説明

トランジスタ、半導体装置、半導体装置の製造方法

【課題】 占有面積を拡大することなく特性バラツキの抑制を可能にする半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 低濃度P型の半導体基板1の上層にゲート酸化膜3を形成した後、ゲート酸化膜3上層にP型のゲート電極4を形成する。その後、ゲート酸化膜3及びゲート電極4をマスクとしてN型の不純物イオンを注入することで、N型のソース・ドレイン拡散領域6を複数離間形成する。その後、半導体基板1及びゲート電極4の上層に層間絶縁膜7を形成した後、各ソース・ドレイン拡散領域6及びゲート電極4夫々との電気的接続を確保する複数のコンタクトプラグ8を形成する。その後、所望の閾値電圧となるよう、コンタクトプラグ8を介してソース・ドレイン拡散領域6とゲート電極4の間に所定の高電圧を印加してゲート酸化膜3内に正電荷を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランジスタ、半導体装置、及び半導体装置の製造方法に関し、特にMOSトランジスタの構造及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネル駆動用のドライバICに対する多出力化並びに高品位化の要求が強くなっている。このためドライバICが有する差動回路等に用いられる2個1組のトランジスタ(以下、「ペアトランジスタ」と記載)の性能バラツキに関する問題が顕在化してきている。これを受けて、ペアトランジスタの性能バラツキを低減する手法が、これまでにも種々開発・提案されてきている。
【0003】
例えば、加工面からのバラツキ低減法としては、ダミーゲートを設けることにより粗密によるゲート長バラツキを低減する方法(例えば、特許文献1、2参照)、ダミートランジスタを設けることで性能バラツキを低減する方法(例えば、特許文献3参照)、ゲート加工を複数行う等のエッチング工程の工夫によりゲート寸法バラツキを低減する方法(例えば、特許文献4参照)が既に提案されている。
【0004】
又、製造工程におけるチャージアップ起因の特性バラツキを低減する方法として、チャージアップを抑止するための保護ダイオードを設ける方法(例えば、特許文献5参照)、均一にチャージアップさせることで特性を均一化する方法(例えば、特許文献6、7参照)が既に提案されている。
【0005】
更に、別の方法としては、複数のトランジスタで一のトランジスタを構成することによりバラツキを平均化させて、バラツキの低減を図る方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。特許文献8に記載の方法は、製造時に発生するバラツキ程度を抑制するという方法ではなく、発生したバラツキを平均化することでペアトランジスタ間の特性差を小さくすることによって素子間のバラツキを低減させる方法であり、製造時に発生するバラツキの抑制が困難であるような場合にも利用することができる点で有用な技術である。
【0006】
以下、特許文献8に記載の技術(以下、単に「従来技術」と記載)を、図7を参照して説明する。図7は、従来技術を用いて製造された半導体装置の概略平面図である。又、図8は、ペアトランジスタを用いて構成される回路例として、いわゆる差動増幅回路の回路図を示す。
【0007】
図7に示される半導体装置100は、2つのトランジスタA1とA2により、例えば、図8に示される差動増幅回路150が有する一のペアトランジスタ160の内の一方のトランジスタ160Aを構成し、別の2つのトランジスタB1とB2により、ペアトランジスタ160の内の他方のトランジスタ160Bを構成する。即ち、一対のトランジスタで構成されるトランジスタ(部分ペアトランジスタ)を2個有し、これら2個の部分ペアトランジスタによってペアトランジスタを形成している。尚、以下では、混乱を避けるため、構成単位が最小のトランジスタのみを単に「トランジスタ」と記載し、このトランジスタ2個によってペアトランジスタの一部を構成する構成要素を、「部分ペアトランジスタ」と記載する。即ち、図7によれば、2個のトランジスタにより部分ペアトランジスタが構成され、2個の部分ペアトランジスタによってペアトランジスタが構成されることとなる。
【0008】
図7では、半導体基板上には各トランジスタのドレイン、ソースの各領域を成す活性領域が2行×2列のマトリクス状に設けられている。
【0009】
活性領域117AがトランジスタA1のドレイン拡散領域を形成し、活性領域115AがトランジスタA1のソース拡散領域を形成する。又、活性領域117A’がトランジスタA2のドレイン拡散領域を形成し、活性領域115A’がトランジスタA2のソース拡散領域を形成する。
【0010】
更に、活性領域117BがトランジスタB1のドレイン拡散領域を形成し、活性領域115BがトランジスタB1のソース拡散領域を形成する。又、活性領域117B'がトランジスタB2のドレイン拡散領域を形成し、活性領域115B'がトランジスタB2のソース拡散領域を形成する。
【0011】
そして、トランジスタA1のドレイン拡散領域117AとトランジスタA2のドレイン拡散領域117A’は、互いに配線118Aで接続されており、同様に、トランジスタB1のドレイン拡散領域117BとトランジスタB2のドレイン拡散領域117B'は、互いに配線118Bで接続されている。
【0012】
又、トランジスタA1のソース拡散領域115A、トランジスタA2のドレイン拡散領域115A'、トランジスタB1のソース拡散領域115B、及びトランジスタB2のドレイン拡散領域115B'は、夫々互いに配線116で接続されている。
【0013】
又、トランジスタA1のソース・ドレイン間(117A−115A間)の半導体基板領域の上層には、ゲート酸化膜(例えばSiO膜)を介してゲート電極113Aが形成されている。同様に、トランジスタA2のソース・ドレイン間(117A’−115A’間)の半導体基板領域の上層には、ゲート酸化膜を介してゲート電極113A’が形成されている。
【0014】
更に同様に、トランジスタB1のソース・ドレイン間(117B−115B間)の半導体基板領域の上層には、ゲート酸化膜を介してゲート電極113Bが形成されており、トランジスタB2のソース・ドレイン間(117B'−115B'間)の半導体基板領域112B'の上層には、ゲート酸化膜を介してゲート電極113B'が形成されている。
【0015】
尚、ゲート電極113A及び113A’には配線114Aが、ゲート電極113B及び113B’には配線114Bが、夫々接続されている。
【0016】
各トランジスタA1、A2、B1、B2は、何れも基板上の活性領域内に形成される。即ち、この活性領域の形成時のバラツキにより、各トランジスタのチャネル幅にバラツキが生じる。又、各ゲート電極113A、113A’、113B、113B’の形成時に際し、フォトリソグラフィ時の近接効果やドライエッチング時のローディング効果により各トランジスタのゲート寸法にもバラツキが生じる。これらのバラツキは、製造時において発生するバラツキであり、このバラツキを完全に消滅させることは困難である。従って、この製造時のバラツキに起因して、各トランジスタの電流特性に変動が生じるのは不可避である。
【0017】
しかし、図8に示されるペアトランジスタ160を図7に示される構成によって実現することで、ペアトランジスタ160を構成する各部分ペアトランジスタ160A、160Bが、夫々並列に接続された2個のトランジスタ(A1及びA2、B1及びB2)で構成されるため、前記のようなトランジスタ形成時のバラツキが平均化され、これによって部分ペアトランジスタ160Aと160Bの間の特性バラツキを低減させることができる。
【0018】
尚、図7では、トランジスタを2行×2列のマトリクス状に配置し、紙面上左側のトランジスタ(A1及びA2)を部分ペアトランジスタ160Aとし、紙面右側のトランジスタ(B1及びB2)を部分ペアトランジスタ160Bとしてペアトランジスタ160を構成したが、配置するトランジスタ数や配置方法を変えても同様の効果を得ることができる。
【0019】
【特許文献1】特開2000−208701号公報
【特許文献2】特開平9−148573号公報
【特許文献3】特開2001−274258号公報
【特許文献4】特開2007−066958号公報
【特許文献5】特開2002−141421号公報
【特許文献6】特開2002−050696号公報
【特許文献7】特開2003−037181号公報
【特許文献8】特開2005−086120号公報
【非特許文献1】Tomohisa Mizuno, Jun-ichi Okamura, Akira Toriumi, "Experimental Study of Threshold Voltage Fluctuation Due to Statistical Variation of Channel Dopant Number in MOSFET's", IEEE Electron Devices, Vol.41, No.11, Nov., 1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記特許文献8に記載の方法によれば、ペアトランジスタ間の特性差を小さくすることができるため、上記特許文献1〜7に記載のような方法を用いることで製造時のバラツキを抑制することが困難な場合であってもペアトランジスタを構成する各トランジスタ素子間のバラツキを低減させることができる。
【0021】
しかし、上記特許文献8に記載の方法の場合、複数のトランジスタによって一つの部分ペアトランジスタ、即ちペアトランジスタの内の一方が実現される。このため、差動増幅回路に必要なペアトランジスタを実現するためには、従来よりも多くのトランジスタが必要となり、占有面積が増大してしまう。従って、上記特許文献8に記載の方法は、チップ面積の小さいドライバIC等に利用される差動増幅回路に対して用いることができないという問題がある。
【0022】
本発明は、上記の問題点に鑑み、占有面積を拡大することなく特性バラツキの抑制を可能にする半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。又、本発明は、占有面積の拡大を抑制しながらも特性バラツキの低減が可能なトランジスタ並びに半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するための本発明に係る半導体装置の製造方法は、第1導電型の半導体基板の上層にゲート酸化膜を形成した後、前記ゲート酸化膜の上層に前記第1導電型のゲート電極を形成する第1工程と、前記第1工程終了後、前記ゲート酸化膜及び前記ゲート電極をマスクとして前記第1導電型とは異なる第2導電型の不純物イオンを注入することで、前記第2導電型のソース・ドレイン拡散領域を複数離間形成する第2工程と、前記第2工程終了後、前記半導体基板及び前記ゲート電極の上層に層間絶縁膜を形成した後、前記各ソース・ドレイン拡散領域及び前記ゲート電極夫々との電気的接続を確保する複数のコンタクトプラグを形成する第3工程と、前記第3工程終了後、前記コンタクトプラグを介して前記ソース・ドレイン拡散領域と前記ゲート電極の間に所定の高電圧を印加することで、前記ゲート酸化膜内に正電荷或いは負電荷を注入する第4工程と、を有し、前記半導体基板の不純物濃度が、前記ソース・ドレイン拡散領域と前記ゲート電極とで構成されるトランジスタの閾値電圧が、前記第4工程を行わずに製造された比較用トランジスタと同一の閾値電圧となるように、前記比較用トランジスタを構成する半導体基板よりも低濃度に設定されていることを第1の特徴とする。
【0024】
本発明に係る半導体装置の製造方法の上記第1の特徴によれば、ゲート酸化膜内に電荷を注入することで前記ゲート電極及び前記ソース・ドレイン拡散領域を備えてなるトランジスタの閾値電圧を調整することができる。従って、低濃度にドープされた半導体基板によってチャネル領域を構成してトランジスタ素子を製造した後に、前記第4工程において前記所定の高電圧を印加することで、所望の閾値電圧となるように調整することができる。チャネル濃度が高濃度になると閾値電圧のバラツキ程度が増大することが知られている(下記数1参照)。従って、上記第1の特徴によれば、チャネル領域の濃度を低濃度にしながらも所望の閾値電圧を示すトランジスタを実現することができ、閾値電圧のバラツキを抑制できる。
【0025】
又、従来のようにゲート電極のゲート長を大きくすることなく閾値電圧のバラツキが抑制できるため、占有面積の拡大を抑制しながらも閾値電圧のバラツキが低減された半導体装置を実現することができる。
【0026】
又、本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記第1の特徴に加えて、前記第4工程において、前記ソース・ドレイン拡散領域と前記ゲート電極とで構成されるトランジスタの閾値電圧が予め定められた所望の値となるような条件下で前記高電圧を印加することを第2の特徴とする。
【0027】
又、本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記第1又は第2の特徴に加えて、前記第4工程において、差動増幅回路を構成する対となる1組のトランジスタ夫々の前記ソース・ドレイン拡散領域と前記ゲート電極の間に共通の前記高電圧を印加することを第3の特徴とする。
【0028】
本発明に係る半導体装置の製造方法の上記第3の特徴によれば、閾値電圧のバラツキが抑制されたトランジスタを対として一組備えて差動増幅回路を構成するため、差動増幅回路全体として電気的特性のバラツキが抑制される。更に、前記第4工程において、対となる1組のトランジスタ夫々に対して共通に前記高電圧を印加することで、双方のトランジスタの閾値電圧そのものも同程度の値に設定することができる。従って、対となる1組のトランジスタ夫々の閾値電圧そのものを同程度に値に設定しながらも、閾値電圧のバラツキを抑制することができるため、電気的特性のバラツキが低減された差動増幅回路を実現することができる。
【0029】
又、本発明に係るトランジスタは、第1導電型の半導体基板上に離間して複数形成された前記第1導電型とは異なる第2導電型のソース・ドレイン拡散領域と、離間して形成された前記各ソース・ドレイン拡散領域に挟まれた領域に係る前記半導体基板の上層に形成されたゲート酸化膜と、前記ゲート酸化膜の上層に形成された前記第1導電型のゲート電極と、前記半導体基板及び前記ゲート電極の上層に形成された層間絶縁膜と、前記層間絶縁膜を貫通するように形成され、前記各ソース・ドレイン拡散領域及び前記ゲート電極夫々に対して電気的に接続されたコンタクトプラグと、を備えてなり、前記ゲート酸化膜が、前記第1導電型がP型である場合には1.1×1010〜9×1010個/cmの正電荷を有し、前記第1導電型がN型である場合には同密度範囲の負電荷を有することを第1の特徴とする。
【0030】
本発明に係るトランジスタの上記第1の特徴構成によれば、ゲート酸化膜内に有する正電荷又は負電荷によって閾値電圧が決定されることとなる。従って、低濃度にドープされた半導体基板によってチャネル領域を形成した場合であっても所望の閾値電圧を有するトランジスタが実現できる。チャネル濃度が高濃度になると閾値電圧のバラツキ程度が増大することが知られているところ(下記数1参照)、低濃度にドープされた半導体基板によってチャネル領域を構成し、閾値電圧の調整をゲート酸化膜内に注入する正電荷又は負電荷の量によって行うことで、閾値電圧のバラツキが抑制されたトランジスタを実現することが可能となる。
【0031】
又、上記第1の特徴構成によれば、ゲート電極のゲート長を大きくすることなく、即ち占有面積を拡大することなく閾値電圧のバラツキを抑制できる。
【0032】
又、本発明に係るトランジスタは、上記第1の特徴構成に加えて、前記半導体基板の不純物濃度が5×1014〜5×1016/cmであることを第2の特徴とする。
【0033】
又、本発明に係る半導体装置は、上記特徴構成を有するトランジスタを対となるように1組備えて構成される差動増幅回路を有することを特徴とする。
【0034】
本発明に係る半導体装置の上記特徴構成によれば、特性バラツキが抑制されたトランジスタを一対として備えてなる差動増幅回路を、占有面積の拡大を抑制しながらも実現することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の構成によれば、占有面積を拡大することなく特性バラツキが抑制されたトランジスタ並びに半導体装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下において、本発明に係るトランジスタ及び半導体装置(以下、適宜「本発明装置」と総称する)、並びにその製造方法(以下、適宜「本発明方法」と称する)の実施形態について図面を参照して説明する。
【0037】
図1は、本発明装置の概略断面構造図である。図1に示される本発明装置20は、P型半導体基板1、P型埋め込み拡散層2、ゲート酸化膜3、P型にドープされたゲート電極4、N型ソース・ドレイン拡散領域6、層間絶縁膜7、コンタクトプラグ8、配線層9、パッシベーション膜10を備えて構成される。尚、高濃度不純物層2は、ソース・ドレイン拡散領域6からの空乏層の伸びを抑制して短チャネル効果を抑制するために設けられたものであって、必ずしも必須の構成要素ではない。
【0038】
本発明装置20においては、製造工程時にゲート酸化膜3内に対して予め1.1×1010〜9×1010個/cmの正電荷が注入されている。又、半導体基板1は1×1015/cm程度の不純物濃度で構成されており、半導体基板1の一部領域がチャネル領域を形成する。
【0039】
本発明装置(トランジスタ)20の構成によれば、製造工程時にゲート酸化膜3に対して電荷注入処理を行うため、チャネル領域内の不純物濃度をある程度低下させても、所望の閾値電圧となるように設定することができる。
【0040】
ここで、上記非特許文献1によれば、閾値電圧Vthのバラツキσ(Vth)は、ゲート酸化膜3の膜厚をTox、チャネル濃度をNa、ゲート電極4のゲート長をL、ゲート電極4のゲート幅をWとすると、以下の(数1)で表される。尚、kは定数である。
【0041】
【数1】



【0042】
即ち、(数1)によれば、チャネル濃度Naを低くすることで、バラツキσ(Vth)の値を小さくすることができる。一方で、チャネル濃度Naは閾値電圧Vthそのものにも影響を与える。従って、所望の閾値電圧Vthを実現させるためにはチャネル濃度Naをある一定の濃度よりも低下させることができなかった。
【0043】
しかし、本発明装置20のように、製造工程時にゲート酸化膜3内に電荷を注入することで、その注入量によって閾値電圧Vthを調整することが可能となる。このため、ゲート酸化膜3内に電荷を注入しない従来の構成よりもチャネル濃度Naを低くすることができる。よって、(数1)に示すとおり、閾値電圧のバラツキσ(Vth)を低くすることができる。
【0044】
更に、本発明装置(トランジスタ)を一対として備える(20a、20b)ことで差動増幅回路30を構成する場合(図2参照)、各トランジスタ(20a、20b)に対して共通の条件でゲート酸化膜3内に電荷を注入することで、両トランジスタの閾値電圧のバラツキσ(Vth)を抑制しつつ、同程度の閾値電圧Vthに設定することができる。
【0045】
即ち、本発明装置20によれば、閾値電圧のバラツキを抑制しながらも、所望の閾値電圧を示すトランジスタを実現することができる。従って、このようなトランジスタを一対(20a、20b)備えることで、閾値電圧のバラツキが抑制された差動増幅回路21を実現することができる。特に、図7に示すように、複数のトランジスタによって一のトランジスタを構成する必要がないため、占有面積の拡大を抑制しながら閾値電圧のバラツキの抑制が可能となる。
【0046】
以下、図面を参照して本発明装置20の製造方法について説明する。図3は、本発明方法を用いて本発明装置20を製造する際の製造工程を示す概略の工程断面図であり、工程毎に図3(a)〜(g)に分けて図示している。又、図4は、本実施形態に係る本発明方法の製造工程をフローチャートにしたものであり、以下の文中の各ステップは図4に示されるフローチャートの各ステップを表すものとする。
【0047】
まず、図3(a)に示すように、P型半導体基板1にP型イオン(例えばBイオン)を注入エネルギ100〜150keVでドーズ量1×1013〜5×1013/cm、及び注入エネルギ50〜100keVでドーズ量1×1012〜5×1012/cmでイオン注入を行って、埋め込み拡散層2を形成する(ステップ#1)。図5は、ステップ#1に係るイオン注入処理終了後の深さ方向に対する不純物濃度分布を示すグラフである。図5に示すように、特に深さ0.3μm付近において高濃度層が形成され、これによって後の工程で形成されるソース・ドレイン拡散領域6の空乏層の伸びを抑制し、短チャネル効果の発生を防止することができる。
【0048】
次に、図3(b)に示すように、基板表面を酸化して膜厚5〜10nm程度の酸化膜3を成膜した後(ステップ#2)、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によりポリシリコン膜4を膜厚100〜300nm程度成膜する(ステップ#3)。その後、図3(c)に示すように、P型イオン(例えばBイオン)を注入エネルギ10〜50keVでドーズ量1×1015〜1×1016/cmの条件下でイオン注入を行って、ポリシリコン膜4をP型にドープする(ステップ#4)。
【0049】
次に、図3(d)に示すように、公知のフォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いてパターニング処理を行い、ゲート酸化膜3及びゲート電極4を形成する(ステップ#5)。例えばゲート長が0.2〜0.4μmとなるようにゲート電極4を形成する。
【0050】
次に、図3(e)に示すように、ゲート電極4をマスクとしてN型イオン(例えばAsイオン)を注入エネルギ10〜50keVでドーズ量1×1015〜1×1016/cm程度でイオン注入を行って、ソース・ドレイン拡散領域6を形成する(ステップ#6)。
【0051】
次に、図3(f)に示すように、公知の方法で層間絶縁膜7を成膜した後、ゲート電極4の一部上面とソース・ドレイン拡散領域6の一部上面に電気的に接続するようにコンタクトプラグ8を形成する(ステップ#7)。その後、配線層9を形成した後、全面にパッシベーション膜10を成膜する(ステップ#8)。ステップ#1〜#8を経て、NチャネルMOSトランジスタが製造される。
【0052】
そして、ステップ#8の終了後、図3(g)に示すように、各配線層9を介してゲート電極4とソース・ドレイン拡散領域6の間に高電圧を印加する(ステップ#9)。一例としては、ゲート電極4に印加する電圧Vg=0V、ソース拡散領域に印加する電圧Vs=6.5V、ドレイン拡散領域に印加する電圧Vd=6.5V程度とし、更に半導体基板1に対しても電圧Vsub=6.5Vを印加する。このような電圧状態とすることで、ゲート電極4とソース・ドレイン拡散領域6の間に5〜10MV/cm程度の高電界が生じる。このような電界状態を30分程度維持することで、ゲート酸化膜3内に正の固定電荷を1.1×1010〜9×1010個/cm注入する。
【0053】
図6は、ステップ#9に係る電圧印加処理における電圧印加時間と閾値電圧Vthの変動量(ΔVth)の関係をグラフにしたものである。印加時間を長くすることにより閾値電圧Vthを大きく変動させることができる。即ち、ステップ#9において印加時間を適宜設定して閾値電圧を調整することで、所望の閾値電圧Vthを実現させることができる。更に、印加電圧は、ゲート酸化膜3の膜厚や半導体基板1の不純物濃度等の形成条件によって適宜変更するものとして良い。
【0054】
ステップ#1〜#9に係る工程を経て製造されたトランジスタによれば、ゲート電極4のゲート長を大きくすることなく閾値電圧Vthのバラツキを抑制することができる。従来方法の下で、ゲート電極4のゲート長L=0.3μm、ゲート電極4のゲート幅W=10μm、チャネル濃度Na=5×1017/cm、ゲート酸化膜3の膜厚Tox=7nmの条件で製造した場合、閾値電圧Vth=0.63V程度を示す。これに対し、本発明方法によれば、ステップ#9に係る電圧印加処理を行うことにより、同サイズのゲート電極4、ゲート酸化膜3の下で、半導体基板1と同様の不純物濃度であるチャネル濃度Na=1×1015/cmの条件で製造しても同程度(0.63V)の閾値電圧Vthを示す半導体装置20を実現することができる。尚、電圧印加処理を行わない場合には、チャネル濃度Na=1×1015/cmで製造された半導体装置20の閾値電圧はVth=0.92V程度と高くなる。
【0055】
即ち、ステップ#9に係る電圧印加処理を行うことによって、従来と比べて低濃度(5×10〜5×10/cm)のチャネル濃度Naの下でも所望の閾値電圧を示す半導体装置20を実現することが可能となる。これにより、上記(数1)より閾値電圧Vthのバラツキσ(Vth)の値を小さくすることができる。従って、ゲート電極長を大きくすることなくバラツキσ(Vth)の値を小さくできるため、占有面積を拡大することなくバラツキが抑制された半導体装置を実現できる。上記数値例の下で製造した場合には、バラツキσ(Vth)の大きさを(1×1015/5×10171/4≒0.21倍に抑制することができる。
【0056】
尚、上記条件で半導体装置20を製造した場合、即ち、ゲート酸化膜3の面積S=L・W=(0.3×10−6)(10×10−6)=3×10−12〔m〕=3×10−8〔cm〕、面積密度d=1.1×1010〜9×1010〔個/cm〕の条件下でゲート酸化膜3内に正の固定電荷を注入した場合には、ゲート酸化膜3内にS・d=3.3×10〜2.7×10〔個〕の固定電荷が存在することとなる。
【0057】
特に、本発明の場合、ゲート電極2とソース・ドレイン拡散領域6の間に高電圧を所定時間印加するのみで良いため、追加的に複雑な工程を必要とするものではない。更に、従来の製造方法と組み合わせて用いることができるため、閾値電圧のバラツキ抑制方法として汎用性が高く有用である。
【0058】
尚、図2に示すように、本発明方法を用いて製造したトランジスタを一対備えることで差動増幅回路を構成する場合には、ステップ#9において、両トランジスタ(20a、20b)に対して同一の電圧条件の下で電圧印加を行うことが好ましい。このようにすることで、一対のトランジスタの双方に対して閾値電圧のバラツキ程度を同程度に抑制することができると共に、その閾値電圧を同程度に設定することができる。
【0059】
又、上述の実施形態では、NチャネルMOSトランジスタの場合を例に挙げて説明を行ったが、PチャネルMOSトランジスタの場合においても不純物の導電型並びに印加電圧の各極性を反転させることで同様に実現することが可能である。即ち、上記実施形態のように、低濃度の半導体基板によってチャネル領域を形成する場合においては、ステップ#9においてソース・ドレイン拡散領域6に対してゲート電極4の電位が十分高くなるように電圧を印加して、ゲート酸化膜3に対して負電荷を注入すれば良い。これによって、PチャネルMOSトランジスタの場合も、チャネル領域の濃度を低濃度にしつつ所望の閾値電圧に設定することができ、これによって閾値電圧のバラツキを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る半導体装置の概略断面構造図
【図2】本発明に係る半導体装置を備えた差動増幅回路の回路ブロック図
【図3】本発明方法を用いて半導体装置を製造する際の製造工程を示す概略の工程断面図
【図4】本発明方法を用いて半導体装置を製造する際の製造工程を工程順に示すフローチャート
【図5】本発明方法の一工程であるイオン注入処理終了後の深さ方向に対する不純物濃度分布を示すグラフ
【図6】本発明方法の一工程である電圧印加処理における電圧印加時間と閾値電圧の変動量の関係を示すグラフ
【図7】従来のバラツキ抑制技術を用いて製造された半導体装置の概略平面図
【図8】従来の差動増幅回路の回路ブロック図
【符号の説明】
【0061】
1: 半導体基板
2: 埋め込み拡散層
3: ゲート酸化膜
4: ゲート電極
6: ソース・ドレイン拡散領域
7: 層間絶縁膜
8: コンタクトプラグ
9: 配線層
10: パッシベーション膜
20(20a、20b): 本発明に係る半導体装置
30: 差動増幅回路
100: 従来技術により製造された半導体装置
113A,113A’,113B,113B’: ゲート電極
114A,114B: 配線
115A,115A’,115B,115B’: ソース拡散領域
116: 配線
117A,117A’,117B,117B’: ドレイン拡散領域
118A,118B: 配線
150: 差動増幅回路
160: ペアトランジスタ
160A、160B: ペアトランジスタを構成する一のトランジスタ
A1、A2、B1、B2: トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板の上層にゲート酸化膜を形成した後、前記ゲート酸化膜の上層に前記第1導電型のゲート電極を形成する第1工程と、
前記第1工程終了後、前記ゲート酸化膜及び前記ゲート電極をマスクとして前記第1導電型とは異なる第2導電型の不純物イオンを注入することで、前記第2導電型のソース・ドレイン拡散領域を複数離間形成する第2工程と、
前記第2工程終了後、前記半導体基板及び前記ゲート電極の上層に層間絶縁膜を形成した後、前記各ソース・ドレイン拡散領域及び前記ゲート電極夫々との電気的接続を確保する複数のコンタクトプラグを形成する第3工程と、
前記第3工程終了後、前記コンタクトプラグを介して前記ソース・ドレイン拡散領域と前記ゲート電極の間に所定の高電圧を印加することで、前記ゲート酸化膜内に、前記第1導電型がP型である場合には正電荷を、前記第1導電型がN型である場合には負電荷を注入する第4工程と、を有し、
前記半導体基板の不純物濃度が、
前記ソース・ドレイン拡散領域と前記ゲート電極とで構成されるトランジスタの閾値電圧が、前記第4工程を行わずに製造された比較用トランジスタと同一の閾値電圧となるように、前記比較用トランジスタを構成する半導体基板よりも低濃度に設定されていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第4工程において、
前記ソース・ドレイン拡散領域と前記ゲート電極とで構成されるトランジスタの閾値電圧が予め定められた所望の値となるような条件下で前記高電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第4工程において、
差動増幅回路を構成する対となる1組のトランジスタ夫々の前記ソース・ドレイン拡散領域と前記ゲート電極の間に共通の前記高電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
第1導電型の半導体基板上に離間して複数形成された前記第1導電型とは異なる第2導電型のソース・ドレイン拡散領域と、
離間して形成された前記各ソース・ドレイン拡散領域に挟まれた領域に係る前記半導体基板の上層に形成されたゲート酸化膜と、
前記ゲート酸化膜の上層に形成された前記第1導電型のゲート電極と、
前記半導体基板及び前記ゲート電極の上層に形成された層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜を貫通するように形成され、前記各ソース・ドレイン拡散領域及び前記ゲート電極夫々に対して電気的に接続されたコンタクトプラグと、を備えてなり、
前記ゲート酸化膜が、
前記第1導電型がP型である場合には1.1×1010〜9×1010個/cmの正電荷を有し、前記第1導電型がN型である場合には同密度範囲の負電荷を有することを特徴とするトランジスタ。
【請求項5】
前記半導体基板の不純物濃度が5×1014〜5×1016/cmであることを特徴とする請求項4に記載のトランジスタ。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のトランジスタを対となるように1組備えて構成される差動増幅回路を有することを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−170472(P2009−170472A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3706(P2008−3706)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】