説明

炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置

【課題】炭化珪素半導体装置の、半導体基板と酸化膜との界面近傍における界面準位密度を低減して、チャネル移動度を向上させることのできる炭化珪素半導体装置とその製造方法とを提供すること。
【解決手段】炭化珪素の半導体基板1の表面にシリコン酸化膜を主成分とする酸化物層を形成する工程を含む炭化珪素半導体装置の製造方法において、酸化物層の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向しない一方の主表面をIII族元素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露して、酸化物層にIII族原子を含有させる。そして、酸化物層と半導体基板1との界面近傍に拡散させたIII族原子により界面準位を終端させ、炭化珪素半導体装置のチャネル移動度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置に関するものであり、より特定的には、炭化珪素半導体の電界効果トランジスタ(MOSFET)のチャネル移動度を向上させるための炭化珪素半導体装置の製造方法、およびチャネル移動度を向上させた炭化珪素半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイドギャップ半導体の1つである炭化珪素は、高周波パワーデバイスや、耐熱・耐放射線デバイスを実現するための材料として注目されている。炭化珪素はシリコンと同様の手法により酸化膜を形成することが可能であるため、炭化珪素半導体装置、たとえばMOSFETの研究が盛んに行なわれてきた。なお、シリコンは珪素と同義である。炭化珪素を含む半導体層を備えたMOSFETなどの半導体装置を、ここでは炭化珪素半導体装置と呼ぶ。これまで、量産性に優れた実用的なプロセスを用いて、高いチャネル移動度を持つ炭化珪素半導体装置を形成することができなかったことが、炭化珪素を用いた低損失パワーデバイスの実現に対する障壁となっていた。MOSFETのチャネル移動度を低下させる原因としては、たとえば炭化珪素の半導体基板と、炭化珪素の半導体基板の上に形成された酸化物層との界面近傍における界面準位密度が高いことがある。炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍に存在するダングリングボンドが、界面準位の主な原因と考えられている。
【0003】
炭化珪素を用いたMOSFETの界面準位密度低減法として、たとえば特開2006−210818号公報(以下、「特許文献1」という)においては、炭化珪素基板の一方の主表面上に形成させた酸化物層を、加熱された窒素化合物雰囲気中に曝露することにより酸化物層の内部に窒素を拡散させる窒化処理が開示されている。この窒化処理により界面準位密度がある程度低減されることが示されている。
【0004】
また、たとえば「Materials Science Forum Vols.527-529(2006) p.961-966」(以下、「非特許文献1」という)においては、シリコン酸化膜を主成分とする酸化物層を形成する際に、固体であるアルミナ焼結体の存在する雰囲気中で熱酸化することにより、炭化珪素基板と酸化物層との界面近傍の界面準位密度を低減させたMOSFETについて開示されている。ここで、非特許文献1では、アルミナ焼結体の存在する雰囲気中での熱酸化においては、成膜速度が速いことが界面準位密度の低減に効果的であると報告されている。
【特許文献1】特開2006−210818号公報
【非特許文献1】E.O.Sveinbjornsson他著、「High channel mobility 4H-SiC MOSFETs」、Switzerland、Materials Science Forum、2006年、p961−966
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば特許文献1には、炭化珪素基板の一方の主表面上に形成させた酸化物層の内部に窒素を拡散させる窒化処理により、界面準位密度が低減されることが開示されているが、形成させた半導体素子のチャネル移動度の向上を示すデータに関しては開示も示唆もされていない。チャネル移動度をより向上させるためには、界面準位密度のさらなる低減が必要である。
【0006】
また、たとえば非特許文献1に示す、アルミナ焼結体の存在する雰囲気中で熱酸化することにより、シリコン酸化膜を主成分とする酸化物層を形成させる工程において用いられるアルミナ焼結体には、たとえばナトリウム(Na)、カリウム(Ka)、カルシウム(Ca)およびマグネシウム(Mg)などの金属不純物の密度が高い。したがって、アルミナ焼結体の存在する雰囲気中で熱酸化を行なえば、上述したような種類の金属不純物が、シリコン酸化膜を主成分とする酸化物層を汚染することになる。
【0007】
本発明は、上述した各問題に鑑みなされたものである。その目的は、炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍における界面準位密度を低減させることによりチャネル移動度を向上させることができる、炭化珪素半導体装置の製造方法、および上述した方法によりチャネル移動度を向上させた炭化珪素半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素を含む半導体層を準備する工程と、半導体層の主表面上に酸化物層を形成する工程と、酸化物層にIII族元素を含有させる工程とを備える、炭化珪素半導体装置の製造方法である。酸化物層にIII族元素を含有させる工程は、たとえば酸化物層の、半導体層と対向しない一方の主表面をIII族元素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露することにより行なう。
【0009】
上述した方法では、III族元素として、シリコンと原子半径が近いアルミニウムを用いることが好ましい。III族元素、好ましくはアルミニウムを、酸化物層に含有させることにより、アルミニウムが酸化物層と半導体層との界面近傍に拡散し、炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍に存在する、炭化珪素の炭素のダングリングボンドが、アルミニウムにより終端される。その結果、炭素のダングリングボンドの密度が低くなるため、炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍の界面準位密度を低減することができる。非特許文献1では、金属不純物とともにアルミナの構成元素であるアルミニウムの一部が酸化雰囲気中に拡散することが考えられるが、本発明では、ガスを用いてアルミニウムを処理炉の内部に供給することにより、制御性よく、かつ再現性よく、酸化物層中にアルミニウムを拡散させることができる。したがって、ダングリングボンドを終端する反応を精密に制御することができる。
【0010】
酸化物層にIII族元素を含有させるために供給する、III族元素を含有するガスとしては、たとえばアルミニウムを含有する有機金属化合物を用いることができる。
【0011】
アルミニウムは炭化珪素へのドーピングに一般的に用いられる元素である。アルミニウム原子はシリコン原子と原子半径が近いことから、炭化珪素半導体中のシリコン空孔に置換しやすい。したがって、アルミニウムを用いると、シリコン空孔に起因するダングリングボンドの終端を効率的に行なうことができる。
【0012】
また、本発明に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、酸化物層の、炭化珪素を含む半導体層と対向しない一方の主表面を、窒素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露する工程をさらに備えてもよい。ここで、窒素を含有するガスは、たとえば一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)または二窒化酸素(NO)からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0013】
上述した方法を用いて、酸化物層を窒素を含有するガスに曝露することにより、酸化物層に窒化処理を行なう。すると、炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍に存在する、炭化珪素のシリコンのダングリングボンドが窒素により終端される。炭化珪素の炭素のダングリングボンドが、アルミニウムにより終端され、かつ、シリコンのダングリングボンドが、窒素により終端されることにより、炭化珪素半導体中のダングリングボンドの密度はさらに低くなり、炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍の界面準位密度をさらに低減することができる。界面準位密度の低減に伴い、炭化珪素半導体装置のチャネル移動度の向上が図られる。
【0014】
酸化物層にIII族元素を含有させる工程とは、具体的には、酸化物層をIII族元素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露する工程である。この工程および、酸化物層を窒素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露する工程においては、処理を受ける炭化珪素を含む半導体層は処理炉の内部に配置された状態で連続して処理が行なわれるとともに、III族元素を含有するガスまたは窒素を含有するガスを、処理炉の外部より供給することが好ましい。処理炉の外部からガスを供給することにより、ガスの供給量の制御を再現性よく行なうことができる。
【0015】
III族元素を含有するガスおよび窒素を含有するガスは、不活性ガスで希釈されていることが好ましい。不活性ガスで希釈した上で、これらのガスを処理炉の内部に供給する圧力を制御することにより、III族元素含有ガスまたは窒素含有ガスの供給量と、処理炉の内部の圧力を適切に制御することが容易となる。その結果、再現性のある、量産性に優れた処理技術を確立することができる。
【0016】
なお、これらの工程は処理炉内で連続して行ない、処理炉の内部の温度を900℃以上1500℃以下に設定することが好ましい。処理を連続して行なうことにより、汚染源が処理炉の内部に混入することを抑制することができるとともに、処理効率を向上させることができる。
【0017】
以上に述べた方法を用いて形成される炭化珪素半導体装置は、炭化珪素を含む半導体層と、半導体層の主表面上に形成された酸化物層とを備えており、酸化物層にはIII族元素を含む。酸化物層に含まれるIII族元素はたとえばアルミニウムであることが好ましい。また、酸化物層には窒素を含むことがさらに好ましい。また、酸化物層の内部におけるIII族元素および窒素の濃度は、酸化物層の半導体層と対向しない主表面から、酸化物層の半導体層と対向する主表面に向かうにつれて単調に増加することが好ましい。すなわち酸化物層の、半導体層との界面近傍において濃度が最大となる領域が存在することが好ましい。酸化物層の、半導体層と対向する主表面とはすなわち酸化物層と半導体層との界面である。炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍において濃度が最大となるように、酸化物層にアルミニウムや窒素を供給することにより、炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍に存在するダングリングボンドの密度を効率的に低減することができる。
【0018】
III族元素については、濃度が最大となる領域において1×1017cm−3以上1×1022cm−3以下であることが好ましい。また、窒素については、濃度が最大となる領域において1×1020cm−3以上1×1022cm−3以下であることが好ましい。この濃度範囲は、ダングリングボンドを終端させるために十分な濃度であると同時に、酸化物層の構造欠陥の発生を抑制することができる濃度範囲である。その結果、炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍に存在するダングリングボンドおよび格子欠陥の密度を低減することができる。
【0019】
なお、炭化珪素を含む半導体層の主表面は、(0001)面から15度以下のオフカット方向に傾いた結晶面であることがさらに好ましい。
【0020】
上述した各方法を用いて形成される炭化珪素半導体装置とはたとえばMOSFETであり、半導体層と酸化物層との界面近傍における界面準位密度は、1×1012cm−2/eV以下であることが好ましい。上述した界面準位密度とすれば、半導体装置としての実用上十分高いチャネル移動度を有する炭化珪素半導体装置を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法を用いることにより、界面準位密度が低く、チャネル移動度が高い炭化珪素半導体装置を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態が説明される。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす部位には同一の参照符号が付されており、その説明は特に必要がなければ繰り返さない。
【0023】
以下において、本発明の実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の手順について説明しながら、本発明の実施の形態における炭化珪素半導体装置についての詳細を説明する。図1は、本発明の実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の手順を示すフローチャートである。図1に示すように、まず、半導体層を準備する工程(S10)を行なう。具体的には、炭化珪素半導体装置の基板となる半導体層を準備する工程である。
【0024】
図2の各図(A)〜(D)は、本発明の実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法を工程ごとに概略図で示したものである。そのうち図2(A)は、半導体基板の一方の主表面上に炭化珪素のエピタキシャル層を形成させた半導体層の概略図である。工程(S10)とは、図2(A)に示す半導体層10を準備する工程である。なお、以下において主表面とは、たとえば半導体層10の表面のうち最も面積の大きい、水平方向(図中の左右方向)に沿った方向にセットされている表面をいう。また、以下において半導体層10は、後述する図2(B)〜図2(D)に示す、酸化物層が形成された状態のものも含めるものとする。
【0025】
図2(A)に示すように、半導体基板1の一方の主表面上に、たとえばCVD成長により、炭化珪素を含む半導体層としての炭化珪素エピタキシャル層2を形成する。ここでは半導体基板1として、たとえば主表面が(0001)面に略平行である4H−SiCを用いる。ここで主表面が(0001)面に略平行とは、主表面が(0001)面に沿った方向であることを意味する。4H−SiCの主表面は、たとえば(11−20)面、(1−100)面、あるいは(03−38)面に略平行な面、などであってもよい。なお、半導体層10は、図2(A)に示すように、半導体基板1の一方の主表面上に、たとえばCVD成長により炭化珪素エピタキシャル層2を形成させた積層構造であってもよいが、たとえば積層構造をとらない炭化珪素の基板のみを半導体層10とみなしてもよい。あるいは、半導体基板1は炭化珪素以外の種類の半導体から構成されており、その半導体基板1の一方の主表面上に炭化珪素エピタキシャル層2を形成したものであってもよい。いずれの構成を採用するにしても、工程(S10)において形成される半導体層10は、炭化珪素を含む半導体層として形成することが好ましい。
【0026】
半導体基板1としては、たとえば一般に市販されていて入手可能な(0001)を主表面とした4H−SiCを選択することができる。ここで、4H−SiCの高品質な結晶成長プロセスを実現するために、炭化珪素を含む半導体層には一般にオフカットを導入する。オフカットの角度は0度以上15度以下であることが好ましい。なお、4度以上10度以下であることがさらに好ましい。
【0027】
なお、半導体層10に含まれる炭化珪素の結晶多形(ポリタイプ)については、任意の種類を用いてもよい。ポリタイプが比較的安定であり、大面積の基板を作製することが可能であるという観点から、4H−SiC、6H−SiC、15R−SiCのいずれかのポリタイプを用いることが好ましい。
【0028】
次に、酸化物層を形成する工程(S20)を実施する。具体的には、半導体層10の主表面上に酸化物層を形成する工程である。図2(B)は、半導体層10の一方の主表面上に酸化物層を形成する態様を示す概略図である。以下においては図2(B)に示すように、たとえば半導体基板1の一方の主表面上に、たとえばCVD成長により炭化珪素エピタキシャル層2を形成させた積層構造である半導体層10を準備した場合を考える。処理炉としてのチャンバー20の内部に半導体層10を配置させる。チャンバー20としてはたとえば石英管を用いることが好ましい。そしてこのチャンバー20の内部を酸化性雰囲気にするため、図2(B)に示すように、チャンバー20の外部から、酸素を供給する。なお、酸化性雰囲気にするために供給するガスとして、酸素の代わりにたとえば水蒸気を含むガスを用いてもよい。たとえば酸素を供給することによりチャンバー20の内部を酸化性雰囲気にした状態で、チャンバー20の内部を加熱し、半導体層10も高温とした状態で、たとえば炭化珪素エピタキシャル層2上に熱酸化膜を形成する。このようにして、炭化珪素エピタキシャル層2の、半導体基板1と対向しない主表面上に、平均厚みがたとえば約60nmの酸化物層3を形成する。なお、工程(S20)を行なうために、熱酸化(ドライ酸化)以外に、たとえばCVDやウェット酸化を用いてもよい。
【0029】
酸化物層3の材質としては、たとえば主として酸化シリコン(SiO)を含むことが好ましい。SiOは、炭化珪素半導体装置のゲート酸化膜および絶縁材料に適している。従って、酸化物層3をシリコン酸化膜とすることにより、炭化珪素半導体装置の特性を向上することができる。また、上述したように、SiOの薄膜を熱酸化により形成させる場合、チャンバー20の内部を加熱しながら酸素を導入するだけで形成させることができる。さらに、続く工程を連続して同じチャンバー20の内部で(すなわち半導体層10は移動させずにチャンバー20の内部に配置されたままの状態で)、チャンバー20の内部を高温に保ったまま行なうことができる。このようにすれば、汚染源が処理炉の内部に混入することを抑制することができるとともに、処理効率を向上させることができる。
【0030】
また、酸化物層3を形成するために熱酸化を行なうときのチャンバー20の内部の温度は、900℃以上1500℃以下であることが好ましい。900℃以下であれば処理に要する時間が増加することにより、処理効率が低下する。また、1500℃以上であれば表面の荒れが顕著になり、表面の荒れは炭化珪素半導体装置としての特性低下の要因となる。なお、炭化珪素半導体装置の特性を向上させるためには、チャンバー20の内部の温度を、上述した温度範囲の中間である、1100℃以上1300℃以下に設定することがより好ましい。
【0031】
次に、III族元素を含有させる工程(S30)を実施する。具体的には、先の工程(S20)にて形成させた酸化物層3の内部にIII族元素を含有させる工程である。図2(C)は、酸化物層3の内部にIII族元素を含有させる態様を示す概略図である。図2(C)に示すように、チャンバー20の内部に、たとえばIII族元素であるアルミニウムを含有するガスを供給し、酸化物層3の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向しない一方の主表面を、III族元素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露する。ここでも半導体層10自体も高温とした上で、半導体層10をガスに曝露する。ここでは、アルミニウムを含有するガスとしてトリメチルアルミニウム(TMA)を用いる。先の工程(S20)にて酸化物層3を熱酸化にて形成させた場合は、半導体層10は移動させずにチャンバー20の内部に配置されたままの状態で、同一のチャンバー20の内部に、III族元素であるアルミニウムを含有するガスを供給することにより工程(S30)を実施する処理を行なうことができる。
【0032】
III族元素を含有するガスは、チャンバー20の外部より供給されることが好ましい。チャンバー20の外部からガスを供給することにより、ガスの供給量の制御を再現性よく行なうことができる。
【0033】
半導体層10をアルミニウムを含有するガス(ここではTMA)に高温で曝露することにより、TMA中のアルミニウムが酸化物層3の内部に取り込まれ、アルミニウム含有酸化物層4となる。アルミニウム含有酸化物層4に含まれるアルミニウムの一部は、炭化珪素エピタキシャル層2とアルミニウム含有酸化物層4との界面近傍まで拡散する。ここで、アルミニウム原子はシリコン原子と原子半径が近いことから、炭化珪素エピタキシャル層2とアルミニウム含有酸化物層4との界面近傍のシリコン空孔を容易に置換する。その結果、それまで炭化珪素エピタキシャル層2とアルミニウム含有酸化物層4との界面近傍に存在していた、シリコン空孔の周囲の炭素のダングリングボンドは、上述したシリコン空孔を置換したアルミニウムにより終端される。
【0034】
また、本発明のようにIII族元素としてアルミニウムを採択し、アルミニウムを含有するガスをチャンバー20に供給することにより、反応を高い精度で再現性よく制御することができる。
【0035】
TMAはアルミニウムを含有する有機金属化合物の一種であり、半導体原料として量産され、一般的に使用されている。このため、III族元素を含有するガスとして、たとえばTMAのような有機金属化合物を用いることにより、安定した特性の炭化珪素半導体装置を安価に形成することができる。なお、アルミニウムを含有する有機金属化合物としてTMAの代わりに、たとえばトリエチルアルミニウム(TEA)を用いてもよい。
【0036】
ところで、工程(S30)においても、処理を行なうためにはチャンバー20の内部を加熱させる必要がある。酸化物層3の内部にアルミニウムを拡散させるために十分に高い温度とする必要があるため、工程(S30)を実施するときのチャンバー20の内部の温度は、工程(S20)と同様に、900℃以上1500℃以下であることが好ましい。したがって、工程(S20)と工程(S30)とを連続して行なう場合には、工程(S20)を行なった後、チャンバー20の内部の温度を変更せずに、チャンバー20の内部に供給するガスの種類だけ変更することにより工程(S30)に進んでもよい。このように、処理を連続して行なうことにより、汚染源が処理炉の内部に混入することを抑制することができるとともに、処理効率を向上させることができる。
【0037】
工程(S30)においては、酸化物層3に含有させるIII族元素としてたとえばガリウムやボロンを用いてもよい。この場合、ガリウムの有機金属化合物としてトリメチルガリウム(TMG)、ボロンの化合物としてたとえばジボラン(B)を用いることができる。
【0038】
また、図2(C)において、TMAとヘリウム(He)とを混合してチャンバー20の内部に供給している。このように、III族元素を含有するガスは、不活性ガスで希釈された状態でチャンバー20の内部に供給されることが好ましい。III族元素を含有するガスを不活性ガスで希釈して、ガスをチャンバー20の内部に供給する圧力を制御することにより、III族元素を含有するガスの供給量やチャンバー20の内部の圧力を適切に制御することができる。その結果、再現性のある、量産性に優れた処理を容易に行なう技術を確立することができる。ここでチャンバー20の内部に供給される不活性ガスとして、ヘリウムの代わりにたとえばアルゴン(Ar)やネオン(Ne)を用いてもよい。また、上述した不活性ガスを2種類以上混合して、チャンバー20の内部に供給してもよい。
【0039】
さらに、窒素を含有させる工程(S40)を行なうことが好ましい。具体的には、アルミニウム含有酸化物層4の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向しない一方の主表面を、窒素を含有するガス、たとえば一酸化窒素(NO)に加熱雰囲気中で曝露する工程である。
【0040】
図2(D)は、酸化物層3の内部に窒素を含有させる態様を示す概略図である。図2(D)に示すように、窒素を含有するガス(ここではNO)についても、チャンバー20の外部より供給されることが好ましい。チャンバー20の外部からガスを供給することにより、ガスの供給量の制御を再現性よく行なうことができる。
【0041】
半導体層10を窒素を含有するガス、たとえばNOに高温で曝露することにより、NO中の窒素がアルミニウム含有酸化物層4の内部に取り込まれ、アルミニウム窒素含有酸化物層5となる。アルミニウム窒素含有酸化物層5の内部に取り込まれた窒素の一部は、炭化珪素エピタキシャル層2とアルミニウム窒素含有酸化物層5との界面近傍に拡散する。ここで、窒素原子は炭素原子と原子半径が近いことから、界面近傍の炭素空孔を容易に置換する。その結果、それまで炭化珪素エピタキシャル層2とアルミニウム窒素含有酸化物層5との界面近傍に存在していた、炭素空孔の周囲のシリコンのダングリングボンドは、上述した炭素空孔を置換した窒素により終端される。
【0042】
工程(S40)においても、処理を行なうためにはチャンバー20の内部を加熱させる必要がある。酸化物層3の内部に窒素を拡散させるために十分に高い温度とする必要があるため、工程(S40)を実施するときのチャンバー20の内部の温度は、工程(S20)ないし工程(S30)と同様に、900℃以上1500℃以下であることが好ましい。したがって、特に熱酸化により工程(S20)を行った場合は、工程(S20)および工程(S30)を行なった後、半導体層10は移動させずにチャンバー20の内部に配置されたままの状態で、チャンバー20の内部の温度を変更せずに、チャンバー20の内部に供給するガスの種類だけ変更することにより工程(S40)に進んでもよい。このように、処理を連続して行なうことにより、汚染源が処理炉の内部に混入することを抑制することができるとともに、処理効率を向上させることができる。また、工程(S40)においても、チャンバー20内部の加熱により半導体層10も高温とした状態で窒素を炭化珪素エピタキシャル層2とアルミニウム窒素含有酸化物層5との界面近傍に拡散させる。
【0043】
チャンバー20の内部に供給する窒素を含有するガスとしては、窒素ガスの単体であってもよいが、窒素ガス単体の場合、ガスを効率よく分解するために高温が必要となるため、窒素化合物のガスを用いることが好ましい。たとえばNO、二窒化酸素(NO)または二酸化窒素(NO)からなる群から選択される少なくとも1つの窒素化合物を含むガスを供給することがより好ましい。窒素を含有するガスとして、半導体プロセスで一般的な材料である、たとえば上述したような窒素化合物ガスを用いることにより、優れた特性の炭化珪素半導体装置を安価に形成することができる。
【0044】
また、図2(D)において、NOとヘリウム(He)とを混合してチャンバー20の内部に供給している。このように、窒素を含有するガスについても、不活性ガスで希釈された状態でチャンバー20の内部に供給されることが好ましい。このようにすれば、先の工程(S30)における不活性ガスと同様の効果を奏する。
【0045】
なお、工程(S30)および工程(S40)は、実施する順序を逆にしてもよい。すなわち、窒素を含有するガスを先にチャンバー20の内部に供給した後、III族元素を含有するガスを供給するという手順で工程を進めてもよい。あるいは、工程(S30)と工程(S40)とを同時に行なう、すなわち、窒素を含有するガスおよびIII族元素を含有するガスとを同時にチャンバー20の内部に供給するという手順を用いてもよい。このように、工程(S30)と工程(S40)とを同時に行なうことにより、工程の効率を向上させることができる。
【0046】
さらに、工程(S10)において、たとえば半導体基板1に炭化珪素エピタキシャル層2をCVD成長する処理についても、同一のチャンバー20を用いて行なってもよい。この場合は工程(S10)、工程(S20)、工程(S30)、工程(S40)の全てを同一のチャンバー20の内部で、内部に供給するガスのみを変更することにより連続して行なうことができ、全体の工程をさらに効率よく行なうことができる。
【0047】
以上の各工程により、酸化物層3にIII族元素、たとえばアルミニウムを含有させたり、さらに窒素を含有させたりする処理を行なえば、酸化物層3は、たとえば図2(C)に示すようにアルミニウム含有酸化物層4、あるいは図2(D)に示すようにアルミニウム窒素含有酸化物層5となる。その結果、先述した要領でシリコンや炭素の空孔が置換されるために、炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍の炭素のダングリングボンドはIII族元素、たとえばアルミニウムにより、シリコンのダングリングボンドは窒素により終端される割合が大きくなる。このため、炭化珪素エピタキシャル層2と、アルミニウム含有酸化物層4ないしアルミニウム窒素含有酸化物層5との界面近傍における界面準位を形成する原因となるダングリングボンドの密度が低減される。したがって、界面準位密度を低減させることができ、この半導体層を用いて炭化珪素半導体装置(半導体素子)を構成することにより、炭化珪素半導体装置のチャネル移動度を向上させることができる。
【0048】
さらに窒素原子には、たとえば炭化珪素エピタキシャル層2とアルミニウム窒素含有酸化物層5との界面近傍における過剰な炭素原子を除去する効果がある。その結果、この半導体層を炭化珪素半導体装置の構成とした際に、チャネル移動度を向上させることができる。したがって、アルミニウム窒素含有酸化物層5は、アルミニウム含有酸化物層4よりも界面準位密度を低減することができ、チャネル移動度を向上させることができる。
【0049】
以上の手順により形成された炭化珪素半導体装置は、炭化珪素を含む半導体層と、半導体層の主表面上に形成された酸化物層とを備えており、その酸化物層には、III族元素を含む。以上の構成を有する炭化珪素半導体装置としては、たとえばMOSFETやMOSキャパシタがある。
【0050】
図3は、本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法に従って形成された、縦型MOSFETの構成を示す断面図である。図3に示すように、本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法に従って形成された、縦型MOSFET30は、先述した工程(S10)にて準備した半導体基板1としての、たとえばn型の炭化珪素の基板の一方の主表面上に、CVD成長により形成された、たとえばn型の炭化珪素エピタキシャル層2が形成されている。
【0051】
図3に示すように、炭化珪素エピタキシャル層2には、内部にウェル領域11が形成されている。なお、図3におけるウェル領域11はp型である。さらにウェル領域11の内部には、ソース領域12が形成されている。なお、図3におけるソース領域12はn型である。そして、炭化珪素エピタキシャル層2、ウェル領域11、およびソース領域12の一方の主表面の一部を跨ぐように、先述した工程(S20)により酸化物層が形成されている。この酸化物層には、先述した工程(S30)および工程(S40)により、アルミニウムと窒素が含有されており、アルミニウム窒素含有酸化物層5となっている。そして、図3に示すように、ソース領域12の一部は、ソース電極14とオーミック接触を形成している。また、図3に示すように、半導体基板1の、炭化珪素エピタキシャル層2が形成されていない側の主表面上には、ドレイン電極15が形成されている。さらに、アルミニウム窒素含有酸化物層5の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向しない側の主表面上には、ゲート電極16が形成されている。
【0052】
半導体基板1は、たとえば主表面が(0001)面に略平行な、4H−SiCを用いる。また、結晶欠陥密度の低い結晶成長プロセスを実現するためには、半導体基板1にはオフカットを導入し、半導体基板1の主表面をオフカット方向に傾いた結晶面とすることがさらに好ましい。オフカットの角度は0度以上15度以下であることが好ましく、4度以上10度以下であることがさらに好ましい。
【0053】
炭化珪素エピタキシャル層2のうち、ウェル領域11以外の領域は、半導体基板1における炭化珪素の濃度よりも低濃度であり、n型不純物を含む炭化珪素の層である、ドリフト領域13である。縦型MOSFET30は、炭化珪素エピタキシャル層2が多数のウェル領域11とドリフト領域13とを含む構成となっている。
【0054】
縦型MOSFET30におけるアルミニウム窒素含有酸化物層5の内部に含有される、III族元素であるアルミニウムおよび窒素の濃度は、いずれもアルミニウム窒素含有酸化物層5の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向しない主表面から、アルミニウム窒素含有酸化物層5の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向する主表面に向かうにつれて単調に増加することが好ましい。すなわち、III族元素であるアルミニウムおよび窒素の濃度は、アルミニウム窒素含有酸化物層5の内部においては、炭化珪素エピタキシャル層2との界面近傍の領域において最大になる。界面準位密度の原因となる、たとえばシリコンのダングリングボンドの密度は、炭化珪素を含む半導体層と酸化物層との界面近傍で最大となる。このため、界面近傍のダングリングボンドを終端させるために必要な、たとえばアルミニウムや窒素の濃度は、アルミニウム窒素含有酸化物層5の、炭化珪素エピタキシャル層2との界面近傍において最大とすることが好ましい。
【0055】
ここで、縦型MOSFET30におけるアルミニウム窒素含有酸化物層5の内部のうち、アルミニウムおよび窒素の濃度が最大となる領域においては、アルミニウムの濃度は1×1017cm−3以上1×1022cm−3以下であり、窒素の濃度は1×1020cm−3以上1×1022cm−3以下であることがさらに好ましい。これは、炭化珪素エピタキシャル層2と、アルミニウム窒素含有酸化物層5との界面近傍に存在するダングリングボンドをアルミニウムまたは窒素により終端し、界面準位密度を低減するために十分な濃度である。また、それと同時に、上述した範囲内のアルミニウムまたは窒素の濃度とすることにより、アルミニウム窒素含有酸化物層5の内部における構造欠陥の発生を抑制することができる。
【0056】
縦型MOSFET30における、アルミニウム窒素含有酸化物層5と、半導体層である炭化珪素エピタキシャル層2との界面近傍における界面準位密度は、1×1012cm−2/eV以下であることが好ましい。界面準位密度を上述した値まで低減することにより、縦型MOSFET30には、炭化珪素半導体装置(MOSFET)としての実用上十分高いチャネル移動度を持たせることができる。
【0057】
以上のように形成された、アルミニウム窒素含有酸化物層5をゲート酸化膜とする縦型MOSFET30は、炭化珪素エピタキシャル層2のアルミニウム窒素含有酸化物層5との界面近傍の界面準位密度が低減されており、チャネル移動度を向上させることができる。また、ゲートバイアスを下地層に効率よく付与させることができるため、高い電流駆動力を実現することができる。
【0058】
図4は、本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法に従って形成させた、横型MOSFETの構成を示す断面図である。図4に示すように、本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法に従って形成させた、横型MOSFET40は、先述した工程(S10)にて準備した半導体基板21としてのたとえばp型の炭化珪素の基板の一方の主表面上に、CVD成長により形成させた、たとえばp型の炭化珪素エピタキシャル層22が形成されている。
【0059】
図4に示すように、炭化珪素エピタキシャル層22には、内部にウェル領域17が2箇所に形成されており、これらがそれぞれソース領域、ドレイン領域となる。なお、図4におけるウェル領域17はn型である。また、炭化珪素エピタキシャル層22の、2箇所のウェル領域17の一方の主表面の一部を跨ぐように、先述した工程(S20)にて酸化物層が形成されている。この酸化物層には、先述した工程(S30)および工程(S40)により、アルミニウムと窒素が含有されており、アルミニウム窒素含有酸化物層5となっている。また、2つのウェル領域17の一方の主表面の一部には、それぞれソース電極14およびドレイン電極15が配置されており、アルミニウム窒素含有酸化物層5の一方の主表面の一部には、ゲート電極16が配置されている。
【0060】
上述した構造についてのみ、横型MOSFET40は縦型MOSFET30と異なる。すなわち、横型MOSFET40のアルミニウム窒素含有酸化物層5における、III族元素であるアルミニウムおよび窒素の濃度や濃度の分布、半導体基板21の主表面などの条件は、先述した縦型MOSFET30に順ずる。
【0061】
本発明の、酸化物層にIII族元素(たとえばアルミニウム)および窒素を含む炭化珪素半導体装置としては、MOSFETやMOSキャパシタがある。当該MOSFETの構成としては、たとえば図3に示す縦型MOSFET30の他に、たとえば図4に示す横型MOSFET40としてもよい。ただし、縦型MOSFET30の方が、横型MOSFET40に比べて、高耐圧化や高集積化が容易である。また、図3に示す縦型MOSFET30および図4に示す横型MOSFET40は、各半導体構成要素の導電型(p型とn型)を逆にした構成としてもよい。
【実施例1】
【0062】
本発明の実施の形態による先述した図3に示す縦型MOSFET30を、以下に示す条件にて形成して、界面準位密度およびチャネル移動度の測定を行なった。本実施例において形成した縦型MOSFET30は、先述した工程(S10)によって半導体基板1としてn型の4H−SiC基板の、主表面が(0001)面から、オフカット角度が8度である面を準備し、その一方の主表面上に、図2(A)に示すようにCVD成長により、n型の炭化珪素エピタキシャル層2を形成した。
【0063】
そして先述した工程(S20)により、炭化珪素エピタキシャル層2の主表面上には、図2(B)に示すように、チャンバー20の外部から内部に、酸素を供給しながら、チャンバー20の内部で1200℃にて熱酸化を行なうことにより、主として酸化シリコン(SiO)を含む、平均厚みが60nmの酸化物層3を形成した。
【0064】
その後、先述した工程(S30)として、チャンバー20の外部から内部に、アルミニウムを含有する有機金属化合物であるTMA(トリメチルアルミニウム)をヘリウムで希釈した状態で供給し、酸化物層3の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向しない一方の主表面に曝露させた。このとき、アルミニウムを酸化物層3の内部に十分に拡散させるために、チャンバー20の内部の温度は1000℃にして、1時間処理を行なった。
【0065】
次に、先述した工程(S40)として、チャンバー20の外部から内部に、一酸化窒素(NO)をヘリウムで希釈した状態で供給することにより、アルミニウム含有酸化物層4の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向しない一方の主表面に曝露させた。このときも、チャンバー20の内部の温度は1000℃にして、1時間処理を行なった。
【0066】
以上の手順により、酸化物層3を、平均厚みが60nmのアルミニウム窒素含有酸化物層5とした。そして、アルミニウム窒素含有酸化物層5の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向しない主表面から、アルミニウム窒素含有酸化物層5の、炭化珪素エピタキシャル層2と対向する主表面に向かう方向(厚み方向)におけるアルミニウム濃度プロファイルおよび窒素濃度プロファイルをSIMSにより測定した。さらに、アルミニウム濃度および窒素濃度が最大となる領域(最大ピーク位置)におけるアルミニウム濃度および窒素濃度を測定した。
【0067】
先述した図3に示す縦型MOSFET30を、上述したように酸化物層にアルミニウムと窒素とを含有させた(アルミニウム処理+窒素処理)サンプルの他に、データの比較を行なうため、上述した工程(S30)および工程(S40)と同様の手順により、酸化物層にアルミニウムのみを含有させた(アルミニウム処理のみ)サンプル、酸化物層に窒素のみを含有させた(窒素処理のみ)サンプル、およびいずれも含有させない(処理無し)サンプルの4種類を形成した。そして4種類それぞれの厚み方向におけるアルミニウム濃度プロファイルおよび窒素濃度プロファイルをSIMSにより測定した。さらに、アルミニウム濃度および窒素濃度が最大となる領域(最大ピーク位置)におけるアルミニウム濃度および窒素濃度を測定した。また、それぞれのサンプルの界面準位密度およびチャネル移動度を測定した。なお、ここでサンプル名に用いた窒素処理とは、窒化処理とほぼ同義である。
【0068】
表1は、酸化物層の処理方法の異なる4種類の縦型MOSFET30の不純物ピーク濃度、界面準位密度、およびチャネル移動度を示す表である。表1において、不純物ピーク濃度とは、最大ピーク位置におけるアルミニウムないし窒素の濃度である。表1より、アルミニウムを含有させた酸化物層については、アルミニウムの不純物ピーク濃度が1×1019cm−3以上となっているが、アルミニウムを含有させなかった酸化物層については、アルミニウムの不純物ピーク濃度は1×1013cm−3以下となった。また、窒素を含有させた酸化物層については、窒素の不純物ピーク濃度が8×1020cm−3以上となったが、窒素を含有させなかった酸化物層については、窒素の不純物ピーク濃度は1×1015cm−3以下となった。
【0069】
【表1】

【0070】
なお、表1には示さないが、アルミニウムおよび窒素の最大ピーク位置は、アルミニウム窒素含有酸化物層5の内部の、炭化珪素エピタキシャル層2との界面から15nm以内の領域に存在した。このことからも、不純物の濃度は、アルミニウム窒素含有酸化物層5の内部において、炭化珪素エピタキシャル層2と対向する主表面に向かうにつれて単調に増加し、界面近傍において最大となることがわかる。
【0071】
また、最大ピーク位置の不純物ピーク濃度の半値幅は、アルミニウムが約10nmであり、窒素が約15nmであった。
【0072】
表1に示すように、(アルミニウム処理+窒素処理)のサンプルにおいて、界面準位密度が最も低く、(アルミニウム処理)のサンプル、(窒素処理)のサンプル、(処理無し)のサンプルの順に、界面準位密度が高くなっていく。
【0073】
また、表1より、(アルミニウム処理+窒素処理)のサンプルにおいて、チャネル移動度が最も高く、以下、(アルミニウム処理)のサンプル、(窒素処理)のサンプル、(処理無し)のサンプルの順に、チャネル移動度が低くなっていく。したがって以上より、(アルミニウム処理+窒素処理)のサンプルが最も炭化珪素半導体装置として高性能であり、以下、(アルミニウム処理)のサンプル、(窒素処理)のサンプル、(処理無し)のサンプルの順に続く。
【0074】
酸化物層に対しては、本発明の実施の形態に示すように、III族元素であるたとえばアルミニウムと、窒素とを含有させることが、界面準位密度を低減させ、炭化珪素半導体装置のチャネル移動度を向上させるために好ましい。なお、III族元素であるたとえばアルミニウムのみを酸化物層に含有させた場合に、アルミニウムと窒素との両方を含有させた場合に次いで、界面準位密度を低減させ、チャネル移動度を向上させることができる。いずれにしても、表1より、酸化物層に対してアルミニウムあるいは窒素を含有させる処理を全く行なわない場合に比べて非常に大きな改善効果を有していることがわかる。このため、炭化珪素半導体装置の界面準位密度の低減には、アルミニウム処理および窒素処理が非常に有効である。
【0075】
炭化珪素エピタキシャル層2の、酸化物層との界面近傍に存在する炭素のダングリングボンドおよびシリコンのダングリングボンドは、先述したように界面準位を形成する原因となる。しかし、酸化物層の内部にたとえばアルミニウムや窒素を拡散させるアルミニウム処理や窒素処理を施すと、上述したダングリングボンドの終端を促進させることができる。このことが、炭化珪素半導体装置の界面準位密度の低減やチャネル移動度の向上など、炭化珪素半導体装置の特性を向上させるための主要な役割を果たしていると考えられる。したがって、本発明の実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法を用いれば、より低電力損失な炭化珪素半導体装置を提供することができる。
【0076】
なお、炭化珪素エピタキシャル層の炭素原子やシリコン原子、およびアルミニウム原子と窒素原子とのそれぞれの原子半径の関係などから、炭素のダングリングボンドにはアルミニウムが、シリコンのダングリングボンドには窒素が、より効果的に終端するものと考えられる。
【0077】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、チャネル移動度の高い、すなわちより低損失な炭化珪素半導体装置(半導体素子)を提供する技術として、特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】(A)半導体基板の一方の主表面上に炭化珪素のエピタキシャル層を形成させた半導体層の概略図である。(B)半導体層10の一方の主表面上に酸化物層を形成する態様を示す概略図である。(C)酸化物層3の内部にIII族元素を含有させる態様を示す概略図である。(D)酸化物層3の内部に窒素を含有させる態様を示す概略図である。
【図3】本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法に従って形成させた、縦型MOSFETの構成を示す断面図である。
【図4】本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法に従って形成させた、横型MOSFETの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1 半導体基板、2 炭化珪素エピタキシャル層、3 酸化物層、4 アルミニウム含有酸化物層、5 アルミニウム窒素含有酸化物層、10 半導体層、11 ウェル領域、12 ソース領域、13 ドリフト領域、14 ソース電極、15 ドレイン電極、16 ゲート電極、17 ウェル領域、20 チャンバー、21 半導体基板、22 炭化珪素エピタキシャル層、30 縦型MOSFET、40 横型MOSFET。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素を含む半導体層を準備する工程と、
前記半導体層の主表面上に酸化物層を形成する工程と、
前記酸化物層にIII族元素を含有させる工程とを備える、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物層にIII族元素を含有させる工程は、前記酸化物層の、前記半導体層と対向しない一方の主表面を、前記III族元素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露する、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記III族元素はアルミニウムである、請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記III族元素を含有するガスは、アルミニウムを含有する有機金属化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物層の、前記半導体層と対向しない一方の主表面を、窒素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露する工程をさらに備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記窒素を含有するガスは、一酸化窒素、二酸化窒素または二窒化酸素からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項5に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記酸化物層にIII族元素を含有させる工程および、前記酸化物層を前記窒素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露する工程において、前記半導体層は処理炉の内部に配置された状態で処理が行なわれるとともに、前記III族元素を含有するガスまたは前記窒素を含有するガスを、前記処理炉の外部より供給する、請求項5または6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記III族元素を含有するガスおよび前記窒素を含有するガスは、不活性ガスで希釈されている、請求項5〜7のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記酸化物層にIII族元素を含有させる工程および、前記酸化物層を前記窒素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露する工程において、前記処理炉の内部の温度を900℃以上1500℃以下に設定する、請求項7または8に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記酸化物層にIII族元素を含有させる工程と、前記酸化物層を前記窒素を含有するガスに加熱雰囲気中で曝露する工程とは、前記処理炉内で連続して行なわれる、請求項5〜9のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項11】
炭化珪素を含む半導体層と、
前記半導体層の主表面上に形成された酸化物層とを備えており、
前記酸化物層には、III族元素を含む、炭化珪素半導体装置。
【請求項12】
前記III族元素の濃度は、前記酸化物層の内部において、前記酸化物層の前記半導体層と対向しない主表面から、前記酸化物層の前記半導体層と対向する主表面に向かうにつれて単調に増加する、請求項11に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項13】
前記酸化物層における前記III族元素の濃度は、最大となる領域において1×1017cm−3以上1×1022cm−3以下である、請求項11または12に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項14】
前記III族元素はアルミニウムである、請求項11〜13のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項15】
前記酸化物層には、窒素をさらに含む、請求項11〜14のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項16】
前記窒素の濃度は、前記酸化物層の内部において、前記酸化物層の前記半導体層と対向しない主表面から、前記酸化物層の前記半導体層と対向する主表面に向かうにつれて単調に増加する、請求項15に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項17】
前記酸化物層における前記窒素の濃度は、最大となる領域において1×1020cm−3以上1×1022cm−3以下である、請求項15〜16のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項18】
前記半導体層の主表面は、(0001)面から15度以内のオフカット方向に傾いた結晶面である、請求項11〜17のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項19】
前記半導体層と前記酸化物層との界面近傍における界面準位密度は、1×1012cm−2/eV以下である、請求項11〜18のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項20】
前記半導体装置はMOSFETである、請求項11〜19のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−27962(P2010−27962A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189677(P2008−189677)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】