説明

薄膜形成装置及びZnO系薄膜

【課題】放出されるプラズマ粒子の純度を高め、不純物の混入を防止し、イオン濃度の制御性を良くした薄膜形成装置とこれを用いたZnO系薄膜を提供する。
【解決手段】中空の放電管1の外側周囲を高周波コイル2で巻き回されており、高周波コイル2の端子は、高周波電源に接続されている。また、放電管1の上部には放出孔4が、下部にはガス導入孔5が形成されている。ガス導入孔5にはガス供給管12が接続され、ここから薄膜構成元素となる気体が供給される。放出孔4と所定の距離を隔てて阻止体3が、放出孔4を遮るように設けられている。薄膜形成時には、中空の放電管1内部からプラズマ粒子が放出されるが、気体元素以外の粒子が阻止体3に阻止され基板へ到達できない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単体元素が気体であるような元素を含む化合物の成膜時に、気体元素をプラズマ状態にして供給するラジカル発生器を備えた薄膜形成装置とこれを用いて作製されたZnO系薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
単体元素が気体であるような元素を含む化合物として、例えば、窒化物や酸化物等がある。酸化物はYBCOに代表される超伝導酸化物、ITOに代表される透明導電物質、(LaSr)MnOに代表される巨大磁気抵抗物質など、従来の半導体や金属、有機物質では不可能なほどの多様な物性を持っており、ホットな研究分野の一つである。
【0003】
ところで、多くの半導体素子がそうであるように、いくつか機能の違う薄膜を積層したりエッチングしたりすることにより、特異な機能を発現するデバイスができるのが通例であるが、酸化物は薄膜形成法がスパッタかPLD(パルスレーザーデポジション)などに限られており、半導体素子のような積層構造を作りにくい。スパッタは通常結晶薄膜を得るのが難しく、PLDは基本的に点蒸発であるので、2インチ程度であっても大面積化が困難である。
【0004】
半導体素子のような積層構造が形成できる手法としてプラズマを使った分子線エピタキシー法(Plasma Assisted Molecular Beam Epitaxy:PAMBE)が行われている。この分子線エピタキシー法を用いた研究で非常に注目されている酸化物の一つにZnOがある。
【0005】
ZnOはその多機能性、発光ポテンシャルの大きさなどが注目されていながら、なかなか半導体デバイス材料として成長しなかった。その最大の難点は、アクセプタードーピングが困難で、p型ZnOを得ることができなかったためである。
【0006】
しかし、近年、非特許文献1や2に見られるように、技術の進歩により、p型ZnOを得ることができるようになり、発光も確認されるようになり、非常に研究が盛んである。
【0007】
上記のように、ZnO薄膜を作製する場合に気体元素である酸素を供給する際、あるいはp型ZnOを得るために気体元素である窒素をドーピングする際に、気体元素を供給する装置としてラジカル発生器が用いられている。
【0008】
ラジカル発生器は、中空の放電管と放電管の外側周囲に巻き回された高周波コイル等で構成されており、高周波コイルに高周波電圧を印加することで放電管内部に導かれた気体をプラズマ化して放出する機器である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−14765号公報
【非特許文献1】A.Tsukazaki et al., JJAP 44 (2005) L643
【非特許文献2】A.Tsukazaki et al Nature Material 4 (2005) 42
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、プラズマ粒子は高エネルギー粒子であるため、プラズマ粒子によってスパッタ現象が発生し、放電管内壁が常にスパッタリングされるので、放電管を構成する原子が叩きだされて、プラズマ粒子に混じり、高い純度の気体元素を得ることができないばかりか、汚染源にもなることも多く、望みの組成、ドーピングを得るのが難しいだけでなく、意図しない不純物の導入によってイオン濃度の制御性を困難にするという問題があった。
【0010】
例えば、特に不純物の汚染に影響されやすい窒素ドープZnO系薄膜の形成の場合を考えると、放電管の中では、印加された高周波により原料ガス(窒素ガス)がプラズマ状態になり化学活性の高い状態になるが、それ以外にもプラズマ粒子が放電管の内壁に衝突することによるスパッタリング現象により、原料ガスに比べれば極微量ではあるが、放電管内壁の表面から構成元素、例えば放電管がPBN製の場合は、窒素とホウ素が飛散し、原料ガスと同時に放電管の放出孔から、成長用基板表面へ直接供給され、ZnO系薄膜に取り込まれてしまう。
【0011】
高品質なZnO系薄膜の形成には、放電管内壁の元素が意図しない不純物として極微量でも取り込まれることは素子特性に影響し、好ましくない。窒素はZnO系半導体薄膜中ではアクセプターとなりp型伝導に寄与するが、逆にホウ素はドナーとなりp型伝導を阻害するため、p型伝導の阻害要因となるホウ素の混入はできるだけ抑制する必要がある。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、放出されるプラズマ粒子の純度を高め、不純物の混入を防止し、イオン濃度の制御性を良くした薄膜形成装置とこれを用いたZnO系薄膜を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、気体を放電管に導入してプラズマを発生させるラジカル発生器を備え、気体元素を含む化合物薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記ラジカル発生器に設けられたプラズマ粒子放出孔と薄膜成長用基板とを結ぶ直線上に、気体元素以外の元素の直進を妨げる阻止体が配置されていることを特徴とする薄膜形成装置である。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、前記放出孔から前記薄膜成長用基板を見込む立体角よりも、前記放出孔から前記阻止体を見込む立体角が大きいことを特徴とする請求項1記載の薄膜形成装置である。
【0015】
また、請求項3記載の発明は 前記放出孔と阻止体との間には、イオントラップ用電極が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の薄膜形成装置である。
【0016】
また、請求項4記載の発明は、前記ラジカル発生器内の放電管と前記阻止体とは同じ材料で構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の薄膜形成装置である。
【0017】
また、請求項5記載の発明は、前記ラジカル発生器内の放電管をPBN、シリコン系化合物、Alのいずれかで形成していることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の薄膜形成装置である。
【0018】
また、請求項6記載の発明は、前記阻止体は、PBN、シリコン系化合物、Alのいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の薄膜形成装置である。
【0019】
また、請求項7記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の薄膜形成装置によって形成されることを特徴とするZnO系薄膜である。
【0020】
また、請求項8記載の発明は、前記ラジカル発生器に窒素を含む気体もしくは窒素と酸素を含んだ化合物の気体を導入することにより、窒素がドーピングされることを特徴とする請求項7記載のZnO系薄膜である。
【0021】
また、請求項9記載の発明は、前記放電管の構成元素で、Zn、O、Mg、N、Ga、P、H、S、Clを除く元素の濃度が3ppm以下であることを特徴とする請求項7又は請求項8のいずれか1項に記載のZnO系薄膜である。
【0022】
また、請求項10記載の発明は、ZnO系薄膜中のホウ素濃度に対する窒素濃度の比が500以上であることを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載のZnO系薄膜である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の薄膜形成装置は、プラズマを発生させるラジカル発生器を備えており、このラジカル発生器に設けられたプラズマ粒子放出孔と薄膜成長用基板とを結ぶ直線上に、気体元素以外の元素の直進を妨げる阻止体が配置されているので、放電管内部からスパッタにより叩き出される不純物は阻止体に当たることで、直接薄膜成長用基板に到達できない。一方、気体元素は質量が軽く、蒸気圧が高いため、阻止体では阻止しにくく、薄膜成長用基板に到達することができる。したがって、形成される薄膜を構成する気体元素の純度を上げ、汚染を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は本発明の薄膜形成装置におけるラジカル発生器部分の概略構造を、図9は薄膜形成装置の一例であるMBE装置(分子線エピタキシー装置)の全体構造を示す。
【0025】
23は成長室であり、33〜36はクヌーセンセル又はK−セルと言われる分子線セルで、半導体薄膜を形成する場合の気体元素以外の元素を供給するものであり、例えば、Al用分子線セル、Ga用分子線セル、In用分子線セル、Si用分子線セル、Zn用分子線セル等として使用される。各分子線セルは、例えば、PBN(窒化硼素)製の坩堝37と、ヒータ38と、シャッター39を各々備えている。
【0026】
一方、20はラジカル発生器であり、10は薄膜成長用基板、22は基板ホルダー、21は加熱ヒータ、24は液体窒素シュラウド、25はRHEED(高速反射電子回折)電子銃、26はRHEEDスクリーンである。
【0027】
ラジカル発生器20は、図1に示すように、中空の放電管1の外側周囲を高周波コイル2で巻き回されており、高周波コイル2の端子は、高周波電源(図示せず)に接続されている。また、放電管1の上部には放出孔4が、下部にはガス導入孔5が形成されている。ガス導入孔5にはガス供給管12が接続され、ここから薄膜構成元素となる気体が供給される。また、放電管1及び高周波コイル2を囲繞するように設けられた外筒13と、ビューポート14等が設けられている。
【0028】
一方、放出孔4と所定の距離を隔てて阻止体3が、放出孔4を遮るように設けられている。阻止体3は、気体元素を含む化合物薄膜を形成する場合、その気体元素を含む化合物薄膜を形成ないしは成長させている間は、放出孔4と成長用基板表面を結ぶ直線上に配置されている。中空の放電管1内部にガス導入孔5から導入された原料となる気体は、高周波コイル2によって高周波電圧(電界)が印加され、プラズマとなり、プラズマ粒子が放出孔4から放出されるが、気体元素以外の粒子が阻止体3に当たって直進が妨げられ、フィルターの役割を果たす。
【0029】
例えば、特に不純物の汚染に影響されやすい窒素ドープZnO系薄膜の形成の場合、従来、成膜中には、放出孔4と成長用基板10表面との間に、阻止体3は設けられていない。通常、放電管1はPBN(熱分解窒化ホウ素)で形成されているが、放電管内へ供給する原料ガスが窒素の場合、従来の方法で形成した厚さ100〜1000nmのZnO系薄膜には、1×1020 cm−3の窒素がドーピングされるが、同時に2×1017 cm−3(5ppm)以上のホウ素も混入してしまう。
【0030】
しかしながら、本発明の構成では、阻止体3の設置により、放電管1の放出孔4から出てくる極微量の放電管1の内壁の構成元素(上記の場合はホウ素)は、成長用基板10の表面に到達する前に、阻止体3で阻止され、ZnO系薄膜中への混入が抑制される。一方、気体である窒素は阻止体3に阻止されにくく、ZnO系薄膜内へ取り込まれる。
【0031】
ここで、ZnO系薄膜とはZnOを主成分とする薄膜のことであり、ZnO又はZnOを含む化合物から構成され、具体例としては、ZnOの他、IIA族元素とZn、IIB族元素とZn、またはIIA族元素およびIIB族元素とZnのそれぞれの酸化物を含むものを意味し、バンドギャプを広げるためにMgが混ざったMgZn1−xOなどの混晶も含まれる。
【0032】
なお、ZnO系半導体素子の薄膜形成方法として、通常、図9に示したMBE装置を用いる場合が多いが、MBE装置以外に、後述するPLD(パルスレーザー堆積法)装置や、CVD(化学気相成長法)装置、MOCVD(有機金属化学気相成長法)装置、なども用いることができる。
【0033】
本発明の効果をさらに向上させた構成を図2に示す。主として放電管1の内壁から叩き出される元素による汚染を抑制するために、放出孔4と成長用基板10表面を結ぶ直線上に阻止体3を配置する。そのとき、図2に示すように、阻止体3は、放出孔4から成長用基板10を見込む立体角Ψ1よりも、放出孔4から阻止体3を見込む立体角Ψ2が大きくなるような形状が好ましい。このように構成することで、気体元素を含む化合物薄膜形成時、ラジカル発生器から放出されるプラズマ粒子のうち、気体元素以外の粒子を一層効率よく阻止体3で阻止することができる。
【0034】
例えば、本発明の実施例としては、放出孔4から成長用基板10表面までの距離が100mm、成長用基板10の直径が50.8mmのとき、放出孔4から20mm離れた位置で、直径15mmの大きさの板状の阻止体3を設置した。この場合、放出孔4からの成長用基板10を見込む立体角Ψ1は、約0.19ステラジアン、放出孔4からの阻止体3を見込む立体角Ψ2は、約0.4ステラジアンとなる。
【0035】
また、放電管1は直径5mm〜50mm程度の円筒形の形状に形成されており、円筒形の片側の放出孔4が形成されている端面は成長用基板10表面側に向けられている。放電管1の形状は円筒形である必要はなく、高周波コイル2が放電管1の外側に配置できればどのような形状でも問題ない。
【0036】
一方、放出孔4の直径は放電管1の直径よりも小さく、0.1mm〜0.2mm程度の大きさが好ましいが、放電管1の直径と同じ程度でも良い。放出孔4の個数は1個が好ましいが、複数形成されていても良い。阻止体3の材質は、不純物の付着のし易さを考慮すると放電管1内壁の材質と同じものが好ましい。実施例では、PBN製の阻止体を用いた。PBN以外の材質でも効果は得られるが、同じ材質である方が効果は高い。
【0037】
次に、阻止体3の形状の例を図3に示す。図3は、阻止体3を上面から見た平面図と正面図とを示したものである。阻止体3の形状は、特に限定されるものではなく、図3(a)に示す板状でも良いし、また、図3(b)に示す三角錐の形状でも良い。
【0038】
図4は、図1の構成にイオントラップ用の平行電極6を配置した構造を示す。イオントラップ用の並行電極6は、放出孔4と阻止体3の間に設置されており、イオン化した元素を薄膜中へ取り込まれないようにする効果がある。例えば、イオン化したホウ素はp型の活性化率を減少させるため除去する方が好ましく、上記平行電極6でイオン化したホウ素の除去を行うことができる。
【0039】
以上のようなラジカル発生器と阻止体を備えた薄膜形成装置によるZnO系薄膜の形成を行った。イオントラップ用の並行電極6には300Vの直流電圧を印加した。成長用基板10としてZnO基板のZn極性面を使用した。他にもZnO基板の酸素極性面、M面、A面も使用可能である。ZnO基板以外には、サファイア基板(C面、A面、R面)、ScAlMgO基板なども使用可能である。
【0040】
成長用基板は予備加熱室で250℃に20分間保持される、それから成長室23に搬送され800℃に加熱された後、成長温度に保たれる。成長温度は300〜1000℃である。主原料には7Nの高純度Zn(純度99.99999%)と酸素ガス(純度99.99999%)を用いた。窒素ガスをp型のドーパントの原料として用いた。原料に用いるガスとして、他にオゾン(O)、二酸化窒素(NO)、一酸化二窒素(NO)、一酸化窒素(NO)等も適する。
【0041】
Znは分子線セル33〜36のいずれかの坩堝内で、250〜350℃に加熱され、成長用基板10表面に供給される。Mgを使用する場合は、Znと同様に分子線セル33〜36のいずれかの坩堝内で300〜400℃に加熱され、成長用基板10表面に供給される。
【0042】
酸素ガスはラジカル発生器20aを、窒素ガスはラジカル発生器20bを通って、成長用基板10表面に到達する。ラジカル発生器内では高周波が高周波コイル2によって印加され、酸素ガス、窒素ガスはプラズマ状態になり化学活性の高い状態になる。実施例では高周波の周波数は13.56MHz、出力は300〜400Wを適用したが、それ以外の周波数(例えば2.4GHz)や出力(50W〜2kW)も適用可能である。酸素ガスの流量は0.3〜3sccm、窒素ガスの流量は0.2〜1sccmである。
【0043】
窒素ガス用のラジカル発生器20bの放電管にはPBN(熱分解窒化ホウ素)製のものを、酸素ガス用のラジカル発生器20aの放電管にはSiO(石英)制のものを用いた。他の材質としてAl(アルミナ)等も使用することができ、電気を通さない絶縁体であれば用いることができる。また、窒素ガス用の放電管は、上記にPBNに代えてSiO製としても良く、NOガスを用いる場合でも、放電管はPBN製又はSiO製のどちらでも使用することができる。このように、ガスの種類と放電管の材質の組み合わせに特に制限はない。
【0044】
以上の方法で形成した厚さ100〜1000nmのZnO系薄膜と、成膜時に阻止体3が存在しない従来の方法で作製した同じ厚さのZnO系薄膜とを比較したのが図5である。図5の左側縦軸は濃度(cm−3)を、右側縦軸は窒素濃度とホウ素濃度の濃度比を、横軸は深さ(nm)を表す。黒丸(●)は阻止体3が存在しない場合の窒素濃度を、白丸(○)は阻止体3が存在する場合の窒素濃度を、白三角(△)は阻止体3が存在しない場合のホウ素濃度を、黒三角(▲)は阻止体3が存在する場合のホウ素濃度を、黒菱形(◆)は阻止体3が存在する場合の窒素濃度CN1とホウ素濃度CB1との濃度比CN1/CB1を、白菱形(◇)は阻止体3が存在しない場合の窒素濃度CN2とホウ素濃度CB2との濃度比CN2/CB2を示す。
【0045】
黒丸(●)と白三角(△)のデータからわかるように、従来の方法では、1×1020 cm−3の窒素がドーピングされるが、同時に2×1017 cm−3(5ppm)以上のホウ素が混入している。これは、放電管1の構成材料PBN中のホウ素原子が、プラズマ粒子によって叩き出されているので、ホウ素濃度が高くなったものである。
【0046】
一方、白丸(○)と黒三角(▲)のデータからわかるように、本発明の構成では、窒素濃度は従来の方法と比較して、ほぼ同じ濃度に維持できており、ホウ素濃度については6×1016cm−3(1.5ppm)以下に抑制することができた。また、阻止体が存在しない場合の窒素濃度とホウ素濃度の比(CN2/CB2)は、500未満であるが、成膜中に阻止体3を配置することで、窒素濃度とホウ素濃度の比(CN1/CB1)は2000以上になることがわかる。すなわち、放電管1の内壁の構成元素(上記の場合はホウ素)は、成長用基板10の表面に到達する前に、阻止体3で阻止され、ZnO系薄膜中への混入が抑制されるが、気体である窒素は阻止体3で阻止されにくく、ZnO系薄膜内へ取り込まれるためである。
【0047】
次に、ZnO系薄膜の形成に薄膜形成装置の一種であるPLD装置を用いた場合の実施例を説明する。図10に示されるように、PLD装置は、真空チャンバ(図示せず)内に成長用基板42とターゲット43とを対向配置し、成長用基板42を加熱源41上に載置して、例えばKrFレーザー44を真空チャンバの石英窓から原料であるターゲット43上へ集光させることでターゲット表面を蒸発させて、ブルーム45を形成し、成長用基板42上へ堆積する手法である。
【0048】
レーザーには、上記KrFエキシマレーザー以外に、ArF、XeCl等を用いるエキシマレーザーを用いても良い。また、YAGレーザーなどのパルスレーザーも適用可能である。ターゲット43には高純度なZnOの結晶を用いた。他にZnO焼結体、Mgを混ぜたMgZnO焼結体を使用してもよい。
【0049】
ZnO薄膜の形成には、ターゲット43以外にも酸素ガスを用いた。本実施例では、酸素ガスはラジカル発生器を使用せずに、成長用基板42表面に供給したが、ラジカル発生器を用いてもよい。また、酸素の替わりにオゾンを使用しても良い。p型ZnO薄膜形成用のドーパントとして、窒素ガスを用いた。窒素ガスはラジカル発生器46を利用して、成長用基板42表面に供給した。窒素以外に、二酸化窒素(NO)、一酸化二窒素(NO)、一酸化窒素(NO)等のガスを利用しても良い。
【0050】
窒素ドープZnO薄膜の形成には、酸素ガスを成長室が1×10−6Torrになるよう供給し、窒素ガスを成長室の窒素分圧が7×10−8Torrになるように供給した。窒素用のラジカル発生器46の放電管には300〜400Wを印加し、高周波の周波数には13.56MHzを使用した。ラジカル発生器46は図7に示す構造を有しており、イオントラップ用の平行電極6を備えている。平行電極6には300〜400Vの直流電圧を印加した。
【0051】
成長用基板は上記実施例と同様、ZnO基板、サファイア基板、ScAlMgO基板等が用いられるが、成長用基板にZnO基板以外を用いる場合には、初めに高温アニールバッファ層を形成後、所望のZnO系薄膜を形成する。高温アニールバッファ層は、まず100nm程度のバッファ層を800℃以下の低温で形成し、その後、酸素分圧1×10−3 Torr以上の雰囲気中、1000℃以上で1時間保つことで得られる。このように形成した高温アニールバッファ層は表面が原子レベルで平坦である。
【0052】
成長用基板は成長前に800〜1000℃に30分間保持される。その後所望の成長温度に保たれる。成長温度には300〜1000℃が好ましい。
【0053】
ところで、従来の方法では窒素用のラジカル発生器46の放出孔4と成長用基板42の間には、成長中には何も配置されていない状態で、薄膜を形成するが、窒素ラジカルを供給しない場合には、放出孔4を塞ぐために、図7に示されるようにシャッター9が備えられている。
【0054】
図7のシャッター9は、支柱7が回転することにより、放電管1に開けられた放出孔4の上部を遮ったり、または開放したりするように構成されており、プラズマ原子の供給が必要ない場合には、シャッター9は放出孔4の上を遮る位置に配置されている。一方、薄膜形成やp型不純物のドーピング等の際には、支柱7が回転してシャッター9を移動させ、放出孔4の上部を開放し、放電管1から放出されるプラズマ原子を成長室に導く。
【0055】
図6は、図7のようなラジカル発生器を用いて、窒素ドープZnO系薄膜を形成して、窒素ドープ量がシャッター9の開閉により、どのように変化するかを示したものである。D1の領域が窒素ドープZnO系薄膜時にシャッター9を閉じて窒素ラジカル発生器の放出孔4を遮った場合、D2の領域は窒素ドープZnO系薄膜形成時にシャッター9を開いて窒素ラジカル発生器の放出孔4を開放した場合である。しかしながら、シャッター9の開閉による窒素のドープ量にほとんど変化がない。このように、シャッター9が閉まっていても、放出孔4から放出された気体元素(この場合は窒素ラジカル)は、シャッター9に遮られたり、シャッター9で妨げられたりすることがほとんどなく、成長用基板表面に到達することがわかる。
【0056】
本実施例では、図1や図4に示される阻止体3を特別に配置するのではなく、図7のように従来の構成で用いられているシャッター9を阻止体3として流用するものである。シャッター9は放出孔4に対して完全に密着している必要はなく、例えば、放出孔4から見て成長用基板が隠れるように設置されていることが多い。薄膜形成時には、成長用基板から放出孔4が見えるように、上記のシャッター9を動かして閉める。
【0057】
以上説明した方法により、ScAlMgO基板を成長用基板として、この上にMgZnO薄膜、p型ZnO薄膜を順に成長させたときの窒素濃度、ホウ素濃度、二次イオン強度の変化を示す図が図8である。図8は、左側縦軸に窒素又はホウ素に関する濃度を、右側縦軸にMgO、Sc、ZnOに関する二次イオン強度を示し、横軸に深さを示す。また、図8のL3の領域はScAlMgO基板を示し、L2の領域はMgZnO薄膜を、L1の領域は窒素ドープZnO薄膜を示す。また、各温度(540℃、480℃、410℃、RTM)について、阻止体が存在する場合と存在しない場合の両方で成長しており、阻止体が存在する場合は基板側に阻止体を配置している。なお、RTMとは、非特許文献2に開示されているRepeated Temperature Modulation法による成長を行っている部分である。
【0058】
PLD法では、成長用基板に、ZnO基板の酸素極性面、サファイア基板、ScAlMgO基板基板のいずれかを用いた場合は、ZnO系薄膜が酸素面の極性を持って形成される。酸素面極性のZnO系薄膜の場合、窒素濃度は成長温度に依存する。
【0059】
L1の領域における窒素濃度曲線の成長温度410℃、480℃、540℃のときの濃度値を見てもわかるように、成長温度が高いと窒素濃度は少なく、成長温度が低いと窒素濃度は多くなる。ここで、成長温度が400℃のときには、窒素濃度は1×1020cm−3ドープされている。従来、窒素ドープZnO系薄膜を成長させると、ラジカル発生器46の放電管1の材質がPBN製のときは、窒素と同時にホウ素もZnO薄膜中に1×1017cm−3以上の濃度で取り込まれてしまうという問題がある。これは、放電管をPBN製としているので、構成材料のPBN中のホウ素原子が、プラズマ粒子によって叩き出され、ホウ素濃度が高くなるためである。
【0060】
しかし、本実施例では、ホウ素が入りやすいPBN製放電管を使用しているが、シャッター9を放電管1と同様にPBN製とし、シャッター9を阻止体の替わりに利用したので、図8に示すように、窒素濃度はそのまま1×1020 cm−3ドープされたが、ホウ素濃度が1×1017cm−3以下に低減された。ホウ素濃度が低減されたことで、p型の電気伝導特性が向上した。従来技術では、p型ZnO系薄膜のキャリア濃度が2×1016cm−3であったが、本発明を適用することで、キャリア濃度が1×1017cm−3以上に向上した。
【0061】
なお、放電管の材質は、PBN以外に、SiOやAl等を用いることができる。シャッターの材質に特に制限はないが、スパッタされ、放出孔から出てくる放電管内壁の粒子を効率よく付着させて阻止するには、放電管内壁の材質と同じものの方が好ましい。
【0062】
以上のように本発明の薄膜形成装置によれば、高純度、高品質な薄膜形成に不可欠な汚染の少ない気体元素を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の薄膜形成装置におけるラジカル発生器部分の構造を示す図である。
【図2】ラジカル発生器の放出孔と阻止体及び成長用基板との位置関係を示す図である。
【図3】阻止体の形状例を示す図である。
【図4】図1の構造に平行電極を設けた構造を示す図である。
【図5】ZnO膜中の窒素濃度と不純物濃度を示す図である。
【図6】ラジカル発生器のシャッターの開閉により生ずる窒素濃度の変化を示す図である。
【図7】図4の構造にシャッターを設けた構造を示す図である。
【図8】図7の構造のラジカル発生器を用いてZnO薄膜を形成した場合の窒素、ホウ素濃度等を示す図である。
【図9】薄膜形成装置の一例を示す図である。
【図10】薄膜形成装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 放電管
2 高周波コイル
3 阻止体
4 放出孔
5 ガス導入孔
6 平行電極
7 支柱
8 支持台
9 シャッター
10 成長用基板放電管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を放電管に導入してプラズマを発生させるラジカル発生器を備え、気体元素を含む化合物薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記ラジカル発生器に設けられたプラズマ粒子放出孔と薄膜成長用基板とを結ぶ直線上に、気体元素以外の元素の直進を妨げる阻止体が配置されていることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記放出孔から前記薄膜成長用基板を見込む立体角よりも、前記放出孔から前記阻止体を見込む立体角が大きいことを特徴とする請求項1記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記放出孔と阻止体との間には、イオントラップ用電極が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記ラジカル発生器内の放電管と前記阻止体とは同じ材料で構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記ラジカル発生器内の放電管をPBN、シリコン系化合物、Alのいずれかで形成していることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
前記阻止体は、PBN、シリコン系化合物、Alのいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の薄膜形成装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の薄膜形成装置によって形成されることを特徴とするZnO系薄膜。
【請求項8】
前記ラジカル発生器に窒素を含む気体もしくは窒素と酸素を含んだ化合物の気体を導入することにより、窒素がドーピングされることを特徴とする請求項7記載のZnO系薄膜。
【請求項9】
前記放電管の構成元素で、Zn、O、Mg、N、Ga、P、H、S、Clを除く元素の濃度が3ppm以下であることを特徴とする請求項7又は請求項8のいずれか1項に記載のZnO系薄膜。
【請求項10】
ZnO系薄膜中のホウ素濃度に対する窒素濃度の比が500以上であることを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載のZnO系薄膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−235835(P2008−235835A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77497(P2007−77497)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】