説明

車両用制動力制御装置

【課題】制動装置の失陥の有無を正確に判定すると共に、失陥があるときには余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下が抑制されるよう後輪の制動力を制御する。
【解決手段】ダイヤゴナル二系統の制動装置を有し、制動時に前輪に対する左右後輪の車輪速度の関係が目標の関係になるよう左右後輪の制動圧を個別に制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う制動力制御装置。一方の系統の一方の車輪と他方の系統の一方の車輪との間の車輪速度の差の大きさ、又は一方の系統の他方の車輪と他方の系統の他方の車輪との間の車輪速度の差の大きさが閾値を越えるか否かを判定する(S170、270)。越えるときには、左右後輪のうち車輪速度が高い方の車輪を含む系統が失陥していると判定し、他方の後輪について制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を行わない(S190、290)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動時に前輪のスリップ度合指標値に対する左右後輪のスリップ度合指標値の関係が目標の関係になるよう左右後輪の制動力を個別に制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う車両用制動力制御装置に係る。更に詳細には本発明は、左前輪及び右後輪の制動圧制御系統と右前輪及び左後輪の制動圧制御系統とを備えた制動装置を有する車両に於いて上記制動力の前後輪配分制御を行う制動力制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
制動力の前後輪配分制御を行う制動力制御装置は従来知られている。例えば下記の特許文献1には制動時に後輪の車輪速度が前輪の車輪速度を越えないよう後輪の制動力を制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う制動力制御装置が記載されている。特に特許文献1に記載された制動力制御装置に於いては、制動時の車両の減速度が所定値よりも小さい場合や、前輪の減速度と後輪の減速度との差が極大値を持たない場合に、前輪の制動装置の失陥と判定され、制動力の前後輪配分制御が禁止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−301092号公報
【発明の概要】
【0004】
〔発明が解決しようとする課題〕
車両の減速度や車輪の減速度は車両の積載状況の変化や路面の勾配の変化の影響を受ける。そのため車両の減速度や車輪の減速度に基づいて制動装置の失陥の判定が行われる場合には、制動装置が失陥しているにも拘らず失陥していないと判定され、制動力の前後輪配分制御が不適切に実行されてしまうことがある。また逆に制動装置が失陥していないにも拘らず失陥していると判定され、必要な制動力の前後輪配分制御が実行されなくなることがある。
【0005】
特に制動装置がダイヤゴナル式二系統(所謂X配管)型の油圧制動装置、即ち左前輪及び右後輪の制動圧制御系統と右前輪及び左後輪の制動圧制御系統とを備えた制動装置である場合には、失陥が発生しているときの制動力の前後輪配分制御に工夫が必要である。
【0006】
例えば左前輪及び右後輪の制動圧制御系統に失陥が発生し、左前輪及び右後輪の制動圧が必要な圧力にならない状況について考える。この状況に於いては、右前輪及び左後輪の制動圧は正常に制御されるので、右前輪の車輪速度は左前輪の車輪速度よりも低く、左前輪の車輪速度に対し左右後輪の車輪速度が所定の関係になるよう、左右後輪の制動圧が個別に減圧制御される。右後輪の制動圧は失陥に起因して元々低い圧力であるので、減圧制御されてもそれほど低下しないのに対し、左後輪の制動圧は減圧制御によって比較的大きく低下され、左後輪の制動力も低下される。
【0007】
その結果右前後輪の制動力の和と左前後輪の制動力の和との差が増大し、左右輪の制動力差に起因する右旋回方向の余分なヨーモーメントが増大し、車両の走行安定性が低下する。また車両全体の制動力が低下することに起因して車両の減速度が運転者の希望する減速度に比して不足する。
【0008】
従ってダイヤゴナル式二系統型の油圧制動装置を有する車両の制動力の前後輪配分制御に於いては、制動装置の失陥が正確に判定されると共に、何れの系統が失陥しても余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下をきたさないようにする必要がある。
【0009】
本発明は、ダイヤゴナル式二系統型の油圧制動装置を有する車両に於いて左右後輪の制動圧を個別に制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う場合に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものである。そして本発明の主要な課題は、制動装置の失陥の有無を正確に判定すると共に、一方の系統の失陥を判定した場合には余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下が抑制されるよう後輪の制動力を制御することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0010】
上述の主要な課題は、本発明によれば、左前輪及び右後輪の制動圧制御系統と右前輪及び左後輪の制動圧制御系統とを備えた制動装置を有し、制動時に前輪のスリップ度合指標値に対する左右後輪のスリップ度合指標値の関係が目標の関係になるよう左右後輪の制動圧を個別に制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う車両用制動力制御装置に於いて、一方の系統の一方の車輪と他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の大きさ及び前記他方の系統の他方の車輪と前記一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の大きさの何れかが差の閾値を越えるときには、前記スリップ度合指標値の差の大きさが前記差の閾値を越える二つの車輪のうち車輪速度が低い方の車輪を含む系統の後輪について前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制することを特徴とする車両用制動力制御装置(請求項1の構成)、又は左前輪及び右後輪の制動圧制御系統と右前輪及び左後輪の制動圧制御系統とを備えた制動装置を有し、制動時に前輪のスリップ度合指標値に対する左右後輪のスリップ度合指標値の関係が目標の関係になるよう左右後輪の制動圧を個別に制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う車両用制動力制御装置に於いて、一方の系統の一方の車輪と他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の符号と、前記他方の系統の他方の車輪と前記一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の符号とが異なるときには、左右後輪のうち車輪速度が低い方の車輪について前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制することを特徴とする車両用制動力制御装置(請求項2の構成)、又は左前輪及び右後輪の制動圧制御系統と右前輪及び左後輪の制動圧制御系統とを備えた制動装置を有し、制動時に前輪のスリップ度合指標値に対する左右後輪のスリップ度合指標値の関係が目標の関係になるよう左右後輪の制動圧を個別に制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う車両用制動力制御装置に於いて、一方の系統の二つの車輪のスリップ度合指標値の和の指標値と他方の系統の二つの車輪のスリップ度合指標値の和の指標値との間の差の大きさが和の指標値の閾値を越えるときには、左右後輪のうち車輪速度が低い方の車輪について前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制することを特徴とする車両用制動力制御装置(請求項3の構成)によって達成される。
【0011】
一方の系統又は他方の系統に失陥が発生すると、一方の系統の一方の車輪と他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の大きさ、又は他方の系統の他方の車輪と一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の大きさが大きくなる。よって何れかのスリップ度合指標値の差の大きさが差の閾値を越えるときには、何れかの系統に失陥が発生したと判定することができる。
【0012】
上記請求項1の構成によれば、何れかのスリップ度合指標値の差の大きさが差の閾値を越えるときには、スリップ度合指標値の差の大きさが差の閾値を越える二つの車輪のうち車輪速度が低い方の車輪を含む系統の後輪について制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減が抑制される。
【0013】
また一方の系統又は他方の系統に失陥が発生すると、一方の系統の一方の車輪と他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の符号と、他方の系統の他方の車輪と一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の符号とが異なる。よって二つのスリップ度合指標値の差の符号が異なるときには、何れかの系統に失陥が発生したと判定することができる。
【0014】
上記請求項2の構成によれば、二つのスリップ度合指標値の差の符号が異なるときには、左右後輪のうち車輪速度が低い方の車輪について制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減が抑制される。
【0015】
また一方の系統又は他方の系統に失陥が発生すると、一方の系統の二つの車輪のスリップ度合指標値の和の指標値と他方の系統の二つの車輪のスリップ度合指標値の和の指標値との間の差の大きさが大きくなる。よって二つのスリップ度合指標値の和の指標値の間の差の大きさが和の指標値の閾値を越えるときには、何れかの系統に失陥が発生したと判定することができる。
【0016】
上記請求項3の構成によれば、二つのスリップ度合指標値の和の指標値の間の差の大きさが和の指標値の閾値を越えるときには、左右後輪のうち車輪速度が低い方の車輪について制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減が抑制される。
【0017】
上記請求項1乃至3の構成によれば、車両の積載状況の変化や路面の勾配の変化の影響を受けることなく失陥の有無を正確に判定することができる。また何れかの系統に失陥が発生した状況に於いては、スリップ度合指標値の差の大きさが差の閾値を越える二つの車輪のうち車輪速度が低い方の車輪を含む系統の後輪や左右後輪のうち車輪速度が低い方の車輪は失陥が発生していない系統の後輪である。よって失陥が発生した場合には正確な失陥発生の判定に基づいて正常な系統の後輪の制動圧の低減を抑制し、これにより余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下が抑制されるよう後輪の制動力を制御することができる。
【0018】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、前記車輪速度は旋回半径の影響が排除された車輪速度であるよう構成される(請求項4の構成)。
【0019】
上記の構成によれば、車輪速度は旋回半径の影響が排除された車輪速度であるので、車両が旋回する場合にも旋回半径の影響に起因して制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制すべき車輪の判定に誤りが生じることを防止することができる。
【0020】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記一方の系統の一方の車輪と前記他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は左前後輪の間のスリップ度合指標値の差であり、前記他方の系統の他方の車輪と前記一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は右前後輪の間のスリップ度合指標値の差であるよう構成される(請求項5の構成)。
【0021】
上記の構成によれば、左前後輪の間のスリップ度合指標値の差の大きさ又は右前後輪の間のスリップ度合指標値の差の大きさが差の閾値を越えるときに、一方の系統の失陥を正確に判定し、正常な系統の後輪の制動圧が低減されることを抑制することができる。
【0022】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記一方の系統の一方の車輪と前記他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は左右前輪の間のスリップ度合指標値の差であり、前記他方の系統の他方の車輪と前記一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は左右後輪の間のスリップ度合指標値の差であるよう構成される(請求項6の構成)。
【0023】
上記の構成によれば、左右前輪の間のスリップ度合指標値の差の大きさ又は左右後輪の間のスリップ度合指標値の差の大きさが差の閾値を越えるときに、一方の系統の失陥を正確に判定し、正常な系統の後輪の制動圧が低減されることを抑制することができる。
【0024】
また本発明によれば、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制する後輪とは左右反対側の後輪について前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の増大を促進するよう構成される(請求項7の構成)。
【0025】
上記の構成によれば、正常な系統の後輪の制動圧の低減が抑制されるだけでなく、失陥している系統の後輪の制動圧の増大が促進されるので、余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下を効果的に抑制することができる。
【0026】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、制動圧の低減を抑制することが基準時間以上継続したときには前記制動力の前後輪配分制御を中止するよう構成される(請求項8の構成)。
【0027】
上記の構成によれば、制動圧の低減を抑制することが基準時間以上継続したときには制動力の前後輪配分制御が中止されるので、何れかの系統が失陥した状況にて不完全な制動力の前後輪配分制御が継続的に実行されることを防止することができる。
【0028】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、制動圧の低減を禁止することにより制動圧の低減を抑制するよう構成される(請求項9の構成)。
【0029】
上記の構成によれば、制動圧の低減を禁止することにより制動圧の低減が抑制されるので、制動圧の低減量が小さくされる場合に比して余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下を効果的に抑制することができる。
【0030】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項6の構成に於いて、車両の旋回半径に関連するパラメータに基づいて前記スリップ度合指標値の差を補正するよう構成される(請求項10の構成)。
【0031】
上記の構成によれば、車両の旋回半径に関連する誤差が排除された左右前輪の間のスリップ度合指標値の差及び左右後輪の間のスリップ度合指標値の差に基づいて失陥の有無を一層正確に判定することができる。
【0032】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記差の閾値は車速、車輌の減速度、車輌の減速度の変化率の少なくとも一つに応じて可変設定されるよう構成される(請求項11の構成)。
【0033】
上記の構成によれば、差の閾値が車輌の減速度、車輌の減速度の変化率の如何に関係なく一定である場合に比して、車輌の減速度、車輌の減速度の変化率等が変化しても上記請求項1の構成により失陥の有無を正確に判定することができる。
【0034】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、前記和の指標値の閾値は車速、車輌の減速度、車輌の減速度の変化率の少なくとも一つに応じて可変設定されるよう構成される(請求項12の構成)。
【0035】
上記の構成によれば、和の指標値の閾値が車輌の減速度、車輌の減速度の変化率の如何に関係なく一定である場合に比して、車輌の減速度、車輌の減速度の変化率等が変化しても上記請求項3の構成により失陥の有無を正確に判定することができる。
【0036】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、制動圧の低減を抑制するときには前記一方の系統及び前記他方の系統の何れかが失陥していると判定するよう構成される(請求項13の構成)。
【0037】
上記の構成によれば、制動圧の低減を抑制するときには一方の系統及び他方の系統の何れかが失陥していると判定されるので、何れかの系統が失陥すれば、そのことを確実に判定することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
【0038】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至13の構成に於いて、スリップ度合指標値は車輪速度、車体速度を基準速度とするスリップ量、車体速度を基準速度とするスリップ率の何れかであるよう構成される(好ましい態様1)。
【0039】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、一方の系統の一方の車輪と他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は左前後輪の間のスリップ度合指標値の差であり、他方の系統の他方の車輪と一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は右前後輪の間のスリップ度合指標値の差であり、何れかのスリップ度合指標値の差の大きさが差の閾値を越えるときには、左右後輪のうち車輪速度が低い方の車輪について前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制するよう構成される(好ましい態様2)。
【0040】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、スリップ度合指標値の和の指標値はスリップ度合指標値の和及びスリップ度合指標値の平均値の何れかであるよう構成される(好ましい態様3)。
【0041】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項10の構成に於いて、車両の旋回半径に関連するパラメータは車両のヨーレート、車両の横加速度、操舵輪の舵角及び車速、車両の旋回に起因する左右方向の傾斜角、車両の旋回に起因する左右輪間の接地荷重差の何れかであるよう構成される(好ましい態様4)。
【0042】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項11の構成に於いて、差の閾値は車速、車輌の減速度、車輌の減速度の変化率の少なくとも一つが大きいほど大きくなるよう可変設定されるよう構成される(好ましい態様5)。
【0043】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項12の構成に於いて、和の指標値の閾値は車速、車輌の減速度、車輌の減速度の変化率の少なくとも一つが大きいほど大きくなるよう可変設定されるよう構成される(好ましい態様6)。
【0044】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項13の構成に於いて、失陥は制動圧が目標圧力よりも低い圧力になる失陥であるよう構成される(好ましい態様7)。
【0045】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項13の構成に於いて、車輪速度が高い方の後輪を含む系統が失陥していると判定するよう構成される(好ましい態様8)。
【0046】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項13の構成に於いて、制動圧が目標圧力よりも高い圧力になる異常が生じているときには、上記請求項1乃至3の構成による制御は行われないよう構成される(好ましい態様9)。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による車両用制動力制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1に示された制動装置を示す図
【図3】第一の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【図4】第一の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの後半を示すフローチャートである。
【図5】本発明による車両用制動力制御装置の第二の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【図6】第二の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの後半を示すフローチャートである。
【図7】本発明による車両用制動力制御装置の第三の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【図8】本発明による車両用制動力制御装置の第四の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【図9】本発明による車両用制動力制御装置の第五の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【図10】第三の実施形態の修正例として構成された本発明による車両用制動力制御装置の第六の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図11】第四の実施形態の修正例として構成された本発明による車両用制動力制御装置の第七の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図12】第六の実施形態の修正例として構成された本発明による車両用制動力制御装置の第八の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図13】第一の実施形態に於ける失陥判定の要領を示す図である。
【図14】第二の実施形態に於ける失陥判定の要領を示す図である。
【図15】第三の実施形態に於ける失陥判定の要領を示す図である。
【図16】第四の実施形態に於ける失陥判定の要領を示す図である。
【図17】第五の実施形態に於ける失陥判定の要領を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
[第一の実施形態]
【0049】
図1は本発明による車両用制動力制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図、図2は図1に示された制動装置を示す図である。
【0050】
図1に於いて、100は車両10の制動力制御装置を全体的に示している。車両10は左右の前輪12FL及び12FR及び左右の後輪12RL及び12RRを有している。操舵輪である左右の前輪12FL及び12FRは運転者によるステアリングホイール14の転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置16によりタイロッド18L及び18Rを介して操舵される。
【0051】
各車輪の制動力は制動装置110のブレーキアクチュエータとしての油圧回路20によりホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RL内の圧力Pi(i=fr、fl、rr、rl)、即ち各車輪の制動圧が制御されることによって制御される。図2に示されている如く、制動装置100は運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作に応答してブレーキオイルを圧送するマスタシリンダ28を有している。マスタシリンダ28はその両側の圧縮コイルばねにより所定の位置に付勢されたフリーピストン30により画成された第一のマスタシリンダ室28Aと第二のマスタシリンダ室28Bとを有している。
【0052】
第一のマスタシリンダ室28A及び第二のマスタシリンダ室28Bにはそれぞれ第一系統のブレーキ油圧制御導管38A及び第二系統のブレーキ油圧制御導管38Bの一端が接続されている。ブレーキ油圧制御導管38A及び38Bはそれぞれマスタシリンダ室284A及び28Bを油圧回路20に接続している。
【0053】
ブレーキ油圧制御導管38Aの途中には第一系統の連通制御弁42Aが設けられており、連通制御弁42Aは図示の実施形態に於いては常開型のリニアソレノイド弁である。連通制御弁42Aは図2には示されていないソレノイドに駆動電流が通電されていないときには開弁し、ソレノイドに駆動電流が通電されると閉弁する。特に連通制御弁42Aは閉弁状態にあるときにはマスタシリンダ28とは反対の側の圧力がマスタシリンダ28の側の圧力に比して高圧になるよう差圧を維持し、駆動電流の電圧に応じて差圧を増減する。
【0054】
換言すれば、連通制御弁42Aを横切る差圧がソレノイドに対する駆動電流の電圧により決定される指示差圧以下であるときには、連通制御弁42Aは閉弁状態を維持する。従って連通制御弁42Aは作動流体としてのオイルがマスタシリンダ28とは反対の側より連通制御弁42Aを経てマスタシリンダ28の側へ流通することを阻止し、これにより連通制御弁42Aを横切る差圧が低下することを阻止する。これに対し連通制御弁42Aを横切る差圧がソレノイドに対する駆動電流の電圧により決定される指示差圧を越えると、連通制御弁42Aは開弁する。従って連通制御弁42Aはオイルがマスタシリンダ28とは反対の側より連通制御弁42Aを経てマスタシリンダ28の側へ流通することを許容し、これにより連通制御弁42Aを横切る差圧を指示差圧に制御する。
【0055】
第一系統のブレーキ油圧制御導管38Aの他端には右前輪用のブレーキ油圧制御導管44FR及び左後輪用のブレーキ油圧制御導管44RLの一端が接続されている。右前輪用のブレーキ油圧制御導管44FR及び左後輪用のブレーキ油圧制御導管44RLの他端にはそれぞれ右前輪及び左後輪の制動力を制御するためのホイールシリンダ24FR及び24RLが接続されている。また右前輪用のブレーキ油圧制御導管44FR及び左後輪用のブレーキ油圧制御導管44RLの途中にはそれぞれ常開型の電磁開閉弁48FR及び48RLが設けられている。
【0056】
電磁開閉弁48FRとホイールシリンダ24FRとの間のブレーキ油圧制御導管44FRにはオイル排出導管52FRの一端が接続され、電磁開閉弁48RLとホイールシリンダ24RLとの間のブレーキ油圧制御導管44RLにはオイル排出導管52RLの一端が接続されている。オイル排出導管52FR及び52RLの途中にはそれぞれ常閉型の電磁開閉弁54FR及び54RLが設けられており、オイル排出導管52FR及び52RLの他端は接続導管56Aによりオイルを貯留する第一系統のリザーバ58Aに接続されている。
【0057】
以上の説明より解る如く、電磁開閉弁48FR及び48RLはそれぞれホイールシリンダ24FR及び24RL内の圧力を増圧又は保持するための増圧弁であり、電磁開閉弁54FR及び54RLはそれぞれホイールシリンダ24FR及び24RL内の圧力を減圧するための減圧弁である。従って電磁開閉弁48FR及び54FRは互いに共働して右前輪のホイールシリンダ24FR内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を郭定しており、電磁開閉弁48RL及び54RLは互いに共働して左後輪のホイールシリンダ24RL内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を郭定している。
【0058】
接続導管56Aは接続導管60Aによりポンプ52Aの吸入側に接続されている。ポンプ52Aの吐出側は途中にダンパ64Aを有する接続導管46Aによりブレーキ油圧制御導管38Aの他端に接続されている。ポンプ62Aとダンパ64Aとの間の接続導管66Aにはポンプ62Aよりダンパ64Aへ向かうオイルの流れのみを許す逆止弁68Aが設けられている。
【0059】
同様に、ブレーキ油圧制御導管38Bの途中には第二系統の連通制御弁42Bが設けられており、連通制御弁42Bも図示の実施形態に於いては常開型のリニアソレノイド弁であり、連通制御弁42Aと同様に作動する。従って図2には示されていないソレノイドに対する駆動電流の電圧を制御することにより、オイルがホイールシリンダ24FL及び24RRの側より連通制御弁42Bを経てマスタシリンダ28の側へ流通することを制限することができると共に、連通制御弁42Bを横切る差圧を指示差圧に制御する。
【0060】
第二系統のブレーキ油圧制御導管38Bの他端には左前輪用のブレーキ油圧制御導管44FL及び右後輪用のブレーキ油圧制御導管44RRの一端が接続されている。左前輪用のブレーキ油圧制御導管44FL及び右後輪用のブレーキ油圧制御導管44RRの他端にはそれぞれ左前輪及び右後輪の制動力を制御するためのホイールシリンダ24FL及び24RRが接続されている。また左前輪用のブレーキ油圧制御導管44FL及び右後輪用のブレーキ油圧制御導管44RRの途中にはそれぞれ常開型の電磁開閉弁48FL及び48RRが設けられている。
【0061】
電磁開閉弁48FLとホイールシリンダ24FLとの間のブレーキ油圧制御導管44FLにはオイル排出導管52FLの一端が接続され、電磁開閉弁48RRとホイールシリンダ24RRとの間のブレーキ油圧制御導管44RRにはオイル排出導管52RRの一端が接続されている。オイル排出導管52FL及び52RRの途中にはそれぞれ常閉型の電磁開閉弁54FL及び54RRが設けられており、オイル排出導管52FL及び52RRの他端は接続導管56Bによりオイルを貯留する第二系統のリザーバ58Bに接続されている。
【0062】
以上の説明より解る如く、電磁開閉弁48FL及び48RRはそれぞれホイールシリンダ24FL及び24RR内の圧力を増圧又は保持するための増圧弁であり、電磁開閉弁54FL及び54RRはそれぞれホイールシリンダ24FL及び24RR内の圧力を減圧するための減圧弁である。従って電磁開閉弁48FL及び54FLは互いに共働して左前輪のホイールシリンダ24FL内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を郭定しており、電磁開閉弁48RR及び54RRは互いに共働して右後輪のホイールシリンダ24RR内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を郭定している。
【0063】
接続導管56Bは接続導管60Bによりポンプ62Bの吸入側に接続されている。ポンプ62Bの吐出側は途中にダンパ64Bを有する接続導管66Bによりブレーキ油圧制御導管38Bの他端に接続されている。ポンプ62Bとダンパ64Bとの間の接続導管66Bにはポンプ62Bよりダンパ64Bへ向かうオイルの流れのみを許す逆止弁68Bが設けられている。尚ポンプ62A及び62Bは図1には示されていない共通の電動機により駆動される。
【0064】
リザーバ58A、58Bはそれぞれ接続導管70A、70Bによりマスタシリンダ28と連通制御弁42A、42Bとの間のブレーキ油圧制御導管38A、38Bに接続されている。従ってリザーバ58A、58Bはそれぞれ連通制御弁42A、42Bが閉弁状態にある場合に、マスタシリンダ室28A、28Bとリザーバ58A、58Bとの間のオイルの流動を許容する。またリザーバ58A、58Bのフリーピストンには逆止弁の弁体が一体的に固定されており、逆止弁はリザーバ58A、58B内のオイルの量が基準値以上になることを阻止する。
【0065】
図示の実施形態に於いては、各制御弁及び各開閉弁は対応するソレノイドに駆動電流が通電されていないときには図2に示された非制御位置に設定される。これによりホイールシリンダ24FR及び24RLには第一のマスタシリンダ室28A内の圧力が供給され、ホイールシリンダ24FL及び24RRには第二のマスタシリンダ室28B内の圧力が供給される。従って通常時には各車輪のホイールシリンダ内の圧力、即ち制動力はブレーキペダル26の踏力に応じて増減される。
【0066】
これに対し連通制御弁42A、42Bが閉弁位置に切り換えられ、各車輪の開閉弁が図2に示された位置にある状態にてポンプ62A、62Bが駆動されると、リザーバ58A、58B内のオイルがポンプによって汲み上げられる。よってホイールシリンダ24FR、24RLにはポンプ62Aによりポンプアップされた圧力が供給され、ホイールシリンダ24FL、24RRにはポンプ62Bによりポンプアップされた圧力が供給されるようになる。従って各車輪の制動圧はブレーキペダル26の踏力に関係なく連通制御弁42A、42B及び各車輪の開閉弁(増減圧弁)の開閉により増減される。
【0067】
この場合、ホイールシリンダ内の圧力は、開閉弁48FR〜48RL及び開閉弁54FR〜54RLが図2に示された非制御位置にあるときには増圧され(増圧モード)、開閉弁48FR〜48RLが閉弁位置に切り換えられ且つ開閉弁54FR〜54RLが図2に示された非制御位置にあるときには保持され(保持モード)、開閉弁48FR〜48RLが閉弁位置に切り換えられ且つ開閉弁54FR〜54RLが開弁位置に切り換えられると減圧される(減圧モード)。
【0068】
連通制御弁42A及び42B、開閉弁48FR〜48RL、開閉弁54FR〜54RL、ポンプ62A、62Bを駆動する電動機は、後に説明する如電子制御装置80により制御される。図1には示されていないが、電子制御装置80はマイクロコンピュータと駆動回路とよりなっており、マイクロコンピュータはCPUとRAMとROMとを有する当技術分野に於いて周知の一般的な構成のものであってよい。
【0069】
車輪12FR〜12RLにはそれぞれ対応する車輪速度Vwi(i=fr、fl、rr、rl)を検出する車輪速度センサ72FR〜72RLが設けられており、マスタシリンダ28にはマスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ74が設けられている。また車両10には車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ76が設けられている。各センサにより検出された値を示す信号は電子制御装置80へ入力される。尚ヨーレートセンサ76は車両の左旋回方向を正としてヨーレートγを検出する。
【0070】
電子制御装置80は、マスタシリンダ圧力Pmに基づいて左右前輪の制動圧を制御し、これにより左右前輪の制動力をブレーキペダル26の踏み込み操作量、即ち運転者の制動操作量に応じて制御する。また電子制御装置80は、後に詳細に説明する如く図3及び図4に示されたフローチャートに従って、制動力の前後輪配分を好ましい配分にするための制御及び失陥判定を行う。
【0071】
特に第一の実施形態に於いては、電子制御装置80は左後輪の車輪速度Vwrlと左前輪の車輪速度Vwflとの差に基づいて第一の系統が失陥しているか否かを判定する。そして電子制御装置80は第一の系統が失陥していると判定したときには、正常な第二の系統の後輪である右後輪の制動圧を低下させることなく保持する。
【0072】
また電子制御装置80は右後輪の車輪速度Vwrrと右前輪の車輪速度Vwfrとの差に基づいて第二の系統が失陥しているか否かを判定する。そして電子制御装置80は第二の系統が失陥していると判定したときには、正常な第一の系統の後輪である左後輪の制動圧を低下させることなく保持する。
【0073】
次に図3及び図4に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンについて説明する。尚図3及び図4に示されたフローチャートによる制御は、マスタシリンダ圧力Pmが制御開始判定基準値Pms(正の定数)以上になったときに開始され、マスタシリンダ圧力Pmが制御終了判定基準値Pme(正の定数)以下になるまで所定の時間毎に繰返し実行される。
【0074】
また制動力の前後輪配分制御の実行中にアンチスキッド制御や車両の運動制御の如く車輪の制動力を個別に制御する必要が生じたときには制動力の前後輪配分制御は中止される。更に第一又は第二の系統に制動圧が過剰になる失陥が発生しているときには、制動力の前後輪配分制御は実行されない。
【0075】
まずステップ10に於いては各車輪の車輪速度Vwiに基づいて車速Vが演算されると共に、車速Vの微分値が車両の減速度Vdとして演算される。また車速Vが高いほど大きく、車両の減速度Vdが高いほど大きくなるよう、車速V及び車両の減速度Vdに基づいて前輪に対する後輪の目標車輪速度差の上限値ΔVwxu及び下限値ΔVwxlが演算される。そして左右前輪のうち高い方の車輪速度Vwfmaxと上限値ΔVwxu及び下限値ΔVwxlとの和が後輪の目標車輪速度の上限値Vwrtu及び下限値wrtlとして演算される。
【0076】
ステップ20に於いては車速V、車両の減速度Vd、減速度Vdの微分値である車両の減速度勾配Vddに基づいて、失陥を判定するための二つの車輪速度の差の閾値Vw0が演算される。この場合差の閾値Vw0は車速V、車両の減速度Vd、車両の減速度勾配Vddが大きいほど大きい値になるよう演算される。
【0077】
ステップ100に於いては第一の系統が失陥し制動圧が不足する状況であるか否かの判別、即ち前サイクルのステップ390に於いて第一の系統が失陥していると判定されたか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ120へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ110へ進む。
【0078】
ステップ110に於いては第一の系統の後輪である左後輪の目標車輪速度の上限値Vwrltuがステップ10に於いて演算された値Vwrtu(正の値)に設定されると共に、左後輪の目標増圧勾配ΔPrlincが標準値ΔPrinc(正の定数)に設定される。
【0079】
ステップ120に於いては車速V、車両の減速度Vd、減速度Vdの微分値である車両の減速度勾配Vddに基づいて、左後輪の目標車輪速度の上限値Vwrltuの補正量ΔVwrt及び左後輪の目標増圧勾配ΔPrlincの補正量ΔPraが演算される。この場合補正量ΔVwrt及びΔPraは車速V、車両の減速度Vd、車両の減速度勾配Vddが大きいほど大きい値になるよう演算される。
【0080】
また左後輪の目標車輪速度の上限値Vwrltu及び左後輪の目標増圧勾配ΔPrlincがそれぞれ下記の式1及び2に従って演算され、これにより上限値Vwrltuが低減修正され、目標増圧勾配ΔPrlincが増大修正される。
【0081】
Vwrltu=Vwrtu−ΔVwrt ……(1)
【0082】
ΔPrlinc=ΔPrinc+ΔPra ……(2)
【0083】
尚ステップ100に於いて肯定判別が行われても、既にステップ120に於いて上限値Vwrltuが低減修正され、目標増圧勾配ΔPrlincが増大修正されているときには、これらの上限値及び目標増圧勾配が更に修正されることなく制御はステップ130へ進む。
【0084】
ステップ130に於いては左後輪の車輪速度Vwrlが目標車輪速度の上限値Vwrltuを越えているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには制御はステップ150へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ140へ進む。
【0085】
ステップ140に於いては左後輪の制動圧Prlがステップ110又は120に於いて演算された目標増圧勾配ΔPrlincにて増圧されることにより左後輪の制動力が増大され、しかる後制御はステップ200へ進む。
【0086】
ステップ150に於いては左後輪の車輪速度Vwrlが目標車輪速度の下限値Vwrltl(=Vwrtl)未満であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ170へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ160へ進む。
【0087】
ステップ160に於いては左後輪の制動圧Prlが低減されることなく保持され、しかる後制御はステップ200へ進む。
【0088】
ステップ170に於いては右後輪の車輪速度Vwrrと右前輪の車輪速度Vwfrとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ190へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ180へ進む。
【0089】
ステップ180に於いては左後輪の制動圧Prlが予め設定された減圧勾配にて減圧され、しかる後制御はステップ200へ進む。
【0090】
尚図3には示されていないが、第一の系統が失陥していると判定されている状況に於いてステップ130に於いて肯定判別が行われたとき、又はステップ150又は170に於いて否定判別が行われたときには、第一の系統が失陥している旨の判定が解除される。
【0091】
ステップ190に於いては第二の系統が失陥していると判定されると共に、左後輪の制動圧Prlが低減されることなく保持され、しかる後制御はステップ200へ進む。
【0092】
ステップ200に於いては第二の系統が失陥し制動圧が不足する状況であるか否かの判別、即ちステップ190に於いて第一の系統が失陥していると判定されたか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ220へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ210へ進む。
【0093】
ステップ210に於いては第二の系統の後輪である右後輪の目標車輪速度の上限値Vwrrtuがステップ10に於いて演算された値Vwrtuに設定されると共に、右後輪の目標増圧勾配ΔPrrincが標準値ΔPrincに設定される。
【0094】
ステップ220に於いては車速V、車両の減速度Vd、車両の減速度勾配Vddに基づいて、右後輪の目標車輪速度の上限値Vwrrtuの補正量ΔVwrt及び右後輪の目標増圧勾配ΔPrrincの補正量ΔPraが演算される。このステップに於いても補正量ΔVwrt及びΔPraは車速V、車両の減速度Vd、車両の減速度勾配Vddが大きいほど大きい値になるよう演算される。
【0095】
また右後輪の目標車輪速度の上限値Vwrrtu及び右後輪の目標増圧勾配ΔPrrincがそれぞれ下記の式3及び4に従って演算され、これにより上限値Vwrrtuが低減修正され、目標増圧勾配ΔPrrincが増大修正される。
【0096】
Vwrrtu=Vwrtu−ΔVwrt ……(3)
【0097】
ΔPrrinc=ΔPrinc+ΔPra ……(4)
【0098】
尚ステップ200に於いて肯定判別が行われても、既にステップ220に於いて上限値Vwrrtuが低減修正され、目標増圧勾配ΔPrrincが増大修正されているときには、これらの上限値及び目標増圧勾配が更に修正されることなく制御はステップ230へ進む。
【0099】
ステップ230に於いては右後輪の車輪速度Vwrrが目標車輪速度の上限値Vwrrtuを越えているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには制御はステップ250へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ240へ進む。
【0100】
ステップ240に於いては右後輪の制動圧Prrがステップ210又は220に於いて演算された目標増圧勾配ΔPrrincにて増圧されることにより右後輪の制動力が増大され、しかる後制御はステップ10へ戻る。
【0101】
ステップ250に於いては右後輪の車輪速度Vwrrが目標車輪速度の下限値Vwrrtl(=Vwrtl)未満であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ270へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ260へ進む。
【0102】
ステップ260に於いては右後輪の制動圧Prrが低減されることなく保持され、しかる後制御はステップ10へ戻る。
【0103】
ステップ270に於いては左後輪の車輪速度Vwrlと左前輪の車輪速度Vwflとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ290へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ280へ進む。
【0104】
ステップ280に於いては右後輪の制動圧Prrが予め設定された減圧勾配にて減圧され、しかる後制御はステップ10へ戻る。
【0105】
尚図4には示されていないが、第二の系統が失陥していると判定されている状況に於いてステップ230に於いて肯定判別が行われたとき、又はステップ250又は270に於いて否定判別が行われたときには、第二の系統が失陥している旨の判定が解除される。
【0106】
ステップ290に於いては第一の系統が失陥していると判定されると共に、右後輪の制動圧Prrが低減されることなく保持され、しかる後制御はステップ10へ戻る。
【0107】
この第一の実施形態に於いては、運転者により制動操作が開始され、マスタシリンダ圧力Pmが制御開始判定基準値Pms以上になると、図3及び図4に示されたフローチャートによる制御が開始される。
【0108】
まずステップ10に於いて前輪に対する後輪の目標車輪速度差の上限値ΔVwxu及び下限値ΔVwxlが演算される。そして左右前輪のうち高い方の車輪速度Vwfmaxと上限値ΔVwxu及び下限値ΔVwxlとの和が後輪の目標車輪速度の上限値Vwrtu及び下限値wrtlとして演算される。
【0109】
またステップ20に於いて車速V、車両の減速度Vd、車両の減速度勾配Vddが大きいほど閾値Vw0が大きい値になるよう、失陥を判定するための二つの車輪速度の差の閾値Vw0が演算される。
【0110】
そしてステップ130〜190に於いて第一の系統の後輪である左後輪の車輪速度Vwrlが目標車輪速度の上限値Vwrltu以下で目標車輪速度の下限値Vwrltl(=Vwrtl)以上の値になるよう、左後輪の制動圧Prlが制御される。
【0111】
同様にステップ230〜290に於いて第二の系統の後輪である右後輪の車輪速度Vwrrが目標車輪速度の上限値Vwrrtu以下で目標車輪速度の下限値Vwrrtl(=Vwrtl)以上の値になるよう、右後輪の制動圧Prrが制御される。
【0112】
以上の左右後輪の制動圧の制御により、左右後輪の車輪速度Vwrl及びVwrrが左右前輪のうち高い方の車輪速度Vwfmaxに対し所定の範囲内の関係になるよう、左右後輪の制動力が制御され、これにより制動力の前後輪配分が好ましい配分に制御される。
【0113】
また第一の実施形態に於いては、ステップ270に於いて左後輪の車輪速度Vwrlと左前輪の車輪速度Vwflとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別により第一の系統が失陥しているか否かの判別が行われる。またステップ170に於いて右後輪の車輪速度Vwrrと右前輪の車輪速度Vwfrとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別により第二の系統が失陥しているか否かの判別が行われる。
【0114】
特に左後輪の車輪速度Vwrlが下限値Vwrltl未満の状況に於いて、右前後輪の車輪速度の差Vwrr−Vwfrが差の閾値Vw0を越えていると判定されると、第二の系統が失陥していると判定される(ステップ150、170、190)。同様に、右後輪の車輪速度Vwrrが下限値Vwrrtl未満の状況に於いて、左前後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwflが差の閾値Vw0を越えていると判定されると、第一の系統が失陥していると判定される(ステップ250、270、290)。
【0115】
第一の系統及び第二の系統の何れも正常であれば、左前後輪の車輪速度の差及び右前後輪の車輪速度の差の何れも閾値Vw0を越えないので、ステップ150及び250に於いて肯定判別が行われてもステップ170及び270に於いて否定判別が行われる。従ってステップ150及び250に於いて肯定判別が行われるときには、左右後輪の制動圧が低減されることによって左右後輪の車輪速度が下限値以上になるよう制御される。
【0116】
これに対し第一の系統は正常であるが第二の系統が失陥すると、図13に示されている如く右前輪及び左後輪には所要の制動力Fbfr及びFbrlが発生するが、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、左後輪の車輪速度Vwrlが下限値Vwrltl未満になり、右前後輪の車輪速度の差Vwrr−Vwfrが差の閾値Vw0を越える状況になる。
【0117】
よってステップ150及び170に於いて肯定判別が行われ、ステップ190に於いて第二の系統が失陥していると判定されると共に、左後輪の制動圧Prlが低減されることなく保持され、これにより左後輪の制動力の低減が防止される。
【0118】
また第二の系統は正常であるが第一の系統が失陥すると、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生するが、右前輪及び左後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、右後輪の車輪速度Vwrrが下限値Vwrrtl未満になり、左前後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwflが差の閾値Vw0を越える状況になる。
【0119】
よってステップ250及び270に於いて肯定判別が行われ、ステップ290に於いて第一の系統が失陥していると判定されると共に、右後輪の制動圧Prrが低減されることなく保持され、これにより右後輪の制動力の低減が防止される。
[第二の実施形態]
【0120】
図5及び図6は本発明による車両用制動力制御装置の第二の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンを示すフローチャートである。尚図5及び図6に於いて図3及び図4に示されたステップと同一のステップには図3及び図4に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。このことは後述の他の実施形態についても同様である。
【0121】
この第二の実施形態に於いては、ステップ10が完了すると、ステップ20に代えてステップ30が実行される。
【0122】
ステップ30に於いては左前後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwflの符号と右前後輪の車輪速度の差Vwrr−Vwfrの符号とが異なるか否かの判別、即ち第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ70へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ65へ進む。
【0123】
ステップ65に於いては左右後輪の目標車輪速度の上限値Vwrltu及びVwrrtuがステップ10に於いて演算された値Vwrtuに設定されると共に、左右後輪の目標増圧勾配ΔPrlinc及びΔPrrincが標準値ΔPrincに設定される。
【0124】
ステップ70に於いては右後輪の車輪速度Vwrrが左後輪の車輪速度Vwrlよりも低いか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ80に於いて第一の系統が失陥している旨の判定が行われ、しかる後制御はステップ85へ進む。これに対し否定判別が行われたときにはステップ90に於いて第二の系統が失陥している旨の判定が行われ、しかる後制御はステップ95へ進む。
【0125】
ステップ85に於いては左後輪の目標車輪速度の上限値Vwrltu及び左後輪の目標増圧勾配ΔPrlincがそれぞれ上記式1及び2に従って演算される。また右後輪の目標車輪速度の上限値Vwrrtuがステップ10に於いて演算された値Vwrtuに設定されると共に、右後輪の目標増圧勾配ΔPrrincが標準値ΔPrincに設定される。
【0126】
尚ステップ70に於いて肯定判別が行われても、既にステップ85に於いて上限値Vwrltuが低減修正され、目標増圧勾配ΔPrlincが増大修正されているときには、これらの上限値及び目標増圧勾配が更に修正されることなく制御はステップ105へ進む。
【0127】
ステップ95に於いては左後輪の目標車輪速度の上限値Vwrltuがステップ10に於いて演算された値Vwrtuに設定されると共に、左後輪の目標増圧勾配ΔPrlincが標準値ΔPrincに設定される。また右後輪の目標車輪速度の上限値Vwrrtu及び右後輪の目標増圧勾配ΔPrrincがそれぞれ上記式3及び4に従って演算される。
【0128】
尚ステップ100に於いて否定判別が行われても、既にステップ95に於いて上限値Vwrltuが低減修正され、目標増圧勾配ΔPrlincが増大修正されているときには、これらの上限値及び目標増圧勾配が更に修正されることなく制御はステップ105へ進む。
【0129】
ステップ65又は85又は95が完了すると、制御はステップ105へ進み、第二の系統が失陥しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ160へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ130へ進む。
【0130】
ステップ130及び150は第一の実施形態の場合と同様に実行される。しかし第二の実施形態に於いては、ステップ150に於いて肯定判別が行われると、ステップ170が実行されることなく制御はステップ180へ進む。
【0131】
また第二の実施形態に於いては、ステップ140又は160又は180が完了すると、制御はステップ205へ進み、第一の系統が失陥しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ260へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ230へ進む。
【0132】
ステップ230及び250も第一の実施形態の場合と同様に実行される。しかし第二の実施形態に於いては、ステップ250に於いて肯定判別が行われると、ステップ270が実行されることなく制御はステップ280へ進む。尚第二の実施形態の他のステップは上述の第一の実施形態の場合と同様に実行される。
【0133】
この第二の実施形態によれば、第一の系統及び第二の系統の何れも正常であれば、左前後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwflの符号と右前後輪の車輪速度の差Vwrr−Vwfrの符号とが同一になるので、ステップ30に於いて否定判別が行われる。そしてステップ105及び205の何れに於いても否定判別が行われる。よって第一の実施形態の場合と同様に、左右後輪の車輪速度Vwrl及びVwrrが左右前輪のうち高い方の車輪速度Vwfmaxに対し所定の範囲内の関係になるよう、左右後輪の制動力が制御され、これにより制動力の前後輪配分が好ましい配分に制御される。
【0134】
また第二の実施形態に於いては、第一の系統又は第二の系統が失陥すると、左前後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwflの符号と右前後輪の車輪速度の差Vwrr−Vwfrの符号とが異なるようになるので、ステップ30に於いて肯定判別が行われる。そしてステップ70に於いて右後輪の車輪速度Vwrrが左後輪の車輪速度Vwrlよりも低いか否かの判別が行われる。
【0135】
例えば第一の系統は正常であるが第二の系統が失陥すると、図14に示されている如く右前輪及び左後輪にはそれぞれ所要の制動力Fbfr及びFbrlが発生するが、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、左後輪の車輪速度Vwrlが右後輪の車輪速度Vwrrよりも低くなる。
【0136】
よってステップ70に於いて否定判別が行われることにより、ステップ90に於いて第二の系統が失陥していると判定される。従ってステップ105に於いて肯定判別が行われ、ステップ160に於いて左後輪の制動圧Prlが減圧されることなく保持され、これにより左後輪の制動力の低減が防止される。
【0137】
これに対し第二の系統は正常であるが第一の系統が失陥すると、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生するが、右前輪及び左後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、左後輪の車輪速度Vwrlが右後輪の車輪速度Vwrrよりも高くなる。
【0138】
よってステップ70に於いて肯定判別が行われることにより、ステップ80に於いて第一の系統が失陥していると判定される。従ってステップ205に於いて肯定判別が行われ、ステップ260に於いて右後輪の制動圧Prrが減圧されることなく保持され、これにより右後輪の制動力の低減が防止される。
[第三の実施形態]
【0139】
図7は本発明による車両用制動力制御装置の第三の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【0140】
この第三の実施形態に於いては、ステップ10が完了すると、ステップ21が実行され、ステップ21が完了すると、制御はステップ40へ進む。
【0141】
ステップ21に於いては車速V、車両の減速度Vd、車両の減速度勾配Vddに基づいて、失陥を判定するための左右前輪の車輪速度の差の閾値Vwf0及び左右後輪の車輪速度の差の閾値Vwr0が演算される。この場合差の閾値Vwf0及びVwr0は車速V、車両の減速度Vd、車両の減速度勾配Vddが大きいほど大きい値になるよう演算される。
【0142】
ステップ40に於いては左右前輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfrの絶対値が閾値Vwf0を越えているか又は左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrrの絶対値が閾値Vwr0を越えているか否かの判別、即ち第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ65へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ70へ進む。この第三の実施形態の他のステップ、即ちステップ70乃至280は上述の第二の実施形態の場合と同様に実行される。
【0143】
この第三の実施形態によれば、第一の系統及び第二の系統の何れも正常であれば、左右前輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfrの絶対値及び左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrrの絶対値は閾値Vwr0以下である。従ってステップ40に於いて否定判別、即ち第一及び第二の系統の何れも正常ある旨の判別が行われる。
【0144】
また第三の実施形態に於いては、第一の系統及び第二の系統の何れかが失陥すると、左右前輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfrの絶対値又は左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrrの絶対値が閾値Vwr0を越えるようになる。よってステップ40に於いて肯定判別が行われ、ステップ70に於いて右後輪の車輪速度Vwrrが左後輪の車輪速度Vwrlよりも低いか否かの判別が行われる。
【0145】
例えば第一の系統は正常であるが第二の系統が失陥すると、図15に示されている如く右前輪及び左後輪には所要の制動力Fbfr及びFbrlが発生するが、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、左後輪の車輪速度Vwrlが右後輪の車輪速度Vwrrよりも低くなる。よってステップ70に於いて否定判別が行われることにより、ステップ90に於いて第二の系統が失陥していると判定される。
【0146】
これに対し第二の系統は正常であるが第一の系統が失陥すると、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生するが、右前輪及び左後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、左後輪の車輪速度Vwrlが右後輪の車輪速度Vwrrよりも高くなる。よってステップ70に於いて肯定判別が行われることにより、ステップ80に於いて第一の系統が失陥していると判定される。
【0147】
尚第一及び第二の実施形態の場合と同様に、第一及び第二の系統の何れも正常であるときには、左右後輪の車輪速度Vwrl及びVwrrが左右前輪のうち高い方の車輪速度Vwfmaxに対し所定の範囲内の関係になるよう、左右後輪の制動力が制御される。従って制動力の前後輪配分が好ましい配分に制御される。また第二の系統が失陥しているときには、左後輪の制動圧Prlが減圧されることなく保持され、これにより左後輪の制動力の低減が防止される。更に第一の系統が失陥しているときには、右後輪の制動圧Prrが減圧されることなく保持され、これにより右後輪の制動力の低減が防止される。これらのことは後述の他の実施形態についても同様である。
[第四の実施形態]
【0148】
図8は本発明による車両用制動力制御装置の第四の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【0149】
この第四の実施形態に於いては、ステップ10が完了すると、ステップ20に代えてステップ50が実行される。
【0150】
ステップ50に於いては左右前輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfrの符号と左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrrの符号とが異なるか否かの判別、即ち第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ65へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ70へ進む。この第四の実施形態の他のステップは上述の第二の実施形態の場合と同様に実行される。
【0151】
この第四の実施形態によれば、第一の系統及び第二の系統の何れも正常であれば、左右前輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfrの符号と左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrrの符号とが同一になるので、ステップ50に於いて否定判別、即ち第一及び第二の系統の何れも正常ある旨の判別が行われる。
【0152】
また第二の実施形態に於いては、第一の系統及び第二の系統の何れかが失陥すると、左右前輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfrの符号と左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrrの符号とが異なるようになるので、ステップ50に於いて肯定判別が行われる。そしてステップ70に於いて右後輪の車輪速度Vwrrが左後輪の車輪速度Vwrlよりも低いか否かの判別が行われる。
【0153】
例えば第一の系統は正常であるが第二の系統が失陥すると、図16に示されている如く右前輪及び左後輪には所要の制動力Fbfr及びFbrlが発生するが、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、左後輪の車輪速度Vwrlが右後輪の車輪速度Vwrrよりも低くなる。よってステップ70に於いて否定判別が行われることにより、ステップ90に於いて第二の系統が失陥していると判定される。
【0154】
これに対し第二の系統は正常であるが第一の系統が失陥すると、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生するが、右前輪及び左後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、左後輪の車輪速度Vwrlが右後輪の車輪速度Vwrrよりも高くなる。よってステップ70に於いて肯定判別が行われることにより、ステップ80に於いて第一の系統が失陥していると判定される。
[第五の実施形態]
【0155】
図9は本発明による車両用制動力制御装置の第五の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【0156】
この第五の実施形態に於いては、ステップ10が完了すると、ステップ20に代えてステップ22が実行され、ステップ22が完了すると、制御はステップ60へ進む。
【0157】
ステップ22に於いては車速V、車両の減速度Vd、車両の減速度勾配Vddに基づいて、失陥を判定するための車輪速度の平均値の閾値Vw12が演算される。この場合差の閾値Vw12は車速V、車両の減速度Vd、車両の減速度勾配Vddが大きいほど大きい値になるよう演算される。
【0158】
ステップ60に於いては右前輪の車輪速度Vwfr及び左後輪の車輪速度Vwrlの第一の平均値Vwf1が演算されると共に、左前輪の車輪速度Vwfl及び右後輪の車輪速度Vwrrの第二の平均値Vwr2が演算される。また第一の平均値Vwf1と第二の平均値Vwr2との差Vwf1−Vwr2の絶対値が閾値Vw12を越えているか否かの判別、即ち第一又は第二系統が失陥しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ65へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ70へ進む。この第五の実施形態の他のステップ、即ちステップ70乃至280は上述の第二の実施形態の場合と同様に実行される。
【0159】
従ってこの第五の実施形態によれば、第一の系統及び第二の系統の何れも正常であれば、第一の平均値Vwf1と第二の平均値Vwr2との差Vwf1−Vwr2の絶対値が閾値Vw12以下になるので、ステップ60に於いて否定判別、即ち第一及び第二の系統の何れも正常ある旨の判別が行われる。
【0160】
また第二の実施形態に於いては、第一の系統及び第二の系統の何れが失陥すると、第一の平均値Vwf1と第二の平均値Vwr2との差Vwf1−Vwr2の絶対値が閾値Vw12を越えるようになるので、ステップ60に於いて肯定判別が行われる。そしてステップ70に於いて右後輪の車輪速度Vwrrが左後輪の車輪速度Vwrlよりも低いか否かの判別が行われる。
【0161】
例えば第一の系統は正常であるが第二の系統が失陥すると、図17に示されている如く右前輪及び左後輪には所要の制動力Fbfr及びFbrlが発生するが、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、左後輪の車輪速度Vwrlが右後輪の車輪速度Vwrrよりも低くなる。よってステップ70に於いて否定判別が行われることにより、ステップ90に於いて第二の系統が失陥していると判定される。
【0162】
これに対し第二の系統は正常であるが第一の系統が失陥すると、左前輪及び右後輪には所要の制動力が発生するが、右前輪及び左後輪には所要の制動力が発生しない。そのため運転者の制動操作量が高いときには、左後輪の車輪速度Vwrlが右後輪の車輪速度Vwrrよりも高くなる。よってステップ70に於いて肯定判別が行われることにより、ステップ80に於いて第一の系統が失陥していると判定される。
[第六の実施形態]
【0163】
図10は第三の実施形態の修正例として構成された本発明による車両用制動力制御装置の第六の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【0164】
この第六の実施形態に於いては、ステップ10が完了すると、第三の実施形態の場合と同様にステップ21が実行される。またステップ21が完了すると、制御はステップ35へ進み、ステップ35が完了すると、制御はステップ45へ進む。
【0165】
ステップ35に於いては車両のヨーレートγ及び車両のトレッドに基づいて旋回半径の相違に起因する左右前輪の車輪速度の差を補正するための補正量ΔVwf及び左右後輪の車輪速度の差を補正するための補正量ΔVwrが演算される。
【0166】
ステップ45に於いては補正後の左右前輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfr+ΔVwfの絶対値が閾値Vwf0を越えているか又は補正後の左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrr+ΔVwrの絶対値が閾値Vwr0を越えているか否かの判別が行われる。即ち補正後の左右輪の車輪速度の差の大きさに基づいて第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ65へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ70へ進む。この第六の実施形態の他のステップ、即ちステップ70乃至280は上述の第二の実施形態の場合と同様に実行される。
【0167】
従って第六の実施形態によれば、第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判定に際し旋回半径の相違に起因する左右前輪の車輪速度の差の誤差の影響を排除することができる。よって上述の第三の実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができるだけでなく、第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判定を第三の実施形態の場合よりも正確に行うことができる。
[第七の実施形態]
【0168】
図11は第四の実施形態の修正例として構成された本発明による車両用制動力制御装置の第七の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【0169】
この第七の実施形態に於いては、ステップ10が完了すると、第六の実施形態の場合と同様にステップ35が実行される。またステップ35が完了すると、制御はステップ55へ進む。
【0170】
ステップ55に於いては補正後の左右前輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfr+ΔVwfの符号と補正後の左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrr+ΔVwrの符号とが異なっているか否かの判別、即ち第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ65へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ70へ進む。この第七の実施形態の他のステップ、即ちステップ70乃至280は上述の第二の実施形態の場合と同様に実行される。
【0171】
従って第七の実施形態によれば、第六の実施形態の場合と同様に第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判定に際し旋回半径の相違に起因する左右前輪の車輪速度の差の誤差の影響を排除することができる。よって上述の第四の実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができるだけでなく、第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判定を第四の実施形態の場合よりも正確に行うことができる。
[第八の実施形態]
【0172】
図12は第六の実施形態の修正例として構成された本発明による車両用制動力制御装置の第八の実施形態に於ける制動力の前後輪配分制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
【0173】
この第八の実施形態に於いては、ステップ10に先立ってステップ2が実行される。ステップ2に於いては制動力の前後輪配分制御の開始時であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには制御はステップ10へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ4へ進む。
【0174】
ステップ4に於いては左右前輪の車輪速度Vwfl−Vwfrが旋回半径の相違に起因する左右前輪の車輪速度の差を補正するための補正量ΔVwfとして演算される。同様に左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrrが旋回半径の相違に起因する左右後輪の車輪速度の差を補正するための補正量ΔVwrとして演算される。
【0175】
ステップ4が完了すると、第一の実施形態の場合と同様にステップ10が実行され、ステップ10が完了すると、第六の実施形態の場合と同様に制御はステップ21へ進む。しかしステップ21が完了すると、ステップ35が実行されることなく制御はステップ45へ進む。
【0176】
従って第八の実施形態によれば、第六の実施形態の場合と同様に第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判定に際し旋回半径の相違に起因する左右前輪の車輪速度の差の誤差の影響を排除することができる。
【0177】
また第八の実施形態によれば、補正量ΔVwf及びΔVwrは制動力の前後輪配分制御の開始時の左右輪の車輪速度差に基づいて演算されるので、車両のヨーレートγの如き情報を得るための手段は不要である。第六の実施形態の場合に比して低廉且つ単純な構成にて第六の実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0178】
以上の説明より解る如く、上述の各実施形態によれば、第一及び第二の系統が正常であるときには、前輪に対する後輪の制動力の配分が好ましい配分になるよう制動力の前後輪配分制御を行うことができると共に、第一又は第二の系統が失陥しているときには、正常な系統の後輪の制動圧が低減されることを防止することができる。従って第一又は第二の系統が失陥している状況にて制動力の前後輪配分制御が行われる際に正常な系統の後輪の制動力が低減されることを防止し、これにより車両に作用する余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下を抑制することができる。
【0179】
特に上述の各実施形態によれば、第一又は第二の系統が失陥しているときには、正常な系統の後輪の制動圧が保持されることにより制動圧の低減が抑制される。従って例えば制動圧の低減量が低減されることにより制動圧の低減が抑制される場合に比して、車両に作用する余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下を確実に且つ効果的に抑制することができる。
【0180】
また上述の各実施形態によれば、第一又は第二の系統が失陥しているときには、失陥している系統の後輪の目標車輪速度の上限値Vwrltu又はVwrrtuが低減される。従って失陥している系統の後輪の目標車輪速度の上限値が低減されない場合に比してステップ130等に於いて早めに肯定判別が行われるので、失陥している系統の後輪の制動圧を早めに増圧させることができる。よって失陥により制動力の増大は完全ではないにしても、失陥している系統の後輪の制動力が早めに増大されるので、車両に作用する余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下の抑制を効果的に行わせることができる。
【0181】
特に上述の各実施形態によれば、目標車輪速度の上限値Vwrltu又はVwrrtuを低減修正するための補正量ΔVwrtは車速V等に応じて可変設定される。従って補正量ΔVwrtが車速V等に関係なく一定である場合に比して、車両の走行状況に応じて目標車輪速度の上限値Vwrltu又はVwrrtuを適確に低減修正することができる。
【0182】
また上述の各実施形態によれば、第一又は第二の系統が失陥しているときには、失陥している系統の後輪の目標増圧勾配ΔPrlinc又はΔPrrincが増大される。従って失陥している系統の後輪の目標増圧勾配が増大されない場合に比してステップ140又は240に於いて失陥している系統の後輪の制動圧を速く上昇させることができる。よって失陥により制動力の増大は完全ではないにしても、失陥している系統の後輪の制動力が速く増大するので、車両に作用する余分なヨーモーメントの増大や車両の減速度の低下の抑制を効果的に行わせることができる。
【0183】
特に上述の各実施形態によれば、目標増圧勾配ΔPrlinc又はΔPrrincを増大修正するための補正量ΔPraは車速V等に応じて可変設定される。従って補正量ΔPraが車速V等に関係なく一定である場合に比して、車両の走行状況に応じて目標増圧勾配ΔPrlinc又はΔPrrincを適確に増大修正することができる。
【0184】
また上述の第一、第三、第五、第六、第八の実施形態によれば、失陥の有無を判定するための閾値Vw0等が車速V等に応じて可変設定される。従って閾値Vw0等が車速V等に関係なく一定である場合に比して、車両の走行状況に応じて失陥の有無を適確に判定することができる。
【0185】
特に上述の第一及び第二の実施形態によれば、左前後輪の車輪速度の差及び右前後輪の車輪速度の差の大きさ又は符号の関係に基づいて失陥の有無が判定される。よって第三及び第四の実施形態に比して、車両が旋回状態にある場合にも左右輪の旋回半径の差による車輪速度の差の影響に起因して失陥の有無が誤判定される虞れは小さい。
【0186】
特に上述の第二の実施形態によれば、左前後輪の車輪速度の差及び右前後輪の車輪速度の差の符号の関係に基づいて失陥の有無が判定される。よって第一の実施形態に比して、車両の積載状態の変化や前輪のフェード現象等による意図しない制動力の前後配分の変化に対する失陥の有無判定のロバスト性が高い。
【0187】
また上述の第三及び第四の実施形態や第六乃至第八の実施形態によれば、左右前輪の車輪速度の差及び左右後輪の車輪速度の差の大きさ又は符号の関係に基づいて失陥の有無が判定される。よって他の実施形態の場合に比して、段差通過などにより左右輪の車輪速度が同時に急激に変化するような場合に失陥の有無が誤判定される虞れは小さい。
【0188】
特に上述の第四及び第七の実施形態によれば、左右前輪の車輪速度の差及び左右後輪の車輪速度の差の符号の関係に基づいて失陥の有無が判定される。よって第三及び第四の実施形態に比して、車両が旋回状態にある場合にも左右輪の旋回半径の差による車輪速度の差の影響に起因して失陥の有無が誤判定される虞れは小さい。また第三、第六、第八の実施形態の場合に比して左右輪の接地荷重の相違や旋回半径の相違に起因して失陥の有無が誤判定される虞れは小さい。
【0189】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0190】
例えば上述の各実施形態に於いては、スリップ度合指標値は車輪速度であるが、車両の速度を基準速度とする車輪のスリップ度合、即ちスリップ量又はスリップ率であってもよい。
【0191】
また上述の各実施形態に於いては、第一又は第二の系統が失陥しているとの判定が繰り返し行われても、制動力の前後輪配分制御が継続されるようになっている。しかし第一又は第二の系統が失陥しているとの判定が所定の回数以上連続して行われたとき、第一又は第二の系統が失陥しているとの判定が所定の時間以上繰り返し行われたときには、制動力の前後輪配分制御が中止されるよう修正されてもよい。
【0192】
また上述の各実施形態に於いては、第一又は第二の系統が失陥していると判定されると、失陥している系統の後輪の目標車輪速度の上限値Vwrltu又はVwrrtuが低減されると共に、目標増圧勾配ΔPrlinc又はΔPrrincが増大される。しかし目標車輪速度の上限値の低減及び目標増圧勾配の増大の何れか一方のみが行われるよう修正されてもよい。
【0193】
また上述の各実施形態に於いては、第一又は第二の系統が失陥しているか否かの判定がそれぞれ個別のパラメータに基づいて行われるようになっているが、少なくとも二つの実施形態の判定が組み合わされ、両者の判定が何れも失陥であるときに当該系統が失陥していると判定されるよう修正されてもよい。
【0194】
また上述の第一の実施形態に於いては、ステップ170に於いて右後輪の車輪速度Vwrrと右前輪の車輪速度Vwfrとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別が行われるようになっている。このステップ170の判別は左前輪の車輪速度Vwflと右前輪の車輪速度Vwfrとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別に置き換えられてもよい。またステップ170の判別は右後輪の車輪速度Vwrrと左前輪の車輪速度Vwflとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別に置き換えられてもよい。
【0195】
同様にステップ270に於いて左後輪の車輪速度Vwrlと左前輪の車輪速度Vwflとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別が行われるようになっている。このステップ270の判別は右前輪の車輪速度Vwfrと左前輪の車輪速度Vwflとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別に置き換えられてもよい。またステップ270の判別は左前輪の車輪速度Vwflと右後輪の車輪速度Vwrrとの差が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別に置き換えられてもよい。
【0196】
また上述の第三の実施形態に於いては、ステップ40に於いて左右前輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfrの絶対値が閾値Vwf0を越えているか又は左右後輪の車輪速度の差Vwrl−Vwrrの絶対値が閾値Vwr0を越えているか否かの判別が行われるようになっている。このステップ40の判別は右前後輪の車輪速度の差Vwrr−Vwfrの絶対値が差の閾値Vw0を越えているか又は左前後輪の車輪速度の差Vwfl−Vwfrの絶対値が差の閾値Vw0を越えているか否かの判別に置き換えられてもよい。
【0197】
また上述の第一乃至第四の実施形態に於いては、旋回半径の相違に起因する左右輪の車輪速度の差についての補正が行われないようになっている。しかしこれらの実施形態に於いても車両が旋回状態にあるときには、旋回半径の影響が排除された各車輪の車輪速度が演算され、それらに基づいてステップ130、150、170等が実行されるよう修正されることが好ましい。この場合旋回半径の影響が排除された車輪速度は、例えば車両の左右の中心の如く車両の左右輪の何れか一方の位置又はそれらの間の所定の位置に於ける車輪速度に換算された値であってよい。
【0198】
また上述の第五の実施形態に於いては、ステップ60に於いて演算される和の指標値は第一及び第二の系統の車輪の車輪速度の第一の平均値Vwf1及び第二の平均値Vwr2である。しかし和の指標値は第一及び第二の系統の車輪の車輪速度の第一の及び第二の和であるよう修正されてもよい。
【0199】
また上述の第三、第六、第八の実施形態に於いては、車輪速度の差の閾値Vwf0及びVwr0が前輪及び後輪について演算されるようになっているが、前輪及び後輪について共通の一つの閾値が演算されるよう修正されてもよい。
【0200】
また上述の第二及び第四の実施形態態に於いては、経過時間Tは目標スリップ度合の補正が開始された時点からの経過時間である。しかし経過時間Tは目標スリップ度合の補正が開始された時点からの経過時間を含む限り、制動力の前後輪配分制御が開始された時点からの経過時間、又は運転者による制動操作が開始された時点からの経過時間であってもよい。
【0201】
また第六の実施形態の実施形態のステップ35が第八の実施形態の実施形態のステップ2及び4に置き換えられることにより、第八の実施形態は第六の実施形態の修正例として構成されている。しかし第七の実施形態の実施形態のステップ35が第八の実施形態の実施形態のステップ2及び4に置き換えられてもよい。
【符号の説明】
【0202】
10…車両、20…油圧回路、24FL〜24RR…ホイールシリンダ、26…ブレーキペダル、28…マスタシリンダ、42A…第一の系統の連通制御弁、42B…第二の系統の連通制御弁、80…電子制御装置、72FL〜72RR…車輪速度センサ、74…圧力センサ、76…ヨーレートセンサ、100…制動力制御装置、110…制動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左前輪及び右後輪の制動圧制御系統と右前輪及び左後輪の制動圧制御系統とを備えた制動装置を有し、制動時に前輪のスリップ度合指標値に対する左右後輪のスリップ度合指標値の関係が目標の関係になるよう左右後輪の制動圧を個別に制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う車両用制動力制御装置に於いて、一方の系統の一方の車輪と他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の大きさ及び前記他方の系統の他方の車輪と前記一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の大きさの何れかが差の閾値を越えるときには、前記スリップ度合指標値の差の大きさが前記差の閾値を越える二つの車輪のうち車輪速度が低い方の車輪を含む系統の後輪について前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制することを特徴とする車両用制動力制御装置。
【請求項2】
左前輪及び右後輪の制動圧制御系統と右前輪及び左後輪の制動圧制御系統とを備えた制動装置を有し、制動時に前輪のスリップ度合指標値に対する左右後輪のスリップ度合指標値の関係が目標の関係になるよう左右後輪の制動圧を個別に制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う車両用制動力制御装置に於いて、一方の系統の一方の車輪と他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の符号と、前記他方の系統の他方の車輪と前記一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差の符号とが異なるときには、左右後輪のうち車輪速度が低い方の車輪について前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制することを特徴とする車両用制動力制御装置。
【請求項3】
左前輪及び右後輪の制動圧制御系統と右前輪及び左後輪の制動圧制御系統とを備えた制動装置を有し、制動時に前輪のスリップ度合指標値に対する左右後輪のスリップ度合指標値の関係が目標の関係になるよう左右後輪の制動圧を個別に制御することにより制動力の前後輪配分制御を行う車両用制動力制御装置に於いて、一方の系統の二つの車輪のスリップ度合指標値の和の指標値と他方の系統の二つの車輪のスリップ度合指標値の和の指標値との間の差の大きさが和の指標値の閾値を越えるときには、左右後輪のうち車輪速度が低い方の車輪について前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制することを特徴とする車両用制動力制御装置。
【請求項4】
前記車輪速度は旋回半径の影響が排除された車輪速度であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項5】
前記一方の系統の一方の車輪と前記他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は左前後輪の間のスリップ度合指標値の差であり、前記他方の系統の他方の車輪と前記一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は右前後輪の間のスリップ度合指標値の差であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項6】
前記一方の系統の一方の車輪と前記他方の系統の一方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は左右前輪の間のスリップ度合指標値の差であり、前記他方の系統の他方の車輪と前記一方の系統の他方の車輪との間のスリップ度合指標値の差は左右後輪の間のスリップ度合指標値の差であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項7】
前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の低減を抑制する後輪とは左右反対側の後輪について前記制動力の前後輪配分制御による制動圧の増大を促進することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項8】
制動圧の低減を抑制することが基準時間以上継続したときには前記制動力の前後輪配分制御を中止することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項9】
制動圧の低減を禁止することにより制動圧の低減を抑制することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項10】
車両の旋回半径に関連するパラメータに基づいて前記スリップ度合指標値の差を補正することを特徴とする請求項6に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項11】
前記差の閾値は車速、車輌の減速度、車輌の減速度の変化率の少なくとも一つに応じて可変設定されることを特徴とする請求項1に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項12】
前記輪の指標値の閾値は車速、車輌の減速度、車輌の減速度の変化率の少なくとも一つに応じて可変設定されることを特徴とする請求項3に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項13】
制動圧の低減を抑制するときには前記一方の系統及び前記他方の系統の何れかが失陥していると判定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−111387(P2012−111387A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262836(P2010−262836)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】