説明

特にハイブリッド車両で内燃機関をスタータなしに始動するための方法および装置

【課題】内燃機関、特に内燃機関をスタータなしに始動するための方法において、引きずりトルクなしに内燃機関を始動することができ、付加的な減圧弁を設ける必要がない方法を提供する。
【解決手段】特にハイブリッド駆動系(1)で、内燃機関(2)をスタータなしに始動するための方法であって、内燃機関(2)のシリンダ(21)の一部が減圧可能なシリンダとして構成されており、シリンダが圧縮行程で減圧可能である方法は、内燃機関(2)の停止時に:クランクシャフト(25)の最終位置を調節し、停止時の最終位置で減圧可能なシリンダを圧縮行程に位置させるステップと;内燃機関(2)の停止に続いて始動プロセスが要求された場合に:静止状態で燃焼サイクルに位置する内燃機関(2)のシリンダ(21)内で空気・燃料混合物を点火し、内燃機関(2)を始動するためのトルクを生成し、圧縮行程に位置する減圧可能なシリンダを減圧するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関、特に内燃機関をスタータなしに始動するための方法に関する。さらに本発明は、必要に応じて要求された高いトルクを提供できる内燃機関を有するハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド駆動系のための多様なトポロジーが知られている。実際に使用されているハイブリッド駆動系では、内燃機関と、共通の動力伝達機構を駆動するための電動モータが直列に配置されている。このようなハイブリッド駆動系では、内燃機関および電動モータの被駆動軸が、動力伝達機構を駆動する共通の駆動軸に配置されている。
【0003】
ハイブリッド運転を可能とするためには、内燃機関および電動モータの被駆動軸がクラッチにより相互に分離可能になっている。要求されるトルクがわずかな場合、これにより、内燃機関は分離され、要求されたトルクは電動モータのみにより提供される。より高いトルクが要求された場合、内燃機関が始動され、動力伝達機構との結合によって連結され、要求されたトルクは内燃機関および電動モータによって共に提供される。代替的に、総トルクを内燃機関によって提供することもでき、電動モータは受動的であり、発電機として切り換えることもできる。
【0004】
しかしながら、このようなハイブリッド駆動系では電動モータの最大トルクを駆動のために使用することができない。その理由は、要求されるトルクがさらに突然高められ、内燃機関を始動しなければならない場合のために、リザーブトルクを保持する必要があるからである。内燃機関の始動は引きずりにより得られ、このための引きずりトルクは、有利には電動モータにより提供される。内燃機関の始動時に電動モータによって提供すべきリザーブトルクは、電動モータのために設計された最大トルクの1/3までであってよい。したがって、要求されるトルクの範囲は、電動モータの最大トルクに関して制限されているか、または電動モータを相応に大きく寸法決めする必要がある。
【0005】
車両をこのようなハイブリッド駆動系により運転した場合、走行快適性を得るために、運転手による内燃機関の始動ができるだけ気付かれないように行われることが不可欠である。すなわち、駆動トルクの増大は、運転手が純粋に電動モータによる走行時に駆動方式に対応して電動モータおよび内燃機関によって共に提供されるべき駆動トルクを要求した場合に、遅延および変動ができるだけわずかとなるように行うべきである。したがって、内燃機関が電動モータによって始動のために引きずられる必要のあるハイブリッド駆動系では、リザーブトルクを設けることは不可避的である。
【0006】
電動モータの最大トルクを電動モータ作動時の走行のために使用できることが望ましい場合、できるだけ外部引きずりトルクを提供することなしに内燃機関を始動することが不可欠である。このことは、例えば内燃機関に付加的なスタータトルクを設けることにより可能である。しかしながら、これには付加的な手間がかかる。
【0007】
さらに、内燃機関をスタータなしに始動することを想定してもよい。このためには、例えば、ドイツ国特許出願公開第10342703号明細書により、燃焼行程に位置するシリンダに燃料を噴射し、点火可能な空気・燃料混合物を形成し、圧縮行程に位置するシリンダで、空気・燃料混合物の点火時に減圧弁を開放し、圧縮力を低減もしくは除去することが既知である。減圧弁は付加的にシリンダに配置されている。しかしながら、付加的な減圧弁の設置は技術的に手間がかかり実際には実施不可能な解決方法である。
【0008】
減圧は、排気弁によって実施することもできる。ドイツ国特許出願公開第10028473号明細書は、弁により制御される内燃機関を減圧するための装置に関する。この装置は線形に変位可能な弁リフタを備え、弁リフタは、カムシャフトに固定された駆動ホイールの内部でU字形の遠心ウェイトに結合されている。回転数が小さい場合には、圧縮ばねとして形成された送り手段が作用し、この送り手段によって弁リフタは軌道に変位される。回転数が大きい場合、遠心ウェイトは送り手段の力に抗して作用し、弁リフタがもはや軌道に位置しないように弁リフタを切欠きに完全に押し込む。
【0009】
ドイツ国特許出願公開第10316058号明細書もカムシャフトで回転可能なピン、カムシャフトに対して相対回動させるためにピンによりカムシャフトで支承された振動質量およびエンジン弁に弁作動力を加えるために振動質量と協働する減圧カムを有する減圧機構を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第10342703号明細書
【特許文献2】ドイツ国特許出願公開第10028473号明細書
【特許文献3】ドイツ国特許出願公開第10316058号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、引きずりトルクなしに内燃機関を始動することができる方法および装置において、付加的な減圧弁を設ける必要がないものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、請求項1に記載の内燃機関をスタータなしに始動するための方法およびその他の独立請求項に記載の装置、エンジンシステム、ハイブリッド駆動系およびコンピュータプログラム製品により解決される。
【0013】
本発明のさらに有利な構成が従属請求項に記載されている。
【0014】
第1の態様によれば、特にハイブリッド駆動系において、内燃機関をスタータなしに始動するための方法が得られる。内燃機関のシリンダの一部は減圧可能なシリンダとして構成されており、シリンダは圧縮行程で減圧可能である。方法は次のステップ:
内燃機関の停止時に:クランクシャフトの最終位置を調節し、停止時の最終位置で減圧可能なシリンダを圧縮行程に位置させるステップと;
内燃機関の停止に続いて始動プロセスが要求された場合に:静止状態で燃焼サイクルに位置する内燃機関のシリンダ内で空気・燃料混合物を点火し、内燃機関を始動するためのトルクを生成し、圧縮行程に位置する減圧可能なシリンダを減圧するステップとを含む。
【0015】
上記方法の思想は、スタータなどの補助なしに(スタータなしに)内燃機関を始動することである。これは、内燃機関で、ピストンが燃焼サイクルの上死点直後の位置にあるシリンダに燃料が噴射され、点火され、これにより、クランクシャフトを運動させるトルクが得られることにより達成される。このようにして得られるクランクシャフトの回転エネルギーは、まず燃焼サイクルに到達したシリンダ内のピストンの上死点を克服し、そこで次のサイクルで燃料を噴射し、点火し、これによりクランクシャフトの回転エネルギーをさらに高めるためには十分である。いずれか1つのシリンダ内の全負荷空気量を圧縮するためにクランクシャフトの回転エネルギーが十分になるとすぐに、次の作業サイクルで、適宜なシリンダ内でエンジンの急速な上昇を確保する全負荷トルクを達成することができる。
【0016】
回転エネルギーが急速に減衰されることを防止するために、第1の点火プロセス、および場合によってはこれに続く点火プロセスで、圧縮行程に位置するシリンダ内の圧縮が除外されることが確保される。これは、このシリンダの吸気弁および排気弁の少なくともいずれかが開放され、これにより、適宜なガスばねによって加えられ、クランクシャフトの回転に抗して作用する逆トルクが防止されることにより達成される。
【0017】
機械制御式の排気弁では、排気弁は規定された図式にしたがって開閉され、これにより、通常は圧縮行程では排気弁の開放は不可能である。したがって、圧縮行程の始動プロセスで排気弁を開放するために一気筒エンジンの技術が用いられる。多気筒エンジンでは、カムシャフトの端部に回動可能なピンが設けられており、このピンには揺動質量体が設けられており、揺動質量体は、カムシャフトに対して相対回動するためにピンによってカムシャフトで支承されており、またエンジンバルブに弁作動力を加えるために揺動質量体と協働する減圧カムが設けられている。
【0018】
吸い込まれた外気の圧力の調節により、特に内燃機関のスロットルバルブの調節により内燃機関の停止時の最終位置を調整することによって、クランクシャフトの最終位置の調節を行うようにしてもよい。
【0019】
さらに、クランクシャフトの最終位置の調節は、内燃機関の被駆動軸を電動式に最終位置に移動することによって行ってもよい。
【0020】
第2の態様によれば、特にハイブリッド駆動系において、内燃機関をスタータなしに始動するための装置が提供され、内燃機関のシリンダの一部は減圧可能なシリンダとして構成されており、シリンダは、圧縮行程で減圧可能である。制御ユニットは:
内燃機関の停止時にクランクシャフトの最終位置を調節し、停止時の最終位置で減圧可能なシリンダが圧縮行程にあり、
内燃機関の停止に続く始動プロセスが要求された場合に、静止状態で燃焼サイクルに位置する内燃機関のシリンダ内で空気・燃料混合物を点火し、内燃機関を始動するためのトルクを生成し、
圧縮行程に位置する減圧可能なシリンダを減圧するように構成されている。
【0021】
別の態様によれば:
複数のシリンダを有する内燃機関であって、内燃機関のシリンダの一部のみが減圧可能なシリンダとして構成されており、シリンダが圧縮行程で減圧可能である内燃機関と、
上記装置とを備えるエンジンシステムが設けられている。
【0022】
さらに、1つのみの減圧可能なシリンダを設けてもよく、減圧可能なシリンダの排気弁は、シリンダの吸気弁および排気弁の機能を制御する内燃機関のカムシャフトに配置された減圧装置によって制御される。
【0023】
減圧装置はカムシャフトの端部に配置されており、弁リフタに遠心ウェイトを備えていてもよく、弁リフタは、カムシャフトの回転数が回転数閾値を下回った場合に圧縮行程で排気弁を開放し、カムシャフトの回転数が回転数閾値を上回った場合に、圧縮行程の排気弁が閉鎖状態に留まるように弁リフタを遠心力により遠心ウェイトへ移動させる。
【0024】
別の態様によれば、上記エンジンシステムと別の駆動部とを備えるハイブリッド駆動系が設けられている。
【0025】
別の態様では、データ処理装置として構成された場合に上記方法を実施するプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品が設けられている。
【0026】
本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づき以下に詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】共通の動力伝達機構を有する内燃機関および電動モータを備えるハイブリッド駆動系を示す概略図である。
【図2】内燃機関を示す概略図である。
【図3】始動プロセスにおける回転数変化を示すグラフである。
【図4】シリンダの減圧を実施するための弁リフタを有するカムシャフトを示す斜視図である。
【図5】始動トルクなしに内燃機関を始動するための方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、車両の動力伝達機構を駆動するためのハイブリッド駆動系1の概略図を示す。ハイブリッド駆動系1は、第1被駆動軸3によって駆動系の動力伝達機構4に結合可能な内燃機関2を備える。第1被駆動軸3は第1クラッチ5を介して電動モータ7の第2被駆動軸6に結合されている。電動モータ7と動力伝達機構4との間には第2クラッチ8が配置されており、第2クラッチ8は、電動モータ7および内燃機関2を動力伝達機構4から分離するか、もしくは動力伝達機構4に結合する。動力伝達機構4は、ハイブリッド駆動系1により供給された駆動トルクをギヤ10を介して駆動ホイール9に分配する。
【0029】
駆動制御ユニット11により、ハイブリッド駆動系1から適宜な形式で、あらかじめ規定された駆動トルクMsollが動力伝達機構4に供給される。このために、駆動制御ユニット11ではハイブリッド駆動系1のための作動対策が実施される。例えば駆動トルクMsollが要求された場合に駆動トルクが電動モータ7のみによって供給されるように作動対策がとられる。このために駆動制御装置11は、第1クラッチ5が開放され、内燃機関2もしくは内燃機関2の被駆動軸3を分離するように第1クラッチ5を制御し、電動モータ7を動力伝達機構4に結合するために第2クラッチ8が閉じられるように制御する。車両を回転駆動させるべき場合を除いて、第2クラッチ8は原則的に閉じられたままである。要求された駆動トルクMsollがあらかじめ規定されたトルク閾値を超過した場合、内燃機関2により付加的な回転トルクを供給し、これにより、要求された駆動トルクMsollは、電動モータ7の駆動トルクと内燃機関2の駆動トルクとにより供給されるようになっている。
【0030】
一般に純粋に電動式の作動時には内燃機関2は停止されるので、要求される駆動トルクMsollが上昇した場合、まず内燃機関2があらかじめ規定されたトルク閾値を超えて始動され、次いで内燃機関2が動力伝達機構4に供給されるトルクのために貢献することができるよう第1クラッチ5を閉じる必要がある。継続的な運転操作時に運転手により要求された駆動トルクMsollが駆動トルク閾値を急激に上回った場合、従来のハイブリッド駆動系1では内燃機関2を始動するために付加的なトルクを電動モータ7によって供給する必要がある。すなわち、駆動制御ユニット11は高められた駆動トルクを供給するために電動モータ7を制御し、同時にクラッチ5を閉じ、これにより、内燃機関2は、電動モータ7によって供給された駆動トルクと動力伝達機構4によって取り込まれたトルクとの差に相当する引きずりトルクを受ける。このため、始動トルクを供給するために十分なトルク余裕を設けることができるように駆動トルク閾値を選択すべきである。このようにしてのみ、内燃機関2を始動するために必要とされる始動トルクは駆動トルクを減衰しないことを補償できるが、これにより、車両の運転操作時の不快な微動が知覚可能になる。このため、電動モータ7は、純粋に電動式の作動によって電動モータ7により供給される駆動トルクを著しく上回る最大トルクを供給するように設計されている必要がある。このことは、電動モータをより大型に設計することにつながり、資源が利用されないことにつながる。そこで、外部トルクの供給なしに内燃機関2を始動することが提案される。
【0031】
図2には、直接噴射による4サイクル式オットーエンジンが概略的に示されている。図2の内燃機関2は4つのシリンダ21を備え、これらのシリンダは異なる作業サイクルに位置している。作業サイクルは、シリンダ21の内部のピストン22の位置および運動方向ならびに吸気弁および排気弁23,24の位置によりそれぞれ規定される。さらに説明するためにシリンダ21にシリンダZ1〜Z4の連番を付す。
【0032】
シリンダZ1に示される吸気サイクルでは、開放された吸気弁23を介して空気が吸気管から吸い込まれる。これは、ピストン22とクランクシャフト25との連結により誘起されるピストン22の下方向運動により得られる。
【0033】
シリンダZ2により示される次の圧縮行程では、ピストン22はクランクシャフト25の回動により燃焼室を縮小する方向に移動させられ、これにより、燃焼室内に位置する空気は吸気弁および排気弁23,24が閉じられた状態で圧縮される。圧縮は、ピストン22が上死点を超えるまで行われる。
【0034】
上死点を過えるとすぐに、噴射弁26による燃料の直接噴射により空気・燃料混合物が燃焼室内に形成され、空気・燃料混合物は点火プラグ27によって点火される。この燃焼サイクルでは、ピストンを下死点の方向に駆動する燃焼圧力が生じ、これにより、ピストンに結合されたクランクシャフト25でトルクが生成される。
【0035】
ピストン22が移動時して燃焼サイクル後に下死点を超過するとすぐに、燃焼室を縮小するためのピストン22の上方向移動により排気弁24が開放された状態で燃焼排ガスが排出サイクルで排出される。
【0036】
次いでシリンダZ1に関して説明したプロセスが新たに始まる。
【0037】
このような内燃機関2を始動するためには、一般にシリンダ内で吸い込まれた空気の圧縮を達成するためにはクランクシャフト25を回転に移行させる外部の引きずりトルクが必要とされる。したがって、燃焼により誘起されたトルクはクランクシャフト25をさらに加速するために十分である。燃焼サイクルに位置するシリンダ内に燃料を噴射することより、シリンダの燃焼室で空気が圧縮されない場合でもトルクを生成することはできるが、このトルクは、一般に、吸い込まれた空気(シリンダZ2)を圧縮するために不可欠な圧縮トルクを生成するためには不十分であり、したがって、外部の引きずりトルクなしに内燃機関2を始動することは一般に不可能である。
【0038】
このことは、内燃機関2の始動段階で、内燃機関の始動前に燃焼サイクルに位置するシリンダ内に空気充填率を低減してトルクを生成し、同時に圧縮行程に位置するシリンダの圧縮トルクが同時に減衰または除去されることによって克服される。これは、当該シリンダの圧縮行程で(この場合、シリンダZ2)排気弁24が開放され、シリンダ内の空気の圧縮が許可されないことにより達成される。クランクシャフト25には、一般にトルクによって克服することのできる摩擦トルクのみが作用し、これにより、既に始動後の第1燃焼サイクルにより著しいトルク上昇が生じる。
【0039】
圧縮行程に位置するシリンダの減圧は、減圧装置によって行われる。減圧装置は、電子制御式の吸気弁および排気弁23,24では駆動制御ユニット11に設け、これにより、圧縮行程に位置するシリンダの排気弁もしくは吸気弁23,24は、燃焼サイクルに位置するシリンダ内における燃焼点火直後に開放され、これにより、圧縮行程でシリンダの燃焼室内の減圧が行われる。シリンダの点火順序は上にZ1−Z2−Z3−Z4として説明されている。しかしながら、上述の順序とは異なっていてもよい。例えば、点火順序はZ1−Z3−Z4−Z2であってもよい。
【0040】
図3には、内燃機関2の始動段階における回転数が概略的に示されている。シリンダZ3における第1点火の結果として回転数が増大していることがわかる。シリンダZ2における空気・燃料混合物の第2の点火まで、シリンダZ2のピストン22が上死点を超過し、燃焼サイクルに到達する前に回転数は再び幾分減少する。シリンダZ2で行われた燃焼は、その前にシリンダZ3で行われた燃焼と同様に、実質的に周辺圧力である空気・燃料混合物によって得られる。しかしながら、第2の燃焼は、クランクシャフト25が第1の燃焼により既に所定回転数に到達した場合にトルクを提供する。いま次の燃焼が、シリンダZ1で吸い込まれた空気の圧縮により得られ、これにより、シリンダZ1で行われる燃焼は、いま圧縮された空気・燃料混合物によって得られる。
【0041】
一般に、内燃機関には電子式の吸気弁および排気弁23,24は設けられていない。その代わりに、内燃機関は、クランクシャフト25に連結されたカムシャフトによって、クランクシャフト25の位置に関係して機械式に操作される。こうした場合、減圧は機械的作用によって実施する必要がある。一気筒内燃機関における吸気弁および排気弁23,24の機能の機械式構成は従来技術に対応し、当該シリンダの減圧も機械的手段によって達成することが望ましい。
【0042】
図4に示すように、例えば小型モータサイクルで使用するための一気筒エンジンでは、カムシャフト40の端部に線形に支承可能な弁リフタ41を設けてもよい。カムシャフト40は弁調整器42に配設さており、カムシャフト40に所定のように配置された突起もしくは隆起部がカムシャフト40の回動時に弁ばね43のばね力に抗して弁調節部42を移動させる。弁リフタ41は、遠心ウェイト44に結合されており、(図示しない)圧縮ばねに対して半径方向に可動に配置されている。弁リフタ41は送り手段を有し、送り手段は、回転数が小さい場合に作用し、半径方向にカムシャフト40を超えてスライドされ、軌道に変位され、対応した排気弁のための弁調整器42を操作する。回転数が大きい場合、遠心ウェイトは圧縮ばねの力に抗して作用し、もはや軌道に位置しなくなるように弁リフタ41を切欠き内に完全に押し込む。
【0043】
弁リフタ41は、初期状態、すなわち、カムシャフトの停止状態で送出され、圧縮可能なシリンダの対応した排気弁を操作する。しかしながら、このような機械的な配置は内燃機関のシリンダのためにのみ実施可能である。なぜなら、このような構成は、カムシャフトの端部にのみ配置することができるからである。
【0044】
図5には、内燃機関をスタータなしに始動するための方法のフロー図が示されている。ステップS1で、内燃機関2の停止時にカムシャフト25が、減圧可能なシリンダ、この場合には弁リフタにより排気弁を制御することができるシリンダが圧縮行程に位置するように位置決めされる。ステップS2では、内燃機関を始動するための要求が認識された場合(選択肢:はい)に、ステップS3で空気・燃料混合物が燃焼サイクルに位置するシリンダで生成される。この空気・燃料混合物はステップ4で点火され、同時に、またはまだ燃焼サイクル内で、減圧可能なシリンダがステップS5で減圧され、内燃機関2の抵抗の小さい始動が許可される。
【0045】
内燃機関2が、停止時に別のシリンダ、例えば減圧不能なシリンダが圧縮行程に位置する配置で停止した場合、内燃機関のスタータなしの始動を実施するために減圧を行うことはできない。したがって、駆動制御ユニット11により制御して、減圧可能なシリンダが圧縮行程に位置する状態で内燃機関が常に静止状態となるように停止時に内燃機関を保持することが望ましい。有利には、減圧可能なシリンダのピストンは、ピストン運動の下死点後に70〜150°の範囲、有利には90°〜130°の範囲、特に100〜110°の範囲に位置し、または燃焼サイクルに位置するシリンダは、上死点後に70〜150°、有利には90〜130°、特に100〜110°に位置する。
【0046】
内燃機関2の制御された保持は、内燃機関2の停止時にスロットルバルブを対応して調節することによって行うことができる。スロットルバルブによって、吸気管内の圧力が制御され、これにより、内燃機関1を静止状態に到達させる逆トルクは、所定位置でクランクシャフト25を保持する。クランクシャフトの位置決めは、自動制御式回転数センサによって行うことができ、内燃機関の停止時にスロットルバルブがクランクシャフト角度に関係して制御され、これにより生じる内燃機関2のより大きいまたはより小さい絞りにより、クランクシャフト25は望ましい位置で静止状態となる。この停止制御は制御ユニット11によって実施され、制御ユニット11は、通常運転時には、要求される目標トルクMsollによって決定されるシリンダ内の空気充填率に対応してスロットルバルブを制御する。
【0047】
様々な理由から、内燃機関の静止状態は、内燃機関をスタータなしに始動するためには不適切な不都合なカムシャフト位置で行われる場合がある。この場合、ハイブリッド駆動系では車両の静止状態で、または電動モータによって供給される低い駆動トルク、すなわち、あらかじめ規定された閾値を下回る駆動トルクによる作動時に内燃機関2が第1クラッチ5の短時間の連結および電動モータ7の適宜な制御により付加的な引きずりトルクを供給するためにスタータなしの始動に適した位置に移動させられる。
【符号の説明】
【0048】
1 ハイブリッド駆動系
2 内燃機関
3 第1被駆動軸
4 動力伝達機構
5 第1クラッチ
6 第2被駆動軸
7 電動モータ
8 第2クラッチ
9 駆動ホイール
10 ギヤ
11 駆動制御ユニット
21,Z1,Z2,Z3,Z4 シリンダ
22 ピストン
23,24 排気弁
25 クランクシャフト
26 噴射弁
27 点火プラグ
40 カムシャフト
41 弁リフタ
42 弁調整器
43 弁ばね
44 遠心ウェイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にハイブリッド駆動系(1)で、内燃機関(2)をスタータなしに始動するための方法であって、前記内燃機関(2)のシリンダ(21)の一部が減圧可能なシリンダとして構成されており、該シリンダが圧縮行程で減圧可能である方法において、次のステップ:
前記内燃機関(2)の停止時に、クランクシャフト(25)の最終位置を調節し、停止時の最終位置で減圧可能なシリンダを圧縮行程に位置させるステップと;
前記内燃機関(2)の停止に続いて始動プロセスが要求された場合に、静止状態で燃焼サイクルに位置する前記内燃機関(2)の前記シリンダ(21)内で空気・燃料混合物を点火し、これにより、内燃機関(2)を始動するためのトルクを生成し、圧縮行程に位置する減圧可能なシリンダを減圧するステップとを備えることを特徴とする、内燃機関(2)をスタータなしに始動するための方法。
【請求項2】
吸い込まれた外気の圧力の調節により、特に前記内燃機関(2)のスロットルバルブの調節により内燃機関(2)の停止時の最終位置を調整することによって前記クランクシャフト(25)の最終位置の調節を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記内燃機関(2)の被駆動軸(3)を電動式に最終位置に移動することによって前記クランクシャフト(25)の最終位置の調節を行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
特にハイブリッド駆動系(1)で、内燃機関(2)をスタータなしに始動するための装置であって、前記内燃機関(2)のシリンダ(21)の一部が減圧可能なシリンダ(21)として構成されており、該シリンダ(21)が圧縮行程で減圧可能である装置において、該装置が制御ユニット(11)を備え、該制御ユニット(11)が:
前記内燃機関(2)の停止時に、クランクシャフト(25)の最終位置を調節し、停止時の最終位置で減圧可能なシリンダを圧縮行程に位置させ、
前記内燃機関(2)の停止に続く始動プロセスが要求された場合に、静止状態で燃焼サイクルに位置する前記内燃機関(2)の前記シリンダ(21)内で空気・燃料混合物を点火し、これにより、内燃機関(2)を始動するためのトルクを生成し、
圧縮行程に位置する減圧可能なシリンダを減圧するように構成されていることを特徴とする、内燃機関(2)をスタータなしに始動するための装置。
【請求項5】
複数のシリンダ(21)を有する内燃機関(2)であって、該内燃機関のシリンダ(21)の一部のみが減圧可能なシリンダとして構成されており、該シリンダが圧縮行程で減圧可能である内燃機関(2)と、
請求項4に記載の装置とを備えることを特徴とする、エンジンシステム(1)。
【請求項6】
1つのみの減圧可能なシリンダが設けられており、該減圧可能なシリンダの排気弁(24)が、減圧装置(41)によって制御されており、該減圧装置が、前記シリンダ(21)の吸気弁および排気弁(23,24)の機能を制御する前記内燃機関(2)のカムシャフト(40)に配置されている、請求項5に記載のエンジンシステム(1)。
【請求項7】
前記減圧装置が、前記カムシャフト(40)の端部に配置されており、弁リフタ(41)に遠心ウェイト(44)を備え、前記弁リフタ(41)が、前記カムシャフト(40)の回転数が回転数閾値を下回った場合に圧縮行程で前記排気弁(24)を開放し、カムシャフト(40)の回転数が回転数閾値を上回った場合に、圧縮行程で前記排気弁(24)が閉鎖状態に留まるように、弁リフタ(41)を遠心力により遠心ウェイト(44)へ移動させる、請求項6に記載のエンジンシステム。
【請求項8】
請求項6または7に記載のエンジンシステムと、
別の駆動部とを備えることを特徴とする、ハイブリッド駆動系(1)
【請求項9】
データ処理装置に構成された場合に、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法を実施するプログラムコードを含むことを特徴とする、コンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−206713(P2012−206713A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−71722(P2012−71722)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】