説明

電子制御式無段変速機、それを備えたパワーユニット、およびそれを備えた車両

【課題】電子制御式無段変速機において、確実に経時変化の発生を未然に防止する。
【解決手段】電子制御式無段変速機は、Vベルト32、主電源32、入力軸21d、出力軸22d、プライマリ可動シーブ体21b、プライマリ固定シーブ体21a、モータ30、EPU7、および、シーブ位置センサ40を備える。EPU7は、プライマリ可動シーブ体21bの原点位置Pを記憶するメモリ7b、主電源32の入力後にプライマリ可動シーブ体21bを原点位置Pまで移動させる原点位置移動部121、シーブ位置センサ40によって検出された今回の原点位置P´を新たな原点位置Pとしてメモリ7bに記憶させる原点位置設定部122、および、主電源32の入力後かつ原点位置設定部122が原点位置Pの確認を終了するまでエンジン10の始動を禁止するモータ駆動信号検出部126、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御式無段変速機、それを備えたパワーユニット、およびそれを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機および制御装置を含んだ従来の電子制御式無段変速機に関して、例えば、下記特許文献1に記載された電子制御式無段変速機が知られている。下記特許文献1に記載の無段変速機の制御装置は、無段変速機の変速比を所定の変速指令信号によって制御している。前記制御装置は、前記変速指令信号にノイズが入力されて誤差を生ずると、この誤差が累積され、前記変速指令信号の入力値と前記無段変速機の実際の変速比とが対応しなくなるおそれがある。このような前記変速指令信号の入力値と前記無段変速機の実際の変速比とが対応しなくなるような経時変化は、前記無段変速機の変速比に係る機械部品の摩耗によっても引き起こされる。そのため、前記制御装置は、前記経時変化が発生することを未然に防止している。前記経時変化の発生を未然に防止するために、前記無段変速機および前記制御装置は、前記無段変速機の実際に変速が行われる機械的範囲を確認し、前記機械的範囲の所定の位置を制御上の原点と設定するような制御を行っている。これにより、前記制御装置は、誤差の累積を防止することができるとしている。
【0003】
さらに、前記無段変速機および前記制御装置は、前記無段変速機を備える車両において、少なくとも前記車両の電源がオフからオンになったときを含んだ当該制御装置がリセットされた場合であって、且つ当該制御装置に設けられる車速センサから検出される車速が所定の車速以下の場合に前記制御を行っている。
【0004】
前記より、前記制御装置は、前記車両の電源がオフからオンになったときであって前記車速が所定の車速を超える場合は、前記制御は行われない。前記制御装置において、前記車両の電源がオフからオンになったときであって前記車速が所定の車速を超える場合に前記制御が行われると、前記無段変速機を備える車両が高速走行中である場合は、無段変速機の変速比が大きくなって過大なエンジンブレーキが作用したり、エンジンが過回転したりするような不具合が考えられる。そのため、前記無段変速機は、電源がオフからオンになったときであって前記車速が所定の車速を超える場合には、前記制御を行わないようにし、前記不具合の発生を防止している。
【特許文献1】特公平5−78457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したとおり、前記制御は、前記車両の電源がオフからオンになったときに行われるのであって、前記車速が所定の車速を超える場合は行われない。そのため、前記制御装置には、前記車両の電源がオフからオンになった後、必ずしも確実に前記制御が行われるわけではないという問題がある。確実に前記制御が行われない場合、前記制御装置は、前記経時変化が発生してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電子制御式無段変速機において、確実に経時変化の発生を未然に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電子制御式無段変速機は、ベルトと、主電源と、エンジンの回転に伴って回転する入力軸と、前記ベルトにより前記入力軸の回転が伝達される出力軸と、前記入力軸の軸心周りに回転し、前記入力軸に対して変位不能に設けられたプライマリ固定シーブ体と、前記入力軸の軸方向において前記プライマリ固定シーブ体に対して変位可能に対向し、前記入力軸と共に回転しかつ前記入力軸の軸方向に移動自在であるプライマリ可動シーブ体と、前記プライマリ可動シーブ体を前記入力軸の軸方向に移動させるように駆動するアクチュエータと、前記アクチュエータの駆動を制御する制御装置と、前記プライマリ可動シーブ体の位置を検出するシーブ位置センサと、を備える電子制御式無段変速機であって、前記制御装置は、前記プライマリ可動シーブ体の原点位置を記憶する記憶部と、前記主電源が入力された後に前記プライマリ可動シーブ体を前記原点位置まで移動させる原点位置移動部と、前記シーブ位置センサによって検出された今回の原点位置を新たな原点位置として前記記憶部に記憶させる原点位置設定部と、前記主電源が入力された後かつ前記原点位置設定部が前記原点位置の確認を終了するまで前記エンジンの始動を禁止するエンジン始動禁止部と、を備えている。
【0008】
前記電子制御式無段変速機において、前記制御は、少なくとも前記原点位置移動部と前記原点位置設定部とを用いて実行される。また、前記制御装置は、前記主電源が入力された後かつ前記原点位置設定部が前記原点位置の確認を終了するまで前記エンジンの始動を禁止する、エンジン始動禁止部を備えている。そのため、本発明による電子制御式無段変速機によれば、前記制御装置は、一旦開始された前記制御を途中で中止することはない。
【発明の効果】
【0009】
したがって、本発明によれば、電子制御式無段変速機において、確実に経時変化の発生を未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
《実施形態1》
(自動二輪車1の構成)
−自動二輪車1の概略構成−
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について、図1に示す自動二輪車1を例に挙げて詳細に説明する。図1に示すように、自動二輪車1は、車体フレーム(図示せず)を備えている。車体フレームには、パワーユニット2が懸架されている。パワーユニット2の後端部には、後輪3が配置されている。本実施形態において、この後輪3は、駆動輪を構成しており、パワーユニット2の動力で駆動される。
【0011】
車体フレームは、操向ハンドル4から下方に延びるヘッドパイプ(図示せず)を有する。ヘッドパイプの上端は、ヘッドパイプカバー400に覆われている。また、ヘッドパイプカバー400の表面はメータパネル200を兼ねている。メータパネル200は、自動二輪車1の走行に必要な情報を表示する。ヘッドパイプの下端には、フロントフォーク5が連結されている。フロントフォーク5の下端部には、前輪6が回転自在に取り付けられている。この前輪6は、パワーユニット2には接続されておらず、従動輪を構成している。なお、本実施形態においては、特に明記がない限り、前後左右および上下の方向というのは、自動二輪車1に乗車するライダーから見た方向であるとする。
【0012】
−パワーユニット2の構成−
次に、図2および図3を参照しながら、パワーユニット2の構成について説明する。
【0013】
{エンジン10の構成}
図2および図3に示すように、パワーユニット2は、エンジン(内燃機関)10と、変速装置20とを備えている。本実施形態では、エンジン10は、強制空冷式の4サイクルエンジンとして説明する。しかしながら、エンジン10は、他の形式のエンジンであってもよい。例えば、エンジン10は、水冷エンジンであってもよい。エンジン10は、2サイクルエンジンであってもよい。
【0014】
図3に示すように、エンジン10は、クランク軸11を備えている。クランク軸11の外周には、スリーブ12がスプライン係合されている。スリーブ12は、軸受13を介してハウジング14に回転自在に軸支されている。スリーブ12の外周には、アクチュエータとしてのモータ30に接続された一方向クラッチ31が取り付けられている。
【0015】
図4に示すように、自動二輪車1の操向ハンドル4には、運転者の手によって操作されるアクセルグリップ4bが設けられている。アクセルグリップ4bは、全閉位置と全開位置との間で回動自在に構成されている。ここでは、アクセルグリップ4bの全閉位置からの回動位置、すなわちアクセル開度がアクセルグリップ4bの操作量となる。通常、加速の際にはアクセル開度が大きくなり、減速の際にはアクセル開度が小さくなる。
【0016】
{動力伝達機構2aの構成}
また、パワーユニット2には、動力伝達機構2aが設けられている。後述するように、パワーユニット2の変速装置20は、電子制御されるベルト式無段変速機である。動力伝達機構2aは、モータ30からベルト式無段変速機に駆動力を伝達する機構である。動力伝達機構2aは、少なくとも、モータ30とクランク軸11と一方向クラッチ31とが、互いに連動するように構成されている。動力伝達機構2aは、本実施形態においては歯車機構が用いられている。しかし、動力伝達機構2aは、歯車機構の他にリンク機構または油圧機構により作動する形態であっても良い。動力伝達機構2aの作動により、モータ30の駆動がクランク軸11に伝達される。モータ30は、変速装置20のアクチュエータとして作動するとともに、スタータモータとして作動することができる。
【0017】
{変速装置20の構成}
変速装置20は、図3に示すように、変速機構20aと、その変速機構20aを制御する制御部9とにより構成されている。制御部9は、演算部としてのECU7と、駆動部としての駆動回路8とにより構成されている。なお、本実施形態では、変速機構20aがベルト式のECVTである例について説明する。ECVTのベルトは樹脂ベルトであってもよく、金属ベルトであってもよく、その他のベルトであってもよい。また、変速機構20aは、ベルト式のECVTに限定されない。変速機構20aは、例えば、トロイダル式のECVTであってもよい。
【0018】
変速機構20aは、プライマリシーブ21と、セカンダリシーブ22と、Vベルト23と、を備えている。Vベルト23は、プライマリシーブ21とセカンダリシーブ22とに巻き掛けられている。Vベルト23は、断面略V字状に形成されている。
【0019】
プライマリシーブ21は、入力軸21dとしてのクランク軸11に接続されている。プライマリシーブ21は、クランク軸11と一体に回転する。プライマリシーブ21は、プライマリ固定シーブ体21aと、プライマリ可動シーブ体21bとを備えている。プライマリ固定シーブ体21aは、クランク軸11の一端に固定されている。プライマリ可動シーブ体21bは、プライマリ固定シーブ体21aに対向して配置されている。プライマリ可動シーブ体21bは、クランク軸11の軸方向に移動可能である。プライマリ固定シーブ体21aとプライマリ可動シーブ体21bとの各対向面によって、Vベルト23が巻き掛けられるベルト溝21cが形成されている。ベルト溝21cは、プライマリシーブ21の径方向外側に向かって幅広となっている。
【0020】
図3に示すように、プライマリ可動シーブ体21bは、クランク軸11が貫通する円筒状のボス部21eを有している。このボス部21eの内側に、円筒状のスライダ24が固定されている。このスライダ24と一体のプライマリ可動シーブ体21bは、クランク軸11の軸方向に移動可能である。このため、ベルト溝21cの溝幅は可変である。
【0021】
また、変速機構20aには、プライマリ可動シーブ体21bの入力軸21dの軸上の移動を規制するストッパ(図示せず)が設けられている。ストッパは、後述する更新制御の際、変速装置20が原点位置Pと設定する位置である。ストッパは、例えば、ハウジング14と動力伝達機構2aとに設けられた突起状の障害物が、互いに当接する形態であっても良い。また、ストッパは、動力伝達機構2aにおいて、機械的な作動が規制される形態であっても良い。
【0022】
プライマリシーブ21のベルト溝21cの溝幅は、モータ30によって、プライマリ可動シーブ体21bがクランク軸11の軸方向に駆動されることによって変更される。すなわち、変速装置20は、変速比が電子的に制御されるECVTである。なお、本実施形態では、モータ30を、パルス幅変調駆動(PWM(Pulse Width Modulation)駆動)されるものとする。ただし、モータ30の駆動方式は、特に限定されるものではない。例えば、モータ30は、パルス振幅変調(pulse-amplitude modulation)駆動されるものであってもよい。また、モータ30はステップモータであってもよい。また、本実施形態では、アクチュエータの一例としてモータ30を用いているが、アクチュエータはモータ30以外のもの、例えば油圧アクチュエータ等であってもよい。
【0023】
セカンダリシーブ22は、プライマリシーブ21の後方に配置されている。セカンダリシーブ22は、セカンダリシーブ軸27に対して、クラッチ25を介して取り付けられている。詳細に、セカンダリシーブ22は、セカンダリ固定シーブ体22aと、セカンダリ可動シーブ体22bとを備えている。セカンダリ可動シーブ体22bは、セカンダリ固定シーブ体22aと対向している。セカンダリ固定シーブ体22aは筒状部22a1を備えている。本実施形態では、この筒状部22a1が変速装置20の出力軸22dを構成している。セカンダリ固定シーブ体22aは、セカンダリシーブ軸27にクラッチ25を介して連結されている。セカンダリ可動シーブ体22bは、セカンダリシーブ軸27の軸方向に移動可能である。これらセカンダリ固定シーブ体22aとセカンダリ可動シーブ体22bとの各対向面によって、Vベルト23が巻き掛けられるベルト溝22cが形成されている。ベルト溝22cは、セカンダリシーブ22の径方向外側に向かって幅広となっている。
【0024】
セカンダリ可動シーブ体22bは、スプリング26によって、ベルト溝22cの溝幅を減じる方向に付勢されている。このことから、モータ30が駆動され、プライマリシーブ21のベルト溝21cの溝幅が小さくなり、プライマリシーブ21に対するVベルト23の巻き掛け径が大きくなると、セカンダリシーブ22側においては、Vベルト23が径方向内側に引かれる。このため、セカンダリ可動シーブ体22bがスプリング26の付勢力に抗してベルト溝22cを広げる方向に移動する。このため、セカンダリシーブ22に対するVベルト23の巻き掛け径が小さくなる。その結果、変速機構20aの変速比が変わる。
【0025】
クラッチ25は、セカンダリ固定シーブ体22aに含まれる出力軸22dとしての筒状部22a1の回転速度に応じて断続される。すなわち、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度未満である場合は、クラッチ25がつながっていない。このため、セカンダリ固定シーブ体22aの回転はセカンダリシーブ軸27に伝達しない。一方、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度以上である場合は、クラッチ25がつながる。このため、セカンダリ固定シーブ体22aの回転がセカンダリシーブ軸27に伝達する。
【0026】
{クラッチ25の構成}
図3に示すように、クラッチ25は、遠心プレート25aと、遠心ウエイト25bと、クラッチハウジング25cと、を備えた遠心クラッチである。遠心プレート25aは、セカンダリ固定シーブ体22aと一体に回転する。つまり、遠心プレート25aは、出力軸22dと共に回転する。遠心ウエイト25bは、遠心プレート25aに、遠心プレート25aの径方向に変位可能に支持されている。クラッチハウジング25cは、セカンダリシーブ軸27の一端に固定されている。セカンダリシーブ軸27には、減速機構28が連結されている。セカンダリシーブ軸27は、この減速機構28を介して車軸29に連結されている。減速機構28は、出力軸22dの回転速度を所定の回転速度に変更する。出力軸22dの回転は、減速機構28を介して車軸29へ伝達される。車軸29には、後輪3が取り付けられている。このように、クラッチハウジング25cは、セカンダリシーブ軸27、減速機構28および車軸29を介して駆動輪としての後輪3に接続されている。
【0027】
クラッチハウジング25cは、出力軸22dの回転速度に応じて、遠心プレート25aに対して断続される。具体的には、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度以上になると、遠心力により遠心ウエイト25bが遠心プレート25aの径方向外側に移動して、クラッチハウジング25cに接触する。これにより、遠心プレート25aとクラッチハウジング25cとが係合する。遠心プレート25aとクラッチハウジング25cとが係合すると、出力軸22dの回転は、クラッチハウジング25c、セカンダリシーブ軸27、減速機構28および車軸29を介して後輪3に伝達される。一方、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度未満となると、遠心ウエイト25bに加わる遠心力が低下し、遠心ウエイト25bがクラッチハウジング25cから離れる。よって、出力軸22dの回転は、クラッチハウジング25cに伝達されない。その結果、後輪3は回転しない。
【0028】
なお、クラッチ25は、遠心クラッチに限定されない。クラッチ25は、遠心クラッチではない摩擦クラッチあってもよい。クラッチ25は手動式のクラッチであってもよい。この場合、図4に示すように、操向ハンドル4に設けられたレバー4eがクラッチレバーとなる。この場合、クラッチの断続は、クラッチレバー4eによって行われる。
【0029】
(自動二輪車1の制御システム)
次に、自動二輪車1の制御システムについて、図5を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
−自動二輪車1の制御システムの概略−
図5に示すように、ECU7には、シーブ位置センサ40が接続されている。シーブ位置センサ40は、プライマリシーブ21のプライマリ可動シーブ体21bの入力軸21dの軸上の位置を検出する。シーブ位置センサ40は、検出されたプライマリ可動シーブ体21bの位置をシーブ位置検出信号としてECU7に出力する。なお、シーブ位置センサ40は、例えば、ポテンショメータ等によって構成することができる。
【0031】
また、ECU7には、入力軸回転速度センサとしてのプライマリシーブ回転センサ43と、出力軸回転速度センサとしてのセカンダリシーブ回転センサ41と、車速センサ42とが接続されている。プライマリシーブ回転センサ43は、プライマリシーブ21の回転速度、すなわち入力軸21dの回転速度を検出する。プライマリシーブ回転センサ43は、検出した入力軸21dの回転速度を、入力軸実回転速度信号としてECU7に出力する。セカンダリシーブ回転センサ41は、セカンダリシーブ22の回転速度、すなわち出力軸22dの回転速度を検出する。セカンダリシーブ回転センサ41は、検出した出力軸22dの回転速度を出力軸実回転速度信号としてECU7に出力する。車速センサ42は、後輪3の回転速度を検出する。車速センサ42は、検出した回転速度に基づいて車速信号をECU7に出力する。
【0032】
ECU7は、操向ハンドル4に取り付けられたハンドルスイッチに接続されている。ハンドルスイッチは、ハンドルスイッチがライダーにより操作された際に、ハンドルSW信号を出力する。スタータスイッチ34は、操向ハンドル4に取り付けられている(図2参照)。スタータスイッチ34が入力されると、ハンドルSW信号としてスタータ信号がスタータスイッチ34より出力される。メインスイッチ33が入力された後、エンジン10が始動可能である状態でスタータスイッチ34が操作されると、ECU7は、駆動回路8を制御し、モータ30を駆動させる。
【0033】
また、上述のように、スロットル開度センサ18aは、スロットル開度信号をECU7に対して出力する。
【0034】
ECU7は、演算部としてのCPU(Central Processing Unit)7aと、CPU7aに接続されたメモリ7bとを備えている。メモリ7bには、後述の目標エンジン回転速度マップ70および原点位置P等の各種設定が保存されている。
【0035】
−変速装置20の制御−
次に、本実施形態における変速装置20の制御方法について説明する。変速装置20は、少なくとも通常制御と後述する更新制御とが実行可能である。通常制御は、自動二輪車1が走行する際に行われる制御である。一方、更新制御は、自動二輪車1の走行前に行われる制御である。
【0036】
まず、通常制御における変速装置20の変速比の決定方法の一例を説明する。メモリ7bには、目標エンジン回転速度マップ70と目標シーブ位置マップ71とが記憶されている。目標エンジン回転速度マップ70は、図6に例示するように、各スロットル開度における車速と目標エンジン回転速度との関係を規定したものである。目標シーブ位置マップ71には、変速比とプライマリ可動シーブ体21bの目標シーブ位置との関係が規定されている。
【0037】
目標エンジン回転速度は、スロットル開度センサ18aによって検出されるエンジン10におけるスロットル開度と、車速センサ42にて検出される車速とに基づいて決定される。まず、スロットル開度センサ18aから、CPU7aに設けられた目標エンジン回転速度設定部100に対して、スロットル開度50が出力される。車速センサ42からは、目標エンジン回転速度設定部100に対して、車速51が出力されている。また、目標エンジン回転速度設定部100は、メモリ7bから、目標エンジン回転速度マップ70を読み出す。図6に示すように、例えば、スロットル開度が0%で、車速がrの場合は、目標エンジン回転速度52は、Rと決定される。目標エンジン回転速度設定部100は、決定した目標エンジン回転速度52を目標入力軸回転速度設定部101に対して出力する。
【0038】
なお、説明の便宜上、図6では、スロットル開度(Th開度)が0%の場合の関係、15%の場合の関係、50%の場合の関係、100%の場合の関係のみを描画している。
【0039】
目標入力軸回転速度設定部101は、入力された目標エンジン回転速度52から目標入力軸回転速度53を算出する。すなわち、目標入力軸回転速度設定部101は、入力された目標エンジン回転速度52から、目標となる入力軸21dの回転速度を算出する。目標入力軸回転速度設定部101は、算出した目標入力軸回転速度53を除算部110に対して出力する。なお、本実施形態では、エンジン10のクランク軸11と入力軸21dとが共通であるため、目標エンジン回転速度52と目標入力軸回転速度53とは等しくなる。つまり、目標入力軸回転速度設定部101から、目標エンジン回転速度52がそのまま目標入力軸回転速度53として出力される。
【0040】
除算部110は、目標入力軸回転速度設定部101から入力された目標入力軸回転速度53を、セカンダリシーブ回転センサ41から出力された出力軸実回転速度54で除算して目標変速比56を算出する。除算部110は、算出した目標変速比56を目標シーブ位置換算部111に対して出力する。
【0041】
目標シーブ位置57は、除算部110より出力される目標変速比56に基づき、目標シーブ位置換算部111にて決定される。目標シーブ位置換算部111は、メモリ7bから、目標シーブ位置マップ71を読み出す。目標シーブ位置マップ71は、目標変速比56と目標シーブ位置57との関係を規定している。目標シーブ位置換算部111は、決定した目標シーブ位置57を減算部102に対して出力する。
【0042】
減算部102は、目標シーブ位置57から実シーブ位置68を減算してシーブ位置差58を算出する。減算部102は、算出したシーブ位置差58を目標シーブ速度設定部103に対して出力する。
【0043】
目標シーブ速度設定部103は、入力されたシーブ位置差58に応じた目標シーブ速度69を算出する。目標シーブ速度設定部103は、算出した目標シーブ速度69を減算部112に対して出力する。ここで、目標シーブ速度69とは、シーブ位置差58の分だけプライマリ可動シーブ体21bを移動させるときの移動速度である。
【0044】
一方、CPU7a内に設けられた実シーブ速度算出部108は、シーブ位置センサ40から出力された実シーブ位置68から、実シーブ速度72を算出する。実シーブ速度算出部108は、算出した実シーブ速度72を減算部112に対して出力する。なお、実シーブ速度72とは、プライマリ可動シーブ体21bの現在の移動速度である。
【0045】
減算部112は、目標シーブ速度69から実シーブ速度72を減算して、シーブ速度差73を算出する。減算部112は、シーブ速度差73をモータ駆動信号計算部104に対して出力する。
【0046】
モータ駆動信号計算部104は、計算したPWM信号60を駆動回路8に対して出力する。駆動回路8は、入力されたPWM信号60に応じたパルス電圧61をモータ30に印加する。これにより、プライマリ可動シーブ体21bが駆動され、変速装置20の変速比が変更される。
【0047】
上述したように、目標シーブ位置換算部111にて算出された目標シーブ位置57と、目標シーブ速度設定部103にて算出された目標シーブ速度69とに基づき、プライマリ可動シーブ体21bが入力軸21dに沿って移動する。シーブ位置センサ40は、クランク軸11の軸方向において、プライマリ可動シーブ体21bの位置を検出する。このとき、シーブ位置センサ40にて検出されるプライマリ可動シーブ体21bのクランク軸11軸上の位置は、センサの経時変化で、シーブ位置センサ40にて検出される位置と、実際のプライマリ可動シーブ体21bの位置とがずれてくる。このようなずれが現れてくると、変速装置20は、算出される目標シーブ位置57を用いて変速比を算出する場合、変速比が正確に決定されなくなる。センサの経時変化が大きくなればなるほど、変速装置20における変速比は、必要な変速比とは大きくずれることになる。その場合は、自動二輪車1における走行性能が低下してしまう。なお、ここでのセンサの経時変化とは、センサの部品である歯車の歯の摩耗や、センサの電気系統の劣化等を含んだ広い意味での経時変化のことである。
【0048】
そのため、本実施形態において、変速装置20は、エンジン10の始動前にプライマリ可動シーブ体21bの原点位置Pを確認し、この原点位置を更新する制御を行う。本実施形態では、前記原点位置Pを確認し、更新する制御を更新制御と呼ぶことにする。前記更新制御が実行されることにより、変速装置20は、
【0049】
図8に示すように、メモリ7bは、初期設定の段階でプライマリ可動シーブ体21bの入力軸21dの軸上における原点位置Pを記憶している。変速装置20において、原点位置Pの初期設定は、自動二輪車1の工場出荷時、シーブ位置センサ40を含むセンサの取り替え時、Vベルト23の交換時等に行われる。原点位置Pは、プライマリ可動シーブ体21bを機械的に入力軸21dの軸上で移動させ、上述したストッパとプライマリ可動シーブ体21bとが接触することで設定される。つまり、原点位置は、上述したストッパとプライマリ可動シーブ体21bとが接触する位置である。また、メモリ7bは、更新制御が行われるたびに、更新制御の際に検出された原点位置Pを更新原点位置P´として記憶する。そして、メモリ7bは、次回更新制御の際は、前回の更新制御の際に記憶した更新原点位置P´を原点位置Pとして、原点位置設定部122に出力する。
【0050】
以下に、図8、図9および図10を用いて更新制御について具体的に説明する。図9および図10は、更新制御のフローチャートである。まず、ステップS1にて自動二輪車1の主電源32が入力される。主電源32は、メインスイッチ33が操作されることで入力状態となる。主電源32が入力された直後は、プライマリ可動シーブ体21bは、所定の可動開始位置Psに位置しているものとする。主電源32は、メインスイッチ33の操作により、入力と遮断とが行われる。
【0051】
続いて、ステップS2では、主電源32の入力後にモータ30が駆動する。まず、ECU7がメインスイッチ33からのメインSW信号を入力する。ECU7がメインSW信号を入力した後、目標シーブ速度設定部103より、所定の速度でプライマリ可動シーブ体21bが駆動されるように目標シーブ速度69が減算部112に出力される。更新制御におけるプライマリ可動シーブ体21bの前記所定の速度は、予め設定された速度であって、メモリ7bに記憶されている。前記所定の速度にて設定された目標シーブ速度69に基づき、モータ駆動信号計算部104は、PWM信号60を駆動回路8へ出力する。駆動回路8は、入力されたPWM信号60に応じたパルス電圧61をモータ30に印加する。モータ30は、モータ駆動信号計算部104からのPWM信号60に基づいて駆動する。
【0052】
ステップS3では、モータ30の駆動により、プライマリ可動シーブ体21bが入力軸21dの軸上をプライマリ固定シーブ体21aと遠ざかる方向に移動する。この移動の方向は、Vベルト23が径方向外側に向かって移動する方向である。なお、ECU7は、このステップS3を行う際に、原点位置移動部として機能する。ここで、原点位置移動部121には、モータ駆動信号計算部104と目標シーブ速度設定部103とメモリ7bとが含まれている。
【0053】
ステップS4は、プライマリ可動シーブ体21bと上述したストッパとの接触または非接触を確認する。プライマリ可動シーブ体21bと前記ストッパとの接触は、シーブ位置センサ40にて検出される実シーブ位置68に基づき、原点位置設定部122が確認する。プライマリ可動シーブ体21bとストッパとの接触は、設定した目標シーブ速度69に対して、実シーブ位置68が変化していないことから確認される。また、検出された実シーブ位置68に基づき、原点位置設定部122は、原点位置Pを設定する。プライマリ可動シーブ体21bがストッパと接触していない場合は、ステップS21に進む。プライマリ可動シーブ体21bがストッパ39と接触した場合は、ステップS41に進む。
【0054】
ステップS4においてプライマリ可動シーブ体21bがストッパと接触していないと判定されると、ステップS21に進む。ステップS21では、入力軸21dの軸上を移動しているプライマリ可動シーブ体21bが、所定範囲の位置であるかを確認する。つまり、メモリ7bが記憶している更新時の原点位置P(以下、更新原点位置P´)と移動中のプライマリ可動シーブ体21bの現在位置とを比較する。これにより、原点位置Pと更新原点位置P´との位置関係が所定範囲に満たない場合は、ステップS2に戻る。また、原点位置Pと更新原点位置P´との位置関係が所定範囲以上である場合は、ステップS51へ進む。ステップS51は、図10に示される。
【0055】
また、ステップS41では、今回の更新制御における更新原点位置P´と前回の更新制御における原点位置Pとを原点位置設定部122にて比較する。ステップS41において、原点位置Pと更新原点位置P´とが一致している場合は、ステップS42へ進む。ステップS41において、原点位置Pと更新原点位置P´とが一致していない場合は、ステップS43へ進む。
【0056】
ステップS42およびステップS43は、ステップS41において設定された更新原点位置P´を、メモリ7bが記憶するステップである。ステップS42では、ステップS41において設定された更新原点位置P´が、原点位置設定部122よりメモリ7bへ出力される。メモリ7bでは、前回の更新制御の際に記憶した原点位置Pと等しいものとして、更新原点位置P´を記憶する。また、ステップS43では、ステップS41において設定された更新原点位置P´が、原点位置設定部122よりメモリ7bへ出力される。メモリ7bでは、前回の更新制御の際に記憶した原点位置P´を原点位置Pと入れ替えて記憶する。次回の更新制御のときには、今回記憶した更新原点位置P´が、原点位置Pとしてメモリ7bから原点位置設定部122へ出力される。
【0057】
ステップS21において更新原点位置P´が所定範囲の位置ではないと判定されると、ステップS51に進む。ステップS51では、異常報知部124が異常を検出する。異常報知部124は、ステップS21において移動中のプライマリ可動シーブ体21bの位置が、予めメモリ7bに記憶されている更新原点位置P´に対して所定範囲を超えたと確認されたとき、原点位置設定部122より異常を入力する。ステップS51において異常報知部124が異常を検出した後、ステップS52へ進む。
【0058】
ステップS52では、異常表示部125は、異常報知部124より異常を入力し、変速装置20の外部へ向けて前記異常について表示する。異常表示部125は、自動二輪車1においては、メータパネル200(図1参照)である。前記異常についての表示は、例として、メータパネル200に設けられた警告灯(図示せず)が点灯または点滅する形態であっても良い。また、前記異常についての表示は、メータパネル200において、エラーの存在を文字で表示する形態であっても良い。
【0059】
また、ステップS53では、メモリ7bが原点位置設定部122より異常を入力し、前記異常の存在を記憶する。メモリ7bは、次回以降の更新制御が行われないようにするため、主電源32が入力されるたびに目標シーブ速度設定部103および異常報知部124へ異常の存在について出力する。メモリ7bは、原点位置Pが、再度、更新制御以外で設定されるまで、前記異常を記憶する。
【0060】
ステップS5では、プライマリ可動シーブ体21bが更新制御の開始時にあった位置に戻るようにモータ30を駆動させる。
【0061】
ステップS6では、モータ30の駆動により、プライマリ可動シーブ体21bが、プライマリ固定シーブ体21aに近づくように入力軸21dの軸上を移動する。
【0062】
ステップS7では、プライマリ可動シーブ体21bが更新制御の開始時にあった元の可動開始位置Psに位置することを確認する。シーブ位置センサ40が、可動開始位置Psの位置を検出し、原点位置設定部122に実シーブ位置68を出力する。原点位置設定部122にてプライマリ可動シーブ体21bの可動開始位置Psの位置を確認したとき、変速装置20は、更新制御を終了する。更新制御を終了した変速装置20は、前記通常制御に切り換わる。
【0063】
なお、図9および図10において、ステップS5は、ステップS53と、ステップS42およびステップS43との後のステップとして描写されている。しかし、ステップS5の開始は、ステップS41と同時でもよい。また、ステップS5の開始は、ステップS51と同時でもよい。つまり、ステップS5からステップS7と、ステップS41、および、ステップS42またはステップS43とは、並行して行われていてもよい。また、ステップS5からステップS7と、ステップS51からステップS53とは、並行して行われていてもよい。
【0064】
また、本実施形態において、主電源32が入力された後、更新制御が終了するまでは、エンジン10の始動は許可されない。以下に、主電源32が入力された後、エンジン10の始動を禁止する制御について説明する。
【0065】
図11は、更新制御が実行している間のエンジン10の始動を禁止する制御である。まず、ステップS1にて自動二輪車1の主電源32が入力される。主電源32は、メインスイッチ33が操作されることで入力状態となる。
【0066】
続いて、ステップS20にて変速装置20は、更新制御が実行されている最中であるか確認する。ステップS20にて変速装置20が更新制御の実行中である場合は、ステップS30に進む。また、ステップS20にて変速装置20が更新制御の実行中でない場合は、ステップS40に進む。
【0067】
ステップS30は、変速装置20が更新制御の実行中であるときのステップである。ここで、変速装置20は、更新制御が終了するまでエンジン10の始動を許可しない制御を行う。ステップS30にて、変速装置20の更新制御が終了した場合、ステップS40に進む。
【0068】
ステップS40では、ステップS30にて実行されていたエンジン10の始動禁止を解除する。ステップS40にてエンジン10の始動禁止の制御が解除され、エンジン10は、始動可能な状態となる。
【0069】
上述したステップS20、ステップS30、およびステップS40における変速装置20の制御を以下に説明する。図8に示すように、変速装置20は、モータ駆動信号検知部126を有している。
【0070】
モータ駆動信号検知部126は、スタータスイッチ34からのハンドルSW信号を入力すると、モータ駆動信号74をモータ駆動信号計算部104へ出力する。しかし、更新制御が実行されている間、モータ駆動信号検知部126は、モータ駆動信号74をモータ駆動信号計算部104へは出力しない。更新制御が実行されている間は、モータ駆動信号検知部126は、モータ駆動信号計算部104からPWM信号60を入力している。この状態がステップS20である。
【0071】
モータ駆動信号計算部104からPWM信号60を入力していることで、モータ駆動信号検知部126は、モータ駆動信号74をモータ駆動信号計算部104へは出力しない。つまり、更新制御が実行されている間は、モータ駆動信号検知部126は、スタータスイッチ34からのハンドルSW信号をキャンセルする。このモータ駆動信号検知部126がスタータスイッチ34からのハンドルSW信号をキャンセルする状態が、ステップS30である。
【0072】
そして、更新制御が終了した後で、モータ駆動信号検知部126は、モータ駆動信号計算部104へモータ駆動信号74を出力する。これが、ステップS40にてエンジン10の始動禁止の制御が解除されている状態である。
【0073】
しかし、更新制御が実行されている間、モータ駆動信号検知部126がスタータスイッチ34からのハンドルSW信号をキャンセルする方法は、モータ駆動信号計算部104からPWM信号60を入力することに限定されない。他の方法として、モータ駆動信号検知部126が、シーブ位置センサ40から実シーブ位置68を入力することであっても良い。この場合、モータ駆動信号検知部126は、プライマリ可動シーブ体21bの移動を実シーブ位置68から検知し、プライマリ可動シーブ体21bが入力軸21dの軸上を移動している間、つまり更新制御の間は、モータ駆動信号74をモータ駆動信号計算部104へは出力しない。なお、図8においては、上述した両方の方法を示している。
【0074】
(作用および効果)
本実施形態において、変速装置20は、主電源32が入力された後で、かつ、エンジン10の始動前に更新制御を行う。言い換えると、変速装置20は、更新制御が完了するまではエンジン10の始動を許可しない。そのため、変速装置20は、確実に更新制御を行うことができる。したがって、変速装置20は、確実に経時変化の発生を未然に防止することができる。
【0075】
また、更新制御の最中は、プライマリ可動シーブ体21bは、一定速度で入力軸21dの軸上を移動する。Vベルト23は、一定の割合でベルト溝21cを伝ってプライマリシーブ21の径方向外側へ移動する。そのため、プライマリ可動シーブ体21bの移動速度が、常に正負の正側で加速した状態で原点位置Pであるストッパと動力伝達機構2aとが当接する場合に比べ、衝撃を緩和することができる。そのため、機械的限界位置である原点位置Pが衝撃でゆがんでしまったり振動したりすることがない。したがって、変速装置20は、確実に更新制御を行うことができる。また、一定速度でプライマリ可動シーブ体21bを移動させるので、モータ30の駆動力となる駆動回路8から出力される電圧は、プライマリ可動シーブ体21bの移動速度が、常に正負の正側で加速されている場合に比べ、安定している。そのため、主電源32に掛かる負荷は低減され、主電源32の電池寿命は伸長される。
【0076】
また、本実施形態において、更新制御は、原点位置Pと更新原点位置P´との位置関係が所定範囲以上である場合、原点位置P´を新たな原点位置P´として設定せず、完了される。つまり、原点位置Pと更新原点位置P´との位置関係が所定範囲以上である場合は、変速装置20は、更新制御により誤った原点位置Pが設定されることを防止している。
【0077】
また、変速装置20は、異常報知部124を備えている。異常報知部124は、更新制御が実行されている間、原点位置Pが所定の範囲に位置していないと判断される場合は、異常の存在を報知する。すなわち、原点位置が大きくずれてしまっている場合には、異常が生じていることを報知する。変速装置20は、更新制御が正常に行われなかったことを、異常報知部124より報知される。そして、次回以降の更新制御は、機械的に原点位置Pが再度設定されるまで実行されない。したがって、変速装置20は、更新制御により誤った原点位置Pが設定されることを防止している。
【0078】
また、変速装置20は、異常表示部125を備えている。異常表示部125により、自動二輪車1のライダー等は、更新制御が確実に行われなかったことを異常として視認できるようになる。これにより、変速装置20は、ライダー等に対して点検および修理を促すことができる。したがって、変速装置20は、更新制御により誤った原点位置Pが設定されることを防止している。
【0079】
本実施形態において、パワーユニット2は、エンジン10とクラッチ25とを含んで構成されている。変速装置20は、上述したとおり確実に更新制御が行われる変速装置である。そのため、パワーユニット2において変速比を変更するときは、正確な変速比を用いることができる。したがって、変速装置20を備えたパワーユニット2は、エンジン10からの回転を、正確に変更された変速比によって出力軸22dまで伝達することができる。
【0080】
本実施形態に係る車両によれば、上述のように確実に更新制御が行われる変速装置20を備えている。したがって、前記車両は、変速装置20において正確な変速比を得ることができる。そのため、変速装置20を備えた車両は、エンジン10からの回転を、正確に変更された変速比によって後輪3まで伝達することができる。したがって、本実施形態に係る車両は、変速装置20により正確に変更される変速比を用いて走行することができる。また、クラッチ25は、出力軸22dと駆動輪である後輪3との間の回転の断続を行うことができる。そのため、前記車両においてクラッチ25が遮断状態であるときは、変速装置20は、入力軸21dの回転を後輪3に伝達しない。このため、クラッチ25が遮断状態であるときは、入力軸21dと出力軸22dとの回転は、後輪3が回転する場合に比べて負荷がかからない状態にすることができる。クラッチ25の遮断状態は、少なくとも更新制御が実行されている間を含む。したがって、前記車両において、変速装置20は、確実に更新制御を行うことができる。
【0081】
また、本実施形態において、前記車両は、自動二輪車1である。自動二輪車1を含め、鞍乗型車両は、四輪車に比べてアクセルのONとOFFとの操作が煩雑である。つまり、エンジン10の回転速度は、四輪車に比べ頻繁に変化を繰り返す。そのため、鞍乗型車両に変速装置20が備えられることによって、鞍乗型車両は、変速比が正確に変更される変速装置を用いて走行することができる。したがって、鞍乗型車両は、適切な変速比によって、安定した走行を行うことができる。
【0082】
≪変形例1≫
前記実施形態において、更新制御は、主電源32が入力されるたびに実行される形態であった。しかし、更新制御は、所定の期間ごとに実行される形態であっても良い。この所定の期間は、変速装置20の機能を保つことが約束された期間である。そのため、更新制御が行われていない期間においても変速装置20に係る変速比の変更等の機能は失われない。
【0083】
図12は、変形例1に係る変速装置20を示している。変速装置20は、期間算出部127を備えている。期間算出部127は、時計としての機能を有している。期間算出部127は、所定の経過期間を算出する。期間算出部127は、主電源32の入力および遮断の状態において所定の経過期間を算出している。変速装置20は、期間算出部127において算出される所定の経過期間が経過した場合で、その後に主電源32が入力された場合に更新制御を行う。なお、期間算出部127が算出する所定の経過期間は、時間、日数、週数、および月数を含む。さらに、期間算出部127によって算出される所定の経過期間は、時間、日数、週数、および月数の組み合わせも可能である。これは、例えば、一月と二週間との組み合わせが可能である。なお、変形例1において、前記実施形態の作動と一致するものについては、説明を省略する。
【0084】
期間算出部127にて算出された経過期間は、目標シーブ速度設定部103に入力される。目標シーブ速度設定部103は、期間算出部127から入力される所定の経過期間を基に、所定経過期間中はモータ駆動信号計算部104へ目標シーブ速度69を出力しない。また、期間算出部127にて算出された経過期間は、原点位置設定部122に入力される。原点位置設定部122は、期間算出部127から入力される経過期間を基に、所定経過期間中は原点位置Pを設定しない。そのため、原点位置設定部122は、メモリ7bから入力される更新原点位置P´を、即座にメモリ7bへ出力する。このように、所定の経過期間を経過した場合に、更新制御は実行される。
【0085】
上述したとおり、変速装置20は、主電源32の入力状態および遮断状態においてはたらく期間算出部127を備えている。期間算出部127は、所定の経過期間を算出する。更新制御は、変速装置20において所定の経過期間を経過した後で、その後に主電源32が入力されるときに行われる。このため、変速装置20は、毎回、主電源32が入力されるたびに更新制御を行う場合に比べ、変速装置20を使用するユーザーにとって、実用的な変速装置とすることができる。この所定の経過期間は、変速装置20の機能を保つことが約束された期間である。そのため、変速装置20は、更新制御が行われていない期間においても、変速比の変更等の実際の使用に関しての機能は失われない。
【0086】
≪変形例2≫
前記変形例1において、更新制御は、所定の期間ごとに実行される形態であった。しかし、更新制御は、所定の走行距離ごとに実行される形態であっても良い。この所定の走行距離は、変速装置20の機能を保つことが約束された距離である。そのため、更新制御が行われていない走行距離であっても、変速装置20に係る変速比の変更等の機能は失われない。
【0087】
図13は、変形例2に係る変速装置20を示している。変速装置20は、走行距離算出部128を備えている。走行距離算出部128は、例えば、車速センサ42から検出される車速に基づいて走行距離を算出する。変速装置20は、走行距離算出部128において算出される走行距離が、所定の走行距離を超えた場合で、その後に主電源32が入力された場合に更新制御を行う。なお、変形例2において、前記実施形態の作動と一致するものについては、説明を省略する。
【0088】
走行距離算出部128にて算出された走行距離は、目標シーブ速度設定部103に入力される。目標シーブ速度設定部103は、走行距離算出部128から入力される走行距離を基に、所定の走行距離を満たさない間は、モータ駆動信号計算部104へ目標シーブ速度69を出力しない。また、走行距離算出部128にて算出された日数は、原点位置設定部122に入力される。原点位置設定部122は、走行距離算出部128から入力される走行距離を基に、所定の走行距離を満たさない間は原点位置Pを設定しない。そのため、原点位置設定部122は、メモリ7bから入力される更新原点位置P´を、即座にメモリ7bへ出力する。このように、所定の走行距離を超えた場合に、更新制御は実行される。
【0089】
上述したとおり、自動二輪車1を含む車両は、走行距離を算出する走行距離算出部128を備えることができる。この場合、更新制御は、前記車両において所定の距離を走行した後で、その後に主電源32が入力されるときに行われる。このため、変速装置20は、毎回、主電源32が入力されるたびに更新制御を行う場合に比べ、変速装置20を使用するユーザーにとって、実用的な変速装置とすることができる。この所定の距離は、変速装置20の機能を保つことが約束された距離である。そのため、変速装置20は、更新制御が行われていない期間においても、変速比の変更等の実際の使用に関しての機能は失われない。
【0090】
≪その他の変形例≫
なお、本実施形態において、更新制御は、図9に示すとおり、原点位置Pと更新原点位置P´との位置関係が所定範囲に満たない場合は、ステップS2へ戻る。また、原点位置Pと更新原点位置P´との位置関係が所定範囲以上である場合は、ステップS51へ進む。しかし、ステップS21において、原点位置Pと更新原点位置P´との位置関係が所定範囲以上である場合でも、ステップS2へ戻り、更新制御を続行させる形態であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、電子制御式無段変速機、それを備えたパワーユニット、およびそれを備えた車両に関して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明を実施した自動二輪車の側面図である。
【図2】パワーユニットの断面図である。
【図3】変速装置の構成を表す部分断面図である。
【図4】自動二輪車の操向ハンドルの模式図である。
【図5】変速装置の制御を表すブロック図である。
【図6】目標エンジン回転速度決定マップの例である。
【図7】変速装置の通常制御を表すブロック図である。
【図8】実施形態1における変速装置の更新制御を表すブロック図である。
【図9】変速装置における更新制御のフローチャートである。
【図10】変速装置における更新制御のフローチャートである。
【図11】変速装置におけるエンジン始動を禁止する制御のフローチャートである。
【図12】変形例1における変速装置の更新制御ブロック図である。
【図13】変形例2における変速装置の更新制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0093】
1 自動二輪車
2 パワーユニット
3 後輪(駆動輪)
7 ECU(制御装置)
7a CPU
7b メモリ(記憶部)
8 駆動回路
9 制御部
10 エンジン
18a スロットル開度センサ
20 変速装置
20a 変速機構
21 プライマリシーブ
21a プライマリ固定シーブ体
21b プライマリ可動シーブ体
21c ベルト溝
21d 入力軸
22 セカンダリシーブ
22a セカンダリ固定シーブ体
22b セカンダリ可動シーブ体
22c ベルト溝
22d 出力軸
23 Vベルト(ベルト)
25 クラッチ
25a 遠心プレート
25b 遠心ウエイト
25c クラッチハウジング
27 セカンダリシーブ軸
30 モータ(アクチュエータ)
32 主電源
40 シーブ位置センサ
41 セカンダリシーブ回転センサ(出力軸回転速度センサ)
42 車速センサ
43 プライマリシーブ回転センサ(入力軸回転速度センサ)
50 スロットル開度
121 原点位置移動部
122 原点位置設定部(原点位置設定部)
124 異常報知部(異常報知手段)
125 異常表示部(異常表示手段)
126 モータ駆動信号検出部(エンジン始動禁止部)
127 期間算出部(期間算出手段)
128 走行距離算出部(走行距離算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトと、
主電源と、
エンジンの回転に伴って回転する入力軸と、
前記ベルトにより前記入力軸の回転が伝達される出力軸と、
前記入力軸の軸心周りに回転し、前記入力軸に対して変位不能に設けられたプライマリ固定シーブ体と、前記入力軸の軸方向において前記プライマリ固定シーブ体に対して変位可能に対向し、前記入力軸と共に回転しかつ前記入力軸の軸方向に移動自在であるプライマリ可動シーブ体と、
前記プライマリ可動シーブ体を前記入力軸の軸方向に移動させるように駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータの駆動を制御する制御装置と、
前記プライマリ可動シーブ体の位置を検出するシーブ位置センサと、
を備える電子制御式無段変速機であって、
前記制御装置は、
前記プライマリ可動シーブ体の原点位置を記憶する記憶部と、
前記主電源が入力された後に前記プライマリ可動シーブ体を前記原点位置まで移動させる原点位置移動部と、
前記シーブ位置センサによって検出された今回の原点位置を新たな原点位置として前記記憶部に記憶させる原点位置設定部と、
前記主電源が入力された後かつ前記原点位置設定部が前記原点位置の確認を終了するまで前記エンジンの始動を禁止するエンジン始動禁止部と、
を備えた、
電子制御式無段変速機。
【請求項2】
前記制御装置の前記原点位置移動部は、前記プライマリ可動シーブ体を前記原点位置まで一定速度で移動させる
請求項1に記載の電子制御式無段変速機。
【請求項3】
前記原点位置設定部は、前記プライマリ可動シーブ体が前記原点位置まで移動すると、前記シーブ位置センサによって検出される今回の原点位置と前記記憶部に記憶されている前回の原点位置とを比較し、それら原点位置のずれが所定量以内であることを確認し、前記原点位置のずれが所定量以内の場合には、前記シーブ位置センサによって検出された今回の原点位置を新たな原点位置として前記記憶部に記憶させる
請求項1に記載の電子制御式無段変速機。
【請求項4】
前記制御装置は、前記原点位置のずれが所定量を超えている場合に異常を報知する異常報知手段をさらに備えている、
請求項3に記載の電子制御式無段変速機。
【請求項5】
前記異常報知手段は、異常を表示する異常表示手段を備えている、
請求項4に記載の電子制御式無段変速機。
【請求項6】
前記制御装置は、経過時間を算出する期間算出手段をさらに備え、
前記原点位置設定部は、前回の確認時から所定の経過時間が経過した後の前記主電源の入力時に前記確認を行う、
請求項1に記載の電子制御式無段変速機。
【請求項7】
エンジンと、
請求項1に記載された電子制御式変速装置と、
を備えたパワーユニット。
【請求項8】
前記出力軸の回転に伴って回転する駆動輪と、
前記出力軸に接続され、前記出力軸と前記駆動輪との間の回転を断続するクラッチと、
請求項7に記載のパワーユニットと、
を備えた車両。
【請求項9】
前記制御装置は、走行距離を算出する走行距離算出手段をさらに備え、
前記原点位置設定部は、前回の確認時から所定の走行距離を超えた後の前記主電源の入力時に前記確認を行う、
請求項8に記載の車両。
【請求項10】
鞍乗型車両である請求項9に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−220687(P2009−220687A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66464(P2008−66464)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】