説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】自動変速機による変速時、モーター作動範囲が制限されるような影響を受けたとしても、目標入力回転数特性に精度良く追従するフィードバック制御を確保することで、変速ショックを抑えた変速制御を達成することができるハイブリッド車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジンEngとモータージェネレータMGを有する駆動源の下流位置に自動変速機ATを搭載し、自動変速機ATによる変速時、実入力回転数が設定された目標入力回転数特性に追従するように、モータージェネレータMGの回転数をフィードバック制御するFRハイブリッド車両の制御装置である。変速機入力回転数制御手段(図6)は、変速機入力回転数のフィードバック制御時、モータージェネレータMGのアシスト状態が力行または回生である場合、モータージェネレータMGによる力行または回生を制限すると共に、制限されたアシストトルク分を、エンジンEngからのエンジントルクにて補う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータージェネレータを有する駆動源の下流位置に自動変速機を搭載したハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両は、駆動源としてモータージェネレータを備えるとともに、摩擦係合要素の係合により所定の変速段を達成する自動変速機を備えていた。そして、変速時に、自動変速機の変速中の目標入力回転数特性を設定し、自動変速機の実際の入力回転数が、設定された目標入力回転数特性をトレースするように、モータージェネレータの回転数をフィードバック制御していた。これにより、モータージェネレータにより自動変速機の入力回転数を精度良く制御することで、変速ショックをなくしていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10-257610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のハイブリッド車両の制御装置にあっては、バッテリ充電状態等の影響により、モータージェネレータが動作可能な作動範囲が制限された場合、フィードバック制御中にモータージェネレータの作動範囲に制限がかかり、目標入力回転数特性に追従できない、という問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、自動変速機による変速時、モーター作動範囲が制限されるような影響を受けたとしても、目標入力回転数特性に精度良く追従するフィードバック制御を確保することで、変速ショックを抑えた変速制御を達成することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の制御装置では、エンジンとモータージェネレータを有する駆動源の下流位置に、摩擦締結要素の掛け替えにより複数の変速段を達成する自動変速機を搭載し、前記自動変速機による変速時、実入力回転数が設定された目標入力回転数特性に追従するように、前記モータージェネレータの回転数をフィードバック制御する変速機入力回転数制御手段を備えている。
このハイブリッド車両の制御装置において、前記変速機入力回転数制御手段は、変速機入力回転数のフィードバック制御時、前記モータージェネレータのアシスト状態が力行または回生である場合、前記モータージェネレータによる力行または回生を制限すると共に、制限されたアシストトルク分を、前記エンジンからのエンジントルクにて補う。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明のハイブリッド車両の制御装置にあっては、変速機入力回転数のフィードバック制御時、変速機入力回転数制御手段において、モータージェネレータのアシスト状態が力行または回生である場合、モータージェネレータによる力行または回生が制限されると共に、制限されたアシストトルク分が、エンジンからのエンジントルクにて補われる。
すなわち、モータージェネレータによるアシストトルクを制限する、言い換えると、トルク制御に制限をかけることで、モータージェネレータによる回転数制御範囲であるモーター作動範囲が拡大される。そして、制限されたアシストトルク分をエンジントルクにて補うことで、自動変速機への入力トルクが一定に保たれる。したがって、バッテリ充電状態等の影響があっても、モータージェネレータの作動範囲に制限がかかることなく、実入力回転数が設定された目標入力回転数特性に追従するフィードバック制御が確保される。また、モータージェネレータによる入力回転制御中、摩擦締結要素およびエンジンのトルク指令値に対する実トルクのズレが、目標入力回転数特性の追従性を悪化させるが、モーター作動範囲の拡大により、実トルクのズレがフィードバック制御で吸収される。
この結果、自動変速機による変速時、モーター作動範囲が制限されるような影響を受けたとしても、目標入力回転数特性に精度良く追従するフィードバック制御を確保することで、変速ショックを抑えた変速制御を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1および実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。
【0009】
実施例1におけるFRハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1と、モータージェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RLと、右後輪RRと、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0010】
前記エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0011】
前記第1クラッチCL1は、前記エンジンEngとモータージェネレータMGの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、半クラッチ状態を含み締結・開放が制御される。
【0012】
前記モータージェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータージェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータージェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータージェネレータMGのロータは、ダンパーを介して自動変速機ATの変速機入力軸に連結されている。
【0013】
前記第2クラッチCL2は、前記モータージェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結とスリップ開放を含み締結・開放が制御される。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設されるAT油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵している。
【0014】
前記自動変速機ATは、例えば、前進7速/後退1速等の有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える有段変速機であり、前記第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、トルク伝達経路に配置される最適なクラッチやブレーキを選択している。そして、前記自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0015】
前記第1クラッチCL1としては、例えば、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14により締結・開放が制御される乾式単板クラッチが用いられる。前記第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。このハイブリッド駆動系は、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて、電気自動車走行モード(以下、「EVモード」という。)とハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)の2つの走行モードを有する。「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、モータージェネレータMGの動力のみで走行するモードである。「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、エンジン走行モード・モータアシスト走行モード・走行発電モードの何れかにより走行するモードである。
【0016】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるFRハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0017】
前記エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0018】
前記モータコントローラ2は、モータージェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータージェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報は、モータージェネレータMGの制御情報に用いられると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0019】
前記第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0020】
前記ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18(変速機入力回転数センサ、インヒビタースイッチ等)からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点がシフトマップ上で存在する位置により最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。なお、シフトマップとは、アクセル開度と車速に応じてアップシフト線とダウンシフト線を書き込んだマップをいう。上記自動変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令を入力した場合、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。
【0021】
前記ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの回生協調制御指令と、他の必要情報を入力する。そして、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、回生協調ブレーキ制御を行う。
【0022】
前記統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モーター回転数Nmを検出するモーター回転数センサ21や他のセンサ・スイッチ類22からの必要情報およびCAN通信線11を介して情報を入力する。そして、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0023】
図2は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10にて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。図3は、FRハイブリッド車両の統合コントローラ10でのモード選択処理を行う際に用いられるEV-HEV選択マップを示す図である。以下、図2及び図3に基づき、実施例1の統合コントローラ10にて実行される演算処理を説明する。
【0024】
前記統合コントローラ10は、図2に示すように、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400とを有する。
【0025】
前記目標駆動力演算部100では、目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0026】
前記モード選択部200では、図3に示すEV-HEV選択マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、「EVモード」または「HEVモード」を目標走行モードとして選択する。但し、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEVモード」を目標走行モードとする。
【0027】
前記目標充放電演算部300では、目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
【0028】
前記動作点指令部400では、アクセル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標走行モードと、車速VSPと、目標充放電電力tP等の入力情報に基づき、動作点到達目標として、目標エンジントルクと目標MGトルクと目標MG回転数と目標CL1トルクと目標CL2トルクを演算する。そして、目標エンジントルク指令と目標MGトルク指令と目標MG回転数指令と目標CL1トルク指令と目標CL2トルク指令を、CAN通信線11を介して各コントローラ1,2,5,7に出力する。
【0029】
図4は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示すスケルトン図である。
【0030】
前記自動変速機ATは、前進7速後退1速の有段式自動変速機であり、エンジンEgとモータージェネレータMGのうち、少なくとも一方からの駆動力が変速機入力軸Inputから入力され、4つの遊星ギアと7つの摩擦締結要素とによって回転速度が変速されて変速機出力軸Outputから出力される。次に、変速機入力軸Inputと変速機出力軸Outputとの間の変速ギア機構(変速機構)について説明する。
【0031】
変速機入力軸Input側から変速機出力軸Output側までの軸上に、順に第1遊星ギアG1と第2遊星ギアG2による第1遊星ギアセットGS1及び第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4による第2遊星ギアセットGS2が配置されている。また、摩擦締結要素として第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第4ブレーキB4が配置されている。また、第1ワンウェイクラッチF1と第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。
【0032】
前記第1遊星ギアG1は、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、両ギアS1,R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリアPC1と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0033】
前記第2遊星ギアG2は、第2サンギアS2と、第2リングギアR2と、両ギアS2,R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリアPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0034】
前記第3遊星ギアG3は、第3サンギアS3と、第3リングギアR3と、両ギアS3,R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリアPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0035】
前記第4遊星ギアG4は、第4サンギアS4と、第4リングギアR4と、両ギアS4,R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリアPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0036】
前記変速機入力軸Inputは、第2リングギアR2に連結され、走行用駆動源(エンジンEgとモータージェネレータMG)からの回転駆動力を入力する。前記変速機出力軸Outputは、第3キャリアPC3に連結され、出力回転駆動力を、ファイナルギア等を介して駆動輪(左右後輪RL,RR)に伝達する。
【0037】
前記第1リングギアR1と第2キャリアPC2と第4リングギアR4とは、第1連結メンバM1により一体的に連結される。前記第3リングギアR3と第4キャリアPC4とは、第2連結メンバM2により一体的に連結される。前記第1サンギアS1と第2サンギアS2とは、第3連結メンバM3により一体的に連結される。
【0038】
前記第1遊星ギアセットGS1は、第1遊星ギアG1と第2遊星ギアG2とを、第1連結メンバM1と第3連結メンバM3とによって連結することで、4つの回転要素を有して構成される。また、第2遊星ギアセットGS2は、第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4とを、第2連結メンバM2によって連結することで、5つの回転要素を有して構成される。
【0039】
前記第1遊星ギアセットGS1では、トルクが変速機入力軸Inputから第2リングギアR2に入力され、入力されたトルクは第1連結メンバM1を介して第2遊星ギアセットGS2に出力される。前記第2遊星ギアセットGS2では、トルクが変速機入力軸Inputから直接第2連結メンバM2に入力されると共に、第1連結メンバM1を介して第4リングギアR4に入力され、入力されたトルクは第3キャリアPC3から変速機出力軸Outputに出力される。
【0040】
前記第1クラッチC1(インプットクラッチI/C)は、変速機入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。前記第2クラッチC2(ダイレクトクラッチD/C)は、第4サンギアS4と第4キャリアPC4とを選択的に断接するクラッチである。前記第3クラッチC3(H&LRクラッチH&LR/C)は、第3サンギアS3と第4サンギアS4とを選択的に断接するクラッチである。
【0041】
また、前記第2ワンウェイクラッチF2は、第3サンギアS3と第4サンギアS4の間に配置されている。これにより、第3クラッチC3が開放され、第3サンギアS3よりも第4サンギアS4の回転速度が大きい時、第3サンギアS3と第4サンギアS4とは独立した回転速度を発生する。よって、第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギアが独立したギア比を達成する。
【0042】
前記第1ブレーキB1(フロントブレーキFr/B)は、第1キャリアPC1の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。また、第1ワンウェイクラッチF1は、第1ブレーキB1と並列に配置されている。前記第2ブレーキB2(ローブレーキLOW/B)は、第3サンギアS3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。前記第3ブレーキB3(2346ブレーキ2346/B)は、第1サンギアS1及び第2サンギアS2を連結する第3連結メンバM3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。前記第4ブレーキB4(リバースブレーキR/B)は、第4キャリアPC3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。
【0043】
図5は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦締結要素の締結状態を示す締結作動表である。なお、図2において、○印は当該摩擦締結要素が締結状態であることを示し、(○)印は少なくともエンジンブレーキ作動時に当該摩擦締結要素が締結状態であることを示し、無印は当該摩擦締結要素が開放状態であることを示す。
【0044】
上記のように構成された変速ギア機構に設けられた各摩擦締結要素のうち、締結していた1つの摩擦締結要素を開放し、開放していた1つの摩擦締結要素を締結するという掛け替え変速を行うことで、下記のように、前進7速で後退1速の変速段を実現することができる。
【0045】
すなわち、「1速段」では、第2ブレーキB2のみが締結状態となり、これにより第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「2速段」では、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3が締結状態となり、第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「3速段」では、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3及び第2クラッチC2が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2はいずれも係合しない。「4速段」では、第3ブレーキB3、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「5速段」では、第1クラッチC1、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「6速段」では、第3ブレーキB3、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となる。「7速段」では、第1ブレーキB1、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1が係合する。「後退速段」では、第4ブレーキB4、第1ブレーキB1及び第3クラッチC3が締結状態となる。
【0046】
ここで、図1に示す第2クラッチCL2としては、各変速段にて締結される摩擦締結要素を選択可能であるが、例えば、「1速段〜3速段」で第2ブレーキB2、「4速段」で第2クラッチC2、「5速段」で第3クラッチC3、「6速段と7速段」で第1クラッチC1が用いられる。
【0047】
図6は、実施例1の統合コントローラ10にて実行される変速機入力回転数制御処理の流れを示すフローチャートである(変速機入力回転数制御手段)。以下、図6に示す各ステップについて説明する。なお、この制御処理は、第1クラッチCL1が締結されている「HEVモード」のときに実行される。
【0048】
ステップS101では、変速指令が出力されているか否かを判断し、YES(変速指令出力有り)の場合はステップS102へ進み、NO(変速指令出力無し)の場合はステップS101での判断を繰り返す。
ここで、変速指令は、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まるシフトマップ上での運転点が、アップシフト線を横切ったらアップシフト変速指令が出力され、ダウンシフト線を横切ったらダウンシフト変速指令が出力される。
【0049】
ステップS102では、ステップS101での変速指令出力有りとの判断に続き、締結側摩擦締結要素と開放側摩擦締結要素への油圧制御が進行し、トルクフェーズを経過して変速機入力回転数が変化(=ギヤ比が変化)するイナーシャフェーズが開始されたか否かを判断し、YES(イナーシャフェーズ開始直後)の場合はステップS103へ進み、NO(イナーシャフェーズ開始前)の場合はステップS102での判断を繰り返す。
ここで、イナーシャフェーズの開始判断は、例えば、変速の進行状況を、実ギア比変化により監視し、実ギア比が変速前ギア比から変速後ギア比に向かって僅かに変化したことを検知して判断する。なお、実ギア比は、変速機入力回転数と変速機出力回転数から演算により求められる。
【0050】
ステップS103では、ステップS102でのイナーシャフェーズ開始直後であるとの判断に続き、モータージェネレータMGは力行(モータートルクが正)であるか、回生(モータトルクが負)であるかを判断し、力行の場合にはステップS104へ進み、回生の場合はステップS111へ進む。
【0051】
ステップS104では、ステップS103でのモータージェネレータMGは力行であるとの判断に続き、モータージェネレータMGの力行制限を開始すると共に、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御を開始し、ステップS105へ進む。
ここで、モータージェネレータMGの力行制限は、正のモータートルクをゼロにするトルク低減により行われる。また、入力回転数フィードバック制御は、実入力回転数(=モーター回転数)を、変速の種類や変速状況等に応じて設定された目標入力回転数特性に追従させることで行われる。
【0052】
ステップS105では、ステップS104でのモータージェネレータMGの力行制限と入力回転数FB制御の開始に続き、変速速度を早める変速促進分と、力行制限によるモータートルクの減少分を補う制限補填分を考慮したエンジンEngのトルク変更制御を開始し、ステップS105へ進む。
このエンジンEngのトルク変更制御は、アップシフトの場合、トルクカット分トルクから制限補填分トルクを差し引いたトルクを変更分とし、この変更分トルクを通常のエンジントルク指令から差し引くことで行われる。また、ダウンシフトの場合、トルクアップ分トルクに制限補填分トルクを加えたトルクを変更分とし、この変更分トルクを通常のエンジントルク指令に加えることで行われる。
【0053】
ステップS106では、ステップS105でのエンジンEngのトルク変更制御開始に続き、実ギア比GRが第1設定ギア比GR1に達したか否かを判断し、YES(GRがGR1に到達)の場合はステップS106へ進み、NO(GRがGR1に未達)の場合はステップS106の判断を繰り返す。
ここで、第1設定ギア比GR1は、アップシフトやダウンシフトによる変速の進行状況が、変速前半領域を経過したことを示す閾値として設定されている。
【0054】
ステップS107では、ステップS106でのGRがGR1に到達との判断に続き、エンジンEngのトルク変更制御のうち、制限補填分を残したままで、変速速度を早める変速促進分のトルクを復帰させ、ステップS108へ進む。
【0055】
ステップS108では、ステップS107での変速促進分のトルク復帰に続き、実ギア比GRが第2設定ギア比GR2に達したか否かを判断し、YES(GRがGR2に到達)の場合はステップS109へ進み、NO(GRがGR2に未達)の場合はステップS108の判断を繰り返す。
ここで、第2設定ギア比GR2は、アップシフトやダウンシフトによる変速の進行状況が、変速終了域を経過したことを示す閾値として設定されている。
【0056】
ステップS109では、ステップS108でのGRがGR2に到達との判断に続き、モータージェネレータMGの力行制限を終了すると共に、エンジンEngのトルク変更制御のうち、残したままの制限補填分のトルクを復帰させ、ステップS110へ進む。
【0057】
ステップS110では、ステップS109でのモータージェネレータMGの力行制限終了と制限補填分トルクの復帰に続き、実ギア比GRが終了設定ギア比GR_endに達したか否かを判断し、YES(GRがGR_endに到達)の場合はステップS111へ進み、NO(GRがGR_endに未達)の場合はステップS110の判断を繰り返す。
ここで、終了設定ギア比GR_endは、アップシフトやダウンシフトによる変速の進行状況が、変速後の変速段でのギア比に到達した、つまり、イナーシャフェーズが終了したことを示す閾値として設定されている。
【0058】
ステップS111では、ステップS110でのGRがGR_endに到達との判断に続き、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御を終了し、リターンへ進む。
【0059】
ステップS112では、ステップS103でのモータージェネレータMGは回生であるとの判断に続き、モータージェネレータMGの回生制限を開始すると共に、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御を開始し、ステップS113へ進む。
ここで、モータージェネレータMGの回生制限は、負のモータートルクをゼロにするトルク上昇により行われる。
【0060】
ステップS113では、ステップS112でのモータージェネレータMGの回生制限と入力回転数FB制御の開始に続き、変速速度を早める変速促進分と、回生制限によるモータートルクの増加分を補う制限補填分を考慮したエンジンEngのトルク変更制御を開始し、ステップS114へ進む。
このエンジンEngのトルク変更制御は、アップシフトの場合、トルクカット分トルクに制限補填分トルクを加えたトルクを変更分とし、この変更分トルクを通常のエンジントルク指令から差し引くことで行われる。また、ダウンシフトの場合、トルクアップ分トルクから制限補填分トルクを差し引いたトルクを変更分とし、この変更分トルクを通常のエンジントルク指令に加えることで行われる。
【0061】
ステップS114では、ステップS113でのエンジンEngのトルク変更制御開始に続き、実ギア比GRが第1設定ギア比GR1に達したか否かを判断し、YES(GRがGR1に到達)の場合はステップS115へ進み、NO(GRがGR1に未達)の場合はステップS114の判断を繰り返す。
【0062】
ステップS115では、ステップS114でのGRがGR1に到達との判断に続き、エンジンEngのトルク変更制御のうち、制限補填分を残したままで、変速速度を早める変速促進分のトルクを復帰させ、ステップS116へ進む。
【0063】
ステップS116では、ステップS115での変速促進分のトルク復帰に続き、実ギア比GRが第2設定ギア比GR2に達したか否かを判断し、YES(GRがGR2に到達)の場合はステップS117へ進み、NO(GRがGR2に未達)の場合はステップS116の判断を繰り返す。
【0064】
ステップS117では、ステップS116でのGRがGR2に到達との判断に続き、モータージェネレータMGの回生制限を終了すると共に、エンジンEngのトルク変更制御のうち、残したままの制限補填分のトルクを復帰させ、ステップS118へ進む。
【0065】
ステップS118では、ステップS117でのモータージェネレータMGの回生制限終了と制限補填分トルクの復帰に続き、実ギア比GRが終了設定ギア比GR_endに達したか否かを判断し、YES(GRがGR_endに到達)の場合はステップS119へ進み、NO(GRがGR_endに未達)の場合はステップS118の判断を繰り返す。
【0066】
ステップS119では、ステップS118でのGRがGR_endに到達との判断に続き、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御を終了し、リターンへ進む。
【0067】
次に、作用を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置における作用を、「パワーオンアップシフト時の入力回転数制御作用」、「パワーオフアップシフト時の入力回転数制御作用」に分けて説明する。
【0068】
[パワーオンアップシフト時の入力回転数制御作用]
図7は、モータートルクが力行であるパワーオンアップシフト時におけるエンジン+モータートルク・エンジントルク・モータートルク・変速機入力回転数の各特性を示すタイムチャートである。以下、図6および図7に基づいて、パワーオンアップシフト時の入力回転数制御作用を説明する。
【0069】
例えば、アップシフトの変速指令が出力され、かつ、イナーシャフェーズが開始され、モータージェネレータMGは力行(モータートルクが正)である場合、図6のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS104→ステップS105→ステップS106へと進む。つまり、イナーシャフェーズが開始から実ギア比GRが第1設定ギア比GR1に達する変速前半領域では、ステップS104にて、モータージェネレータMGの力行制限が開始されると共に、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御が開始される。次のステップS105では、変速速度を早める変速促進分と、力行制限によるモータートルクの減少分を補う制限補填分を考慮したエンジンEngのトルク変更制御が開始される。
【0070】
そして、ステップS106にて、実ギア比GRが第1設定ギア比GR1に達したと判断されると、図6のフローチャートにおいて、ステップS106から、ステップS107→ステップS108へと進む。つまり、変速前半領域を経過して変速が進行する中間領域では、ステップS107にて、エンジンEngのトルク変更制御のうち、制限補填分を残したままで、変速速度を早める変速促進分のトルクが復帰させられる。
【0071】
そして、ステップS108にて、実ギア比GRが第2設定ギア比GR2に達したと判断されると、図6のフローチャートにおいて、ステップS108から、ステップS109→ステップS110へと進む。つまり、変速中間領域を経過してイナーシャフェーズが終了するまでの変速終了領域では、ステップS109にて、モータージェネレータMGの力行制限が終了されると共に、エンジンEngのトルク変更制御のうち、残したままの制限補填分のトルクが復帰させられる。
【0072】
そして、ステップS110にて、実ギア比GRが終了設定ギア比GR_endに達したと判断されると、図6のフローチャートにおいて、ステップS110からステップS111へと進む。つまり、イナーシャフェーズが終了すると、ステップS111にて、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御が終了される。
【0073】
上記のように、実施例1の制御装置では、アップシフト時、図7のエンジン+モータートルク特性に示すように、時刻t1から時刻t2まで合計トルクを低減させるトルクカット制御の動作プロフィールに設定される。
このように、イナーシャフェーズの開始からの変速前半領域(t1〜t2)にて、変速機入力トルクのトルクカット制御を行うようにしているため、アップシフト変速が早くなるし、締結側摩擦締結要素の発熱量が小さくなり、耐久性が向上するし、変速ショックも抑制される。
なぜなら、アップシフト時には、エンジンEngの慣性モーメントにより余分に駆動力が発生する、つまり、イナーシャフェーズにおいて、余分なトルクが発生する。そして、この余分なトルクにより、アップシフトで締結される摩擦締結要素にとっては余分な発熱量となり、耐久性を悪化させる。このように、アップシフトは、変速機入力トルクがあり余っている状態であるため、そのときの変速機入力トルクを小さくするトルクカット制御を行うと有効である。そして、変速機入力トルクが小さくなった分、変速は早く完了する。これにより、締結側摩擦締結要素の発熱量が小さくなり、耐久性が向上する。
【0074】
この動作プロフィールに対し、モータージェネレータMGの制御は、図7のモータートルク特性に示すように、時刻t1から時刻t3までの間、力行が制限(モータアシストが中止)される。そして、図7の変速機入力回転数特性に示すように、時刻t1から時刻t4までの間、自動変速機ATの実入力回転数(=モーター回転数)を設定された目標入力回転数特性に追従させる入力回転数フィードバック制御が行われる。なお、図7の変速機入力回転数特性のうち、実線特性は目標入力回転数特性を示し、点線特性は回転数計測バラツキの補償を最大にしたときの特性を示す。
【0075】
一方、上記動作プロフィールに対し、エンジンEngの制御は、図7のエンジントルク特性に示すように、時刻t1から時刻t2までの間、変速速度を早める変速促進分と、力行制限によるモータートルクの減少分を補う制限補填分を考慮したエンジンEngのトルク低減制御が行われる。そして、時刻t2から時刻t3までの間、変速速度を早める変速促進分を無くし、制限補填分のみを考慮したエンジンEngのトルク低減制御が行われる。
【0076】
以上説明したように、実施例1では、アップシフト時、イナーシャフェーズにおいて、下記に述べるモータージェネレータMGとエンジンEngの協調制御が行われる。
【0077】
まず、イナーシャフェーズの開始時刻t1から時刻t3までの間、モータージェネレータMGによる力行が制限される。
例えば、モータージェネレータMGによる力行が制限されない場合、図7に示すように、アシスト時のモーター作動範囲の高トルク側が小さく制限される。
これに対し、力行によるアシストトルクに制限かける、言い換えると、トルク制御に制限をかけることで、モータージェネレータMGによる回転数制御範囲であるモーター作動範囲(ダイナミックレンジ)を拡大する効果がある。
【0078】
そして、制限された力行側のアシストトルク分が、イナーシャフェーズの開始時刻t1から時刻t3までの間、エンジントルクにて補われる。
例えば、モータージェネレータMGの力行制限のみを行うと、制限によるアシストトルク分が、自動変速機ATの入力トルクから減じられることで、制限開始時や制限終了時にトルク段差を生じてしまう。
これに対し、制限された力行側のアシストトルク分をエンジントルクにて補うことで、力行制限を行っているにもかかわらず、自動変速機ATへの入力トルクが一定に保たれる。
【0079】
さらに、時刻t3からイナーシャフェーズが終了する時刻t4までの間は、モータージェネレータMGによる力行制限が解除され、アシストトルクが使用される。
例えば、イナーシャフェーズの終了時にモータージェネレータMGによる力行制限を解除すると、変速終了時にトルク段差感が出てしまう。
これに対し、イナーシャフェーズの終了前の時点からモータージェネレータMGによる力行制限を解除することで、変速終了時にトルク連続性を確保することができる。
【0080】
上記協調制御により、モータージェネレータMGによる入力回転数フィードバック制御時、図7に示すように、モーター作動範囲が広く確保されるため、バッテリ充電状態等の影響があっても、モータージェネレータMGの作動範囲に制限がかかることなく、実入力回転数が設定された目標入力回転数特性に精度良く追従するフィードバック制御が確保される。
【0081】
また、モータージェネレータMGによる入力回転制御中、摩擦締結要素およびエンジンEngのトルク指令値に対する実トルクのズレが、目標入力回転数特性の追従性を悪化させるが、モーター作動範囲の拡大により、実トルクのズレがフィードバック制御で吸収される。
【0082】
[パワーオフアップシフト時の入力回転数制御作用]
図8は、モータートルクが回生であるパワーオフアップシフト時におけるエンジン+モータートルク・エンジントルク・モータートルク・変速機入力回転数の各特性を示すタイムチャートである。以下、図6および図8に基づいて、パワーオフアップシフト時の入力回転数制御作用を説明する。
【0083】
例えば、アップシフトの変速指令が出力され、かつ、イナーシャフェーズが開始され、モータージェネレータMGは回生(モータートルクが負)である場合、図6のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS112→ステップS113→ステップS114へと進む。つまり、イナーシャフェーズが開始から実ギア比GRが第1設定ギア比GR1に達する変速前半領域では、ステップS112にて、モータージェネレータMGの回生制限が開始されると共に、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御が開始される。次のステップS113では、変速速度を早める変速促進分と、回生制限によるモータートルクの増加分を補う制限補填分を考慮したエンジンEngのトルク変更制御が開始される。
【0084】
そして、ステップS114にて、実ギア比GRが第1設定ギア比GR1に達したと判断されると、図6のフローチャートにおいて、ステップS114から、ステップS115→ステップS116へと進む。つまり、変速前半領域を経過して変速が進行する中間領域では、ステップS115にて、エンジンEngのトルク変更制御のうち、制限補填分を残したままで、変速速度を早める変速促進分のトルクが復帰させられる。
【0085】
そして、ステップS116にて、実ギア比GRが第2設定ギア比GR2に達したと判断されると、図6のフローチャートにおいて、ステップS116から、ステップS117→ステップS118へと進む。つまり、変速中間領域を経過してイナーシャフェーズが終了するまでの変速終了領域では、ステップS117にて、モータージェネレータMGの回生制限が終了されると共に、エンジンEngのトルク変更制御のうち、残したままの制限補填分のトルクが復帰させられる。
【0086】
そして、ステップS118にて、実ギア比GRが終了設定ギア比GR_endに達したと判断されると、図6のフローチャートにおいて、ステップS118からステップS119へと進む。つまり、イナーシャフェーズが終了すると、ステップS119にて、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御が終了される。
【0087】
上記のように、実施例1の制御装置では、アップシフト時、図8のエンジン+モータートルク特性に示すように、時刻t1から時刻t2まで合計トルクを低減させるトルクカット制御の動作プロフィールに設定される。
【0088】
この動作プロフィールに対し、モータージェネレータMGの制御は、図8のモータートルク特性に示すように、時刻t1から時刻t3までの間、回生が制限(モータアシストが中止)される。そして、図8の変速機入力回転数特性に示すように、時刻t1から時刻t4までの間、自動変速機ATの実入力回転数(=モーター回転数)を設定された目標入力回転数特性に追従させる入力回転数フィードバック制御が行われる。なお、図8の変速機入力回転数特性のうち、実線特性は目標入力回転数特性を示し、点線特性は回転数計測バラツキの補償を最大にしたときの特性を示す。
【0089】
一方、上記動作プロフィールに対し、エンジンEngの制御は、図8のエンジントルク特性に示すように、時刻t1から時刻t2までの間、変速速度を早める変速促進分と、回生制限によるモータートルクの増加分を補う制限補填分を考慮したエンジンEngのトルク低減制御が行われる。そして、時刻t2から時刻t3までの間、変速速度を早める変速促進分を無くし、制限補填分のみを考慮したエンジンEngのトルク低減制御が行われる。
【0090】
以上説明したように、実施例1では、アップシフト時、イナーシャフェーズにおいて、下記に述べるモータージェネレータMGとエンジンEngの協調制御が行われる。
【0091】
まず、イナーシャフェーズの開始時刻t1から時刻t3までの間、モータージェネレータMGによる回生が制限される。
例えば、モータージェネレータMGによる回生が制限されない場合、図8に示すように、アシスト時のモーター作動範囲の低トルク側が小さく制限される。
これに対し、回生によるアシストトルクに制限かける、言い換えると、トルク制御に制限をかけることで、モータージェネレータMGによる回転数制御範囲であるモーター作動範囲(ダイナミックレンジ)をトルク減少側に拡大する効果がある。
【0092】
そして、制限され回生側のアシストトルク分が、イナーシャフェーズの開始時刻t1から時刻t3までの間、エンジントルクにて補われる。
例えば、モータージェネレータMGの回生制限のみを行うと、制限によるアシストトルク分が、自動変速機ATの入力トルクから増加することで、制限開始時や制限終了時にトルク段差を生じてしまう。
これに対し、制限された回生側のアシストトルク分をエンジントルクにて補うことで、回生制限を行っているにもかかわらず、自動変速機ATへの入力トルクが一定に保たれる。
【0093】
さらに、時刻t3からイナーシャフェーズが終了する時刻t4までの間は、モータージェネレータMGによる回生制限が解除され、アシストトルクが使用される。
例えば、イナーシャフェーズの終了時にモータージェネレータMGによる回生制限を解除すると、変速終了時にトルク段差感が出てしまう。
これに対し、イナーシャフェーズの終了前の時点からモータージェネレータMGによる力行制限を解除することで、変速終了時にトルク連続性を確保することができる。
【0094】
上記協調制御により、モータージェネレータMGによる入力回転数フィードバック制御時、図8に示すように、モーター作動範囲が広く確保されるため、バッテリ充電状態等の影響があっても、モータージェネレータMGの作動範囲に制限がかかることなく、実入力回転数が設定された目標入力回転数特性に精度良く追従するフィードバック制御が確保される。
【0095】
また、モータージェネレータMGによる入力回転制御中、摩擦締結要素およびエンジンEngのトルク指令値に対する実トルクのズレが、目標入力回転数特性の追従性を悪化させるが、モーター作動範囲の拡大により、実トルクのズレがフィードバック制御で吸収される。
【0096】
次に、効果を説明する。
実施例1のFRハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0097】
(1) エンジンEngとモータージェネレータMGを有する駆動源の下流位置に、摩擦締結要素の掛け替えにより複数の変速段を達成する自動変速機ATを搭載し、前記自動変速機ATによる変速時、実入力回転数が設定された目標入力回転数特性に追従するように、前記モータージェネレータMGの回転数をフィードバック制御する変速機入力回転数制御手段を備えたFRハイブリッド車両(ハイブリッド車両)の制御装置において、前記変速機入力回転数制御手段(図6)は、変速機入力回転数のフィードバック制御時、前記モータージェネレータMGのアシスト状態が力行または回生である場合、前記モータージェネレータMGによる力行または回生を制限すると共に、制限されたアシストトルク分を、前記エンジンEngからのエンジントルクにて補う。このため、自動変速機による変速時、モーター作動範囲が制限されるような影響を受けたとしても、目標入力回転数特性に精度良く追従するフィードバック制御を確保することで、変速ショックを抑えた変速制御を達成することができる。
【0098】
(2) 前記変速機入力回転数制御手段(図6)は、アクセル踏み込み操作によるアップシフト時、前記モータージェネレータMGによる力行を制限するようにアシストトルクを低減すると共に、制限されたアシストトルク分を、前記エンジンEngからのエンジントルク増加により補う(図7)。このため、パワーオンアップシフト時、トルク増加方向のモーター作動範囲の拡大により、変速ショックを抑えた良好な変速品質を保ちながら、変速時間の短縮化を図ることができる。
【0099】
(3) 前記変速機入力回転数制御手段(図6)は、アクセル足離し操作によるアップシフト時、前記モータージェネレータMGによる回生を制限するようにアシストトルクを増加すると共に、制限されたアシストトルク分を、前記エンジンEngからのエンジントルク低減により補う(図8)。このため、パワーオフアップシフト時、トルク減少方向のモーター作動範囲の拡大により、変速ショックを抑えた良好な変速品質を保ちながら、変速時間の短縮化を図ることができる。
【0100】
(4) 前記変速機入力回転数制御手段(図6)は、変速フェーズのうち、イナーシャフェーズ領域で、モータージェネレータMGによるアシストトルク制限制御と、制限されたアシストトルク分をエンジントルクにて補うトルク補填制御を行う。このため、必要領域でのみアシストトルク制限制御を実行することで、モータージェネレータMGによるアシストトルク制御を最大限まで長く維持することができる。
【0101】
(5) 前記変速機入力回転数制御手段(図6)は、アップシフト時、イナーシャフェーズの開始領域にて、エンジントルクとモータートルクの合計トルクを低減するトルクダウン制御を行う。このため、アップシフト変速が早くなり、変速時間のさらなる短縮化を図ることができると共に、締結側摩擦締結要素の耐久性向上と変速ショックの抑制を達成することができる。
【実施例2】
【0102】
実施例2は、変速制御開始から変速制御終了までの間、モーターアシストを制限し、エンジントルクにて制限分を補うようにした例である。
【0103】
まず、構成を説明する。
実施例2のFRハイブリッド車両の制御装置のシステム構成等は、実施例1の図1〜図5に示す構成と同様であるので、図示ならびに説明を省略する。
【0104】
図9は、実施例2の統合コントローラ10にて実行される変速機入力回転数制御処理の流れを示すフローチャートである(変速機入力回転数制御手段)。以下、図9に示す各ステップについて説明する。なお、この制御処理は、第1クラッチCL1が締結されている「HEVモード」のときに実行される。
【0105】
ステップS201では、アップシフトの変速指令が出力されているか否かを判断し、YES(アップシフトの変速指令出力有り)の場合はステップS202へ進み、NO(アップシフトの変速指令出力無し)の場合はステップS212へ進む。
ここで、変速指令は、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まるシフトマップ上での運転点が、アクセル開放操作等によりアップシフト線を横切ったらアップシフト変速指令が出力される。
【0106】
ステップS202では、ステップS201でのアップシフトの変速指令出力有りとの判断に続き、モータージェネレータMGの回生制限を開始し、ステップS203へ進む。
【0107】
ステップS203では、ステップS202でのモータージェネレータMGの回生制限開始に続き、回生制限によるモータートルクの増加分を補うエンジンEngの制限補償トルク制御を開始し、ステップS204へ進む。
【0108】
ステップS204では、ステップS203でのエンジンEngの制限補償トルク制御開始に続き、実ギア比GRがイナーシャフェーズ開始設定ギア比GR_stに達したか否かを判断し、YES(GRがGR_stに到達)の場合はステップS205へ進み、NO(GRがGR_stに未達)の場合はステップS204の判断を繰り返す。
ここで、実ギア比は、変速機入力回転数と変速機出力回転数から演算により求められる。また、イナーシャフェーズ開始設定ギア比GR_stは、トルクフェーズを経過して実ギヤ比が変速前ギア比から変速後ギア比に向かって僅かに変化したことを検知する値に設定される。
【0109】
ステップS205では、ステップS204でのGRがGR_stに到達との判断に続き、変速速度を早めるため、エンジンEngとモータージェネレータMGの合計トルクによるトルクカット制御を開始すると共に、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御を開始し、ステップS206へ進む。
ここで、入力回転数フィードバック制御は、実入力回転数(=モーター回転数)を、変速の種類や変速状況等に応じて設定された目標入力回転数特性に追従させることで行われる。
【0110】
ステップS206では、ステップS205でのトルクカット制御開始と入力回転数FB制御の開始に続き、実ギア比GRが中間設定ギア比GR_midに達したか否かを判断し、YES(GRがGR_midに到達)の場合はステップS207へ進み、NO(GRがGR_midに未達)の場合はステップS206の判断を繰り返す。
ここで、中間設定ギア比GR_midは、アップシフトによる変速の進行状況が、変速中間域を経過したことを示す閾値として設定されている。
【0111】
ステップS207では、ステップS206でのGRがGR_midに到達との判断に続き、エンジンEngとモータージェネレータMGの合計トルクによるトルクカット制御を終了し、ステップS208へ進む。
【0112】
ステップS208では、ステップS207での変速促進分のトルクカット制御終了に続き、実ギア比GRがイナーシャフェーズ終了設定ギア比GR_endに達したか否かを判断し、YES(GRがGR_endに到達)の場合はステップS209へ進み、NO(GRがGR_endに未達)の場合はステップS208の判断を繰り返す。
ここで、イナーシャフェーズ終了設定ギア比GR_endは、アップシフトによる変速が進行して次の変速段でのギア比に収束したことを示す閾値として設定されている。
【0113】
ステップS209では、ステップS208でのGRがGR_endに到達との判断に続き、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御を終了し、ステップS210へ進む。
【0114】
ステップS210では、ステップS209での入力回転数フィードバック制御終了に続き、入力回転数フィードバック制御終了時点から起動するタイマーのタイマー値Tが、変速制御終了値Tendに到達したか否かを判断し、YES(TがTendに到達)の場合はステップS211へ進み、NO(TがTendに未達)の場合はステップS210の判断を繰り返す。
ここで、変速制御終了値Tendは、イナーシャフェーズの終了時点から、アップシフト時の締結側と開放側の摩擦締結要素が締結と開放を完了するのに要する時間として設定されている。
【0115】
ステップS211では、ステップS210でのTがTendに到達との判断に続き、モータージェネレータMGの回生制限を終了すると共に、エンジンEngの制限補償トルク制御を終了し、リターンへ進む。
【0116】
ステップS212では、ステップS201でのアップシフトの変速指令が出力無しとの判断に続き、ダウンシフトの変速指令が出力されているか否かを判断し、YES(ダウンシフトの変速指令出力有り)の場合はステップS213へ進み、NO(ダウンシフトの変速指令出力無し)の場合はステップS201へ戻る。
ここで、変速指令は、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まるシフトマップ上での運転点が、アクセル踏み込み操作等によりダウンシフト線を横切ったらダウンシフト変速指令が出力される。
【0117】
ステップS213では、ステップS212でのダウンシフトの変速指令出力有りとの判断に続き、モータージェネレータMGの力行制限を開始し、ステップS214へ進む。
【0118】
ステップS214では、ステップS213でのモータージェネレータMGの力行制限開始に続き、力行制限によるモータートルクの減少分を補うエンジンEngの制限補償トルク制御を開始し、ステップS215へ進む。
【0119】
ステップS215では、ステップS214でのエンジンEngの制限補償トルク制御開始に続き、実ギア比GRがイナーシャフェーズ開始設定ギア比GR_stに達したか否かを判断し、YES(GRがGR_stに到達)の場合はステップS216へ進み、NO(GRがGR_stに未達)の場合はステップS215の判断を繰り返す。
ここで、実ギア比は、変速機入力回転数と変速機出力回転数から演算により求められる。また、イナーシャフェーズ開始設定ギア比GR_stは、トルクフェーズを経過して実ギヤ比が変速前ギア比から変速後ギア比に向かって僅かに変化したことを検知する値に設定される。
【0120】
ステップS216では、ステップS215でのGRがGR_stに到達との判断に続き、変速速度を早めるため、エンジンEngとモータージェネレータMGの合計トルクによるトルクアップ制御を開始すると共に、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御を開始し、ステップS217へ進む。
【0121】
ステップS217では、ステップS216でのトルクアップ制御開始と入力回転数FB制御の開始に続き、実ギア比GRが中間設定ギア比GR_midに達したか否かを判断し、YES(GRがGR_midに到達)の場合はステップS218へ進み、NO(GRがGR_midに未達)の場合はステップS217の判断を繰り返す。
ここで、中間設定ギア比GR_midは、ダウンシフトによる変速の進行状況が、変速中間域を経過したことを示す閾値として設定されている。
【0122】
ステップS218では、ステップS217でのGRがGR_midに到達との判断に続き、エンジンEngとモータージェネレータMGの合計トルクによるトルクアップ制御を終了し、ステップS219へ進む。
【0123】
ステップS219では、ステップS218での変速促進分のトルクアップ制御終了に続き、実ギア比GRがイナーシャフェーズ終了設定ギア比GR_endに達したか否かを判断し、YES(GRがGR_endに到達)の場合はステップS220へ進み、NO(GRがGR_endに未達)の場合はステップS219の判断を繰り返す。
ここで、イナーシャフェーズ終了設定ギア比GR_endは、ダウンシフトによる変速が進行して次の変速段でのギア比に収束したことを示す閾値として設定されている。
【0124】
ステップS220では、ステップS219でのGRがGR_endに到達との判断に続き、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御を終了し、ステップS221へ進む。
【0125】
ステップS221では、ステップS210での入力回転数フィードバック制御終了に続き、入力回転数フィードバック制御終了時点から起動するタイマーのタイマー値Tが、変速制御終了値Tendに到達したか否かを判断し、YES(TがTendに到達)の場合はステップS222へ進み、NO(TがTendに未達)の場合はステップS221の判断を繰り返す。
ここで、変速制御終了値Tendは、イナーシャフェーズの終了時点から、ダウンシフト時の締結側と開放側の摩擦締結要素が締結と開放を完了するのに要する時間として設定されている。
【0126】
ステップS222では、ステップS221でのTがTendに到達との判断に続き、モータージェネレータMGの力行制限を終了すると共に、エンジンEngの制限補償トルク制御を終了し、リターンへ進む。
【0127】
次に、作用を説明する。
実施例2のハイブリッド車両の制御装置における作用を、「パワーオフアップシフト時の入力回転数制御作用」、「パワーオンダウンシフト時の入力回転数制御作用」に分けて説明する。
【0128】
[パワーオフアップシフト時の入力回転数制御作用]
図10は、モータートルクが回生であるパワーオフアップシフト時におけるエンジン+モータートルク・エンジントルク・モータートルク・変速機入力回転数の各特性を示すタイムチャートである。以下、図9および図10に基づいて、パワーオフアップシフト時の入力回転数制御作用を説明する。
【0129】
例えば、アップシフトの変速指令が出力され、かつ、モータージェネレータMGは回生(モータートルクが負)である場合、図9のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS202→ステップS203→ステップS204へと進む。つまり、変速指令出力時からイナーシャフェーズが開始されるまでのトルクフェーズ領域では、ステップS202にて、モータージェネレータMGの回生制限が開始され、次のステップS203では、回生制限によるモータートルクの増加分を補うエンジンEngの制限補償トルク制御が開始される。
【0130】
そして、ステップS204にて、実ギア比GRがイナーシャフェーズ開始設定ギア比GR_stに達したと判断されると、図9のフローチャートにおいて、ステップS204から、ステップS205→ステップS206へと進む。つまり、イナーシャフェーズが開始され変速が中間ギア比まで進行する変速前半領域では、ステップS205にて、エンジンEngとモータージェネレータMGの合計トルクによるトルクカット制御が開始されると共に、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御が開始される。
【0131】
そして、ステップS206にて、実ギア比GRが中間設定ギア比GR_midに達したと判断されると、図9のフローチャートにおいて、ステップS206から、ステップS207→ステップS208へと進む。つまり、変速前半領域を経過してイナーシャフェーズが終了するまでの変速後半領域では、ステップS207にて、エンジンEngとモータージェネレータMGの合計トルクによるトルクカット制御が終了される。
【0132】
そして、ステップS208にて、実ギア比GRがイナーシャフェーズ終了設定ギア比GR_endに達したと判断されると、図9のフローチャートにおいて、ステップS208からステップS209→ステップS210へと進む。つまり、イナーシャフェーズ終了すると、ステップS209にて、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御が終了される。
【0133】
そして、ステップS210にて、タイマー値Tが変速制御終了値Tendに達したと判断されると、図9のフローチャートにおいて、ステップS210からステップS211へ進む。つまり、変速制御終了すると、ステップS211では、モータージェネレータMGの回生制限が終了されると共に、エンジンEngの制限補償トルク制御が終了される。
【0134】
上記のように、実施例2の制御装置では、アップシフト時、図10のエンジン+モータートルク特性に示すように、時刻t1から時刻t2まで合計トルクを低減させるトルクカット制御の動作プロフィールに設定される。
したがって、実施例1と同様に、イナーシャフェーズの開始からの変速前半領域(t1〜t2)にて、変速機入力トルクのトルクカット制御を行うようにしているため、アップシフト変速が早くなるし、締結側摩擦締結要素の発熱量が小さくなり、耐久性が向上するし、変速ショックも抑制される。
【0135】
この動作プロフィールに対し、モータージェネレータMGの制御は、図10のモータートルク特性に示すように、時刻t0から時刻t5までの間、回生が制限(モータアシストが中止)される。そして、図10の変速機入力回転数特性に示すように、時刻t1から時刻t4までの間、自動変速機ATの実入力回転数(=モーター回転数)を設定された目標入力回転数特性に追従させる入力回転数フィードバック制御が行われる。なお、図10の変速機入力回転数特性のうち、実線特性は目標入力回転数特性を示し、点線特性は変速レスポンスの最速を狙ったときの特性を示す。
【0136】
一方、上記動作プロフィールに対し、エンジンEngの制御は、図10のエンジントルク特性に示すように、時刻t0から時刻t5までの間、回生制限によるモータートルクの増加分を補うエンジンEngの制限補償トルク制御が行われる。
【0137】
以上説明したように、実施例2では、アップシフト時、変速制御開始から変速制御終了までの領域において、下記に述べるモータージェネレータMGとエンジンEngの協調制御が行われる。
【0138】
まず、変速制御開始時刻t0から変速制御終了時刻t5までの間、モータージェネレータMGによる回生が制限される。
例えば、モータージェネレータMGによる回生が制限されない場合、図10に示すように、アシスト時のモーター作動範囲の低トルク側が小さく制限される。
これに対し、回生によるアシストトルクに制限かける、言い換えると、トルク制御に制限をかけることで、モータージェネレータMGによる回転数制御範囲であるモーター作動範囲(ダイナミックレンジ)を拡大する効果がある。
【0139】
そして、制限された回生側のアシストトルク分が、変速制御開始時刻t0から変速制御終了時刻t5までの間、エンジントルクにて補われる。
例えば、モータージェネレータMGの回生制限のみを行うと、制限によるアシストトルク分が、自動変速機ATの入力トルクに加わることで、制限開始時や制限終了時にトルク段差を生じてしまう。
これに対し、制限された回生側のアシストトルク分をエンジントルクにて補うことで、回生制限を行っているにもかかわらず、自動変速機ATへの入力トルクが一定に保たれる。
【0140】
しかも、実施例2では、エンジンEngとモータージェネレータMGの制御応答性が異なることに着目し、変速制御開始時刻t0から変速制御終了時刻t5までの間、モーターアシスト制限を実行するようにしている。
したがって、イナーシャフェーズ領域において、制御応答性が低いエンジンEngによるアシストトルク分のトルク補償確実性を向上させることができる。
【0141】
上記協調制御により、モータージェネレータMGによる入力回転数フィードバック制御時、図10に示すように、モーター作動範囲が広く確保されるため、バッテリ充電状態等の影響があっても、モータージェネレータMGの作動範囲に制限がかかることなく、実入力回転数が設定された目標入力回転数特性に精度良く追従するフィードバック制御が確保される。
【0142】
また、モータージェネレータMGによる入力回転制御中、摩擦締結要素およびエンジンEngのトルク指令値に対する実トルクのズレが、目標入力回転数特性の追従性を悪化させるが、モーター作動範囲の拡大により、実トルクのズレがフィードバック制御で吸収される。
【0143】
[パワーオンダウンシフト時の入力回転数制御作用]
図11は、モータートルクが力行であるパワーオンダウンシフト時におけるエンジン+モータートルク・エンジントルク・モータートルク・変速機入力回転数の各特性を示すタイムチャートである。以下、図9および図11に基づいて、パワーダウンシフト時の入力回転数制御作用を説明する。
【0144】
例えば、ダウンシフトの変速指令が出力され、かつ、モータージェネレータMGは力行(モータートルクが正)である場合、図9のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS212→ステップS213→ステップS214→ステップS215へと進む。つまり、変速指令出力時からイナーシャフェーズが開始されるまでのトルクフェーズ領域では、ステップS213にて、モータージェネレータMGの力行制限が開始され、次のステップS214では、力行制限によるモータートルクの減少分を補うエンジンEngの制限補償トルク制御が開始される。
【0145】
そして、ステップS215にて、実ギア比GRがイナーシャフェーズ開始設定ギア比GR_stに達したと判断されると、図9のフローチャートにおいて、ステップS215から、ステップS216→ステップS217へと進む。つまり、イナーシャフェーズが開始され変速が中間ギア比まで進行する変速前半領域では、ステップS216にて、エンジンEngとモータージェネレータMGの合計トルクによるトルクアップ制御が開始されると共に、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御が開始される。
【0146】
そして、ステップS217にて、実ギア比GRが中間設定ギア比GR_midに達したと判断されると、図9のフローチャートにおいて、ステップS217から、ステップS218→ステップS219へと進む。つまり、変速前半領域を経過してイナーシャフェーズが終了するまでの変速後半領域では、ステップS218にて、エンジンEngとモータージェネレータMGの合計トルクによるトルクアップ制御が終了される。
【0147】
そして、ステップS219にて、実ギア比GRがイナーシャフェーズ終了設定ギア比GR_endに達したと判断されると、図9のフローチャートにおいて、ステップS219からステップS220→ステップS221へと進む。つまり、イナーシャフェーズ終了すると、ステップS220にて、自動変速機ATの入力回転数フィードバック制御が終了される。
【0148】
そして、ステップS221にて、タイマー値Tが変速制御終了値Tendに達したと判断されると、図9のフローチャートにおいて、ステップS221からステップS222へ進む。つまり、変速制御終了すると、ステップS222では、モータージェネレータMGの力行制限が終了されると共に、エンジンEngの制限補償トルク制御が終了される。
【0149】
上記のように、実施例2の制御装置では、ダウンシフト時、図11のエンジン+モータートルク特性に示すように、時刻t1から時刻t2まで合計トルクを増加させるトルクアップ制御の動作プロフィールに設定される。
このように、イナーシャフェーズの開始からの変速前半領域(t1〜t2)にて、変速機入力トルクのトルクアップ制御を行うようにしているため、ダウンシフト変速が早くなるし、締結側摩擦締結要素の発熱量が小さくなり、耐久性が向上するし、変速ショックも抑制される。
なぜなら、アップシフト変速は、変速機入力回転数を低下させる変速であるのに対し、ダウンシフト変速は、変速機入力回転数を上昇させる制御である。このため、アップシフト変速とは逆に変速機入力トルクは、エンジンEngのイナーシャに逆らって回転数を上げるために使われ、車両を加速するためのトルクが減少する。したがって、変速機入力トルクを大きくした方が、よりレスポンスの良い変速が可能となることによる。
【0150】
この動作プロフィールに対し、モータージェネレータMGの制御は、図11のモータートルク特性に示すように、時刻t0から時刻t5までの間、力行が制限(モータアシストが中止)される。そして、図11の変速機入力回転数特性に示すように、時刻t1から時刻t4までの間、自動変速機ATの実入力回転数(=モーター回転数)を設定された目標入力回転数特性に追従させる入力回転数フィードバック制御が行われる。なお、図11の変速機入力回転数特性のうち、実線特性は目標入力回転数特性を示し、点線特性は変速レスポンスの最速を狙ったときの特性を示す。
【0151】
一方、上記動作プロフィールに対し、エンジンEngの制御は、図11のエンジントルク特性に示すように、時刻t0から時刻t5までの間、力行制限によるモータートルクの減少分を補うエンジンEngの制限補償トルク制御が行われる。
【0152】
以上説明したように、実施例2では、ダウンシフト時、変速制御開始から変速制御終了までの領域において、モータージェネレータMGとエンジンEngの協調制御が行われるため、上記アップシフト時における作用と同様に、イナーシャフェーズ領域において、制御応答性が低いエンジンEngによるアシストトルク分トルク補償の確実性を向上させることができると共に、実入力回転数が設定された目標入力回転数特性に精度良く追従するフィードバック制御が確保される。
【0153】
次に、効果を説明する。
実施例2のFRハイブリッド車両の制御装置にあっては、実施例1の(1),(3),(5)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0154】
(2') 前記変速機入力回転数制御手段(図9)は、アクセル踏み込み操作によるダウンシフト時、前記モータージェネレータMGによる力行を制限するようにアシストトルクを低減すると共に、制限されたアシストトルク分を、前記エンジンEngからのエンジントルク増加により補う。このため、パワーオンダウンシフト時、トルク増加方向のモーター作動範囲の拡大により、変速ショックを抑えた良好な変速品質を保ちながら、変速時間の短縮化を図ることができる。
【0155】
(6) 前記変速機入力回転数制御手段(図9)は、変速フェーズのうち、変速制御開始から変速制御終了までの領域で、モータージェネレータMGによるアシストトルク制限制御と、制限されたアシストトルク分をエンジントルクにて補うトルク補填制御を行う。このため、イナーシャフェーズ領域において、制御応答性が低いエンジンEngによるアシストトルク分のトルク補償確実性を向上させることができる。
【0156】
(7) 前記変速機入力回転数制御手段(図9)は、ダウンシフト時、イナーシャフェーズの開始領域にて、エンジントルクとモータートルクの合計トルクを増加するトルクアップ制御を行う。このため、ダウンシフト変速が早くなり、変速時間のさらなる短縮化を図ることができると共に、締結側摩擦締結要素の耐久性向上と変速ショックの抑制を達成することができる。
【0157】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1および実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0158】
実施例1,2では、自動変速機として、前進7速後退1速の自動変速機の例を示した。しかし、前進7速以外の変速段を有する有段変速機の例としても良い。
【0159】
実施例1では、アップシフトでの力行・回生の例を示し、実施例2では、アップシフトでの回生の例とダウンシフトでの力行の例を示した。ここで、回生・力行の制限によるモーター作動範囲の拡大方向を、変速パターンで毎にまとめると、下記のようになる。
パワーオンアップシフト(アクセル踏み込みアップシフト)では、モータージェネレータのトルク増加方向のモーター作動範囲が拡大する(図7)。パワーオフアップシフト(アクセル足離しアップシフト)では、モータージェネレータのトルク減少方向のモーター作動範囲が拡大する(図8,図10)。パワーオンダウンシフト(アクセル踏み込みダウンシフト)では、モータージェネレータのトルク増加方向のモーター作動範囲が拡大する(図11)。パワーオフダウンシフト(アクセル足離しダウンシフト)では、モータージェネレータのトルク低減方向のモーター作動範囲が拡大する。以上により、変速ショックを抑えた良好な変速品質を保ちながら、変速時間の短縮化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0160】
実施例1,2では、ハイブリッド車両の制御装置をFRハイブリッド車両に適用する例を示したが、FFハイブリッド車両は勿論のこと、駆動源としてエンジンとモータージェネレータを備え、駆動源の下流位置に自動変速機を搭載したハイブリッド車両の制御装置に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10にて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。
【図3】FRハイブリッド車両の統合コントローラ10でのモード選択処理を行う際に用いられるEV-HEV選択マップを示す図である。
【図4】実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示すスケルトン図である。
【図5】実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦締結要素の締結状態を示す締結作動表である。
【図6】実施例1の統合コントローラ10にて実行される変速機入力回転数制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】モータートルクが力行であるパワーオンアップシフト時におけるエンジン+モータートルク・エンジントルク・モータートルク・変速機入力回転数の各特性を示すタイムチャートである。
【図8】モータートルクが回生であるパワーオフアップシフト時におけるエンジン+モータートルク・エンジントルク・モータートルク・変速機入力回転数の各特性を示すタイムチャートである。
【図9】実施例2の統合コントローラ10にて実行される変速機入力回転数制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】モータートルクが回生であるパワーオフアップシフト時におけるエンジン+モータートルク・エンジントルク・モータートルク・変速機入力回転数の各特性を示すタイムチャートである。
【図11】モータートルクが力行であるパワーオンダウンシフト時におけるエンジン+モータートルク・エンジントルク・モータートルク・変速機入力回転数の各特性を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0162】
Eng エンジン
MG モータージェネレータ
Input 変速機入力軸
Output 変速機出力軸
RL 左後輪
RR 右後輪
AT 自動変速機
7 ATコントローラ
10 統合コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとモータージェネレータを有する駆動源の下流位置に、摩擦締結要素の掛け替えにより複数の変速段を達成する自動変速機を搭載し、
前記自動変速機による変速時、実入力回転数が設定された目標入力回転数特性に追従するように、前記モータージェネレータの回転数をフィードバック制御する変速機入力回転数制御手段を備えたハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速機入力回転数制御手段は、変速機入力回転数のフィードバック制御時、前記モータージェネレータのアシスト状態が力行または回生である場合、前記モータージェネレータによる力行または回生を制限すると共に、制限されたアシストトルク分を、前記エンジンからのエンジントルクにて補うことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速機入力回転数制御手段は、アクセル踏み込み操作によるアップシフト時やダウンシフト時、前記モータージェネレータによる力行を制限するようにアシストトルクを低減すると共に、制限されたアシストトルク分を、前記エンジンからのエンジントルク増加により補うことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速機入力回転数制御手段は、アクセル足離し操作によるアップシフト時やダウンシフト時、前記モータージェネレータによる回生を制限するようにアシストトルクを増加すると共に、制限されたアシストトルク分を、前記エンジンからのエンジントルク低減により補うことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速機入力回転数制御手段は、変速フェーズのうち、イナーシャフェーズ領域で、モータージェネレータによるアシストトルク制限制御と、制限されたアシストトルク分をエンジントルクにて補うトルク補填制御を行うことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速機入力回転数制御手段は、変速フェーズのうち、変速制御開始から変速制御終了までの領域で、モータージェネレータによるアシストトルク制限制御と、制限されたアシストトルク分をエンジントルクにて補うトルク補填制御を行うことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までの何れか1項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速機入力回転数制御手段は、アップシフト時、イナーシャフェーズの開始領域にて、エンジントルクとモータートルクの合計トルクを低減するトルクダウン制御を行うことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5までの何れか1項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速機入力回転数制御手段は、ダウンシフト時、イナーシャフェーズの開始領域にて、エンジントルクとモータートルクの合計トルクを増加するトルクアップ制御を行うことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−143363(P2010−143363A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321966(P2008−321966)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】