説明

車両制御装置

【課題】グリップ余裕度が大きな通常領域において、目的とする車体フォースとヨーモーメントとを達成するためのブレーキ操舵量を低減させる。
【解決手段】ドライバが望む車体運動を得るために車体に加えるべき目標合成力と各車輪の限界摩擦円の大きさをパラメータとして含む拘束条件とに基づいて、各車輪のμ利用率を最適化する各輪の制動力及び駆動力を制御するための第1の制御量、及び各輪の操舵角を制御する第2の制御量を演算する演算手段14と、操舵角のみの制御によって目標合成力を得るための各輪の操舵角を制御する操舵制御量を演算する演算手段18と、協調制御量及び操舵制御量をパラメータρによって線形補間した制御量に基づいて、各車輪の操舵角のみ、または各車輪の操舵角及び制駆動力を制御する制御手段22とで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置にかかり、特に、グリップ余裕度が大きな通常領域では前後輪の操舵角制御のみによって目的とする車体フォースとヨーモーメントを得ることで不要なブレーキ操作を低減し、グリップ余裕度が小さな限界領域を含む通常領域以外の領域では、制駆動制御と操舵制御との協調制御を効率的に行なうことができる車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
4輪の全てを制御対象とし、4輪の操舵角と制駆動力とを独立に制御する従来技術として、操舵角と制駆動力とを協調制御する技術が知られている(特許文献1)。この技術は、目的とする車体合成力とヨーモーメントとを達成する各輪タイヤ発生力の組み合わせの中で、各輪のμ利用率(各輪のタイヤ発生力の最大値に対する比率)を最小化、すなわちタイヤグリップ余裕度を最大化する各輪タイヤ発生力を実現するものである。なお、ここでμ利用率とグリップ余裕度との間には、グリップ余裕度=1−μ利用率の関係がある。従来の4輪操舵と制駆動力とを統合する統合制御則は、μ利用率が4輪の中で最大となる輪のμ利用率を最小にするアルゴリズムになっており、4輪のタイヤ力を全て使用する領域においては、車体フォースとヨーモーメントの理論限界を達成することができる。このため、タイヤ発生力を効率良く利用することが可能となり、タイヤグリップ余裕度が重要となる限界領域の走行における車両の運動性能向上に大きく貢献することができる。
【特許文献1】特開2004−249971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来技術のアルゴリズムを利用すると、タイヤのグリップ余裕度が重視される限界領域では車両の運動性能が有効に制御されるが、グリップ余裕度が大きな通常領域においても操舵アクチュエータ、並びにブレーキアクチュエータ及び駆動アクチュエータからなる制駆動アクチュエータが作動されることになる。ブレーキアクチュエータの作動は車両の減速を発生させるために、この車両減速がドライバへの違和感となることがある。また、この車両減速を補償するために駆動アクチュエータを作動させると、燃費の低下を招く虞がある。
【0004】
本発明は、上記問題点を解決すべく成されたもので、グリップ余裕度が大きな通常領域では前後輪の操舵角制御のみによって目的とする車体フォースとヨーモーメントとを達成すると共に、グリップ余裕度が小さくなる限界領域を含む通常領域以外の領域においては、操舵角と制駆動力とを最適に組み合わせる統合制御則をグリップ余裕度に基づいて連続的に変化させる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は、ドライバが望む車体運動を得るために車体に加えるべき目標合成力と各車輪の摩擦円の大きさをパラメータとして含む拘束条件とに基づいて、各車輪のμ利用率を最適化する各輪の制動力及び駆動力の少なくとも一方を制御するための第1の制御量、または前記第1の制御量及び各輪の操舵角を制御する第2の制御量を含む協調制御量を演算する第1の制御量演算手段と、操舵角のみの制御によって前記目標合成力を得るための各輪の操舵制御量を演算する第2の制御量演算手段と、グリップ余裕度が大きな通常領域では、前記操舵制御量に基づいて前記各車輪の操舵角のみを制御し、グリップ余裕度が小さな限界領域では、前記協調制御量に基づいて各車輪の制動力及び駆動力の少なくとも一方、及び各車輪の操舵角を制御し、前記通常領域と前記限界領域との間の領域では、前記操舵制御量及び前記協調制御量を線形補間した制御量に基づいて、各車輪の制動力及び駆動力の少なくとも一方、及び各車輪操舵角を制御する制御手段と、を含んで構成したものである。
【0006】
操舵制御量及び協調制御量を線形補間するには、例えば、以下の式を用いることができる。
【0007】
ci=ρCoi+(1−ρ)Csi
ただし、Cciは前記線形補間した制御量、Coiは前記協調制御量、Csiは前記操舵制御量、ρはグリップ余裕度が大きな通常領域からグリップ余裕度が小さな限界領域までグリップ余裕度に応じて0〜1まで変化されるパラメータである。
【0008】
本発明によれば、グリップ余裕度が大きな通常領域では、協調制御量に基づいて各車輪の操舵角のみが制御されるため、ブレーキ作動頻度を低減することができる。また、グリップ余裕度が小さな限界領域では、協調制御量に基づいて各車輪の制動力及び駆動力の少なくとも一方、及び各車輪の操舵角を制御し、通常領域と限界領域との間の領域では、協調制御量及び操舵制御量を線形補間した制御量に基づいて、各車輪の制動力及び駆動力の少なくとも一方、及び各車輪の操舵角を制御するので、操舵角と制駆動力とをグリップ余裕度に基づいて連続的に最適に組み合わせる統合制御によってタイヤのグリップ力を最適に制御することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、グリップ余裕度が大きな領域では前後輪の操舵角制御のみによって目的とする車体フォースとヨーモーメントを得ることによって不要なブレーキ操作を低減することができると共に、グリップ余裕度が小さな限界領域を含む通常領域以外の領域では、操舵制御及び制駆動制御の協調制御を効率的に行なうことができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。まず、本発明の原理について、グリップ余裕度が大きな通常領域における制御則、グリップ余裕度が小さな限界領域における制御則、及び通常領域と限界領域との間の領域における制御則について説明する。
【0011】
μ利用率とは、タイヤと路面間の摩擦において発生可能な最大摩擦力に対して、どれほどを利用しているかを表す指標であり、後述する車輪の摩擦円に対する車輪(タイヤ)の発生力の比で表される。一方、グリップ余裕度とは、タイヤのグリップが摩擦円に対してどれだけの余裕を持っているかを表す指標であり、グリップ余裕度=(1−μ利用率)の関係となる。また、グリップ余裕度は、車輪のセルフアライニングトルクから求めることもできる。
【0012】
最初に、タイヤのグリップ余裕度が大きな通常領域において目的とする車体フォース(ドライバが望む車体運動を得るために車体に加えるべき目標合成力)及びヨーモーメントを得るために、操舵角のみを制御する制御則について説明する。タイヤのグリップ余裕度が大きな通常領域では、ドライバがブレーキ操作を行なわない状況で制御装置によってブレーキを作動させることは、ドライバへの違和感の観点から望ましくない。
【0013】
ブレーキを作動させることなく目的とする車体フォース及びヨーモーメントを得るには、各輪の横力によって目的とする車体フォースとヨーモーメントが生じるように制御する必要がある。前後各2輪分の横力Fyf、Fyr、車体横力Fy0、及びヨーモーメントMz0の関係は、次式で表される。
【0014】
y0=Fyf+Fyr ・・・(1)
z0=lfyf−lryr ・・・(2)
ただし、lfは前軸と重心との間の距離、lrは後軸と重心との間の距離である。
【0015】
上記(1)式及び(2)式から、前後各2輪分の横力について解くと、次の(3)式及び(4)式が得られる。
【0016】
【数1】

【0017】
また、スリップ角が等しい左右輪の横力が荷重に比例すると仮定すると、各輪の横力は以下のように表される。
【0018】
【数2】

【0019】
ただし、Fysiは各輪の横力(i=1は左前輪、i=2は右前輪、i=3は左後輪、i=4は右後輪)、Fziは各輪の荷重である。
【0020】
従って、操舵角のみによる制御は、各車輪の(5)〜(8)式に示す横力を操舵制御量として、各車輪において(5)〜(8)式の横力が得られるスリップ角になるように各輪の操舵角を制御すればよい。
【0021】
また、この操舵角のみの制御によって演算された操舵制御量である各輪横力と各輪の前後力(Fxsi=0)は、次式の拘束条件を満たしている。
【0022】
【数3】

【0023】
ただし、Tfは前輪トレッド、Trは後輪トレッドである。
次に、グリップ余裕度が小さな限界領域において、操舵角と制駆動力とを統合して制御する操舵・制駆動統合制御則について説明する。
【0024】
図1に示す4輪車両運動モデルについて、ドライバが望む車体運動を得るために4輪の各々で発生するタイヤ発生力の合力として車体に加えられる力(発生合力)の方向θ(車両前後方向を基準とした角度)と、各車輪の摩擦円の大きさ(半径)Fiとが既知である場合に、目的とするヨーモーメントを確保しつつ、最大の発生合力、すなわち車体に発生する加速度(または減速度)を最大にするための各車輪のタイヤ発生力の方向を求める。この各車輪のタイヤ発生力の方向は、発生合力方向と単輪発生力(各車輪のタイヤ発生力)方向との成す角度qiで表す。
【0025】
なお、摩擦円は、タイヤがグリップを失わないで車両の運動性能を制御できる限界を表す円であり、摩擦円の大きさは車輪と路面との間に生じるタイヤの摩擦力の最大値を表しており、各輪のμ(摩擦係数)推定値または仮想μ値と各輪の荷重に基づいて求めることができる。タイヤの摩擦力は、進行方向(駆動力または制動力)の力と横方向(右方向または左方向)の摩擦力との合成力であり、何れかの方向の摩擦力が100%、すなわち摩擦円の大きさに一致した場合、他方向の摩擦力はゼロになる。なお、制動力は駆動力と逆方向になる。この摩擦力の範囲をベクトル図で現わすと、略円形で表現できることから摩擦円と呼ばれている。
【0026】
制御則の記述を簡素化するために、ここでは、図2に示すように記号の置き換えを行う。図2に示すように各輪の限界摩擦円の大きさFi(i=1:左前輪、2:右前輪、3:左後輪、4:右後輪)が既知であると仮定し、所望のヨーモーメントMzoと車体フォース(前後力Fx0、横力Fy0)を確保しつつ、各輪のグリップ余裕度を均等に最大化するための各輪タイヤ発生力の方向(X軸と単輪発生力のなす角qi)を求める。
【0027】
このためにここでは、まず、所望のヨーモーメントと車体合力を確保するという拘束条件のモデル化を行う。発生合力の方向をx軸、これに垂直な方向をy軸とする座標変換を実施すると各タイヤの位置(x,y)=(li,di)は、
【0028】
【数4】

【0029】
と記述できる(図2参照)。また、各輪のμ利用率をγとすると、各輪の発生力方向qi(X軸に対し、反時計方向を正とする)には、以下の拘束条件が存在することになる。
【0030】
【数5】

【0031】
ここで、(20)、(22)式からγを消去すると、
【0032】
【数6】

【0033】
が得られ、同様に、(21)、(22)式からγを消去して整理すると、
【0034】
【数7】

【0035】
が得られる。
つぎに、最大化を目的とした評価関数として次式を定義する。
【0036】
【数8】

【0037】
ただし、d0、 l0は力とモーメントの次元を合わせるための定数であり、ここでは、
【0038】
【数9】

【0039】
と設定する。また、(20)〜(22)式を(25)式に代入すると、
【0040】
【数10】

【0041】
となる。(25)式右辺の分子は、定数であるため、結局、(28)式を最大化するqiを見出せば、γを最小化することになる。したがって、非線形最適化問題として、次の問題1のように定式化される。
(問題1)
(23)、(24)式の拘束条件を満足し、(28)式を最大化するqiを求める。
ここでは、この非線形最適化問題を、逐次2次計画法のアルゴリズムを利用して解く。まず、sinqi, cosqiを
【0042】
【数11】

【0043】
と1次近似することによって、(23)、(24)式の拘束条件は、次式のように線形化される。
【0044】
【数12】

【0045】
また、sinqi, cosqiを2次のテーラー展開によって、
【0046】
【数13】

【0047】
と近似すると(28)式の評価関数は、
【0048】
【数14】

【0049】
と記述できる。さらに、
【0050】
【数15】

【0051】
という変数変換を行うことによって、評価関数は、
【0052】
【数16】

【0053】
となり、pのユークリッドノルム最小化問題に変換される。また、線形近似された拘束条件は、
【0054】
【数17】

【0055】
と記述される。(42)式を満足するユークリッドノルム最小解は、
【0056】
【数18】

【0057】
と求めることができる。ただし、A+は行列Aの擬似逆行列である。なお、Aが横長フルランクの行列の場合、Aの擬似逆行列は、
【0058】
【数19】

【0059】
で演算できる。結局、
【0060】
【数20】

【0061】
の関係が得られる。ただし、
【0062】
【数21】

【0063】
である。逐次2次計画法のアルゴリズムは、(49)で導出されたqiを用いて再び(36)〜(38)式、(43)〜(46)式、及び(49)式の演算を実施する再帰的な手法によって収束演算を行う手法である。また、このアルゴリズムによって導出されたqiを利用した場合のμ利用率は、(25)、(28)式から
【0064】
【数22】

【0065】
と演算することができる。
【0066】
結局、各輪のタイヤ発生力の方向とμ利用率から操舵・制駆動統合制御で演算される各輪の前後、横力は、
【0067】
【数23】

【0068】
と導出される。
【0069】
操舵・制駆動統合制御則では、操舵角のみを制御する制御則について説明した座標系を用いて説明すると、各輪の摩擦円を利用して、各輪のμ利用率を均等化すると共に、次式の拘束条件を満足する制御則となる。
【0070】
【数24】

【0071】
ただし、Fxoiは操舵・制駆統合制御則によって演算された各輪の前後力、Fyoiは操舵・制駆統合制御則によって演算された各輪の横力、Fx0は目標車体前後力、Fy0は目標車体横力である。目標車体前後力Fx、及び目標車体横力Fyは、ドライバが望む車体運動を得るために車体に加えるべき目標合成力の車両の重心を原点としかつ車両前後方向をx軸とするxy座標におけるx軸方向成分、及びy軸方向成分を求めることにより得られる。
【0072】
通常領域と限界領域との間の領域において、グリップ余裕度に応じて制御則を協調させる場合も上記の通常領域の制御則及び限界領域の制御則で説明した拘束条件を満足させる必要がある。本実施の形態では上記で説明した操舵角のみを制御する制御則と操舵・制駆動統合制御則とを協調させるためのパラメータρを以下のように定義する。
【0073】
【数25】

【0074】
ただし、γは、最適制御を行なったときのμ利用率である。上記の(56)式では、最適制御を行なったときのμ利用率に基づいてパラメータρを求めたが、操舵角のみによる制御における各輪のμ利用率γsiの最大値maxγsiを用いて、下記(57)式で表してもよい。
【0075】
【数26】

【0076】
ただし、maxγsi≒max|Fysi|/(Fzi・μ)である。
【0077】
そして、上記のように定義したパラメータρを用いて、以下の(58)式及び(59)式に示すように協調制御量及び操舵制御量を線形補間した協調制御則を定義する。
【0078】
【数27】

【0079】
ただし、Fxciは協調後の各輪の前後力の目標値、Fyciは協調後の各輪の横力の目標値である。これらの制御則は以下の拘束条件を満足する。
【0080】
【数28】

【0081】
次に、上記の協調制御量及び操舵制御量を用いて、(58)式及び(59)式に示す力を得るための本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。図3に示すように、本実施の形態には、ドライバが望む車体運動を得るために車体に加えられる車体合成力の大きさ及び方向、及びヨーモーメントを演算する目標車体フォース・モーメント演算手段10、各車輪の摩擦円の大きさを各々推定する摩擦円推定手段12、及び目標合成力の大きさ及び方向と各車輪の摩擦円の大きさとに基づいて、各車輪で発生する力が最適になるように、例えば摩擦円に対して使用する力が最小になるように力を分配する最適発生力分配演算手段14が設けられている。
【0082】
最適発生力分配演算手段14には、統合パラメータρを演算する統合パラメータ演算手段16が接続され、目標車体フォース・モーメント演算手段10には操舵角の制御のみによってドライバが望む車体運動を得るため制御操作量(操舵制御量)を演算する操舵制御操作量演算手段18に接続されている。
【0083】
最適発生力分配演算手段14、統合パラメータ演算手段16、及び操舵制御操作量演算手段18は、協調操作量演算手段20に接続され、協調操作量演算手段20は制駆動アクチュエータ及び操舵アクチュエータを含む制御手段22に接続されている。
【0084】
目標車体フォース・モーメント演算手段10は、ドライバが望む車体運動を得るために、ドライバの運転操作を表すドライバ操作量、及び車速に基づいて、目標とする車体に加えられる車体合力の大きさ及び方向、及びヨーモーメントを演算する。また、目標の車体合力の大きさ及び方向、及びヨーモーメントは、ドライバ操作量に応じて設定される目標となる車両運動状態(例えば、ヨー角速度、車体スリップ角、車体スリップ角速度等)とその実測値または推定値との偏差に応じて、この偏差を漸近させるように求めることもできる。ここで、ドライバ操作量とは、ステアリングホイールの操舵角、アクセルべダルの操作量(アクセルべダルのストローク、踏力、アクセル開度等)、ブレーキベダルの操作量(ブレーキベダルのストローク、踏力、マスタシリンダ圧力等)等である。
【0085】
摩擦円演算手段12は、各車輪毎の摩擦円の大きさを車輪のセルフアライニングトルク(SAT)や車輪速運動に基づいて推定する。
【0086】
最適発生力配分演算手段14は、車体合成力の大きさ及び方向,ヨーモーメント、及び摩擦円半径に基づいて、各輪のμ利用率を各車輪均等に最小化することを目的としたときの各輪の最適タイヤ発生力の大きさ及び方向、及び最小化された各輪のμ利用率γの値を演算する。
【0087】
統合パラメータ演算手段16は、最適発生力配分演算手段14で演算されたμ利用率γに基づいて、上記(56)式に従って統合パラメータρを演算する。
【0088】
操舵制御操作量演算手段18は、目標車体フォース・モーメント演算手段10で演算された車体合成力の横力成分、すなわち車両横力と、ヨーモーメントとからこれらの値を操舵系制御のみ、すなわち各輪の横力のみで達成するための各輪横力、すなわち操舵制御量を演算する。
【0089】
協調操作量演算手段20は、操舵制御操作量演算手段18で演算された操舵制御量(前後力Fxsi=0及び横力Fysi)と最適発生力配分演算手段14で演算された各輪の最適タイヤ発生力の大きさ及び方向から得られる前後力Fxoi及び横力Fyoiとを、統合パラメータ演算手段16で演算された統合パラメータρに基づいて上記(58)式及び(59)式を用いて線形補間することにより、協調制御量を演算する。
【0090】
制御手段22は、操舵アクチュエータ及び制駆動アクチュエータを制御し、各輪の目標タイヤ発生力を実現するために必要な各輪の操舵角、または各輪の操舵角と制駆動力とを制御する。
【0091】
制御手段22としては、制動力制御手段、駆動力制御手段、前輪操舵制御手段、または後輪制御操舵手段を用いることができる。
【0092】
この制駆動制御手段としては、ドライバ操作とは独立して各車輪の制動力を個別に制御する、いわゆるESC(Electronic Stability Control)に用いられる制御手段、ドライバ操作とは機械的に分離され、各車輪の制動力を信号線を介して任意に制御する制御手段(いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ)等がある。
【0093】
駆動制御手段としては、エンジントルクをスロットル開度、点火進角の遅角、または燃料噴射量を制御することによって駆動力を制御する制御手段、変速機の変速位置を制御することによって駆動力を制御する制御手段、トルクトランスファを制御することによって前後方向及び左右方向の少なくとも一方の駆動力を制御する制御手段等を用いることができる。
【0094】
前輪操舵制御手段としては、ドライバのステアリングホイール操作に重畳して前輪の操舵角を制御する制御手段、ドライバ操作とは機械的に分離され、ステアリングホイールの操作とは独立して前輪操舵角を制御する制御手段(いわゆるステア・バイ・ワイヤ)等を用いることができる。
【0095】
また、後輪操舵制御手段としては、ドライバのステアリングホイール操作に応じて後輪の操舵角を制御する制御手段、ドライバ操作とは機械的に分離され、ステアリングホイールの操作とは独立して後輪操舵角を制御する制御手段等を用いることができる。
【0096】
本実施の形態の効果を確認するために、目標車体フォース(車体横力)=4000N、目標ヨーモーメント=1000Nmとしたときのフォース及びモーメント分配アルゴリズムの演算結果を図4に示す。なお、図4では、路面μを変化させたときの摩擦円の大きさも示しており、グリップ余裕度に応じて操舵系のみの制御から、操舵・制駆動最適統合制御まで本実施の形態の協調方法が適応している状況を示している。
【0097】
すなわち、路面μ=0.3となる(a)の状態では、グリップ余裕度が小さく、ρ=1となって、操舵・制駆動最適統合制御による演算が行なわれると共に、路面μ=1.0となる(c)の状態では、グリップ余裕度が大きく、ρ=0となって操舵系のみの制御となり、各輪のタイヤ発生力は全て横方向に出力されている。また、路面μ=0.6となる(b)の状態では、ρ=0.21となって(a)と(c)との中間的な制御、すなわち制駆動制御をわずかに協調する状態を出力している。
【0098】
また、図5は、路面μ=0.95、車速=80km/hで走行中に60度のサイン波形1周期分の操舵を実施したときの最適配分制御と本実施の形態の操舵協調制御の各タイヤ発生力をシミュレーションによって求めたものである。(a)の操舵協調制御では、最適配分を実施したときのμ利用率が0.3以下となる操舵初期、及びステアリングの切り戻し時に制駆動力が0になっていることが理解できる。
【0099】
以上説明したように、本実施の形態によれば、操舵系のみの制御量と操舵・制駆動最適統合制御による制御量を線形補間することによって、限界性能向上のための最適配分から操舵系制御までグリップ余裕度に応じて連続的に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】4輪車両運動モデルを示す概略図である。
【図2】図1の4輪車両運動モデルにおける発生合力に対応した座標系を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態の分配アルゴリズムの演算結果を示す図である。
【図5】最適配分制御と本実施の形態の操舵協調制御の各タイヤ発生力のシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0101】
10 目標車体フォース・モーメント演算手段
12 摩擦円演算手段
14 最適発生力配分演算手段
16 統合パラメータ演算手段
18 操舵制御操作量演算手段
20 協調操作量演算手段
22 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバが望む車体運動を得るために車体に加えるべき目標合成力と各車輪の摩擦円の大きさをパラメータとして含む拘束条件とに基づいて、各車輪のμ利用率を最適化する各輪の制動力及び駆動力の少なくとも一方を制御するための第1の制御量、または前記第1の制御量及び各輪の操舵角を制御する第2の制御量を含む協調制御量を演算する第1の制御量演算手段と、
操舵角のみの制御によって前記目標合成力を得るための各輪の操舵制御量を演算する第2の制御量演算手段と、
グリップ余裕度が大きな通常領域では、前記操舵制御量に基づいて前記各車輪の操舵角のみを制御し、グリップ余裕度が小さな限界領域では、前記協調制御量に基づいて各車輪の制動力及び駆動力の少なくとも一方、及び各車輪の操舵角を制御し、前記通常領域と前記限界領域との間の領域では、前記操舵制御量及び前記協調制御量を線形補間した制御量に基づいて、各車輪の制動力及び駆動力の少なくとも一方、及び各車輪の操舵角を制御する制御手段と、
を含む車両制御装置。
【請求項2】
前記操舵制御量及び前記協調制御量を以下の式に従って線形補間した請求項1記載の車両制御装置。
ci=ρCoi+(1−ρ)Csi
ただし、Cciは前記線形補間した制御量、Coiは前記協調制御量、Csiは前記操舵制御量、ρはグリップ余裕度が大きな通常領域からグリップ余裕度が小さな限界領域までグリップ余裕度に応じて0〜1まで変化されるパラメータである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−264561(P2006−264561A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87350(P2005−87350)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】