説明

磁気メモリ素子

【課題】低い消費電力で動作する磁気メモリ素子の実現。
【解決手段】垂直磁化膜であって情報に対応して磁化の向きが変化する記憶層と、記憶層に対して非磁性層を介して設けられる垂直磁化膜であって磁化方向が固定されて記憶された情報の基準となる参照層とを有する磁気メモリ素子に、磁化が膜面内に環状とされた渦磁化層を設けるようにする。渦磁化層は、記憶層の、参照層側の面とは反対側の面に対して、非磁性層を介して設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶層と参照層となる複数層の垂直磁化膜が非磁性体を介して積層され、その層間に電流を流した際に発生するスピントルクで磁化反転を行って情報を記憶する磁気メモリ素子に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2004−193595号公報
【特許文献2】特開2009−81215号公報
【背景技術】
【0003】
コンピュータなどの情報機器ではRAM(ランダム・アクセス・メモリ)として、動作が高速で、高密度なDRAM(Dynamic Random Access Memory)が広く使われている。しかし、DRAMは電源を切ると情報が消えてしまう揮発性メモリであるため、情報が消えない不揮発のメモリが望まれている。
不揮発メモリの候補として、磁性体の磁化で情報を記憶するMRAM(磁気ランダム・アクセス・メモリ)が注目され、開発が進められている。
MRAMの記憶を行う方法としては、電流磁場によって磁化を反転させる方法や、例えば上記特許文献1のようにスピン分極した電子を直接記憶層に注入して磁化反転を起こさせる方法がある。特に、素子のサイズが小さくなるのに伴い記憶電流を小さくできるスピン注入磁化反転が注目されている。
さらに、素子を微細化するために、例えば特許文献2のように磁性体の磁化方向を垂直方向に向けた垂直磁化膜を用いた方法が検討されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、さらに高密度の磁気メモリを実現するためには、より低い消費電力で動作する磁気メモリ素子が求められている。
本発明は、このような認識に基づいてなされたもので、低い電圧、電流で動作可能な磁気メモリ素子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の磁気メモリ素子は、膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化される記憶層と、上記記憶層に対して非磁性層を介して設けられ、膜面に垂直な磁化を有すると共に情報の基準となる参照層と、磁化が膜面内に環状とされた渦磁化層とを有する層構造を備え、上記記憶層、上記参照層、上記渦磁化層を有する層構造に対して電流を流した際に発生するスピントルクで上記記憶層の磁化反転を行って情報を記憶する。
また上記渦磁化層は、上記記憶層の、上記参照層側の面とは反対側の面に対して、非磁性層を介して設けられている。
また上記渦磁化層は、Fe、CoあるいはNiの少なくとも一つを主成分とする金属相とMgO、Al23あるいはSiO2の少なくとも一つを主成分とする酸化物相との混合材料で形成される。
【0006】
このような本発明は、垂直磁化を有する参照層と記録層とを非磁性層を介して積層した磁気メモリ素子であるが、これに渦磁化層を備えるようにする。例えば記録層に対して、参照層側と反対側に非磁性層を介して、磁化方向が面内に環状に閉じた磁化状態の磁性層(渦磁化層)を形成する。このようにすると、磁化反転の電圧、電流が顕著に低下し、より低い電圧、電流で記録可能な磁気メモリ素子を実現できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、低電圧、低電流で動作可能な不揮発性メモリを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態の磁気メモリ素子を用いた磁気メモリの説明図である。
【図2】実施の形態の磁気メモリ素子の構造の説明図である。
【図3】実施の形態の渦磁化層の磁化状態の説明図である。
【図4】平行配列の磁化状態と環状磁化状態が形成されたときの磁気力顕微鏡像による説明図である。
【図5】CoFeB単体およびCoFeBとMgOの混合膜で膜厚を変えたときに形成される磁化状態の説明図である。
【図6】実施例と比較例の膜構成の説明図である。
【図7】実施例と比較例のパルス記録特性を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を次の順序で説明する。
<1.磁気メモリ構造の概略>
<2.実施の形態の磁気メモリ素子の構造例>
<3.実施例>
【0010】
<1.磁気メモリ構造の概略>

まず、本発明の実施の形態の磁気メモリ素子が用いられる磁気メモリの構造を説明する。図1は磁気メモリの構造の概略を模式的に示したものである。
磁気メモリ10は、互いに交叉する2種類のアドレス様の配線、例えばワード線とビット線とを備え、その交点付近で、これら2種類の配線の間に磁気メモリ素子1が配置されて成る。この磁気メモリ素子1が、後述する本実施の形態としての構造を備えるものとなる。
【0011】
磁気メモリ10においては、例えばSi等の半導体基板の素子分離層2によって分離された領域に、各磁気メモリ素子1を選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域8、ソース領域7、ゲート電極3がそれぞれ形成される。
ゲート電極3は、図中前後方向に伸びる一方のアドレス用の配線(例えばワード線)を兼ねている。
ドレイン領域8は、図中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域8には、配線9が接続されている。
【0012】
そして、ソース領域7と、上方に配置された図中左右方向に延びる他方のアドレス用の配線(例えばビット線)6との間に、磁気メモリ素子1が配置される。この磁気メモリ素子1は、垂直磁化を有しスピン注入により磁化の向きが反転する強磁性層から成る記憶層と、この記憶層に記憶された情報の基準となる磁化方向を有する参照層を備える。
【0013】
そしてこの磁気メモリ素子1は、2種類のアドレス用の配線となるゲート電極3及び配線6の交点付近に配置され、上下のコンタクト層4を介して接続される。これにより、2種類の配線、すなわちゲート電極3及び配線6を通じて、磁気メモリ素子1に上下方向の電流を流して、スピン注入により、記憶層の磁化の向きを情報に対応して反転させることができる。
なお、この図1の構造は磁気メモリの説明のための一例に過ぎない。例えば磁気メモリ素子1の上のコンタクト層4を設けずに配線6が形成される場合もある。
【0014】
<2.実施の形態の磁気メモリ素子の構造例>

上述したように本発明では、垂直磁化膜を用いた磁気メモリ素子において、より低い電圧、電流で動作できるようにすることを目的とする。
本願発明者らは、この目的を達成するために検討を重ねた結果、垂直磁化を有する参照層と記憶層とを、非磁性層を介して積層した磁気メモリ素子において、次のように構成することが好適なことを見いだした。
即ち記録層に近接して、磁化方向が面内に環状に閉じた磁化状態の磁性層(渦磁化層)を形成する。より具体的には、記録層に対して、参照層側と反対側に非磁性層を介して、渦磁化層を形成する。すると、磁化反転の電圧、電流が顕著に低下し、より低い電圧、電流で記録可能な磁気メモリ素子を実現できる。
【0015】
図2(a)に、本発明の実施の形態の磁気メモリ素子1の構造例を示す。図2(a)は円柱形状の磁気メモリ素子を模式的に示している。
図2(a)に示すように、垂直磁化を有する本実施の形態の磁気メモリ素子1は、図示しない下部電極と上部電極の間に、参照層(磁化固定層)12、非磁性層(トンネルバリア層)13、記憶層14、非磁性層15、渦磁化層16が積層されている。
図2(a)における記憶層14、参照層12、渦磁化層16内の矢印は磁化方向を示している。例えば参照層12は磁化方向が固定で、記憶層14はスピン注入により垂直磁化方向が反転することを表している。そして渦磁化層16については、磁化方向が面内に環状に閉じた磁化状態となっていることを表している。
【0016】
記憶層14は、磁化方向が層面垂直方向に自由に変化する磁気モーメントを有する強磁性体から構成されている。参照層12は、磁化が膜面垂直方向に固定された磁気モーメントを有する強磁性体から構成されている。
情報の記憶は一軸異方性を有する記憶層14の磁化の向きにより行う。書込みは、膜面垂直方向に電流を印加し、スピントルク磁化反転を起こすことにより行う。このように、スピン注入により磁化の向きが反転する記憶層14に対して、下層に磁化固定層としての参照層12が設けられ、記憶層14の記憶情報(磁化方向)の基準とされる。
【0017】
参照層12は情報の基準であるので、記録や読み出しによって磁化の方向が変化してはいけないが、必ずしも特定の方向に固定されている必要はなく、記録層よりも保磁力を大きくするか、膜厚を厚くするか、あるいは磁気ダンピング定数を大きくして記録層よりも動きにくくすればよい。
磁化を固定する場合にはPtMn、IrMnなどの反強磁性体を参照層12に接触させるか、あるいはそれらの反強磁性体に接触した磁性体をRu等の非磁性体を介して磁気的に結合させ、参照層12を間接的に固定しても良い。
参照層として適した材料としてはCo/Pd、Co/Pt、Co/Ni等の連続積層膜、FePt,FePd、CoPtなどの合金膜、あるいはTbFeCo等の非晶質膜がある。
【0018】
記録層14としても上記の参照層12と同じ垂直異方性を有する磁性材料が適用可能である。例えばTbCoFe等の希土類−遷移金属合金、Co/Pd多層膜等の金属多層膜、FePt等の規則合金がある。
保磁力を低下させたり磁気ダンピング定数を低下させるために、組成の調整や、あるいは添加元素を加えたりしてもよい。
【0019】
非磁性層13、15としてはCu、Ag等の金属膜、Al23、TiO2、MgO等の酸化物膜が利用可能である。
【0020】
記憶層14に対して、非磁性層15を介して渦磁化層16が配される。渦磁化層16は磁化方向が面内に環状に閉じた磁化状態となっている。渦磁化層16は、Fe、CoあるいはNiの少なくとも一つを主成分とする金属相とMgO、Al23あるいはSiO2の少なくとも一つを主成分とする酸化物相との混合材料で形成される。
例えば円状、あるいはアスペクト比の小さな楕円状(円に近い楕円)の磁性体の厚さを厚くしていくと、ある程度の厚さで環状に閉じた磁化状態が現れる。環状磁化が現れる条件は磁性体の飽和磁束密度、磁気異方性、磁性粒間の磁気的相互作用の強さなどに依存する。
磁性膜をある程度厚くすると、FeやCo基の一般的な材料は環状磁化が形成されるが、素子サイズが小さくなると、環状磁化が形成されにくくなる。環状磁化を形成しやすくするには、Fe,Co基の金属磁性体とMgO、Al23、SiO2等の金属磁性体と相互拡散しにくい酸化物材料との混合物を用いると効果的である。
【0021】
図3は環状磁区を形成した渦磁化層16の磁化状態の例を模式的に示した図で、図3(a)は円状の素子、図3(b)は四角状の素子の例を示している。
図は左巻きの磁化を示しているが、右巻きでも同様な磁化が形成できる。
【0022】
なお、図2(a)では、参照層12が下に、記憶層14が上に配置された場合を示すが、図2(b)のように記憶層14が下、参照層12が上でもかまわない。その場合、渦磁化層16は、記憶層14の下方に非磁性層15を介して形成されるようにする。即ち図示しない下部電極から上方に、渦磁化層16、非磁性層15、記憶層14、非磁性層13、参照層12が配置され、参照層12の上方に図示しない上部電極が配される。
【0023】
また垂直磁化の記憶層14を有する磁気メモリ素子1の記憶層14の形状は円柱状あるいは若干上幅が狭まった円錐台状が好ましく、楕円柱状や楕円錐台状としてもアスペクト比の小さなものが好ましい。
参照層12の形状は記憶層14と同じ形状に形成されていてもよいが、参照層12が下の場合、記憶層14よりも大きければ形状は任意でかまわない。
また図示しないが、通常は磁気メモリ素子1の周囲は絶縁層で埋め込まれている。
【0024】
<3.実施例>

本発明の実施例を以下に示す。
磁気メモリ素子1に用いる渦磁化層16を形成するために、磁性膜の材料と厚さ、磁化状態を調べた。
磁化状態の測定は直径150nmの円板状に形成した単体の磁性層を磁気力顕微鏡(MFM)によって観察した。観察の際、磁化の方向を安定させるために面内に100Oeの磁場をかけて行った。
【0025】
図4(a)に、一方向に磁化が揃った状態のMFM像を示し、図4(b)に環状の磁化状態のMFM像の例を示す。図中に測定した試料の形状を加えて示す。
磁化が一方向に揃っている場合には磁化の両極に対応する濃淡が観察されるが、環状磁区が形成されると磁化の濃淡はほとんど見えなくなる。つまり磁極がなくなっている状態である。
【0026】
図5に、Co50Fe3020単体の膜の場合と、Co50Fe3020に30%の体積率でMgOを混ぜた膜の場合で、それぞれで厚さを変えたもので、磁化状態を調べた結果を示す。ここでは、一方向に揃った磁化と思われるMFM像が観察された場合は×、環状磁区と思われるMFM像が観測された場合には○、どちらとも判別できない場合には△とした。
Co50Fe3020単体の磁性膜の場合、厚み15nm以上で環状磁区が観測されたことに対し、MgOを加えた場合、厚み5nm以上で環状磁区が観測された。つまりMgOを加えた磁性膜を用いると、薄い膜厚で、環状磁区が形成され、渦磁化層16の厚さを薄くできる。
【0027】
次に磁気メモリ素子1の実施例を示す。
図6(a)に実施例の磁気メモリ素子1の膜構成(素子の層構造)を示す。また図6(b)は比較例の膜構成である。
図6(a)の実施例の磁気メモリ素子1は、下部電極17と上部電極18の間に、図2(a)に示したように、参照層12、非磁性層13、記憶層14、非磁性層15、渦磁化層16が積層された層構造である。
なお、図中のCoFeBの組成は全てCo50Fe3020である。
【0028】
下部電極17(及び保護層)の一部として5nm厚のTa膜を設けた。
その上面に参照層12として、20nm厚のTbFeCo膜と、2nm厚のCoFeB膜を設けた。TbFeCoは、TbとFe50Co50を極薄い周期で積層して合金化して、CoFeBと共に参照層12を形成するように保磁力が10kOe以上になるよう組成を調整した。
非磁性層13として0.8nm厚のMgO膜を形成した。
記憶層14として、1nm厚のCoFeB膜と、3nm厚のGdFeCo膜を設けた。この記憶層14では、GdFeCoは、GdとFeCoを積層してCoFeBとの積層膜で保磁力が1kOe程度になるように調整した。
非磁性層15として1nm厚のTi−O膜を形成した。Ti−O膜はTiを成膜後プラズマ酸化によって形成した。
渦磁化層16として、7nm厚のCoFeB―MgO膜を形成した。MgOの体積率は30%とした。
渦磁化層16の上は、上部電極18(及び保護層)の一部として5nm厚のTa膜を設けた。
このような構成の膜を直径120nmの円板状に形成して素子化した。
なお、図6(b)の比較例は、実施例の構成から渦磁化層16(CoFeB―MgO膜)を除いた層構造である。
【0029】
図7に実施例と比較例の各磁気メモリ素子における、印加パルス電圧とパルス印加後の抵抗のプロットを示す。パルス幅は100nmとした。
この図7から、実施例の場合は、比較例に対して磁化の反転に必要な電圧が低くなることがわかる。
素子の抵抗は実施例、比較例とも大きく違わないので、実施例の磁気メモリ素子では電流も低減していて、小さな消費電力で記録が行えていることが理解される。
【0030】
以上の説明からわかるように、実施の形態の磁気メモリ素子1は以下の構成及び効果を有することとなる。
即ち磁気メモリ素子1は、膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化する記憶層14と、記憶層14に対して非磁性層13を介して設けられ、膜面に垂直な磁化を有すると共に情報の基準となる参照層12を有する。そして非磁性層13を介して参照層12と記憶層14との間に電流を流した際に発生するスピントルクで記憶層14の磁化反転を行う。
そしてさらに磁化が膜面内に環状とされた渦磁化層16を有する。渦磁化層16は、記憶層14の、参照層12側の面とは反対側の面に対して、非磁性層15を介して設けられる。
このような構成の磁気メモリ素子1では、記憶層14の磁化反転に必要な電圧、電流が低減でき、低電力で記録可能な磁気メモリ素子を実現できる。
【0031】
以上、実施の形態について説明してきたが、本発明の磁気メモリ素子1の形状、各層の厚み、膜材料等は上記例に限られず、多様な例が考えられる。
【符号の説明】
【0032】
1 磁気メモリ素子、12 参照層、13 非磁性層、14 記憶層、15 非磁性層、16 渦磁化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化される記憶層と、
上記記憶層に対して非磁性層を介して設けられ、膜面に垂直な磁化を有すると共に情報の基準となる参照層と、
磁化が膜面内に環状とされた渦磁化層と、
を有する層構造を備え、
上記記憶層、上記参照層、上記渦磁化層を有する層構造に対して電流を流した際に発生するスピントルクで上記記憶層の磁化反転を行って情報を記憶する磁気メモリ素子。
【請求項2】
上記渦磁化層は、上記記憶層の、上記参照層側の面とは反対側の面に対して、非磁性層を介して設けられている請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項3】
上記渦磁化層は、Fe、CoあるいはNiの少なくとも一つを主成分とする金属相とMgO、Al23あるいはSiO2の少なくとも一つを主成分とする酸化物相との混合材料で形成される請求項2に記載の磁気メモリ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−43913(P2012−43913A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182704(P2010−182704)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】