内燃機関の制御装置
【課題】火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火プラグの点火時期を適切に制御することができ、それにより、良好な燃焼状態を得ることができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置では、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するためのEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータが、検出された燃焼状態パラメータを設定された目標値に収束させるように、算出されるとともに、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方が制限される。また、この制限中、この少なくとも一方と、それに対応する制限値との偏差を表す偏差パラメータDFBZ_tiにさらに応じて、対応する噴射時期制御用および点火時期制御用の積分項I_tiの少なくとも一方が算出される。
【解決手段】制御装置では、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するためのEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータが、検出された燃焼状態パラメータを設定された目標値に収束させるように、算出されるとともに、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方が制限される。また、この制限中、この少なくとも一方と、それに対応する制限値との偏差を表す偏差パラメータDFBZ_tiにさらに応じて、対応する噴射時期制御用および点火時期制御用の積分項I_tiの少なくとも一方が算出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒内に生成された成層混合気のうちの点火プラグ付近の混合気を、点火プラグによる火花点火により燃焼させるとともに、これを火種として、気筒内の点火プラグ付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転される内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この内燃機関は、気筒内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁を有しており、火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、その排気弁のリフトおよびバルブタイミングを無段階に変更可能に構成されている。この火種自己着火燃焼モードでは、筒内燃料噴射弁による燃料噴射が吸気行程と圧縮行程に行われることによって、成層混合気が気筒内に生成されるとともに、気筒内における点火プラグ付近の混合気を、点火プラグの火花点火によって燃焼させ、これを火種として、気筒内の点火プラグの付近以外の部位における混合気が、自己着火燃焼する。また、制御装置では、火種自己着火燃焼モードの実行中、気筒内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量と、点火プラグによる点火時期と、筒内燃料噴射弁による燃料の噴射時期が、次のように制御される。
【0003】
すなわち、内部EGRガス量の目標値が、内燃機関に要求される要求トルクおよび内燃機関の回転数に応じたマップ検索によって算出されるとともに、算出された目標値に応じて、排気弁のリフトおよびバルブタイミングを制御することにより、内部EGRガス量が目標値に制御される。また、点火時期は、気筒内の点火プラグ付近以外の他の部位における混合気を自己着火燃焼させるのに最適な値に制御される。さらに、吸気行程および圧縮行程における燃料の噴射時期は、各行程に噴射される燃料量および内燃機関の回転数に応じたマップ検索によって算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−163869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
火種自己着火燃焼モードでは、気筒内の混合気を自己着火燃焼させるため、この自己着火燃焼を適切に行うべく、気筒内の温度を適正な温度に制御するために、内部EGRガス量を適切に制御する必要がある。また、火種自己着火燃焼モードでは、点火プラグ付近の混合気を点火プラグの火花点火により燃焼させるとともに、これを火種として、点火プラグ付近以外の部位の混合気を自己着火燃焼させるため、この自己着火燃焼を適切に行うべく、火種を適切に生成するために、圧縮行程における燃料の噴射時期と、点火プラグの点火時期を適切に制御する必要がある。
【0006】
これに対して、上述した従来の制御装置では、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量は、内燃機関の回転数などに応じたマップ検索で算出された目標値に基づいて、内燃機関の実際の燃焼状態とは無関係に制御される。また、圧縮行程における燃料の噴射時期および点火時期も、内部EGRガス量と同様、内燃機関の実際の燃焼状態とは無関係に制御される。以上から、従来の制御装置では、内部EGRガス量、圧縮行程における燃料の噴射時期および点火時期を、火種自己着火燃焼モードに適した値に制御できず、その結果、内燃機関の良好な燃焼状態を得ることができないおそれがあり、この点で改善の余地がある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火プラグの点火時期を適切に制御することができ、それにより、良好な燃焼状態を得ることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、圧縮行程において気筒3a内に燃料を噴射する圧縮行程噴射と、圧縮行程噴射に先立って行われる燃料噴射とによって、気筒3a内に成層混合気を生成し、成層混合気のうちの点火プラグ10付近の混合気を、点火プラグ10による火花点火により燃焼させ、燃焼した混合気を火種として、気筒3a内の点火プラグ10付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、気筒3a内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量が変更される内燃機関の制御装置1であって、内燃機関3の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータ(実施形態における(以下、本項において同じ)最大筒内圧角θPMAX)を検出する燃焼状態パラメータ検出手段(クランク角センサ31、筒内圧センサ34、ECU2、ステップ1)と、燃焼状態パラメータの目標値(目標角θPCMD)を設定する目標値設定手段(ECU2、ステップ2)と、内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータ(F/B補正項FB_egr)を、検出された燃焼状態パラメータが設定された目標値に収束するように、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用いて算出するEGR制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ12〜18)と、圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータ(F/B補正項FB_ti)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差(筒内圧角偏差DEθ)に応じた噴射時期制御用の比例項P_tiおよび積分項I_tiを用いて算出する噴射時期制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ32〜40、47)と、点火プラグ10の点火時期を制御するための点火時期制御パラメータ(F/B補正項FB_ig)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差に応じた点火時期制御用の比例項P_igおよび積分項I_igを用いて算出する点火時期制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ52〜60、67)と、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータを、少なくとも一方の制御パラメータに対応する所定の制限値(上限値HILMT_ti、上限値HILMT_ig、下限値LOLMT_ti、下限値LOLMT_ig)に制限する制限手段(ECU2、ステップ43〜47、63〜67)と、を備え、制限手段により少なくとも一方の制御パラメータが制限されているときに、少なくとも一方の制御パラメータを算出する噴射時期制御パラメータ算出手段および点火時期制御パラメータ算出手段の少なくとも一方は、算出された少なくとも一方の制御パラメータと、それに対応する制限値との偏差を表す偏差パラメータ(補正項偏差DFBZ_ti、補正項偏差DFBZ_ig)にさらに応じて、噴射時期制御用および点火時期制御用の積分項I_ti、I_igの少なくとも一方を算出する(ステップ44、46、49、36〜39、64、66、69、56〜59)ことを特徴とする。
【0009】
内燃機関は、火種自己着火燃焼モードによって運転されるように構成されており、この制御装置によれば、内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータが、燃焼状態パラメータ検出手段によって検出されるとともに、燃焼状態パラメータの目標値が、目標値設定手段によって設定される。また、内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータが、検出された燃焼状態パラメータを設定された目標値に収束させるように、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用い、EGR制御パラメータ算出手段によって算出される。
【0010】
さらに、圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータ、および、点火プラグの点火時期を制御するための点火時期制御パラメータが、燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、噴射時期制御パラメータ算出手段および点火時期制御パラメータ算出手段によってそれぞれ算出される。以上のように、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するためのEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータがいずれも、検出された燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、算出される。したがって、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火プラグの点火時期を、内燃機関の実際の燃焼状態に応じて適切に制御することができ、それにより、内燃機関の良好な燃焼状態を得ることができる。
【0011】
また、噴射時期制御パラメータが、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差に応じた噴射時期制御用の比例項および積分項を用いて、いわゆるPI制御アルゴリズムを用いて算出され、点火時期制御パラメータも、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差に応じた点火時期制御用の比例項および積分項を用いて、いわゆるPI制御アルゴリズムを用いて算出される。圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期は、内部EGRガス量と異なり、混合気の燃焼に対して直接的かつ大きな影響を及ぼすことから、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するための噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータが、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差に応じたPI制御アルゴリズムによって過度に補正されると、内燃機関の燃費および排ガス特性が悪化する可能性がある。
【0012】
上述した構成によれば、制限手段によって、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータが、この少なくとも一方の制御パラメータに対応する所定の制限値に制限されるとともに、この制限中、制限された少なくとも一方の制御パラメータが用いられる。これにより、過度に補正された少なくとも一方の制御パラメータが用いられるのを防止でき、したがって、内燃機関の良好な燃費および排ガス特性を得ることができる。また、EGR制御パラメータについては、制限手段による制限にかかわらず、燃焼状態パラメータおよび目標値に応じた値を用いるので、内燃機関の良好な燃焼状態を確保することができる。
【0013】
さらに、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータは、噴射時期制御用および点火時期制御用の積分項を用いてそれぞれ算出されるので、制限手段による制限中に、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差が累積されることによって、制限された少なくとも一方の制御パラメータに対応する積分項が飽和する可能性がある。その場合には、制限手段による制限が終了したときに、積分項が飽和状態にあることによって、圧縮行程噴射の噴射時期および/または点火時期を、燃焼状態パラメータおよび目標値に応じて適切に制御することができない。
【0014】
上述した構成によれば、制限手段による制限中に、積分項を、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差のみではなく、少なくとも一方の制御パラメータと、それに対応する制限値との偏差を表す偏差パラメータにさらに応じて算出するので、積分項の飽和を防止することができる。したがって、制限手段による制限が終了したときに、圧縮行程噴射の噴射時期および/または点火時期を、燃焼状態パラメータおよび目標値に応じて適切に制御することができ、ひいては、内燃機関の良好な燃焼状態を得ることができる。同じ理由により、制限手段による制限中に、算出される少なくとも一方の制御パラメータを制限値に漸近させることができるので、この制限を迅速に終了させることができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置1において、内燃機関3の出力を表す出力パラメータ(エンジン回転数NE、図示平均有効圧力IMEP)を検出する出力パラメータ検出手段(クランク角センサ31、筒内圧センサ34、ECU2、ステップ3)と、検出された出力パラメータに応じて、噴射時期制御用および点火時期制御用の制限値を設定する制限値設定手段(ECU2、ステップ41、42、61、62)と、をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、内燃機関の出力を表す出力パラメータが、出力パラメータ検出手段によって検出されるとともに、検出された出力パラメータに応じ、制限値設定手段によって、制限値が設定される。これにより、少なくとも一方の制御パラメータの制限を、そのときの内燃機関の実際の出力に応じて適切に行うことができる。
【0017】
前記目的を達成するため、請求項3に係る発明は、圧縮行程において気筒3a内に燃料を噴射する圧縮行程噴射と、圧縮行程噴射に先立って行われる燃料噴射とによって、気筒3a内に成層混合気を生成し、成層混合気のうちの点火プラグ10付近の混合気を、点火プラグ10による火花点火により燃焼させ、燃焼した混合気を火種として、気筒3a内の点火プラグ10付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、気筒3a内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量が変更される内燃機関の制御装置1であって、内燃機関3の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータ(実施形態における(以下、本項において同じ)最大筒内圧角θPMAX)を検出する燃焼状態パラメータ検出手段(クランク角センサ31、筒内圧センサ34、ECU2、ステップ1)と、燃焼状態パラメータの目標値(目標角θPCMD)を設定する目標値設定手段(ECU2、ステップ2)と、設定された目標値と検出された燃焼状態パラメータとの偏差(筒内圧角偏差DEθ)を算出する偏差算出手段(ECU2、ステップ12、32、52)と、内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータ(F/B補正項FB_egr)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、算出された偏差に応じて算出するEGR制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ13〜18)と、圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータ(F/B補正項FB_ti)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、算出された偏差に応じて算出する噴射時期制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ33〜40、47)と、点火プラグ10の点火時期を制御するための点火時期制御パラメータ(F/B補正項FB_ig)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、算出された偏差に応じて算出する点火時期制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ53〜60、67)と、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータを制限する制限手段(ECU2、ステップ43〜47、63〜67)と、EGR制御パラメータに対する偏差の重み(重み係数KW_egr)を、噴射時期制御パラメータに対する偏差の重み(重み係数KW_ti)、および点火時期制御パラメータに対する偏差の重み(重み係数KW_ig)よりも大きな値に設定する重み設定手段(ECU2、ステップ33、53)と、を備えることを特徴とする。
【0018】
内燃機関は、火種自己着火燃焼モードによって運転されるように構成されており、この制御装置によれば、内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータが、燃焼状態パラメータ検出手段によって検出されるとともに、燃焼状態パラメータの目標値が、目標値設定手段によって設定される。また、設定された目標値と、検出された燃焼状態パラメータとの偏差が、偏差算出手段によって算出される。さらに、内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータが、燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、算出された偏差に応じ、EGR制御パラメータ算出手段によって算出される。また、圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータ、および、点火プラグの点火時期を制御するための点火時期制御パラメータが、燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、算出された偏差に応じ、噴射時期制御パラメータ算出手段および点火時期制御パラメータ算出手段によってそれぞれ算出される。
【0019】
以上のように、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するためのEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータが、検出された燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、算出される。したがって、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火プラグの点火時期を、内燃機関の実際の燃焼状態に応じて適切に制御することができ、それにより、内燃機関の良好な燃焼状態を得ることができる。
【0020】
また、請求項1の説明で述べたように、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期は、内部EGRガス量と異なり、混合気の燃焼に対して直接的かつ大きな影響を及ぼす。このため、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するための噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータが、偏差に応じて過度に補正されると、内燃機関の燃費および排ガス特性が悪化する可能性がある。
【0021】
上述した構成によれば、制限手段によって、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータが制限されるとともに、この制限中、制限された少なくとも一方の制御パラメータが用いられる。これにより、過度に補正された少なくとも一方の制御パラメータが用いられるのを防止でき、したがって、内燃機関の良好な燃費および排ガス特性を得ることができる。また、EGR制御パラメータについては、制限手段による制限にかかわらず、偏差に応じた値を用いるので、内燃機関の良好な燃焼状態を確保することができる。
【0022】
さらに、火種自己着火燃焼モードでは、気筒内の温度が上昇することによって混合気が自己着火燃焼することから、混合気を適切に自己着火燃焼させるには、内部EGRガス量の制御により気筒内の温度を火種自己着火燃焼モードに適した温度に制御することが、非常に重要である。上述した構成によれば、重み設定手段によって、EGR制御パラメータに対する偏差の重みが、噴射時期制御パラメータに対する偏差の重み、および点火時期制御パラメータに対する偏差の重みよりも大きな値に設定される。これにより、火種自己着火燃焼モードにおいて重要なパラメータである内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータに、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差を十分に反映させることができるので、内燃機関の良好な燃焼状態を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態による制御装置が適用された内燃機関を概略的に示す図である。
【図2】制御装置のECUなどを示すブロック図である。
【図3】図1に示す排気側動弁機構の動作を説明するための、排気弁のバルブリフト曲線を示す図である。
【図4】ECUによって実行されるパラメータ算出処理を示すフローチャートである。
【図5】ECUによって実行される内部EGR制御処理を示すフローチャートである。
【図6】ECUによって実行される燃料噴射時期の制御を説明するためのブロック図である。
【図7】ECUによって実行される燃料噴射時期の制御に用いられるマップの一例である。
【図8】ECUによって実行される噴射時期制御処理を示すフローチャートである。
【図9】図8に示す処理の続きを示すフローチャートである。
【図10】ECUによって実行される点火時期制御処理を示すフローチャートである。
【図11】図9に示す処理の続きを示すフローチャートである。
【図12】図10に示す処理で用いられるマップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、4サイクルタイプのガソリンエンジンであり、車両(図示せず)に搭載されている。エンジン3の気筒3aには、ピストン3bが設けられており、気筒3a内における、ピストン3bとシリンダヘッド3cの間に、燃焼室3dが形成されている。また、エンジン3は、気筒3aに吸気を吸入するための吸気弁4と、気筒3aから既燃ガスを排出するための排気弁5と、吸気弁4を駆動するための吸気側動弁機構6と、排気弁5を駆動するための排気側動弁機構7を備えている。
【0025】
この吸気側動弁機構6は、通常のカム駆動式のものであり、エンジン3のクランクシャフト3eに連結された吸気カムや、吸気ロッカアーム(いずれも図示せず)を有している。吸気側動弁機構6では、クランクシャフト3eの回転に伴って回転する吸気カムの回転力が、吸気ロッカアームを介して吸気弁4に伝達され、それにより、吸気弁4が開閉される。
【0026】
また、排気側動弁機構7は、排気弁5のバルブタイミングを無段階に変更可能な可変動弁機構で構成されており、エンジン3のクランクシャフト3eに連結された排気カムと、排気ロッカアームと、排気カム位相可変機構を有している。排気側動弁機構7では、クランクシャフト3eの回転に伴って回転する排気カムの回転力が、排気ロッカアームを介して排気弁5に伝達され、それにより、排気弁5が開閉される。
【0027】
さらに、排気カム位相可変機構は、クランクシャフト3eに対する排気カムの位相(以下「排気カム位相」という)CAEXを無段階に進角側または遅角側に変更するものである。その構成は、本出願人が特開2005−315161号公報で既に提案したものと同様であるので、以下、その概略を簡単に説明する。
【0028】
この排気カム位相可変機構は、電磁弁7a(図2参照)と、これを介して油圧が供給される進角室および遅角室(いずれも図示せず)などで構成されている。図2に示すように、この電磁弁7aは、制御装置1の後述するECU2に接続されており、ECU2からの位相制御入力U_CAEXに応じて、進角室および遅角室に供給する油圧を変化させる。これにより、排気カム位相CAEXが、所定の最遅角値と所定の最進角値との間で無段階に変化し、その結果、排気弁5のバルブタイミングが、図3に実線で示す最遅角タイミングと2点鎖線で示す最進角タイミングとの間で、無段階に変更される。
【0029】
以上の構成により、排気側動弁機構7では、位相制御入力U_CAEXが電磁弁7aに入力されることにより、排気弁5の閉弁タイミングが無段階に変更されることによって、気筒3a内に残留する既燃ガスの量、すなわち内部EGRガス量が制御される。
【0030】
また、エンジン3の本体には、クランク角センサ31および水温センサ32が設けられている。このクランク角センサ31は、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、クランクシャフト3eの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0031】
このCRK信号は、所定クランク角(例えば1゜)毎に1パルスが出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、ピストン3bが吸気行程のTDC位置よりも若干手前の所定のクランク角度位置にあることを表す信号である。ECU2は、これらのCRK信号およびTDC信号に応じて、クランクシャフト3eの回転角度位置であるクランク角度位置を算出する。
【0032】
また、水温センサ32は、サーミスタで構成されており、エンジン3のシリンダブロック内を循環する冷却水の温度であるエンジン水温TWを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0033】
さらに、エンジン3には、カム角センサ33(図2参照)が設けられている。このカム角センサ33は、排気カムの回転に伴い、パルス信号であるEXCAM信号を所定のカム角(例えば1゜)ごとにECU2に出力する。ECU2は、このEXCAM信号およびCRK信号に基づき、排気カム位相CAEXを算出する。
【0034】
また、エンジン3のシリンダヘッド3cには、気筒3a内に吸気を導入するための吸気通路8が接続されており、吸気通路8には、これを開閉するためのスロットル弁9が設けられている。このスロットル弁9の開度は、ECU2からの制御入力信号によって変更され、それにより、吸入空気量が制御される。
【0035】
さらに、エンジン3は、点火プラグ10、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12を備えている。ポート燃料噴射弁11は、吸気ポート8a内に燃料を噴射するように、吸気通路8におけるインテークマニホールドの分岐部に取り付けられており、筒内燃料噴射弁12は、気筒3a内に燃料を直接噴射するように、シリンダヘッド3cに取り付けられている。
【0036】
これらの点火プラグ10、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12はいずれも、ECU2に電気的に接続されており、点火プラグ10による混合気の点火時期と、ポート燃料噴射弁11による燃料噴射量および燃料噴射時期と、筒内燃料噴射弁12による燃料噴射量および燃料噴射時期は、ECU2によって制御される。
【0037】
また、点火プラグ10には、圧電素子で構成された筒内圧センサ34が一体に取り付けられている。筒内圧センサ34は、気筒3a内の圧力(以下「筒内圧」という)PCYLを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0038】
ECU2にはさらに、アクセル開度センサ35から、車両のアクセルペダル(図示せず)の操作量であるアクセル開度APを表す検出信号が出力される。
【0039】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ31〜35の検出信号などに基づいて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、その判別結果に応じて、エンジン3の燃焼モードとして、火種自己着火燃焼モードまたは均質火炎伝搬燃焼モードを選択的に実行する。
【0040】
具体的には、算出されたエンジン回転数NEと、エンジン3に要求される要求トルクTREQで表されるエンジン3の運転領域が、所定の低〜中回転域にあり、かつ所定の低〜中負荷域にあるときには、火種自己着火燃焼モードを実行するとともに、それ以外のときには、均質火炎伝搬燃焼モードを実行する。この要求トルクTREQは、エンジン回転数NEと、検出されたアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。また、検出されたエンジン水温TWが下限温度よりも低いときには、エンジン3の運転領域にかかわらず、均質火炎伝搬燃焼モードが強制的に実行される。
【0041】
この均質火炎伝搬燃焼モードでは、排気行程から吸気行程までの所定の期間において、ポート燃料噴射弁11による燃料噴射を行い、それにより、均質な混合気が気筒3a内に生成される。そして、この混合気を、点火プラグ10による火花点火によって火炎伝搬燃焼させる。
【0042】
また、火種自己着火燃焼モードでは、排気行程から吸気行程までの所定の期間において、ポート燃料噴射弁11による燃料噴射を行い、それにより、理論空燃比よりもリーンな混合気が、気筒3a内に生成される。次いで、圧縮行程において、筒内燃料噴射弁12による燃料噴射を行い、それにより、気筒3a内における点火プラグ10の付近に、他の部位よりもリッチな混合気が生成される。以上のポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12による燃料噴射によって、気筒3a内に成層混合気が生成される。次に、点火プラグ10付近の混合気を、点火プラグ10による火花点火で燃焼させ、これを火種として、他の部位におけるリーンな混合気を自己着火燃焼させる。
【0043】
以下、火種自己着火燃焼モード中にECU2によって実行される各種の処理について説明する。まず、図4を参照しながら、制御パラメータ算出処理について説明する。本処理は、後述する各種の処理で用いられるパラメータを算出するためのものであり、前述したCRK信号の発生に同期して実行される。
【0044】
まず、図4のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、検出された筒内圧PCYLと、算出されたクランク角度位置に応じて、最大筒内圧角θPMAXを算出する。この最大筒内圧角θPMAXは、所定の最大筒内圧角算出区間において、筒内圧PCYLが最大値を示すクランク角度位置として算出される。この最大圧角算出区間は、混合気の着火タイミングを起点とし、これよりも所定値分、遅角側のクランク角度位置CAを終点とする区間である。
【0045】
次いで、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、目標角θPCMDを算出する(ステップ2)。この目標角θPCMDは、上述した最大筒内圧角θPMAXの目標値であり、上記のマップでは、エンジン3の良好な燃焼状態が得られるような値に設定されている。次に、筒内圧PCYLに応じて、エンジン3の図示平均有効圧力IMEPを算出し(ステップ3)、本処理を終了する。この図示平均有効圧力IMEPは、例えば、本出願人が特開2006−52647号公報に開示した手法によって算出される。
【0046】
次に、図5を参照しながら、内部EGR制御処理について説明する。本処理は、火種自己着火燃焼モードにおいて混合気を適切に自己着火燃焼させるべく、気筒3a内の温度を適正な温度に制御するために、前述した内部EGRガス量を制御するものである。また、本処理は、前述したTDC信号の発生に同期して実行される。
【0047】
まず、図5のステップ11では、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本EGRガス量EGRBASEを算出する。次いで、図4のステップ2で算出された目標角θPCMDから、ステップ1で算出された最大筒内圧角θPMAXを減算することによって、筒内圧角偏差DEθを算出する(ステップ12)。次に、ステップ12で算出された筒内圧角偏差DEθに、重み係数KW_egrを乗算することによって、補正後偏差CDEθ_egrを算出する(ステップ13)。この重み係数KW_egrは、所定の一定値、例えば値1.0に設定されている。これにより、本実施形態では、補正後偏差CDEθ_egrは、筒内圧角偏差DEθと同じ値に算出される。
【0048】
続くステップ14以降では、最大筒内圧角θPMAXを目標角θPCMDに収束させるようにフィードバック(以下「F/B」という)制御するためのF/B補正項FB_egrを、算出された補正後偏差CDEθ_egrに応じて算出する。まず、ステップ14では、ステップ13で算出された補正後偏差CDEθ_egrに、所定の比例項ゲインKP_egrを乗算することによって、比例項P_gerを算出する。
【0049】
次いで、そのときに得られている筒内圧角偏差積分値IDEθを、その前回値IDEθZとしてシフトする(ステップ15)とともに、設定された筒内圧角偏差積分値の前回値IDEθZに、補正後偏差CDEθ_egrを加算することによって、筒内圧角偏差積分値の今回値IDEθを算出する(ステップ16)。次に、ステップ16で算出された筒内圧角偏差積分値IDEθに、所定の積分項ゲインKI_egrを乗算することによって、積分項I_egrを算出する(ステップ17)。
【0050】
次いで、上記ステップ14で算出された比例項P_egrと、ステップ17で算出された積分項I_egrとの和を、F/B補正項FB_egrとして算出する(ステップ18)。以上のように、F/B補正項FB_egrは、補正後偏差CDEθ_egrに応じ、PI制御アルゴリズムによって算出される。
【0051】
次に、上記ステップ18で算出されたF/B補正項FB_egrを、前記ステップ11で算出された基本EGRガス量EGRBASEに加算することによって、目標EGRガス量EGRCMDを算出する(ステップ19)。次いで、算出した目標EGRガス量EGRCMDとエンジン回転数NEに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、排気カム位相CAEXの目標となる目標カム位相CAEXCMDを算出する(ステップ20)。次に、算出した目標カム位相CAEXCMDと検出された実際の排気カム位相CAEXに応じ、位相制御入力U_CAEXを算出し(ステップ21)、本処理を終了する。
【0052】
このステップ21により位相制御入力U_CAEXが算出されると、算出された位相制御入力U_CAEXに応じて電磁弁7aが駆動される。これにより、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDに収束するように、EGRガス量が目標EGRガス量EGRCMDに制御される。
【0053】
次に、火種自己着火燃焼モードにおける筒内燃料噴射弁12による燃料噴射時期(以下「筒内噴射時期」という)の制御について説明する。筒内噴射時期は、上述した内部EGRガス量の場合と同様、最大筒内圧角θPMAXを目標角θPCMDに収束させるようにF/B制御するために、後述するF/B補正項FB_tiに応じて算出される。このF/B補正項FB_tiの算出手法は、内部EGRガス量を制御するためのF/B補正項FB_egrのそれと異なっているため、以下、この点について説明する。
【0054】
図6は、上記のF/B補正項FB_tiを算出するためのF/B補正項算出部を示すブロック図であり、このF/B補正項算出部は、ECU2によって構成されている。図6に示すように、F/B補正項算出部は、第1乗算器2a、第2乗算器2b、第3乗算器2c、加算器2d、第1減算器2e、第2減算器2f、積分器2g、およびリミッタ2hを有している。
【0055】
第1乗算器2aには、第1補正後偏差CDEθ1_tiが入力される。この第1補正後偏差CDEθ1_tiは、筒内圧角偏差DEθに重み係数KW_tiを乗算することによって算出される。この重み係数KW_tiは、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|に応じ、図7に示すマップを検索することによって算出される。このマップでは、重み係数KW_tiは、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が値0のときには、値0に設定されるとともに、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が大きいほど、より大きな値に設定されている。また、重み係数KW_tiは、全体として、前述した目標EGRガス量EGRCMDの算出に用いられる重み係数KW_egrよりも小さな値に設定されている。
【0056】
また、第1乗算器2aは、入力された第1補正後偏差CDEθ1_tiに、所定の比例項ゲインP_tiを乗算することによって、比例項P_tiを算出するとともに、加算器2dに出力する。加算器2dには、第1乗算器2aからの比例項P_tiに加え、後述する積分項I_tiが入力される。加算器2dは、入力された比例項項P_tiと積分項I_tiの和を、F/B補正項の暫定値FB_tiTとして算出するとともに、リミッタ2hおよび第1減算器2eに出力する。
【0057】
また、リミッタ2hには、加算器2dからの暫定値FB_tiTに加え、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPが入力される。リミッタ2hは、入力されたエンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPに応じ、所定の上限値マップおよび下限値マップ(いずれも図示せず)を検索することによって、上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiをそれぞれ算出する。算出された上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiはそれぞれ、正値および負値である。
【0058】
また、リミッタ2hは、算出された上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiに基づき、入力された暫定値FB_tiTにリミット処理を施すことによって、F/B補正項FB_tiを求めるとともに、第1減算器2eに出力する。この場合、F/B補正項FB_tiは、FB_tiT>HILMT_tiのときには上限値HILMT_tiに設定され、LOLMT_ti≦FB_tiT≦HILMT_tiのときには暫定値FB_tiTに設定されるとともに、FB_tiT<LOLMT_tiのときには下限値LOLMT_tiに設定される。
【0059】
第1減算器2eは、入力された暫定値FB_tiTから、F/B補正項FB_tiを減算することによって、補正項偏差DFBZ_tiを算出するとともに、第3乗算器2cに出力する。上述したリミッタ2hによるF/B補正項FB_tiの設定手法から明らかなように、補正項偏差DFBZ_tiは、FB_tiT>HILMT_tiのときには、暫定値FB_tiTと上限値HILMT_tiとの偏差(FB_tiT−HILMT_ti)に算出され、LOLMT_ti≦FB_tiT≦HILMT_tiのときには、値0に算出されるとともに、FB_tiT<LOLMT_tiのときには、暫定値FB_tiTと下限値LOLMT_tiとの偏差(FB_tiT−LOLMT_ti)に算出される。
【0060】
第3乗算器2cは、入力された補正項偏差DFBZ_tiに、比例項ゲインP_tiの逆数を乗算した値(以下「補正項偏差除算値DFBZ_ti/P_ti」という)を、第2減算器2fに出力する。第2減算器2fには、この補正項偏差除算値DFBZ_ti/P_tiに加え、第1補正後偏差CDEθ1_tiが入力される。第2減算器2fは、入力された第1補正後偏差CDEθ1_tiから、補正項偏差除算値DFBZ_ti/P_tiを減算することによって、第2補正後偏差CDEθ2_tiを算出するとともに、積分器2gに出力する。
【0061】
積分器2gは、入力された第2補正後偏差CDEθ2_tiを積分することによって、補正後偏差積分値ICDEθ_tiを算出するとともに、第2乗算器2bに出力する。第2乗算器2bは、入力された補正後偏差積分値ICDEθ_tiに、所定の積分項ゲインKI_tiを乗算することによって、積分項I_tiを算出するとともに、加算器2dに出力する。
【0062】
以上のように、F/B補正項の暫定値FB_tiTに、リミッタ2hによるリミット処理を施すことによって、F/B補正項FB_tiが、上限値HILMT_ti以下で、かつ、下限値LOLMT_ti以上の値に制限される。また、F/B補正項FB_tiがリミッタ2hにより制限されておらず、F/B補正項FB_tiが暫定値FB_tiTに設定されているときには、第1減算器2eによって算出される補正項偏差DFBZ_tiは、値0になる。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_tiが、補正されずにそのまま第2補正後偏差CDEθ2_tiとして積分器2gに入力されるとともに、この第2補正後偏差CDEθ2_tiを用いて、積分項I_tiが算出される。以上の結果、F/B補正項FB_tiが制限されていないときには、F/B補正項FB_tiは、第1補正後偏差CDEθ1_tiに応じたPI制御アルゴリズムによって算出される。
【0063】
一方、暫定値FB_tiTが上限値HILMT_tiよりも大きいことにより、F/B補正項FB_tiが上限値HILMT_tiに制限されているときには、補正項偏差DFBZ_tiは、暫定値FB_tiTと上限値HILMT_tiとの偏差(FB_tiT−HILMT_ti)と等しくなる。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_tiが、補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiの減算により補正されることによって、第2補正後偏差CDEθ2_tiが算出されるとともに、この第2補正後偏差CDEθ2_tiを用いて、積分項I_tiが算出される。
【0064】
また、F/B補正項FB_tiが上限値HILMT_tiに制限されているときには、基本的には、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDよりも進角側にあり、それにより、筒内圧角偏差DEθに重み係数KW_tiを乗算した第1補正後偏差CDEθ1_tiは、正値になる。さらに、暫定値FB_tiTは、最大筒内圧角θPMAXを遅角側の目標角θPCMDに収束させるために、比較的大きな正値になり、上限値HILMT_tiを上回る。この場合、暫定値FB_tiTと上限値HILMT_tiとの偏差に基づいて算出される補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiは、正値になる。その結果、この補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiを第1補正後偏差CDEθ1_tiから減算した第2補正後偏差CDEθ2_tiは、第1補正後偏差CDEθ1_tiよりも小さくなる。これにより、第1補正後偏差CDEθ1_tiをそのまま用いた場合と比較して、積分項I_tiがより小さな値に算出されることで、積分項I_tiの飽和(過大化)が防止されるとともに、暫定値FB_tiTは、より小さな値に算出され、上限値HILMT_tiに漸近する。
【0065】
一方、暫定値FB_tiTが下限値LOLMT_tiよりも小さいことにより、F/B補正項FB_tiが下限値LOLMT_tiに制限されているときには、補正項偏差DFBZ_tiは、暫定値FB_tiTと下限値LOLMT_tiとの偏差(FB_tiT−HILMT_ti)と等しくなる。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_tiが、補正項偏差除算値(DFBZ_ti/KP_ti)の減算により補正されることによって、第2補正後偏差CDEθ2_tiが算出されるとともに、この第2補正後偏差CDEθ2_tiを用いて、積分項I_tiが算出される。
【0066】
また、F/B補正項FB_tiが下限値LOLMT_tiに制限されているときには、基本的には、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDよりも遅角側であり、それにより、第1補正後偏差CDEθ1_tiは、負値になる。さらに、暫定値FB_tiTは、最大筒内圧角θPMAXを進角側の目標角θPCMDに収束させるために、絶対値が比較的大きな負値になり、下限値LOLMT_tiを下回る。この場合、暫定値FB_tiTと下限値LOLMT_tiとの偏差に基づいて算出される補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiは、負値になる。その結果、この補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiを第1補正後偏差CDEθ1_tiから減算した第2補正後偏差CDEθ2_tiは、その絶対値が、第1補正後偏差CDEθ1_tiよりも小さくなる。これにより、第1補正後偏差CDEθ1_tiをそのまま用いた場合と比較して、積分項I_tiは、その絶対値がより小さな値に算出され、それにより積分項I_tiの飽和(過小化)が防止されるとともに、暫定値FB_tiTは、その絶対値がより小さな値に算出され、下限値LOLMT_tiに漸近する。
【0067】
次に、図8および図9を参照しながら、筒内噴射時期を制御するための噴射時期制御処理について説明する。本処理は、TDC信号の発生に同期して実行される。まず、図8のステップ31では、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本噴射時期TIBASEを算出する。この基本噴射時期TIBASEは、筒内噴射時期TINJの基本値であり、上記のマップでは、圧縮行程におけるタイミングに設定されている。次いで、図5のステップ12と同様、目標角θPCMDから、最大筒内圧角θPMAXを減算することによって、筒内圧角偏差DEθを算出する(ステップ32)。
【0068】
次に、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|に応じ、前述した図7に示すマップを検索することによって、重み係数KW_tiを算出する(ステップ33)とともに、算出された重み係数KE_tiを、上記ステップ32で算出された筒内圧角偏差DEθに乗算することによって、第1補正後偏差CDEθ1_tiを算出する(ステップ34)。ステップ34に続くステップ35以降では、前述したF/B補正項FB_tiを、算出された第1補正後偏差CDEθ1_tiに応じて算出する。このステップ35以降の処理が、図6を用いて説明したF/B補正項算出部によるF/B補正項FB_tiの算出に相当する。
【0069】
まず、ステップ35では、ステップ34で算出された第1補正後偏差CDEθ1_tiに、比例項ゲインKP_tiを乗算することによって、比例項P_tiを算出する。次いで、そのときに得られている補正項偏差DFBZ_tiに比例項ゲインKP_tiの逆数を乗算した値、すなわち補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiを、第1補正後偏差CDEθ1_tiから減算することによって、第2補正後偏差CDEθ2_tiを算出する(ステップ36)。
【0070】
次に、そのときに得られている補正後偏差積分値ICDEθ_tiを、その前回値ICDEθ_tiZにシフトする(ステップ37)とともに、この補正後偏差積分値の前回値ICDEθ_tiZに、上記ステップ36で算出された第2補正後偏差CDEθ2_tiを加算することによって、補正後偏差積分値の今回値ICDEθ_tiを算出する(ステップ38)。次いで、このステップ38で算出された補正後偏差積分値ICDEθ_tiに、積分項ゲインKI_tiを乗算することによって、積分項I_tiを算出する(ステップ39)とともに、上記ステップ35で算出された比例項P_tiと、ステップ39で算出された積分項I_tiとの和を、F/B補正項の暫定値FB_tiTとして算出する(ステップ40)。
【0071】
ステップ40に続く図9のステップ41および42ではそれぞれ、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPに応じ、前述した上限値マップおよび下限値マップを検索することによって、上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiを算出する。また、ステップ42に続くステップ43〜47では、ステップ41および42でそれぞれ算出された上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiを用いて、上記ステップ40で算出された暫定値FB_tiTに、前述したリミット処理を施す。
【0072】
まず、ステップ43では、暫定値FB_tiTが上限値HILMT_ti以下であるか否かを判別する。この答がNOで、暫定値FB_tiTが上限値HILMT_tiよりも大きいときには、F/B補正項FB_tiを上限値HILMT_tiに設定し(ステップ44)、ステップ48に進む。
【0073】
一方、上記ステップ43の答がYESで、FB_tiT≦HILMT_tiのときには、暫定値FB_tiTが下限値LOLMT_ti以上であるか否かを判別する(ステップ45)。この答がNOで、暫定値FB_tiTが下限値LOLMT_tiよりも小さいときには、F/B補正項FB_tiを下限値LOLMT_tiに設定し(ステップ46)、ステップ48に進む。
【0074】
一方、ステップ45の答がYESのとき、すなわち、暫定値FB_tiTが上限値HILMT_ti以下で、かつ下限値LOLMT_ti以上のときには、F/B補正項FB_tiを暫定値FB_tiTに設定し(ステップ47)、ステップ48に進む。
【0075】
このステップ48では、上記ステップ44、46または47で設定されたF/B補正項FB_tiを、図8のステップ31で算出された基本噴射時期TIBASEに加算することによって、筒内噴射時期TINJを算出する。次いで、暫定値FB_tiTからF/B補正項FB_tiを減算することによって、補正項偏差DFBZ_tiを算出し(ステップ49)、本処理を終了する。
【0076】
上記ステップ48により筒内噴射時期TINJが算出されると、算出された筒内噴射時期TINJのタイミングで、筒内燃料噴射弁12から燃料が噴射される。
【0077】
次に、図10を参照しながら、点火プラグ10による点火時期を制御するための点火時期制御処理について説明する。本処理は、TDC信号の発生に同期して実行される。また、本処理では、上述した噴射時期制御処理とまったく同じ手法によって、点火時期が制御される。
【0078】
まず、図10のステップ51では、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本点火時期IGBASEを算出する。この基本点火時期IGBASEは、点火時期IGLOGの基本値であり、上記のマップでは、前述した基本噴射時期TIBASEよりも遅角側の圧縮行程におけるタイミングに設定されている。次いで、図5のステップ12と同様、目標角θPCMDから最大筒内圧角θPMAXを減算することによって、筒内圧角偏差DEθを算出する(ステップ52)。
【0079】
次に、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|に応じ、図12に示すマップを検索することによって、重み係数KW_igを算出する(ステップ53)。このマップでは、重み係数KW_igは、前述した重み係数KW_tiと同様、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が値0のときには、値0に設定されており、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が大きいほど、より大きな値に設定されている。また、重み係数KW_igは、全体として、前述した目標EGRガス量EGRCMDの算出に用いられる重み係数KW_egrよりも小さな値に設定されている。次いで、上記ステップ52で算出された筒内圧角偏差DEθに、ステップ53で算出された重み係数KW_igを乗算することによって、第1補正後偏差CDEθ1_igを算出する(ステップ54)。
【0080】
続くステップ55以降では、算出された第1補正後偏差CDEθ1_igに応じてF/B補正項FB_igを算出する。まず、ステップ55では、上記ステップ54で算出された第1補正後偏差CDEθ_igに、所定の比例項ゲインKP_igを乗算することによって、比例項P_igを算出する。次いで、そのときに得られている補正項偏差DFBZ_igに、比例項ゲインKP_igの逆数を乗算した値である補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igを、第1補正後偏差CDEθ_igから減算することによって、第2補正後偏差CDEθ2_igを算出する(ステップ56)。
【0081】
次に、そのときに得られている補正後偏差積分値ICDEθ_igを、その前回値ICDEθ_igZにシフトする(ステップ57)とともに、この補正後偏差積分値の前回値ICDEθ_igZに、上記ステップ56で算出された第2補正後偏差CDEθ2_igを加算することによって、補正後偏差積分値の今回値ICDEθ_igを算出する(ステップ58)。次いで、このステップ58で算出された補正後偏差積分値ICDEθ_igに、所定の積分項ゲインKI_igを乗算することによって、積分項I_igを算出する(ステップ59)とともに、上記ステップ55で算出された比例項P_igと、ステップ59で算出された積分項I_igとの和を、F/B補正項の暫定値FB_igTとして算出する(ステップ60)。
【0082】
ステップ60に続く図11のステップ61および62ではそれぞれ、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPに応じ、所定の上限値マップおよび下限値マップ(いずれも図示せず)を検索することによって、上限値HILMT_igおよび下限値LOLMT_igを算出する。算出された上限値HILMT_igおよび下限値LOLMT_igはそれぞれ、前述した筒内噴射時期の制御に用いられる上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiと同様、正値および負値である。
【0083】
また、ステップ62に続くステップ63〜67では、図8のステップ43〜47と同様、ステップ61および62でそれぞれ算出された上限値HILMT_igおよび下限値LOLMT_igを用いて、上記ステップ60で算出された暫定値FB_igTに、リミット処理を施す。まず、ステップ63では、暫定値FB_igTが上限値HILMT_ig以下であるか否かを判別する。この答がNOで、暫定値FB_igTが上限値HILMT_igよりも大きいときには、F/B補正項FB_igを上限値HILMT_igに設定し(ステップ64)、ステップ68に進む。
【0084】
一方、上記ステップ63の答がYESで、FB_igT≦HILMT_igのときには、暫定値FB_igTが下限値LOLMT_ig以上であるか否かを判別する(ステップ65)。この答がNOで、暫定値FB_igTが下限値LOLMT_igよりも小さいときには、F/B補正項FB_igを下限値LOLMT_igに設定し(ステップ66)、ステップ68に進む。
【0085】
一方、ステップ65の答がYESのとき、すなわち、暫定値FB_igTが上限値HILMT_ig以下で、かつ下限値LOLMT_ig以上のときには、F/B補正項FB_igを暫定値FB_igTに設定し(ステップ67)、ステップ68に進む。
【0086】
このステップ68では、上記ステップ64、66または67で設定されたF/B補正項FB_igを、図10のステップ51で算出された基本点火時期IGBASEに加算することによって、点火時期IGLOGを算出する。次いで、暫定値FB_igTからF/B補正項FB_igを減算することによって、補正項偏差DFBZ_igを算出し(ステップ69)、本処理を終了する。
【0087】
上記ステップ68により点火時期IGLOGが算出されると、算出された点火時期IGLOGのタイミングで、点火プラグ10による放電が実行され、混合気の点火が行われる。
【0088】
以上のように、点火時期制御処理においても、噴射時期制御処理の場合と同様、F/B補正項の暫定値FB_igTに、リミット処理を施すことによって、F/B補正項FB_igが、上限値HILMT_ig以下で、かつ、下限値LOLMT_ig以上の値に制限される(図11のステップ63〜67)。また、F/B補正項FB_igが制限されておらず(ステップ63および65:YES)、F/B補正項FB_igが暫定値FB_igTに設定されている(ステップ67)ときには、補正項偏差DFBZ_igは値0になる(ステップ69)。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_igが、補正されずにそのまま第2補正後偏差CDEθ2_igとして設定される(図10のステップ56)とともに、この第2補正後偏差CDEθ2_igを用いて、積分項I_igが算出される(ステップ57〜59)。以上の結果、F/B補正項FB_igが制限されていないときには、F/B補正項FB_igは、第1補正後偏差CDEθ1_igに応じたPI制御アルゴリズムによって算出される(ステップ54〜60)。
【0089】
一方、暫定値FB_igTが上限値HILMT_igよりも大きい(ステップ63:NO)ことにより、F/B補正項FB_igが上限値HILMT_igに制限されている(ステップ64)ときには、補正項偏差DFBZ_igは、暫定値FB_igTと上限値HILMT_igとの偏差(FB_igT−HILMT_ig)と等しくなる(ステップ69)。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_igが、補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igの減算により補正されることによって、第2補正後偏差CDEθ2_igが算出される(ステップ56)とともに、この第2補正後偏差CDEθ2_igを用いて、積分項I_igが算出される(ステップ57〜59)。
【0090】
また、F/B補正項FB_igが上限値HILMT_igに制限されているときには、基本的には、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDよりも進角側にあり、それにより、筒内圧角偏差DEθに重み係数KW_igを乗算した第1補正後偏差CDEθ1_igは、正値になる。さらに、暫定値FB_igTは、最大筒内圧角θPMAXを遅角側の目標角θPCMDに収束させるために、比較的大きな正値になり、上限値HILMT_igを上回る。この場合、暫定値FB_igTと上限値HILMT_igとの偏差に基づいて算出される補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igは、正値になる。その結果、この補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igを第1補正後偏差CDEθ1_igから減算した第2補正後偏差CDEθ2_igは、第1補正後偏差CDEθ1_igよりも小さくなる。これにより、第1補正後偏差CDEθ1_igをそのまま用いた場合と比較して、積分項I_igがより小さな値に算出されることで、積分項I_igの飽和(過大化)が防止されるとともに、暫定値FB_igTは、より小さな値に算出され、上限値HILMT_igに漸近する。
【0091】
一方、暫定値FB_igTが下限値LOLMT_igよりも小さい(ステップ65:NO)ことにより、F/B補正項FB_igが下限値LOLMT_igに制限されている(ステップ66)ときには、補正項偏差DFBZ_igは、暫定値FB_igTと下限値LOLMT_igとの偏差(FB_igT−HILMT_ig)と等しくなる(ステップ69)。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_igが、補正項偏差除算値(DFBZ_ig/KP_ig)の減算により補正されることによって、第2補正後偏差CDEθ2_igが算出される(ステップ56)とともに、この第2補正後偏差CDEθ2_igを用いて、積分項I_igが算出される(ステップ57〜59)。
【0092】
また、F/B補正項FB_igが下限値LOLMT_igに制限されているときには、基本的には、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDよりも遅角側であり、それにより、第1補正後偏差CDEθ1_igは、負値になる。さらに、暫定値FB_igTは、最大筒内圧角θPMAXを進角側の目標角θPCMDに収束させるために、絶対値が比較的大きな負値になり、下限値LOLMT_igを下回る。この場合、暫定値FB_igTと下限値LOLMT_igとの偏差に基づいて算出される補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igは、負値になる。その結果、この補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igを第1補正後偏差CDEθ1_igから減算した第2補正後偏差CDEθ2_igは、その絶対値が、第1補正後偏差CDEθ1_igよりも小さくなる。これにより、第1補正後偏差CDEθ1_igをそのまま用いて算出した場合と比較して、積分項I_igは、その絶対値がより小さな値に算出され、それにより積分項I_igの飽和(過小化)が防止されるとともに、暫定値FB_igTは、その絶対値がより小さな値に算出され、下限値LOLMT_igに漸近する。
【0093】
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態におけるクランク角センサ31および筒内圧センサ34が、本発明における燃焼状態パラメータ検出手段および出力パラメータ検出手段に相当する。また、本実施形態におけるECU2が、本発明における燃焼状態パラメータ検出手段、目標値設定手段、EGR制御パラメータ算出手段、噴射時期制御パラメータ算出手段、点火時期制御パラメータ算出手段、制限手段、出力パラメータ検出手段、制限値設定手段、偏差算出手段、および重み設定手段に相当する。
【0094】
さらに、本実施形態における最大筒内圧角θPMAX、目標角θPCMDおよび筒内圧角偏差DEθが、本発明における燃焼状態パラメータ、目標値および偏差にそれぞれ相当するとともに、本実施形態におけるF/B補正項FB_egr、FB_tiおよびFB_igが、本発明におけるEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータにそれぞれ相当する。また、本実施形態における上限値HILMT_ti,HILMT_igおよび下限値LOLMT_ti,LOLMT_igが、本発明における制限値に相当するとともに、本実施形態における補正項偏差DFBZ_tiおよびDFBZ_igが、本発明における偏差パラメータに相当する。さらに、本実施形態におけるエンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPが、本発明における出力パラメータに相当するとともに、本実施形態における重み係数KW_egr、KW_tiおよびKW_igが、本発明におけるEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータに対する偏差の重みにそれぞれ相当する。
【0095】
以上のように、本実施形態によれば、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量、筒内噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するためのF/B補正項FB_egr、FB_tiおよびFB_igがいずれも、筒内圧角偏差DEθに応じたPI制御アルゴリズムによって、最大筒内圧角θPMAXを目標角θPCMDに収束させるように、算出される。したがって、内部EGRガス量、筒内噴射時期および点火時期を、エンジン3の実際の燃焼状態に応じて適切に制御することができ、それにより、エンジン3の良好な燃焼状態を得ることができる。また、この場合、PI制御アルゴリズムを用いるので、目標角θPCMDに対する最大筒内圧角θPMAXの定常偏差を抑制することができる。
【0096】
さらに、F/B補正項FB_tiが、上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiで規定される範囲内に制限されるとともに、F/B補正項FB_igが、上限値HILMT_igおよび下限値LOLMT_igで規定される範囲内に制限される。これにより、過度に補正された筒内噴射時期TINJおよび点火時期IGLOGが用いられるのを防止でき、したがって、エンジン3の良好な排ガス特性を得ることができる。また、F/B補正項FB_egrについては、この制限にかかわらず、最大筒内圧角θPMAXおよび目標角θPCMDに応じた値を用いるので、エンジン3の良好な燃焼状態を確保することができる。
【0097】
さらに、F/B補正項FB_tiおよびFB_igの制限中、第1補正後偏差CDEθ1_tiおよびCDEθ1_igをそのまま用いずに、第1補正後偏差CDEθ1_tiおよびCDEθ1_igを、補正項偏差DFBZ_tiおよびDFBZ_igでそれぞれ補正した第2補正後偏差CDEθ2_tiおよびCDEθ2_igを用いて、積分項I_tiおよびI_igが算出される。これにより、F/B補正項FB_tiおよびFB_igの制限中、積分項I_tiおよびI_igの飽和を防止することができるので、この制限が終了したときに、筒内噴射時期および点火時期を、最大筒内圧角θPMAXおよび目標角θPCMDに応じて適切に制御することができ、ひいては、エンジン3の良好な燃焼状態を得ることができる。同じ理由により、F/B補正項FB_tiおよびFB_igの制限中に、暫定値FB_tiTを、上限値HILMT_tiまたは下限値LOLMT_tiに漸近させることができるとともに、暫定値FB_igTを、上限値HILMT_igまたは下限値LOLMT_igに漸近させることができるので、この制限を迅速に終了させることができる。
【0098】
また、上限値HILMT_ti,HILMT_igおよび下限値LOLMT_ti,LOLMT_igを、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPに応じて算出するので、これらの上限値HILMT_ti,HILMT_igおよび下限値LOLMT_ti,LOLMT_igによる制限を、そのときのエンジン3の実際の出力に応じて適切に行うことができる。
【0099】
さらに、F/B補正項FB_egrに対する筒内圧角偏差DEθの重みを表す重み係数KW_egrが、F/B補正項FB_tiおよびFB_igに対する筒内圧角偏差DEθの重みをそれぞれ表す重み係数KW_tiおよびKW_igよりも大きな値に設定される。これにより、火種自己着火燃焼モードにおいて重要なパラメータである内部EGRガス量を制御するためのF/B補正項FB_egrに、筒内圧角偏差DEθを十分に反映させることができるので、エンジン3の良好な燃焼状態を確実に得ることができる。また、重み係数KW_tiおよびKW_igは、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が大きいほど、より大きな値に設定される。これにより、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDと大きく異なっているときに、前者θPMAXを後者θPCMDに迅速に収束させることができるとともに、両者θPMAX,θPCMDの差が小さいときに、筒内噴射時期TINJおよび点火時期IGLOGが筒内圧角偏差DEθに応じて過度に補正されることによる燃費および排ガス特性の悪化を防止することができる。
【0100】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、内部EGRガス量を変更するために、排気弁5のバルブタイミングを無段階に変更する排気側動弁機構7を用いているが、内部EGRガス量を変更可能な他の適当な装置を用いてもよい。例えば、排気弁の最大揚程を無段階に変更する装置や、排気弁の最大揚程およびバルブタイミングの双方を無段階に変更する装置、排気弁の最大揚程および/またはバルブタイミングを段階的に変更する装置を用いてもよい。
【0101】
また、実施形態では、エンジン3の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータとして、最大筒内圧角θPMAXを用いているが、他の適当なパラメータを用いてもよい。例えば、1燃焼サイクル中における熱発生率の最大値や、1燃焼サイクル中における熱発生量の総和でもよく、1燃焼サイクル中における筒内圧PCYLの変化率の最大値でもよい。この場合、熱発生率および熱発生量は、例えば、本出願人が特開2010−031745号公報に開示した手法によって算出される。
【0102】
さらに、実施形態では、F/B補正項FB_egrを算出するアルゴリズムは、PI制御アルゴリズムであるが、F/B制御アルゴリズムであれば、例えば、PD制御アルゴリズムや、PID制御アルゴリズムなどでもよい。また、実施形態では、F/B補正項FB_tiおよびFB_igを算出するアルゴリズムは、PI制御アルゴリズムであるが、積分動作を含むF/B制御アルゴリズムであれば、例えば、PID制御アルゴリズムや、PI−D制御アルゴリズム(微分先行型PID制御アルゴリズム)、I−PD制御アルゴリズム(比例・微分先行型PID制御アルゴリズム)などでもよい。
【0103】
さらに、実施形態では、F/B補正項FB_tiおよびFB_igの双方を制限しているが、両者FB_tiおよびFB_igの一方を制限してもよい。あるいは、F/B補正項FB_tiおよびFB_igに代えて、筒内噴射時期TINJおよび点火時期IGLOGを制限してもよく、両者TINJおよびIGLOGの一方を制限してもよい。この場合、本発明における偏差パラメータとして、筒内噴射時期TINJおよび/または点火時期IGLOGと制限値との偏差を用いて、積分項I_tiおよび/またはI_igが算出される。
【0104】
また、実施形態では、エンジン3の出力を表す出力パラメータとして、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPを用いているが、他の適当なパラメータ、例えば、エンジン3の吸入空気量や、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12による燃料噴射量を用いてもよい。さらに、実施形態では、重み係数KW_egr、KW_tiおよびKW_igを、筒内圧角偏差DEθに乗算しているが、F/B補正項FB_egr、FB_tiおよびFB_igにそれぞれ乗算してもよい。
【0105】
また、実施形態では、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12を有するエンジン3を用いているが、筒内燃料噴射弁12のみを有する内燃機関を用いてもよい。さらに、実施形態は、車両に搭載されたエンジン3に本発明による制御装置を適用した例であるが、制御装置は、火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、内部EGRガス量が変更される内燃機関であれば、他の適当なタイプのもの、例えば、クランクシャフトが鉛直方向に配置された船外機などのような船舶推進機用エンジンを含む、様々な産業用の内燃機関に適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 制御装置
2 ECU(燃焼状態パラメータ検出手段、目標値設定手段、EGR制御 パラメータ算出手段、噴射時期制御パラメータ算出手段、点 火時期制御パラメータ算出手段、制限手段、出力パラメータ 検出手段、制限値設定手段、偏差算出手段、重み設定手段)
3 エンジン
3a 気筒
10 点火プラグ
31 クランク角センサ(燃焼状態パラメータ検出手段、出力パラメータ検 出手段)
34 筒内圧センサ(燃焼状態パラメータ検出手段、出力パラメータ検出手 段)
θPMAX 最大筒内圧角(燃焼状態パラメータ)
θPCMD 目標角(目標値)
FB_egr F/B補正項(EGR制御パラメータ)
FB_ti F/B補正項(噴射時期制御パラメータ)
FB_ig F/B補正項(点火時期制御パラメータ)
DEθ 筒内圧角偏差(偏差)
P_ti 比例項
P_ig 比例項
I_ti 積分項
I_ig 積分項
HILMT_ti 上限値(制限値)
HILMT_ig 上限値(制限値)
LOLMT_ti 下限値(制限値)
LOLMT_ig 下限値(制限値)
DFBZ_ti 補正項偏差(偏差パラメータ)
DFBZ_ig 補正項偏差(偏差パラメータ)
NE エンジン回転数(出力パラメータ)
IMEP 図示平均有効圧力(出力パラメータ)
KW_egr 重み係数(EGR制御パラメータに対する偏差の重み)
KW_ti 重み係数(噴射時期制御パラメータに対する偏差の重み)
KW_ig 重み係数(点火時期制御パラメータに対する偏差の重み)
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒内に生成された成層混合気のうちの点火プラグ付近の混合気を、点火プラグによる火花点火により燃焼させるとともに、これを火種として、気筒内の点火プラグ付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転される内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この内燃機関は、気筒内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁を有しており、火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、その排気弁のリフトおよびバルブタイミングを無段階に変更可能に構成されている。この火種自己着火燃焼モードでは、筒内燃料噴射弁による燃料噴射が吸気行程と圧縮行程に行われることによって、成層混合気が気筒内に生成されるとともに、気筒内における点火プラグ付近の混合気を、点火プラグの火花点火によって燃焼させ、これを火種として、気筒内の点火プラグの付近以外の部位における混合気が、自己着火燃焼する。また、制御装置では、火種自己着火燃焼モードの実行中、気筒内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量と、点火プラグによる点火時期と、筒内燃料噴射弁による燃料の噴射時期が、次のように制御される。
【0003】
すなわち、内部EGRガス量の目標値が、内燃機関に要求される要求トルクおよび内燃機関の回転数に応じたマップ検索によって算出されるとともに、算出された目標値に応じて、排気弁のリフトおよびバルブタイミングを制御することにより、内部EGRガス量が目標値に制御される。また、点火時期は、気筒内の点火プラグ付近以外の他の部位における混合気を自己着火燃焼させるのに最適な値に制御される。さらに、吸気行程および圧縮行程における燃料の噴射時期は、各行程に噴射される燃料量および内燃機関の回転数に応じたマップ検索によって算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−163869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
火種自己着火燃焼モードでは、気筒内の混合気を自己着火燃焼させるため、この自己着火燃焼を適切に行うべく、気筒内の温度を適正な温度に制御するために、内部EGRガス量を適切に制御する必要がある。また、火種自己着火燃焼モードでは、点火プラグ付近の混合気を点火プラグの火花点火により燃焼させるとともに、これを火種として、点火プラグ付近以外の部位の混合気を自己着火燃焼させるため、この自己着火燃焼を適切に行うべく、火種を適切に生成するために、圧縮行程における燃料の噴射時期と、点火プラグの点火時期を適切に制御する必要がある。
【0006】
これに対して、上述した従来の制御装置では、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量は、内燃機関の回転数などに応じたマップ検索で算出された目標値に基づいて、内燃機関の実際の燃焼状態とは無関係に制御される。また、圧縮行程における燃料の噴射時期および点火時期も、内部EGRガス量と同様、内燃機関の実際の燃焼状態とは無関係に制御される。以上から、従来の制御装置では、内部EGRガス量、圧縮行程における燃料の噴射時期および点火時期を、火種自己着火燃焼モードに適した値に制御できず、その結果、内燃機関の良好な燃焼状態を得ることができないおそれがあり、この点で改善の余地がある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火プラグの点火時期を適切に制御することができ、それにより、良好な燃焼状態を得ることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、圧縮行程において気筒3a内に燃料を噴射する圧縮行程噴射と、圧縮行程噴射に先立って行われる燃料噴射とによって、気筒3a内に成層混合気を生成し、成層混合気のうちの点火プラグ10付近の混合気を、点火プラグ10による火花点火により燃焼させ、燃焼した混合気を火種として、気筒3a内の点火プラグ10付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、気筒3a内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量が変更される内燃機関の制御装置1であって、内燃機関3の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータ(実施形態における(以下、本項において同じ)最大筒内圧角θPMAX)を検出する燃焼状態パラメータ検出手段(クランク角センサ31、筒内圧センサ34、ECU2、ステップ1)と、燃焼状態パラメータの目標値(目標角θPCMD)を設定する目標値設定手段(ECU2、ステップ2)と、内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータ(F/B補正項FB_egr)を、検出された燃焼状態パラメータが設定された目標値に収束するように、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用いて算出するEGR制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ12〜18)と、圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータ(F/B補正項FB_ti)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差(筒内圧角偏差DEθ)に応じた噴射時期制御用の比例項P_tiおよび積分項I_tiを用いて算出する噴射時期制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ32〜40、47)と、点火プラグ10の点火時期を制御するための点火時期制御パラメータ(F/B補正項FB_ig)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差に応じた点火時期制御用の比例項P_igおよび積分項I_igを用いて算出する点火時期制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ52〜60、67)と、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータを、少なくとも一方の制御パラメータに対応する所定の制限値(上限値HILMT_ti、上限値HILMT_ig、下限値LOLMT_ti、下限値LOLMT_ig)に制限する制限手段(ECU2、ステップ43〜47、63〜67)と、を備え、制限手段により少なくとも一方の制御パラメータが制限されているときに、少なくとも一方の制御パラメータを算出する噴射時期制御パラメータ算出手段および点火時期制御パラメータ算出手段の少なくとも一方は、算出された少なくとも一方の制御パラメータと、それに対応する制限値との偏差を表す偏差パラメータ(補正項偏差DFBZ_ti、補正項偏差DFBZ_ig)にさらに応じて、噴射時期制御用および点火時期制御用の積分項I_ti、I_igの少なくとも一方を算出する(ステップ44、46、49、36〜39、64、66、69、56〜59)ことを特徴とする。
【0009】
内燃機関は、火種自己着火燃焼モードによって運転されるように構成されており、この制御装置によれば、内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータが、燃焼状態パラメータ検出手段によって検出されるとともに、燃焼状態パラメータの目標値が、目標値設定手段によって設定される。また、内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータが、検出された燃焼状態パラメータを設定された目標値に収束させるように、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用い、EGR制御パラメータ算出手段によって算出される。
【0010】
さらに、圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータ、および、点火プラグの点火時期を制御するための点火時期制御パラメータが、燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、噴射時期制御パラメータ算出手段および点火時期制御パラメータ算出手段によってそれぞれ算出される。以上のように、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するためのEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータがいずれも、検出された燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、算出される。したがって、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火プラグの点火時期を、内燃機関の実際の燃焼状態に応じて適切に制御することができ、それにより、内燃機関の良好な燃焼状態を得ることができる。
【0011】
また、噴射時期制御パラメータが、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差に応じた噴射時期制御用の比例項および積分項を用いて、いわゆるPI制御アルゴリズムを用いて算出され、点火時期制御パラメータも、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差に応じた点火時期制御用の比例項および積分項を用いて、いわゆるPI制御アルゴリズムを用いて算出される。圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期は、内部EGRガス量と異なり、混合気の燃焼に対して直接的かつ大きな影響を及ぼすことから、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するための噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータが、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差に応じたPI制御アルゴリズムによって過度に補正されると、内燃機関の燃費および排ガス特性が悪化する可能性がある。
【0012】
上述した構成によれば、制限手段によって、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータが、この少なくとも一方の制御パラメータに対応する所定の制限値に制限されるとともに、この制限中、制限された少なくとも一方の制御パラメータが用いられる。これにより、過度に補正された少なくとも一方の制御パラメータが用いられるのを防止でき、したがって、内燃機関の良好な燃費および排ガス特性を得ることができる。また、EGR制御パラメータについては、制限手段による制限にかかわらず、燃焼状態パラメータおよび目標値に応じた値を用いるので、内燃機関の良好な燃焼状態を確保することができる。
【0013】
さらに、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータは、噴射時期制御用および点火時期制御用の積分項を用いてそれぞれ算出されるので、制限手段による制限中に、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差が累積されることによって、制限された少なくとも一方の制御パラメータに対応する積分項が飽和する可能性がある。その場合には、制限手段による制限が終了したときに、積分項が飽和状態にあることによって、圧縮行程噴射の噴射時期および/または点火時期を、燃焼状態パラメータおよび目標値に応じて適切に制御することができない。
【0014】
上述した構成によれば、制限手段による制限中に、積分項を、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差のみではなく、少なくとも一方の制御パラメータと、それに対応する制限値との偏差を表す偏差パラメータにさらに応じて算出するので、積分項の飽和を防止することができる。したがって、制限手段による制限が終了したときに、圧縮行程噴射の噴射時期および/または点火時期を、燃焼状態パラメータおよび目標値に応じて適切に制御することができ、ひいては、内燃機関の良好な燃焼状態を得ることができる。同じ理由により、制限手段による制限中に、算出される少なくとも一方の制御パラメータを制限値に漸近させることができるので、この制限を迅速に終了させることができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置1において、内燃機関3の出力を表す出力パラメータ(エンジン回転数NE、図示平均有効圧力IMEP)を検出する出力パラメータ検出手段(クランク角センサ31、筒内圧センサ34、ECU2、ステップ3)と、検出された出力パラメータに応じて、噴射時期制御用および点火時期制御用の制限値を設定する制限値設定手段(ECU2、ステップ41、42、61、62)と、をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、内燃機関の出力を表す出力パラメータが、出力パラメータ検出手段によって検出されるとともに、検出された出力パラメータに応じ、制限値設定手段によって、制限値が設定される。これにより、少なくとも一方の制御パラメータの制限を、そのときの内燃機関の実際の出力に応じて適切に行うことができる。
【0017】
前記目的を達成するため、請求項3に係る発明は、圧縮行程において気筒3a内に燃料を噴射する圧縮行程噴射と、圧縮行程噴射に先立って行われる燃料噴射とによって、気筒3a内に成層混合気を生成し、成層混合気のうちの点火プラグ10付近の混合気を、点火プラグ10による火花点火により燃焼させ、燃焼した混合気を火種として、気筒3a内の点火プラグ10付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、気筒3a内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量が変更される内燃機関の制御装置1であって、内燃機関3の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータ(実施形態における(以下、本項において同じ)最大筒内圧角θPMAX)を検出する燃焼状態パラメータ検出手段(クランク角センサ31、筒内圧センサ34、ECU2、ステップ1)と、燃焼状態パラメータの目標値(目標角θPCMD)を設定する目標値設定手段(ECU2、ステップ2)と、設定された目標値と検出された燃焼状態パラメータとの偏差(筒内圧角偏差DEθ)を算出する偏差算出手段(ECU2、ステップ12、32、52)と、内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータ(F/B補正項FB_egr)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、算出された偏差に応じて算出するEGR制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ13〜18)と、圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータ(F/B補正項FB_ti)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、算出された偏差に応じて算出する噴射時期制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ33〜40、47)と、点火プラグ10の点火時期を制御するための点火時期制御パラメータ(F/B補正項FB_ig)を、燃焼状態パラメータが目標値に収束するように、算出された偏差に応じて算出する点火時期制御パラメータ算出手段(ECU2、ステップ53〜60、67)と、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータを制限する制限手段(ECU2、ステップ43〜47、63〜67)と、EGR制御パラメータに対する偏差の重み(重み係数KW_egr)を、噴射時期制御パラメータに対する偏差の重み(重み係数KW_ti)、および点火時期制御パラメータに対する偏差の重み(重み係数KW_ig)よりも大きな値に設定する重み設定手段(ECU2、ステップ33、53)と、を備えることを特徴とする。
【0018】
内燃機関は、火種自己着火燃焼モードによって運転されるように構成されており、この制御装置によれば、内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータが、燃焼状態パラメータ検出手段によって検出されるとともに、燃焼状態パラメータの目標値が、目標値設定手段によって設定される。また、設定された目標値と、検出された燃焼状態パラメータとの偏差が、偏差算出手段によって算出される。さらに、内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータが、燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、算出された偏差に応じ、EGR制御パラメータ算出手段によって算出される。また、圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータ、および、点火プラグの点火時期を制御するための点火時期制御パラメータが、燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、算出された偏差に応じ、噴射時期制御パラメータ算出手段および点火時期制御パラメータ算出手段によってそれぞれ算出される。
【0019】
以上のように、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するためのEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータが、検出された燃焼状態パラメータを目標値に収束させるように、算出される。したがって、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量、圧縮行程噴射の噴射時期および点火プラグの点火時期を、内燃機関の実際の燃焼状態に応じて適切に制御することができ、それにより、内燃機関の良好な燃焼状態を得ることができる。
【0020】
また、請求項1の説明で述べたように、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期は、内部EGRガス量と異なり、混合気の燃焼に対して直接的かつ大きな影響を及ぼす。このため、圧縮行程噴射の噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するための噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータが、偏差に応じて過度に補正されると、内燃機関の燃費および排ガス特性が悪化する可能性がある。
【0021】
上述した構成によれば、制限手段によって、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータが制限されるとともに、この制限中、制限された少なくとも一方の制御パラメータが用いられる。これにより、過度に補正された少なくとも一方の制御パラメータが用いられるのを防止でき、したがって、内燃機関の良好な燃費および排ガス特性を得ることができる。また、EGR制御パラメータについては、制限手段による制限にかかわらず、偏差に応じた値を用いるので、内燃機関の良好な燃焼状態を確保することができる。
【0022】
さらに、火種自己着火燃焼モードでは、気筒内の温度が上昇することによって混合気が自己着火燃焼することから、混合気を適切に自己着火燃焼させるには、内部EGRガス量の制御により気筒内の温度を火種自己着火燃焼モードに適した温度に制御することが、非常に重要である。上述した構成によれば、重み設定手段によって、EGR制御パラメータに対する偏差の重みが、噴射時期制御パラメータに対する偏差の重み、および点火時期制御パラメータに対する偏差の重みよりも大きな値に設定される。これにより、火種自己着火燃焼モードにおいて重要なパラメータである内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータに、目標値と燃焼状態パラメータとの偏差を十分に反映させることができるので、内燃機関の良好な燃焼状態を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態による制御装置が適用された内燃機関を概略的に示す図である。
【図2】制御装置のECUなどを示すブロック図である。
【図3】図1に示す排気側動弁機構の動作を説明するための、排気弁のバルブリフト曲線を示す図である。
【図4】ECUによって実行されるパラメータ算出処理を示すフローチャートである。
【図5】ECUによって実行される内部EGR制御処理を示すフローチャートである。
【図6】ECUによって実行される燃料噴射時期の制御を説明するためのブロック図である。
【図7】ECUによって実行される燃料噴射時期の制御に用いられるマップの一例である。
【図8】ECUによって実行される噴射時期制御処理を示すフローチャートである。
【図9】図8に示す処理の続きを示すフローチャートである。
【図10】ECUによって実行される点火時期制御処理を示すフローチャートである。
【図11】図9に示す処理の続きを示すフローチャートである。
【図12】図10に示す処理で用いられるマップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、4サイクルタイプのガソリンエンジンであり、車両(図示せず)に搭載されている。エンジン3の気筒3aには、ピストン3bが設けられており、気筒3a内における、ピストン3bとシリンダヘッド3cの間に、燃焼室3dが形成されている。また、エンジン3は、気筒3aに吸気を吸入するための吸気弁4と、気筒3aから既燃ガスを排出するための排気弁5と、吸気弁4を駆動するための吸気側動弁機構6と、排気弁5を駆動するための排気側動弁機構7を備えている。
【0025】
この吸気側動弁機構6は、通常のカム駆動式のものであり、エンジン3のクランクシャフト3eに連結された吸気カムや、吸気ロッカアーム(いずれも図示せず)を有している。吸気側動弁機構6では、クランクシャフト3eの回転に伴って回転する吸気カムの回転力が、吸気ロッカアームを介して吸気弁4に伝達され、それにより、吸気弁4が開閉される。
【0026】
また、排気側動弁機構7は、排気弁5のバルブタイミングを無段階に変更可能な可変動弁機構で構成されており、エンジン3のクランクシャフト3eに連結された排気カムと、排気ロッカアームと、排気カム位相可変機構を有している。排気側動弁機構7では、クランクシャフト3eの回転に伴って回転する排気カムの回転力が、排気ロッカアームを介して排気弁5に伝達され、それにより、排気弁5が開閉される。
【0027】
さらに、排気カム位相可変機構は、クランクシャフト3eに対する排気カムの位相(以下「排気カム位相」という)CAEXを無段階に進角側または遅角側に変更するものである。その構成は、本出願人が特開2005−315161号公報で既に提案したものと同様であるので、以下、その概略を簡単に説明する。
【0028】
この排気カム位相可変機構は、電磁弁7a(図2参照)と、これを介して油圧が供給される進角室および遅角室(いずれも図示せず)などで構成されている。図2に示すように、この電磁弁7aは、制御装置1の後述するECU2に接続されており、ECU2からの位相制御入力U_CAEXに応じて、進角室および遅角室に供給する油圧を変化させる。これにより、排気カム位相CAEXが、所定の最遅角値と所定の最進角値との間で無段階に変化し、その結果、排気弁5のバルブタイミングが、図3に実線で示す最遅角タイミングと2点鎖線で示す最進角タイミングとの間で、無段階に変更される。
【0029】
以上の構成により、排気側動弁機構7では、位相制御入力U_CAEXが電磁弁7aに入力されることにより、排気弁5の閉弁タイミングが無段階に変更されることによって、気筒3a内に残留する既燃ガスの量、すなわち内部EGRガス量が制御される。
【0030】
また、エンジン3の本体には、クランク角センサ31および水温センサ32が設けられている。このクランク角センサ31は、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、クランクシャフト3eの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0031】
このCRK信号は、所定クランク角(例えば1゜)毎に1パルスが出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、ピストン3bが吸気行程のTDC位置よりも若干手前の所定のクランク角度位置にあることを表す信号である。ECU2は、これらのCRK信号およびTDC信号に応じて、クランクシャフト3eの回転角度位置であるクランク角度位置を算出する。
【0032】
また、水温センサ32は、サーミスタで構成されており、エンジン3のシリンダブロック内を循環する冷却水の温度であるエンジン水温TWを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0033】
さらに、エンジン3には、カム角センサ33(図2参照)が設けられている。このカム角センサ33は、排気カムの回転に伴い、パルス信号であるEXCAM信号を所定のカム角(例えば1゜)ごとにECU2に出力する。ECU2は、このEXCAM信号およびCRK信号に基づき、排気カム位相CAEXを算出する。
【0034】
また、エンジン3のシリンダヘッド3cには、気筒3a内に吸気を導入するための吸気通路8が接続されており、吸気通路8には、これを開閉するためのスロットル弁9が設けられている。このスロットル弁9の開度は、ECU2からの制御入力信号によって変更され、それにより、吸入空気量が制御される。
【0035】
さらに、エンジン3は、点火プラグ10、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12を備えている。ポート燃料噴射弁11は、吸気ポート8a内に燃料を噴射するように、吸気通路8におけるインテークマニホールドの分岐部に取り付けられており、筒内燃料噴射弁12は、気筒3a内に燃料を直接噴射するように、シリンダヘッド3cに取り付けられている。
【0036】
これらの点火プラグ10、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12はいずれも、ECU2に電気的に接続されており、点火プラグ10による混合気の点火時期と、ポート燃料噴射弁11による燃料噴射量および燃料噴射時期と、筒内燃料噴射弁12による燃料噴射量および燃料噴射時期は、ECU2によって制御される。
【0037】
また、点火プラグ10には、圧電素子で構成された筒内圧センサ34が一体に取り付けられている。筒内圧センサ34は、気筒3a内の圧力(以下「筒内圧」という)PCYLを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0038】
ECU2にはさらに、アクセル開度センサ35から、車両のアクセルペダル(図示せず)の操作量であるアクセル開度APを表す検出信号が出力される。
【0039】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ31〜35の検出信号などに基づいて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、その判別結果に応じて、エンジン3の燃焼モードとして、火種自己着火燃焼モードまたは均質火炎伝搬燃焼モードを選択的に実行する。
【0040】
具体的には、算出されたエンジン回転数NEと、エンジン3に要求される要求トルクTREQで表されるエンジン3の運転領域が、所定の低〜中回転域にあり、かつ所定の低〜中負荷域にあるときには、火種自己着火燃焼モードを実行するとともに、それ以外のときには、均質火炎伝搬燃焼モードを実行する。この要求トルクTREQは、エンジン回転数NEと、検出されたアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。また、検出されたエンジン水温TWが下限温度よりも低いときには、エンジン3の運転領域にかかわらず、均質火炎伝搬燃焼モードが強制的に実行される。
【0041】
この均質火炎伝搬燃焼モードでは、排気行程から吸気行程までの所定の期間において、ポート燃料噴射弁11による燃料噴射を行い、それにより、均質な混合気が気筒3a内に生成される。そして、この混合気を、点火プラグ10による火花点火によって火炎伝搬燃焼させる。
【0042】
また、火種自己着火燃焼モードでは、排気行程から吸気行程までの所定の期間において、ポート燃料噴射弁11による燃料噴射を行い、それにより、理論空燃比よりもリーンな混合気が、気筒3a内に生成される。次いで、圧縮行程において、筒内燃料噴射弁12による燃料噴射を行い、それにより、気筒3a内における点火プラグ10の付近に、他の部位よりもリッチな混合気が生成される。以上のポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12による燃料噴射によって、気筒3a内に成層混合気が生成される。次に、点火プラグ10付近の混合気を、点火プラグ10による火花点火で燃焼させ、これを火種として、他の部位におけるリーンな混合気を自己着火燃焼させる。
【0043】
以下、火種自己着火燃焼モード中にECU2によって実行される各種の処理について説明する。まず、図4を参照しながら、制御パラメータ算出処理について説明する。本処理は、後述する各種の処理で用いられるパラメータを算出するためのものであり、前述したCRK信号の発生に同期して実行される。
【0044】
まず、図4のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、検出された筒内圧PCYLと、算出されたクランク角度位置に応じて、最大筒内圧角θPMAXを算出する。この最大筒内圧角θPMAXは、所定の最大筒内圧角算出区間において、筒内圧PCYLが最大値を示すクランク角度位置として算出される。この最大圧角算出区間は、混合気の着火タイミングを起点とし、これよりも所定値分、遅角側のクランク角度位置CAを終点とする区間である。
【0045】
次いで、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、目標角θPCMDを算出する(ステップ2)。この目標角θPCMDは、上述した最大筒内圧角θPMAXの目標値であり、上記のマップでは、エンジン3の良好な燃焼状態が得られるような値に設定されている。次に、筒内圧PCYLに応じて、エンジン3の図示平均有効圧力IMEPを算出し(ステップ3)、本処理を終了する。この図示平均有効圧力IMEPは、例えば、本出願人が特開2006−52647号公報に開示した手法によって算出される。
【0046】
次に、図5を参照しながら、内部EGR制御処理について説明する。本処理は、火種自己着火燃焼モードにおいて混合気を適切に自己着火燃焼させるべく、気筒3a内の温度を適正な温度に制御するために、前述した内部EGRガス量を制御するものである。また、本処理は、前述したTDC信号の発生に同期して実行される。
【0047】
まず、図5のステップ11では、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本EGRガス量EGRBASEを算出する。次いで、図4のステップ2で算出された目標角θPCMDから、ステップ1で算出された最大筒内圧角θPMAXを減算することによって、筒内圧角偏差DEθを算出する(ステップ12)。次に、ステップ12で算出された筒内圧角偏差DEθに、重み係数KW_egrを乗算することによって、補正後偏差CDEθ_egrを算出する(ステップ13)。この重み係数KW_egrは、所定の一定値、例えば値1.0に設定されている。これにより、本実施形態では、補正後偏差CDEθ_egrは、筒内圧角偏差DEθと同じ値に算出される。
【0048】
続くステップ14以降では、最大筒内圧角θPMAXを目標角θPCMDに収束させるようにフィードバック(以下「F/B」という)制御するためのF/B補正項FB_egrを、算出された補正後偏差CDEθ_egrに応じて算出する。まず、ステップ14では、ステップ13で算出された補正後偏差CDEθ_egrに、所定の比例項ゲインKP_egrを乗算することによって、比例項P_gerを算出する。
【0049】
次いで、そのときに得られている筒内圧角偏差積分値IDEθを、その前回値IDEθZとしてシフトする(ステップ15)とともに、設定された筒内圧角偏差積分値の前回値IDEθZに、補正後偏差CDEθ_egrを加算することによって、筒内圧角偏差積分値の今回値IDEθを算出する(ステップ16)。次に、ステップ16で算出された筒内圧角偏差積分値IDEθに、所定の積分項ゲインKI_egrを乗算することによって、積分項I_egrを算出する(ステップ17)。
【0050】
次いで、上記ステップ14で算出された比例項P_egrと、ステップ17で算出された積分項I_egrとの和を、F/B補正項FB_egrとして算出する(ステップ18)。以上のように、F/B補正項FB_egrは、補正後偏差CDEθ_egrに応じ、PI制御アルゴリズムによって算出される。
【0051】
次に、上記ステップ18で算出されたF/B補正項FB_egrを、前記ステップ11で算出された基本EGRガス量EGRBASEに加算することによって、目標EGRガス量EGRCMDを算出する(ステップ19)。次いで、算出した目標EGRガス量EGRCMDとエンジン回転数NEに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、排気カム位相CAEXの目標となる目標カム位相CAEXCMDを算出する(ステップ20)。次に、算出した目標カム位相CAEXCMDと検出された実際の排気カム位相CAEXに応じ、位相制御入力U_CAEXを算出し(ステップ21)、本処理を終了する。
【0052】
このステップ21により位相制御入力U_CAEXが算出されると、算出された位相制御入力U_CAEXに応じて電磁弁7aが駆動される。これにより、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDに収束するように、EGRガス量が目標EGRガス量EGRCMDに制御される。
【0053】
次に、火種自己着火燃焼モードにおける筒内燃料噴射弁12による燃料噴射時期(以下「筒内噴射時期」という)の制御について説明する。筒内噴射時期は、上述した内部EGRガス量の場合と同様、最大筒内圧角θPMAXを目標角θPCMDに収束させるようにF/B制御するために、後述するF/B補正項FB_tiに応じて算出される。このF/B補正項FB_tiの算出手法は、内部EGRガス量を制御するためのF/B補正項FB_egrのそれと異なっているため、以下、この点について説明する。
【0054】
図6は、上記のF/B補正項FB_tiを算出するためのF/B補正項算出部を示すブロック図であり、このF/B補正項算出部は、ECU2によって構成されている。図6に示すように、F/B補正項算出部は、第1乗算器2a、第2乗算器2b、第3乗算器2c、加算器2d、第1減算器2e、第2減算器2f、積分器2g、およびリミッタ2hを有している。
【0055】
第1乗算器2aには、第1補正後偏差CDEθ1_tiが入力される。この第1補正後偏差CDEθ1_tiは、筒内圧角偏差DEθに重み係数KW_tiを乗算することによって算出される。この重み係数KW_tiは、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|に応じ、図7に示すマップを検索することによって算出される。このマップでは、重み係数KW_tiは、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が値0のときには、値0に設定されるとともに、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が大きいほど、より大きな値に設定されている。また、重み係数KW_tiは、全体として、前述した目標EGRガス量EGRCMDの算出に用いられる重み係数KW_egrよりも小さな値に設定されている。
【0056】
また、第1乗算器2aは、入力された第1補正後偏差CDEθ1_tiに、所定の比例項ゲインP_tiを乗算することによって、比例項P_tiを算出するとともに、加算器2dに出力する。加算器2dには、第1乗算器2aからの比例項P_tiに加え、後述する積分項I_tiが入力される。加算器2dは、入力された比例項項P_tiと積分項I_tiの和を、F/B補正項の暫定値FB_tiTとして算出するとともに、リミッタ2hおよび第1減算器2eに出力する。
【0057】
また、リミッタ2hには、加算器2dからの暫定値FB_tiTに加え、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPが入力される。リミッタ2hは、入力されたエンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPに応じ、所定の上限値マップおよび下限値マップ(いずれも図示せず)を検索することによって、上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiをそれぞれ算出する。算出された上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiはそれぞれ、正値および負値である。
【0058】
また、リミッタ2hは、算出された上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiに基づき、入力された暫定値FB_tiTにリミット処理を施すことによって、F/B補正項FB_tiを求めるとともに、第1減算器2eに出力する。この場合、F/B補正項FB_tiは、FB_tiT>HILMT_tiのときには上限値HILMT_tiに設定され、LOLMT_ti≦FB_tiT≦HILMT_tiのときには暫定値FB_tiTに設定されるとともに、FB_tiT<LOLMT_tiのときには下限値LOLMT_tiに設定される。
【0059】
第1減算器2eは、入力された暫定値FB_tiTから、F/B補正項FB_tiを減算することによって、補正項偏差DFBZ_tiを算出するとともに、第3乗算器2cに出力する。上述したリミッタ2hによるF/B補正項FB_tiの設定手法から明らかなように、補正項偏差DFBZ_tiは、FB_tiT>HILMT_tiのときには、暫定値FB_tiTと上限値HILMT_tiとの偏差(FB_tiT−HILMT_ti)に算出され、LOLMT_ti≦FB_tiT≦HILMT_tiのときには、値0に算出されるとともに、FB_tiT<LOLMT_tiのときには、暫定値FB_tiTと下限値LOLMT_tiとの偏差(FB_tiT−LOLMT_ti)に算出される。
【0060】
第3乗算器2cは、入力された補正項偏差DFBZ_tiに、比例項ゲインP_tiの逆数を乗算した値(以下「補正項偏差除算値DFBZ_ti/P_ti」という)を、第2減算器2fに出力する。第2減算器2fには、この補正項偏差除算値DFBZ_ti/P_tiに加え、第1補正後偏差CDEθ1_tiが入力される。第2減算器2fは、入力された第1補正後偏差CDEθ1_tiから、補正項偏差除算値DFBZ_ti/P_tiを減算することによって、第2補正後偏差CDEθ2_tiを算出するとともに、積分器2gに出力する。
【0061】
積分器2gは、入力された第2補正後偏差CDEθ2_tiを積分することによって、補正後偏差積分値ICDEθ_tiを算出するとともに、第2乗算器2bに出力する。第2乗算器2bは、入力された補正後偏差積分値ICDEθ_tiに、所定の積分項ゲインKI_tiを乗算することによって、積分項I_tiを算出するとともに、加算器2dに出力する。
【0062】
以上のように、F/B補正項の暫定値FB_tiTに、リミッタ2hによるリミット処理を施すことによって、F/B補正項FB_tiが、上限値HILMT_ti以下で、かつ、下限値LOLMT_ti以上の値に制限される。また、F/B補正項FB_tiがリミッタ2hにより制限されておらず、F/B補正項FB_tiが暫定値FB_tiTに設定されているときには、第1減算器2eによって算出される補正項偏差DFBZ_tiは、値0になる。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_tiが、補正されずにそのまま第2補正後偏差CDEθ2_tiとして積分器2gに入力されるとともに、この第2補正後偏差CDEθ2_tiを用いて、積分項I_tiが算出される。以上の結果、F/B補正項FB_tiが制限されていないときには、F/B補正項FB_tiは、第1補正後偏差CDEθ1_tiに応じたPI制御アルゴリズムによって算出される。
【0063】
一方、暫定値FB_tiTが上限値HILMT_tiよりも大きいことにより、F/B補正項FB_tiが上限値HILMT_tiに制限されているときには、補正項偏差DFBZ_tiは、暫定値FB_tiTと上限値HILMT_tiとの偏差(FB_tiT−HILMT_ti)と等しくなる。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_tiが、補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiの減算により補正されることによって、第2補正後偏差CDEθ2_tiが算出されるとともに、この第2補正後偏差CDEθ2_tiを用いて、積分項I_tiが算出される。
【0064】
また、F/B補正項FB_tiが上限値HILMT_tiに制限されているときには、基本的には、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDよりも進角側にあり、それにより、筒内圧角偏差DEθに重み係数KW_tiを乗算した第1補正後偏差CDEθ1_tiは、正値になる。さらに、暫定値FB_tiTは、最大筒内圧角θPMAXを遅角側の目標角θPCMDに収束させるために、比較的大きな正値になり、上限値HILMT_tiを上回る。この場合、暫定値FB_tiTと上限値HILMT_tiとの偏差に基づいて算出される補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiは、正値になる。その結果、この補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiを第1補正後偏差CDEθ1_tiから減算した第2補正後偏差CDEθ2_tiは、第1補正後偏差CDEθ1_tiよりも小さくなる。これにより、第1補正後偏差CDEθ1_tiをそのまま用いた場合と比較して、積分項I_tiがより小さな値に算出されることで、積分項I_tiの飽和(過大化)が防止されるとともに、暫定値FB_tiTは、より小さな値に算出され、上限値HILMT_tiに漸近する。
【0065】
一方、暫定値FB_tiTが下限値LOLMT_tiよりも小さいことにより、F/B補正項FB_tiが下限値LOLMT_tiに制限されているときには、補正項偏差DFBZ_tiは、暫定値FB_tiTと下限値LOLMT_tiとの偏差(FB_tiT−HILMT_ti)と等しくなる。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_tiが、補正項偏差除算値(DFBZ_ti/KP_ti)の減算により補正されることによって、第2補正後偏差CDEθ2_tiが算出されるとともに、この第2補正後偏差CDEθ2_tiを用いて、積分項I_tiが算出される。
【0066】
また、F/B補正項FB_tiが下限値LOLMT_tiに制限されているときには、基本的には、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDよりも遅角側であり、それにより、第1補正後偏差CDEθ1_tiは、負値になる。さらに、暫定値FB_tiTは、最大筒内圧角θPMAXを進角側の目標角θPCMDに収束させるために、絶対値が比較的大きな負値になり、下限値LOLMT_tiを下回る。この場合、暫定値FB_tiTと下限値LOLMT_tiとの偏差に基づいて算出される補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiは、負値になる。その結果、この補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiを第1補正後偏差CDEθ1_tiから減算した第2補正後偏差CDEθ2_tiは、その絶対値が、第1補正後偏差CDEθ1_tiよりも小さくなる。これにより、第1補正後偏差CDEθ1_tiをそのまま用いた場合と比較して、積分項I_tiは、その絶対値がより小さな値に算出され、それにより積分項I_tiの飽和(過小化)が防止されるとともに、暫定値FB_tiTは、その絶対値がより小さな値に算出され、下限値LOLMT_tiに漸近する。
【0067】
次に、図8および図9を参照しながら、筒内噴射時期を制御するための噴射時期制御処理について説明する。本処理は、TDC信号の発生に同期して実行される。まず、図8のステップ31では、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本噴射時期TIBASEを算出する。この基本噴射時期TIBASEは、筒内噴射時期TINJの基本値であり、上記のマップでは、圧縮行程におけるタイミングに設定されている。次いで、図5のステップ12と同様、目標角θPCMDから、最大筒内圧角θPMAXを減算することによって、筒内圧角偏差DEθを算出する(ステップ32)。
【0068】
次に、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|に応じ、前述した図7に示すマップを検索することによって、重み係数KW_tiを算出する(ステップ33)とともに、算出された重み係数KE_tiを、上記ステップ32で算出された筒内圧角偏差DEθに乗算することによって、第1補正後偏差CDEθ1_tiを算出する(ステップ34)。ステップ34に続くステップ35以降では、前述したF/B補正項FB_tiを、算出された第1補正後偏差CDEθ1_tiに応じて算出する。このステップ35以降の処理が、図6を用いて説明したF/B補正項算出部によるF/B補正項FB_tiの算出に相当する。
【0069】
まず、ステップ35では、ステップ34で算出された第1補正後偏差CDEθ1_tiに、比例項ゲインKP_tiを乗算することによって、比例項P_tiを算出する。次いで、そのときに得られている補正項偏差DFBZ_tiに比例項ゲインKP_tiの逆数を乗算した値、すなわち補正項偏差除算値DFBZ_ti/KP_tiを、第1補正後偏差CDEθ1_tiから減算することによって、第2補正後偏差CDEθ2_tiを算出する(ステップ36)。
【0070】
次に、そのときに得られている補正後偏差積分値ICDEθ_tiを、その前回値ICDEθ_tiZにシフトする(ステップ37)とともに、この補正後偏差積分値の前回値ICDEθ_tiZに、上記ステップ36で算出された第2補正後偏差CDEθ2_tiを加算することによって、補正後偏差積分値の今回値ICDEθ_tiを算出する(ステップ38)。次いで、このステップ38で算出された補正後偏差積分値ICDEθ_tiに、積分項ゲインKI_tiを乗算することによって、積分項I_tiを算出する(ステップ39)とともに、上記ステップ35で算出された比例項P_tiと、ステップ39で算出された積分項I_tiとの和を、F/B補正項の暫定値FB_tiTとして算出する(ステップ40)。
【0071】
ステップ40に続く図9のステップ41および42ではそれぞれ、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPに応じ、前述した上限値マップおよび下限値マップを検索することによって、上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiを算出する。また、ステップ42に続くステップ43〜47では、ステップ41および42でそれぞれ算出された上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiを用いて、上記ステップ40で算出された暫定値FB_tiTに、前述したリミット処理を施す。
【0072】
まず、ステップ43では、暫定値FB_tiTが上限値HILMT_ti以下であるか否かを判別する。この答がNOで、暫定値FB_tiTが上限値HILMT_tiよりも大きいときには、F/B補正項FB_tiを上限値HILMT_tiに設定し(ステップ44)、ステップ48に進む。
【0073】
一方、上記ステップ43の答がYESで、FB_tiT≦HILMT_tiのときには、暫定値FB_tiTが下限値LOLMT_ti以上であるか否かを判別する(ステップ45)。この答がNOで、暫定値FB_tiTが下限値LOLMT_tiよりも小さいときには、F/B補正項FB_tiを下限値LOLMT_tiに設定し(ステップ46)、ステップ48に進む。
【0074】
一方、ステップ45の答がYESのとき、すなわち、暫定値FB_tiTが上限値HILMT_ti以下で、かつ下限値LOLMT_ti以上のときには、F/B補正項FB_tiを暫定値FB_tiTに設定し(ステップ47)、ステップ48に進む。
【0075】
このステップ48では、上記ステップ44、46または47で設定されたF/B補正項FB_tiを、図8のステップ31で算出された基本噴射時期TIBASEに加算することによって、筒内噴射時期TINJを算出する。次いで、暫定値FB_tiTからF/B補正項FB_tiを減算することによって、補正項偏差DFBZ_tiを算出し(ステップ49)、本処理を終了する。
【0076】
上記ステップ48により筒内噴射時期TINJが算出されると、算出された筒内噴射時期TINJのタイミングで、筒内燃料噴射弁12から燃料が噴射される。
【0077】
次に、図10を参照しながら、点火プラグ10による点火時期を制御するための点火時期制御処理について説明する。本処理は、TDC信号の発生に同期して実行される。また、本処理では、上述した噴射時期制御処理とまったく同じ手法によって、点火時期が制御される。
【0078】
まず、図10のステップ51では、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本点火時期IGBASEを算出する。この基本点火時期IGBASEは、点火時期IGLOGの基本値であり、上記のマップでは、前述した基本噴射時期TIBASEよりも遅角側の圧縮行程におけるタイミングに設定されている。次いで、図5のステップ12と同様、目標角θPCMDから最大筒内圧角θPMAXを減算することによって、筒内圧角偏差DEθを算出する(ステップ52)。
【0079】
次に、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|に応じ、図12に示すマップを検索することによって、重み係数KW_igを算出する(ステップ53)。このマップでは、重み係数KW_igは、前述した重み係数KW_tiと同様、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が値0のときには、値0に設定されており、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が大きいほど、より大きな値に設定されている。また、重み係数KW_igは、全体として、前述した目標EGRガス量EGRCMDの算出に用いられる重み係数KW_egrよりも小さな値に設定されている。次いで、上記ステップ52で算出された筒内圧角偏差DEθに、ステップ53で算出された重み係数KW_igを乗算することによって、第1補正後偏差CDEθ1_igを算出する(ステップ54)。
【0080】
続くステップ55以降では、算出された第1補正後偏差CDEθ1_igに応じてF/B補正項FB_igを算出する。まず、ステップ55では、上記ステップ54で算出された第1補正後偏差CDEθ_igに、所定の比例項ゲインKP_igを乗算することによって、比例項P_igを算出する。次いで、そのときに得られている補正項偏差DFBZ_igに、比例項ゲインKP_igの逆数を乗算した値である補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igを、第1補正後偏差CDEθ_igから減算することによって、第2補正後偏差CDEθ2_igを算出する(ステップ56)。
【0081】
次に、そのときに得られている補正後偏差積分値ICDEθ_igを、その前回値ICDEθ_igZにシフトする(ステップ57)とともに、この補正後偏差積分値の前回値ICDEθ_igZに、上記ステップ56で算出された第2補正後偏差CDEθ2_igを加算することによって、補正後偏差積分値の今回値ICDEθ_igを算出する(ステップ58)。次いで、このステップ58で算出された補正後偏差積分値ICDEθ_igに、所定の積分項ゲインKI_igを乗算することによって、積分項I_igを算出する(ステップ59)とともに、上記ステップ55で算出された比例項P_igと、ステップ59で算出された積分項I_igとの和を、F/B補正項の暫定値FB_igTとして算出する(ステップ60)。
【0082】
ステップ60に続く図11のステップ61および62ではそれぞれ、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPに応じ、所定の上限値マップおよび下限値マップ(いずれも図示せず)を検索することによって、上限値HILMT_igおよび下限値LOLMT_igを算出する。算出された上限値HILMT_igおよび下限値LOLMT_igはそれぞれ、前述した筒内噴射時期の制御に用いられる上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiと同様、正値および負値である。
【0083】
また、ステップ62に続くステップ63〜67では、図8のステップ43〜47と同様、ステップ61および62でそれぞれ算出された上限値HILMT_igおよび下限値LOLMT_igを用いて、上記ステップ60で算出された暫定値FB_igTに、リミット処理を施す。まず、ステップ63では、暫定値FB_igTが上限値HILMT_ig以下であるか否かを判別する。この答がNOで、暫定値FB_igTが上限値HILMT_igよりも大きいときには、F/B補正項FB_igを上限値HILMT_igに設定し(ステップ64)、ステップ68に進む。
【0084】
一方、上記ステップ63の答がYESで、FB_igT≦HILMT_igのときには、暫定値FB_igTが下限値LOLMT_ig以上であるか否かを判別する(ステップ65)。この答がNOで、暫定値FB_igTが下限値LOLMT_igよりも小さいときには、F/B補正項FB_igを下限値LOLMT_igに設定し(ステップ66)、ステップ68に進む。
【0085】
一方、ステップ65の答がYESのとき、すなわち、暫定値FB_igTが上限値HILMT_ig以下で、かつ下限値LOLMT_ig以上のときには、F/B補正項FB_igを暫定値FB_igTに設定し(ステップ67)、ステップ68に進む。
【0086】
このステップ68では、上記ステップ64、66または67で設定されたF/B補正項FB_igを、図10のステップ51で算出された基本点火時期IGBASEに加算することによって、点火時期IGLOGを算出する。次いで、暫定値FB_igTからF/B補正項FB_igを減算することによって、補正項偏差DFBZ_igを算出し(ステップ69)、本処理を終了する。
【0087】
上記ステップ68により点火時期IGLOGが算出されると、算出された点火時期IGLOGのタイミングで、点火プラグ10による放電が実行され、混合気の点火が行われる。
【0088】
以上のように、点火時期制御処理においても、噴射時期制御処理の場合と同様、F/B補正項の暫定値FB_igTに、リミット処理を施すことによって、F/B補正項FB_igが、上限値HILMT_ig以下で、かつ、下限値LOLMT_ig以上の値に制限される(図11のステップ63〜67)。また、F/B補正項FB_igが制限されておらず(ステップ63および65:YES)、F/B補正項FB_igが暫定値FB_igTに設定されている(ステップ67)ときには、補正項偏差DFBZ_igは値0になる(ステップ69)。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_igが、補正されずにそのまま第2補正後偏差CDEθ2_igとして設定される(図10のステップ56)とともに、この第2補正後偏差CDEθ2_igを用いて、積分項I_igが算出される(ステップ57〜59)。以上の結果、F/B補正項FB_igが制限されていないときには、F/B補正項FB_igは、第1補正後偏差CDEθ1_igに応じたPI制御アルゴリズムによって算出される(ステップ54〜60)。
【0089】
一方、暫定値FB_igTが上限値HILMT_igよりも大きい(ステップ63:NO)ことにより、F/B補正項FB_igが上限値HILMT_igに制限されている(ステップ64)ときには、補正項偏差DFBZ_igは、暫定値FB_igTと上限値HILMT_igとの偏差(FB_igT−HILMT_ig)と等しくなる(ステップ69)。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_igが、補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igの減算により補正されることによって、第2補正後偏差CDEθ2_igが算出される(ステップ56)とともに、この第2補正後偏差CDEθ2_igを用いて、積分項I_igが算出される(ステップ57〜59)。
【0090】
また、F/B補正項FB_igが上限値HILMT_igに制限されているときには、基本的には、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDよりも進角側にあり、それにより、筒内圧角偏差DEθに重み係数KW_igを乗算した第1補正後偏差CDEθ1_igは、正値になる。さらに、暫定値FB_igTは、最大筒内圧角θPMAXを遅角側の目標角θPCMDに収束させるために、比較的大きな正値になり、上限値HILMT_igを上回る。この場合、暫定値FB_igTと上限値HILMT_igとの偏差に基づいて算出される補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igは、正値になる。その結果、この補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igを第1補正後偏差CDEθ1_igから減算した第2補正後偏差CDEθ2_igは、第1補正後偏差CDEθ1_igよりも小さくなる。これにより、第1補正後偏差CDEθ1_igをそのまま用いた場合と比較して、積分項I_igがより小さな値に算出されることで、積分項I_igの飽和(過大化)が防止されるとともに、暫定値FB_igTは、より小さな値に算出され、上限値HILMT_igに漸近する。
【0091】
一方、暫定値FB_igTが下限値LOLMT_igよりも小さい(ステップ65:NO)ことにより、F/B補正項FB_igが下限値LOLMT_igに制限されている(ステップ66)ときには、補正項偏差DFBZ_igは、暫定値FB_igTと下限値LOLMT_igとの偏差(FB_igT−HILMT_ig)と等しくなる(ステップ69)。その結果、第1補正後偏差CDEθ1_igが、補正項偏差除算値(DFBZ_ig/KP_ig)の減算により補正されることによって、第2補正後偏差CDEθ2_igが算出される(ステップ56)とともに、この第2補正後偏差CDEθ2_igを用いて、積分項I_igが算出される(ステップ57〜59)。
【0092】
また、F/B補正項FB_igが下限値LOLMT_igに制限されているときには、基本的には、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDよりも遅角側であり、それにより、第1補正後偏差CDEθ1_igは、負値になる。さらに、暫定値FB_igTは、最大筒内圧角θPMAXを進角側の目標角θPCMDに収束させるために、絶対値が比較的大きな負値になり、下限値LOLMT_igを下回る。この場合、暫定値FB_igTと下限値LOLMT_igとの偏差に基づいて算出される補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igは、負値になる。その結果、この補正項偏差除算値DFBZ_ig/KP_igを第1補正後偏差CDEθ1_igから減算した第2補正後偏差CDEθ2_igは、その絶対値が、第1補正後偏差CDEθ1_igよりも小さくなる。これにより、第1補正後偏差CDEθ1_igをそのまま用いて算出した場合と比較して、積分項I_igは、その絶対値がより小さな値に算出され、それにより積分項I_igの飽和(過小化)が防止されるとともに、暫定値FB_igTは、その絶対値がより小さな値に算出され、下限値LOLMT_igに漸近する。
【0093】
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態におけるクランク角センサ31および筒内圧センサ34が、本発明における燃焼状態パラメータ検出手段および出力パラメータ検出手段に相当する。また、本実施形態におけるECU2が、本発明における燃焼状態パラメータ検出手段、目標値設定手段、EGR制御パラメータ算出手段、噴射時期制御パラメータ算出手段、点火時期制御パラメータ算出手段、制限手段、出力パラメータ検出手段、制限値設定手段、偏差算出手段、および重み設定手段に相当する。
【0094】
さらに、本実施形態における最大筒内圧角θPMAX、目標角θPCMDおよび筒内圧角偏差DEθが、本発明における燃焼状態パラメータ、目標値および偏差にそれぞれ相当するとともに、本実施形態におけるF/B補正項FB_egr、FB_tiおよびFB_igが、本発明におけるEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータにそれぞれ相当する。また、本実施形態における上限値HILMT_ti,HILMT_igおよび下限値LOLMT_ti,LOLMT_igが、本発明における制限値に相当するとともに、本実施形態における補正項偏差DFBZ_tiおよびDFBZ_igが、本発明における偏差パラメータに相当する。さらに、本実施形態におけるエンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPが、本発明における出力パラメータに相当するとともに、本実施形態における重み係数KW_egr、KW_tiおよびKW_igが、本発明におけるEGR制御パラメータ、噴射時期制御パラメータおよび点火時期制御パラメータに対する偏差の重みにそれぞれ相当する。
【0095】
以上のように、本実施形態によれば、火種自己着火燃焼モードにおいて、内部EGRガス量、筒内噴射時期および点火時期をそれぞれ制御するためのF/B補正項FB_egr、FB_tiおよびFB_igがいずれも、筒内圧角偏差DEθに応じたPI制御アルゴリズムによって、最大筒内圧角θPMAXを目標角θPCMDに収束させるように、算出される。したがって、内部EGRガス量、筒内噴射時期および点火時期を、エンジン3の実際の燃焼状態に応じて適切に制御することができ、それにより、エンジン3の良好な燃焼状態を得ることができる。また、この場合、PI制御アルゴリズムを用いるので、目標角θPCMDに対する最大筒内圧角θPMAXの定常偏差を抑制することができる。
【0096】
さらに、F/B補正項FB_tiが、上限値HILMT_tiおよび下限値LOLMT_tiで規定される範囲内に制限されるとともに、F/B補正項FB_igが、上限値HILMT_igおよび下限値LOLMT_igで規定される範囲内に制限される。これにより、過度に補正された筒内噴射時期TINJおよび点火時期IGLOGが用いられるのを防止でき、したがって、エンジン3の良好な排ガス特性を得ることができる。また、F/B補正項FB_egrについては、この制限にかかわらず、最大筒内圧角θPMAXおよび目標角θPCMDに応じた値を用いるので、エンジン3の良好な燃焼状態を確保することができる。
【0097】
さらに、F/B補正項FB_tiおよびFB_igの制限中、第1補正後偏差CDEθ1_tiおよびCDEθ1_igをそのまま用いずに、第1補正後偏差CDEθ1_tiおよびCDEθ1_igを、補正項偏差DFBZ_tiおよびDFBZ_igでそれぞれ補正した第2補正後偏差CDEθ2_tiおよびCDEθ2_igを用いて、積分項I_tiおよびI_igが算出される。これにより、F/B補正項FB_tiおよびFB_igの制限中、積分項I_tiおよびI_igの飽和を防止することができるので、この制限が終了したときに、筒内噴射時期および点火時期を、最大筒内圧角θPMAXおよび目標角θPCMDに応じて適切に制御することができ、ひいては、エンジン3の良好な燃焼状態を得ることができる。同じ理由により、F/B補正項FB_tiおよびFB_igの制限中に、暫定値FB_tiTを、上限値HILMT_tiまたは下限値LOLMT_tiに漸近させることができるとともに、暫定値FB_igTを、上限値HILMT_igまたは下限値LOLMT_igに漸近させることができるので、この制限を迅速に終了させることができる。
【0098】
また、上限値HILMT_ti,HILMT_igおよび下限値LOLMT_ti,LOLMT_igを、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPに応じて算出するので、これらの上限値HILMT_ti,HILMT_igおよび下限値LOLMT_ti,LOLMT_igによる制限を、そのときのエンジン3の実際の出力に応じて適切に行うことができる。
【0099】
さらに、F/B補正項FB_egrに対する筒内圧角偏差DEθの重みを表す重み係数KW_egrが、F/B補正項FB_tiおよびFB_igに対する筒内圧角偏差DEθの重みをそれぞれ表す重み係数KW_tiおよびKW_igよりも大きな値に設定される。これにより、火種自己着火燃焼モードにおいて重要なパラメータである内部EGRガス量を制御するためのF/B補正項FB_egrに、筒内圧角偏差DEθを十分に反映させることができるので、エンジン3の良好な燃焼状態を確実に得ることができる。また、重み係数KW_tiおよびKW_igは、筒内圧角偏差の絶対値|DEθ|が大きいほど、より大きな値に設定される。これにより、最大筒内圧角θPMAXが目標角θPCMDと大きく異なっているときに、前者θPMAXを後者θPCMDに迅速に収束させることができるとともに、両者θPMAX,θPCMDの差が小さいときに、筒内噴射時期TINJおよび点火時期IGLOGが筒内圧角偏差DEθに応じて過度に補正されることによる燃費および排ガス特性の悪化を防止することができる。
【0100】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、内部EGRガス量を変更するために、排気弁5のバルブタイミングを無段階に変更する排気側動弁機構7を用いているが、内部EGRガス量を変更可能な他の適当な装置を用いてもよい。例えば、排気弁の最大揚程を無段階に変更する装置や、排気弁の最大揚程およびバルブタイミングの双方を無段階に変更する装置、排気弁の最大揚程および/またはバルブタイミングを段階的に変更する装置を用いてもよい。
【0101】
また、実施形態では、エンジン3の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータとして、最大筒内圧角θPMAXを用いているが、他の適当なパラメータを用いてもよい。例えば、1燃焼サイクル中における熱発生率の最大値や、1燃焼サイクル中における熱発生量の総和でもよく、1燃焼サイクル中における筒内圧PCYLの変化率の最大値でもよい。この場合、熱発生率および熱発生量は、例えば、本出願人が特開2010−031745号公報に開示した手法によって算出される。
【0102】
さらに、実施形態では、F/B補正項FB_egrを算出するアルゴリズムは、PI制御アルゴリズムであるが、F/B制御アルゴリズムであれば、例えば、PD制御アルゴリズムや、PID制御アルゴリズムなどでもよい。また、実施形態では、F/B補正項FB_tiおよびFB_igを算出するアルゴリズムは、PI制御アルゴリズムであるが、積分動作を含むF/B制御アルゴリズムであれば、例えば、PID制御アルゴリズムや、PI−D制御アルゴリズム(微分先行型PID制御アルゴリズム)、I−PD制御アルゴリズム(比例・微分先行型PID制御アルゴリズム)などでもよい。
【0103】
さらに、実施形態では、F/B補正項FB_tiおよびFB_igの双方を制限しているが、両者FB_tiおよびFB_igの一方を制限してもよい。あるいは、F/B補正項FB_tiおよびFB_igに代えて、筒内噴射時期TINJおよび点火時期IGLOGを制限してもよく、両者TINJおよびIGLOGの一方を制限してもよい。この場合、本発明における偏差パラメータとして、筒内噴射時期TINJおよび/または点火時期IGLOGと制限値との偏差を用いて、積分項I_tiおよび/またはI_igが算出される。
【0104】
また、実施形態では、エンジン3の出力を表す出力パラメータとして、エンジン回転数NEおよび図示平均有効圧力IMEPを用いているが、他の適当なパラメータ、例えば、エンジン3の吸入空気量や、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12による燃料噴射量を用いてもよい。さらに、実施形態では、重み係数KW_egr、KW_tiおよびKW_igを、筒内圧角偏差DEθに乗算しているが、F/B補正項FB_egr、FB_tiおよびFB_igにそれぞれ乗算してもよい。
【0105】
また、実施形態では、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12を有するエンジン3を用いているが、筒内燃料噴射弁12のみを有する内燃機関を用いてもよい。さらに、実施形態は、車両に搭載されたエンジン3に本発明による制御装置を適用した例であるが、制御装置は、火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、内部EGRガス量が変更される内燃機関であれば、他の適当なタイプのもの、例えば、クランクシャフトが鉛直方向に配置された船外機などのような船舶推進機用エンジンを含む、様々な産業用の内燃機関に適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 制御装置
2 ECU(燃焼状態パラメータ検出手段、目標値設定手段、EGR制御 パラメータ算出手段、噴射時期制御パラメータ算出手段、点 火時期制御パラメータ算出手段、制限手段、出力パラメータ 検出手段、制限値設定手段、偏差算出手段、重み設定手段)
3 エンジン
3a 気筒
10 点火プラグ
31 クランク角センサ(燃焼状態パラメータ検出手段、出力パラメータ検 出手段)
34 筒内圧センサ(燃焼状態パラメータ検出手段、出力パラメータ検出手 段)
θPMAX 最大筒内圧角(燃焼状態パラメータ)
θPCMD 目標角(目標値)
FB_egr F/B補正項(EGR制御パラメータ)
FB_ti F/B補正項(噴射時期制御パラメータ)
FB_ig F/B補正項(点火時期制御パラメータ)
DEθ 筒内圧角偏差(偏差)
P_ti 比例項
P_ig 比例項
I_ti 積分項
I_ig 積分項
HILMT_ti 上限値(制限値)
HILMT_ig 上限値(制限値)
LOLMT_ti 下限値(制限値)
LOLMT_ig 下限値(制限値)
DFBZ_ti 補正項偏差(偏差パラメータ)
DFBZ_ig 補正項偏差(偏差パラメータ)
NE エンジン回転数(出力パラメータ)
IMEP 図示平均有効圧力(出力パラメータ)
KW_egr 重み係数(EGR制御パラメータに対する偏差の重み)
KW_ti 重み係数(噴射時期制御パラメータに対する偏差の重み)
KW_ig 重み係数(点火時期制御パラメータに対する偏差の重み)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮行程において気筒内に燃料を噴射する圧縮行程噴射と、当該圧縮行程噴射に先立って行われる燃料噴射とによって、前記気筒内に成層混合気を生成し、当該成層混合気のうちの点火プラグ付近の混合気を、当該点火プラグによる火花点火により燃焼させ、当該燃焼した混合気を火種として、前記気筒内の前記点火プラグ付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、前記気筒内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量が変更される内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータを検出する燃焼状態パラメータ検出手段と、
前記燃焼状態パラメータの目標値を設定する目標値設定手段と、
前記内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータを、前記検出された燃焼状態パラメータが前記設定された目標値に収束するように、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用いて算出するEGR制御パラメータ算出手段と、
前記圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記目標値と前記燃焼状態パラメータとの偏差に応じた噴射時期制御用の比例項および積分項を用いて算出する噴射時期制御パラメータ算出手段と、
前記点火プラグの点火時期を制御するための点火時期制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記目標値と前記燃焼状態パラメータとの偏差に応じた点火時期制御用の比例項および積分項を用いて算出する点火時期制御パラメータ算出手段と、
前記噴射時期制御パラメータおよび前記点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータを、当該少なくとも一方の制御パラメータに対応する所定の制限値に制限する制限手段と、を備え、
当該制限手段により前記少なくとも一方の制御パラメータが制限されているときに、当該少なくとも一方の制御パラメータを算出する前記噴射時期制御パラメータ算出手段および前記点火時期制御パラメータ算出手段の少なくとも一方は、前記算出された少なくとも一方の制御パラメータと、それに対応する前記制限値との偏差を表す偏差パラメータにさらに応じて、前記噴射時期制御用および前記点火時期制御用の積分項の少なくとも一方を算出することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の出力を表す出力パラメータを検出する出力パラメータ検出手段と、
当該検出された出力パラメータに応じて、前記制限値を設定する制限値設定手段と、をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
圧縮行程において気筒内に燃料を噴射する圧縮行程噴射と、当該圧縮行程噴射に先立って行われる燃料噴射とによって、前記気筒内に成層混合気を生成し、当該成層混合気のうちの点火プラグ付近の混合気を、当該点火プラグによる火花点火により燃焼させ、当該燃焼した混合気を火種として、前記気筒内の前記点火プラグ付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、前記気筒内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量が変更される内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータを検出する燃焼状態パラメータ検出手段と、
前記燃焼状態パラメータの目標値を設定する目標値設定手段と、
当該設定された目標値と前記検出された燃焼状態パラメータとの偏差を算出する偏差算出手段と、
前記内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記算出された偏差に応じて算出するEGR制御パラメータ算出手段と、
前記圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記算出された偏差に応じて算出する噴射時期制御パラメータ算出手段と、
前記点火プラグの点火時期を制御するための点火時期制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記算出された偏差に応じて算出する点火時期制御パラメータ算出手段と、
前記噴射時期制御パラメータおよび前記点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータを制限する制限手段と、
前記EGR制御パラメータに対する前記偏差の重みを、前記噴射時期制御パラメータに対する前記偏差の重み、および前記点火時期制御パラメータに対する前記偏差の重みよりも大きな値に設定する重み設定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項1】
圧縮行程において気筒内に燃料を噴射する圧縮行程噴射と、当該圧縮行程噴射に先立って行われる燃料噴射とによって、前記気筒内に成層混合気を生成し、当該成層混合気のうちの点火プラグ付近の混合気を、当該点火プラグによる火花点火により燃焼させ、当該燃焼した混合気を火種として、前記気筒内の前記点火プラグ付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、前記気筒内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量が変更される内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータを検出する燃焼状態パラメータ検出手段と、
前記燃焼状態パラメータの目標値を設定する目標値設定手段と、
前記内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータを、前記検出された燃焼状態パラメータが前記設定された目標値に収束するように、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用いて算出するEGR制御パラメータ算出手段と、
前記圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記目標値と前記燃焼状態パラメータとの偏差に応じた噴射時期制御用の比例項および積分項を用いて算出する噴射時期制御パラメータ算出手段と、
前記点火プラグの点火時期を制御するための点火時期制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記目標値と前記燃焼状態パラメータとの偏差に応じた点火時期制御用の比例項および積分項を用いて算出する点火時期制御パラメータ算出手段と、
前記噴射時期制御パラメータおよび前記点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータを、当該少なくとも一方の制御パラメータに対応する所定の制限値に制限する制限手段と、を備え、
当該制限手段により前記少なくとも一方の制御パラメータが制限されているときに、当該少なくとも一方の制御パラメータを算出する前記噴射時期制御パラメータ算出手段および前記点火時期制御パラメータ算出手段の少なくとも一方は、前記算出された少なくとも一方の制御パラメータと、それに対応する前記制限値との偏差を表す偏差パラメータにさらに応じて、前記噴射時期制御用および前記点火時期制御用の積分項の少なくとも一方を算出することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の出力を表す出力パラメータを検出する出力パラメータ検出手段と、
当該検出された出力パラメータに応じて、前記制限値を設定する制限値設定手段と、をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
圧縮行程において気筒内に燃料を噴射する圧縮行程噴射と、当該圧縮行程噴射に先立って行われる燃料噴射とによって、前記気筒内に成層混合気を生成し、当該成層混合気のうちの点火プラグ付近の混合気を、当該点火プラグによる火花点火により燃焼させ、当該燃焼した混合気を火種として、前記気筒内の前記点火プラグ付近以外の部位における混合気を自己着火燃焼させる火種自己着火燃焼モードで運転されるとともに、前記気筒内に残留する既燃ガスの量である内部EGRガス量が変更される内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータを検出する燃焼状態パラメータ検出手段と、
前記燃焼状態パラメータの目標値を設定する目標値設定手段と、
当該設定された目標値と前記検出された燃焼状態パラメータとの偏差を算出する偏差算出手段と、
前記内部EGRガス量を制御するためのEGR制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記算出された偏差に応じて算出するEGR制御パラメータ算出手段と、
前記圧縮行程噴射の噴射時期を制御するための噴射時期制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記算出された偏差に応じて算出する噴射時期制御パラメータ算出手段と、
前記点火プラグの点火時期を制御するための点火時期制御パラメータを、前記燃焼状態パラメータが前記目標値に収束するように、前記算出された偏差に応じて算出する点火時期制御パラメータ算出手段と、
前記噴射時期制御パラメータおよび前記点火時期制御パラメータの少なくとも一方の制御パラメータを制限する制限手段と、
前記EGR制御パラメータに対する前記偏差の重みを、前記噴射時期制御パラメータに対する前記偏差の重み、および前記点火時期制御パラメータに対する前記偏差の重みよりも大きな値に設定する重み設定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−252471(P2011−252471A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128462(P2010−128462)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]