説明

強誘電体メモリ素子の製造方法

【課題】良好な強誘電体膜を備えた強誘電体メモリ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法は、下地絶縁膜23の上方に、アモルファス状の表層334を含んだ下地層イリジウム膜331を形成する工程と、アモルファス状の表層334を酸化して、酸化イリジウム層335とする酸化工程と、酸化イリジウム層335上にMOCVD法で強誘電体膜を形成する工程と、強誘電体膜上に電極を形成する工程と、を有する。アモルファス状の表層334を形成しており、表層334に多結晶構造がないので、これを均一に熱酸化することができる。したがって、酸化による体積膨張が均一となり、表層334の上面を平坦にすることができる。また、表層334の厚さを10nm以上にしており酸素が表層334をほとんど透過しないので、下地層331はほとんど酸化されない。これにより、結晶性の下地層331が不均一に酸化されて凹凸を生じることが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体メモリ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体材料の自発分極を利用した強誘電体メモリ装置は、低電圧動作及び高速動作が可能な不揮発メモリ装置として期待されている。また、強誘電体メモリ装置は、メモリセルを1トランジスタ/1キャパシタで構成できるためDRAM並の高集積化が可能であり、大容量のメモリ装置としても期待されている。
【0003】
強誘電体材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O、以下PZTと称す)等のペロブスカイト型酸化物や、タンタル酸ビスマスストロンチウム(SrBiTa)等のビスマス層状化合物等が有望視されている。強誘電体材料の自発分極を最大限に発揮させるためには、その結晶配向性が極めて重要である。
【0004】
例えばPZTを用いる場合は、自発分極量を大きくするために、Zr(ジルコニウム)に比べてTi(チタン)を多く含むチタンリッチの組成を採用することが多い。この組成域ではPZTが正方晶に属し、その自発分極軸がc軸となっている。理想的にはc軸配向させることで最大の分極量が得られるが、実際は非常に難しく、c軸と直交するa軸配向成分が同時に存在する。a軸配向成分は分極反転に寄与しないためその比率が大きくなると、かえって自発分極量が小さくなってしまう場合がある。
【0005】
そこで、PZTを(111)配向にすることにより、a軸を基板法線から一定の角度だけオフセットした方向に向けることが考えられている。これによれば、分極軸が基板法線方向の成分を持つようになるため、分極反転に寄与させることが可能となる。一方、c軸配向成分も同時に分極軸が基板法線方向に対して一定のオフセット角度を向くため、分極反転で誘発される表面電荷量には一定量のロスが生じる。しかし、すべての結晶成分を分極反転に寄与させることができるため、電荷の取り出し効率がc軸配向と比較して格段に優れている。
【0006】
PZTからなる強誘電体膜を(111)配向に形成する方法としては、特許文献1に開示されている方法がある。特許文献1では、(111)配向のイリジウムからなる下部電極を形成し、その上面側の表層を熱酸化して酸化イリジウム層とした後、この上に強誘電体膜を形成している。強誘電体膜の形成は、強誘電体膜の原料ガスと酸素ガスとを化学反応させて成膜するMOCVD法を用いている。また、化学反応に必要な量未満の酸素ガスを供給し成膜した後に、化学反応に必要な量以上の酸素ガスを供給し成膜して厚膜化している。詳細なメカニズムの解明には至っていないが、酸化イリジウム層がPZTの成長方位の決定に寄与し、PZTを主として(111)配向させることができるとされている。
【特許文献1】特開2003−324101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1の方法を採用した場合でも、さらに良好な強誘電体膜を形成するためには改善点もある。すなわち、下部電極のイリジウム膜を(111)配向にしようとすればその結晶性を高める必要があるため、必然的に緻密な膜質になる。すると、その表層に酸素を良好に拡散させることが難しくなり、表層を良好に酸化イリジウム層とすることが難しくなる。また、イリジウムは非常に融点が高いので、通常は多結晶構造の膜となる。これを酸化すると、結晶粒間の粒界から酸素ガスが拡散しやすいため、結晶粒上と粒界とで酸化の程度がばらついてしまい、酸化による体積膨張がばらついてしまう。これによりイリジウム膜の表面に凹凸を生じてしまい、この上に良好な強誘電体膜を形成することができなくなってしまう。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑み成されたものであって、良好な強誘電体膜を形成することにより良好な強誘電体メモリ素子を製造する方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の強誘電体メモリ素子の製造方法は、基板の上方に、アモルファス状の表層を含んだイリジウム膜を形成する工程と、前記アモルファス状の表層を酸化して、酸化イリジウム層とする酸化工程と、前記酸化イリジウム層上にMOCVD法で強誘電体膜を形成する工程と、前記強誘電体膜上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
アモルファス状の表層は、結晶性のものよりも膜密度が小さくなっているので、ここに酸素を良好に拡散させることができる。また、多結晶構造の膜よりも粒界に起因するイリジウム原子の密度の不均一性がなくなっているので、原子の密度が均一な表層に酸素を均一に拡散させることができる。したがって、酸化工程では表層を良好かつ均一に酸化することができ、酸化による体積膨張が均一となる。よって、平坦な酸化イリジウム層とすることができ、平坦な酸化イリジウム層上に平坦な強誘電体膜を形成することができる。これにより、強誘電体膜にモフォロジー荒れによる特性低下を生じることが防止され、良好な強誘電体特性の強誘電体膜とすることができる。以上のように、本発明によれば良好な強誘電体メモリ素子を製造することができる。
なお、アモルファス状とは、完全な非晶質である状態、又は非晶質であって微結晶を含んだ状態を意味する。具体的には、X回折パターンに急峻なピークを有しない状態である。このようなアモルファス状の膜は、膜質が結晶性のものよりも緩くなっており、膜密度が結晶性の膜よりも小さくなっている。
【0011】
また、前記イリジウム膜を形成する工程では、スパッタリング法でイリジウム膜の表層を形成し、形成時の基板温度、雰囲気圧力、雰囲気ガス量、又は成膜パワーのうちの少なくとも1以上を調整してアモルファス状の表層とすることが好ましい。この場合に、前記スパッタリング法を、前記基板を加熱せずに行うことによりアモルファス状の膜を成膜することがより好ましい。
【0012】
通常、スパッタリング法を用いて結晶性のイリジウム膜を形成する際には、基板温度を500〜550℃程度に加熱して成膜を行う。これよりも基板温度を低下させて、特に基板を加熱することなく成膜を行えば、基板上方に配されたイリジウム原子の温度による表面マイグレーションを抑制することができ、結晶性が低い表層を形成することができる。
また、雰囲気圧力や雰囲気ガス量を大きくすれば、スパッタリング粒子(イリジウム)がその飛来中に雰囲気ガスの分子等に衝突する頻度が高くなる。これにより、スパッタリング粒子の基板上への入射方向をばらつかせることができ、結晶性が低い表層を形成することができる。
また、スパッタリング法における成膜パワーを高くすれば、イリジウムの成膜速度が大きくなる。これにより、基板上方に配されたイリジウム原子が規則的に並ぶよりも先に、この上にイリジウム原子が飛来して積層されるようになり、結晶性が低い表層を形成することができる。
以上のように、プロセスを複雑化することなくアモルファス状の表層を形成することができ、効率よく強誘電体メモリ素子を製造することができる。
【0013】
また、前記イリジウム膜を形成する工程では、前記基板の上方に、面心立方晶に属する(111)配向の下地層を形成した後、この上にアモルファス状の表層を形成して、前記下地層と前記表層とを含んだイリジウム膜を形成することが好ましい。この場合には、前記アモルファス状の表層を10nm以上60nm以下の厚さに形成することがより好ましい。
【0014】
MOCVD法で強誘電体膜を形成する工程では、酸化イリジウム層は酸素を奪われるとともに再結晶化する。(111)配向の下地層を含んだイリジウム膜を形成すれば、酸化イリジウム層が再結晶化する際に下地層の配向を反映させて、再結晶した部分を(111)配向とすることができる。したがって、再結晶した部分の結晶配向を反映させて、この上に(111)配向の強誘電体膜を形成することができる。(111)配向の強誘電体膜は、電荷の取り出し効率が良好になるので、優れた強誘電体特性となる。
【0015】
前記アモルファス状の表層を10nm以上の厚さに形成すれば、これを酸化工程で酸化した際に、その下地層が酸化されることを抑制することができる。したがって、例えば下地層が不均一に酸化されてここに凹凸を生じることが防止され、この凹凸に起因して表層に凹凸を生じることが防止される。
また、前記アモルファス状の表層を60nm以下の厚さに形成すれば、酸化イリジウム層が再結晶化する際に、下地層の結晶配向を良好に引き継ぐことが可能になる。したがって、(111)配向の強誘電体膜を形成することができ、良好強誘電体メモリ素子を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以降の説明では図面を用いて各種の構造を例示するが、構造の特徴的な部分を分かりやすく示すために、図面中の構造はその寸法や縮尺を実際の構造に対して異ならせて示す場合がある。まず、本発明の製造方法により得られる強誘電体メモリ素子の一例について、その構成を説明する。
【0017】
図1は、本例の強誘電体メモリ素子を備えた強誘電体メモリ装置の要部を示す側断面構成図である。図1に示すように、強誘電体メモリ装置1はスタック型の構造となっており、トランジスタ22を有する基体2と、基体2上に設けられた強誘電体メモリ素子3と、を備えている。
【0018】
基体2は、例えば単結晶シリコンからなるシリコン基板(基板)21上に設けられたトランジスタ22と、トランジスタ22を覆って設けられたSiOからなる下地絶縁膜23と、を備えて構成されている。シリコン基板21の表層には素子分離領域24が設けられており、素子分離領域24の間が1つのメモリセルと対応している。
【0019】
トランジスタ22は、シリコン基板21上に設けられたゲート絶縁膜221と、ゲート絶縁膜221上に設けられたゲート電極222と、シリコン基板21表層におけるゲート電極222の両側に設けられたソース領域223及びドレイン領域224と、ゲート電極222の側面に設けられたサイドウォール225と、から構成されている。本例では、ソース領域223上にこれと導通する第1プラグ25が設けられており、ドレイン領域224上にこれと導通する第2プラグ26が設けられている。
【0020】
第1プラグ25及び第2プラグ26は、例えばW(タングステン)やMo(モリブデン)、Ta(タンタル)、Ti、Ni(ニッケル)等の導電材料からなるものである。第1プラグ25は、本例ではビット線(図示略)と電気的に接続されており、これを介してソース領域223とビット線とが導通するようになっている。
【0021】
本例の強誘電体メモリ素子3は、下地絶縁膜23及び第2プラグ26上に順に形成された導電膜31、酸素バリア膜32上に形成されている。強誘電体メモリ素子3は、下層から順に、下部電極33、強誘電体膜34及び上部電極35が積層された構成となっている。下部電極33は、酸素バリア膜32と導電膜31とを介して第2プラグ26と電気的に接続されている。すなわち、下部電極33とドレイン領域224は導通するようになっている。
【0022】
導電膜31は、例えばTiN等の導電材料からなるものであり、酸素バリア膜32は、例えばTiAlN、TiAl、TiSiN、TiN、TaN、TaSiN等の酸素バリア性を有する導電材料からなるものである。また、導電膜31及び酸素バリア膜32は、特に自己配向性に優れたTiを含む材料からなることが好ましく、このようにすれば下部電極33、強誘電体膜34の結晶配向を良好にすることができる。
【0023】
下部電極33は、単層膜あるいは複数層が積層された多層膜からなるものであり、その最上層がイリジウムを主材とするイリジウム膜となっている。イリジウム膜は、その結晶構造が面心立方晶に属する(111)配向とされており、酸化イリジウムを含有する場合もある。多層膜とする場合には、最上層以外の層に、イリジウム、Pt(プラチナ)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Os(オスミウム)のうちから少なくとも1つまたはこれらの合金あるいはこれらの酸化物からなる膜を用いることができる。なお、本例では、単層のイリジウム膜からなる下部電極33を採用している。
【0024】
強誘電体膜34は、ABOの一般式で示されるペロブスカイト型の結晶構造を有する強誘電体材料で構成されている。例えば前記一般式中のAは、PbあるいはPbの一部をLaあるいはCa(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)に置換したものからなっている。また、例えばBは、Zr又はTiからなり、これにV(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、及びMg(マグネシウム)のうちの1つ以上を添加してもよい。強誘電体材料の具体例としては、PZTやSBT、(Bi,La)Ti12(チタン酸ビスマスランタン:BLT)等が挙げられる。
【0025】
PZTは強誘電体材料として実績があるので、これを用いることにより高信頼性とすることができる。PZTを用いる場合には、自発分極量を大きくする観点から、Tiの含有量をZrの含有量よりも多くすることが好ましい。またこの場合には、ヒステリシス特性を良好にする観点から、PZTが正方晶に属する(111)配向であることが好ましい。
【0026】
上部電極35は、本例ではグランド線(図示略)と電気的に接続されており、単層膜あるいは多層膜からなるものである。上部電極を構成する膜としては、先述した下部電極に適用可能な膜の他に、Al(アルミニウム)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)等からなる膜を用いることもできる。本例では、下層側から図示略のプラチナ膜、酸化イリジウム膜、イリジウム膜が順に積層された多層膜となっている。
【0027】
以上のような構成により、前記トランジスタ22のゲート電極222に電圧が印加されると、ソース領域223とドレイン領域224との間に電界が印加されてチャネルがオンとなり、ここに電流を流すことが可能となる。チャネルがオンとされると、ソース領域223と電気的に接続された前記ビット線からの電気信号は、ドレイン領域224に伝達され、さらにドレイン電極224と電気的に接続された強誘電体メモリ素子3の下部電極33に伝達される。そして、強誘電体メモリ素子3の上部電極35と下部電極33との間に電圧を印加することができ、強誘電体膜34に電荷(データ)を蓄積させることができる。このように、強誘電体メモリ素子3への電気信号をトランジスタ22でスイッチングすることにより、強誘電体メモリ装置1は、データ(電荷)を読出しあるいは書込みすることができるようになっている。
【0028】
次に、本発明に係る強誘電体メモリ素子の製造方法の一実施形態を説明する。なお、本実施形態は、前記強誘電体メモリ装置1を製造する方法に基づいて説明する。
【0029】
図2(a)〜(c)、図3(a)〜(c)、図4(a)〜(c)は、強誘電体メモリ装置1の製造方法を示す断面工程図である。なお、図2(b)以降の図には、トランジスタ22等の基体2の下層構造を省略して示している。
【0030】
まず、図2(a)に示すように、公知の方法等を用いて基体2を形成する。具体的には、例えばシリコン基板21にLOCOS法やSTI法等で素子分離領域24を形成し、素子分離領域24の間におけるシリコン基板21上に熱酸化法等でゲート絶縁膜221を形成する。そして、ゲート電極222上に多結晶シリコン等からなるゲート電極222を形成する。そして、素子分離領域24とゲート電極222との間におけるシリコン基板21の表層に不純物を注入してドープ領域223、224を形成する。そして、エッチバック法等を用いてサイドウォール225を形成する。そして、サイドウォール225の外側におけるドープ領域223、224に、さらに不純物を注入して高濃度不純物領域とする。本実施形態では、ドープ領域223をソース領域として機能させ、ドープ領域224をドレイン領域として機能させる。
【0031】
そして、トランジスタ22が形成されたシリコン基板21上に、例えばCVD法でSiOを成膜して下地絶縁膜23を形成する。そして、ソース領域223上とドレイン領域224上とにおける下地絶縁膜23をエッチングして、ソース領域223を露出させる貫通孔とドレイン領域224を露出させる貫通孔とを形成する。そして、これら貫通孔内のそれぞれに、例えばTiとTiNをスパッタリング法で順に成膜して、密着層(図示略)を形成する。
【0032】
そして、前記貫通孔内を含む下地絶縁膜23上の全面に、例えばCVD法でタングステンを成膜して前記貫通孔内にタングステンを埋め込む。そして、下地絶縁膜23上をCMP法等で研磨することにより、下地絶縁膜23上のタングステンを除去する。このようにして、ソース領域223上の貫通孔内に第1プラグ25を埋設し、ドレイン領域224上の貫通孔内に第2プラグ26を埋設する。以上のようにして基体2が得られる。
【0033】
次に、下地絶縁膜23上に強誘電体メモリ素子3を形成(製造)する。
本実施形態では、図2(b)に示すように、下地絶縁膜23上に導電膜31aを形成する。具体的には、下地絶縁膜23上に、例えばCVD法やスパッタリング法等を用いてTiを成膜する。Tiは高い自己配向性を有しているので、六方晶に属する(001)配向の最密構造の膜が形成される。そして、この膜に例えば窒素雰囲気下で熱処理(例えば500℃以上650℃以下)を施す窒化処理により、TiNからなる導電膜31aを形成する。熱処理の温度を650℃未満とすることでトランジスタ22の特性への影響を抑制するとともに、500℃以上とすることで窒化処理の短縮化が図られる。なお、形成された導電膜31aは、元のメタル状態のTiの配向性を反映して、面心立方晶に属する(111)配向になる。
【0034】
次に、図2(c)に示すように、導電膜31a上に例えばスパッタリング法やCVD法等を用いてTiAlNを成膜して、酸素バリア膜32aを形成する。酸素バリア膜32aは、その下地となる導電膜31aに結晶配向をマッチングさせることにより、エピタキシャルライクに形成することができる。すなわち、導電膜31aの結晶配向を反映させて、面心立方晶に属する(111)配向の酸素バリア膜32aを形成することができる。
【0035】
次に、図3(a)に示すように、基板温度を500〜550℃程度に加熱した状態で、酸素バリア膜32a上にスパッタリング法でイリジウムを成膜して、下地層331を形成する。下地層331は、図1に示した下部電極33の一部になる層である。下地層331は、酸素バリア膜32aと同様に下地の結晶配向を反映させて形成することができる。酸素バリア膜32aが(111)配向となっているので、下地層331も(111)配向に形成することができる。なお、下地層331は、柱状構造に成長した(111)配向の結晶粒332を多数有し、結晶粒332の間に結晶粒界(界面)333を持つ多結晶構造となる。なお、下地層331の厚さとしては、例えば80nm程度とする。
【0036】
次に、図3(b)に示すように、下地層331上にアモルファス状の表層334を形成する。ここでは、スパッタリング法でイリジウムを成膜して表層334を形成する。成膜時に、イリジウムが結晶化する温度よりも基板温度を低くするほど、結晶性が低い膜を形成することができる。また、スパッタリング法を行う成膜室内の雰囲気圧力を高くするほど、又は成膜室内に流通させる不活性ガス等のガス量を多くするほど、結晶性が低い膜とすることができる。また、スパッタリング粒子を射出するスパッタリング装置における成膜パワーを高くすることによっても、結晶性が低い膜とすることができる。これらのうち少なくとも1以上を適用することにより、結晶性を十分に低くすることができ、アモルファス状の膜を形成することができる。
【0037】
本実施形態では、イリジウムが結晶化する温度よりも基板温度を低くする方法を採用し、ここでは基板を加熱せずに成膜を行う。これにより基板温度がほぼ室温程度となり、下地層331上に堆積したスパッタリング粒子(イリジウム)は、温度による表面マイグレーションが抑制される。したがって、下地層331の結晶構造を反映させずにイリジウムを成膜することができ、アモルファス状の表層334が得られる。スパッタリング法によれば、膜厚の制御を高精度に行うことができる。表層334は、10nm以上60nm以下の厚さに形成することが好ましく、ここでは20nm程度の厚さに形成する。また、スパッタリング法によれば、形成する膜の膜質を容易に制御することができるので、プロセスを複雑化することなく表層334を形成することができる。
【0038】
次に、図3(c)に示すように、アモルファス状の表層334を酸化してこれを酸化イリジウム層335とする。詳しくは後述するが、強誘電体膜の下地となる表層334を酸化しておくことにより、主として(111)に配向した強誘電体膜を形成することができる。本実施形態では、図5に示すようなMOCVD装置50を用い、熱酸化法により表層334を酸化する。なお、MOCVD装置50は、後に強誘電体膜の形成でも用いる装置である。以下、MOCVD装置50の構成を説明する。
【0039】
図5は、MOCVD装置50を模式的に示す図である。MOCVD装置50は、図5に示すように、基体2を収容するチャンバ51と、チャンバ51内に配置されて基体2を載置するサセプタ52と、チャンバ51内にガスを供給するシャワーヘッド53と、載置された基体2を加熱する加熱ランプ54と、を備えている。
【0040】
そして、シャワーヘッド53には、チャンバ51内に強誘電体膜34の原料ガスや酸素ガス等を供給するための供給管55、56が設けられている。また、MOCVD装置50は、チャンバ51外に設けられた供給手段(図示略)により原料ガスを供給管55からチャンバ51内に供給するとともに、酸素ガスを供給管56からチャンバ51内に供給する構成となっている。なお、供給管55、56は、互いに独立して設けられており、原料ガス及び酸素ガスがチャンバ51に供給されるまでは遭遇しない構成となっている。また、チャンバ51には、排気口(図示略)が適宜設けられている。そして、サセプタ52には、加熱ランプ54とは別にヒータ(図示略)が設けられている。
【0041】
以上のような構成のMOCVD装置50を用いて表層334を熱酸化するには、まずサセプタ52に、表層334が形成された基体2(図3(b)参照)を載置する。そして、チャンバ51内に供給管56から酸素ガスを供給するとともに、加熱ランプ54や前記ヒータ等により基体2を加熱する。アモルファス状の表層334は、結晶性のものよりも膜密度が小さいので、表層334に酸素を良好に拡散させることができ、これを良好に酸化することができる。
【0042】
ところで、通常はアモルファス状の表層を形成せずに、結晶性のイリジウム膜を形成した後、その表層を酸化している。結晶性のイリジウム膜は多結晶構造となっており、結晶粒の間に粒界を有している。このようなイリジウム膜を熱酸化すると、粒界には酸素ガスが浸透(拡散)しやすいため、結晶粒における粒界側は結晶粒上よりも熱酸化の程度が顕著になる。そのため、酸化の程度がばらついてしまい、酸化による体積膨張の程度がばらついてしまう。これにより、イリジウム膜の表面に凹凸を生じてしまう。
【0043】
本発明ではアモルファス状の表層334を形成しており、表層334に前記のような多結晶構造がないので、これを均一に熱酸化することができる。したがって、酸化による体積膨張が均一となり、表層334の上面を平坦にすることができる。また、表層334の厚さを10nm以上にしており酸素が表層334をほとんど透過しないので、下地層331はほとんど酸化されない。これにより、結晶性の下地層331が不均一に酸化されて凹凸を生じることが防止される。
【0044】
次に、図4(a)に示すように、酸化イリジウム層335上に強誘電体膜34の初期膜341を形成するとともに、下部電極33aを形成する。具体的には、酸化イリジウム層335を形成した後、MOCVD装置50のサセプタ52に基体2を載置したままにしておく。そして、供給管55、56からチャンバ51内に強誘電体膜34の原料ガス及び酸素ガスをそれぞれ供給するとともに、加熱ランプ54により基体2を下面側から550〜650℃程度に加熱する。
【0045】
本実施形態では、前記原料ガスとして、Pb(DIBM)[Pb(C15:鉛ビス(ジイソブチリルメタナト)]、Zr(DIBM)[Zr(C15:ジルコニウム(ジイソブチリルメタナト)]、及びTi(OiPr)(DPM)[Ti(O−i−C(C1119:チタン(ジイソプロポキシ)(ジイソブチリルメタナト)]の混合ガスを用いる。
なお、前記原料ガスとして、Pb(DPM)[Pb(C1119:鉛(ジピバロイルメタナト)]、Zr(IBPM)[Zr(C1017:ジルコニウムテトラキス(イソブチリルピバロイルメタナト)]及びTi(OiPr)(DPM)等、他の材料を用いてもよい。
【0046】
また、酸素ガス量としては、原料ガスを反応させるために必要な量よりも少ない(例えば0.1倍以上1.0倍未満)量とする。すなわち、原料ガスの有機成分であるカーボンあるいは水素が燃焼させることにより、原料ガスの金属成分(Pb、Zr、Ti)が分離され、これら金属成分が酸化されるとともに結晶化してPZTとなるが、有機成分を燃焼させるために必要な酸素ガス量と金属成分を酸化するために必要な酸素ガス量の和よりも少ない酸素ガス量を供給するようにする。このような酸素ガス量は、供給する原料ガス量から化学量論に基づいて算出可能である。
【0047】
供給する酸素ガス量が原料ガスを反応させるために必要な量よりも少ないので、初期膜341の形成は、酸化イリジウム層335の酸素を奪いながら、すなわち酸化イリジウムを還元しながら進行する。イリジウムが結晶化可能な温度(例えば550〜650℃)に基体2を加熱しているので、還元されたイリジウムは下地層331上に再結晶化する。表層334(図3(a)参照)の厚さを60nm以下にしているので、還元されたイリジウムは下地層331の(111)配向を引き継ぐことができ、これを初期膜341の成長方向に反映させることができる。このようにして、初期膜341を(111)配向に形成するとともに、酸化イリジウム層335が還元され再結晶化した部分と下地層331とからなるイリジウム膜を下部電極33aとする。
【0048】
次に、図4(b)に示すように、初期膜341上にコア膜342を形成する。具体的には、初期膜341を形成した後、MOCVD装置50のサセプタ52に基体2を載置したままにしておく。そして、供給管55、56からチャンバ51内に強誘電体膜34の原料ガス及び酸素ガスをそれぞれ供給するとともに、加熱ランプ54により基体2を下面側から450〜550℃程度に加熱する。
【0049】
なお、酸素ガス量としては、先述した原料ガスを反応させるために必要な量以上とする。初期膜341は、結晶配向が(111)配向になっているので、この上にコア膜342をエピタキシャルライクに形成することができ、コア膜342を(111)配向に形成することができる。また、原料ガスを反応させるために必要な量以上の酸素ガスを供給しているので、酸素欠損を生じることなくコア膜342を形成することができる。また、加熱温度を初期膜341形成時よりも低くすることで、トランジスタ22(図1参照)への熱影響を低減することができる。また、初期膜341を平坦に形成しているので、この上に平坦なコア膜342を形成することができる。このようにして、初期膜341とコア膜342とからなる平坦な強誘電体膜34aを形成する。
【0050】
通常は、表層を形成しないのでその表面に凹凸を生じている。この凹凸面上に強誘電体膜を形成すると、強誘電体膜に凹凸を生じてしまう。凹凸を生じた部分は所望の結晶配向にならないため、これを強誘電体膜の分極反転に寄与させることができない。
本発明では、表層334が均一に酸化されて平坦となっているので、この上に平坦な初期膜341を形成することができる。したがって、平坦な初期膜341上に平坦なコア膜342を形成することができ、平坦な強誘電体膜34aを形成することができる。よって、凹凸に起因する特性低下が防止され、良好な強誘電体膜34aとすることができる。
【0051】
次に、図4(c)に示すように、強誘電体膜34a上に、例えばスパッタリング法やCVD法等を用いてプラチナ、酸化イリジウム、イリジウム等の金属材料からなる上部電極35aを形成する。
次に、公知のレジスト技術及びフォトリソグラフィ技術等を用いて、導電膜31a、酸素バリア膜32a、下部電極33a、強誘電体膜34a、及び上部電極35aをパターニングし、強誘電体メモリ素子3を形成する。このようにして、図1に示した強誘電体メモリ装置1が得られる。
【0052】
[実験例]
次に、異なる条件で下部電極を形成した5つの強誘電体メモリ素子に関して、強誘電体膜の結晶配向の違いについて説明する。
【0053】
図6は、本実験例で比較用に形成した5つ強誘電体メモリ素子(実験例1〜5)について、それぞれの下部電極を形成した条件を示す表である。実験例1〜5が異なる点は、下地層及び表層からなる下部電極の形成条件のみであり、強誘電体膜や上部電極等はいずれも同じ手法により形成されている。また、いずれの形成条件でも、下地層及び表層をスパッタリング法で形成しており、下地層の形成時の基板温度をいずれも500℃としている。また、いずれの形成条件でも、下地層の膜厚と表層の膜厚の合計を100nmとしている。
【0054】
実験例1は、表層を形成せずに下部電極を形成したものである。実験例2、3は、下地層の膜厚を80nm、表層の膜厚を20nmとしたものである。実験例4、5は、下地層の膜厚を20nm、表層の膜厚を80nmとしたものである。また、実験例2、4は表層の形成時に基板温度を200℃としており、実験例3、5は表層の形成時に基板温度を室温程度としている。
【0055】
図7は、図6の条件で形成したそれぞれの強誘電体メモリ素子における強誘電体膜(PZT)の(111)配向率を示すグラフである。図7に示すグラフは、それぞれの強誘電体メモリ素子について、X線回折(XRD)パターンを調べたデータに基づくものである。縦軸は、PZT(111)の配向率を示しており、この値が高いほど安定して大きな分極量が得られることを示す。PZT(111)の配向率は、PZT(222)の回折強度I(222)、PZT(100)の回折強度I(100)、及びPZT(101)の回折強度I(101)を用いて、(I(222)/I(222)+I(100)+I(101))で表される。
【0056】
表層の形成時の基板温度を常温程度とした実験例3は、200℃とした実験例2よりも
PZT(111)の配向率が高くなっており、実験例4、5に関しても同様の傾向を示している。このことから、スパッタリング法による成膜時に基板温度を低くすることにより、良好な強誘電体膜を形成することができることが分かる。これは、基板温度を低くすることにより表層の結晶性が低くなり、これが良好に酸化され良好な強誘電体膜を形成することができるためと考えられる。
【0057】
また、表層の膜厚を20nmにした実験例3は、表層の膜厚を80nmとした実験例5よりもPZT(111)の配向率が高くなっており、実験例2、4に関しても同様の傾向を示している。このことから、表層の膜厚を薄くすれば、良好な強誘電体膜を形成することができることが分かる。これは、表層の膜厚を薄くすることにより、強誘電体膜の初期膜の形成時に酸化イリジウム層に下地層の結晶配向を反映させることができ、これを初期膜の成長方向に反映させることができるためと考えられる。
【0058】
また、表層を形成した実験例3は、表層を形成しない実験例1よりもPZT(111)の配向率が高くなっている。実験例1は、従来の方法に対応するものであり、本発明を適用することにより、良好な強誘電体膜を形成することが可能になることが分かる。なお、実験例1、3に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)により強誘電体膜の表面を観察したところ、本発明を適用した実験例3は、従来の方法による実験例1よりも表面の凹凸(ラフネス)が格段に低減されていることが確認された。このことから、本発明を適用することにより、ラフネスが低減されて分極反転に寄与しない部分が小さくなり、良好な強誘電体膜とすることができると考えられる。
【0059】
本発明の強誘電体メモリ素子の製造方法によれば、アモルファス状の表層334を形成しているので、結晶配向が(111)配向の初期膜341を平坦に形成することができる。したがって、平坦な初期膜341上に(111)配向のコア膜342を平坦に形成することができ、(111)配向の強誘電体膜34aを平坦に形成することができる。強誘電体膜34aは、(111)配向となっているので、その電荷の取り出し効率が良好となっている。また、強誘電体膜34aは平坦に形成されているので、凹凸による分極量の低下が防止されている。このように良好な強誘電体膜34aを形成することができ、よってこれを備えた良好な強誘電体メモリ素子3を製造することができる。
【0060】
なお、前記実施形態ではスタック型の強誘電体メモリ装置を説明したが、プレーナ型のものにも適用することができ、これにより本発明の効果を得ることができる。また、前記実施形態では、MOCVD装置を用いてアモルファス状の表層334を熱酸化したが、電気炉等を用いた炉アニールによって熱酸化するようにしてもよい。炉アニールによれば、ランプアニールによる熱酸化のように赤外線加熱手段(ランプ)等の制約により処理時間の制約を受けることや、MOCVD装置による熱酸化のように供給する酸素量の制約等を受けることが少ない。そのため、十分に熱酸化を行うことができ、良好な酸化イリジウム層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の方法による強誘電体メモリ素子の例を示す側断面構成図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の製造方法を示す断面工程図である。
【図3】(a)〜(c)は、図2(c)から続く断面工程図である。
【図4】(a)〜(c)は、図3(c)から続く断面工程図である。
【図5】MOCVD装置の構成を示す模式図である。
【図6】実験例1〜5における下部電極の形成条件を示す表である。
【図7】実験例1〜5における強誘電体膜の配向率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1・・・強誘電体メモリ装置、2・・・基体、3・・・強誘電体メモリ素子、21・・・シリコン基板(基板)、22・・・トランジスタ、33、33a・・・下部電極、34、34a・・・強誘電体膜、35、35a・・・上部電極、331・・・下地層、334・・・表層、335・・・酸化イリジウム層、341・・・初期膜、342・・・コア膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上方に、アモルファス状の表層を含んだイリジウム膜を形成する工程と、
前記アモルファス状の表層を酸化して、酸化イリジウム層とする酸化工程と、
前記酸化イリジウム層上にMOCVD法で強誘電体膜を形成する工程と、
前記強誘電体膜上に電極を形成する工程と、を有することを特徴とする強誘電体メモリ素子の製造方法。
【請求項2】
前記イリジウム膜を形成する工程では、スパッタリング法でイリジウム膜の表層を形成し、形成時の基板温度、雰囲気圧力、雰囲気ガス量、又は成膜パワーのうちの少なくとも1以上を調整してアモルファス状の表層とすることを特徴とする請求項1に記載の強誘電体メモリ素子の製造方法。
【請求項3】
前記スパッタリング法を、前記基板を加熱せずに行うことによりアモルファス状の膜を成膜することを特徴とする請求項2に記載の強誘電体メモリ素子の製造方法。
【請求項4】
前記イリジウム膜を形成する工程では、前記基板の上方に、面心立方晶に属する(111)配向の下地層を形成した後、この上にアモルファス状の表層を形成して、前記下地層と前記表層とを含んだイリジウム膜を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の強誘電体メモリ素子の製造方法。
【請求項5】
前記アモルファス状の表層を10nm以上60nm以下の厚さに形成することを特徴とする請求項4に記載の強誘電体メモリ素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−302307(P2009−302307A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155315(P2008−155315)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(308014341)富士通マイクロエレクトロニクス株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】