説明

乗用型草刈機

【課題】 前輪および後輪を備えた走行機体の後部に原動部を配備し、この原動部の前側に運転座席を設置するとともに、運転座席の後側に門形の転倒保護フレームを立設した乗用型草刈機において、機体全長のコンパクト化を損なうことなく水冷式のエンジンを搭載して高能力化を図る。
【解決手段】 原動部6にラジエータ18を前側に配置した水冷式のエンジン5を収容するとともに、ラジエータ18を転倒保護フレーム45における左右の支柱部45aの間に入り込ませて配置してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転座席の後側に門形の転倒保護フレームを立設した比較的小型の乗用型草刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記乗用型草刈機としては、前輪および後輪を備えた走行機体の後部に原動部を配備し、この原動部の前側に運転座席を設置するとともに、運転座席の後側に門形の転倒保護フレームを立設したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−237953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した従来の乗用型草刈機においては、原動部に空冷式のガソリンエンジンを収容配備して原動部を前後に短いものにすることで、機体全長のコンパクト化が図られているのであるが、走行能力や刈取り能力を高めるために、出力の大きい水冷式のエンジンの導入が望まれている。
【0004】
一般に水冷式のエンジンにおいては、エンジン動力で駆動される冷却ファンで冷却されるラジエータをエンジン前方に配備することになるので、ラジエータおよびエンジンを収容した原動部が前後に長くなりがちとなり、機体全長のコンパクト化が損なわれる。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、機体全長のコンパクト化を損なうことなく、水冷式のエンジンを搭載することができる高能力の乗用型草刈機を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、前輪および後輪を備えた走行機体の後部に原動部を配備し、この原動部の前側に運転座席を設置するとともに、運転座席の後側に門形の転倒保護フレームを立設した乗用型草刈機において、
前記原動部にラジエータを前側に配置したエンジンを収容するとともに、前記ラジエータを前記転倒保護フレームにおける左右の支柱部の間に入り込ませて配置してあることを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、ラジエータおよびエンジンを前後に並べて原動部とすると原動部が前後に長くなるが、ラジエータを転倒保護フレームにおける左右の支柱部の間に入り込ませて配置し、原動部を寄せて配置することにより、前方に寄せられた原動部の後端位置が機体後方に大きく突出することを抑えることができる。
【0008】
従って、第1の発明によると、機体全長のコンパクト化を損なうことなく水冷式のエンジンを搭載した高能力の乗用型草刈機を構成することが可能となる。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記転倒保護フレームにおける左右の支柱部に、前記ラジエータを連結支持する支持部を備えてあるものである。
【0010】
上記構成によると、本来頑強に構成される転倒保護フレームをラジエータ支持フレームに有効に利用することができ、原動部のフレーム構造を簡素化することができる。
【0011】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記走行機体を構成する機体フレームの後部左右箇所に前記転倒保護フレームの左右基端を連結し、機体フレームの前後中間部位の左右箇所と、転倒保護フレームにおける支柱部の基端連結部位より上方の左右箇所とに亘って補助フレームを架設してあるものである。
【0012】
上記構成によると、機体フレームの前後中間が補助フレームによって補強され、機体フレームの上下方向での曲げ剛性が増大し、強度の高い走行機体を構成することができる。また、転倒保護フレームの下部が上下2箇所で支持されることで、転倒保護フレーム自体の起立強度も増大する。
【0013】
第4の発明は、上記第3の発明において、
左右の前記補助フレームの前後複数箇所を横フレームで連結してあるものである。
【0014】
上記構成によると、補助フレームが横荷重に対しても剛性の高いものとなり、機体フレーム全体のねじり強度が高められる。
【0015】
第5の発明は、上記第3または4の発明において、
前記転倒保護フレームにおける前記支柱部の基端連結部位より上方箇所を横外方に屈曲して、転倒保護フレームを下すぼまり形状に構成し、前記支柱部の屈曲箇所に前記補助フレームの後端を連結してあるものである。
【0016】
上記構成によると、転倒保護フレームにおける支柱部の屈曲箇所は剛性が特に大きいものとなり、この屈曲箇所に補助フレームの後端を連結することで、機体フレームと転倒保護フレームとを補助フレームを介して強固に連結することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に、本発明に係る乗用型草刈機の全体側面が、また、図2にその全体平面がそれぞれ示されている。この乗用型草刈機は、左右一対の前輪2および後輪3を備えた走行機体1の前後輪間にバーブレード型のモーア4が昇降自在に吊り下げ支持された、いわゆるミッドマウント仕様に構成されており、走行機体1の後部にはエンジン5を収容した原動部6が配備されるとともに、走行機体1の前後中間部位には運転座席7が配備されている。
【0018】
左右一対の前輪2はキャスタ式の遊転輪で構成されるとともに、左右一対の後輪3は左右独立して無段変速および正逆転操作可能な駆動輪に構成されており、左右の後輪3を等速で共に正転駆動あるいは逆転駆動することで前進あるいは後進での直進走行を行い、左右の後輪3に速度差を与えることで任意の方向に旋回することができるようになっている。
【0019】
図6および図7に示すように、前記走行機体1の機体フレーム8は横幅の広い前側フレーム部8Fと横幅の狭い後側フレーム8Rとで構成されている。前側フレーム部8Fは、大きい左右間隔をもって対向配備してなる左右一対のフレーム杆8aと、左右のフレーム杆8aの前端部および前端部に亘って連結される前部横フレーム8bおよび後部横フレーム8cとで構成されている。後側フレーム部8Rは、前部フレーム部8Fより狭い左右間隔をもって前記後部横フレーム8cに連結された縦向き平板からなる左右一対のフレーム板8dと、左右のフレーム板8dの前後中間部位を連結する横支軸8eと、左右のフレーム板8dの後端部を連結する横フレーム板8fで構成されている。
【0020】
前側フレーム部8Fの前後に前リンク11と後リンク12とがそれぞれ支点a,b周りに上下揺動可能に連結され、これら前リンク11と後リンク12の遊端に亘って前記モーア4が平行四連リンク状に吊り下げ支持されている。後リンク12を連結した揺動支点軸12aからは操作アーム12bが一体延出され、この操作アーム12bと後側フレーム部8Rにおける前記横支軸8eとに亘って単動型の油圧シリンダ13が架設され、油圧シリンダ13が圧油供給によって伸長作動することで後リンク12が上方に駆動揺動されてモーア4が平行に上昇され、油圧シリンダ13が排油によって短縮作動することでモーア4が平行に自重下降するようになっている。
【0021】
前側フレーム部8Fの後端近くからは縦フレーム8gが上向きに突設され、この縦フレーム8gに前記後リンク12の支点bが設けられている。縦フレーム8gには支点c周りに上下揺動可能に上部カバー14が枢支連結され、この上部カバー14に前記運転座席7が前後に位置調節可能に支持されている。
【0022】
後側フレーム部8Rを構成するフレーム板8dにおける後寄り箇所の左右内面と横フレーム板8fの左右内面に取付け金具15,16がそれぞれ突設され、これら前後左右の取付け金具15,16に前記エンジン5が防振搭載されている。
【0023】
エンジン5は、ラジエータ18を前側に配備した水冷式ディーゼルエンジンが使用されて、出力軸心が前後に向かう姿勢に配備されており、エンジン5およびその前側のラジエータ18を覆うボンネッ19が、横フレーム板8fから立設されたステー20の上端に支点d周りに揺動開閉自在に配備されている。ラジエータ18の背部にはエンジン動力で回転駆動される冷却ファン21が配備され、ボンネット19の前端に備えられた防塵構造の吸気口から吸引導入した外気をラジエータ18に供給するよう構成されている。
【0024】
図8〜図10に示すように、ラジエータ18の周囲にはエンジンルーム内の熱気がラジエータ前方に回り込むことを防止する仕切り板22が備えられるとともに、仕切り板22の外周にはボンネット19に弾性密着する中空のシール材(トリム)23が備えられている。このシール材23は、仕切り板の上端縁の外側に沿って配備された上部シール23aと、仕切り板22の左右端辺の背部に沿って配備された側部シール23bとからなり、ボンネット閉じ状態において、上部シール23aがボンネット19の天板内面に直接に押圧接触されるのに対して、側部シール23bは、ボンネット19の左右内側面に突設された押圧片19aが後方から押圧接触されるように構成されている。このように構成することで、開放されたボンネット19を閉じる際に、ボンネット19の左右内側面でシール部材23が擦られて仕切り板22から外れることが防止されている。
【0025】
図12に示すように、エンジンルーム内に収容されたマフラー24からは排気管25が屈曲延出されてボンネット19の後端から機外に突出されている。排気管25は、マフラー24から突設された尾管24aに小間隙sをもって外挿され、小間隙sからエゼクタ作用で吸入した外気で高温の排気を希釈するよう構成されている。排気管25の屈曲部位の下手箇所にも切り込みkが形成され、排気の流動に伴うエゼクタ作用で切り込みkから吸入した外気で排気を希釈して更なる低温化が図られている。
【0026】
後側フレーム部8Rを構成する左右のフレーム板8dの前後中間箇所に後輪駆動部30が連結支持されている。図3及び図4に示すように、後輪駆動部30は、エンジン5からの出力を受ける中央伝動ケース31と、その左右に連結された一対の静油圧式無段変速装置(HST)32と、後輪2を軸支した左右一対の減速ケース33とから構成されている。中央伝動ケース31に後方から入力されたエンジン動力が左右に分岐されて静油圧式無段変速装置32に伝達され、静油圧式無段変速装置32からの変速出力が減速ケース33内でギヤ減速されて後輪2の車軸34に伝達されるようになっている。また、中央伝動ケース31の前面にPTO軸35が突出しており、PTO軸35から取り出された作業用動力がモーア4に軸伝達されるようになっている。
【0027】
静油圧式無段変速装置32は周知のアキシャルプランジャ型が採用されており、内臓された可変容量型ポンプ(図示せず)の斜板角度を変更して吐出油量および吐出方向を変更することで、内臓された定容量型モータ(図示せず)を無段階に正逆転作動させるよう構成されている。各静油圧式無段変速装置32の斜板角操作部と運転座席7の左右に前後揺動操作可能に配備された変速レバー36とがリンク連動されており、変速レバー36を前後中立位置に保持すると静油圧式無段変速装置32が中立停止状態となり、変速レバー36を中立位置から前方に操作することで前進変速が、後方に操作することで後進変速が行えるようになっている。
【0028】
機体フレーム8における前側フレーム部8Fには、運転座席7の足元に位置するステップ37が搭載装着されるとともに、運転座席7の左右にはフェンダ38が配備され、フェンダ38の下方には燃料タンク39がそれぞれ配備されている。
【0029】
左右の減速ケース33には多板式のブレーキ40がそれぞれ装備されており、各ブレーキ40がステップ前部の中央近くに配備されたブレーキペダル41にリンク連動され、ブレーキペダル41の踏込みによって左右のブレーキ40が同時に制動操作されるようになっている。ブレーキペダル41の横側には、ブレーキペダル41を踏込み位置に保持する駐車用のブレーキロックペダル42が配備されている。左右の各ブレーキ40は、左右の変速レバー36を中立位置において横外方に操作することによっても左右独立して制動操作されるようになっており、片側の後輪2を停止させて他方の後輪2のみを駆動してピボットターン(信地旋回)を行う場合に活用することができる。
【0030】
運転座席7の後部には門形の転倒保護フレーム45が略鉛直に立設固定されている。転倒保護フレーム45は、その上下中間部位で支点e周りに後方に折り畳み可能に構成されており、樹木の幹回りの草刈り時に転倒保護フレーム45を折り畳むことで、転倒保護フレーム45を張出した枝に引っ掛かけることなく作業ができるよう構成されている。
【0031】
転倒保護フレーム45における左右の支柱部45aの下端部が、後側フレーム部8Rにおける左右フレーム板8dにボルト連結されている。転倒保護フレーム45の支柱部45aは、その上下中間より上側が横外方に屈曲されて、全体として下すぼまり形状に形成さている。左右の支柱部45aにおける屈曲箇所には縦向き連結片46が備えられている。前側フレーム部8Fにおけるフレーム杆の後側部位には縦フレーム8gが上向きに突設されており、この縦フレーム8gと転倒保護フレーム45の縦向き連結片46とに亘って補助フレーム47が架設されている。
【0032】
補助フレーム47は、その前後2箇所において横フレーム47aで連結された剛性の高い中抜き枠状に構成されており、機体フレーム8における前側フレーム部8Fと転倒保護フレーム45とが枠状の補助フレーム47で連結されることで、機体フレーム8全体の上下曲げ剛性およびねじれ剛性が高められている。
【0033】
転倒保護フレーム45の左右の支柱部45aにおける屈曲箇所には横向き連結片48が備えられており、この横向き連結片48に形成した取付け孔49にラジエータ18の下端部が防振ゴム50を介して連結支持されている。ラジエータ18は若干後方に倒れた傾斜姿勢で立設されており、機体横側方から見て、転倒保護フレーム45の左右の支柱部45aの間にラジエータ18が入り込んだ状態に重複配置されている。横向き連結片48に形成された取付け孔49は左右2箇の連結孔をつないだ横向き達磨形に形成されていて、横幅サイズの異なるラジエータ18の連結支持が可能となっている。
【0034】
前記補助フレーム47には、前記上部カバー14とボンネット19とを閉じ姿勢に固定するロック機構51が備えられている。図3及び図5に示すように、補助フレーム47に支点f周りに前後揺動可能、かつ、バネ52で前方へ向けて揺動付勢されたロック部材53が装着され、ロック部材53に備えられた左右のフック部53aが上部カバー14の左右に備えたロック孔54に係止されることで、上部カバー14が閉じ姿勢に固定されるようになっている。このロック部材53には支点g周りに前後揺動可能なロック爪56が枢支連結されており、ボンネット19の前端下部に備えられた係止片57にロック爪56が前方から係止することでボンネット19が閉じ姿勢に固定されるようになっている。
【0035】
前記ロック部材53における左右のフック部53aは上部カバー14のロック孔54から大きく突出されており、左右いずれか一方のフック部53aを手作業で前方に移動操作することで、ボンネット19のロック解除と上部カバー14のロック解除を順次行えるようになっている。ロック位置にあるフック部53aをロック孔54から外れない範囲で前方に移動操作すると、ロック部材53の前方揺動に伴ってロック爪56が前方に移動して係止片57から外れ、ボンネット19のロックが解除される。更にフック部53aをロック孔54から外れるまで大きく前方に移動操作させることで、上部カバー14のロックを解除することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】乗用型草刈機の全体側面図
【図2】乗用型草刈機の全体平面図
【図3】機体後部の側面図
【図4】機体後部の背面図
【図5】ボンネットおよび上部カバーを開放した機体後部の側面図
【図6】機体フレームおよび転倒保護フレームを示す側面図
【図7】機体フレームおよび転倒保護フレームを示す分解斜視図
【図8】ラジエータ支持構造を示す斜視図
【図9】ラジエータ周辺のシール構造を示す側面図
【図10】ラジエータ周辺のシール構造を示す平面図
【図11】上部カバーおよびボンネットのロック構造を示す斜視図
【図12】マフラーの排気構造を示す断面図
【符号の説明】
【0037】
1 走行機体
2 前輪
3 後輪
5 エンジン
6 原動部
7 運転座席
8 機体フレーム
18 ラジエータ
45 転倒保護フレーム
45a 支柱部
47 補助フレーム
47a 横フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪を備えた走行機体の後部に原動部を配備し、この原動部の前側に運転座席を設置するとともに、運転座席の後側に門形の転倒保護フレームを立設した乗用型草刈機において、
前記原動部にラジエータを前側に配置した水冷式のエンジンを収容するとともに、前記ラジエータを前記転倒保護フレームにおける左右の支柱部の間に入り込ませて配置してあることを特徴とする乗用型草刈機。
【請求項2】
前記転倒保護フレームにおける左右の支柱部に、前記ラジエータを連結支持する支持部を備えてある請求項1記載の乗用型草刈機。
【請求項3】
前記走行機体を構成する機体フレームの後部左右箇所に前記転倒保護フレームの左右基端を連結し、機体フレームの前後中間部位の左右箇所と、転倒保護フレームにおける支柱部の基端連結部位より上方の左右箇所とに亘って補助フレームを架設してある請求項1または2記載の乗用型草刈機。
【請求項4】
左右の前記補助フレームの前後複数箇所を横フレームで連結してある請求項3記載の乗用型草刈機。
【請求項5】
前記転倒保護フレームにおける前記支柱部の基端連結部位より上方箇所を横外方に屈曲して、転倒保護フレームを下すぼまり形状に構成し、前記支柱部の屈曲箇所に前記補助フレームの後端を連結してある請求項3または4記載の乗用型草刈機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−196862(P2007−196862A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18101(P2006−18101)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】