説明

MTJ素子およびその形成方法、STT−RAMの製造方法

【課題】動作信頼性に優れたSTT−RAMに好適なMTJ素子を提供する。
【解決手段】MTJ素子11は、下部電極10の側から、下部積層体111と上部積層体112とを順に備える。下部積層体111は、シード層51、リファレンス層33、トンネルバリア層34を順に含むものである。上部積層体112は、積層面に沿った占有面積が下部積層体111よりも小さく、フリー層40、キャップ層38、ハードマスク39を順に含むものである。リファレンス層33は、非磁性金属からなる挿入層33Cと、磁性層33Aとから構成される2層構造を有する。磁性層33Aは、積層面内における磁化容易軸(X軸方向)に沿って固定された磁化方向を有する自己ピンド層である。フリー層40は、下部強磁性層35と、NCC層36と、上部強磁性層37とが順に積層された複合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MTJ素子およびその形成方法、ならびにMTJ素子を備えたSTT−RAMの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果ランダムアクスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)は、シリコンCMOS (complementary metal oxide semiconductor)技術と磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunneling Junction)技術とを統合したものであり、SRAM,DRAMあるいはフラッシュメモリなどの既存の半導体メモリに対抗するために必要な競争力を十分に有する、重要な新興技術である。また、スピントランスファー(スピントルク)デバイスと呼ばれる新しいタイプのデバイスが開発されている(例えば非特許文献1参照)。このスピントランスファートルク(STT)−RAMは、それまでのMRAMと比較して、次のような利点を有している。すなわち、半選択の問題による隣接するセルへの誤った書込動作を回避することができる。スピントランスファー効果は、強磁性層\スペーサ層\強磁性層という多層構造の、スピン依存電子伝導特性に起因するものである。スピン偏極電流が磁気多層構造の内部を、その積層方向に流れる際、強磁性層へ入射する電子のスピン角運動量(spin angular moment)がその強磁性層と非磁性スペーサ層との界面近傍において、その強磁性層の磁気モーメントと相互に作用する。この相互作用を通じて、電子の角運動量が強磁性層に移動することとなる。その結果、スピン偏極電流の電流密度が十分に高く、多層構造の寸法が小さければ、そのスピン偏極電流によって強磁性層の磁化方向をスイッチングすることができる。STT−RAMと従来のMRAMとの違いは、書込機構が異なるだけであり、読出機構は同じである。
【0003】
MRAMおよびSTT−RAMは、いずれも、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)効果に基づくMTJ素子を有している。MTJ素子は、2つの強磁性層の間に極薄の非磁性誘電体層を挟むようにした構造を有している。MRAMデバイスでは、MTJ素子は、下部電極(例えば第1の導電線)と上部電極(第2の導電線)との間であって、下部電極と上部電極とが交差する部分に配置される。MTJ素子は、例えばシード層と、反強磁性(AFM:Anti-Ferromagnetic)層(ピンニング層)と、強磁性のピンド層と、薄いトンネルバリア層と、強磁性のフリー層と、キャップ層とが下部電極の上に順次形成された、いわゆるボトム型スピンバルブ構造を有している。AFM層は、自らの磁気モーメントがある一定方向に固定されたものであり、ピンド層の磁気モーメントを一定方向に保持するように機能する。MRAMに搭載されるMTJ素子では、フリー層としてNiFe(ニッケル鉄)が好適に用いられる。ピンド層は、例えば、隣接する「y」方向に磁化されたAFM層との交換結合によって「y」方向に固定された磁気モーメントを有する。フリー層は、ピンド層の磁気モーメントに対して平行または反平行な磁気モーメントを有する。トンネルバリア層は、伝導電子の量子力学的トンネル効果によってトンネル電流が通過できる程度に厚みが薄いものである。フリー層の磁気モーメントは、外部磁場に応じて変化可能であり、フリー層とピンド層との磁気モーメントの相対的な配向こそが、トンネル電流ひいてはトンネル接合の抵抗を決定づける。センス電流が上部電極から下部電極へと積層方向に通過すると、フリー層の磁化とピンド層の磁化とが互いに平行な状態(「1」メモリ状態)の場合には低抵抗が検出され、それらの磁化が互いに反平行な状態(「0」メモリ状態)の場合には高抵抗が検出される。
【0004】
読出動作時には、CPP構造の場合、MTJ素子を上方から下方へとセンス電流が積層方向に流れ、MRAMセルに格納された情報がMTJ素子の磁化状態(抵抗レベル)が検出されることによって読み出される。一方、書込動作時には、MTJ素子の上方または下方で互いに交差するビット線およびワード線にそれぞれビット線電流およびワード線電流が流れることによって外部磁場が発生し、その結果フリー層の磁化状態が所定の状態に変化することにより、MRAMセルに情報が書き込まれる。一方の導線(例えばビット線)は、フリー層の磁化容易軸に沿った磁場をもたらし、他方の導線(ワード線)は、フリー層の磁化困難軸に沿った磁場をもたらす。これらの導線の交差点は、MTJ素子の磁化反転のしきい値(スイッチング磁場)を超えるように設計されたピーク磁場を生成する。
【0005】
MTJ素子が高い性能をもつかどうかは、「dR/R」として規定されるMR比(抵抗変化率)の値が高いか否かで決まる。ここで、「R」はMTJ素子の最小の電気抵抗値であり、「dR」は、フリー層の磁気状態を変化させたときに観測される電気抵抗の変化値である。TMR比および抵抗値の均一性(ピンド層の磁化とフリー層の磁化とが平行であるときの抵抗値の共分散:Rp#cov)が高いことや、スイッチング磁場(Hc)が低いこと、磁歪(λs)が低いことは、従来のMRAMにおいて望ましいことであった。 スピントランスファートルク(STT)を利用したMTJ素子を備えたMRAM(STT−RAM)では、高い磁歪(λs)と、高いHcとを有することが、より優れた熱安定性のための高い異方性をもたらす。このような結果は、以下の(a)〜(c)によって成し遂げられる。
(a)フリー層の磁化およびそのスイッチング動作が十分に(適切に)制御されていること。
(b)十分に制御され、大きな交換磁場および高い熱安定性を有するピンド層の磁化が十分に(適切に)制御されていること。
(c)トンネルバリア層が十分な品質および完全性(integrity)を有すること。
接合抵抗Rと形成面積Aとの積で表される面積抵抗RAの特定値や、高い破壊電圧Vbなどによって特徴づけられる良好なバリア特性を得るためには、反強磁性ピンニング層やピンド層における平滑かつ緻密な結晶成長によって促進される、ピンホールの無い均質なトンネルバリア層が必要である。磁化容易軸方向および磁化困難軸方向の双方における寸法が1μm以下の(すなわち、形成面積Aが1μm2 以下の)MTJ素子においては、そのRA値は、比較的小さく(例えば2000Ω×μm2 未満)とすべきである。さもないと、接合抵抗Rが大きくなりすぎてしまうため、そのMTJ素子と接続されるトランジスタとの整合性(トランジスタの比抵抗のマッチング)に支障を来すからである
【0006】
MRAMデバイスでは、電流線に書込電流を流すことで外部磁場(誘導磁場)を発生させ、その誘導磁場によってフリー層の磁気モーメントの方向をスイッチング(反転)させている。しかしながら、MRAMセルのサイズを縮小するにつれ、その誘導磁場の発生による問題、すなわち、隣接するセルへの誤書込が生じ易くなってきている。したがって、超高密度のMRAMデバイスを製造するにあたっての重要な点は、半選択(選択対象MRAMセルに隣接するMRAMセルへの誤書込)の問題を除去するために、大きな磁化反転マージン(読み出しマージン)を確保することである。このような背景により、スピントランスファー(スピントルク)デバイスと呼ばれる新しいタイプのデバイスが開発されている(例えば非特許文献1,2参照)。このスピントランスファートルク(STT)−RAMは、それまでのMRAMと比較して、次のような利点を有している。すなわち、半選択の問題による隣接するセルへの誤った書込動作を回避することができる。スピントランスファー効果は、強磁性層\スペーサ層\強磁性層という多層構造の、スピン依存電子伝導特性に起因するものである。スピン偏極電流が磁気多層構造の内部を、その積層方向に流れる際、強磁性層へ入射する電子のスピン角運動量(spin angular moment)がその強磁性層と非磁性スペーサ層との界面近傍において、その強磁性層の磁気モーメントと相互に作用する。この相互作用を通じて、電子の角運動量が強磁性層に移動することとなる。その結果、スピン偏極電流の電流密度が十分に高く、多層構造の寸法が小さければ、そのスピン偏極電流によって強磁性層の磁化方向をスイッチングすることができる。STT−RAMと従来のMRAMとの違いは、書込機構が異なるだけであり、読出機構は同じである。
【0007】
従来のMRAMおよびSTT−RAMを90nmテクノロジーノードにおいて実現可能とするには、MTJ素子が、AlOxからなるトンネルバリア層とNiFeからなるフリー層とを有する従来のものよりも遙かに高いTMR比を発揮する必要がある。さらに、例えば100nmのゲート幅につき100μAを供給可能な一般的なCMOSトランジスタによって駆動するには、臨界電流密度Jcを106 A/cm2 未満とする必要がある。なお、90nmテクノロジーノードとは、線幅の最小値および隣接する線同士の間隔の最小値が90nm以下となるようにパターニングを行う技術ノードである。スピントランスファー効果を利用したスイッチングを行うための臨界電流Ic[=(Ic++Ic-I)/2]は、180nmテクノロジーノードにおけるMTJ素子(接合面積が0.2μm×0.4μmのもの)では、数mAである。臨界電流密度Jc(=Ic/A)は、数107 A/cm2である。このような、スピントランスファー効果を引き起こすような高い臨界電流密度は、AlOx やMgOなどからなる薄いトンネルバリア層を絶縁破壊する可能性がある。したがって、STT−RAMなどのギガビット規模の高密度デバイスにおいては、臨界電流Ic(および臨界電流密度Jc)が1桁以上低減されることが望ましい。MTJデバイスの電気的破壊(絶縁破壊)を回避するためであり、かつ、下方に配置されるCMOSトランジスタ(特定のメモリセルを選択する際のスイッチング電流を供給するもの)と適合させるためである。
【0008】
あるMTJセルに書き込み情報がある場合に、回路は、MTJセルが高抵抗状態または低抵抗状態のいずれであるのかを検出可能となっている。TMR比の均一性およびMTJ素子の絶対抵抗値は、MRAMやSTT−RAMにおいて極めて重要である。読出動作においては、MTJ素子の抵抗の絶対値が、固定された抵抗状態のリファレンスセルと比較されるからである。言うまでもなく、読出プロセスは、アレイ中のMTJセルの抵抗値のばらつきに起因する、いくつかの統計上の問題をもたらす。メモリブロック内の選択セルの抵抗値が大きなばらつきを示す場合(すなわち、共分散Rp#cov,Rap#covが大きい場合)、これらを参照セルと比較すると、信号のエラーが生じる可能性がある。良好な読み取り動作のマージンを確保するためには、TMR/Rp#cov(またはTMR/Rap#cov)を、最小でも12とする必要があり、好ましくは15よりも大きく、最も好ましくは20よりも大きくするとよい。
【0009】
固有の臨界電流密度Jcは、IBM社のSlonczewskiによって以下の式(1)で表されることが示されている。
【0010】
Jc=2・e・α・Ms・tF ・(Ha+Hk+2・π・Ms)/(h・η) ……(1)
(eは電子電荷、αはギルバート減衰係数、Msはフリー層の飽和磁化、tFはフリー層の膜厚、Haは外部磁場、Hkは異方性磁場、2・π・Msはフリー層の減磁場、hはプランク定数、ηはスピン偏極率である。)
【0011】
強磁性層\スペーサ層\強磁性層という多層構造のMTJ構造体において、スピン緩和距離が強磁性層の厚みよりも大幅に大きい場合、スピンの連続性が正確に維持され、すなわち、左右両方からの界面トルクの和がスピン電流の正味の大きさと等しくなる。
一方の側の強磁性層では磁化が固定されているので、他方の側の磁化は、以下の式(2)で表される面内トルク(in-plane)Tを受けることとなる。
【0012】
T=−{h・PL ・J0 /(2・e)}・sinθ ……(2)
(hはプランク定数、PL はトンネル偏極因子、J0 は電流密度、eは電子電荷、θはトンネルバリア層を挟む強磁性層の磁化の相対角である。)
【0013】
通常、フリー層の減磁場2・π・Msは、一軸異方性磁場Hkおよび外部磁場Haよりも大幅に大きいことから、外部磁場Haや異方性磁界Hkが臨界電流密度Jcへ及ぼす影響は小さなものである。よって、式(1)は、以下の式(3)のように表現できる。
【0014】
Jc〜α・Ms・V/(h・η) ……(3)
(Vは磁気ボリュームであり、それは熱の安定性を示す関数(Ku・V/kb・T)に関連するものである。そして、それは熱的に誘導された変動に対する磁化の安定性を支配するものである。Kuは、磁気異方性エネルギーであり、kbはボルツマン定数である。
【0015】
その他、本出願に関する先行技術としては、以下のものが挙げられる。まず、非特許文献3には、CoFeBからなるピンド層およびフリー層と、RFスパッタ法により形成されたのち350℃,10kOeの条件下でアニールされたMgOからなるトンネルバリア層を有するMTJセルを備えた4KビットのSTT−RAMについて記載がなされている。MTJセルは、100nm×150nmの楕円形の平面形状を有している。トンネルバリア層は、面方位が(001)のMgOからなり、1nm(10Å)未満の厚み、約20Ω・μm2 の面積抵抗RAを有している。MTJセルの固有の抵抗変化率dR/Rは160%であるが、読み取り動作中(0.1Vのバイアス電圧を印加した状態)では、抵抗変化率dR/Rは約90%から100%である。10nsのパルス幅を用いた場合でのスピン注入磁化反転に要する臨界電流密度Jcは、およそ2.5×106A/cm2 である。4Kビット回路における高抵抗状態から低抵抗状態への遷移時および低抵抗状態から高抵抗状態への遷移時に対する書き込み電圧分布は、良好な書き込みマージンを示している。低抵抗状態の抵抗値(Rp)および高抵抗状態の抵抗値(Rap)における抵抗分布は、約4%のばらつき(すなわち、共分散Rp#cov,Rap#covが4)を有している。したがって、読み出し動作の場合では、TMR(0.1Vのバイアス)/Rp#covは、20よりも大きい。
【0016】
また、H.MengおよびJ.Wangは、例えば非特許文献4において、2種類のMTJ素子を開示している。1つ目は、「Si層\SiO2層\下部電極\Ta層\IrMn層\CoFe層\AlOx \フリー層\Ta層\上部電極」で表される積層構造のMTJ素子であり、フリー層として3nm(30Å)厚のCoFe層を用いるようにしたものである。2つ目は、「Si層\SiO2層\下部電極\Ta層\CoFe層(2nm厚)\FeSiO層(3nm厚)\CoFe層(1nm厚)\AlOx 層\CoFe層\Ru層\CoFe層\IrMn層\Ta層\上部電極」で表される積層構造のMTJ素子である。このMTJ素子では、複合フリー層として、FeSiOからなるナノ電流(NCC:Nanocurrent)層を2つのCoFe層の間に挟んでなる3層構造を採用している。1つ目のMTJ素子におけるRA値は4.2Ω・μm2 であり、TMR比はおよそ16.5%である。一方、2つ目のMTJ素子におけるRA値は7Ω・μm2 であり、TMR比はおよそ10%である。興味深いことに、2つ目のMTJ素子における臨界電流密度Jcは8×106A/cm2 であり、1つ目のMTJ素子の臨界電流密度Jc(2.4×107A/cm2)c0の値の33%程度である。
【0017】
また、Y.Jiangらは、例えば非特許文献5,6において、ナノピラーCPP−GMR構造体における電流誘起磁化反転(CIMS:Current Induced Magnetization Switching)について開示している。
【0018】
また、T.ochiaiらは、シンセティック反強磁性フリー層を有するCPP−GMRナノピラーにおいては、シンセティック反強磁性フリー層における第1の強磁性層と第2の強磁性層との間の相対的な厚さに依存して、CIMSが電流領域の一方の側でのみ観察されることを示している(例えば非特許文献7参照)。したがって、このようなシンセティック構造を有するフリー層を含む磁気抵抗効果素子は、STT−RAMには適していない。
【0019】
また、J.Hayakawaらは、シンセティックフリー層(CoFeB層\Ru層\CoFeB層)を有するMTJ素子の臨界電流密度Jc0は、単一のCoFeB層を有するMTJ素子の臨界電流密度JC0と比較して、その3倍程度の大きさであることを教示している。
【0020】
また、N.C.Emleyらは、[Co(下部)\Ru\Co(固定)]\Cu\CoFe(フリー)構造を有するSyAF−CPPスピンバルブ(磁性ナノピラー)の抵抗変化率dR/Rは、Co(固定)\Cu\CoFe(フリー)構造の単一のピンド層を有するスピンバルブのdR/Rのわずか2分の1であることを教示している(例えば非特許文献8参照)。
【0021】
また、J.Hayakawaらは、最大450%のdR/Rを示す、450℃でアニールされた擬似スピンバルブ(ピンド層はAFM層による交換バイアスを与えられていない)について開示している(例えば非特許文献9参照)。標準的な交換バイアススピンバルブの場合では、375℃でアニールされたMTJ素子のdR/Rは最高で約350%である。エネルギー分散型X線分析によれば、375℃以上でのアニーリングは、交換バイアススピンバルブにおいて、IrMnからなる反強磁性層から、MgOからなるトンネルバリア層、および強磁性層へのMn原子の拡散を誘発することを示している。
【0022】
また、特許文献1〜4では、MgOからなるトンネルバリア層の形成方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0148786号明細書
【特許文献2】米国特許第6778363号明細書
【特許文献3】米国特許第7126202号明細書
【特許文献4】米国特許第7270896号明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】J. Sloneczewski,“Current-driven excitation of magnetic multilayers”, J. Magn. Materials V 159, L1-L7 (1996)
【非特許文献2】J. Sloneczewski,“Current, torques, and polarization factors in magnetic tunnel junctions”,Physical Review B 71, 024411(2005年)
【非特許文献3】M. Hosomi et al. ,“A novel non-volatile memory with spin torque transfer magnetization switching: Spin-RAM”, 2005 IEDM, paper 19-1
【非特許文献4】H. Meng, J. Wang,“Composite free layer for high density magnetic random access memory with low spin transfer current”, APL Vol. 89、pp. 152509(2006年)
【非特許文献5】Y. Jiang,“Perpendicular giant magnetoresistance and magnetic switching properties of a single spin valve with a synthetic antiferromagnet as a free layer”,Phys. Rev. B、Vol. 68、p. 224426(2003年)
【非特許文献6】Y. Jiang,“ Effective reduction of critical current for current-induced magnetization switching by a Ru layer insertion in an exchange-biased spin valve”,PRL,V. 92,p. 167204(2004年)
【非特許文献7】T. Ochiai,“ Distinctive current induced magnetization switching in a current-perpendicular to plane giant magnetoresistance nanopillar with a synthetic antiferromagnetic free layer”,APL Vo. 86,p. 242506(2005年)
【非特許文献8】N.C. Emley,“ Reduction of spin transfer by synthetic antiferromagnets”,APL,V. 84,p. 4257(2004年)
【非特許文献9】J. Hayakawa,“ Effect of high annealing temperature on giant tunnel magnetoresistive ratio of CoFeB/MgO/CoFeB magnetic tunnel junctions”,Appl. Phys. Lett.,89,232510(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上述したように、従来、各種のMRAMおよびSTT−RAMの検討および開発がなされている。しかしながら、最近では、さらなる記録容量の向上と共に、高い動作安定性が求められるようになってきていることから、そのような要求に対応可能なMRAMおよびSTT−RAMの開発が急務である。特に、高いTMR比を確保しつつ、例えば15を超える読出マージン(TMR比)/(Rp#cov)および2×106 A/cm2 を下回る臨界電流密度Jcが望まれる。
【0026】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、従来よりも固有の、および動作上のTMR比(dR/R)や、読出マージン(TMR/Rp#cov)が著しく向上し、90nmテクノロジーノードに基づいたMRAMセルに好適なMTJ素子を提供することにある。本発明の第2の目的は、STT−RAMに適用され、2×106 A/cm2 を下回る臨界電流密度Jcを有することでトンネルバリア層へ悪影響を与えることなくフリー層の磁化反転を容易に行うことが可能なMTJ素子を提供することにある。また、本発明の第3の目的は、そのようなMTJ素子を備えたMRAMおよびSTT−MTJ−RAM、ならびにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
これらの目的は、以下のような第1〜第3の実施の形態において例示される構成よって達成される。
【0028】
本発明の第1の実施の形態は、基体上にスピン注入(STT)RAM構造体を設けるようにしたものである。ギガビット規模の高密度STT−RAMを実現するため、基体にはトランジスタが設けられており、そのトランジスタのドレイン電極と接する接続部を介して下部電極、MTJ素子、上部電極が順に積層されている。下部電極上に設けられたMTJ素子は、例えばシード層、リファレンス層、トンネルバリア層、フリー層、およびキャップ層が下部電極の側から順に積層された多層構造であるボトム型スピンバルブ構造を有している。MTJ素子のリファレンス層は、フリー層と比較して形状異方性および保磁力(Hc)が大幅に大きく、フリー層の厚さの少なくとも2倍の厚さを有するとよい。また、トンネルバリア層は、RA値を最小限に抑えるため、自然酸化法により作られた結晶性のMgOから構成されることが好ましい。トンネルバリア層の上層として、2つの軟磁性層の間に挟まれたFeSiO等のナノ電流路(NCC)層から構成された複合体である、フリー層が設けられている。さらに、スピン散乱層として機能するように、ルテニウム(Ru)からなるキャップ層がフリー層の上に形成されている。さらに、キャップ層の上には、タンタル(Ta)などからなるハードマスクが設けられる。
【0029】
この実施の形態では、MTJ素子のdR/Rの低下を防ぐため、リファレンス層はシンセティック反強磁性(SyAF)層ではない。リファレンス層は、X層\M層で表すことができ、Xは、材料Mからなる上層の強磁性層において高い減衰定数を誘発する材料である。材料Xは、例えばテルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)などの遷移金属である。材料Mは、コバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体、またはそれらの合金である。あるいは、リファレンス層は、M1層\X層\M2層で表される複合材とすることができ、M1層は下部リファレンス層、X層は、M1層およびM2層において高い減衰定数を誘起する中間挿入層、M2層は上部リファレンス層である。材料M1およびM2は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体、またはそれらの合金である。リファレンス層およびトンネルバリア層は、MTJ素子の下部積層体(下部ペデスタル部)を構成するとともに、積層面に沿って第1の面積を有している。MTJ素子のその他の層は、その上部積層体を構成するとともに、積層面に沿って第2の面積を有している。第2の面積は、第1の面積よりも実質的に小さい。
【0030】
本発明の第2の実施の形態は、MTJ素子が、下部電極の側からシード層と、SyAFリファレンス層と、トンネルバリア層と、フリー層と、キャッピング層と、ハードマスクとを順に備えるものである。本実施の形態におけるMTJ素子は、反強磁性層を含まず、シード層、SyAFリファレンス層、およびトンネルバリア層が下部積層体(下部ペデスタル部)を構成している。MTJ素子の上部積層体は、フリー層、キャップ層、およびハードマスクからなり、下部積層体の第1の面積よりも実質的に小さい第2の面積を有している。SyAFリファレンス層は、下部磁性層(第2のピンド層)と、中間非磁性結合層と、下部磁性層に対して反平行に結合し、高い減衰定数を有する上部磁性層(第1のピンド層)とを順に含む。
【0031】
本発明の第3の実施の形態は、MTJ素子の上部が、下部と同じ形状および面積を有するものである。ここでは、SyAFリファレンス層からの双極子磁場が大幅に減少している。したがって、MTJ素子の上部と下部との間の実質的な面積サイズの違いを有する必要はない。
【0032】
上述した3つの実施の形態のMTJ素子におけるすべての層は、スパッタ法またはイオンビーム蒸着(IBD:Ion Beam Deposition)法を用いて形成することができる。トンネルバリア層は、マグネシウム(Mg)層に自然酸化処理を施すことによって作られたMgOであることが好ましい。積層体のすべての層が蒸着されたのち、熱アニール処理によってリファレンス層の磁化容易軸方向を固定するとよい。さらに、第1のパターニングおよびエッチング連続処理が行われ、MTJ素子の上部積層体が作製される。そののち、第2のパターニング・エッチング連続処理により、下部積層体(下部ペデスタル部)が形成される。
【0033】
さらに、例えば第1のフォトレジスト層がハードマスクの上に形成されるとともにパターン化されて、所定の平面形状に画定される。次に、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etch)処理により、第1のフォトレジスト層によって覆われていないハードマスクの一部がエッチングされる。この第1のフォトレジスト層が除去されたのち、第2のRIE処理により、ハードマスクによって保護されていないキャップ層とフリー層との一部が選択的にエッチングされる。さらに、窒化ケイ素からなる保護層が、露出したトンネルバリア層の表面と、フリー層、キャッピング層およびハードマスクを含む上部とを覆うように蒸着される。この保護層の上に第2のフォトレジスト層がコーティングされるとともにパターン化され、島状のアレイが形成される。島状の各アレイは、MTJ素子の下部積層体の所望とする面積および形状に対応する面積を有する。次に、第3のRIE処理により、第2のフォトレジスト層によって保護されていない領域のトンネルバリア層、リファレンス層、シード層、下部電極が選択的に除去される。第3のRIE処理が完了したのち、第2のフォトレジスト層が除去され、完成したMTJ素子が現れる。保護層は、フリー層の酸化を防ぐために上部積層体の端面を覆うように残存させることが好ましい。
【0034】
こののち、酸化ケイ素等の第2の誘電体層が、MTJ素子の上と、第1の誘電体層である周囲の基板とを覆うように成膜される。化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polish)を用いて、ハードマスクを露出させるとともに、第2の誘電体層の表面がMTJ素子の最上面と同一平面となるようにする。そして、その同一平面上にMTJ素子の最上面と接するように導電層を成膜し、フォトリソグラフィ法に基づくパターニングおよびRIEの連続処理によってビット線がハードマスクの上に形成される。
【発明の効果】
【0035】
本発明のMTJ素子およびその形成方法、ならびにSTT−RAMの製造方法によれば、複合フリー層が第1の強磁性層とNCC層と第2の強磁性層とを順に含むようにしたので、臨界電流密度を低減することができ、スピントランスファー効果を利用した磁化反転をより良好に行うことが可能となり、動作上の信頼性を向上させることができる。さらに、複合リファレンス層が、固定された磁化方向を有する磁性層と、その減衰定数を高める挿入層との2層構造を含むと共に複合フリー層よりも大きな占有面積を有し、複合フリー層の形状異方性および保磁力よりも大きな形状異方性および保磁力を有するようにしたので、複合リファレンス層における磁化方向が安定化し、動作上の信頼性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施の形態としてのSTT−RAMを構成するメモリセルの概略構成を表す断面図である。
【図2】図1に示したMTJ素子の概略構成を表す断面図である。
【図3】図1に示したメモリセルを製造する方法における一工程を表す断面図である。
【図4】図3に続く一工程を表す断面図である。
【図5】図4に続く一工程を表す断面図である。
【図6】図5に続く一工程を表す断面図および平面図である。
【図7】図6に続く一工程を表す断面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態としてのSTT−RAMに用いられるMTJ素子の概略構成を表す断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態としてのSTT−RAMに用いられるMTJ素子の概略構成を表す断面図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態としてのSTT−RAMに用いられるMTJ素子の概略構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に実施の形態という。)について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本明細書に添付した図面は例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、本実施の形態ではボトム型スピンバルブ構造を例示するが、当業者により理解されるように、本発明はトップ型スピンバルブ構造やデュアル型スピンバルブ構造をも含むものである。さらに、図面は、必ずしも一定の縮尺(比率)で描かれているものではなく、また、実際のデバイスのサイズと必ずしも一致するものでもない。
【0038】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明における第1の実施の形態としての、スピントランスファートルク(STT)を利用したランダムアクセスメモリ(STT−RAM)を構成するメモリセル1の断面構成を表す概略図である。
【0039】
メモリセル1は、フリー層(ここでは図示せず)を含むMTJ素子(MTJナノ磁性体ピラー)11と、そのフリー層の磁化反転を行うためのスイッチング電流を供給するトランジスタが設けられたp型半導体基板2(以下、単に基板2という。)とを備えている。メモリセル1は、さらに、トランジスタを構成するソース3,ドレイン4およびゲート5と、スタッド6を介してソース3と導通するワード線7と、スタッド8およびソース線9を介してドレイン4と導通する下部電極10と、ビット線9とをそれぞれ備えている。
【0040】
このSTT−RAM構造では、例えば第1の階層において互いに平行に延在するワード線7が複数設けられると共に、その第1の階層とは異なる第2の階層において互いに平行に延在するビット線12が複数設けられている。ワード線7とビット線12とは、積層面と直交する方向から眺めた場合、互いに交差するように延在しており、MTJ素子11は、複数のワード線7と複数のビット線12との各交差点に1つずつ配置されている。
【0041】
図2は、メモリセル1の要部であるMTJ素子11の近傍を拡大した断面図である。図2に示したように、MTJ素子11は、厚み方向において下部電極10とビット線12との間に設けられており、その上面がビット線12と接し、下面が下部電極10と接している。
【0042】
下部電極10は、例えばシード層と導電層とキャップ層とが下から順に積層された多層構造となっている。この場合、シード層の構成材料としては、ニッケルクロム合金(NiCr)、タンタル(Ta)あるいは窒化タンタル(TaN)が用いられる。導電層は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)のほか、金(Au)、銅(Cu)もしくはα−Taなどによって構成される。さらに、キャップ層としては、非晶質のタンタル(α−Ta)層が好ましい。その上にMTJ素子11を形成するにあたり、そのMTJ素子11の各層の均質かつ緻密な結晶成長を促すように機能するからである。下部電極10の具体例としては、例えばタンタル(Ta)層とルテニウム(Ru)層とタンタル(Ta)層との3層構造「Ta\Ru\Ta」が挙げられる。あるいは、下部電極10は、タンタル(α−Ta)からなる単一層としてもよい。その場合においても、下部電極10の上に順次形成されるMTJ素子11の各層における均質かつ緻密な結晶成長が促進され、結果としてMTJ素子11のdR/Rの向上に有利となる。下部電極10は、例えばxy平面内において矩形状の特定領域を占めるように区分され、z方向に厚みを有する平板状をなしている。
【0043】
MTJ素子11は、下部電極10の上に、下部積層体111と上部積層体112とが順に積層されたものである。下部積層体111は、下部電極10の側から、シード層51と、複合リファレンス磁性層33(以下、単にリファレンス層33という。)と、トンネルバリア層34とを順に含んでいる。上部積層体112は、下部積層体111の側から、フリー層40と、ルテニウム(Ru)からなるキャップ層38と、ハードマスク39とを順に含んでいる。上部積層体112は、積層面に沿った(XY平面に沿った)占有面積が下部積層体111よりも小さくなっている。下部積層体111は、例えば上部積層体112の4倍以上9倍以下の占有面積を有しているとよい。また、上部積層体112の端面は、絶縁性の保護膜41によって覆われている。
【0044】
シード層51は、NiCr,NiFe,およびNiFeCrなどから構成することができる。シード層51は、非晶質のタンタルからなる下部電極10の上で成長した場合に、滑らかで高密度の(111)面の結晶面を有することとなる。その結果、シード層51の上に形成されるMTJ素子11の他の層においても滑らかで緻密な結晶成長が促される。
【0045】
リファレンス層33は、材料Xからなる下層としての挿入層33Cと、材料Mからなる上層としての磁性層33Aとから構成される2層構造「X層\M層」を有する。磁性層33Aは、例えば4nm(40Å)以上6nm(60Å)以下の厚さを有し、その上面がトンネルバリア層34と接している。この磁性層33Aは、反強磁性層を必要とすることなく、積層面内における磁化容易軸(X軸方向)に沿って固定された磁化方向を有する自己ピンド層である。磁性層33Aを構成する材料Mは、例えばコバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金である。自己ピンド層に求められる条件は、保磁力Hcおよび磁歪定数λsが十分に高いこと、および減衰定数が高いことである。磁性層33Aは、例えば約5×10-5の磁歪定数λsを有するCoFeBによって構成される。磁性層33Aは、「自己ピンド」状態を形成するのに十分に大きな保磁力Hcを得るために、上部積層体112のフリー層40の厚さの、少なくとも2倍の厚さを有することが好ましい。すなわち、磁性層33Aの磁気モーメントは、外部磁場に対して安定であるとともにフリー層40の他の磁性層からの影響を受けて反転してしまうことのないとが必要となる。挿入層33Cは、磁性層33Aにおける減衰定数を高めるように作用するものである。挿入層33Cを構成する材料Xは、例えば、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)である。挿入層33Cは、例えば1nm(10Å)以上4nm(40Å)以下の厚さを有し、好ましくは1nm(10Å)以上2nm(20Å)以下の厚さを有する。
【0046】
リファレンス層33における磁性層33Aの厚さは、複合フリー層40の下部強磁性層35の厚さと上部強磁性層37の厚さとの合計よりも大きいことが好ましい。特に、磁性層33Aの厚さが下部強磁性層35および上部強磁性層37の合計の厚さの2倍〜4倍とすれば、リファレンス層33において複合フリー層40よりもはるかに大きな保磁力Hcを有することとなり、「自己ピンド」された磁気的状態が強固に維持される。
【0047】
また、反強磁性層がシード層51とリファレンス層33との間に配置されるような構成は、あまり好ましくない。これは、上述したJ. Hayakawaの文献によれば、原子スピンは反強磁性体の内部の反平行構造に並んでおり、反強磁性層の材料はMTJ素子を通過する電流に対して高い減偏極作用を有し、これによりスピン注入MTJにおけるスピン注入効果が減少するからである。リファレンス層33「自己ピンド」状態は、複合フリー層40の形状異方性よりもはるかに大きな形状異方性に起因して得られる。この大きな形状異方性は、リファレンス層33が、複合フリー層40と比較して、「x,y」平面において大きな面積を有するとともに、z軸方向に大幅に大きな厚さを有することによってもたらされる。シード層51および挿入層33Cは、リファレンス層33において高い減衰定数を生じさせることができ、これによりリファレンス層33Aの「自己ピンド」状態がさらに安定化する。
【0048】
トンネルバリア層34は、酸化マグネシウム(MgO)からなることが好ましい。
【0049】
フリー層40は、下部強磁性(FM1)層35と、中間ナノ電流路(NCC:Nanocurrent channel)層36と、上部強磁性(FM2)層37とが順に積層された複合体であり、トンネルバリア層34の上に設けられている。下部強磁性層35および上部強磁性層37は、好ましくは、比較的低い磁気減衰定数を有するCoFeB,CoFe,Fe,FeBなどから構成され、その厚みが、リファレンス層33よりも薄くなっている。NCC層36は、鉄(Fe),ニッケル(Ni),コバルト(Co)もしくは硼素(B)の粒子を含むケイ素酸化物またはケイ素窒化物である。より具体的には、NCC層36は、RSiOまたはRSiNからなる(但し、Rは、Fe,Co,Ni,Bまたは他の金属元素である)。RSiOおよびRSiNは、鉄などの(Si)等の導電性粒子(R)が、酸化ケイ素(または窒化ケイ素)の絶縁体マトリックス中に形成され、隣接する下部強磁性層35および上部強磁性層37と磁気的かつ電気的に結合している複合材である。鉄などの導電性粒子(R)は、例えば下部強磁性層35と上部強磁性層37とを結ぶように伸びる柱状をなしている。高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM:High resolution transmission electron microscopy)を用いた測定結果によれば、FeSiOからなるNCC層36は、トンネルバリア層34と同様に平坦で滑らかな連続膜として成長することを示している。ここで、2つの磁性層(下部強磁性層35および上部強磁性層37)は、強磁性的に結合しており、よって同一方向の磁気モーメントを有している。例えば、下部強磁性層35および上部強磁性層37の磁化方向は、リファレンス層33における磁性層33Aの磁化方向に対して平行または反平行となっている。
【0050】
上記のように、フリー層40は、例えば「FM1層\FeSiO層\FM2層」という構造、または「FM1層\FeSiN層\FM2層」という構造を取り得る。なお、FM1層は下部強磁性層35を表し、FM2層は上部強磁性層37を表す。この場合、例えば下部強磁性層35を1nm(10Å)以上1.5nm(15Å)以下の厚さのCoFeB層とし、NCC層36を1nm(10Å)以上1.5nm(15Å)以下の厚さのFeSiO層とし、上部強磁性層37を0.6nm(6Å)以上0.8nm(8Å)以下の厚さのCoFeB層とするとよい。ここで説明したフリー層40では、スピン電流はNCC層36の導電性粒子R(Si)のみを通過し、これにより導電性磁性粒子における高電流密度がもたらされ、ナノ電流路層36のR(Si)粒子での磁化反転が誘発される。局所的な高電流密度によって生じた熱も、R(Si)粒子における磁化反転に貢献し得る。NCC層36のR(Si)粒子が磁化反転(逆転)可能であるとともにフリー層40の下部強磁性層35および上部強磁性層37と結合していることから、CoFeB等の磁性層35,37の磁化反転は、フリー層40にNCC層36が存在しない場合と比較してはるかに容易となる。
【0051】
本実施の形態では、熱的安定性を向上させるため、最大で約5at%程度の少量の硼素(B)を下部強磁性層35および上部強磁性層37に添加するようにしてもよい。したがって、下部強磁性層35および上部強磁性層37は、FeBx(xは0以上5at%以下)で表すことができる。
【0052】
フリー層40を覆うキャップ層38は、例えば0.5nm(5Å)以上1.5nm(15Å)以下の厚みを有し、ルテニウム(Ru)によって構成されているとよい。そうすることにより、強力なスピン散乱作用を発現する。但し、350℃を超える温度でのアニール処理を行う場合には、0.5nm(5Å)以上1.0nm(10Å)以下とすることが望ましい。なお、キャップ層38の厚みをより大きくすることにより抵抗Rが上昇するので、dR/Rの低下を招いてしまうことに留意する必要がある。すなわち、dR/Rを向上させるとともに臨界電流密度Jcを著しく低下させるため、キャップ層38は薄いルテニウム層であることが望ましい。臨界電流密度Jcの大幅な低下が生じる主たる理由は、ルテニウム層が偏極電流を効果的に反射させることにより強力なスピン散乱体として機能し、これにより下部強磁性層35およびNCC層36の間の界面と、NCC層36および上部強磁性層37の間の界面とにおけるスピン蓄積が向上するためである。このスピン蓄積の向上により、フリー層40の内部の偏極電流が増加する。その結果、さらなるスピントルクが生じ、フリー層40の磁化に強く作用することとなる。
【0053】
MTJ素子11の最上層に位置するハードマスク39は、例えばタンタル(Ta),窒化タンタル(TaN),チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)によって構成されるとよい。ハードマスク39は、製造過程における後続の処理工程が行われている最中にMTJ素子11の他の層が過剰に薄くなることを防止するために、十分な厚さを有している。例えば、後述する化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polish)工程の際の、過剰な薄膜化によるMTJ構造体の高さのばらつきがデバイスの性能を低下させ得ることは、よく知られている。
【0054】
次に、以上のような構造のメモリセル1を含むSTT−RAMの製造方法を説明する。
【0055】
まず、トランジスタが設けられた基板2に、スタッド6,8、ワード線7、ソース線9,下部電極10などを順次形成したのち、下部電極10上にMTJ素子11を形成する。なお、図3に示したように、ソース線9の周囲は、絶縁層31によって充填するようにする。
【0056】
MTJ素子11の形成は以下のようにして行う。具体的には、図3に示したようにシード層51,リファレンス層33,トンネルバリア層34,フリー層40,キャップ層38,ハードマスク39を順に積層し、多層膜11Zを形成する。MTJ素子11は、下部電極10と同じ成膜装置において形成することができる。例えば、アネルバ社製のC−7100などの薄膜スパッタリング装置によって形成するとよい。この装置は、各々が5つのターゲットを有する3つの物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)チャンバと、酸化チャンバと、スパッタエッチングチャンバとを有するものである。複数のPVDチャンバのうちの少なくとも1つは、同時スパッタリングが可能なものである。スパッタ成膜プロセスにおいては、一般的にアルゴンガスを用い、ターゲットとして所定の金属または合金を用いる。下部電極10、および多層膜11Zの各層を、スパッタ装置の1回のポンプダウン後に全て形成することで、スループットを向上させることが望ましい。
【0057】
トンネルバリア層34を形成する際には、マグネシウム(Mg)のターゲットを用いたスパッタリングにより一旦、結晶質のマグネシウム層を(例えば0.6nm以上0.8nm以下の膜厚で)形成したのち、自然酸化を施すことにより結晶質を維持したままMgO層へ変化させる。これにより、MgO層は、ばらつきの少ない(001)結晶面を有することとなる。さらにそのMgO層上に0.3nm以上0.5nm以下の厚みで別のマグネシウム層をスパッタリングなどにより形成するとよい。自然酸化(NOX)処理は、STT−RAMデバイスで所望とされる10〜20Ω・μm2の面積抵抗RAを得る上では、ラジカル酸化(ROX:Radical Oxidation)よりも好ましい。ラジカル酸化処理は、より高いRA値となりやすい。トンネルバリア層34は、下地となる滑らかなリファレンス層33に起因して、優れた平滑さと均質性とを有するものとなる。また、自然酸化処理は、スパッタ成膜装置内の酸化チャンバで行われることが好ましい。その処理条件としては、例えば、圧力を1torr(133Pa)とし、酸素流量を0.1から1.0(好ましくは1)標準リットル/分(slm:standard liters per minute)とし、処理時間を約100から300秒とする。
【0058】
(001)結晶面を有するMgOからなるトンネルバリア層34は、非常に高いdR/Rをもたらすことが可能である。これは、トンネル電流が結晶性のMgOからなるトンネルバリア層34を通過する際に、強磁性電極における電子対称性が保存されるという、コヒーレントトンネリングに起因するためである。特に、フリー層40における下部強磁性層35および上部強磁性層37がCoFeBからなる場合には、CoFeと比べていくらか高い固有の減衰定数を有することから、CoFeからなる場合よりも高い偏極を示し、より高いdR/Rが得られる。
【0059】
多層膜11Zを形成したのち、図4に示したように、フリー層40、キャップ層38およびハードマスク39を選択的にパターニングすることにより、上部積層体112を形成すると共にトンネルバリア層34の上面を露出させる。詳細には、まず、ハードマスク39の上に第1のフォトレジスト層(図示せず)を形成し、所定形状にパターニングすることにより、第1のフォトレジストパターン(図示せず)を形成する。次いで、この第1のフォトレジストパターンをマスクとして利用した第1の反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etch)処理を行い、第1のフォトレジストパターンに覆われていない領域のハードマスク39を除去する。そののち、第1のフォトレジストパターンを除去し、残存するハードマスク39によって保護されていない領域のキャップ層38およびフリー層40を、第2のRIE処理により選択的にエッチングする。その結果、フリー層40、キャップ層38、ハードマスク39からなり、幅W112を有する上部積層体112がトンネルバリア層34の上に形成される。なお、上部積層体112を、スタッド8およびソース線9の上方に形成することにより、単位面積当たりに、より多くのMTJ素子11を形成可能となるので、より好ましい。
【0060】
上部積層体112を形成したのち、図5に示したように、窒化ケイ素を用いて、保護膜41を、上部積層体112の上面および端面と、その周囲のトンネルバリア層34の上面とを覆うように成膜する。ここでは、上部積層体112の上面を覆う部分の厚さ、上部積層体112の端面を覆う部分の厚さ、およびトンネルバリア層34の上面を覆う部分の厚さが全て実質的に均一となるように、保護膜41を形成することが望ましい。保護膜41は、物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)などを用いて形成するとよい。
【0061】
次いで、第2のフォトレジスト層(図示せず)を保護膜41の上面を覆うように被覆したのち、それをパターニングすることにより第2のフォトレジストパターン(図示せず)を形成する。この第2のフォトレジストパターンは、最終的に形成される下部積層体111の、XY平面における形状に対応した形状を有する。この第2のフォトレジストパターンをマスクとして利用し、第3のRIE処理を行う。すなわち、この第2のフォトレジストパターンによって保護されていない領域の保護層41、トンネルバリア層34、リファレンス層33、シード層51、および下部電極10を選択的に除去する。下部電極10は、XY平面においてリファレンス層33と同じ形状を有することが望ましい。この第3のRIE処理は、第1の誘電体層31に到達した時点で終了する。ここで、第3のRIE処理工程の後半において第2のフォトレジスト層をも除去すると共に、上部積層体112の上面およびトンネルバリア層34の上面を覆う保護膜41をもエッチングすることにより、上部積層体112の端面を覆う保護膜41のみが残存することになる。これにより、製造過程のMTJ素子11が空気中に露出した場合であっても、フリー層40の酸化を防止することが可能となる。以上の結果、図6(A),6(B)に示したように、幅W111を有する下部積層体111と、幅W112を有する上部積層体112とからなるMTJ素子11が完成する。
【0062】
MTJ素子11を形成したのち、図7に示したように、下部積層体111および上部積層体112の周囲を埋めるように誘電体層42を形成する。さらに、誘電体層42とハードマスク39とが共通平面を形成するように誘電体層42を平坦化したのち、その共通平面に沿って延在すると共にハードマスク39の上面と接するようにビット線12を形成する。誘電体層42は、酸化ケイ素、アルミナ、または他の絶縁材料によって形成することができる。ビット線12は、銅(Cu),アルミニウム(Al)、またはそれらの合金等の導電性材料によって金属層を全面に亘って形成したのち、フォトレジストパターンの形成、およびエッチング処理との連続処理によりその金属層をパターン化することで形成することができる。
【0063】
本実施の形態においては、マンガンを含む反強磁性層を有するMTJ素子と比較して、より高温下でのアニール処理が可能となる。マンガンを含む場合、高温でのアニール処理を行うと、マンガンがトンネルバリア層へ拡散してしまい、dR/Rなどの磁気特性の劣化を招く。しかしながら、本実施の形態では、トンネルバリア層へ拡散するような元素を含まないので、例えば375℃程度の高温下でのアニール処理が可能である。これにより、リファレンス層33の「自己ピンド」状態がより安定化し、さらに高いdR/Rが実現されることとなる。アニール処理は、MTJ素子11を構成する全ての層が成膜された後であって、上部積層体112および下部積層体111がパターン化される前に行われることが好ましい。例えば、図3に示した多層膜11Zに対し、真空下において330℃から400℃の温度に保ちつつ、5から10kOeの磁場を1〜5時間に亘ってx軸(容易軸)に沿って印加するようにする。
【0064】
このように、本実施の形態では、MTJ素子11が、下部強磁性層35とNCC層36と上部強磁性層37との3層構造からなるフリー層40を有するようにしたので、臨界電流密度Jcを最小限に抑えることができる。それにより、フリー層40においてスピントランスファー効果を利用した磁化反転をより良好に行うことが可能となり、動作上の信頼性が向上する。さらに、リファレンス層33が、固定された磁化方向を有する磁性層33Aと、その減衰定数を高める挿入層33Cとの2層構造を含むと共に、フリー層40よりも大きな占有面積を有し、フリー層40の形状異方性および保磁力よりも大きな形状異方性および保磁力を有するようにしたので、リファレンス層33における安定した自己ピンド状態が実現され、動作上の信頼性を高めることができる。また、トンネルバリア層34を、自然酸化法によって形成された結晶性のMgOからなるようにしたので、面積抵抗RAをより低減することができる。さらに、フリー層40とリファレンス層33との間の双極子相互作用も最小限となるので、フリー層40の磁化の反転性能が向上する。また、MTJ素子11は、既存の装置を用いて容易に実施することができる。
【0065】
[第2の実施の形態]
次に、本発明における第2の実施の形態としてのSTT−RAMについて説明する。このSTT−RAMは、MTJ素子11の代わりに図8に示したMTJ素子11Aを採用したことを除き、上記第1の実施の形態におけるSTT−RAMと同様の構造を有している。以下、図8を参照して、MTJ素子11Aについて説明する。図8は、MTJ素子11Aの断面構成を表している。
【0066】
このMTJ素子11Aは、上記第1の実施の形態のMTJ素子11に含まれるリファレンス層33の代わりに、新たなリファレンス層43を含むようにしたことを除き、他はMTJ素子11と同様の構成である。したがって、以下では、リファレンス層43に関する説明を行い、他の構成要素に関する説明は省略する。
【0067】
図8に示したように、リファレンス層43は、下部磁性層33Bと、挿入層33Cと、上部磁性層33Dとから作られた3層構造の複合体である。下部磁性層33Bおよび上部磁性層33Dは、例えばコバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体、またはそれらの合金からなる。挿入層33Cは、例えばテルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)からなる。下部磁性層33Bは、シード層51の上に設けられ、上部磁性層33Dは、トンネルバリア層34と接している。挿入層33Cの厚さは2nm(20Å)未満に保たれ、下部磁性層33Bと上部磁性層33Dとの間の強力な強磁性結合を可能としている。
【0068】
このような本実施の形態においても、上記第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0069】
[第3の実施の形態]
次に、図9を参照して、本発明における第3の実施の形態としてのSTT−RAMに用いられるMTJ素子11Bについて説明する。図9は、MTJ素子11Bの断面構成を表している。
【0070】
このMTJ素子11Bは、上記第1の実施の形態のMTJ素子11に含まれるリファレンス層33の代わりに、新たなリファレンス層53を含むようにしたことを除き、他はMTJ素子11と同様の構成である。したがって、以下では、リファレンス層53に関する説明を行い、他の構成要素に関する説明は省略する。
【0071】
図9に示したように、リファレンス層53は、シード層51の側から下部磁性層(AP2層)33Bと、結合層33Eと、挿入層33Cと、上部磁性層(AP1層)33Aとが順に積層されたシンセティック反強磁性(SyAF)構造を有している。挿入層33Cは、結合層33Eの上に形成され、上部磁性層33Aはトンネルバリア層34と接している。下部磁性層33Bおよび上部磁性層33Aは、コバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金からなる。挿入層33Cは、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)からなり、上部磁性層33Aにおける減衰定数を高めるように作用する。結合層33Eは、例えばルテニウム(Ru),ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)などの非磁性材料からなり、0.75nm(7.5Å)の厚さを有するとよい。結合層33Eは、下部磁性層33Bと上部磁性層33Aとの間の反強磁性結合を促進するものである。
【0072】
本実施の形態では、上部磁性層33Aは、フリー層40および下部磁性層33Bよりも大幅に大きな形状異方性と保磁力Hcとを有することによって、自己ピンドされた磁化を有している。この自己ピンニング効果は、第1に、上部磁性層22Aの厚さが、下部磁性層33Bの厚さの少なくとも2倍の厚さであり、かつ、フリー層40を構成する下部強磁性層35および上部強磁性層37の合計の厚さの少なくとも2倍であること、第2に、XY平面において下部積層体111が上部積層体112よりも大きな面積を有すること、によって得られる。例えば、下部積層体111の面積は、上部積層体112の面積の4倍から9倍程度の大きさであることが望ましい。この場合、上部磁性層33Aの双極子場は、リファレンス層33における磁性層33A(図2)の双極子場よりも小さくなり得る。その結果、本実施の形態の上部磁性層33Aは、その厚さが第1の実施の形態のリファレンス層33における磁性層33Aよりも4nm〜6nm程度薄く、面積が、第1の実施の形態のリファレンス層33よりも小さくなり得る。上部磁性層33Aの厚さが、下部磁性層33Bの厚さ(例えば3nmから4nm)に近づくと、リファレンス層63の面積は、フリー層40および上部積層体112の面積と実質的に同一となる場合がある。挿入層33Cの厚さは、好ましくは0.5nm以上1nm以下に保たれ、これにより、下部磁性層33Bと上部磁性層33Aとの間の反強磁性結合がより強固に維持される。
【0073】
このような本実施の形態においても、上記第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0074】
[第4の実施の形態]
次に、図10を参照して、本発明における第3の実施の形態としてのSTT−RAMに用いられるMTJ素子11Cについて説明する。図10は、MTJ素子11Cの断面構成を表している。
【0075】
このMTJ素子11Cは、上記第1の実施の形態のMTJ素子11に含まれるリファレンス層33の代わりに、新たなSyAFリファレンス層63を含むようにしたことを除き、他はMTJ素子11と同様の構成である。したがって、以下では、主にSyAFリファレンス層63に関する説明を行い、他の構成要素に関する説明は適宜省略する。
【0076】
図10に示したように、SyAFリファレンス層73は、シード層51の側から挿入層33Cと、下部磁性層(AP2層)33Bと、結合層33Eと、上部磁性層(AP1層)33Aとが順に積層された4層構造を有している。下部磁性層33Bおよび上部磁性層33Aは、例えばコバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金からなる。挿入層33Cは、例えばテルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)からなり、下部磁性層33Bにおける減衰定数を高めるように機能する。結合層33Eは、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)からなり、下部磁性層33Bと上部磁性層33Aとの間の反強磁性結合を促進するものである。
【0077】
本実施の形態では、このようなSyAFリファレンス層63を含むようにしたので、下部積層体111が、XY平面において上部積層体112の1倍〜1.2倍の面積を有するようにすることができる。その場合、リファレンス層73における上部磁性層33Aを、その厚みが下部強磁性層35および上部強磁性層37の合計の厚みの2倍以上3倍以下となるように形成するとよい。
【実施例】
【0078】
以下、本発明に関連する得いくつかの実験例を示し、考察を加える。
【0079】
実験例1〜3は、以下の共通の構造を有している。
下部電極:「Ta\Ru(20nm厚)\α−Ta(10nm厚)」
シード層:「NiCr(4.5nm厚)」
AFM層:「MnPt(15nm厚)」
SyAFピンド層:「Co75 Fe25 (2.3nm厚)\Ru7.5 (0.75nm厚)\Co40 Fe40 20 (1.5nm厚)\Co75 Fe25 (0.6nm厚)」
トンネルバリア層:「MgO(NOX)」
フリー層:「CoFeB(1.4nm厚)\FeSiO(1.0nm厚)\CoFeB(0.6nm厚)」
キャップ層:「Ru(厚みは表1に記載)」
ハードマスク:「Ta(3nm厚)\Ru(10nm厚)」
【0080】
トンネルバリア層は、0.8nm厚の第1のマグネシウム層を形成したのち、それを自然酸化処理法によって酸化させてMgOを生成し、さらに、そのMgOを覆うように0.4nm厚の第2のマグネシウム層を形成することで得た。自然酸化処理法の処理条件については、処理時間を200秒間,酸素供給量を0.6SLMとした。さらに、アニール処理については、330℃の温度下で1時間に亘って実施した。
【0081】
実験例1〜3の各サンプルについて、CIPTおよびB−H曲線に基づいて磁気特性の評価をおこなった。その結果を表1に示す。表1には、面積抵抗RA、抵抗変化率dR/R、フリー層の飽和磁化Bs(単位はnWb/(8in)2)、フリー層の保磁力Hc、フリー層の異方性磁場Hk、をそれぞれ示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示したように、フリー層を覆うキャップ層の厚みが薄くなるほど、抵抗変化率dR/Rが向上することが確認された。
【0084】
本発明の、AFM層を有しないリファレンス層を含むMTJ素子の場合には、成膜後アニール処理を、最高で400℃を超える高温で行うことができることから、表1の実験例1よりもさらに高い抵抗変化率dR/Rを得ることができると見込まれる。
【0085】
関連する実験として、表1に示した実験例3のサンプルと、フリー層として2nm厚のCoFeB層を用いるようにした実験例4のサンプルとについて高速測定を行った。ここでは、MTJ素子を、上部積層体と下部積層体とがほぼ同じ面積を有し、かつ、ほぼ垂直な側壁を有する100nm×150nmの楕円形状を有するものとした。その結果、温度O(K)における臨界電流密度Jc0が、CoFeBフリー層を有する実験例4のサンプルでは約7×106A/cm2となり、実験例3のサンプルでは約2.5×106A/cm2であることがわかった。したがって、単一のCoFeB層の代わりにFeSiOからなるNCC層を有する複合フリー層を用いるようにしたことにより、臨界電流密度Jc0が60%以上減少した。
【0086】
本発明をその好適な実施の形態を参照して具体的に示し説明したが、当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形式的な変更および詳細な変更をなし得ることを理解するであろう。
【符号の説明】
【0087】
1…メモリセル、2…基板、3…ソース、4…ドレイン、5…ゲート、6,8…スタッド、7…ワード線、9…ソース線、10…下部電極、11…MTJ素子、111…下部積層体、112…上部積層体、12…ビット線、33,43,53…リファレンス層、33A…磁性層、33B…下部磁性層、33C…挿入層、33D…上部磁性層、34…トンネルバリア層、36…NCC層、38…キャップ層、40…フリー層、41…保護膜、51…シード層、63…SyAFリファレンス層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、
前記基体の側から順にシード層、複合リファレンス磁性層、トンネルバリア層を有する第1の積層体と、
前記第1の積層体の側から順に、複合フリー層、ルテニウム(Ru)からなるキャップ層、ハードマスクを有し、積層面に沿った占有面積が前記第1の積層体よりも小さな第2の積層体と
を備え、
前記複合リファレンス磁性層は、積層面内における磁化容易軸に沿って固定された磁化方向を有する磁性層と、前記磁性層の減衰定数を高める挿入層とを含み、
前記複合フリー層は、第1の強磁性(FM1)層とナノ電流路(NCC)層と第2の強磁性(FM2)層とを順に含み、
前記ナノ電流路層は、鉄(Fe),ニッケル(Ni),コバルト(Co)もしくは硼素(B)の粒子を含むケイ素酸化物またはケイ素窒化物であり、
前記第1の強磁性層および第2の強磁性層は、前記磁性層よりも低い減衰定数を有すると共に前記複合リファレンス磁性層よりも薄い厚みを有する
MTJ素子。
【請求項2】
前記下部電極は、タンタル(Ta)層とルテニウム(Ru)層とタンタル(Ta)層との3層構造、もしくは単層のタンタル層からなり、前記第1の積層体と同一の形状を有する
請求項1記載のMTJ素子。
【請求項3】
前記複合リファレンス磁性層における挿入層は、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)からなり、
前記複合リファレンス磁性層における磁性層は、前記トンネルバリア層と接しており、コバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金からなる
請求項1記載のMTJ素子。
【請求項4】
前記複合リファレンス磁性層は、前記挿入層を一対の前記磁性層によって挟むようにした3層構造を有し、
前記一対の磁性層は、いずれもコバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体、またはそれらの合金からなり、
前記挿入層は、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)からなる
請求項1記載のMTJ素子。
【請求項5】
前記複合リファレンス磁性層は、一対の前記磁性層と、その間に結合層と前記挿入層とが順に設けられた4層構造を有し、
前記一対の磁性層は、いずれもコバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金からなり、
前記挿入層は、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)からなり、
前記結合層は、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)からなる非磁性層である
請求項1記載のMTJ素子。
【請求項6】
前記ナノ電流路層は、FeSiOまたはFeSiNからなり、
前記磁性層は、CoFeB,CoFe,FeBまたは鉄(Fe)からなる
請求項1記載のMTJ素子。
【請求項7】
前記第1の積層体は、前記第2の積層体の4倍以上9倍以下の占有面積を有し、
前記複合リファレンス磁性層における磁性層は、前記第1の強磁性層および第2の強磁性層の合計の厚みの2倍以上の厚みを有する
請求項1記載のMTJ素子。
【請求項8】
前記キャップ層は、0.5nm(5Å)以上1.5nm(15Å)以下の厚みを有し、
前記ハードマスクは、タンタル(Ta),窒化タンタル(TaN),チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)からなる
請求項1記載のMTJ素子。
【請求項9】
前記第2の積層体の端面は、保護膜によって覆われている請求項1記載のMTJ素子。
【請求項10】
基体の上に、
前記基体の側から順にシード層、複合シンセティック反強磁性(SyAF)リファレンス層、トンネルバリア層を有する第1の積層体と、
前記第1の積層体の側から順に、複合フリー層、ルテニウム(Ru)からなるキャップ層、ハードマスクを有する第2の積層体と
を備え、
前記第1の積層体における積層面に沿った占有面積は、前記第2の積層体における積層面に沿った占有面積の9倍以下であり、
前記複合シンセティック反強磁性リファレンス層は、第1および第2のピンド層と、結合層と、前記第1および第2のピンド層のうちの少なくとも一方における減衰定数を高める挿入層とを含み、
前記第1のピンド層は、前記トンネルバリア層と接すると共に積層面内における磁化容易軸に沿って固定された磁化方向を有し、
前記複合フリー層は、第1の強磁性(FM1)層とナノ電流路(NCC)層と第2の強磁性(FM2)層とを順に含み、
前記ナノ電流路層は、鉄(Fe),ニッケル(Ni),コバルト(Co)もしくは硼素(B)の酸化物または窒化物であり、
前記第1の強磁性層および第2の強磁性層は、前記第1および第2のピンド層よりも低い減衰定数を有すると共に前記複合シンセティック反強磁性リファレンス層よりも厚みが薄いものである
MTJ素子。
【請求項11】
前記下部電極は、タンタル(Ta)層とルテニウム(Ru)層とタンタル(Ta)層との3層構造、もしくは単層のタンタル層からなり、前記第1の積層体と同一の形状を有する
請求項10記載のMTJ素子。
【請求項12】
前記複合シンセティック反強磁性リファレンス層は、前記挿入層と、前記第2のピンド層と、前記結合層と、前記第1のピンド層とが順に積層された4層構造を有し、
前記第1および第2のピンド層は、コバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金からなり、
前記挿入層は、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)からなり、前記第2のピンド層における減衰定数を高めるものであり、
前記結合層は、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)からなる
請求項10記載のMTJ素子。
【請求項13】
前記複合シンセティック反強磁性リファレンス層は、前記第2のピンド層と、前記結合層と、前記挿入層と、前記第1のピンド層とが順に積層された4層構造を有し、
前記第1および第2のピンド層は、コバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金からなり、
前記挿入層は、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)からなり、前記第1のピンド層における減衰定数を高めるものであり、
前記結合層は、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)からなる
請求項10記載のMTJ素子。
【請求項14】
前記ナノ電流路層は、FeSiOまたはFeSiNからなり、
前記第1および第2の強磁性層は、CoFeB,CoFe,FeBまたは鉄(Fe)からなる
請求項10記載のMTJ素子。
【請求項15】
前記キャップ層は、0.5nm(5Å)以上1.5nm(15Å)以下の厚みを有し、
前記ハードマスクは、タンタル(Ta),窒化タンタル(TaN),チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)からなる
請求項10記載のMTJ素子。
【請求項16】
前記第2の積層体の端面は、保護膜によって覆われている請求項10記載のMTJ素子。
【請求項17】
基体上に、シード層と、積層面内における磁化容易軸に沿って固定された磁化方向を有する磁性層、および前記磁性層の減衰定数を高める挿入層を含む複合リファレンス層と、トンネルバリア層と、第1の強磁性(FM1)層、鉄(Fe),ニッケル(Ni),コバルト(Co)もしくは硼素(B)の粒子を含むケイ素酸化物またはケイ素窒化物からなるナノ電流路(NCC)層、第2の強磁性(FM2)層を順に含む複合フリー層と、キャップ層と、ハードマスクとを順に積層してMTJ積層体を形成する工程と、
前記複合フリー層、キャップ層およびハードマスクを選択的にパターニングすることにより前記トンネルバリア層を露出させ、上部積層体を形成する工程と、
前記トンネルバリア層の上面ならびに前記上部積層体の端面および上面を覆うように保護膜を形成する工程と、
前記保護膜のうち前記上部積層体の端面を覆う部分を残しつつ、前記トンネルバリア層、複合リファレンス層およびシード層をパターニングすることにより、積層面に沿った占有面積が前記上部積層体よりも大きな下部積層体を形成する工程と
を含むMTJ素子の形成方法。
【請求項18】
前記下部積層体を、前記上部積層体の4倍以上9倍以下の占有面積を有するように形成すると共に、
前記複合リファレンス磁性層における磁性層を、その厚みが前記第1の強磁性層および第2の強磁性層の合計の厚みの2倍以上となるように形成することにより、前記磁性層が前記複合フリー層よりも大きな保磁力および形状磁気異方性を有するようにする
請求項17記載のMTJ素子の形成方法。
【請求項19】
前記下部積層体を、前記上部積層体と等しい占有面積を有するように、または前記上部積層体の1.2倍以下の占有面積を有するように形成し、
前記複合リファレンス磁性層における磁性層を、その厚みが前記第1の強磁性層および第2の強磁性層の合計の厚みの2倍以上3倍以下となるように形成する
請求項17記載のMTJ素子の形成方法。
【請求項20】
前記トンネルバリア層を、
前記複合リファレンス層の上に第1のマグネシウム(Mg)層を形成したのち、その第1のマグネシウム層を自然酸化法により酸化して酸化マグネシウム(MgO)層を形成し、さらにその酸化マグネシウム層の上に第2のマグネシウム層を形成することにより得る
請求項17記載のMTJ素子の形成方法。
【請求項21】
前記保護層を、窒化ケイ素により形成する
請求項17記載のMTJ素子の形成方法。
【請求項22】
前記ナノ電流路層を、FeSiOまたはFeSiNを用いて0.8nm(8Å)以上1.5nm(15Å)以下の厚みとなるように形成し、
前記第1および第2の強磁性層を、CoFeB,CoFe,FeBまたは鉄(Fe)を用いて形成する
請求項17記載のMTJ素子の形成方法。
【請求項23】
前記キャップ層を、ルテニウム(Ru)を用いて0.5nm(5Å)以上1.5nm(15Å)以下の厚みとなるように形成し、
前記ハードマスクを、タンタル(Ta),窒化タンタル(TaN),チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)を用いて形成する
請求項17記載のMTJ素子の形成方法。
【請求項24】
前記複合リファレンス層における挿入層を、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)を用いて形成し、
前記複合リファレンス層における磁性層を、コバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金を用いて前記トンネルバリア層と接するように形成する
請求項17記載のMTJ素子の形成方法。
【請求項25】
前記複合リファレンス層を、前記挿入層を一対の前記磁性層によって挟むようにした3層構造とし、
前記一対の磁性層を、いずれもコバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金を用いて形成し、
前記挿入層を、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)を用いて形成する
請求項17記載のMTJ素子の形成方法。
【請求項26】
前記複合リファレンス磁性層を、一対の前記磁性層と、その間に結合層と前記挿入層とを順に設けるようにした4層構造とし、
前記一対の磁性層を、いずれもコバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni)および硼素(B)の単体またはそれらの合金を用いて形成し、
前記挿入層を、テルビウム(Tb),ガドリニウム(Gd),白金(Pt),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),オスミウム(Os),ニオブ(Nb),ロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)を用いて形成し、
前記結合層を、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)を用いて形成する
請求項17記載のMTJ素子の形成方法。
【請求項27】
基板上に下部導線を形成する工程と、
前記下部導線の上に、シード層と、積層面内における磁化容易軸に沿って固定された磁化方向を有する磁性層、および前記磁性層の減衰定数を高める挿入層を含む複合リファレンス層と、トンネルバリア層と、第1の強磁性(FM1)層、鉄(Fe),ニッケル(Ni),コバルト(Co)もしくは硼素(B)の粒子を含むケイ素酸化物またはケイ素窒化物からなるナノ電流路(NCC)層、第2の強磁性(FM2)層を順に含む複合フリー層と、キャップ層と、ハードマスクとを順に積層してMTJ積層体を形成する工程と、
前記複合フリー層、キャップ層およびハードマスクを選択的にパターニングすることにより前記トンネルバリア層を露出させ、上部積層体を形成する工程と、
前記トンネルバリア層の上面ならびに前記上部積層体の端面および上面を覆うように保護膜を形成する工程と、
前記保護膜のうち前記上部積層体の端面を覆う部分を残しつつ、前記トンネルバリア層、複合リファレンス層およびシード層を選択的にパターニングすることにより、積層面に沿った占有面積が前記上部積層体よりも大きな下部積層体を形成する工程と、
前記下部積層体および上部積層体の周囲を埋めるように誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層と前記ハードマスクとが共通平面を形成するように前記誘電体層を平坦化したのち、前記共通平面に沿って延在し、前記ハードマスクの上面と接する上部導線を形成する工程と
を含むSTT−RAMの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−253303(P2009−253303A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95227(P2009−95227)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(506245062)マグアイシー テクノロジーズ インコーポレイテッド (35)
【氏名又は名称原語表記】MagIC Technologies, Inc.
【Fターム(参考)】