基準となる所定車間距離を大きく確保することによって、惰性走行の中止タイミングを早めることができる。即ち、相対速度が大きい場合であっても、車間距離をより大きく確保することにより、車両の安全性を確実に確保することができる。
【0011】
また、前記バッテリの充電量を検出するバッテリ充電量検出手段を更に備えており、前記制御手段は、前記惰性走行が中止された際に、前記バッテリ充電量検出手段によって検出されたバッテリ充電量が所定充電量未満である場合に、前記電動機を回生駆動させるとよい。この態様では、下り勾配を走行中に惰性走行が中止された際に、バッテリに電動機の回生電力を充電する余裕がある場合に電動機を回生駆動させる。これにより、ハイブリッド電気自動車が下り勾配を走行して次第に加速しようとする際に、電動機において回生制動トルクを発生させることによって走行車速を設定速度に維持しつつ、回生エネルギーを電気エネルギーとしてバッテリに回収することができる。逆に言えば、バッテリに電動機の回生電力を充電する余裕が無い場合には電動機は回生駆動されないので、バッテリが過充電されることにより寿命が短縮することを回避することができる。
【0012】
また、前記制御手段は、前記惰性走行開始地点における走行車速が前記設定速度となり、且つ、前記最下地点における走行車速が前記定速走行制御において許容される走行速度の上限値として予め設定された設定速度上限値となるように、前記惰性走行開始地点を算出してもよい。この場合、惰性走行開始地点と最下地点におけるそれぞれの走行速度が設定速度とその上限値になるように走行速度を推定して惰性走行開始地点を算出するので、下り勾配において定速走行制御下で効率的に惰性走行を実施して、燃費性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、下り勾配を走行中のハイブリッド自動車において走行速度が定速走行制御により設定速度に維持されている場合に、当該下り勾配の最下地点より手前にある惰性走行開始地点から惰性走行が実施される。このように最下地点の手前側から惰性走行を開始することにより、定速走行制御における設定速度の許容範囲内において惰性走行を行い、燃費性能を効果的に向上させることができる。一方、惰性走行は車両が有する慣性力を利用して走行を行うため、下り勾配を走行中の走行速度が増大し、先行車両との車間距離を十分に確保できなくなる場合があり、危険である。そこで本発明では、惰性走行中に他車両との車間距離が所定車間距離未満となった場合に惰性走行を中止することにより、車両の安全性を確保することができる。このように本発明では、定速走行制御下における燃費性能の改善を図ると共に、高度な安全性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るハイブリッド電気自動車の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】本実施例に係るハイブリッド電気自動車が下り勾配を有する走行路面を進行する様子を模式的に示す模式図である。
【図3】下り勾配を有する走行路面を進行するハイブリッド電気自動車における制御内容を示すフローチャート図である。
【図4】所定車間距離とハイブリッド電気自動車の先行車両に対する相対速度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0016】
まず、図1を参照して、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の全体構成について説明する。ここに図1は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【0017】
ハイブリッド電気自動車1はパラレル式ハイブリッド電気自動車であり、ディーゼルエンジン2(以下、「エンジン2」と称する)の出力軸にクラッチ3の入力軸が連結されており、クラッチ3の出力軸にモータ4の回転軸を介して変速機5の入力軸が連結されている。変速機5の出力軸には、プロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9が接続されている。
【0018】
エンジン2は、ハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能する内燃機関である。エンジン2はディーゼルエンジンであり、例えば燃焼室において空気を高温圧縮し燃料を噴射することで、自然発火を利用した燃焼による爆発力によって生じるピストンの往復運動を出力軸の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0019】
クラッチ3は、エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸との間に設けられており、これらの機械的な接続状態を切り替え可能に構成された動力伝達機構である。クラッチ3が接続されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸に機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方に接続されることとなる。一方、クラッチ3が切断されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断されるため、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続されることとなる。
【0020】
モータ4は、力行時にはバッテリ11に蓄えられた電力を用いて力行駆動することによりハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能すると共に、回生時にはバッテリ11を充電するための電力を発電する発電機として機能する電動機である。
【0021】
変速機5は、エンジン2及びモータ4から出力される動力を変換し、プロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9に伝達する変速機である。尚、変速機5の変速比は、段階的に可変であってもよいし、連続的に可変であってもよい。
【0022】
バッテリ11は、モータ4を力行するための電力供給源として機能する、充電可能な蓄電池である。バッテリ11には直流電力が蓄えられており、当該直流電力はインバータ10によって交流変換された後、モータ4に供給される。一方、モータ4の回生時に発電された電力は、インバータ10によって直流変換された後、バッテリ11に供給されることによって充電される。
【0023】
クラッチ3が接続状態にある場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方と接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にはエンジン2の出力トルクとモータ4の出力トルクの双方が変速機5を介して伝達される。即ち、駆動輪9を駆動させるためのトルクの一部はエンジン2から供給されると共に、残りはモータ4から供給される。また、走行中にバッテリ11の充電量が少なくなった場合には、エンジン2の出力トルクの一部を用いて駆動輪9を駆動しつつ、エンジン2の出力トルクの残りを用いてモータ4を回生駆動させることにより、バッテリ11を充電することもできる。一方、ハイブリッド電気自動車1の制動時には、モータ4を回生駆動することによって発電機として機能させ、バッテリ11を充電することもできる。
【0024】
クラッチが切断されている場合(即ち、接続状態にない場合)には、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断され、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にエンジン2の出力トルクは伝達されず、モータ4の出力トルクのみが伝達される。即ち、ハイブリッド電気自動車1の走行は、専ら、バッテリ11に蓄えられた電力を用いてモータ4を駆動することによって行われる。一方、ハイブリッド電気自動車1の制動時には、モータ4を回生駆動することによって発電機として機能させ、バッテリ11を充電することができる。
【0025】
バッテリ充電量検出手段15は、例えばバッテリ11に印加される電流及び電圧をモニタするバッテリ電流センサやバッテリ電圧センサからなり、バッテリ11の充電量(SOC)を検出可能な検出手段である。また、車速センサ16はハイブリッド電気自動車1の走行速度を検出するためのセンサたる走行速度検出手段である。また、ナビゲーション装置17はハイブリッド電気自動車の位置情報及び走行路面の勾配情報(位置情報)としてGPS信号をGPS通信衛星から受信するための勾配情報取得手段である。また、車間距離センサ18は、ハイブリッド電気自動車1の先行車両との車間距離を検出する車間距離検出手段である。尚、車間距離センサ18としてはレーダー方式、超音波方式、赤外線方式、車載カメラ方式などいずれの方式の公知のデバイスを採用してもよい。
【0026】
車両ECU26は、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29、並びにバッテリ充電量検出手段15、車速センサ16、ナビゲーション装置17及び車間距離センサ18などから取得した各種情報に基づいて、ハイブリッド電気自動車1の動作全体を制御可能に構成された電子制御ユニットである。具体的には、車両ECU26は、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29に制御信号を送受信することによって、エンジン2、クラッチ3、モータ4及び変速機5をはじめとするハイブリッド電気自動車1を構成する各部位の動作状態を制御する。
【0027】
エンジンECU27は、エンジン2の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたエンジン2から出力すべきトルクを出力可能なようにエンジン2における燃料の噴射量や噴射タイミングなどを制御する。
【0028】
インバータECU28は、インバータ10の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたモータ4から出力すべきトルクを出力可能なようにインバータ10を制御することにより、モータ4を力行又は回生駆動するように制御する。
【0029】
バッテリECU29は、バッテリ充電量検出手段15からの情報を、車両ECU26を介して取得することにより、バッテリ11の充電量を求め、当該求めたSOCを車両ECU26に送信する。
【0030】
上述の車両ECU26、エンジンECU
27、インバータECU28及びバッテリECU29は、それぞれCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成される電子制御ユニットであり、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する各種制御を実行することが可能に構成されている。これらの各種の制御の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではない。
【0031】
続いて、以上のように構成されたハイブリッド電気自動車1の具体的な動作について説明する。図2は、本実施例に係るハイブリッド電気自動車1が下り勾配を有する走行路面を進行する様子を模式的に示す模式図である。ここでは図2に示すように、ハイブリッド電気自動車1は、下り勾配を有する走行路面のうち標高Hの位置を走行速度Vで走行しており、当該走行速度Vはドライバーによって予め指定された設定速度Vsetに対して、許容範囲内に収まるように(図2の例では、最下地点bの走行速度Vが上限許容値Vset+Vuppになるように)定速走行制御(いわゆるオートクルーズ制御)されている。また、ハイブリッド電気自動車1の走行路面の前方には、車間距離Lで先行車両2が走行している。
【0032】
図3は下り勾配を有する走行路面を進行するハイブリッド電気自動車1における制御内容を示すフローチャート図である。まず車両ECU26は、ナビゲーション装置17で取得したGPS信号に基づいて、下り勾配を有する走行路面における最下地点bを検出する(ステップS101)。最下地点bの検出は、走行路面の標高Hが最小になる地点として特定される。
【0033】
続いて、車両ECU26はドライバーによって予め指定された設定速度Vsetを取得し(ステップS102)、これに基づいて惰性走行開始地点aを算出する(ステップS103)。ここで惰性走行開始地点aの算出は、惰性走行開始地点aと最下地点bにおけるエネルギー総量が等しいことに着目して、エネルギー保存の法則に基づいて行われる。具体的に説明すると、惰性走行開始地点aと最下地点bにおけるそれぞれの運動エネルギーと位置エネルギーの和が等しいとして、次式が求められる。

ここで、Mはハイブリッド電気自動車1の車重であり、gは重力加速度(=9.8m/s)である。ハイブリッド車両1が下り勾配を惰性走行で進行すると次第に加速する。これを考慮して、惰性走行開始地点aでの走行速度Vが設定速度Vset、最下地点bでの走行速度Vが上限許容値(Vset+Vupp)であると仮定し、(1)式をHについて解くことで、惰性走行開始地点aが算出される。
【0034】
尚、実際のハイブリッド電気自動車1の走行の際には転がり抵抗などのエネルギーロスが生じるため、厳密にはエネルギー保存則は成立しないが、このようなロスの影響を考慮して適宜補正を加えることが好ましい。
【0035】
続いて、車両ECU26は車間距離センサ18からハイブリッド電気自動車1の前方を走行する先行車両2との車間距離Lを取得し、当該取得した車間距離Lが予め設定された所定車間距離L1以上であるか否かを判定する(ステップS104)。ここで、所定車間距離L1は、ハイブリッド電気自動車1の先行車両2に対する安全性を確保するために必要な車間距離として規定され、実験的、理論的又はシミュレーション的な各種手法によって設定するとよい。
【0036】
車間距離が予め設定された所定車間距離L1以上である場合(ステップS104:YES)、上述のように算出された惰性走行開始地点aにハイブリッド電気自動車1が到達すると、車両ECU26はエンジン2への燃料供給を停止し、惰性走行を開始する(ステップS105)。このように最下地点aの手前側から惰性走行を開始することにより、定速走行制御における設定速度Vsetの許容範囲内において惰性走行を行い、燃費性能を効果的に向上させることができる。
【0037】
惰性走行の開始後は、車両ECU26は車速センサ16からの取得値に基づいて、車速Vが設定速度Vset未満になったか否かを判定する(ステップS106)。走行速度Vが設定速度Vset以上である場合(ステップS106:NO)は、当該処理をループ処理しながら待機する。一方、走行速度Vが設定速度Vset未満となった場合(ステップS106:YES)は、車両ECU26は惰性走行を終了する(ステップS107)。これにより走行速度Vを設定速度Vsetの許容範囲に維持しながら、定速走行制御下において惰性走行を効率的に実施することができる。
【0038】
続いて車両ECU26はバッテリ充電量検出手段15からの取得値に基づいてバッテリ11のSOCを取得し、当該SOCが予め設定された所定値SOC1より大きいか否かを判定する(ステップS108)。ここで所定値SOC1は、バッテリ11にモータ4を力行駆動させるだけの電力が蓄えられているか否かを判定するための閾値である。
【0039】
バッテリ11のSOCが所定値SOC1より高い場合(ステップS108:YES)、バッテリ11に十分な電力が残っているため、モータ4を力行駆動することにより、上り勾配によって減速しようとするハイブリッド電気自動車1の走行速度を維持することができる(ステップS109)。このとき、ハイブリッド車両1はバッテリ11に充電された電力を用いてモータ4を駆動することにより走行できるので、エンジン2における燃料消費量を抑え、燃費を向上させることができる。一方、バッテリ11のSOCが所定値SOC1未満である場合(ステップS108:NO)、バッテリ11にモータ4の力行駆動に要する電力が残っていないため、モータ4を力行駆動させることなく、クラッチ3を接続させてエンジン2からの出力によって走行を行う(ステップS110)。
【0040】
一方、車間距離Lが予め設定された所定車間距離L1未満である場合(ステップS104:NO)、走行条件に関わらず惰性走行の実施を禁止する(ステップS111)。惰性走行はハイブリッド電気自動車1が有する慣性力を利用して走行を行うため、下り勾配を走行中の走行速度Vが増大し、先行車両との車間距離Lを十分に確保できなくなる場合があり、危険である。そこで本発明では、惰性走行中に走行車両2との車間距離Lが所定車間距離L1未満となった場合に惰性走行を中止することにより、ハイブリッド電気自動車1の安全性を確保することができる。このように本発明では、定速走行制御下における燃費性能の改善を図ると共に、高度な安全性を実現することができる。
【0041】
続いて車両ECU26はバッテリ充電量検出手段15からの取得値に基づいてバッテリ11のSOCを取得し、当該SOCが予め設定された所定値SOC2より低いか否かを判定する(ステップS112)。ここで所定値SOC2は、バッテリ11にモータ4を回生駆動させた場合に発生した回生電力を充電するだけの余裕があるか否かを判定するための閾値である。
【0042】
バッテリ11のSOCが所定値SOC2より小さい場合(ステップS112:YES)、バッテリ11に充電可能な容量が残っているため、モータ4を回生駆動することにより、バッテリ11の充電を行うと共に、回生制動トルクを発生させることにより下り勾配によってハイブリッド電気自動車1が加速してしまうのを抑制する(ステップS113)。即ち、ハイブリッド電気自動車1が下り勾配を走行して次第に加速しようとする際に、モータ4において回生制動トルクを発生させることによって走行速度Vを設定速度Vsetに維持しつつ、回生エネルギーを電気エネルギーとしてバッテリ11に回収することができる。
【0043】
一方、バッテリ11のSOCが所定値SOC2以上である場合(ステップS112:NO)、バッテリ11に充電可能な容量が残っていないため、モータ4を回生駆動させることなく、クラッチ3を接続させてエンジンブレーキをかける(ステップS114)。これにより、下り勾配によってハイブリッド電気自動車1が加速してしまうのを抑制するのと共に、バッテリ11が過充電されることによって寿命が短縮してしまうのを回避することができる。尚、ステップS114ではエンジンブレーキに代えて、又は、加えてサービスブレーキを自動制御することにより自動ブレーキをかけてもよい。
【0044】
本実施例では特に、上述した所定車間距離L1はハイブリッド電気自動車1の先行車両に対する相対速度Vrに基づいて設定される。図4は、所定車間距離L1とハイブリッド電気自動車1の先行車両2に対する相対速度Vrとの関係を示すグラフ図である。尚、相対速度Vrは、車間距離センサ18により検出された車間距離の時間変化から算出される。
【0045】
図4に示すように、所定車間距離L1は相対速度Vrが大きくなるに従って増加するように設定されている。これにより、相対速度Vrが大きい場合(即ち、車間距離Lが狭まる速度が速い場合)、惰性走行を中止するタイミングの基準となる所定車間距離L1を大きく確保することによって、惰性走行の中止タイミングを早めることができる。即ち、相対速度Vrが大きい場合であっても、車間距離Lをより大きく確保することにより、車両の安全性を確実に確保することができる。これにより、例えば走行速度Vの遅い先行車両2が前方にいる場合に、惰性走行を早めに中止し、安全性を確保することができる。
【0046】
以上説明したように本実施例に係るハイブリッド電気自動車1では、下り勾配を走行中のハイブリッド自動車1において走行速度Vが定速走行制御により設定速度Vsetに維持されている場合に、当該下り勾配の最下地点bより手前にある惰性走行開始地点aから惰性走行が実施される。このように最下地点bの手前側から惰性走行を開始することにより、定速走行制御における設定速度Vsetの許容範囲内において惰性走行を行い、燃費性能を効果的に向上させることができる。一方、惰性走行はハイブリッド自動車1が有する慣性力を利用して走行を行うため、下り勾配を走行中の走行速度Vが増大し、先行車両2との車間距離Lを十分に確保できなくなる場合があり、危険である。そこで本発明では、惰性走行中に先行車両2との車間距離Lが所定車間距離L1未満となった場合に惰性走行を中止することにより、ハイブリッド自動車1の安全性を確保することができる。このように本発明では、定速走行制御下における燃費性能の改善を図ると共に、高度な安全性を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で下り勾配を有する走行路面を走行するハイブリッド電気自動車において、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 ハイブリッド電気自動車
2 エンジン
3 クラッチ
4 モータ
5 変速機
9 駆動輪
11 バッテリ
15 充電量検出手段
16 車速センサ
17 ナビゲーション装置
18 車間距離センサ
26 車両ECU
27 エンジンECU
28 インバータECU
29 バッテリECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で下り勾配を有する走行路面を走行するハイブリッド電気自動車において、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
前記ハイブリッド電気自動車の走行速度を検出する走行速度検出手段と、
前記ハイブリッド電気自動車の先行車両との車間距離を検出する車間距離検出手段と、
前記下り勾配の最下地点より手前側に設定された惰性走行開始地点から惰性走行を開始し、前記車間距離検出手段によって検出された車間距離が予め設定された所定車間距離未満となった場合に前記惰性走行を中止する制御手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記車間距離検出手段により検出された車間距離の時間変化から前記ハイブリッド電気自動車の前記先行車両に対する相対速度を算出し、
前記所定車間距離を前記算出した相対速度が大きくなるに従って増加するように設定したことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
前記バッテリの充電量を検出するバッテリ充電量検出手段を更に備えており、
前記制御手段は、前記惰性走行が中止された際に、前記バッテリ充電量検出手段によって検出されたバッテリ充電量が所定充電量未満である場合に、前記電動機を回生駆動させることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記惰性走行開始地点における走行車速が前記設定速度となり、且つ、前記最下地点における走行車速が前記定速走行制御において許容される走行速度の上限値として予め設定された設定速度上限値となるように、前記惰性走行開始地点を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−131292(P2012−131292A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283769(P2010−283769)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】