説明

III族窒化物半導体の気相成長装置

【課題】 基板を保持する基板ホルダー、該基板ホルダーを回転自在に保持するサセプタ、該サセプタの対面、該基板を加熱するためのヒータ、該サセプタと該サセプタの対面の間隙からなる反応炉、原料ガスを供給する原料ガス導入部、反応ガス排出部、及び基板ホルダー回転駆動器を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置であって、サセプタの脱着が容易でメンテナンス性に優れ、基板ホルダー回転駆動器及び基板ホルダー回転駆動軸に対するヒータからの熱伝導を抑制できる構造を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置を提供することである。
【解決手段】 基板を保持する複数の基板ホルダーが、基板ホルダー回転駆動器から、基板ホルダー回転駆動軸、該基板ホルダー回転駆動軸に設けられた複数本のツメ、及び反応炉の中心部に設けられ該ツメと脱着可能に噛み合わされた基板ホルダー回転板を介して伝達される回転駆動力により回転する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を保持する基板ホルダー、該基板ホルダーを回転自在に保持するサセプタ、該サセプタの対面、該基板を加熱するためのヒータ、該サセプタと該サセプタの対面の間隙からなる反応炉、該反応炉の中心部から周辺部に向かって原料ガスを供給する原料ガス導入部、反応ガス排出部、及び基板ホルダー回転駆動器を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体の結晶膜を、シリコン(Si)、サファイア(Al)又は窒化ガリウム(GaN)等の基板上に成長する方法には、化学的気相成長(CVD)法等の方法があり、基板加熱を伴うCVD法には熱CVD法等が知られている。近年、高温条件(例えば1000℃以上)で基板を加熱して行う気相成長工程が増加しており、青色若しくは紫外LED又は青色若しくは紫外レーザーダイオードを製作するためのIII族窒化物半導体の気相成長工程もその一つである。III族窒化物半導体膜の形成は、例えば、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム、又はトリメチルアルミニウム等の有機金属ガスをIII族金属源として、アンモニアを窒素源として用い、1000℃程度の高温に加熱された基板上に結晶膜を気相成長する熱CVD法により行われる。
【0003】
III族窒化物半導体の気相成長装置には、基板の結晶成長面を上向きに配置するもの(フェイスアップ型)、基板の結晶成長面を下向きに配置するもの(フェイスダウン型)がある。このような気相成長装置としては、1バッチあたり1枚の基板上に結晶膜を成長させる気相成長装置があるが、生産性を向上するために1バッチあたり複数枚の基板上に結晶膜を成長させる気相成長装置も知られている。
III族窒化物半導体の気相成長装置の構成としては、基板を保持する基板ホルダー、該基板ホルダーを回転自在に保持するサセプタ、該サセプタの対面、該基板を加熱するためのヒータ、該サセプタと該サセプタの対面の間隙からなる反応炉、該反応炉の中心部から周辺部に向かって原料ガスを供給する原料ガス導入部、反応ガス排出部、及び基板ホルダー回転駆動器を有する構成が考えられる。
【0004】
このような気相成長装置において、均一な膜厚及び膜質を得るには、基板を回転させながら結晶膜を成長させることが有効である。1バッチあたり複数枚の基板上に結晶膜を成長させる場合には、反応炉の中心を回転の中心とする公転と、基板の中心を回転の中心とする自転を組み合わせて基板を回転させることにより、各基板間及び同一基板面内において、均一な膜厚及び膜質を得ることができる。一般に、基板を保持する基板ホルダーを回転させる基板ホルダー回転駆動器は、反応炉を内部に含む反応容器の外に設置され、その駆動力は、磁性流体により反応容器の内側と外側を遮蔽する磁性流体シール等を用いて反応容器に対して回転自在に封止された基板ホルダー回転駆動軸により反応容器内部の基板ホルダーに伝達されることが多い。
【0005】
例えば、このような気相成長装置としては、特許文献1に記載の成膜装置があるが、基板の自転速度と公転速度の比率を変化させることができないので成膜条件の最適化が難しいという問題があり、サセプタを取り外す際にも固定ギア(自転発生部)を一旦取り外さなければならないなど、サセプタの脱着が煩雑でメンテナンス性に問題があった。また、基板の自転速度と公転速度の比率を変化させることが可能な半導体製造装置として、特許文献2に記載の半導体製造装置があるが、サセプタを容易に脱着できる構造を提供するまでには至っていなかった。
【0006】
また、サセプタを取外し可能としたものに、特許文献3に記載の気相成長装置があるが、基板の自転速度と公転速度の比率を変化させることができず、基板ホルダーと基板ホルダー駆動部の噛み合わせは通常の平歯車構造であり、サセプタ取り付け時において、基板ホルダー駆動部と複数の基板ホルダーの間の噛み合わせを同時にとらなければならない煩雑さが解消されていなかった。さらに、特許文献1〜3に記載の気相成長装置において、回転駆動器及び基板ホルダー回転駆動軸に対する熱伝導を低減する構造は検討されていなかった。
【0007】
【特許文献1】特許第4537566号公報
【特許文献2】特開第2004−241460号公報
【特許文献3】特開第2009−99770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
III族窒化物半導体の気相成長装置においては、気相成長が高温下で行われるために、原料ガスと接触する部材には原料ガスの分解による付着物が生じやすく、特に、基板に近接する基板ホルダー及びサセプタは頻繁にクリーニングを要するという問題がある。クリーニングは反応容器の外にサセプタを取り出して行う場合が多く、サセプタの脱着が容易な構造とすることでメンテナンス性を向上させた気相成長装置であることが望ましい。
また、III族窒化物半導体の気相成長装置において、基板ホルダー回転駆動器は耐熱性がない場合が多く、基板ホルダー回転駆動軸は高温下でアンモニア等の原料ガス雰囲気下に置かれ劣化が進行しやすい場合が多いことから、これらに対するヒータからの熱伝導を可能な限り抑制できる構造であることが好ましい。
【0009】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、基板を保持する基板ホルダー、該基板ホルダーを回転自在に保持するサセプタ、該サセプタの対面、該基板を加熱するためのヒータ、該サセプタと該サセプタの対面の間隙からなる反応炉、該反応炉の中心部から周辺部に向かって原料ガスを供給する原料ガス導入部、反応ガス排出部、及び基板ホルダー回転駆動器を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置であって、サセプタの脱着が容易でメンテナンス性に優れ、基板ホルダー回転駆動器及び基板ホルダー回転駆動軸に対するヒータからの熱伝導を抑制できる構造を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、これらの課題を解決すべく鋭意検討した結果、前述の気相成長装置において、基板ホルダー回転駆動器から、基板ホルダーまでの回転伝達機構の少なくとも一部に断面が小さいツメを用いる構成とすることより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、基板を保持する基板ホルダー、該基板ホルダーを回転自在に保持するサセプタ、該サセプタの対面、該基板を加熱するためのヒータ、該サセプタと該サセプタの対面の間隙からなる反応炉、該反応炉の中心部から周辺部に向かって原料ガスを供給する原料ガス導入部、反応ガス排出部、及び基板ホルダー回転駆動器を有し、基板を保持する基板ホルダーが、原料ガス導入部の周囲に複数個備えられたIII族窒化物半導体の気相成長装置であって、基板を保持する複数の基板ホルダーが、基板ホルダー回転駆動器から、基板ホルダー回転駆動軸、該基板ホルダー回転駆動軸に設けられた複数本のツメ、及び反応炉の中心部に設けられ該ツメと脱着可能に噛み合わされた基板ホルダー回転板を介して伝達される回転駆動力により回転する構成であることを特徴とするIII族窒化物半導体の気相成長装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、基板ホルダー回転駆動軸を上下方向に移動させるのみで、基板ホルダー回転板とツメとの噛み合わせを取り外しでき、サセプタ脱着の煩雑さが解消される。したがって、本発明により、サセプタの脱着が容易でメンテナンス性に優れたIII族窒化物半導体の気相成長装置が提供される。
また、本発明の気相成長装置は、基板ホルダー回転板が、断面積が小さいツメと、水平方向及び垂直方向の隙間を持って噛み合わされており、該噛み合わせが形成されるときに、該基板ホルダー回転板の上面と該基板ホルダー回転駆動軸の下面との間に隙間が形成される。これにより、ヒータにより加熱された基板ホルダー回転板から基板ホルダー回転駆動軸への熱の伝達が抑制され、延いては基板ホルダー回転駆動器への熱の伝達が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、基板を保持する基板ホルダー、該基板ホルダーを回転自在に保持するサセプタ、該サセプタの対面、該基板を加熱するためのヒータ、該サセプタと該サセプタの対面の間隙からなる反応炉、該反応炉の中心部から周辺部に向かって原料ガスを供給する原料ガス導入部、反応ガス排出部、及び基板ホルダー回転駆動器を有し、基板を保持する基板ホルダーが、原料ガス導入部の周囲に複数個備えられたIII族窒化物半導体の気相成長装置に適用される。
以下、本発明の気相成長装置を、図1〜図3に基づいて詳細に説明するが、本発明がこれらにより限定されるものではない。尚、図1は、本発明の気相成長装置の一例を示す垂直断面概略図、図2は、本発明の気相成長装置の水平断面概略図(図1におけるA−A断面)、図3は、本発明の気相成長装置の水平断面概略図(図1におけるB−B断面)である。
【0014】
図1の気相成長装置において、基板1は、成長面を下向きにした状態で基板ホルダー2により保持されている。基板ホルダー2は、直径が2インチ、3インチ、4インチ又は6インチの基板を1枚保持できるが、特にこれらの大きさの基板に限定されない。ここで、ヒータ5からの熱を基板1へ均一に伝達するために、均熱板16を設けてもよい。基板ホルダー2は、基板ホルダー2の下面及びサセプタ3の上面に刻まれたベアリング溝18により挟持されたベアリング17を介して、サセプタ3上に回転自在に保持されている。ベアリング17は、直径3〜10mmの球形であることが好ましい。ベアリング溝18の鉛直方向の断面は、半円形、三角形又は四角形であることが好ましいが、特に限定されない。
【0015】
一方、サセプタ3は、サセプタの対面4とともに反応炉6を形成し、反応炉6は、反応容器19に収められ密封されている。サセプタ3は、直径300〜1000mm、厚さ5〜30mmの円盤状であり、6〜15個の基板ホルダー2を保持できることが好ましいが、特に限定されない。反応炉6において、サセプタ3とサセプタの対面4の間隙は、8mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましいが、特にこれらの大きさの間隙に限定されない。
【0016】
基板ホルダー回転駆動器9からの回転駆動力は、まず、磁性流体シールを用いて反応容器19に対して回転自在に封止された基板ホルダー回転駆動軸10に伝達される。基板ホルダー回転駆動軸10の基板ホルダー回転板側の先端には複数本のツメ11が設けられており、ツメ11が、基板ホルダー回転板12の上面に設けられた差込口に差し込まれることにより脱着可能に噛み合わさり、回転駆動力が基板ホルダー回転板12に伝達される。
【0017】
基板ホルダー回転板12は、基板ホルダー回転板12の下面及びサセプタ3上面に刻まれたベアリング溝18により挟持されたベアリング17を介して、サセプタ3により回転自在に保持されている。基板ホルダー2は、原料ガス導入部7の周囲に複数個設けられており、基板ホルダー回転板12の縁部に設けられた平歯車部と各基板ホルダー2の縁部に設けられた平歯車部が噛み合わさることにより各基板ホルダー2に回転駆動力が伝達され、各基板ホルダー2は自転により回転する。
【0018】
基板ホルダー回転板12は、直径100〜500mm、厚さ3〜20mmの円盤状の平歯車構造を有することが好ましいが、特に限定されない。基板ホルダー回転駆動軸10は、直径10〜50mmの円柱状であることが好ましいが、特に限定されない。ツメ11は、円柱、楕円柱、角柱、円錐、角錐、またはこれらに類似する形状、これらを組み合せた形状であるが、直径3〜10mm、長さ10〜30mmの円柱状であることが好ましい。さらに、ツメ11は、基板ホルダー回転板12との噛み合わせが容易となるように、このような大きさの円柱状であって、長さ方向に3〜10mm(円柱状の長さに含まれる)の先端部が円錐状に加工されたものがより好ましい。また、ツメ11は、2〜10本設けられることが好ましいが、特にこれらの本数に限定されない。
【0019】
また、すべてのツメ11の断面積の合計は、基板ホルダー回転駆動軸10の断面積よりも小さく、(すべてのツメ11の断面積の合計)/(基板ホルダー回転駆動軸10の断面積)の比が、0.1〜0.5であることがより好ましいが、特にこの範囲の比に限定されない。基板ホルダー回転板12の上面に設けられるツメ11の差込口24は、基板ホルダー回転板12の下面にまで貫通した貫通穴でも、貫通しない凹部でもよい。ツメ11の差込口は、ツメ1個につき1箇所ずつ設けられ、直径6〜30mm、深さ5〜20mmの凹部であることがより好ましいが、特に限定されない。
【0020】
また、噛み合わせが形成されるときに、基板ホルダー回転板12の上面と基板ホルダー回転駆動軸10の下面との間に隙間を有することが好ましい。隙間がない場合は、加熱された際に基板ホルダー回転駆動軸が熱膨張し、基板ホルダー回転板を下側に加圧して不具合を起す虞がある。間隙は1〜20mm程度であることが好ましいが、特に限定されない。さらに、基板ホルダー回転板とツメが噛み合わされるとき、基板ホルダー回転板に設けられた差込口の内面とツメの先端との間に、水平方向及び垂直方向の間隙が形成されることが好ましい。特に差込口24が貫通しない凹部である場合、垂直方向(差込口の底面とツメの先端との間)に隙間がない場合は、加熱された際に基板ホルダー回転駆動軸が熱膨張し、基板ホルダー回転板を下側に加圧して不具合を起す虞がある。間隙は、水平方向に1〜20mm、垂直方向に1mm以上であることが好ましいが、特に限定されない。
【0021】
また、本発明の気相成長装置は、サセプタがサセプタ支持プレート上に設置され、該サセプタ支持プレートが回転自在に保持され、サセプタ回転駆動器から伝達される回転駆動力による該サセプタ支持プレートの回転に伴って該サセプタが回転する構成であることが好ましい。これにより、基板を公転させることにより、同一基板面内だけでなく、各基板間においても均一な膜厚及び膜質を得ることができる。すなわち、サセプタ3をサセプタ支持プレート20上に設置し、サセプタ支持プレート20の下面及び基台21の上面に刻まれたベアリング溝18により挟持されたベアリング17を介して、サセプタ支持プレート20を基台21により回転自在に保持する。サセプタ支持プレート20は、基台21の上に、嵌め合わせ等の方法により位置ずれが生じないように設置されることが好ましい。このとき、サセプタ回転駆動器13からの回転駆動力は、サセプタ回転駆動軸14に伝達され、サセプタ回転駆動軸14のサセプタ支持プレート側先端に固定されたサセプタ回転板15の縁部に設けられた平歯車部とサセプタ支持プレート20の縁部に設けられた平歯車部が噛み合わさることによりサセプタ支持プレート20に回転駆動力が伝達され、サセプタ支持プレート20が回転する。同時に、サセプタ支持プレート20の上に設置されたサセプタ3も回転し、サセプタ3上に配置された基板ホルダー2は公転する。気相成長反応中は、基板ホルダー2を常時公転させることが好ましい。
【0022】
基板ホルダー2及びサセプタ3の回転方向及び回転速度は、それぞれ、基板ホルダー回転駆動器9及びサセプタ回転駆動器13の回転方向及び回転速度を変化させることにより、任意に設定することができる。基板ホルダー回転軸10を上下に移動させることにより、基板ホルダー回転板12に設けた差込口からツメ11を引き抜くことができるように、伸縮可能な蛇腹管22を設けてもよい。サセプタ3を取り出し易いように、上下動によりサセプタ3を昇降させるサセプタ昇降機構23を設けてもよい。
【0023】
反応炉6の中心部には原料ガス導入部7が設けられ、原料ガスは、原料ガス導入部7から放射状に吹き出し、基板1の成長面に対して水平に供給される。気相成長反応は、反応炉6において、ヒータ5により基板1を加熱しながら、原料ガス導入部7から原料ガスを供給することにより行われ、基板1の成長面にはIII族窒化物半導体の結晶膜が形成される。気相成長反応に用いられた原料ガスは、そのまま反応ガスとして反応ガス排出部8から排出される。気相成長反応中は、基板ホルダー2を常時自転させることが好ましい。各基板間において均一な膜厚及び膜質を得るためには、各基板ホルダー2を反応炉の中心に対して同一円周上に配置して、原料ガス導入部からの距離を等しくすることが好ましいが、特に限定されない。
【0024】
基板ホルダー2、サセプタ3、及び基板ホルダー回転板12は、カーボン系材料又はカーボン系材料をセラミック材料でコーティングしたものが好ましいが、特に限定されない。基板ホルダー回転駆動軸10及びツメ11は、金属、合金、金属酸化物、カーボン系材料、セラミック系材料、カーボン系材料をセラミック材料でコーティングしたもの、又はこれらの組み合わせが好ましいが、特に限定されない。ベアリング17は、セラミック材料であることが好ましいが、特に限定されない。ここで、合金の例には、ステンレス又はインコネルがあるが、特に限定されない。カーボン系材料の例には、カーボン、パイオロリティックグラファイト(PG)、グラッシカーボン(GC)等があるが、特に限定されない。セラミックス系材料の例には、アルミナ、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)、窒化ホウ素(BN)等があるが、特に限定されない。
【0025】
特に、基板ホルダー2、サセプタ3及び基板ホルダー回転板12は、SiCコートカーボン、ベアリング17は、アルミナであることが好ましいが、特に限定されない。基板ホルダー回転駆動軸10は、強度を確保するために基板ホルダー回転駆動器側部分をインコネル製とし、基板ホルダー回転板12との噛み合わせを取る際の破損等を防止するために基板ホルダー回転板側部分をSiCコートカーボン製とし、ネジ等で両者を固定することにより一体化したものが好ましく、ツメ11は、SiCコートカーボン製で、基板ホルダー回転駆動軸の基板ホルダー回転板側部分の端面にあらかじめ一体として形成されていることが好ましい。
尚、図1〜3においては、本発明の気相成長装置の一例(フェイスダウン型)を示したが、本発明の実施形態としては、本発明の範囲内におけるフェイスアップ型の気相成長装置も適用できる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明がこれらにより限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
(気相成長装置の製作)
図1〜図3に示すような気相成長装置を製作した。直径3インチのサファイア基板を1枚保持可能である基板ホルダー2(SiCコートカーボン製)8個と、基板ホルダー回転板12(SiCコートカーボン製、直径200mm、厚さ15mm)を、サセプタ3(SiCコートカーボン製、直径600mm、厚さ20mm、3インチの基板を8枚保持可能)により、ベアリング17を介して保持し、基板ホルダー2と基板ホルダー回転板12の平歯車部を噛み合わせた。
【0028】
ツメ11は、先端部3mmが円錐状に加工された、断面の直径5mm、長さ12mm(円錐状の部分を含む)の円柱状であり、断面の直径20mmの基板ホルダー回転駆動軸10の先端に等間隔で3本設けた。ツメ11の差込口24として、基板ホルダー回転板12の上面に、直径10mm、深さ12mmの円柱状の凹部を、各ツメに対して1つずつ設けた。ツメ11と凹部の間には、水平方向に最大5mmの間隙が生じ、垂直方向に5mmの間隙を設けたため、基板ホルダー回転板の上面と基板ホルダー回転駆動軸の下面との間には5mmの間隙が生じた。
【0029】
基板ホルダー回転駆動軸10はインコネル及びSiCコートカーボンからなり、基板ホルダー回転駆動器側部分をインコネル製(直径20mm、長さ270mmの円柱状)とし、基板ホルダー回転板側部分をSiCコートカーボン製(直径20mm、長さ30mmの円柱状)とし、両者をカーボン製のネジで固定することにより一体化して基板ホルダー回転駆動軸10とした。ツメ11はSiCコートカーボン製であり、基板ホルダー回転駆動軸10の下面にあらかじめ一体として形成した。サセプタの対面4、サセプタ支持プレート20及び基台21はカーボン製とし、反応容器19はステンレス製とした。
【0030】
(温度測定)
このような気相成長装置を用いて、基板ホルダー回転駆動軸の温度測定を行った。まず、基板ホルダーに基板(直径3インチ、サファイア)をセットし、基板ホルダー回転駆動器は停止させ、基板ホルダー回転駆動軸が自由に回転できないように処置した。その後、サセプタ回転駆動器のみの稼働により、基板を公転(1rpm)させたが、それに伴って基板も自転した。なお、温度測定が終了するまでこの状態を維持し、反応容器内を大気圧に保った。次に、原料ガス導入部から水素を流しながら基板の温度を1050℃まで昇温させ、基板ホルダー回転駆動軸の上面(基板ホルダー回転駆動器側)の温度を測定したところ41℃であった。
【0031】
(気相成長実験)
このような気相成長装置を用いて、基板の表面に窒化ガリウム(GaN)の成長を行った。まず、基板ホルダーに基板(直径3インチ、サファイア)基板をセットし、基板ホルダー回転駆動器及びサセプタ回転駆動器を稼働させて、基板の自転(10rpm)及び公転(1rpm)を開始した。なお、すべての成長が終了後、ヒータ温度が室温付近に下がるまで、基板の自転及び公転をこれらの速度で継続し、反応容器内を大気圧に保った。
【0032】
次に、原料ガス導入部から水素を流しながら基板の温度を1050℃まで昇温させ、基板のクリーニングを行った。続いて、ヒータ温度を510℃まで下げて、原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)とアンモニア、キャリアガスとして水素を用いて、サファイア基板上にGaNからなる膜厚20μmのバッファー層の成長を行い、バッファー層成長後に、TMGのみ供給を停止し、ヒータ温度を1050℃まで上昇させた。その後、原料ガス導入部から、TMGとアンモニアの他に、キャリアガスとして水素と窒素を供給して、アンドープGaNの成長を1時間行った。
【0033】
以上のようにIII族窒化物半導体を成長させた後、室温付近まで放冷させ、基板を反応容器から取り出した。基板の自転及び公転の開始から終了まで、基板ホルダー回転駆動器及びサセプタ回転駆動器は正常に作動し、放冷後に、反応容器内の各部品を目視で点検したところ、腐食、破損等の異常はなかった。
【0034】
(サセプタの脱着)
気相成長実験終了後、基板を室温付近まで放冷してから反応容器内を開放し、基板ホルダー回転駆動軸を上方に移動させ、ツメを基板ホルダー回転板の凹部から引き抜いた。その後、サセプタ昇降機構によりサセプタを持ち上げ、人手により取り出したところ、基板ホルダー、基板ホルダー回転板及びベアリングを保持させたままでサセプタを反応容器の外に容易に取り出すことができた。
【0035】
また、反応容器の外で基板ホルダー及びサセプタ等のクリーニングを行った後に基板ホルダー、基板ホルダー回転板及びベアリングを保持したサセプタを人手により反応容器内に設置し、サセプタ昇降機構により基台の上の所定の位置に戻した。基板ホルダー回転駆動軸を当初の位置に戻してから、反応容器を密閉し、上記の気相成長実験を再度行った。基板の自転及び公転の開始から終了まで、基板ホルダー回転駆動器及びサセプタ回転駆動器は正常に作動し、放冷後に、反応容器内の各部品を目視で点検したところ、腐食、破損等の異常はなかった。
【0036】
[実施例2]
(気相成長装置の製作)
ツメの差込口として、基板ホルダー回転板を貫通する直径10mmの貫通穴を、各ツメに対して1つずつ設けた。ツメ11と貫通穴の間には、水平方向に最大5mmの間隙が生じ、基板ホルダー回転板の上面と基板ホルダー回転駆動軸の下面との間には5mmの間隙を設けた。それ以外は、実施例1の気相成長装置と同様のものを製作した。
【0037】
(温度測定)
このような気相成長装置を用いて、実施例1と同様の温度測定を行ったところ、基板ホルダー回転駆動軸の上面の温度は40℃であった。
(気相成長実験)
このような気相成長装置を用いて、実施例1と同様の気相成長実験を行った。その結果、基板の自転及び公転の開始から終了まで、基板ホルダー回転駆動器及びサセプタ回転駆動器は正常に作動し、放冷後に、反応容器内の各部品を目視で点検したところ、腐食、破損等の異常はなかった。
【0038】
(サセプタの脱着)
気相成長実験終了後、実施例1と同様にサセプタを取り出したところ、基板ホルダー、基板ホルダー回転板及びベアリングを保持させたままでサセプタを反応容器の外に容易に取り出すことができた。
また、実施例1と同様の操作でサセプタを反応容器内の所定の位置に戻し、基板ホルダー回転駆動軸を当初の位置に戻してから、反応容器を密閉し、実施例1と同様の気相成長実験を再度行った。基板の自転及び公転の開始から終了まで、基板ホルダー回転駆動器及びサセプタ回転駆動器は正常に作動し、放冷後に、反応容器内の各部品を目視で点検したところ、腐食、破損等の異常はなかった。
【0039】
[比較例1]
(気相成長装置の製作)
基板ホルダー回転板の上面と基板ホルダー回転駆動軸の下面との間に間隙が生じないように両者を接触させ、ツメの先端と凹部の底面を接触させた他は、実施例1と同様の気相成長装置を製作した。
(温度測定)
このような気相成長装置を用いて、実施例1と同様の温度測定を行ったところ、基板ホルダー回転駆動軸の上面の温度は53℃であった。
【0040】
[比較例2]
(気相成長装置の製作)
基板ホルダー回転板の上面と基板ホルダー回転駆動軸の下面との間に間隙が生じないように両者を接触させた他は、実施例2と同様の気相成長装置を製作した。
(温度測定)
このような気相成長装置を用いて、実施例2と同様の温度測定を行ったところ、基板ホルダー回転駆動軸の上面の温度は49℃であった。
【0041】
以上のように、本発明の気相成長装置は、サセプタの脱着が容易でメンテナンス性に優れ、基板ホルダー回転駆動器及び基板ホルダー回転駆動軸に対するヒータからの熱伝導を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の気相成長装置の一例を示す垂直断面概略図である。
【図2】本発明の気相成長装置の水平断面概略図(図1におけるA−A断面)である。
【図3】本発明の気相成長装置の水平断面概略図(図1におけるB−B断面)である。
【符号の説明】
【0043】
1 基板
2 基板ホルダー
3 サセプタ
4 サセプタの対面
5 ヒータ
6 反応炉
7 原料ガス導入部
8 反応ガス排出部
9 基板ホルダー回転駆動器
10 基板ホルダー回転駆動軸
11 ツメ
12 基板ホルダー回転板
13 サセプタ回転駆動器
14 サセプタ回転駆動軸
15 サセプタ回転板
16 均熱板
17 ベアリング
18 ベアリング溝
19 反応容器
20 サセプタ支持プレート
21 基台
22 蛇腹管
23 サセプタ昇降機構
24 差込口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持する基板ホルダー、該基板ホルダーを回転自在に保持するサセプタ、該サセプタの対面、該基板を加熱するためのヒータ、該サセプタと該サセプタの対面の間隙からなる反応炉、該反応炉の中心部から周辺部に向かって原料ガスを供給する原料ガス導入部、反応ガス排出部、及び基板ホルダー回転駆動器を有し、基板を保持する基板ホルダーが、原料ガス導入部の周囲に複数個備えられたIII族窒化物半導体の気相成長装置であって、基板を保持する複数の基板ホルダーが、基板ホルダー回転駆動器から、基板ホルダー回転駆動軸、該基板ホルダー回転駆動軸に設けられた複数本のツメ、及び反応炉の中心部に設けられ該ツメと脱着可能に噛み合わされた基板ホルダー回転板を介して伝達される回転駆動力により回転する構成であることを特徴とするIII族窒化物半導体の気相成長装置。
【請求項2】
サセプタが、サセプタ回転駆動器から、サセプタ回転駆動軸、サセプタ回転板、及び該サセプタを保持するサセプタ支持プレートを介して伝達される回転駆動力により回転する構成である請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
基板ホルダー回転板とツメが噛み合わされるとき、基板ホルダー回転板の上面と基板ホルダー回転駆動軸の下面との間に間隙が形成される請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項4】
基板ホルダー回転板の上部に、ツメの差込口が設けられた請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項5】
基板ホルダー回転板とツメが噛み合わされるとき、基板ホルダー回転板に設けられた差込口の底面とツメの先端との間に間隙が形成される請求項4に記載の気相成長装置。
【請求項6】
基板ホルダー回転板とツメが噛み合わされるとき、基板ホルダー回転板に設けられた差込口の内面とツメの先端との間に、水平方向及び垂直方向の間隙が形成される請求項4に記載の気相成長装置。
【請求項7】
ツメの差込口が、基板ホルダー回転板を貫通した貫通穴である請求項4に記載の気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−227231(P2012−227231A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91388(P2011−91388)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000229601)日本パイオニクス株式会社 (96)
【Fターム(参考)】