説明

強磁性材料

【課題】磁化イオン濃度を高めることができる強磁性半導体材料の提供。
【解決手段】II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料を主成分とし、遷移金属(主成分をIV族とした場合Mnを除く)、または、希土類元素の少なくとも一方を添加元素として含み、アモルファスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強磁性材料に関し、特に室温以上で強磁性を維持しうる半導体強磁性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スピントロニクス(電子のスピンとエレクトロニクスを組み合わせた造語)と称される分野が注目を集めている。このスピントロニクスとは、電子が有する電荷とスピンという2つの性質を利用し、まったく新しい機能を持つ素材や素子を開発する研究分野である。
【0003】
そして、電子の流れ(電荷の流れ)を制御する半導体素子に、スピンを制御しうる強磁性体を組み合わせた素子や、半導体自体が強磁性を備える半導体材料などが研究されている。
【0004】
例えば、スピントロニクス分野のデバイスとして、トンネル磁気抵抗効果を利用した、ランダムアクセスメモリ(MRAM)が注目されている。
【0005】
このトンネル磁気抵抗効果とは、極く薄い絶縁膜(厚さ10nm程度)を強磁性膜で挟んだ3層構造のスピントンネル接合と称される部分に生じる効果である。つまり、前記二つの強磁性膜のそれぞれの電子のスピンの方向を揃えると、前記絶縁膜を通過する電子の量(単位時間当たり)を増加させることができる。換言すればスピントンネル接合部分の電気抵抗が低くなる。一方、スピンの方向を逆にすると、絶縁膜を通過できる電子の量(単位時間当たり)が少なくなり、スピントンネル接合部分の電気抵抗が高くなる。
【0006】
そして、当該効果を発揮できるトンネル磁気抵抗素子をマトリクス状に備えるランダムアクセスメモリは、トンネル磁気抵抗素子の二つの強磁性膜のスピンの方向を任意に変更し、例えば、同方向にスピンがそろった場合を0、逆方向とした場合を1とすることで、不揮発性でありながら高速な読み書きが可能となっている。
【0007】
従来、前記強磁性体として、アモルファス磁性合金など金属からなる強磁性体の適用が検討されているが、微細加工や高集積化などの問題を有している。そこで、半導体の集積技術を応用しMRAMの高集積化を図るため、トンネル磁気抵抗素子に用いる強磁性体として強磁性半導体を用いることが研究されている。
【0008】
例えば、前記強磁性を示す半導体材料としては、Mnと酸素とを不純物として含有させたGaNの結晶や、MnとSiとを不純物として含有させたGaN結晶が開示されている(例えば特許文献1)。これらのGaN結晶は、常温で強磁性を示す半導体結晶として提案されている。
【特許文献1】特開2003−137698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、常温で強磁性を示す半導体結晶であっても、デバイスとして使用される際の信頼性や安定性を確保するためには、室温以上の強磁性転移温度(キュリー温度)を実現する材料が必要となる。
【0010】
さらに、強磁性転移温度を向上させ、良好な強磁性を得るためには、結晶中に添加するMnなどの添加元素である磁性イオンの濃度とキャリア濃度を増加させることが必要となる。しかし、結晶中に高濃度の磁性イオンをドープすると、半導体結晶が相分離すると共に、半導体結晶に様々な欠陥が生じる不具合が多発する。そしてこれらの不具合は、例えば、半導体結晶の電気、光学、磁気特性に悪影響を与え、所望する性能の素子を得ることが困難となる。
【0011】
さらに、結晶を成長させるためには基板を高温にするのが好ましく、通常700度程度に維持しながら長時間をかけて成膜しなければならないため、多層膜を形成する場合に、他の膜に悪影響を及ぼす可能性があるばかりか、半導体素子を製造する際の経済性が悪くなる。
【0012】
本発明は、半導体本来の特性を保持したまま、高濃度に磁性イオンを添加でき、高い強磁性転移温度を実現しうる強磁性材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明にかかる強磁性材料は、II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料を主成分とし、遷移金属(主成分をIV族とした場合Mnを除く)、または、希土類元素の少なくとも一方を添加元素として含み、アモルファスであることを特徴とする。
【0014】
当該強磁性材料は、磁性イオンとなる遷移金属や希土類元素を高濃度に至るまで添加することが可能な材料であり、高い磁性転移温度や、低い成長温度を実現することが可能な材料である。
【0015】
なお、主成分をIV族とした場合に遷移金属からMnを除外するのは、添加元素にMnを採用しても所望の性能が得られないからである。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明にかかる強磁性材料の製造方法は、基板を真空中に配置し、前記基板を非加熱状態、または、500度未満に加熱し、II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料の各元素と、遷移金属(主成分をIV族とした場合Mnを除く)、または、希土類元素の少なくとも一方の添加元素とをアモルファス状態で前記基板上に成長させることを特徴とする。
【0017】
当該方法を採用することにより、磁性イオンとしての遷移金属や希土類元素を高濃度に添加した強磁性のアモルファス半導体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明にかかる強磁性材料の実施の形態を説明する。
【0019】
本実施形態にかかる強磁性材料は、II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料を主成分とし、磁性イオンとして遷移金属、または、希土類元素の少なくとも一方を添加元素として含み、結晶性は、アモルファスである。
【0020】
II−VI族半導体とは、II族元素(例えばZn、Cd)の少なくともいずれかと、VI族元素(O、S、Se、Te、Po)の少なくともいずれかとの組み合わせからなる化合物半導体である。具体的には、ZnTe、ZnO、CdTeを例示することができる。
【0021】
IV族半導体とは、IV族元素(例えばSi、Ge)からなる半導体である。
【0022】
III−V族半導体とは、III族元素(例えばAl、Ga、In)の少なくともいずれかと、V族元素(N、P、As、Sb、Bi)の少なくともいずれかとの組み合わせからなる化合物半導体である。具体的には、GaN、AlN、AlInN、AlGaN、GaAsを例示することができる。
【0023】
遷移金属(主成分をIV族とした場合Mnを除く)とは、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Cdを例示することができる。また、前記半導体に添加する添加元素としては、前記遷移金属群の中からいずれか一つ、または、複数の元素の組み合わせとして選定すればよい。特に、良好な強磁性を示す元素としては、理論上d軌道に7個の電子を保持する遷移金属を挙示することができる。当該遷移金属を添加すると強磁性材料は、室温にて強磁性を示す傾向が強い。具体的にはCr、V、Feを例示することができる。
【0024】
希土類元素とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを例示することができる。前記半導体に添加する添加元素としては、前記希土類元素群のなかから、少なくとも一つの元素を選定してもよい。また、複数の元素を組み合わせて選定しても良い。
【0025】
さらには、上記遷移金属と希土類元素を添加元素として混在させても構わない。
【0026】
現在の所、遷移金属の中では、VまたはCrをIII−V族、II−VI族、IV族の半導体材料に添加すると、強磁性状態が最も安定であると考えられる。また、実験的には、GaCrNは、室温において強い磁性を観察している。
【0027】
また、希土類元素をIII−V族、II−VI族、IV族の半導体材料に添加すると、ほぼ全元素について強磁性を示すと考えられる。実験的には、Eu、Gd、Tb、DyをGaNに添加することによって、室温において強磁性を観察している。
【0028】
なお、元素の組み合わせによっては、強磁性ではなく、反磁性、常磁性、反強磁性になる場合も考えられるが、強磁性を示さない元素の組み合わせは本発明から除外するものとする。また、強磁性を示さない元素の組み合わせの存在は、本発明を否定するものではない。
【0029】
また、添加元素の添加量は、特に限定されるものではないが、半導体材料に対する添加元素の添加の比率が高いほど強磁性転移温度が高くなる傾向が認められている。特に、強磁性材料をアモルファスとすることにより前記半導体材料の総原子数に対し10%以上の原子数の添加元素を添加でき、半導体自体の特性を損ねる事もない。これは、良好な半導体結晶を維持したまま添加元素を添加できる限界(約9%)よりも高い添加量である。
【0030】
以上により、本発明にかかる強磁性材料は、半導体の特性を維持したまま、磁性イオンの濃度を幅広く設定することができ、特に、高濃度の磁性イオンを保持して良好な強磁性材料を得ることが可能となる。
【0031】
本発明にかかる強磁性材料の状態は、アモルファス(非晶質)である。このアモルファスとは、結晶のような長距離秩序はないが、短距離秩序はある状態となっていることを意味している。このアモルファスか否かの判断は、例えば、強磁性材料に対し反射高速電子線回折(RHEED:Reflection High Energy Electron Diffraction)行った結果、RHEED像に回折によるパターンが現れない場合(図1参照)は当該磁性材料はアモルファスであると考えられる。なお、図1はアモルファス状態のGaGdN(強磁性材料)のRHEED像である。
【0032】
本実施形態にかかる強磁性材料は、室温で強磁性を示すと考えられる、特に、ZnVO,ZnCrO、GaVN,GaCrN、GaCrAsなどは、室温強磁性を有することを理論計算により確認している。さらに、GaGdN、GaCrN、InCrN、AlGdN、GaMnNは、室温強磁性を有することを実験により確認している。室温で強磁性を示せば、当該強磁性材料を用いて作成された素子を日常的に使用することが可能となるからである。
【0033】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「室温」の語は0℃以上、40℃以下の範囲内に存在する温度を意味するものとして使用している。
【0034】
さらに、本実施形態にかかる強磁性材料の強磁性転移温度は500℃以上を示す。GaMnN、GaCrNは、強磁性転移温度が500℃以上であることを計算により確認している。さらに、GaGdN、GaCrN、AlGdN、InCrN、GaDyNは、強磁性転移温度が700℃以上であることを実験により確認している。
【0035】
次に、アモルファスの強磁性材料としてのGaGdN膜の製造方法を説明する。
【0036】
図2は、アモルファスのGaGdN膜を製造する真空成膜装置を模式的に示す図である。
【0037】
同図に示す真空成膜装置100は、MBE(molecular beam epitaxy)装置とほぼ同じ装置であるが、本実施の形態ではエピタキシャル成長を行うわけではない。
【0038】
真空成膜装置100は、超高真空中で強磁性材料を構成する元素を別々に放出させ、基板上に所望の元素比の強磁性材料を作成する装置である。
【0039】
真空成膜装置100は、チャンバ101と、真空系102と、ヒータ103と、蒸発源(クヌーセンセル)104と、ガス導入路105と、プラズマ源106とを備えている。
【0040】
チャンバ101は、チャンバ101の内部を超高真空に維持することができる隔壁である。
【0041】
真空系102は、チャンバ101内のガスを外部に排出する機構であって、例えばターボ分子ポンプやクライオスタットなどが組み合わされて構成されている。
【0042】
ヒータ103は、基板200を加熱する加熱源であり、基板を非加熱状態から900℃程度まで任意の温度に加熱し、維持することが可能である。
【0043】
蒸発源104は、強磁性材料を構成する元素のうち、固体(本実施形態の場合、金属状態のGaとGd)を加熱し蒸発させて、GaやGd元素を分子線として基板200表面に到達させるものである。本実施形態にかかる真空成膜装置100は当該蒸発源104を3個備えているため、異なる3種類の元素(金属元素)の分子線を放出させることが可能である。なお、本実施形態の場合、蒸発源104の一つは使用しない。
【0044】
ガス導入路105は、強磁性材料を構成する元素のうち、気体(本実施形態の場合N2)をチャンバ101内に導入する事ができるものである。ガス導入路105は、ガスボンベなどのガス供給源から供給されてきたガスをマスフローコントローラ107などによりガス流量を正確に調整されて導入することができるものとなっている。
【0045】
プラズマ源106は、ガス導入路105を囲むコイルであり、当該プラズマ源106は、図示しない高周波発生装置に接続されている。そして、ガス導入路105内に流通するガスに高周波を作用させて、前記ガスをプラズマ化させる事が可能となる。本実施形態の場合、N2ガスをプラズマ化させ、基板200に到達させる。
【0046】
基板200は、強磁性材料を成膜するための基となる板であり、本実施形態では板状のサファイヤ(結晶)を使用している。なお、この基板はシリコンウエハ(結晶、アモルファス)や、ガラスなどでもよく、特に限定されるものではない。
【0047】
次に、上記真空成膜装置100を使用し、サファイヤ基板200の表面にGaGdNを成膜する方法を説明する。
【0048】
まず、基板200を所定の場所に保持した後、チャンバ101内部を排気する。なお、ロードロックを用い、高真空状態のチャンバ101内に基板200を搬入しても構わない。
【0049】
次に、蒸発源104のシャッターを開放し、Gaの分子線とGdの分子線をそれぞれ放出する。また、同時にガス導入路105から窒素ガスを導入し当該ガスをプラズマ源106によりプラズマ化させて基板200に照射する。
【0050】
ここで、成膜された際のGa原子の数とN原子の数の総数に対しGdの総数が約6%となるようにGaを蒸発させる蒸発源104bの加熱温度を調整し、Gdを蒸発させる蒸発源104cの温度を調整した。
【0051】
前記強磁性材料の成膜中は、ヒータ300に電力を供給し、基板200が300℃となるようにコントロールしている。
【0052】
当該条件によって得られる強磁性材料としてのGaGdNの成膜レートは200〜300nm/hとなるため、所望の膜厚となるまで成膜を続ける。また、成膜する目標膜厚は、200nmとした。
【0053】
また、GaGdN成膜中においては、成膜されつつある膜に対し所定の間隔でRHEEDを実行し、逐次RHEED像を確認した。しかし、RHEED像には回折によるパターンは確認されず、成膜されているGaGdNはアモルファス状態であることを確認した。
【0054】
以上条件による成膜を、三つの基板200に対し、Gaを蒸発させるための温度、すなわち蒸発源104bの加熱温度を変化させて実施した。具体的に蒸発源104bの温度を660℃、700℃、750℃として、それぞれ成膜を行った。
【0055】
また、蛍光X線法を用いて得られた強磁性材料のGdの濃度を測定した。その結果Ga原子数とN原子数との総和に対し、Gdの濃度は、約12.5%(蒸発源:660℃)、約6.5%(蒸発源:700℃)、約3%(蒸発源:750℃)であった。
【0056】
また、得られた強磁性材料は均質で、Gd、GdNなどの析出などは認められなかった。
【0057】
また、前記強磁性材料の強磁性転移温度を計測したところ、700℃〜800℃であった。
【0058】
図3は、本実施形態にかかる強磁性材料の磁化曲線を示すグラフである。
【0059】
同図に示す磁化曲線は、上記成膜により得られたGaGdN膜に対し、室温(約27℃)で測定を行った結果である。同図から解るように、いずれのGaGdN膜も室温で強磁性を示した。また、Gdの濃度が高いほど飽和磁化が増加することが認められた。
【0060】
一方、本実施形態の優位性を検証するため、以下の成膜を行い、性能を検証した。
【0061】
基板200の温度を700℃に加熱して維持し、それ以外を上記とほぼ同条件でGaGdN膜の成膜を行った。
【0062】
Gaを備える蒸発源104bの温度が660℃、及び、700℃の場合は、GdNが析出し、GaGdN中のGdの濃度は3%未満であった。またRHEED像には、回折パターンが認められた。
【0063】
また、蒸発源104bの温度が660℃、700℃、750℃いずれの場合も、安定な磁化曲線を得ることができなかった。
【0064】
以上のように、本実施形態にかかるGaGdNは、アモルファスであり、半導体材料であるGaNに希土類元素であるGdを添加し、しかも、結晶のGaNでは添加できない比率(5%以上)を実現している。また、強磁性転移温度は室温よりもかなり高く、飽和磁化も比較的高い。
【0065】
なお、上記製造方法の説明で製造し、性能を検証した強磁性材料はGaGdNであるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばIII−V族の半導体材料に遷移金属を添加したGaCrNも、上記と同様の性能を示し、Crの添加量も5%以上を実現することができ、13%程度まで任意に調整可能である。
【0066】
以上のように、本発明にかかる強磁性材料は、結晶構造を持つものに比べて、磁性が強く、添加元素の添加量を幅広く調整することができるため、得られる強磁性材料の磁性も幅広く設定することができる。従って、スピントロニクス(spintronics, spin+electronics)の分野へ幅広く適用することが可能である。例えば、GMR(Giant Maneto Resistance)素子などである。
【0067】
また、強磁性転移温度が高いため、本磁性材料を用いた素子は、室温で安定した性能を発揮できるばかりか、自動車や、航空、宇宙の分野など室温以上の高温での使用にも耐えうるものと考えられる。特に、GaNやAlNのワイドギャップ窒化物半導体を主成分とした場合、強磁性転移温度を高くすることができる。
【0068】
また、結晶を成長させる場合に比べて低温で製造(成膜)することができるため、素子を製造する際に他の材料に温度的な負荷をかけることを低減することが可能となる。また、製造に当たっての経済性も高い(エネルギーコストの低減など)。
【0069】
さらに、強磁性材料を構成する基材が半導体であるため、従来の半導体素子の製造工程で用いられる手法や薬剤を容易に流用することが可能である。従って、本発明にかかる強磁性材料を使用した素子の微細化や集積化が容易である。例えば、金属からなる強磁性材料はエッチングが困難な場合が多いが、本発明にかかる強磁性材料は、従来の技術でエッチングすることが可能である。
【0070】
なお、主成分は化合物半導体が好ましい。化合物であれば元素の組み合わせにより種々のバンドギャップを設定することが可能となるからである。
【0071】
図4は、本発明にかかる強磁性材料の適用例であるトンネル磁気抵抗素子を模式的に示す図である。
【0072】
同図に示すように、本発明にかかるトンネル磁気抵抗素子300は、第1強磁性電極301と、絶縁障壁302と、第2強磁性電極303とを備えている。なお、同図に示す電球311と、電池312と、導線313とは、トンネル磁気抵抗素子300の原理を説明するために記載したものであり、トンネル磁気抵抗素子300を構成する要素ではない。
【0073】
トンネル磁気抵抗素子300は、第1強磁性電極301の電子のスピンの方向と、第2強磁性電極303の電子のスピンの方向との相対的な関係により、電気抵抗が極端に異なる素子である。
【0074】
例えば、図4(a)に示すように、スピンの方向(図中矢印)が第1強磁性電極301と第2強磁性電極303とで同じであれば、トンネル磁気抵抗素子300の電気抵抗が小さい状態となる。従って、仮想的に電池312によりトンネル磁気抵抗素子300に電圧をかければ、所定値以上の電流が導線313を流れる。なお、電球311が点灯しているのは、所定値以上の電流が流れていることを象徴している。
【0075】
一方、図4(b)に示すように、スピンの方向(図中矢印)が第1強磁性電極301と第2強磁性電極303とで逆方向であれば、トンネル磁気抵抗素子300の電気抵抗が大きい状態となる。従って、仮想的に電池312によりトンネル磁気抵抗素子300に電圧をかけたとしても、所定値以上の電流が導線313を流れることはない。なお、電球311が消灯しているのは、所定値以上の電流が流れていないことを象徴している。
【0076】
第1強磁性電極301は、強磁性を示す半導体からなり、II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料を主成分とし、遷移金属、または、希土類元素の少なくとも一方を添加元素として含み、アモルファスである。
【0077】
絶縁障壁302は、トンネル障壁として機能するものであり、高抵抗の薄膜である。当該絶縁障壁302の材質は、例えば、AlN、GaN、MgO、AlOxなどというものがある。
【0078】
第2強磁性電極303は、第1強磁性電極301と同じ材質でも良く、また、異なる材質でも構わない。
【0079】
以上のトンネル磁気抵抗素子300によれば、強磁性電極の高い残留磁束密度に基づき高い磁気抵抗比率を実現することができる。
【0080】
図5は、本実施形態にかかるMRAM(Magnetic Random Access Memory)を模式的に示す図である。
【0081】
同図に示すように、本実施形態にかかるMRAM400は、一方向に並んだワード線401と、ワード線401と垂直方向に並んだビット線402と、前記ワード線401とビット線402との交差部を接続するトンネル磁気抵抗素子300とを備えている。
【0082】
そして、トンネル磁気抵抗素子300の強磁性電極の一つを記録層として機能させ、他の強磁性電極を固定層として機能させる。固定層として機能する強磁性体のスピンの方向は固定し、前記記録層として機能する強磁性体のスピンの方向を任意に変更することで、MRAM400は、0/1の情報を保持することができるものとなっている。なお、実際にMRAMに備えられるトンネル磁気抵抗素子300は、強磁性電極と絶縁障壁との間にいくつかの補助的な層が含まれている。
【0083】
図6は、本実施形態にかかる半導体レーザ発振素子を模式的に示す図である。
【0084】
同図に示すように、半導体レーザ発振素子500は、正孔の注入源であるpクラッド層501と、電子の注入源であるnクラッド層503と、pクラッド層501とnクラッド層503との間に配置されpクラッド層501から正孔が注入され、nクラッド層503から電子が注入される活性層502と、p電極504と、n電極505とを備える。
【0085】
活性層502は、II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料を主成分とし、遷移金属、または、希土類元素の少なくとも一方を添加元素として含み、アモルファスであり、強磁性を有する。
【0086】
特に、活性層502を構成する半導体材料としては、発光性能に鑑みIII−V族の半導体材料を選択するのが好ましく、中でも、AlN、GaN、InN、InGaN、AlGaNおよびInAlGaNが発光性能に優れる。さらに、これらの半導体は、遷移金属や希土類元素を添加することで発光性能を高い状態で維持したまま、優れた強磁性が発現される。
【0087】
以上の半導体レーザ発振素子によれば、直線偏光を円偏光に変換する手段を用いる必要がなく、直接円偏光レーザを発振することが可能となる。しかも、活性層502を構成する強磁性体の磁束密度が高いため、より優れた円偏光のレーザを発振することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、強磁性材料を用いる分野に適用でき、特に、スピントロニクスと称される電子のスピンを利用した素子の分野に適用できる
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】RHEED像である。
【図2】真空成膜装置を示す概念図である。
【図3】本実施形態にかかる強磁性材料の磁化曲線を示すグラフである。
【図4】トンネル磁気抵抗素子の原理を模式的に示す図である。
【図5】MRAMの構造を模式的に示す図である。
【図6】レーザ発振素子の構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0090】
100 真空成膜装置
103 ヒータ
104 蒸発源
105 ガス導入路
106 プラズマ源
300 トンネル磁気抵抗素子
301 第1強磁性電極
302 絶縁障壁
303 第2強磁性電極
400 MRAM
401 ワード線
402 ビット線
500 半導体レーザ発振素子
501 pクラッド層
502 活性層
503 nクラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料を主成分とし、
遷移金属(主成分をIV族とした場合Mnを除く)、または、希土類元素の少なくとも一方を添加元素として含み、
アモルファスである
ことを特徴とする強磁性材料。
【請求項2】
前記強磁性材料は、室温で強磁性を示す請求項1に記載の強磁性材料。
【請求項3】
前記強磁性材料は、強磁性転移温度が500℃以上である請求項1に記載の強磁性材料。
【請求項4】
前記II族、または、III族の原子数に対し、添加元素の原子数が5%以上、または、IV族の原子数に対し、添加元素の原子数が2.5%以上である請求項1に記載の強磁性材料。
【請求項5】
前記半導体材料は、窒化物半導体である請求項1に記載の強磁性材料。
【請求項6】
基板を真空中に配置し、
前記基板を非加熱状態、または、500度未満に加熱し、
II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料の各元素と、遷移金属(主成分をIV族とした場合Mnを除く)、または、希土類元素の少なくとも一方の添加元素とをアモルファス状態で前記基板上に成長させることを特徴とする強磁性材料の製造方法。
【請求項7】
II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料を主成分とし、
遷移金属(主成分をIV族とした場合Mnを除く)、または、希土類元素の少なくとも一方を添加元素として含み、
アモルファスである強磁性材料を強磁性電極として備える
ことを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。
【請求項8】
II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料を主成分とし、
遷移金属(主成分をIV族とした場合Mnを除く)、または、希土類元素の少なくとも一方を添加元素として含み、
アモルファスである強磁性材料を記録層、または、固定層の少なくとも一方として備える
ことを特徴とするMRAM(Magnetic Random Access Memory)。
【請求項9】
正孔の注入源であるpクラッド層と、電子の注入源であるnクラッド層と、前記pクラッド層と前記nクラッド層とに挟まれる活性層とを備える半導体レーザであって、
前記pクラッド層、前記nクラッド層、前記活性層の少なくとも一層は、
II−VI族、または、IV族、または、III−V族の半導体材料を主成分とし、
遷移金属(主成分をIV族とした場合Mnを除く)、または、希土類元素の少なくとも一方を添加元素として含み、
アモルファスである
ことを特徴とする半導体レーザ発振素子。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−112845(P2008−112845A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294577(P2006−294577)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】