説明

磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置

【課題】絶縁層の絶縁性を保ちつつ導電部の導電性を向上し、MR変化率の高いCCP−CPP型の磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】強磁性体を含む第1磁性層と、強磁性体を含む第2磁性層と、前記第1、第2磁性層の間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する導電部とを含むスペーサ層と、を有する磁気抵抗効果素子の製造方法であって、スペーサ層の母材となる膜を形成する第1工程と、前記膜に、酸素分子、酸素イオン、酸素プラズマ及び酸素ラジカルの少なくともいずれかを含むガスを用いた第1処理を施す第2工程と、前記第1処理が施された前記膜に、窒素分子、窒素原子、窒素イオン、窒素プラズマ及び窒素ラジカルの少なくともいずれかを含むガスを用いた第2処理を施す第3工程と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置に関し、特に、磁気抵抗効果膜の膜面の垂直方向にセンス電流を流して磁気を検知する磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto-Resistive Effect:GMR)を用いることで、磁気デバイス、特に磁気ヘッドの性能が飛躍的に向上している。特に、スピンバルブ膜(Spin-Valve:SV膜)の磁気ヘッドやMRAM(Magnetic Random Access Memory)などへの適用は、磁気デバイス分野に大きな技術的進歩をもたらした。
【0003】
「スピンバルブ膜」は、2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層を挟んだ構造を有する積層膜であり、スピン依存散乱ユニットとも呼ばれる。この2つの強磁性層の一方(「ピン層」や「磁化固着層」などと称される)の磁化が反強磁性層などで固着され、他方(「フリー層」や「磁化自由層」などと称される)の磁化が外部磁界に応じて回転可能である。スピンバルブ膜では、ピン層とフリー層の磁化方向の相対角度が変化することで、電気抵抗が変化する。この変化量をMR(MagnetoResistance)変化率と呼び、これは素子の出力に相当するものである。
【0004】
スピンバルブ膜を用いた磁気抵抗効果素子には、CIP(Current In Plane)−GMR素子、TMR(Tunneling MagnetoResistance)素子、CPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR素子が提案されている。これらの内、最初に実用化されたものはCIP−GMR素子である。これはセンス電流を膜面平行に流す形式で、ヘッドのサイズが大きかった時期に実用化された。しかしHDDの記録密度が上がるにつれてヘッドのサイズが小さくなってくると、発熱等が問題となり、膜面垂直にセンス電流を流す形式のTMR素子が次いで実用化された。TMR素子は、センス電流が小さくて済み、出力が大きいことがメリットである。ところがTMR素子では絶縁バリアのトンネル電流を用いるため、概して素子の抵抗が高い。さらに高記録密度化が進み、ヘッドのサイズが小さくなる将来、素子の抵抗を下げられないことが問題となってくる。
【0005】
そこで、この問題を解決すべく、CPP−GMR素子の提案がなされている。CPP−GMR素子は、金属伝導による磁気抵抗効果を利用するため、素子の抵抗が元来低い。これがTMR素子に対するメリットである。
【0006】
ところが、スピンバルブ膜が金属層で形成されたメタルCPP−GMR素子では、磁化による抵抗変化量が小さく、微弱磁界(例えば、高記録密度の磁気ディスクでの磁界)を電気信号に変換するのは困難である。
【0007】
これに対し、スペーサとして、厚み方向への導電部を含む酸化物層[NOL(nano-oxide layer)]を用いたCPP素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この素子では、電流狭窄[CCP(Current-confined-path)]効果によりMR変化率を増大できる。以下、この素子をCCP−CPP素子と呼ぶ。
【0008】
しかしながら、今後、磁気記憶装置の使用用途がさらに広がり、高密度記録化が進むと予測され、その場合にはさらなる高出力を有する磁気抵抗効果素子を提供することが必要となる。
【0009】
CCP−CPP素子の場合、スペーサで電流が狭窄されるため、導電部における電気伝導の、GMR効果への寄与が非常に大きい。具体的には、導電部の電気抵抗が低いほどMR変化率は高くなることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
また、これを実現するためのひとつの手段として、スペーサの作製方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、将来要求されると予測されるMR変化率を達成するには、さらなる工夫が必要である。すなわち、絶縁層の絶縁性を保ちつつ、導電部の導電性をさらに向上して、さらにMR変化率を向上する技術の開発が望まれる。
【0010】
導電部の電気抵抗をさらに低くする手段として、導電部を構成する非磁性金属に混入する不純物を減少させる方法がある。不純物の中でも、酸素不純物を減らすことで、電気抵抗を低減させることができる。酸素不純物を減らすためには、導電部を還元することが有効である。真空チャンバ中におけるガスによる還元効果は、例えば、半導体装置等に用いられる銅配線において、酸化銅を水素プラズマで処理して除去する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2002−208744号公報
【特許文献2】特開2006−54257号公報
【特許文献3】米国特許第6033584号明細書
【非特許文献1】IEEE Trans. Magn. 40 p.2236, (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、絶縁層の絶縁性を保ちつつ導電部の導電性を向上し、MR変化率の高いCCP−CPP型の磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、強磁性体を含む第1磁性層と、強磁性体を含む第2磁性層と、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する導電部とを含むスペーサ層と、を有する磁気抵抗効果素子の製造方法であって、前記スペーサ層の母剤となる膜を形成する第1工程と、前記膜に、酸素分子、酸素イオン、酸素プラズマ及び酸素ラジカルの少なくともいずれかを含むガスを用いた第1処理を施す第2工程と、前記第1処理が施された前記膜に、窒素分子、窒素原子、窒素イオン、窒素プラズマ及び窒素ラジカルの少なくともいずれかを含むガスを用いた第2処理を施す第3工程と、を備えたことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の他の一態様によれば、上記の磁気抵抗効果素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする磁気抵抗効果素子が提供される。
【0014】
また、本発明の他の一態様によれば、上記の磁気抵抗効果素子を一端に搭載するサスペンションと、前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームと、を備えたことを特徴とする磁気ヘッドアセンブリが提供される。
【0015】
また、本発明の他の一態様によれば、上記の磁気ヘッドアセンブリと、前記磁気ヘッドアセンブリに搭載された前記磁気抵抗効果素子を用いて情報が記録される磁気記録媒体と、を備えたことを特徴とする磁気記録再生装置が提供される。
【0016】
また、本発明の他の一態様によれば、上記の磁気抵抗効果素子をマトリクス状に配置したことを特徴とする磁気記録再生装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、絶縁層の絶縁性を保ちつつ導電部の導電性を向上し、MR変化率の高いCCP−CPP型の磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
また、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子の構成を例示する模式的斜視図である。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の具体例を例示するフローチャート図である。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
すなわち、同図(a)は最初の工程であり、同図(b)は同図(a)に続く図であり、同図(c)は同図(b)に続く図であり、同図(d)は同図(c)に続く図である。
【0020】
以下では、まず、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子101について説明する。
【0021】
図2に表したように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子101は、スペーサ層16が、絶縁層161と、絶縁層161の厚み方向へ電流パスを形成する導電部162と、を有するCCP−CPP素子である。
【0022】
磁気抵抗効果素子101は、下電極11と、上電極20と、下電極11と上電極20との間に設けられた磁気抵抗効果膜10と、を有し、図示しない基板上に設けられる。
【0023】
磁気抵抗効果膜10においては、下地層12、ピニング層(反強磁性層)13、ピン層14、下部金属層15、スペーサ層(CCP−NOL)16(絶縁層161、導電部162)、上部金属層17、フリー層18、及び、キャップ層(保護層)19が、順に積層されて構成される。すなわち、磁気抵抗効果素子101は、ピン層14がフリー層18よりも下に位置するボトム型のCCP−CPP素子の一例である。ピン層14は、下部ピン層141、反平行磁気結合層(磁気結合層)142及び上部ピン層143を有する。
【0024】
この内、ピン層14、下部金属層15、スペーサ層16及び上部金属層17、並びに、フリー層18が、2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層を挟んでなるスピンバルブ膜に対応する。また、下部金属層15、スペーサ層(CCP−NOL)16及び上部金属層17の全体が広義のスペーサ層16sとして定義される。なお、見やすさのために、スペーサ層16はその上下層(下部金属層15及び上部金属層17)から切り離した状態で表している。
【0025】
スペーサ層(CCP−NOL)16は、絶縁層161と、絶縁層161を貫通する導電部162(金属膜)と、を有する。
【0026】
このように、磁気抵抗効果素子101は、第1磁性層となるピン層14と、第2磁性層となるフリー層18と、前記第1磁性層と第2磁性層との間に設けられ、絶縁層161と前記絶縁層を貫通する導電部162(金属層)とを含むスペーサ層16と、を有する。
【0027】
ピン層14とフリー層18には、各種の磁性体材料を用いることができる。ピン層14とフリー層18に関しては後述する。
【0028】
スペーサ層16において、絶縁層161は主として金属酸化物や金属窒化物で構成される。一方、導電部162は主として金属膜で構成される。
例えば、絶縁層161には、例えば、Alが用いられる。
【0029】
導電部162は、スペーサ層16の膜面垂直に電流を流すパス(経路)であり、電流を狭窄するためのものである。導電部162は、絶縁層161の膜面垂直方向に電流を通過させる導電体として機能する。すなわち、スペーサ層16は、絶縁層161と導電部162とによる電流狭窄構造(CCP構造)を有し、電流狭窄効果によりMR変化率が増大される。導電部162には、例えば、Cu等の金属が用いられる。
ただし、本発明はこれに限らず、絶縁層161及び導電部162には、後述する各種の材料を用いることができる。以下では、一例として、絶縁層161がAlであり、導電部162がCuである場合に関して説明する。
【0030】
なお、下部金属層15及び上部金属層17は、例えば、磁気抵抗効果素子101に含まれる各種の層の結晶性などを高めるために用いられる層であり、必要に応じて設けられる。以下では、まず、説明を簡単にするために、下部金属層15や上部金属層17がない場合について説明する。
【0031】
導電部162は絶縁層161と比べて著しく酸素、窒素の含有量が少ない領域である。例えば、導電部162における酸素の含有量は、絶縁層161に対して、少なくとも2倍以上の差がある。ただし、導電部162における酸素や窒素の含有量は0%ではなく、例えば、周囲に絶縁層がない場合に比べて酸素や窒素を多く含んでいる。
導電部162は一般的には結晶相であるが、その配向性は連続膜やバルクの金属に比べると劣っている。CCP−CPP素子の場合、導電部162の酸素が少ないほど、導電部162の比抵抗が下がり、高いMR変化が得られる。
【0032】
一方、絶縁層161と導電部162との電気抵抗の差が大きいほど電流狭窄効果が大きくなるため、絶縁層161には絶縁性が高いことが望まれる。
【0033】
従って、導電部162には、酸素不純物が少なく、配向性が高いことが望まれ、絶縁層161には、絶縁性を高くする金属酸化物状態、金属窒化物状態、酸窒化物状態が望まれる。
【0034】
例えば、絶縁層161として、Alを母体としてそれを酸化して生成されるAlを用いる場合に、その酸化が不十分であると絶縁性が低下するが、以下に説明するように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法においては、絶縁層161の酸化の不十分性を補いつつ、導電部162の酸素含有量を低減することができる。
【0035】
これにより、絶縁層161の絶縁性を保ちつつ導電部162の導電性を向上し、高いMR変化率を得る。なお、後述するように、導電部162の結晶性を向上させることによっても高いMR変化率が得られるが、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法によれば、結晶性が改善する可能性もあり、この観点からも高いMR変化率を実現する。
【0036】
図1に表したように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法においては、上記の強磁性体を含む第1磁性層を形成する工程と、強磁性体を含む第2磁性層を形成する工程と、の間に、以下を行う。
すなわち、まず、スペーサ層16の母材となる膜を成膜する(ステップS110)。
すなわち、図4(a)に表したように、例えば、第1磁性層を含む層14aの上に、導電部162となる第1金属膜16aと、絶縁層161となる第2金属膜16bと、を積層して成膜する。第1金属膜16aは、例えばCuである。また、第2金属膜16bはAlである。第2金属膜16bはAlCuでも良い。
【0037】
そして、前記の膜(第1金属膜16a及び第2金属膜16b)に、酸素分子、酸素イオン、酸素プラズマ及び酸素ラジカルの少なくともいずれかを含むガスを用いた第1処理を施す(ステップS120)。なお、以下では、上記を「酸素を用いた処理」と省略して記載する。
すなわち、例えば、図4(b)に表したように、まず、Arイオンビーム91によるPIT(Pre Ion Treatment)を行う(図3に例示したステップS120a)。その後、図4(c)に表したように、酸素イオンビーム92によるIAO(Ion Assisted Oxidation)を行う(図3に例示したステップS120b)。このように、酸素ガスを用いた第1処理を施す第2工程(ステップS120)は、PIT工程(希ガスを用いた前処理工程:ステップS120a)と、IAO工程(希ガスと酸素ガスを用いた変換工程:ステップS120b)と、を有することができる。
【0038】
PITにより、下側の第1金属膜16aの一部が、第2金属膜16bの側に向けて吸い上げられる。そして、第1金属膜16aの一部が、第2金属膜16bを貫通して、導電部162を形成する。そして、酸素ガス(この場合は酸素イオンビーム92)によるIAOによって、第1金属膜16a及び第2金属膜16bに対して酸化性の処理が施される。
【0039】
この時、第1金属膜16a及び第2金属膜16bに用いる材料の選択により、選択的な酸化が行われる。すなわち、導電部162となる第1金属膜16aには酸化生成エネルギーの高い材料を用い、絶縁層161となる第2金属膜16bには酸化生成エネルギーの低い材料を用いる。つまり、導電部162は絶縁層161に比べて、酸化されにくく還元されやすい材料が用いられる。
【0040】
本具体例では、Alである第2金属膜16bが酸化され、Alとなり、絶縁層161が形成される。そして、Cuである第1金属膜16aは比較的酸化され難く、その多くは金属のままである。しかし、その一部は酸化され、CuOが生成される。
CuOの量を減らす方法として、酸化物の還元作用が有効である。CuOの還元は、窒素ガスにより還元し、以下のような反応式で金属Cuへと変換される。
【0041】

2CuO + N → 2Cu + 2NO (1)

窒素ガスによる還元作用では、一般的に試料温度を上昇させることが必要で、室温で還元ができたという報告はない。理由のひとつとして、N分子の反応性が低いことが挙げられる。本実施形態では、これを解決するために、窒素分子の乖離を行ってからCuOと反応させることが効果的であること利用し、適用することとした。
【0042】

→ 2N (2)

2CuO+2N →2Cu+2NO (3)

式(1)に比べて式(3)での反応エネルギーは低く、よりCuOが還元されやすい。式(2)に示した窒素分子Nの乖離を実現するには、窒素ガス分子をイオン化、プラズマ化、ラジカル化させることが有効である。ここで、本実施形態では、窒素に基づくガスを用いた。なお、分子であってもプラズマ等であっても、形態はガスである。
【0043】
すなわち、図4(d)に表したように、上記の膜に、窒素イオンビーム93を照射する。これにより、窒素イオンビーム93の照射によって、第1金属膜16aが酸化されて生じたCuOを還元し、Cuに変化させる。導電部162の抵抗値を低下させることが可能となる。
【0044】
この時、絶縁層161となるAlに対しても、式(4)のように強い還元性の処理が施され、酸化不足の部分が生じる。
【0045】

2Al +3N → 2Al + 6NO (4)

その還元量はCuOに比べると少ないが、酸化不足の部分はできるだけ少なくした方が良い。酸化不足となると絶縁性が劣化し、その部分にリーク電流が流れることとなる。この場合、電流狭窄効果が小さくなり、MR変化率が小さくなることが考えられる。
【0046】
このような還元処理に特有の課題に対し、第3処理で窒素を用いることで、酸化不足の部分に窒素を導入し、例えば局所的に残存していたAlを窒化することで絶縁性を改善することができる。これにより、第2金属膜16bは酸化、窒化、酸窒化の少なくともいずれかの状態に変換され、絶縁性は十分に保持される。すなわち、例えば以下の反応を利用する。
【0047】

2Al + 2N → 2AlN (5)

式(5)に表したように、この場合も、窒素分子の乖離を行ってから反応させることで、窒化をより促進させることができる。
【0048】
以上を鑑み、上記の第1処理が施された上記の膜(第1金属膜16a、第2金属膜16b、絶縁層161及び導電部162の混合体)に、窒素イオン、窒素プラズマ及び窒素ラジカルの少なくともいずれかを用いた第2処理を施す(ステップS130)。なお、以下では、上記を、「窒素を用いた処理」と省略して記載する。
【0049】
このように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法によれば、絶縁層161の酸化が不十分な部分を補って窒化することで、絶縁層161の絶縁性を維持しつつ、絶縁層161及び導電部162を形成する際に生じる導電部162の酸化物を還元し、導電部162中の酸素不純物量を低減する。これにより、絶縁層161の高抵抗を維持すると同時に導電部162を低抵抗化でき、電流狭窄効果が効果的に発揮される。これにより、MR変化率の高いCCP−CPP型の磁気抵抗効果素子が得られる。
【0050】
ところで、上記の式(3)において、生成されたNOの一部が膜の内部に留まり、再び周囲の金属を酸化、窒化あるいは酸窒化させてしまい、結果的に導電部162の酸素不純物や窒素不純物を削減し難いことが起き得る。温度が高い場合にはNOが消失しやすいが、室温ではし難い。そこで本実施形態における第2処理の実施の際やその後に、この生成されたNOを除去するために、基板を加熱することや、過熱と同等のエネルギーをイオンビームやプラズマの照射によって行い、これらの手法が効果的であることを見出した。
【0051】
なお、上記では、第2金属膜16bを絶縁層161に変換する方法として、酸素イオンビーム92によるIAOを行う例を説明したが、本発明はこれに限らず、第2金属膜16bを絶縁層161に変換する方法は、酸素分子、酸素イオン、酸素プラズマ及び酸素ラジカルの少なくともいずれかを用いることができ、その方法は任意である。
【0052】
例えば、第1金属膜16a及び第2金属膜16bを酸素ガスに暴露する方法でも良い。第1金属膜16aがCuで、第2金属膜16bがAlである場合、酸素暴露量は、例えば、10000(Langmuires)以上50000(Langmuires)以下が適当である。10000(Langmuires)よりも少ないと、第2金属膜16bの酸化が不足となり、また、50000(Langmuires)よりも多いと、第1金属膜16aの酸化が始まる。
【0053】
なお、第1処理において、IAOの後に、希ガスイオンや希ガスプラズマを照射する処理や、基板を加熱する処理を加えても良い。これにより、絶縁層161と導電部162の分離をより促進させることができる。希ガスとしては、He、Ne、Ar、Xe及びKrの少なくともいずれかを用いることができ、イオンビームとして照射する場合には、グリッドに印加するビーム電圧を50V以下、照射時間を1分以下とすることが好ましい。また、RFプラズマとして照射する場合には、バイアス電力を10W以下、照射時間を1分以下とすることが好ましい。また、加熱の場合には、基板温度の上限は、80℃とすることができる。このように上限を定める理由は、CCP−NOLが破壊されることを防ぐためである。
【0054】
(比較例)
比較例の磁気抵抗効果素子の製造方法は、図1に例示した第3工程(ステップS130)を実施しないものである。比較例の磁気抵抗効果素子の製造方法よって作製された磁気抵抗効果素子は、第2工程(ステップS120)の酸化性の第1処理によって第2金属膜16bが酸化され、具体的にはCuからCuOが生成し、結果的に、導電部162における酸素不純物が多い。また、絶縁層161の酸化が不十分な部分があり、絶縁層161の絶縁性が低い。
【0055】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法と比較例による磁気抵抗効果素子の要部の状態を例示する模式的断面図である。
すなわち、同図(a)は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子101のスペーサ層16の状態を例示しており、同図(b)は、磁気抵抗効果素子101の製造工程の途中、すなわち、還元処理の途中過程におけるスペーサ層16の状態を例示している。一方、同図(c)は、比較例の磁気抵抗効果素子109のスペーサ層16の状態を例示している。
【0056】
図5(c)に表したように、導電部162であるCuが第1処理によって一部酸化され、少量ではあるもののCuO(162f)が生じる。このCuOを減少させることで、導電部162の電気抵抗を低減し、MR変化率を向上させることができる。そこで、窒素を用いて還元処理を行った。
【0057】
図5(b)に表したように、還元処理の途中過程では、CuO(162f)が還元されてCuとなり、その量が著しく減少する。ところが一方で、Alも還元され、一部ではあるが酸化が不十分な領域161fができてしまう。
【0058】
これに対して、図5(a)に表したように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法によって作製された磁気抵抗効果素子101においては、第2処理において絶縁層161中に酸化が不十分な領域161fが発生したとしても、窒素を用いた処理であるために、窒化され、窒化領域161nに変換される。このため、絶縁層161中の酸化が不十分な領域161fが消失し、絶縁層161の絶縁性は保持される。
【0059】
例えば、第2金属層16bがAlである場合、酸素を用いた第1処理によってAlOが生成されるが、還元処理の段階で酸化が不十分な領域161fが生じる。この時、窒素を用いた第2処理により、酸化が不十分な領域161fを窒化して窒化領域161nに変換する。例えば、AlNやAlNOを生成する。これにより、絶縁層161の絶縁性が十分保持される。
【0060】
さらに、これらの処理により、導電部162の結晶性を向上させる可能性があり、これにより抵抗値を下げることができる。
このように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法によれば、絶縁層161の絶縁性を保ちつつ、導電部162を還元して抵抗値を下げることができ、MR変化率の高いCCP−CPP型の磁気抵抗効果素子の製造方法が抵抗できる。
【0061】
ところで、特許文献3には、酸化銅を水素プラズマで処理して除去する技術が開示されているが、この場合には、水素プラズマの処理のみの実施であり、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法のように、酸素ガスを用いた第1処理(酸化処理)と窒素を用いた第2処理(還元処理)との組み合わせでないため、本質的に異なる。すなわち、還元処理のみだけでは、第1金属膜16aと第2金属膜16bとから、絶縁層161と導電部162とを形成することはできず、酸素を用いた第1処理(酸化処理)と窒素を用いた第2処理(還元処理)との組み合わせによって、初めて、絶縁層161と高い純度の導電部162とを形成することができる。また、特許文献3に開示された技術では、絶縁層161における酸化が不十分な領域161fを窒化して絶縁層161の絶縁性を向上させることはできない。
【0062】
以下、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子の構成の例を、図2を参照しながら説明する。
下電極11は、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部をその膜垂直方向に沿って電流が流れる。この電流によって、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することで、磁気の検知が可能となる。下電極11には、電流を磁気抵抗効果素子に通電するために、電気抵抗が比較的小さい金属層が用いられる。NiFe、Cuなどが用いられる。
【0063】
下地層12は、例えば、バッファ層12a(図示せず)及びシード層12b(図示せず)に区分することができる。バッファ層12aは下電極11表面の荒れを緩和したりするための層である。シード層12bは、その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向及び結晶粒径を制御するための層である。
【0064】
バッファ層12aとしては、Ta、Ti、W、Zr、Hf、Crまたはこれらの合金を用いることができる。バッファ層12aの膜厚は2nm〜10nm程度が好ましく、3nm〜5nm程度がより好ましい。バッファ層12aの厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層12aの厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層12a上に成膜されるシード層12bがバッファ効果を有する場合には、バッファ層12aを必ずしも設ける必要はない。上記のなかの好ましい一例として、厚さ3nmのTaを用いることができる。
【0065】
シード層12bは、その上に成膜される層の結晶配向を制御できる材料であれば良い。シード層12bとして、fcc構造(face-centered cubic structure:面心立方格子構造)またはhcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密格子構造)やbcc構造(body-centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属層などが好ましい。例えば、シード層12bとして、hcp構造を有するRuや、fcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13(例えば、PtMn)の結晶配向を規則化したfct構造(face-centered tetragonal structure:面心正方構造)、あるいはbcc(body-centered cubic structure:体心立方構造)(110)配向とすることができる。
これ以外にも、Cr、Zr、Ti、Mo、Nb、Wやこれらの合金層なども用いることができる。
【0066】
結晶配向を向上させるシード層12bとしての機能を十分発揮するために、シード層12bの膜厚としては、1nm〜5nmが好ましく、より好ましくは、1.5nm〜3nmが好ましい。上記のなかの好ましい一例として、厚さ2nmのRuを用いることができる。
【0067】
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は、X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5度〜6度として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
【0068】
シード層12bとして、Ruの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NiFe100−x(x=90%〜50%、好ましくは75%〜85%)や、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NiFe100−x100−y(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo)を用いることもできる。NiFeベースのシード層12bでは、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、上記と同様に測定したロッキングカーブの半値幅を3度〜5度とすることができる。
【0069】
シード層12bには、結晶配向を向上させる機能だけでなく、スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、スピンバルブ膜の結晶粒径を5nm〜40nmに制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
【0070】
ここでの結晶粒径は、シード層12bの上に形成された結晶粒の粒径によって判別することができ、断面TEMなどによって決定することができる。ピン層14がスペーサ層16よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には、シード層12bの上に形成される、ピニング層13(反強磁性層)や、ピン層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
【0071】
高密度記録に対応した再生ヘッドでは、素子サイズが、例えば、100nm以下である。素子サイズに対する結晶粒径の比が大きいことは、素子の特性がばらつく原因となる。スピンバルブ膜の結晶粒径が40nmよりも大きいことは好ましくない。具体的には、結晶粒径が5nm〜40nmの範囲が好ましく、5nm〜20nmの範囲がさらに好ましい範囲である。
【0072】
素子面積あたりの結晶粒の数が少なくなると、結晶数が少ないことに起因した特性のばらつきの原因となり得るため、結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。特に導電部162を形成しているCCP−CPP素子では結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。一方、結晶粒径が小さくなりすぎても、良好な結晶配向を維持することが一般的には困難になる。これら、結晶粒径の上限、及び下限を考慮した結晶粒径の好ましい範囲が、5nm〜20nmである。
【0073】
しかしながら、MRAM用途などでは、素子サイズが100nm以上の場合があり、結晶粒径が40nm程度と大きくてもそれほど問題とならない場合もある。すなわち、シード層12bを用いることで、結晶粒径が粗大化しても差し支えない場合もある。
【0074】
上述した5nm〜20nmの結晶粒径を得るためには、シード層12bとして、Ru(厚さ2nm)や、(NiFe100−x100−y(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo)層の場合には、第3元素Xの組成yを0%〜30%程度とすることが好ましい(yが0%の場合も含む)。
【0075】
一方、結晶粒径を40nmよりも粗大化させて用いるためには、さらに多量の添加元素を用いることが好ましい。シード層12bの材料が、例えば、NiFeCrの場合にはCr量を35%〜45%程度とし、fccとbccの境界相を示す組成を用いて、bcc構造を有するNiFeCr層を用いることが好ましい。
【0076】
前述したように、シード層12bの膜厚は1nm〜5nm程度が好ましく、1.5nm〜3nmがより好ましい。シード層12bの厚さが薄すぎると結晶配向制御などの効果が失われる。一方、シード層12bの厚さが厚すぎると、直列抵抗の増大を招き、さらにスピンバルブ膜の界面の凹凸の原因となることがある。
【0077】
ピニング層13は、その上に成膜されるピン層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。この内、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録のために必要な狭ギャップ化に適している。
【0078】
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8nm〜20nm程度が好ましく、10nm〜15nmがより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、3nm〜12nmが好ましく、4nm〜10nmがより好ましい。上記のなかの好ましい一例として、厚さ7nmのIrMnを用いることができる。
【0079】
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層を用いることができる。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50%〜85%)、(CoPt100−x100−yCr(x=50%〜85%、y=0%〜40%)、FePt(Pt=40%〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗及び面積抵抗RAの増大を抑制できる。
【0080】
また、ピン層14とフリー層18に、保持力の大きく異なる材料を配置した場合、ピニング層13を省略することもできる。これは、ピン層14自体がCoPt(Co=50%〜85%)、(CoPt100−x100−yCr(x=50%〜85%、y=0%〜40%)、FePt(Pt=40%〜60%)等の高保持力材料であり、フリー層18がNiFe100−x合金(x=75%〜95%)、Ni(FeCo100−y100−x合金(x=75%〜95%、y=0%〜100%)、CoFe100−x合金(x=85%〜95%)等の低保持力材料とした場合である。
【0081】
ピン層14は、下部ピン層141(例えば、厚さ3.5nmのCo90Fe10)、磁気結合層142(例えば、Ru)、及び上部ピン層143(例えば、厚さ1nmのFe50Co50/厚さ0.25nmのCu)×2/厚さ1nmのFe50Co50)からなるシンセティックピン層とすることが好ましい一例である。ピニング層13(例えば、IrMn)とその直上の下部ピン層141は一方向異方性(unidirectional anisotropy)をもつように交換磁気結合している。磁気結合層142の上下の下部ピン層141及び上部ピン層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く磁気結合している。
【0082】
下部ピン層141の材料として、例えば、CoFe100−x合金(x=0%〜100%)、NiFe100−x合金(x=0%〜100%)、またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部ピン層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いても良い。
【0083】
下部ピン層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t、すなわち、Bs・t積)が、上部ピン層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり、上部ピン層143の磁気膜厚と下部ピン層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。一例として、上部ピン層143が、(膜厚1nmのFe50Co50/膜厚0.25nmのCu)×2/膜厚1nmのFe50Co50の構成の場合、薄膜でのFeCoの飽和磁化が約2.2Tであるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co90Fe10の飽和磁化が約1.8Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部ピン層141の膜厚tは6.6Tnm/1.8T=3.66nmとなる。したがって、膜厚が約3.6nmのCo90Fe10を用いることが望ましい。また、ピニング層13としてIrMnを用いる場合には、下部ピン層141の組成はCo90Fe10よりも少しFe組成を増やすことが好ましい。具体的には、Co75Fe25などが望ましい実施例の一例である。
【0084】
下部ピン層141に用いられる磁性層の膜厚は1.5nm〜4nm程度が好ましい。これは、ピニング層13(例えば、IrMn)による一方向異方性磁界強度及び磁気結合層142(例えば、Ru)を介した下部ピン層141と上部ピン層143との反強磁性結合磁界強度の観点に基づく。下部ピン層141が薄すぎるとMR変化率が低下する。一方、下部ピン層141が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。好ましい一例として、膜厚3.6nmのCo75Fe25が挙げられる。
【0085】
磁気結合層142(例えば、Ru)は、上下の磁性層(下部ピン層141及び上部ピン層143)に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142としてのRu層の膜厚は0.8nm〜1nmであることが好ましい。なお、上下の磁性層に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いても良い。RKKY(Ruderman-Kittel- Kasuya-Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8nm〜1nmの代わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3nm〜0.6nmを用いることもできる。ここでは、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、0.9nmのRuが一例として挙げられる。
【0086】
上部ピン層143の一例として、(厚さ1nmのFe50Co50/厚さ0.25nmのCu)×2/厚さ1nmのFe50Co50のような磁性層を用いることができる。上部ピン層143は、スピン依存散乱ユニットの一部をなす。上部ピン層143は、MR効果に直接的に寄与する磁性層であり、高いMR変化率を得るために、この構成材料、膜厚の双方が重要である。特に、スペーサ層16との界面に位置する磁性材料は、スピン依存界面散乱に寄与する点で特に重要である。
【0087】
上部ピン層143としてここで用いた、bcc構造をもつFe50Co50を用いる効果について述べる。上部ピン層143として、bcc構造をもつ磁性材料を用いた場合、スピン依存界面散乱効果が大きいため、高いMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FeCo100−x(x=30%〜100%)や、FeCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性を満たしたFe40Co60〜Fe60Co40が使いやすい材料の一例である。
【0088】
上部ピン層143が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部ピン層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部ピン層143の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
【0089】
ここでは、上部ピン層143として、極薄Cu積層を含むFe50Co50を用いている。ここで、上部ピン層143は、全膜厚が3nmのFeCoと、1nmのFeCoごとに積層された0.25nmのCuとからなり、合計の膜厚は3.5nmである。
【0090】
上部ピン層143の膜厚は5nm以下であることが好ましい。大きなピン固着磁界を得るためである。大きなピン固着磁界と、bcc構造の安定性の両立のため、bcc構造をもつ上部ピン層143の膜厚は、2.0nm〜4nm程度であることが好ましいということになる。
【0091】
上部ピン層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつコバルト合金を用いることができる。上部ピン層143として、Co、Fe、Niなどの単体金属、またはこれらのいずれか1つの元素を含む合金材料は全て用いることができる。上部ピン層143の磁性材料として、高いMR変化率を得るのに有利なものから並べると、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のコバルト組成をもつコバルト合金、50%以上のNi組成をもつニッケル合金の順になる。
【0092】
ここでの一例として挙げたものは、上部ピン層143として、磁性層(FeCo層)と非磁性層(極薄Cu層)とを交互に積層したものを用いることができる。このような構造を有する上部ピン層143では、極薄Cu層によって、スピン依存バルク散乱効果と呼ばれるスピン依存散乱効果を向上させることができる。
【0093】
「スピン依存バルク散乱効果」は、スピン依存界面散乱効果と対の言葉として用いられる。スピン依存バルク散乱効果とは、磁性層内部でMR効果を発現する現象である。スピン依存界面散乱効果は、スペーサ層と磁性層の界面でMR効果を発現する現象である。
【0094】
以下、磁性層と非磁性層の積層構造によるバルク散乱効果の向上につき説明する。
CCP−CPP素子においては、スペーサ層16の近傍で電流が狭窄されるため、スペーサ層16の界面近傍での抵抗の寄与が非常に大きい。つまり、スペーサ層16と磁性層(ピン層14、フリー層18)の界面での抵抗が、磁気抵抗効果素子全体の抵抗に占める割合が大きい。このことは、スピン依存界面散乱効果の寄与がCCP−CPP素子では非常に大きく、重要であることを示している。つまり、スペーサ層16の界面に位置する磁性材料の選択が従来のCPP素子の場合と比較して、重要な意味をもつ。これが、上部ピン層143として、スピン依存界面散乱効果が大きいbcc構造をもつFeCo合金層を用いた理由であり、前述したとおりである。
【0095】
しかしながら、バルク散乱効果の大きい材料を用いることも無視できず、より高MR変化率を得るためにはやはり重要である。バルク散乱効果を得るための極薄Cu層の膜厚は、0.1nm〜1nmが好ましく、0.2nm〜0.5nmがより好ましい。Cu層の膜厚が薄すぎると、バルク散乱効果を向上させる効果が弱くなる。Cu層の膜厚が厚すぎると、バルク散乱効果が減少することがある上に、非磁性のCu層を介した上下磁性層の磁気結合が弱くなり、ピン層14の特性が不十分となる。そこで、好ましい一例として挙げたものでは、0.25nmのCuを用いた。
【0096】
磁性層間の非磁性層の材料として、Cuの換わりに、Hf、Zr、Ti、Alなどを用いても良い。一方、これら極薄の非磁性層を挿入した場合、FeCoなど磁性層の一層あたりの膜厚は0.5nm〜2nmが好ましく、1nm〜1.5nm程度がより好ましい。
【0097】
上部ピン層143として、FeCo層とCu層との交互積層構造に換えて、FeCoとCuを合金化した層を用いても良い。このようなFeCoCu合金として、例えば、(FeCo100−x100−yCu(x=30%〜100%、y=3%〜15%程度)が挙げられるが、これ以外の組成範囲を用いても良い。ここで、FeCoに添加する元素として、Cuの代わりに、Hf、Zr、Ti、Alなど他の元素を用いても良い。
【0098】
上部ピン層143には、Co、Fe、Niや、これらの合金材料からなる単層膜を用いても良い。例えば、最も単純な構造の上部ピン層143として、従来から広く用いられている、2nm〜4nmのCo90Fe10単層を用いても良い。この材料に他の元素を添加しても良い。
【0099】
次に、広義のスペーサ層を形成する膜構成について述べる。下部金属層15は後述するプロセスにおいて、導電部162の材料の供給源として用いられた後の残存層であり、最終形態として必ずしも残存していない場合もある。
【0100】
スペーサ層(CCP−NOL)16は、絶縁層161、導電部162を有する。なお、前述のように、スペーサ層16、下部金属層15、及び上部金属層17を含めて、広義のスペーサ層16sとして取り扱う。
【0101】
絶縁層161は、酸化物、窒化物、酸窒化物等から構成される。絶縁層161として、Alのようなアモルファス構造や、MgOのような結晶構造の双方があり得る。スペーサ層としての機能を発揮するために、絶縁層161の厚さは、1nm〜5nmが好ましく、1.5nm〜4.5nmの範囲がより好ましい。
【0102】
絶縁層161に用いる典型的な絶縁材料として、Alをベース材料としたものや、これに添加元素を加えたものがある。添加元素として、Ti、Hf、Mg、Zr、V、Mo、Si、Cr、Nb、Ta、W、B、C、Vなどがある。これらの添加元素の添加量は0%〜50%程度の範囲で適宜変えることができる。一例として、約2nmのAlを絶縁層161として用いることができる。
【0103】
絶縁層161には、AlのようなAl酸化物の換わりに、Ti酸化物、Hf酸化物、Mg酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、Ta酸化物、Nb酸化物、Mo酸化物、Si酸化物、V酸化物なども用いることができる。これらの酸化物の場合でも、添加元素として上述の材料を用いることができる。また、添加元素の量を0%〜50%程度の範囲で適宜に変えることができる。
【0104】
これら酸化物の換わりに、上述したようなAl、Si、Hf、Ti、Mg、Zr、V、Mo、Nb、Ta、W、B、Cをベースとした酸窒化物や、窒化物を用いても、電流を絶縁する機能を有する材料であれば構わない。
【0105】
既に説明したように、導電部162は、スペーサ層16の膜面垂直に電流を流すパス(経路)であり、電流を狭窄する。
導電部162(CCP)を形成する材料は、Cu以外には、Au、Ag、Alや、Ni、Co、Fe、もしくはこれらの元素を少なくとも1つは含む合金層を挙げることができる。一例として、導電部162としてCuを含む合金層で形成することができる。CuNi、CuCo、CuFeなどの合金層も用いることができる。ここで、50%以上のCuを有する組成とすることが、高MR変化率と、ピン層14とフリー層18の層間結合磁界(interlayer coupling field, Hin)を小さくするためには好ましい。
【0106】
上部金属層17は、広義のスペーサ層16sの一部を形成するものである。その上に成膜されるフリー層18がスペーサ層16の酸化物に接して酸化されないように保護するバリア層としての機能、及びフリー層18の結晶性を良好にする機能を有する。例えば、絶縁層161の材料がアモルファス(例えば、Al)の場合には、その上に成膜される金属層の結晶性が悪くなるが、fcc結晶性を良好にする層(例えば、Cu層)を配置することで(1nm以下程度の膜厚で良い)、フリー層18の結晶性を著しく改善することが可能となる。
【0107】
スペーサ層16の材料やフリー層18の材料によっては、必ずしも上部金属層17を設けなくても良い。アニール条件の最適化や、スペーサ層16の絶縁層161材料の選択、フリー層18の材料などによって、結晶性の低下を回避し、スペーサ層16上の上部金属層17が不要にできる。
【0108】
しかし、製造上のマージンを考慮すると、スペーサ層16上に上部金属層17を形成することが好ましい。好ましい一例としては、上部金属層17として、厚さ0.5nmのCuを用いることができる。
【0109】
上部金属層17の構成材料として、Cu以外に、Au、Ag、Ruなどを用いることもできる。上部金属層17の材料は、スペーサ層16の導電部162の材料と同一であることが好ましい。上部金属層17の材料が導電部162の材料と異なる場合には界面抵抗の増大を招くが、両者が同一の材料であれば界面抵抗の増大は生じない。
【0110】
上部金属層17の膜厚は、0nm〜1nmが好ましく、0.1nm〜0.5nmがより好ましい。上部金属層17が厚すぎると、スペーサ層16で狭窄された電流が上部金属層17で広がって電流狭窄効果が不十分になり、MR変化率の低下を招く。
【0111】
フリー層18は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。例えば、界面にCoFeを挿入してNiFeを用いた厚さ1nmのCo90Fe10/厚さ13.5nmのNi83Fe17という二層構成がフリー層18の一例として挙げられる。高いMR変化率を得るためには、スペーサ層16の界面に位置するフリー層18の磁性材料の選択が重要であり、スペーサ層16との界面には、NiFe合金よりもCoFe合金を設けることが好ましい。なお、NiFe層を用いない場合には、厚さ4nmのCo90Fe10単層を用いることができる。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの3層構成からなるフリー層を用いても構わない。
【0112】
また、フリー層18として、1nm〜2nmのCoFe層またはFe層と、0.1nm〜0.8nm程度の極薄Cu層とを、複数層交互に積層したものを用いても良い。
【0113】
スペーサ層16がCu層から形成される場合には、ピン層14と同様に、フリー層18でも、結晶構造がbcc構造のFeCo層をスペーサ層16との界面材料として用いると、MR変化率が向上する。スペーサ層16との界面材料として、fccのCoFe合金に換えて、bcc構造のFeCo合金を用いることもできる。この場合、bcc構造が形成されやすい、FeCo100−x(x=30〜100)や、これに添加元素を加えた材料を用いることができる。さらにbcc構造を安定とするため、膜厚を1nm以上、さらには1.5nm以上とすることが好ましい。ただしbcc構造の層の膜厚を増やすほど保持力と磁歪が高くなるので、フリー層として使いづらくなる。これを解決するには、積層するNiFe合金の組成や膜厚を調整することが有効である。好ましい実施例の一例として、厚さ2nmのCo60Fe40/厚さ3.5nmのNi95Feを用いることができる。
【0114】
キャップ層19は、スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は、例えば、複数の金属層、例えば、Cu層とRu層の2層構造(厚さ1nmのCu/厚さ10nmのRu)とすることができる。また、キャップ層19として、Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5nm〜2nm程度が好ましい。この構成のキャップ層19は、特に、フリー層18がNiFeからなる場合に望ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので、フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
【0115】
キャップ層19が、Cu/Ru、Ru/Cu、いずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5nm〜10nm程度が好ましく、Ru層の膜厚は0.5nm〜5nm程度とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため、あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため、このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
【0116】
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けても良い。キャップ層19の構成は特に限定されず、キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば、他の材料を用いても良い。ただし、キャップ層の選択によってMR変化率や長期信頼性が変わる場合があるので、注意が必要である。CuやRuはこれらの観点からも望ましいキャップ層の材料の例である。
【0117】
上電極20は、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部にその膜の垂直方向の電流が流れる。上電極20には、電気的に低抵抗な材料(例えば、Cu、Au、NiFeなど)が用いられる。
【0118】
このような構成の磁気抵抗効果素子のいずれかに本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法は適用可能である。
【0119】
次に、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法における第3工程(ステップS130)、すなわち、窒素を用いた第2処理の具体例について説明する。
【0120】
図6は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部の構成を例示する模式図である。
すなわち、同図は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法における第2処理に用いることができる処理装置の3種類の構成を例示している。
【0121】
図6(a)は、第2処理として、希ガスイオンビームあるいはプラズマを照射しつつ、窒素ガスに暴露する構成である。
図6(a)に示すように、処理装置60aは、真空ポンプ61に連結された真空チャンバ60を有し、真空チャンバ60内が高真空にされる。真空チャンバ60内に、被処理体80(この場合は、第1処理が施された、ピン層14となる膜を含む層14a、第1金属膜16a及び第2金属膜16bの積層構造体)が、設置される。そして、真空チャンバ60には、イオンソース70から発生されたプラズマ70aが、グリッド71、72、73によって加速される。この例では、Arイオンが用いられ、これにより、Arイオンビーム91が生成される。この際、ニュートラライザ74によって中性化される。一方、マスフローコントローラ(MFC)63で制御された窒素ガス93gが供給管62から真空チャンバ60内に導入される。そして、窒素ガス93gの雰囲気中において、Arイオンビーム91が被処理体80に照射される。上記において、Arイオンビーム91ではなく、Arプラズマを被処理体80に照射しても良い。
【0122】
このように、窒素ガス93gに暴露する際に、希ガスイオンビームあるいはプラズマを照射することで、窒素ガス93g中に窒素ラジカルが生成され、その窒素ラジカルを用いて被処理体80を処理する。これにより、絶縁層161中の酸化が不十分な領域161fを窒化する。また、導電部162中の酸化物の酸素結合を切って還元を促進することができる。
【0123】
また、窒素ガス93gをイオン化して窒素イオンを生成し、これを被処理体80に照射することもできる。
図6(b)に表したように、窒素ガス93gをイオンソース70に導入し、プラズマ化することで、モノマー窒素93mが得られる。ここで、モノマー窒素93mとは気体分子に対して原子単体で存在する窒素の形態を指す。モノマー窒素93mは、電荷をもつイオンであっても、電気的に中性な原子であっても構わない。この窒素プラズマに対し、グリッド71、72、73で電圧を印加して加速すると、窒素イオン93iのビームとして引き出される。電荷をもった窒素イオンビームは、ニュートラライザ74で電気的に中和され、被処理体80に到達する。これにより、絶縁層161における窒化の効率が向上すると同時に、導電部162における還元の効率が向上する。酸化物の還元は、窒素分子(N)では実質的に進行せず、モノマー窒素(N)93mとすることで進行しやすくなるためである。
【0124】
この場合、イオンソース内に導入する窒素ガス93gの流量は、1sccm以上100sccm以下が好ましい。1sccmよりも低いと導電部162中の酸化物の還元が不十分となり、100sccmよりも高いと絶縁層161となる第2金属膜16bの酸化物が還元され始めるためである。
【0125】
この方法においては、還元効率が高いため、図6(a)で説明した窒素ガス93gへの暴露の場合に比べて、適正流量は小さい。グリッド71、72、73に印加する電圧は、0V以上50V以下であることが望ましい。0Vというのは、グリッドから漏れ出てくる窒素イオン93iを利用する状態である。RFプラズマの場合は、10W以上1000W以下である。このように弱い電圧やRF電力を用いる理由は、絶縁層161となるAlまで還元されてCCP−NOLを破壊されることを防ぐためである。
【0126】
さらに、窒素イオン93iと希ガスイオンとを同時に被処理体80に照射することもできる。
図6(c)に表したように、窒素イオン93i(モノマー窒素93m)と希ガスイオン(Arイオンビーム91)とを同時に被処理体80に照射することで、さらに還元の効率を向上させることができる。
【0127】
この場合、イオンソース内に導入する窒素ガス93gの流量は、1sccm以上100sccm以下が好ましい。1sccmよりも低いと導電部162中の酸化物の還元が不十分となり、100sccmよりも高いと絶縁層161となる第2金属膜16bの酸化物が還元され始めるためである。
【0128】
この方法においても還元効率が高いため、図6(a)で説明した窒素ガス93gへの暴露の場合に比べて、適正流量は小さい。グリッド71、72、73に印加する電圧は、0V以上50V以下であることが望ましい。0Vというのは、グリッドから漏れ出てくる窒素イオンを利用する状態である。RFプラズマの場合は、10W以上1000W以下である。このように弱い電圧やRF電力を用いる理由は、Alまで還元されてCCP−NOLを破壊されることを防ぐためである。
【0129】
なお、上記の窒素を用いた第2処理において、絶縁層161及び導電部162を加熱しつつ処理を行っても良い。すなわち、絶縁層161及び導電部162を加熱しつつ、窒素ガス93gへの暴露や図6(a)〜(c)に関して説明した各種の窒素イオン93iの照射や窒素プラズマの照射の処理を行うことができる。これにより、還元効率が高まり、より効率的な処理を行うことができる。
【0130】
また、第1金属膜16a及び第2金属膜16bを加熱しつつ第2処理を行うことで、第2処理で生じるNOを除去することもできる。さらに、結晶性も向上する可能性がある。
【0131】
また、加熱と同様の効果は、希ガスのイオンビームあるいはプラズマを照射することによっても得られる。この場合、図6(c)で示した構成と類似するが、目的が異なるためにArガスの流量が異なる。還元だけを起こす図6(c)の場合、Ar量は10sccm以下であることが望ましい。これは、窒素ガス93gの効果がArに消去されないよう、窒素ガス93gの比率をArに対して多く保つためである。これに対し、還元しつつNOの除去と結晶性の向上も得る場合には、積極的にAr量を増やし流量を10sccm以上とする。この場合、窒素は希釈されてしまうので、ビームの条件を強めに変更したり、照射の時間を長くしたりすることで、調整をする。
【0132】
なお、ステップS110〜ステップS130を実行した後に、さらに、ステップS120(2回目の第1処理)を行っても良い。これにより、第1処理による酸化と第2処理による還元とを調整することができる。さらに、2回目の第1処理の後に、2回目の第2処理を行っても良い。このように、成膜のステップS110の後に、ステップS120とステップS130の組み合わせを繰り返して実施しても良い。これにより、絶縁層161と導電部162の構造が緻密に制御できる。
【0133】
図7は、本発明の第1の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図7に表したように、本発明の第1の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法では、図1に関して説明した第1工程(ステップS110)、第2工程(ステップS120)及び第3工程(ステップS130)が複数回繰り返して実施される。
以下では、繰り返しの回数が2回である場合を例にして説明する。
なお、この場合も、第2工程(ステップS120)は、PIT工程(図3に例示したステップS120a)及びIAO工程(図3に例示したステップS120b)を有することができる。
【0134】
図8は、本発明の第1の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
すなわち、同図(a)は最初の工程の図であり、同図(b)〜(h)は、それぞれ前の工程に続く図である。
図8(a)〜(d)は、図4(a)〜(d)と同様であるので説明を省略する。
図8(e)に表したように、2回目のステップS110を行う。すなわち、1回目のステップS110〜ステップS130(すなわち、スペーサ層16の母材となる膜の形成、酸素ガスを用いた第1処理、及び、窒素を用いた第2処理)の後に、2層目の第2金属膜16eを形成する。2層目の第2金属膜16eも、例えばAlである。2層目の第2金属膜16eはAlCuでも良い。
【0135】
その後、2回目のステップS120を行う。
すなわち、図8(f)に表したように、Arイオンビーム91によるPITを行う。これにより、1回目のステップS110〜ステップS130で形成された導電部162がさらに2層目の第2金属膜16eの中に吸い上げられ、2層目の第2金属膜16eを貫通する。
【0136】
そして、図8(g)に表したように、そして、酸素ガス(この場合は酸素イオンビーム92)を用いた第1処理であるIAOによって、2層目の第2金属膜16eに対して酸化性の処理が施される。これにより、Alである2層目の第2金属膜16eが酸化され、Alとなり絶縁層161が形成される。
【0137】
その後、2回目のステップS130を行う。
すなわち、図8(h)に表したように、上記の膜に、窒素イオンビーム93を照射し、絶縁層161の中に窒素を導入して、絶縁層161中の酸化が不十分な領域161fを窒化しつつ、第1金属膜16aが酸化されて生じたCuOを還元し、Cuに変化させる。なお、この時も、絶縁層161となるAlが実質的に還元されず、CuOが還元される条件を適切に選択することで、絶縁層161の絶縁性に実質的に悪影響を与えることなく、導電部162の抵抗値を低下させることが可能となる。
【0138】
このように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法によれば、絶縁層161及び導電部162を形成する際に生じる導電部162の酸化物を還元し、導電部162中の酸素不純物量を低減する。そして、スペーサ層16となる膜の形成を複数回に分けて行うことにより、1回ごとに成膜する膜厚が薄くなり、これにより、膜中の応力を緩和できる。また、薄い膜ごとに、例えば、PIT及びIAO(第1処理)と、第2処理と、を実施するので、薄い膜それぞれにこれらの処理が行われることで、膜の構造が安定し、膜が緻密となる。さらに、これらの処理は、表面を活性化させる処理であり、膜の密着力を向上させ、磁気抵抗効果素子の信頼性を向上する。
【0139】
また、スペーサ層16として厚い膜が必要な時にも、膜の形成を複数回に分けて行い、それぞれの膜に対して上記の処理を行うことで、性能を維持したまま、スペーサ層16の膜厚を厚くすることもできる。
【0140】
これにより、高信頼性で、MR変化率の高いCCP−CPP型の磁気抵抗効果素子が得られる。
【0141】
(第2の実施の形態)
図9は、本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図9に表したように、本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法では、図1に関して説明した第1工程(ステップS110)、第2工程(ステップS120)及び第3工程(ステップS130)の後に、さらに、第4工程(ステップS140)が実施される。
なお、この場合も、第2工程(ステップS120)は、PIT工程(図3に例示したステップS120a)及びIAO工程(図3に例示したステップS120b)を有することができる。
【0142】
第4工程では、前記第2処理が施された前記膜に、希ガスイオンの照射、希ガスプラズマの照射、及び加熱、の少なくともいずれかの第3処理を施す。
【0143】
すなわち、第3処理として、絶縁層161及び導電部162に対して、例えばArイオンビームの照射やArプラズマの照射を行う。また、第3処理として、絶縁層161及び導電部162を加熱する。また、第3処理として、絶縁層161及び導電部162を加熱しつつ、例えばArイオンビームの照射やArプラズマの照射を行う。
これにより、第2処理で生成されたNOを除去することができる。
【0144】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の作用を例示する模式的断面図である。
すなわち、同図(a)は、第2処理後の状態を例示しており、同図(b)は、第3処理後の状態を例示している。
図10(a)に表したように、第2処理後は、絶縁層161及び導電部162には、第2処理で生成されたNO94が場合によっては残留する。この場合、全ての膜を積層し終わってからのアニール工程で残留NO94が拡散し、周囲の金属膜を酸化する可能性がある。つまり、第2処理において還元した導電部162が、アニール工程において残留NO94により再酸化される可能性がある、ということである。これを防ぐため、NO94を除去するために、以下の第3処理を行う。
【0145】
すなわち、図10(b)に表したように、希ガスイオンの照射、希ガスプラズマの照射、及び加熱、の少なくともいずれかの第3処理を施すことで、この残留したNO94を除去することができる。なお、絶縁層161及び導電部162から除去されたNO94は、例えば、第3処理が行われる処理室の空間を経て、真空排気システムによって処理室外に排出される。
【0146】
このように、第3処理を行うことで、絶縁層161及び導電部162からNO94を除去することによって、導電部162の酸素不純物が減少し、電気抵抗特性が安定化する。酸素不純物が減少し、電気抵抗特性が安定化する。また、周囲のピン層14やフリー層18や、広義のスペーサ層16s内の下部金属層15と上部金属層17を酸化する恐れがなくなる。これらは酸化されると比抵抗が上昇してMR変化率を減少させるだけでなく、スペーサ層16(CCP−NOL層)との密着力を低下させる。したがって、NO94を除去することで、周囲の非抵抗を下げ、密着力を向上させるという効果も期待できる。
【0147】
また、希ガスイオンの照射、希ガスプラズマの照射、及び加熱、の少なくともいずれかの第3処理を施すことで、例えば、導電部162の結晶性が向上し、抵抗がさらに低下する。これにより、さらにMR変化率は向上できる。
【0148】
なお、既に説明したように、例えば、第2処理中に絶縁層161及び導電部162を加熱することによって、第3処理を省略することもできる。また、例えば、第2処理中に絶縁層161及び導電部162を加熱した場合においても、NO94の除去が不十分な場合には、第3処理を実施して、NO94の除去の程度を促進することができる。
【0149】
なお、第3処理においては、Arイオンビームが強く、照射時間が長いほどNO94を除去する効果が得られる。ところがArイオンビームを強くしたり照射時間を長くしたりすると、スペーサ層16は薄いので破壊されてしまう。そこで、できるだけArイオンビームに対する耐性の強いスペーサ層16(CCP−NOL層)を作製することが必要となる。このような状況では、スペーサ層16(CCP−NOL層)を2層、3層、と複数に重ねて厚く作製することが、効果を発揮したものと考えられる。このような考察の下では、4層以上に積層するスペーサ層16(CCP−NOL層)を作製することも、効果があると言える。
【0150】
図11は、本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図11に表したように、本具体例では、ステップS110〜ステップS120が繰り返し行われる。すなわち、複数の積層構造のスペーサ層16が形成され、その後、第2処理と第3処理が実施される。このように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法においてはステップS110〜ステップS120が複数回繰り返して実施されても良い。
なお、この場合も、第2工程(ステップS120)は、PIT工程(図3に例示したステップS120a)及びIAO工程(図3に例示したステップS120b)を有することができる。
【0151】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図12に表したように、本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法では、図7及び図8を用いて説明した、ステップS110〜ステップS130を繰り返した2層構造のスペーサ層16に対して、第3処理を行う。酸化処理と還元処理を繰り返すことにより、酸化が不十分な領域161fは窒化領域161nにより変化しやすくなる。そして、酸化されやすい第2金属膜16bはより酸化され、還元されやすい第1金属膜16aと導電部162はより還元される。すなわち、酸化エネルギーの材料による違いを、強調して利用することができる。これにより、絶縁層161の絶縁性を維持しつつ、導電部162を還元して酸素不純物をさらに低減し、導電部162の比抵抗をさらに低減することで、MR変化率の高い磁気抵抗効果素子が得られる。
なお、この場合も、第2工程(ステップS120)は、PIT工程(図3に例示したステップS120a)及びIAO工程(図3に例示したステップS120b)を有することができる。
【0152】
図13は、本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図13に表したように、本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法では、ステップS130〜ステップS140が繰り返し行われる。これは、第2処理(還元処理)と第3処理(その後のNO94の除去)を繰り返すことにより、余分なNO94が大量に蓄積される前に除去するものである。大量に蓄積される前に第3処理を行うことで、弱い条件の第3処理とすることができる。具体的には、第3処理がArプラズマ照射である場合、照射を2回繰り返すことにより、RFパワーは照射が1回の場合の半分程度で済む。あるいは、時間を半分程度としても良い。いずれにしても、第3処理における絶縁層161と導電部162に与えられるダメージが軽減され、緻密な絶縁層161とより純度の高い導電部162が形成されて、MR変化率が向上する。
なお、この場合も、第2工程(ステップS120)は、PIT工程(図3に例示したステップS120a)及びIAO工程(図3に例示したステップS120b)を有することができる。
【0153】
図14は、本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図14に表したように、本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法では、ステップS110〜ステップS140が繰り返し行われる。すなわち、複数の構造のスペーサ層16が形成され、それぞれの処理において、第3処理が実施される。
なお、この場合も、第2工程(ステップS120)は、PIT工程(図3に例示したステップS120a)及びIAO工程(図3に例示したステップS120b)を有することができる。
【0154】
第2処理と第3処理の効果は、膜厚が深くなるにつれて弱くなる。つまり、例えばステップS110〜ステップS120を3回繰り返してスペーサ層16を作製した場合、スペーサ層16のより上の部分では期待通りのCuO還元とNO94の除去とが実現し、合わせて導電部162の結晶性向上の効果も期待できるが、スペーサ層16のより下の部分では、CuO還元の程度が相対的に低く、NO94の残留量が相対的に多く、結晶性も相対的に低いことがある。そこで、ステップS110〜ステップS140を繰り返すことで、改善する。すなわち、薄めの絶縁層161と導電部162に対して第2処理(ステップS130)と第3処理(ステップS140)を行い、十分にCuOを還元してNO94を除去し、導電部162の結晶性を向上する。その後また薄めの絶縁層161と導電部162を形成して、第2処理(ステップS130)と第3処理(ステップS140)を行い、十分にCuOを還元してNO94を除去し、導電部162の結晶性を向上する。
【0155】
このように、本具体例の磁気抵抗効果素子の製造方法によれば、スペーサ層16を複数の回数に分けて形成し、高い信頼性を確保し、その際に生じる導電部162の酸素残留を効果的に防止し、さらに、残留するNO94を除去し、結晶性も向上させ、MR変化率の高い磁気抵抗効果素子が得られる。
【0156】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法においては、以下のような装置を用いることができる。
図15は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法に用いられる製造装置の構成を例示する模式図である。
図15に表したように、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法に用いることができる製造装置50aにおいては、搬送チャンバ(TC)50を中心として、第1チャンバ(ロードロックチャンバ)51、第2チャンバ52、第3チャンバ53、第4チャンバ54、第5チャンバ55がそれぞれゲートバルブを介して設けられている。この製造装置50aは、成膜と各種の処理を行うものであり、ゲートバルブを介して接続された各チャンバの間で、真空中において基板を搬送することができるので、基板の表面は清浄に保たれる。
【0157】
第2チャンバ52では、例えば、窒素ガス93g(窒素イオンや窒素プラズマを含む)や窒素ラジカル、窒素プラズマへの暴露、または、窒素イオン93iや窒素プラズマの照射が行われる。すなわち、第2処理が実施される。また、希ガスイオンや希ガスプラズマを照射する。すなわち、第3処理を実施することもできる。なお、加熱ステージを備え、第2処理における加熱処理や第3処理における加熱処理を実施できる。
第3チャンバ53では、プレクリーニングや希ガスプラズマ処理を行うことができ、すなわち、例えばPITを行う。
第4チャンバ54では、金属を成膜する。
第5チャンバ55では、酸化物層を形成する。なお、窒化物を形成しても良い。
【0158】
第4チャンバは、多元(5〜10元)のターゲットを有するように構成できる。成膜方式は、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、及びMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などが挙げられる。
【0159】
スペーサ層16に対して密着力向上処理(SAT:Strengthen Adhesion Treatment)を行う場合に、SATには、RFプラズマ機構、イオンビーム機構、または加熱機構を有するチャンバを利用できる。具体的には、RFバイアス機構を有する第4チャンバ54や第2チャンバ52などを用いることができる。RFプラズマ機構は比較的簡便な機構であり、第4チャンバ54によって、金属膜成膜及びSATの双方を実行できる。
【0160】
なお、第5チャンバ55でのSATは好ましくない。酸化チャンバでのSATの際に、チャンバに吸着した酸素ガスが脱離し、フリー層18中に混入し、フリー層18が劣化するおそれがある。第4チャンバ54のように、成膜時に酸素を使用しないチャンバは、チェンバーへの酸素の吸着が少なく、真空の質を良好に保ちやすい。
上記真空チャンバの真空度の値は、例えば、10−9Torr台であり、10−8Torrの前半の値が許容できる。
【0161】
図16は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用できる別の磁気抵抗効果素子の構成を例示する模式的斜視図である。
図16に表したように、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用できる別の磁気抵抗効果素子104は、ピン層14がフリー層18よりも上に配置されるトップ型のCCP−CPP素子である。このように、第1及び第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法は、ピン層14がフリー層18よりも下に位置するボトム型のCCP−CPP素子(例えば磁気抵抗効果素子101)のみならず、トップ型のCCP−CPP素子にも適用でき、同様の効果が得られる。
【0162】
(第3の実施の形態)
本発明の第4の実施形態に係る磁気抵抗効果素子105(図示せず)は、第1及び第2の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法によって製造された磁気抵抗効果素子(CCP素子)のいずれかである。すなわち、磁気抵抗効果素子105は、上記の磁気抵抗効果素子101及び104を含む。
【0163】
本発明の実施形態において、CPP素子の素子抵抗RAは、高密度対応の観点から、500mΩ/μm以下が好ましく、300mΩ/μm以下がより好ましい。素子抵抗RAを算出する場合には、CPP素子の抵抗Rにスピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aを掛け合わせる。ここで、素子抵抗Rは直接測定できる。一方、スピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aは素子構造に依存する値であるため、その決定には注意を要する。
【0164】
例えば、スピンバルブ膜の全体を実効的にセンシングする領域としてパターニングしている場合には、スピンバルブ膜全体の面積が実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、スピンバルブ膜の面積を少なくとも0.04μm以下にし、300Gbpsi以上の記録密度では0.02μm以下にする。
【0165】
しかし、スピンバルブ膜に接してスピンバルブ膜より面積の小さい下電極11または上電極20を形成した場合には、下電極11または上電極20の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。下電極11または上電極20の面積が異なる場合には、小さい方の電極の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、小さい方の電極の面積を少なくとも0.04μm以下にする。
【0166】
後に詳述する図17及び図18に例示した具体例の場合、図17において磁気抵抗効果素子105の磁気抵抗効果膜10の面積が一番小さいところは上電極20と接触している部分なので、その幅をトラック幅Twとして考える。また、ハイト方向に関しては、図18においてやはり上電極20と接触している部分が一番小さいので、その幅をハイト長Dとして考える。スピンバルブ膜の実効面積Aは、A=Tw×Dとして考える。
【0167】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子105では、電極間の抵抗Rを100Ω以下にすることができる。この抵抗Rは、例えばヘッドジンバルアセンブリ(HGA、磁気ヘッドアセンブリ)の先端に装着した再生ヘッド部の2つの電極パッド間で測定される抵抗値である。
【0168】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子105において、ピン層14またはフリー層18がfcc構造である場合には、fcc(111)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がbcc構造をもつ場合には、bcc(110)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がhcp構造をもつ場合には、hcp(001)配向またはhcp(110)配向性をもつことが望ましい。
【0169】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子105の結晶配向性は、配向のばらつき角度で4.0度以内が好ましく、3.5度以内がより好ましく、3.0度以内がさらに好ましい。これは、X線回折のθ−2θ測定により得られるピーク位置でのロッキングカーブの半値幅として求められる。また、素子断面からのナノディフラクションスポットでのスポットの分散角度として検知することができる。
【0170】
反強磁性膜の材料にも依存するが、一般的に反強磁性膜とピン層14/スペーサ層16/フリー層18とでは格子間隔が異なるため、それぞれの層においての配向のばらつき角度を別々に算出することが可能である。例えば、白金マンガン(PtMn)とピン層14/スペーサ層16/フリー層18とでは、格子間隔が異なることが多い。白金マンガン(PtMn)は比較的厚い膜であるため、結晶配向のばらつきを測定するのには適した材料である。ピン層14/スペーサ層16/フリー層18については、ピン層14とフリー層18とで結晶構造がbcc構造とfcc構造というように異なる場合もある。この場合、ピン層14とフリー層18とはそれぞれ別の結晶配向の分散角をもつことになる。
【0171】
図17及び図18は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の応用形態を例示する模式的断面図である。
すなわち、これらの図は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子105を磁気ヘッドに組み込んだ状態を例示しており、図17は、磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子105を切断したときの断面図であり、図18は、この磁気抵抗効果素子105を媒体対向面ABSに対して垂直な方向に切断したときの断面図である。
【0172】
図17及び図18に例示した磁気ヘッドは、いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。磁気抵抗効果素子105は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法のいずれかによって作製された上述のCCP−CPP素子である。
【0173】
図17及び図18に表したように、磁気抵抗効果膜10の上下には、下電極11と上電極20とがそれぞれ設けられている。磁気抵抗効果膜10の両側面には、バイアス磁界印加膜41と絶縁膜42とが積層して設けられている。また、磁気抵抗効果膜10の媒体対向面ABSの側には、保護層43が設けられている。
【0174】
磁気抵抗効果膜10に対するセンス電流は、その上下に配置された下電極11、上電極20によって矢印Aで示したように、膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また、左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜41により、磁気抵抗効果膜10にはバイアス磁界が印加される。このバイアス磁界により、磁気抵抗効果膜10のフリー層18の磁気異方性を制御して単磁区化することによりその磁区構造が安定化し、磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制することができる。磁気抵抗効果膜10のS/N比が向上しているので、磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気再生が可能となる。
【0175】
(第4の実施の形態)
図19は、本発明の第4の実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリの構成を例示する模式的斜視図である。
図19に表したように、本発明の第4の実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)160は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を一端に搭載するサスペンション154と、サスペンション154の他端に接続されたアクチュエータアーム155と、を備える。ここで、磁気抵抗効果素子は、上記の磁気抵抗効果素子101、104及び105の少なくともいずれかである。
【0176】
すなわち、ヘッドジンバルアセンブリ160は、アクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。サスペンション154の先端には、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを有するヘッドスライダ153が取り付けられている。
【0177】
サスペンション154は信号の書き込み及び読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。ヘッドジンバルアセンブリ160には電極パッド165が設けられる。
【0178】
本実施形態に係る磁気抵抗ヘッドアセンブリは、第1及び第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法のいずれかにより製造された磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを有しているので、高MR変化率の磁気ヘッドアセンブリが提供できる。
【0179】
(第5の実施の形態)
図20は、本発明の第5の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を例示する模式的斜視図である。
図20に表したように、本発明の第5の実施形態に係る磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、磁気ディスク200は、スピンドルモータ152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、複数の磁気ディスク200を備えても良い。
【0180】
磁気記録再生装置150は、上記の本発明に係る磁気ヘッドアセンブリ160を備えている。
すなわち、磁気ディスク200に格納され、情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。
【0181】
サスペンション154はアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、ボビン部に巻かれた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
【0182】
磁気ディスク200が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。なお、ヘッドスライダ153が磁気ディスク200と接触するいわゆる「接触走行型」でも良い。
【0183】
アクチュエータアーム155は、軸受部157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
【0184】
本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、本発明の第1及び第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の少なくともいずれかによって製造された上述の磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを有するヘッドジンバルアセンブリ160を用いているので、高MR変化率により、高い記録密度で磁気ディスク200に磁気的に記録された情報を確実に読み取ることが可能となる。
【0185】
(第6の実施の形態)
次に、本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置として、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリの例について説明する。すなわち、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(MRAM: magnetic random access memory)などの磁気メモリを実現できる。以下では、磁気抵抗効果素子として第1の実施形態で説明した磁気抵抗効果素子101を用いる場合として説明するが、本発明の実施形態及び実施例として説明した上記の磁気抵抗効果素子101、104及び105の少なくともいずれかを用いることができる。
【0186】
図21は、本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を例示する模式図である。
すなわち、同図は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を例示している。 図21に表したように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子においては、アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ350、行デコーダ351が設けられており、ビット線334とワード線332によりスイッチングトランジスタ330がオンになり一意に選択され、センスアンプ352で検出することにより磁気抵抗効果膜10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。
一方、ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線323とビット線322とに書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
【0187】
図22は、本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置の別の構成を例示する模式図である。
図22に表したように、この場合には、マトリクス状に配線されたビット線372とワード線384とが、それぞれデコーダ360、361、362により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子101とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子101以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線372と書き込みワード線383とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
【0188】
図23は、本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置の要部を例示する模式的断面図である。
図24は、図23のA−A’線断面図である。
これらの図は、図21に例示した磁気記録再生装置(磁気メモリ)に含まれる1ビット分のメモリセルの構造を例示している。このメモリセルは、記憶素子部分311とアドレス選択用トランジスタ部分312とを有する。
【0189】
記憶素子部分311は、磁気抵抗効果素子101と、これに接続された一対の配線422及び配線424とを有する。磁気抵抗効果素子101は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)である。
【0190】
一方、アドレス選択用トランジスタ部分312には、ビア326及び埋め込み配線328を介して接続されたスイッチングトランジスタ330が設けられている。このスイッチングトランジスタ330は、ゲート370に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子101と配線434との電流経路の開閉を制御する。
【0191】
また、磁気抵抗効果素子101の下方には、書き込み用の配線423が、配線422とほぼ直交する方向に設けられている。これらの配線422、423は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
上記の配線422がビット線322に対応し、配線423がワード線323に対応する。
【0192】
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子101に書き込むときは、配線422、423に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
【0193】
また、ビット情報を読み出すときは、配線422と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子101と、配線424とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子101の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
【0194】
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
【0195】
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張、変更可能であり、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。磁気抵抗効果膜の具体的な構造や、その他、電極、バイアス印加膜、絶縁膜などの形状や材質に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる。例えば、磁気抵抗効果素子を再生用磁気ヘッドに適用する際に、素子の上下に磁気シールドを付与することにより、磁気ヘッドの検出分解能を規定することができる。
【0196】
また、本発明の実施形態は、長手磁気記録方式のみならず、垂直磁気記録方式の磁気ヘッドあるいは磁気再生装置についても適用できる。さらに、本発明の磁気再生装置は、特定の記録媒体を定常的に備えたいわゆる固定式のものでも良く、一方、記録媒体が差し替え可能ないわゆる「リムーバブル」方式のものでも良い。
【0197】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を構成する各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0198】
その他、本発明の実施の形態として上述した磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0199】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0200】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子の構成を例示する模式的斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の具体例を例示するフローチャート図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法と比較例による磁気抵抗効果素子の要部の状態を例示する模式的断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部の構成を例示する模式図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の作用を例示する模式的断面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る別の磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図15】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法に用いられる製造装置の構成を例示する模式図である。
【図16】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用できる別の磁気抵抗効果素子の構成を例示する模式的斜視図である。
【図17】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の応用形態を例示する模式的断面図である。
【図18】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の応用形態を例示する模式的断面図である。
【図19】本発明の第4の実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリの構成を例示する模式的斜視図である。
【図20】本発明の第5の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を例示する模式的斜視図である。
【図21】本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を例示する模式図である。
【図22】本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置の別の構成を例示する模式図である。
【図23】本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置の要部を例示する模式的断面図である。
【図24】図23のA−A’線断面図である。
【符号の説明】
【0201】
10 磁気抵抗効果膜
11 下電極
12 下地層
13 ピニング層(反強磁性層)
14 ピン層(第1磁性層)
14a 層
15 下部金属層(上部非磁性金属層)
16 スペーサ層(CCP−NOL)
16a 第1金属膜
16b、16e 第2金属膜
16s 広義のスペーサ層
17 上部金属層(上部非磁性金属層)
18 フリー層(第2磁性層)
19 キャップ層(保護層)
20 上電極
41 バイアス磁界印加膜
42 絶縁膜
43 保護層
50a 製造装置
50 搬送チャンバ(TC)
51 第1チャンバ(ロードロックチャンバ)
52 第2チャンバ(第2処理チャンバ)
53 第3チャンバ
54 第4チャンバ(金属成膜チャンバ)
55 第5チャンバ(第1処理チャンバ)
60 真空チャンバ
60a 処理装置
61 真空ポンプ
62 供給管
63 マスフローコントローラ(MFC)
70 イオンソース
70a プラズマ
71、72、73 グリッド
74 ニュートラライザ
80 被処理体
91 Arイオンビーム
92 酸素イオンビーム
93 窒素イオンビーム
93g 窒素ガス
93i 窒素イオン
93m モノマー窒素
94 NO
101、104、105、109 磁気抵抗効果素子
141 下部ピン層
142 磁気結合層(反平行磁気結合層)
143 上部ピン層
150 磁気記録再生装置
152 スピンドルモータ
153 ヘッドスライダ
154 サスペンション
155 アクチュエータアーム
156 ボイスコイルモータ
157 軸受部
160 ヘッドジンバルアセンブリ(磁気ヘッドアセンブリ)
161 絶縁層
161f 酸化が不十分な領域
161n 窒化領域
162 導電部
162f CuO
164 リード線
165 電極バッド
200 磁気ディスク
311 記憶素子部分
312 アドレス選択用トランジスタ部分
322、334、372 ビット線
323、332、383、384 ワード線
326 ビア
328 埋め込み配線
330 スイッチングトランジスタ
350 列デコーダ
351 行デコーダ
352 センスアンプ
360、361、362 デコーダ
370 ゲート
422、423、424、434 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体を含む第1磁性層と、強磁性体を含む第2磁性層と、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する導電部とを含むスペーサ層と、を有する磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
前記スペーサ層の母材となる膜を形成する第1工程と、
前記膜に、酸素分子、酸素イオン、酸素プラズマ及び酸素ラジカルの少なくともいずれかを含むガスを用いた第1処理を施す第2工程と、
前記第1処理が施された前記膜に、窒素分子、窒素原子、窒素イオン、窒素プラズマ及び窒素ラジカルの少なくともいずれかを含むガスを用いた第2処理を施す第3工程と、
を備えたことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2処理は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むガスをイオン化またはプラズマ化して得た雰囲気中に窒素ガスを導入する処理を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2処理は、窒素ガスをイオン化またはプラズマ化して前記第1処理が施された前記膜に照射する処理を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記第2処理は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むガスをイオン化またはプラズマ化して得た雰囲気中に窒素ガスを導入しイオン化またはプラズマ化して前記第1処理が施された前記膜に照射する処理を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程において、前記第1処理が施された前記膜を加熱しつつ、前記第2処理を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2処理が施された前記膜に、希ガスイオンの照射、希ガスプラズマの照射、及び加熱、の少なくともいずれかの第3処理を施す第4工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程及び前記第4工程の組み合わせを複数回繰り返すことを特徴とする請求項6記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1工程、前記第2工程、前記第3工程及び前記第4工程の組み合わせを複数回繰り返すことを特徴とする請求項6記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1工程、前記第2工程及び前記第3工程の組み合わせを複数回繰り返すことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程及び前記第2工程の組み合わせを複数回繰り返すことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1工程は、
前記導電部となる第1金属膜と、前記絶縁層に変換される第2金属膜と、を成膜する工程を含み、
前記第2工程は、
前記第2金属膜を酸化ガスに暴露して、前記第2金属膜を前記絶縁層に変換する工程を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項12】
前記第1工程は、
前記導電部となる第1金属膜と、前記絶縁層に変換される第2金属膜と、を成膜する工程を含み、
前記第2工程は、
前記第2金属膜に、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むガスをイオン化またはプラズマ化して得た雰囲気中に、酸素ガスを供給して、前記第2の金属層を前記絶縁層に変換する変換工程を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項13】
前記第1工程は、
前記導電部となる第1金属膜と、前記絶縁層に変換される第2金属膜と、を成膜する工程を含み、
前記第2工程は、
前記第2金属膜にアルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むガスをイオン化またはプラズマ化したものを照射する前処理工程と、
前記前処理工程が施された前記第2金属膜に、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むガスをイオン化またはプラズマ化して得た雰囲気中に、酸素ガスを供給して、前記第2の金属層を前記絶縁層に変換する変換工程と、
を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項14】
前記第1金属膜は、Cu、Au、Ag及びAlよりなる群から選択された少なくとも1つを含み、前記第2金属膜は、Al、Si、Mg、Ti、Hf、Zr、Cr、Mo、Nb及びWよりなる群から選択された少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項11〜13のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項15】
前記第3処理における前記希ガスイオンまたは前記希ガスプラズマを生成する際の高周波バイアスは、5W以上120W以下であることを特徴とする請求項6〜14のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項16】
前記第3処理における前記希ガスイオンまたは前記希ガスプラズマの照射の時間は、5秒以上5分以下であることを特徴とする請求項6〜15のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項18】
請求項17記載の磁気抵抗効果素子を一端に搭載するサスペンションと、
前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームと、
を備えたことを特徴とする磁気ヘッドアセンブリ。
【請求項19】
請求項18記載の磁気ヘッドアセンブリと、
前記磁気ヘッドアセンブリに搭載された前記磁気抵抗効果素子を用いて情報が記録される磁気記録媒体と、
を備えたことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項20】
請求項17記載の磁気抵抗効果素子をマトリクス状に配置したことを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−80788(P2010−80788A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249223(P2008−249223)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】