説明

窒化物半導体素子の製造方法

【課題】ドレインリーク電流を低減することが可能な窒化物半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】ヘテロ電界効果トランジスタ1の製造方法は、ドリフト層20aを支持基板10上にエピタキシャル成長させる工程と、水素ガスをキャリアガスとして用いて、p型半導体層である電流ブロック層20bをドリフト層20a上に1000℃以上でエピタキシャル成長させる工程と、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種のガスをキャリアガスとして用いて、コンタクト層20cを電流ブロック層20b上にエピタキシャル成長させる工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導電性基板上にn型GaNドリフト層、p型GaNバリア層、n型GaNキャップ層が順に形成された縦型トランジスタ構造を有するヘテロ電界効果トランジスタ(HFET)が開示されている。特許文献1に記載のトランジスタでは、n型GaNキャップ層からp型GaNバリア層を介してn型GaNドリフト層に至る開口部が形成されており、開口部の側面上に電子走行層と電子供給層とが順に積層されている。
【0003】
特許文献1に記載のトランジスタは、MOCVD法等により導電性基板上にn型GaNドリフト層、p型GaNバリア層、n型GaNキャップ層を順に形成した後に、n型GaNキャップ層からp型GaNバリア層を介してn型GaNドリフト層に至る開口部を形成し、開口部の側面上に電子走行層と電子供給層とを順に積層することによって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−286942号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett., Vol.72, No.14, 6 April 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半導体層の形成に際しては、半導体結晶の分解を抑制するために用いられるアンモニア(NH)ガスや、キャリアガスとして用いられる水素(H)ガスのように、水素原子を含有するガスが成長炉内に導入されることがある。p型半導体層が外部に露出した素子形成に際しては、p型半導体層を高温下で形成した後の降温時にアンモニアガスや水素ガスが成長炉内に残存していると、アンモニアガスや水素ガスに由来する水素原子がp型半導体層に取り込まれ、当該水素原子がドーパント(例えばMg)に結合(パッシベーション)してp型半導体層のアクセプタ濃度が不足することがある(例えば、上記非特許文献1参照)。これに対し、p型半導体層を形成した後に窒素雰囲気等で活性化アニールを行うことにより、p型半導体層中の水素原子がドーパントから解離すると共に素子外部に放出されるため、ドーパントを活性化させることができる。
【0007】
特許文献1に記載のトランジスタのような窒化物半導体素子に対しては、p型半導体層中のドーパントの活性度を向上させて、pn界面の電流ブロックを機能させてドレインリークを抑制することが求められており、半導体積層を形成した後に活性化アニールを行うことが考えられる。しかしながら、本発明者の知見によれば、特許文献1に記載のトランジスタに対して活性化アニールを行って水素原子をドーパントから解離させたとしても、p型GaNバリア層上にn型GaNキャップ層が積層された状態でアニールが行われるため、n型GaNキャップ層が水素原子に対して障壁として働いてしまう。そのため、水素原子がp型GaNバリア層から素子外部へ放出されることが阻害されてしまい、ドレインリークを抑制するためのp型GaNバリア層を充分に機能させることが困難である。
【0008】
このようにp型GaNバリア層中のドーパントが充分に活性化されていない場合、n型GaNドリフト層及びp型GaNバリア層の界面が充分に電気的に機能せず、ドレインリーク(電流リーク)が発生してしまいピンチオフ特性が低下することとなる。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、ドレインリーク電流を低減することが可能な窒化物半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者は以下の知見を見出した。すなわち、上記課題を解決する方法として、p型半導体層に水素原子が混入することを抑制する観点から、p型半導体層を形成する工程において、水素ガスとは異なる不活性ガス(例えば窒素ガス)をキャリアガスとして用いることが考えられる。しかしながら、p型半導体層を形成する工程において窒素ガス等の不活性ガスを用いると、酸素等の補償不純物がp型半導体層へ混入してしまい易い。そして、混入した補償不純物によってp型半導体層中のドーパントが補償されると、p型半導体層のアクセプタ濃度が低下してドレインリーク不良の発生が促進されることとなる。
【0011】
一方、p型半導体層を形成する工程において水素ガスをキャリアガスとして用いた場合には、補償不純物がp型半導体層へ混入することを充分に抑制することが可能であり、窒素ガス等の不活性ガスを用いた場合に比してドレインリーク電流を低減することができる。また、水素ガスは水素原子の供給源となり得るものの、p型半導体層を高温下で形成することにより、p型半導体層の水素濃度を低減しつつp型半導体層中のドーパントが水素原子と結合することを抑制することができる。したがって、水素ガスをキャリアガスとして用いてp型半導体層を高温下で形成することで、p型半導体層に補償不純物が混入することを抑制した上で、p型半導体層の水素濃度を低減しつつp型半導体層中のドーパントが水素原子と結合することを抑制することができる。
【0012】
すなわち、本発明に係る窒化物半導体素子の製造方法は、第1窒化ガリウム系半導体層を自立III族窒化物基板上にエピタキシャル成長させる工程と、水素ガスをキャリアガスとして用いて、p型半導体層である第2窒化ガリウム系半導体層を第1窒化ガリウム系半導体層上に1000℃以上でエピタキシャル成長させる工程と、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種のガスをキャリアガスとして用いて、第3窒化ガリウム系半導体層を第2窒化ガリウム系半導体層上にエピタキシャル成長させる工程と、を備える。
【0013】
本発明では、水素ガスをキャリアガスとして用いて、p型半導体層である第2窒化ガリウム系半導体層を1000℃以上でエピタキシャル成長させている。これにより、第2窒化ガリウム系半導体層に補償不純物が混入することを抑制した上で、第2窒化ガリウム系半導体層に混入する水素原子量を低減しつつ第2窒化ガリウム系半導体層中のドーパントが水素原子と結合することを抑制することができる。また、本発明では、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種のガスをキャリアガスとして用いて第3窒化ガリウム系半導体層をエピタキシャル成長させている。これらのガスは水素原子の供給源となり難いため、これらのガスをキャリアガスとして用いることにより、第3窒化ガリウム系半導体層をエピタキシャル成長させる工程において水素原子が第2窒化ガリウム系半導体層に取り込まれることを抑制することができる。さらに、本発明では、第3窒化ガリウム系半導体層を第2窒化ガリウム系半導体層上にエピタキシャル成長させている。これにより、第2窒化ガリウム系半導体層が外部に露出することが抑制されるため、第2窒化ガリウム系半導体層に水素原子が取り込まれてドーパントが失活することを抑制することができる。以上のような本発明では、第2窒化ガリウム系半導体層のアクセプタ濃度が不足することが抑制されるため、第1窒化ガリウム系半導体層及び第2窒化ガリウム系半導体層の界面が充分に電気的に機能する。したがって、窒化物半導体素子におけるドレインリーク電流を低減することができる。
【0014】
第3窒化ガリウム系半導体層は、n型半導体層であることが好ましい。この場合、水素原子が第3窒化ガリウム系半導体層を通過して第2窒化ガリウム系半導体層に至ることが更に抑制されるため、ドレインリーク電流を更に低減することができる。
【0015】
第1窒化ガリウム系半導体層は、n型半導体層であってもよい。この場合、第1窒化ガリウム系半導体層及び第2窒化ガリウム系半導体層の界面にpn接合を形成することができる。
【0016】
第2窒化ガリウム系半導体層は、マグネシウム及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素をドーパントとして含有していてもよい。この場合、第2窒化ガリウム系半導体層を効率的に形成することができる。また、マグネシウム及び亜鉛は、水素原子と結合して失活し易い傾向があるものの、本発明によれば、ドーパントとしてマグネシウム及び亜鉛を用いた場合であってもドレインリーク電流を低減することができる。
【0017】
第2窒化ガリウム系半導体層におけるアクセプタ濃度に対する水素濃度の比は、0.8未満であることが好ましい。この場合、第2窒化ガリウム系半導体層中のドーパントが失活することが充分に抑制されるため、第2窒化ガリウム系半導体層が電気的に更に良好に機能することとなり、ドレインリーク電流を更に低減することができる。
【0018】
第3窒化ガリウム系半導体層の厚さは、50〜500nmであることが好ましい。この場合、第3窒化ガリウム系半導体層の表面の平坦性を維持しつつ、第3窒化ガリウム系半導体層を電気的に更に良好に機能させることができる。
【0019】
第1〜第3窒化ガリウム系半導体層の材料の組み合わせは、第3窒化ガリウム系半導体層/第2窒化ガリウム系半導体層/第1窒化ガリウム系半導体層として記載したときに、n型GaN/p型GaN/n型GaN、n型GaN/p型AlGaN/n型GaN、n型InGaN/p型GaN/n型GaN又はn型InGaN/p型AlGaN/n型GaNであることが好ましい。これらの組み合わせによれば、良好なpn接合が提供され、ドレインリーク電流を更に低減することができる。
【0020】
本発明に係る窒化物半導体素子の製造方法は、ドリフト層のための第1窒化ガリウム系半導体層、電流ブロック層のための第2窒化ガリウム系半導体層、及び、コンタクト層のための第3窒化ガリウム系半導体層に、第3窒化ガリウム系半導体層から第2窒化ガリウム系半導体層を介して第1窒化ガリウム系半導体層に至る開口部を形成して、ドリフト層、電流ブロック層及びコンタクト層並びに開口部を有する積層体を得る工程と、窒化ガリウム系半導体からなるチャネル層を開口部の側面上にエピタキシャル成長させる工程と、III族窒化物半導体からなるキャリア供給層をチャネル層上にエピタキシャル成長させる工程と、絶縁膜をキャリア供給層上に形成する工程と、ゲート電極を絶縁膜上に形成し、ソース電極を積層体上に形成し、自立III族窒化物基板又は積層体上にドレイン電極を形成する工程と、を更に備え、キャリア供給層のバンドギャップがチャネル層のバンドギャップよりも大きい態様であってもよい。
【0021】
本発明に係る窒化物半導体素子の製造方法は、当該窒化物半導体素子が、コレクタ層、ベース層及びエミッタ層を備えるバイポーラトランジスタであり、コレクタ層が、第1窒化ガリウム系半導体層であり、ベース層が、インジウムを含有する第2窒化ガリウム系半導体層であり、エミッタ層が、第3窒化ガリウム系半導体層である態様であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ドレインリーク電流を低減することが可能な窒化物半導体素子の製造方法を提供することができる。特に、本発明によれば、ドーパントを活性化させるための熱処理を要することなくドレインリーク電流を低減することが可能な窒化物半導体素子の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、縦型構造を有する電力制御用トランジスタの製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造される窒化物半導体素子を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体素子の製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体素子の製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体素子の製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る製造方法によって製造される窒化物半導体素子を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る製造方法によって製造される窒化物半導体素子を模式的に示す断面図である。
【図7】ECV測定の測定結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体素子の製造方法について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、可能な場合には同一要素には同一符号を用いる。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0025】
図1は、本実施形態に係る製造方法によって製造される窒化物半導体素子を模式的に示す断面図である。図1に示すように、ヘテロ電界効果トランジスタ1は、縦型トランジスタ構造を有しており、支持基板10、半導体領域20、ソース電極30、ドレイン電極40、絶縁膜50及びゲート電極60を備えている。
【0026】
支持基板10は、導電性の自立III族窒化物基板であり、GaN基板等の窒化ガリウム系半導体基板である。支持基板10は、互いに対向する表面(主面)10aと裏面10bとを有している。
【0027】
半導体領域20は、支持基板10の表面10a上に配置されている。半導体領域20は、ドリフト層20a、電流ブロック層20b、コンタクト層20c、チャネル層20d及びキャリア供給層20eを有している。
【0028】
ドリフト層20a、電流ブロック層20b及びコンタクト層20cは、支持基板10の表面10a上に順に積層されて積層体(半導体積層)25を形成しており、積層体25の表面側には、コンタクト層20cから電流ブロック層20bを介してドリフト層20aに至る開口部27が形成されている。開口部27は、支持基板10の表面10aに沿った所定方向に延びており、図1は、この所定方向と直交する方向の切断面を示している。
【0029】
開口部27は、側面27a及び底面27bを有している。側面27aは、ドリフト層20a、電流ブロック層20b及びコンタクト層20cの側面から構成されており、底面27b側に向かって傾斜している。開口部27の底面27bは、ドリフト層20aから構成されており、側面27aに接続されている。
【0030】
ドリフト層20aは、支持基板10の表面10aの全面を覆うように表面10a上に配置されている。ドリフト層20aの表面側には、開口部27の底部を構成する凹部が形成されている。ドリフト層20aは、GaN、AlGaN、InGaN又はInAlGaN等からなる窒化ガリウム系半導体層であり、例えばn型ドーパント(Si等)を含有するn型半導体層である。ドリフト層20aのドナー濃度は、例えば5×1015〜2×1016cm−3である。ドリフト層20aの厚さは、凹部が形成されていない領域において例えば3〜12μmである。
【0031】
電流ブロック層(バリア層)20bは、ドリフト層20aにおける凹部が形成されていない領域上に配置されており、ドリフト層20aに接している。電流ブロック層20bは、GaN、AlGaN、InGaN又はInAlGaN等からなる窒化ガリウム系半導体層であり、AlGaNからなる場合には、電流ブロック層20bからコンタクト層20cあるいはチャネル層20dへドーパントが拡散することを充分に抑制することができる。
【0032】
電流ブロック層20bは、マグネシウム(Mg)及び亜鉛(Zn)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素をp型ドーパントとして含有するp型半導体層である。電流ブロック層20b及びドリフト層20aの間には、例えばpn接合29aが形成されている。電流ブロック層20bのアクセプタ濃度は、pn接合29aが有効に機能し、ドレイン耐圧を保持する観点から、1×1017cm−3以上が好ましく、1×1018cm−3以上がより好ましい。電流ブロック層20bのアクセプタ濃度は、電流ブロック層20bからチャネル層20dへのドーパント拡散によるオン抵抗の増加を抑制する観点から、5×1018cm−3以下が好ましい。
【0033】
電流ブロック層20bにおける水素濃度が高いと、水素原子がドーパントに結合してドーパントの活性度が低下し易くなる。そのため、電流ブロック層20bにおけるアクセプタ濃度に対する水素濃度の比(水素濃度/アクセプタ濃度)は、ドーパントの活性度が低下することを更に抑制する観点から、0.8未満が好ましく、0.7以下がより好ましい。なお、水素濃度は、雰囲気ガスの種類や成長温度によって調整可能であり、二次イオン質量分析(SIMS)等により測定することができる。
【0034】
電流ブロック層20bの厚さは、pn接合29aが有効に機能し、ドレイン耐圧を保持する観点から、0.5μm以上が好ましい。電流ブロック層20bの厚さは、電流ブロック層20bの膜厚に比例してトランジスタのオン抵抗が増加する観点から、2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
【0035】
コンタクト層20cは、電流ブロック層20b上に配置されており、電流ブロック層20bに接している。コンタクト層20cは、GaN、AlGaN、InGaN又はInAlGaN等からなる窒化ガリウム系半導体層であり、バンドギャップが小さいInGaNからなる場合には、電流ブロック層20b中の水素原子の拡散を促進させることができる。
【0036】
コンタクト層20cは、例えば、n型ドーパント(Si等)を含有するn型半導体層である。コンタクト層20c及び電流ブロック層20bの間には、例えばpn接合29bが形成されている。コンタクト層20cのドナー濃度は、ソース電極30−チャネル層20d間の直列抵抗を低減させる観点から、1×1018cm−3以上が好ましい。コンタクト層20cのドナー濃度は、ドナー過剰による補償型欠陥導入を抑制する観点から、1×1019cm−3以下が好ましく、5×1018cm−3以下がより好ましい。コンタクト層20cがn型半導体層である場合には、酸素等の補償不純物が混入するとキャリア増加に寄与することとなり、このような補償不純物を含有するキャリアガスをコンタクト層20cの形成に際して用いることができる。
【0037】
コンタクト層20cの厚さは、電流ブロック層20bからコンタクト層20cへドーパントが拡散する場合であってもコンタクト層20cが電気的に充分に機能する観点から、0.05μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。コンタクト層20cの厚さは、コンタクト層20cの表面の平坦性を維持する観点から、0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましい。
【0038】
ドリフト層20a、電流ブロック層20b及びコンタクト層20cの材料の組み合わせは、コンタクト層20c/電流ブロック層20b/ドリフト層20aとして記載したときに、n型GaN/p型GaN/n型GaN、n型GaN/p型AlGaN/n型GaN、n型InGaN/p型GaN/n型GaN又はn型InGaN/p型AlGaN/n型GaNであることが好ましい。これらの組み合わせによれば、良好なpn接合が提供され、ドレインリーク電流を更に低減することができる。
【0039】
チャネル層20dは、開口部27の形状に沿って開口部27の側面27a及び底面27b上に配置されており、開口部27に露出したドリフト層20a、電流ブロック層20b及びコンタクト層20cのそれぞれの側面に接している。また、チャネル層20dは、コンタクト層20cの主面における開口部27近傍の領域を覆っている。チャネル層20dは、GaN、AlGaN、InGaN又はInAlGaN等からなる窒化ガリウム系半導体層であり、例えばノンドープである。チャネル層20dの厚さは、例えば50〜200nmである。
【0040】
キャリア供給層(バリア層)20eは、開口部27の形状に沿ってチャネル層20d上に配置されており、チャネル層20dに接している。キャリア供給層20eは、AlN、GaN、AlGaN、InGaN又はInAlGaN等からなるIII族窒化物半導体層であり、例えばノンドープである。キャリア供給層20eの厚さは、例えば5〜30nmである。キャリア供給層20eのバンドギャップは、キャリア供給層20eとチャネル層20dとの界面に井戸型ポテンシャルを形成し二次元電子ガスを閉じ込める機能の観点から、チャネル層20dのバンドギャップよりも大きいことが好ましい。
【0041】
チャネル層20d及びキャリア供給層20eの材料の組み合わせは、チャネル層20d/キャリア供給層20eとして記載したときに、InGaN/AlGaN、GaN/AlGaN又はAlGaN/AlNであることが好ましい。これらの組み合わせによれば、良好なキャリア生成及び良好なチャネル形成が提供される。
【0042】
ソース電極30は、コンタクト層20cの主面におけるチャネル層20dに覆われていない領域上に形成されており、ソース電極30の側面は、チャネル層20d及びキャリア供給層20eの端部に接している。ソース電極30としては、例えばTi/Alを用いることができる。
【0043】
ドレイン電極40は、支持基板10又は積層体25上に配置される。本実施形態では、ドレイン電極40は、支持基板10の裏面10bの全面を覆うように配置されている。ドレイン電極40としては、例えばTi/Alを用いることができる。
【0044】
絶縁膜50は、開口部27の形状に沿ってキャリア供給層20e上に配置されており、開口部27の形状に沿った凹部を形成している。絶縁膜50は、例えばシリコン酸化物膜であり、絶縁膜50の厚さは、例えば10nm程度である。絶縁膜50を配置することにより、積層体25に対するゲート電極60の障壁を高めることができる。
【0045】
ゲート電極60は、絶縁膜50によって形成された凹部内に配置されている。ゲート電極60としては、例えばNi/Au、Pt/Au、Pd/Au又はMo/Auを用いることができる。
【0046】
ヘテロ電界効果トランジスタ1は、キャリアが電子であるとき、ソース電極30からのキャリアが二次元キャリアガスとしてチャネル層20d内を伝搬する。ヘテロ電界効果トランジスタ1のゲート電極60の電圧が閾値を越えると、キャリアは、ゲート電極60直下のチャネル層20dを通過した後にドリフト層20aに到達し、支持基板10の裏面10bを介してドレイン電極40に到達する。このようなキャリアの移動を可能とするため、ヘテロ電界効果トランジスタ1は縦型構造を有している。
【0047】
次に、図2〜図4を参照しながら、本実施形態に係る窒化物半導体素子の製造方法について説明する。図2〜図4は、本実施形態に係る窒化物半導体素子の製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【0048】
ヘテロ電界効果トランジスタ1の製造方法は、例えば、第1半導体層形成工程、第2半導体層形成工程、第3半導体層形成工程、開口部形成工程、再成長工程、絶縁膜形成工程及び電極形成工程をこの順に備えている。ヘテロ電界効果トランジスタ1の製造方法は、第3半導体層形成工程の後に、サンプルを例えば室温(25℃)まで降温させる工程を備えていてもよく、例えば第3半導体層形成工程から開口部形成工程へ移行する際に、第3半導体層形成工程で用いた成長炉内からサンプルを取り出して降温させた後、開口部形成工程で使用するチャンバ内にサンプルを収容してもよい。
【0049】
第1半導体層形成工程、第2半導体層形成工程、第3半導体層形成工程及び再成長工程では、例えばMOCVD法により半導体層をエピタキシャル成長させることができる。原料ガスとしては、例えば、トリメチルガリウム(ガリウム原料)、アンモニア(窒素原料)、トリメチルアルミニウム(アルミニウム原料)、トリメチルインジウム(インジウム原料)が挙げられる。n型ドーパントガスとしては、例えばシランが挙げられる。p型ドーパントガスとしては、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウムやジエチルジンクが挙げられる。
【0050】
第1半導体層形成工程では、まず、図2に示すような成長炉80a内に支持基板10を配置する。第1半導体層形成工程では、支持基板10上に半導体層をエピタキシャル成長させる前に、アンモニアガス(例えば流量16slm(slm=標準リットル/分))及び水素ガス(例えば流量4slm)を含む雰囲気で、支持基板10に対して熱処理を行って支持基板10の表面10aをクリーニングしてもよい。熱処理温度は、例えば1000〜1100℃である。炉内圧力は、例えば50〜760Torr(1Torr=133Pa)である。熱処理時間は、例えば5分である。この熱処理により、支持基板10の表面10aにおける水分や酸素等を水蒸気等として脱離させることができる。
【0051】
次に、成長炉80a内にキャリアガスと共に原料ガスを供給して、ドリフト層20aのための窒化ガリウム系半導体層として半導体層(第1窒化ガリウム系半導体層)70aを支持基板10の表面10a上に表面10aの法線方向にエピタキシャル成長させる。キャリアガスとしては、例えば水素ガスを用いる。
【0052】
第2半導体層形成工程では、成長炉80a内にキャリアガスと共に原料ガスを供給して、電流ブロック層20bのための窒化ガリウム系半導体層として半導体層(第2窒化ガリウム系半導体層)70bを半導体層70a上に表面10aの法線方向にエピタキシャル成長させる。第2半導体層形成工程では、キャリアガスとして水素ガスを用いる。パラジウム透過膜を用いることにより、高純度な水素ガスを容易に成長炉80a内に導入することができる。
【0053】
第2半導体層形成工程における成長温度は、半導体層70bの水素濃度を低減しつつ半導体層70b中のドーパントが水素原子と結合することを抑制する観点から、1000℃以上であり、1040℃以上が好ましく、1050℃以上がより好ましい。成長温度の上限値は例えば1100℃である。成長圧力は50〜760Torrが好ましく、200〜760Torrがより好ましい。供給モル比(V/III)は(アンモニアの供給モル量)/(有機ガリウム原料の供給モル量)で例えば500〜10000が好ましい。
【0054】
第3半導体層形成工程では、成長炉80a内にキャリアガスと共に原料ガスを供給して、コンタクト層20cのための窒化ガリウム系半導体層として半導体層(第3窒化ガリウム系半導体層)70cを半導体層70b上に表面10aの法線方向にエピタキシャル成長させる。これにより、図2に示すように積層体90aが得られる。第3半導体層形成工程では、キャリアガスを第2半導体層形成工程の水素ガスから切り替えて、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種の不活性ガスを用いる。
【0055】
第3半導体層形成工程における成長温度は、1000〜1100℃が好ましく、1050〜1100℃がより好ましい。本実施形態では、第2半導体層形成工程及び第3半導体層形成工程を連続して行うことが好ましい。また、第2半導体層形成工程及び第3半導体層形成工程の一連の過程において半導体層70bが1000℃以上に保持されていることが好ましく、この場合、電流ブロック層20bにおいてドーパントが水素原子から解離した状態を維持することができる。成長圧力は50〜760Torrが好ましく、200〜760Torrがより好ましい。供給モル比(V/III)は(アンモニアの供給モル量)/(有機ガリウム原料の供給モル量)で例えば500〜10000が好ましい。
【0056】
本実施形態では、キャリアガスとして、第2半導体層形成工程において水素ガスを用い、第3半導体層形成工程において窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種の不活性ガスを用いている。ここで、電流ブロック層20bに水素原子が混入することを抑制する観点から、第2半導体層形成工程において、水素ガスに代えて窒素ガス等の不活性ガスを用いることが考えられる。しかしながら、第2半導体層形成工程において窒素ガス等の不活性ガスを用いると、酸素等の補償不純物が電流ブロック層20bへ混入してしまい易い。そして、混入した補償不純物によって電流ブロック層20b中のドーパントが補償されると、電流ブロック層20bのアクセプタ濃度が低下してドレインリーク不良の発生が促進されることとなる。
【0057】
一方、第2半導体層形成工程において水素ガスをキャリアガスとして用いた場合には、補償不純物が電流ブロック層20bへ混入することを充分に抑制することが可能であり、窒素ガス等の不活性ガスを用いた場合に比してドレインリーク電流を低減することができる。また、水素ガスは水素原子の供給源となり得るものの、電流ブロック層20bを1000℃以上の高温下で形成することにより、電流ブロック層20bの水素濃度を低減しつつ電流ブロック層20b中のドーパントが水素原子と結合することを抑制することができる。したがって、水素ガスをキャリアガスとして用いて電流ブロック層20bを高温下で形成することで、電流ブロック層20bに補償不純物が混入することを抑制した上で、電流ブロック層20bの水素濃度を低減しつつ電流ブロック層20b中のドーパントが水素原子と結合することを抑制することができる。
【0058】
また、水素ガスを用いた場合には、窒素ガス等の不活性ガスを用いた場合に比して、原料を効率的に拡散させることができるため、成長速度・膜厚分布の均一性、ドーパントの面内均一性を更に向上させることもできる。
【0059】
開口部形成工程では、積層体90aを成長炉80aから取り出した後、図3に示すようなエッチング装置のチャンバ80b内に積層体90aを配置する。次に、半導体層70a、半導体層70b及び半導体層70cから構成される積層体90aの表面側に、半導体層70cから半導体層70bを介して半導体層70aに至る開口部27を形成して、ドリフト層20a、電流ブロック層20b及びコンタクト層20c並びに開口部27を有する積層体90bを得る。
【0060】
開口部形成工程では、例えば、半導体層70c上にスパッタ法により酸化シリコン膜を形成した後、酸化シリコン膜をパターニングして、開口部27を形成する領域が露出するパターンを有するマスク層(図示せず)を形成する。次に、マスク層を介して反応性イオンエッチング等を行い、半導体層70c、半導体層70b及び半導体層70aの一部を順に除去して開口部27を形成する。マスク層は、ウェットエッチングにより除去することができる。
【0061】
再成長工程は、チャネル層形成工程と、キャリア供給層形成工程とを有している。再成長工程では、チャネル層形成工程においてコンタクト層20c上にチャネル層20dをエピタキシャル成長させる前に、アンモニアガス(例えば流量16slm)及び水素ガス(例えば流量4slm)を含む雰囲気で、積層体90bに対して熱処理を行ってもよい。これにより、チャネル層20dの下地となる積層体90bの表面において原子の再配列が可能になる。熱処理温度は、例えば1000〜1100℃である。炉内圧力は、例えば50〜760Torrである。熱処理時間は、例えば5分である。
【0062】
チャネル層形成工程では、まず、積層体90bをチャンバ80bから取り出した後、積層体90bを成長炉80a内に再び配置する。次に、図4に示すように、開口部27の形状に沿って開口部27の側面27a及び底面27b並びにコンタクト層20cの主面に接するようにチャネル層20dを形成する。キャリアガスとしては例えば水素ガスを用いる。成長温度は例えば950〜1050℃であり、成長圧力は例えば50〜760Torrであり、供給モル比(V/III)は例えば500〜10000である。
【0063】
キャリア供給層形成工程では、開口部27の形状に沿ってチャネル層20dを覆うように、キャリア供給層20eをチャネル層20d上に形成する。キャリアガスとしては例えば水素ガスを用いる。成長温度は例えば1000〜1150℃であり、成長圧力は例えば50〜200Torrであり、供給モル比(V/III)は例えば500〜10000である。
【0064】
絶縁膜形成工程では、開口部27の形状に沿ってキャリア供給層20eの全面を覆うように、絶縁膜50をキャリア供給層20e上に形成する。これにより、開口部27の形状に沿った凹部が絶縁膜50によって形成される。
【0065】
電極形成工程では、コンタクト層20cの主面における外縁部上に位置するチャネル層20d及びキャリア供給層20eを除去した後、当該外縁部上にソース電極30を形成する。また、支持基板10又は積層体25上にドレイン電極40を形成する。本実施形態では、支持基板10の表面10aとは反対側の裏面10bにドレイン電極40を形成する。さらに、絶縁膜50によって形成された凹部を満たすようにゲート電極60を開口部27の側面27a及び底面27b上に形成する。
【0066】
以上により、図1に示すようなヘテロ電界効果トランジスタ1が得られる。
【0067】
本実施形態では、第2半導体層形成工程において、水素ガスをキャリアガスとして用いて、p型半導体層である電流ブロック層20bを1000℃以上でエピタキシャル成長させている。これにより、電流ブロック層20bに補償不純物が混入することを抑制した上で、電流ブロック層20bの水素濃度を低減しつつ電流ブロック層20b中のドーパントが水素原子と結合することを抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態では、第3半導体層形成工程において、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種の不活性ガスをキャリアガスとして用いてコンタクト層20cをエピタキシャル成長させている。これらのガスは水素原子の供給源となり難いため、これらのガスをキャリアガスとして用いることにより、第3半導体層形成工程において水素原子が電流ブロック層20bに取り込まれることを抑制することができる。
【0069】
ここで、p型半導体層が外部に露出した素子形成の場合には、p型半導体層を高温下で形成した後の降温時にアンモニアガスや水素ガスが成長炉内に残存していると、アンモニアガスや水素ガスに由来する水素原子がp型半導体層に取り込まれ、成長炉からのサンプル取り出し時等の室温下ではドーパントの多くが水素原子によって失活してしまう。一方、本実施形態では、コンタクト層20cを電流ブロック層20b上にエピタキシャル成長させている。これにより、ドーパントが水素原子と結合することを抑制しつつ形成された電流ブロック層20bが外部に露出することが抑制されるため、電流ブロック層20bに水素原子が取り込まれてドーパントが失活することを抑制することができる。
【0070】
以上のような本実施形態では、電流ブロック層20bのアクセプタ濃度が不足することが抑制されるため、ドリフト層20a及び電流ブロック層20bのpn接合29aが充分に電気的に機能する。したがって、ヘテロ電界効果トランジスタ1におけるドレインリーク電流を低減することができる。
【0071】
また、従来、p型半導体層がキャップ層に被覆されている場合には、活性化アニールを行って水素原子をドーパントから解離させたとしても、キャップ層が水素原子に対して障壁として働いてしまう。そのため、水素原子がp型半導体層から素子外部へ放出されることが阻害されてしまい、ドレインリークを抑制するための電流ブロック層20bを充分に機能させることが困難である。特に、キャップ層がn型半導体層又はノンドープ半導体層である場合には、このような現象が顕著に確認される。このような現象は、熱処理が加えられた半導体(例えばGaN)内において、フェルミ準位に依存して変化する最安定な配置位置間を水素原子がホッピングしながら拡散するところ、p型半導体と比較してn型半導体又はノンドープ半導体では、水素原子があまり拡散しないことに起因していると考えられる。一方、本実施形態では、ドーパントが水素原子と結合することが抑制された状態で電流ブロック層20bがコンタクト層20cにキャップされているため、活性化アニール等の熱処理を要することなく電流ブロック層20b中のドーパントが失活することを抑制することができる。
【0072】
また、本実施形態では、開口部27の側面27a上に形成されたチャネル層20d/キャリア供給層20eの界面に、格子歪みに伴うピエゾ分極により二次元電子ガスが生じており、この二次元電子ガスがコンタクト層20cからドリフト層20aに至るまでの電流を担っている。ここで、電流ブロック層20b中のドーパントが充分に活性化されていない場合には、チャネル層20d/キャリア供給層20eの界面における二次元電子ガスが電流ブロック層20bのポテンシャルの持ち上がりの不足で枯渇しないこととなる。これにより、トランジスタ動作においてドレインリーク不良が発生してしまい、ピンチオフ特性が低下することとなる。しかしながら、本実施形態では、電流ブロック層20bのアクセプタ濃度が不足することが抑制されているため、ドレインリーク電流を低減することが可能であり、ピンチオフ特性の低下を抑制することができる。
【0073】
また、電流ブロック層20b中のドーパントが失活している場合には、アクセプタ濃度を増加させる観点から、電流ブロック層20bにおけるドーパントのドープ量を増やすことが考えられる。しかしながら、この場合、ドーパントが電流ブロック層20bからチャネル層20d/キャリア供給層20eの界面へ拡散し易くなり、当該界面における二次元電子ガスの存在量が低下し、トランジスタのオン動作時におけるオン抵抗が増加することとなる。一方、本実施形態では、電流ブロック層20b中のドーパントが失活することが抑制されているため、ドーパントのドープ量を可及的少量に留めることが可能である。したがって、本実施形態では、トランジスタのオン動作時において、オン抵抗の増加を抑制しつつドレインリーク電流を低減することができる。
【0074】
本発明は上述の実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。例えば、窒化物半導体素子は上記のトランジスタに限られず、図5〜図6に示すようなnpn型バイポーラトランジスタであってもよい。
【0075】
図5に示すバイポーラトランジスタ100は、支持基板110、バッファ層120、コレクタ層(第1窒化ガリウム系半導体層)130、ベース層(第2窒化ガリウム系半導体層)140、エミッタ層(第3窒化ガリウム系半導体層)150、コレクタ電極160、ベース電極170及びエミッタ電極180を備えている。
【0076】
支持基板110は、GaN基板等の自立III族窒化物基板である。バッファ層120は、支持基板110の表面110a上に配置されている。バッファ層120は、Si等のn型ドーパントを含有する窒化ガリウム系半導体層であり、例えばn型GaN層である。
【0077】
コレクタ層130は、バッファ層120の主面上に配置されている。コレクタ層130は、Si等のn型ドーパントを含有する窒化ガリウム系半導体層であり、例えばn型GaN層である。
【0078】
ベース層140は、コレクタ層130の主面上に配置されている。ベース層140は、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体層であり、Mg、Zn等のp型ドーパントを含有するp型半導体層である。ベース層140は、例えばp型InGaN層である。
【0079】
エミッタ層150は、ベース層140の主面上に配置されている。エミッタ層150は、Si等のn型ドーパントを含有する窒化ガリウム系半導体層であり、例えばn型GaN層である。
【0080】
コレクタ電極160は、支持基板110の裏面110b上に配置されている。ベース電極170は、エミッタ層150から離隔してベース層140の主面上に配置されている。エミッタ電極180は、エミッタ層150の主面上に配置されている。
【0081】
バイポーラトランジスタ100の製造方法は、バッファ層120を介してコレクタ層130を支持基板110上にエピタキシャル成長させる工程と、水素ガスをキャリアガスとして用いて、ベース層140をコレクタ層130上に1000℃以上でエピタキシャル成長させる工程と、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種の不活性ガスをキャリアガスとして用いて、エミッタ層150をベース層140上にエピタキシャル成長させる工程と、を備える。このような製造方法により製造されるバイポーラトランジスタ100によれば、ヘテロ電界効果トランジスタ1と同様に、ドレインリーク電流を低減することができる。
【0082】
図6に示すバイポーラトランジスタ200は、支持基板210の主面上にバッファ層220、コレクタ層(第1窒化ガリウム系半導体層)230、ベース層(第2窒化ガリウム系半導体層)240、エミッタ層(第3窒化ガリウム系半導体層)250及びエミッタキャップ層260がこの順に積層されて形成されている。
【0083】
支持基板210は、GaN基板等の自立III族窒化物基板である。バッファ層220は、GaN等からなる窒化ガリウム系半導体層である。バッファ層220の厚さは、例えば2.0μmである。
【0084】
コレクタ層230は、支持基板210の主面上にサブコレクタ層230a、コレクタ層230b及びコレクタ層230cがこの順に積層されて形成されている。サブコレクタ層230aは、GaN等からなる窒化ガリウム系半導体層であり、例えばn型ドーパント(Si等)を含有する。サブコレクタ層230aのドナー濃度は、例えば2.0×1018cm−3である。サブコレクタ層230aの厚さは、例えば500nmである。
【0085】
コレクタ層230bは、GaN等からなる窒化ガリウム系半導体層であり、例えばn型ドーパント(Si等)を含有する。コレクタ層230bのドナー濃度は、例えば2.0×1017cm−3である。コレクタ層230bの厚さは、例えば200nmである。
【0086】
コレクタ層230cは、インジウム組成が傾斜した組成傾斜層であり、例えば、コレクタ層230b側のGaNからベース層240側のIn0.03Ga0.97Nにインジウム組成が傾斜する窒化ガリウム系半導体層である。コレクタ層230cは、例えばn型ドーパント(Si等)を含有しており、コレクタ層230cのドナー濃度は、例えば2.0×1018cm−3である。コレクタ層230cの厚さは、例えば30nmである。
【0087】
ベース層240は、インジウム組成が傾斜した組成傾斜層であり、例えば、コレクタ層230側のIn0.03Ga0.97Nからエミッタ層250側のIn0.06Ga0.94Nにインジウム組成が傾斜する窒化ガリウム系半導体層である。ベース層240は、p型ドーパント(Mg、Zn等)を含有するp型半導体層であり、ベース層240のアクセプタ濃度は、例えば2.5×1018cm−3である。ベース層240の厚さは、例えば100nmである。
【0088】
エミッタ層250は、インジウム組成が傾斜した組成傾斜層であり、例えば、ベース層240側のIn0.06Ga0.94Nからエミッタキャップ層260側のGaNにインジウム組成が傾斜する窒化ガリウム系半導体層である。エミッタ層250は、例えばn型ドーパント(Si等)を含有しており、エミッタ層250のドナー濃度は、例えば1.0×1019cm−3である。エミッタ層250の厚さは、例えば30nmである。
【0089】
エミッタキャップ層260は、GaN等からなる窒化ガリウム系半導体層であり、例えばn型ドーパント(Si等)を含有する。エミッタキャップ層260のドナー濃度は、例えば1.0×1019cm−3である。エミッタキャップ層260の厚さは、例えば70nmである。
【0090】
バイポーラトランジスタ200の製造方法は、バッファ層220を介してコレクタ層230を支持基板210上にエピタキシャル成長させる工程と、水素ガスをキャリアガスとして用いて、ベース層240をコレクタ層230上に1000℃以上でエピタキシャル成長させる工程と、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種の不活性ガスをキャリアガスとして用いて、エミッタ層250をベース層240上にエピタキシャル成長させる工程と、を備える。このような製造方法により製造されるバイポーラトランジスタ200によれば、ヘテロ電界効果トランジスタ1と同様に、ドレインリーク電流を低減することができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明に関して実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
(比較例1)
まず、2インチ角の導電性の窒化ガリウム基板(GaN基板)を成長炉内に設置した後、1030℃、100Torr、アンモニア及び水素雰囲気中で基板クリーニングを実施した。
【0093】
次に、n型GaN層(ドリフト層、厚さ:5μm、Siドープ量:1×1016cm−3)、p型GaN層(電流ブロック層、厚さ:0.5μm、Mgドープ量:5×1018cm−3)及びn型GaN層(コンタクト層、厚さ:0.2μm、Siドープ量:1×1018cm−3)から構成される積層体を以下のとおり窒化ガリウム基板上に形成した。なお、ドーパントの種類、ドーパントのドープ量、成膜時間等を除いて各半導体層の成長条件は同一とし、各半導体層を連続して成膜し積層体を形成した後に積層体を室温に降温させた。積層体形成後に熱処理(活性化アニール)は行わなかった。
【0094】
まず、成長温度1050℃、成長圧力200Torr、供給モル比(V/III)=1500の条件でn型GaN層、p型GaN層及びn型GaN層を窒化ガリウム基板上にこの順にMOCVD法により成膜して積層体を得た。ガリウム原料としてトリメチルガリウムを用い、窒素原料として高純度アンモニアを用い、キャリアガスとして純化水素を用いた。高純度アンモニアの純度は、99.999%以上であり、純化水素の純度は99.999995%以上であった。n型ドーパントガスとして水素ベースのシランを用い、p型ドーパントガスとしてビスシクロペンタジエニルマグネシウムを用いた。
【0095】
(実施例1)
キャリアガスとして純化水素を用いてn型GaN層及びp型GaN層を窒化ガリウム基板上にこの順に成膜した後、キャリアガスとして窒素ガスを用いてn型GaN層をp型GaN層上に成膜したことを除き比較例1と同様にして積層体を得た。当該積層体におけるアクセプタ濃度に対する水素濃度の比は、0.7であった。
【0096】
Electrochemical CV(ECV)測定により、比較例1及び実施例1のそれぞれの積層体について、表面のn型GaN層からp型GaN層にかけてKOH溶液でエッチングしつつ電気容量測定を行い、深さ方向のドナー・アクセプタ濃度を測定した。図7にECV測定の測定結果を示す。図7(a)は比較例1の測定結果であり、図7(b)は実施例1の測定結果である。縦軸は、「アクセプタ濃度(Na)−ドナー濃度(Nd)」(cm−3)を示し、横軸は、積層体表面からの測定深さ(μm)を示す。縦軸において例えば「2.0E+18」とは、2.0×1018を表す。
【0097】
比較例1の測定結果(図7(a))では、n型GaN層の表面付近(図中左側)では2.0×1018cm−3程度のドナーが認められ、p型GaN層との界面に近づくにつれてドナー濃度が低減する傾向が見られる。これはp型GaN層からn型GaN層にエピタキシャル成長が移行する際にp型GaN層からMgがn型GaN層へ拡散し、pn界面付近のSiを補償している状況を示していると推測される。
【0098】
また、p型GaN層では、熱処理を加えていない状態において一定量(1.5×1018cm−3程度)のアクセプタが認められる。これに対し、上記ECV測定とは別に、比較例1と同様にして作製した積層体を窒素雰囲気中、及び、窒素に一定量(流量比1〜20%)の酸素を添加した雰囲気中のそれぞれで700℃において熱処理を行った後、上記と同様にECV測定を行った。その結果、p型GaN層のアクセプタ濃度は熱処理前と比較してほとんど変化していないことが確認された。このような現象は、p型GaN層がn型GaN層にキャップされた状態であるため、熱処理を行ったものの、p型GaN層中の水素原子がn型GaN層にブロックされて積層体の外部へ放出されなかったことによるものと推測される。
【0099】
さらに、上記ECV測定とは別に、n型GaN層及びp型GaN層を窒化ガリウム基板上にこの順に成膜した後にn型GaN層を成膜しなかったことを除き比較例1と同様にして得られた積層体について上記と同様にECV測定を行った。その結果、積層体の表面に露出したp型GaN層では、熱処理を加えていない状態においてアクセプタ濃度は2.0×1017cm−3程度であり、Mgドープ量の1/10以下であった。このような現象は、p型GaN層中のMgのほとんどが水素原子によりパッシベーションされていることによるものと推測される。
【0100】
また、表面にp型GaN層が露出した上記積層体に対して、窒素雰囲気中、及び、窒素に一定量(流量比1〜20%)の酸素を添加した雰囲気中のそれぞれで700℃において熱処理を行った後、上記と同様にECV測定を行った。その結果、アクセプタ濃度は4.5×1018cm−3程度であり、Mgドープ量と同等であった。このような現象は、熱処理によってp型GaN層中のMgが水素原子から解離して積層体外部に放出されたことによるものと推測される。
【0101】
実施例1の測定結果(図7(b))では、n型GaN層のドナーのプロファイルは比較例1と同様に振る舞っているが、p型GaN層のアクセプタ濃度は4.0×1018cm−3程度であり、比較例1のアクセプタ濃度1.5×1018cm−3よりも高いことが確認された。このような現象は、実施例1の積層体では、水素濃度が低減されつつMgが水素原子から解離した状態でp型GaN層がn型GaN層にキャップされていると共に、その後の工程における降温時に水素原子がp型GaN層に取り込まれることが抑制されていることにより、p型GaN層中のMgの活性度が高く維持されていることによるものと推測される。
【符号の説明】
【0102】
1…ヘテロ電界効果トランジスタ(窒化物半導体素子)、10,110,210…支持基板(III族窒化物基板)、20a…ドリフト層、20b…電流ブロック層、20c…コンタクト層、20d…チャネル層、20e…キャリア供給層、25…積層体、27…開口部、27a…側面、30…ソース電極、40…ドレイン電極、50…絶縁膜、60…ゲート電極、70a…半導体層(第1窒化ガリウム系半導体層)、70b…半導体層(第2窒化ガリウム系半導体層)、70c…半導体層(第3窒化ガリウム系半導体層)、100,200…バイポーラトランジスタ(窒化物半導体素子)、130,230…コレクタ層(第1窒化ガリウム系半導体層)、140,240…ベース層(第2窒化ガリウム系半導体層)、150,250…エミッタ層(第3窒化ガリウム系半導体層)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1窒化ガリウム系半導体層を自立III族窒化物基板上にエピタキシャル成長させる工程と、
水素ガスをキャリアガスとして用いて、p型半導体層である第2窒化ガリウム系半導体層を前記第1窒化ガリウム系半導体層上に1000℃以上でエピタキシャル成長させる工程と、
窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種のガスをキャリアガスとして用いて、第3窒化ガリウム系半導体層を前記第2窒化ガリウム系半導体層上にエピタキシャル成長させる工程と、を備える、窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記第3窒化ガリウム系半導体層がn型半導体層である、請求項1に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1窒化ガリウム系半導体層がn型半導体層である、請求項1又は2に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記第2窒化ガリウム系半導体層が、マグネシウム及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素をドーパントとして含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記第2窒化ガリウム系半導体層におけるアクセプタ濃度に対する水素濃度の比が0.8未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記第3窒化ガリウム系半導体層の厚さが50〜500nmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1〜第3窒化ガリウム系半導体層の材料の組み合わせが、前記第3窒化ガリウム系半導体層/前記第2窒化ガリウム系半導体層/前記第1窒化ガリウム系半導体層として記載したときに、n型GaN/p型GaN/n型GaN、n型GaN/p型AlGaN/n型GaN、n型InGaN/p型GaN/n型GaN又はn型InGaN/p型AlGaN/n型GaNである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項8】
ドリフト層のための前記第1窒化ガリウム系半導体層、電流ブロック層のための前記第2窒化ガリウム系半導体層、及び、コンタクト層のための前記第3窒化ガリウム系半導体層に、前記第3窒化ガリウム系半導体層から前記第2窒化ガリウム系半導体層を介して前記第1窒化ガリウム系半導体層に至る開口部を形成して、前記ドリフト層、前記電流ブロック層及び前記コンタクト層並びに前記開口部を有する積層体を得る工程と、
窒化ガリウム系半導体からなるチャネル層を前記開口部の側面上にエピタキシャル成長させる工程と、
III族窒化物半導体からなるキャリア供給層を前記チャネル層上にエピタキシャル成長させる工程と、
絶縁膜を前記キャリア供給層上に形成する工程と、
ゲート電極を前記絶縁膜上に形成し、ソース電極を前記積層体上に形成し、前記自立III族窒化物基板又は前記積層体上にドレイン電極を形成する工程と、を更に備え、
前記キャリア供給層のバンドギャップが前記チャネル層のバンドギャップよりも大きい、請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項9】
当該窒化物半導体素子が、コレクタ層、ベース層及びエミッタ層を備えるバイポーラトランジスタであり、
前記コレクタ層が、前記第1窒化ガリウム系半導体層であり、
前記ベース層が、インジウムを含有する前記第2窒化ガリウム系半導体層であり、
前記エミッタ層が、前記第3窒化ガリウム系半導体層である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−156253(P2012−156253A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13210(P2011−13210)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】