説明

内燃機関の制御装置

【課題】要求負荷の増加において運転性の低下を招くことなく、排気浄化装置の上流側の端面に堆積している微粒子状物質の除去を可能にする内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】減速走行状態と判別されるための回転速度の下限値である燃料カット回転速度以上であるPM除去回転速度NE2よりも回転速度NEが大きく(ステップS11)、燃料カットを実行中(ステップS12)である場合に、EGR弁15を全閉状態にするとともにスロットル弁16を全開状態にする(ステップS13)。これにより吸入空気が多くなることで排気流量が増大し、排気浄化装置に勢いよく排気が流入する。したがって、排気浄化装置の上流側の端面に勢いよく排気を吹き付けることができ、該端面に堆積しているPMを吹き飛ばして除去する。しかも、運転者からの走行要求がない燃料カット中に実行することで、運転性の低下を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置を備えた内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ディーゼル機関などの内燃機関の排気通路には排気を浄化するための排気浄化装置が設けられている。この排気浄化装置には、窒素酸化物(NOx)を浄化するための吸蔵還元型のNOx触媒を担持した触媒コンバータや前記触媒の下流側で排気中の微粒子状物質を捕集するためのフィルタなどが搭載されている。
【0003】
このような排気浄化装置においては、フィルタの劣化を抑制するためにフィルタに付着している微粒子状物質を定期的に除去する、いわば機能再生処理が実行される。この機能再生処理は、例えば未燃燃料成分を含んだ排気を排気浄化装置に供給し、この未燃燃料成分の酸化熱によって前記フィルタを昇温させることにより、フィルタに付着している微粒子状物質を酸化して除去する。一方で、上記フィルタの上流側に配設された触媒では、機能再生処理を実行する場合であってもその上流側の端面が昇温され難いために該上流側の端面に堆積している微粒子状物質が十分に除去されないという問題が生じていた。また、上記酸化熱を得るために排気浄化装置へ未燃燃料成分を供給したときには、前記触媒の上流側の端面に未燃燃料成分が付着してしまい、未燃燃料成分と排気に含まれる微粒子状物質とが混ざり合ってしまうことで、かえって触媒の上流側の端面に微粒子状物質が堆積しやすくなるという問題も生じていた。
【0004】
そこで、上流側の端面に堆積した微粒子状物質を除去すべく、特許文献1の排気系においては、過給機のタービンを挟んだ上流側の部分と下流側の部分とを連通するバイパス配管が設けられて、このバイパス配管からの排気が触媒の上流側における端面に対してその面方向に沿って吹き付けられる。これにより前記触媒の上流側の端面に堆積した微粒子状物質がバイパス配管からの排気を受けるたびに該触媒から除去されてその触媒の下流にあるフィルタへ吹き飛ばされる。
【特許文献1】特開2006−9663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、特許文献1では燃焼室からの排気の一部をバイパス配管に送るがゆえに該バイパス配管に流れる排気量の分だけ過給機のタービンに送る排気量を減少させ、ついには燃焼室に供給する吸入空気の過給圧を低下させてしまう。そのため、内燃機関の要求負荷に応じた過給圧が得られなくなることで該要求負荷に応じた機関運転が実現し難くなり、ひいては要求負荷に関わる運転性の低下を招来してしまう。この問題に対して特許文献1では触媒端面における微粒子状物質の堆積量を検出して検出結果が規定堆積量を超える場合にのみバイパス配管に排気を送るようにしているものの、排気の一部をバイパス配管に送るかぎりは上述する運転性への影響を避け難く、微粒子物質を除去できるといえども運転性の低下という新たな問題を招いてしまう。
【0006】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、要求負荷の増加に対し運転性の低下を招くことなく排気浄化装置の上流側の端面に堆積している微粒子状物質の除去を可能にする内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置は、内燃機関からの排気を浄化する排気浄化触媒
と捕集器とを有する態様で前記内燃機関の排気系に設けられた排気浄化装置の上流から前記内燃機関の吸気系へ前記排気の一部をEGRガスとして還流可能にするEGR弁と、前記吸気系に設けられたスロットル弁とを、EGR率が前記内燃機関の運転状態に応じた目標値になるように開閉制御するEGR制御手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて燃料カット条件が成立するか否かを判断しその判断結果に基づいて燃料カットを制御する燃料カット手段とを備えた内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の回転速度が閾値以上であって前記燃料カット条件が成立する場合には、前記燃料カット手段により前記燃料カットを実行しながら前記EGR制御手段により前記スロットル弁を所定位置まで開き、かつ、前記EGR弁を所定位置まで閉じることを要旨とする。
【0008】
この発明によれば、回転速度が閾値以上であって燃料カットを実行する場合にはEGR弁が所定位置まで閉じ、かつ、スロットル弁が所定位置まで開く。例えば運転者がアクセルペダルを操作しないときに実行する減速運転燃料カット、回転速度が所定の上限値を超えるときに実行する過回転燃料カット、排気浄化触媒の温度が所定の上限値を超えるときに実行する触媒加熱燃料カットなどを実行中の場合には、EGR弁が所定位置まで閉じ、かつ、スロットル弁が所定位置まで開く。これによりEGRガス量を通常運転時よりも低減することで、排気再循環を抑えた状態で回転速度の閾値に応じた大量の吸入空気量が燃焼室に吸気されることから、排気浄化装置の上流側の端面には増量された排気が勢いよく吹き付けられる。この結果、排気浄化装置の端面に堆積している微粒子状物質を排気の流動に伴って取り除くことができる。しかも、上記燃料カットを実行する場合には内燃機関への要求負荷がないので、上記EGR弁の閉制御とスロットル弁の開制御とを実行する上において、要求負荷の増加に対し運転性の低下が招来しない。
【0009】
請求項2に記載の内燃機関の制御装置は、前記内燃機関の回転速度が閾値以上であって前記燃料カット条件が成立する場合には、前記燃料カット手段により前記燃料カットを実行しながら前記EGR制御手段により前記スロットル弁を全開状態にして、かつ、前記EGR弁を全閉状態にすることを要旨とする。
この発明によれば、回転速度が閾値以上であって燃料カットを実行する場合にはEGR弁が全閉状態となり、かつ、スロットル弁が全開状態になる。そのため、排気再循環を停止した状態で回転速度の閾値に応じた大量の吸入空気量が燃焼室に吸気されることから、排気浄化装置の上流側の端面には増量された排気がより勢いよく吹き付けられる。この結果、排気浄化装置の端面に堆積している微粒子状物質を排気の流動に伴い確実に取り除くことができる。
請求項3に記載の内燃機関の制御装置は、前記燃料カット条件が減速燃料カット条件であることを要旨とする。
【0010】
この発明によれば、上記EGR弁の閉制御とスロットル弁の開制御とが減速燃料カットの際に実行される。これにより、高い回転速度に応じた大量の排気を勢いよく排気浄化装置の上流側の端面に向けて吹付けることができ、それゆえ排気浄化装置の上流側の端面に堆積した微粒子物質をより効果的に除去できる。
【0011】
請求項4に記載の内燃機関の制御装置は、前記回転速度の閾値が前記減速燃料カット条件における回転速度の下限値よりも高いことを要旨とする。
この発明によれば、減速燃料カット条件が成立する中で回転速度が高い運転領域でのみ上述したスロットル弁の開制御とEGR弁の閉制御とが実行される。これにより、大量の排気が得られる場合にのみ上記微粒子物質の除去処理を実行できるので排気浄化装置の上流側の端面に対しては排気の過剰な吹付けを避けることができ、ひいては本微粒子物質の除去処理を行う上において排気浄化触媒の過剰な温度低下、すなわち浄化能力の低下を抑えることができる。
【0012】
請求項5に記載の内燃機関の制御装置は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記排気浄化触媒の温度を検出する温度検出手段をさらに備え、前記内燃機関の回転速度が閾値以上であって前記燃料カット条件が成立する状態から前記排気浄化触媒の温度が閾値以下になる場合には、前記EGR率が目標値になるように前記スロットル弁の開度と前記EGR弁の開度とを変更することを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、排気浄化装置への排気の吹付けにより該排気浄化装置内の排気浄化触媒の温度が閾値以下になる場合には、上記増量した排気による吹付けが停止される。これにより微粒子物質の除去処理を実行する上で排気浄化触媒の過剰な温度低下、すなわち浄化能力の低下を抑えることができる。
【0014】
請求項6に記載の内燃機関の制御装置は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の内燃機関における制御装置において、前記排気浄化装置の浄化能力を回復させる添加剤を前記排気浄化装置へ添加する添加制御手段をさらに備え、前記スロットル弁を所定位置まで開き、かつ、前記EGR弁を所定位置まで閉じた後に前記添加制御手段により前記添加剤を前記排気浄化装置へ添加することを要旨とする。
【0015】
この発明によれば、排気浄化触媒の端面から微粒子状物質を除去した後に排気浄化装置の浄化能力の回復を図ることができるので該浄化能力の回復をより効果的に実行できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明を具体化した一実施形態について、図1〜図2を参照して説明する。図1は、内燃機関としてのディーゼルエンジン1及びその周辺構成を示す概略図である。
図1に示すように、ディーゼルエンジン1には複数の気筒#1,#2,#3,#4が設けられ、各気筒#1〜#4を覆うようにシリンダヘッド2が設けられている。シリンダヘッド2には、各気筒#1〜#4に燃料を噴射する燃料噴射弁4a,4b,4c,4dが取り付けられている。燃料噴射弁4a〜4dは、クランクシャフト(図示せず)の回転に応じた燃料噴射時期及び噴射時間で燃料を噴射する。燃料噴射弁4a〜4dは、高圧燃料を蓄圧するコモンレール9にそれぞれ接続されている。コモンレール9はサプライポンプ10に接続されている。サプライポンプ10は、燃料タンク内の燃料を吸入するとともに該燃料を高圧にしてコモンレール9に供給する。コモンレール9に供給された高圧燃料は、各燃料噴射弁4a〜4dの開弁時に同燃料噴射弁4a〜4dから対応する気筒内に噴射される。
【0017】
シリンダヘッド2には、各気筒#1〜#4に吸入空気を導入するための吸気ポートが気筒毎に設けられている。シリンダヘッド2には、各吸気ポートをそれぞれ開閉する図示しない吸気バルブが設けられている。吸気バルブは、クランクシャフト(図示せず)の回転に応じて所定の開弁時期及び開弁時間で開弁することにより、各気筒#1〜#4に吸入空気を導入する。
【0018】
吸気ポートには吸気通路3に連通するインテークマニホールド7が接続されている。吸気通路3内には、各気筒#1〜#4に導入される吸入空気量を調整するスロットル弁16が設けられている。スロットル弁16は、アクチュエータ17によって開閉駆動される電動式であり、所定のスロットル開度で開弁することで、各気筒#1〜#4に導入される吸入空気量を調整する。なお、本実施形態における吸気系は、吸気通路3とインテークマニホールド7によって構成される。
【0019】
シリンダヘッド2には、燃焼ガスを気筒外へ排出するための排気ポート6a,6b,6c,6dが各気筒#1〜#4に対応して設けられている。シリンダヘッド2には、各排気ポート6a〜6dをそれぞれ開閉する図示しない排気バルブが設けられている。排気バル
ブは、クランクシャフト(図示せず)の回転に応じて所定の開弁時期及び開弁時間で開弁することにより燃焼ガスを気筒外に排出する。
【0020】
排気ポート6a〜6dには排気通路26に連通するエキゾーストマニホールド8が接続されている。排気通路26の途中にはターボチャージャ11が配設されて該ターボチャージャ11の下流には排気浄化装置30が配設されている。
【0021】
ターボチャージャ11は、排気通路26を通過する排気を利用して各気筒#1〜#4に導入される吸入空気を過給する装置である。ターボチャージャ11は、排気通路26に設けたタービン11aと、吸気通路3に設けられ上記タービン11aと連動するコンプレッサ11bとを備えている。ターボチャージャ11は、排気を利用してタービン11aとコンプレッサ11bと駆動させ、それらを協働させることで吸入空気を過給する。過給されて温度上昇した吸入空気は、コンプレッサ11bとスロットル弁16との間の吸気通路3に設けられたインタークーラ18によって冷却が図られる。
【0022】
排気浄化装置30は、各気筒#1〜#4からの排気成分を浄化する装置である。排気浄化装置30には、その上流側から順にNOx吸蔵還元触媒31と捕集器であるフィルタ32とが配設されている。NOx吸蔵還元触媒31は、リーン状態において排気中のNOxを吸蔵する一方で、リッチ状態では、吸蔵したNOxと、排気に含まれる一酸化炭素(CO)及び未燃燃料成分の炭化水素(HC)とを反応させてNOxを還元し、これらを窒素(N)、二酸化炭素(CO)、水(HO)にすることにより排気を浄化する。フィルタ32は、排気中のHC、すなわち未燃燃料成分を酸化処理する触媒が担持された多孔質のセラミック構造体で構成されており、排気に含まれる微粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集する部材である。フィルタ32は、担持した酸化触媒が未燃燃料成分を酸化する際の酸化熱を利用して捕集したPMを酸化して除去する。
【0023】
シリンダヘッド2には、添加剤として未燃燃料を排気浄化装置30に供給するための添加剤噴射弁5が設けられている。この添加剤噴射弁5は、燃料供給管27を介して前記サプライポンプ10に接続されており、同添加剤噴射弁5からは気筒#4の排気ポート6d内に向けて未燃燃料が噴射される。この噴射された未燃燃料は、排気とともに排気浄化装置30に到達し、NOx吸蔵還元触媒31でNOxを還元するとともに、フィルタ32に担持された酸化触媒によって酸化されてフィルタ32の温度を上昇させる。なお、添加剤噴射弁5は燃料噴射弁4a〜4dと同様な構造を有している。また、添加剤噴射弁5の配設位置は、排気系にあって排気浄化装置30の上流側であれば適宜変更するも可能である。
【0024】
この他、ディーゼルエンジン1には排気再循環装置(EGR装置:Exhaust Gas Recirculation装置)が備えられている。このEGR装置は、吸入空気に排気の一部を導入することで気筒内の燃焼温度を低下させてNOxの発生量を低減させる装置である。このEGR装置は、吸気通路3におけるスロットル弁16の下流と排気通路26におけるタービン11aの上流とを連通させるEGR通路13や同EGR通路13の途中に設けられたEGR弁15、同EGR通路13の途中に設けられたEGRクーラ14等により構成されている。EGR弁15は、その開度を変更することによりエキゾーストマニホールド8(排気系)からインテークマニホールド7(吸気系)に導入される排気量、すなわちEGR量を調整する。また、EGRクーラ14は、EGR通路13に流れるEGRガスの温度を下げる。
【0025】
こうしたディーゼルエンジン1の各種制御は、車両に搭載された電子制御装置25によって行われる。電子制御装置25は、ディーゼルエンジン1の各種制御にかかる演算処理を実行する演算部と、各種制御に必要なプログラムやデータ、さらには上記演算部の演算
結果が一時的に記憶される記憶部と、外部との間で信号を入出力するための入力ポートと出力ポートとを備えている。
【0026】
電子制御装置25の入力ポートには、ディーゼルエンジン1の運転状態などを把握するために、各種センサからの検出信号が入力される。具体的には、吸気通路3に設けられたエアフロメータ19からは吸入空気量に関する検出信号が前記入力ポートに入力され、スロットル弁16に設けられたスロットル開度センサ20からはスロットル弁16の開度に関する検出信号が入力される。排気浄化装置30に設けられた温度検出センサ21からは排気浄化装置30の温度Tに関する検出信号が入力され、排気通路26に設けた酸素濃度センサ29からは排気の酸素濃度に関する検出信号が入力される。また、ディーゼルエンジン1には、図示しないクランクシャフトの回転速度を検出する機関回転速度センサ23と、図示しないアクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ24とが設けられている。そして、機関回転速度センサ23からは回転速度NEに関する検出信号が入力ポートに入力され、アクセルセンサ24からはアクセル操作量に基づくディーゼルエンジン1への要求負荷(例えばアクセル操作量の最大値に対するアクセル操作量の現状値の割合)に関する検出信号が入力される。なお、ディーゼルエンジン1は、これら各種センサに加えて、該ディーゼルエンジン1を搭載した車両の車速を検出する車速センサなどを備えていている。
【0027】
電子制御装置25は、各種センサからの検出信号に基づきディーゼルエンジン1の運転状態を把握する。電子制御装置25は、ディーゼルエンジン1の各種運転状態を把握するためのデータを記憶部に記憶しており、入力される各種検出信号と当該データとを比較して、ディーゼルエンジン1の運転状態を把握する。例えば、電子制御装置25は、アクセル操作量に基づくディーゼルエンジン1への要求負荷がなく、かつ回転速度NEが上記データに含まれる燃料カット回転速度NE1よりも高い場合には、運転状態が高回転高負荷領域からの減速運転状態であることを把握する。
【0028】
電子制御装置25の出力ポートには、燃料噴射弁4a〜4d、添加剤噴射弁5、サプライポンプ10、EGR弁15、スロットル弁16を駆動するためのアクチュエータ17、などがそれぞれ電気的に接続されている。電子制御装置25は、上記各種センサから入力した検出信号に基づいてディーゼルエンジン1の運転状態を把握し、その把握した運転状態に応じた指令信号を、出力ポートを介して上記各部に出力する。こうして電子制御装置25では、燃料噴射制御、添加剤噴射制御、EGR制御などの各種制御が行われる。
【0029】
電子制御装置25は、燃料噴射制御として、アクセル操作量や回転速度NEなどに基づき燃料噴射弁4a〜4dから噴射させる燃料噴射時間及び燃料噴射時期を演算し、その演算結果に基づき各燃料噴射弁4a〜4dを駆動して、対応する各気筒#1〜#4に燃料を噴射する。
【0030】
また、電子制御装置25は、燃料噴射制御として、燃料噴射弁4a〜4dからの燃料噴射を一時的に停止する燃料カットを実行する。この燃料カットは、ディーゼルエンジン1の各種運転状態に応じて実行され、その一例としては減速燃料カットが挙げられる。この減速燃料カットでは、不必要な燃料噴射を低減し燃費向上を図るため、ディーゼルエンジン1の運転状態が高回転高負荷領域からの減速運転状態であることが実行条件(減速燃料カット条件)である。そして、電子制御装置25は、この減速燃料カット条件が成立する場合に減速燃料カットを実行する。また、電子制御装置25は、上記減速運転状態からアクセルペダルの操作が再び開始されること、あるいは回転速度NEが上記燃料カット回転速度NE1を下回ること、すなわちディーゼルエンジン1の運転状態が上記減速運転状態から異なる運転状態へ切換わることを条件として同減速燃料カットを停止する。
【0031】
電子制御装置25は、NOx吸蔵還元触媒31に吸蔵されたNOxの還元及びフィルタ32に捕集されているPMを酸化除去するための添加剤噴射制御を実行する。添加剤噴射制御は、添加剤噴射弁5から未燃燃料を噴射し、該未燃燃料を排気とともに排気浄化装置30に供給することにより実行される。
【0032】
電子制御装置25は、吸気系に導入する排気の量、すなわちEGR量を調整するEGR制御を実行する。このEGR制御では、エアフロメータ19により検出される吸入空気量、酸素濃度センサ29により検出される酸素濃度、燃料噴射量などに基づいてEGR弁15の開閉制御やスロットル弁16の開閉制御が実行される。具体的には、先ずディーゼルエンジン1の気筒内で燃焼した混合気の空燃比が排気の酸素濃度や燃料噴射量などに基づいて算出されて、該空燃比や吸入空気量、酸素濃度に基づいて現状のEGR率Er(EGR量と吸入空気量との比)が算出される。次いで、電子制御装置25は、燃料噴射量と回転速度NEとに対してEGR量を関連付けたEGRマップを利用してEGR率Erの制御目標値である目標EGR率Etを算出する。そして、電子制御装置25は、現状のEGR率Erが目標EGR率EtになるようにEGR弁15とスロットル弁16の制御目標値である目標EGR開度と目標スロットル弁開度とを算出し、これら目標EGR開度と目標スロットル弁開度とに基づいてEGR弁15とスロットル弁16とを開閉制御する。
【0033】
電子制御装置25は、EGR制御として、NOx吸蔵還元触媒31の上流側の端面31aに堆積したPMを除去するためにPM除去処理を実行する。電子制御装置25は、PM除去処理を実行するための条件である回転速度の閾値をPM除去回転速度NE2として記憶している。このPM除去回転速度NE2は、上記減速燃料カット条件における回転速度の下限値である燃料カット回転速度NE1よりも高い値である(NE1<NE2)。電子制御装置25は、回転速度NEが上記PM除去回転速度NE2よりも高く、かつ上記減速燃料カット条件が成立する場合にはスロットル弁16を全開状態にして、かつEGR弁15を全閉状態にする。これにより、PM除去回転速度NE2に応じた大量の吸入空気が再循環されることなくNOx吸蔵還元触媒31の端面31aに勢いよく吹き付けられる。この結果、NOx吸蔵還元触媒31の端面31aに堆積しているPMが排気の流動に伴って取り除かれて下流のフィルタ32へ吹き飛ばされる。なお、電子制御装置25は、上記PM除去処理の実行条件が成立しないことを条件として上記EGR制御に基づいてEGR率Erが目標EGR率Etとなるようにスロットル弁16とEGR弁15とを開閉制御する。
【0034】
なお、上記PM除去処理を実行する場合には、燃料カットの実行に伴い燃焼による放熱がないため、排気浄化装置30に流入する大量の排気でNOx吸蔵還元触媒31が冷却される。そのため、上記のPM除去処理が過剰に実行されると、排気浄化装置30に配設されたNOx吸蔵還元触媒31の温度低下によりその触媒能の低下が懸念される。そこで、電子制御装置25は、NOx吸蔵還元触媒31の触媒能が十分に確保される排気浄化装置30の下限の温度TをPM除去温度Tsとして記憶し、上記PM除去処理にて温度TがPM除去温度Tsを下回る場合には該PM除去処理を終了して上記EGR制御に基づく開閉制御を実行する。すなわち、上記PM除去処理は、回転速度NEがPM除去回転速度NE2よりも低くなること、燃料カット条件が成立しないこと、NOx吸蔵還元触媒31の温度TがPM除去温度Tsよりも低くなることの各々を終了条件とし、該終了条件のいずれか1つが成立することで終了する。
【0035】
以下、上記PM除去処理の制御ルーチンについて図2を参照して説明する。図2は、PM除去処理の制御ルーチンを説明するためのフローチャートである。なお、当該制御ルーチンは、電子制御装置25によりディーゼルエンジン1の始動時から繰り返して実行される。すなわち、電子制御装置25は、当該制御ルーチンを実行する前段として上記燃料噴射制御に基づく燃料噴射と上記EGR制御に基づくEGR弁15及びスロットル弁16の
開閉制御を実行している。
【0036】
PM除去処理の制御ルーチンを実行するに際し、まず、電子制御装置25は、各種センサからの検出信号に基づいてディーゼルエンジン1の運転状態を把握し、ディーゼルエンジン1の回転速度NEがPM除去回転速度NE2よりも大きいか否かを判断する。回転速度NEがPM除去回転速度NE2よりも大きい場合(ステップS11:YES)、電子制御装置25は、運転状態に基づいて減速燃料カット条件が成立しているか否かを判断し、減速燃料カット条件が成立している場合(ステップS12:YES)には、EGR弁15を全閉状態にして、かつスロットル弁16を全開状態にする(ステップS13)。
【0037】
これによりPM除去回転速度NE2に応じた大量の排気が排気再循環されることなくNOx吸蔵還元触媒31の端面31aに勢いよく吹き付けられ、NOx吸蔵還元触媒31の端面31aに堆積しているPMがこの排気の流動に従って取り除かれる。しかも、ディーゼルエンジン1への要求負荷がない状態で上記制御を実行するため、このPM除去処理を実行する上において、要求負荷の増加に対し運転性の低下が招来しない。
【0038】
なお、電子制御装置25は、回転速度NEがPM除去回転速度NE2よりも小さい場合(ステップS11:NO)、また減速燃料カット条件が成立しない場合(ステップS12:NO)には、本ルーチンを終了する。
【0039】
電子制御装置25は、PM除去処理を実行すると、各種センサからの検出信号に基づき、上述するPM除去処理の終了条件が成立しているか否かを判断し、PM除去処理の終了条件が成立していない場合(ステップS14:NO)には、PM除去処理の終了条件が成立するまでEGR弁15の全閉状態とスロットル弁16の全開状態とを維持する。一方でPM除去処理の終了条件が成立した場合(ステップS14:YES)には、電子制御装置25は、上記EGR制御に基づきEGR弁15及びスロットル弁16を開閉制御するとともに、添加剤噴射弁5を駆動して未燃燃料成分が含まれる排気を排気浄化装置30に供給する。そして、NOx吸蔵還元触媒31が吸蔵しているNOxを還元して排気するとともに、フィルタ32が捕集したPMを未燃燃料成分の酸化熱を利用して酸化して除去する。このとき、端面31aに堆積していたPMが上記PM除去処理により除去されていることから、こうした排気浄化装置の浄化能力の回復をより効果的に実行できる。
【0040】
以上説明したように上記実施形態によれば、下記のような効果を得ることができる。
(1)回転速度NEがPM除去回転速度NE2よりも高くなる状態から減速燃料カットを実行するときに、EGR弁15を全閉状態にして、かつスロットル弁16を全開状態にした。これにより排気再循環を停止した状態でPM除去回転速度NE2に応じた大量の吸入空気量が燃焼室に吸気されることから、NOx吸蔵還元触媒31の端面31aに排気を勢いよく吹き付けることができ、当該端面31aに堆積しているPMを吹き飛ばして除去することができる。しかも、減速燃料カットを実行中は、運転者によるアクセル操作がなくディーゼルエンジン1への要求負荷がないことから、ディーゼルエンジン1の運転性が低下することを確実に回避できる。また、NOx吸蔵還元触媒31の端面31aに堆積しているPMを除去するための新たな機構を設ける必要もないことから、高コスト化を回避した上で実現できる。
【0041】
(2)PM除去回転速度NE2が燃料カット回転速度NE1よりも高い値であるため、減速運転状態の中でもより高回転時に上記PM除去処理が実行される。これにより、減速運転状態の中でも排気流量が高い場合に上記PM除去処理が実行されることから、端面31aに堆積しているPMを効率よく除去することができる。
【0042】
(3)排気浄化装置30の温度TがPM除去温度Tsを下回る場合には上記PM除去処
理を終了させるため、排気の吹付けに伴う排気浄化装置30の過度な冷却、いわば浄化能力の低下を防止することができる。
【0043】
(4)PM除去処理を終了した直後に未燃燃料成分を含んだ排気を排気浄化装置30に供給するために、PMの堆積がないあるいは大幅に少ない状態で排気浄化装置30における浄化能力の回復を図ることができ、該浄化能力の回復をより効果的に実行することができる。
【0044】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、PMを酸化除去するための添加剤を添加剤噴射弁5からの未燃燃料に具体化した。この他、添加剤がディーゼルエンジン1の燃料である場合には、添加剤噴射弁5を割愛して、燃料噴射弁4a〜4dによるポスト噴射(メイン噴射の実行時期から遅れた時期に再度行われる燃料噴射)を実行することで、フィルタ32が捕集したPMの酸化除去を図るようにしてもよい。また、添加剤噴射弁5による燃料供給とポスト噴射による燃料供給と併用するようにしてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、添加制御手段である添加剤噴射弁5からの添加剤をディーゼルエンジン1の燃料としたが、これに限らず排気浄化装置の浄化作用の回復を可能とする添加剤(例えば尿素など)であればどのようなものを用いてもよい。
【0046】
・上記実施形態では、添加剤噴射制御をPM除去処理の直後に実行したが、これに限らず、PMを酸化させて除去する上では、例えば予め定めた時間毎に定期的に実行してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、排気浄化装置30の温度TがPM除去温度Tsよりも低くなった場合には、PM除去処理を終了させた。これに限らず、PMを除去する上では、排気浄化装置30の温度Tに関わらず、PMの堆積量を推測して該堆積量が所定の閾値を超える場合にPM除去処理を実行する構成でもよい。
【0048】
・上記実施形態におけるPM除去処理は減速燃料カットを実行中に実施した。これに限らず、PM除去処理を実行するためには、回転速度NEがPM除去回転速度NE2以上であって燃料カット条件が成立する状態であればよい。この燃料カットとしては、例えば回転速度NEが所定の回転速度を所定時間だけ超えた場合に実行する過回転燃料カット、あるいは車両が所定の最高速度を超えた場合に実行する最高速燃料カットであってもよい。
【0049】
・上記実施形態では、フィルタ32の上流にNOx吸蔵還元触媒31を1つ配設する構成にしたが、これに限らずフィルタ32の上流には酸化触媒や三元触媒などの各種の触媒を適宜単数あるいは複数設ける構成であってもよいし、フィルタの下流に各種触媒を設ける構成であってもよい。
【0050】
・上記実施形態のディーゼルエンジン1は、直列4気筒のディーゼルエンジンであったが、その他の気筒数や気筒配列を備えるディーゼルエンジンにも、本発明は同様に適用することができる。
【0051】
・上記実施形態のディーゼルエンジン1には、排気を利用して吸気通路3内の吸入空気を過給するターボチャージャ11を設けた。これに限らず、PM除去処理を実行する上では、ターボチャージャ11を割愛してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、排気通路26とエキゾーストマニホールド8とによって排気系を具体化したが、排気通路26のみによって排気系を構成してもよい。
・上記実施形態では1つの電子制御装置25によって燃料カット手段、温度検出手段、添加剤制御手段、及びEGR制御手段を具体化したが、複数の電子制御装置によってこれらの手段を具体化してもよい。
【0053】
・上記実施形態のPM除去処理時には、スロットル弁16を全開状態にして、かつ、EGR弁15を全閉状態にした。これに限らず、エンジンの高回転時にEGRガス量を低減してNOx吸蔵還元触媒31の端面31aに大量の排気を勢いよく吹き付けられる範囲であれば、スロットル弁16の開度を全開状態に限らず適宜変更してもよく、又はEGR弁15の開度を全閉状態に限らず適宜変更してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施形態における内燃機関及びその周辺構成を示す概略図。
【図2】本実施形態におけるPM除去処理の制御ルーチンを説明するフローチャート。
【符号の説明】
【0055】
Er…EGR率、Et…目標EGR率、NE…回転速度、NE1…燃料カット回転速度、NE2…PM除去回転速度、T…温度、Ts…閾値としてのPM除去温度、1…ディーゼルエンジン、2…シリンダヘッド、3…吸気通路、4a〜4d…燃料噴射弁、5…添加剤噴射弁、6a〜6d…排気ポート、7…インテークマニホールド、8…エキゾーストマニホール、9…コモンレール、10…サプライポンプ、11…ターボチャージャ、13…EGR通路、14…EGRクーラ、15…EGR弁、16…スロットル弁、17…アクチュエータ、18…インタークーラ、19…エアフロメータ、20…スロットル弁開度センサ、21…温度検出センサ、23…回転速度センサ、24…アクセルセンサ、25…電子制御装置、26…排気通路、27…燃料供給管、29…酸素濃度センサ、30…排気浄化装置、31…NOx吸蔵還元触媒、31a…端面、32…フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの排気を浄化する排気浄化触媒と捕集器とを有する態様で前記内燃機関の排気系に設けられた排気浄化装置の上流から前記内燃機関の吸気系へ前記排気の一部をEGRガスとして還流可能にするEGR弁と、前記吸気系に設けられたスロットル弁とを、EGR率が前記内燃機関の運転状態に応じた目標値になるように開閉制御するEGR制御手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて燃料カット条件が成立するか否かを判断しその判断結果に基づいて燃料カットを制御する燃料カット手段とを備えた内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の回転速度が閾値以上であって前記燃料カット条件が成立する場合には、前記燃料カット手段により前記燃料カットを実行しながら前記EGR制御手段により前記スロットル弁を所定位置まで開き、かつ、前記EGR弁を所定位置まで閉じることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の回転速度が閾値以上であって前記燃料カット条件が成立する場合には、前記燃料カット手段により前記燃料カットを実行しながら前記EGR制御手段により前記スロットル弁を全開状態にして、かつ、前記EGR弁を全閉状態にする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃料カット条件が減速燃料カット条件である請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記回転速度の閾値が前記減速燃料カット条件における回転速度の下限値よりも高い請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記排気浄化触媒の温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記内燃機関の回転速度が閾値以上であって前記燃料カット条件が成立する状態から前記排気浄化触媒の温度が閾値以下になる場合には、前記EGR率が目標値になるように前記スロットル弁の開度と前記EGR弁の開度とを変更することを特徴とすることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の内燃機関における制御装置において、
前記排気浄化装置の浄化能力を回復させる添加剤を前記排気浄化装置へ添加する添加制御手段をさらに備え、
前記スロットル弁を所定位置まで開き、かつ、前記EGR弁を所定位置まで閉じた後に前記添加制御手段により前記添加剤を前記排気浄化装置へ添加することを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−287515(P2009−287515A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142999(P2008−142999)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】