説明

車両安定化制御装置

【課題】より広い車両状態領域で車両の安定性を確保できる車両安定化制御装置を提供すること。
【解決手段】ECU90の処理部91に、目標車両状態量を導出する目標車両状態量導出部102と、実車両状態量であるヨーレートを取得するヨーレート取得部96と、実車両状態量である横Gを取得するG取得部97と、車両状態量安定化制御を行う車両状態量安定化制御部104と、目標車輪速差を導出する目標車輪速差導出部105と、実車輪速差を取得する実車輪速差取得部106と、車輪速差安定化制御を行う車輪速差安定化制御部109と、を設ける。これにより、車両状態量では挙動の変化を判断できない車両状態領域では、車輪速差安定化制御を行うことができるので、車両状態量では挙動の変化を判断できない車両状態領域でも、車両1の挙動の安定化を図ることができる。この結果、より広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両安定化制御装置に関するものである。特に、この発明は、車両の制動時における安定性を確保できる車両安定化制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両安定化制御装置では、走行中の車両の運動状態をセンサで検出し、センサでの検出結果より走行中の車両の挙動は不安定であると判定した場合には、車両の安定化制御を行っている。例えば、特許文献1に記載の車両の挙動制御装置では、車両のヨーレートをヨーレートセンサで検出し、ヨーレートセンサでの検出値と目標ヨーレートとの偏差の大きさが制御開始判定閾値よりも大きくなった場合には、車両挙動の安定化制御を開始する。さらに、特許文献1に記載の車両の挙動制御装置では、ヨーレートセンサでの検出値が大きい場合には、ヨーレートセンサでの検出値が小さい場合と比較して制御開始判定閾値を大きくしたり、ヨーレートセンサでの検出値を大きく補正したり、ヨーレートの偏差を小さく補正したりする。これにより、ヨーレートセンサでの検出値が大きい場合には、ヨーレートセンサでの検出値と目標ヨーレートとの偏差の大きさが制御開始判定閾値よりも大きいと判定され難くなるため、ヨーレートセンサにゲイン低下などの異常が発生した場合に、安定化制御が必要であるとの誤判定をすることを抑制することができる。
【0003】
また、車両の制動時には、車両の走行状態や路面状況の変化等により、車両の挙動特性が変化し易いため、従来の車両安定化制御装置では、制動時における挙動の安定性を確保しているものがある。例えば、特許文献2に記載された車両の旋回挙動制御装置では、運転者による操舵操作と車速とから旋回挙動目標値を設定し、設定した旋回挙動目標値に基づいて各車輪速度を独立して制御している。これにより、各車輪速度を独立して制御することにより、路面の摩擦係数が低い場合でも、各車輪速度を目標車輪速度に一致させることができるので、車両を制動しながら旋回する場合に、所望の旋回挙動を得ることができる。
【0004】
また、特許文献3に記載された車両の制動挙動補償装置では、運転者による操舵量と制動入力と車両水平面運動伝達特性とより、車両に生ずべき水平面運動を推定し、推定した水平面運動に基づいて左右の車輪の制動力差を設定して設定した制動力差で制動をしている。これにより、車両の制動時における挙動の特性変化がある状況でも、所望の挙動で制動することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−289244号公報
【特許文献2】特開平7−228235号公報
【特許文献3】特開平4−63756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ヨーレートセンサなどの車両状態量を検出するセンサは、温度ドリフトによって出力値が変動したり、路面の傾斜によっても出力値が変化したりするため、出力値に誤差が生じる場合がある。ここで、従来の車両安定化制御装置では、制動中に車両が不安定になった場合、現在の車両状態量を、特許文献1に記載された車両の挙動制御装置のように、車両の運動状態を検出するセンサによる出力値より取得し、取得した現在の車両状態量と目標とする車両状態量との差分を用い、その差分を減少させるように左右制動力配分やステアリング協調制御を行っている。
【0007】
しかし、車両状態量を検出するセンサは上述したように出力値に誤差が生じる虞があるので、誤った出力値に基づいて制御を行うことを抑制するため、センサの出力値に対して不感帯を設けている場合が多い。このため、このような車両安定化制御装置では、不感帯の領域では車両挙動の安定化制御を行わないようになっており、現在の車両状態量と目標となる車両状態量との差分が小さい場合は、制御介入を許可できなくなっている。
【0008】
このように、従来の車両安定化制御装置では、現在の車両状態量に対する不感帯を設定しているが、不感帯の領域では車両挙動の安定化制御を行わないようにした場合、車両の制動時に挙動が不安定になり、車両状態量の差分が大きくなることにより安定化制御を行う際に、制御介入のタイミングが遅れる場合がある。また、不感帯の領域では車両挙動の安定化制御を行わないようにした場合は、車両状態量の差分が小さい場合には安定化制御を行わないが、制動時の車両の挙動が、安定化制御が介入しない程度に少しだけ不安定になった場合でも、車両の乗員はその挙動を感じ取り、違和感を覚える場合がある。
【0009】
これらのように、従来の車両安定化制御装置では、車両の挙動が少しだけ不安定になる車両状態領域の場合には車両挙動の安定化制御を行わないので、安定化制御の介入の遅れや車両の乗員が違和感を覚える場合があったが、車両状態量を検出するセンサには上述したように出力値に誤差が生じるため、これらを抑制するために、この車両状態領域で安定化制御を行うことは、大変困難なものとなっていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、より広い車両状態領域で車両の安定性を確保できる車両安定化制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明に係る車両安定化制御装置は、車両の実際の車両状態量である実車両状態量を取得する実車両状態量取得手段と、目標となる車両状態量である目標車両状態量を導出する目標車両状態量導出手段と、前記実車両状態量と前記目標車両状態量とが乖離した場合に、前記車両の運動制御を行うことにより前記実車両状態量を前記目標車両状態量に近付けさせる制御である車両状態量安定化制御を行う車両状態量安定化制御手段と、前記車両が有する左右の車輪の実際の車輪速差である実車輪速差を取得する実車輪速差取得手段と、目標となる車輪速差である目標車輪速差を導出する目標車輪速差導出手段と、前記実車輪速差が前記目標車輪速差から乖離した場合は、前記車両の運動制御を行うことにより前記実車輪速差を前記目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行い、且つ、前記実車両状態量と前記目標車両状態量とが乖離した場合には、前記車輪速差安定化制御を終了する車輪速差安定化制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この発明では、実車両状態量と目標車両状態量とを比較して双方が乖離した場合に車両状態量安定化制御を行っているので、車両の挙動が不安定になった場合に挙動を安定させることができる。さらに、実車輪速差取得手段で実車輪速差を取得すると共に目標となる車輪速差である目標車輪速差を導出し、双方が乖離している場合には、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行っている。車両状態量は、実際に車両の挙動が変化した際の車両の状態を表す量であるが、車輪速差は、車両の挙動が変化した場合のみでなく、変化する兆候がある場合にも生じる。このため、車両の走行時に左右の車輪の実際の車輪速差である実車輪速差を取得し、取得した実車輪速差が目標車輪速差と乖離している場合には、車両の挙動が不安定になる兆候であると判断することができる。従って、この場合に、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行うことにより、車両の挙動の安定化を図ることができる。
【0013】
これらのように、実車両状態量と目標車両状態量とが乖離した場合には車両状態量安定化制御を行い、実車輪速差と目標車輪速差とが乖離した場合には車輪速差安定化制御を行うことにより、車両状態量によって車両の挙動を判断できる車両状態領域のみでなく、車両状態量に変化が現れる前の車両状態領域、即ち、車両状態量では挙動の変化を判断できない車両状態領域でも、車両の挙動の安定化を図ることができる。この結果、より広い車両状態領域で車両の安定性を確保することができる。
【0014】
また、この発明に係る車両安定化制御装置は、上記発明において、さらに、前記実車輪速差に基づいて推定車両状態量を推定する推定車両状態量推定手段を備えており、前記車輪速差安定化制御手段は、前記推定車両状態量が前記目標車両状態量から乖離した場合に、前記車輪速差安定化制御を行うことにより前記推定車両状態量を前記目標車両状態量に近付けさせることを特徴とする。
【0015】
この発明では、実車輪速差に基づいて推定車両状態量を推定し、推定した推定車両状態量が目標車両状態量から乖離した場合に、車輪速差安定化制御を行っている。即ち、車両の挙動が不安定であるか否かの判断をする際に、推定車両状態量または実車両状態量と、目標車両状態量とを比較している。これにより、いずれの車両状態領域の場合でも、車両状態量によって車両の状態を判断するので、車両の挙動を判断する際に、容易に判断することができる。この結果、より容易に、広い車両状態領域で車両の安定性を確保することができる。
【0016】
また、この発明に係る車両安定化制御装置は、上記発明において、前記車両状態量安定化制御及び前記車輪速差安定化制御は、前記車両の運転者による制動操作が行われている場合に行うことを特徴とする。
【0017】
この発明では、車両状態量安定化制御及び車輪速差安定化制御は、車両の運転者による制動操作が行われている場合に行っているが、車両の制動時は、車輪には定速走行時とは異なった荷重が作用し、車両の前後方向の加速度、即ちGが発生するため、挙動が変化し易くなっている。このため、制動操作が行われている場合に車両状態量安定化制御及び車輪速差安定化制御を行うことにより、より効果的に車両の挙動の安定化を図ることができる。この結果、より広い車両状態領域で、効果的に車両の安定性を確保することができる。
【0018】
また、この発明に係る車両安定化制御装置は、上記発明において、さらに、前記車輪に制動力を付与する制動装置を有しており、前記車両状態量安定化制御及び前記車輪速差安定化制御は、前記制動装置が前記車輪に付与する制動力を制御することにより行うことを特徴とする。
【0019】
この発明では、制動装置が車輪に付与する制動力を制御することにより、車両状態量安定化制御や車輪速差安定化制御を行っている。このため、車両状態量安定化制御及び車輪速差安定化制御を行うための新たな装置を設ける必要がなく、容易にこれらの安定化制御を行うことができる。この結果、より容易に、広い車両状態領域で車両の安定性を確保することができる。
【0020】
また、この発明に係る車両安定化制御装置は、上記発明において、前記制動装置は、前記車輪に付与する前記制動力の配分を制御可能な複数の制動力配分制御手段と、前記車両の運転者の制動操作による前記制動力以上の制動力を前記車輪に付与することができる制動力補助手段と、を備えており、前記車輪速差安定化制御手段は、前記車輪速差安定化制御時には前記制動力補助手段の作動状態に応じて前記制動力配分調整手段による前記制動力の配分の制御方法を切り替えることを特徴とする。
【0021】
この発明では、車輪速差安定化制御時には制動力補助手段の作動状態に応じて制動力配分調整手段による制動力の配分の制御方法を切り替えるので、より最適な車輪速差安定化制御を行うことができる。つまり、制動装置による車輪の制動は、制動力補助手段の作動状態によって制動力の配分の制御をする際に用いることができる制動力配分制御手段が異なる。このため、車輪速差安定化制御時には、制動力補助手段の作動状態に応じて制動力配分調整手段による制動力の配分の制御方法を切り替え、制動力補助手段の作動状態に応じた制動力配分調整手段で制動力の配分を行うことにより、より確実に制動力の配分を行うことができ、より最適な車輪速差安定化制御を行うことができる。この結果、より確実に、広い車両状態領域で車両の安定性を確保することができる。
【0022】
また、この発明に係る車両安定化制御装置は、上記発明において、前記制動装置は、前記車輪速差安定化制御時に前記車輪に付与する前記制動力の配分を制御する際には、前記車輪のうち後輪に付与する前記制動力の配分から制御することを特徴とする。
【0023】
この発明では、車輪速差安定化制御時に車輪に付与する制動力の配分を制御する際には、後輪に付与する制動力の配分から制御しているが、車両の走行中に車輪に付与する制動力を制御する場合には、後輪に付与する制動力よりも前輪に付与する制動力の方が、車両の挙動に対する影響が大きくなる。このため、車輪速差安定化制御時に、後輪に付与する制動力の配分から制御することにより、車両の挙動への影響力が小さい車輪から制動力の配分を制御することができ、車輪速差安定化制御を行うことによる車両の操縦性への影響を、極力小さくすることができる。この結果、車両の操縦性を確保しつつ、広い車両状態領域で車両の安定性を確保することができる。
【0024】
また、この発明に係る車両安定化制御装置は、上記発明において、前記実車輪速差取得手段は、前記車輪のうち前輪の前記実車輪速差と後輪の前記実車輪速差とをそれぞれ取得可能に設けられており、前記制動装置は、前記車輪速差安定化制御時に前記車輪に付与する前記制動力の配分を制御する際には、前記前輪に付与する前記制動力の配分の制御は前記前輪の前記実車輪速差に基づいて行い、前記後輪に付与する前記制動力の配分の制御は前記後輪の前記実車輪速差に基づいて行うことを特徴とする。
【0025】
この発明では、車輪速差安定化制御を行う際に、前輪に付与する制動力の配分の制御は前輪の実車輪速差に基づいて行い、後輪に付与する制動力の配分の制御は後輪の実車輪速差に基づいて行っているので、より適切な制動力の配分を行うことができる。つまり、車輪速差安定化制御を行うために車輪に付与する制動力を制御した場合は、実車輪速差が変化するため、前輪の実車輪速差と後輪の実車輪速差とは異なってくる場合がある。このため、制動力の配分をする制御の対象となる車輪の実車輪速差に基づいて制動力の配分の制御を行うことにより、より適切な制動力の配分を行うことができる。この結果、より確実に、広い車両状態領域で車両の安定性を確保することができる。
【0026】
また、この発明に係る車両安定化制御装置は、上記発明において、さらに、前記車両の運転者が前記車輪を操舵する際における操舵補助力を発生する操舵補助装置を有しており、前記車両状態量安定化制御及び前記車輪速差安定化制御は、前記操舵補助装置が発生する前記操舵補助力を制御することにより行うことを特徴とする。
【0027】
この発明では、操舵補助装置が発生する操舵補助力を制御することにより、車両状態量安定化制御や車輪速差安定化制御を行っている。このため、車両状態量安定化制御及び車輪速差安定化制御を行うための新たな装置を設ける必要がなく、容易にこれらの安定化制御を行うことができる。この結果、より容易に、広い車両状態領域で車両の安定性を確保することができる。
【0028】
また、この発明に係る車両安定化制御装置は、上記発明において、前記車輪は前輪と後輪とのうち前記前輪が、前記運転者によって操舵可能な操舵輪となっており、前記実車輪速差取得手段は、前記車輪のうち前記前輪の前記実車輪速差と前記後輪の前記実車輪速差とをそれぞれ取得可能に設けられており、前記操舵補助装置は、前記車輪速差安定化制御時には前記前輪の前記実車輪速差に基づいて前記操舵補助力を発生することを特徴とする。
【0029】
この発明では、車輪速差安定化制御時には、操舵輪である前輪の実車輪速差に基づいて操舵補助力を発生するので、より適切な操舵補助力を発生することができる。つまり、車輪速差安定化制御を行った場合には、実車輪速差が変化するため、前輪の実車輪速差と後輪の実車輪速差とは異なってくる場合がある。このため、車輪速差安定化制御を行うために操舵補助装置で操舵補助力を発生する場合、操舵輪である前輪の実車輪速差に基づいて発生することにより、より適切に操舵補助力を発生することができる。この結果、より確実に、広い車両状態領域で車両の安定性を確保することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る車両安定化制御装置は、より広い車両状態領域で車両の安定性を確保することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、本発明に係る車両安定化制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0032】
図1は、本発明の実施例に係る車両安定化制御装置が設けられた車両の概略図である。実施例に係る車両安定化制御装置2を備える車両1は、内燃機関であるエンジン10を動力発生手段としており、エンジン10が発生した動力が自動変速機15を介して、車両1が有する車輪5のうち駆動輪として設けられる後輪7へ伝達されることにより走行可能になっている。この実施例において、エンジン10はガソリンを燃料とするレシプロ式の火花点火式エンジンであるが、エンジン10はこれに限定されるものではない。エンジン10は、例えば、LPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)やアルコールを燃料とする火花点火式エンジンであってもよいし、いわゆるロータリー式の火花点火式エンジンであってもよいし、ディーゼル機関であってもよい。エンジン10は、車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)90によってエンジン回転数やトルク(出力)が制御される。
【0033】
動力発生手段であるエンジン10は、車両1の進行方向における前側部分に搭載されており、自動変速機15、プロペラシャフト16、デファレンシャルギヤ17、ドライブシャフト18を介して後輪7を駆動する。この後輪7は、車両1の進行方向における左側に位置する後輪7である左後輪7Lと、車両1の進行方向における右側に位置する後輪7である右後輪7Rとが共にドライブシャフト18に接続されており、共に駆動輪として設けられている。また、実施例に係る車両安定化制御装置2を備える車両1は、エンジン10が車両1の進行方向における前側部分に搭載され、後輪7が駆動輪として設けられた、いわゆるFR(Front engine Rear drive)の駆動形式となっている。なお、実施例に係る車両安定化制御装置2は、動力発生手段の動力が駆動輪へ伝達される車両1であれば、駆動形式に関わらず適用できる。また、エンジン10の回転を変速する変速機は自動変速機15以外のものでもよく、例えば、手動で変速をする手動変速機でもよい。
【0034】
車両1が有する車輪5のうち後輪7は、このように駆動輪として設けられるのに対し、前輪6は車両1の操舵輪として設けられている。操舵輪である前輪6は、車両1の運転席に配設されるハンドル20によって操舵可能に設けられている。このハンドル20は、車両の運転者が車輪5を操舵する際における操舵補助力を発生する操舵補助装置であるEPS(Electric Power Steering)装置31に接続されている。このように、ハンドル20はEPS装置31に接続されるため、ハンドル20を操作することにより前輪6を操舵可能に設けられている。
【0035】
詳しくは、ハンドル20は、車両1の旋回時等にハンドル操作をする際における回転軸であるステアリングシャフト32の一端に接続されており、ステアリングシャフト32の他端は、EPS装置31に接続されている。また、前輪6のうち車両1の進行方向における左側に位置する前輪6である左前輪6Lと、車両1の進行方向における右側に位置する前輪6である右前輪6Rとは、共にそれぞれの前輪6の近傍に設けられると共に各前輪6の車両1幅方向における内側方向に位置するナックルアーム36に接続されている。このナックルアーム36とEPS装置31とは、タイロッド35によって接続されている。つまり、左前輪6Lに接続されるナックルアーム36とEPS装置31、及び右前輪6Rに接続されるナックルアーム36とEPS装置31は、共に双方の間に位置するタイロッド35によって接続されている。また、EPS装置31には、ハンドル20の回転角度である舵角を検出する舵角検出手段である舵角センサ86が設けられている。
【0036】
また、車両1には、車輪5に制動力を付与する制動装置40が設けられており、各車輪5の近傍には、制動装置40が有すると共に油圧によって作動するホイールシリンダ71と、このホイールシリンダ71と組みになって設けられると共に車輪5の回転時には車輪5と一体となって回転するブレーキディスク75とが設けられている。即ち、ホイールシリンダ71は、左前輪6L、右前輪6R、左後輪7L、右後輪7Rの近傍に設けられるホイールシリンダ71が、順に左前輪ホイールシリンダ72L、右前輪ホイールシリンダ72R、左後輪ホイールシリンダ73L、右後輪ホイールシリンダ73Rとなって設けられている。同様に、ブレーキディスク75は、左前輪6L、右前輪6R、左後輪7L、右後輪7Rの近傍に設けられるブレーキディスク75が、順に左前輪ブレーキディスク76L、右前輪ブレーキディスク76R、左後輪ブレーキディスク77L、右後輪ブレーキディスク77Rとなって設けられている。
【0037】
このうち、ホイールシリンダ71は、車両1の制動時に当該ホイールシリンダ71に作用させる油圧の経路である油圧経路50に接続されている。この油圧経路50には、車両1の制動時に油圧経路50内の油圧を制御可能なブレーキアクチュエータ60が設けられており、ブレーキアクチュエータ60は、各ホイールシリンダ71に作用させる油圧を、それぞれ独立して作用させることができる。これにより、複数の車輪5の制動力は、それぞれ独立して発生させることができる。
【0038】
さらに、各車輪5の近傍には、車輪5の回転速度である車輪速度を検出する車輪速度検出手段である車輪速度センサ85が設けられている。この車輪速度センサ85は、各車輪5に独立して設けられており、各車輪5の車輪速度を独立して検出可能になっている。
【0039】
また、車両1には、車両1の運転席に運転者が座った状態における運転者の足元付近に、エンジン10の出力を調整する際に操作するアクセルペダル21と、走行中の車両1を制動する際に操作するブレーキペダル22とが併設されている。このうち、アクセルペダル21の近傍には、アクセルペダル21の開度を検出可能なアクセル開度検出手段であるアクセル開度センサ81が設けられている。また、ブレーキペダル22は、後述するマスタシリンダ41(図2参照)等を介して油圧経路50に接続されており、さらに、ブレーキペダル22の近傍には、ブレーキペダル22のストロークを検出可能なブレーキストローク検出手段であるブレーキストロークセンサ82が設けられている。
【0040】
また、この車両1には、少なくとも車両1の幅方向の加速度を検出可能なGセンサ84と、車両1の走行時のヨーレートを検出可能なヨーレート検出手段であるヨーレートセンサ83とが設けられている。これらのアクセル開度センサ81、ブレーキストロークセンサ82、ヨーレートセンサ83、Gセンサ84、車輪速度センサ85、舵角センサ86、EPS装置31、ブレーキアクチュエータ60、エンジン10及び自動変速機15は、車両1の各部を制御するECU90に接続されており、ECU90によって制御可能に設けられている。
【0041】
図2は、図1に示した制動装置の構成概略図である。車両1(図1参照)の制動時に操作をするブレーキペダル22は、エンジン10(図1参照)の吸気通路(図示省略)に接続されることにより、エンジン10の運転時に発生する負圧の伝達が可能な負圧経路43が接続されたブレーキブースタ42に接続されている。このようにブレーキブースタ42に接続される負圧経路43には、吸気通路側からブレーキブースタ42の方向への空気の流れを遮断する逆止弁である負圧経路逆止弁44と、負圧経路43内の負圧を検出可能な負圧検出手段である負圧センサ45とが設けられている。
【0042】
また、ブレーキブースタ42は、油圧を発生させることができるマスタシリンダ41に接続されており、油圧経路50は、このマスタシリンダ41に接続されている。このようにマスタシリンダ41に接続されている油圧経路50は、作動油として用いられるブレーキフルード(図示省略)が満たされている。また、この油圧経路50は、2系統に分かれて構成されており、2系統の油圧経路50である第1油圧経路51と第2油圧経路52とが、それぞれ独立してマスタシリンダ41に接続されている。
【0043】
ブレーキペダル22は、これらのようにブレーキブースタ42とマスタシリンダ41とを介して油圧経路50に接続されており、このうちブレーキブースタ42は、公知の真空式倍力装置となっており、ブレーキペダル22に入力された踏力を、負圧経路43から伝達された負圧と大気圧との差を利用することにより増大してマスタシリンダ41に伝達可能に設けられている。また、マスタシリンダ41は、ブレーキブースタ42から伝達された力によって油圧を発生させ、発生させた油圧を油圧経路50に伝達可能に設けられている。
【0044】
また、マスタシリンダ41に接続される油圧経路50には、その端部にホイールシリンダ71が接続されており、第1油圧経路51と第2油圧経路52とで、車両1における互い違いの位置に配設されている車輪5の近傍に設けられるホイールシリンダ71が接続されている。つまり、第1油圧経路51には左前輪ホイールシリンダ72Lと右後輪ホイールシリンダ73Rとが接続され、第2油圧経路52には右前輪ホイールシリンダ72Rと左後輪ホイールシリンダ73Lとが接続されている。
【0045】
また、油圧経路50には、ブレーキアクチュエータ60である複数のソレノイドバルブが設けられており、常開のソレノイドバルブであるマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62、及び常閉のソレノイドバルブである減圧ソレノイドバルブ63とが設けられている。これらのマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62と減圧ソレノイドバルブ63とは、車輪5に付与する制動力の配分を制御可能な制動力配分制御手段として設けられている。このうち、マスタカットソレノイドバルブ61は、第1油圧経路51と第2油圧経路52とにそれぞれ1つずつ配設されている。
【0046】
また、保持ソレノイドバルブ62は、油圧経路50において、マスタシリンダ41からマスタカットソレノイドバルブ61を経てホイールシリンダ71に向かう経路に設けられており、4つのホイールシリンダ71に対応して保持ソレノイドバルブ62も4つ設けられている。
【0047】
また、減圧ソレノイドバルブ63は、保持ソレノイドバルブ62からホイールシリンダ71に向かう経路から分岐し、マスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62との間の経路に接続される経路であるリターン経路55に設けられている。このように、減圧ソレノイドバルブ63が設けられるリターン経路55は、4つの保持ソレノイドバルブ62とホイールシリンダ71との間の経路からそれぞれ分岐しており、減圧ソレノイドバルブ63は、分岐した各経路に設けられているため、減圧ソレノイドバルブ63は油圧経路50に4つ設けられている。即ち、減圧ソレノイドバルブ63は、保持ソレノイドバルブ62と同様に4つのホイールシリンダ71に対応して4つ設けられている。
【0048】
また、リターン経路55は、減圧ソレノイドバルブ63の下流側、つまりリターン経路55における、減圧ソレノイドバルブ63よりもマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62との間の経路に接続される側の部分が、第1油圧経路51における2つのリターン経路55同士、及び第2油圧経路52における2つのリターン経路55同士で接続されて、それぞれ1つの経路になっている。このように、リターン経路55における1つの経路になった部分には、ブレーキアクチュエータ60である加圧ポンプ64と、リターン経路55に設けられる逆止弁であるリターン経路逆止弁65とが配設されており、リターン経路逆止弁65は、リターン経路55における、加圧ポンプ64よりもマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62との間の経路に接続される側に配設されている。
【0049】
このうち、加圧ポンプ64には駆動用モータ66が接続されており、加圧ポンプ64は、駆動用モータ66によって作動させることにより、リターン経路55内のブレーキフルードを減圧ソレノイドバルブ63側からマスタカットソレノイドバルブ61或いは保持ソレノイドバルブ62側に供給可能に設けられている。また、リターン経路逆止弁65は、加圧ポンプ64からマスタカットソレノイドバルブ61或いは保持ソレノイドバルブ62方向へのブレーキフルードのみ流し、反対方向のブレーキフルードの流れを遮断する。加圧ポンプ64とリターン経路逆止弁65とは、これらのように設けられているため、第1油圧経路51と第2油圧経路52とにそれぞれ1つずつ設けられており、全部でそれぞれ2つずつ設けられている。
【0050】
また、油圧経路50におけるマスタカットソレノイドバルブ61の上流側、即ち、油圧経路50におけるマスタシリンダ41とマスタカットソレノイドバルブ61との間の部分からは、リターン経路55に接続される経路である供給経路56が分岐しており、供給経路56はリターン経路55に接続されている。また、この供給経路56にはリザーバ67と、供給経路56に設けられる逆止弁である供給経路逆止弁68とが配設されており、供給経路逆止弁68は、供給経路56における、リザーバ67よりもマスタシリンダ41とマスタカットソレノイドバルブ61との間の経路に接続される側に配設されている。
【0051】
このうち、リザーバ67は、供給経路56を流れるブレーキフルードを所定量貯留可能に設けられており、供給経路逆止弁68は、マスタカットソレノイドバルブ61或いは保持ソレノイドバルブ62側からリターン経路55の方向へのブレーキフルードのみ流し、反対方向のブレーキフルードの流れを遮断する。リザーバ67と供給経路逆止弁68とは、これらのように設けられているため、第1油圧経路51と第2油圧経路52とにそれぞれ1つずつ設けられており、全部でそれぞれ2つずつ設けられている。
【0052】
また、第1油圧経路51におけるマスタシリンダ41とマスタカットソレノイドバルブ61との間には、操作圧力検出手段であるマスタシリンダ圧センサ69が設けられている。このマスタシリンダ圧センサ69は、第1油圧経路51におけるマスタシリンダ41とマスタカットソレノイドバルブ61との間の油圧を、運転者がブレーキ操作をしてブレーキペダル22を踏んだ場合に発生する操作圧力として検出可能に設けられている。
【0053】
これらのように設けられる負圧センサ45、マスタシリンダ圧センサ69、マスタカットソレノイドバルブ61、保持ソレノイドバルブ62、減圧ソレノイドバルブ63、駆動用モータ66は、ECU90に接続されており、ECU90によって制御可能に設けられている。
【0054】
図3は、図1に示した車両安定化制御装置の要部構成図である。ECU90には、処理部91、記憶部120及び入出力部121が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU90に接続されているエンジン10、自動変速機15、EPS装置31、アクセル開度センサ81、ブレーキストロークセンサ82、ヨーレートセンサ83、Gセンサ84、車輪速度センサ85、舵角センサ86、負圧センサ45、マスタシリンダ圧センサ69、マスタカットソレノイドバルブ61、保持ソレノイドバルブ62、減圧ソレノイドバルブ63、駆動用モータ66は、入出力部121に接続されており、入出力部121は、これらのセンサ類等との間で信号の入出力を行う。
【0055】
また、記憶部120には、本実施例に係る車両安定化制御装置2を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部120は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0056】
また、処理部91は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、アクセル開度センサ81での検出結果よりアクセル開度を取得可能なアクセル操作取得手段であるアクセル開度取得部92と、ブレーキストロークセンサ82での検出結果よりブレーキペダル22のストローク量を取得可能な制動操作取得手段であるブレーキストローク量取得部93と、舵角センサ86での検出結果よりハンドル20の回転角である舵角を取得可能な舵角取得手段である舵角取得部94と、車輪速度センサ85での検出結果より車輪速度を取得可能な車輪速度取得手段である車輪速度取得部95と、ヨーレートセンサ83での検出結果より、車両1の実際の車両状態量である実車両状態量として用いられるヨーレートを取得可能な実車両状態量取得手段であるヨーレート取得部96と、Gセンサ84での検出結果より実車両状態量として用いられる横Gを取得可能な実車両状態量取得手段であるG取得部97と、を有している。
【0057】
また、処理部91は、エンジン10の運転状態を制御可能なエンジン制御手段であるエンジン制御部98と、制動装置40を制御することにより、ホイールシリンダ71の作動状態を制御可能な制動装置制御手段である制動装置制御部99と、EPS装置31を制御可能な操舵補助装置制御手段であるEPS装置制御部100と、車両1は制動中であるか否かを判定する制動判定手段である制動判定部101と、を有している。
【0058】
また、処理部91は、目標となる車両状態量である目標車両状態量を導出する目標車両状態量導出手段である目標車両状態量導出部102と、実車両状態量と目標車両状態量とは乖離しているか否かを判定する車両状態量判定手段である車両状態量判定部103と、実車両状態量と目標車両状態量とが乖離した場合に、車両1の運動制御を行うことにより実車両状態量を目標車両状態量に近付けさせる制御である車両状態量安定化制御を行う車両状態量安定化制御手段である車両状態量安定化制御部104と、を有している。
【0059】
また、処理部91は、目標となる車輪速差である目標車輪速差を導出する目標車輪速差導出手段である目標車輪速差導出部105と、車両1が有する左右の車輪5の実際の車輪速差である実車輪速差を取得する実車輪速差取得手段である実車輪速差取得部106と、実車輪速差と目標車輪速差とは乖離しているか否かを判定する車輪速差判定手段である車輪速差判定部107と、前輪6の実車輪速差である前輪速度左右差と後輪7の実車輪速差である後輪速度左右差とは同方向であるか否かを判定する車輪速差方向判定手段である車輪速差方向判定部108と、実車輪速差が目標車輪速差から乖離した場合は、車両1の運動制御を行うことにより実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行い、且つ、実車両状態量と目標車両状態量とが乖離した場合には、車輪速差安定化制御を終了する車輪速差安定化制御手段である車輪速差安定化制御部109と、制動装置40の作動状態を判定する制動装置作動状態判定手段である制動装置作動状態判定部110と、有している。
【0060】
ECU90によって制御されるEPS装置31やマスタカットソレノイドバルブ61などの制御は、例えば、車輪速度センサ85などによる検出結果に基づいて、処理部91が前記コンピュータプログラムを当該処理部91に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてエンジン10やEPS装置31などの作動部分を作動させることにより制御する。その際に処理部91は、適宜記憶部120へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このようにエンジン10などを制御する場合には、前記コンピュータプログラムの代わりに、ECU90とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
【0061】
この実施例に係る車両安定化制御装置2は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1の走行時には、エンジン10を運転させてエンジン10の動力を駆動輪である後輪7に伝達することにより走行する。詳しくは、エンジン10の運転中は、エンジン10が有するクランクシャフト(図示省略)の回転が自動変速機15に伝達され、自動変速機15で車両1の走行状態に適した変速比で変速される。自動変速機15で変速された回転は、プロペラシャフト16、デファレンシャルギヤ17、ドライブシャフト18を介して後輪7に伝達される。これにより、駆動輪である後輪7は回転し、車両1は走行する。
【0062】
また、エンジン10の回転が後輪7に伝達されることにより走行をする車両1の車速は、アクセルペダル21を足で操作し、エンジン10の回転数や出力を調整することにより調整する。アクセルペダル21を操作した場合には、アクセルペダル21のストローク量、即ちアクセル開度が、アクセルペダル21の近傍に設けられるアクセル開度センサ81によって検出される。アクセル開度センサ81による検出結果は、ECU90の処理部91が有するアクセル開度取得部92に伝達されてアクセル開度取得部92で取得し、さらに、取得したアクセル開度が、ECU90の処理部91が有するエンジン制御部98に伝達される。エンジン制御部98は、アクセル開度取得部92で取得したアクセル開度や、その他のセンサによる検出結果に基づいて、エンジン10を制御する。
【0063】
車両1は、このようにエンジン10を運転させることにより走行するが、走行時には車輪5の回転速度である車輪速度を、車輪速度センサ85で検出する。車輪速度センサ85で検出した車輪速度は、ECU90の処理部91が有する車輪速度取得部95に伝達され、車輪速度取得部95で取得する。車輪速度取得部95で車輪速度を取得する際には、4つの車輪速度センサ85による検出結果を独立して取得する。即ち、車輪速度取得部95は、4つの車輪5の車輪速度を、それぞれ独立して取得する。
【0064】
また、車両1の走行中に、アクセルペダル21を戻すことによる速度の低下以上の低下速度で車速を低下させる場合には、ブレーキペダル22を踏むことによってブレーキをかける。このように、ブレーキペダル22を踏んでブレーキ操作した場合、その踏力がブレーキブースタ42に伝達される。ここで、このブレーキブースタ42には負圧経路43が接続されており、ブレーキブースタ42にはエンジン10の運転時における吸気行程で発生する負圧が負圧経路43を介して伝達可能に設けられている。このため、踏力がブレーキブースタ42に対して入力された場合、ブレーキブースタ42はこの負圧と大気圧との差圧により、踏力を増力させてマスタシリンダ41に入力する。踏力に対して増力した力が入力されたマスタシリンダ41は、入力された力に応じてブレーキフルードに対して圧力を与え、マスタシリンダ油圧を上昇させる。
【0065】
マスタシリンダ油圧が上昇した場合、油圧経路50内のブレーキフルードの圧力も上昇し、油圧経路50内の油圧はマスタシリンダ油圧と同じ圧力になる。さらに、このように油圧経路50内の油圧が上昇した場合、この油圧は常開のソレノイドバルブであるマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62とを介してホイールシリンダ71にも伝達される。この場合、減圧ソレノイドバルブ63は常閉であるため、油圧経路50内のブレーキフルードは保持ソレノイドバルブ62側から減圧ソレノイドバルブ63を通ってリターン経路55には流れないため、保持ソレノイドバルブ62からホイールシリンダ71に伝達される油圧は低下しない。
【0066】
このように、上昇した油圧がホイールシリンダ71に伝達された場合、ホイールシリンダ71は伝達された油圧により作動する。即ち、ホイールシリンダ71は、マスタシリンダ油圧で作動する。ホイールシリンダ71が作動した場合、ホイールシリンダ71は、当該ホイールシリンダ71と組みになって設けられ、且つ、車輪5の回転時に車輪5と一体となって回転するブレーキディスク75の回転速度を低下させる。これにより、車輪5の回転速度も低下するため、車両1は減速する。
【0067】
これらのように、ブレーキペダル22を操作することにより、ホイールシリンダ71にはブレーキディスク75の回転速度を低下させる力であるブレーキ力が発生するため、ブレーキディスク75の回転速度の低下を介して車輪5の回転速度を低下させることができ、走行中の車両1を制動することができる。
【0068】
また、このようにブレーキペダル22を操作する場合には、ブレーキペダル22のストローク量が、ブレーキペダル22の近傍に設けられるブレーキストロークセンサ82によって検出される。ブレーキストロークセンサ82による検出結果は、ECU90の処理部91が有するブレーキストローク量取得部93で取得する。ECU90の処理部91が有する制動装置制御部99は、ブレーキストローク量取得部93で取得したブレーキペダル22のストローク量や車両1に設けられる他のセンサでの検出結果に応じてブレーキアクチュエータ60を制御することにより、ホイールシリンダ71に作用させる油圧を制御する。
【0069】
また、駆動用モータ66を作動させることにより加圧ポンプ64を作動させた場合には、リターン経路55内のブレーキフルードを、マスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62との間の経路の方向に流す。これにより、保持ソレノイドバルブ62方向に流れるブレーキフルードの油圧を増圧することができ、ホイールシリンダ71に作用させる油圧を増圧させることができる。このため、運転者がブレーキペダル22を踏んだ際に発生する油圧よりも高い油圧をホイールシリンダ71を作用させることができ、制動力を上昇させることができる。換言すると、車両1の制動時に、運転者がブレーキペダル22を踏んだ際に発生する油圧以上の油圧をホイールシリンダ71に作用させる場合には、駆動用モータ66を作動させ、加圧ポンプ64を作動させる。このように、加圧ポンプ64は、車両1の運転者の制動操作による制動力以上の制動力を車輪5に付与することができる制動力補助手段として設けられている。
【0070】
また、車両1を旋回させるなど車両1の進行方向を変化させる場合には、ハンドル操作をする。即ち、ハンドル20を、ステアリングシャフト32を回転軸として回転させる。ハンドル20を回転させることによりステアリングシャフト32を回転させた場合、その回転はEPS装置31に伝達される。ステアリングシャフト32の回転が入力されたEPS装置31は、このステアリングシャフト32から伝達された回転、及びECU90の処理部91が有するEPS装置制御部100からの制御信号に応じて、タイロッド35に出力する。つまり、EPS装置31は、ステアリングシャフト32から回転が伝達された際に、伝達された回転及びEPS装置制御部100からの制御信号に応じてタイロッド35に対して押力、または引張り力を与える。
【0071】
EPS装置31からタイロッド35に与えられた力は、ナックルアーム36に伝達され、ナックルアーム36は、タイロッド35を介してEPS装置31から与えられた力の方向と大きさに応じて回動する。ナックルアーム36は前輪6に接続されているので、ナックルアーム36が回動した場合、この回動と共に前輪6も回動する。これにより、前輪6の回転方向は車両1の前後方向とは異なる方向になるため、車両1の進行方向は変化し、車両1は旋回等を行う。
【0072】
これらのように、車両1はハンドル20を操作することにより旋回するが、ハンドル20を操作することにより変化する舵角は、EPS装置31に設けられる舵角センサ86で検出する。舵角センサ86で検出した舵角は、ECU90の処理部91が有する舵角取得部94に伝達され、舵角取得部94で取得する。
【0073】
車両1が旋回する場合には、車両1には、車両1の鉛直軸周りの回転力であるヨーモーメントが発生する。このように、車両1にヨーモーメントが発生した場合、ヨーレートセンサ83は、ヨーモーメントが発生して車両1が鉛直軸周りに回転した場合におけるヨー角速度であるヨーレートを検出する。ヨーレートセンサ83で検出したヨーレートは、ECU90の処理部91が有するヨーレート取得部96に伝達され、ヨーレート取得部96で取得する。
【0074】
また、車両1が旋回した場合には、車両1には遠心力が発生するため、遠心力によって車両1の幅方向の加速度、即ち横方向の加速度である横Gが発生する。このように車両1の旋回中に発生する横Gは、Gセンサ84で検出し、検出結果をECU90の処理部91が有するG取得部97で取得する。
【0075】
車両1の走行時には、これらのようにヨーレートや横Gを取得しながら走行するが、これらのヨーレートや横Gは、車両1の実際の車両状態量である実車両状態量として用いられる。また、車両1の走行時には、舵角取得部94で取得した舵角やブレーキストローク量取得部93で取得したブレーキストローク量等に基づいて、目標となる車両状態量である目標車両状態量を、ECU90の処理部91が有する目標車両状態量導出部102で導出する。即ち、目標車両状態量導出部102では、目標車両状態量として、目標となるヨーレートや横Gを導出する。
【0076】
目標車両状態量導出部102で導出した目標となるヨーレートや横Gが、ヨーレート取得部96で取得したヨーレートやG取得部97で取得した横Gと大幅に異なっている場合には、ECU90の処理部91が有する車両状態量安定化制御部104で、ヨーレート取得部96やG取得部97で取得する実際のヨーレートや横Gを、目標車両状態量導出部102で導出した目標車両状態量に近付けさせる制御である車両状態量安定化制御を行う。この車両状態量安定化制御は、車両1の運動制御を行うことによって行い、具体的には、制動装置40が車輪5に付与する制動力を制御したり、EPS装置31が発生する操舵補助力であるアシストトルクを制御したりすることにより行う。
【0077】
例えば、車両1が直進走行時に制動を行った際に、進行方向における左右のいずれかの方向に向かったり車両1の向きが変わったりした場合には、直進走行中にも関わらず、車両1にはヨーレートや横Gが発生する。つまり、直進走行をする場合には舵角は0°なので、舵角取得部94で取得する舵角も0°になる。これにより、直進走行中であることが判定できる。このように、直進走行をする場合には、ヨーレートや横Gは発生しないので、この場合は目標車両状態量導出部102では目標車両状態量として用いられるヨーレートや横Gは、共に0であると導出する。即ち、目標車両状態量導出部102は、舵角取得部94で取得した舵角に基づいて目標車両状態量を導出し、目標車両状態量として用いられるヨーレートや横Gは0であると導出する。
【0078】
これに対し、実車両状態量取得手段として設けられるヨーレート取得部96やG取得部97で、実車両状態量として取得するヨーレートや横Gは、実際に車両1に発生したヨーレートや横Gを取得する。車両状態量安定化制御部104は、目標車両状態量導出部102で導出した目標車両状態量と、実車両状態量取得手段で取得した実車両状態量、即ちヨーレート取得部96やG取得部97で取得したヨーレートや横Gとが乖離している場合に、車両状態量安定化制御を行う。
【0079】
この車両状態量安定化制御は、実車両状態量を目標車両状態量に近付けさせるように行うため、直進走行時に制動を行った際に、実車両状態量であるヨーレートや横Gが0以外の場合には、これらが0になるように制御する。具体的には、4輪の制動力配分制御とステアリング制御との協調制御を行い、車両1の運動制御を行うことにより、実車両状態量を目標車両状態量に近付けさせる。
【0080】
例えば、直進走行時に制動を行った際に、車両1が左方向に向かう場合には、左前輪6Lや左後輪7Lの制動力を低下させることにより、車両1の右側の制動力を左側の制動力と比較して相対的に大きくさせる。また、EPS装置31を作動させてステアリングシャフト32を介してハンドル20に、右回転方向の操舵補助力であるアシストトルクを与えることにより、運転者に対してハンドル20を右に回すように促す。運転者に対してハンドル20を右に回すように促すことにより、運転者がハンドル20を右回転させた場合には、舵角は車両1が右方向に向かうように変化するため、車両1の進行方向は、舵角に応じて変化する。即ち、EPS装置31でハンドル20に右回転方向のアシストトルクを与えることにより、車両1の進行方向を、制御前よりも右寄りの方向に変化させる。これらにより、車両1に右回りのヨーモーメントを発生させ、車両1が直進状態になるようにする。
【0081】
このようにして車両1が直進状態になった場合には、車両1に発生するヨーレートや横Gは小さくなるので、実車両状態量は目標車両状態量に近付く。実車両状態量と目標車両状態量とが近くなった場合には、車両状態量が安定した状態で走行をしていることになり、車両1の挙動が安定した状態になる。
【0082】
このように、目標車両状態量と実車両状態量とが乖離している場合には、車両状態量安定化制御を行うことにより車両1の挙動を安定させるが、車両1の挙動が不安定になる場合には、目標車両状態量と実車両状態量とが乖離するよりも先に、左右の車輪速度に差が生じる場合がある。このため、車両1の走行時には、左右の車輪5の実際の車輪速差である実車輪速差を、ECU90の処理部91が有する実車輪速差取得部106で取得する。
【0083】
また、実車輪速差と比較する車輪速差であり、目標となる車輪速差である目標車輪速差を導出するために、目標車両状態量を導出する場合と同様に、舵角取得部94で取得した舵角やブレーキストローク量取得部93で取得したブレーキストローク量等に基づいてECU90の処理部91が有する目標車輪速差導出部105で目標車輪速差を導出する。
【0084】
目標車輪速差導出部105で導出した目標車輪速差が、実車輪速差取得部106で取得した実車輪速差と大幅に異なっている場合には、ECU90の処理部91が有する車輪速差安定化制御部109で、実車輪速差取得部106で取得する実車輪速差を、目標車輪速差導出部105で導出した目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行う。この車輪速差安定化制御は、車両1の運動制御を行うことによって行い、具体的には、車両状態量安定化制御と同様に、制動装置40が車輪5に付与する制動力を制御したり、EPS装置31が発生するアシストトルクを制御したりすることにより行う。
【0085】
例えば、車両1が直進走行時に制動を行った際に、車両1の挙動が不安定になる場合には、実際に車両1の挙動に変化が生じる前に、直進走行中にも関わらず左右の車輪5に車輪速差が発生する。直進走行をしているか否かは、舵角取得部94で取得する舵角により判定できるが、舵角取得部94で取得した舵角より直進走行中であると判定された場合には、通常、車輪速差は発生しないので、この場合は目標車輪速差導出部105では目標車輪速差は0であると導出する。
【0086】
これに対し、実車輪速差取得部106で取得する実車輪速差は、実際に車両1の左右の車輪5に発生した車輪速差となっている。このため、実車輪速差を取得する実車輪速差取得部106では、ECU90の処理部91が有する車輪速度取得部95で取得した各車輪速度より、左右の車輪5の車輪速差を算出し、算出した車輪速差を、実車輪速差として取得する。車輪速差安定化制御部109は、目標車輪速差導出部105で導出した目標車輪速差と、実車輪速差取得部106で取得した実車輪速差とが乖離している場合に、車輪速差安定化制御を行う。
【0087】
この車輪速差安定化制御は、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせるように行うため、直進走行時に制動を行った際に、実車輪速差が0以外の場合には、実車輪速差が0になるように制御する。具体的には、車両状態量安定化制御と同様に、4輪の制動力配分制御とステアリング制御との協調制御を行い、車両1の運動制御を行うことにより、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせる。
【0088】
例えば、直進走行時に制動を行った際に、左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度よりも遅い場合には、EPS装置31を作動させてステアリングシャフト32を介してハンドル20に、右回転方向のアシストトルクを与えることにより、運転者に対してハンドル20を右に回すように促す。これにより、運転者がハンドル20を右回転させた場合には、舵角は車両1が右方向に向かうように変化する。
【0089】
また、左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度よりも遅い場合には、左前輪6Lや左後輪7Lの制動力を低下させたり、右前輪6Rや右後輪7Rの制動力を増加させたりすることにより、車両1の右側の制動力を左側の制動力と比較して相対的に大きくさせる。これらにより、車両1に右回りのヨーモーメントを発生させ、制動時における右前輪6Rの車輪速度の低下速度よりも、左前輪6Lの車輪速度の低下速度を緩やかにする。これにより、左前輪6Lの車輪速度と右前輪6Rの車輪速度とは近付くので、左右の車輪5の車輪速差は小さくなり、実車輪速差は目標車輪速差に近付く。実車輪速差と目標車輪速差とが近くなった場合には、車両状態量が不安定になる状況が解消され、車両1の挙動が安定した状態になる。
【0090】
なお、これらのように車輪速差安定化制御を行う際には、まず、EPS装置31を作動させて運転者に対してアシストトルクを伝達することにより、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせる方向の舵角を与えるハンドル操作をするように運転者に促した後、後輪7の制動力を制御し、その後、前輪6の制動力を制御する。つまり、制動装置40は、車輪速差安定化制御時に車輪5に付与する制動力の配分を制御する際には、車輪5のうち後輪7に付与する制動力の配分から制御し、後輪7に付与する制動力の配分の制御のみでは車輪速差の安定化を図れない場合には、前輪6に付与する制動力の配分を制御する。
【0091】
図4は、実施例に係る車両安定化制御装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例に係る車両安定化制御装置2の制御方法、即ち、当該車両安定化制御装置2の処理手順について説明する。なお、以下の処理は、車両1の走行中に各部を制御する際に、所定の期間ごとに呼び出されて実行する。実施例に係る車両安定化制御装置2の処理手順では、まず、制動中であるか否かを判定する(ステップST101)。この判定は、ECU90の処理部91が有する制動判定部101で行う。制動判定部101で制動をしているか否かの判定は、車両1の後端に設けられているストップランプ(図示省略)がONの状態、即ち、点灯している状態になっているか否かにより判定をする。
【0092】
つまり、ストップランプは、車両1の運転者が制動操作を行うことによってブレーキペダル22を踏んだ場合にONになり点灯するため、制動判定部101はストップランプの状態を取得し、ストップランプがONの状態の場合には、車両1の運転者による制動操作が行われており、車両1は制動中であると判定する。また、ストップランプがOFFの場合には、運転者による制動操作は行われておらず、車両1は制動中ではないと判定する。この判定により、制動中ではないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。
【0093】
なお、制動中であるか否かを制動判定部101で判定する際には、ブレーキペダル22のストローク量をブレーキストロークセンサ82での検出結果よりECU90の処理部91が有するブレーキストローク量取得部93で取得し、取得したブレーキストローク量が0の場合には制動中ではないと判定し、0以外の場合には制動中であると判定してもよい。
【0094】
次に、実車両状態量を取得する(ステップST102)。実車両状態量としては、ヨーレートセンサ83で検出したヨーレートと、Gセンサ84で検出した横Gとが用いられる。このうち、ヨーレートセンサ83で検出したヨーレートはECU90の処理部91が有するヨーレート取得部96で取得し、Gセンサ84で検出した横GはECU90の処理部91が有するG取得部97で取得する。これらにより、実車両状態量であるヨーレートと横Gとを取得する。
【0095】
次に、目標車両状態量を導出する(ステップST103)。この目標車両状態量を導出する場合には、舵角センサ86での検出結果よりECU90の処理部91が有する舵角取得部94で取得した舵角や、ブレーキストロークセンサ82での検出結果よりブレーキストローク量取得部93で取得したブレーキストローク量や、車両1を制御する際における他の制御で用いられる車速等より、ECU90の処理部91が有する目標車両状態量導出部102で導出する。目標車両状態量導出部102は、これらの舵角等で車両1が走行をしている場合の目標となる車両状態量である目標車両状態量を、舵角等に基づいて導出する。例えば、目標車両状態量導出部102は目標車両状態量として、目標となるヨーレートと目標となる横Gとを導出する。
【0096】
次に、実車両状態量と目標車両状態量とは乖離しているか否かを判定する(ステップST104)。この判定は、ECU90の処理部91が有する車両状態量判定部103で行う。車両状態量判定部103は、実車両状態量としてヨーレート取得部96やG取得部97で取得したヨーレートや横Gが、目標車両状態量導出部102で目標車両状態量として導出したヨーレートや横Gと乖離しているか否かを判定する。具体的には、実車両状態量と目標車両状態量との差の閾値を予め設定してECU90の記憶部120に記憶しておき、実車両状態量と目標車両状態量との差が、記憶部120に記憶した閾値よりも大きい場合には、実車両状態量と目標車両状態量とは乖離していると判定する。つまり、実車両状態量のヨーレートと目標車両状態量のヨーレートとの差の閾値、及び実車両状態量の横Gと目標車両状態量の横Gとの差の閾値を、それぞれ設定して記憶部120に記憶しておき、実車両状態量のヨーレートと目標車両状態量のヨーレートとの差と、実車両状態量の横Gと目標車両状態量の横Gとの差との少なくともいずれか一方が、記憶部120に記憶されたそれぞれの差の閾値よりも大きい場合には、実車両状態量と目標車両状態量とは乖離していると判定する。
【0097】
車両状態量判定部103での判定(ステップST104)により、実車両状態量と目標車両状態量とは乖離していると判定した場合には、車輪速差安定化制御を終了し、車両状態量安定化制御を実行する(ステップST105)。この車輪速差安定化制御と車両状態量安定化制御とのうち、車輪速差安定化制御はECU90の処理部91が有する車輪速差安定化制御部109で行うため、車輪速差安定化制御の終了も、車輪速差安定化制御部109で行う。つまり、車輪速差安定化制御部109で車輪速差安定化制御を行っている場合には、車輪速差安定化制御を終了する。また、車両状態量安定化制御は、ECU90の処理部91が有する車両状態量安定化制御部104で行うため、車両状態量安定化制御の実行は、車両状態量安定化制御部104で行う。
【0098】
車両状態量安定化制御部104で車両状態量安定化制御を実行する際には、ヨーレート取得部96やG取得部97で取得したヨーレートや横Gが目標車両状態量導出部102で導出したヨーレートや横Gに近付くように、車両1の運動制御を行う。つまり、車両状態量安定化制御部104は、ヨーレート取得部96やG取得部97で取得する実際のヨーレートや横Gが、目標車両状態量導出部102で導出したヨーレートや横Gに近付くように制動装置制御部99によって制動装置40を制御することにより4輪の制動力配分制御を行ったり、EPS装置制御部100でEPS装置31を作動させることによって実際のヨーレートや横Gが目標車両状態量に近付く方向に舵角を変化させることを運転者に促したりすることにより、車両1の運動制御を行う。このように、車両状態量安定化制御部104は、4輪の制動力配分制御とステアリング制御との協調制御を行うことにより、実車両状態量を目標車両状態量に近付けさせる制御である車両状態量安定化制御を行う。車両状態量安定化制御部104で車両状態量安定化制御を行った後は、この処理手順から抜け出る。
【0099】
これに対し、車両状態量判定部103での判定(ステップST104)により、実車両状態量と目標車両状態量とは乖離していないと判定した場合には、次に、車輪速度を取得する(ステップST106)。この取得は、車輪速度センサ85で車輪速度を検出し、その検出結果がECU90の処理部91が有する車輪速度取得部95に伝達されることにより、車輪速度取得部95で取得する。車輪速度取得部95で車輪速度を取得する場合には、車輪速度センサ85で4つの車輪5の車輪速度を独立して検出し、車輪速度取得部95で4つの車輪5の車輪速度を独立して取得する。
【0100】
次に、実車輪速差を取得する(ステップST107)。実車輪速差を取得する際に、まず、車輪速度取得部95で取得した車輪速度がECU90の処理部91が有する実車輪速差取得部106に伝達される。実車輪速差取得部106は、車輪速度取得部95から伝達された車輪速度より、左前輪6Lと右前輪6Rとの車輪速差、及び左後輪7Lと右後輪7Rとの車輪速差を算出する。車輪速度取得部95は、このように算出した車輪速差を、左右の車輪5の実際の車輪速差である実車輪速差として取得する。
【0101】
次に、目標車輪速差を導出する(ステップST108)。この目標車輪速差を導出する場合には、目標車両状態量導出部102で目標車両状態量を導出する場合と同様に、舵角取得部94で取得した舵角や、ブレーキストローク量取得部93で取得したブレーキストローク量や、車両1を制御する際における他の制御で用いられる車速等より、ECU90の処理部91が有する目標車輪速差導出部105で導出する。目標車輪速差導出部105は、これらの舵角等で車両1が走行をしている場合の目標となる車輪速差である目標車輪速差を、舵角等に基づいて導出する。
【0102】
次に、実車輪速差と目標車輪速差とは乖離しているか否かを判定する(ステップST109)。この判定は、ECU90の処理部91が有する車輪速差判定部107で行う。車輪速差判定部107は、実車輪速差取得部106で算出して取得した実車輪速差が、目標車輪速差導出部105で導出した目標車輪速差と乖離しているか否かを判定する。
【0103】
この判定をする場合には、車両状態量判定部103で実車両状態量と目標車両状態量とは乖離しているか否かを判定する場合と同様に、実車輪速差と目標車輪速差との差の閾値を予め設定してECU90の記憶部120に記憶しておき、実車輪速差が、記憶部120に記憶した閾値よりも大きい場合には、実車輪速差と目標車輪速差とは乖離していると判定する。また、実車輪速差と目標車輪速差との差と、閾値とを比較する場合には、前輪6の車輪速差と後輪7の車輪速差とを、それぞれ独立して比較する。
【0104】
具体的には、前輪6の実車輪速差と目標車輪速差とが乖離しているか否かを判定する場合における前輪6の実車輪速差である前輪速度左右差△V_Frは、右前輪6Rの車輪速度をVW_FRとし、左前輪6Lの車輪速度をVW_FLとした場合に、下記の式(1)で求めることができる。前輪6の実車輪速差と目標車輪速差とは乖離しているか否かの判定は、下記の式(2)に示すように、式(1)で算出した前輪速度左右差△V_Frの絶対値が、前輪6の実車輪速差の閾値であるSlip_Fr以上であるか否かにより判定をする。
△V_Fr=(VW_FR)−(VW_FL)・・・(1)
|△V_Fr|≧Slip_Fr・・・(2)
【0105】
同様に、後輪7の実車輪速差と目標車輪速差とが乖離しているか否かを判定する場合には、右後輪7Rの車輪速度をVW_RRとし、左後輪7Lの車輪速度をVW_RLとした場合における後輪7の実車輪速差である後輪速度左右差△V_Rrを、下記の式(3)で求める。さらに、後輪7の実車輪速差と目標車輪速差とは乖離しているか否かの判定は、下記の式(4)に示すように、式(3)で算出した後輪速度左右差△V_Rrの絶対値が、後輪7の実車輪速差の閾値であるSlip_Rr以上であるか否かにより判定をする。
△V_Rr=(VW_RR)−(VW_RL)・・・(3)
|△V_Rr|≧Slip_Rr・・・(4)
【0106】
車輪速差判定部107でのこれらの判定により、実車輪速差と目標車輪速差とは乖離していないと判定された場合、即ち、|△V_Fr|≧Slip_Frと、|△V_Rr|≧Slip_Rrとのうち、少なくともいずれか一方が成立しない場合には、この処理手順から抜け出る。
【0107】
これに対し、車輪速差判定部107での判定により、実車輪速差と目標車輪速差とは乖離していると判定された場合、即ち、|△V_Fr|≧Slip_Frと、|△V_Rr|≧Slip_Rrとが、共に成立する場合には、次に、前輪速度左右差と後輪速度左右差とは同方向であるか否かを判定する(ステップST110)。この判定は、ECU90の処理部91が有する車輪速差方向判定部108で行う。車輪速差方向判定部108は、式(1)で求めた前輪速度左右差△V_Frと式(3)で求めた後輪速度左右差△V_Rrとが同方向であるか否かを、下記の式(5)に基づいて行う。
(△V_Fr)×(△V_Rr)>0・・・(5)
【0108】
つまり、前輪速度左右差△V_Frと後輪速度左右差△V_Rrとが同方向の場合には、双方を乗じた値における正負を示す符号は+になるので、式(5)が成立した場合には、前輪速度左右差と後輪速度左右差とは同方向であると判定できる。即ち、式(5)が成立した場合には、前輪6と後輪7とは、左右の車輪5のうち同じ側の車輪5の車輪速度が他方の車輪速度よりも早くなっていると判定することができる。この判定により、前輪速度左右差と後輪速度左右差とは同方向ではないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。
【0109】
車輪速差方向判定部108での判定により、前輪速度左右差と後輪速度左右差とは同方向であると判定した場合には、次に、車輪速差安定化制御を実行する(ステップST111)。この車輪速差安定化制御は、ECU90の処理部91が有する車輪速差安定化制御部109で行う。車輪速差安定化制御部109は、実車輪速差取得部106で取得する実車輪速差が目標車輪速差導出部105で導出する目標車輪速差に近付くように、車両1の運動制御を行う。
【0110】
つまり、車輪速差安定化制御部109は、実車輪速差取得部106で取得する実車輪速差が、目標車輪速差導出部105で導出した目標車輪速差に近付くように制動装置制御部99によって制動装置40を制御することにより4輪の制動力配分制御を行ったり、EPS装置制御部100でEPS装置31を作動させることによって実車輪速差が目標車輪速差に近付く方向に舵角を変化させることを運転者に促したりすることにより、車両1の運動制御を行う。このように、車輪速差安定化制御部109は、4輪の制動力配分制御とステアリング制御との協調制御を行うことにより、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行う。車輪速差安定化制御部109で車輪速差安定化制御を実行する場合には、車輪速差安定化制御の制御フローを実行する。
【0111】
図5は、車輪速差安定化制御の処理手順を示すフロー図である。車輪速差安定化制御を行う場合には、まず、EPS装置31によるアシストトルクを制御する(ステップST201)。この制御は、ECU90の処理部91が有する車輪速差安定化制御部109が、ECU90の処理部91が有するEPS装置制御部100に車輪速差安定化制御を行う際の制御信号を送信することによりEPS装置制御部100で行う。EPS装置制御部100は、実車輪速差取得部106で取得した前輪速度左右差に応じてEPS装置31を制御し、EPS装置31にアシストトルクを発生させる。このアシストトルクは、ステアリングシャフト32を回転させるトルクであり、即ち、ハンドル20を通じて運転者に対して伝達するトルクである。
【0112】
EPS装置制御部100は、EPS装置31を制御してアシストトルクを発生させることにより、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせるのに適した修正舵を、ハンドル20を通じて運転者に促す。運転者は、ハンドル20を通じて伝達されたアシストトルクの方向及び大きさでハンドル20を操作することにより、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせるのに適した舵角で前輪6の向きを変える。
【0113】
図6は、前輪速度左右差とアシストトルクとの関係を示す説明図である。同図における横軸は前輪速度左右差△V_Frを示しており、図の左側は左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度と比較して速くなっている状態を示しており、右側は右前輪6Rの車輪速度が左前輪6Lの車輪速度と比較して速くなっている状態を示しており、共に中心から離れるに従って、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が大きくなっている状態を示している。また、同図における縦軸はアシストトルクT_Aを示しており、図の下側は前輪6の向きを左方向にさせる場合のアシストトルクT_Aの大きさを示しており、図の上側は前輪6の向きを右方向にさせる場合のアシストトルクT_Aの大きさを示しており、共に中心から離れるに従って、アシストトルクT_Aの絶対値が大きい状態を示している。
【0114】
EPS装置制御部100でEPS装置31を制御することにより発生させるアシストトルクT_Aは、前輪速度左右差△V_Frの方向及び大きさによって決定する。つまり、図6に示すように、左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度と比較して速い場合には、前輪6の向きを左方向に操作させるアシストトルクT_AをEPS装置31に発生させ、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が大きくなるに従ってアシストトルクT_Aの絶対値を大きくする。同様に、右前輪6Rの車輪速度が左前輪6Lの車輪速度と比較して速い場合には、前輪6の向きを右方向に操作させるアシストトルクT_AをEPS装置31に発生させ、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が大きくなるに従ってアシストトルクT_Aの絶対値を大きくする。
【0115】
EPS装置制御部100でEPS装置31を制御することにより発生させるアシストトルクT_Aは、前輪速度左右差△V_Frの方向及び大きさに基づいて決定する。つまり、図6に示すように、左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度と比較して速い場合には、前輪6の向きを左方向に操作させるアシストトルクT_AをEPS装置31に発生させ、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が大きくなるに従ってアシストトルクT_Aの絶対値を大きくする。これにより、運転者は、ハンドル20を通じて伝達されたアシストトルクに促されて前輪6の向きが左方向に変化するようにハンドル20を操作して舵角を調節するので、前輪6の向きは左方向に変化する。ここで、左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度と比較して速い状態とは、車両1が右方向に向かっている状態を示しているが、この状態で前輪6の向きを左方向に変化させた場合には、車両1は直進状態に近付く。これにより、前輪速度左右差△V_Frの絶対値は小さくなる。
【0116】
また、右前輪6Rの車輪速度が左前輪6Lの車輪速度と比較して速い場合には、前輪6の向きを右方向に操作させるアシストトルクT_AをEPS装置31に発生させ、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が大きくなるに従ってアシストトルクT_Aの絶対値を大きくする。これにより、運転者は、ハンドル20を通じて伝達されたアシストトルクに促されて前輪6の向きが右方向に変化するようにハンドル20を操作して舵角を調節するので、前輪6の向きは右方向に変化する。ここで、右前輪6Rの車輪速度が左前輪6Lの車輪速度と比較して速い状態とは、車両1が左方向に向かっている状態を示しているが、この状態で前輪6の向きを右方向に変化させた場合には、車両1は直進状態に近付く。これにより、前輪速度左右差△V_Frの絶対値は小さくなる。EPS装置制御部100は、これらのように、車輪速度が速い方の前輪6が位置する方向に舵角を与える操作を運転者が行うように、EPS装置31にアシストトルクT_Aを発生させることによって、前輪速度左右差△V_Frの絶対値を小さくさせる。
【0117】
また、EPS装置制御部100は、このようにEPS装置31にアシストトルクT_Aを発生させるが、アシストトルクT_Aの絶対値には上限値が設定されている。即ち、図6に示すように、左右の前輪6の前輪速度左右差△V_Frの方向に関わらず、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が所定以上大きくなった場合、つまり、左前輪6Lと右前輪6Rとで所定以上の車輪速差が発生した場合には、EPS装置31は一定の上限値のアシストトルクT_Aを発生する。
【0118】
また、EPS装置31は、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が、ステアリング協調制御をするための閾値未満の場合には、アシストトルクT_Aを発生しない。即ち、EPS装置制御部100は、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が、ステアリング協調制御をするための閾値であるSlip_Fr_st未満の場合には、EPS装置31にアシストトルクT_Aを発生させず、前輪速度左右差△V_Frの絶対値がSlip_Fr_st以上の場合にのみ、EPS装置31にアシストトルクT_Aを発生させる。
【0119】
次に、加圧ポンプ64は作動中であるか否かを判定する(ステップST202)。この判定は、ECU90の処理部91が有する制動装置作動状態判定部110で判定する。制動装置40のブレーキアクチュエータ60は、ECU90の処理部91が有する制動装置制御部99で制御するが、制動装置作動状態判定部110は、制動装置制御部99からブレーキアクチュエータ60への制御信号を検出することにより、加圧ポンプ64が作動中であるか否かを検出する。制動装置作動状態判定部110は、この検出結果により、加圧ポンプ64は作動中であるか否かを判定する。この判定により、加圧ポンプ64は作動中ではないと判定された場合には、後述するステップST205に向かう。
【0120】
制動装置作動状態判定部110での判定(ステップST202)により、加圧ポンプ64は作動中であると判定された場合には、次に、前輪速度左右差は所定値以上であるか否かを判定する(ステップST203)。この判定は、ECU90の処理部91が有する車輪速差判定部107で行う。車輪速差判定部107は、実車輪速差取得部106で算出した前輪速度左右差△V_Frの絶対値が、加圧ポンプ64を用いて制動力制御を行うか否かの判定をする際における所定値であるSlip_Fr_p以上であるか否かを判定する。
【0121】
なお、このSlip_Fr_pは、前輪6の実車輪速差と目標車輪速差とが乖離しているか否かを判定する場合に用いる前輪6の実車輪速差の閾値であるSlip_Fr以上の値になっており、予めECU90の記憶部120に記憶されている。即ち、Slip_Fr_pとSlip_Frとは、Slip_Fr_p>Slip_Frの関係で予め記憶部120に記憶されている。この車輪速差判定部107での判定により、前輪速度左右差△V_Frの絶対値は所定値Slip_Fr_p以上ではないと判定された場合には、後述するステップST205に向かう。
【0122】
車輪速差判定部107での判定(ステップST203)により、前輪速度左右差△V_Frの絶対値は所定値Slip_Fr_p以上であると判定された場合には、加圧ポンプ64、マスタカットソレノイドバルブ61で左右制動力を制御する(ステップST204)。この制御は、ECU90の処理部91が有する車輪速差安定化制御部109が、ECU90の処理部91が有する制動装置制御部99に車輪速差安定化制御を行う際の制御信号を送信することにより制動装置制御部99で行う。ここで、車輪速差安定化制御部109が制動装置制御部99を介して車輪速差安定化制御を行う際には、車輪速差安定化制御部109は、加圧ポンプ64の作動状態に応じて制動力配分調整手段であるマスタカットソレノイドバルブ61、保持ソレノイドバルブ62、減圧ソレノイドバルブ63による制動力の配分の制御方法を切り替える。このため、制動装置作動状態判定部110による判定(ステップST202)で、加圧ポンプ64は作動中であると判定された場合には、車輪速差安定化制御部109は、マスタカットソレノイドバルブ61で車輪5の制動力の配分を制御するように、制動装置制御部99に制御信号を送信する。
【0123】
図7は、前輪速度左右差と要求制動力差との関係を示す説明図である。制動装置制御部99で左右の車輪5に付与する制動力の配分を制御する際には、実車輪速差取得部106で算出した前輪速度左右差△V_Frに基づいて制御する。例えば、図7に示すように、前輪速度左右差△V_Frに対して左右の前輪6に付与する制動力の差である要求制動力差のマップを予め作成してECU90の記憶部120に記憶しておき、制動装置制御部99で左右の前輪6に付与する制動力の配分を制御する際には、このマップに、実車輪速差取得部106で算出した前輪速度左右差△V_Frを照らし合わせる。これにより、要求制動力差を導出し、導出した要求制動力差になるように、左右の前輪6に付与する制動力の配分を制御する。また、この制御を行う際には、まず、駆動用モータ66の制御を介して加圧ポンプ64及びマスタカットソレノイドバルブ61を制御することにより加圧量を制御する。
【0124】
図8は、前輪速度左右差と加圧量との関係を示す説明図である。同図における横軸は、図6と同様に前輪速度左右差△V_Frを示している。また、図8における縦軸は、油圧経路50の油圧を加圧ポンプ64で加圧する際の加圧量△Pを示しており、図の下側は、左前輪ホイールシリンダ72Lに作用させる油圧の経路である第1油圧経路51の油圧に対して加圧する場合の加圧量△Pを示しており、図の上側は、右前輪ホイールシリンダ72Rに作用させる油圧の経路である第2油圧経路52の油圧に対して加圧する場合の加圧量△Pを示しており、共に中心から離れるに従って、加圧量△Pが大きい状態を示している。
【0125】
制動装置制御部99で駆動用モータ66の制御を介して加圧ポンプ64を制御することにより変化させる加圧量△Pは、前輪速度左右差△V_Frの方向及び大きさによって決定する。つまり、図8に示すように、左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度と比較して速い場合には、第1油圧経路51の油圧に対する加圧量△Pを増加させる。つまり、第1油圧経路51に設けられた加圧ポンプ64を作動させることによって、左前輪ホイールシリンダ72Lに作用させる油圧の経路である第1油圧経路51の油圧を増圧させる。また、その際の加圧量△Pは、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が大きくなるに従って増加させる。これにより、左前輪ホイールシリンダ72Lに作用させる油圧を増圧させることができ、左前輪6Lの制動力を増加させることができる。ここで、左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度と比較して速い状態とは、車両1が右方向に向かっている状態を示しているが、この状態で左前輪6Lの制動力を増加させた場合には、車両1は直進状態に近付く。これにより、前輪速度左右差△V_Frの絶対値は小さくなる。
【0126】
同様に、右前輪6Rの車輪速度が左前輪6Lの車輪速度と比較して速い場合には、第2油圧経路52の油圧に対する加圧量△Pを増加させる。つまり、第2油圧経路52に設けられた加圧ポンプ64を作動させることによって、右前輪ホイールシリンダ72Rに作用させる油圧の経路である第2油圧経路52の油圧を増圧させる。また、その際の加圧量△Pは、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が大きくなるに従って増加させる。これにより、右前輪ホイールシリンダ72Rに作用させる油圧を増圧させることができ、右前輪6Rの制動力を増加させることができる。ここで、右前輪6Rの車輪速度が左前輪6Lの車輪速度と比較して速い状態とは、車両1が右方向に向かっている状態を示しているが、この状態で右前輪6Rの制動力を増加させた場合には、車両1は直進状態に近付く。これにより、前輪速度左右差△V_Frの絶対値は小さくなる。
【0127】
なお、これらのように加圧ポンプ64での加圧量△Pを増加させて左前輪6Lや右前輪6Rの制動力を増加させる場合は、加圧ポンプ64の作動量とマスタカットソレノイドバルブ61の開度とを制御することにより、左前輪ホイールシリンダ72Lや右前輪ホイールシリンダ72Rに作用させる油圧を調整し、制動力を制御する。つまり、マスタカットソレノイドバルブ61は常開のソレノイドバルブであるため、加圧ポンプ64を作動させた場合でも、加圧ポンプ64で加圧されたブレーキフルードは、通常はマスタカットソレノイドバルブ61を通過して供給経路56の方向に多く流れるが、マスタカットソレノイドバルブ61の開度を小さくした場合には、マスタカットソレノイドバルブ61を通過するブレーキフルードの量は減少し、ホイールシリンダ71の方向に流れるブレーキフルードの量が増加する。この場合、ホイールシリンダ71に作用する油圧は増圧するので、制動力は増加する。
【0128】
加圧ポンプ64での加圧量△Pを増加させて左前輪6Lや右前輪6Rの制動力を制御する場合には、このように第1油圧経路51と第2油圧経路52とのそれぞれに設けられる加圧ポンプ64とマスタカットソレノイドバルブ61とを制御することにより、左前輪ホイールシリンダ72Lや右前輪ホイールシリンダ72Rに作用させる油圧を調整し、左右の前輪6の制動力を制御する。制動装置制御部99は、これらのように車輪速度が速い方の前輪6側のホイールシリンダ71に作用する油圧を増圧させることのできる加圧ポンプ64とマスタカットソレノイドバルブ61とを制御することにより、車輪速度が速い方の前輪6の制動力を増加させ、前輪速度左右差△V_Frの絶対値を小さくさせる。
【0129】
また、制動装置制御部99は、このように加圧ポンプ64を制御することにより加圧量△Pを変化させるが、加圧量△Pには上限値が設定されている。即ち、図8に示すように、左右の前輪6の前輪速度左右差△V_Frの方向に関わらず、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が所定以上大きくなった場合、つまり、左前輪6Lと右前輪6Rとで所定以上の車輪速差が発生した場合には、制動装置制御部99は、加圧ポンプ64による加圧量△Pを一定にする。
【0130】
また、制動装置制御部99は、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が、加圧ポンプ64で加圧制御するための所定値Slip_Fr_p未満の場合には、加圧制御は行わず、加圧ポンプ64による加圧量△Pを増加させない。即ち、制動装置制御部99は、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が、加圧ポンプ64で加圧制御するための所定値Slip_Fr_p未満の場合には、加圧ポンプ64による加圧量△Pを増加させず、前輪速度左右差△V_Frの絶対値がSlip_Fr_p以上の場合にのみ、加圧ポンプ64で加圧量△Pを増加させる。このように、加圧ポンプ64とマスタカットソレノイドバルブ61とを制御することにより、左右の前輪6の制動力を制御した場合には、この車輪速差安定化制御の処理手順から抜け出る。
【0131】
制動装置作動状態判定部110での判定(ステップST202)により、加圧ポンプ64は作動中ではないと判定された場合、または、車輪速差判定部107での判定(ステップST203)により、前輪速度左右差△V_Frの絶対値は所定値Slip_Fr_p以上ではないと判定された場合には、次に、後輪速度左右差は所定値以上で、且つ、電子制御により各車輪5に作用させる制動力を配分するEBD(Electronic Brake Force Distribution)中であるか否かを判定する(ステップST205)。
【0132】
このうち、後輪速度左右差は所定値以上であるか否かの判定は、ECU90の処理部91が有する車輪速差判定部107で行う。車輪速差判定部107は、実車輪速差取得部106で算出した後輪速度左右差△V_Rrの絶対値が、保持ソレノイドバルブ62及び減圧ソレノイドバルブ63を用いて後輪7の制動力制御を行うか否かの判定をする際における所定値であるSlip_Rr_s以上であるか否かを判定する。なお、このSlip_Rr_sは、後輪7の実車輪速差と目標車輪速差とが乖離しているか否かを判定する場合に用いる後輪7の実車輪速差の閾値であるSlip_Rr以上となっており、予めECU90の記憶部120に記憶されている。即ち、Slip_Rr_sとSlip_Rrとは、Slip_Rr_s>Slip_Rrの関係で予め記憶部120に記憶されている。
【0133】
また、EBD中であるか否かを判定、即ち、制動装置40は各車輪5に作用させる制動力を、車両1の運転状態に応じて車輪5ごとに適した制動力にする制御をしている状態であるか否かの判定は、ECU90の処理部91が有する制動装置作動状態判定部110で判定する。制動装置作動状態判定部110で、制動装置40はEBD中であるか否かの判定をする際には、加圧ポンプ64は作動中であるか否の判定(ステップST202)をする場合と同様に、制動装置制御部99からブレーキアクチュエータ60への制御信号を制動装置作動状態判定部110で検出することにより、EBD中であるか否かを検出する。制動装置作動状態判定部110は、この検出結果により、制動装置40はEBD中であるか否かを判定する。
【0134】
車輪速差判定部107による判定で、後輪速度左右差△V_Rrの絶対値は所定値Slip_Rr_s以上ではないと判定された場合、または、制動装置作動状態判定部110による判定で、制動装置40はEBD中ではないと判定された場合には、車輪速差安定化制御の処理手順から抜け出る。
【0135】
車輪速差判定部107及び制動装置作動状態判定部110による判定(ステップST205)で、後輪速度左右差△V_Rrの絶対値は所定値Slip_Rr_s以上で、且つ、EBD中であると判定された場合には、保持ソレノイドバルブ62、減圧ソレノイドバルブ63で後輪7の左右制動力を制御する(ステップST206)。この制御は、ECU90の処理部91が有する車輪速差安定化制御部109が、ECU90の処理部91が有する制動装置制御部99に車輪速差安定化制御を行う際の制御信号を送信することにより制動装置制御部99で行う。また、制動装置作動状態判定部110による判定(ステップST202)で、加圧ポンプ64は作動中ではないと判定された場合には、車輪速差安定化制御部109は、保持ソレノイドバルブ62及び減圧ソレノイドバルブ63で車輪5の制動力の配分を制御するように、制動装置制御部99に制御信号を送信する。これにより、制動装置制御部99で、保持ソレノイドバルブ62及び減圧ソレノイドバルブ63を制御することにより、車輪5の制動力の配分を制御する。
【0136】
図9は、後輪速度左右差と要求制動力差との関係を示す説明図である。制動装置制御部99で左右の後輪7に付与する制動力の配分を制御する際には、実車輪速差取得部106で算出した後輪速度左右差△V_Rrに基づいて制御する。例えば、図9に示すように、後輪速度左右差△V_Rrに対して左右の後輪7に付与する制動力の差である要求制動力差のマップを予め作成してECU90の記憶部120に記憶しておき、制動装置制御部99で左右の後輪7に付与する制動力の配分を制御する際には、このマップに、実車輪速差取得部106で算出した後輪速度左右差△V_Rrを照らし合わせる。これにより、要求制動力差を導出し、導出した要求制動力差になるように保持ソレノイドバルブ62及び減圧ソレノイドバルブ63を制御することにより、左右の後輪7に付与する制動力の配分を制御する。
【0137】
制動装置制御部99で、保持ソレノイドバルブ62及び減圧ソレノイドバルブ63を制御することにより後輪7の制動力を制御する際には、左後輪7Lの車輪速度が右後輪7Rの車輪速度と比較して速い場合には、左後輪7Lの制動力を増加させたり、右後輪7Rの制動力を低減させたりすることにより、左後輪7Lの制動力を右後輪7Rの制動力と比較して増加させる。反対に、右後輪7Rの車輪速度が左後輪7Lの車輪速度と比較して速い場合には、右後輪7Rの制動力を増加させたり、左後輪7Lの制動力を低減させたりすることにより、右後輪7Rの制動力を左後輪7Lの制動力と比較して増加させる。
【0138】
例えば、左後輪7Lの車輪速度が右後輪7Rの車輪速度と比較して速い場合には、制動装置40が有する4つの減圧ソレノイドバルブ63のうち、右後輪ホイールシリンダ73Rに対応する減圧ソレノイドバルブ63を開く。これにより、保持ソレノイドバルブ62から右後輪ホイールシリンダ73Rに向かう経路から分岐しているリターン経路55内のブレーキフルードは、減圧ソレノイドバルブ63を通過することができるので、第1油圧経路51内の油圧を上昇させた場合に、保持ソレノイドバルブ62と右後輪ホイールシリンダ73Rとの間の経路を流れるブレーキフルードの一部は、リターン経路55に流れる。このため、右後輪ホイールシリンダ73Rに作用する油圧は減圧し、右後輪7Rの制動力は低下する。
【0139】
また、左後輪7Lの車輪速度が右後輪7Rの車輪速度と比較して速い場合には、左後輪7Lの制動力を増加させるため、右前輪ホイールシリンダ72Rに対応する保持ソレノイドバルブ62を閉じる。これにより、第2油圧経路52内のブレーキフルードは、第2油圧経路52内の油圧を上昇させた場合でも、マスタカットソレノイドバルブ61側から右前輪ホイールシリンダ72Rの方向には流れなくなるため、その分、左後輪ホイールシリンダ73Lに対応する保持ソレノイドバルブ62の方向に流れる。このため、左後輪ホイールシリンダ73Lに対応する保持ソレノイドバルブ62を通過して左後輪ホイールシリンダ73Lに流れるブレーキフルードの量が増加し、左後輪ホイールシリンダ73Lに作用する油圧は増圧するので、左後輪7Lの制動力は増加する。
【0140】
左後輪7Lの車輪速度が右後輪7Rの車輪速度と比較して速い場合には、このように制動装置制御部99で保持ソレノイドバルブ62と減圧ソレノイドバルブ63とを制御するが、反対に右後輪7Rの車輪速度が左後輪7Lの車輪速度と比較して速い場合には、上述した制御と左右反対の制御を行う。つまり、左後輪ホイールシリンダ73Lに対応する減圧ソレノイドバルブ63を開くことにより、左後輪ホイールシリンダ73Lに作用する油圧を減圧させ、左後輪7Lの制動力を低下させる。また、左前輪ホイールシリンダ72Lに対応する保持ソレノイドバルブ62を閉じることにより、右後輪ホイールシリンダ73Rに作用する油圧を増圧させ、右後輪7Rの制動力を増加させる。
【0141】
制動装置制御部99は、これらのように保持ソレノイドバルブ62と減圧ソレノイドバルブ63とを制御することにより、左右に車輪5において車輪速度が速い側に位置する後輪7を制動するホイールシリンダ71に作用する油圧を増圧することにより、この後輪7の制動力を増加させ、また、車輪速度が遅い側に位置する後輪7を制動するホイールシリンダ71に作用する油圧を減圧することにより、この後輪7の制動力を低下させる。これにより、後輪速度左右差△V_Rrの絶対値を小さくさせる。
【0142】
次に、前輪速度左右差は所定値以上であるか否かを判定する(ステップST207)。この判定は、ECU90の処理部91が有する車輪速差判定部107で行う。車輪速差判定部107は、実車輪速差取得部106で算出した前輪速度左右差△V_Frの絶対値が、保持ソレノイドバルブ62及び減圧ソレノイドバルブ63を用いて前輪6の制動力制御を行うか否かの判定をする際における所定値であるSlip_Fr_s以上であるか否かを判定する。
【0143】
なお、このSlip_Fr_sは、前輪6の実車輪速差と目標車輪速差とが乖離しているか否かを判定する場合に用いる前輪6の実車輪速差の閾値であるSlip_Fr以上となっており、予めECU90の記憶部120に記憶されている。即ち、Slip_Fr_sとSlip_Frとは、Slip_Fr_s>Slip_Frの関係で予め記憶部120に記憶されている。また、このSlip_Fr_sは、保持ソレノイドバルブ62及び減圧ソレノイドバルブ63を用いて後輪7の制動力制御を行うか否かの判定をする際における所定値Slip_Rr_sよりも大きくなっており、これらはSlip_Fr_s>Slip_Rr_sの関係になっている。車輪速差判定部107での判定により、前輪速度左右差△V_Frの絶対値は所定値Slip_Fr_s以上ではないと判定された場合には、車輪速差安定化制御の処理手順から抜け出る。
【0144】
車輪速差判定部107による判定(ステップST207)で、前輪速度左右差△V_Frの絶対値は所定値Slip_Fr_s以上であると判定された場合には、保持ソレノイドバルブ62、減圧ソレノイドバルブ63で前輪6の左右制動力を制御する(ステップST208)。この制御は、ECU90の処理部91が有する制動装置制御部99で、保持ソレノイドバルブ62及び減圧ソレノイドバルブ63を制御することにより行う。制動装置制御部99で前輪6に付与する制動力の配分を制御する際には、実車輪速差取得部106で算出した前輪速度左右差△V_Frに基づいて制御する。この制御は、予めECU90の記憶部120に記憶した前輪速度左右差と要求制動力差との関係を示すマップ(図7参照)に、実車輪速差取得部106で算出した前輪速度左右差△V_Frを照らし合わせることにより、要求制動力差を導出し、導出した要求制動力差になるように左右の前輪6に付与する制動力の配分を制御する。
【0145】
制動装置制御部99で、保持ソレノイドバルブ62及び減圧ソレノイドバルブ63を制御することにより前輪6の制動力を制御する際には、左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度と比較して速い場合には、右前輪6Rの制動力を低下させる。反対に、右前輪6Rの車輪速度が左前輪6Lの車輪速度と比較して速い場合には、左前輪6Lの制動力を低下させる。
【0146】
例えば、左前輪6Lの車輪速度が右前輪6Rの車輪速度と比較して速い場合には、右前輪6Rの制動力を低下させるために、右前輪ホイールシリンダ72Rに対応する保持ソレノイドバルブ62を閉じると同時に、右前輪ホイールシリンダ72Rに対応する減圧ソレノイドバルブ63を開く。このように、右前輪ホイールシリンダ72Rに対応する保持ソレノイドバルブ62を閉じることにより、第2油圧経路52内のブレーキフルードは、第2油圧経路52内の油圧を上昇させた場合でも、マスタカットソレノイドバルブ61側から右前輪ホイールシリンダ72Rの方向には流れなくなる。さらに、右前輪ホイールシリンダ72Rに対応する減圧ソレノイドバルブ63を開くことにより、保持ソレノイドバルブ62と右前輪ホイールシリンダ72Rとの間の第2油圧経路52内のブレーキフルードは、減圧ソレノイドバルブ63を通ってリターン経路55に流れるため、右前輪ホイールシリンダ72Rに流れるブレーキフルードの量は低減する。このため、右前輪ホイールシリンダ72Rに作用する油圧は減圧し、右前輪6Rの制動力は低下する。
【0147】
反対に、右前輪6Rの車輪速度が左前輪6Lの車輪速度と比較して速い場合には、左前輪6Lの制動力を低下させるために、左前輪ホイールシリンダ72Lに対応する保持ソレノイドバルブ62を閉じると同時に、左前輪ホイールシリンダ72Lに対応する減圧ソレノイドバルブ63を開く。このように、左前輪ホイールシリンダ72Lに対応する保持ソレノイドバルブ62を閉じることにより、第1油圧経路51内のブレーキフルードは、第1油圧経路51内の油圧を上昇させた場合でも、マスタカットソレノイドバルブ61側から左前輪ホイールシリンダ72Lの方向には流れなくなる。さらに、左前輪ホイールシリンダ72Lに対応する減圧ソレノイドバルブ63を開くことにより、保持ソレノイドバルブ62と左前輪ホイールシリンダ72Lとの間の第1油圧経路51内のブレーキフルードは、減圧ソレノイドバルブ63を通ってリターン経路55に流れるため、左前輪ホイールシリンダ72Lに流れるブレーキフルードの量は低減する。このため、左前輪ホイールシリンダ72Lに作用する油圧は減圧し、左前輪6Lの制動力は低下する。このように、保持ソレノイドバルブ62と減圧ソレノイドバルブ63とを制御することにより、左右の前輪6の制動力を制御した場合には、この車輪速差安定化制御の処理手順から抜け出る。車輪速差安定化制御の処理手順から抜け出た後は、車両安定化制御装置2の処理手順(図4参照)に戻り、さらに車両安定化制御装置2の処理手順から抜け出る。
【0148】
以上の車両安定化制御装置2は、車両状態量判定部103で実車両状態量と目標車両状態量とを比較して、双方が乖離した場合に、車両状態量安定化制御部104で車両状態量安定化制御を行っている。これにより、車両1の挙動が不安定になった場合に、挙動を安定させることができる。さらに、実車輪速差取得部106で実車輪速差を取得すると共に、目標車輪速差導出部105で目標車輪速差を導出し、双方が乖離していると車輪速差判定部107で判定した場合には、車輪速差安定化制御部109で、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行っている。車両状態量は、実際に車両1の挙動が変化した際の車両1の状態を表す量であるが、車輪速差は、車両1の挙動が変化した場合のみでなく、変化する兆候がある場合にも生じる。このため、車両1の走行時に左右の車輪5の実際の車輪速差である実車輪速差を取得し、取得した実車輪速差が目標車輪速差と乖離している場合には、車両1の挙動が不安定になる兆候であると判断することができる。従って、この場合に、実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行うことにより、車両1の挙動の安定化を図ることができる。
【0149】
これらのように、実施例に係る車両安定化制御装置2では、実車両状態量と目標車両状態量とが乖離した場合には車両状態量安定化制御を行い、実車輪速差と目標車輪速差とが乖離した場合には車輪速差安定化制御を行っている。これにより、車両1の挙動の安定化を図る際に、車両状態量によって車両1の挙動を判断できる車両状態領域のみでなく、車両状態量に変化が現れる前の車両状態領域、即ち、車両状態量では挙動の変化を判断できない車両状態領域でも、車両1の挙動の安定化を図ることができる。つまり、車両状態量では挙動の変化を判断できない車両状態領域では、車両1の左右の車輪5の車輪速差によって車両1の小さな挙動の変化、或いは挙動が不安定になる兆候を判断し、車輪速差安定化制御を行っている。これにより、車両状態量では挙動の変化を判断できない車両状態領域でも、車両1の挙動の安定化を図ることができる。この結果、より広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0150】
また、車両状態量では挙動の変化を判断できない車両状態領域では、車輪速差安定化制御を行うので、車両1の挙動の安定化を図る制御を行う際に、制御の介入が遅れることを抑制できる。また、このように、車両状態量では挙動の変化を判断できない車両状態領域では、車輪速差安定化制御を行うので、車両状態量では挙動の変化を判断できないような小さな挙動の変化が発生した場合でも、車輪速差安定化制御によって車両1の挙動の安定化を図ることができる。これにより、車両1の小さな挙動の変化が続くことにより車両1の乗員が違和感を覚えることを抑制できる。これらの結果、より早急に車両1の安定化を図ることができると共に、車両1の走行時の快適性を向上させることができる。
【0151】
また、車両状態量安定化制御及び車輪速差安定化制御を、車両1の運転者による制動操作が行われている場合に行っているので、効果的に車両1の挙動の安定化を図ることができる。つまり、車両1の制動時は、車輪5には定速走行時とは異なった荷重が作用し、車両1の前後方向の加速度、即ちGが発生するため、挙動が変化し易くなっている。このため、制動操作が行われている場合に車両状態量安定化制御及び車輪速差安定化制御を行うことにより、より効果的に車両1の挙動の安定化を図ることができる。この結果、より広い車両状態領域で、効果的に車両1の安定性を確保することができる。
【0152】
また、車両1の挙動の安定化制御を行う際に、制動装置40が車輪5に付与する制動力を制御することにより、車両状態量安定化制御や車輪速差安定化制御を行っている。このため、車両状態量安定化制御及び車輪速差安定化制御を行うための新たな装置を設ける必要がなく、容易にこれらの安定化制御を行うことができる。この結果、より容易に、広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0153】
また、車輪速差安定化制御部109は、車輪速差安定化制御時には加圧ポンプ64の作動状態に応じてマスタカットソレノイドバルブ61、保持ソレノイドバルブ62、減圧ソレノイドバルブ63などのブレーキアクチュエータ60による制動力の配分の制御方法を切り替えるので、より最適な車輪速差安定化制御を行うことができる。つまり、制動装置40による車輪5の制動は、加圧ポンプ64の作動状態によって制動力の配分の制御をする際に用いることができるブレーキアクチュエータ60が異なる。このため、車輪速差安定化制御時には、加圧ポンプ64の作動状態に応じてブレーキアクチュエータ60による制動力の配分の制御方法を切り替え、加圧ポンプ64の作動状態に応じたブレーキアクチュエータ60で制動力の配分を行うことにより、より確実に制動力の配分を行うことができ、より最適な車輪速差安定化制御を行うことができる。この結果、より確実に、広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0154】
また、加圧ポンプ64の作動中には、マスタカットソレノイドバルブ61で車輪5に付与する制動力の配分の制御を行うので、より精度の高い制御を行うことができる。つまり、マスタカットソレノイドバルブ61は、開度が全開と全閉のみでなく、所望の開度にすることができるので、ホイールシリンダ71に作用させる油圧を、高い精度で制御することができる。またこのように、マスタカットソレノイドバルブ61は開度が全開と全閉のみではないので、作動時の音を抑制することができる。これらの結果、車輪5に付与する制動力の配分を、より高い精度で制御することができ、且つ、制動力の配分の制御時における静粛性の向上を図ることができる。
【0155】
また、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が所定値Slip_Fr_p以上の場合にのみ加圧ポンプ64とマスタカットソレノイドバルブ61とで車輪5に付与する制動力の配分の制御を行うので、高い精度で制動力の配分の制御を行うことができる。つまり、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が小さい場合には、加圧ポンプ64とマスタカットソレノイドバルブ61とで調整する油圧経路50内の油圧の加圧量も小さくなるが、この加圧量が小さ過ぎる場合は、加圧量の調整が困難になる虞がある。これに対し、実施例に係る車両安定化制御装置2では、前輪速度左右差△V_Frの絶対値が所定値Slip_Fr_p以上の場合にのみ加圧ポンプ64とマスタカットソレノイドバルブ61とで車輪5に付与する制動力の配分の制御を行うので、より正確に加圧量を調整することができる。この結果、車輪5に付与する制動力の配分を、より確実に高い精度で制御することができる。
【0156】
また、車輪速差安定化制御時に車輪5に付与する制動力の配分を制御する際には、後輪7に付与する制動力の配分から制御しているが、車両1の走行中に車輪5に付与する制動力を制御する場合には、後輪7に付与する制動力よりも前輪6に付与する制動力の方が、車両1の挙動に対する影響が大きくなる。このため、車輪速差安定化制御時に、後輪7に付与する制動力の配分から制御することにより、車両1の挙動への影響力が小さい車輪5から制動力の配分を制御することができ、車輪速差安定化制御を行うことによる車両1の操縦性への影響を、極力小さくすることができる。この結果、車両1の操縦性を確保しつつ、広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0157】
また、車輪速差安定化制御を行う際に、前輪6に付与する制動力の配分の制御は前輪6の実車輪速差に基づいて行い、後輪7に付与する制動力の配分の制御は後輪7の実車輪速差に基づいて行っているので、より適切な制動力の配分を行うことができる。つまり、車輪速差安定化制御を行うために車輪5に付与する制動力を制御した場合は、実車輪速差が変化するため、前輪6の実車輪速差と後輪7の実車輪速差とは異なってくる場合がある。例えば、車輪速差安定化制御時に、前輪6の制動力の配分の制御よりも先に後輪7の制動力の配分の制御を行った場合には、後輪7の実車輪速差のみが変化するため、前輪6の実車輪速差と後輪7の実車輪速差とは異なってくる。このため、この場合において前輪6の制動力の配分の制御を行う場合には、前輪6の実車輪速差に基づいて行う。つまり、制動力の配分をする制御の対象となる車輪5の実車輪速差に基づいて制動力の配分の制御を行うことにより、より適切な制動力の配分を行うことができる。この結果、より確実に、広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0158】
また、車両1の挙動の安定化制御を行う際に、EPS装置31が発生するアシストトルクを制御することにより、車両状態量安定化制御や車輪速差安定化制御を行っている。このため、車両状態量安定化制御及び車輪速差安定化制御を行うための新たな装置を設ける必要がなく、容易にこれらの安定化制御を行うことができる。この結果、より容易に、広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0159】
また、車輪速差安定化制御時には、操舵輪である前輪6の実車輪速差に基づいてEPS装置31でアシストトルクを発生するので、より適切なアシストトルクを発生することができる。つまり、車輪速差安定化制御を行った場合には、実車輪速差が変化するため、前輪6の実車輪速差と後輪7の実車輪速差とは異なってくる場合がある。このため、車輪速差安定化制御を行うためにEPS装置31でアシストトルクを発生する場合、前輪6の実車輪速差に基づいて発生することにより、より適切にアシストトルクを発生することができる。この結果、より確実に、広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0160】
また、車輪速差安定化制御時には、制動装置40による車輪5に付与する制動力の制御の前に、EPS装置31が発生するアシストトルクの制御を行っているので、より確実に挙動の安定化を図ることができる。つまり、EPS装置31が発生するアシストトルクを制御することにより車輪速差安定化制御を行った場合には、前輪6の向きを変えることによって挙動の安定化を図るので、車両1の挙動の安定化に対してリニアな効果を得ることができる。また、EPS装置31が発生するアシストトルクを制御することにより車輪速差安定化制御を行った場合には、運転者がハンドル20を操作することにより修正を行うことができるので、より確実に挙動の安定化を図ることができる。この結果、より確実に、広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0161】
図10は、変形例に係る車両安定化制御装置の要部構成図である。なお、上述した車両安定化制御装置2では、ECU90の処理部91に設けられた実車輪速差取得部106で実車輪速差を取得し、目標車輪速差導出部105で目標車輪速差を導出し、実車輪速差が目標車輪速差から乖離した場合は、車輪速差安定化制御部109で車両1の運動制御を行うことにより実車輪速差を目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行っているが、車輪速差安定化制御は、これ以外の手法で行ってもよい。
【0162】
例えば、車輪速差安定化制御は、車両状態量安定化制御と同様に、車両状態量を目標車両状態量に近付けるように制御してもよい。この場合、その一例として図10に示すように、ECU90の処理部91に、実車輪速差に基づいて推定車両状態量を推定する推定車両状態量推定手段である推定車両状態量推定部130を設ける。また、車両状態量判定部103は、推定車両状態量推定部130で推定した推定車両状態量が、目標車両状態量導出部102で導出した目標車両状態量から乖離しているか否かを判定する。車輪速差安定化制御部109は、車両状態量判定部103による判定で推定車両状態量は目標車両状態量から乖離していると判定した場合に、車輪速差安定化制御を行う。これにより、実車輪速差に基づいて推定する推定車両状態量を、目標車両状態量に近付けさせる。
【0163】
このように、変形例に係る車両安定化制御装置では、車輪速差安定化制御を行うか否かを判断する際には、推定車両状態量は目標車両状態量から乖離しているか否かにより判断し、車両状態量安定化制御を行うか否かの判断をする際には、実施例に係る車両安定化制御装置2と同様に、実車両状態量は目標車両状態量から乖離しているか否かにより判断する。このように、いずれの車両状態領域の場合でも、車両状態量によって車両1の状態を判断するので、車両1の挙動を判断する際に、容易に判断することができる。この結果、より容易に、広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0164】
また、実施例に係る車両安定化制御装置2では、加圧ポンプ64は作動中であると判定された場合(ステップST202)には、マスタカットソレノイドバルブ61で車輪5の制動力の配分を制御しているが、加圧ポンプ64は作動中であると判定された場合には、マスタカットソレノイドバルブ61、保持ソレノイドバルブ62、減圧ソレノイドバルブ63を併用してもよい。車輪5の制動力の配分の制御をする際に、これらを併用することにより、より的確に車輪5の制動力の配分を行うことができる。この結果、より確実に、広い車両状態領域で車両1の安定性を確保することができる。
【0165】
また、実施例に係る車両安定化制御装置2では、実車両状態量としてはヨーレートと横Gとが用いられており、これらのヨーレートと横Gとを取得する実車両状態量取得手段としてECU90にヨーレート取得部96とG取得部97とが設けられているが、実車両状態量はヨーレートや横G以外の状態量を用いてもよく、実車両状態量取得手段としてはヨーレート取得部96やG取得部97以外の手段を用いてもよい。実車両状態量は、走行中の車両1の挙動を認識することのできる状態量であればよく、実車両状態量取得手段は、この状態量を取得できるものであればよい。
【0166】
また、実施例に係る車両安定化制御装置2は、内燃機関であるエンジン10を動力発生手段とした車両1に備えられているものとして説明しているが、車両安定化制御装置2は、他の形態の車両に搭載されていてもよい。車両安定化制御装置2は、例えば、動力発生手段として、電気によって作動するモータを用いた車両であるEV(Electric Vehicle)車両や、動力発生手段としてエンジンとモータとを併用した車両であるハイブリッド車両に搭載されていてもよく、車両の動力発生手段の形態は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0167】
以上のように、本発明に係る車両安定化制御装置は、各車輪で独立して制動力を調節可能な車両に有用であり、特に、制動時における車両の安定性を向上させる場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本発明の実施例に係る車両安定化制御装置が設けられた車両の概略図である。
【図2】図1に示した制動装置の構成概略図である。
【図3】図1に示した車両安定化制御装置の要部構成図である。
【図4】実施例に係る車両安定化制御装置の処理手順を示すフロー図である。
【図5】車輪速差安定化制御の処理手順を示すフロー図である。
【図6】前輪速度左右差とアシストトルクとの関係を示す説明図である。
【図7】前輪速度左右差と要求制動力差との関係を示す説明図である。
【図8】前輪速度左右差と加圧量との関係を示す説明図である。
【図9】後輪速度左右差と要求制動力差との関係を示す説明図である。
【図10】変形例に係る車両安定化制御装置の要部構成図である。
【符号の説明】
【0169】
1 車両
2 車両安定化制御装置
5 車輪
6 前輪
7 後輪
10 エンジン
20 ハンドル
22 ブレーキペダル
31 EPS装置
40 制動装置
41 マスタシリンダ
42 ブレーキブースタ
50 油圧経路
51 第1油圧経路
52 第2油圧経路
55 リターン経路
56 供給経路
60 ブレーキアクチュエータ
61 マスタカットソレノイドバルブ
62 保持ソレノイドバルブ
63 減圧ソレノイドバルブ
64 加圧ポンプ
65 リターン経路逆止弁
66 駆動用モータ
71 ホイールシリンダ
75 ブレーキディスク
82 ブレーキストロークセンサ
83 ヨーレートセンサ
84 Gセンサ
85 車輪速度センサ
86 舵角センサ
90 ECU
91 処理部
92 アクセル開度取得部
93 ブレーキストローク量取得部
94 舵角取得部
95 車輪速度取得部
96 ヨーレート取得部
97 G取得部
98 エンジン制御部
99 制動装置制御部
100 EPS装置制御部
101 制動判定部
102 目標車両状態量導出部
103 車両状態量判定部
104 車両状態量安定化制御部
105 目標車輪速差導出部
106 実車輪速差取得部
107 車輪速差判定部
108 車輪速差方向判定部
109 車輪速差安定化制御部
110 制動装置作動状態判定部
120 記憶部
121 入出力部
130 推定車両状態量推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の実際の車両状態量である実車両状態量を取得する実車両状態量取得手段と、
目標となる車両状態量である目標車両状態量を導出する目標車両状態量導出手段と、
前記実車両状態量と前記目標車両状態量とが乖離した場合に、前記車両の運動制御を行うことにより前記実車両状態量を前記目標車両状態量に近付けさせる制御である車両状態量安定化制御を行う車両状態量安定化制御手段と、
前記車両が有する左右の車輪の実際の車輪速差である実車輪速差を取得する実車輪速差取得手段と、
目標となる車輪速差である目標車輪速差を導出する目標車輪速差導出手段と、
前記実車輪速差が前記目標車輪速差から乖離した場合は、前記車両の運動制御を行うことにより前記実車輪速差を前記目標車輪速差に近付けさせる制御である車輪速差安定化制御を行い、且つ、前記実車両状態量と前記目標車両状態量とが乖離した場合には、前記車輪速差安定化制御を終了する車輪速差安定化制御手段と、
を備えることを特徴とする車両安定化制御装置。
【請求項2】
さらに、前記実車輪速差に基づいて推定車両状態量を推定する推定車両状態量推定手段を備えており、
前記車輪速差安定化制御手段は、前記推定車両状態量が前記目標車両状態量から乖離した場合に、前記車輪速差安定化制御を行うことにより前記推定車両状態量を前記目標車両状態量に近付けさせることを特徴とする請求項1に記載の車両安定化制御装置。
【請求項3】
前記車両状態量安定化制御及び前記車輪速差安定化制御は、前記車両の運転者による制動操作が行われている場合に行うことを特徴とする請求項1または2に記載の車両安定化制御装置。
【請求項4】
さらに、前記車輪に制動力を付与する制動装置を有しており、前記車両状態量安定化制御及び前記車輪速差安定化制御は、前記制動装置が前記車輪に付与する制動力を制御することにより行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両安定化制御装置。
【請求項5】
前記制動装置は、前記車輪に付与する前記制動力の配分を制御可能な複数の制動力配分制御手段と、前記車両の運転者の制動操作による前記制動力以上の制動力を前記車輪に付与することができる制動力補助手段と、を備えており、
前記車輪速差安定化制御手段は、前記車輪速差安定化制御時には前記制動力補助手段の作動状態に応じて前記制動力配分調整手段による前記制動力の配分の制御方法を切り替えることを特徴とする請求項4に記載の車両安定化制御装置。
【請求項6】
前記制動装置は、前記車輪速差安定化制御時に前記車輪に付与する前記制動力の配分を制御する際には、前記車輪のうち後輪に付与する前記制動力の配分から制御することを特徴とする請求項4または5に記載の車両安定化制御装置。
【請求項7】
前記実車輪速差取得手段は、前記車輪のうち前輪の前記実車輪速差と後輪の前記実車輪速差とをそれぞれ取得可能に設けられており、
前記制動装置は、前記車輪速差安定化制御時に前記車輪に付与する前記制動力の配分を制御する際には、前記前輪に付与する前記制動力の配分の制御は前記前輪の前記実車輪速差に基づいて行い、前記後輪に付与する前記制動力の配分の制御は前記後輪の前記実車輪速差に基づいて行うことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の車両安定化制御装置。
【請求項8】
さらに、前記車両の運転者が前記車輪を操舵する際における操舵補助力を発生する操舵補助装置を有しており、前記車両状態量安定化制御及び前記車輪速差安定化制御は、前記操舵補助装置が発生する前記操舵補助力を制御することにより行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両安定化制御装置。
【請求項9】
前記車輪は前輪と後輪とのうち前記前輪が、前記運転者によって操舵可能な操舵輪となっており、
前記実車輪速差取得手段は、前記車輪のうち前記前輪の前記実車輪速差と前記後輪の前記実車輪速差とをそれぞれ取得可能に設けられており、
前記操舵補助装置は、前記車輪速差安定化制御時には前記前輪の前記実車輪速差に基づいて前記操舵補助力を発生することを特徴とする請求項8に記載の車両安定化制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−269427(P2009−269427A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119946(P2008−119946)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】