説明

交換結合膜及び磁気デバイス

【課題】従来に比べて交換結合力が高く、かつ製造が容易な交換結合膜及びその交換結合膜を備えた磁気デバイスを提供する。
【解決手段】本発明に係る交換結合膜30は、Ru−Rh合金からなる非磁性層31を2つの強磁性層32a,32bで挟んだ構造を有している。本発明の交換結合膜を磁気ヘッド(読み取り素子)に適用する場合、例えば非磁性層31の厚さを0.4〜0.5nmとし、Rh含有量を5〜40at%とする。また、本発明の交換結合膜を磁気記録媒体に適用する場合、例えば非磁性層31の厚さを0.4〜0.6nmとし、Rh含有量を5〜70at%とする。更に、本発明の交換結合膜をMRAMに適用する場合、非磁性層31の厚さを例えば0.3〜0.7nmとし、Rh含有量を5〜40at%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録装置用読み取り素子及び磁気記録媒体、並びにMRAM(Magnetic Random-Access Memory)等の磁気デバイスに使用される交換結合膜及びその交換結合膜を備えた磁気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録装置(ハードディスクドライブ)の磁気記録媒体及び読み取り素子、並びにMRAM等の磁気デバイスには、図1に示すように非磁性層11を2つの強磁性層12a,12bで挟んだ構造の交換結合膜10が用いられている。強磁性層12a,12bは、それらの磁化方向が反平行方向となる交換結合をしており、その交換結合力(交換結合エネルギー)は、例えば非特許文献1,2に記載されているように、非磁性層11の厚さに関係する。
【0003】
図2(a)は非磁性層としてRu(ルテニウム)からなる層を用いたときの非磁性層の厚さと飽和磁場Hs及び反平行状態が崩れる磁場Hsfとの関係を示す図、図2(b)は非磁性層としてCr(クロム)からなる層を用いたときの非磁性層の厚さと飽和磁場Hs及び反平行状態が崩れる磁場Hsfとの関係を示す図、図2(c)は非磁性層としてIr(イリジウム)からなる層を用いたときの非磁性層の厚さと飽和磁場Hs及び反平行状態が崩れる磁場Hsfとの関係を示す図、図2(d)は非磁性層としてRh(ロジウム)からなる層を用いたときの非磁性層の厚さと飽和磁場Hs及び反平行状態が崩れる磁場Hsfとの関係を示す図である。これらの図2(a)〜(d)からわかるように、飽和磁場Hsは非磁性層の厚さに対し周期的に変化し、ピーク強度及びそのピーク強度が得られる厚さは非磁性層の材質により異なる。また、非磁性層の厚さが厚いほど、ピーク強度は小さくなる。
【0004】
飽和磁場と交換結合エネルギーとは比例関係にあり、飽和磁場をHs、交換結合エネルギーをJ12とすると、両者の関係は下記(1)式のようになる。
J12=Hs/((1/tBS1)+(1/tBS2)) …(1)
ここで、tBS1は強磁性層12aの飽和磁化と厚さとの積であり、tBS2は強磁性層12bの飽和磁化と厚さとの積である。
【0005】
一般的に、磁気デバイスの交換結合膜の非磁性層には、厚さが0.6〜0.9nmのRu層が用いられている。このRu層の厚さは、図2(a)からわかるように、非磁性層の厚さと飽和磁場Hsとの関係を示す曲線の2番目のピークに対応している。
【0006】
本願発明者等は、デバイスの安定性を調べるために、交換結合エネルギーと読み取り素子のHua及びMRAMの記録層の保磁力Hcとの関係を計算により求めた。以下、その結果について説明する。なお、Huaは、図3に示すように、読み取り素子(磁気抵抗効果素子)において高抵抗状態から磁場を更に印加してΔR/2+Rminとなったときの磁場である。ここで、Rminは読み取り素子の低抵抗状態のときの抵抗値であり、ΔRは読み取り素子の低抵抗状態のときの抵抗値と高抵抗状態のときの抵抗値との差である。Huaの値が大きいほど磁場安定性が高いということができる。
【0007】
読み取り素子のHuaは、JP1P2をパラメータとし、tBsP1=3.2nmT、tBsP2=3.6nmTの場合についてR−H(抵抗−磁場)曲線を計算して求めた.ここで、JP1P2は読み取り素子の交換結合膜(シンセティックフェリピン層)の一方の強磁性層(ピンド層)と他方の強磁性層(リファレンス層)との間の交換結合エネルギーであり、tBsP1は一方の強磁性層(ピンド層)の膜厚と飽和磁化との積、tBsP2は他方の強磁性層(リファレンス層)の膜厚と飽和磁化との積である。
【0008】
図4(a)は、横軸に交換結合エネルギーJP1P2をとり、縦軸にHuaをとって、両者の関係を示す図である。この図4(a)から、読み取り素子を構成する交換結合膜の交換結合エネルギーが高いほど、読み取り素子の磁場安定性が向上することがわかる。
【0009】
一方、MRAMの記録層の保磁力は、JF1F2をパラメータとし、tBsF1=1.9nmT、tBsF2=3.6nmTの場合について磁化曲線を計算して求めた。ここで、JF1F2はMRAMの交換結合膜の一方の強磁性層と他方の強磁性層との間の交換結合エネルギーであり、tBsF1は一方の強磁性層の膜厚と飽和磁化との積、BsF2は他方の強磁性層の膜厚と飽和磁化との積である。
【0010】
図4(b)は、横軸に交換結合エネルギーJF1F2をとり、縦軸に記録層の保磁力(Hc)をとって、両者の関係を示す図である。この図4(b)から、交換結合膜の交換結合エネルギーが高いほど、MRAMの記録層の保磁力が増大し、磁場安定性及び熱安定性が向上することがわかる。
【0011】
また、磁気記録媒体(磁気ディスク)では、裏打ち層(Antiparallel coupled SUL:APS)層の交換結合エネルギーが大きいほど、サイドイレーズ、スパイクノイズ及び書き込み領域の拡がりが抑制されることが知られている。
【0012】
図5は、横軸に透磁率(μ90%)をとり、縦軸にサイドイレースによる信号減衰量(ATE:Adjacent Track Erasure)をとって、両者の関係を示す図である(非特許文献3)。この図5から、透磁率(μ90%)が低いほど、サイドイレーズによる信号の減衰が小さいことがわかる。透磁率(μ90%)は交換結合膜(裏打ち層)の交換結合エネルギーが高いほど小さくなるので、交換結合膜の交換結合エネルギーが高いほどサイドイレーズが減少するということができる。
【0013】
その他、本発明に関係すると思われる従来技術として、特許文献1〜3に記載されたものがある。特許文献1には、硬磁性層と軟磁性層との間にルテニウムを含む非磁性層を配置した垂直磁気記録媒体や、硬磁性層と軟磁性層との間に、バナジウム、クロム、銅、モリブデン及びロジウムの少なくとも1種を含む非磁性層を配置した垂直磁気記録媒体が記載されている。また、特許文献2には、固定磁性層又はフリー磁性層が、非磁性中間層を介して第1及び第2の磁性層に分断された構造のスピンバルブ型薄膜磁気素子(磁気ヘッド)が記載されている。更に、特許文献3には、MRAMの構造及び動作が記載されている。
【特許文献1】特開2006−31932号公報
【特許文献2】特開2001−143223号公報
【特許文献3】特開2004−103125号公報
【非特許文献1】S. S. P. Parkin, Phys. Rev. Lett., 67, 3598 (1991).
【非特許文献2】M. Saito, N. Hasegawa, K. Tanaka, Y. Ide, F. Koike, and T. Kuryama, J. Appl. Phys., 87, 6974 (2000).
【非特許文献3】J. Zhou, B. R. Acharya, P. Gill, and E. N. Abarra, IEEE Trans. on Magn., 40, 3160 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
交換結合膜の非磁性層としてRu層を用いる場合、磁気デバイスの安定性という観点から、Ru層の厚さは図2(a)の非磁性層の厚さと飽和磁場Hsとの関係を示す曲線の1番目のピークに対応する厚さ、すなわち0.3〜0.4nmとすることが好ましいことが明らかである。また、図2(a)〜(d)から、交換結合膜の非磁性層としてIr又はRhからなる層を使用すれば、Ruからなる層を使用した場合に比べて交換結合力が高くなることがわかる。一方、前述したように、従来は、一般的に交換結合膜の非磁性層として、厚さが0.6〜0.9nmのRu層が用いられている。以下に、その理由を説明する。
【0015】
交換結合膜の非磁性層として厚さが0.3〜0.4nmのRu層を使用するためには、Ruを1〜2原子分の厚さに均一に成膜することが必要である。しかし、現状ではRuを1〜2原子分の厚さに均一に成膜することは困難であり、製造コストが著しく増大してしまう。また、Ruの1番目のピークではピーク幅が狭いので、わずかな層厚の変化により交換結合力が大きく変化してしまうという問題もある。
【0016】
非磁性層としてRh又はIrからなる層を用いると、例えば前述の非特許文献1,2に記載されているように、Ruからなる層を用いた場合に比べて交換結合力が高くなる。また、非磁性層としてRh又はIrからなる層を用いた場合は、非磁性層の厚さを0.5〜0.7nmと比較的厚くしても、高い交換結合力を得ることができる。従って、交換結合膜の非磁性層としてRh又はIrからなる層を用いることが考えられる。
【0017】
しかし、非磁性層としてRh又はIrからなる層を用いた交換結合膜は、熱処理により交換結合力が消失してしまうという問題がある。
【0018】
図6は、横軸に非磁性層の厚さをとり、縦軸に交換結合エネルギーをとって、非磁性層としてRu、Rh又はIrからなる層を用いた交換結合膜の熱処理前の交換結合エネルギーと熱処理後の交換結合エネルギーとを示す図である。なお、この実験には、図7に示すように、基板21の上に厚さが3nmのRu層22を形成し、その上に交換結合膜23を形成し、更にその上に厚さが5nmのRu層26を形成した試験体を用いている。また、交換結合膜23は、厚さが3nmのCoFe層(下側強磁性層)24aと、Ir、Rh又はRuからなる非磁性層25と、厚さが4nmのCoFe層(上側強磁性層)24bとにより構成されている。
【0019】
図6に示すように、非磁性層としてRh又はIrからなる層を用いた交換結合膜は、熱処理前の交換結合エネルギーは高いものの、熱処理後には交換結合エネルギーが消失していることがわかる。一方、非磁性層としてRuからなる層を用いた交換結合膜では、熱処理の前後で交換結合力が変化していない。従って、交換結合膜を形成した後に熱処理を施す必要がある場合は、非磁性層としてRh又はIrからなる層を使用することはできない。
【0020】
また、本願発明者等の研究から、交換結合膜の強磁性層として例えばCoFeBを使用した場合に、非磁性層としてRh層を使用すると交換結合が得られないことが判明している。つまり、熱処理を施す必要がない場合も、非磁性層としてRhを使用できないことがある。
【0021】
本発明の目的は、従来に比べて交換結合力が高く、かつ製造が容易な交換結合膜及びその交換結合膜を備えた磁気デバイスを提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、従来に比べて交換結合力が高く、製造が容易であり、かつ熱処理を施しても交換結合力が消失しない交換結合膜及びその交換結合膜を備えた磁気デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一観点によれば、非磁性層と、前記非磁性層を挟んで配置されて磁化が反平行方向に交換結合した第1及び第2の強磁性層とを有し、前記非磁性層がRu−Rh合金により構成されていることを特徴とする交換結合膜が提供される。
【0024】
本願発明者等は、交換結合力が高く、かつ熱処理によって交換結合力が消失することがない交換結合膜を得るべく、種々実験検討を行った。その結果、RuとRhとの合金からなる層を非磁性層として用いることにより、上記の目的を達成できるとの知見を得た。本発明は、このような実験に基づいてなされたものである。
【0025】
本願発明に係る交換結合膜を磁気ヘッドの読み取り素子に適用すると、磁気ヘッドの磁場安定性及び耐熱性が向上する。また、本発明に係る交換結合膜を磁気記録媒体に適用すると、サイドイレーズ、スパイクノイズ及び書き込み領域の拡がりが抑制される。更に、本発明の交換結合膜をMRAMに適用すると、MRAMの記録層の保磁力が増大し、磁場安定性及び熱安定性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して説明する。
【0027】
図8は、本発明の実施形態に係る交換結合膜を示す斜視図である。この図8に示すように、本実施形態の交換結合膜30は、RuとRhとの合金(Ru−Rh合金)からなる非磁性層31を2つの強磁性層32a,32bで挟んだ構造を有している。強磁性層32a,32bはCo、Ni及びFeのうちの少なくとも一種を含む強磁性体で構成されており、それらの磁化方向が反平行方向となるように磁気的に結合している。
【0028】
図9(a)は、横軸に非磁性層の厚さをとり、縦軸に交換結合エネルギーをとって、Ru、Ru−Rh合金及びRhからなる非磁性層を用いた交換結合膜の熱処理前における非磁性層の厚さと交換結合エネルギーとの関係を示す図である。また、図9(b)は、横軸に非磁性層の厚さをとり、縦軸に交換結合エネルギーをとって、Ru、Ru−Rh合金及びRhからなる非磁性層を用いた交換結合膜の熱処理(300℃)後における非磁性層の厚さと交換結合エネルギーとの関係を示す図である。この図9(a),(b)において、Ru30Rh70は、Ruの含有量が30at%、Rhの含有量が70at%のRu−Rh合金を示し、Ru60Rh40は、Ruの含有量が60at%、Rhの含有量が40at%のRu−Rh合金を示し、Ru80Rh20は、Ruの含有量が80at%、Rhの含有量が20at%のRu−Rh合金を示している。
【0029】
なお、ここでは図10に示すように、基板41の上に厚さが3nmのTa層42及び厚さが2nmのRu層42を形成し、その上に交換結合膜43を形成し、更に交換結合膜43の上に厚さが3nmのRu層46を形成している。交換結合膜43は、厚さが3nmのCoFe層(下側強磁性層)44aと、Ru、Ru−Rh合金又はRhからなる非磁性層45と、厚さが5nmのCoFeB層(上側強磁性層)44bとにより構成されている。
【0030】
図9(a),(b)からわかるように、非磁性層としてRu−Rh合金を使用した場合は、Rh添加量が多いほど1番目のピークの位置が右側(層厚が厚いほう)にシフトし、且つピークの幅が広くなる。また、Rh含有量が70at%のRu−Rh合金(Ru30Rh70合金)を用いた交換結合膜は、熱処理前には交換結合が観測されるが、熱処理後には交換結合が消失することがわかる。本願発明者等の実験の結果、ピークの位置を層厚が厚いほうに十分シフトさせるためにはRh含有量を5at%以上含有させる必要があり、熱処理後でも交換結合を維持するためには、Rhの含有量を40at%以下とする必要があることが判明した。この場合、1番目のピークに対応する非磁性層の厚さは0.3〜0.7nmとなる。
【0031】
すなわち、交換結合膜の非磁性層としてRh含有量が5〜40at%のRu−Rh合金を用いることにより、Ruを用いた場合に比べて交換結合エネルギーの最初のピークが現れる厚さが厚くなり、例えば200℃以上の温度で熱処理しても交換結合力が保持される。特にRh含有量が20〜30at%の場合は、Ruに比べて10%程度大きい交換結合力が得られる。これにより、磁気デバイスの安定性が向上する。また、この場合は、非磁性層の厚さを0.4〜0.7nmと比較的厚くすることができるので、非磁性層を均一な厚さに形成することが容易である。
【0032】
なお、図9(a)からわかるように、上側強磁性層としてCoFeBを使用した場合、非磁性層としてRh層を用いると交換結合力を得ることができない。従って、従来は交換結合膜の強磁性層としてCoFeB層を用いる場合は、非磁性層としてRu層が用いられていた。しかし、前述した理由により、非磁性層としてRu層を用いる場合は、Ru層の厚さを0.6〜0.9nmとする必要があり、大きな交換結合力を得ることができなかった。このような場合にも、非磁性層として厚さが0.3〜0.7nmのRu−Rh合金層を使用すると、大きな交換結合力を得ることができる。つまり、本発明は、交換結合膜の形成後に高温で熱処理を施す必要がない場合も、非磁性層としてRu−Rh合金層を用いることにより、従来に比べて大きな交換結合力を得ることができる。この場合、Rhの含有量は70at%以下とすることが好ましい。
【0033】
(磁気ヘッド)
以下、本発明を磁気ヘッドの読み取り素子(磁気抵抗効果素子)のフェリピン層に適用した例について説明する。
【0034】
図11は磁気ヘッドの構成を示す断面図である。この図11に示すように、磁気記録装置の磁気ヘッドは、スライダーとなる基板51の上に形成された下部磁気シールド層52と、下部磁気シールド層52の上に形成されて磁気記録媒体(磁気ディスク)から情報を読み取る読み取り素子(磁気抵抗効果素子)53と、読み取り素子53の上方に形成された上部磁気シールド層54と、上部磁気シールド層54の上に形成されて磁気記録媒体に情報を書き込む書き込み素子(インダクティブヘッド)55とにより構成されている。読み取り素子53は、トンネル磁気抵抗効果膜、CIPスピンバルブ膜又はCPPスピンバルブ膜により構成される。ここでは、書き込み素子53が、トンネル磁気抵抗効果膜を用いたTMR素子により構成されているものとする。
【0035】
図12(a)〜(c)は、TMR素子の製造方法を工程順に示す断面図である。この図12(a)〜(c)を参照して、TMR素子の製造方法を説明する。なお、ここでは,TMR素子を構成する各層をいずれもスパッタリング法により形成するものとする。また、図12(a)〜(c)は、磁気記録媒体側(図10の左側)から見たときの構造を示している。
【0036】
まず、図12(a)に示す構造を形成するまでの工程を説明する。Al23−TiC等の非磁性体からなる基板51の上にAl23膜(図示せず)を形成し、その上に例えばNiFeにより下部磁気シールド層52を2〜3μmの厚さに形成する。そして、この下部磁気シールド層52の上に下地層61を5nm以上の厚さに形成する。この下地層61は、例えばTa/Ru積層膜、Ta/NiFe積層膜、NiCr膜又はNiFeCr膜により構成する。
【0037】
次に、下地層61の上に反強磁性層62を例えば5nmの厚さに形成する。反強磁性層62は、例えばIrMn膜、PtMn膜又はPdPtMn膜により構成する。
【0038】
次に、反強磁性層62の上に、下側強磁性層(ピンド層)64aとして厚さが1.5nmのCoFe層を形成し、その上に非磁性層65として厚さが0.5nmのRu80Rh20合金層を形成し、更にその上に上側強磁性層(リファレンス層)64bとして厚さが2.5nmのCoFeB層を形成する。これらの下側強磁性層64a、非磁性層65及び上側強磁性層64bにより、本発明の一実施形態に係る交換結合膜(シンセティックフェリピン層)63が構成される。
【0039】
なお、非磁性層65は、Rh含有量が5〜40at%のRu−Rh合金により形成することが好ましく、Rh含有量が20〜30at%のRu−Rh合金により形成することがより一層好ましい。また、非磁性層65の厚さは、0.3〜0.7nmとすることが好ましく、0.4〜0.7nmとすることがより一層好ましい。
【0040】
次に、交換結合膜63の上にトンネルバリア層66として厚さが1.0nmのMgO層を形成し、その上にフリー層67として厚さが3.0nmのCoFeB層を形成する。その後、フリー層67の上にキャップ層68として、厚さが3nm以上のTa層、Ru層又はそれらの積層膜を形成する。このようにして、下地層61、反強磁性層62、交換結合膜(シンセティックフェリピン層)63、トンネルバリア層66、フリー層67及びキャップ層68からなる磁気抵抗効果膜69が形成される。
【0041】
次に、フォトレジスト法により、磁気抵抗効果膜69の上に所定の形状のレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとして下部磁気シールド層51が露出するまでイオンミーリングを施して、図12(b)に示すように磁気抵抗効果膜69を所定の形状に加工する。
【0042】
次に、図12(c)に示す構造を形成するまでの工程を説明する。上述のように磁気抵抗効果膜69を所定の形状に加工した後、レジストパターンを残したまま、スパッタリング法により基板50の上側全面に厚さが3〜10nmの絶縁膜70を形成する。その後、スパッタリング法により、絶縁膜70の上にCoCrPtを堆積させて、磁気抵抗効果膜69の両側に磁区制御層71を形成する。次いで、レジストパターンを除去する。
【0043】
次に、磁区制御層71の表面を平坦化した後、磁気抵抗効果膜69及び磁区制御層71の上に例えばNiFeからなる上部磁気シールド層54を2〜3μmの厚さに形成する。このようにして、下部磁気シールド層52と上部磁気シールド層54との間に配置された読み取り素子(TMR素子)53が完成する。
【0044】
次いで、公知の方向により、上部磁気シールド層54の上に書き込み素子55、すなわち主磁極、コイル及び補助磁極等を形成する(図11参照)。このようにして、本実施形態に係る磁気ヘッドの製造が完了する。
【0045】
図12(a)〜(c)のようにして形成された磁気ヘッドにおいて、磁気記録媒体に記録された情報に基づく磁界に応じてフリー層67の磁化の方向が変化し、その結果読み取り素子53の抵抗値が変化する。この抵抗値の変化を電気的に検出することにより、磁気記録媒体に記録された情報を読み取ることができる。
【0046】
以下、上述した方法により形成した磁気ヘッド(書き込み素子)の特性を調べた結果について説明する。
【0047】
上述の方法により、実験例1〜4の磁気ヘッドを製造した。各実験例の磁気ヘッドの構成を、図13にまとめて示す。なお、実験例2,4は本発明の実施例に係る磁気ヘッドであり、実験例1,3は比較例に係る磁気ヘッドである。
【0048】
図14は、横軸に測定温度をとり、縦軸にHuaをとって、実験例1〜4の各磁気ヘッドの熱に対する耐性を調べた結果を示す図である。この図14に示すように、測定温度が低い場合は、反強磁性層としてIrMnを使用した実験例3,4の磁気ヘッドのほうが、反強磁性層としてPtMnを使用した実験例1,2の磁気ヘッドよりもHuaの値が高い。しかし、測定温度が高くなると、非磁性層としてRuを用いた実験例1,3の磁気ヘッド(比較例)は、非磁性層としてRu80Rh20を用いた実験例2,4の磁気ヘッド(実施例)よりもHuaの値が小さくなる。
【0049】
図15は、実験例1の磁気ヘッド(比較例)の30℃、100℃、150℃及び200℃におけるR−H曲線である。この図15に示すように、実験例1の磁気ヘッドでは、温度が150℃以上の場合はR−H曲線に乱れが発生し、プラスの磁場を印加したときとマイナスの磁場を印加したときとで抵抗値の差が小さくなる。このことから、磁気ヘッドのフェリピン層にピン反転が生じていることがわかる。
【0050】
図16は、横軸に測定温度をとり、縦軸にピン反転確率をとって、各測定温度における実験例1〜4の磁気ヘッドのピン反転確率を調べた結果を示す図である。但し、ここでは、各実験例1〜4毎にそれぞれ50個のサンプルを用意して、各測定温度におけるピン反転確率を求めている。
【0051】
この図16に示すように、実験例1(比較例)では30℃以上の温度により、実験例3(比較例)では125℃以上の温度によりピン反転が発生しているのに対し、実験例2,4(いずれも実施例)では200℃の温度でもピン反転は発生していない。これらのことから、本発明に係る交換結合膜を用いた磁気ヘッド(読み出し素子)は、非磁性層としてRu層を用いた磁気ヘッドに比べて磁場安定性及び耐熱性が優れていることがわかる。
【0052】
本実施形態において、非磁性層として厚さが0.4〜0.5nmのRu80Rh20層を用いた場合は、非磁性層として厚さが0.8nmのRu層を用いた場合に比べて、約3倍の大きな交換結合力を得ることができる。また、非磁性層として厚さが0.4nmのRu層を用いた場合に比べても、約1.1倍の交換結合力を得ることができる。
【0053】
(磁気記録媒体)
以下、本発明を垂直磁気記録媒体の裏打層に適用した例について説明する。
【0054】
図17(a),(b)及び図18は垂直磁気記録媒体の製造方法を工程順に示す断面図である。
【0055】
最初に、図17(a)に示す構造を形成するまでの工程について説明する。まず、例えば直径が2.5インチの円盤状の基板81を用意し、基板81の表面に例えばNiPめっきを施す。基板81には、非磁性であり、表面が平坦であって、機械的強度が高いことが要求される。基板81としては、例えばアルミニウム合金板、結晶化ガラス板、表面が化学強化処理されたガラス板、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板、又はプラスチック板等を用いることができる。
【0056】
次に、基板81の上に、圧力が0.5PaのAr(アルゴン)雰囲気中で投入電力を1kWとするDC(直流)スパッタ法でCoNbZrを例えば25nmの厚さに堆積して、アモルファス構造の第1軟磁性層(下側強磁性層)82aを形成する。
【0057】
第1軟磁性層82aは上述したCoNbZr層に限定されず、Co(コバルト)、Fe(鉄)及びNi(ニッケル)のうちの1種以上の元素と、Zr(ジルコニウム)、Ta(タンタル)、C(カーボン)、Nb(ニオブ)、Si(シリコン)及びB(ホウ素)のうちの1種以上の元素とを含むアモルファス又は微結晶構造の合金からなる層を第1軟磁性層82aとしてもよい。そのような材料としては、例えばCoNbTa、FeCoB、NiFeSiB、FeAlSi、FeTaC及びFeHfC等がある。量産性を考慮すると、第1軟磁性層82aの飽和磁化は1T(テスラ)程度とすることが好ましい。
【0058】
なお、本実施形態では第1軟磁性層82aをDCスパッタ法により形成しているが、DCスパッタ法に代えて、RF(高周波)スパッタ法、パルスDCスパッタ法又はCVD(Chemical Vapor Deposition )法等を採用してもよい。以降のDCスパッタ法を用いた成膜工程においても同様である。
【0059】
次に、第1軟磁性層82aの上に、例えば圧力が0.5PaのAr雰囲気中で投入電力を150WとするDCスパッタ法により、非磁性層83としてRu−Rh合金層を例えば0.5nmの厚さに形成する。
【0060】
続いて、圧力が0.5PaのAr雰囲気中で投入電力を1kWとするDCスパッタ法により、非磁性層83の上にCoNbZrを例えば5nmの厚さに堆積して、第2軟磁性層(上側強磁性層)82bを形成する。第2軟磁性層82bを構成する材料はCoNbZrに限定されるものではなく、第1軟磁性層82aと同様に、Co、Fe及びNiのうちの1種以上の元素と、Zr、Ta、C、Nb、Si及びBのうちの1種以上の元素とを含むアモルファス又は微結晶構造の合金の層を第2軟磁性層82bとしてもよい。このようにして、軟磁性層(強磁性層)82a,82b及び非磁性層83により構成される裏打ち層(交換結合膜)84が形成される。
【0061】
非磁性層83を挟んで2つの軟磁性層(第1軟磁性層82a及び第2軟磁性層83b)が積層された構造の裏打層84では、図17(a)に示すように、非磁性層83を介して隣接する第1軟磁性層82a及び第2軟磁性層82bの飽和磁化Ms1,Ms2が互いに逆向き(反平行)の状態、すなわち第1軟磁性層82a及び第2軟磁性層82bが反強磁性結合した状態で安定する。このような状態は、非磁性層83の厚さを増加させることで周期的に現れる。その状態が最初に現れる厚さに非磁性層83の厚さを設定することが好ましい。非磁性層83をRu80Rh20により形成する場合、その厚さは例えば0.4〜0.6nmとする。
【0062】
このように第1軟磁性層82aの飽和磁化Ms1と第2軟磁性層82bの飽和磁化Ms2とが互いに逆向き(反平行)となることで、これらの磁化に起因する磁束が互いに打ち消しあって、外部磁場がないときに裏打層84全体の磁気モーメントが実質的に0になる。その結果、裏打層84から外部に放出される漏洩磁束が低減され、データ読み取り時に漏洩磁束に起因して発生するスパイクノイズが低減される。
【0063】
非磁性層83は、Rh含有量が5〜70at%のRu−Rh合金により形成することが好ましい。また、非磁性層83の厚さは0.3〜0.7nmとすることが好ましく、0.4〜0.7nmとすることがより一層好ましい。
【0064】
裏打層84の膜厚は、その飽和磁束密度Bsが1T以上の場合、磁気ヘッドによる書き込み容易性や再生容易性の観点から10nm以上とすることが好ましく、30nm以上とすることがより一層好ましい。但し、裏打層84の膜厚が厚すぎると製造コストが上昇するので、裏打層84の膜厚は100nm以下とすることが好ましく、60nm以下とすることがより一層好ましい。
【0065】
次いで、第2軟磁性層2cの上に、例えば圧力が0.67PaのAr雰囲気中でマグネトロンスパッタ法により厚さが約10.5nmのFeCoB層を形成し、このFeCoB層をシード層85とする。
【0066】
FeCoBシード層85の厚さは、磁気特性を改善するという観点から3nm以上とすることが必要である。また、量産時の膜厚制御の容易性と電磁変換特性とを考慮すると、シード層85の厚さは5nm以上とすることが好ましい。
【0067】
次に、図17(b)に示す構造を形成するまでの工程について説明する。上述したように裏打層84及びFeCoBシード層85を形成した後、FeCoBシード層85の上に例えば圧力が0.67PaのAr雰囲気中でスパッタ法により非磁性NiFeCrを堆積して、fcc(面心立方)構造の結晶配向制御層86を形成する。この結晶配向制御層86は、その下にFeCoBシード層85が形成されているため、第2軟磁性層82bの表面状態に拘わらず、良好なfcc構造となる。この結晶配向制御層86の膜厚は、その上に形成される下地層87及び記録層88,89の結晶配向性を制御するという観点から、3nm以上とすることが好ましい。
【0068】
なお、結晶配向制御層86は、非磁性材料により形成してもよく、磁性材料により形成してもよい。結晶配向制御層86を非磁性材料により形成する場合は、厚さが厚すぎると磁気ヘッドと裏打ち層84との間の距離が広がって記録密度の向上が困難になる。このため、結晶配向制御層86を非磁性材料により形成する場合は、厚さを20nm以下、より好ましくは10nm以下とする。また、結晶配向制御層86を磁性材料により形成する場合は、膜厚が厚すぎると結晶配向制御層86からのノイズが増大してS/N比が劣化してしまう。このため、結晶配向制御層86を磁性材料により形成する場合は、厚さを10nm以下とすることが好ましい。
【0069】
次に、圧力が8PaのAr雰囲気中で投入電力を250WとするDCスパッタ法により、結晶配向制御層86の上にRu層を約20nmの厚さに形成し、そのRu層を非磁性下地層87とする。この非磁性下地層87を構成するRu層は、fcc構造の結晶配向制御層86の上に成膜されるため、その結晶構造はhcp構造となり、結晶性も良好である。
【0070】
なお、非磁性下地層87は、Ru層に代えて、Co、Cr、W及びReのうちのいずれか1種の元素とRuとを含む合金の層により形成してもよい。また、非磁性下地層87は単層構造に限定されず、電磁変換特性向上等の目的のために2層以上の層で構成してもよい。
【0071】
次に、CoCrPt及びSiO2により構成されるターゲットを用いたDCスパッタ法により、非磁性下地層87の上に第1記録層88を形成する。このときのスパッタは、例えばAr雰囲気中で投入電力が350Wの条件で行う。これにより、非磁性体(SiO2)88a中にCoCrPtからなる磁性粒子88bが分散された構造(グラニュラ構造)の第1記録層88が形成される。この第1記録層88の膜厚は特に限定されないが、ここでは第1記録層88の厚さを11nmとする。
【0072】
第1記録層88の下のRuよりなる非磁性下地層87は、その結晶構造がhcp(六角最密)構造であり、垂直方向に磁性粒子88bの配向を揃えるように機能する。その結果、磁性粒子88bは、非磁性下地層87と同じように垂直方向に延びたhcp構造の結晶構造となり、且つhcp構造の六角柱の高さ方向(C軸)が磁化容易軸になって、第1記録層88が垂直磁気異方性を示すようになる。
【0073】
なお、本実施形態では、第1記録層88中の非磁性体88aの材料としてSiO2を用いたが、SiO2以外の酸化物を非磁性体88aの材料としてもよい。そのような酸化物としては、例えば、Ta、Ti、Zr、Cr、Hf、Mg及びAlのいずれかの元素の酸化物がある。また、Si、Ta、Ti、Zr、Cr、Hf、Mg及びAlのいずれかの元素の窒化物を非磁性体88bの材料としてもよい。
【0074】
また、第1記録層88中の磁性粒子88bの材料として、上記のCoCrPtの他に、Co、Ni及びFeのいずれか一種の金属元素を含む合金を用いてもよい。
【0075】
次に、図18に示す構造を形成するまでの工程について説明する。上述したように第1記録層88を形成した後、第1記録層88の上に、Ar雰囲気中で投入電力を400WとするDCスパッタ法により、第2記録層89としてhcp構造のCoCrPtB層を例えば6nmの厚さに形成する。
【0076】
この第1記録層88上に形成された第2記録層89は、第1記録層88と同様に垂直磁気異方性を示す。第2記録層89を構成するCoCrPtB層は、その下の第1記録層88中の磁性粒子88bと同じhcp構造を有するため、第1記録層88の上に結晶性のよい第2記録層89が形成される。なお、第2記録層89はCoCrPtB層に限定されず、Co、Ni及びFeのうちの少なくとも1種の金属元素を含む合金よりなる層を第2記録層89として形成してもよい。
【0077】
上述したようにして第2記録層89を形成した後、C22ガスを反応ガスとするRF−CVD(Radio Frequency Chemical Vapor Deposition)法により、第2記録層89の上に保護層90としてDLC(Diamond Like Carbon)層を厚さ約4nmに形成する。この保護層90の成膜条件は、例えば、圧力が約4Pa、高周波投入電力が1000W、基板とシャワーヘッドとの間のバイアス電圧が200V、基板温度が200℃である。
【0078】
次に、保護層90の上に潤滑剤(不図示)を約1nmの厚さに塗布した後、研磨テープを用いて保護層90の表面突起及び異物を除去する。このようにして、本実施形態に係る磁気記録媒体が完成する。なお、保護層90及び潤滑剤の層は必要に応じて形成すればよく、本発明において必須の構成要素ではない。
【0079】
このように構成された磁気記録媒体において、磁気ヘッド(書き込み素子の主磁極)で発生した磁界は、第1及び第2の記録層88,89を通って裏打ち層に到達する。このとき、磁束密度が高くなるように主磁極の断面積が設定されているため、第1及び第2の記録層88,89は垂直方向に磁化されて、情報が磁気的に記録される。一方、裏打ち層84に到達した磁界は、裏打ち層84を面内方向に通り、更に第1及び第2の記録層88,89を通って磁気ヘッド(書き込み素子の補助磁極)に還流する。このとき、磁束密度が低くなるように補助磁極の断面積が設定されているため、第1及び第2の記録層88,89の磁化方向に変化を与えない。
【0080】
本実施形態に係る磁気記録媒体は、裏打層(交換結合膜)84の交換結合エネルギーが高いため、サイドイレーズ、スパイクノイズ及び書き込み領域の拡がりが抑制される。
【0081】
(磁気記録装置)
図19は磁気記録装置を示す平面図である。
【0082】
磁気記録装置100は、その筐体内に、円盤状の磁気記録媒体(磁気ディスク)101と、磁気ディスク101を回転させるスピンドルモータ(図示せず)と、データの書き込み及び読み出しを行う磁気ヘッド102と、磁気ヘッド102を保持するサスペンション103と、サスペンション103を磁気ディスク101の半径方向に駆動制御するアクチュエータ(図示せず)とを有している。
【0083】
磁気ヘッド102及び磁気記録媒体101は、それぞれ上述の実施形態で説明した構造を有している。
【0084】
スピンドルモータにより磁気記録媒体101が高速で回転すると、磁気記録媒体101の回転によって生じる空気流により、磁気ヘッド102は磁気記録媒体101から若干浮上する。アクチュエータにより磁気ヘッド102が磁気記録媒体101の半径方向に移動し、磁気記録媒体51に対してデータの書き込み又は読み出しが行われる。
【0085】
このように構成された磁気記録装置は、上述した構造の磁気ヘッド102及び磁気記録媒体101を使用しているので、磁気記録媒体101に書き込まれるデータの信頼性が向上する。
【0086】
(MRAM)
図20は、MRAMを構成するTMR素子のリファレンス層に本発明を適用した例を示す断面図である。
【0087】
MRAMを構成するTMR素子は、反強磁性層111と、リファレンス層(交換結合膜)112と、トンネルバリア層115と、記録層116と、絶縁層117と、配線(ワード線)118とにより構成されている。リファレンス層112は、厚さが0.3〜0.7nmnのRu−Rh合金からなる非磁性層113と、この非磁性層113を挟んで配置された2つの軟磁性層(強磁性層)114a,114bとにより構成されている。
【0088】
軟磁性層114a,114bは、Fe、Ni及びCoの少なくとも1種を含む強磁性体により構成される。反強磁性層111は、PtMn等の反強磁性体の薄膜からなる。記録層116はFe、Ni及びCoの少なくとも1種を含む強磁性体(半硬質磁性膜)により構成される。MRAMの基本的な構造及び動作は、前述の特許文献3に記載されている。
【0089】
このように構成された本発明の実施形態に係るMRAMにおいて、リファレンス層112の非磁性層113がRu−Rh合金により形成されており、交換結合エネルギーが高いため、非磁性層をRuにより形成した従来のMRAMに比べて記録層116の保磁力が大きく、磁場安定性及び熱安定性が向上する。
【0090】
非磁性層113は、Rh含有量が5〜40at%のRu−Rh合金により形成することが好ましい。また、非磁性層113の厚さは0.3〜0.7nmとすることが好ましく、0.4〜0.7nmとすることがより一層好ましい。
【0091】
なお、上記実施形態ではMRAMのリファレンス層に本発明を適用した場合について説明したが、本発明を記録層に適用してシンセティックフェリフリー構造の記録層としてもよい。すなわち、記録層を、厚さが0.3〜0.7nmのRu−Rh合金からなる非磁性層と、この非磁性層を挟む第1及び第2の強磁性層により構成してもよい。この場合、第1の磁性層の飽和磁化M1、厚さt1とし、第2の磁性層の飽和磁化をM2、厚さをt2としたときに、M1・t1≠M2・t2となるようにする。
【0092】
以下、本発明の諸態様を、付記としてまとめて記載する。
【0093】
(付記1)非磁性層と、
前記非磁性層を挟んで配置されて磁化が反平行方向に交換結合した第1及び第2の強磁性層とを有し、
前記非磁性層がRu−Rh合金により構成されていることを特徴とする交換結合膜。
【0094】
(付記2)その製造工程で熱処理が施される磁気デバイスに使用され、前記Ru−Rh合金のRh含有量が40%at以下であることを特徴とする付記1に記載の交換結合膜。
【0095】
(付記3)その製造工程で熱処理を必要としない磁気デバイスに使用され、前記Ru−Rh合金のRh含有量が70at%以下であることを特徴とする付記1に記載の交換結合膜。
【0096】
(付記4)前記第1及び第2の強磁性層が、Co、Fe及びBを含む合金により構成されていることを特徴とする付記3に記載の交換結合膜。
【0097】
(付記5)前記Ru−Rh合金のRh含有量が5at%以上、40at%以下であることを特徴とする付記1に記載の交換結合膜。
【0098】
(付記6)前記非磁性層の厚さが0.3nm以上、0.7nm以下であることを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【0099】
(付記7)前記第1及び第2の強磁性層が、Co、Ni及びFeのうちの少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【0100】
(付記8)磁気記録媒体から情報を読み出す磁気ヘッドにおいて、
基板と、
前記基板上に形成された第1の磁気シールド層と、
前記第1の磁気シールド層の上に形成された反強磁性層と、
前記反強磁性層の上に形成された交換結合膜と、
前記交換結合膜の上に形成されたバリア層と、
前記バリア層の上に形成されたフリー層と、
前記フリー層の上に形成された第2の磁気シールド層とを有し、
前記交換結合膜が、Ru−Rh合金により構成される非磁性層と、該非磁性層を挟んで配置されて磁化が反平行方向に交換結合した第1及び第2の強磁性層とにより構成されていることを特徴とする磁気ヘッド。
【0101】
(付記9)前記非磁性層の厚さが0.4nm以上、0.5nm以下であることを特徴とする付記8に記載の磁気ヘッド。
【0102】
(付記10)前記Ru−Rh合金のRh含有量が5at%以上、40at%以下であることを特徴とする付記8に記載の磁気ヘッド。
【0103】
(付記11)情報を磁気的に記録する磁気記録媒体において、
基板と、
前記基板上に形成された交換結合膜と、
前記交換結合膜上に形成された結晶配向層と、
前記結晶配向層の上に形成された記録層とを有し、
前記交換結合膜が、Ru−Rh合金により構成される非磁性層と、該非磁性層を挟んで配置されて磁化が反平行方向に交換結合した第1及び第2の強磁性層とにより構成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【0104】
(付記12)前記記録層がグラニュラ構造を有することを特徴とする付記11に記載の磁気記録媒体。
【0105】
(付記13)前記非磁性層の厚さが0.3nm以上、0.7nm以下であることを特徴とする付記11に記載の磁気記録媒体。
【0106】
(付記14)前記交換結合膜の厚さが10nm以上、100nm以下であることを特徴とする付記11に記載の磁気記録媒体。
【0107】
(付記15)前記Ru−Rh合金のRh含有量が5at%以上、70at%以下であることを特徴とする付記11に記載の磁気記録媒体。
【0108】
(付記16)磁気抵抗効果素子により情報を磁気的に記録するMRAMにおいて、
反強磁性層と、
前記反強磁性層の上に形成されたリファレンス層と、
前記リファレンス層の上に形成されたバリア層と、
前記バリア層の上に形成された記録層と、
前記記録層の上方に絶縁層を介して配置された配線とを有し、
前記リファレンス層及び前記記録層の少なくとも一方が、Ru−Rh合金により構成される非磁性層と、該非磁性層を挟んで配置されて磁化が反平行方向に交換結合した第1及び第2の強磁性層とにより構成されていることを特徴とするMRAM。
【0109】
(付記17)前記非磁性層の厚さが0.3nm以上、0.7nm以下であることを特徴とする付記16に記載のMRAM。
【0110】
(付記18)前記Ru−Rh合金のRh含有量が5at%以上、40at%以下であることを特徴とする付記16に記載のMRAM。(10)
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、従来の交換結合膜を示す斜視図である。
【図2】図2(a)〜(d)は、非磁性層としてRu、Cr、Ir及びRhからなる層を用いたときの非磁性層の厚さと飽和磁場Hs及び反平行状態が崩れる磁場Hsfとの関係を示す図である。
【図3】図3は、Huaの定義を示す図である。
【図4】図4(a)は交換結合エネルギーJP1P2とHuaとの関係を示す図、図4(b)は交換結合エネルギーJF1F2とHc(保磁力)との関係を示す図である。
【図5】図5は、透磁率(μ90%)とサイドイレースによる信号減衰量(ATE)との関係を示す図である。
【図6】図6は、非磁性層としてRu、Rh又はIrからなる層を用いた交換結合膜の熱処理前の交換結合エネルギーと熱処理後の交換結合エネルギーとを示す図である。
【図7】図7は、熱処理前及び熱処理後の交換結合エネルギーを調べるときに用いた試験体の構造を示す断面図である。
【図8】図8は、本発明の実施形態に係る交換結合膜を示す斜視図である。
【図9】図9(a)はRu、Ru−Rh合金及びRhからなる非磁性層を用いた交換結合膜の熱処理前における非磁性層の厚さと交換結合エネルギーとの関係を示す図、図9(b)はは同じくその熱処理後における非磁性層の厚さと交換結合エネルギーとの関係を示す図である。
【図10】図10は、熱処理前及び熱処理後の交換結合エネルギーを調べるときに用いた試験体の構造を示す断面図である。
【図11】図11は、本願発明に係る磁気ヘッドの構成を示す断面図である。
【図12】図12(a)〜(c)は、磁気ヘッドを構成するTMR素子の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図13】図13は、実験例1〜4の磁気ヘッドの構成を示す図である。
【図14】図14は、実験例1〜4の磁気ヘッドの熱に対する耐性を調べた結果を示す図である。
【図15】図15は、実験例1の磁気ヘッド(比較例)の30℃、100℃、150℃及び200℃におけるR−H曲線である。
【図16】図16は、各測定温度における実験例1〜4の磁気ヘッドのピン反転確率を調べた結果を示す図である。
【図17】図17(a),(b)は垂直磁気記録媒体の製造方法に示す断面図(その1)である。
【図18】図18は垂直磁気記録媒体の製造方法を示す断面図(その2)である。
【図19】図19は、磁気記録装置を示す平面図である。
【図20】図20は、MRAMを構成するTMR素子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0112】
10,23,30,43,63…交換結合膜、
11,25,31,45,65,83,113…非磁性層、
12a,12b,24a,24b,32a,32b,44a,44b,64a,64b,114a,114b…強磁性層、
21,40,51,81…基板、
22,26,42,46…Ru層、
41…Ta層、
52…下部磁気シールド層、
53…読み取り素子、
54…上部磁気シールド層、
61,87…下地層、
62,111…反強磁性層、
66,115…トンネルバリア層、
67…フリー層、
68…キャップ層、
70…絶縁膜、
71…磁区制御層、
82a,82b…軟磁性層、
84…裏打ち層、
85…シード層、
86…配向制御層、
88,89…記録層、
90…保護層、
100…磁気記録装置、
101…磁気ディスク、
102…磁気ヘッド、
103…サスペンション、
112…リファレンス層、
118…配線(ワード線)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性層と、
前記非磁性層を挟んで配置されて磁化が反平行方向に交換結合した第1及び第2の強磁性層とを有し、
前記非磁性層がRu−Rh合金により構成されていることを特徴とする交換結合膜。
【請求項2】
その製造工程で熱処理が施される磁気デバイスに使用され、前記Ru−Rh合金のRh含有量が40%at以下であることを特徴とする請求項1に記載の交換結合膜。
【請求項3】
その製造工程で熱処理を必要としない磁気デバイスに使用され、前記Ru−Rh合金のRh含有量が70at%以下であることを特徴とする請求項1に記載の交換結合膜。
【請求項4】
前記非磁性層の厚さが0.3nm以上、0.7nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【請求項5】
磁気記録媒体から情報を読み出す磁気ヘッドにおいて、
基板と、
前記基板上に形成された第1の磁気シールド層と、
前記第1の磁気シールド層の上に形成された反強磁性層と、
前記反強磁性層の上に形成された交換結合膜と、
前記交換結合膜の上に形成されたバリア層と、
前記バリア層の上に形成されたフリー層と、
前記フリー層の上に形成された第2の磁気シールド層とを有し、
前記交換結合膜が、Ru−Rh合金により構成される非磁性層と、該非磁性層を挟んで配置されて磁化が反平行方向に交換結合した第1及び第2の強磁性層とにより構成されていることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項6】
前記Ru−Rh合金のRh含有量が5at%以上、40at%以下であることを特徴とする請求項5に記載の磁気ヘッド。
【請求項7】
情報を磁気的に記録する磁気記録媒体において、
基板と、
前記基板上に形成された交換結合膜と、
前記交換結合膜上に形成された結晶配向層と、
前記結晶配向層の上に形成された記録層とを有し、
前記交換結合膜が、Ru−Rh合金により構成される非磁性層と、該非磁性層を挟んで配置されて磁化が反平行方向に交換結合した第1及び第2の強磁性層とにより構成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
前記Ru−Rh合金のRh含有量が5at%以上、70at%以下であることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
磁気抵抗効果素子により情報を磁気的に記録するMRAMにおいて、
反強磁性層と、
前記反強磁性層の上に形成されたリファレンス層と、
前記リファレンス層の上に形成されたバリア層と、
前記バリア層の上に形成された記録層と、
前記記録層の上方に絶縁層を介して配置された配線とを有し、
前記リファレンス層及び前記記録層の少なくとも一方が、Ru−Rh合金により構成される非磁性層と、該非磁性層を挟んで配置されて磁化が反平行方向に交換結合した第1及び第2の強磁性層とにより構成されていることを特徴とするMRAM。
【請求項10】
前記Ru−Rh合金のRh含有量が5at%以上、40at%以下であることを特徴とする請求項9に記載のMRAM。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−72014(P2008−72014A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250737(P2006−250737)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】