説明

エンジンの圧縮比制御装置及び圧縮比制御方法

【課題】圧縮比を可変制御するとともにアクチュエータの小形化を図ることができるエンジンの圧縮比可変制御装置及び圧縮比可変制御方法を提供する。
【解決手段】本発明は、エンジン100の圧縮比を可変制御する圧縮比可変制御装置である。このエンジンの圧縮比可変制御装置は、エンジン100の圧縮比を変更する圧縮比可変機構10を駆動する駆動手段42と、駆動手段42への負荷が小さい運転条件のときに圧縮比を変更する圧縮比制御手段50と、を備える。エンジンの圧縮比は、駆動手段42への負荷が小さい運転条件のときに変更するので、駆動手段42の要求駆動力を抑制することができ、駆動手段42を小形化することが可能となり、コスト低減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの圧縮比制御装置及び圧縮比制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガソリンの代替燃料であるガソリンにエタノールを混合したエタノール混合ガソリン(以下「アルコール燃料」という。)を使用可能な自動車(Flexible Fuel Vehicle)に用いるエンジン(以下「FFエンジン」という。)が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
アルコール燃料は、エタノール含有率に応じて「E85燃料(エタノール含有率85%)」というように呼ばれる。なお、エタノールを含有せずガソリンのみの燃料を同様に「E0燃料」と呼ぶこともあるが、以下アルコール燃料とはエタノール混合燃料を指し、ガソリン燃料とはエタノールを含有せずガソリン100%の燃料を指すものとする。
【特許文献1】実開平5−066261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルコール燃料はガソリン燃料よりもオクタン価が高く、ノッキングが発生にくいので、FFエンジンは高い圧縮比で運転することができる。そのため、FFエンジンではアルコール燃料を高温燃焼させることができるので、熱効率を上げることができるとともにNOxの排出を抑制することができる。
【0005】
従来のFFエンジンでは、アルコール燃料で運転するときにおいても、ガソリン燃料での運転時におけるノッキングを回避するためにガソリン燃料にあわせた低い圧縮比で運転しなければならなかった。
【0006】
ところで、圧縮比を可変制御可能なエンジンとしては、本出願人が先に提案したもので例えば特開2001−227367号公報等によって開示された可変圧縮比エンジンが公知である。この可変圧縮比エンジンは、ピストンとクランクシャフトとを複数のリンクで連結し、エンジンのシリンダブロックに設置されたアクチュエータによってコントロールリンクを制御することでピストン行程を変化させて圧縮比を変更する。このような可変圧縮比エンジンによれば、アルコール燃料やガソリン燃料などオクタン価の異なる燃料を使用する場合であっても、使用燃料に応じてエンジンの圧縮比を制御することができる。
【0007】
しかしながら、可変圧縮比エンジンでは、運転中に圧縮比を制御するため、燃焼圧力などによって生じる荷重に抗してアクチュエータを駆動させなければならず、大きな駆動力を得るためにアクチュエータが大形化し、コストが増大するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明はこのような問題点に着目してなされたものであり、圧縮比を可変制御するとともにアクチュエータの小形化を図ることができるエンジンの圧縮比可変制御装置及び圧縮比可変制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0010】
本発明は、エンジン(100)の圧縮比を可変制御する圧縮比可変制御装置である。このエンジンの圧縮比可変制御装置は、エンジン(100)の圧縮比を変更する圧縮比可変機構(10)を駆動する駆動手段(42)と、駆動手段(42)への負荷が小さい運転条件のときに圧縮比を変更する圧縮比制御手段(50)と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジンの圧縮比は、駆動手段への負荷が小さい運転条件のときに変更するので、駆動手段の要求駆動力を抑制することができ、駆動手段を小形化することが可能となり、コスト低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1実施形態について説明する。
【0013】
図1は、アルコール燃料とガソリン燃料とを使用可能な可変圧縮比エンジンの第1実施形態を示す概略図である。
【0014】
可変圧縮比エンジン100は、ピストン行程を変化させて圧縮比を変更する圧縮比可変機構10を備える。圧縮比可変機構10は、ピストン21とクランクシャフト11とをアッパリンク12、ロアリンク13で連結して、コントロールリンク14でロアリンク13の姿勢を制御することで圧縮比を変更できるようになっている。
【0015】
ピストン21はシリンダブロック20のシリンダ22の内部に収装される。このピストン21の冠面21aと、シリンダ22のシリンダ壁と、シリンダヘッド30とによって燃焼室23が形成される。この燃焼室23で燃料が燃焼すると、ピストン21は燃焼による燃焼圧力を受けてシリンダ22を往復動する。
【0016】
アッパリンク12は、その上端でピストンピン15を介してピストン21に連結する。また、アッパリンク12の下端は、連結ピン16を介してロアリンク13の一端に連結する。
【0017】
ロアリンク13は、その一端が連結ピン16を介してアッパリンク12に連結する。また、ロアリンク13の他端は、連結ピン17を介してコントロールリンク14に連結する。ロアリンク13は、図中左右の2部材から分割可能に構成され、ほぼ中央に連結孔13aを有する。ロアリンク13は、連結孔13aにクランクシャフト11のクランクピン11aを挿入し、クランクピン11aを中心軸として揺動する。
【0018】
クランクシャフト11は、複数のクランクピン11aとジャーナル11bとを形成する。ジャーナル11bは、シリンダブロック20及びラダーフレーム18によって回転自在に支持される。クランクピン11aは、ジャーナル11bから所定量偏心しており、ここにロアリンク13が揺動自在に連結する。
【0019】
コントロールリンク14は、その一端が連結ピン17を介してロアリンク13に連結する。コントロールリンク14の他端は、連結ピン19を介してコントロールシャフト41に連結する。このコントロールリンク14は、連結ピン19を中心として揺動する。
【0020】
コントロールシャフト41は、その外周にギア41aを形成する。そのギア41aは、アクチュエータ42の回転軸43に設けられたピニオン44に噛合する。コントロールシャフト41はアクチュエータ42によって回転制御され、連結ピン19を任意に移動させる。
【0021】
図2は、可変圧縮比エンジン100の圧縮比変更方法を説明する概略図である。
【0022】
可変圧縮比エンジン100は、連結ピン19を移動することによってアッパリンク12及びロアリンク13の姿勢を変えて、圧縮比を変更する。
【0023】
つまり、図2(A)に示すように、連結ピン19を位置Aにすると、コントロールリンク14が上方へ押し上げられ、連結ピン17の位置が上がる。これによりロアリンク13はクランクピン11aを中心として反時計方向に回転して連結ピン16が下がり、これによりピストン21の上死点位置も下がって低圧縮比になる。これに対して、図2(B)に示すように、連結ピン19を位置Bにすると、上死点位置が高くなり高圧縮比になる。
【0024】
一方、可変圧縮比エンジン100は、図1に示すように燃焼室上部のシリンダヘッド30に燃料噴射弁31及び点火プラグ32を備える。
【0025】
燃料噴射弁31は、噴口が燃焼室23の内部に突出するようにシリンダヘッド30に設置される。この燃料噴射弁31は、燃料タンク311から燃料通路312を通って供給されるガソリン燃料又はアルコール燃料を燃焼室23の内部に噴射し、混合気を形成する。
【0026】
点火プラグ32は、先端の点火部が燃焼室23の内部に突出するように設置される。この点火プラグ32は、燃焼室23の内部に形成された混合気に点火し、混合気を燃焼させる。
【0027】
上記した燃料タンク311には、給油のための給油管313が取付けられている。この給油管313の給油口314には脱着可能なキャップ315が装着される。そのため、燃料給油時はキャップ315を取り外し、給油を行うこととなる。
【0028】
給油口314には、給油を検出する給油検出センサ316が設置される。この給油検出センサ316は、キャップ314を外した際に回路遮断が起きるようになっており、この回路のON、OFFによって給油されたか否かを判定することできる。なお、上記給油検出センサ316を設置するのではなく、燃料タンク311に燃料増加量を検出するセンサを設置して、その検出値に基づいて給油されたか否かを判定するようにしてもよい。
【0029】
また、燃料タンク311には、燃料タンク内に蓄えられている燃料がガソリン燃料であるかアルコール燃料であるかを、ガソリンに含有するアルコール含有率に基づいて判別する燃料性状判別装置317が設置される。燃料性状判別装置317は、例えば燃料にレーザ光などを照射して、その反射光の強度を検知することによって燃料性状を判別する。この燃料性状判別装置317は、キースイッチのONとともに開始してエンジン停止まで常時、燃料性状を判別する。このような燃料性状判別装置317の詳細については、本出願人が先に提案したもので特開2005−172466号公報を参照されたい。なお、燃料性状を常時判別するのではなく、給油センサ316の検出値に基づいて燃料タンクのキャップを閉めた後に判別するようにしてもよく、また燃料増加量を検出するセンサに基づいて燃料タンク内の燃料量の増加を検出した後に判別するようにしてもよい。
【0030】
また、可変圧縮比エンジン100は、外部からの吸気を燃焼室23に流す吸気ポート33と、燃焼室内の燃焼ガスを図示しない排気マニホールに流す排気ポート34とをシリンダヘッド30に形成する。
【0031】
吸気ポート33には吸気バルブ35が設けられる。吸気バルブ35は可変動弁装置200によって駆動し、ピストン21の上下動に応じて吸気ポート33を開閉する。
【0032】
また、排気ポート34には排気バルブ36が設けられる。この排気バルブ36はカムシャフト37により駆動し、ピストン21の上下動に応じて排気ポート34を開閉する。なお、排気バルブ36も、吸気バルブ35と同様に可変動弁装置200によって駆動するようにしてもよい。
【0033】
上記した可変動弁装置200は、吸気バルブ35のリフト量、作動角及び開閉弁時期を変更する。ここで、図3に基づいて可変動弁装置200について簡単に説明する。
【0034】
図3は、可変動弁装置200の構成を示す図である。
【0035】
可変動弁装置200は、揺動カム210と、その揺動カム210を揺動させる揺動カム駆動機構220と、吸気バルブ35のリフト量を変化させ得るリフト可変機構230とを備える。
【0036】
揺動カム210は、図3に示すように駆動軸221の外周に回転自在に嵌合している。シリンダ列方向に延びる駆動軸221は揺動カム210に挿通される。
【0037】
本実施形態では、一つの気筒に対して2つの吸気バルブ35を備えるので、一つの気筒には一対の揺動カム210とバルブリフタ211とが設けられる。この一対の揺動カム210は、駆動軸221に対して回動自在に挿通された連結筒222によって同一位相状態で結合され、互いに同期して同一的に作動する。このため、揺動カム駆動機構220は一方の揺動カム210に対してのみ備えられる。そして、揺動カム210が、後述する揺動カム駆動機構220によってクランクシャフトと連動して駆動軸221を支点に揺動し、バルブリフタ211を介して吸気バルブ35を駆動する。
【0038】
揺動カム機構220の駆動軸221には、偏心カム222が圧入等によって固定されている。円形外周面を有する偏心カム222は、その外周面の中心が駆動軸221の軸心から所定量だけオフセットする。駆動軸221は、クランクシャフトの回転に連動して回転するため、偏心カム222は駆動軸221の軸心回りに偏心回転する。
【0039】
偏心カム222の外周面には、第1リンク223の基端側の環状部224が回転可能に嵌合している。第1リンク223の先端は、連結ピン225を介してロッカアーム226の一端と連結する。また、ロッカアーム226の他端は、連結ピン227を介して第2リンク228の上端と連結する。第2リンク228の下端は、連結ピン229を介して揺動カム210と連結する。なお、ロッカアーム226の略中央部は、リフト可変機構230の制御軸231の偏心カム部232に揺動自在に支持される。
【0040】
駆動軸221がエンジン回転に同期して回転すると、偏心カム222が偏心回転し、これにより第1リンク223が上下方向に揺動する。第1リンク223の揺動によりロッカアーム226が偏心カム部232の軸周りに揺動し、第2リンク228が上下に揺動して、揺動カム210を駆動軸221の軸回りに所定の回転角度範囲で揺動運動させる。
【0041】
可変動弁装置200では、駆動軸221の一端が図示しないカムスプロケットに挿入されている。駆動軸221がカムスプロケットに対して相対回転することで、カムスプロケットに対する位相を変更でき、クランクシャフトに対する駆動軸221の回転位相を変更できる。
【0042】
また、可変動弁装置200のリフト可変機構230は、揺動カム210の回転角度位相を制御する。リフト可変機構230の制御軸231の一端には、ギア等を介して図示しないアクチュエータが設けられており、アクチュエータによって制御軸231の回転位置を変化させることで、ロッカアーム226の揺動中心となる偏心カム部232の軸心が制御軸231の回転中心周りを旋回し、これに伴いロッカアーム226の支点が変位する。これにより、第一リンク223及び第二リンク228の姿勢が変化して、揺動カム210の揺動中心とロッカアーム226の回転中心との距離が変化し、揺動カム210の揺動特性が変化する。
【0043】
図4は、可変動弁機構200による吸気バルブ35のリフト量及び開閉時期を示す図である。実線は制御軸231を回転したときの吸気バルブ35のリフト量及び開閉時期を示し、破線は駆動軸221のカムスプロケットに対する位相を変更したときの吸気バルブ35の開閉時期を示す。
【0044】
上記した可変動弁機構200の構成によれば、制御軸231の角度及び駆動軸221のカムスプロケットに対する位相を変更することで、図4に示すように吸気バルブ35のリフト特性であるリフト量、作動角及び開閉弁時期を自在に変更することができる。
【0045】
このような可変圧縮比エンジン100は、図1に示すように圧縮比を制御し、また可変動弁装置を制御するコントローラ50を備える。このコントローラ50はCPU、ROM、RAM及びI/Oインタフェースから構成される。
【0046】
コントローラ50には、給油検出センサ316、燃料性状判別装置317、燃料噴射弁31や点火プラグ32からの出力が入力する。コントローラ50は、これら出力に基づいてアクチュエータ42を制御してコントロールシャフト41を回転させて圧縮比を変更し、また可変動弁装置200を制御して吸気バルブ35のリフト特性(リフト量、作動角及び開閉弁時期)を変更する。
【0047】
第1実施形態の可変圧縮比エンジン100では使用燃料に応じてエンジンの圧縮比を制御することができるので、アルコール燃料よりもオクタン価の低いガソリン燃料を使用する場合には低圧縮比となるよう圧縮比を調整し、アルコール燃料を使用する場合には高圧縮比となるように圧縮比を調整する。これによって、ガソリン燃料、アルコール燃料のどちらの燃料に対しても最適な圧縮比で燃焼を行うことができる。
【0048】
ところで、コントロールリンク14とコントロールシャフト41との連結部には、燃焼行程時の燃焼圧力や圧縮行程時の圧縮圧力などの作用による負荷として、引張り荷重Fが生じる(図5参照)。そのため、コントロールシャフト41には、この引張り荷重Fの大きさなどに応じたトルクが発生する。
【0049】
図5は、コントロールシャフト41に生じるトルクを示す図である。図5(A)は低圧縮比又は高圧縮比となる連結ピン19の位置を示す。図5(B)は低圧縮比と高圧縮比との中間の圧縮比となる連結ピン19の位置を示す。
【0050】
図5(A)に示すように、第1実施形態では、圧縮比が低圧縮比になる場合に連結ピン19は位置Aにある。この場合には、コントロールリンク14の軸線CCがコントロールシャフト中心Pを通るため、コントロールリンク14とコントロールシャフト41との連結部に引っ張り荷重Fが生じてもコントロールシャフト41にはトルクは発生しない。なお、低圧縮比の場合のコントールリンク14の軸線CCとコントロールシャフト中心Pを通る中心線CLとのなす角度(以下「コントロールリンク角度」という。)をθAとする。
【0051】
また、圧縮比が高圧縮比となる場合には連結ピン19は位置Bにある。この場合には、低圧縮比の場合と同様にコントールリンク14の軸線CCがコントロールシャフト中心Pを通るため、引っ張り荷重Fが生じてもコントロールシャフト41にはトルクは発生しない。ここで、高圧縮比時のコントロールリンク角度はθBとなり、θAとθBとの間隔は180°となっている。
【0052】
これに対して、図5(B)に示すように、圧縮比が低圧縮比と高圧縮比との間の中間圧縮比となる場合には連結ピン19は位置Cにある。この場合には、軸線CCとコントロールシャフト中心Pとの距離がLとなるため、コントロールシャフト41には引っ張り荷重Fと距離Lの積で表されるトルクが発生する。ここで、中間圧縮比時のコントロールリンク角度はθCとなり、θA<θC<θBとなっている。
【0053】
このように、コントロールシャフト41に生じるトルクは、低圧縮比(位置A)及び高圧縮比(位置B)にあるときに最小となり、中間圧縮比(位置C)にあるときに最大となる。そして、図5(B)の斜線領域は、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2にあって、比較的大きなトルクが発生する領域である。
【0054】
したがって、コントロールリンク角度がそのような領域にある場合であって、圧縮比を変更するときには、そのような大トルクに抗してコントロールシャフト41を駆動しなければならず、そのトルクよりも大きな駆動力を有するアクチュエータ42が必要となる。
【0055】
しかしながら、引っ張り荷重Fが大きくなる車両の運転中に圧縮比を変更する場合、
特に低圧縮比(位置A)から高圧縮比(位置B)に圧縮比を変更する場合には、アクチュエータ42には大きな駆動力が要求され、アクチュエータ42が大形化し、コストが増加するなどの問題があった。
【0056】
そこで、第1実施形態の可変圧縮比エンジン100では、アクチュエータへの負荷が小さくなるときに、例えばコントロールシャフト41に生じるトルクが小さくなるエンジン始動時であって、燃料噴射がされておらず燃料が点火されていないクランキング時に圧縮比を変更する。
【0057】
以下、図6〜図9を参照して、使用燃料に応じて最適な圧縮比となるように、エンジン始動時からエンジン停止時までにコントローラ50が実行する処理について説明する。
【0058】
図6は、コントローラ50が実行する処理を説明するフローチャートである。この処理は、キースイッチがOFFからONに操作されるとともに実行され、一定周期、例えば10ミリ秒周期のもとで可変圧縮比エンジン100が停止するまで実行される。
【0059】
まず、ステップS1では、コントローラ50は、燃料噴射及び点火をしていないか否かを燃料噴射弁31及び点火プラグ32からの出力信号に基づいて判断する。燃料噴射及び点火がされていない場合にはクランキング時と判断しステップS2に移る。燃料噴射及び点火がされている場合には通常運転時と判断してステップS3に移る。
【0060】
ステップS2では、コントローラ50は始動時処理を実施して、処理を終了する。この始動時処理の詳細については、図7を参照して後述する。
【0061】
ステップS3では、コントローラ50は、エンジンを停止する停止信号の有無を判断する。例えば、キーオフ時にエンジンを停止する信号が出力されるようにしておき、そのときの信号を検出するようにすればよい。そして、停止信号が無い場合には、通常運転時であると判断し、ステップS4に移る。また、停止信号があった場合には、可変圧縮比エンジン100が停止すると判断し、ステップS5に移る。
【0062】
ステップS4では、コントローラ50は通常運転時処理を実施して、処理を終了する。この通常運転時処理の詳細については、図8を参照して後述する。
【0063】
ステップS5では、コントローラ50は停止時処理を実施して、処理を終了する。この停止時処理の詳細については、図9を参照して後述する。
【0064】
図7は、クランキング時に行う始動時処理を示すフローチャートである。
【0065】
ステップS21では、コントローラ50は、燃料性状判別装置317の検出値に基づいてアルコール燃料であるかガソリン燃料であるかを判別して目標圧縮比を設定し、ステップS22に移る。
【0066】
ステップS22では、コントローラ50はアクチュエータ42を制御して、低圧縮比又は高圧縮比のうち目標の圧縮比に変更するように圧縮比変更を開始する。
【0067】
ステップS23では、コントローラ50は可変動弁装置200を制御することによって燃焼室内に導入される吸気量を制限する。
【0068】
つまり、可変動弁装置200によって、吸気バルブ35のリフト量を低減するとともに閉弁時期を進角させて燃焼室23に導入される吸気量を低減する。吸気量が低減すると、ピストン上昇時の圧縮圧力が低下し、コントロールリンク14とコントロールシャフト41との連結部に生じる荷重が抑制される。これにより、コントロールシャフト41に生じるトルクを低減する。
【0069】
ステップS24では、コントローラ50は、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2の条件を満たしているか否かを判断する。
【0070】
コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2でない場合には、燃料を噴射して点火してもコントロールシャフト41に生じるトルクは小さいと判断し、ステップS25に移る。コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2である場合には、燃料を噴射して点火するとトルクが大きくなると判断し、燃料噴射及び点火をせずクランキング状態を維持したまま一旦処理を抜ける。
【0071】
図8は、通常運転時処理を示すフローチャートである。
【0072】
ステップS41では、コントローラ50は始動時運転処理で変更した圧縮比を保持し、処理を抜ける。つまり、本実施形態では、車両が通常運転している間は圧縮比の変更は行わない。
【0073】
図9は、停止時処理を示すフローチャートである。
【0074】
ステップS51では、コントローラ50はエンジンの停止信号を検出した後に、運転時の圧縮比(低圧縮比又は高圧縮比)から中間圧縮比に変更し、処理を抜ける。
【0075】
図10は、コントローラ50が実行する始動時処理の動作を示すタイムチャートである。このタイムチャートは、圧縮比を中間圧縮比から低圧縮比に変更する場合を例示したものである。なお、上述したフローチャートとの対応を分かりやすくするためにフローチャートのステップ番号を、Sを付して併記する。
【0076】
本実施形態では、図9のステップS51で示したようにエンジン停止時に圧縮比を中間圧縮比にして停止するため、エンジン始動時の圧縮比は中間圧縮比となっている(図10(A))。ここで、燃料性状判別装置317によって燃料タンク311に蓄えられている燃料がガソリン燃料であると判断され、目標圧縮比が設定されたら(S21)、クランキング時の時刻t1において圧縮比の変更を開始し、圧縮比を中間圧縮比から低圧縮比へ変更する(図10(A);S22)。そして、エンジン回転速度が上昇するとともに(図10(C))、吸気バルブ35のリフト量を小さくし(図10(E))、吸気バルブ35の閉弁時期を進角して(図10(F))、クランキング時の吸気量を低減する(S23)。このように吸気量を低減することでピストン上昇時の圧縮圧力を抑制して、コントロールシャフト41に生じるトルクを低減させる。
【0077】
圧縮比が低圧縮比に近づきコントロールリンク角度θがθ1よりも小さくなる時刻t2で、燃料噴射及び点火を開始する(図10(B)、図10(D);S25)。つまり、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2である場合に燃料を噴射して点火するとトルクが大きくなって、アクチュエータ42への負荷が大きくなるため、燃料燃焼時に発生するトルクが小さくなるコントロールリンク角度θ(θ≦θ1又はθ≧θ2)になるのを待って燃料噴射及び点火を開始する。そして、時刻t3において中間圧縮比から低圧縮比への変更が完了する。
【0078】
なお、本実施形態では停止時処理(ステップS5)において、エンジンを停止するときに中間圧縮比にして停止するのではなく、高圧縮比にして停止するようにしてもよい。そうすると、適正圧縮比が低圧縮比であるときには、圧縮比を高圧縮比から低圧縮比に変更する場合に、コントロールシャフト41はコントロールリンク14に生じる引っ張り荷重の補助を受けるので、速やかに低圧縮比化することができる。また、適正圧縮比が高圧縮比であるときには、圧縮比を変更する必要がない。これにより、コントロールシャフト41を制御するアクチュエータ42をさらに小型化することができ、コストの低減を図ることが可能となる。
【0079】
エンジンを停止するときに高圧縮比にして停止する場合、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2である時に燃料噴射と点火を禁止する代わりに、圧縮比を変更するときの燃焼開始時間を、圧縮比を変更せず保持するときの燃焼開始時間に比べて予め遅くなるように設定し、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2を必ず通過した後に燃焼開始するようにしてもよい。例えば、圧縮比を変更する場合のクランキング時間を、圧縮比を変更せずに保持する場合のクランキング時間よりも長くするようにして、その時間経過後に燃料噴射及び点火を行うようにすればよい。
【0080】
以上により、第1実施形態では下記の効果を得ることができる。
【0081】
始動時処理(ステップS2)において、燃料性状判別装置317の検出値に基づいて圧縮比を変更するため、燃料性状に応じた圧縮比で車両を運転することができ、燃費の向上を図るとともに出力特性の向上を図ることが可能となる。
【0082】
始動時処理(ステップS2)での圧縮比の変更はクランキング時に行い、可変動弁装置200によって吸気量を制限するため、コントロールシャフト41に生じるトルクが小さくなる。また、燃料燃焼時に発生するトルクが小さくなるコントロールリンク角度θになるのを待って燃料噴射及び点火を開始する。そのため、コントロールシャフト41を駆動するアクチュエータ42の要求駆動力を抑制することができ、アクチュエータ42を小形化することが可能となり、コスト低減を図ることができる。
【0083】
また、コントロールシャフト41に発生するトルクは低圧縮比及び高圧縮比時に最小となるように設定されている。そのため、通常運転時処理(ステップS4)において、始動時処理において変更した圧縮比を維持して車両が走行したとしても、圧縮比を維持するために必要なアクチュエータ42の保持力が低減する。これにより、アクチュエータ42を小形化することが可能となり、コスト低減を図ることができると共に、始動するまでの時間を必要以上に長引かせることがない。
【0084】
さらに、停止時処理(ステップS5)において、エンジンを停止するときに圧縮比を中間圧縮比にして停止する。そうすると、次回エンジン始動時には、圧縮比は中間圧縮比から高圧縮比又は低圧縮比まで変更すればよいので、コントロールシャフト41の回転量を低減できる。これにより、圧縮比を速やかに変更することができ、圧縮比の変更に必要なクランキング時間の長期化を回避することができる。
【0085】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図11を参照して説明する。第2実施形態は、圧縮比を中間圧縮比に維持するロック機構60やノックセンサ24を有し、クランキング時だけでなくアクセルオフ又はスロットルオフである期間にも圧縮比を変更する点で第1実施形態と相違する。以下その相違点を中心に説明する。なお、第2実施形態では、上述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には同一の符号を用いており、重複する説明は適宜省略する。
【0086】
図11は、第2実施形態の可変圧縮比エンジン400の概略図である。
【0087】
可変圧縮比エンジン400は、基本的に第1実施形態の可変圧縮比エンジン100と同様の構成だが、ロック機構60やノックセンサ24を有する点で相違している。
【0088】
ロック機構60は、コントロールシャフト41に発生するトルクが最大となる中間圧縮比で車両が通常走行する場合において、そのトルクによってコントロールシャフト41が回転して圧縮比が変化しないようにコントロールシャフト41の回転を防止する。
【0089】
このロック機構60は、例えばコントロールシャフト41のシャフト端面に設けられた位置決め穴61と、コントロールシャフト41の回転を防止するために位置決め穴61に挿入される図示しないピンから構成される。そして、車両が中間圧縮比で走行する場合に、油圧などによって図示しないピンを押し出し、位置決め穴61に挿入して、コントロールシャフト41がトルクによって回転するのを規制する。
【0090】
ノックセンサ24は、シリンダブロック20の側部に設けられる。ノックセンサ24は、燃焼室内でノッキングが発生した場合に、そのノッキングによって生じる振動を検知してコントローラ50に出力する。
【0091】
コントローラ50には、ノックセンサ24からの出力のほか、冷却水温度やアクセルペダル踏込量などが入力する。
【0092】
第2実施形態の可変圧縮比エンジン400では、第1実施形態と同様に燃焼性状を判別して、クランキング時に圧縮比を燃料性状に応じた圧縮比に変更するだけでなく、コントロールシャフト41に発生するトルクが通常運転時よりも小さくなるアクセルオフ又はスロットルオフである期間においても圧縮比を変更する。
【0093】
次に、図12〜図15を参照して、使用燃料に応じて最適な圧縮比となるようにエンジン始動時からエンジン停止時までにコントローラ50が実行する処理について説明する。
【0094】
図12は、コントローラ50が実行する処理を説明するフローチャートである。この処理は、キースイッチがOFFからONに操作されるとともに実行され、一定周期、例えば10ミリ秒周期のもとで可変圧縮比エンジン400が停止するまで実行される。
【0095】
まず、ステップS1では、コントローラ50は燃料噴射及び点火をしていないか否かを、燃料噴射弁31及び点火プラグ32からの出力信号に基づいて判断する。燃料噴射及び点火がされていない場合にはクランキング時と判断して、ステップS2に移る。また、燃料噴射及び点火がされている場合には通常運転時と判断して、ステップS6に移る。
【0096】
ステップS2では、コントローラ50は、クランキング時に行う始動時処理を実施して、処理を終了する。この始動時処理の詳細については、図13を参照して後述する。
【0097】
ステップS6では、コントローラ50は、車両がアイドル運転をしているか否かを判断する。アイドル運転をしていない場合には、ステップS3に移る。また、車両がアイドル運転をしている場合には、ステップS7に移る。
【0098】
ステップS7では、コントローラ50は、アイドル時処理を実施して、処理を終了する。このアイドル時処理の詳細については、図15を参照して後述する。
【0099】
ステップS3では、コントローラ50は、エンジンを停止する停止信号の有無を判断する。停止信号が無い場合には運転継続中と判断してステップS4に移り、停止信号があった場合にはステップS5に移る。
【0100】
ステップS4では、コントローラ50は通常運転時処理を実施して、処理を終了する。この通常運転時処理の詳細については、図14を参照して後述する。
【0101】
ステップS5では、コントローラ50は停止時処理を実施して、処理を終了する。
この停止時処理では、第1実施形態と同様に圧縮比を中間圧縮比に変更してからエンジンを停止する処理を行う。そのため、次回エンジン始動時における可変圧縮比エンジン400の圧縮比は常に中間圧縮比となる。
【0102】
図13は、クランキング時に行う始動時処理を示すフローチャートである。
【0103】
まず、ステップS26では、コントローラ50は、燃料性状判別装置317が正常か否かを判断する。つまり、ガソリン燃料やアルコール燃料を燃料性状判別装置317によって検出したときの検出値を予め実験などにより設定しておき、所定範囲外の検出値が検出された場合に燃料性状判別装置317が正常に作動していないと判断するようにする。そして、燃料性状判別装置317が異常であると判断した場合には、ステップS27に移る。また、燃料性状判別装置317が正常に作動していると判断した場合には、ステップS21に移る。
【0104】
ステップS27では、コントローラ50は異常フラグを1に設定し、ステップS25に移る。
【0105】
ステップS21では、コントローラ50は燃料性状判別装置317の検出値に基づいて目標圧縮比を設定し、ステップS28に移る。
【0106】
ステップS28では、コントローラ50は、可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあるか否かを判断する。冷機状態であるか否かの判断は、冷却水温度の検出値Tが基準値T0以下であるかどうかで判断する。そして、T≦T0の場合には、可変圧縮比エンジン400は冷機状態にあると判断する。一方、T>T0の場合には、可変圧縮比エンジン400は暖機状態にあると判断する。
【0107】
可変圧縮比エンジン400が冷機状態にある場合には、ピストン21とシリンダ22とのフリクションなどが大きくなるので、圧縮比を変更するときに要求されるアクチュエータ42の駆動力も大きくなる。このような大きなフリクションは圧縮行程での圧縮や燃焼などによる圧力上昇によってアクチュエータ負荷に追加されるので、アクチュエータ負荷が特に大きくなってしまう。そのため、冷機状態にある場合には、圧縮比を変更しないようにする。したがって、可変圧縮比エンジン400が暖機状態にあると判断された場合に、ステップ22に移ってステップS21で設定した圧縮比に基づいて圧縮比を中間圧縮比から低圧縮比又は高圧縮比に変更する。ステップS22以降の処理については第1実施形態と同様であるため、便宜上説明を省略する。
【0108】
可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあると判断された場合は、圧縮比を変更せずにステップS25に移る。
【0109】
第2実施形態では、燃料性状判別装置317が異常と判断された場合や可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあると判断された場合には、クランキング時に圧縮比を変更することなく、エンジン始動時に設定されている中間圧縮比のままステップS25で燃料噴射及び点火を開始する。このとき、コントロールシャフト41は、上述したロック機構60によって位置決めされているので、コントロールリンク角度θがθcとなってコントロールシャフト41に発生するトルクが最大となる中間圧縮比で車両が通常走行しても、そのトルクによってコントロールシャフト41が回転して圧縮比が変化することが防止される。
【0110】
図14は、通常運転時に行う通常運転時処理を示すフローチャートである。
【0111】
ステップS41では、コントローラ50は車両が通常運転している間は圧縮比を変更せず圧縮比を維持し、ステップS42に移る。
【0112】
ステップS42では、コントローラ50は燃料性状判別装置317の動作が異常であり、異常フラグが1となっているか否かを判断する。異常フラグが1となっている場合には、燃料性状判別装置317に基づいて目標圧縮比を設定できないのでステップS43に移る。燃料性状判別装置317が正常に作動しており、異常フラグが1となっていない場合には、一旦処理を抜ける。
【0113】
ステップS43では、コントローラ50はノックセンサ24に基づいて燃焼室内でのノッキングを検出して目標圧縮比を設定し、一旦処理を抜ける。
【0114】
つまり、燃料性状判別装置317の作動が異常である場合には、ノックセンサ24によって燃料性状を判別する。ガソリン燃料はアルコール燃料よりもオクタン価が低いので、同じ圧縮比であってもガソリン燃料の方がアルコール燃料よりもノッキングが発生しやすい。そのため、始動時処理で圧縮比を変更せずに中間圧縮比で走行すると、運転状況によってはガソリン燃料ではノッキングが発生することがあり、このノッキングをノックセンサ24で検出することによってガソリン燃料とアルコール燃料とを判別することができる。
【0115】
図15は、アクセルオフ又はスロットルオフである期間としての、アイドリングの最中(燃料カットが行われる減速コーストを含む)に行うアイドル時処理を示すフローチャートである。
【0116】
ステップS71では、コントローラ50は、可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあるか否かを判断する。冷機状態であるか否かの判断は、冷却水温度の検出値Tが基準値となる所定値T0以下であるかどうかで判断し、T≦T0の場合には冷機状態と判断する。一方、T>T0の場合には暖機状態と判断する。そして、可変圧縮比エンジン400が暖機状態にあると判断した場合には、ステップS72に移る。また、可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあると判断した場合には一旦処理を抜け、可変圧縮比エンジン400が暖機されるまで待機する。
【0117】
ステップS72では、コントローラ50は目標圧縮比が設定されているか否かを判断する。つまり、燃料性状判別装置317が正常に作動している場合には始動時処理で設定した目標圧縮比を検出し、燃料性状判別装置317の作動が異常である場合には通常運転処理でノックセンサ24に基づいて設定した目標圧縮比を検出し、ステップS73に移る。なお、燃料性状判別装置317の作動が異常であっても、まだノックセンサ24に基づいて目標圧縮比が設定されていない場合には一旦処理を抜け、目標圧縮比が設定されまで待機する。
【0118】
ステップS73では、コントローラ50はアクチュエータ42を制御し、低圧縮比又は高圧縮比のうち目標圧縮比に近い方の圧縮比に変更するように圧縮比変更を開始し、ステップS74に移る。
【0119】
ステップS74では、コントローラ50は、加速要求があるか否かをアクセルペダル踏込量の検出値ΔAに基づいて判断する。
【0120】
つまり、圧縮比を変更している最中に加速要求があって加速を開始すると、コントロールリンク14とコントロールシャフト41の連結部に生じる引っ張り荷重が増大し、コントロールシャフト41に大きなトルクが発生する。そうすると、コントロールシャフト41を回転させるアクチュエータ42の要求駆動量も大きくなってしまう。そこで、第2実施形態では、圧縮比を変更している最中に加速要求があるか否かを判断し、加速要求があった場合には後述するステップS75からステップS77までの処理を実行する。
【0121】
加速要求があるか否かは、アクセルペダル踏込量の検出値ΔAが基準値ΔA0以上であるかどうかで判断し、ΔA≧ΔA0である場合には加速要求があると判断する。一方、ΔA<ΔA0である場合には加速要求はないと判断する。そして、加速要求が無い場合には処理を一旦抜け、加速要求がある場合にはステップS75に移る。
【0122】
ステップS75では、コントローラ50は、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2の範囲にあるか否かを判断する。コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2でない場合には、加速要求に応じて加速してもコントロールシャフト41に生じるトルクは小さいと判断し、ステップS77に移る。これに対して、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2である場合には、加速要求に応じて加速するとトルクが大きくなると判断し、ステップS76に移る。
【0123】
ステップS76では、コントローラ50は、燃焼室内に導入される吸気量を制限して加速する吸気量制限加速制御を実行し、その後処理を抜ける。
【0124】
つまり、コントローラ50は可変動弁装置200を制御することによって吸気バルブ35のリフト量を低下させる。このように、加速要求によって必要とされる吸気量よりも少ない吸気量を燃焼室23に導入することで、コントロールシャフト41に生じるトルクを抑制する。なお、吸気バルブ35のリフト量を低下させるだけでなく、吸気バルブ35の作動角や開閉時期を調整したり、スロットル開度を補正したりして、吸気量を制限するようにしてもよい。
【0125】
ステップS77では、コントローラ50は吸気量を制限することなく、加速要求に応じて加速する通常加速制御を行い、処理を抜ける。
【0126】
図16は、コントローラ50が実行するアイドル時処理の動作を示すタイムチャートである。このタイムチャートは、アイドリング時に圧縮比を中間圧縮比から低圧縮比に変更する場合を例示したものである。
【0127】
第2実施形態においても、エンジン停止時に圧縮比を中間圧縮比にして停止するため、エンジン始動時の圧縮比は中間圧縮比となっている(図16(A))。
【0128】
ここで、燃料性状判別装置317又はノックセンサ24によって燃料タンク311に蓄えられている燃料がガソリン燃料であると判断されて目標圧縮比が設定され(S21又はS43)、可変圧縮比エンジン400が冷機状態にないと判定されると(S71でNo)、コントローラ50は圧縮比を中間圧縮比から低圧縮比へ変更する(S73)。つまり、車両がアイドルリング状態になると(S6でYes)、時刻t4において圧縮比の変更が開始される(図16(A);S73)。そして、時刻t5で加速要求があった場合に(図16(E);S74でYes)、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2にあると(S75でYes)、吸気バルブ35の閉弁時期をエンジン回転速度の上昇に応じて吸気量が僅かに増加するように徐々に遅角し(図16(C)、図16(F))、時刻t6までは吸気バルブ35のリフト量を小さく設定することで燃焼室内に導入される吸気量を制限する(図16(E);S76)。つまり、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2である場合に、加速要求に応じて加速するとトルクが大きくなってアクチュエータ42への負荷が大きくなるため、トルクが小さくなるコントロールリンク角度θがθ≦θ1又はθ≧θ2になるまで吸気量を制限する。このように吸気量を低減することでピストンが受ける圧縮圧力や燃焼圧力などを抑制して、コントロールシャフト41に生じるトルクを低減させる。そして、時刻t7において中間圧縮比から低圧縮比への変更が完了する。
【0129】
以上により、第2実施形態では下記の効果を得ることができる。
【0130】
始動時処理(ステップS2)では、燃料性状判別装置317の検出値に基づいて圧縮比を変更するため、燃料性状に応じた圧縮比で車両を運転することはでき、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0131】
アイドル時処理(ステップS7)では、クランキング時に圧縮比を変更しない場合であっても、通常運転時よりもトルクが小さくなるアイドリング時に圧縮比を変更する。これにより、燃料性状に応じた圧縮比で可変圧縮比エンジン400の運転を行うことができ、燃費の向上を図るとともに出力特性の向上を図ることが可能となる。
【0132】
また、始動時処理(ステップS2)での圧縮比の変更は、ピストンなどのフリクションが低減する暖機状態にあるクランキング時に行い、さらに可変動弁装置200によって吸気量も制限するので、コントロールシャフト41に生じるトルクを小さくすることができる。これにより、コントロールシャフトを駆動するアクチュエータ42の要求駆動力を抑制することができるので、アクチュエータ42を小形化することが可能となり、コスト低減を図ることができる。
【0133】
さらに、アイドル時処理(ステップS7)では、圧縮比を変更している最中に加速要求があっても、トルクが小さくなるコントロールリンク角度になるまで吸気量を制限する。これにより、ピストンが受ける圧縮圧力や燃焼圧力を抑制して、コントロールシャフト41に生じるトルクを低減させることができるので、アクチュエータ42を小形化することが可能となり、コスト低減を図ることができる。
【0134】
さらに、可変圧縮比エンジン400はノックセンサ24を備えるため、通常運転時におけるノッキングを検出することによって燃料性状を判別することができる。そのため、燃料性状判別装置317が故障などした場合であっても燃料性状に応じた圧縮比で車両を運転することができ、燃費の向上を図るとともに出力特性の向上を図ることが可能となる。
【0135】
本発明は上記した実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなし得ることは明白である。
【0136】
例えば、第2実施形態の停止時処理(ステップS5)においても、第1実施形態と同様に、エンジンを停止するときに中間圧縮比にして停止するのではなく、高圧縮比にして停止するようにしてもよい。そうすると、適正圧縮比が低圧縮比である場合には、圧縮比を高圧縮比から低圧縮比に変更する場合には、コントロールシャフト41はコントロールリンク14に生じる引っ張り荷重の補助を受けるので、速やかに低圧縮比化することができる。また、適正圧縮比が高圧縮比である場合には、圧縮比を変更する必要がない。これにより、コントロールシャフト41を制御するアクチュエータ42をさらに小型化することができ、コストの低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】可変圧縮比エンジンの第1実施形態を示す概略図である。
【図2】可変圧縮比エンジンの圧縮比変更方法を説明する概略図である。
【図3】可変動弁装置の構成を示す図である。
【図4】可変動弁機構による吸気バルブのリフト量及び開閉時期を示す図である。
【図5】コントロールシャフトに生じるトルクを示す図である。
【図6】コントローラが実行する処理を説明するフローチャートである。
【図7】始動時処理を示すフローチャートである。
【図8】通常運転時処理を示すフローチャートである。
【図9】停止時処理を示すフローチャートである。
【図10】コントローラが実行する始動時処理の動作を示すタイムチャートである。
【図11】可変圧縮比エンジンの第2実施形態を示す概略図である。
【図12】コントローラが実行する処理を説明するフローチャートである。
【図13】始動時処理を示すフローチャートである。
【図14】通常運転時処理を示すフローチャートである。
【図15】アイドル時処理を示すフローチャートである。
【図16】コントローラが実行するアイドル時処理の動作を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0138】
100、400 可変圧縮比エンジン
10 圧縮比可変機構
11 クランクシャフト
12 アッパリンク(第1リンク)
13 ロアリンク(第2リンク)
14 コントロールリンク(第3リンク)
20 シリンダブロック
21 ピストン
23 燃焼室
24 ノックセンサ(ノッキング検出手段)
200 可変動弁装置
30 シリンダヘッド
31 燃料噴射弁
32 吸気ポート
35 吸気バルブ
311 燃料タンク
316 給油検出センサ
317 燃料性状判別装置(含有率検出手段)
41 コントロールシャフト
42 アクチュエータ(駆動手段)
50 コントローラ(圧縮比制御手段)
60 ロック機構
ステップS26 異常判定手段
ステップS28 冷機状態判定手段
ステップS74 加速要求判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの圧縮比を可変制御する圧縮比可変制御装置であって、
前記エンジンの圧縮比を変更する圧縮比可変機構を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段への負荷が小さい運転条件のときに圧縮比を変更する圧縮比制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項2】
前記圧縮比制御手段は、前記エンジン始動時であって燃料噴射及び点火を開始する前のクランキング期間を前記駆動手段への負荷が小さい運転条件とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項3】
前記圧縮比可変機構は、
前記ピストンに揺動自由に連結する第1リンクと、
前記第1リンクに回動自由に連結するとともに、クランクシャフトに回転自由に装着される第2リンクと、
前記クランクシャフトと平行にシリンダブロックに回転自由に支持され、その回転軸心に対して偏心する偏心軸部を有するコントロールシャフトと、
前記第2リンクに連結ピンを介して回転自由に連結されるとともに、前記コントロールシャフトの偏心軸部を揺動軸心として揺動可能な第3リンクとを備え、
前記駆動手段によって前記コントールシャフトを回転制御して圧縮比を変更する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項4】
前記コントロールシャフトは、前記駆動手段への負荷が低圧縮比及び高圧縮比時よりも中間圧縮比時に大きくなるように前記第3リンクと連結する、
ことを特徴とする請求項3に記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項5】
前記圧縮比制御手段は、前記第3リンクのリンク角度が所定の角度範囲外になった場合に燃料噴射及び点火を開始する、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項6】
前記圧縮比制御手段は、前記圧縮比を変更する場合には、圧縮比を保持する場合よりも前記クランキング期間を長く設定する、
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項7】
前記圧縮比制御手段は、前記圧縮比を変更する場合には、圧縮比を保持する場合よりも燃焼開始時間を遅く設定する、
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項8】
前記エンジンの圧縮比を変更する間は吸気量を減少補正する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項9】
前記エンジンの圧縮比を変更する間は吸気量を低下させるように、吸気バルブのリフト特性を変更する可変動弁装置を備える、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項10】
前記エンジン運転中に使用されるガソリンのアルコール含有率を検出する含有率検出手段を備え、
前記圧縮比制御手段は、前記アルコール含有率が高いほどエンジンの圧縮比を高圧縮比に設定する、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比制御装置。
【請求項11】
前記圧縮比制御手段は、前記エンジンが通常運転している場合には圧縮比を同一に保持する、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項12】
前記圧縮比制御手段は、前記エンジンが停止する場合には圧縮比を高圧縮比に設定する、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項13】
前記圧縮比制御手段は、前記エンジンが停止する場合には圧縮比を高圧縮比と低圧縮比との間の中間圧縮比に設定する、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項14】
前記圧縮比制御手段は、アクセルオフ又はスロットルオフである期間を前記駆動手段への負荷が小さい運転条件とする、
ことを特徴とする請求項12に記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項15】
前記エンジンの冷却水温度に基づいて冷機状態にあるか否かを判定する冷機状態判定手段とを備え、
前記圧縮比制御手段は、前記エンジンの暖機後であってアクセルオフ又はスロットルオフである期間を前記駆動手段への負荷が小さい運転条件とする、
ことを特徴とする請求項12に記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項16】
前記エンジンが中間圧縮比で通常運転している場合に圧縮比を中間圧縮比で固定するロック機構と、
前記圧縮比制御手段は、アクセルオフ又はスロットルオフである期間を前記駆動手段への負荷が小さい運転条件とする、
ことを特徴とする請求項13に記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項17】
前記エンジンが中間圧縮比で通常運転している場合に圧縮比を中間圧縮比で固定するロック機構と、
前記エンジンの冷却水温度に基づいて冷機状態にあるか否かを判定する冷機状態判定手段とを備え、
前記圧縮比制御手段は、前記エンジンの暖機後であってアクセルオフ又はスロットルオフである期間を前記駆動手段への負荷が小さい運転条件とする、
ことを特徴とする請求項13に記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項18】
アクセルペダル踏込量に基づいて加速要求があったか否かを判定する加速要求判定手段を備え、
前記可変動弁装置は、前記エンジンのアイドル運転中に圧縮比を変更する間に加速要求があった場合に吸気量を制限する、
ことを特徴とする請求項14から17のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比制御装置。
【請求項19】
前記含有率検出手段の異常を判定する異常判定手段と、
前記エンジンの燃焼室内で生じるノッキングを検出するノッキング検出手段と、
を備え、
前記圧縮比制御手段は、前記含有率検出手段の作動が異常である場合には、前記ノッキング検出手段に基づいて圧縮比を変更する、
ことを特徴とする請求項14から18のいずれか一つに記載のエンジンの圧縮比可変制御装置。
【請求項20】
エンジンの圧縮比を可変制御する圧縮比可変制御方法であって、
前記エンジンの圧縮比を変更する圧縮比可変機構を駆動する駆動工程と、
前記圧縮比可変機構を駆動する駆動手段への負荷が小さい運転条件のときに圧縮比を変更する圧縮比制御工程と、
を備えることを特徴とするエンジンの圧縮比可変制御方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−111375(P2008−111375A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294571(P2006−294571)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】