説明

光電子集積回路

【課題】 ヘテロ接合バイポーラトランジスタ及びフォトダイオードが電気信号の劣化を伴うことなく接続され、全面再成長の特徴である高集積度を損ねることなく、動作速度及び受光感度に優れた光電子集積回路を提供する。
【解決手段】 光電子集積回路は、光素子2のアノード電極9又はカソード電極8からの配線19が[011]方向に形成されて素子に接続されることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光素子と半導体集積回路とを同一基板上に作製する技術に係り、特にフォトダイオードや光変調器などの光素子と、半導体素子としてのInPヘテロ接合バイポーラトランジスタとを同一基板上に備える光電子集積回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の応用技術として、半導体素子(電子素子)と光素子とを同一基板上に設ける、いわゆる光電子集積回路(Opto-Electronic Integrated Circuit: OEIC)がある。具体例としては、電子素子の一種であるヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Hetero-junction Bipolar Transistor: HBT)と光素子とを、InPからなる半絶縁性基板に集積化したOEICがある。
【0003】
一般に、InP系材料は、高い電子輸送移動度や多彩なバンド設計など優れた電子物性を有している。また、HBTは高電流駆動やコンパクトな素子サイズなどのバイポーラ固有の特徴をもつ。したがって、InP基板上に設けられたHBTであるInP系HBTは、前記したInP系材料及びバイポーラトランジスタのそれぞれの特徴を兼ね備えており、高速性と高集積度に優れた電子素子である。
【0004】
さらに、InP系の半絶縁性基板は、長波長用光素子を作製する際に一般的に用いられている。したがって、InP系HBTは、エピタキシャル成長法により作製されたInP系結晶基板上に、長波長用光素子とともに集積可能である利点を有している。
【0005】
近年、前記したInP系HBTと光素子とをInP系基板上に集積したOEICの研究が盛んに行われている。例えば、InP系HBTとフォトダイオード(Photodiode: PD)をInP基板上に集積したOEICが報告されている(例えば、特許文献1参照)。この半絶縁性InP基板上にInP系HBT103及びPD102が集積されたOEIC101の断面図を図7に示す。このOEIC101において、図7中の左側が半導体素子形成領域(HBT形成領域)であり、右側が光素子形成領域(PD形成領域)である。OEIC101は、次に述べる構成及び特徴を有している。
【0006】
図7に示すように、OEIC101では、InP系HBT103とUTC(Uni-Travelling-Carrier)−PD102とが半絶縁性InP基板104を共有している。InP系HBT103は、n型InPからなるコレクタコンタクト層110を介して半絶縁性InP基板104上に設けられている。また、InP系HBT103は、n型InPからなるコレクタ層111、p型InGaAsからなるベース層112、並びにn型InPからなるエミッタ層113を有している。コレクタコンタクト層110にはコレクタ電極114が、ベース層112にはベース電極115が、そしてエミッタ層113にはエミッタ電極116が、それぞれ設けられている。
【0007】
また、図7に示すように、PD102はp型InGaAsからなるアノードコンタクト層107、p型InGaAsからなる光吸収層106a、n型InPからなる電子走行層106bを有している。
【0008】
このOEICの特徴は、InP系HBTの全面再成長技術である。まず、InP基板にPDのエピ構造を成長し、選択的にメサエッチングを行う。カソードコンタクト層を露出させ、全面にInP系HBTのコレクタ層、ベース層、エミッタ層を再成長する。その後、HBT及びUTC−PDを各々形成する。InP系HBTとPDのエピタキシャル層は別々に成長しているため、それぞれのエピタキシャル層構造を独立に最適化することが可能である。さらに、全面再成長を用いていることにより、選択再成長で問題となるエピタキシャル層の組成遷移領域はほとんど存在しない。
【0009】
そのため、HBTとPDの物理的最近接距離を5μm程度まで短縮化することが可能である。つまり、OEICは、HBT及びPDがそれぞれの性能を最適化しつつ、集積化できるため、動作速度が速く、受光感度が高い。
【特許文献1】特願2005−024116
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記したOEICにおいて、HBTはPDに対して、[01−1]方向に設けられているため、HBTとPDの間に逆メサ形状の溝が生じる。この溝は、高さ1μm程度、幅が数10μm単位の大きさである。
【0011】
層間絶縁膜118(BCB:Benzocyclobutene)を1μm程度塗布するものの、溝の段差と幅がμm単位であることから充分な平坦化は難しい。そのため、BCB上に形成した配線117の断線や段差による電気信号の反射が問題となる。さらに、HBTをPDから溝の幅以上の距離を離す必要があり、配線遅延の問題も生じてしまう。
【0012】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、HBT及びPDが電気信号の劣化を伴うことなく接続され、全面再成長の特徴である高集積度を損ねることなく、動作速度及び受光感度に優れたOEICを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの態様によると、OEICは、PDから引き出された配線が[011]方向に形成され、HBTに接続されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
OEICにおいては、HBTとPDを接続する配線が断線することなく、電気信号反射による信号劣化を伴うことなく形成され、それと共に、PDに対して[011]方向にHBTを設けることでHBTとPDの物理的最近接距離を5μm程度にすることが可能となり、配線遅延が生じる恐れはほとんどない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1乃至図6を参照して、本発明による光電子集積回路(OEIC)を説明する。図1は、本発明の実施形態によるOEIC1の断面図を示し、図2−図6はOEIC1の製造工程を示す断面図である。
【0016】
本実施形態においては、HBTをPDに対して[011]方向に設けることで、配線の信頼性及び短縮を実現する技術である。この技術により、光集積回路の高信頼化及び高速化を図る。
【0017】
即ち、図1に示すように、OEIC1において、図1の右側が光素子形成領域Aであり、左側が半導体素子形成領域Bである。光素子としてフォトダイオード(PD)2が設けられ、半導体素子としてHBT3が設けられている。
【0018】
PD2及びHBT3は、InPにより形成された同一の半絶縁性基板4上に集積されている。PD2は、n型InPからなるカソードコンタクト層5、活性層6、及びp型InGaAsからなるアノードコンタクト層7とから構成されている。
【0019】
活性層6は、その下側が傾斜組成InGaAsP及びn型InPからなる走行層6a、その上側がp型InGaAsからなる光吸収層6bにより構成されている。カソードコンタクト層5にはカソード電極8が、また、アノードコンタクト層7にはアノード電極9がそれぞれ設けられている。
【0020】
一方、HBT3は、カソードコンタクト層5と同じ材料を用いてカソードコンタクト層5とは独立に設けられた導電層10を介して半絶縁性InP基板4上に集積化されている。導電層10はコレクタコンタクト層となる。
【0021】
HBT3は、傾斜InGaAsP及びn型InPからなるコレクタ層11、p型InGaAsからなるベース層12、及びn型InPからなるエミッタ層13とから構成されている。コレクタコンタクト層10にはコレクタ電極14が、ベース層12にはベース電極15が、そしてエミッタ層13にはエミッタ電極16がそれぞれ設けられている。
【0022】
HBT3は、基板の方位を(100)とすると、PD2に対して[011]方向、即ち、オリエンテーション・フラット(オリフラ)に対して直角な方向、に設けられている。[011]方向のエッチングでは、エッチングされにくい(111)面が露出するため、基板が横方向に殆ど削られず、BCBによる平坦化が容易である。それ故、BCB上の配線は平坦化され、配線断線などの心配はない。
【0023】
次に、図2−図6を参照して、OEICの製造工程について説明する。図2に示すように、半絶縁性InP基板4上に、PD2を形成するためのカソードコンタクト層5、走行層6a及び光吸収層6bからなる活性層6及びアノードコンタクト層7を順次成長させる。これら各層は、有機金属気相成長法及び分子線エピタキシャル成長法の少なくとも一方の方法により成長される。次いで、アノードコンタクト層7にフォトレジストパターン(図示しない)を形成し、ドライエッチング及びウエットエッチングを行い、カソードコンタクト層5の表面の一部を露出させる。これにより、アノードコンタクト層7、光吸収層6b及び走行層6aを順次選択的に除去されて光素子形成領域(フォトダイオード形成領域)A、即ち、PD2を規定する領域が形成される。
【0024】
しかる後、露出したカソードコンタクト層5上にHBT3を形成するためのコレクタ層11、ベース層12及びエミッタ層13を順次成長させる。これらの層は全面再成長により形成される。成長方法は、MOCVD法又はMBE法を用いる。
【0025】
図3に示すように、半導体素子形成領域(HBT形成領域)B、即ち、HBT3を規定する領域において、エミッタ・ベース・コレクタメサを形成した後、エミッタ電極16、ベース電極15、及びコレクタ電極14を形成する。
【0026】
図4及び図5に示すように、PD2を規定する領域Aにおいて、フォトレジストパターン17を形成し、ウエットエッチングによりアノード・カソードメサ形成を行い、アノード電極9及びカソード電極8を形成する。
【0027】
このとき、HBT3とPD2間のフォトレジストパターンのない一部の基板がエッチング液に暴露されるが、エッチングされにくい(111)面が露出するため、殆どエッチングされない。
【0028】
次に、図5に示すように、HBT3とPD2とを電気的に分離するため、フォトレジストパターン17−2を形成し、塩酸系エッチング液によりカソードコンタクト層5を選択的に除去する。これにより、カソードコンタクト層5はV字状にエッチングされていく。
【0029】
さらに、エッチングが進むと、図6に示すように、基板4もV字状にエッチングされてV字状の溝21が形成さる。これは、一般的にInP系材料は[01−1]方向、即ち、オリエンテーション・フラット(オリフラ)に対して平行な方向、に対して逆メサ形状に、[011]方向には順メサ形状にエッチングされ、そのため、[011]方向はV字状にエッチングされるからである。
【0030】
HBT3及びPD2間の一部の基板4においてエッチング液に暴露される領域があるものの、(111)面が露出しているため、多くとも0.2μm程度しか縦方向にエッチングされない。しかも、横方向のエッチングは殆ど進まない。
【0031】
最後に、図1に示されるように、層間絶縁膜18として1μm程度の厚さにBCBを塗布し、キュアする。電極スルーホールを形成し、Auメッキにより配線19を形成する。 PD2に対して[011]方向にHBT3を設けた場合、その間の基板4は殆どエッチングされず(エッチングされても縦方向に0.2μm程度、横方向は殆どエッチングされない)、BCBによる平坦化で充分であり、配線19の高信頼化が期待できる。さらに、[01−1]方向に比べて、エッチングによる溝の幅が飛躍的に小さく、HBT3とPD2の物理的最近接距離を5μmに短縮することが可能であり、光電子集積回路の高速化を実現できる。
【0032】
前記した実施形態から明らかなように、本発明によるOEICは、HBTとPDを接続する配線の高信頼化及びHBTとPDの高集積化に優れている。
【0033】
なお、本発明に係る光電子集積回路は、前記した実施形態には制約されない。本発明を逸脱しない範囲で、それらの構成などの一部を種々様々な設定に変更したり、或いは各種設定を適宜、適当に組み合わせて用いて実施することができる。
【0034】
前記した実施形態では、PDとHBTの配線について述べたが、これに限定されるものではない。例えば、PDと抵抗体、PDとMIM(Metal-Insulator-Metal)キャパシターを接続する配線においても本発明を実施しも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態による光電子集積回路を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態による光電子集積回路の製造方法を示す工程断面図である。
【図3】本発明の実施形態による光電子集積回路の製造方法を示す工程断面図である。
【図4】本発明の実施形態による光電子集積回路の製造方法を示す工程断面図である。
【図5】本発明の実施形態による光電子集積回路の製造方法を示す工程断面図である。
【図6】本発明の実施形態による光電子集積回路の製造方法を示す工程断面図である。
【図7】従来技術による光電子集積回路を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1…光電子集積回路(OEIC)、2…フォトダイオード(PD)、3…ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、4…半絶縁性基板、5…カソードコンタクト層、6…活性層、7…アノードコンタクト層、8…カソード電極、9…アノード電極、10…コレクタコンタクト層、11…コレクタ層、12…ベース層、13…エミッタ層、14…コレクタ電極、15…ベース電極、16…エミッタ電極、17…フォトレジストパターン、18…層間絶縁膜、19…配線、21…溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光素子のアノード電極又はカソード電極からの配線が[011]方向に形成されて素子に接続されることを特徴とする光電子集積回路。
【請求項2】
前記素子は、InPヘテロ接合バイポーラトランジスタ、InPヘテロ接合電界効果トランジスタ、抵抗体及びキャパシターから選択される1つであることを特徴とする請求項1記載の光電子集積回路。
【請求項3】
前記光素子は、フォトダイオード又は光変調器であることを特徴とする請求項1記載の光電子集積回路。
【請求項4】
半絶縁性基板と、
前記半絶縁性基板上に設けられた光素子と、
前記光素子に隣接して、前記半絶縁性基板上に設けられたヘテロ接合バイポーラトランジスタとを具備し、前記ヘテロ接合バイポーラトランジスタを前記光素子に対して[011]方向に設けることを特徴とする光電子集積回路。
【請求項5】
前記光素子は、フォトダイオード又は光変調器であることを特徴とする請求項4記載の光電子集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−59615(P2007−59615A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242993(P2005−242993)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】