説明

位相同期回路および位相同期回路を用いた半導体装置

【課題】スタンバイ状態からの復帰後、電圧制御発振器に入力される電圧信号が短時間で一定となる、消費電力の低減された位相同期回路を提供することを課題とする。
【解決手段】電圧制御発振器の入力端子とループフィルタを構成する容量素子の間に、酸化物半導体材料を用いて半導体層を形成したトランジスタを設け、通常動作状態の時には当該トランジスタをオン状態に、スタンバイ状態の時には当該トランジスタをオフ状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相同期回路に関する。また本発明は、当該位相同期回路を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位相同期回路(PLL:Phase Locked Loop)は、外部から入力された周期信号に同期した周期信号を生成する機能や、外部から入力された周期信号に対してN倍(Nは自然数)の周期を持つ周期信号を生成する機能を有する。あるいは、位相同期回路は、周期信号に近いデータ信号が入力されると、安定した周期信号を生成する機能を有する。
【0003】
位相同期回路の基本的な構成については、下記特許文献1などに記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−065525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
位相同期回路の構成としては、例えば、図3に示すように、位相同期回路100は位相比較器102(PFD:Phase Frequency Detector)、チャージポンプ104(CP:Charge Pump)、ループフィルタ106(LPF:LooP Filter)、電圧制御発振器108(VCO;Voltage Controlled Oscillator)、分周器110を備えた構成がある。なお、ループフィルタ106は、容量素子122を備えている。
【0006】
位相比較器102には、外部から入力された周期信号と、電圧制御発振器108からの出力信号を分周器110で分周した周期信号、の2つの周期信号が入力され、2つの周期信号の位相差に応じた信号(以下、位相差信号と記載する場合もある)を出力する。
【0007】
位相比較器102から出力される位相差信号は、チャージポンプ104およびループフィルタ106によって電圧信号に変換される。そして、当該電圧信号が電圧制御発振器108に入力される。
【0008】
電圧制御発振器108は、ループフィルタ106より入力される電圧信号に基づいて、分周器110および外部に周期信号を出力し、再び分周器110から位相比較器102に周期信号が入力される。
【0009】
位相同期回路100は全体としてフィードバック制御系を成しており、上述の動作が連続的に行われ、外部から位相比較器102に入力される周期信号と、分周器110から位相比較器102に入力される周期信号の位相差がゼロになった時点で、位相同期回路100はロックされる。つまり、電圧制御発振器108に入力される電圧信号が一定(以下、安定電圧と略記する場合もある)となり、電圧制御発振器108から出力される周期信号の周期(周波数)が一定となる。
【0010】
なお、位相比較器102から出力される位相差信号を、電圧制御発振器108に入力する電圧信号に変換するにあたり、電圧信号の安定性や応答性はチャージポンプ104およびループフィルタ106に大きく依存している。そして、電圧信号の安定性と応答性はトレードオフの関係にある。
【0011】
図2に、フィードバック制御系の安定性と応答性の関係についての概念を記載する。図2(A)は、「応答性は悪いが安定性は良い」場合の一例であり、電圧信号の変化は遅いものの、電圧信号が安定するまでの時間(以下、安定化時間と略記する場合もある。図2(A)の安定化時間Aに相当)は短い。これに対し、図2(B)は、「応答性は良いが安定性が悪い」場合の一例であり、電圧信号の変化は早いものの、早すぎるが故に電圧信号が発振してしまい、安定化時間(図2(B)の安定化時間Bに相当)が長い。
【0012】
位相同期回路は、図2(A)に示すような「高い安定性と」、図2(B)に示すような「高い応答性」を両立することが理想的ではあるが、前述のとおり、電圧信号の安定性と応答性はトレードオフの関係にあるため、どのような位相同期回路においても安定化時間が必要となる。
【0013】
なお、上述にて記載した「電圧信号が安定」とは、電圧信号が完全に一定になることのみを指すものではなく、電圧信号の変動が、各々の装置を動作させるための許容範囲内に収まっている状態を含めたものである。
【0014】
一方、昨今の集積回路は、スタンバイ機能(パワーオフ機能)を備えている場合が多く、位相同期回路の動作を全て停止することで、消費電力を大幅に抑えることができる。しかし、位相同期回路をスタンバイ状態にすると、チャージポンプや電圧制御発振器の動作も停止するため、ループフィルタ中の容量素子に蓄えられた電位(電荷)が無くなってしまう。このため、スタンバイ状態から復帰した後に、チャージポンプとループフィルタにより、電圧制御発振器に入力される電圧信号を再度安定電圧に戻す動作が必要となるため、当該動作に時間を要するという問題がある。また、電圧信号を一定状態に戻すまでの間に、無駄な電力を消費してしまう。
【0015】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものである。したがって、本発明は、スタンバイ状態からの復帰後、電圧制御発振器に入力される電圧信号が短時間で一定となる、消費電力の低減された位相同期回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明では、位相同期回路中の電圧制御発振器の入力端子と、ループフィルタを構成する容量素子の間に、半導体層(少なくともチャネル形成領域)に酸化物半導体材料を含むトランジスタ(以下、OS(Oxide Semiconductor)トランジスタと略記する場合もある)を設け、位相同期回路が通常動作状態の時にはOSトランジスタをオン状態に、位相同期回路がスタンバイ状態の時にはOSトランジスタをオフ状態とする。
【0017】
OSトランジスタはオフ電流を十分に小さくすることができるため、OSトランジスタをオフ状態とした場合、容量素子に蓄えられた電位(電荷)を長期間に渡って保持することができる。
【0018】
これにより、位相同期回路がロックされた状態(つまり、電圧制御発振器に入力される電圧信号が一定となり、電圧制御発振器から出力される周期信号の周期が一定となった状態)で位相同期回路をスタンバイ状態とし、チャージポンプや電圧制御発振器の動作を停止しても、容量素子には位相同期回路がロックされた状態に対応した電位(電荷)が蓄えられている。
【0019】
したがって、位相同期回路をスタンバイ状態から復帰させると、容量素子に蓄えられた電位(電荷)が速やかに電圧制御発振器に入力されるため、位相同期回路は短時間でロックされた状態に移行する。
【0020】
すなわち、本発明の一態様は、トランジスタおよび容量素子を有するループフィルタを備える位相同期回路であり、トランジスタの半導体層は酸化物半導体材料を含み、トランジスタがオフ状態となった後に位相同期回路がスタンバイ状態となり、トランジスタがオン状態となった後に位相同期回路がスタンバイ状態から復帰する位相同期回路である。
【0021】
なお、上記位相同期回路において、半導体層としてIn、Ga、Sn及びZnから選ばれた一種以上の元素を含んでなる層を用いることができる。
【0022】
また、本発明の一態様は、第1の周期信号および第2の周期信号が入力され、第1の周期信号および第2の周期信号の位相差に応じた第3の周期信号を出力する位相比較器と、第3の周期信号が入力され、第3の周期信号に応じた第1のアナログ信号を出力するチャージポンプと、第1のアナログの信号が入力され、第1のアナログ信号を平滑化した第2のアナログ信号を出力するループフィルタと、第2のアナログ信号が入力され、第2のアナログ信号に応じた第4の周期信号を出力する電圧制御発振器と、第4の周期信号が入力され、第4の周期信号を分周した第1の周期信号を出力する分周器を備え、ループフィルタはトランジスタおよび容量素子を有し、トランジスタの半導体層は酸化物半導体材料を含み、トランジスタのソース電極またはドレイン電極の一方はチャージポンプおよび電圧制御発振器と電気的に接続され、かつ、トランジスタのソース電極またはドレイン電極の他方は容量素子と電気的に接続され、トランジスタがオフ状態となった後に位相同期回路がスタンバイ状態となり、トランジスタがオン状態となった後に位相同期回路がスタンバイ状態から復帰する位相同期回路である。
【0023】
なお、上記位相同期回路において、半導体層としてIn、Ga、Sn及びZnから選ばれた一種以上の元素を含んでなる層を用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
スタンバイ状態からの復帰後、短時間でロックすることの可能な、消費電力の低減された位相同期回路を提供することができる。
【0025】
なお、本明細書において、オフ電流とは、広義にトランジスタがオフ状態のときに流れるドレイン電流を指す。
【0026】
また、トランジスタのオフ状態とは、nチャネル型トランジスタにおいて、ゲート電圧がしきい値電圧より低い状態を指し、pチャネル型トランジスタにおいて、ゲート電圧がしきい値電圧より高い状態を指す。
【0027】
また、ドレイン電流とは、トランジスタのソース−ドレイン間の電流を指し、ゲート電圧とは、ソース電位を基準としたときのゲート電位との電位差を指す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一態様に係る位相同期回路の回路構成を説明する図。
【図2】電圧信号の安定性と応答性の関係についての概念図。
【図3】位相同期回路の回路構成例を説明する図。
【図4】本発明の一態様に係る位相同期回路と一般的な位相同期回路の電圧信号の変動の違いについて説明する図。
【図5】本発明の一態様に係るOSトランジスタの上面図および断面図。
【図6】本発明の一態様に係るOSトランジスタの作製方法を説明する図。
【図7】本発明の一態様に係るOSトランジスタの作製方法を説明する図。
【図8】計算によって得られた移動度のゲート電圧依存性を説明する図である。
【図9】計算によって得られたドレイン電流と移動度のゲート電圧依存性を説明する図である。
【図10】計算によって得られたドレイン電流と移動度のゲート電圧依存性を説明する図である。
【図11】計算によって得られたドレイン電流と移動度のゲート電圧依存性を説明する図である。
【図12】計算に用いたトランジスタの断面構造を説明する図である。
【図13】In、Sn、Znを主成分とした酸化物半導体膜を半導体層として用いたトランジスタの特性図。
【図14】In、Sn、Znを主成分とした酸化物半導体膜を半導体層として用いたトランジスタの特性図。
【図15】In、Sn、Znを主成分とした酸化物半導体膜を半導体層として用いたトランジスタの特性図。
【図16】In、Sn、Znを主成分とした酸化物半導体膜のXRDスペクトル図。
【図17】In、Sn、Znを主成分とした酸化物半導体膜を半導体層として用いたトランジスタのオフ電流と測定時の基板温度(絶対温度)の逆数との関係を示す図。
【図18】酸化物半導体膜成膜後に650℃の加熱処理を行った試料のトランジスタについての、基板温度と電気的特性の関係図。
【図19】酸化物半導体膜成膜後に650℃の加熱処理を行った試料のトランジスタについての、基板温度と電気的特性の関係図。
【図20】酸化物材料の構造を説明する図。
【図21】酸化物材料の構造を説明する図。
【図22】酸化物材料の構造を説明する図。
【図23】酸化物材料の結晶構造を説明する図。
【図24】本発明の一態様に記載の位相同期回路を備える半導体装置の図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
開示する発明の実施の形態の一例について、図面を用いて以下に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0030】
なお、図面等において示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、理解の簡単のため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0031】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様に係る位相同期回路300のブロック図の一例を、図1を用いて説明すると共に、本発明において特異な効果を発揮するループフィルタ306に着目して位相同期回路300の駆動方法について説明を行う。
【0032】
<本実施の形態における位相同期回路のブロック図の一例>
本実施の形態に示す位相同期回路300は、位相比較器302と、チャージポンプ304と、ループフィルタ306と、電圧制御発振器308と、分周器310を有する構造であり、ループフィルタ306は内部にトランジスタ320および容量素子322を備えている。
【0033】
位相比較器302には、入力端子301より周期信号が入力されると共に、電圧制御発振器308から出力された後に分周器310により分周された周期信号が入力され、これら2つの周期信号の位相差に応じた周期信号(位相差信号)をチャージポンプ304に出力する機能を有している。なお、位相同期回路300がロックされた状態(つまり、電圧制御発振器308に入力される電圧信号が一定となり、電圧制御発振器308から出力される周期信号の周期が一定となった状態)では、位相比較器302に入力される2つの周期信号に位相差が無いため、位相比較器302から周期信号は出力されない状態となる。
【0034】
チャージポンプ304は、位相比較器302から入力される位相差信号を電流信号に変換し、当該電流信号をループフィルタ306に出力する機能を有している。
【0035】
ループフィルタ306は、チャージポンプ304から出力される電流信号を電圧信号に変換する機能を有し、変換された電圧信号を電圧制御発振器308に出力する機能を有している。
【0036】
変換される電圧Vは、ループフィルタ306に入力される電流信号をi、容量素子322の容量をCとすると、以下の式により表すことができる。
【0037】
【数1】

【0038】
ループフィルタ306は、元の信号を積分する、つまり、変化の激しい信号成分(高周波成分)をフィルタリングし平滑化する役割がある。これは、制御を安定動作させるために重要であり、Cを大きくすることで応答性は悪くなるが安定性は良くなる。
【0039】
また、ループフィルタ306は、電圧制御発振器308の入力端子と容量素子322との間に、半導体層(少なくともチャネル形成領域)に酸化物半導体材料を含むOSトランジスタ320(図中では通常のトランジスタと差別化するため、トランジスタ符号に「OS」の文字を付して記載する)を有している。OSトランジスタ320は、位相同期回路300が通常動作状態の際はオン状態としておき、位相同期回路300をスタンバイ状態とする直前にオフ状態とする。OSトランジスタ320はオフ電流が極めて小さいため、位相同期回路300をスタンバイ状態とした後においても、容量素子322には、OSトランジスタ320をオフ状態にした際の電位(電荷)が長期間保持される。また、位相同期回路300をスタンバイ状態から復帰させる直前にOSトランジスタ320をオン状態とする。これにより、容量素子322に保持された、OSトランジスタ320をオフ状態にした際の電位(電荷)を、電圧制御発振器308に速やかに供給できるため、電圧制御発振器308に入力される電圧信号を安定電圧に戻す時間を短縮することができる。なお、OSトランジスタ320の作製方法等については、実施の形態2にて詳細説明を行う。
【0040】
なお、位相同期回路300がロックされるまでの過程において、チャージポンプ304から出力される電流信号の大きさに応じて容量素子322が充放電を繰り返し、位相同期回路300がロックした時点で電圧信号が一定に安定する。近年では位相同期回路300は無線LAN、携帯電話、デジタル放送などの、周波数を高速に切り替える用途にも多用されており、これに伴いループフィルタ306には非常に高い(早い)応答特性が求められている。このため、電圧制御発振器308と容量素子322の間に設けるOSトランジスタにおいても、高い(早い)応答特性、つまり高い移動度が求められる。本明細書において説明する、半導体層(少なくともチャネル形成領域)に酸化物半導体材料を含むトランジスタは、上述の高い移動度が求められる用途への使用にも十分に耐えうるだけの特性を有している。OSトランジスタ320の有する当該特性については、実施の形態2および実施の形態3にて詳細説明を行う。
【0041】
電圧制御発振器308は、ループフィルタ306から入力される電圧信号に応じた周期信号を出力端子309および分周器310に出力する機能を有している。
【0042】
分周器310は、電圧制御発振器308から入力される周期信号を分周し、位相比較器302に出力する機能を有している。
【0043】
以上が、本実施の形態における位相同期回路300のブロック図例の説明である。
【0044】
<本実施の形態における位相同期回路の駆動方法>
本実施の形態における位相同期回路300の駆動方法は、基本的には、前述した一般的な位相同期回路の駆動方法と同様である。しかし、本実施の形態のように、ループフィルタ306中にOSトランジスタ320を用いる事により、位相同期回路300をスタンバイ状態から復帰した際の、ループフィルタ306から出力される電圧信号の変動に特異な効果が見られる。
【0045】
そこで以下では、本実施の形態における位相同期回路300において、出力端子309から所望の周期(周波数)の周期信号が得られた後に位相同期回路300をスタンバイ状態とし、一定時間後に位相同期回路300をスタンバイ状態から復帰して再度出力端子309から所望の周期(周波数)の周期信号が得られるまでの期間に、ループフィルタ306から出力される電圧信号の変動が、一般的な位相同期回路100の電圧信号の変動とどのように異なっているかについて、図4を用いて説明する。
【0046】
なお、位相比較器102と302、チャージポンプ104と304、ループフィルタ106と306、電圧制御発振器108と308、分周器110と310および容量素子122と322は、それぞれ同じ機能および特性を有しているものと仮定して説明を行う。
【0047】
図4(A−1)および図4(A−2)は、一般的な位相同期回路100における、ループフィルタ106から出力される電圧信号の変動(図4(A−1))および容量素子122の電荷の変動(図4(A−2))を示す概要図であり、図4(B−1)および図4(B−2)は、本実施の形態の位相同期回路300における、ループフィルタ306から出力される電圧信号の変動(図4(B−1))および容量素子322の電荷の変動(図4(B−2))を示す概要図である。
【0048】
まず、位相同期回路が始動してループフィルタから出力される電圧信号が安定となり、その後、位相同期回路をスタンバイ状態とするまでの期間(図4(A−1)、図4(A−2)図4(B−1)および図4(B−2)の期間401に相当)においては、位相同期回路300中のOSトランジスタ320は通常動作状態ではオン状態となっており、出力電圧の変動に影響を及ぼさないため、ループフィルタ106からの出力電圧とループフィルタ306からの出力電圧は同様の変動を示す。
【0049】
次に、位相同期回路をスタンバイ状態とし、一定時間後に復帰させるまでの期間(図4(A−1)、図4(A−2)、図4(B−1)および図4(B−2)の期間402に相当)においては、ループフィルタ106からの出力電圧とループフィルタ306からの出力電圧は期間401と同じく同様の変動を示す。しかし、容量素子122と容量素子322の電荷を比較すると、容量素子122についてはスタンバイ状態になると同時に電荷は急速に放電されて短時間で0となる(図4(A−2)参照)のに対し、容量素子322では、電圧制御発振器308の入力端子と容量素子322の間にOSトランジスタ320が設置されており、当該トランジスタはスタンバイ状態となる直前にオフ状態となるため、容量素子322の電荷はスタンバイ状態となる直前の容量を保持することができる(図4(B−2)参照)。
【0050】
そして、位相同期回路をスタンバイ状態から復帰させると、位相同期回路100では、容量素子122を再度充電する必要があるため、電圧信号が安定化するまでに時間を要する(図4(A−1)の期間403に対応)。これに対し、位相同期回路300では、容量素子322にスタンバイ状態となる直前の電荷が保持されており、復帰して直ちに、容量素子322に保持された電位(電荷)が電圧制御発振器308に入力されるため、位相同期回路100と比較して短時間で電圧信号が安定化する(図4(B−1)の期間403に対応)。つまり、位相同期回路300はスタンバイ状態から復帰後、短時間でロックされた状態に移行するといえる。これにより、ロックされた状態に至るまでに消費する電力を抑制することができるため、位相同期回路の消費電力低減にも繋がる。
【0051】
以上が、本実施の形態における位相同期回路の駆動方法の説明である。
【0052】
このように、電圧制御発振器308の入力端子と、ループフィルタ306を構成する容量素子322の間に、OSトランジスタ320を設け、通常動作状態の時にはOSトランジスタ320をオン状態に、スタンバイ状態の時にはOSトランジスタ320をオフ状態とすることで、位相同期回路300は、スタンバイ状態からの復帰後に短時間でロックされた状態に移行することが可能となり、また、消費電力を低減することが可能となる。
【0053】
(実施の形態2)
本実施の形態では、先の実施の形態にて記載した、半導体層(少なくともチャネル形成領域)に酸化物半導体材料を含むトランジスタの構成例および作製方法例について、図5から図7を用いて説明するとともに、当該トランジスタの諸特性についての説明を行う。
【0054】
<本実施の形態におけるOSトランジスタの構成>
図5は、コプラナー型であるトップゲート・トップコンタクト構造のトランジスタの上面図および断面図である。図5(A)にトランジスタの上面図を示すと共に、図5(A)の一点鎖線A−Bに対応する断面図を図5(B)に示す。なお、図5(A)では、一部の構成要素を記載していないが、これは図面の理解を容易にするためである。
【0055】
図5(B)に示すトランジスタは、基板500と、基板500上に設けられた下地絶縁層502と、下地絶縁層502上に設けられた保護絶縁層504と、下地絶縁層502および保護絶縁層504上に設けられた高抵抗領域506a(「真性の半導体領域」と記載する場合もある。)および低抵抗領域506b(「半導体領域」と記載する場合もある)を有する酸化物半導体層506と、酸化物半導体層506上に設けられたゲート絶縁層509と、ゲート絶縁層509を介して高抵抗領域506aと重畳して設けられたゲート電極510と、ゲート電極510の側壁と接する側壁絶縁層512と、少なくとも低抵抗領域506bおよび側壁絶縁層512と接する一対の電極514を有する。なお、保護絶縁層504は、酸化物半導体層506の端部と重なり、一対の電極514と接することが好ましい。また、当該トランジスタを覆って設けられた層間絶縁層516と、層間絶縁層516に設けられた開口部を介して一対の電極514と接続する配線518を有しても構わない。
【0056】
図5(B)に示すトランジスタは、ゲート電極510をマスクに用いて、自己整合的に酸化物半導体層506の低抵抗領域506bを形成することができる。そのため、低抵抗領域506b(および同時に形成される高抵抗領域506a)のためのフォトリソグラフィ工程を省略することができる。また、低抵抗領域506bとゲート電極510との重なりがほとんどないため、低抵抗領域506b、ゲート絶縁層509およびゲート電極510による寄生容量が生じず、トランジスタの高速動作が可能となる。なお、高抵抗領域506aは、ゲート電極510とソース電極の間にトランジスタのしきい値電圧以上の電圧が印加されたときにチャネル領域が形成される。
【0057】
図5(B)に示すトランジスタは、側壁絶縁層512を有するため、トランジスタの動作時には、低抵抗領域506bを介して、一対の電極514から高抵抗領域506aに電界が印加されることになる。低抵抗領域506bを介することで、高抵抗領域506aに印加される電界が緩和され、チャネル長の短い微細なトランジスタにおいてもホットキャリア劣化などの劣化を抑制でき、信頼性の高いトランジスタを得ることができる。
【0058】
<本実施の形態におけるOSトランジスタの作製方法>
まず、基板500上に下地絶縁層502を形成する(図6(A)参照)。
【0059】
基板500としては、例えば、ガラス基板(バリウムホウケイ酸ガラス基板やアルミノホウケイ酸ガラス基板等)、絶縁体でなる基板(セラミック基板、石英基板、サファイア基板等)、結晶化ガラス基板、プラスチック基板、または、半導体基板(シリコン基板等)を用いることができる。なお、基板500としてプラスチック基板等の高い可撓性を有する基板を用いる場合、ガラス基板等の可撓性の低い基板上に剥離層を介して本実施の形態に記載するトランジスタを含む回路を形成した後、当該回路をガラス基板等の可撓性の低い基板から剥離して、可撓性基板に転載する方法を用いることもできる。
【0060】
下地絶縁層502を形成する方法としては、まず基板500上に電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法、熱CVD法やプラズマCVD法等のCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて下地絶縁膜を成膜し、当該下地絶縁膜上にフォトリソグラフィ法やインクジェット法などの公知の技術を用いて、加工したいパターン形状に応じたレジストを形成し、ドライエッチング法やウェットエッチング法などの公知の技術を用いて下地絶縁膜の不要部分を選択的に除去して、下地絶縁層502を形成すればよい。
【0061】
下地絶縁層502の形成に用いる下地絶縁膜としては、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、窒化酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セシウム、酸化タンタルおよび酸化マグネシウムの少なくとも一以上を選択して成膜すればよい。
【0062】
下地絶縁層502は、単層構造、積層構造のどちらであってもよく、積層構造とする場合は、前述の膜を組み合わせて形成すればよい。また、下地絶縁層502の厚さは特に限定されないが、例えば、10nm以上500nm以下とすることが望ましい。10nmより薄い膜厚では、成膜装置に起因した基板面内の膜厚分布により、下地絶縁層502が形成されない領域が発生する可能性がある。また、500nmより厚い膜厚は、成膜時間や生産コストの増加に繋がる懸念がある。
【0063】
下地絶縁層502は、加熱処理により酸素を放出する絶縁膜を用いることが望ましい。後の工程にて形成する酸化物半導体層506と接する膜に、加熱処理により酸素を放出する絶縁膜を用いることで、下地絶縁層502から酸化物半導体層506に酸素が供給され酸化物半導体層506の内部や酸化物半導体層506とゲート絶縁層509の界面近傍に生じる酸素欠陥を修復することができる。この結果、トランジスタの電気特性の劣化を抑制できる。
【0064】
なお、上述の「加熱処理により酸素を放出する」とは、TDS(Thermal Desorption Spectroscopy:昇温脱離ガス分光法)分析にて、酸素原子に換算しての酸素の放出量が1.0×1018/cm以上、好ましくは3.0×1020/cm以上であることをいう。
【0065】
次に、下地絶縁層502と表面の揃った保護絶縁層504を形成する(図6(B)参照)。
【0066】
保護絶縁層504を形成方法としては、まず下地絶縁層502上に電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法、熱CVD法やプラズマCVD法等のCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて保護絶縁層504として機能する保護絶縁膜を成膜した後に、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)処理によって、下地絶縁層502と表面が揃うように保護絶縁膜を研磨することで、保護絶縁層504を形成する。なお、下地絶縁層502と保護絶縁層504の表面は、概略表面の高さが一致していればよいが、両者の段差が3nm以下、好ましくは1nm以下、さらに好ましくは0.5nm以下であることが望ましい。
【0067】
なお、後の工程にて形成する酸化物半導体層506の表面の平坦性を高めるために、下地絶縁層502および保護絶縁層504の表面を極力平坦にすることが望ましい。具体的には、平均面粗さ(Ra)を1nm以下、好ましくは0.3nm以下とすることが望ましい。
【0068】
なお、Raは、JIS B0601で定義されている中心線平均粗さを面に対して適用できるよう三次元に拡張したものであり、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」と表現でき、以下の式にて定義される。
【0069】
【数2】

【0070】
なお、上記において、Sは、測定面(座標(x,y)(x,y)(x,y)(x,y)の4点で表される四角形の領域)の面積を指し、Zは測定面の平均高さを指す。Raは原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)にて評価可能である。
【0071】
保護絶縁層504の形成に用いる保護絶縁膜としては、窒化珪素、窒化酸化珪素、窒化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セシウム、酸化タンタルおよび酸化マグネシウムの一種以上を選択して成膜すればよい。
【0072】
保護絶縁層504は、単層構造、積層構造のどちらであってもよく、積層構造とする場合は、前述の膜を組み合わせて形成すればよい。また、保護絶縁層504の厚さは特に限定されないが、前述のように下地絶縁層502と表面を概略揃える事が望ましい。
【0073】
保護絶縁層504は、250℃以上450℃以下、好ましくは150℃以上800℃以下の温度範囲において、例えば1時間の加熱処理を行っても酸素を透過しない性質を有することが望ましい。
【0074】
保護絶縁層504が上述のような性質を有することにより、保護絶縁層504を酸化物半導体層506の端部と重なるよう下地絶縁層502上に設ける構造とすることで、加熱処理によって下地絶縁層502から放出された酸素がトランジスタの外方へ拡散していくことを抑制できるため、後の工程にて形成する酸化物半導体層506に対して効率的に酸素を供給することができる。これにより、トランジスタの電気的特性および信頼性を高めることができる。
【0075】
なお、本実施の形態では保護絶縁層504を設ける構造について説明したが、保護絶縁層504は必ずしも設ける必要はなく、設けるか否かについては、トランジスタの必要特性等に応じて適宜選択すればよい。
【0076】
次に、下地絶縁層502および保護絶縁層504上に酸化物半導体層506を形成する(図6(C)参照)。
【0077】
酸化物半導体層506を形成する方法としては、まず下地絶縁層502および保護絶縁層504上にスパッタリング法、蒸着法、PCVD法、PLD法、ALD法またはMBE法などを用いて酸化物半導体膜を形成し、当該酸化物半導体膜上にフォトリソグラフィ法やインクジェット法などの公知の技術を用いて、加工したいパターン形状に応じたレジストを形成し、ドライエッチング法やウェットエッチング法などの公知の技術を用いて酸化物半導体膜の不要部分を選択的に除去して、酸化物半導体層506を形成すればよい。
【0078】
酸化物半導体層は、単結晶、多結晶(ポリクリスタルともいう。)または非晶質などの状態をとる。
【0079】
好ましくは、酸化物半導体層は、CAAC−OS(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor)膜とする。
【0080】
CAAC−OS膜は、完全な単結晶ではなく、完全な非晶質でもない。CAAC−OS膜は、非晶質相に結晶部および非晶質部を有する結晶−非晶質混相構造の酸化物半導体膜である。なお、当該結晶部は、一辺が100nm未満の立方体内に収まる大きさであることが多い。また、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による観察像では、CAAC−OS膜に含まれる非晶質部と結晶部との境界は明確ではない。また、TEMによってCAAC−OS膜には粒界(グレインバウンダリーともいう。)は確認できない。そのため、CAAC−OS膜は、粒界に起因する電子移動度の低下が抑制される。
【0081】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部は、c軸がCAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃い、かつab面に垂直な方向から見て三角形状または六角形状の原子配列を有し、c軸に垂直な方向から見て金属原子が層状または金属原子と酸素原子とが層状に配列している。なお、異なる結晶部間で、それぞれa軸およびb軸の向きが異なっていてもよい。本明細書において、単に垂直と記載する場合、85°以上95°以下の範囲も含まれることとする。また、単に平行と記載する場合、−5°以上5°以下の範囲も含まれることとする。
【0082】
なお、CAAC−OS膜において、結晶部の分布が一様でなくてもよい。例えば、CAAC−OS膜の形成過程において、酸化物半導体膜の表面側から結晶成長させる場合、被形成面の近傍に対し表面の近傍では結晶部の占める割合が高くなることがある。また、CAAC−OS膜へ不純物を添加することにより、当該不純物添加領域において結晶部が非晶質化することもある。
【0083】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部のc軸は、CAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃うため、CAAC−OS膜の形状(被形成面の断面形状または表面の断面形状)によっては互いに異なる方向を向くことがある。なお、結晶部のc軸の方向は、CAAC−OS膜が形成されたときの被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向となる。結晶部は、成膜することにより、または成膜後に加熱処理などの結晶化処理を行うことにより形成される。
【0084】
CAAC−OS膜を用いたトランジスタは、可視光や紫外光の照射による電気特性の変動を低減することが可能である。よって、当該トランジスタは、信頼性が高い。
【0085】
酸化物半導体層506は、好ましくは、水素、水、水酸基又は水素化物などの不純物が混入しにくいスパッタリング法により、基板加熱温度を100℃以上600℃以下、好ましくは150℃以上550℃以下、さらに好ましくは200℃以上500℃以下とし、酸素ガス雰囲気で成膜する。酸化物半導体層の厚さは、1nm以上40nm以下、好ましくは3nm以上20nm以下とする。成膜時の基板加熱温度が高いほど、得られる酸化物半導体膜の不純物濃度は低くなる。また、酸化物半導体膜中の原子配列が整い、高密度化され、多結晶膜またはCAAC−OS膜などの結晶性を有する膜が形成されやすくなる。さらに、酸素ガス雰囲気で成膜することでも、希ガスなどの余分な原子が含まれないため、多結晶膜またはCAAC−OS膜などの結晶性を有する膜が形成されやすくなる。ただし、酸素ガスと希ガスの混合雰囲気としてもよく、その場合は酸素ガスの割合は30体積%以上、好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは80体積%以上とする。なお、酸化物半導体層は薄いほど、トランジスタの短チャネル効果が低減される。ただし、薄くしすぎると界面散乱の影響が強くなり、電界効果移動度の低下が起こることがある。
【0086】
なお、酸化物半導体膜のエッチングとしてドライエッチングを用いる場合、エッチングガスとしては、塩素を含むガス(塩素系ガス、例えば塩素(Cl)、三塩化硼素(BCl)、四塩化珪素(SiCl)、四塩化炭素(CCl)など)が好ましい。また、フッ素を含むガス(フッ素系ガス、例えば四弗化炭素(CF)、六弗化硫黄(SF)、三弗化窒素(NF)、トリフルオロメタン(CHF)など)、臭化水素(HBr)、酸素(O)、これらのガスにヘリウム(He)やアルゴン(Ar)などの希ガスを添加したガス、などを用いることができる。
【0087】
ドライエッチング法としては、平行平板型RIE(Reactive Ion Etching)法や、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチング法を用いることができる。所望の形状にエッチングできるように、エッチング条件(コイル型の電極に印加される電力量、基板側の電極に印加される電力量、基板側の電極温度等)を適宜調節する。
【0088】
ウェットエッチングに用いるエッチング液として、燐酸と酢酸と硝酸を混ぜた溶液、クエン酸やシュウ酸などの有機酸を用いることができる。例えば、ITO−07N(関東化学社製)を用いることができる。
【0089】
酸化物半導体層506に用いる酸化物半導体としては、少なくともインジウム(In)あるいは亜鉛(Zn)を含むことが好ましい。特にInとZnを含むことが好ましい。また、当該酸化物半導体を用いたトランジスタの電気特性のばらつきを減らすためのスタビライザーとして、それらに加えてガリウム(Ga)を有することが望ましい。また、スタビライザーとしてスズ(Sn)を有することが望ましい。また、スタビライザーとしてハフニウム(Hf)を有することが望ましい。また、スタビライザーとしてアルミニウム(Al)を有することが望ましい。
【0090】
また、他のスタビライザーとして、ランタノイドである、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれか一種あるいは複数種を有してもよい。
【0091】
例えば、酸化物半導体として、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、二元系金属の酸化物であるIn−Zn系酸化物、Sn−Zn系酸化物、Al−Zn系酸化物、Zn−Mg系酸化物、Sn−Mg系酸化物、In−Mg系酸化物、In−Ga系酸化物、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn系酸化物(IGZOとも表記する)、In−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Zn系酸化物、Sn−Ga−Zn系酸化物、Al−Ga−Zn系酸化物、Sn−Al−Zn系酸化物、In−Hf−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn系酸化物、In−Hf−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Ga−Zn系酸化物、In−Sn−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Hf−Zn系酸化物、In−Hf−Al−Zn系酸化物を用いることができる。
【0092】
なお、ここで、例えば、In−Ga−Zn系酸化物とは、InとGaとZnを主成分として有する酸化物という意味であり、InとGaとZnの比率は問わない。また、InとGaとZn以外の金属元素が入っていてもよい。
【0093】
例えば、In:Ga:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)、In:Ga:Zn=2:2:1(=2/5:2/5:1/5)の原子数比のIn−Ga−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いることができる。あるいは、In:Sn:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)、In:Sn:Zn=2:1:3(=1/3:1/6:1/2)あるいはIn:Sn:Zn=2:1:5(=1/4:1/8:5/8)の原子数比のIn−Sn−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いるとよい。
【0094】
しかし、これらに限られず、必要とする半導体特性(移動度、しきい値、ばらつき等)に応じて適切な組成のものを用いればよい。また、必要とする半導体特性を得るために、キャリア濃度や不純物濃度、欠陥密度、金属元素と酸素の原子数比、原子間結合距離、密度等を適切なものとすることが好ましい。
【0095】
なお、酸化物半導体膜としてIn−Ga−Zn−O系材料をスパッタリング法で成膜する場合、好ましくは、原子数比がIn:Ga:Zn=1:1:1、4:2:3、3:1:2、1:1:2、2:1:3、または3:1:4で示されるIn−Ga−Zn−Oターゲットを用いる。前述の原子数比を有するIn−Ga−Zn−Oターゲットを用いて酸化物半導体膜を成膜することで、多結晶膜またはCAAC−OS膜が形成されやすくなる。
【0096】
また、酸化物半導体膜としてIn−Sn−Zn−O系材料をスパッタリング法で成膜する場合、好ましくは、原子数比がIn:Sn:Zn=1:1:1、2:1:3、1:2:2、または20:45:35で示されるIn−Sn−Zn−Oターゲットを用いる。前述の原子数比を有するIn−Sn−Zn−Oターゲットを用いて酸化物半導体膜を成膜することで、多結晶膜またはCAAC−OS膜が形成されやすくなる。
【0097】
また、ターゲット中の金属酸化物の相対密度は80%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは99.9%以上であることが望ましい。相対密度の高いターゲットを用いることにより、緻密な構造の酸化物半導体膜を成膜することが可能である。
【0098】
In−Sn−Zn系酸化物では高い移動度が得られることが報告されている(Eri Fukumoto,Toshiaki Arai,Narihiro Morosawa,Kazuhiko Tokunaga,Yasuhiro Terai,Takashige Fujimori,Tatsuya Sasaoka、「High Mobility Oxide Semiconductor TFT for Circuit Integration of AM−OLED」、IDW’10、p.631−p634)。しかしながら、In−Ga−Zn系酸化物においても、バルク内欠陥密度を低減することにより移動度を上げることができる。
【0099】
なお、例えば、In、Ga、Znの原子数比がIn:Ga:Zn=a:b:c(a+b+c=1)である酸化物の組成が、原子数比がIn:Ga:Zn=A:B:C(A+B+C=1)の酸化物の組成の近傍であるとは、a、b、cが、(a―A)+(b―B)+(c―C)≦rを満たすことをいい、rとしては、例えば、0.05とすればよい。他の酸化物でも同様である。
【0100】
なお、半導体層(少なくともチャネル形成領域)に上述のIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体材料を含むトランジスタを作製する場合、基板を意図的に加熱して成膜する及び/又は成膜後に熱処理することにより、作製されるトランジスタの諸特性を良好なものとできる。詳細については、実施の形態3にて説明を行う。
【0101】
前述の酸化物半導体を用いて形成した酸化物半導体層506は、単結晶でも、非単結晶でもよい。後者の場合、アモルファスでも、微結晶(マイクロクリスタル、ナノクリスタルなど)でも、多結晶でもよい。また、アモルファス中に結晶性を有する部分を含む構造でも、非アモルファスでもよい。
【0102】
酸化物半導体層506として、上述のCAAC−OS膜を用いることが好ましい。なお、CAAC−OS膜の具体的な説明は、実施の形態4にて詳細に行う。
【0103】
なお、アモルファス状態の酸化物半導体は、比較的容易に平坦な表面を得ることができるため、これを用いてトランジスタを作製した際の界面散乱を低減でき、比較的容易に、比較的高い移動度を得ることができる。
【0104】
また、結晶性を有する酸化物半導体では、バルク内欠陥をより低減することができ、表面の平坦性を高めればアモルファス状態の酸化物半導体以上の移動度を得ることができる。このため、前述のとおり、下地絶縁層502と保護絶縁層504の表面を極力平坦にすることが望ましい。
【0105】
酸化物半導体膜をスパッタリング法により成膜する際には、例えば、減圧状態に保持された処理室内に被処理物を保持し、被処理物の温度が100℃以上600℃以下、好ましくは150℃以上550℃以下、更に好ましくは200℃以上500℃以下となるように被処理物を熱する。または、酸化物半導体膜の成膜の際の被処理物の温度は、室温としてもよい。そして、処理室内の水分を除去しつつ、水分、水素、窒素、などが除去されたスパッタガスを導入し、上記ターゲットを用いて酸化物半導体膜を成膜する。被処理物を熱しながら酸化物半導体膜を成膜することにより、酸化物半導体膜に取り込まれる水素や水などの不純物を低減することができ、電界効果移動度を向上させる効果が見込める。また、スパッタによる損傷を軽減することができる。処理室内の水分を除去するためには、吸着型の真空ポンプを用いることが好ましい。例えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプなどを用いることが望ましい。また、ターボポンプにコールドトラップを加えたものを用いることもできる。クライオポンプなどを用いて排気することで、処理室から水分などの不純物を除去することができるため、酸化物半導体膜中の不純物濃度を低減できる。
【0106】
スパッタリング法により成膜する際の各種設定条件としては、例えば、被処理物とターゲットの間との距離が170mm、圧力が0.4Pa、直流(DC)電力が0.5kW、雰囲気が酸素(酸素100%)雰囲気、またはアルゴン(アルゴン100%)雰囲気、または酸素とアルゴンの混合雰囲気、といった条件を適用することができる。なお、パルス直流(DC)電源を用いると、パーティクル(成膜時に形成される粉状の物質など)を低減でき、膜厚分布も均一となるため好ましい。酸化物半導体膜の厚さは、1nm以上50nm以下、好ましくは1nm以上30nm以下、より好ましくは1nm以上10nm以下とすることが望ましい。このような厚さの酸化物半導体膜を用いて酸化物半導体層506を形成することで、微細化に伴う短チャネル効果を抑制することが可能となる。ただし、適用する酸化物半導体材料や、半導体装置の用途などにより適切な厚さは異なるため、その厚さは、用いる材料や用途などに応じて適宜選択すればよい。
【0107】
なお、酸化物半導体膜をスパッタリング法により成膜する前には、アルゴンガスを導入してプラズマを発生させる逆スパッタを行い、成膜面の付着物を除去することが好ましい。ここで、逆スパッタとは、通常のスパッタリング法においては、スパッタターゲットにイオンを衝突させるところを、逆に、処理表面にイオンを衝突させることによってその表面を改質する方法のことをいう。処理表面にイオンを衝突させる方法としては、アルゴン雰囲気下で処理表面側に高周波電圧を印加して、被処理物付近にプラズマを生成する方法などがある。なお、アルゴン雰囲気に代えて窒素、ヘリウム、酸素などによる雰囲気を適用してもよい。
【0108】
上述のような方法で酸化物半導体膜を成膜しても、酸化物半導体膜には不純物としての水分又は水素(水酸基を含む)が含まれていることがある。水分又は水素はドナー準位を形成しやすいため、酸化物半導体にとっては不純物である。そこで、酸化物半導体膜中の水分又は水素などの不純物を低減(脱水化または脱水素化)するために、酸化物半導体膜に対して、減圧雰囲気下、窒素や希ガスなどの不活性ガス雰囲気下、酸素ガス雰囲気下などにおいて、脱水化または脱水素化の加熱処理(以下、第1の加熱処理と略記する)を行ってもよい。
【0109】
酸化物半導体膜に第1の加熱処理を行うことで、表面および内部に存在する水分又は水素を脱離させることができる。具体的には、250℃以上750℃以下、好ましくは400℃以上基板の歪み点未満の温度で加熱処理を行えば良い。例えば、500℃、3分間以上6分間以下程度で行えばよい。加熱処理にRTA法を用いれば、短時間に脱水化または脱水素化が行えるため、ガラス基板の歪点を超える温度でも処理することができる。
【0110】
加熱処理装置は電気炉に限られず、抵抗発熱体などの発熱体からの熱伝導又は熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を備えていてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置等のRTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて加熱処理を行う装置である。気体には、アルゴンなどの希ガス、又は窒素のような、加熱処理によって被処理物と反応しない不活性気体が用いられる。
【0111】
第1の加熱処理においては、減圧雰囲気や、窒素、ヘリウム、ネオンまたはアルゴン等の不活性雰囲気で行う。なお、水分又は水素などが含まれないことが望ましい。また、加熱処理装置に導入する窒素、又はヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、(即ち不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが望ましい。
【0112】
また、第1の加熱処理を行った酸化物半導体膜に、第2の加熱処理を行ってもよい。第2の加熱処理は、酸化性雰囲気にて加熱処理することにより酸化物半導体膜中に酸素を供給して、第1の加熱処理の際に酸化物半導体膜中に生じた酸素欠損を補填する目的がある。このため、第2の加熱処理は加酸素化処理ということもできる。第2の加熱処理は、例えば200℃以上基板の歪み点未満で行えばよい。好ましくは、250℃以上450℃以下とする。処理時間は3分〜24時間とする。処理時間を長くするほど非晶質領域に対して結晶領域の割合の多い酸化物半導体層506を形成することができるが、24時間を超える熱処理は生産性の低下を招くため好ましくない。
【0113】
酸化性雰囲気とは酸化性ガスを含む雰囲気である。酸化性ガスとは、酸素、オゾンまたは亜酸化窒素などであって、水、水素などが含まれないことが好ましい。例えば、熱処理装置に導入する酸素、オゾン、亜酸化窒素の純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、(即ち不純物濃度を1ppm未満、好ましくは0.1ppm未満)とすることが望ましい。酸化性雰囲気は、酸化性ガスを不活性ガスと混合して用いてもよい。その場合、酸化性ガスが少なくとも10ppm以上含まれるものとする。また、不活性雰囲気とは、窒素、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン)などの不活性ガスを主成分とする雰囲気である。具体的には、酸化性ガスなどの反応性ガスが10ppm未満とする。
【0114】
なお、第2の加熱処理に用いる熱処理装置およびガス種は、第1の加熱処理と同じ物を用いることができる。また、脱水化または脱水素化の加熱処理である第1の加熱処理と、加酸素化の加熱処理である第2の加熱処理は連続して行うことが好ましい。連続して行うことで、半導体装置の生産性を向上させることができる。
【0115】
酸化物半導体膜は、成膜時の基板加熱に加え、加熱処理を行うことで、膜中の不純物準位を極めて小さくすることが可能となる。その結果、トランジスタの電界効果移動度を後述する理想的な電界効果移動度近くまで高めることが可能となる。
【0116】
なお、上述では酸化物半導体膜に対して第1の加熱処理や第2の加熱処理を行っているが、酸化物半導体層506を形成した後に、第1の加熱処理や第2の加熱処理を行ってもよい。
【0117】
また、酸化物半導体膜の成膜後、酸化物半導体層506の形成後のいずれか若しくは両方において、酸化物半導体層506(または、酸化物半導体膜)に酸素添加処理を行い、熱処理により該酸化物半導体に含まれる水素や水酸基若しくは水分を放出させ、その熱処理と同時に又はその後の熱処理により酸化物半導体を結晶化させてもよい。このような結晶化若しくは再結晶化の処理により、酸化物半導体層506(または、酸化物半導体膜)の結晶性をより高めることができる。
【0118】
ここで、酸素添加処理とは、酸素(少なくとも、酸素ラジカル、酸素原子、酸素イオン、のいずれかを含む)を酸化物半導体層506(または、酸化物半導体膜)のバルクに添加することをいう。なお、当該「バルク」の用語は、酸素を、薄膜表面のみでなく薄膜内部に添加することを明確にする趣旨で用いている。また、「酸素ドープ」には、プラズマ化した酸素をバルクに添加する「酸素プラズマドープ」が含まれる。酸素添加処理を行うことにより、酸化物半導体層506に含まれる酸素を、化学量論的組成比より多くすることができる。また、後の工程にてゲート絶縁層509(または、ゲート絶縁層509の形成に用いる絶縁層)を形成した後、ゲート絶縁層509(または、ゲート絶縁層509の形成に用いる絶縁層)に酸素添加処理を行い、ゲート絶縁層509(または、ゲート絶縁層509の形成に用いる絶縁層)に含まれる酸素を、化学量論的組成比より多くすることができる。
【0119】
酸素ドープ処理は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)方式を用いて、マイクロ波(例えば、周波数2.45GHz)により励起された酸素プラズマを用いて行うことが望ましい。
【0120】
なお、上述酸素添加処理は、酸化物半導体膜(または、酸化物半導体層506)や絶縁膜(またはゲート絶縁層509)等に含まれる酸素を、化学量論比的組成比よりも多くする処理であるため、過酸素化処理とも言える。過剰酸素は主に格子間に存在する酸素であり、その酸素濃度は1×1016/cm以上2×1020/cm以下とすれば、結晶に歪み等を与えることなく酸化物半導体中に含ませることができる。
【0121】
次に、保護絶縁層504および酸化物半導体層506上に絶縁層508を形成し、絶縁層508上に酸化物半導体層506と重畳するゲート電極510を形成する(図6(D)参照)。
【0122】
絶縁層508は、下地絶縁層502と同様の方法および同様の材料を用いて形成すればよい。
【0123】
ゲート電極510の形成方法としては、まず絶縁層508上に電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法などを用いて導電膜を成膜した後に、下地絶縁層502と同様に不要部分を選択的に除去して、ゲート電極510を形成すればよい。
【0124】
ゲート電極510の形成に用いる導電膜としては、アルミニウム、チタン、クロム、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、銀、タンタルおよびタングステン、それらの窒化物、酸化物ならびに合金から一種以上選択し、単層でまたは積層で用いればよい。また、酸化物半導体層506と同様の材料を用いてもよい。
【0125】
次に、ゲート電極510をマスクとして用い、酸化物半導体層506の抵抗値を低減する機能を有する不純物元素520を、絶縁層508を介して酸化物半導体層506中に添加し、酸化物半導体層506に自己整合的に高抵抗領域506aおよび低抵抗領域506bを形成する(図6(E)参照)。
【0126】
酸化物半導体層506の抵抗値を低減する機能を有する不純物元素520としては、例えばリン、窒素、ボロンなどの元素を用いることができる。当該元素を酸化物半導体層506中に添加する方法としては、イオン注入法やイオンドーピング法などを用いることができる。なお、酸化物半導体層506に水素が添加される事を極力抑制する事が望ましいため、添加元素の質量分析を行うイオン注入法(イオンインプランテーション法とも言われる)を用いることが望ましい。
【0127】
なお、絶縁層508を介して不純物元素520を添加することにより、不純物元素520を添加する際に酸化物半導体層506に生じるダメージを低減することができる。
【0128】
次に、絶縁層508上に、ゲート電極510の側壁に接する側壁絶縁層512を形成するとともに、側壁絶縁層512をマスクとして絶縁層508を加工してゲート絶縁層509を形成する(図7(A)参照)。
【0129】
側壁絶縁層512を形成する方法としては、まず絶縁層508およびゲート電極510上に電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法、熱CVD法やプラズマCVD法等のCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて絶縁膜を成膜し、当該絶縁膜上にフォトリソグラフィ法やインクジェット法などの公知の技術を用いて、加工したいパターン形状に応じたレジストを形成し、ドライエッチング法やウェットエッチング法などの公知の技術を用いて絶縁膜の不要部分を選択的に除去して、側壁絶縁層512を形成すればよい。また、側壁絶縁層512を形成後、側壁絶縁層512をマスクとして絶縁層508に対してエッチング処理行うことにより、ゲート絶縁層509を形成することができる。
【0130】
なお、当該エッチング法として異方性の高いエッチング法を用いることが望ましい。これにより、側壁絶縁層512を自己整合的に形成することができる。ここで、異方性の高いエッチングとしては、ドライエッチングが好ましく、例えば、エッチングガスとして、トリフルオロメタン(CHF)、オクタフルオロシクロブタン(C)、テトラフルオロメタン(CF)などのフッ素を含むガスを用いることができ、ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)などの希ガスまたは水素(H)を添加しても良い。さらに、ドライエッチングとして、基板に高周波電圧を印加する、反応性イオンエッチング法(RIE法)を用いるのが望ましい。
【0131】
側壁絶縁層512の形成に用いる絶縁膜としては、下地絶縁層502の形成に用いる下地絶縁膜と同様の膜を用いればよい。
【0132】
次に、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法、プラズマCVD法等のCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて導電膜を形成し、当該導電膜上にフォトリソグラフィ法やインクジェット法などの公知の技術を用いて、加工したいパターン形状に応じたレジストを形成し、ドライエッチング法やウェットエッチング法などの公知の技術を用いて導電膜の不要部分を選択的に除去して、一対の電極514を形成する(図7(B)参照)。
【0133】
次に、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法、プラズマCVD法等のCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて層間絶縁層516を成膜し、層間絶縁層516上にフォトリソグラフィ法やインクジェット法などの公知の技術を用いて、加工したいパターン形状に応じたレジストを形成し、ドライエッチング法やウェットエッチング法などの公知の技術を用いて層間絶縁層516の一部に開口部を形成した後、ゲート電極510と同様の方法で、一対の電極514と電気的に接続された配線518を形成する(図7(C)参照)。
【0134】
以上の工程により、図5(B)に示す構造のトランジスタ(OSトランジスタ)を作製することができる。当該トランジスタは、半導体層(少なくともチャネル形成領域)に酸化物半導体材料を含んでなり、オフ電流を十分に小さくすることができる。また、高い移動度を有することができる(移動度についての詳細内容は、実施の形態2および実施の形態3を参照)。
【0135】
なお、半導体層(少なくともチャネル形成領域)に酸化物半導体材料を含んでなるトランジスタに限らず、実際に測定される絶縁ゲート型トランジスタの電界効果移動度は、さまざまな理由によって本来の移動度よりも低くなる。移動度を低下させる要因としては半導体内部の欠陥や半導体と絶縁膜との界面の欠陥があるが、Levinsonモデルを用いると、半導体内部に欠陥がないと仮定した場合の電界効果移動度を理論的に導き出せる。
【0136】
半導体本来の移動度をμ、測定される電界効果移動度をμとし、半導体中に何らかのポテンシャル障壁(粒界等)が存在すると仮定すると、以下の式で表される。
【0137】
【数3】

【0138】
ここで、Eはポテンシャル障壁の高さ、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。また、ポテンシャル障壁が欠陥に由来すると仮定すると、Levinsonモデルでは、以下の式で表される。
【0139】
【数4】

【0140】
ここで、eは電気素量、Nはチャネル内の単位面積当たりの平均欠陥密度、εは半導体の誘電率、nは単位面積当たりのチャネルに含まれるキャリア数、Coxは単位面積当たりの容量、Vはゲート電圧、tはチャネルの厚さである。なお、厚さ30nm以下の半導体層であれば、チャネルの厚さは半導体層の厚さと同一として差し支えなく、線形領域におけるドレイン電流Iは、以下の式となる。
【0141】
【数5】

【0142】
ここで、Lはチャネル長、Wはチャネル幅であり、ここでは、L=W=10μmである。また、Vはドレイン電圧である。なお、上式の両辺をVで割り、更に両辺の対数を取ると、以下の式のようになる。
【0143】
【数6】

【0144】
数6の右辺はVの関数である。この式からわかるように、縦軸をln(I/V)、横軸を1/Vとして実測値をプロットして得られるグラフの直線の傾きから欠陥密度Nが求められる。すなわち、トランジスタのI―V特性から、欠陥密度を評価できる。例えば、酸化物半導体として、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)の比率がIn:Sn:Zn=1:1:1のものでは、欠陥密度Nは1×1012/cm程度である。
【0145】
このようにして求めた欠陥密度等をもとに数3および数4よりμ=120cm/Vsが導出される。なお、欠陥のあるIn−Sn−Zn酸化物で測定される移動度は30cm/Vs程度であるが、半導体内部および半導体と絶縁膜との界面の欠陥が無い酸化物半導体の移動度μは120cm/Vsとなると予想できる。
【0146】
ただし、半導体内部に欠陥がなくても、チャネルとゲート絶縁層との界面での散乱によってトランジスタの輸送特性は影響を受ける。すなわち、ゲート絶縁層界面からxだけ離れた場所における移動度μは、以下の式で表される。
【0147】
【数7】

【0148】
ここで、Dはゲート方向の電界、B、Gは定数である。BおよびGは、実際の測定結果より求めることができ、上記の測定結果からは、B=4.75×10cm/s、G=10nm(界面散乱が及ぶ深さ)である。Dが増加する(すなわち、ゲート電圧が高くなる)と数7の第2項が増加するため、移動度μは低下することがわかる。
【0149】
半導体内部の欠陥が無い理想的な酸化物半導体をチャネルに用いたトランジスタの移動度μを計算した結果を図8に示す。なお、計算にはシノプシス社製デバイスシミュレーションソフト、Sentaurus Deviceを使用し、酸化物半導体のバンドギャップ、電子親和力、比誘電率、厚さをそれぞれ、2.8電子ボルト、4.7電子ボルト、15、15nmとした。これらの値は、スパッタリング法により形成された薄膜を測定して得られたものである。
【0150】
さらに、ゲート、ソース、ドレインの仕事関数をそれぞれ、5.5電子ボルト、4.6電子ボルト、4.6電子ボルトとした。また、ゲート絶縁層の厚さは100nm、比誘電率は4.1とした。チャネル長およびチャネル幅はともに10μm、ドレイン電圧Vは0.1Vである。
【0151】
図8で示されるように、ゲート電圧1V強で移動度100cm/Vs以上のピークをつけるが、ゲート電圧がさらに高くなると、界面散乱が大きくなり、移動度が低下する。なお、界面散乱を低減するためには、半導体層表面を原子レベルで平坦にすること(Atomic Layer Flatness)が望ましい。
【0152】
このような移動度を有する酸化物半導体を用いて微細なトランジスタを作製した場合の特性を計算した結果を図9乃至図11に示す。なお、計算に用いたトランジスタの断面構造を図12に示す。図12に示すトランジスタは酸化物半導体層にnの導電型を呈する半導体領域1203aおよび半導体領域1203cを有する。半導体領域1203aおよび半導体領域1203cの抵抗率は2×10−3Ωcmとする。
【0153】
図12(A)に示すトランジスタは、下地絶縁層1201と、下地絶縁層1201に埋め込まれるように形成された酸化アルミニウムよりなる保護絶縁層1202の上に形成される。トランジスタは半導体領域1203a、半導体領域1203cと、それらに挟まれ、チャネル形成領域となる真性の半導体領域1203bと、ゲート電極1205を有する。ゲート電極1205の幅を33nmとする。
【0154】
ゲート電極1205と半導体領域1203bの間には、ゲート絶縁層1204を有し、また、ゲート電極1205の両側壁には側壁絶縁層1206aおよび側壁絶縁層1206b、ゲート電極1205の上部には、ゲート電極1205と他の配線との短絡を防止するための絶縁層1207を有する。側壁絶縁層の幅は5nmとする。また、半導体領域1203aおよび半導体領域1203cに接して、ソース電極1208aおよびドレイン電極1208bを有する。なお、このトランジスタにおけるチャネル幅を40nmとする。
【0155】
図12(B)に示すトランジスタは、下地絶縁層1201と、酸化アルミニウムよりなる保護絶縁層1202の上に形成され、半導体領域1203a、半導体領域1203cと、それらに挟まれた真性の半導体領域1203bと、幅33nmのゲート電極1205とゲート絶縁層1204と側壁絶縁層1206aおよび側壁絶縁層1206bと絶縁層1207とソース電極1208aおよびドレイン電極1208bを有する点で図12(A)に示すトランジスタと同じである。
【0156】
図12(A)に示すトランジスタと図12(B)に示すトランジスタの相違点は、側壁絶縁層1206aおよび側壁絶縁層1206bの下の半導体領域の導電型である。図12(A)に示すトランジスタでは、側壁絶縁層1206aおよび側壁絶縁層1206bの下の半導体領域はnの導電型を呈する半導体領域1203aおよび半導体領域1203cであるが、図12(B)に示すトランジスタでは、真性の半導体領域1203bである。すなわち、図12(B)に示す半導体層において、半導体領域1203a(半導体領域1203c)とゲート電極1205がLoffだけ重ならない領域ができている。この領域をオフセット領域といい、その幅Loffをオフセット長という。図から明らかなように、オフセット長は、側壁絶縁層1206a(側壁絶縁層1206b)の幅と同じである。
【0157】
その他の計算に使用するパラメータは上述の通りである。計算にはシノプシス社製デバイスシミュレーションソフト、Sentaurus Deviceを使用した。図9は、図12(A)に示される構造のトランジスタのドレイン電流(I、実線)および移動度(μ、点線)のゲート電圧(V、ゲートとソースの電位差)依存性を示す。ドレイン電流Iは、ドレイン電圧(ドレインとソースの電位差)を+1Vとし、移動度μはドレイン電圧を+0.1Vとして計算したものである。
【0158】
図9(A)はゲート絶縁層の厚さを15nmとしたものであり、図9(B)は10nmとしたものであり、図9(C)は5nmとしたものである。ゲート絶縁層が薄くなるほど、特にオフ状態でのドレイン電流I(オフ電流)が顕著に低下する。一方、移動度μのピーク値やオン状態でのドレイン電流I(オン電流)には目立った変化が無い。ゲート電圧1V前後で、ドレイン電流はメモリ素子等で必要とされる10μAを超えることが示された。
【0159】
図10は、図12(B)に示される構造のトランジスタで、オフセット長Loffを5nmとしたもののドレイン電流I(実線)および移動度μ(点線)のゲート電圧V依存性を示す。ドレイン電流Iは、ドレイン電圧を+1Vとし、移動度μはドレイン電圧を+0.1Vとして計算したものである。図10(A)はゲート絶縁層の厚さを15nmとしたものであり、図10(B)は10nmとしたものであり、図10(C)は5nmとしたものである。
【0160】
また、図11は、図12(B)に示される構造のトランジスタで、オフセット長Loffを15nmとしたもののドレイン電流I(実線)および移動度μ(点線)のゲート電圧依存性を示す。ドレイン電流Iは、ドレイン電圧を+1Vとし、移動度μはドレイン電圧を+0.1Vとして計算したものである。図11(A)はゲート絶縁層の厚さを15nmとしたものであり、図11(B)は10nmとしたものであり、図11(C)は5nmとしたものである。
【0161】
いずれもゲート絶縁層が薄くなるほど、オフ電流が顕著に低下する一方、移動度μのピーク値やオン電流には目立った変化が無い。
【0162】
なお、移動度μのピークは、図9では80cm/Vs程度であるが、図10では60cm/Vs程度、図11では40cm/Vs程度と、オフセット長Loffが増加するほど低下する。また、オフ電流も同様な傾向がある。一方、オン電流にはオフセット長Loffの増加にともなって減少するが、オフ電流の低下に比べるとはるかに緩やかである。また、いずれもゲート電圧1V前後で、ドレイン電流はメモリ素子等で必要とされる10μAを超えることが示された。
【0163】
本実施の形態に記載のトランジスタを、電圧制御発振器308の入力端子と、ループフィルタ306を構成する容量素子322の間に設けることにより、通常動作状態の時には当該トランジスタをオン状態に、スタンバイ状態の時には当該トランジスタをオフ状態とすることで、位相同期回路がスタンバイ状態からの復帰後、短時間でロックされた状態に移行することが可能となり、消費電力を低減することが可能となる。さらに、上述のように、半導体層(少なくともチャネル形成領域)に酸化物半導体を含むトランジスタは移動度が十分に高く、位相同期回路300に用いても、位相同期回路300が組み込まれた半導体装置の動作状態に遅延を生じさせるようなことはない。
【0164】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1にて記載した、半導体層(少なくともチャネル形成領域)にIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体材料を含むトランジスタを作製する際において、基板に対して意図的に加熱して成膜する及び/又は成膜後に熱処理する内容や、当該内容の熱処理を行うことによるトランジスタの諸特性についての説明を行う。
【0165】
In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜の成膜後に基板を意図的に加熱することにより、トランジスタの電界効果移動度を向上させることが可能となる。また、トランジスタのしきい値電圧をプラスシフトさせ、ノーマリ・オフ化させることが可能となる。なお、ここでいう主成分とは組成比で5atomic%以上含まれる元素をいう。
【0166】
例えば、図13(A)乃至図13(C)は、In、Sn、Znを主成分とし、チャネル長Lが3μm、チャネル幅Wが10μmである酸化物半導体膜と、厚さ100nmのゲート絶縁膜を用いたトランジスタの特性である。なお、Vは10Vとした。
【0167】
図13(A)は基板を意図的に加熱せずにスパッタリング法でIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を形成したときのトランジスタ特性である。このとき電界効果移動度は18.8cm/Vsecが得られている。一方、基板を意図的に加熱してIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を形成すると電界効果移動度を向上させることが可能となる。図13(B)は基板を200℃に加熱してIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を形成したトランジスタ特性を示す。電界効果移動度は32.2cm/Vsecが得られている。
【0168】
電界効果移動度は、In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を形成した後に熱処理をすることによって、さらに高めることができる。図13(C)は、In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜を200℃でスパッタリング法により成膜した後、650℃で熱処理をしたトランジスタ特性を示す。電界効果移動度は34.5cm/Vsecが得られている。
【0169】
スパッタリング法により酸化物半導体膜を成膜する際に、基板を意図的に加熱することで水素や水分などが酸化物半導体膜中に取り込まれるのを低減する効果が期待できる。また、成膜後に熱処理をすることによっても、酸化物半導体膜から水素や水酸基若しくは水分を放出させ除去することができ、上記のように電界効果移動度を向上させることができる。このような電界効果移動度の向上は、脱水化・脱水素化による不純物の除去のみならず、高密度化により原子間距離が短くなるためとも推定される。また、酸化物半導体から不純物を除去して高純度化することで結晶化を図ることができる。このように高純度化された非単結晶酸化物半導体は、理想的には100cm/Vsecを超える電界効果移動度を実現することも可能になると推定される。
【0170】
In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体に酸素イオンを注入し、熱処理により該酸化物半導体に含まれる水素や水酸基若しくは水分を放出させ、その熱処理と同時に又はその後の熱処理により酸化物半導体を結晶化させても良い。このような結晶化若しくは再結晶化の処理により結晶性の良い非単結晶酸化物半導体を得ることができる。
【0171】
基板を意図的に加熱して成膜すること及び/又は成膜後に熱処理することの効果は、電界効果移動度の向上のみならず、トランジスタのノーマリ・オフ化を図ることにも寄与している。基板を意図的に加熱しないで形成されたIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体膜をチャネル形成領域としたトランジスタは、しきい値電圧がマイナスシフトしてしまう傾向がある。しかし、基板を意図的に加熱して形成された酸化物半導体膜を用いた場合、このしきい値電圧のマイナスシフト化は解消される。つまり、しきい値電圧はトランジスタがノーマリ・オフとなる方向に動き、このような傾向は図13(A)と図13(B)の対比からも確認することができる。
【0172】
なお、しきい値電圧はIn、Sn及びZnの比率を変えることによっても制御することが可能であり、組成比としてIn:Sn:Zn=2:1:3とすることでトランジスタのノーマリ・オフ化を期待することができる。また、ターゲットの組成比をIn:Sn:Zn=2:1:3とすることで結晶性の高い酸化物半導体膜を得ることができる。
【0173】
意図的な基板加熱温度若しくは熱処理温度は、150℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは400℃以上であり、より高温で成膜し或いは熱処理することでトランジスタのノーマリ・オフ化を図ることが可能となる。
【0174】
また、意図的に基板を加熱した成膜及び/又は成膜後に熱処理をすることで、ゲートバイアス・ストレスに対する安定性を高めることができる。例えば、2MV/cm、150℃、1時間印加の条件において、ドリフトがそれぞれ±1.5V未満、好ましくは1.0V未満を得ることができる。
【0175】
実際に、酸化物半導体膜成膜後に加熱処理を行っていない試料1と、650℃の加熱処理を行った試料2のトランジスタに対してBT試験を行った。
【0176】
まず基板温度を25℃とし、Vを10Vとし、トランジスタのV−I特性の測定を行った。次に、基板温度を150℃とし、Vを0.1Vとした。次に、ゲート絶縁膜に印加される電界強度が2MV/cmとなるようにVに20Vを印加し、そのまま1時間保持した。次に、Vを0Vとした。次に、基板温度25℃とし、Vを10Vとし、トランジスタのV−I測定を行った。これをプラスBT試験と呼ぶ。
【0177】
同様に、まず基板温度を25℃とし、Vを10Vとし、トランジスタのV−I特性の測定を行った。なお、Vはドレイン電圧(ドレインとソースの電位差)を示す。次に、基板温度を150℃とし、Vを0.1Vとした。次に、ゲート絶縁膜に印加される電界強度が−2MV/cmとなるようにVに−20Vを印加し、そのまま1時間保持した。次に、Vを0Vとした。次に、基板温度25℃とし、Vを10Vとし、トランジスタのV−I測定を行った。これをマイナスBT試験と呼ぶ。
【0178】
試料1のプラスBT試験の結果を図14(A)に、マイナスBT試験の結果を図14(B)に示す。また、試料2のプラスBT試験の結果を図15(A)に、マイナスBT試験の結果を図15(B)に示す。
【0179】
試料1のプラスBT試験およびマイナスBT試験によるしきい値電圧の変動は、それぞれ1.80Vおよび−0.42Vであった。また、試料2のプラスBT試験およびマイナスBT試験によるしきい値電圧の変動は、それぞれ0.79Vおよび0.76Vであった。試料1および試料2のいずれも、BT試験前後におけるしきい値電圧の変動が小さく、信頼性が高いことがわかる。
【0180】
熱処理は酸素雰囲気中で行うことができるが、まず窒素若しくは不活性ガス、または減圧下で熱処理を行ってから酸素を含む雰囲気中で熱処理を行っても良い。最初に脱水化・脱水素化を行ってから酸素を酸化物半導体に加えることで、熱処理の効果をより高めることができる。また、後から酸素を加えるには、実施の形態1にて記載したとおり、酸素イオンを電界で加速して酸化物半導体膜に注入する方法を適用しても良い。
【0181】
酸化物半導体中及び該酸化物半導体と接する膜との界面には、酸素欠損による欠陥が生成されやすいが、熱処理により酸化物半導体中に酸素を過剰に含ませることにより、定常的に生成される酸素欠損を過剰な酸素によって補償することが可能となる。過剰酸素は主に格子間に存在する酸素であり、その酸素濃度は1×1016/cm以上2×1020/cm以下とすれば、結晶に歪み等を与えることなく酸化物半導体中に含ませることができる。
【0182】
また、熱処理によって酸化物半導体に結晶が少なくとも一部に含まれるようにすることで、より安定な酸化物半導体膜を得ることができる。例えば、組成比In:Sn:Zn=1:1:1のターゲットを用いて、基板を意図的に加熱せずにスパッタリング成膜した酸化物半導体膜は、X線回折(XRD:X−Ray Diffraction)でハローパタンが観測される。この成膜された酸化物半導体膜を熱処理することによって結晶化させることができる。熱処理温度は任意であるが、例えば650℃の熱処理を行うことで、X線回折により明確な回折ピークを観測することができる。
【0183】
実際に、In−Sn−Zn−O膜のXRD分析を行った。XRD分析には、Bruker AXS社製X線回折装置D8 ADVANCEを用い、Out−of−Plane法で測定した。
【0184】
XRD分析を行った試料として、試料Aおよび試料Bを用意した。以下に試料Aおよび試料Bの作製方法を説明する。
【0185】
脱水素化処理済みの石英基板上にIn−Sn−Zn−O膜を100nmの厚さで成膜した。
【0186】
In−Sn−Zn−O膜は、スパッタリング装置を用い、酸素雰囲気で電力を100W(DC)として成膜した。ターゲットは、原子数比で、In:Sn:Zn=1:1:1のIn−Sn−Zn−Oターゲットを用いた。なお、成膜時の基板加熱温度は200℃とした。このようにして作製した試料を試料Aとした。
【0187】
次に、試料Aと同様の方法で作製した試料に対し加熱処理を650℃の温度で行った。加熱処理は、はじめに窒素雰囲気で1時間の加熱処理を行い、温度を下げずに酸素雰囲気でさらに1時間の加熱処理を行っている。このようにして作製した試料を試料Bとした。
【0188】
図16に試料Aおよび試料BのXRDスペクトルを示す。試料Aでは、結晶由来のピークが観測されなかったが、試料Bでは、2θが35deg近傍および37deg〜38degに結晶由来のピークが観測された。
【0189】
このように、In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体は成膜時に意図的に加熱すること及び/又は成膜後に熱処理することによりトランジスタの特性を向上させることができる。
【0190】
この基板加熱や熱処理は、酸化物半導体にとって悪性の不純物である水素や水酸基を膜中に含ませないようにすること、或いは膜中から除去する作用がある。すなわち、酸化物半導体中でドナー不純物となる水素を除去することで高純度化を図ることができ、それによってトランジスタのノーマリ・オフ化を図ることができ、酸化物半導体が高純度化されることによりオフ電流を1aA/μm以下にすることができる。ここで、上記オフ電流値の単位は、チャネル幅1μmあたりの電流値を示す。
【0191】
図17に、トランジスタのオフ電流と測定時の基板温度(絶対温度)の逆数との関係を示す。ここでは、簡単のため測定時の基板温度の逆数に1000を掛けた数値(1000/T)を横軸としている。
【0192】
具体的には、図17に示すように、基板温度が125℃の場合には0.1aA/μm(1×10−19A/μm)以下、85℃の場合には10zA/μm(1×10−20A/μm)以下であった。電流値の対数が温度の逆数に比例することから、室温(27℃)の場合には0.1zA/μm(1×10−22A/μm)以下であると予想される。従って、オフ電流を125℃において1aA/μm(1×10−18A/μm)以下に、85℃において100zA/μm(1×10−19A/μm)以下に、室温において1zA/μm(1×10−21A/μm)以下にすることができる。これらのオフ電流は、Siを半導体膜として用いたトランジスタに比べ、極めて低いものであることは明らかである。
【0193】
もっとも、酸化物半導体膜の成膜時に水素や水分が膜中に混入しないように、成膜室外部からのリークや成膜室内の内壁からの脱ガスを十分抑え、スパッタガスの高純度化を図ることが好ましい。例えば、スパッタガスは水分が膜中に含まれないように露点−70℃以下であるガスを用いることが好ましい。また、ターゲットそのものに水素や水分などの不純物が含まれていていないように、高純度化されたターゲットを用いることが好ましい。In、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体は熱処理によって膜中の水分を除去することができるが、In、Ga、Znを主成分とする酸化物半導体と比べて水分の放出温度が高いため、好ましくは最初から水分の含まれない膜を形成しておくことが好ましい。
【0194】
また、酸化物半導体膜成膜後に650℃の加熱処理を行った試料Bを用いたトランジスタにおいて、基板温度と電気的特性の関係について評価した。
【0195】
測定に用いたトランジスタは、チャネル長Lが3μm、チャネル幅Wが10μm、Lovが0μm、dWが0μmである。なお、Vは10Vとした。なお、基板温度は−40℃、−25℃、25℃、75℃、125℃および150℃で行った。ここで、トランジスタにおいて、ゲート電極と一対の電極との重畳する幅をLovと呼び、酸化物半導体膜に対する一対の電極のはみ出しをdWと呼ぶ。
【0196】
図18に、I(実線)および電界効果移動度(点線)のV依存性を示す。また、図19(A)に基板温度としきい値電圧の関係を、図19(B)に基板温度と電界効果移動度の関係を示す。
【0197】
図19(A)より、基板温度が高いほどしきい値電圧は低くなることがわかる。なお、その範囲は−40℃〜150℃で1.09V〜−0.23Vであった。
【0198】
また、図19(B)より、基板温度が高いほど電界効果移動度が低くなることがわかる。なお、その範囲は−40℃〜150℃で36cm/Vs〜32cm/Vsであった(図18参照)。従って、上述の温度範囲において電気的特性の変動が小さいことがわかる。
【0199】
上記のようなIn、Sn、Znを主成分とする酸化物半導体をチャネル形成領域とするトランジスタは、オフ電流を1aA/μm以下に保ちつつ、電界効果移動度を30cm/Vsec以上、好ましくは40cm/Vsec以上、より好ましくは60cm/Vsec以上とし、LSIで要求されるオン電流の値を満たすことができる。例えば、L/W=33nm/40nmのFETで、ゲート電圧2.7V、ドレイン電圧1.0Vのとき12μA以上のオン電流を流すことができる。またトランジスタの動作に求められる温度範囲においても、十分な電気的特性を確保することができる。このような特性であれば、Si半導体で作られる集積回路の中に酸化物半導体で形成されるトランジスタを混載しても、動作速度を犠牲にすることなく新たな機能を有する集積回路を実現することができる。
【0200】
(実施の形態4)
本実施の形態では、上述実施の形態にて記載したCAAC−OS膜に含まれる結晶構造の一例ついて図20から図22を用いて詳細に説明する。なお、特に断りがない限り、図20から図22は上方向をc軸方向とし、c軸方向と直交する面をab面とする。なお、単に上半分、下半分という場合、ab面を境にした場合の上半分、下半分をいう。また、図20において、丸で囲まれたOは4配位のOを示し、二重丸で囲まれたOは3配位のOを示す。
【0201】
図20(A)に、1個の6配位のInと、Inに近接の6個の4配位の酸素原子(以下4配位のO)と、を有する構造を示す。ここでは、金属原子が1個に対して、近接の酸素原子のみ示した構造を小グループと呼ぶ。図20(A)の構造は、八面体構造をとるが、簡単のため平面構造で示している。なお、図20(A)の上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のOがある。図20(A)に示す小グループは電荷が0である。
【0202】
図20(B)に、1個の5配位のGaと、Gaに近接の3個の3配位の酸素原子(以下3配位のO)と、Gaに近接の2個の4配位のOと、を有する構造を示す。3配位のOは、いずれもab面に存在する。図20(B)の上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のOがある。また、Inも5配位をとるため、図20(B)に示す構造をとりうる。図20(B)に示す小グループは電荷が0である。
【0203】
図20(C)に、1個の4配位のZnと、Znに近接の4個の4配位のOと、を有する構造を示す。図20(C)の上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがある。図20(C)に示す小グループは電荷が0である。
【0204】
図20(D)に、1個の6配位のSnと、Snに近接の6個の4配位のOと、を有する構造を示す。図20(D)の上半分には3個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがある。図20(D)に示す小グループは電荷が+1となる。
【0205】
図20(E)に、2個のZnを含む小グループを示す。図20(E)の上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には1個の4配位のOがある。図20(E)に示す小グループは電荷が−1となる。
【0206】
ここでは、複数の小グループの集合体を中グループと呼び、複数の中グループの集合体を大グループ(ユニットセルともいう。)と呼ぶ。
【0207】
ここで、これらの小グループ同士が結合する規則について説明する。図20(A)に示す6配位のInの上半分の3個のOは下方向にそれぞれ3個の近接Inを有し、下半分の3個のOは上方向に3個の近接Inを有する。図20(B)に示す5配位のGaの上半分の1個のOは下方向に1個の近接Gaを有し、下半分の1個のOは上方向に1個の近接Gaを有する。図20(C)に示す4配位のZnの上半分の1個のOは下方向に1個の近接Znを有し、下半分の3個のOは上方向にそれぞれ3個の近接Znを有する。この様に、金属原子の上方向の4配位のOの数と、そのOの下方向にある近接金属原子の数は等しく、同様に金属原子の下方向の4配位のOの数と、そのOの上方向にある近接金属原子の数は等しい。Oは4配位なので、下方向にある近接金属原子の数と、上方向にある近接金属原子の数の和は4になる。従って、金属原子の上方向にある4配位のOの数と、別の金属原子の下方向にある4配位のOの数との和が4個のとき、金属原子を有する二種の小グループ同士は結合することができる。その理由を以下に示す。例えば、6配位の金属原子(InまたはSn)が上半分の4配位のOを介して結合する場合、4配位のOが3個であるため、5配位の金属原子(GaまたはIn)の上半分の4配位のO、5配位の金属原子(GaまたはIn)の下半分の4配位のOまたは4配位の金属原子(Zn)の上半分の4配位のOのいずれかと結合することになる。
【0208】
これらの配位数を有する金属原子は、c軸方向において、4配位のOを介して結合する。また、このほかにも、層構造の合計の電荷が0となるように複数の小グループが結合して中グループを構成する。
【0209】
図21(A)に、In−Sn−Zn−O系の層構造を構成する中グループのモデル図を示す。図21(B)に、3つの中グループで構成される大グループを示す。なお、図21(C)は、図21(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示す。
【0210】
図21(A)においては、簡単のため、3配位のOは省略し、4配位のOは個数のみ示し、例えば、Snの上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のOがあることを丸枠の3として示している。同様に、図21(A)において、Inの上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のOがあり、丸枠の1として示している。また、同様に、図21(A)において、下半分には1個の4配位のOがあり、上半分には3個の4配位のOがあるZnと、上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがあるZnとを示している。
【0211】
図21(A)において、In−Sn−Zn−O系の層構造を構成する中グループは、上から順に4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるSnが、4配位のOが1個ずつ上半分および下半分にあるInと結合し、そのInが、上半分に3個の4配位のOがあるZnと結合し、そのZnの下半分の1個の4配位のOを介して4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInと結合し、そのInが、上半分に1個の4配位のOがあるZn2個からなる小グループと結合し、この小グループの下半分の1個の4配位のOを介して4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるSnと結合している構成である。この中グループが複数結合して大グループを構成する。
【0212】
ここで、3配位のOおよび4配位のOの場合、結合1本当たりの電荷はそれぞれ−0.667、−0.5と考えることができる。例えば、In(6配位または5配位)、Zn(4配位)、Sn(5配位または6配位)の電荷は、それぞれ+3、+2、+4である。従って、Snを含む小グループは電荷が+1となる。そのため、Snを含む層構造を形成するためには、電荷+1を打ち消す電荷−1が必要となる。電荷−1をとる構造として、図20(E)に示すように、2個のZnを含む小グループが挙げられる。例えば、Snを含む小グループが1個に対し、2個のZnを含む小グループが1個あれば、電荷が打ち消されるため、層構造の合計の電荷を0とすることができる。
【0213】
具体的には、図21(B)に示した大グループが繰り返されることで、In−Sn−Zn−O系の結晶(InSnZn)を得ることができる。なお、得られるIn−Sn−Zn−O系の層構造は、InSnZn(ZnO)(mは0または自然数。)とする組成式で表すことができる。
【0214】
また、このほかにも、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系酸化物や、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn−O系酸化物(IGZOとも表記する。)、In−Al−Zn−O系酸化物、Sn−Ga−Zn−O系酸化物、Al−Ga−Zn−O系酸化物、Sn−Al−Zn−O系酸化物や、In−Hf−Zn−O系酸化物、In−La−Zn−O系酸化物、In−Ce−Zn−O系酸化物、In−Pr−Zn−O系酸化物、In−Nd−Zn−O系酸化物、In−Sm−Zn−O系酸化物、In−Eu−Zn−O系酸化物、In−Gd−Zn−O系酸化物、In−Tb−Zn−O系酸化物、In−Dy−Zn−O系酸化物、In−Ho−Zn−O系酸化物、In−Er−Zn−O系酸化物、In−Tm−Zn−O系酸化物、In−Yb−Zn−O系酸化物、In−Lu−Zn−O系酸化物や、二元系金属の酸化物であるIn−Zn−O系酸化物、Sn−Zn−O系酸化物、Al−Zn−O系酸化物、Zn−Mg−O系酸化物、Sn−Mg−O系酸化物、In−Mg−O系酸化物や、In−Ga−O系酸化物、一元系金属の酸化物であるIn−O系酸化物、Sn−O系酸化物、Zn−O系酸化物などを用いた場合も同様である。
【0215】
例えば、図22(A)に、In−Ga−Zn−O系の層構造を構成する中グループのモデル図を示す。
【0216】
図22(A)において、In−Ga−Zn−O系の層構造を構成する中グループは、上から順に4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInが、4配位のOが1個上半分にあるZnと結合し、そのZnの下半分の3個の4配位のOを介して、4配位のOが1個ずつ上半分および下半分にあるGaと結合し、そのGaの下半分の1個の4配位のOを介して、4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInと結合している構成である。この中グループが複数結合して大グループを構成する。
【0217】
図22(B)に3つの中グループで構成される大グループを示す。なお、図22(C)は、図22(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示している。
【0218】
ここで、In(6配位または5配位)、Zn(4配位)、Ga(5配位)の電荷は、それぞれ+3、+2、+3であるため、In、ZnおよびGaのいずれかを含む小グループは、電荷が0となる。そのため、これらの小グループの組み合わせであれば中グループの合計の電荷は常に0となる。
【0219】
また、In−Ga−Zn−O系の層構造を構成する中グループは、図22(A)に示した中グループに限定されず、In、Ga、Znの配列が異なる中グループを組み合わせた大グループも取りうる。
【0220】
具体的には、図22(B)に示した大グループが繰り返されることで、In−Ga−Zn−O系の結晶を得ることができる。なお、得られるIn−Ga−Zn−O系の層構造は、InGaO(ZnO)(nは自然数。)とする組成式で表すことができる。
【0221】
n=1(InGaZnO)の場合は、例えば、図23(A)に示す結晶構造を取りうる。なお、図23(A)に示す結晶構造において、図21(B)で説明したように、Ga及びInは5配位をとるため、GaがInに置き換わった構造も取りうる。
【0222】
また、n=2(InGaZn)の場合は、例えば、図23(B)に示す結晶構造を取りうる。なお、図23(B)に示す結晶構造において、図21(B)で説明したように、Ga及びInは5配位をとるため、GaがInに置き換わった構造も取りうる。
【0223】
以上が、c軸配向し、かつab面、表面または界面の方向から見て三角形状または六角形状の原子配列を有し、c軸においては金属原子が層状または金属原子と酸素原子とが層状に配列しており、ab面においてはa軸またはb軸の向きが異なる(c軸を中心に回転した)結晶(CAAC:C Axis Aligned Crystalともいう。)を含む酸化物についての説明である。
【0224】
(実施の形態5)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した位相同期回路を半導体装置に適用する場合について、図24を用いて説明する。なお、本実施の形態の説明に用いる図面において、先の実施の形態に用いた図面と同じ部分については同じ符号を用いて示し、説明を省略する。また、ここでは半導体装置としてFM復調装置およびモーター制御装置を一例として説明を行うが、無論これに限定されることはない。
【0225】
図24(A)は、先の実施の形態にて説明したループフィルタ306にOSトランジスタ320を有する位相同期回路をFM復調装置に適用した場合のブロック図の一例である。当該FM復調装置は、入力端子2301と、出力端子2302と、位相比較器302と、チャージポンプ304と、OSトランジスタ320および容量素子322を有するループフィルタ306と、電圧制御発振器308と、分周器310(通常、分周率は1)を備えている。なお、分周器310は必ずしも設ける必要はない。
【0226】
図24(A)の構成のFM復調装置は、入力端子2301にFM変調信号を入力し、ループフィルタ306からの出力をFM復調信号(FM変調信号を、周波数の変化に対応させた信号に変換して復調させた信号)として出力させる構成である。FM復調装置がロックされている状態では、電圧制御発振器308の出力が、入力端子2301より入力されるFM変調信号に同期するので、その周波数の変化に対応した電圧信号が出力端子2302より出力される。
【0227】
先の実施の形態で説明した位相同期回路をFM復調装置に適用することにより、スタンバイ状態から復帰した後、FM復調できるようになるまでの時間を短縮でき、その結果、消費電力を低減することができる。
【0228】
図24(B)は、先の実施の形態にて説明したループフィルタ306にOSトランジスタ320を有する位相同期回路をモーター制御装置に適用した場合のブロック図の一例である。当該モーター制御装置は、入力端子2311と、位相比較器302と、チャージポンプ304と、OSトランジスタ320および容量素子322を有するループフィルタ306と、分周器310と、駆動回路2312と、モーター2313と、光学式エンコーダ2314を備えている。なお、駆動回路2312、モーター2313および光学式エンコーダ2314が、電圧制御発振器308に相当する機能を有している。
【0229】
入力端子2311より入力される基準周期信号が位相比較器302に入力され、分周器310より出力される信号と位相差比較が行われ、位相比較器302より位相差信号が出力され、位相差信号はチャージポンプ304およびループフィルタ306により電圧信号に変換されて駆動回路2312に入力され、駆動回路2312は入力される電圧信号に応じてモーター2313の回転数を決定する信号を出力する。また、モーター2313の回転数は光学式エンコーダ2314により検出され、回転数に応じた周期信号が光学式エンコーダ2314より出力され、分周器310により分周された後に位相比較器302に入力される。つまり、この回路は、入力端子2311より入力される基準周期信号の周波数によってモーターの回転数を正確にコントロールすることができる。
【0230】
先の実施の形態で説明した位相同期回路をモーター制御装置に適用することにより、スタンバイ状態から復帰した後、モーターの回転数が安定するまでの時間を短縮することができ、その結果、消費電力を低減することができる。
【符号の説明】
【0231】
100 位相同期回路
102 位相比較器
104 チャージポンプ
106 ループフィルタ
108 電圧制御発振器
110 分周器
122 容量素子
300 位相同期回路
301 入力端子
302 位相比較器
304 チャージポンプ
306 ループフィルタ
308 電圧制御発振器
309 出力端子
310 分周器
320 トランジスタ
322 容量素子
401 期間
402 期間
403 期間
500 基板
502 下地絶縁層
504 保護絶縁層
506 酸化物半導体層
506a 高抵抗領域
506b 低抵抗領域
508 絶縁層
509 ゲート絶縁層
510 ゲート電極
512 側壁絶縁層
514 一対の電極
516 層間絶縁層
518 配線
520 不純物元素
1201 下地絶縁層
1202 保護絶縁層
1203a 半導体領域
1203b 半導体領域
1203c 半導体領域
1204 ゲート絶縁層
1205 ゲート電極
1206a 側壁絶縁層
1206b 側壁絶縁層
1207 絶縁層
1208a ソース電極
1208b ドレイン電極
2301 入力端子
2302 出力端子
2311 入力端子
2312 駆動回路
2313 モーター
2314 光学式エンコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタおよび容量素子を有するループフィルタを備える位相同期回路であり、
前記トランジスタの半導体層は酸化物半導体材料を含み、
前記トランジスタがオフ状態となった後に前記位相同期回路がスタンバイ状態となり、
前記トランジスタがオン状態となった後に前記位相同期回路がスタンバイ状態から復帰する半導体装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記半導体層は、In、Ga、Sn及びZnから選ばれた一種以上の元素を含んでなる層である半導体装置。
【請求項3】
第1の周期信号および第2の周期信号が入力され、前記第1の周期信号および前記第2の周期信号の位相差に応じた第3の周期信号を出力する位相比較器と、
前記第3の周期信号が入力され、前記第3の周期信号に応じた第1のアナログ信号を出力するチャージポンプと、
前記第1のアナログ信号が入力され、前記第1のアナログ信号を平滑化した第2のアナログ信号を出力するループフィルタと、
前記第2のアナログ信号が入力され、前記第2のアナログ信号に応じた第4の周期信号を出力する電圧制御発振器と、
前記第4の周期信号が入力され、前記第4の周期信号を分周した前記第1の周期信号を出力する分周器を備える位相同期回路であり、
前記ループフィルタはトランジスタおよび容量素子を有し、
前記トランジスタの半導体層は酸化物半導体材料を含み、
前記トランジスタのソース電極またはドレイン電極の一方は前記チャージポンプおよび前記電圧制御発振器と電気的に接続され、かつ、前記トランジスタのソース電極またはドレイン電極の他方は前記容量素子と電気的に接続され、
前記トランジスタがオフ状態となった後に前記位相同期回路がスタンバイ状態となり、
前記トランジスタがオン状態となった後に前記位相同期回路がスタンバイ状態から復帰する半導体装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記半導体層は、In、Ga、Sn及びZnから選ばれた一種以上の元素を含んでなる層である半導体装置。
【請求項5】
トランジスタおよび容量素子を有するループフィルタを備え、
前記トランジスタの半導体層は酸化物半導体材料を含み、
前記トランジスタをオフ状態とすることで、前記ループフィルタに入力される電圧を前記ループフィルタ内にて保持できる位相同期回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図24】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−9345(P2013−9345A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−113955(P2012−113955)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】