トンネル型磁気検出素子
【課題】 特に、従来に比べて、RAや抵抗変化率(ΔR/R)の変動を小さく抑え、且つ、層間結合磁界Hinを小さくすることが可能なトンネル型磁気検出素子を提供することを目的としている。
【解決手段】 第1固定磁性層4aは、Taで形成された第1挿入層4a2が下側強磁性層4a1と上側強磁性層4a3との間に介在する積層構造で形成されている。前記第1挿入層4a2の平均膜厚は3Åよりも大きく6Å以下である。これにより、前記第1挿入層4a2を有しない従来と同様のRA及び抵抗変化率(ΔR/R)を維持しつつ、層間結合磁界Hinを従来よりも低減できる。
【解決手段】 第1固定磁性層4aは、Taで形成された第1挿入層4a2が下側強磁性層4a1と上側強磁性層4a3との間に介在する積層構造で形成されている。前記第1挿入層4a2の平均膜厚は3Åよりも大きく6Å以下である。これにより、前記第1挿入層4a2を有しない従来と同様のRA及び抵抗変化率(ΔR/R)を維持しつつ、層間結合磁界Hinを従来よりも低減できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスク装置やその他の磁気検出装置に搭載されるトンネル効果を利用した磁気検出素子に係り、特に、RAや抵抗変化率(ΔR/R)の変動を小さく抑えることができ、且つ層間結合磁界Hinを小さくすることが可能なトンネル型磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル型磁気検出素子(TMR素子)は、トンネル効果を利用して抵抗変化するものであり、固定磁性層の磁化と、フリー磁性層の磁化とが反平行のとき、前記固定磁性層とフリー磁性層との間に設けられた絶縁障壁層(トンネル障壁層)を介してトンネル電流が流れにくくなって、抵抗値は最大になり、一方、前記固定磁性層の磁化とフリー磁性層の磁化が平行のとき、最も前記トンネル電流は流れ易くなり抵抗値は最小になる。
【0003】
この原理を利用して、外部磁界の影響を受けてフリー磁性層の磁化が変動することにより変化する電気抵抗を電圧変化としてとらえ、記録媒体からの漏れ磁界が検出されるようになっている。
【特許文献1】特開2005―286340号公報
【特許文献2】特開2005−260226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記フリー磁性層と前記固定磁性層との間には層間結合磁界Hinが作用する。前記層間結合磁界Hinが大きくなると、フリー磁性層の磁気感度が低下したり、磁気ヘッドとして動作させる際に波形の非対称性(アシンメトリー)が増大する。したがって前記層間結合磁界Hinは小さくなるように調整される。
【0005】
例えば、前記絶縁障壁層を構成する金属層に対して酸化処理する際、酸化を強めることで前記層間結合磁界Hinを低減することが可能であった。
【0006】
しかしながら上記手法を用いた場合、トンネル型磁気検出素子のRA(抵抗値R×素子面積A)が大きくなるといった問題があった。このとき、前記RAを所定範囲内に収めるには、例えばトンネル型磁気検出素子の素子ハイト長さ(MRh)の設計値を変更しなければならなかった。
【0007】
しかし、素子ハイト長さの変更は、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを増大させたり、SN比が低減する等、適切に高記録密度化に対応できない結果を招いた。
【0008】
よって素子設計値を変更することなしに、前記RAの変動を小さく抑えつつ、前記層間結合磁界Hinを低減したい。またこのとき抵抗変化率(ΔR/R)の変動も小さく抑えたい。
【0009】
上記に挙げた特許文献1に記載された発明では、トンネル型磁気検出素子の第1ピンド層や第2ピンド層にCu層あるいはTa層を挿入している。ただしCu層やTa層を挿入する理由が明らかではない。いずれにしても特許文献1は、フリー磁性層上に設けられた縦バイアス層から安定して交換バイアス磁界を前記フリー磁性層に付与するための発明である。
【0010】
特許文献2に記載された発明は、トンネル型磁気検出素子について記載されていない。特許文献2には、上部ピンド層内に、界面散乱を増加させるための挿入層が設けられている。
【0011】
そして、上記特許文献1及び特許文献2には、上記したトンネル型磁気検出素子における課題認識がない。すなわち特許文献1及び特許文献2には、上記した課題に対する解決手段は何ら示されていない。
【0012】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、従来に比べて、RAや抵抗変化率(ΔR/R)の変動を小さく抑えることができ、且つ、層間結合磁界Hinを小さくすることが可能なトンネル型磁気検出素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のトンネル型磁気検出素子は、
下から下部磁性層、絶縁障壁層、上部磁性層の順で積層され、前記下部磁性層及び前記上部磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記下部磁性層は、下から第1磁性層、非磁性中間層及び第2磁性層の順に積層された積層フェリ構造であり、
前記第1磁性層は、非磁性金属材料で形成された少なくとも一層の第1挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第1挿入層は、3Åよりも大きく6Å以下の平均膜厚で形成されることを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、前記第1挿入層を設けることで、前記第1挿入層が設けられていない従来構造と同様のRA及び抵抗変化率(ΔR/R)を維持しつつ、層間結合磁界Hinを前記従来構造よりも低減できる。さらに本発明では、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを抑制でき、SN比を改善でき、高記録密度化に適切に対応可能である。
【0015】
本発明では、前記第1挿入層は4Å以上で5Å以下の平均膜厚で形成されることが、RAの変動を小さく抑えることが出来るとともに、より効果的に層間結合磁界Hinを低減でき好適である。
【0016】
また本発明では、前記第1挿入層が一層だけ設けられ、前記第1挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第1挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第1挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第1挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第1挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚いことが好ましい。これにより、前記第1挿入層を前記絶縁障壁層から遠ざけることが出来、前記絶縁障壁層に対するTaの影響を弱めることが出来る。
【0017】
本発明では、前記第1挿入層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成されることが好ましい。
【0018】
また本発明のトンネル型磁気検出素子は、下から下部磁性層、絶縁障壁層、上部磁性層の順で積層され、前記下部磁性層及び前記上部磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記下部磁性層は、下から第1磁性層、非磁性中間層及び第2磁性層の順に積層された積層フェリ構造であり、
前記第2磁性層は、Taで形成された少なくとも一層の第2挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第2挿入層は、1Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成されることを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、前記第2挿入層が設けられていない従来構造と同様のRA及び抵抗変化率(ΔR/R)を維持しつつ、層間結合磁界Hinを前記従来構造よりも低減できる。さらに本発明では、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを抑制でき、SN比を改善でき、高記録密度化に適切に対応可能である。
【0020】
また本発明では、前記第2挿入層が一層だけ設けられ、前記第2挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第2挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第2挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第2挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第2挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚いことが好ましい。これにより、前記第2挿入層を前記絶縁障壁層から遠ざけることが出来、前記絶縁障壁層に対するTaの影響を弱めることが出来る。
【0021】
また本発明では、前記第1磁性層は、非磁性金属材料で形成された少なくとも一層の第3挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第3挿入層は、1Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成されることが好ましい。前記第3挿入層を設けることで、RAを、より前記従来構造のRAに近づけることができ、RAの変動を小さく出来る。
【0022】
また本発明では、前記第3挿入層が一層だけ設けられ、前記第3挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第3挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第3挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第3挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第3挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚いことが好ましい。
【0023】
また前記第3挿入層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成されることが好ましい。
【0024】
また本発明では、前記第2挿入層、あるいは、前記第2挿入層及び前記第3挿入層は、2Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成されることが好ましい。これにより、RAの変動を小さく抑えることが出来ると共に、より効果的に層間結合磁界Hinを低減でき好適である。
【0025】
本発明では、前記絶縁障壁層は、Ti−Mg−O,Ti−O,あるいは、Al−Oのいずれかで形成されることが好ましい。
【0026】
本発明では、前記下部磁性層は、前記固定磁性層であり、前記上部磁性層は前記フリー磁性層であることが好ましい。このとき、前記強磁性層はCo−Feで、第1挿入層及び第3挿入層はTaであり、前記第1磁性層、あるいは、前記第2磁性層、又は、前記第1磁性層及び前記第2磁性層は、Co−Fe/Ta/Co−Feの積層構造で形成されることが好ましい。これにより前記第1磁性層と第2磁性層との間で作用するRKKY相互作用を大きくでき、前記第1磁性層及び第2磁性層の各磁化を反平行に適切に固定することが出来る。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトンネル型磁気検出素子は、従来に比べて、RA及び抵抗変化率(ΔR/R)の変動を小さく抑え、且つ、層間結合磁界Hinを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は本実施形態のトンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図である。
【0029】
トンネル型磁気検出素子は、例えば、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、磁気記録媒体からの漏れ磁界(記録磁界)を検出するものである。なお、図中においてX方向は、トラック幅方向、Y方向は、磁気記録媒体からの漏れ磁界の方向(ハイト方向)、Z方向は、磁気記録媒体の移動方向及び前記トンネル型磁気検出素子の各層の積層方向、である。
【0030】
図1の最も下に形成されているのは、例えばNi−Feで形成された下部シールド層21である。前記下部シールド層21上に積層体T1が形成されている。なお前記トンネル型磁気検出素子は、前記積層体T1と、前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側に形成された下側絶縁層22、ハードバイアス層23、上側絶縁層24とで構成される。
【0031】
前記積層体T1の最下層は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の元素の非磁性元素で形成された下地層1である。この下地層1の上に、シード層2が設けられる。前記シード層2は、Ni−Fe−CrまたはCrによって形成される。なお、前記下地層1は形成されなくともよい。
【0032】
前記シード層2の上に形成された反強磁性層3は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。
【0033】
また前記反強磁性層3は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されてもよい。
【0034】
前記反強磁性層3は例えばIr−Mnで形成される。
前記反強磁性層3上には固定磁性層(下部磁性層)4が形成されている。前記固定磁性層4は、下から第1固定磁性層(第1磁性層)4a、非磁性中間層4b、第2固定磁性層(第2磁性層)4cの順で積層された積層フェリ構造である。前記反強磁性層3との界面での交換結合磁界及び非磁性中間層4bを介した反強磁性的交換結合磁界(RKKY的相互作用)により前記第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cの磁化方向は互いに反平行状態にされる。前記固定磁性層4を積層フェリ構造で形成することにより前記固定磁性層4の磁化を安定した状態にできる。また前記固定磁性層4と反強磁性層3との界面で発生する交換結合磁界を見かけ上大きくすることができる。なお前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cは例えば12〜40Å程度で形成され、非磁性中間層4bは8Å〜10Å程度で形成される。
【0035】
前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cはCo−Fe、Ni−Fe,Co−Fe−Niなどの強磁性材料で形成されている。また非磁性中間層4bは、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuなどの非磁性導電材料で形成される。
【0036】
前記固定磁性層4上に形成された絶縁障壁層5は、Ti−Mg−O(酸化チタン・マグネシウム)で形成されている。Tiの組成比とMgの組成比をあわせて100at%としたときに、Mgは、4at%以上で20at%以下含まれることが好適である。これにより、効果的に抵抗変化率(ΔR/R)を高く出来る。
【0037】
前記絶縁障壁層5上には、フリー磁性層(上部磁性層)6が形成されている。前記フリー磁性層6は、NiFe合金等の磁性材料で形成される軟磁性層6bと、前記軟磁性層6bと前記絶縁障壁層5との間に例えばCo−Fe合金からなるエンハンス層6aとで構成される。前記軟磁性層6bは、軟磁気特性に優れた磁性材料で形成されることが好ましい。前記エンハンス層6aは、前記軟磁性層6bよりもスピン分極率の大きい磁性材料で形成されることが好ましい。前記エンハンス層6aを、Co−Fe合金等のスピン分極率の大きい磁性材料で形成することで、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0038】
なお前記フリー磁性層6は、複数の磁性層が非磁性中間層を介して積層された積層フェリ構造であってもよい。また前記フリー磁性層6のトラック幅方向(図示X方向)の幅寸法でトラック幅Twが決められる。
前記フリー磁性層6上にはTa等で形成された保護層7が形成されている。
【0039】
前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)における両側端面11,11は、下側から上側に向けて徐々に前記トラック幅方向の幅寸法が小さくなるように傾斜面で形成されている。
【0040】
図1に示すように、前記積層体T1の両側に広がる下部シールド層21上から前記積層体T1の両側端面11上にかけて下側絶縁層22が形成され、前記下側絶縁層22上にハードバイアス層23が形成され、さらに前記ハードバイアス層23上に上側絶縁層24が形成されている。
【0041】
前記下側絶縁層22と前記ハードバイアス層23間にバイアス下地層(図示しない)が形成されていてもよい。前記バイアス下地層は例えばCr、W、Tiで形成される。
【0042】
前記絶縁層22,24はAl2O3やSiO2等の絶縁材料で形成されている。前記絶縁層22,24は、前記積層体T1内を各層の界面と垂直方向に流れる電流が、前記積層体T1のトラック幅方向の両側に分流するのを抑制すべく前記ハードバイアス層23の上下を絶縁するものである。前記ハードバイアス層23は例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金などで形成される。
【0043】
前記積層体T1上及び上側絶縁層24上にはNiFe合金等で形成された上部シールド層26が形成されている。
【0044】
図1に示す実施形態では、前記下部シールド層21及び上部シールド層26が前記積層体T1に対する電極層として機能し、前記積層体T1の各層の膜面に対し垂直方向(図示Z方向と平行な方向)に電流が流される。
【0045】
前記フリー磁性層6は、前記ハードバイアス層23からのバイアス磁界を受けてトラック幅方向(図示X方向)と平行な方向に磁化されている。一方、固定磁性層4を構成する第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cはハイト方向(図示Y方向)と平行な方向に磁化されている。前記固定磁性層4は積層フェリ構造であるため、第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cはそれぞれ反平行に磁化されている。前記固定磁性層4の磁化は固定されている(外部磁界によって磁化変動しない)が、前記フリー磁性層6の磁化は外部磁界により変動する。
【0046】
前記フリー磁性層6が、外部磁界により磁化変動すると、第2固定磁性層4cとフリー磁性層との磁化が反平行のとき、前記第2固定磁性層4cとフリー磁性層6との間に設けられた絶縁障壁層5を介してトンネル電流が流れにくくなって、抵抗値は最大になる。一方、前記第2固定磁性層4cとフリー磁性層6との磁化が平行のとき、最も前記トンネル電流は流れ易くなり抵抗値は最小になる。
【0047】
この原理を利用して、外部磁界の影響を受けてフリー磁性層6の磁化が変動することにより変化する電気抵抗を電圧変化としてとらえ、磁気記録媒体からの洩れ磁界が検出されるようになっている。
【0048】
本実施形態におけるトンネル型磁気検出素子の特徴的部分について以下に説明する。図2ないし図4は、図1に示すトンネル型磁気抵抗効果素子の固定磁性層4の部分を拡大した拡大断面図である。
【0049】
図2に示すように、前記第1固定磁性層4aは、下から下側強磁性層4a1、第1挿入層4a2及び上側強磁性層4a3の順に積層形成されている。前記第1挿入層4a2は非磁性金属材料で形成される。前記第1挿入層4a2の平均膜厚は3Åより大きく6Å以下である。なお図2の実施形態では、前記第2固定磁性層4cが単層構造である。前記第1挿入層4a2は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成されることが好適である。前記第1挿入層4a2はTaで形成されることがより好ましい。
【0050】
このように図2の実施形態では、前記第1固定磁性層4aは、Taで形成された第1挿入層4a2が、2つの強磁性層4a1,4a3の間に介在する構造となっている。これにより、前記第1挿入層4a2上の上側強磁性層4a3、第2固定磁性層4c及びフリー磁性層6の各磁性層の結晶配向性が改善されたと考えられる。また前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cの上面の平坦性は改善され、その結果、前記第2固定磁性層4cと絶縁障壁層5間の界面の平坦性、及び前記絶縁障壁層5とフリー磁性層6間の界面の平坦性が改善されたと考えられる。
【0051】
したがって本実施形態では、前記固定磁性層4と前記フリー磁性層6との間に作用する層間結合磁界Hinを、前記第1挿入層4a2を有さない従来構造に比べて効果的に低減できる。
【0052】
また図2に示すトンネル型磁気検出素子は、前記第1挿入層4a2の平均膜厚を3Åより大きく6Å以下としたことで、前記第1挿入層4a2を有さない従来構造と同様のRA(素子抵抗R×素子面積A)、及び抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが可能である。
【0053】
さらに本実施形態では、例えばRAの改善のために素子設計値を変更する必要がない。しかも、上記した平坦性の改善、及び磁性層の結晶配向性の改善に加えて、反強磁性層3に含まれるMnが前記絶縁障壁層5にまで拡散するのを前記第1挿入層4a2を設けることで抑制できると考えられる。このような要因からSN比を改善でき、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを抑制できる。よって本実施形態のトンネル型磁気検出素子は、高記録密度化に適切に対応可能である。
【0054】
上記したようにTaから成る第1挿入層4a2の平均膜厚は3Åより大きく6Å以下である。前記第1挿入層4a2の平均膜厚が3Å以下であると、層間結合磁界Hinの低減効果を期待できない。一方、前記第1挿入層4a2の平均膜厚が6Åより厚くなると、前記下側強磁性層4a1と前記上側強磁性層4a3間の磁気的結合が分断されやすくなる。そして抵抗変化率(ΔR/R)が大きく低下してしまう。またRAも大きくなる傾向にある。よって前記第1挿入層4a2の平均膜厚は3Åより大きく6Å以下で規定される。
【0055】
また前記第1挿入層4a2の平均膜厚は4Å以上で5Å以下であることが好ましい。これにより、RAの変動を小さく、且つ、効果的に、層間結合磁界Hinを小さくできる。
【0056】
上記のように前記第1挿入層4a2の平均膜厚は非常に薄い。よって、第1挿入層4a2は、図2のように、一定膜厚で形成されず、前記下側強磁性層4a1上に間欠的に形成されてもよい。また前記第1挿入層4a2が間欠的に形成されることで、下側強磁性層4a1と上側強磁性層4a3との磁気的結合力が強まり、固定磁性層4の磁化固定力を強めることが出来る。また前記第1挿入層4a2の平均膜厚とは、前記第1挿入層4a2を、前記下側強磁性層4a1上の全域に一律の膜厚に均したときの膜厚を意味するから、前記第1挿入層4a2が、前記下側強磁性層4a1上に間欠的に形成される場合、前記第1挿入層4a2が、前記下側強磁性層4a1上に形成されていない箇所(ピンホール部分)も含めて「平均膜厚」は規定される。
【0057】
前記第1挿入層4a2は、前記第1固定磁性層4aの中で、前記反強磁性層3寄りに形成されていることが好ましい。したがって上側強磁性層4a3は、下側強磁性層4a1よりも厚い膜厚で形成される。これにより、前記第1挿入層4a2は前記絶縁障壁層5から遠ざかる。その結果、Taの絶縁障壁層5への影響力は弱まる。例えばTaの前記絶縁障壁層5内への拡散量が減る。よって、高い抵抗変化率(ΔR/R)を維持することが可能である。ただし、前記下側強磁性層4a1及び上側強磁性層4a3は共に10Å以上の膜厚であることが好ましい。一例を示すと、前記下側強磁性層4a1は12Åの膜厚で、第1挿入層4a2は4Åの膜厚で、上側強磁性層4a3は14Åの膜厚で形成される。
【0058】
前記下側強磁性層4a1及び上側強磁性層4a3は、夫々、同じ強磁性材料で形成されてもよいが、異なる強磁性材料で形成されてもよい。例えば前記下側強磁性層4a1及び上側強磁性層4a3は、共に、Co−Feで形成されることが好適である。すなわち、第1固定磁性層4aは、Co−Fe/Ta/Co−Feの積層構造であることが好適である。このとき、第2固定磁性層4cもCo−Fe合金で形成されることが好適である。これにより、前記第2固定磁性層4cと第1固定磁性層4a間で生じるRKKY的相互作用を強めることができ、また第1固定磁性層4aと前記反強磁性層3との間で生じる交換結合磁界(Hex)を大きくすることが出来る。その結果、前記固定磁性層4の磁化固定力を強めることが出来る。
【0059】
また本実施形態では、第1固定磁性層4a内に非磁性金属材料の第1挿入層4a2を挿入したことで、前記第1挿入層4a2上の上側強磁性層4a3、及び第2固定磁性層4cを、効果的に、膜面(X―Y平面)と平行な方向に、代表的に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向した面心立方構造(fcc構造)で形成できる。
【0060】
本実施形態では前記絶縁障壁層5はTi−Mg−O以外に、Ti−O(酸化チタン)、あるいは、Al−O(酸化アルミニウム)であってもよい。
【0061】
図3では、前記第2固定磁性層4cが、下から、下側強磁性層4c1、第2挿入層4c2、上側強磁性層4c3の順に積層された構造となっている。なお図3の実施形態では前記第1固定磁性層4aが単層構造となっている。
【0062】
前記第2挿入層4c2はTaで形成される。また前記第2挿入層4c2の平均膜厚は1Å以上で3Å以下である。
【0063】
このように本実施形態では、第2固定磁性層4cは、Taで形成された第2挿入層4c2が2つの強磁性層4c1,4c3の間に介在する構造で形成される。これにより、前記第2挿入層4c2上の上側強磁性層4c3及びフリー磁性層6の各磁性層の結晶配向性が改善されたと考えられる。また前記第2固定磁性層4cの上面の平坦性は改善され、その結果、前記第2固定磁性層4cと絶縁障壁層5間の界面の平坦性、及び前記絶縁障壁層5とフリー磁性層6間の界面の平坦性が改善されたと考えられる。
【0064】
したがって本実施形態では、前記固定磁性層4と前記フリー磁性層6との間に作用する層間結合磁界Hinを、前記第1挿入層4a2を有さない従来構造に比べて効果的に低減できる。
【0065】
また図3に示すトンネル型磁気抵抗効果素子は、前記第2挿入層4c2を有さない従来構造と同様のRA(素子抵抗R×素子面積A)、及び抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが可能である。
【0066】
さらに本実施形態では、例えばRAの改善のために素子設計値を変更する必要がない。しかも、上記した平坦性の改善、及び磁性層の結晶配向性の改善に加えて、反強磁性層3に含まれるMnが前記絶縁障壁層5にまで拡散するのを前記第2挿入層4c2を設けることで抑制できると考えられる。このような要因からSN比を改善でき、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを抑制できる。よって本実施形態のトンネル型磁気検出素子は、高記録密度化に適切に対応可能である。
【0067】
上記したようにTaから成る第2挿入層4c2の平均膜厚は1Å以上で3Å以下である。前記第2挿入層4c2の平均膜厚が1Åより薄いと、層間結合磁界Hinの低減効果を期待できない。一方、前記第2挿入層4c2の平均膜厚が3Åより厚くなると、RAが大きく低下してしまう。よって前記第2挿入層4c2の平均膜厚は1Å以上3Å以下で規定される。
【0068】
また前記第2挿入層4c2の平均膜厚は2Å以上で3Å以下であることが好ましい。これにより、RAの変動が小さく、且つ、効果的に、層間結合磁界Hinを小さくできる。
【0069】
図3に示す第2固定磁性層4c内に設けられる第2挿入層4c2の平均膜厚は、図2に示す前記第1固定磁性層4a内に設けられる第1挿入層4a2の平均膜厚よりも薄い。前記第2挿入層4c2の形成位置は、前記第1挿入層4a2の形成位置より前記絶縁障壁層5に近いので、前記第2挿入層4c2を薄く形成することで、例えば、第2挿入層4c2を構成するTaの前記絶縁障壁層5内への拡散量が減り、高い抵抗変化率(ΔR/R)を維持できる。
【0070】
また、前記第2挿入層4c2を絶縁障壁層5から遠ざけるべく、前記上側強磁性層4c3は前記下側強磁性層4c1よりも厚く形成されることが好適である。ただし、前記上側強磁性層4c3及び前記下側強磁性層4c1は、共に10Å以上の膜厚で形成されることが好適である。一例を示すと、前記下側強磁性層4c1は、12Åの膜厚で形成され、前記第2挿入層4c2は、2Åの膜厚で形成され、前記上側強磁性層4c3は、20Åの膜厚で形成される。
【0071】
また前記下側強磁性層4c1及び上側強磁性層4c3は、共に、Co−Feで形成されることが好適である。すなわち、第2固定磁性層4cは、Co−Fe/Ta/Co−Feの積層構造であることが好適である。このとき、前記第1固定磁性層4aもCo−Fe合金で形成されることが好適である。これにより、前記第2固定磁性層4cと第1固定磁性層4a間で生じるRKKY的相互作用を強めることができる。その結果、前記固定磁性層4の磁化固定力を強めることが出来る。
【0072】
図4に示す実施形態では、第1固定磁性層4aの膜厚内に非磁性金属材料から成る第3挿入層4a4が、第2固定磁性層4cの膜厚内にTaから成る第2挿入層4c2が夫々、挿入されている。前記第3挿入層4a4は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成されることが好適である。前記第3挿入層4a4はTaで形成されることがより好ましい。前記第3挿入層4a4と第2挿入層4c2の平均膜厚は、共に1Å以上で3Å以下であることが好ましい。またこのとき、前記第3挿入層4a4及び第2挿入層4c2は共に同じ平均膜厚であることが好適である。前記第3挿入層4a4の平均膜厚は、図2で説明した第1挿入層4a2よりも薄い膜厚である。
【0073】
これにより、図4のトンネル型磁気検出素子は、前記第3挿入層4a4及び第2挿入層4c2を設けない従来構造と同様のRA及び抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来るとともに、従来構造よりも層間結合磁界Hinを小さくすることが可能である。
【0074】
図4の実施形態と、図3に示す第2固定磁性層4c内にのみ第2挿入層4c2を設けた実施形態とを対比すると、層間結合磁界HinのTa厚依存性、及びRAのTa厚依存性は、共に、ほぼ同じであるが、図4の実施形態のほうが図3の実施形態に比べて、挿入層4a4,4c2の平均膜厚を1〜3Åの範囲内で変化させたとき、RAの変動をより効果的に小さく出来る。
【0075】
図4の実施形態において、下側強磁性層4a1,4c1及び上側強磁性層4a3,4c3の好ましい材質は図2,図3で説明したのと同じなのでそちらを参照されたい。また第2挿入層4c2の第2固定磁性層4c内での形成位置も図3で説明したのと同じであるのでそちらを参照されたい。さらに前記第3挿入層4a4の第1固定磁性層4a内での形成位置は、図2で説明した第1挿入層4a2と同様に反強磁性層3寄りに形成されることが好適である。
【0076】
図1に示す実施形態では、下から反強磁性層3、固定磁性層4、絶縁障壁層5及びフリー磁性層6の順で積層されているが、下からフリー磁性層6、絶縁障壁層5、固定磁性層4及び反強磁性層3の順で積層されていてもよい。このとき前記フリー磁性層6は、図1の固定磁性層4と同様に積層フェリ構造で形成される。前記フリー磁性層6は下から第1フリー磁性層、非磁性中間層及び第2フリー磁性層の順に積層される。そして前記第1フリー磁性層、あるいは第2フリー磁性層、又は、前記第1フリー磁性層及び第2フリー磁性層は、図2ないし図4のいずれかの挿入層が2つの強磁性層間に介在する積層構造で形成される。前記フリー磁性層を構成する前記強磁性層はNi−Feで形成されることが好ましい。また第2フリー磁性層には前記絶縁障壁層との界面にCo−Feから成るエンハンス層が形成されていてもよい。
【0077】
あるいは、下から、下側反強磁性層、下側固定磁性層、下側絶縁障壁層、フリー磁性層、上側絶縁障壁層、上側固定磁性層、及び上側反強磁性層が順に積層されてなるデュアル型のトンネル型磁気検出素子であってもよい。
【0078】
デュアル型のトンネル型磁気検出素子の場合、少なくとも前記下側固定磁性層が本実施形態の積層フェリ構造で形成され、図2ないし図4に示す挿入層が、第1固定磁性層の膜厚内、あるいは、第2固定磁性層の膜厚内、又は第1固定磁性層の膜厚内及び第2固定磁性層の膜厚内に挿入された構造となっている。
【0079】
前記第1挿入層4a2、第2挿入層4c2、及び第3挿入層4a4は、夫々、挿入される各磁性層内で一層だけ設けられてもよいし、二層以上設けられてもよい。
【0080】
ただし層間結合磁界Hinは、各挿入層4a2,4c2,4a4を夫々、一層設けるだけで十分に低減され、また各挿入層4a2,4c2,4a4を夫々、複数層設けると、RAや抵抗変化率(ΔR/R)が変動しやすくなると考えられる。よって、各挿入層4a2,4c2,4a4は、夫々、一層だけ設けることが好適である。
【0081】
本実施形態のトンネル型磁気検出素子の製造方法について説明する。図6ないし図9は、製造工程中におけるトンネル型磁気検出素子の部分断面図であり、いずれも図1に示すトンネル型磁気抵抗効果素子と同じ位置での断面を示している。図5は、図6における製造工程中のトンネル型磁気検出素子のうち、主として、固定磁性層の第1固定磁性層の積層構造を示す部分拡大断面図、である。
【0082】
図6に示す工程では、下部シールド層21上に、下から順に、下地層1、シード層2、反強磁性層3、第1固定磁性層4a、非磁性中間層4b、及び第2固定磁性層4cを連続成膜する。
【0083】
本実施形態では、図5に示すように、前記第1固定磁性層4aを形成するとき、下側強磁性層4a1を例えばCo−Feで、十数Å程度の膜厚でスパッタ成膜して、次に、前記下側強磁性層4a1上に例えばTaから成る第1挿入層4a2を、3Åよりも大きく6Å以下の膜厚でスパッタ成膜する。続いて、前記第1挿入層4a2上に、上側強磁性層4a3を、例えばCo−Fe合金で、十数Å程度の膜厚でスパッタ成膜する。前記上側強磁性層4a3の膜厚を、前記下側強磁性層4a1の膜厚より厚く形成することが好適である。
【0084】
図6に示すように、第2固定磁性層4c上に例えばTi−Mg−Oから成る絶縁障壁層5を形成する。Ti−Mg−Oから成る絶縁障壁層5は、例えばTi層をまず前記第2固定磁性層4c上にスパッタ成膜して、続いて前記Ti層上にMg層をスパッタ成膜した後、前記Ti層及びMg層を酸化処理することで得られる。
【0085】
次に、図7に示すように、前記絶縁障壁層5上に、エンハンス層6a及び軟磁性層6bから成るフリー磁性層6、及び保護層7を成膜する。以上により下地層1から保護層7までが積層された積層体T1を形成する。
【0086】
次に、前記積層体T1上に、リフトオフ用レジスト層30を形成し、前記リフトオフ用レジスト層30に覆われていない前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)における両側端部をエッチング等で除去する(図8を参照)。
【0087】
次に、前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側であって前記下部シールド層21上に、下から下側絶縁層22、ハードバイアス層23、及び上側絶縁層24の順に積層する(図9を参照)。
【0088】
そして前記リフトオフ用レジスト層30を除去し、前記積層体T1及び前記上側絶縁層24上に上部シールド層26を形成する。
【0089】
上記したトンネル型磁気検出素子の製造方法では、前記積層体T1の形成後にアニール処理を含む。代表的なアニール処理は、前記反強磁性層3と第1固定磁性層4a間に交換結合磁界(Hex)を生じさせるためのアニール処理である。
【0090】
本実施形態では、図3で説明したように第2固定磁性層4cを下側強磁性層4c1、Taから成る第2挿入層4c2及び上側強磁性層4c3の積層構造で形成してもよい。または、図4で説明したように第1固定磁性層4aを、下側強磁性層4a1、第3挿入層4c4及び上側強磁性層4c3の積層構造で形成し、且つ、第2固定磁性層4cを下側強磁性層4c1、Taから成る第2挿入層4c2及び上側強磁性層4c3の積層構造で形成してもよい。
【0091】
本実施形態のトンネル型磁気検出素子は、ハードディスク装置に内蔵される磁気ヘッドとしての用途以外に、MRAM(磁気抵抗メモリ)や磁気センサとして用いることが出来る。
【実施例1】
【0092】
図2のように第1固定磁性層の膜厚内に第1挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子を形成した。
【0093】
積層体T1を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c;Co90at%Fe10at%(28)]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[Fe90at%Co10at%(10)/Ni88at%Fe12at%(50)]/Ru(10)/保護層7;Ta(180)の順に積層した。
【0094】
実験では、第1固定磁性層4aを、図2のように、下から下側強磁性層4a1:Co70at%Fe30at%(12)/第1挿入層4a2:Ta(X)/上側強磁性層4a3:Co70at%Fe30at%(14)の順に積層した。
【0095】
また実験では、絶縁障壁層5を、下からTi(4.6)/Mg(0.6)の順に積層した後、Ti及びMgを酸化処理して成るTi−Mg−Oで形成した。
【0096】
上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
前記積層体T1を形成した後、270℃で3時間40分間、アニール処理を行った。
【0097】
また上記した積層体T1中、前記第1挿入層4a2を形成しない比較基準としての従来例を製造した。なおこの従来例の層間結合磁界Hin、及び、RAは、後述する図12,図13のグラフ上にも掲載した。
【0098】
実験では、第1挿入層4a2の平均膜厚(X)と、層間結合磁界Hinとの関係、及び第1挿入層4a2の平均膜厚(X)と、RAとの関係を調べた。
【0099】
図10は、第1挿入層4a2の平均膜厚と層間結合磁界Hinとの関係を示すグラフである。図11は、第1挿入層4a2の平均膜厚とRAとの関係を示すグラフである。
【0100】
図10に示すように、第1挿入層4a2の平均膜厚を、1Åから3Åの範囲内にすると、層間結合磁界Hinは、従来例とほぼ同じか、あるいは従来例よりもやや低い値となった。また第1挿入層4a2の平均膜厚を3Åよりも厚くすると、前記層間結合磁界Hinは、従来例に比べて大きく低下し、特に、前記第1挿入層4a2の平均膜厚を4Å以上にすると従来例の層間結合磁界Hinに対してほぼ半減した。
【0101】
図11に示すように、第1挿入層4a2の平均膜厚を1Åから6Åの範囲内にすると、RAは、従来例とほぼ同じ値となった。
【0102】
図10,図11に示す実験結果から、前記第1固定磁性層4aの膜厚内に、Taからなる第1挿入層4a2を挿入した場合、前記第1挿入層4a2の平均膜厚を3Åより大きく6Å以下に設定すると、第1挿入層4a2を形成しない従来例とほぼ同じRAを得ることができ、且つ、層間結合磁界Hinを従来例よりも低く出来ることがわかった。特に、前記第1挿入層4a2の平均膜厚を4Å以上で5Å以下に設定すると、従来例に比べて、十分に層間結合磁界Hinを低く出来ることがわかった。
【0103】
また抵抗変化率(ΔR/R)は、前記第1固定磁性層4aの膜厚内に、3Åよりも大きく6Å以下の平均膜厚からなるTaの第1挿入層4a2を挿入したトンネル型磁気検出素子の構造(実施例1)では、26〜29%程度だったのに対し、従来例では28%程度であった。このように実施例1では、RAのみならず抵抗変化率(ΔR/R)も、従来例とほぼ同じになることがわかった。
【実施例2】
【0104】
図3のように第2固定磁性層の膜厚内に第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子を形成した。
【0105】
積層体T1を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a:Co70at%Fe30at%(24)/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[Fe90at%Co10at%(10)/Ni86at%Fe14at%(50)]/Ru(10)/保護層7;Ta(180)の順に積層した。
【0106】
実験では、第2固定磁性層4cを、図3のように、下から下側強磁性層4c1:Co90at%Fe10at%(12)/第2挿入層4c2:Ta(Y)/上側強磁性層4c3:Co90at%Fe10at%(20)の順に積層した。
【0107】
また実験では、絶縁障壁層5を、下からTi(4.6)/Mg(0.6)の順に積層した後、Ti及びMgを酸化処理して成るTi−Mg−Oで形成した。
【0108】
上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
前記積層体T1を形成した後、270℃で3時間40分間、アニール処理を行った。
【実施例3】
【0109】
図4のように、第1固定磁性層の膜厚内に第3挿入層を挿入し、且つ、第2固定磁性層の膜厚内に第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子を形成した。
【0110】
積層体T1を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[Fe90at%Co10at%(10)/Ni86at%Fe14at%(50)]/Ru(10)/保護層7;Ta(180)の順に積層した。
【0111】
実験では、第1固定磁性層4aを、図4のように、下から下側強磁性層4a1:Co70at%Fe30at%(12)/第3挿入層4a4:Ta(Y)/上側強磁性層4a3:Co70at%Fe30at%(14)の順に積層した。また、第2固定磁性層4cを、図4のように、下から下側強磁性層4c1:Co90at%Fe10at%(12)/第2挿入層4c2:Ta(Y)/上側強磁性層4c3:Co90at%Fe10at%(20)の順に積層した。
【0112】
また実験では、絶縁障壁層5を、下からTi(4.6)/Mg(0.6)の順に積層した後、Ti及びMgを酸化処理して成るTi−Mg−Oで形成した。
上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
【0113】
前記積層体T1を形成した後、270℃で3時間40分間、アニール処理を行った。
また第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4の平均膜厚(Y)は共に同じ値にして変化させた。
【0114】
実験では、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)、及び、図4の構造での第3挿入層4a4と第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)と、層間結合磁界Hinとの関係を調べた。その実験結果を図12に示す。
【0115】
また、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)、及び、図4の構造での第3挿入層4a4と第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)と、RAとの関係を調べた。その実験結果を図13に示す。
【0116】
図12に示すように、層間結合磁界Hinは、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)を1Å以上にすると、従来例よりも低下することがわかった。
【0117】
また図12に示すように、層間結合磁界Hinは、図4の構造での第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4の平均膜厚(Y)を1Å以上にすると、従来例よりも低下することがわかった。
【0118】
一方、図13に示すように、RAは、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)を3Åより大きくすると、従来例よりも大きく低下することがわかった。
【0119】
また、図13に示すように、RAは、図4の構造での第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4の平均膜厚(Y)を3Åよりも大きくすると、従来例よりも大きく低下することがわかった。
【0120】
よって、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)を1Å以上で3Å以下に設定することで、従来例とほぼ同じRAを得ることができ、且つ、従来例よりも層間結合磁界Hinを低減できることがわかった。
【0121】
また抵抗変化率(ΔR/R)は、前記第2固定磁性層4cの膜厚内に、1Å以上で3Å以下の平均膜厚からなるTaの第2挿入層4c2を挿入したトンネル型磁気検出素子の構造(実施例2)で、26〜29%程度だったのに対し、従来例では28%程度であった。このように実施例2では、RAのみならず抵抗変化率(ΔR/R)も、従来例とほぼ同じになることがわかった。
【0122】
また図12,図13に示すように、図4の構造での第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4の平均膜厚(Y)を1Å以上で3Å以下に設定することで、従来例とほぼ同じRAを得ることができ、且つ、従来例よりも層間結合磁界Hinを低減できることがわかった。
【0123】
特に、図13に示すように、図3の構造よりも、図4の構造とするほうが、1Åから3Åの範囲内でTa挿入厚を変化させても、従来例に対するRAの変動を小さくでき好適であることがわかった。
【0124】
また抵抗変化率(ΔR/R)は、前記第2固定磁性層4cの膜厚内、及び第1固定磁性層4aの膜厚内に、1Å以上で3Å以下の平均膜厚からなるTaの第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4を挿入したトンネル型磁気検出素子の構造(実施例3)で、26〜29%程度だったのに対し、従来例では28%程度であった。このように実施例3では、RAのみならず抵抗変化率(ΔR/R)も、従来例とほぼ同じになることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】トンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図、
【図2】第1の実施形態における固定磁性層の構造を示す図1の部分拡大断面図、
【図3】第2の実施形態における固定磁性層の構造を示す図1の部分拡大断面図、
【図4】第3の実施形態における固定磁性層の構造を示す図1の部分拡大断面図、
【図5】図5は、図6の製造工程中におけるトンネル型磁気検出素子のうち、主として、固定磁性層の第1固定磁性層の積層構造を示す部分拡大断面図、
【図6】製造工程中におけるトンネル型磁気検出素子の部分断面図、
【図7】図6の次に行われる一工程図(部分断面図)、
【図8】図7の次に行われる一工程図(部分断面図)、
【図9】図8の次に行われる一工程図(部分断面図)、
【図10】図2のように、第1固定磁性層の膜厚内に第1挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第1挿入層の平均膜厚(X)と層間結合磁界Hinとの関係を示すグラフ、
【図11】図2のように、第1固定磁性層の膜厚内に第1挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第1挿入層の平均膜厚(X)とRAとの関係を示すグラフ、
【図12】図3のように、第2固定磁性層の膜厚内に第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第2挿入層の平均膜厚(Y)、あるいは、図4のように、第1固定磁性層の膜厚内、及び第2固定磁性層の膜厚内に第3挿入層及び第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第3挿入層及び第2挿入層の平均膜厚(Y)と層間結合磁界Hinとの関係を示すグラフ、
【図13】図3のように、第2固定磁性層の膜厚内に第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第2挿入層の平均膜厚(Y)、あるいは、図4のように、第1固定磁性層の膜厚内、及び第2固定磁性層の膜厚内に第3挿入層及び第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第3挿入層及び第2挿入層の平均膜厚(Y)とRAとの関係を示すグラフ、
【符号の説明】
【0126】
3 反強磁性層
4、 固定磁性層
4a 第1固定磁性層
4a1 下側強磁性層
4a2 第1挿入層
4a3 上側強磁性層
4a4 第3挿入層
4b 非磁性中間層
4c 第2固定磁性層
4c1 下側強磁性層
4c2 第2挿入層
4c3 上側強磁性層
5 絶縁障壁層
6 フリー磁性層
7 保護層
22、24 絶縁層
23 ハードバイアス層
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスク装置やその他の磁気検出装置に搭載されるトンネル効果を利用した磁気検出素子に係り、特に、RAや抵抗変化率(ΔR/R)の変動を小さく抑えることができ、且つ層間結合磁界Hinを小さくすることが可能なトンネル型磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル型磁気検出素子(TMR素子)は、トンネル効果を利用して抵抗変化するものであり、固定磁性層の磁化と、フリー磁性層の磁化とが反平行のとき、前記固定磁性層とフリー磁性層との間に設けられた絶縁障壁層(トンネル障壁層)を介してトンネル電流が流れにくくなって、抵抗値は最大になり、一方、前記固定磁性層の磁化とフリー磁性層の磁化が平行のとき、最も前記トンネル電流は流れ易くなり抵抗値は最小になる。
【0003】
この原理を利用して、外部磁界の影響を受けてフリー磁性層の磁化が変動することにより変化する電気抵抗を電圧変化としてとらえ、記録媒体からの漏れ磁界が検出されるようになっている。
【特許文献1】特開2005―286340号公報
【特許文献2】特開2005−260226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記フリー磁性層と前記固定磁性層との間には層間結合磁界Hinが作用する。前記層間結合磁界Hinが大きくなると、フリー磁性層の磁気感度が低下したり、磁気ヘッドとして動作させる際に波形の非対称性(アシンメトリー)が増大する。したがって前記層間結合磁界Hinは小さくなるように調整される。
【0005】
例えば、前記絶縁障壁層を構成する金属層に対して酸化処理する際、酸化を強めることで前記層間結合磁界Hinを低減することが可能であった。
【0006】
しかしながら上記手法を用いた場合、トンネル型磁気検出素子のRA(抵抗値R×素子面積A)が大きくなるといった問題があった。このとき、前記RAを所定範囲内に収めるには、例えばトンネル型磁気検出素子の素子ハイト長さ(MRh)の設計値を変更しなければならなかった。
【0007】
しかし、素子ハイト長さの変更は、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを増大させたり、SN比が低減する等、適切に高記録密度化に対応できない結果を招いた。
【0008】
よって素子設計値を変更することなしに、前記RAの変動を小さく抑えつつ、前記層間結合磁界Hinを低減したい。またこのとき抵抗変化率(ΔR/R)の変動も小さく抑えたい。
【0009】
上記に挙げた特許文献1に記載された発明では、トンネル型磁気検出素子の第1ピンド層や第2ピンド層にCu層あるいはTa層を挿入している。ただしCu層やTa層を挿入する理由が明らかではない。いずれにしても特許文献1は、フリー磁性層上に設けられた縦バイアス層から安定して交換バイアス磁界を前記フリー磁性層に付与するための発明である。
【0010】
特許文献2に記載された発明は、トンネル型磁気検出素子について記載されていない。特許文献2には、上部ピンド層内に、界面散乱を増加させるための挿入層が設けられている。
【0011】
そして、上記特許文献1及び特許文献2には、上記したトンネル型磁気検出素子における課題認識がない。すなわち特許文献1及び特許文献2には、上記した課題に対する解決手段は何ら示されていない。
【0012】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、従来に比べて、RAや抵抗変化率(ΔR/R)の変動を小さく抑えることができ、且つ、層間結合磁界Hinを小さくすることが可能なトンネル型磁気検出素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のトンネル型磁気検出素子は、
下から下部磁性層、絶縁障壁層、上部磁性層の順で積層され、前記下部磁性層及び前記上部磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記下部磁性層は、下から第1磁性層、非磁性中間層及び第2磁性層の順に積層された積層フェリ構造であり、
前記第1磁性層は、非磁性金属材料で形成された少なくとも一層の第1挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第1挿入層は、3Åよりも大きく6Å以下の平均膜厚で形成されることを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、前記第1挿入層を設けることで、前記第1挿入層が設けられていない従来構造と同様のRA及び抵抗変化率(ΔR/R)を維持しつつ、層間結合磁界Hinを前記従来構造よりも低減できる。さらに本発明では、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを抑制でき、SN比を改善でき、高記録密度化に適切に対応可能である。
【0015】
本発明では、前記第1挿入層は4Å以上で5Å以下の平均膜厚で形成されることが、RAの変動を小さく抑えることが出来るとともに、より効果的に層間結合磁界Hinを低減でき好適である。
【0016】
また本発明では、前記第1挿入層が一層だけ設けられ、前記第1挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第1挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第1挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第1挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第1挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚いことが好ましい。これにより、前記第1挿入層を前記絶縁障壁層から遠ざけることが出来、前記絶縁障壁層に対するTaの影響を弱めることが出来る。
【0017】
本発明では、前記第1挿入層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成されることが好ましい。
【0018】
また本発明のトンネル型磁気検出素子は、下から下部磁性層、絶縁障壁層、上部磁性層の順で積層され、前記下部磁性層及び前記上部磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記下部磁性層は、下から第1磁性層、非磁性中間層及び第2磁性層の順に積層された積層フェリ構造であり、
前記第2磁性層は、Taで形成された少なくとも一層の第2挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第2挿入層は、1Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成されることを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、前記第2挿入層が設けられていない従来構造と同様のRA及び抵抗変化率(ΔR/R)を維持しつつ、層間結合磁界Hinを前記従来構造よりも低減できる。さらに本発明では、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを抑制でき、SN比を改善でき、高記録密度化に適切に対応可能である。
【0020】
また本発明では、前記第2挿入層が一層だけ設けられ、前記第2挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第2挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第2挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第2挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第2挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚いことが好ましい。これにより、前記第2挿入層を前記絶縁障壁層から遠ざけることが出来、前記絶縁障壁層に対するTaの影響を弱めることが出来る。
【0021】
また本発明では、前記第1磁性層は、非磁性金属材料で形成された少なくとも一層の第3挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第3挿入層は、1Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成されることが好ましい。前記第3挿入層を設けることで、RAを、より前記従来構造のRAに近づけることができ、RAの変動を小さく出来る。
【0022】
また本発明では、前記第3挿入層が一層だけ設けられ、前記第3挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第3挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第3挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第3挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第3挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚いことが好ましい。
【0023】
また前記第3挿入層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成されることが好ましい。
【0024】
また本発明では、前記第2挿入層、あるいは、前記第2挿入層及び前記第3挿入層は、2Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成されることが好ましい。これにより、RAの変動を小さく抑えることが出来ると共に、より効果的に層間結合磁界Hinを低減でき好適である。
【0025】
本発明では、前記絶縁障壁層は、Ti−Mg−O,Ti−O,あるいは、Al−Oのいずれかで形成されることが好ましい。
【0026】
本発明では、前記下部磁性層は、前記固定磁性層であり、前記上部磁性層は前記フリー磁性層であることが好ましい。このとき、前記強磁性層はCo−Feで、第1挿入層及び第3挿入層はTaであり、前記第1磁性層、あるいは、前記第2磁性層、又は、前記第1磁性層及び前記第2磁性層は、Co−Fe/Ta/Co−Feの積層構造で形成されることが好ましい。これにより前記第1磁性層と第2磁性層との間で作用するRKKY相互作用を大きくでき、前記第1磁性層及び第2磁性層の各磁化を反平行に適切に固定することが出来る。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトンネル型磁気検出素子は、従来に比べて、RA及び抵抗変化率(ΔR/R)の変動を小さく抑え、且つ、層間結合磁界Hinを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は本実施形態のトンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図である。
【0029】
トンネル型磁気検出素子は、例えば、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、磁気記録媒体からの漏れ磁界(記録磁界)を検出するものである。なお、図中においてX方向は、トラック幅方向、Y方向は、磁気記録媒体からの漏れ磁界の方向(ハイト方向)、Z方向は、磁気記録媒体の移動方向及び前記トンネル型磁気検出素子の各層の積層方向、である。
【0030】
図1の最も下に形成されているのは、例えばNi−Feで形成された下部シールド層21である。前記下部シールド層21上に積層体T1が形成されている。なお前記トンネル型磁気検出素子は、前記積層体T1と、前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側に形成された下側絶縁層22、ハードバイアス層23、上側絶縁層24とで構成される。
【0031】
前記積層体T1の最下層は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の元素の非磁性元素で形成された下地層1である。この下地層1の上に、シード層2が設けられる。前記シード層2は、Ni−Fe−CrまたはCrによって形成される。なお、前記下地層1は形成されなくともよい。
【0032】
前記シード層2の上に形成された反強磁性層3は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。
【0033】
また前記反強磁性層3は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されてもよい。
【0034】
前記反強磁性層3は例えばIr−Mnで形成される。
前記反強磁性層3上には固定磁性層(下部磁性層)4が形成されている。前記固定磁性層4は、下から第1固定磁性層(第1磁性層)4a、非磁性中間層4b、第2固定磁性層(第2磁性層)4cの順で積層された積層フェリ構造である。前記反強磁性層3との界面での交換結合磁界及び非磁性中間層4bを介した反強磁性的交換結合磁界(RKKY的相互作用)により前記第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cの磁化方向は互いに反平行状態にされる。前記固定磁性層4を積層フェリ構造で形成することにより前記固定磁性層4の磁化を安定した状態にできる。また前記固定磁性層4と反強磁性層3との界面で発生する交換結合磁界を見かけ上大きくすることができる。なお前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cは例えば12〜40Å程度で形成され、非磁性中間層4bは8Å〜10Å程度で形成される。
【0035】
前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cはCo−Fe、Ni−Fe,Co−Fe−Niなどの強磁性材料で形成されている。また非磁性中間層4bは、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuなどの非磁性導電材料で形成される。
【0036】
前記固定磁性層4上に形成された絶縁障壁層5は、Ti−Mg−O(酸化チタン・マグネシウム)で形成されている。Tiの組成比とMgの組成比をあわせて100at%としたときに、Mgは、4at%以上で20at%以下含まれることが好適である。これにより、効果的に抵抗変化率(ΔR/R)を高く出来る。
【0037】
前記絶縁障壁層5上には、フリー磁性層(上部磁性層)6が形成されている。前記フリー磁性層6は、NiFe合金等の磁性材料で形成される軟磁性層6bと、前記軟磁性層6bと前記絶縁障壁層5との間に例えばCo−Fe合金からなるエンハンス層6aとで構成される。前記軟磁性層6bは、軟磁気特性に優れた磁性材料で形成されることが好ましい。前記エンハンス層6aは、前記軟磁性層6bよりもスピン分極率の大きい磁性材料で形成されることが好ましい。前記エンハンス層6aを、Co−Fe合金等のスピン分極率の大きい磁性材料で形成することで、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0038】
なお前記フリー磁性層6は、複数の磁性層が非磁性中間層を介して積層された積層フェリ構造であってもよい。また前記フリー磁性層6のトラック幅方向(図示X方向)の幅寸法でトラック幅Twが決められる。
前記フリー磁性層6上にはTa等で形成された保護層7が形成されている。
【0039】
前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)における両側端面11,11は、下側から上側に向けて徐々に前記トラック幅方向の幅寸法が小さくなるように傾斜面で形成されている。
【0040】
図1に示すように、前記積層体T1の両側に広がる下部シールド層21上から前記積層体T1の両側端面11上にかけて下側絶縁層22が形成され、前記下側絶縁層22上にハードバイアス層23が形成され、さらに前記ハードバイアス層23上に上側絶縁層24が形成されている。
【0041】
前記下側絶縁層22と前記ハードバイアス層23間にバイアス下地層(図示しない)が形成されていてもよい。前記バイアス下地層は例えばCr、W、Tiで形成される。
【0042】
前記絶縁層22,24はAl2O3やSiO2等の絶縁材料で形成されている。前記絶縁層22,24は、前記積層体T1内を各層の界面と垂直方向に流れる電流が、前記積層体T1のトラック幅方向の両側に分流するのを抑制すべく前記ハードバイアス層23の上下を絶縁するものである。前記ハードバイアス層23は例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金などで形成される。
【0043】
前記積層体T1上及び上側絶縁層24上にはNiFe合金等で形成された上部シールド層26が形成されている。
【0044】
図1に示す実施形態では、前記下部シールド層21及び上部シールド層26が前記積層体T1に対する電極層として機能し、前記積層体T1の各層の膜面に対し垂直方向(図示Z方向と平行な方向)に電流が流される。
【0045】
前記フリー磁性層6は、前記ハードバイアス層23からのバイアス磁界を受けてトラック幅方向(図示X方向)と平行な方向に磁化されている。一方、固定磁性層4を構成する第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cはハイト方向(図示Y方向)と平行な方向に磁化されている。前記固定磁性層4は積層フェリ構造であるため、第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cはそれぞれ反平行に磁化されている。前記固定磁性層4の磁化は固定されている(外部磁界によって磁化変動しない)が、前記フリー磁性層6の磁化は外部磁界により変動する。
【0046】
前記フリー磁性層6が、外部磁界により磁化変動すると、第2固定磁性層4cとフリー磁性層との磁化が反平行のとき、前記第2固定磁性層4cとフリー磁性層6との間に設けられた絶縁障壁層5を介してトンネル電流が流れにくくなって、抵抗値は最大になる。一方、前記第2固定磁性層4cとフリー磁性層6との磁化が平行のとき、最も前記トンネル電流は流れ易くなり抵抗値は最小になる。
【0047】
この原理を利用して、外部磁界の影響を受けてフリー磁性層6の磁化が変動することにより変化する電気抵抗を電圧変化としてとらえ、磁気記録媒体からの洩れ磁界が検出されるようになっている。
【0048】
本実施形態におけるトンネル型磁気検出素子の特徴的部分について以下に説明する。図2ないし図4は、図1に示すトンネル型磁気抵抗効果素子の固定磁性層4の部分を拡大した拡大断面図である。
【0049】
図2に示すように、前記第1固定磁性層4aは、下から下側強磁性層4a1、第1挿入層4a2及び上側強磁性層4a3の順に積層形成されている。前記第1挿入層4a2は非磁性金属材料で形成される。前記第1挿入層4a2の平均膜厚は3Åより大きく6Å以下である。なお図2の実施形態では、前記第2固定磁性層4cが単層構造である。前記第1挿入層4a2は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成されることが好適である。前記第1挿入層4a2はTaで形成されることがより好ましい。
【0050】
このように図2の実施形態では、前記第1固定磁性層4aは、Taで形成された第1挿入層4a2が、2つの強磁性層4a1,4a3の間に介在する構造となっている。これにより、前記第1挿入層4a2上の上側強磁性層4a3、第2固定磁性層4c及びフリー磁性層6の各磁性層の結晶配向性が改善されたと考えられる。また前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cの上面の平坦性は改善され、その結果、前記第2固定磁性層4cと絶縁障壁層5間の界面の平坦性、及び前記絶縁障壁層5とフリー磁性層6間の界面の平坦性が改善されたと考えられる。
【0051】
したがって本実施形態では、前記固定磁性層4と前記フリー磁性層6との間に作用する層間結合磁界Hinを、前記第1挿入層4a2を有さない従来構造に比べて効果的に低減できる。
【0052】
また図2に示すトンネル型磁気検出素子は、前記第1挿入層4a2の平均膜厚を3Åより大きく6Å以下としたことで、前記第1挿入層4a2を有さない従来構造と同様のRA(素子抵抗R×素子面積A)、及び抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが可能である。
【0053】
さらに本実施形態では、例えばRAの改善のために素子設計値を変更する必要がない。しかも、上記した平坦性の改善、及び磁性層の結晶配向性の改善に加えて、反強磁性層3に含まれるMnが前記絶縁障壁層5にまで拡散するのを前記第1挿入層4a2を設けることで抑制できると考えられる。このような要因からSN比を改善でき、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを抑制できる。よって本実施形態のトンネル型磁気検出素子は、高記録密度化に適切に対応可能である。
【0054】
上記したようにTaから成る第1挿入層4a2の平均膜厚は3Åより大きく6Å以下である。前記第1挿入層4a2の平均膜厚が3Å以下であると、層間結合磁界Hinの低減効果を期待できない。一方、前記第1挿入層4a2の平均膜厚が6Åより厚くなると、前記下側強磁性層4a1と前記上側強磁性層4a3間の磁気的結合が分断されやすくなる。そして抵抗変化率(ΔR/R)が大きく低下してしまう。またRAも大きくなる傾向にある。よって前記第1挿入層4a2の平均膜厚は3Åより大きく6Å以下で規定される。
【0055】
また前記第1挿入層4a2の平均膜厚は4Å以上で5Å以下であることが好ましい。これにより、RAの変動を小さく、且つ、効果的に、層間結合磁界Hinを小さくできる。
【0056】
上記のように前記第1挿入層4a2の平均膜厚は非常に薄い。よって、第1挿入層4a2は、図2のように、一定膜厚で形成されず、前記下側強磁性層4a1上に間欠的に形成されてもよい。また前記第1挿入層4a2が間欠的に形成されることで、下側強磁性層4a1と上側強磁性層4a3との磁気的結合力が強まり、固定磁性層4の磁化固定力を強めることが出来る。また前記第1挿入層4a2の平均膜厚とは、前記第1挿入層4a2を、前記下側強磁性層4a1上の全域に一律の膜厚に均したときの膜厚を意味するから、前記第1挿入層4a2が、前記下側強磁性層4a1上に間欠的に形成される場合、前記第1挿入層4a2が、前記下側強磁性層4a1上に形成されていない箇所(ピンホール部分)も含めて「平均膜厚」は規定される。
【0057】
前記第1挿入層4a2は、前記第1固定磁性層4aの中で、前記反強磁性層3寄りに形成されていることが好ましい。したがって上側強磁性層4a3は、下側強磁性層4a1よりも厚い膜厚で形成される。これにより、前記第1挿入層4a2は前記絶縁障壁層5から遠ざかる。その結果、Taの絶縁障壁層5への影響力は弱まる。例えばTaの前記絶縁障壁層5内への拡散量が減る。よって、高い抵抗変化率(ΔR/R)を維持することが可能である。ただし、前記下側強磁性層4a1及び上側強磁性層4a3は共に10Å以上の膜厚であることが好ましい。一例を示すと、前記下側強磁性層4a1は12Åの膜厚で、第1挿入層4a2は4Åの膜厚で、上側強磁性層4a3は14Åの膜厚で形成される。
【0058】
前記下側強磁性層4a1及び上側強磁性層4a3は、夫々、同じ強磁性材料で形成されてもよいが、異なる強磁性材料で形成されてもよい。例えば前記下側強磁性層4a1及び上側強磁性層4a3は、共に、Co−Feで形成されることが好適である。すなわち、第1固定磁性層4aは、Co−Fe/Ta/Co−Feの積層構造であることが好適である。このとき、第2固定磁性層4cもCo−Fe合金で形成されることが好適である。これにより、前記第2固定磁性層4cと第1固定磁性層4a間で生じるRKKY的相互作用を強めることができ、また第1固定磁性層4aと前記反強磁性層3との間で生じる交換結合磁界(Hex)を大きくすることが出来る。その結果、前記固定磁性層4の磁化固定力を強めることが出来る。
【0059】
また本実施形態では、第1固定磁性層4a内に非磁性金属材料の第1挿入層4a2を挿入したことで、前記第1挿入層4a2上の上側強磁性層4a3、及び第2固定磁性層4cを、効果的に、膜面(X―Y平面)と平行な方向に、代表的に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向した面心立方構造(fcc構造)で形成できる。
【0060】
本実施形態では前記絶縁障壁層5はTi−Mg−O以外に、Ti−O(酸化チタン)、あるいは、Al−O(酸化アルミニウム)であってもよい。
【0061】
図3では、前記第2固定磁性層4cが、下から、下側強磁性層4c1、第2挿入層4c2、上側強磁性層4c3の順に積層された構造となっている。なお図3の実施形態では前記第1固定磁性層4aが単層構造となっている。
【0062】
前記第2挿入層4c2はTaで形成される。また前記第2挿入層4c2の平均膜厚は1Å以上で3Å以下である。
【0063】
このように本実施形態では、第2固定磁性層4cは、Taで形成された第2挿入層4c2が2つの強磁性層4c1,4c3の間に介在する構造で形成される。これにより、前記第2挿入層4c2上の上側強磁性層4c3及びフリー磁性層6の各磁性層の結晶配向性が改善されたと考えられる。また前記第2固定磁性層4cの上面の平坦性は改善され、その結果、前記第2固定磁性層4cと絶縁障壁層5間の界面の平坦性、及び前記絶縁障壁層5とフリー磁性層6間の界面の平坦性が改善されたと考えられる。
【0064】
したがって本実施形態では、前記固定磁性層4と前記フリー磁性層6との間に作用する層間結合磁界Hinを、前記第1挿入層4a2を有さない従来構造に比べて効果的に低減できる。
【0065】
また図3に示すトンネル型磁気抵抗効果素子は、前記第2挿入層4c2を有さない従来構造と同様のRA(素子抵抗R×素子面積A)、及び抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが可能である。
【0066】
さらに本実施形態では、例えばRAの改善のために素子設計値を変更する必要がない。しかも、上記した平坦性の改善、及び磁性層の結晶配向性の改善に加えて、反強磁性層3に含まれるMnが前記絶縁障壁層5にまで拡散するのを前記第2挿入層4c2を設けることで抑制できると考えられる。このような要因からSN比を改善でき、波形の非対称性(アシンメトリー)のばらつきを抑制できる。よって本実施形態のトンネル型磁気検出素子は、高記録密度化に適切に対応可能である。
【0067】
上記したようにTaから成る第2挿入層4c2の平均膜厚は1Å以上で3Å以下である。前記第2挿入層4c2の平均膜厚が1Åより薄いと、層間結合磁界Hinの低減効果を期待できない。一方、前記第2挿入層4c2の平均膜厚が3Åより厚くなると、RAが大きく低下してしまう。よって前記第2挿入層4c2の平均膜厚は1Å以上3Å以下で規定される。
【0068】
また前記第2挿入層4c2の平均膜厚は2Å以上で3Å以下であることが好ましい。これにより、RAの変動が小さく、且つ、効果的に、層間結合磁界Hinを小さくできる。
【0069】
図3に示す第2固定磁性層4c内に設けられる第2挿入層4c2の平均膜厚は、図2に示す前記第1固定磁性層4a内に設けられる第1挿入層4a2の平均膜厚よりも薄い。前記第2挿入層4c2の形成位置は、前記第1挿入層4a2の形成位置より前記絶縁障壁層5に近いので、前記第2挿入層4c2を薄く形成することで、例えば、第2挿入層4c2を構成するTaの前記絶縁障壁層5内への拡散量が減り、高い抵抗変化率(ΔR/R)を維持できる。
【0070】
また、前記第2挿入層4c2を絶縁障壁層5から遠ざけるべく、前記上側強磁性層4c3は前記下側強磁性層4c1よりも厚く形成されることが好適である。ただし、前記上側強磁性層4c3及び前記下側強磁性層4c1は、共に10Å以上の膜厚で形成されることが好適である。一例を示すと、前記下側強磁性層4c1は、12Åの膜厚で形成され、前記第2挿入層4c2は、2Åの膜厚で形成され、前記上側強磁性層4c3は、20Åの膜厚で形成される。
【0071】
また前記下側強磁性層4c1及び上側強磁性層4c3は、共に、Co−Feで形成されることが好適である。すなわち、第2固定磁性層4cは、Co−Fe/Ta/Co−Feの積層構造であることが好適である。このとき、前記第1固定磁性層4aもCo−Fe合金で形成されることが好適である。これにより、前記第2固定磁性層4cと第1固定磁性層4a間で生じるRKKY的相互作用を強めることができる。その結果、前記固定磁性層4の磁化固定力を強めることが出来る。
【0072】
図4に示す実施形態では、第1固定磁性層4aの膜厚内に非磁性金属材料から成る第3挿入層4a4が、第2固定磁性層4cの膜厚内にTaから成る第2挿入層4c2が夫々、挿入されている。前記第3挿入層4a4は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成されることが好適である。前記第3挿入層4a4はTaで形成されることがより好ましい。前記第3挿入層4a4と第2挿入層4c2の平均膜厚は、共に1Å以上で3Å以下であることが好ましい。またこのとき、前記第3挿入層4a4及び第2挿入層4c2は共に同じ平均膜厚であることが好適である。前記第3挿入層4a4の平均膜厚は、図2で説明した第1挿入層4a2よりも薄い膜厚である。
【0073】
これにより、図4のトンネル型磁気検出素子は、前記第3挿入層4a4及び第2挿入層4c2を設けない従来構造と同様のRA及び抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来るとともに、従来構造よりも層間結合磁界Hinを小さくすることが可能である。
【0074】
図4の実施形態と、図3に示す第2固定磁性層4c内にのみ第2挿入層4c2を設けた実施形態とを対比すると、層間結合磁界HinのTa厚依存性、及びRAのTa厚依存性は、共に、ほぼ同じであるが、図4の実施形態のほうが図3の実施形態に比べて、挿入層4a4,4c2の平均膜厚を1〜3Åの範囲内で変化させたとき、RAの変動をより効果的に小さく出来る。
【0075】
図4の実施形態において、下側強磁性層4a1,4c1及び上側強磁性層4a3,4c3の好ましい材質は図2,図3で説明したのと同じなのでそちらを参照されたい。また第2挿入層4c2の第2固定磁性層4c内での形成位置も図3で説明したのと同じであるのでそちらを参照されたい。さらに前記第3挿入層4a4の第1固定磁性層4a内での形成位置は、図2で説明した第1挿入層4a2と同様に反強磁性層3寄りに形成されることが好適である。
【0076】
図1に示す実施形態では、下から反強磁性層3、固定磁性層4、絶縁障壁層5及びフリー磁性層6の順で積層されているが、下からフリー磁性層6、絶縁障壁層5、固定磁性層4及び反強磁性層3の順で積層されていてもよい。このとき前記フリー磁性層6は、図1の固定磁性層4と同様に積層フェリ構造で形成される。前記フリー磁性層6は下から第1フリー磁性層、非磁性中間層及び第2フリー磁性層の順に積層される。そして前記第1フリー磁性層、あるいは第2フリー磁性層、又は、前記第1フリー磁性層及び第2フリー磁性層は、図2ないし図4のいずれかの挿入層が2つの強磁性層間に介在する積層構造で形成される。前記フリー磁性層を構成する前記強磁性層はNi−Feで形成されることが好ましい。また第2フリー磁性層には前記絶縁障壁層との界面にCo−Feから成るエンハンス層が形成されていてもよい。
【0077】
あるいは、下から、下側反強磁性層、下側固定磁性層、下側絶縁障壁層、フリー磁性層、上側絶縁障壁層、上側固定磁性層、及び上側反強磁性層が順に積層されてなるデュアル型のトンネル型磁気検出素子であってもよい。
【0078】
デュアル型のトンネル型磁気検出素子の場合、少なくとも前記下側固定磁性層が本実施形態の積層フェリ構造で形成され、図2ないし図4に示す挿入層が、第1固定磁性層の膜厚内、あるいは、第2固定磁性層の膜厚内、又は第1固定磁性層の膜厚内及び第2固定磁性層の膜厚内に挿入された構造となっている。
【0079】
前記第1挿入層4a2、第2挿入層4c2、及び第3挿入層4a4は、夫々、挿入される各磁性層内で一層だけ設けられてもよいし、二層以上設けられてもよい。
【0080】
ただし層間結合磁界Hinは、各挿入層4a2,4c2,4a4を夫々、一層設けるだけで十分に低減され、また各挿入層4a2,4c2,4a4を夫々、複数層設けると、RAや抵抗変化率(ΔR/R)が変動しやすくなると考えられる。よって、各挿入層4a2,4c2,4a4は、夫々、一層だけ設けることが好適である。
【0081】
本実施形態のトンネル型磁気検出素子の製造方法について説明する。図6ないし図9は、製造工程中におけるトンネル型磁気検出素子の部分断面図であり、いずれも図1に示すトンネル型磁気抵抗効果素子と同じ位置での断面を示している。図5は、図6における製造工程中のトンネル型磁気検出素子のうち、主として、固定磁性層の第1固定磁性層の積層構造を示す部分拡大断面図、である。
【0082】
図6に示す工程では、下部シールド層21上に、下から順に、下地層1、シード層2、反強磁性層3、第1固定磁性層4a、非磁性中間層4b、及び第2固定磁性層4cを連続成膜する。
【0083】
本実施形態では、図5に示すように、前記第1固定磁性層4aを形成するとき、下側強磁性層4a1を例えばCo−Feで、十数Å程度の膜厚でスパッタ成膜して、次に、前記下側強磁性層4a1上に例えばTaから成る第1挿入層4a2を、3Åよりも大きく6Å以下の膜厚でスパッタ成膜する。続いて、前記第1挿入層4a2上に、上側強磁性層4a3を、例えばCo−Fe合金で、十数Å程度の膜厚でスパッタ成膜する。前記上側強磁性層4a3の膜厚を、前記下側強磁性層4a1の膜厚より厚く形成することが好適である。
【0084】
図6に示すように、第2固定磁性層4c上に例えばTi−Mg−Oから成る絶縁障壁層5を形成する。Ti−Mg−Oから成る絶縁障壁層5は、例えばTi層をまず前記第2固定磁性層4c上にスパッタ成膜して、続いて前記Ti層上にMg層をスパッタ成膜した後、前記Ti層及びMg層を酸化処理することで得られる。
【0085】
次に、図7に示すように、前記絶縁障壁層5上に、エンハンス層6a及び軟磁性層6bから成るフリー磁性層6、及び保護層7を成膜する。以上により下地層1から保護層7までが積層された積層体T1を形成する。
【0086】
次に、前記積層体T1上に、リフトオフ用レジスト層30を形成し、前記リフトオフ用レジスト層30に覆われていない前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)における両側端部をエッチング等で除去する(図8を参照)。
【0087】
次に、前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側であって前記下部シールド層21上に、下から下側絶縁層22、ハードバイアス層23、及び上側絶縁層24の順に積層する(図9を参照)。
【0088】
そして前記リフトオフ用レジスト層30を除去し、前記積層体T1及び前記上側絶縁層24上に上部シールド層26を形成する。
【0089】
上記したトンネル型磁気検出素子の製造方法では、前記積層体T1の形成後にアニール処理を含む。代表的なアニール処理は、前記反強磁性層3と第1固定磁性層4a間に交換結合磁界(Hex)を生じさせるためのアニール処理である。
【0090】
本実施形態では、図3で説明したように第2固定磁性層4cを下側強磁性層4c1、Taから成る第2挿入層4c2及び上側強磁性層4c3の積層構造で形成してもよい。または、図4で説明したように第1固定磁性層4aを、下側強磁性層4a1、第3挿入層4c4及び上側強磁性層4c3の積層構造で形成し、且つ、第2固定磁性層4cを下側強磁性層4c1、Taから成る第2挿入層4c2及び上側強磁性層4c3の積層構造で形成してもよい。
【0091】
本実施形態のトンネル型磁気検出素子は、ハードディスク装置に内蔵される磁気ヘッドとしての用途以外に、MRAM(磁気抵抗メモリ)や磁気センサとして用いることが出来る。
【実施例1】
【0092】
図2のように第1固定磁性層の膜厚内に第1挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子を形成した。
【0093】
積層体T1を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c;Co90at%Fe10at%(28)]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[Fe90at%Co10at%(10)/Ni88at%Fe12at%(50)]/Ru(10)/保護層7;Ta(180)の順に積層した。
【0094】
実験では、第1固定磁性層4aを、図2のように、下から下側強磁性層4a1:Co70at%Fe30at%(12)/第1挿入層4a2:Ta(X)/上側強磁性層4a3:Co70at%Fe30at%(14)の順に積層した。
【0095】
また実験では、絶縁障壁層5を、下からTi(4.6)/Mg(0.6)の順に積層した後、Ti及びMgを酸化処理して成るTi−Mg−Oで形成した。
【0096】
上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
前記積層体T1を形成した後、270℃で3時間40分間、アニール処理を行った。
【0097】
また上記した積層体T1中、前記第1挿入層4a2を形成しない比較基準としての従来例を製造した。なおこの従来例の層間結合磁界Hin、及び、RAは、後述する図12,図13のグラフ上にも掲載した。
【0098】
実験では、第1挿入層4a2の平均膜厚(X)と、層間結合磁界Hinとの関係、及び第1挿入層4a2の平均膜厚(X)と、RAとの関係を調べた。
【0099】
図10は、第1挿入層4a2の平均膜厚と層間結合磁界Hinとの関係を示すグラフである。図11は、第1挿入層4a2の平均膜厚とRAとの関係を示すグラフである。
【0100】
図10に示すように、第1挿入層4a2の平均膜厚を、1Åから3Åの範囲内にすると、層間結合磁界Hinは、従来例とほぼ同じか、あるいは従来例よりもやや低い値となった。また第1挿入層4a2の平均膜厚を3Åよりも厚くすると、前記層間結合磁界Hinは、従来例に比べて大きく低下し、特に、前記第1挿入層4a2の平均膜厚を4Å以上にすると従来例の層間結合磁界Hinに対してほぼ半減した。
【0101】
図11に示すように、第1挿入層4a2の平均膜厚を1Åから6Åの範囲内にすると、RAは、従来例とほぼ同じ値となった。
【0102】
図10,図11に示す実験結果から、前記第1固定磁性層4aの膜厚内に、Taからなる第1挿入層4a2を挿入した場合、前記第1挿入層4a2の平均膜厚を3Åより大きく6Å以下に設定すると、第1挿入層4a2を形成しない従来例とほぼ同じRAを得ることができ、且つ、層間結合磁界Hinを従来例よりも低く出来ることがわかった。特に、前記第1挿入層4a2の平均膜厚を4Å以上で5Å以下に設定すると、従来例に比べて、十分に層間結合磁界Hinを低く出来ることがわかった。
【0103】
また抵抗変化率(ΔR/R)は、前記第1固定磁性層4aの膜厚内に、3Åよりも大きく6Å以下の平均膜厚からなるTaの第1挿入層4a2を挿入したトンネル型磁気検出素子の構造(実施例1)では、26〜29%程度だったのに対し、従来例では28%程度であった。このように実施例1では、RAのみならず抵抗変化率(ΔR/R)も、従来例とほぼ同じになることがわかった。
【実施例2】
【0104】
図3のように第2固定磁性層の膜厚内に第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子を形成した。
【0105】
積層体T1を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a:Co70at%Fe30at%(24)/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[Fe90at%Co10at%(10)/Ni86at%Fe14at%(50)]/Ru(10)/保護層7;Ta(180)の順に積層した。
【0106】
実験では、第2固定磁性層4cを、図3のように、下から下側強磁性層4c1:Co90at%Fe10at%(12)/第2挿入層4c2:Ta(Y)/上側強磁性層4c3:Co90at%Fe10at%(20)の順に積層した。
【0107】
また実験では、絶縁障壁層5を、下からTi(4.6)/Mg(0.6)の順に積層した後、Ti及びMgを酸化処理して成るTi−Mg−Oで形成した。
【0108】
上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
前記積層体T1を形成した後、270℃で3時間40分間、アニール処理を行った。
【実施例3】
【0109】
図4のように、第1固定磁性層の膜厚内に第3挿入層を挿入し、且つ、第2固定磁性層の膜厚内に第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子を形成した。
【0110】
積層体T1を、下から、下地層1;Ta(30)/シード層2;Ni49at%Fe12at%Cr39at%(50)/反強磁性層3;Ir26at%Mn74at%(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a/非磁性中間層4b;Ru(8.5)/第2固定磁性層4c]/絶縁障壁層5/フリー磁性層6[Fe90at%Co10at%(10)/Ni86at%Fe14at%(50)]/Ru(10)/保護層7;Ta(180)の順に積層した。
【0111】
実験では、第1固定磁性層4aを、図4のように、下から下側強磁性層4a1:Co70at%Fe30at%(12)/第3挿入層4a4:Ta(Y)/上側強磁性層4a3:Co70at%Fe30at%(14)の順に積層した。また、第2固定磁性層4cを、図4のように、下から下側強磁性層4c1:Co90at%Fe10at%(12)/第2挿入層4c2:Ta(Y)/上側強磁性層4c3:Co90at%Fe10at%(20)の順に積層した。
【0112】
また実験では、絶縁障壁層5を、下からTi(4.6)/Mg(0.6)の順に積層した後、Ti及びMgを酸化処理して成るTi−Mg−Oで形成した。
上記の括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
【0113】
前記積層体T1を形成した後、270℃で3時間40分間、アニール処理を行った。
また第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4の平均膜厚(Y)は共に同じ値にして変化させた。
【0114】
実験では、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)、及び、図4の構造での第3挿入層4a4と第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)と、層間結合磁界Hinとの関係を調べた。その実験結果を図12に示す。
【0115】
また、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)、及び、図4の構造での第3挿入層4a4と第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)と、RAとの関係を調べた。その実験結果を図13に示す。
【0116】
図12に示すように、層間結合磁界Hinは、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)を1Å以上にすると、従来例よりも低下することがわかった。
【0117】
また図12に示すように、層間結合磁界Hinは、図4の構造での第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4の平均膜厚(Y)を1Å以上にすると、従来例よりも低下することがわかった。
【0118】
一方、図13に示すように、RAは、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)を3Åより大きくすると、従来例よりも大きく低下することがわかった。
【0119】
また、図13に示すように、RAは、図4の構造での第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4の平均膜厚(Y)を3Åよりも大きくすると、従来例よりも大きく低下することがわかった。
【0120】
よって、図3の構造での第2挿入層4c2の平均膜厚(Y)を1Å以上で3Å以下に設定することで、従来例とほぼ同じRAを得ることができ、且つ、従来例よりも層間結合磁界Hinを低減できることがわかった。
【0121】
また抵抗変化率(ΔR/R)は、前記第2固定磁性層4cの膜厚内に、1Å以上で3Å以下の平均膜厚からなるTaの第2挿入層4c2を挿入したトンネル型磁気検出素子の構造(実施例2)で、26〜29%程度だったのに対し、従来例では28%程度であった。このように実施例2では、RAのみならず抵抗変化率(ΔR/R)も、従来例とほぼ同じになることがわかった。
【0122】
また図12,図13に示すように、図4の構造での第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4の平均膜厚(Y)を1Å以上で3Å以下に設定することで、従来例とほぼ同じRAを得ることができ、且つ、従来例よりも層間結合磁界Hinを低減できることがわかった。
【0123】
特に、図13に示すように、図3の構造よりも、図4の構造とするほうが、1Åから3Åの範囲内でTa挿入厚を変化させても、従来例に対するRAの変動を小さくでき好適であることがわかった。
【0124】
また抵抗変化率(ΔR/R)は、前記第2固定磁性層4cの膜厚内、及び第1固定磁性層4aの膜厚内に、1Å以上で3Å以下の平均膜厚からなるTaの第2挿入層4c2及び第3挿入層4a4を挿入したトンネル型磁気検出素子の構造(実施例3)で、26〜29%程度だったのに対し、従来例では28%程度であった。このように実施例3では、RAのみならず抵抗変化率(ΔR/R)も、従来例とほぼ同じになることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】トンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図、
【図2】第1の実施形態における固定磁性層の構造を示す図1の部分拡大断面図、
【図3】第2の実施形態における固定磁性層の構造を示す図1の部分拡大断面図、
【図4】第3の実施形態における固定磁性層の構造を示す図1の部分拡大断面図、
【図5】図5は、図6の製造工程中におけるトンネル型磁気検出素子のうち、主として、固定磁性層の第1固定磁性層の積層構造を示す部分拡大断面図、
【図6】製造工程中におけるトンネル型磁気検出素子の部分断面図、
【図7】図6の次に行われる一工程図(部分断面図)、
【図8】図7の次に行われる一工程図(部分断面図)、
【図9】図8の次に行われる一工程図(部分断面図)、
【図10】図2のように、第1固定磁性層の膜厚内に第1挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第1挿入層の平均膜厚(X)と層間結合磁界Hinとの関係を示すグラフ、
【図11】図2のように、第1固定磁性層の膜厚内に第1挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第1挿入層の平均膜厚(X)とRAとの関係を示すグラフ、
【図12】図3のように、第2固定磁性層の膜厚内に第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第2挿入層の平均膜厚(Y)、あるいは、図4のように、第1固定磁性層の膜厚内、及び第2固定磁性層の膜厚内に第3挿入層及び第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第3挿入層及び第2挿入層の平均膜厚(Y)と層間結合磁界Hinとの関係を示すグラフ、
【図13】図3のように、第2固定磁性層の膜厚内に第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第2挿入層の平均膜厚(Y)、あるいは、図4のように、第1固定磁性層の膜厚内、及び第2固定磁性層の膜厚内に第3挿入層及び第2挿入層を挿入したトンネル型磁気検出素子の前記第3挿入層及び第2挿入層の平均膜厚(Y)とRAとの関係を示すグラフ、
【符号の説明】
【0126】
3 反強磁性層
4、 固定磁性層
4a 第1固定磁性層
4a1 下側強磁性層
4a2 第1挿入層
4a3 上側強磁性層
4a4 第3挿入層
4b 非磁性中間層
4c 第2固定磁性層
4c1 下側強磁性層
4c2 第2挿入層
4c3 上側強磁性層
5 絶縁障壁層
6 フリー磁性層
7 保護層
22、24 絶縁層
23 ハードバイアス層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下から下部磁性層、絶縁障壁層、上部磁性層の順で積層され、前記下部磁性層及び前記上部磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記下部磁性層は、下から第1磁性層、非磁性中間層及び第2磁性層の順に積層された積層フェリ構造であり、
前記第1磁性層は、非磁性金属材料で形成された少なくとも一層の第1挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第1挿入層は、3Åよりも大きく6Å以下の平均膜厚で形成されることを特徴とするトンネル型磁気検出素子。
【請求項2】
前記第1挿入層は4Å以上で5Å以下の平均膜厚で形成される請求項1記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項3】
前記第1挿入層が一層だけ設けられ、前記第1挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第1挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第1挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第1挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第1挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚い請求項1又は2に記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項4】
前記第1挿入層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成される請求項1ないし3のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項5】
下から下部磁性層、絶縁障壁層、上部磁性層の順で積層され、前記下部磁性層及び前記上部磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記下部磁性層は、下から第1磁性層、非磁性中間層及び第2磁性層の順に積層された積層フェリ構造であり、
前記第2磁性層は、Taで形成された少なくとも一層の第2挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第2挿入層は、1Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成されることを特徴とするトンネル型磁気検出素子。
【請求項6】
前記第2挿入層が一層だけ設けられ、前記第2挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第2挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第2挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第2挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第2挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚い請求項5記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項7】
前記第1磁性層は、非磁性金属材料で形成された少なくとも一層の第3挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第3挿入層は、1Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成される請求項5又は6に記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項8】
前記第3挿入層が一層だけ設けられ、前記第3挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第3挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第3挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第3挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第3挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚い請求項7記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項9】
前記第3挿入層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成される請求項7又は8に記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項10】
前記第2挿入層、あるいは、第2挿入層及び前記第3挿入層は、2Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成される請求項5ないし9のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項11】
前記絶縁障壁層は、Ti−Mg−O,Ti−O,あるいは、Al−Oのいずれかで形成される請求項1ないし10のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項12】
前記下部磁性層は、前記固定磁性層であり、前記上部磁性層は前記フリー磁性層である請求項1ないし11のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項13】
前記強磁性層はCo−Feで、第1挿入層及び第3挿入層はTaであり、前記第1磁性層、あるいは、前記第2磁性層、又は、前記第1磁性層及び前記第2磁性層は、Co−Fe/Ta/Co−Feの積層構造で形成される請求項12記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項1】
下から下部磁性層、絶縁障壁層、上部磁性層の順で積層され、前記下部磁性層及び前記上部磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記下部磁性層は、下から第1磁性層、非磁性中間層及び第2磁性層の順に積層された積層フェリ構造であり、
前記第1磁性層は、非磁性金属材料で形成された少なくとも一層の第1挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第1挿入層は、3Åよりも大きく6Å以下の平均膜厚で形成されることを特徴とするトンネル型磁気検出素子。
【請求項2】
前記第1挿入層は4Å以上で5Å以下の平均膜厚で形成される請求項1記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項3】
前記第1挿入層が一層だけ設けられ、前記第1挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第1挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第1挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第1挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第1挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚い請求項1又は2に記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項4】
前記第1挿入層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成される請求項1ないし3のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項5】
下から下部磁性層、絶縁障壁層、上部磁性層の順で積層され、前記下部磁性層及び前記上部磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記下部磁性層は、下から第1磁性層、非磁性中間層及び第2磁性層の順に積層された積層フェリ構造であり、
前記第2磁性層は、Taで形成された少なくとも一層の第2挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第2挿入層は、1Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成されることを特徴とするトンネル型磁気検出素子。
【請求項6】
前記第2挿入層が一層だけ設けられ、前記第2挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第2挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第2挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第2挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第2挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚い請求項5記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項7】
前記第1磁性層は、非磁性金属材料で形成された少なくとも一層の第3挿入層が強磁性層間に介在する積層構造で形成され、前記第3挿入層は、1Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成される請求項5又は6に記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項8】
前記第3挿入層が一層だけ設けられ、前記第3挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は前記第3挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚く、又は、前記第3挿入層が複数、設けられ、最も上側に位置する前記第3挿入層上の前記強磁性層の平均膜厚は、最も下側に位置する前記第3挿入層下の前記強磁性層の平均膜厚よりも厚い請求項7記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項9】
前記第3挿入層は、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのうち少なくともいずれか1種で形成される請求項7又は8に記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項10】
前記第2挿入層、あるいは、第2挿入層及び前記第3挿入層は、2Å以上で3Å以下の平均膜厚で形成される請求項5ないし9のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項11】
前記絶縁障壁層は、Ti−Mg−O,Ti−O,あるいは、Al−Oのいずれかで形成される請求項1ないし10のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項12】
前記下部磁性層は、前記固定磁性層であり、前記上部磁性層は前記フリー磁性層である請求項1ないし11のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項13】
前記強磁性層はCo−Feで、第1挿入層及び第3挿入層はTaであり、前記第1磁性層、あるいは、前記第2磁性層、又は、前記第1磁性層及び前記第2磁性層は、Co−Fe/Ta/Co−Feの積層構造で形成される請求項12記載のトンネル型磁気検出素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−166524(P2008−166524A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354993(P2006−354993)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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