説明

内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関

【課題】EGRシステムを備えた内燃機関において、適切なEGR制御が行われているか否かを精度よく判定し、これにより、EGRガスが過剰となることを防いで失火を防止することができると共に、適量のEGRガスを供給して適切なEGR率を確保することで良好なNOx低減効果を得ることができる内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関を提供する。
【解決手段】EGRガス流量センサ33と吸入空気量センサ14からの検出値から算出されたEGR率推定値ηec又はEGR率目標値ηetを入力とする筒内燃焼モデルを用いて、予め設定した期間内の筒内圧力の時系列データである筒内圧力経過算出データPcc(i)を算出し、該筒内圧力経過算出データPcc(i)と、筒内圧力センサ16により検出した前記期間内の筒内圧力経過検出データPcm(i)との間の偏差量ΔPcを求め、この偏差量ΔPcが予め設定した閾ΔPc1値以上になったときに、前記EGR率目標値ηetを満足するEGR率を達成できていないと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関に関し、より詳細には、内燃機関のEGR制御において、実際に行われているEGR制御におけるEGR率とEGR率目標値との差異の有無を精度よく検出でき、しかも、差異が予め設定した閾値より大きいと判定されたときには、EGR率目標値を調整することにより、実際のEGR制御におけるEGR率をエンジン運転状態に対して要求されているEGR率と適合させるように調整できる内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関では、NOx(窒素酸化物)の発生量を低減するために、排気ガスの一部を吸気側に戻してシリンダ内の燃焼温度を下げるEGR(排気還流:排気再循環)を行うためのEGR装置を備えている。このEGRでは、十分な効果を得るためには、シリンダ内に入る新気AとEGRガスGに対するEGRガスGの割合〔G/(A+G)〕であるEGR率を適切に制御する必要がある。従来技術では、EGR通路に設けたEGRガス流量センサや、吸気通路に設けたMAFセンサ等の吸入空気量センサを用いて実際のEGR率を推定し、EGR率目標値に一致するようにEGR通路のEGR弁やEGRクーラー等を制御している。
【0003】
しかしながら、EGR通路は、排気通路が接続しており排気脈動の影響を受け易いため、EGR通路内に吸気側から排気側に流れる逆流を生じて、EGRガス流量センサの測定誤差が大きくなるという問題がある。また、EGRガス流量センサは、排気ガス中に存在する水蒸気が結露する等の原因で測定値に誤差が生じるおそれもある。EGRガス流量センサの測定値に誤差が生じると、エンジンの制御装置(ECU)がEGR率目標値を満足していると判定していても、実際には適切なEGR率でEGRが行われなくなる。実際のEGR率がEGR率目標値より低いと筒内(シリンダ内)の燃焼温度が高くなってNOx排出量が増加し、逆に実際のEGR率がEGR率目標値より高いと酸素が不足して失火等が発生することになる。
【0004】
これに関連して、吸気通路のスロットル弁の下流側に吸気圧力を検出する吸気圧力センサを設けて、エンジンの制御装置(ECU)によって、少なくともスロットル弁の開度、EGR弁の開度及びエンジンの回転数に基づいてEGR装置が正常に作動した場合の吸気圧力を推定し、検出された実際の吸気圧力と推定された吸入圧力との偏差が所定値以上となった場合にEGR装置が異常であると判定する排気還流装置の異常検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この排気還流装置の異常検出装置では、スロットル開度、EGR弁開度、エンジン回転速度からEGR装置が正常に作動した場合の吸気圧力の推定値を算出する際に、所定の制御マップから読み出しているので、この制御マップを用意する必要がある。この制御マップは、ベンチテスト等による測定から設定され、予めエンジン制御装置(ECU)のROMに予め記憶される。
【0006】
この制御マップは、実機のベンチテストでEGR装置が正常に作動し、かつ、EGR実行条件が成立している条件下で、スロットル開度、EGR弁開度、エンジン回転速度の3つのパラメータの組合せを種々変更しながら、その組合せ毎に吸気圧力を測定して設定している。吸気圧力は、内燃機関の仕様や周囲環境(大気温度、大気圧力)が異なる場合には変化するため、各条件に対応させて逐次測定する必要があり、著しく手間が掛かることになる。そのために長時間にわたるベンチテストが必要になるという問題がある。
【0007】
更に、排気ターボ過給機を備えた内燃機関では、燃料噴射量も吸気圧に影響を及ぼすので、燃料噴射量も加味して吸気圧力を推定する必要があり、更に多くの制御マップが必要となる。また、多段過給システムや可変バルブタイミングシステムなどのシステムを採用した際には、吸気圧力に影響を与えるパラメータが更に増えるため、これらのパラメータを考慮した制御マップを設定する必要があり、EGR制御に十分な精度を確保できるような制御マップを予め設定することは難しくなる。
【0008】
また、この排気還流装置の異常検出装置では、吸気圧力の算出値と検出値との乖離からEGR装置が異常であるか否かを検知するのみであり、異常であった場合には、異常判定を行うだけであり、その後のEGR制御の継続には触れていない。
【特許文献1】特開2002−227727公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、EGRシステムを備えた内燃機関において、適切なEGR制御が行われているか否かを精度よく判定し、これにより、EGRガスが過剰となることを防いで失火を防止することができると共に、適量のEGRガスを供給して適切なEGR率を確保することで良好なNOx低減効果を得ることができる内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための内燃機関のEGR制御方法は、EGRシステムを備えた内燃機関において、EGR率目標値又はEGRガス流量センサと吸入空気量センサの検出値から算出されたEGR率推定値を入力とする筒内燃焼モデルを用いて、予め設定した期間内の筒内圧力の時系列データである筒内圧力経過算出データを算出し、該筒内圧力経過算出データと、筒内圧力センサにより検出した前記期間内の筒内圧力経過検出データとの間の偏差量を求め、この偏差量が予め設定した閾値以上になったときに、前記EGR率目標値を満足するEGR率を達成できていないと判定することを特徴とする方法である。
【0011】
この方法によれば、予め設定した期間内の筒内圧力の時系列データにおける筒内圧力経過算出データと筒内圧力経過検出データとの間の偏差量を判定基準としているので精度よく実際のEGR率とEGR率目標値との間の乖離を求めることができ、精度よく適切なEGR率でEGR制御が行われているか否かを判定することができる。特に、多量のEGRでかつ早期噴射で実現される予混合圧縮着火燃焼方式で作動する内燃機関では、着火時期がEGR率の影響を大きく受けるため、EGR率をより適切に制御することが求められるので、より効果が大きい。
【0012】
上記の内燃機関のEGR制御方法において、前記筒内圧力経過算出データは、前記EGR率目標値又は前記EGR率推定値、燃料噴射時期の制御量、燃料噴射量の制御量、燃料噴射圧力の制御量、吸気圧力の測定値、吸気温度の測定値、エンジン回転数の測定値又は制御値を基に前記筒内燃焼モデルで算出される。
【0013】
この筒内燃焼モデルは、ディーゼルエンジンでは、噴霧燃焼予測モデルとも呼ばれ、エンジン回転数、EGR率、燃料噴射時期、燃料噴射量、燃料噴射圧力、吸気圧力、吸気温度を入力として、筒内燃焼状態、排気エミッション、エンジントルクなどを予測するもので、燃料噴射で発生する噴霧を幾つかの領域に分割して各領域で燃料の蒸発、燃焼などを計算することで、筒内における噴霧燃焼を短時間で模擬(シミュレーション)することができる。この筒内燃焼モデルを用いることにより、周囲環境(大気圧、大気温度等)の変化や異なるエンジン形状に対してもその都度制御マップなどを作成する必要がなくなる。
【0014】
上記の内燃機関のEGR制御方法において、前記筒内圧力経過算出データから着火時期算出値を算出し、前記筒内圧力経過検出データから求められた着火時期検出値又は着火センサから検出された着火時期検出値と比較し、前記着火時期算出値が前記着火時期検出値よりも早い場合は前記EGR率目標値を減少するように補正し、前記着火時期算出値が前記着火時期検出値よりも遅い場合は前記EGR率目標値を増加するように補正する。
【0015】
この判定と補正では、着火時期算出値が着火時期検出値よりも早い場合は、実際のEGR率がEGR率目標値よりも大きく、EGRガスが過剰に筒内に流入しており失火の虞があるので、EGR率目標値を減少し、実際のEGR率を下げるようにする。また、着火時期算出値が着火時期検出値よりも遅い場合は、実際のEGR率がEGR率目標値より小さく、適正なEGR率を確保できておらず、NOx排出量の増加につながるため、EGR率目標値が増加する。これにより実際のEGR率が必要とされるEGR率になるようにする。
【0016】
また、上記の目的と達成するための内燃機関は、EGRシステムとEGR制御手段を備えた内燃機関において、前記EGR制御手段が、上記の内燃機関のEGR制御方法を実施するように構成される。この構成によれば、予め設定した期間内の筒内圧力の時系列データにおける筒内圧力経過算出データと筒内圧力経過検出データの間の偏差量を判定基準としているので、精度よく実際のEGR率とEGR率目標値との間の乖離を求めることができ、より正確に適切なEGR率でEGR制御が行われているか否かを判定することができる。また、実際のEGR率とEGR率目標値との間が乖離していた場合でも、実際のEGR率が必要とされるEGR率になるようにEGR制御することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関によれば、予め設定した期間内の筒内圧力の時系列データにおける筒内圧力経過算出データと筒内圧力経過検出データとの間の偏差量を判定基準としているので精度よく実際のEGR率とEGR率目標値との間の乖離を求めることができ、精度よく適切なEGR率でEGR制御が行われているか否かを判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態のエンジンについて、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態のエンジン(内燃機関)1の構成を示す。
【0019】
このエンジン1には、吸気通路2と排気通路3が設けられており、エンジン1の燃料噴射機構4には、燃料噴射ノズル5とコモンレール6とが備えられ、シリンダ7内の燃料噴射を行っている。また、ターボチャージャ8を備え、そのタービン9が排気通路3に配置され、タービン9に駆動されるコンプレッサ10が吸気通路2に配置されている。
【0020】
更に、排気スロットル弁11が排気通路3に、吸気スロットル弁12が吸気通路2に配置されている。また、排気ガス処理装置13がタービン9の下流側の排気通路3に、吸入空気量センサ(エアクリーナー)14がコンプレッサ10の上流側の吸気通路2に配置されている。そして、EGRシステム31が、排気通路3と吸気通路2とを接続するEGR通路32とEGR弁33とEGRクーラー34で構成されている。このエンジン1を制御するために、ECU(エンジンコントロールユニット)と呼ばれる制御装置15が設けられ、更に、筒内圧力センサ16が設けられている。この筒内圧力センサ16は、エンジン1の気筒(例えば4気筒)に最低一つ搭載される。また、吸気マニホールド1aには、吸気圧力センサ17と吸気温度センサ18が設けられる。
【0021】
次に、本発明の内燃機関のEGR制御方法について説明する。このEGR制御方法は、EGRシステム31を備えたエンジン1において、EGRガス流量センサ35の検出値Vemと吸入空気量センサ14の検出値Vamから算出されたEGR率推定値ηecを入力とする筒内燃焼モデルを用いて、クランク角度に関して予め設定した期間内における筒内圧力の時系列データである筒内圧力経過算出データPcc(i)を算出する。ここで,iは正数で、データ個数をIとすると、i=1,2,3.....Iである。なお、EGR率推定値ηecとEGR率目標値ηetが等しいとしている場合の計算であるので、EGR率推定値ηecの代わりに、EGR率目標値ηetを入力としてもよい。
【0022】
この筒内圧力経過算出データPcc(i)と、筒内圧力センサ18により検出した期間Rac内の筒内圧力経過検出データPcm(i)との間の偏差量ΔPc(=Σ|Pcc(i)−Pcm(i)|)を求め、この偏差量ΔPcが予め設定した閾値ΔPc1以上になったときに、EGR率目標値ηetを満足するEGR率ηeを達成できていないと判定する。なお、ここでは、両者の差の絶対値の積算値を採用したが、これに限定されず、偏差を適切に表現できる量であればよく、例えば、両者の差 (偏差) の2乗を平均して、その平均値の平方根をとった標準偏差σ等を用いてもよい。
【0023】
このEGR制御方法は、例えば、図2に示すような判定用の制御フローに従って判定される。この図2の制御フローはエンジンの運転開始と共に、上級の制御フローからEGR制御と並行して呼ばれて実行される。この図2の制御フローがスタートすると、ステップS11で機関運転状態を読み込む。
【0024】
このステップS11で読み込む機関運転状態を示すデータとしては、エンジンの回転数、負荷などが主となり、エンジン冷却水温度等のエンジン運転に必要な量も読み込まれる。また、燃料噴射装置4等の燃料噴射時期の制御量Ftt、燃料噴射量の制御量Fvt、燃料噴射圧力の制御量Fpt等、各制御装置の制御量が算出され、また、EGR制御量として、EGR率目標値ηetが算出される。更に、EGRガス流量センサ35からの検出値Vemと吸入空気量センサ14からの検出値VamからEGR率推定値ηecを算出する。
【0025】
次のステップS12では、EGR率推定値ηecがEGR率目標値ηetと等しいか否かを判定する。なお、実際には、この判定では、厳密な意味での一致ではなく、EGR率推定値ηecがEGR率目標値ηetの制御の許容範囲内にあるか否かを判定する。つまり、EGR率推定値ηecがEGR率目標値ηetと略等しいか否かを判定する。これにより、EGR率推定値ηecがEGR率目標値ηetに追従し終わったか否かを判定する。両者が等しくなく、追従し終えていない場合(NO)は、ステップS11を繰り返して、EGR率推定値ηecがEGR率目標値ηetになるまで待つ。
【0026】
ステップS12の判定で、EGR率推定値ηecがEGR率目標値ηetに等しいと判定された場合(YES)には、ステップS13とステップS14を並行して実施する。ステップS13では筒内圧力センサ18による筒内圧力経過検出データPcm(i)を算出する。一方、ステップS14では、筒内燃焼モデルから筒内圧力経過算出データPcc(i)を算出する。この筒内圧力経過検出データPcm(i)と筒内圧力経過算出データPcc(i)の一例を図3に示す。
【0027】
この筒内燃焼モデルでは、筒内圧力経過算出データPcc(i)を、EGR率目標値ηet、燃料噴射時期の制御量Ftt、燃料噴射量の制御量Fvt、燃料噴射圧力の制御量Fpt、吸気圧力の測定値Pim、吸気温度の測定値Tim、エンジン回転数の測定値Nem又は制御値Necを基に算出する。なお、これらの基となる値は、制御装置15で算定される。
【0028】
この筒内燃焼モデルは、ディーゼルエンジンでは、噴霧燃焼予測モデルとも呼ばれ、エンジン回転数Ne、EGR率ηe、燃料噴射時期Ft、燃料噴射量Fv、燃料噴射圧力Fp、吸気圧力Pi、吸気温度Tiを入力として、筒内燃焼状態、排気エミッション、エンジントルクなどを予測するものであり、燃料噴射で発生する噴霧を幾つかの領域に分割して各領域で燃料の蒸発、燃焼などを計算することで、筒内における噴霧燃焼を短時間で模擬(シミュレーション)することができる。この筒内燃焼モデルを用いることにより、周囲環境(大気圧、大気温度等)の変化や異なるエンジン形状に対してもその都度制御マップなどを作成する必要がなくなる。
【0029】
このステップS13とステップS14の算出後は、ステップS15に行き、両者の偏差量ΔPcをΔPc=Σ|Pcc(i)−Pcm(i)|で算出する。このΣはi=1〜Iで積算される。次のステップS16では、この偏差量ΔPcと閾値ΔPc1との比較を行う。この比較で、偏差量ΔPcが閾値ΔPc1以下の場合(YES)は、EGR率推定値ηecは実際のEGR率ηeに近いとして、リターンする。また、ステップS16の比較で、偏差量ΔPcが閾値ΔPc1より大きい場合(NO)は、EGR率推定値ηecは実際のEGR率ηeから離れているとして、ステップS17に行く。
【0030】
ステップS17では、筒内圧力経過算出データPcc(i)から、着火時期算出値Tfcを算出し、筒内圧力経過検出データPcm(i)から着火時期検出値Tfmを算出する。なお、着火センサを備えている場合には、この着火センサから検出された着火時期を着火時期検出値Tfmとする。この着火時期は筒内圧力が急激に変化するので容易に算出及び検出できる。
【0031】
次のステップS18では、着火時期算出値Tfcと着火時期検出値Tfmとを比較し、着火時期算出値Tfcが着火時期検出値Tfmよりも早い場合はEGR率の目標制御量であるEGR率目標値ηetが減少するように調整し、着火時期算出値Tfcが着火時期検出値Tfmよりも遅い場合はEGR率目標値ηetが増加するように調整する。この調整を行った後、リターンする。この着火時期算出値Tfcが着火時期検出値Tfmよりも早い場合を図4に示し、着火時期算出値Tfcが着火時期検出値Tfmよりも遅い場合を図5に示す。
【0032】
このステップS18の判定と調整では、着火時期算出値Tfcが着火時期検出値Tfmよりも早い場合は実際のEGR率が大きく、EGRガスが過剰に筒内に流入しており失火の虞があるので、EGR率の目標制御量であるEGR率目標値ηetを減少し、実際のEGR率を下げるようにする。また、着火時期算出値Tfcが着火時期検出値Tfmよりも遅い場合実際のEGR率が小さく、適正なEGR率を確保できておらず、NOx排出量の増加につながるため、EGR率目標値ηetが増加するように補正する。
【0033】
図2の制御フローは、リターンして上級の制御フローに戻った後、この上級の制御フローからEGR制御と並行して繰り返し呼ばれて実行され、エンジンの運転の終了と共に図2の制御フローも終了する。なお、EGR制御を実行していない場合には、図2の制御フローは使用できないので、図2の制御フローの呼び出しがなくなり、図2の制御フローの実行は中断する。
【0034】
上記の内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関(エンジン)によれば、予め設定した期間内の筒内圧力の時系列データである筒内圧力経過算出データと筒内圧力経過検出データの間の偏差量を判定基準としているので、精度よく実際のEGR率とEGR率目標値との間の乖離を求めることができ、これにより、実際に適切なEGR率でEGR制御が行われているか否かを精度よく判定することができる。
【0035】
特に、多量のEGRでかつ早期噴射で実現される予混合圧縮着火燃焼方式で作動する内燃機関では、着火時期がEGR率の影響を大きく受けるため、EGR率をより適切に制御することが求められるので、より効果が大きい。
【0036】
また、この内燃機関のEGR制御方法と内燃機関によれば、筒内圧力経過の算出データPcc(i)と検出データPcm(i)を判定基準としているので、EGRシステム31の各装置33、34、35に異常がある場合でも、筒内圧力経過の算出データPcc(i)と検出データPcm(i)とから求めた着火時期の算出値Tfcと検出値Tfmを比較して、適切なEGR率が確保できて適切な筒内燃焼を得ることができるように、EGR弁34等を制御できる。これにより、EGR装置33、34、35の異常時においても失火防止やNOx低減効果を得ることができる。
【0037】
更に、この内燃機関のEGR制御方法と内燃機関では、エンジンシステムの違いや周囲環境の違い等の影響も考慮した筒内燃焼モデルにより算出される値を判定基準とすればよいため、これらの影響を入れたデータ数が多い制御用のマップデータを有している必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態のエンジンの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における内燃機関のEGR制御方法の制御フローの一例を示す図である。
【図3】筒内圧力経過算出データと筒内圧力経過検出データの関係の一例を示す図である。
【図4】着火時期算出値が着火時期検出値よりも早い場合の本筒内圧力経過算出データと筒内圧力経過検出データの関係の一例を示す図である。
【図5】着火時期算出値が着火時期検出値よりも遅い場合の本筒内圧力経過算出データと筒内圧力経過検出データの関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
14 吸入空気量センサ
16 筒内圧力センサ
17 吸気圧センサ
18 吸気温度センサ
35 EGRガス流量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGRシステムを備えた内燃機関において、EGR率目標値又はEGRガス流量センサと吸入空気量センサの検出値から算出されたEGR率推定値を入力とする筒内燃焼モデルを用いて、予め設定した期間内の筒内圧力の時系列データである筒内圧力経過算出データを算出し、該筒内圧力経過算出データと、筒内圧力センサにより検出した前記期間内の筒内圧力経過検出データとの間の偏差量を求め、この偏差量が予め設定した閾値以上になったときに、前記EGR率目標値を満足するEGR率を達成できていないと判定することを特徴とする内燃機関のEGR制御方法。
【請求項2】
前記筒内圧力経過算出データは、前記EGR率目標値又は前記EGR率推定値、燃料噴射時期の制御量、燃料噴射量の制御量、燃料噴射圧力の制御量、吸気圧力の測定値、吸気温度の測定値を基に前記筒内燃焼モデルで算出されることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のEGR制御方法。
【請求項3】
前記筒内圧力経過算出データから着火時期算出値を算出し、前記筒内圧力経過検出データから求められた着火時期検出値又は着火センサから検出された着火時期検出値と比較し、前記着火時期算出値が前記着火時期検出値よりも早い場合は前記EGR率目標値を減少するように補正し、前記着火時期算出値が前記着火時期検出値よりも遅い場合は前記EGR率目標値を増加するように補正することを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関のEGR制御方法。
【請求項4】
EGRシステムとEGR制御手段を備えた内燃機関において、前記EGR制御手段が、請求項1、2又は3のいずれかに記載の内燃機関のEGR制御方法を実施することを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−106734(P2010−106734A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278906(P2008−278906)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】