説明

アイドル制御系の異常判定装置

【課題】 内燃機関のアイドル運転を制御するアイドル制御系の異常を精度良く判定することができるアイドル制御系の異常判定装置を提供する。
【解決手段】 アイドル制御系6、7、7a、8の異常判定装置1は、内燃機関3の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータrEGR、TW、PAおよび/または内燃機関3の負荷を表す負荷パラメータVEL、TA、TW、POを検出し、内燃機関3が所定のアイドル運転状態にあるときに検出された燃焼状態パラメータrEGR、TW、PA、および/または負荷パラメータVEL、TA、TW、POに基づいて、アイドル制御系6、7、7a、8の異常を判定するためのしきい値qJUDを決定し(ステップ5〜13)、取得された供給燃料量QOUTと決定されたしきい値qJUDとの比較結果に基づいて、アイドル制御系6、7、7a、8の異常を判定する(ステップ17、21、25)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のアイドル運転を制御するアイドル制御系の異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の異常判定装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この異常判定装置は、内燃機関の燃料噴射弁の異常を判定するものであり、この判定は次のようにして行われる。すなわち、まず、燃料噴射弁による燃料噴射量の基本値を補正するための学習補正係数を算出するとともに、算出した学習補正係数を、そのときの内燃機関の運転状態に対応させて記憶する。次いで、記憶された学習補正係数のうち、アイドル運転状態に対応する学習補正係数と、燃料噴射量の基本値が比較的大きな所定の運転状態に対応する学習補正係数との偏差(以下「補正係数偏差」という)を算出する。次に、算出した補正係数偏差が所定のしきい値以上であるときには、燃料噴射弁が異常であると判定する。
【0003】
また、上記の学習補正係数は、内燃機関のクランクケースから吸気管に還流するブローバイガスによる影響によって変化し、それにより、上記の補正係数偏差が変化することによって、燃料噴射弁の異常を誤判定する場合がある。このため、この従来の異常判定装置では、そのような誤判定を防止するために、ブローバイガスの発生度合を表すパラメータを検出するとともに、検出されたパラメータに応じて、上記の所定のしきい値が設定される。このブローバイガスの発生度合を表すパラメータは、内燃機関の運転状態が上記の所定の運転状態にあるときに検出された内燃機関の冷却水の温度、内燃機関の始動時からの経過時間、および内燃機関の運転時間の累積値である。
【0004】
上述したように、従来の異常判定装置では、ブローバイガスによる影響がなければ、内燃機関に供給すべき燃料量がアイドル運転中に一定になることを前提として、内燃機関の運転時間の累積値などのブローバイガスの発生度合を表すパラメータに応じて、しきい値を設定しているにすぎない。しかし、内燃機関のタイプによっては、そのアイドル運転中で、かつブローバイガスによる影響がないときでも、供給すべき燃料量が必ずしも一定であるとは限らず、変化する場合があり、その場合には、従来の異常判定装置では、異常判定を精度良く行うことができない。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関のアイドル運転を制御するアイドル制御系の異常を精度良く判定することができるアイドル制御系の異常判定装置を提供することを目的とする。
【0006】
【特許文献1】特許第2657713号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、内燃機関3の運転状態が所定のアイドル運転状態になるように、内燃機関3に供給すべき供給燃料量(実施形態における(以下、本項において同じ)目標燃料噴射量QOUT)を決定するとともに、決定された供給燃料量に基づいて内燃機関3のアイドル運転を制御するアイドル制御系(インジェクタ6、スロットル弁7、アクチュエータ7a、EGR装置8)の異常を判定するアイドル制御系の異常判定装置1であって、内燃機関3が所定のアイドル運転状態にあるか否かを判別するアイドル運転判別手段(ECU2、アクセル開度センサ29、車速センサ30、ステップ3)と、内燃機関3の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータ(EGR率rEGR、エンジン水温TW、大気圧PA)および内燃機関3の負荷を表す負荷パラメータ(発電電流VEL、吸気温TA、エンジン水温TW、ポンプ油圧PO)の少なくとも一方を検出するパラメータ検出手段(電流センサ21、油圧センサ22、水温センサ24、エアーフローセンサ25、吸気温センサ26、大気圧センサ27、ECU2)と、内燃機関3が所定のアイドル運転状態にあるときに検出された燃焼状態パラメータおよび負荷パラメータの少なくとも一方に基づいて、アイドル制御系の異常を判定するためのしきい値qJUDを決定するしきい値決定手段(ECU2、ステップ5〜13、図6〜図12)と、供給燃料量を取得する供給燃料量取得手段(ECU2、ステップ16)と、取得された供給燃料量と決定されたしきい値qJUDとの比較結果に基づいて、アイドル制御系の異常を判定する異常判定手段(ECU2、ステップ17、21、25)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このアイドル制御系の異常判定装置によれば、内燃機関が所定のアイドル運転状態にあるか否かが、アイドル運転判別手段により判別されるとともに、内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータおよび/または内燃機関の負荷を表す負荷パラメータが、パラメータ検出手段により検出される。また、内燃機関が所定のアイドル運転状態にあるときに検出された燃焼状態パラメータおよび/または負荷パラメータに基づき、アイドル制御系の異常を判定するためのしきい値がしきい値決定手段によって決定される。さらに、内燃機関の運転状態を所定のアイドル運転状態に制御するために内燃機関に供給すべき供給燃料量が、供給燃料量取得手段によって取得されるとともに、取得された供給燃料量と決定されたしきい値との比較結果に基づき、アイドル制御系の異常が異常判定手段によって判定される。
【0009】
アイドル制御系では、内燃機関の運転状態が所定のアイドル運転状態になるように供給燃料量が決定されるので、アイドル制御系が異常である場合には、しきい値に対する供給燃料量のずれが大きくなる。したがって、供給燃料量としきい値との比較結果に基づいて、アイドル制御系の異常を判定することができる。また、アイドル運転中、供給燃料量は、その上述した決定手法から、内燃機関の燃焼状態や負荷が変化するのに伴い、所定のアイドル運転状態を維持するように変化する。本発明によれば、アイドル運転中に検出された燃焼状態パラメータおよび/または負荷パラメータに基づいて、異常判定用のしきい値を決定するので、上記のように変化する供給燃料量に見合うように、しきい値を適切に決定することができる。したがって、内燃機関のアイドル運転中における運転状態の変化に応じて、アイドル制御系の異常を精度良く判定することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアイドル制御系の異常判定装置1において、内燃機関3には、内燃機関3における燃焼により生成された既燃ガスの一部を内燃機関3の気筒3d内に存在させるEGR装置8が設けられており、燃焼状態パラメータには、気筒3d内に吸入される新気の量(新気量QA)とEGR装置8により気筒内に存在させられた既燃ガスの量との和に対する既燃ガスの量の比を表すEGR率パラメータ(EGR率rEGR)、内燃機関3を冷却するための冷却水の温度(エンジン水温TW)、および大気圧PAの少なくとも1つが含まれることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータとして、EGR率パラメータ、内燃機関の冷却用の冷却水の温度、および大気圧の少なくとも1つが用いられる。これらのパラメータはいずれも、内燃機関の燃焼状態と密接な相関関係を有するので、異常判定用のしきい値の決定を適切に行うことができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のアイドル制御系の異常判定装置1において、内燃機関3には、発電機(オルタネータAL)、エアコンディショナAC、変速装置TM、およびパワーステアリングPSの少なくとも1つが連結されており、負荷パラメータには、発電機、エアコンディショナAC、変速装置TM、およびパワーステアリングPSの少なくとも1つによる負荷を表すパラメータ(発電電流VEL、吸気温TA、エンジン水温TW、ポンプ油圧PO)が含まれることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、内燃機関の負荷パラメータとして、内燃機関に連結された発電機、エアコンディショナ、変速装置、およびパワーステアリングの少なくとも1つによる負荷を表すパラメータが用いられる。これらの要素が内燃機関に連結されているため、アイドル運転中、これらの要素による負荷が内燃機関に作用するので、異常判定用のしきい値の決定を適切に行うことができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のアイドル制御系の異常判定装置1において、異常判定手段は、供給燃料量がしきい値qJUDを含む所定の範囲(第1しきい値qJUDH、第2しきい値qJUDL)内にないときに、アイドル制御系が異常であると判定する(ステップ17、21、25)ことを特徴とする。
【0015】
供給燃料量としきい値とを単純に比較した結果に基づいてアイドル制御系の異常を判定した場合には、アイドル制御系が正常であっても、パラメータ検出手段の特性のばらつきによりしきい値が変動することによって、しきい値に対する供給燃料量のずれが大きくなり、その結果、アイドル制御系が異常であると誤判定することがある。上述した構成によれば、供給燃料量がしきい値を含む所定の範囲内にないときに、アイドル制御系が異常であると判定するので、上記のような誤判定を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図3は、本実施形態によるアイドル制御系の異常判定装置1を示しており、同図に示すように、この異常判定装置1は、後述するECU2および各種のセンサを備えている。また、図1および図2は、この異常判定装置1を適用した内燃機関3を概略的に示している。内燃機関(以下「エンジン」という)3は、車両(図示せず)に駆動源として搭載されたディーゼルエンジンであり、この車両には、変速装置TMと、エンジン3によってそれぞれ駆動されるオルタネータAL、エアコンディショナACおよびパワーステアリングPSが設けられている。
【0017】
この変速装置TMは、有段式の自動変速装置であり、エンジン3のクランク軸3aに機械的に連結されたトルクコンバータと、このトルクコンバータに機械的に連結された入力軸と、車両の駆動輪に機械的に連結された出力軸と、ギヤ比が互いに異なる複数のギヤ列と、これらの複数のギヤ列と入力軸および出力軸との間をギヤ列ごとに接続・遮断するクラッチ(いずれも図示せず)を有している。さらに、変速装置TMでは、これらの複数のギヤ列によって、前進用の第1速、第2速および第3速と後進用の1つの変速段から成る計4つの変速段が設定されている。
【0018】
また、変速装置TMの動作は、運転者によって操作されるシフトレバー(図示せず)のシフト位置などに応じて、後述するECU2により制御される。さらに、このシフトレバーのシフト位置として、パーキング、ニュートラル、リバース、ドライブ、スポーツ、およびローの各レンジが設定されている。具体的には、上記の制御は次のようにして行われる。すなわち、シフトレバーのシフト位置がパーキングおよびニュートラルであるときには、上述したクラッチがいずれも遮断状態に保持され、それにより、クランク軸3aと駆動輪の間の連結は解かれる。一方、他のシフト位置のときには、シフト位置などに応じてクラッチが接続され、クランク軸3aと駆動輪の間が連結状態に保持される。この場合、入力軸に入力されたエンジン3の動力は、クラッチで接続されたギヤ列により変速され、出力軸に出力された後、駆動輪に伝達される。
【0019】
上記のオルタネータALは、交流発電機と整流器の組み合わせで構成されており、クランク軸3aに機械的に連結されるとともに、バッテリBAや各種の電装部品に電気的に接続されている。また、オルタネータALは、エンジン3の動力の一部を電力に変換し、発電を行うとともに、発電した電力は、上記のバッテリBAに充電されるか、または、上記の電装部品に供給される。この場合、オルタネータALで発電する電力が大きいほど、オルタネータALによるエンジン3の負荷はより大きくなる。さらに、オルタネータALによる発電動作は、ECU2により制御される。
【0020】
また、バッテリBAには、電流センサ21が設けられており、電流センサ21は、オルタネータALからバッテリBAに流れる電流(以下「発電電流」という)VELを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0021】
上記のエアコンディショナACは、車両内の運転室を冷房するためのものであり、ロータリー式のコンプレッサCOと、電磁式のクラッチCLを有しており、コンプレッサCOは、クラッチCLを介して、クランク軸3aに連結されている。このクラッチCLの接続状態では、エンジン3の動力がコンプレッサCOに伝達され、コンプレッサCOは、エンジン3の動力の一部を用いてエアコンディショナACの冷媒を圧縮する。コンプレッサCOによるエンジン3の負荷は、エアコンディショナACの負荷が大きいほど、より大きくなる。また、上記のクラッチCLの動作は、ECU2により制御され、それにより、クランク軸3aとコンプレッサCOの間が接続・遮断される。
【0022】
前記パワーステアリングPSは、パワーステアリング機構PM、油圧ポンプOPおよび油圧制御弁OVを有している。この油圧ポンプOPは、クランク軸3aに連結されており、エンジン3の動力の一部を油圧に変換するとともに、この油圧をパワーステアリング機構PMに供給する。パワーステアリング機構PMは、車両の操舵輪とハンドルに連結されており、上述した油圧ポンプOPから供給される油圧(以下「ポンプ油圧」という)POによって作動し、運転者によるハンドル操作をアシストする。このポンプ油圧POは、ECU2で上記の油圧制御弁OVの開度を変更することによって制御され、それにより、パワーステアリング機構PMによるアシスト力が制御される。この場合、ポンプ油圧POが大きいほど、このアシスト力がより大きくなるとともに、油圧ポンプOPによるエンジン3の負荷がより大きくなる。また、パワーステアリング機構PMには、油圧センサ22が設けられており、油圧センサ22は、ポンプ油圧POを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0023】
また、図2に示すように、エンジン3のシリンダヘッド3cには、吸気管4および排気管5がそれぞれ接続されるとともに、燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)6が取り付けられている。このインジェクタ6は、エンジン3の気筒3dの天壁中央部に配置され、気筒3d内に設けられたピストン3bに臨んでいる。また、インジェクタ6は、コモンレールを介して、高圧ポンプおよび燃料タンク(いずれも図示せず)に順に接続されている。インジェクタ6の開弁時間は、ECU2において後述するように決定される目標燃料噴射量QOUTに基づく駆動信号によって制御され、それにより、インジェクタ6からの燃料噴射量が制御される。
【0024】
さらに、エンジン3のクランク軸3aには、マグネットロータ23aが取り付けられており、このマグネットロータ23aとMREピックアップ23bによって、クランク角センサ23が構成されている。クランク角センサ23は、クランク軸3aの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。CRK信号は、所定のクランク角(例えば30゜)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。TDC信号は、ピストン3bが吸気行程開始時のTDC(上死点)付近の所定クランク角度位置にあることを表す信号である。
【0025】
また、エンジン3の本体には、水温センサ24が設けられており、この水温センサ24は、エンジン3の冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)TWを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0026】
さらに、吸気管4には、スロットル弁7が設けられており、このスロットル弁7には、例えば直流モータで構成されたアクチュエータ7aが接続されている。スロットル弁7の開度(以下「スロットル弁開度」という)は、このアクチュエータ7aに供給される電流のデューティ比をECU2で制御することによって、制御される。
【0027】
また、吸気管4のスロットル弁7よりも上流側には、エアフローセンサ25、吸気温センサ26および大気圧センサ27が設けられている。エアフローセンサ25はエンジン3に吸入される新気の量(以下「新気量」という)QAを、吸気温センサ25は新気の温度(以下「吸気温」という)TAを、大気圧センサ26は大気圧PAを、それぞれ検出し、それらの検出信号はECU2に出力される。この吸気温TAは、外気温と密接な相関関係を有するパラメータである。
【0028】
さらに、エンジン3には、EGR管8aおよびEGR制御弁8bを有するEGR装置8が設けられている。このEGR管8aは、吸気管4のスロットル弁7よりも下流側と排気管5とをつなぐように接続されている。また、EGR管8aを介して、エンジン3の排ガスの一部が吸気管4にEGRガスとして還流し、さらに、エンジン3の気筒3d内に新気とともに流入する。これにより、エンジン3における燃焼温度が低下することによって、排ガス中のNOxが低減される。
【0029】
上記のEGR制御弁8bは、EGR管8aに取り付けられたリニア電磁弁で構成されており、供給される電流のデューティ比(以下「EGRデューティ比」という)をECU2で制御することにより、そのバルブリフト量がリニアに制御されることによって、EGRガスの量が制御される。具体的には、このEGRデューティ比が大きいほど、バルブリフト量がより大きくなり、EGRガスの量(以下「EGRガス量」という)はより大きくなる。また、EGRデューティ比は、ECU2で算出される目標EGRガス量に基づいて制御される。これにより、EGRガス量は、目標EGRガス量になるように制御される。
【0030】
また、ECU2には、シフト位置センサ28が接続されており、シフト位置センサ28は、シフトレバーのシフト位置が、前述したパーキング、ニュートラル、リバース、ドライブ、スポーツ、およびローのいずれであるかを検出し、それを表すPOSI信号をECU2に出力する。さらに、ECU2には、アクセル開度センサ29からアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、車速センサ30から車両の速度すなわち車速VPを表す検出信号が、それぞれ出力される。
【0031】
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されている。前述した各種のセンサ21〜30からの検出信号はそれぞれ、I/OインターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。ECU2は、これらの入力信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じて、EGRガス量や、スロットル弁開度、燃料噴射量の制御を含むエンジン3の制御を実行する。
【0032】
また、ECU2は、検出されたアクセル開度APがほぼ値0で、アクセルペダルが踏み込まれておらず、かつ、車速VPがほぼ値0のとき、すなわち、車両が停止しているか、車速VPがほぼ値0のクリープ運転中であるときには、エンジン3をアイドル運転により運転させる。このアイドル運転中の制御は次のようにして行われる。すなわち、算出されたエンジン回転数NEが所定のアイドル回転数(例えば1000rpm)になるように、目標燃料噴射量QOUTを算出する。なお、スロットル弁開度は全開状態に制御されるとともに、目標EGRガス量は、エンジン3の運転状態に応じて算出される。
【0033】
さらに、ECU2は、上述したアイドル運転中、インジェクタ6、スロットル弁7、アクチュエータ7a、およびEGR装置8を含むアイドル制御系の異常を次のようにして判定する。
【0034】
なお、本実施形態では、本発明におけるアイドル制御系には、インジェクタ6、スロットル弁7、アクチュエータ7a、およびEGR装置8の他、アイドル運転に影響を及ぼすすべての要素が広く含まれる。また、ECU2が、本発明におけるアイドル運転判別手段、パラメータ検出手段、しきい値決定手段、供給燃料量取得手段、および異常判定手段に相当する。さらに、アクセル開度センサ29および車速センサ30が、本発明におけるアイドル運転判別手段に相当し、電流センサ21、油圧センサ22、水温センサ24、エアフローセンサ25、吸気温センサ26、および大気圧センサ27が、本発明におけるパラメータ検出手段に相当する。また、オルタネータALが、本発明における発電機に相当する。
【0035】
図4および図5は、上述したアイドル制御系の異常を判定するための異常判定処理を示している。本処理は、ECU2が正常であることを条件として、所定時間(例えば10msec)ごとに実行される。まず、図4のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、判定完了フラグF_Monendが「1」であるか否かを判別する。この判定完了フラグF_Monendは、本処理による異常判定の結果が得られたときに「1」にセットされるとともに、アイドル運転の開始に伴って「0」にリセットされる。このステップ1の答がYESのとき、すなわち、アイドル運転の開始後、本処理による判定結果がすでに得られているときには、OKカウンタのカウンタ値COKおよびNGカウンタのカウンタ値CNGを、所定値COKおよびCNG(例えばそれぞれ数十秒に相当する値)にそれぞれリセットする(ステップ2)とともに、異常判定を行わずに、そのまま本処理を終了する。
【0036】
一方、上記ステップ1の答がNOで、アイドル運転の開始後、本処理による判定結果がまだ得られていないときには、エンジン3のアイドル運転中であるか否かを判別する(ステップ3)とともに、エンジン3の暖機運転が完了しているか否かを判別する(ステップ4)。このステップ3では、アクセルペダル開度APおよび車速VPがいずれもほぼ値0のときに、アイドル運転中であると判別される。また、ステップ4では、検出されたエンジン水温TWが所定温度よりも高いとき、または、エンジン3の始動時からの経過時間が所定時間よりも長いときに、暖機運転が完了していると判別される。
【0037】
上記ステップ3または4の答がNOで、アイドル運転中でないとき、または、暖機運転が完了していないときには、前記ステップ2を実行し、本処理を終了する。一方、ステップ3および4の答がいずれもYESで、アイドル運転中で、かつ、暖機運転が完了しているときには、以下のステップ5以降を実行することによって、アイドル制御系の異常を判定する。以上のように、本処理による異常判定は、アイドル運転が実行されるごとに行われる。また、ステップ4の実行により暖機運転の完了を条件として異常判定を行うのは、暖機運転が完了していないときには、エンジン3の燃焼状態が非常に不安定であり、それにより、判定を精度良く行えないおそれがあるためである。
【0038】
まず、ステップ5〜14では、前述した目標燃料噴射量QOUTと比較される異常判定用のしきい値qJUDを算出する。具体的には、ステップ5において、エンジン回転数NEおよびエンジン水温TWに応じ、図6に示すqBASEマップを検索することによって、しきい値qJUDの基本値qBASEを算出する。このqBASEマップでは、基本値qBASEは、エンジン水温TWが低いほど、より大きな値に設定されている。これは、エンジン水温TWが低いほど、燃焼が不安定になりやすく、また、エンジン3の潤滑油の温度が低く、その粘度が高いことで、エンジン3のフリクションが大きく、それらに応じて、目標燃料噴射量QOUTが、アイドル運転を適切に行うべく、より大きな値に算出されることから、そのような目標燃料噴射量QOUTに見合うように、しきい値qJUDを算出するためである。
【0039】
次いで、ステップ6〜12において、基本値qBASEを補正することにより、しきい値qJUDを算出するための各種の補正係数や補正加算項を算出する。まず、ステップ6では、大気圧補正係数Kpaを、検出された大気圧PAに応じ、図7に示すKpaマップを検索することによって算出する。このKpaマップでは、大気圧補正係数Kpaは、大気圧PAが低いほど、より大きな値に設定されている。これは、大気圧PAが低いほど、エンジン3の吸入空気の密度が小さいことにより、燃焼による出力を高めるために、目標燃料噴射量QOUTがより大きな値に算出されることから、そのような目標燃料噴射量QOUTに見合うように、しきい値qJUDを算出するためである。
【0040】
次に、検出された新気量QAと算出された目標EGRガス量を用いて、EGR率rEGRを算出する(ステップ7)。EGR率rEGRは、目標EGRガス量を新気量QAと目標EGRガス量との和で除算することによって算出される。この算出手法から明らかなように、EGR率rEGRは、エンジン3に吸入された新気量QAとEGRガス量の和に対するEGRガス量の比を表す。
【0041】
次いで、上記ステップ7で算出されたEGR率rEGRに基づき、図8に示すKegrマップを検索することによって、EGR補正係数Kegrを算出する(ステップ8)。このKegrマップでは、EGR補正係数Kegrは、EGR率rEGRが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、EGR率rEGRが大きいほど、気筒3dに吸入される新気量QAが小さいことにより、燃焼による出力を高めるために、目標燃料噴射量QOUTがより大きな値に算出されることから、そのような目標燃料噴射量QOUTに見合うように、しきい値qJUDを算出するためである。
【0042】
次に、検出された発電電流VELに基づき、図9に示すqELマップを検索することによって、バッテリ補正加算項qELを算出する(ステップ9)。このqELマップでは、バッテリ補正加算項qELは、発電電流VELが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、発電電流VELが大きいほど、すなわちオルタネータALで発電する電力が大きいほど、オルタネータALによるエンジン3の負荷が前述したようにより大きく、それに応じて、目標燃料噴射量QOUTが、エンジン回転数NEを前述したアイドル回転数に維持すべく、より大きな値に算出されることから、そのような目標燃料噴射量QOUTに見合うように、しきい値qJUDを算出するためである。
【0043】
次いで、検出された吸気温TAに基づき、図10に示すqACマップを検索することによって、エアコン補正加算項qACを算出する(ステップ10)。このqACマップでは、エアコン補正加算項qACは、吸気温TAが高いほど、より大きな値に設定されている。これは、吸気温TAが高いほど、外気温すなわち車両の運転室内の温度も高く、それにより、エアコンディショナACの負荷が大きいことで、コンプレッサCOによるエンジン3の負荷が前述したように大きいことによって、目標燃料噴射量QOUTがより大きな値に算出されることから、そのような目標燃料噴射量QOUTに見合うように、しきい値qJUDを算出するためである。なお、エアコン補正加算項qACは、前述したクラッチCLが遮断状態にあり、クランク軸3aとコンプレッサCOの間が遮断されているときには、コンプレッサCOによる負荷がエンジン3に作用しないため、値0に設定される。
【0044】
次に、エンジン水温TWに基づき、図11に示すqATマップを検索することによって、変速装置補正加算項qATを算出する(ステップ11)。このqATマップでは、変速装置補正加算項qATは、エンジン水温TWが低いほど、より大きな値に設定されている。これは、エンジン水温TWが低いほど、変速装置TMの温度が低く、それにより、変速装置TMのトルクコンバータ内のフルードの温度が低いために、その粘度が高いことや、変速装置TM全体としてのフリクションが大きいことで、変速装置TMによるエンジン3の負荷が大きいことによって、目標燃料噴射量QOUTがより大きな値に算出されることから、そのような目標燃料噴射量QOUTに見合うように、しきい値qJUDを算出するためである。なお、検出されたPOSI信号で表されるシフトレバーのシフト位置が、パーキングおよびニュートラルであるときには、前述したようにクランク軸3aと駆動輪の間の連結が解かれることから、変速装置TMによるエンジン3の負荷が極めて小さいため、変速装置補正加算項qATは値0に設定される。
【0045】
次いで、検出されたポンプ油圧POに基づき、図12に示すqPSマップを検索することによって、パワーステアリング補正加算項qPSを算出する(ステップ12)。このqPSマップでは、パワーステアリング補正加算項qPSは、ポンプ油圧POが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、ポンプ油圧POが大きいほど、油圧ポンプOPによるエンジン3の負荷が前述したように大きく、それに応じて、目標燃料噴射量QOUTがより大きな値に算出されることから、そのような目標燃料噴射量QOUTに見合うように、しきい値qJUDを算出するためである。
【0046】
次に、図5のステップ13において、しきい値qJUDを算出する。この算出は、ステップ5で算出された基本値qBASEと、ステップ6〜12で算出された大気圧補正係数Kpa、EGR補正係数Kegr、バッテリ補正加算項qEL、エアコン補正加算項qAC、変速装置補正加算項qAT、およびパワーステアリング補正加算項qPSを用いて、次式(1)により行われる。
qJUD=qBASE・Kpa・Kegr+qEL+qAC+qAT+qPS
……(1)
【0047】
次いで、上記ステップ13で算出されたしきい値qJUDを用い、次式(2)によって第1しきい値qJUDHを算出する(ステップ14)。
qJUDH=(qJUD+DH)B1 ……(2)
ここで、DHは所定の加算項であり、B1は所定の係数である。これにより、第1しきい値qJUDHは、しきい値qJUDよりも所定量、大きな値に算出される。
【0048】
次に、ステップ13で算出されたしきい値qJUDを用い、次式(3)によって第2しきい値qJUDLを算出する(ステップ15)。
qJUDL=(qJUD−DL)B2 ……(3)
ここで、DLは所定の減算項であり、B2は所定の係数である。これにより、第2しきい値qJUDLは、しきい値qJUDよりも所定量、小さな値に算出される。
【0049】
次いで、算出された目標燃料噴射量QOUTに基づき、噴射量パラメータqfを算出する(ステップ16)。具体的には、噴射量パラメータqfは、目標燃料噴射量QOUTの今回値と、今回を除く所定の複数回前までに算出され、記憶された所定数の目標燃料噴射量QOUTの過去値とを加重平均することによって算出される。次に、このステップ16で算出された噴射量パラメータqfが、上記ステップ14で算出された第1しきい値qJUDH以下で、かつ、上記ステップ15で算出された第2しきい値qJUDL以上であるか否かを判別する(ステップ17)。
【0050】
このステップ17の答がNOで、噴射量パラメータqfが第1および第2のしきい値qJUDH,qJUDLで規定される所定の範囲(以下「所定範囲」という)内にないときには、前述したOKカウンタのカウンタ値COKを所定値COKにリセットする(ステップ18)。次いで、前記ステップ2で設定されたNGカウンタのカウンタ値CNGをデクリメントする(ステップ19)とともに、このカウンタ値CNGが値0であるか否かを判別する(ステップ20)。
【0051】
このステップ20の答がNOのときには、そのまま本処理を終了する一方、YESのとき、すなわち、アイドル運転中に、噴射量パラメータqfが上記の所定範囲内にない状態が、所定値CNGに相当する回数、発生したときには、目標燃料噴射量QOUTが過大または過小な状態が確実に発生しているとして、アイドル制御系が異常であると判定し、そのことを表すために、異常フラグF_IDNGを「1」にセットする(ステップ21)。次いで、今回のアイドル運転中において異常判定の結果が得られたことを表すために、前述した判定完了フラグF_Monendを「1」にセットし(ステップ22)、本処理を終了する。
【0052】
上述したようにアイドル制御系の異常を判定するのは、次の理由による。すなわち、アイドル運転中、目標燃料噴射量QOUTは、前述したようにエンジン回転数NEがアイドル回転数になるように算出される。これに対し、インジェクタ6の異常によって燃料噴射量が目標燃料噴射量QOUTよりも過小または過大になった場合や、スロットル弁7、アクチュエータ7aおよびEGR装置8などの異常によって新気量QAが過小または過大になった場合、クランク軸3aに連結された補機の異常によりエンジン3の負荷が過大または過小になった場合には、それに応じて、上記のように算出される目標燃料噴射量QOUTが過大または過小になり、所定範囲から外れるためである。また、目標燃料噴射量QOUTをそのまま用いずに、その移動平均値である噴射量パラメータpfを異常判定に用いるのは、アイドル制御系への一時的な外乱による目標燃料噴射量QOUTの変動によって誤判定するのを防止するためである。
【0053】
また、第1および第2のしきい値qJUDH,qJUDLを算出するための前述した加算項DH、係数B1、減算項DLおよび係数B2は、しきい値qJUDの算出に用いられる各種の検出値を検出するための各種のセンサの特性のばらつきなどによるしきい値qJUDへの影響を補償できるように、設定されている。
【0054】
一方、前記ステップ17の答がYESで、噴射量パラメータqfが所定範囲内にあるときには、前記ステップ2またはステップ18でリセットされたOKカウンタのカウンタ値COKをデクリメントする(ステップ23)とともに、このカウンタ値COKが値0であるか否かを判別する(ステップ24)。このステップ24の答がNOのときには、そのまま本処理を終了する一方、YESのとき、すなわち、噴射量パラメータqfが所定範囲内にある状態が、所定値COKに相当する所定時間、継続したときには、アイドル制御系が正常であると判定し、そのことを表すために、異常フラグF_IDNGを「0」にセットする(ステップ25)とともに、上記ステップ22を実行し、本処理を終了する。
【0055】
図13は、上述した異常判定装置1の動作例を示している。同図は、上述した異常判定処理の実行中に、噴射量パラメータqfが所定範囲を超えるような異常が、アイドル制御系に発生した場合を示している。
【0056】
前記ステップ3および4の条件が成立し、ステップ5〜25による異常判定が開始された後(時点t1以降)、噴射量パラメータpfが第1および第2のしきい値qJUDH,qJUDLで規定される所定範囲内にあるとき(ステップ17:YES)には、OKカウンタのカウンタ値COKがデクリメントされる(ステップ23)。そして、アイドル制御系への外乱などにより噴射量パラメータpfが一時的に増大し、所定範囲から外れる(ステップ17:NO)と(時点t2)、カウンタ値COKが所定値COKRにリセットされる(ステップ18)とともに、NGカウンタのカウンタ値CNGがデクリメントされる(ステップ19)。
【0057】
そして、噴射量パラメータpfが、再度、所定範囲に入る(時点t3)と、NGカウンタのカウンタ値CNGはリセットされずに保持され、OKカウンタのカウンタ値COKが再びデクリメントされる。その後、アイドル制御系に異常が発生することによって、噴射量パラメータpfが増大し、再度、所定範囲から外れる(時点t4)と、OKカウンタのカウンタ値COKがリセットされるとともに、NGカウンタのカウンタ値CNGが再びデクリメントされる。そして、このカウンタ値CNGが値0になると(ステップ20:YES、時点t5)、異常フラグF_IDNGが「1」にセットされ(ステップ21)、アイドル制御系が異常と判定される。
【0058】
以上のように、本実施形態によれば、アイドル運転中、目標燃料噴射量QOUTの移動平均値である噴射量パラメータqfが、第1および第2のしきい値qJUDH,qJUDLで規定される所定範囲にないときに、アイドル制御系が異常であると判定される。したがって、電流センサ21や水温センサ24などの各種のセンサの特性のばらつきや、アイドル制御系への一時的な外乱による目標燃料噴射量QOUTの変動による誤判定を防止しながら、アイドル制御系の異常を判定することができる。また、これらの第1および第2のしきい値qJUDH,qJUDLが、アイドル運転中に検出されたEGR率rEGRなどのエンジン3の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータと、発電電流VELなどのエンジン3の負荷を表す負荷パラメータとに応じて、設定される。したがって、エンジン3のアイドル運転中における運転状態の変化に応じて、アイドル制御系の異常を精度良く判定することができる。
【0059】
さらに、上記の燃焼状態パラメータとして、EGR率rEGR、エンジン水温TWおよび大気圧PAが用いられるので、第1および第2のしきい値qJUDH,qJUDLの設定を適切に行うことができる。また、オルタネータALによるエンジン3の負荷を表すパラメータとして発電電流VELが、エアコンディショナACによる負荷を表すパラメータとして吸気温TAが、変速装置TMによる負荷を表すパラメータとしてエンジン水温TWが、パワーステアリングPSによる負荷を表すパラメータとしてポンプ油圧POが、それぞれ用いられる。したがって、第1および第2のしきい値qJUDH,qJUDLの設定をより適切に行うことができる。
【0060】
さらに、噴射量パラメータqfが所定範囲内にない状態が所定値CNGに相当する回数、発生したことが確認されたときに、アイドル制御系が異常であると判定するとともに、噴射量パラメータqfが所定範囲内にある状態が、所定値COKに相当する所定時間にわたって継続したときに初めて、アイドル制御系が正常であると判定する。したがって、アイドル制御系が正常であることの判定を、より厳しく行うことができる。
【0061】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、本発明における燃焼状態パラメータとして、EGR率rEGR、エンジン水温TWおよび大気圧PAをすべて用いているが、これらのパラメータrEGR、TWおよびPAの任意の1つまたは2つを用いてもよい。それに加え、これらのパラメータrEGR、TWおよびPAに代えて、または、これらとともに、エンジン3の燃焼状態を表す他のパラメータ、例えばエンジン3の膨張行程中の気筒3d内の圧力や、エンジン3の排ガスの温度などを用いてもよい。
【0062】
また、実施形態では、負荷パラメータとして、発電電流VEL、吸気温TA、エンジン水温TW、およびポンプ油圧POをすべて用いているが、これらのパラメータVEL、TA、TW、およびPOの任意の1つ〜3つを用いてもよい。それに加え、これらのパラメータVEL、TA、TW、およびPOに代えて、または、これらとともに、エンジン3の負荷を表す他のパラメータ、例えばクランク軸3aの出力トルクなどを用いてもよい。さらに、吸気温TAに代えて、外気温を用いてもよい。
【0063】
また、実施形態では、しきい値qJUDを、EGR率rEGRなどの燃焼状態パラメータと発電電流VELなどの負荷パラメータとの双方に応じて算出しているが、両パラメータの一方に応じて算出してもよい。さらに、実施形態では、異常判定に、噴射量パラメータpfおよび所定範囲を用いているが、目標燃料噴射量QOUTをそのまま用いたり、しきい値qJUDをそのまま用いたりしてもよい。
【0064】
また、実施形態では、本発明におけるEGR率パラメータとして、新気量QAと目標EGRガス量の和に対する目標EGRガス量の比であるEGR率rEGRを用いているが、新気量QAとEGRガス量の和に対するEGRガス量の比を表すパラメータであれば、他のパラメータ、例えば、新気量QAと目標EGRガス量の和に対する新気量QAの比でもよい。さらに、目標EGRガス量に代えて、実際のEGRガス量を用いてもよく、その場合、実際のEGRガス量は、EGR制御弁8bのバルブリフト量に基づいて算出(推定)される。
【0065】
また、実施形態では、オルタネータALによるエンジン3の負荷を表すパラメータ、およびエアコンディショナACによるエンジン3の負荷を表すパラメータはそれぞれ、発電電流VELおよび吸気温TAであるが、エンジン3からオルタネータALに伝達されるトルク、およびコンプレッサCOに伝達されるトルクでもよい。さらに、実施形態では、変速装置TMによるエンジン3の負荷を表すパラメータ、およびパワーステアリングPSによるエンジン3の負荷を表すパラメータはそれぞれ、エンジン水温TWおよびポンプ油圧POであるが、エンジン3から変速装置TMに伝達されるトルク、およびエンジン3から油圧ポンプOPに伝達されるトルクでもよい。また、実施形態では、本発明におけるしきい値を含む所定の範囲を、第1および第の2しきい値qJUDH,qJUDLにより規定しているが、しきい値qJUDおよび第1しきい値qJUDHにより、あるいは、しきい値qJUDおよび第2しきい値qJUDLにより、規定してもよい。
【0066】
さらに、実施形態では、いわゆる外部EGRタイプのEGR装置8を用いているが、エンジンの吸気弁や排気弁の開閉タイミングの制御により既燃ガスを気筒内に残留させる、いわゆる内部EGRタイプのEGR装置を用いてもよいことは、もちろんである。また、EGR装置が設けられていない内燃機関に本発明を適用してもよいことは、もちろんである。さらに、実施形態では、有段式の変速装置TMを用いているが、無段式の変速装置を用いてもよい。その場合には、変速装置によるエンジンの負荷は、変速装置のクリープ度合が大きいほど、より大きな値に算出される。このクリープ度合は、クリープ運転によりエンジンから車両の駆動輪に伝達されるトルクが大きいほど、より大きくなるのものであり、エンジンの回転数や変速装置の変速比に応じて、算出される。
【0067】
また、実施形態では、単一のECU2を用いて、アイドル運転制御および異常判定の双方を行っているが、これらの処理をそれぞれ別個のECUを用いて行ってもよい。その場合には、異常判定の対象として、実施形態におけるインジェクタ6などに加え、アイドル運転制御を行うためのECUを含めることができる。さらに、実施形態は、車両用のディーゼルエンジンであるエンジン3に本発明を適用した例であるが、本発明は、ガソリンエンジンや、クランク軸が鉛直方向に配置された船外機などのような船舶推進機用エンジンを含む、様々な産業用の内燃機関に適用することができる。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施形態による異常判定装置を適用した内燃機関や変速装置などを示すブロック図である。
【図2】本実施形態による異常判定装置を適用した内燃機関を概略的に示す図である。
【図3】本実施形態による異常判定装置を示すブロック図である。
【図4】異常判定処理を示すフローチャートである。
【図5】図4の続きを示すフローチャートである。
【図6】図4の処理で用いられるqBASEマップの一例を示す図である。
【図7】図4の処理で用いられるKpaマップの一例を示す図である。
【図8】図4の処理で用いられるKegrマップの一例を示す図である。
【図9】図4の処理で用いられるqELマップの一例を示す図である。
【図10】図4の処理で用いられるqACマップの一例を示す図である。
【図11】図4の処理で用いられるqATマップの一例を示す図である。
【図12】図4の処理で用いられるqPSマップの一例を示す図である。
【図13】図3に示す異常判定装置の動作例を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 異常判定装置
2 ECU(アイドル運転判別手段、パラメータ検出手段、しきい値決定手段、
供給燃料量取得手段、異常判定手段)
3 エンジン
3d 気筒
6 インジェクタ(アイドル制御系)
7 スロットル弁(アイドル制御系)
7a アクチュエータ(アイドル制御系)
8 EGR装置(アイドル制御系)
TM 変速装置
AL オルタネータ(発電機)
BA バッテリ
AC エアコンディショナ
PS パワーステアリング
21 電流センサ(パラメータ検出手段)
22 油圧センサ(パラメータ検出手段)
24 水温センサ(パラメータ検出手段)
25 エアーフローセンサ(パラメータ検出手段)
26 吸気温センサ(パラメータ検出手段)
27 大気圧センサ(パラメータ検出手段)
29 アクセル開度センサ(アイドル運転判別手段)
30 車速センサ(アイドル運転判別手段)
QA 新気量(気筒内に吸入される新気の量)
rEGR EGR率(燃焼状態パラメータ、EGR率パラメータ)
TW エンジン水温(燃焼状態パラメータ、冷却水の温度、負荷パラメータ、変速
装置による負荷を表すパラメータ)
PA 大気圧(燃焼状態パラメータ)
VEL 発電電流(負荷パラメータ、発電機による負荷を表すパラメータ)
TA 吸気温(負荷パラメータ、エアコンディショナによる負荷を表すパラメー
タ)
PO ポンプ油圧(負荷パラメータ、パワーステアリングによる負荷を表すパラメ
ータ)
QOUT 目標燃料噴射量(供給燃料量)
qJUD しきい値
qJUDH 第1しきい値(所定の範囲)
qJUDL 第2しきい値(所定の範囲)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転状態が所定のアイドル運転状態になるように、前記内燃機関に供給すべき供給燃料量を決定するとともに、当該決定された供給燃料量に基づいて前記内燃機関のアイドル運転を制御するアイドル制御系の異常を判定するアイドル制御系の異常判定装置であって、
前記内燃機関が前記所定のアイドル運転状態にあるか否かを判別するアイドル運転判別手段と、
前記内燃機関の燃焼状態を表す燃焼状態パラメータおよび前記内燃機関の負荷を表す負荷パラメータの少なくとも一方を検出するパラメータ検出手段と、
前記内燃機関が前記所定のアイドル運転状態にあるときに検出された前記燃焼状態パラメータおよび前記負荷パラメータの前記少なくとも一方に基づいて、前記アイドル制御系の異常を判定するためのしきい値を決定するしきい値決定手段と、
前記供給燃料量を取得する供給燃料量取得手段と、
当該取得された供給燃料量と前記決定されたしきい値との比較結果に基づいて、前記アイドル制御系の異常を判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とするアイドル制御系の異常判定装置。
【請求項2】
前記内燃機関には、当該内燃機関における燃焼により生成された既燃ガスの一部を前記内燃機関の気筒内に存在させるEGR装置が設けられており、
前記燃焼状態パラメータには、前記気筒内に吸入される新気の量と前記EGR装置により前記気筒内に存在させられた既燃ガスの量との和に対する前記既燃ガスの量の比を表すEGR率パラメータ、前記内燃機関を冷却するための冷却水の温度、および大気圧の少なくとも1つが含まれることを特徴とする、請求項1に記載のアイドル制御系の異常判定装置。
【請求項3】
前記内燃機関には、発電機、エアコンディショナ、変速装置、およびパワーステアリングの少なくとも1つが連結されており、
前記負荷パラメータには、前記発電機、前記エアコンディショナ、前記変速装置、および前記パワーステアリングの前記少なくとも1つによる負荷を表すパラメータが含まれることを特徴とする、請求項1または2に記載のアイドル制御系の異常判定装置。
【請求項4】
前記異常判定手段は、前記供給燃料量が前記しきい値を含む所定の範囲内にないときに、前記アイドル制御系が異常であると判定することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のアイドル制御系の異常判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−275653(P2009−275653A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129517(P2008−129517)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】