説明

内燃機関の燃焼診断方法および燃焼診断装置

【課題】過早着火の判定と筒内圧力センサ異常の判定とを明確に識別して判定可能とすると共に、シリンダ内における過早着火の発生を運転状況に左右されずに広い負荷範囲で検知可能にして信頼性を高めた内燃機関の燃焼診断方法および燃焼診断装置を提供することを課題とする。
【解決手段】筒内圧力検出器により検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を診断する内燃機関(エンジン)の燃焼診断方法において、エンジンの着火前の所定クランク角度(α)における筒内圧力の変化の標準偏差(σPα)を算出し該標準偏差(σPα)が標準偏差閾値(β)以上で、かつ基準クランク角度と上死点とにおける筒内圧力の差圧(ΔP)を算出し、該差圧(ΔP)をエンジンによって駆動される被駆動機側の負荷率(L)で除した負荷率筒内差圧(ΔP/L)が負荷率筒内差圧閾値(γ)以上であるときに過早着火が発生していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンおよびディーゼルエンジンを含む内燃機関における燃焼診断方法および燃焼診断装置に関するものであって、特に、シリンダ内における過早着火の発生を運転状況に左右されずに広い負荷範囲で検知可能にした内燃機関の燃焼診断方法および燃焼診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、特に都市ガス等の清浄ガスを主燃料とするガスエンジンにおいては、燃焼室内における燃焼状態を検知、診断し、その燃焼診断結果に適合した燃焼着火タイミングおよび燃料噴射量の制御が必須であるとともに、燃焼室内における失火や消炎および混合気濃度の不均一等によるノッキングの発生やシリンダ内における残留未燃燃料による過早着火の発生等の燃焼に係る不具合現象を確実に検知して、速やかに対応処置することが要求される。
【0003】
このようなエンジンの燃焼室内における燃焼状態を検知、診断する診断装置として、特許文献1(特開平10−238374号公報)、特許文献2(特開2007−32407号公報)等の技術が提案されている。
特許文献1においては、吸気中に燃料を供給して予混合する予混合着火内燃機関において、広い負荷範囲で着火時期を適切に制御するものであり、吸気中に燃料を供給して予混合する予混合燃料インジェクタと、燃焼室の容積を可変にして圧縮比を可変にする圧縮比可変機構とを備えて、負荷状態に基づく予混合燃料量に応じて圧縮比を可変とすることによって、どのような負荷状態においても着火時期前に自着火しないように制御することが示されている。
【0004】
また、特許文献2においては、筒内圧力検出値に基づいて燃焼診断を行う技術が示されており、過早着火発生の有無を、筒内圧力が予め設定された過早着火しき値に基づく基準圧力値によって判定し、過早着火発生ありの場合に筒内圧力検出器の異常判定ロジックを停止し、過早着火発生なしの場合には筒内圧力検出器の異常判定ロジックに進む。これによって、筒内圧力検出器の異常判定の際に過早着火原因混入による誤診断を回避して燃焼診断誤差の発生を防止している。
【0005】
【特許文献1】特開平10−238374号公報
【特許文献2】特開2007−32407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
過早着火とは、一般的にシリンダ内に高温のすす等の未燃分の着火源が残留していると、次のサイクルで、該着火源を起点として本来の着火点よりも早期に着火燃焼する現象をいい、図6に示すように、本来の着火点(F点)よりも早期に着火燃焼し、A、B、C、Dで示すような正常な筒内圧力変化に対して、A1、B1、C1、D1のように高く圧力変動が大きい筒内圧力変化となる。
そのため、過早着火が進行すると筒内圧力が高まり、例えば副室付きのガスエンジンにおいては、最悪の場合には副室容損などといった重大なトラブルが発生し、さらに容損したな副室の一部がシリンダライナを傷つけたり、排気弁に衝突したり、ターボチャージャーに侵入して傷つける等のおそれがある。
【0007】
従って、この過早着火を適切に検出して燃焼を制御する必要があるが、そのための燃焼診断装置として上死点前15°〜40°における着火前の筒内圧力を検出して判定することが行われている。
【0008】
しかし、かかる判定手法であると筒内圧力を検出する筒内圧力センサの異常判定に着火前の特定のクランク角での筒内圧力の検出値を利用しているため、過早着火による圧力の急激な上昇であってもセンサ異常と誤判定することが多々あり、誤判定した場合にはセンサ異常の判定が他の判定よりも優先されるように設定されているので一定時間に渡って他の判定が無視され、所定の運転条件で運転が進められる。その結果、圧縮初期から着火して過早着火現象が生じていてもセンサ異常と判定されてしまい過早着火を検知することができない問題があった。
さらに、エンジン負荷によって筒内圧力特性が変化するため、運転状況に左右されずに広い負荷範囲での過早着火の検出が不十分であった。
【0009】
そのため、着火前の筒内圧力を検出して判定するセンサ異常判定と過早着火とを区別し、しかもエンジンの運転状況に左右されずに確実に判定することが必要となる。
しかし、特許文献1の技術は前記したように予混合燃料インジェクタと、燃焼室の容積を可変にする圧縮比可変機構とを備えて、どのような負荷状態においても着火時期前に自着火しないように制御するもので、着火前の筒内圧力を検出して判定するセンサ異常判定と過早着火とを区別して判定する手段については提案されていない。
【0010】
また、特許文献2の技術は、前記したように筒内圧力検出器の異常判定の際に過早着火原因混入による誤診断を回避して燃焼診断誤差の発生を防止することが示されているが、所定のクランク角における筒内圧力検出値のみで判定しているため、エンジン負荷に応じた判定が考慮されていないため、運転状況に左右されずに広い負荷範囲での判定には不十分である。
【0011】
そこで、本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、過早着火の判定と筒内圧力センサ異常の判定とを明確に識別して判定可能とすると共に、シリンダ内における過早着火の発生を運転状況に左右されずに広い負荷範囲で検知可能にして信頼性を高めた内燃機関の燃焼診断方法および燃焼診断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本出願の第1発明は、内燃機関の燃焼診断方法に関し、筒内圧力検出器により検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を診断する内燃機関(エンジン)の燃焼診断方法において、エンジンの着火前の所定クランク角度(α)における筒内圧力の変化の標準偏差(σPα)を算出し該標準偏差(σPα)が標準偏差閾値(β)以上で、かつ基準クランク角度と上死点とにおける筒内圧力の差圧(ΔP)を算出し、該差圧(ΔP)をエンジンによって駆動される被駆動機側の負荷率(L)で除した負荷率筒内差圧(ΔP/L)が負荷率筒内差圧閾値(γ)以上であるときに過早着火が発生していると判定することを特徴とする。
【0013】
かかる発明によれば、エンジンの着火前の所定クランク角度(α)における筒内圧力の変化の標準偏差(σPα)を算出し該標準偏差(σPα)が標準偏差閾値(β)以上の第1判定条件だけでなく、この条件にさらに、基準クランク角度と上死点とにおける筒内圧力の差圧(ΔP)を算出し、該差圧(ΔP)をエンジンによって駆動される被駆動機側の負荷率(L)で除した負荷率筒内差圧(ΔP/L)が負荷率筒内差圧閾値(γ)以上の第2の判定条件を付加して過早着火を判定する。
【0014】
第1判定条件によって、エンジンの着火前の所定クランク角度(α)における筒内圧力の標準偏差(σPα)を見ることで、筒内圧力センサの異常を判定でき、さらに、第2判定条件を付加することで、筒内圧力センサとは峻別して過早着火が発生していることが判別でき、さらに被駆動機側の負荷率(L)を考慮するため広いエンジン負荷範囲での判定が可能になる。
【0015】
図4、5に示すように、図4は低負荷時(50%)での筒内圧力変化状況を示し、図5は高負荷時(80%)での筒内圧力変化状況を示し、エンジン負荷が上昇するにつれて正常運転時においても過早着火時においても、ΔP、ΔPmaxともに上昇していることがわかる。
ΔPは、上死点前180°における筒内圧力P−180とクランク角度ゼロの上死点時における筒内圧力Pとの相対差圧を示し、ΔPmaxは、上死点前180°における筒内圧力P−180と筒内最大圧力Pmaxとの相対差圧を示す。
従って、負荷によって、筒内圧力特性が上下するため、過早着火時の判定においてエンジンの運転状況を示すエンジン負荷の影響を極力抑えて広い負荷範囲での判定できるようにするため、クランク角ゼロの上死点時の筒内圧力Pと基準クランク角(死点前180°)の筒内圧力P−180との相対差圧ΔPを負荷率Lで除した負荷率筒内差圧(ΔP/L)を用いて判定している。
このようにして負荷率で除して運転状況に左右されずに広い負荷範囲での判定できるようになる。
【0016】
負荷率は、具体的には該エンジンで駆動する発電機の定格発電出力に対する実際の発電出力を用いて算出できる。
以上のように、過早着火の判定と筒内圧力センサ異常の判定とを明確に識別して判定可能となると共に、シリンダ内における過早着火の発生を運転状況に左右されずに広い負荷範囲で検知可能となり、内燃機関の燃焼診断結果の信頼性が高まる。
【0017】
また、好ましくは、前記標準偏差閾値(β)以上の判定および前記負荷率筒内差圧閾値(γ)以上の判定をエンジンの1燃焼サイクル毎に行い、前記両判定が共に閾値以上の回数が基準サイクル数中に設定回数以上発生した場合に過早着火と判定するとよい。
このように両判定結果が閾値以上である場合が設定回数以上発生したときに過早着火と判定することで、判定の信頼性が向上する。
【0018】
また、好ましくは、前記両判定が共に閾値以上の回数が基準サイクル数中に設定回数以上発生しない場合には前記筒内圧力検出器の異常と判定するとよい。
このように設定回数に達していないが、前記両判定が共に閾値以上になったサイクルがある場合には筒内圧力検出器の異常と判定することで、筒内圧力検出器の異常と過早着火とを区別して判定をすることができる。
【0019】
さらに、好ましくは、前記過早着火の判定後の一定時間内に、前記過早着火であると判定した割合が一定値以上に達したときに、該過早着火と判定したシリンダへの燃料を停止して休筒運転状態するとよい。
このように一定時間の結果を見て総合的に判定することで過早着火が発生している気筒を確実に判定でき、早期に休筒運転状態とする対応処置をとることができる。その結果、副室付きのガスエンジンにおいて、副室容損などといった重大なトラブルの発生を未然に防止でき、さらに容損した副室の一部がシリンダライナを傷つけたり、排気弁に衝突したり、ターボチャージャーに侵入して傷つけたりする等の問題を回避できる。
【0020】
さらに、好ましくは、前記エンジンがガスエンジンであり、前記被駆動機が発電機からなり、該発電機の発電出力を検出して該発電機の定格発電出力との割合から前記負荷率(L)を算出するとよい。
副室付きのガスエンジンにおいては、主燃焼室に予混合ガス燃料が吸気弁から吸入され、その予混合ガス燃料に副室内で生成された火種であるトーチによって燃焼が伝搬される。このため、シリンダ内に高温のすす等の未燃分の着火源が残留していると、次のサイクルで、主燃焼室に予混合ガスが吸気弁から吸入されると該着火源を起点として本来の燃焼よりも早期に着火する過早着火が生じやすいが、本発明ではかかる過早着火を前記発電機の発電出力を検出することで広い負荷範囲で確実に判定でき、さらに副室の容損等を防止することができる。
【0021】
本出願の第2発明は、前記第1発明の内燃機関の燃焼診断方法を実施するための内燃機関の燃焼診断装置に関するものであり、筒内圧力検出器により検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を診断する内燃機関(エンジン)の燃焼診断装置において、前記筒内圧力検出器からの筒内圧力検出値およびクランク角検出器からのクランク角検出値に基づいてエンジンの着火前の所定クランク角度αにおける筒内圧力の変化の標準偏差(σPα)を算出する標準偏差算出部と、前記標準偏差(σPα)が標準偏差閾値(β)以上であるか否かを判定する標準偏差判定部と、前記筒内圧力検出器からの筒内圧力検出値およびクランク角検出器からのクランク角検出値に基づいて基準クランク角度と上死点とにおける筒内圧力の差圧(ΔP)を算出する筒内差圧算出部と、前記差圧(ΔP)をエンジンによって駆動される被駆動機側の負荷率(L)で除した負荷率筒内差圧(ΔP/L)が負荷率筒内差圧閾値(γ)以上であるか否かを判定する負荷率筒内差圧判定部と、前記標準偏差判定手段によって前記標準偏差(σPα)が標準偏差閾値(β)以上と判定し、前記負荷率筒内差圧判定手段によって負荷率筒内差圧(ΔP/L)が負荷率筒内差圧閾値(γ)以上であと判定したときに、エンジンの過早着火を判定する過早着火判定部と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
係る発明によれば、標準偏差算出部によって、筒内圧力検出器からの筒内圧力検出値およびクランク角検出器からのクランク角検出値に基づいてエンジンの着火前の所定クランク角度(α)における筒内圧力の変化の標準偏差(σPα)を算出し、さらに負荷率筒内差圧判定部によって、基準クランク角度と上死点とにおける筒内圧力の差圧(ΔP)を、エンジンによって駆動される被駆動機側の負荷率(L)で除した負荷率筒内差圧(ΔP/L)を算出し、過早着火判定部によって前記標準偏差(σPα)と負荷率筒内差圧(ΔP/L)とが、ともに閾値以上の場合に過早着火と判定するので、過早着火の判定と筒内圧力センサ異常の判定とを明確に識別して判定可能となると共に、シリンダ内における過早着火の発生を運転状況に左右されずに広い負荷範囲で検知可能となり、内燃機関の燃焼診断結果の信頼性が高まる。
【0023】
また、係る装置発明において好ましくは、前記標準偏差判定部での標準偏差閾値(β)以上の判定、および前記負荷率筒内差圧判定部での負荷率筒内差圧閾値(γ)以上の判定をエンジンの1燃焼サイクル毎に行い、前記過早着火判定部は前記両判定が共に閾値以上の回数が基準サイクル数中に設定回数以上発生した場合に過早着火と判定し、両判定結果が、共に閾値以上の回数が基準サイクル数中に前記設定回数以上発生しない場合には前記筒内圧力検出器の異常と判定するとよい。
【0024】
このように両判定結果が閾値以上である場合が設定回数以上発生したときに過早着火と判定することで、判定の信頼性が向上する。
設定回数に達していないが、前記両判定が共に閾値以上になったサイクルがある場合には筒内圧力検出器の異常と判定することで、筒内圧力検出器の異常と過早着火とを区別して判定をすることができる。
【0025】
また、係る装置発明において好ましくは、エンジンの運転を制御する運転制御手段を備え、該運転制御手段は前記過早着火判定部からの過早着火であるとの判定結果を一定時間内に一定割合以上受けたとき該過早着火と判定したシリンダへの燃料を停止して休筒運転状態とするとよい。
係る発明によれば運転制御手段によって、過早着火が発生している気筒を確実に判定でき、早期に休筒運転状態とする対応処置を適切にとることができる。
【0026】
また、係る装置発明において好ましくは、前記エンジンがガスエンジンであり、前記被駆動機が発電機からなり、該発電機の発電出力を検出して該発電機の定格発電出力との割合から前記負荷率(L)を算出する負荷率算出手段を備えるとよい。
係る発明では、負荷率算出手段によって、発電機の発電出力を検出して該発電機の定格発電出力との割合から前記負荷率(L)を算出でき、過早着火を広い負荷範囲で確実に判定できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、過早着火の判定と筒内圧力センサ異常の判定とを明確に識別して判定可能とすると共に、シリンダ内における過早着火の発生を運転状況に左右されずに広い負荷範囲で検知可能にして信頼性を高めた内燃機関の燃焼診断方法および燃焼診断装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0029】
なお、実施形態の説明で参照する図面は次の通りである。
図1は本発明の実施形態の燃焼診断装置の制御フローチャートである。図2は、本発明の実施形態を示すガスエンジンシの燃焼診断装置を示す全体構成図である。図3は、過早着火時の筒内圧力変化状況を示す説明図である。図4は、低負荷時の過早着火発生時と正常時との筒内圧力変化状況を記す説明図である。図5は、高負荷時の過早着火発生時と正常時との筒内圧力変化状況を記す説明図である。図6は、ガスエンジンの過早着火発生の筒内圧力変化状況を記す説明図である。
【0030】
図2は本発明の実施形態に係るガスエンジンの燃焼診断装置40の全体構成を示す構成図である。
図2において、ガスエンジン2は多シリンダの4サイクルガスエンジであり、シリンダ4内に往復摺動自在に嵌合されたピストン6、該ピストン6の往復動をコネクチングロッド8を介して回転に変換するクランク軸10を備えている。
また、前記ガスエンジン2は、ピストン6の上面とシリンダ4の内面との間に区画形成される燃焼室12、該燃焼室12に接続される給気ポート14及び給気管16、該給気ポート14を開閉する給気弁18を備え、さらに前記燃焼室12に接続される排気ポート20、該排気ポート20を開閉する排気弁22を備えている。
【0031】
前記給気管16の途中にはガスミキサー24が設置され、燃料ガス管26からガス量調整弁28を通して供給された燃料ガスと図示しない過給機から供給された圧縮空気(過給機を備えない場合は無過給空気)とを該ガスミキサー24で混合し、この予混合ガスを前記給気ポート14及び給気弁18を通して燃焼室12に供給する。
着火装置30は、図示しない副室内に軽油等のパイロット燃料32を噴射ノズル34により噴射して着火燃焼させ、この燃焼火炎を前記燃焼室12に噴出するパイロット噴射装置で構成されている。
【0032】
燃料制御装置36はガス量調整弁28の開度または開時間を制御すると共に、前記噴射ノズル34へのパイロット燃料32の供給を制御してガスエンジンの運転を制御している。
また、ガスエンジン2の、各シリンダ筒内圧力は筒内圧力検出器(筒内圧力センサ)38で計測され、燃焼診断装置40に入力される。
また、前記燃焼診断装置40にはクランク角検出器42によって検出されたガスエンジン2のクランク角の検出値が入力される。
【0033】
また、このガスエンジン2のエンジン負荷はガスエンジン2によって駆動される発電機44の発電電力が負荷信号として燃焼診断装置40に入力される。また、発電機44を設置しなくても、クランク軸10に負荷検出器を装着してエンジン負荷を検出するようにしても良いことは勿論である。
【0034】
燃焼診断装置40は、過早着火判定手段46と運転制御手段48とから構成され、さらにこの過早着火判定手段46は、筒内圧力検出器38からの筒内圧力検出値およびクランク角検出器42からのクランク角検出値に基づいてエンジンの着火前の所定クランク角度αにおける筒内圧力の変化の標準偏差σPαを算出する標準偏差算出部50と、標準偏差σPαが標準偏差閾値β以上であるか否かを判定する標準偏差判定部52と、筒内圧力検出器38からの筒内圧力検出値およびクランク角検出器42からのクランク角検出値に基づいて基準クランク角度と上死点とにおける筒内圧力の差圧ΔPを算出する筒内差圧算出部54と、該差圧ΔPをエンジンによって駆動される発電機44の負荷率Lで除した負荷率筒内差圧ΔP/Lが負荷率筒内差圧閾値γ以上であるか否かを判定する負荷率筒内差圧判定部56と、標準偏差σPαが標準偏差閾値β以上かを判定するとともに、負荷率筒内差圧ΔP/Lが負荷率筒内差圧閾値γ以上であるかを判定して、エンジンの過早着火を判定する過早着火判定部58と、負荷率算出部60とを備えて構成されている。
さらに、前記運転制御手段48は、燃料制御装置36を制御して各気筒に対するパイロット燃料32の供給、ガス量調整弁28の制御による燃料ガス量の制御を行っている。
【0035】
次に、図1に基づいて燃焼診断装置40による過早着火判定の制御について説明する。
図1の制御フローがガスエンジン2の1燃焼サイクル毎に実施されサイクル毎の燃焼状態が、図1のステップS1〜S5によって判定される。
その後、前記毎サイクルの瞬時の過早着火の判定結果に基づいてステップS6〜S10によって総合的な判定を行いその結果に基づいてガスエンジンの運転制御が行われる。すなわち、ステップS1〜5を瞬時判定といい、ステップS6〜S10を総合判定という。この瞬時判定が前記過早着火判定手段46によって行われ、総合判定が運転制御手段48によって行われる。
【0036】
まずステップS1でスタートすると、ステップS2で、標準偏差算出部50によって、筒内圧力検出器38からの筒内圧力検出値、およびクランク角検出器42からのクランク角検出値に基づいてエンジン2の着火前の所定クランク角度α、例えば上死点前40度における筒内圧力の変化の標準偏差σP−40を算出する。1燃焼サイクル毎に制御フローが実行されて、標準偏差σP−40は、例えば16サイクル中の標準偏差によって判定される。
標準偏差判定部52ではこの上死点前40度における筒内圧力の変化の標準偏差σP−40が標準偏差閾値β、例えば0.1以上であるか否かを判定する。標準偏差σP−40が標準偏差閾値β=0.1以上の場合には次のステップS3へ進み、0.1を超えなかった場合にはステップS9へ進み、その他ノッキングの判定や失火の判定へと進む。
【0037】
上死点前40度における筒内圧力の変化状況を図3に示す。この変化特性から分かるように過早着火の発生によって図3のH領域に示すように筒内圧力が急変する。この過早着火の発生による筒内圧力の変化を、標準偏差σP−40を算出することで検出して判定要素としている。
【0038】
上死点前40度としたのは、ガスエンジンの着火タイミングはほぼ上死点前10度〜20度であるため、その前の過早着火を確実に判定するために上死点前40度とした。
また、標準偏差閾値βの0.1については、同一機種のエンジンで予め台上試験を行い過早着火が発生したエンジンと過早着火が発生していないエンジンとを複数台比較試験をし、標準偏差閾値を予め設定しておく、本実施形態の場合には、試験結果からβ=0.1と設定した。この試験結果の一例を表1に示す。
【0039】
表1から分かるように、標準偏差σP−40は、過早着火が発生すると、標準偏差が10倍以上にもバラツキ、本実施形態の場合においては0.1と設定することで確実に判定することができる。
【0040】
【表1】

【0041】
次に、図1のフローチャートのステップS3に進み、筒内差圧算出部54で筒内圧力検出器38からの筒内圧力検出値、およびクランク角検出器42からのクランク角検出値に基づいて基準クランク角、上死点前180度の筒内圧力P−180と、上死点における筒内圧力Pとの差圧ΔP=P−P−180を算出する。
そして、算出した前記差圧ΔPをエンジン負荷、即ちガスエンジン2によって駆動される被駆動機側の発電機44の負荷率Lで除した負荷率筒内差圧ΔP/Lを求める。負荷率Lは、発電機44の定格発電出力に対する実際の発電電力の割合から負荷率Lを算出する。
【0042】
そして、負荷率筒内差圧判定部56で、この負荷率筒内差圧ΔP/Lが負荷率筒内差圧閾値γ、例えば20以上であるか否かを判定する。負荷率筒内差圧ΔP/Lが負荷率筒内差圧閾値γ=20以上の場合には次のステップS4へ進み、20を超えなかった場合にはステップS8へ進み筒内圧力センサ38の異常と判定する。
【0043】
負荷率筒内差圧閾値γ=20については、予め台上試験を行い過早着火が発生したエンジンと過早着火が発生していないエンジンとを比較して閾値を設定しておく、本実施形態の場合には、試験結果からγ=20と設定した。この試験結果の一例は前記表1に示す。表1の結果から分かるように、負荷率筒内差圧閾値γは、過早着火が発生すると、20を超えていることがわかるため、20以上の場合には過早着火が発生したとして判断することができる。
【0044】
次に、フローチャートのステップS4に進み、過早着火判定部58においてステップS3での判定結果が、YESの場合、即ち負荷率筒内差圧閾値γが20以上になったかの条件Aが満たされる場合には、このYESの発生回数が設定回数Nに達したかが判定される。
制御ルーチンは1燃焼サイクル毎に判定されるため、例えば10サイクルを判定基準ブロックとして設定し、この10サイクル中に前記YESの判定が例えば4回に達したかを判定する。達していればステップS5で過早着火と判定し、前記YESの判定が4回に達しなかった場合には、ステップS8へ進み筒内圧力センサ38の異常と判定する。
【0045】
このように、10サイクル中に前記ステップ3でのYESの判定が4回に達したことによって過早着火を判定するため、判定の信頼性が向上する。
また、4回には達していないが、前記両判定が共に閾値以上になったサイクルがある場合には筒内圧力センサ38の異常と判定することで、筒内圧力センサ38の異常と過早着火との判定を区別できる。
【0046】
次にステップS6に進み、運転制御手段48では、前記ステップS5からの過早着火の判定結果を受けてから、設定時間T例えば5〜13秒の間にステップS5からの過早着火の判定結果をカウントし、過早着火の割合を算定する。算出した割合が設定基準値P=60%以上の場合には、ステップS7に進み、ガスエンジン2の燃焼状態の最終的な判定結果として過早着火を判定する。
【0047】
その結果、運転制御手段48は燃料制御装置36に判定対象とされた気筒へのガス燃料の供給を停止する信号を送信して対象気筒を休筒状態とする。そしてステップS10で終了してリターンする。
このように設定時間T例えば5〜13秒内に過早着火の判定結果が占める割合を基に過早着火の判定を総合的に最終判断するため、判定結果の信頼性が高まり、早期に休筒運転状態とする対応処置を適切にとることができる。
【0048】
また、ステップS6で、過早着火の占有割合が例えば設定基準値P=60%に達しないときには、ステップS8へ進み筒内圧力センサ38の異常と判定して、ステップS10で終了してリターンする。ステップS8での筒内圧力センサ38の異状を判定したときには、燃料供給停止はせずに既定の運転条件で運転を維持する。
【0049】
以上の実施形態の制御フローによれば、ステップS2でエンジンの着火前に相当する上死点前40度の筒内圧力の標準偏差σP−40を標準偏差閾値の0.1と比較して、筒内圧力センサ38の異常を判定することができ、さらに、ステップ3でさらに負荷率筒内差圧ΔP/Lを負荷率筒内差圧閾値20と比較して、過早着火の発生を判定することができ、筒内圧力センサ38の異状とは峻別して過早着火が発生していることが判別できる。
【0050】
さらにエンジン負荷である発電機44の負荷率Lを考慮して、判定要素として負荷率筒内差圧ΔP/Lを新たに設定して、その値を評価要素として用いて判定するので、運転状況に左右されずに広い負荷範囲で判定を可能にして信頼性の高い内燃機関の燃焼診断方法および燃焼診断装置を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、過早着火の判定と筒内圧力センサ異常の判定とを明確に識別して判定可能とすると共に、シリンダ内における過早着火の発生を運転状況に左右されずに広い負荷範囲で検知可能にして信頼性を高めた内燃機関の燃焼診断方法および燃焼診断装置を提供することができるので、ガスエンジンの燃焼診断装置への適用に際して有益である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態の燃焼診断装置の制御フローチャートである。
【図2】本発明の実施形態を示すガスエンジンシの燃焼診断装置を示す全体構成図である。
【図3】過早着火時の筒内圧力変化状況を示す説明図である。
【図4】低負荷時の過早着火発生時と正常時との筒内圧力変化状況を記す説明図である。
【図5】高負荷時の過早着火発生時と正常時との筒内圧力変化状況を記す説明図である。
【図6】ガスエンジンの過早着火発生の筒内圧力変化状況を記す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
2 ガスエンジン(エンジン)
10 クランク軸
36 燃料制御装置
38 筒内圧力センサ(筒内圧力検出器)
40 燃焼診断装置
42 クランク角検出器
44 発電機
46 過早着火判定手段
48 運転制御手段
50 標準偏差算出部
52 標準偏差判定部
54 筒内差圧算出部
56 負荷率筒内差圧判定部
58 過早着火判定部
60 負荷率算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内圧力検出器により検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を診断する内燃機関(エンジン)の燃焼診断方法において、
エンジンの着火前の所定クランク角度(α)における筒内圧力の変化の標準偏差(σPα)を算出し該標準偏差(σPα)が標準偏差閾値(β)以上で、かつ基準クランク角度と上死点とにおける筒内圧力の差圧(ΔP)を算出し、該差圧(ΔP)をエンジンによって駆動される被駆動機側の負荷率(L)で除した負荷率筒内差圧(ΔP/L)が負荷率筒内差圧閾値(γ)以上であるときに過早着火が発生していると判定することを特徴とする内燃機関の燃焼診断方法。
【請求項2】
前記標準偏差閾値(β)以上の判定および前記負荷率筒内差圧閾値(γ)以上の判定をエンジンの1燃焼サイクル毎に行い、前記両判定が共に閾値以上の回数が基準サイクル数中に設定回数以上発生した場合に過早着火と判定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃焼診断方法。
【請求項3】
前記両判定が共に閾値以上の回数が基準サイクル数中に設定回数以上発生しない場合には前記筒内圧力検出器の異常と判定することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の燃焼診断方法。
【請求項4】
前記過早着火の判定後の一定時間内に、前記過早着火であると判定した割合が一定値以上に達したときに、該過早着火と判定したシリンダへの燃料を停止して休筒運転状態とすることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の燃焼診断方法。
【請求項5】
前記エンジンがガスエンジンであり、前記被駆動機が発電機からなり、該発電機の発電出力を検出して該発電機の定格発電出力との割合から前記負荷率(L)を算出することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃焼診断方法。
【請求項6】
筒内圧力検出器により検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を診断する内燃機関(エンジン)の燃焼診断装置において、
前記筒内圧力検出器からの筒内圧力検出値およびクランク角検出器からのクランク角検出値に基づいてエンジンの着火前の所定クランク角度αにおける筒内圧力の変化の標準偏差(σPα)を算出する標準偏差算出部と、
前記標準偏差(σPα)が標準偏差閾値(β)以上であるか否かを判定する標準偏差判定部と、
前記筒内圧力検出器からの筒内圧力検出値およびクランク角検出器からのクランク角検出値に基づいて基準クランク角度と上死点とにおける筒内圧力の差圧(ΔP)を算出する筒内差圧算出部と、
前記差圧(ΔP)をエンジンによって駆動される被駆動機側の負荷率(L)で除した負荷率筒内差圧(ΔP/L)が負荷率筒内差圧閾値(γ)以上であるか否かを判定する負荷率筒内差圧判定部と、
前記標準偏差判定手段によって前記標準偏差(σPα)が標準偏差閾値(β)以上と判定し、前記負荷率筒内差圧判定手段によって負荷率筒内差圧(ΔP/L)が負荷率筒内差圧閾値(γ)以上であと判定したときに、エンジンの過早着火を判定する過早着火判定部と、を備えたことを特徴とする内燃機関の燃焼診断装置。
【請求項7】
前記標準偏差判定部での標準偏差閾値(β)以上の判定、および前記負荷率筒内差圧判定部での負荷率筒内差圧閾値(γ)以上の判定をエンジンの1燃焼サイクル毎に行い、前記過早着火判定部は前記両判定が共に閾値以上の回数が基準サイクル数中に設定回数以上発生した場合に過早着火と判定することを特徴とする請求項6記載の内燃機関の燃焼診断装置。
【請求項8】
前記過早着火判定部は前記両判定が共に閾値以上の回数が基準サイクル数中に前記設定回数以上発生しない場合には前記筒内圧力検出器の異常と判定することを特徴とする請求項7記載の内燃機関の燃焼診断装置。
【請求項9】
エンジンの運転を制御する運転制御手段を備え、該運転制御手段は前記過早着火判定部からの過早着火であるとの判定結果を一定時間内に一定割合以上受けたとき該過早着火と判定したシリンダへの燃料を停止して休筒運転状態とすることを特徴とする請求項7記載の内燃機関の燃焼診断装置。
【請求項10】
前記エンジンがガスエンジンであり、前記被駆動機が発電機からなり、該発電機の発電出力を検出して該発電機の定格発電出力との割合から前記負荷率(L)を算出する負荷率算出手段を備えたことを特徴とする請求項6記載の内燃機関の燃焼診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−133284(P2009−133284A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311475(P2007−311475)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】