説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制する車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン8と、電動機M及び差動部16を備えて電気式差動部として機能し得る動力分配機構36と、その動力分配機構36に連結された有段式の自動変速部20とを、備え、エンジン8から出力される動力を駆動輪34へ伝達させる動力伝達装置10の制御装置であって、専ら電動機Mを駆動力源とする走行中において、自動変速部20のアップシフト変速実行中であり且つその変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、エンジン8の始動が判定された場合には、その変速を中止して前記エンジン8を始動させる制御を行うものであることから、自動変速部20のアップシフト変速中であってもアクセルペダル44の踏み込みに応じて即座に駆動力を出力させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式差動部として機能し得る第1変速部と、その第1変速部に連結された有段式の第2変速部とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置に関し、特に、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、電動機及び差動部を備えて電気式差動部として機能し得る第1変速部と、その第1変速部に連結された有段式の第2変速部とを、備え、前記エンジンから出力される動力を駆動輪へ伝達させる車両用動力伝達装置が知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用駆動装置の制御装置がそれである。この技術によれば、電気的な無段変速機として作動可能な第1変速部と、複数の変速段の間で有段変速可能な第2変速部とを直列に備え、その第1変速部を電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と無段変速作動しない有段変速状態とに選択的に切換え可能に構成されており、前記第1変速部及び第2変速部の変速比を個別に制御できると共に、それら第1変速部及び第2変速部により構成される変速機全体としての変速比(トータル変速比)を段階的に変化させることが可能とされている。また、専ら前記エンジンを駆動力源とするエンジン走行モード、そのエンジン及び電動機を駆動力源とするエンジン+モータ走行モード、及び専ら前記電動機を駆動力源とするモータ走行モードを選択的に成立させられるようになっている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−319924号公報
【特許文献2】特開2006−94617号公報
【特許文献3】特開平10−2241号公報
【特許文献4】特開平4−73462号公報
【特許文献5】特開2004−60732号公報
【特許文献6】特開2006−205880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者等は、車両のドライバビリティを向上させるために研究を継続する過程において、前述したような従来の技術による制御では、専ら前記電動機を駆動力源とするモータ走行モードでの走行中にアップシフト変速が出力された後、アクセル踏み込みが行われてエンジンの始動が判定された場合、そのエンジンの始動が変速終了まで遅延させられることにより、アクセルの踏み込みに応じた駆動力が即座に出力されずもたつき感(駆動力不足感)が発生するおそれがあることを新たに見いだした。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制する車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、エンジンと、電動機及び差動部を備えて電気式差動部として機能し得る第1変速部と、その第1変速部に連結された有段式の第2変速部とを、備え、前記エンジンから出力される動力を駆動輪へ伝達させる車両用動力伝達装置の制御装置であって、専ら前記電動機を駆動力源とする走行中において、前記第2変速部のアップシフト変速実行中であり且つその変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、前記エンジンの始動が判定された場合には、その変速を中止して前記エンジンを始動させる制御を行うことを特徴とするものである。
【0007】
また、前記目的を達成するために、本第2発明の要旨とするところは、エンジンと、電動機及び差動部を備えて電気式差動部として機能し得る第1変速部と、その第1変速部に連結された有段式の第2変速部とを、備え、前記エンジンから出力される動力を駆動輪へ伝達させる車両用動力伝達装置の制御装置であって、専ら前記電動機を駆動力源とする走行中において、前記第2変速部のアップシフト変速実行中であり且つその変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、前記エンジンの始動が判定された場合には、その変速を中止すると共にダウンシフト変速を開始し、前記エンジンを始動させる制御を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
このように、前記第1発明によれば、エンジンと、電動機及び差動部を備えて電気式差動部として機能し得る第1変速部と、その第1変速部に連結された有段式の第2変速部とを、備え、前記エンジンから出力される動力を駆動輪へ伝達させる車両用動力伝達装置の制御装置であって、専ら前記電動機を駆動力源とする走行中において、前記第2変速部のアップシフト変速実行中であり且つその変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、前記エンジンの始動が判定された場合には、その変速を中止して前記エンジンを始動させる制御を行うものであることから、前記第2変速部のアップシフト変速中であってもアクセル踏み込みに応じて即座に駆動力を出力させることができる。すなわち、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制する車両用動力伝達装置の制御装置を提供することができる。
【0009】
また、前記第2発明によれば、エンジンと、電動機及び差動部を備えて電気式差動部として機能し得る第1変速部と、その第1変速部に連結された有段式の第2変速部とを、備え、前記エンジンから出力される動力を駆動輪へ伝達させる車両用動力伝達装置の制御装置であって、専ら前記電動機を駆動力源とする走行中において、前記第2変速部のアップシフト変速実行中であり且つその変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、前記エンジンの始動が判定された場合には、その変速を中止すると共にダウンシフト変速を開始し、前記エンジンを始動させる制御を行うものであることから、前記第2変速部のアップシフト変速中であってもアクセル踏み込みに応じて即座に駆動力を出力させることができる。すなわち、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制する車両用動力伝達装置の制御装置を提供することができる。
【0010】
ここで、前記第1発明乃至第2発明において、好適には、前記アップシフト変速のイナーシャ相開始前である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものである。このようにすれば、前記アップシフト変速のイナーシャ相開始前であれば、前記第2変速部のメンバ回転速度変化が生じていないため、そのアップシフト変速を中止してもショックが発生しないと判断できるのでその変速を中止してエンジンを始動させる一方、イナーシャ相開始後であればその変速を継続することでショックの発生を好適に抑制することができる。
【0011】
また、好適には、前記アップシフト変速に係る解放側係合要素のトルク容量が所定値以上である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものである。このようにすれば、前記アップシフト変速に係る解放側係合要素のトルク容量が所定値以上であれば、そのアップシフト変速を中止してもショックが発生しないと判断できるのでその変速を中止してエンジンを始動させる一方、トルク容量が所定値未満であればその変速を継続することでショックの発生を好適に抑制することができる。
【0012】
また、好適には、前記アップシフト変速の出力からの経過時間が所定時間未満である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものである。このようにすれば、前記アップシフト変速の出力からの経過時間が所定時間未満であれば、そのアップシフト変速を中止してもショックが発生しないと判断できるのでその変速を中止してエンジンを始動させる一方、経過時間が所定時間以上であればその変速を継続することでショックの発生を好適に抑制することができる。
【0013】
また、好適には、前記アップシフト変速のイナーシャ相開始からの経過時間が所定時間未満である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものである。このようにすれば、前記アップシフト変速のイナーシャ相開始からの経過時間が所定時間未満であれば、そのアップシフト変速を中止してもショックが発生しないと判断できるのでその変速を中止してエンジンを始動させる一方、経過時間が所定時間以上であればその変速を継続することでショックの発生を好適に抑制することができる。
【0014】
また、好適には、前記アップシフト変速の進行度は、前記第2変速部のメンバ回転速度の変化量に基づいて判定されるものである。このようにすれば、実用的な態様で前記アップシフト変速の進行を判定することができる。
【0015】
また、好適には、前記アップシフト変速の進行度の判断基準は、前記第2変速部の油温に基づいて変更されるものである。このようにすれば、実用的な態様で前記アップシフト変速の進行を判定することができる。
【0016】
また、好適には、アクセルペダルの踏み込み量に応じて前記エンジンの始動を判定するものである。このようにすれば、実用的な態様で前記エンジンの始動を判定することができる。
【0017】
また、好適には、前記第2変速部は、車両の走行状態に応じて自動変速を行うものである。このようにすれば、実用的な有段式自動変速部を備えた車両用動力伝達装置において、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制することができる。
【0018】
また、好適には、前記第1変速部は、遊星歯車装置と、その遊星歯車装置の回転要素に連結された2つの電動機とから成るものである。このようにすれば、実用的な第1変速部を備えた車両用動力伝達装置において、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明が好適に適用される車両用動力伝達装置10の構成を説明する骨子図である。この動力伝達装置10は、例えば、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両において縦置きされて用いられるものであり、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力軸14と、その入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパ(振動減衰装置)等を介して間接に連結された差動部16と、その差動部16と駆動輪34(図6を参照)との間の動力伝達経路において伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結された自動変速部20と、その自動変速部20に連結された出力軸22とを、直列に備えている。ここで、上記差動部16から出力される駆動力(回転トルク)は、上記伝達部材18を介して上記自動変速部20へ伝達される。すなわち、その伝達部材18は、上記差動部16の出力回転要素として機能すると共に、上記自動変速部20の入力回転要素として機能する。
【0021】
上記動力伝達装置10には、走行用の主動力源としてのエンジン8が設けられており、その出力軸(クランク軸)が上記入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパを介して直接的に連結されている。このエンジン8は、例えば、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関である。また、上記エンジン8と一対の駆動輪34との間には動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6を参照)が設けられており、上記エンジン8から出力された動力は上記差動部16、自動変速部20、差動歯車装置32、及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達される。このように、本実施例の動力伝達装置10において上記エンジン8と差動部16とは直結されている。この直結はトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパ等を介する連結はこの直結に含まれる。なお、上記動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
【0022】
前記差動部16は、第1電動機M1と、第2電動機M2と、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置24とを、備えて、その第1電動機M1の運転状態が制御されることにより入力回転速度と出力回転速度の差動状態が制御されるように構成されたものであり、上記第1電動機M1は上記第1遊星歯車装置24の回転要素としてのサンギヤS1(第2回転要素RE2)に、上記第2電動機M2は前記伝達部材18と一体的に回転させられる上記第1遊星歯車装置24のリングギヤR1(第3回転要素RE3)にそれぞれ連結されている。この差動部16は、換言すれば、上記第1電動機M1と、前記入力軸14から入力されるエンジン8の出力とを機械的に分配する機械的機構であって、エンジン出力を第1電動機M1及び伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構36を構成している。上記第1電動機M1及び第2電動機M2は、好適には、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる原動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータであるが、上記第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電機)機能を少なくとも備え、上記第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(発動機)機能を少なくとも備える。すなわち、前記動力伝達装置10において、上記第2電動機M2は主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能する。以下、上記第1電動機M1及び第2電動機M2を特に区別しない場合には、単に電動機Mという。
【0023】
上記第1遊星歯車装置24は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するものであり、上記動力分配機構36は斯かる第1遊星歯車装置24及びその第1遊星歯車装置24の回転要素に連結された上記電動機Mを主体として構成されている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリアCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0024】
前記動力分配機構36において、第1キャリアCA1は前記入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は前記第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は前記伝達部材18に連結されている。このように構成された上記動力分配機構36は、前記第1遊星歯車装置24に備えられた3つの回転要素である第1サンギヤS1、第1キャリアCA1、及び第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能な状態すなわち差動作用が働く差動状態とされることから、前記エンジン8から出力される駆動力が前記第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配された駆動力の一部で前記第1電動機M1により発電が行われたり、前記第2電動機M2が回転駆動されるというように、前記差動部16(動力分配機構36)は電気的な差動装置として機能させられる。これにより、例えば、前記差動部16は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、前記エンジン8の所定回転にかかわらず前記伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、前記差動部16はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気式差動部(電気式無段変速機)として機能し得る第1変速部に対応する。
【0025】
前記自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、及びシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備え、有段式の第2変速部として機能する遊星歯車式の自動変速機である。また、第1変速部としての前記動力分配機構36に連結され、その動力分配機構36から出力される動力を前記駆動輪34へ伝達する機械式の動力伝達部として機能する。上記第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリアCA2、及び第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。また、上記第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転及び公転可能に支持する第3キャリアCA3、及び第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。また、上記第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転及び公転可能に支持する第4キャリアCA4、及び第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。上記第2サンギヤS2の歯数をZS2、上記第2リングギヤR2の歯数をZR2、上記第3サンギヤS3の歯数をZS3、上記第3リングギヤR3の歯数をZR3、上記第4サンギヤS4の歯数をZS4、上記第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0026】
また、前記自動変速部20は、その自動変速部20において所定の変速段を成立させるための複数の係合要素として、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)を備えている。これらクラッチC及びブレーキBは、好適には、何れも従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するための装置である。
【0027】
以上のように構成された自動変速部20では、上記第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されており、第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、上記第2キャリアCA2は第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、上記第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、上記第2リングギヤR2と第3キャリアCA3と第4キャリアCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結されている。また、上記第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されており、第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。
【0028】
このように、前記自動変速部20内の回転要素と差動部16(伝達部材18)とは、その自動変速部20の各ギヤ段(変速段)を成立させるために用いられる第1クラッチC1及び/又は第2クラッチC2を介して選択的に連結されるようになっている。換言すれば、斯かる第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、第1変速部としての動力分配機構36と第2変速部としての自動変速部20との間の動力伝達経路すなわち差動部16(伝達部材18)から駆動輪34への動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、上記第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされた車両の駆動状態とされ、上記第1クラッチC1及び第2クラッチC2が共に解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされた車両の非駆動状態とされる。
【0029】
前記自動変速部20では、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチ・ツウ・クラッチ変速が実行されて各ギヤ段が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N1N/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1及び第3ブレーキB3の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
【0030】
以上のように構成された動力伝達装置10において、電気式無段変速機として機能する前記動力分配機構36と、機械式有段変速機として機能する自動変速部20とで、全体として無段変速機が構成される。また、前記動力分配機構36の変速比を一定となるように制御することにより、その動力分配機構36と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。具体的には、前記動力分配機構36が無段変速機として機能し、且つその動力分配機構36に直列された前記自動変速部20が有段変速機として機能することにより、その自動変速部20の少なくとも1つの変速段に対してその自動変速部20に入力される回転速度すなわち前記伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられてその変速段において無段的な変速比幅が得られる。従って、前記動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、前記動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、前記差動部16の変速比γ0と前記自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される前記動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。
【0031】
例えば、図2の係合作動表に示される前記自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対して前記伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、前記動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。また、前記動力分配機構36の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する前記動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。従って、前記動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。例えば、前記動力分配機構36の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるように前記自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する前記動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。また、前記自動変速部20の第4速ギヤ段において前記動力分配機構36の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
【0032】
図3は、前記動力分配機構36及び自動変速部20から構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、前記第1遊星歯車装置24、第2遊星歯車装置26、第3遊星歯車装置28、及び第4遊星歯車装置30それぞれのギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち前記入力軸14に連結された前記エンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが前記伝達部材18の回転速度を示している。また、前記動力分配機構36を構成する差動部16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリアCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は前記第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。更に、前記自動変速部20に対応する5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリアCA2、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリアCA3、第4キャリアCA4、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は前記第2遊星歯車装置26、第3遊星歯車装置28、及び第4遊星歯車装置30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。ここで、共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、前記動力分配機構36では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、前記自動変速部20では前記第2遊星歯車装置26、第3遊星歯車装置28、及び第4遊星歯車装置30毎にそのサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリアとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0033】
図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、前記動力分配機構36(差動部16)において、前記第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリアCA1)が前記入力軸14すなわちエンジン8の出力軸に連結されている。また、第2回転要素RE2が前記第1電動機M1に連結されている。また、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が前記伝達部材18及び第2電動機M2に連結されており、前記入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。この図3においては、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。例えば、前記動力分配機構36においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、前記エンジン回転速度NEを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される第1キャリアCA1の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転速度すなわち第1電動機M1の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、前記動力分配機構36の変速比γ0が「1」に固定されるように前記第1電動機M1の回転速度を制御することによって第1サンギヤS1の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で第1リングギヤR1の回転速度すなわち前記伝達部材18が回転させられる。また、前記動力分配機構36の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように前記第1電動機M1の回転速度を制御することによって第1サンギヤS1の回転が零とされると、エンジン回転速度NEよりも増速された速度で前記伝達部材18が回転させられる。
【0034】
また、図3の共線図では、前記自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結される。また、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結される。また、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介して前記ケース12に選択的に連結される。また、第7回転要素RE7は前記出力軸22に連結されている。また、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結される。前記自動変速部20では、前記動力分配機構36において直線L0が横線X2と一致させられてエンジン回転速度NEと同じ回転速度がその動力分配機構36から第8回転要素RE8に入力されると、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の前記出力軸22の回転速度が示される。また、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示される。また、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0035】
図4は、前記動力伝達装置10を制御するためにその動力伝達装置10に備えられた電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェース等から成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記エンジン8の駆動制御、そのエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御、及び前記自動変速部20における有段変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0036】
図4に示すように、上記電子制御装置40には、各センサやスイッチ等から前記動力伝達装置10に関する各種信号が供給されるようになっている。例えば、エンジン水温を表す信号、シフトレバー52(図5を参照)のシフトポジションや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、蓄電装置56(図6を参照)の温度を表す信号、その蓄電装置56の充電容量(充電状態)SOCを表す信号、前記第1電動機M1の回転速度NM1を表す信号、前記第2電動機M2の回転速度NM2を表す信号、前記エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、マニュアルモード(手動変速走行モード)スイッチのオン・オフを表す信号、エアコンの作動を表す信号、車速Vに対応する前記出力軸22の回転速度NOUTを表す信号、前記自動変速部20の制御作動に用いられるATF温度を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、そのフットブレーキに対応するブレーキマスタシリンダ圧を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル44の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号等がそれぞれ供給される。
【0037】
また、前記動力伝達装置10の駆動を制御するために、前記電子制御装置40から各種制御信号が出力されるようになっている。例えば、前記エンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68による前記エンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号等、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置58(図6を参照)への制御信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、前記第1電動機M1及び第2電動機M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、マニュアルモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、前記自動変速部20等に備えられた油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路38に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、その油圧制御回路38に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動オイルポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号、駆動力源の出力(以下、駆動力源出力という)を抑制中例えばエンジン出力(パワー)及び/又は第2電動機M2の出力(以下、第2電動機出力という)を抑制中であることを運転者に知らせるための出力抑制中信号等がそれぞれ出力される。
【0038】
図5は、前記動力伝達装置10において複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。そのシフトレバー52は、前記動力伝達装置10(自動変速部20)内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、前記動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて前記差動部16の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる前記動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて前記自動変速部20の自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0039】
前記動力伝達装置10では、上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して前述した図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば前記油圧制御回路38における回路が電気的に切り換えられる。また、上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHに関して、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の何れもが解放されるような前記自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1及び第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション、及び「M」ポジションは、車両の走行に際して選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような前記自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1及び/又は第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0040】
図5に示すシフト操作装置50において、具体的には、前記シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて前記自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、前記シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて前記自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、前記シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて前記自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。また、前記シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されて前記自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0041】
図6は、前記電子制御装置40に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図6に示す有段変速制御手段100及びハイブリッド制御手段102は、前記動力伝達装置10に備えられた動力分配機構36及び自動変速部20を制御することで、その動力伝達装置10の変速比を制御する。すなわち、上記有段変速制御手段100は、以下に詳述する油圧制御回路38を介して第2変速部としての前記自動変速部20の段階的な自動変速を制御する。また、上記ハイブリッド制御手段102は、インバータ54及びエンジン出力制御装置58等を介して前記エンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2の駆動を制御することにより前記動力分配機構36の変速比を制御する。
【0042】
上記有段変速制御手段100は、例えば図7に示すような車速Vと前記自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から、実際の車速V及び前記自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、その自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し(すなわち変速すべき変速段を判断し)、その判断した変速段が得られるように前記油圧制御回路38を介して前記自動変速部20の自動変速制御を実行する。具体的には、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、前記自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を前記油圧制御回路38に備えられた前記リニアソレノイド弁SL等へ出力する。換言すれば、前記自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチ・ツウ・クラッチ変速を実行させる指令を前記油圧制御回路38へ出力する。前記油圧制御回路38においては、そのようにして出力される指令に従って、前記リニアソレノイド弁SL等により各油圧式摩擦係合装置すなわちブレーキB、クラッチCに対応する油圧アクチュエータへ供給される油圧が調圧される。
【0043】
また、前記有段変速制御手段100は、好適には、前記自動変速部20の変速に際してその変速に関与する係合要素のトルク容量を予め定められた所定の割合で変化させるスイープ制御を実行する。すなわち、前記自動変速部20のクラッチ・ツウ・クラッチ変速に関して解放される側の係合要素のトルク容量を所定の割合で低下(漸減)させる解放側スイープ制御を実行すると共に、その変速に関して係合される側の係合要素のトルク容量を所定の割合で上昇(漸増)させる係合側スイープ制御を実行する。具体的には、前記自動変速部20の変速に関して解放される側の油圧式摩擦係合装置に対応する油圧を所定の割合で(好適には一次関数的な変化となるように)漸減させると共に、その変速に関して係合される側の油圧式摩擦係合装置に対応する油圧を所定の割合で(好適には一次関数的な変化となるように)漸増させる油圧制御を行う。
【0044】
前記ハイブリッド制御手段102は、前記エンジン出力制御装置58を介して前記エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段104と、前記インバータ54を介して前記第1電動機M1による駆動力源又は発電機としての作動を制御するMG1作動制御手段106と、同じく前記インバータ54を介して前記第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御するMG2作動制御手段108とを、含んでおり、それら制御機能により前記エンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御を実行する。
【0045】
また、前記ハイブリッド制御手段102は、前記動力分配機構36の作動を制御する差動部制御手段として機能するものであり、前記エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、そのエンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や前記第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて前記動力分配機構36の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、その時点における走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、前記第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NE及びエンジントルクTEとなるように前記エンジン8を制御すると共に前記第1電動機M1の発電量を制御する。
【0046】
以上のように、前記動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTは、前記有段変速制御手段100によって制御される自動変速部20の変速比γと、前記ハイブリッド制御手段102によって制御される前記動力分配機構36の変速比γ0とによって決定される。すなわち、前記ハイブリッド制御手段102及び有段変速制御手段100は、運転者による前記シフトレバー52の操作に従い、前記シフト操作装置50に備えられたシフトポジションセンサ48から出力されるシフトポジションを表す信号PSHに基づいて、例えばそのシフトポジションPSHに対応するシフトレンジの範囲内において、前記油圧制御回路38、エンジン出力制御装置58、第1電動機M1、及び第2電動機M2等を介して前記動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTを制御する変速制御手段として機能する。
【0047】
また、前記ハイブリッド制御手段102は、例えば、前記動力伝達装置10の動力性能や燃費向上等を考慮して前記ハイブリッド変速制御を実行する。すなわち、前記エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる前記伝達部材18の回転速度とを整合させるために前記動力分配機構36を電気的な無段変速機として機能させる。換言すれば、前記ハイブリッド制御手段102は、エンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで構成される二次元座標内において無段変速走行時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶された最適燃費率曲線に沿って前記エンジン8が作動させられるように、例えば目標出力を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように前記動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように前記自動変速部20の変速段を考慮して前記動力分配機構36の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で無段階に制御する。
【0048】
このとき、前記ハイブリッド制御手段102は、前記第1電動機M1により発電された電気エネルギを前記インバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、前記エンジン8の動力の主要部は機械的に前記伝達部材18へ伝達されるが、そのエンジン8の動力の一部は前記第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、上記インバータ54を通してその電気エネルギが前記第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から前記伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から前記第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、前記エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。特に、前記有段変速制御手段100により前記自動変速部20の変速制御が実行される場合には、その自動変速部20の変速比が段階的に変化させられることに伴ってその変速前後で前記動力伝達装置10のトータル変速比γTが段階的に変化させられる。
【0049】
上述のような制御では、前記動力伝達装置10のトータル変速比γTが段階的に変化することにより、すなわち変速比が連続的ではなく飛び飛びの値をとることにより、連続的なトータル変速比γTの変化に比較して速やかに駆動トルクを変化させることが可能となる。その反面、変速ショックが発生したり、最適燃費率曲線に沿うようにエンジン回転速度NEを制御できず燃費が悪化する可能性がある。そこで、前記ハイブリッド制御手段102は、そのトータル変速比γTの段階的変化が抑制されるように、前記自動変速部20の変速に同期してその自動変速部20の変速比の変化方向とは反対方向の変速比の変化となるように前記動力分配機構36の変速を実行する。換言すれば、前記自動変速部20の変速前後で前記動力伝達装置10のトータル変速比γTが連続的に変化するように前記自動変速部20の変速制御に同期して前記動力分配機構36の変速制御を実行する。例えば、前記自動変速部20の変速前後で過渡的に前記動力伝達装置10のトータル変速比γTが変化しないような所定のトータル変速比γTを形成するために前記自動変速部20の変速制御に同期して、その自動変速部20の変速比の段階的な変化に相当する変化分だけその変化方向とは反対方向に変速比を段階的に変化させるように前記動力分配機構36の変速制御を実行する。
【0050】
また、前記ハイブリッド制御手段102は、車両の停止中又は走行中にかかわらず、前記動力分配機構36の電気的CVT機能によって、例えば前記第1電動機M1の回転速度NM1を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり、任意の回転速度に制御したりというように、前記第1電動機M1を介して前記エンジン8の回転速度を制御する。例えば、前述した図3の共線図からもわかるように、車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34の回転速度)に対応する前記第2電動機M2の回転速度NM2を略一定に維持しつつ前記第1電動機M1の回転速度NM1の引き上げを実行する。
【0051】
また、前記ハイブリッド制御手段102(エンジン駆動制御手段104)は、スロットル制御のために前記スロットルアクチュエータ64を介して前記電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために前記燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせて前記エンジン出力制御装置58に出力し、必要なエンジン出力を発生するように前記エンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御を実行する。例えば、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいて前記スロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、前記エンジン出力制御装置58は、前記エンジン駆動制御手段104による指令に従ってスロットル制御のために前記スロットルアクチュエータ64により前記電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために前記燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の上記点火装置68による点火時期を制御する等してエンジントルク制御を実行する。
【0052】
また、前記ハイブリッド制御手段102は、前記エンジン8の停止又はアイドル状態にかかわらず、前記動力分配機構36の電気的CVT機能(差動作用)によって車両をモータ走行(EVモード走行)させる。例えば、図7に示すような車速Vと前記自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶された、走行用の駆動力源を前記エンジン8と第2電動機M2とで切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する関係(駆動力源切換線図、駆動力源マップ)から、実際の車速V及び前記自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。図7の実線Aに示す駆動力源マップは、例えばその図7における実線及び一点鎖線に示す変速マップと共に予め記憶されたものである。この図7から明らかなように、前記ハイブリッド制御手段102によるモータ走行制御は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。
【0053】
斯かるモータ走行制御に際して、前記ハイブリッド制御手段102は、停止している前記エンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、前記第1電動機M1の回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えばその第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させ、前記動力分配機構36の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。また、エンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる前記第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は前記蓄電装置56からの電気エネルギを前記第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して前記駆動輪34にトルクを付与することにより、前記エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。また、前記第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、前記動力分配機構36がトルクの伝達を不能な状態すなわちその差動部16内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つその差動部16からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、前記ハイブリッド制御手段102は、前記第1電動機M1を無負荷状態とすることにより前記動力分配機構36をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0054】
このように、図7に示すような駆動力源マップにおいては、モータ走行領域は一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低トルク出力トルクTOUT域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行されるように定められている。また、図7には示されていないが、「R」ポジション、すなわち車両を後退させる場合においても、比較的低車速で走行するものであるから、前記エンジン8を用いず前記第2電動機M2によって走行するようにされている。従って、例えば所定の低車速時や車両停止時等に前記シフトレバー52「N」ポジションから「D」ポジション或いは「R」ポジションへ操作されるガレージシフト(N→Dシフト、N→Rシフト或いはP→Rシフト)が行なわれる際には、前記ハイブリッド制御手段102は、エンジンではなくモータによる動力によって車両を走行させる制御を行う。
【0055】
図6に戻って、変速進行度判定手段110は、第2変速部としての前記自動変速部20における変速に際して、その変速の進行度が予め定められた段階に達しているか否かを判定する。好適には、判定対象となる変速のイナーシャ相の開始に応じて上記判定を行う。すなわち、判定対象となる変速のイナーシャ相開始前である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断する。また、好適には、判定対象となる変速に係る解放側係合要素のトルク容量に基づいて上記判定を行う。すなわち、判定対象となる変速に係る解放側係合要素(例えば、第2速から第3速への変速では第2ブレーキB2)のトルク容量が予め定められた所定値以上である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判定する。また、好適には、判定対象となる変速の出力からの経過時間に基づいて上記判定を行う。すなわち、判定対象となる変速の出力からの経過時間が予め定められた所定時間未満である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判定する。また、好適には、判定対象となる変速のイナーシャ相開始からの経過時間に基づいて上記判定を行う。すなわち、判定対象となる変速のイナーシャ相開始からの経過時間が予め定められた所定時間未満である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判定する。また、好適には、上述した進行度の判定は、前記自動変速部20のメンバ回転速度の変化量に基づいて行われる。
【0056】
ここで、前記エンジン駆動制御手段104は、専ら前記電動機Mを駆動力源とするモータ走行時等において、アクセルペダル44の操作量(踏み込み量)に基づいて前記エンジン8の始動を判定する。例えば、アクセル開度センサ46から供給される上記アクセルペダル44の操作量であるアクセル開度Accが予め定められた所定値以上となった場合に、前記エンジン8の始動を判定する。すなわち、前記エンジン駆動制御手段104は、専ら前記電動機Mを駆動力源とするモータ走行時等において、前記エンジン8の始動を判定するエンジン始動判定手段として機能する。
【0057】
また、前記有段変速制御手段100及びハイブリッド制御手段102は、専ら前記電動機Mを駆動力源とするモータ走行中において、前記自動変速部20のアップシフト変速実行中であり且つその変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、上記アクセルペダル44が踏み込まれる等して前記エンジン8の始動が判定された場合には、その変速を中止して前記エンジン8を始動させる制御を行う。すなわち、前記ハイブリッド制御手段102により専ら前記電動機Mを駆動力源とするモータ走行が行われている場合であり、且つ前記有段変速制御手段100により前記自動変速部20のアップシフト変速が実行されている場合において、上記変速進行度判定手段110の判定が否定される場合に、アクセル開度センサ46から供給される上記アクセルペダル44の操作量であるアクセル開度Accが予め定められた所定値以上となり前記ハイブリッド制御手段102(エンジン駆動制御手段104)により前記エンジン8の始動が判定された場合には、前記有段変速制御手段100により実行中である変速を中止して前記エンジン8を始動させる制御を行う。
【0058】
また、前記有段変速制御手段100及びハイブリッド制御手段102は、専ら前記電動機Mを駆動力源とするモータ走行中において、前記自動変速部20のアップシフト変速実行中であり且つその変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、前記アクセルペダル44が踏み込まれる等して前記エンジン8の始動が判定された場合には、その変速を中止すると共にダウンシフト変速を開始し、前記エンジン8を始動させる制御を行う。すなわち、前記ハイブリッド制御手段102により専ら前記電動機Mを駆動力源とするモータ走行が行われている場合であり、且つ前記有段変速制御手段100により前記自動変速部20のアップシフト変速が実行されている場合において、前記変速進行度判定手段110の判定が否定される場合に、アクセル開度センサ46から供給される前記アクセルペダル44の操作量であるアクセル開度Accが予め定められた所定値以上となり前記ハイブリッド制御手段102(エンジン駆動制御手段104)により前記エンジン8の始動が判定された場合には、前記有段変速制御手段100により実行中である変速を中止すると共にダウンシフト変速を開始し、前記エンジン8を始動させる制御を行う。このダウンシフト変速は、好適には、実行中であったアップシフト変速が第2速から第3速への変速であった場合には第2速から第1速への変速、同じく実行中であったアップシフト変速が第3速から第4速への変速であった場合には第3速から第2速への変速といったように、中止されたアップシフト変速における変速前の変速段から低速側の変速段(変速比の大きな変速段)への変速である。
【0059】
図8は、前記有段変速制御手段100及びハイブリッド制御手段102による変速時エンジン始動制御を説明するタイムチャートであり、対象となる変速のイナーシャ相の開始に応じてその変速の進行度を判定する態様を例示している。また、この図8では、本実施例の制御による各部の値を実線で、従来の制御による各部の値を破線でそれぞれ示している。図8に示す例では、先ず、時点t1において、前記自動変速部20のアップシフト変速が出力される。これにより、解放圧すなわち解放側係合要素のアクチュエータに対応する油圧を漸減させる制御が開始されると共に、係合圧すなわち係合側係合要素のアクチュエータに対応する油圧を漸増させる制御が開始される。次に、前記アクセルペダル44が踏み込まれ、前記アクセル開度センサ46から供給されるアクセル開度Accが予め定められた所定値以上となり、時点t2において、前記エンジン8の始動が判定される。ここで、破線で示す従来の制御では、時点t4において変速が終了させられるまで前記エンジン8の始動が遅延させられる。このため、その時点t4から時点t5までエンジン回転速度の上昇制御が行われ、その時点t5において初めて前記エンジン8の始動の結果として出力軸トルクの上昇が開始される。従って、運転者には、前記アクセルペダル44の踏み込みに応じた駆動力が即座に出力されずもたつき感(駆動力不足感)が発生する。一方、実線で示す本実施例の制御では、時点t2において前記エンジン8の始動が判定された時点で、実行中のアップシフト変速のイナーシャ相が開始しているか否かが判定される。図8に示す制御では、時点t2においてイナーシャ相は開始されていないため、アップシフト変速が中止されて解放圧が漸増に転じられると共に、係合圧が漸減に転じられる。また、斯かる変速の中止に相前後して前記エンジン8の始動が行われ、時点t2から時点t3までエンジン回転速度の上昇制御が行われる。これにより、その時点t3から前記エンジン8の始動の結果として出力軸トルクの上昇が開始され、運転者による前記アクセルペダル44の踏み込みに応じてレスポンス良く駆動力が出力される。
【0060】
図9は、前記有段変速制御手段100及びハイブリッド制御手段102による変速時エンジン始動制御を説明するタイムチャートであり、対象となる変速に係る解放側係合要素のトルク容量に基づいてその変速の進行度を判定する態様を例示している。また、この図9では、上述した図8と同様に、本実施例の制御による各部の値を実線で、従来の制御による各部の値を破線でそれぞれ示している。図9に示す制御では、先ず、時点t1において、前記自動変速部20のアップシフト変速が出力される。これにより、解放圧すなわち解放側係合要素のアクチュエータに対応する油圧を漸減させる制御が開始されると共に、係合圧すなわち係合側係合要素のアクチュエータに対応する油圧を漸増させる制御が開始される。次に、前記アクセルペダル44が踏み込まれ、前記アクセル開度センサ46から供給されるアクセル開度Accが予め定められた所定値以上となり、時点t2において、前記エンジン8の始動が判定される。ここで、破線で示す従来の制御では、時点t3において変速が終了させられるまで前記エンジン8の始動が遅延させられる。このため、その時点t3から時点t5までエンジン回転速度の上昇制御が行われ、その時点t5において初めて前記エンジン8の始動の結果として出力軸トルクの上昇が開始される。従って、運転者には、前記アクセルペダル44の踏み込みに応じた駆動力が即座に出力されずもたつき感(駆動力不足感)が発生する。一方、実線で示す本実施例の制御では、時点t2において前記エンジン8の始動が判定された時点で、実行中のアップシフト変速に係る解放側係合要素のトルク容量が所定値未満であるか否かが判定される。図8に示す制御では、時点t2において解放側係合要素のトルク容量が所定値以上であるため、アップシフト変速が中止されて解放圧が漸増に転じられると共に、係合圧が漸減に転じられる。また、斯かる変速の中止に相前後して前記エンジン8の始動が行われ、時点t2から時点t4までエンジン回転速度の上昇制御が行われる。これにより、その時点t4から前記エンジン8の始動の結果として出力軸トルクの上昇が開始され、運転者による前記アクセルペダル44の踏み込みに応じてレスポンス良く駆動力が出力される。
【0061】
ここで、好適には、前記変速進行度判定手段110による変速の進行度の判断基準は、前記自動変速部20の油温すなわちAT油温に基づいて変更される。図10は、前記自動変速部20の油温と、変速進行度の判定基準値の一例としての変速出力からの経過時間基準値との関係を例示する図である。前記変速進行度判定手段110は、判定対象となる変速の出力からの経過時間がこの経過時間基準値未満である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断する。図10に示すように、前記変速進行度判定手段110による変速の進行度の判断基準としての変速出力からの経過時間基準値は、前記自動変速部20の油温が高いほど小さい値に設定される。これは、前記自動変速部20の油温に応じた作動油の粘性により応答性が変化することに基づくものであり、前記自動変速部20の油温に応じて前記変速の進行度の判断基準を適宜定めることで、その自動変速部20の変速に際してその変速の進行度が予め定められた段階に達しているか否かを好適に判定することができるのである。
【0062】
図11は、前記電子制御装置40による変速時エンジン始動制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0063】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、AT油温に応じて変速進行度の判定基準値が補正(変更)される。次に、S2において、前記自動変速部20においてアップシフト変速が実行中であるか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が肯定される場合には、S3において、前記アクセル開度センサ46から供給されるアクセル開度Accが予め定められた所定値以上となる等して前記エンジン8の始動が判定されたか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S4において、前記自動変速部20のアップシフト変速制御が継続させられた後、本ルーチンが終了させられるが、S3の判断が肯定される場合には、S5において、前記自動変速部20のアップシフト変速の変速進行度が所定値以上であるか否かが判断される。具体的には、アップシフト変速のイナーシャ相が開始されているか否か、解放側係合要素のトルク容量が所定値未満であるか否か、アップシフト変速の出力から所定時間が経過しているか否か、或いはアップシフト変速のイナーシャ相開始から所定時間が経過しているか否か等が判断される。このS5の判断が否定される場合、すなわちアップシフト変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断される場合には、S6において、アップシフト変速が中止されると共に、前記エンジン8の始動制御が開始された後、本ルーチンが終了させられるが、S5の判断が肯定される場合には、S7において、アップシフト変速が継続させられると共に、前記エンジン8の始動が遅延させられた後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S4、S6、及びS7が前記有段変速制御手段100及びエンジン駆動制御手段104の動作に、S1及びS5が前記変速進行度判定手段110の動作にそれぞれ対応する。
【0064】
図12は、前記電子制御装置40による変速時エンジン始動制御の他の一例の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この図12に示す制御において、上述した図11に示す制御と共通するステップについては、同一の符号を付してその説明を省略する。この図12に示す制御において、S5の判断が否定される場合、すなわちアップシフト変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断される場合には、S8において、アップシフト変速が中止されると共にダウンシフト変速が開始され、前記エンジン8の始動制御が開始された後、本ルーチンが終了させられる。
【0065】
このように、本実施例によれば、エンジン8と、電動機M及び差動部16を備えて電気式差動部として機能し得る第1変速部としての動力分配機構36と、その動力分配機構36に連結された有段式の第2変速部としての自動変速部20とを、備え、前記エンジン8から出力される動力を駆動輪34へ伝達させる動力伝達装置10の制御装置であって、専ら前記電動機Mを駆動力源とする走行中において、前記自動変速部20のアップシフト変速実行中であり且つその変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、前記エンジン8の始動が判定された場合には、その変速を中止して前記エンジン8を始動させる制御を行うものであることから、前記自動変速部20のアップシフト変速中であってもアクセルペダル44の踏み込みに応じて即座に駆動力を出力させることができる。すなわち、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制する動力伝達装置10の制御装置を提供することができる。
【0066】
また、専ら前記電動機Mを駆動力源とする走行中において、前記自動変速部20のアップシフト変速実行中であり且つその変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、前記エンジン8の始動が判定された場合には、その変速を中止すると共にダウンシフト変速を開始し、前記エンジン8を始動させる制御を行うものであることから、前記自動変速部20のアップシフト変速中であってもアクセルペダル44の踏み込みに応じて即座に駆動力を出力させることができる。すなわち、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制する動力伝達装置10の制御装置を提供することができる。
【0067】
また、前記アップシフト変速のイナーシャ相開始前である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものであるため、前記アップシフト変速のイナーシャ相開始前であれば、前記自動変速部20のメンバ回転速度変化が生じていないため、そのアップシフト変速を中止してもショックが発生しないと判断できるのでその変速を中止して前記エンジン8を始動させる一方、イナーシャ相開始後であればその変速を継続することでショックの発生を好適に抑制することができる。
【0068】
また、前記アップシフト変速に係る解放側係合要素のトルク容量が所定値以上である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものであるため、前記アップシフト変速に係る解放側係合要素のトルク容量が所定値以上であれば、そのアップシフト変速を中止してもショックが発生しないと判断できるのでその変速を中止して前記エンジン8を始動させる一方、トルク容量が所定値未満であればその変速を継続することでショックの発生を好適に抑制することができる。
【0069】
また、前記アップシフト変速の出力からの経過時間が所定時間未満である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものであるため、前記アップシフト変速の出力からの経過時間が所定時間未満であれば、そのアップシフト変速を中止してもショックが発生しないと判断できるのでその変速を中止して前記エンジン8を始動させる一方、経過時間が所定時間以上であればその変速を継続することでショックの発生を好適に抑制することができる。
【0070】
また、前記アップシフト変速のイナーシャ相開始からの経過時間が所定時間未満である場合に、その変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものであるため、前記アップシフト変速のイナーシャ相開始からの経過時間が所定時間未満であれば、そのアップシフト変速を中止してもショックが発生しないと判断できるのでその変速を中止して前記エンジン8を始動させる一方、経過時間が所定時間以上であればその変速を継続することでショックの発生を好適に抑制することができる。
【0071】
また、前記アップシフト変速の進行度は、前記自動変速部20のメンバ回転速度の変化量に基づいて判定されるものであるため、実用的な態様で前記アップシフト変速の進行を判定することができる。
【0072】
また、前記アップシフト変速の進行度の判断基準は、前記自動変速部20の油温に基づいて変更されるものであるため、実用的な態様で前記アップシフト変速の進行を判定することができる。
【0073】
また、前記アクセルペダル44の踏み込み量に応じて前記エンジン8の始動を判定するものであるため、実用的な態様で前記エンジン8の始動を判定することができる。
【0074】
また、前記自動変速部20は、車両の走行状態に応じて自動変速を行うものであるため、実用的な有段式自動変速部を備えた動力伝達装置10において、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制することができる。
【0075】
また、前記動力分配機構36は、第1遊星歯車装置24と、その第1遊星歯車装置24の回転要素に連結された2つの電動機M1、M2とから成るものであるため、実用的な第1変速部を備えた動力伝達装置10において、アクセル踏み込み時のもたつき感の発生を抑制することができる。
【0076】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0077】
例えば、前述の実施例において、前記第2電動機M2は、前記自動変速部20の入力回転要素である第3回転要素RE3に動力伝達可能に連結されたものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記自動変速部20を構成する何れの回転要素に動力伝達可能に連結されたものであってもよい。すなわち、前記第2電動機M2は、前記エンジン8から駆動輪34の間の動力伝達経路における何れの部分に設けられたものであってもよい。
【0078】
また、前述の実施例では、機械式の動力伝達部として第1速から第4速までを選択的に成立させ得る変速機である自動変速部20が設けられた動力伝達装置10に本発明が適用された例を説明したが、例えば、斯かる自動変速部20の代替として、より簡単な構成の例えば前進3段の自動変速部や、より多段階の変速を実行し得る前進5段以上の自動変速部が備えられた動力伝達装置等にも本発明は好適に適用される。
【0079】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明が好適に適用される車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の動力伝達装置に備えられた自動変速部において複数の変速段を成立させる際の油圧式摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。
【図3】図1の動力伝達装置に備えられた差動部及び自動変速部に関して、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図である。
【図4】図1の動力伝達装置を制御するためにその動力伝達装置に備えられた電子制御装置に入力される信号及びその電子制御装置から出力される信号を例示する図である。
【図5】図1の動力伝達装置において複数種類のシフトポジションを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置の一例を示す図である。
【図6】図4の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の動力伝達装置に関して、自動変速部の変速段を判定したりエンジン走行モードとモータ走行モードとを切り換えるための判断に用いられる、車速と自動変速部の出力トルクとを変数として予め記憶されたアップシフト線及びダウンシフト線を有する関係の一例である。
【図8】図4の電子制御装置による変速時エンジン始動制御を説明するタイムチャートであり、対象となる変速のイナーシャ相の開始に応じてその変速の進行度を判定する態様を例示している。
【図9】図4の電子制御装置による変速時エンジン始動制御を説明するタイムチャートであり、対象となる変速に係る解放側係合要素のトルク容量に基づいてその変速の進行度を判定する態様を例示している。
【図10】図4の電子制御装置による変速時エンジン始動制御に係る変速進行度の判定に用いられる、自動変速部の油温と、変速進行度の判定基準値の一例としての変速出力からの経過時間基準値との関係を例示する図である。
【図11】図4の電子制御装置による変速時エンジン始動制御の要部を説明するフローチャートである。
【図12】図4の電子制御装置による変速時エンジン始動制御の他の一例の要部を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0081】
8:エンジン
10:車両用動力伝達装置
16:差動部
20:自動変速部(第2変速部)
34:駆動輪
36:動力分配機構(第1変速部)
M1:第1電動機
M2:第2電動機
B1〜B3:ブレーキ(係合要素)
C1、C2:クラッチ(係合要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、電動機及び差動部を備えて電気式差動部として機能し得る第1変速部と、該第1変速部に連結された有段式の第2変速部とを、備え、前記エンジンから出力される動力を駆動輪へ伝達させる車両用動力伝達装置の制御装置であって、
専ら前記電動機を駆動力源とする走行中において、前記第2変速部のアップシフト変速実行中であり且つ該変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、前記エンジンの始動が判定された場合には、該変速を中止して前記エンジンを始動させる制御を行うものであることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
エンジンと、電動機及び差動部を備えて電気式差動部として機能し得る第1変速部と、該第1変速部に連結された有段式の第2変速部とを、備え、前記エンジンから出力される動力を駆動輪へ伝達させる車両用動力伝達装置の制御装置であって、
専ら前記電動機を駆動力源とする走行中において、前記第2変速部のアップシフト変速実行中であり且つ該変速の進行度が予め定められた段階に達していない際に、前記エンジンの始動が判定された場合には、該変速を中止すると共にダウンシフト変速を開始し、前記エンジンを始動させる制御を行うものであることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記アップシフト変速のイナーシャ相開始前である場合に、該変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものである請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記アップシフト変速に係る解放側係合要素のトルク容量が所定値以上である場合に、該変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものである請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記アップシフト変速の出力からの経過時間が所定時間未満である場合に、該変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものである請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記アップシフト変速のイナーシャ相開始からの経過時間が所定時間未満である場合に、該変速の進行度が予め定められた段階に達していないと判断するものである請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記アップシフト変速の進行度は、前記第2変速部のメンバ回転速度の変化量に基づいて判定されるものである請求項1から6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記アップシフト変速の進行度の判断基準は、前記第2変速部の油温に基づいて変更されるものである請求項1から7の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−143388(P2009−143388A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322643(P2007−322643)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】