説明

窒化物系半導体素子の製造方法

【課題】素子特性および歩留まりを十分に向上させることができる窒化物系半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】まず、塩酸系エッチャントを用いたウエットエッチングによりGaN基板1の欠陥集中領域1bをエッチングし、底面12に突起13を有するストライプ状の溝10を形成する。次に、GaN基板1上に窒化物系半導体層20,20aを形成するとともに、低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20に素子構造部22を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い欠陥密度を有する領域および低い欠陥密度を有する領域を有する窒化物系半導体基板を用いた窒化物系半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の大容量ディスク用光源として、窒化物系半導体発光素子の利用が進められており、その開発が盛んに行われている。
【0003】
窒化物系半導体発光素子の結晶内の転位密度等の欠陥密度が高いと、発光特性および歩留まりが低下する。特に、窒化物系半導体発光素子の発光領域にクラックが存在すると、発光特性が悪化する。
【0004】
窒化物系半導体発光素子は、例えば窒化ガリウム(GaN)基板を用いて形成される。一般に、GaN基板は、ストライプ状の高欠陥密度領域と低欠陥密度領域とを有する(特許文献1〜5参照)。このようなGaN基板上に窒化物系半導体発光素子が結晶成長により作製される。この場合、低欠陥密度領域上に窒化物系半導体からなる素子構造部が作製されることにより、発光特性の優れた窒化物系半導体発光素子が得られる。
【0005】
例えば、特許文献1に記載された窒化物系半導体発光素子の製造方法では、GaN基板の低欠陥密度領域を絶縁物からなるマスクで覆い、ストライプ状の高欠陥密度領域のみ露出させる。ドライエッチング法等によりストライプ状の高欠陥密度領域をエッチングすることにより凹状のストライプ溝を形成する。GaN基板の低欠陥密度領域上に素子構造部が位置するように、GaN基板上に窒化物系半導体層を結晶成長させる。
【0006】
このような製造方法によれば、クラックの発生を抑制するとともに、溝底面にある高欠陥密度領域からの這い上がり成長を減少させることにより、素子構造部の欠陥密度を減少させることができ、発光特性および歩留まりの向上が達成できるとされている。
【特許文献1】特開2006−59973号公報
【特許文献2】特開2002−246698号公報
【特許文献3】特開2003−124573号公報
【特許文献4】特開2005−197347号公報
【特許文献5】特開2006−156963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者の実験および検討によると、上記の凹状のストライプ溝を有するGaN基板を用いて窒化物系半導体発光素子を製造した場合、発光特性および歩留まりを十分に向上させることができないことが判明した。これは、次の2つの理由によるものと考えられる。
【0008】
第1に、窒化物系半導体層の結晶成長が溝底面と溝側面とで連続しているため、高欠陥密度領域である溝底面から溝側面へと転位等の欠陥が伝播し、さらに溝側面の欠陥が低欠陥密度領域へと伝播する。その結果、素子構造部での欠陥密度が増加する。
【0009】
第2に、溝内部からそれ以外の箇所に途切れなく窒化物系半導体層の結晶が繋がっているため、クラックの発生が十分に抑制されない。
【0010】
これらの結果、従来の窒化物系半導体発光素子の製造方法では、発光特性および歩留まりの向上を十分に達成することができない。
【0011】
本発明の目的は、素子特性および歩留まりを十分に向上させることができる窒化物系半導体素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る窒化物系半導体素子の製造方法は、第1の平均欠陥密度を有する第1の領域と第1の平均欠陥密度よりも高い第2の平均欠陥密度を有する第2の領域とを含む窒化物系半導体基板を準備する工程と、窒化物系半導体基板の第2の領域に、エッチング法により底面に突起を有する溝を形成する工程と、溝を有する窒化物系半導体基板上に窒化物系半導体層を形成するとともに、第1の領域上の窒化物系半導体層の領域に素子構造部を作製する工程とを備えたものである。
【0013】
本発明に係る窒化物系半導体素子の製造方法によれば、まず、第1の領域と第2の領域とを含む窒化物系半導体基板が準備される。第1の領域は第1の平均欠陥密度を有し、第2の領域は第1の平均欠陥密度よりも高い第2の平均欠陥密度を有する。次に、窒化物系半導体基板の第2の領域に、エッチング法により底面に突起を有する溝が形成される。さらに、溝を有する窒化物系半導体基板上に窒化物系半導体層が形成されるとともに、第1の領域上の窒化物系半導体層の領域に素子構造部が作製される。
【0014】
ここで、第1の平均欠陥密度は、5×10cm−2未満であり、第2の平均欠陥密度は、5×10cm−2以上5×10cm−2以下であってもよい。
【0015】
この場合、溝内の側面と底面との境界近傍に窒化物系半導体層の不連続部分(切れ込み)が生じる。それにより、第1の領域上に形成される窒化物系半導体層が溝の底面上および突起の表面上に形成される窒化物系半導体層から分断される。
【0016】
したがって、高い平均欠陥密度を有する溝の底面上および突起の表面上の窒化物系半導体層の欠陥が、低い平均欠陥密度を有する第1の領域上の窒化物系半導体層に伝播することが抑制される。また、不連続部分により窒化物系半導体層の歪が緩和されるので、低い平均欠陥密度を有する第1の領域上の窒化物系半導体層の素子構造部にクラックが発生することが抑制される。その結果、窒化物系半導体素子の素子特性が向上するとともに歩留まりが向上する。
【0017】
(2)窒化物系半導体基板の第1の領域の表面は(0001)面を有し、第2の領域の表面は(000−1)面を有し、溝を形成する工程は、窒化物系半導体結晶の(0001)面のエッチング速度よりも窒化物系半導体結晶の(000−1)面のエッチング速度が大きいエッチング液を用いて窒化物系半導体基板の第2の領域を選択的にエッチングする工程を含んでもよい。
【0018】
このようなエッチング液を用いることにより、窒化物系半導体基板の第2の領域を効率的に選択エッチングすることができる。それにより、底面に突起を有する溝を第2の領域に容易に形成することができる。
【0019】
(3)エッチング液は塩酸系エッチャントを含んでもよい。この場合、窒化物系半導体基板の第2の領域を容易にかつ効率的にエッチングすることができる。それにより、底面に突起を有する溝を第2の領域にさらに容易に形成することができる。
【0020】
(4)エッチングする工程での塩酸系エッチャントの温度は90℃以上100℃以下であり、塩酸系エッチャントによるエッチング時間は5分以上15分以下であってもよい。この場合、突起を有する溝を容易かつ確実に形成することが可能となる。
【0021】
(5)突起の表面は、{11−22}面または{10−12}面により形成されてもよい。
【0022】
この場合、突起の表面上での窒化物系半導体層の成長速度が第1の領域での窒化物系半導体層の成長速度よりも小さくなる。それにより、第1の領域上の窒化物系半導体層が溝の底面上および突起の表面上の窒化物系半導体層から溝の側面と底面との境界部で容易に分断される。
【0023】
(6)溝の幅は2μm以上10μm以下または第2の領域の幅と同等であり、窒化物系半導体層の厚さは溝の深さよりも大きくかつ10μm以下であり、溝の深さは2μm以上または溝の幅の2分の1以上であってもよい。
【0024】
この場合、第1の領域上の窒化物系半導体層が溝の底面上および突起の表面上の窒化物系半導体層から溝の側面と底面との境界部で確実に分断される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高い平均欠陥密度を有する溝の底面上および突起の表面上の窒化物系半導体層の欠陥が低い平均欠陥密度を有する第1の領域上の窒化物系半導体層に伝播することが抑制される。また、不連続部分により窒化物系半導体層の歪が緩和されるので、低い平均欠陥密度を有する第1の領域上の窒化物系半導体層の素子構造部にクラックが発生することが抑制される。その結果、窒化物系半導体素子の素子特性が向上するとともに歩留まりが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る窒化物系半導体素子の製造方法の一例として窒化物系半導体発光素子の製造方法について説明する。
【0027】
(1)実施の形態
(1−1)窒化物系半導体基板
図1(a),(b)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法に用いられるGaN基板1の模式的平面図および模式的断面図である。
【0028】
図1(a),(b)に示すように、GaN基板1は、ストライプ状の低欠陥領域1aとストライプ状の欠陥集中領域1bとを交互に有する。低欠陥領域1aは1×10cm−2以下の平均欠陥密度を有し、欠陥集中領域1bは5×10cm−2の平均欠陥密度を有する。GaN基板1の結晶構造は六方晶である。GaN基板1の低欠陥領域1aの表面の面方位は(0001)である。一方、GaN基板1の欠陥集中領域1bの表面の面方位は(000−1)である。また、ストライプ状の欠陥集中領域1bは、<1−100>軸方向にほぼ沿っている。
【0029】
(1−2)窒化物系半導体素子の製造方法
図2〜図4は本発明の一実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法を示す模式図である。図2および図4(b)は模式的断面図、図3は模式的斜視図、図4(a)は模式的平面図である。
【0030】
まず、図1に示したGaN基板1を準備する。次に、図2に示すように、塩酸系エッチャントを用いたウエットエッチングによりGaN基板1の欠陥集中領域1bに矩形断面を有するストライプ状の溝10を形成する。ここで、ストライプ状の溝10は、<1−100>軸方向にほぼ沿っている。塩酸系エッチャントとしては、塩酸、または塩酸と水との混合溶液を用いることができる。混合溶液の塩酸と水との混合比は1:1または2:3等である。
【0031】
具体的には、図1のGaN基板1を、絶縁物等からなるマスクを用いずに沸騰した塩酸系エッチャント中に浸漬することにより、低欠陥領域1aと欠陥集中領域1bとのエッチング速度の差を利用して欠陥集中領域1bを選択的にエッチングする。塩酸系エッチャントを用いると、GaN結晶の(0001)面をほとんどエッチングすることなく、GaN結晶の(000−1)面を選択的にエッチングすることができる。
【0032】
図3に示すように、溝10は、蛇行する側面11および平坦な底面12を有し、底面12上に複数の突起13が形成されている。溝10の側面11は六方晶の{11−22}面を有する斜面となる。溝10の平坦な底面は(000−1)面である。また、突起13の表面は六方晶の{11−22}面または{10−12}面により構成される。この場合、突起13はコーン(円錐)状に形成される。それにより、突起13が安定した面で形成される。
【0033】
このように、突起13を有する溝10を形成するためには、塩酸系エッチャントの温度を90℃以上100℃以下にすることが好ましく、エッチング時間を5分以上15分以下にすることが好ましい。
【0034】
次に、図4に示すように、GaN基板1上に、後述する積層構造を有する窒化物系半導体層20,20aを形成する。窒化物系半導体発光素子の素子構造部22は低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20に作製される。
【0035】
この場合、GaN基板1の低欠陥領域1a上での窒化物系半導体層の成長速度は、溝10の側面11上および底面12上ならびに突起13の表面上での窒化物系半導体層の成長速度よりも高い。
【0036】
また、溝10内で突起13が密集する中央部の領域では、溝10の側面11近傍の領域に比べて結晶成長の速度が高い。そのため、突起13が密集する中央部の領域での原料ガスの取り込みが溝10の側面11近傍の領域に比べて促進される。それにより、溝10の側面11近傍の領域への原料ガスの供給量が少なくなる。
【0037】
これらの2つの原因により、溝10内の側面11と底面12との境界近傍に窒化物系半導体層20と窒化物系半導体層20aとの不連続部分(切れ込み)21が生じる。それにより、低欠陥領域1a上に形成される窒化物系半導体層20が溝10の底面12上および突起13の表面上に形成される窒化物系半導体層20aから分断される。
【0038】
窒化物系半導体層20,20aの厚さは、1μm以上10μm以下であることが好ましい。ただし、窒化物系半導体層20,20aの厚さは溝10の深さよりも大きい。溝10の深さは、2μm以上10μm以下または溝10の幅の1/2以上であることが好ましい。溝10の幅は、例えば2μm以上30μm以下であり、2μm以上10μm以下または欠陥集中領域1bの幅と同等であることが好ましい。それにより、低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20と溝10の底面12上および突起13の表面上の窒化物系半導体層20aとの間に確実に不連続部分21が生じる。その結果、低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20が溝10の底面12上および突起13の表面上の窒化物系半導体層20aから確実に分断される。
【0039】
突起13の幅(直径)は、溝10の幅よりも小さいことが好ましく、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。突起13の高さは、溝10の深さ以下であることが好ましい。それにより、低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20と溝10の底面12上および突起13の表面上の窒化物系半導体層20aとの間に確実に不連続部分21が生じる。その結果、低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20が溝10の底面12上および突起13の表面上の窒化物系半導体層20aから確実に分断される。
【0040】
(1−3)素子構造部
ここで、素子構造部22の詳細な作製方法について説明する。
【0041】
図5〜図9は図4の素子構造部22の詳細な作製方法を示す模式的断面図である。ここでは、素子構造部22が窒化物系半導体レーザ素子である場合を説明する。
【0042】
本例では、GaN基板1がn型導電性を有するものとする。図5に示すように、有機金属気相堆積(MOCVD)法により窒化物系半導体層20,20aを次のように形成する。
【0043】
反応炉内を水素および窒素からなる雰囲気にし、図2および図3のGaN基板1を反応炉内に挿入する。窒化物系半導体層20,20aの窒素(N)原料であるNHガスを反応炉内に供給した状態でGaN基板1を1000℃付近まで加熱する。GaN基板1の温度が1000℃付近に達した時点でGa(ガリウム)原料であるトリメチルガリウム(TMGa)およびアルミニウム(Al)原料であるトリメチルアルミニウム(TMAl)を含む水素ガスを反応炉内に供給し、GaN基板1上にアンドープのAl0.01Ga0.99Nからなる厚さ約1.0μmのバッファ層2を成長させる。
【0044】
次に、Ga原料であるTMGaおよびAl原料であるTMAl、およびn型導電性を得るためのゲルマニウム(Ge)不純物の原料であるモノゲルマン(GeH)を含む水素ガスを反応炉内に供給し、Geドープn型Al0.07Ga0.93Nからなる厚さ約1.9μmのn型クラッド層3を成長させる。
【0045】
さらに、Ga原料であるTMGaおよびAl原料であるTMAlを含む水素ガスを反応炉内に供給し、Al0.2Ga0.8Nからなる厚さ約20nmのn型キャリアブロック層4を成長させる。
【0046】
その後、GaN基板1の温度を850℃付近まで低下させ、発光層5を形成する。発光層5は、光ガイド層、多重量子井戸構造を有するMQW活性層および光ガイド層を順に含む。
【0047】
NHガスを含む窒素雰囲気でGa原料であるトリエチルガリウム(TEGa)およびインジウム(In)原料であるトリメチルインジウム(TMIn)を反応炉内に供給し、アンドープのIn0.01Ga0.99Nからなる厚さ約0.8μmの光ガイド層、多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造を有するMQW活性層、およびアンドープのIn0.01Ga0.99Nからなる厚さ約0.8μmの光ガイド層を順に成長させる。MQW活性層は、約2.5nmの厚さを有するアンドープのInGa1−xNからなる3つの量子井戸層と約20nmの厚さを有するアンドープのInGa1−yNからなる4つの量子障壁層とが交互に積層されてなる。ここで、x>yであり、例えばx=0.15、y=0.02である。
【0048】
さらに、Ga原料であるTMGaおよびAl原料であるTMAlを反応炉に供給し、Al0.25Ga0.75Nからなる厚さ約20nmのキャリアブロック層6を成長させる。
【0049】
次に、NHガスを含む水素および窒素雰囲気にてGaN基板1を1000℃付近まで加熱し、p型不純物であるマグネシウム(Mg)の原料であるシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C)、Ga原料であるTMGaおよびAl原料であるTMAlを反応炉に供給し、MgドープAl0.07Ga0.93Nからなる厚さ約0.5μmのp型クラッド層7を成長させる。
【0050】
その後、再びGaN基板1の温度を850℃付近まで低下させ、NHガスを含む窒素雰囲気にてGa原料であるTEGaおよびIn原料であるTMInを供給し、アンドープのIn0.07Ga0.93Nからなる厚さ約3nmのp型コンタクト層8を成長させる。
【0051】
以上で溝10を有するGaN基板1上に窒化物系半導体層20,20aが形成される。その後、GaN基板1の温度を室温付近まで低下させ、窒化物系半導体層20,20aを有するGaN基板1を反応炉から取り出す。
【0052】
次に、図6に示すように、GaN基板1の低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20の上面にストライプ状の二酸化シリコン(SiO)からなるマスク100を形成する。
【0053】
次いで、図7に示すように、光導波路を形成するために例えば塩素(Cl)ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)法により、厚さ約0.45μmのp型クラッド層7のうち厚さ約0.05μmを残してp型コンタクト層8およびp型クラッド層7をエッチングする。それにより、ストライプ状のリッジ部が形成される。p型クラッド層7は厚さ約0.05μmの平坦部と厚さ約0.4μmのストライプ状の突出部とからなる。リッジ部の幅は約1.5μmである。
【0054】
続いて、マスク100を除去した後、図8に示すように、リッジ部の側面およびp型クラッド層8の平坦部の上面上にSiOからなる厚さ約0.2μmの電流ブロック層101を形成する。
【0055】
次に、図9に示すように、p型コンタクト層8上および電流ブロック層101上にp側オーミック電極102およびp側パッド電極103を順に形成する。
【0056】
その後、GaN基板1の劈開を容易にするために、GaN基板1の裏面を所定の厚さまで研磨した後、GaN基板1の裏面にn側オーミック電極104およびn側パッド電極105を順に形成する。さらに、GaN基板1をリッジ部に垂直な方向に沿って劈開することにより共振器端面を形成する。
【0057】
このようにして、低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20に素子構造部22が作製される。
【0058】
最後に、GaN基板1の欠陥集中領域1bでGaN基板1を切断することにより、GaN基板1上の複数の素子構造部22を個々の窒化物系半導体発光素子に分離する。
【0059】
(1−4)実施の形態の効果
本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子では、溝10内の側面11と底面12との境界近傍に窒化物系半導体層20と窒化物系半導体層20aとの不連続部分(切れ込み)21が生じる。それにより、低欠陥領域1a上に形成される窒化物系半導体層20が溝10の底面12上および突起13の表面上に形成される窒化物系半導体層20aから分断される。
【0060】
したがって、高い欠陥密度を有する溝10の底面12上および突起13の表面上の窒化物系半導体層20aに生じる欠陥が低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20に伝播することが抑制される。また、不連続部分21により窒化物系半導体層20,20aの歪が緩和されるので、低欠陥領域1a上の窒化物系半導体層20の素子構造部22にクラックが発生することが抑制される。その結果、窒化物系半導体発光素子の発光特性が向上するとともに歩留まりが向上する。
【0061】
(2)他の実施の形態
上記実施の形態では、窒化物系半導体発光素子の製造方法として、半導体レーザ素子の製造方法について説明したが、本発明はこれに限らず、発光ダイオード等の他の窒化物系半導体発光素子の製造方法にも同様に適用することができる。また、本発明は、窒化物系半導体発光素子に限らず、トランジスタ、ダイオード、受光素子等の種々の窒化物系半導体素子の製造方法にも適用することができる。
【0062】
また、上記実施の形態では、MOCVD法を用いて窒化物系半導体層20,20aの各層を結晶成長させたが、ハイドライド気相エピタキシャル成長(HVPE)法またはガスソース分子線エピタキシャル成長(MBE)法等を用いて窒化物系半導体層20,20aの各層を結晶成長させてもよい。
【0063】
また、窒化物系半導体層20,20aには、Ga、Al、In、タリウム(Tl)およびホウ素(B)のうち少なくとも一つを含む13族元素の窒化物を用いることができる。具体的には、窒化物系半導体層20,20aの材料として、AlN、InN、BN、TlN、GaN、AlGaN、InGaN、InAlGaNまたはこれらの混晶からなる窒化物系半導体を用いることができる。
【0064】
また、GaN基板1の代わりに、上記の窒化物系半導体からなる基板を用いることができる。
【0065】
また、上記実施の形態では、ストライプ状の欠陥集中領域1bおよび溝10が<1−100>軸方向に沿った場合について説明したが、本発明は、それに限らず、ストライプ状の欠陥集中領域1bおよび溝10が<11−20>軸方向に沿った場合にも適用可能である。
【0066】
(3)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0067】
上記実施の形態では、GaN基板10が窒化物系半導体基板の例であり、低欠陥領域1aが第1の領域の例であり、欠陥集中領域1bが第2の領域の例であり、溝10が溝の例であり、突起13が突起の例であり、窒化物系半導体層20,20aが窒化物系半導体層の例であり、素子構造部22が素子構造部の例である。
【0068】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、光ピックアップ装置、表示装置、光源等の製造に有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法に用いられるGaN基板の模式的平面図および模式的断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法を示す模式図である。
【図5】図4の素子構造部の詳細な作製方法を示す模式的断面図である。
【図6】図4の素子構造部の詳細な作製方法を示す模式的断面図である。
【図7】図4の素子構造部の詳細な作製方法を示す模式的断面図である。
【図8】図4の素子構造部の詳細な作製方法を示す模式的断面図である。
【図9】図4の素子構造部の詳細な作製方法を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 GaN基板
1a 低欠陥領域
1b 欠陥集中領域
2 バッファ層
3 n型クラッド層
4 n型キャリアブロック層
5 発光層
6 キャリアブロック層
7 p型クラッド層
8 p型コンタクト層
10 溝
11 側面
12 底面
13 突起
20,20a 窒化物系半導体層
21 不連続部分
22 素子構造部
100 マスク
101 電流ブロック層
102 p側オーミック電極
103 p側パッド電極
104 n側オーミック電極
105 n側パッド電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の平均欠陥密度を有する第1の領域と前記第1の平均欠陥密度よりも高い第2の平均欠陥密度を有する第2の領域とを含む窒化物系半導体基板を準備する工程と、
前記窒化物系半導体基板の前記第2の領域に、エッチング法により底面に突起を有する溝を形成する工程と、
前記溝を有する窒化物系半導体基板上に窒化物系半導体層を形成するとともに、前記第1の領域上の窒化物系半導体層の領域に素子構造部を作製する工程とを備えたことを特徴とする窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記窒化物系半導体基板の前記第1の領域の表面は(0001)面を有し、前記第2の領域の表面は(000−1)面を有し、
前記溝を形成する工程は、窒化物系半導体結晶の(0001)面のエッチング速度よりも窒化物系半導体結晶の(000−1)面のエッチング速度が大きいエッチング液を用いて前記窒化物系半導体基板の前記第2の領域を選択的にエッチングする工程を含むことを特徴とする請求項1記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記エッチング液は塩酸系エッチャントを含むことを特徴とする請求項2記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記エッチングする工程での前記塩酸系エッチャントの温度は90℃以上100℃以下であり、前記塩酸系エッチャントによるエッチング時間は5分以上15分以下であることを特徴とする請求項3記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記突起の表面は、{11−22}面または{10−12}面により形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記溝の幅は2μm以上10μm以下または前記第2の領域の幅と同等であり、前記窒化物系半導体層の厚さは前記溝の深さよりも大きくかつ10μm以下であり、前記溝の深さは2μm以上または前記溝の幅の2分の1以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−32891(P2009−32891A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195073(P2007−195073)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】