プラズマCVD装置及びプラズマ表面処理方法
【課題】電子放出特性に優れた電極を製造するプラズマCVD装置を提供する。
【解決手段】チャンバー10内の陽極11aの載置面に基板1が載置される。陽極に対向する陰極13には流路13aが形成され、冷却水が通される。陽極11aと陰極13とに電圧を印加して、プラズマにより基板1上に、カーボンナノウォールの層を形成し、その後、陽極11aを冷却部材12で冷却して基板1を所定の温度に急冷する。
【解決手段】チャンバー10内の陽極11aの載置面に基板1が載置される。陽極に対向する陰極13には流路13aが形成され、冷却水が通される。陽極11aと陰極13とに電圧を印加して、プラズマにより基板1上に、カーボンナノウォールの層を形成し、その後、陽極11aを冷却部材12で冷却して基板1を所定の温度に急冷する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD装置及びプラズマ表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直流プラズマを用いて成膜する技術には、文献1に記載されたダイヤモンド様炭素膜積層体及びその製造方法がある。
【特許文献1】特開2003−113470号公報。
【0003】
上記公報に示されたダイヤモンド様炭素膜積層体は、電界放出電極として用いられるものであり、基板上に下層から上層に順次、sp2の含有率が高いグラファイト様炭素層から、sp3の含有率の高いダイヤモンド様炭素層を積層している。また、製造方法は、陰極(カソード)に印加するバイアスを変化させて各層の膜厚を設定する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報に示されたダイヤモンド様炭素膜積層体を製造する製造方法では、バイアス電圧を変調して膜質を変調させている。
このような、プラズマCVD装置では、電圧変調しても、基板表面の温度が劇的には変わりにくく、緩やかにしか膜質を変えることができない。
【0005】
本発明は、膜質を速やかに変えることができるプラズマCVD装置及びプラズマ表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るプラズマCVD装置は、
処理対象体が載置される載置面及び第1の電極を有する載置台と、
前記第1の電極に対向し、前記第1の電極との間でプラズマを発生させる第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加する電圧設定部と、
前記処理対象体から熱を奪う冷却部材と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
なお、前記処理対象体の温度を測定する温度測定部を備えてもよい。
【0008】
また、上記プラズマCVD装置であって、
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材が前記載置台を当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることが好ましい。
また、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に近づけて前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させてもよい。
このように、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪う前にプラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を生長させ、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪ってからプラズマによって前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させてもよい。
【0009】
また、前記第一の膜はカーボンナノウォールを有してもよい。
【0010】
また、前記第二の膜はダイヤモンド微粒子を含んでもよい。
【0011】
また、前記冷却部材は、前記処理対象体の温度を10℃以上下げてもよい。
【0012】
上記プラズマCVD装置であって、
前記載置台の前記載置面とは反対の面に対して前記冷却部材を移動させる冷却部材移動機構を有するようにしてもよい。
【0013】
上記プラズマCVD装置であって、
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長してから、前記冷却部材移動機構は、前記冷却部材を前記載置台に近づけ又は当接させ、前記載置台が所定の温度まで冷却されたときに前記冷却部材を前記載置台から離してもよい。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係るプラズマ表面処理方法は、
第1の電極と第2の電極との間でプラズマを発生して、載置台の載置面に載置した処理対象体の表面に第一の処理を行い、
冷却部材が前記処理対象体から熱を奪い、前記処理対象体の表面に第二の処理を行うことを特徴とする。
【0015】
なお、上記プラズマ表面処理方法であって、
前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることが好ましい。
また、前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させてもよい。
また、前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に近づけて前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させてもよい。
このように、前記第一の処理は、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪う前にプラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を生長させ、前記第二の処理は、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪ってからプラズマによって前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させることが好ましい。
【0016】
また、前記第一の膜はカーボンナノウォールを有してもよい。
【0017】
また、前記第二の膜はダイヤモンド微粒子を含んでもよい。
【0018】
また、上記プラズマ表面処理方法であって、
前記第二の処理は、前記冷却部材により前記処理対象体の温度を10℃以上下げてもよい。
【0019】
上記プラズマ表面処理方法であって、
前記第2の処理は、前記載置台の前記載置面とは反対の面に対して前記冷却部材を移動させる冷却部材移動処理を含んでもよい。
【0020】
この場合、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜を成長させてから前記冷却部材を前記載置台に近づけ或いは当接させ、前記載置台が所定の温度まで冷却されたときに前記冷却部材を前記載置台から離すことが好ましい。
更に、プラズマ表面処理方法を、第1の電極と第2の電極との間でプラズマを発生して、載置台の載置面に載置した処理対象体の表面にカーボンナノウォールを有する第一の膜を生成し、
冷却部材が前記処理対象体から熱を奪い、前記第一の膜上にダイヤモンド微粒子を含む第二の膜を生成してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、プラズマを用いた所望の表面処理を確実に実現できる。そのため、例えば電界放出特性に優れた電界放出電極を安定して確実に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1(a)及び図1(b)は、本発明のプラズマCVD装置の実施形態に係る直流プラズマCVD装置の概要を示す構成図である。
【0023】
この直流プラズマCVD装置は、処理対象の基板1の表面に膜を形成する装置であり、基板1を外気から遮断するためのチャンバー10を備えている。
チャンバー10内には、鋼でできているステージ11が配置され、ステージ11の上部に円板状の熱伝導性のよく、融点が高い金属からなる陽極11aが取付けられている。基板1は、陽極11aの上側載置面に固定される。ステージ11は、陽極11aとともに軸11xを中心にして回転するように設定されている。陽極11aとしてはモリブデン(熱伝導率138W/m・K、融点2620℃)等の金属が好ましい。
【0024】
陽極11aの下側には閉塞された空間11bが設けられており、空間11bには、冷却部材12が配置され、図示しない移動機構により、冷却部材12が矢印の通り上下に移動自在な構造になっている。冷却部材12は、銅等の熱伝導率の高い金属で形成され、その内部に冷却された水又は冷却された塩化カルシウム水溶液等の冷却媒体が管路19aから冷却部材12内の流路19bに入り、管路19cより排出されるように循環し、冷却部材12全体を冷やしている。
【0025】
このため、冷却部材12が上方に移動することにより、図1(b)に示すように、冷却部材12の面12aがステージ11の下面に当接すると、当接されたステージ11がその上部に位置する陽極11aを冷却して、陽極11aが基板1の熱を奪う構造になっている。つまり、管路19aから送出された冷却媒体が、流路19bの面12aの近傍で基板1と熱交換を行うことによって基板1の温度を下げるとともに、温度が上昇した冷却媒体が流路19bから管路19cに移動して排出される。管路19cから排出された冷却媒体は、図示しない冷却装置によって冷却されて、再び管路19aに送出されるように循環される。冷却部材12の面12aは、基板1を面方向に均等に冷却するため、その形状が基板1と相似形でかつ基板1より一回り大きいことが好ましく、流路19bが面12aが均等な温度となるように冷却媒体を流通させる構造になっていることが好ましい。
また、陽極11aの下側に設けられた空間11bはステージ11によって仕切られており、内部には気体が封入されている、或いは大気圧より減圧された雰囲気となっている。
【0026】
陽極11aの上方には、一定の距離を置いて陰極13が配置されている。陰極13は、陽極11aと対向している。
陰極13の内部には、冷却媒体が流れる流路13aが形成され、その流路の両端には、管路13b,13cが取付けられている。管路13b,13cは、チャンバー10に形成された孔を貫通し流路13aに連通している。管路13b,13cの通過したチャンバー10の孔は、シール剤でシールされ、チャンバー10内の気密性は確保されている。管路13b、流路13a、管路13cには、冷却媒体が流れることにより陰極13の発熱を抑制する。冷却媒体としては、水、塩化カルシウム水溶液等が好ましい。
【0027】
チャンバー10の側面には、窓14が形成され、チャンバー10内の観察が可能になっている。窓14には、耐熱性ガラスがはめ込まれ、チャンバー10内の気密性が確保されている。チャンバー10の外側に、窓14のガラスを介して基板1の温度を測定する放射温度計15が配置されている。
【0028】
この直流プラズマCVD装置には、原料ガスをガス供給用管路16を介して導入する原料系(図示略)とチャンバー10内から気体を排気用管路17を介して排出してチャンバー10内の気圧を調整する排気系(図示略)と、出力設定部18とを備えている。
【0029】
各管路16,17は、チャンバー10に設けられた孔を通過している。その孔と管路16,17の外周との間は、シール材でシールされ、チャンバー10の内の気密性が確保されている。
【0030】
出力設定部18は、陽極11aと陰極13との間の電圧又は電流値を設定する制御装置であり、可変電源18bを備えている。出力設定部18と陽極11a及び陰極13とは、リード線でそれぞれ接続されている。各リード線は、チャンバー10に設けられた孔を通過している。リード線が通されたチャンバー10の孔は、シール材でシールされている。
【0031】
出力設定部18は、制御部18aを備え、その制御部18aは、放射温度計15とリート線で接続されている。制御部18aは、起動されると、放射温度計15の測定した基板1の温度を参照し、基板1の温度が予定の値になるように、陽極11aと陰極13との間の電圧又は電流値を調整する。
【0032】
次に、図1の直流プラズマCVD装置を用いて基板1に成膜し、電界放出電極を形成する成膜処理を説明する。
この成膜処理では、図5に示すように、基板1の表面に、カーボンナノウォール21の層と、カーボンナノウォール21の層上に形成された複数のダイヤモンド微粒子22を含む層とを有する電子放出膜20を成膜する。
【0033】
ここで、電子放出膜20について説明する。
図2は、図5のダイヤモンド微粒子を有する電子放出膜20の表面を走査型顕微鏡で走査した画像である。
図3は、図2の電子放出膜20を拡大した画像である。
図4は、図2の電子放出膜20及びカーボンナノウォール21の断面を示す二次電子像である。
【0034】
カーボンナノウォール21は、曲面をなす花弁状(扇状)の複数の炭素薄片が起立しながら互いにランダムな方向に繋がりあって構成され、0.1nm〜10μmの厚さである。各炭素薄片は、格子間隔が0.34nmの数層〜数十層のグラフェンシートから構成されている。グラフェンシートは、sp2結合であり、導電性を示している。
【0035】
この電子放出膜20は、粒径が5nm〜10nmのsp3結合の複数のダイヤモンド微粒子22を含み、その表面には、ダイヤモンド微粒子22が数十から数百個程度集まり、図3に示すように、笹葉のような組織が形成されている。そして、このような電子放出膜20は、表面が笹葉が複数集まって、図2に示すように、表面が略円形状の密集した複数のコロニーとなってカーボンナノウォール21を覆っている。
【0036】
電子放出膜20のコロニーの径は1μm〜5μm程度であり、カーボンナノウォール21を隙間なく覆い尽くす程度に成長していることが望ましい。ダイヤモンド微粒子22同士の隙間には、導電性のsp2結合の無定形炭素23が介在している。カーボンナノウォール21は、上面の凹凸の差が比較的大きいのに対して、その上方に設けられているダイヤモンド微粒子22を含む膜は、その表面の凹凸が相対的に緩和されており、平坦化する性質を有している。このため、電界放出による電子放出箇所が面内で多数配置することができる。
【0037】
図6は、電子放出膜20のX線回折パターンを示す図である。また、図7は、電子放出膜20を構成するカーボンナノウォール21のラマン分光法によるスペクトルを示す図である。
一方、電子放出膜20におけるX線回折パターンを調べると、図6に示すように、ダイヤモンド結晶に起因する顕著なピークを有すると共に、20゜〜30゜にグラファイトに起因するピークも観察された。同電子放出膜20の表面に対する法線方向を0゜とした場合、照射されるX線の照射方向が0゜から90゜にシフトするにしたがって、ダイヤモンド結晶に起因する顕著なピーク強度はあまり変わらないまま、グラファイトに起因するピーク強度が減衰し、90゜付近でほぼ消失することが確認された。X線の照射方向が90゜に近づくほど電子放出膜20の深さ方向へのX線の進入が妨げられるので、換言すれば、電子放出膜20において、ダイヤモンド構造は表面側に位置し、グラファイト構造は下層側に位置することが確認できた。
【0038】
そして、図7に示すように、1580cm−1付近のグラファイトの炭素−炭素結合の六角格子内での炭素原子の振動に起因する半値幅が50cm−1未満のGバンドのピークと、1350cm−1付近の半値幅が50cm−1未満のDバンドのピークの強度比が鋭敏に現れており、他のピークがほとんど見られない。これらのことから、カーボンナノウォール21の炭素薄片は、緻密で純度の高いsp2結合のグラファイトからなるカーボンナノウォール21が生成されていることが明らかである。
【0039】
また、電子放出膜20の主表面は、ダイヤモンド微粒子のみではなく、ダイヤモンド微粒子を極薄く被覆した膜が確認された。この膜は、良好な電子放出膜20の抵抗率が数kΩ・cmであったことや上記製造工程における原料ガスの組成から、導電性を示すグラファイト構造の炭素を含む炭素であることが確認できた。ただし、XRDスペクトルにおいて、この表面及びダイヤモンド微粒子間に位置する無定形炭素23に起因する顕著なピークは確認されなかったことから相対的にごく微量のものであることがわかる。このように、電子放出膜20では、上述したグラファイト構造のsp2結合の炭素を含む炭素が最表面やダイヤモンド微粒子同士の隙間に形成され、このうちの導電性を示すグラファイト構造の炭素が電子放出膜20全体の抵抗率を低くすることに寄与している。
【0040】
電子放出膜20に対して、波長=532nmのレーザ光によるラマン分光測定を行うと、図9に示すように、1350cm−1近傍を頂点とするダイヤモンドのピークと1580cm−1近傍を頂点とするグラファイトのピークとが観察され、ガラス状炭素や黒鉛構造を基本とした無定形炭素の混在が認められる。1350cm−1近傍を頂点とするピークの半幅値は、50cm−1以上である。つまり、電子放出膜20は、X線回折パターンより組成中にsp3結合のダイヤモンド及びsp2結合の無定形炭素の存在が確認され、ラマン分光分析スペクトルより半値幅が50cm−1以上のブロードなピークを有する無定形炭素の存在が確認され、これらの複合体を有していることがわかる。尚、図9におけるスペクトルについては後述する。
【0041】
良好な電子放出膜20は、1kΩ・cm〜18kΩ・cmであった。電子放出膜20は、ダイヤモンド微粒子22同士の隙間に、上述した無定形炭素(sp2結合の炭素)23が介在し、この無定形炭素が導電性を示すことから電子放出膜20全体の抵抗率を低くすることに寄与している。
【0042】
次に、成膜処理について説明する。
成膜処理では、まず、例えばニッケル板を基板1として切り出し、エタノール又はアセトンにより脱脂・超音波洗浄を十分に行う。
【0043】
この基板1を図1に例示する構成の直流プラズマCVD装置の陽極11a上に載置する。
基板1の載置が完了すると、次に、チャンバー10内を排気系を用いて減圧し、続いて、ガス供給用管路16から水素ガスとメタン等の組成中に炭素を含有する化合物のガス(炭素含有化合物)とを導く。
【0044】
原料ガス中の組成中に炭素を含有する化合物のガスは、全体の3vol%〜30vol%の範囲内にあることが望ましい。例えば、メタンの流量を50SCCM、水素の流量を500SCCMとし、全体の圧力を0.05〜1.5atm、好ましくは0.07〜0.1atmにする。また、基板1ごと陽極11aを10rpmで回転させ、基板1上の温度ばらつきが5%以内になるようにして陽極11aと陰極13との間に直流電源を印加し、プラズマを発生させ、プラズマ状態及び基板1の温度を制御する。
【0045】
カーボンナノウォール21の成膜時には、基板1のカーボンナノウォール21が成膜される箇所の温度を900℃〜1100℃で所定時間の成膜を行う。この温度は放射温度計15により測定されている。このとき、冷却部材12は、陽極11aの温度に影響がないように十分離間されている。放射温度計15は、直流プラズマCVD装置のプラズマ輻射を減算して基板1側の表面での熱輻射のみから温度を求めるように設定されている。
【0046】
図8(a)〜(c)は、それぞれ、プラズマCVD装置でのプラズマを励起したときの消費電力、基板1の表面で観測された放射率、放射率等に基づいて算出された基板1の表面の温度であり、いずれも横軸が時刻になっており互いに一致している。
下地となるカーボンナノウォール21が十分成膜されたら、引き続きガス雰囲気を変えることなく連続したまま、プラズマにより加熱された陽極11aよりも遙かに低い温度の冷却部材12を100mm上昇させてステージ11に当接させて陽極11aを冷却する(タイミングT0)。このとき、冷却された陽極11aは、その上で固定されている基板1を冷却させ、基板1側の表面が、図8(c)に示すように、カーボンナノウォール21の成膜時より10℃以上低い複数のダイヤモンド微粒子22の成膜適正温度にまで急冷する。このときの温度は、890℃〜950℃、より望ましくは920℃〜940℃にする。なお、その後の温度を安定にするためにも、タイミングT0において、陽極11a及び陰極13の印加電圧又は印加電流値はあまり変えないことが好ましい。
【0047】
基板1が一気に冷えたために、カーボンナノウォール21の生長が停止して、カーボンナノウォール21を核として複数のダイヤモンド微粒子22が生長を開始し、やがて、カーボンナノウォール21上に粒径が5nm〜10nmのsp3結合の複数のダイヤモンド微粒子22及びダイヤモンド微粒子22同士の隙間に介在する導電性のsp2結合の無定形炭素23が形成される。
【0048】
このように陽極11aと陰極13の印加電圧又は印加電流値をほとんど変えることなく、急冷することで電子放出膜20の膜質を劇的に変えることができる。
例えば、陽極11aと陰極13の印加電圧又は印加電流値のみを変えることによってもダイヤモンド微粒子22を生長させることは可能であるが、印加電圧又は印加電流値の調節によっては、チャンバー10内の温度を劇的に変えにくい。仮に、また温度が降下することができても、温度が乱高下してしまい、ダイヤモンド微粒子22の成膜適正温度に維持すること自体が困難である。つまり、電子放出膜20の膜質が悪くなってしまう。また緩やかに温度を下げてゆくと、10℃以上温度を下げてもカーボンナノウォール21の生長を停止しにくくなり、ダイヤモンド微粒子22の成長が遅くなり、カーボンナノウォールとダイヤモンド微粒子とが混在する膜が形成され、本実施形態のように膜質を劇的に変化させることは困難である。
【0049】
タイミングT1になって、ステージ11に当接していた冷却部材12を下降させると、再びプラズマにより基板1側の表面温度が上昇する。このとき、950℃までの上昇であれば、カーボンナノウォール21に生長が切り替わることなく、ダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23が生長し続ける。
【0050】
十分生長した複数のダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23を含む層はカーボンナノウォール21上全面を被膜し最上面が、カーボンナノウォール21の表面に比べて平坦な構造となっている。原料ガス中の組成中に炭素原子を含有する化合物のガスが全体の3vol%未満であってもダイヤモンド微粒子22を有する電子放出膜20は生成できるが、電子放出特性が極めて悪いことが確認された。
【0051】
この成膜に用いられる放射温度計15は、ダイヤモンド微粒子22を含む層を基板1上に直接成膜すると、基板1を構成する金属による反射があることや、金属の輻射率が波長依存性を持つために、電子放出膜20からの放射が不安定な状況になり、正確な温度測定が困難であるという問題がある。しかし、カーボンナノウォール21を下地膜として用いると、カーボンナノウォール21は波長依存性を持たずに放射率が1であるので、その上にダイヤモンド微粒子22が形成された場合の放射率を0.7とすることができ安定した温度測定を行うことができる。
【0052】
また、プラズマにより、陰極13の温度が高くなった場合には、陰極13から放射される輻射が基板1で反射して放射温度計15に入ることにより、基板1の温度を正確に測定できないことが予測されるが、管路13b、流路13a、管路13cに冷却媒体を流して陰極13を強制冷却することで、基板1の温度測定の障害にならないように、陰極13から発生するスペクトルを長波長側にシフトさせることができる。基板1の全面での温度のばらつきも抑制できる。
【0053】
成膜の終了段階では、陽極11aと陰極13との間の電圧の印加を停止し、続いて、原料ガスの供給を停止し、パージガスとして窒素ガスをチャンバー10内に供給して常圧に復帰した後、常温に戻った状態で基板1を取り出す。
【0054】
以上の工程により、図5に示す電子放出膜20が形成される。
なお、原料ガスの混合比、ガス圧、基板1のバイアス電圧などの条件を適切に選択することにより、カーボンナノウォール21を成膜させる領域を、ダイヤモンド微粒子22からなる層の成膜温度よりも高く、且つ900℃〜1100℃で30分間〜360分間保持させることによって、基板1上にカーボンナノウォール21の層を形成する。そして引き続き、ダイヤモンド微粒子22からなる層を成膜する領域を、カーボンナノウォール21の成膜時における温度より10℃以上下げることによってカーボンナノウォール21上にダイヤモンド微粒子22からなる層を形成することができる。
【0055】
カーボンナノウォール21は、優れた電子放出特性をもつが数ミクロンの凹凸があり均一なエミッションサイトを形成することが困難である。しかし、本実施形態のように、ダイヤモンド微粒子22で構成された層をカーボンナノウォール21上に成膜することで均一な表面形状を得ることができる。従って、均一なエミッションサイトを形成することができる。
【0056】
図9は、波長=532nmのレーザ光によるラマン分光測定のスペクトルであり、実線は、電子放出膜20の複数のダイヤモンド微粒子22の集合体と無定形炭素23のラマンスペクトルである。電子放出膜20では、ダイヤモンド微粒子22の下部にカーボンナノウォール21が設けられているが、ダイヤモンド微粒子22がカーボンナノウォール21の表面全体を十分覆う程度に成膜されているので、ダイヤモンド微粒子のスペクトルが支配的となる。
【0057】
ここでは、1330cm−1近傍を頂点とするダイヤモンドのピークと1580cm−1近傍を頂点とするグラファイトのピークとが観察され、ガラス状炭素や黒鉛構造を基本とした無定形炭素の混在が認められる。1330cm−1近傍を頂点とするピークの半幅値は、50cm−1以上である。つまり、電子放出膜20は、X線回折パターンより組成中にダイヤモンド及び、グラファイトの存在が確認され、ラマン分光分析スペクトルより半値幅が50cm−1以上のブロードなピークを有する無定形炭素の存在が確認され、これらの複合体を有していることがわかる。
【0058】
このラマンスペクトルからダイヤモンドに起因するスペクトルとグラファイトに起因するスペクトルとを精度よく算出するために、まず750cm−1〜2000cm−1の部分のダイヤモンドスペクトルとグラファイトスペクトルとが合成されたスペクトル値の描く軌線を抜き出し、抜き出した端部近傍(750cm−1近傍での線端部と2000cm−1での近傍)を結ぶ線分をベースラインとしてスペクトルからベースライン分(つまりノイズとなる部分)の数値を取り除く。次いでポジションのダイヤモンドスペクトルのピークを初期値1333cm−1とし、グラファイトスペクトルのピークを初期値1580cm−1として擬Voigt型関数を置き、非線形最小二乗法でスペクトルにフィッティングを行う。図9の一点鎖線は、Dバンド強度とGバンド強度とが合成された成分であり、そのうち、破線が、抽出されたDバンド強度成分であり、二点鎖線が、抽出されたGバンドの強度成分である。
【0059】
このようにして、1333cm-1近傍をピークとしたDバンドと、1580cm-1近傍をピークとしたGバンドの面積比から、比(Dバンド強度)/(Gバンド強度)が求められる。比(Dバンド強度)/(Gバンド強度)は、換言すれば、比(膜中のsp3結合の数)/(膜中のsp2結合の数)であり、すなわち、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)である。
【0060】
したがって、カーボンナノウォール21上の炭素膜は、全体として見かけ上、一層の膜形状であるが、これを微視的にみると、Dバンドとして示されるsp3結合を有する炭素であり、粒径が概ね5nm〜10nmのダイヤモンド微粒子22の集合体と、ダイヤモンド微粒子22の隙間に介在し、Gバンドとして示されるsp2結合を有する無定形炭素膜23と、の複合膜の構造となっている。
【0061】
ここで電子放出膜の厚さを3μmとすると、粒径が概ね5nm〜10nmのダイヤモンド微粒子22は、暑さ方向に数百個連続して積層されることになる。これらダイヤモンド微粒子は、それぞれ絶縁体であるが、隙間に介在するsp2結合の炭素が導電性を示すために、全体として電気伝導性を帯びている。
【0062】
基板1上に設けられたカーボンナノウォール21上にダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23の層を形成した電子放出膜20を有する電界放出型電極は、電流密度が1mA/cm2での電界放出時の電界強度が、0.84V/μmであり、図10に比較例として示したように、基板上にカーボンナノウォール21と同じ構造のカーボンナノウォールのみが形成された電界放出型電極よりも、より低い電圧で電界放出し、より優れた電子放出特性を備えていることが確認された。また、電子放出膜20を有する電界放出型電極は、基板1上に直接ダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23の層を形成した場合よりも若干電子放出特性が優れていることが確認された。
【0063】
このような電子放出膜では、個々のダイヤモンド微粒子は、負性電子親和力を有し、その粒径が10nm以下と極めて微小なためにトンネル効果により電子を放出することができる。また、sp2結合の炭素がダイヤモンド微粒子同士の隙間に所定の存在比で介在することによって、膜全体として導電性を付与して電界放出しやすくするばかりでなく、ダイヤモンド微粒子が、トンネル効果が得られないほど連続して重ならないようにしている。つまり10nmのダイヤモンド微粒子が所定方向に100個程度ほとんど隙間なく堆積してしまうと、見かけ上ダイヤモンドの厚さは、1000nmになってしまい、強電界をかけてもほとんどトンネル効果をもたらさなくなってしまうが、導電性のsp2結合の炭素が介在することによって、ダイヤモンド微粒子は個々に分離されるので、それぞれのダイヤモンド微粒子がトンネル効果を発現することが可能となる。
【0064】
このため、電圧を印加することによって基板から放出された電子は、最も近いダイヤモンド微粒子に一旦注入され、このダイヤモンド微粒子によって電界放出されて、電界方向に隣接するダイヤモンド微粒子に再び注入され、このような電子放出が電子放出膜の電界方向に繰り返し起こり、最終的には、電子放出膜の最表面から放出されることになる。
【0065】
ここで、図11(a)は、生成された電子放出膜20の画像であり、図11(b)は、図11(a)の電子放出膜20の上方に蛍光体及び透明導電体を配置させ、電子放出膜20の電界放出によりこの蛍光体から励起光を発したときの画像である。
【0066】
そして、図12(a)は、図11(a)の領域R1の拡大画像である。
図12(b)は、図12(a)の矢印で示す位置であり、電子放出膜20において、後述する図12(c)、図12(d)、図12(e)よりも内側に位置する箇所のSEM像であり、基板1上にカーボンナノウォール21が堆積し、カーボンナノウォール21上に複数のダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23が緻密に集合してなる膜であり、最も電界放出性が良好な箇所である。この箇所では、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.55であり、ダイヤモンド微粒子の粒径は5nm〜10nmであった。
【0067】
図12(c)は、図12(a)の矢印で示す位置であり、電子放出膜20において、図12(b)や後述する図12(d)、図12(e)よりも外側に位置する箇所のSEM像である。
この箇所の基板1上にはほとんどカーボンナノウォール21のみが成膜されており、最も電界放出性が劣っていた箇所である。その電界放出特性は、図10の比較例とほぼ同等であった。この箇所では、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が0.1であった。
【0068】
図12(d)は、図12(a)の矢印で示す位置であり、図12(b)で示される箇所より外側で、図12(c)で示される箇所より内側に位置している箇所のSEM像である。
この箇所では、基板上に形成されたカーボンナノウォール21の花弁状のグラフェンシートに多数のダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23が堆積してそれらが球状に群集している。つまり1つの球状体は、多数のダイヤモンド微粒子で構成されている。これは、成長した花弁状のグラフェンシートの先端部分にダイヤモンド微粒子が生長したものであり、電子放出特性は、図12(c)のカーボンナノウォールより優れているが、図12(b)のダイヤモンド微粒子22が緻密に集合してなる膜より劣っていた。この箇所では、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が0.5であった。ここでもダイヤモンド微粒子の粒径は5nm〜10nmであった。
【0069】
図12(e)は、図12(a)の矢印で示す位置であり、図12(b)で示される箇所より外側で、図12(d)で示される箇所より内側に位置している箇所のSEM像である。ここでは、図12(d)の箇所よりもさらにダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23の結晶生長が進み、球状体が連結して膜の表面が比較的平滑になってきているが、球状体間にところどころ隙間がある。ここでの電子放出特性は、図12(d)カーボンナノウォールより優れており、図12(b)のダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23が緻密に集合してなる膜よりやや劣っているが、電子放出膜20として十分であった。この箇所では、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.50であった。ダイヤモンド微粒子の粒径は5nm〜10nmであった。
【0070】
図13は、電子放出膜20の各位置における比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)を求めたものであり、図12(a)に示す位置P(0)を相対位置の”0”とし、位置P(0)に対して図12(b)に示す位置側にそれぞれ1mm、2mm移動した位置が位置P(1)、P(2)とし、位置P(0)に対して図12(d)に示す位置側にそれぞれ1mm、2mm、3mm移動した位置が位置P(−1)、P(−2)、P(−3)とした。
【0071】
比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.5前後では低い電圧でも十分発光したが、0.5では、発光するのに比較的高い電圧を要した。電子放出特性が特に優れている箇所は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.50以上であった。
【0072】
図14は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)をより高い方向にシフトするように成膜した場合の抵抗率を求めたグラフである。
比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.6の電子放出膜20は、抵抗率が0.6×104(Ω・cm)であり、その電子放出特性は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.50〜2.55の電子放出膜20aよりも優れていた。
【0073】
比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.7の電子放出膜20は、抵抗率が1.8×104(Ω・cm)であり、その電子放出特性は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.6の電子放出膜20より劣っていたが、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.55と同等であり、電界放出型電極としては十分であった。
【0074】
比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が3.0の電子放出膜20は、抵抗率が5.6×104(Ω・cm)であり、その電子放出特性は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.50の電子放出膜20より劣っていた。これは、sp2結合の炭素の存在比が少なくなることで電導性が低くなることに加え、ダイヤモンド微粒子22同士の隙間にsp2結合の無定形炭素23が介在しなくなることで見かけ上、ダイヤモンドの膜厚が厚くなってしまい、効率的にトンネル電子を放出する箇所の割合が減ってしまったためである。
【0075】
図15(a)〜(d)は、本発明における電子放出膜20を有するカソード電極に対して距離を4.5mm離した位置にアノード電極を設け、アノード電極、カソード電極間に6kVパルス電圧(1kHz,duty比1%)を印加して、アノード電極側に設けられた蛍光体を発光させた状体を示す画像である。
【0076】
図15(a)は電子放出膜20の抵抗率が1kΩ・cmのものであり、図15(b)は電子放出膜20の抵抗率が6kΩ・cmのものであり、図15(c)は電子放出膜20の抵抗率が18kΩ・cmのものであり、図15(d)はダイヤモンド膜の抵抗率が56kΩ・cmのものである。図15(d)の電子放出膜20は、より強電界をかけることにより発光することが確認されている。なお、図15(a)の電子放出膜20の比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)は、2.5であった。
【0077】
このような電子放出膜20を繰り返し製造した結果、良好な電子放出特性を得られた電子放出膜20は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)を2.5〜2.7であり、特にしきい値電界強度が1.5V/μm以下となるような、より優れた電子放出特性を得られた電子放出膜20は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が、2.55〜2.65であり、さらに、最も安定して且つ電子放出性が良好な電子放出膜20は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が、2.60〜2.62であった。
また抵抗率の観点から、抵抗率が1kΩ・cm〜18kΩ・cmの電子放射膜20の電子放出特性が良好であった。
【0078】
本発明における電界放射型電極を備えた光源は、FED(フィールドエミッションディスプレイ)に適用可能であり、また、液晶パネルのバックライトやその他家庭用光源にも適用でき、さらには、パソコン、デジタルカメラ、携帯電話等の光源、車載用光源にも適用することが可能である。
【0079】
以上のように、本実施形態の直流プラズマCVD装置は、冷却部材12をステージ11に当接させて陽極11aを急冷する構成にしたので、炭素膜質を速やかに変えることができ、電子放出特性に優れた電界放出電極の形成することができる。さらに、冷却部材12は陽極11aに当接させたり、離したりすることにより、水冷よりも簡単且つ速く陽極11aを冷却でき、基板1の温度制御が容易である。
【0080】
また、陰極13を水冷できる構成にしたので、基板1の温度を放射温度計15で計測し、その結果をフィードバックした基板1の温度を制御する際に、陰極13の温度の影響を軽減でき、基板1の温度を適正に制御することができる。
なお、上記実施形態では、冷却部材12によって基板1を冷却しているのに対し、以下に説明するように、冷却部材12及び冷却気体によって基板1を冷却してもよい。
【0081】
図16(a)は、直流プラズマCVD装置の冷却部材12の変形例を示す上面図であって、図16(b)は、図16(a)のXVIB-XVIB線に沿った直流プラズマCVD装置の略断面図であり、上記実施形態と実質的に同じ構成については同一符号を付しその一部は説明を省略する。
【0082】
ステージ11で仕切られた空間11b内には冷却部材12が設けられ、冷却部材12の面12Aには、中央に通気口12bが開口されており、通気口12bは、冷却部材12内に設けられた配管31に連通している。三方弁34は、配管31に連結されるとともにヘリウムガスが封入されているヘリウムガス封入部32と流量調節部33を介して連結されており、さらに乾燥された窒素ガスが封入されている窒素ガス封入部35と流量調節部36を介して連結されている。
【0083】
量調節部33は、ヘリウムガス封入部32から排出されるヘリウムガスの量を制御するポンプを有し、室温のヘリウムガスの流量を0〜1(l/min)に制御できる。流量調節部36は窒素ガス封入部35から排出され窒素ガスの量を制御するポンプを有し、室温の窒素ガスの流量を0〜22(l/min)に制御できる。流量調節部33、流量調節部36及び三方弁34は、出力設定部18の制御部18aによって制御されている。
【0084】
冷却部材12内の流路19bは、面12aが均等な温度に冷却されるように、面12aの形状に合わせて略円状(弧状)となっており、且つ通気口12bを中心とした同心円状に複数設けられている。このように、管路19aから冷却部材12内の流路19bに入った冷却媒体が矢印の通りに移動して冷却部材12内を均等且つ全体に行きわたることで面12aを均等に冷却し、ひいては基板1を面方向で均等に冷却することができる。管路19cから排出された冷却媒体は、冷却装置30によって再び冷却されて、再び管路19aに搬送されるように循環される。
【0085】
さらに、通気口32からヘリウムガス及び/又は窒素ガスを送出することによって、ステージ11の陽極11aを速やかに冷却することができる。
図17は、通気口12bから送出されるガス種がヘリウムガスのみの場合と、窒素ガスのみの場合の基板1の表面温度の比較を示したグラフである。いずれも、送出された気体種が異なる以外、両者のDCプラズマの放電電流、原料ガス、電極形状等の条件は全て同じであり、基板1の温度測定には放射温度計を用いている。横軸において時刻5分直前までは冷却部材12が、ステージ11に当接していない状態でDCプラズマを発生して基板1にカーボンナノウォール21を形成しており、時刻5分になったところで冷却部材12を100mm上昇させて冷却部材12の面12aをステージ11に当接させる。
【0086】
このとき、通気口12bから送出された冷気ガスはステージ11に吹き付けられながら面12aとステージ11との間の隙間を移動してステージ11及び基板1の冷却の補助を行う。この冷却によってカーボンナノウォール21の生成が停止し、その上に複数のダイヤモンド微粒子22とを含む層が成長し始める。冷気ガスがヘリウムガスの場合、冷却時の放射率は約0.5であった。
【0087】
ヘリウムガス(熱伝導率が150×10−3(W/m・K))は、窒素ガス(熱伝導率が260×10−4(W/m・K))より熱伝導性に優れており、速やかに冷却することができる。上記冷気ガスは室温であったが、カーボンナノウォール21を成膜時の基板1の加熱温度より低ければこれに限らない。また冷気ガスの放出は、冷却部材12の面12aがステージ11に当接する直前であっても、冷却部材12の面12aがステージ11に当接時であっても、冷却部材12の面12aがステージ11の当接する直後であってもよい。
【0088】
図18(a)は、直流プラズマCVD装置の冷却部材12の他の変形例を示す上面図であって、図18(b)は、図18(a)のXVIIB-XVIIB線に沿った直流プラズマCVD装置の略断面図であり、図19(a)は、図18Aの冷却部材12の上面図であって、図19(b)は、図19(a)のXIXB-XIXB線に沿った直流プラズマCVD装置の冷却時の動作を示す略断面図である。
図16(a)、図16(b)に示すプラズマCVD装置では、冷却部材12の面12aが平坦であったが、図18(a)、図18(b)に示すプラズマCVD装置では、冷却部材12の面12aに、通気口12bから冷却部材12の側面12dまで連通する溝12cが形成されている。このため、図19(b)に示すように、冷却部材12の面12aがステージ11に当接しても、冷気ガスは溝12cとステージとの隙間にできた流路によって矢印の通りに移動することによって効率よく通気して冷却することができる。
また上記各実施形態では、冷気ガスを直接、ステージ11の当接面に吹き付けたが、これに限らず、ステージ11で仕切られた空間11b内に封入することでも同様の効果を得ることができる。
【0089】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。
例えば、基板1は、ニッケル以外でも希土類、銅、銀、金、白金、アルミニウムのうち少なくともいずれか一種を含んでもよい。
また、原料ガスである水素ガスと炭素含有化合物の混合比も、適宜選択的に変更可能である。
【0090】
さらに、上記実施形態では、電子放出型電極を形成したが、他の電子部品を連続的なプラズマCVDで形成する場合にも適用でき、膜質の異なる複合膜を連続的に形成する場合等に有効である。
【0091】
また上記実施形態では、基板1を載置する電極が陽極であり、その上方に陰極を配置したが、代わりに基板1を載置する電極を陰極とし、その上方に陽極を配置してもよい。この場合、冷却部材12が陰極を冷やすことで良質の電子放出膜を製造することができる。
【0092】
また、例えば図16(a),(b)、図18(a),(b)のプラズマCVD装置において、その冷気ガスの冷却能力を十分に確保できる場合には、冷却部材12の面12aを完全にステージ11に全体を当接させる代わりに、冷却部材12の面12aの一部を当接するとともに他部を当接しない程度に接近させて、或いは面12a全体を当接しない程度に接近させて陽極11aを冷却してもよい。
さらに、上記各実施形態では、陽極11aをステージと一体型に形成し、ステージ兼陽極を冷却部材で冷却してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態に係る直流プラズマCVD装置の概要を示す構成図である。
【図2】電子放出膜の表面を走査型顕微鏡で走査した画像である。
【図3】図2の電子放出膜を拡大した画像である。
【図4】電子放出膜の断面を示す画像である。
【図5】電界放出電極を示す図である。
【図6】電子放出膜のX線回折のパターンを示す図である。
【図7】カーボンナノウォールのスペクトルを示す図である。
【図8】基板側の表面温度、放射率及びプラズマ励起パワーの時間変化を示す図である。
【図9】複数のダイヤモンド微粒子の集合体を含む炭素膜でのラマンスペクトルを示す図である。
【図10】本発明のダイヤモンド膜及び比較例のカーボンナノウォールの電界放出特性を示す図である。
【図11】ダイヤモンド膜の拡大画像を示す図である。
【図12】ダイヤモンド膜の各領域の拡大画像を示すである。
【図13】ダイヤモンド膜の各位置における比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)を示す図である。
【図14】比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)と抵抗率との相関関係を示した図である。
【図15】抵抗率の異なる各ダイヤモンド膜の発光状態を示す図である。
【図16】冷却部材から気体を送出するプラズマCVD装置の概要を示す構成図である。
【図17】冷却部材から気体を送出したときの基板の温度依存性を示す図である。
【図18】冷却部材から気体を送出するプラズマCVD装置の概要を示す構成図である。
【図19】プラズマCVD装置において冷却部材が冷却しながら気体を送出する動作を示す構成図である。
【符号の説明】
【0094】
10・・・チャンバー、11・・・ステージ、11a・・・陽極、12・・・冷却部材、13・・・陰極、13a・・・流路、13b,13c・・・管路、14・・・窓、15・・・放射温度計、16・・・ガス供給用管路、17・・・排気用管路、18・・・出力設定部、18a・・・制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD装置及びプラズマ表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直流プラズマを用いて成膜する技術には、文献1に記載されたダイヤモンド様炭素膜積層体及びその製造方法がある。
【特許文献1】特開2003−113470号公報。
【0003】
上記公報に示されたダイヤモンド様炭素膜積層体は、電界放出電極として用いられるものであり、基板上に下層から上層に順次、sp2の含有率が高いグラファイト様炭素層から、sp3の含有率の高いダイヤモンド様炭素層を積層している。また、製造方法は、陰極(カソード)に印加するバイアスを変化させて各層の膜厚を設定する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報に示されたダイヤモンド様炭素膜積層体を製造する製造方法では、バイアス電圧を変調して膜質を変調させている。
このような、プラズマCVD装置では、電圧変調しても、基板表面の温度が劇的には変わりにくく、緩やかにしか膜質を変えることができない。
【0005】
本発明は、膜質を速やかに変えることができるプラズマCVD装置及びプラズマ表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るプラズマCVD装置は、
処理対象体が載置される載置面及び第1の電極を有する載置台と、
前記第1の電極に対向し、前記第1の電極との間でプラズマを発生させる第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加する電圧設定部と、
前記処理対象体から熱を奪う冷却部材と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
なお、前記処理対象体の温度を測定する温度測定部を備えてもよい。
【0008】
また、上記プラズマCVD装置であって、
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材が前記載置台を当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることが好ましい。
また、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に近づけて前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させてもよい。
このように、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪う前にプラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を生長させ、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪ってからプラズマによって前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させてもよい。
【0009】
また、前記第一の膜はカーボンナノウォールを有してもよい。
【0010】
また、前記第二の膜はダイヤモンド微粒子を含んでもよい。
【0011】
また、前記冷却部材は、前記処理対象体の温度を10℃以上下げてもよい。
【0012】
上記プラズマCVD装置であって、
前記載置台の前記載置面とは反対の面に対して前記冷却部材を移動させる冷却部材移動機構を有するようにしてもよい。
【0013】
上記プラズマCVD装置であって、
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長してから、前記冷却部材移動機構は、前記冷却部材を前記載置台に近づけ又は当接させ、前記載置台が所定の温度まで冷却されたときに前記冷却部材を前記載置台から離してもよい。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係るプラズマ表面処理方法は、
第1の電極と第2の電極との間でプラズマを発生して、載置台の載置面に載置した処理対象体の表面に第一の処理を行い、
冷却部材が前記処理対象体から熱を奪い、前記処理対象体の表面に第二の処理を行うことを特徴とする。
【0015】
なお、上記プラズマ表面処理方法であって、
前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることが好ましい。
また、前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させてもよい。
また、前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に近づけて前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させてもよい。
このように、前記第一の処理は、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪う前にプラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を生長させ、前記第二の処理は、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪ってからプラズマによって前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させることが好ましい。
【0016】
また、前記第一の膜はカーボンナノウォールを有してもよい。
【0017】
また、前記第二の膜はダイヤモンド微粒子を含んでもよい。
【0018】
また、上記プラズマ表面処理方法であって、
前記第二の処理は、前記冷却部材により前記処理対象体の温度を10℃以上下げてもよい。
【0019】
上記プラズマ表面処理方法であって、
前記第2の処理は、前記載置台の前記載置面とは反対の面に対して前記冷却部材を移動させる冷却部材移動処理を含んでもよい。
【0020】
この場合、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜を成長させてから前記冷却部材を前記載置台に近づけ或いは当接させ、前記載置台が所定の温度まで冷却されたときに前記冷却部材を前記載置台から離すことが好ましい。
更に、プラズマ表面処理方法を、第1の電極と第2の電極との間でプラズマを発生して、載置台の載置面に載置した処理対象体の表面にカーボンナノウォールを有する第一の膜を生成し、
冷却部材が前記処理対象体から熱を奪い、前記第一の膜上にダイヤモンド微粒子を含む第二の膜を生成してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、プラズマを用いた所望の表面処理を確実に実現できる。そのため、例えば電界放出特性に優れた電界放出電極を安定して確実に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1(a)及び図1(b)は、本発明のプラズマCVD装置の実施形態に係る直流プラズマCVD装置の概要を示す構成図である。
【0023】
この直流プラズマCVD装置は、処理対象の基板1の表面に膜を形成する装置であり、基板1を外気から遮断するためのチャンバー10を備えている。
チャンバー10内には、鋼でできているステージ11が配置され、ステージ11の上部に円板状の熱伝導性のよく、融点が高い金属からなる陽極11aが取付けられている。基板1は、陽極11aの上側載置面に固定される。ステージ11は、陽極11aとともに軸11xを中心にして回転するように設定されている。陽極11aとしてはモリブデン(熱伝導率138W/m・K、融点2620℃)等の金属が好ましい。
【0024】
陽極11aの下側には閉塞された空間11bが設けられており、空間11bには、冷却部材12が配置され、図示しない移動機構により、冷却部材12が矢印の通り上下に移動自在な構造になっている。冷却部材12は、銅等の熱伝導率の高い金属で形成され、その内部に冷却された水又は冷却された塩化カルシウム水溶液等の冷却媒体が管路19aから冷却部材12内の流路19bに入り、管路19cより排出されるように循環し、冷却部材12全体を冷やしている。
【0025】
このため、冷却部材12が上方に移動することにより、図1(b)に示すように、冷却部材12の面12aがステージ11の下面に当接すると、当接されたステージ11がその上部に位置する陽極11aを冷却して、陽極11aが基板1の熱を奪う構造になっている。つまり、管路19aから送出された冷却媒体が、流路19bの面12aの近傍で基板1と熱交換を行うことによって基板1の温度を下げるとともに、温度が上昇した冷却媒体が流路19bから管路19cに移動して排出される。管路19cから排出された冷却媒体は、図示しない冷却装置によって冷却されて、再び管路19aに送出されるように循環される。冷却部材12の面12aは、基板1を面方向に均等に冷却するため、その形状が基板1と相似形でかつ基板1より一回り大きいことが好ましく、流路19bが面12aが均等な温度となるように冷却媒体を流通させる構造になっていることが好ましい。
また、陽極11aの下側に設けられた空間11bはステージ11によって仕切られており、内部には気体が封入されている、或いは大気圧より減圧された雰囲気となっている。
【0026】
陽極11aの上方には、一定の距離を置いて陰極13が配置されている。陰極13は、陽極11aと対向している。
陰極13の内部には、冷却媒体が流れる流路13aが形成され、その流路の両端には、管路13b,13cが取付けられている。管路13b,13cは、チャンバー10に形成された孔を貫通し流路13aに連通している。管路13b,13cの通過したチャンバー10の孔は、シール剤でシールされ、チャンバー10内の気密性は確保されている。管路13b、流路13a、管路13cには、冷却媒体が流れることにより陰極13の発熱を抑制する。冷却媒体としては、水、塩化カルシウム水溶液等が好ましい。
【0027】
チャンバー10の側面には、窓14が形成され、チャンバー10内の観察が可能になっている。窓14には、耐熱性ガラスがはめ込まれ、チャンバー10内の気密性が確保されている。チャンバー10の外側に、窓14のガラスを介して基板1の温度を測定する放射温度計15が配置されている。
【0028】
この直流プラズマCVD装置には、原料ガスをガス供給用管路16を介して導入する原料系(図示略)とチャンバー10内から気体を排気用管路17を介して排出してチャンバー10内の気圧を調整する排気系(図示略)と、出力設定部18とを備えている。
【0029】
各管路16,17は、チャンバー10に設けられた孔を通過している。その孔と管路16,17の外周との間は、シール材でシールされ、チャンバー10の内の気密性が確保されている。
【0030】
出力設定部18は、陽極11aと陰極13との間の電圧又は電流値を設定する制御装置であり、可変電源18bを備えている。出力設定部18と陽極11a及び陰極13とは、リード線でそれぞれ接続されている。各リード線は、チャンバー10に設けられた孔を通過している。リード線が通されたチャンバー10の孔は、シール材でシールされている。
【0031】
出力設定部18は、制御部18aを備え、その制御部18aは、放射温度計15とリート線で接続されている。制御部18aは、起動されると、放射温度計15の測定した基板1の温度を参照し、基板1の温度が予定の値になるように、陽極11aと陰極13との間の電圧又は電流値を調整する。
【0032】
次に、図1の直流プラズマCVD装置を用いて基板1に成膜し、電界放出電極を形成する成膜処理を説明する。
この成膜処理では、図5に示すように、基板1の表面に、カーボンナノウォール21の層と、カーボンナノウォール21の層上に形成された複数のダイヤモンド微粒子22を含む層とを有する電子放出膜20を成膜する。
【0033】
ここで、電子放出膜20について説明する。
図2は、図5のダイヤモンド微粒子を有する電子放出膜20の表面を走査型顕微鏡で走査した画像である。
図3は、図2の電子放出膜20を拡大した画像である。
図4は、図2の電子放出膜20及びカーボンナノウォール21の断面を示す二次電子像である。
【0034】
カーボンナノウォール21は、曲面をなす花弁状(扇状)の複数の炭素薄片が起立しながら互いにランダムな方向に繋がりあって構成され、0.1nm〜10μmの厚さである。各炭素薄片は、格子間隔が0.34nmの数層〜数十層のグラフェンシートから構成されている。グラフェンシートは、sp2結合であり、導電性を示している。
【0035】
この電子放出膜20は、粒径が5nm〜10nmのsp3結合の複数のダイヤモンド微粒子22を含み、その表面には、ダイヤモンド微粒子22が数十から数百個程度集まり、図3に示すように、笹葉のような組織が形成されている。そして、このような電子放出膜20は、表面が笹葉が複数集まって、図2に示すように、表面が略円形状の密集した複数のコロニーとなってカーボンナノウォール21を覆っている。
【0036】
電子放出膜20のコロニーの径は1μm〜5μm程度であり、カーボンナノウォール21を隙間なく覆い尽くす程度に成長していることが望ましい。ダイヤモンド微粒子22同士の隙間には、導電性のsp2結合の無定形炭素23が介在している。カーボンナノウォール21は、上面の凹凸の差が比較的大きいのに対して、その上方に設けられているダイヤモンド微粒子22を含む膜は、その表面の凹凸が相対的に緩和されており、平坦化する性質を有している。このため、電界放出による電子放出箇所が面内で多数配置することができる。
【0037】
図6は、電子放出膜20のX線回折パターンを示す図である。また、図7は、電子放出膜20を構成するカーボンナノウォール21のラマン分光法によるスペクトルを示す図である。
一方、電子放出膜20におけるX線回折パターンを調べると、図6に示すように、ダイヤモンド結晶に起因する顕著なピークを有すると共に、20゜〜30゜にグラファイトに起因するピークも観察された。同電子放出膜20の表面に対する法線方向を0゜とした場合、照射されるX線の照射方向が0゜から90゜にシフトするにしたがって、ダイヤモンド結晶に起因する顕著なピーク強度はあまり変わらないまま、グラファイトに起因するピーク強度が減衰し、90゜付近でほぼ消失することが確認された。X線の照射方向が90゜に近づくほど電子放出膜20の深さ方向へのX線の進入が妨げられるので、換言すれば、電子放出膜20において、ダイヤモンド構造は表面側に位置し、グラファイト構造は下層側に位置することが確認できた。
【0038】
そして、図7に示すように、1580cm−1付近のグラファイトの炭素−炭素結合の六角格子内での炭素原子の振動に起因する半値幅が50cm−1未満のGバンドのピークと、1350cm−1付近の半値幅が50cm−1未満のDバンドのピークの強度比が鋭敏に現れており、他のピークがほとんど見られない。これらのことから、カーボンナノウォール21の炭素薄片は、緻密で純度の高いsp2結合のグラファイトからなるカーボンナノウォール21が生成されていることが明らかである。
【0039】
また、電子放出膜20の主表面は、ダイヤモンド微粒子のみではなく、ダイヤモンド微粒子を極薄く被覆した膜が確認された。この膜は、良好な電子放出膜20の抵抗率が数kΩ・cmであったことや上記製造工程における原料ガスの組成から、導電性を示すグラファイト構造の炭素を含む炭素であることが確認できた。ただし、XRDスペクトルにおいて、この表面及びダイヤモンド微粒子間に位置する無定形炭素23に起因する顕著なピークは確認されなかったことから相対的にごく微量のものであることがわかる。このように、電子放出膜20では、上述したグラファイト構造のsp2結合の炭素を含む炭素が最表面やダイヤモンド微粒子同士の隙間に形成され、このうちの導電性を示すグラファイト構造の炭素が電子放出膜20全体の抵抗率を低くすることに寄与している。
【0040】
電子放出膜20に対して、波長=532nmのレーザ光によるラマン分光測定を行うと、図9に示すように、1350cm−1近傍を頂点とするダイヤモンドのピークと1580cm−1近傍を頂点とするグラファイトのピークとが観察され、ガラス状炭素や黒鉛構造を基本とした無定形炭素の混在が認められる。1350cm−1近傍を頂点とするピークの半幅値は、50cm−1以上である。つまり、電子放出膜20は、X線回折パターンより組成中にsp3結合のダイヤモンド及びsp2結合の無定形炭素の存在が確認され、ラマン分光分析スペクトルより半値幅が50cm−1以上のブロードなピークを有する無定形炭素の存在が確認され、これらの複合体を有していることがわかる。尚、図9におけるスペクトルについては後述する。
【0041】
良好な電子放出膜20は、1kΩ・cm〜18kΩ・cmであった。電子放出膜20は、ダイヤモンド微粒子22同士の隙間に、上述した無定形炭素(sp2結合の炭素)23が介在し、この無定形炭素が導電性を示すことから電子放出膜20全体の抵抗率を低くすることに寄与している。
【0042】
次に、成膜処理について説明する。
成膜処理では、まず、例えばニッケル板を基板1として切り出し、エタノール又はアセトンにより脱脂・超音波洗浄を十分に行う。
【0043】
この基板1を図1に例示する構成の直流プラズマCVD装置の陽極11a上に載置する。
基板1の載置が完了すると、次に、チャンバー10内を排気系を用いて減圧し、続いて、ガス供給用管路16から水素ガスとメタン等の組成中に炭素を含有する化合物のガス(炭素含有化合物)とを導く。
【0044】
原料ガス中の組成中に炭素を含有する化合物のガスは、全体の3vol%〜30vol%の範囲内にあることが望ましい。例えば、メタンの流量を50SCCM、水素の流量を500SCCMとし、全体の圧力を0.05〜1.5atm、好ましくは0.07〜0.1atmにする。また、基板1ごと陽極11aを10rpmで回転させ、基板1上の温度ばらつきが5%以内になるようにして陽極11aと陰極13との間に直流電源を印加し、プラズマを発生させ、プラズマ状態及び基板1の温度を制御する。
【0045】
カーボンナノウォール21の成膜時には、基板1のカーボンナノウォール21が成膜される箇所の温度を900℃〜1100℃で所定時間の成膜を行う。この温度は放射温度計15により測定されている。このとき、冷却部材12は、陽極11aの温度に影響がないように十分離間されている。放射温度計15は、直流プラズマCVD装置のプラズマ輻射を減算して基板1側の表面での熱輻射のみから温度を求めるように設定されている。
【0046】
図8(a)〜(c)は、それぞれ、プラズマCVD装置でのプラズマを励起したときの消費電力、基板1の表面で観測された放射率、放射率等に基づいて算出された基板1の表面の温度であり、いずれも横軸が時刻になっており互いに一致している。
下地となるカーボンナノウォール21が十分成膜されたら、引き続きガス雰囲気を変えることなく連続したまま、プラズマにより加熱された陽極11aよりも遙かに低い温度の冷却部材12を100mm上昇させてステージ11に当接させて陽極11aを冷却する(タイミングT0)。このとき、冷却された陽極11aは、その上で固定されている基板1を冷却させ、基板1側の表面が、図8(c)に示すように、カーボンナノウォール21の成膜時より10℃以上低い複数のダイヤモンド微粒子22の成膜適正温度にまで急冷する。このときの温度は、890℃〜950℃、より望ましくは920℃〜940℃にする。なお、その後の温度を安定にするためにも、タイミングT0において、陽極11a及び陰極13の印加電圧又は印加電流値はあまり変えないことが好ましい。
【0047】
基板1が一気に冷えたために、カーボンナノウォール21の生長が停止して、カーボンナノウォール21を核として複数のダイヤモンド微粒子22が生長を開始し、やがて、カーボンナノウォール21上に粒径が5nm〜10nmのsp3結合の複数のダイヤモンド微粒子22及びダイヤモンド微粒子22同士の隙間に介在する導電性のsp2結合の無定形炭素23が形成される。
【0048】
このように陽極11aと陰極13の印加電圧又は印加電流値をほとんど変えることなく、急冷することで電子放出膜20の膜質を劇的に変えることができる。
例えば、陽極11aと陰極13の印加電圧又は印加電流値のみを変えることによってもダイヤモンド微粒子22を生長させることは可能であるが、印加電圧又は印加電流値の調節によっては、チャンバー10内の温度を劇的に変えにくい。仮に、また温度が降下することができても、温度が乱高下してしまい、ダイヤモンド微粒子22の成膜適正温度に維持すること自体が困難である。つまり、電子放出膜20の膜質が悪くなってしまう。また緩やかに温度を下げてゆくと、10℃以上温度を下げてもカーボンナノウォール21の生長を停止しにくくなり、ダイヤモンド微粒子22の成長が遅くなり、カーボンナノウォールとダイヤモンド微粒子とが混在する膜が形成され、本実施形態のように膜質を劇的に変化させることは困難である。
【0049】
タイミングT1になって、ステージ11に当接していた冷却部材12を下降させると、再びプラズマにより基板1側の表面温度が上昇する。このとき、950℃までの上昇であれば、カーボンナノウォール21に生長が切り替わることなく、ダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23が生長し続ける。
【0050】
十分生長した複数のダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23を含む層はカーボンナノウォール21上全面を被膜し最上面が、カーボンナノウォール21の表面に比べて平坦な構造となっている。原料ガス中の組成中に炭素原子を含有する化合物のガスが全体の3vol%未満であってもダイヤモンド微粒子22を有する電子放出膜20は生成できるが、電子放出特性が極めて悪いことが確認された。
【0051】
この成膜に用いられる放射温度計15は、ダイヤモンド微粒子22を含む層を基板1上に直接成膜すると、基板1を構成する金属による反射があることや、金属の輻射率が波長依存性を持つために、電子放出膜20からの放射が不安定な状況になり、正確な温度測定が困難であるという問題がある。しかし、カーボンナノウォール21を下地膜として用いると、カーボンナノウォール21は波長依存性を持たずに放射率が1であるので、その上にダイヤモンド微粒子22が形成された場合の放射率を0.7とすることができ安定した温度測定を行うことができる。
【0052】
また、プラズマにより、陰極13の温度が高くなった場合には、陰極13から放射される輻射が基板1で反射して放射温度計15に入ることにより、基板1の温度を正確に測定できないことが予測されるが、管路13b、流路13a、管路13cに冷却媒体を流して陰極13を強制冷却することで、基板1の温度測定の障害にならないように、陰極13から発生するスペクトルを長波長側にシフトさせることができる。基板1の全面での温度のばらつきも抑制できる。
【0053】
成膜の終了段階では、陽極11aと陰極13との間の電圧の印加を停止し、続いて、原料ガスの供給を停止し、パージガスとして窒素ガスをチャンバー10内に供給して常圧に復帰した後、常温に戻った状態で基板1を取り出す。
【0054】
以上の工程により、図5に示す電子放出膜20が形成される。
なお、原料ガスの混合比、ガス圧、基板1のバイアス電圧などの条件を適切に選択することにより、カーボンナノウォール21を成膜させる領域を、ダイヤモンド微粒子22からなる層の成膜温度よりも高く、且つ900℃〜1100℃で30分間〜360分間保持させることによって、基板1上にカーボンナノウォール21の層を形成する。そして引き続き、ダイヤモンド微粒子22からなる層を成膜する領域を、カーボンナノウォール21の成膜時における温度より10℃以上下げることによってカーボンナノウォール21上にダイヤモンド微粒子22からなる層を形成することができる。
【0055】
カーボンナノウォール21は、優れた電子放出特性をもつが数ミクロンの凹凸があり均一なエミッションサイトを形成することが困難である。しかし、本実施形態のように、ダイヤモンド微粒子22で構成された層をカーボンナノウォール21上に成膜することで均一な表面形状を得ることができる。従って、均一なエミッションサイトを形成することができる。
【0056】
図9は、波長=532nmのレーザ光によるラマン分光測定のスペクトルであり、実線は、電子放出膜20の複数のダイヤモンド微粒子22の集合体と無定形炭素23のラマンスペクトルである。電子放出膜20では、ダイヤモンド微粒子22の下部にカーボンナノウォール21が設けられているが、ダイヤモンド微粒子22がカーボンナノウォール21の表面全体を十分覆う程度に成膜されているので、ダイヤモンド微粒子のスペクトルが支配的となる。
【0057】
ここでは、1330cm−1近傍を頂点とするダイヤモンドのピークと1580cm−1近傍を頂点とするグラファイトのピークとが観察され、ガラス状炭素や黒鉛構造を基本とした無定形炭素の混在が認められる。1330cm−1近傍を頂点とするピークの半幅値は、50cm−1以上である。つまり、電子放出膜20は、X線回折パターンより組成中にダイヤモンド及び、グラファイトの存在が確認され、ラマン分光分析スペクトルより半値幅が50cm−1以上のブロードなピークを有する無定形炭素の存在が確認され、これらの複合体を有していることがわかる。
【0058】
このラマンスペクトルからダイヤモンドに起因するスペクトルとグラファイトに起因するスペクトルとを精度よく算出するために、まず750cm−1〜2000cm−1の部分のダイヤモンドスペクトルとグラファイトスペクトルとが合成されたスペクトル値の描く軌線を抜き出し、抜き出した端部近傍(750cm−1近傍での線端部と2000cm−1での近傍)を結ぶ線分をベースラインとしてスペクトルからベースライン分(つまりノイズとなる部分)の数値を取り除く。次いでポジションのダイヤモンドスペクトルのピークを初期値1333cm−1とし、グラファイトスペクトルのピークを初期値1580cm−1として擬Voigt型関数を置き、非線形最小二乗法でスペクトルにフィッティングを行う。図9の一点鎖線は、Dバンド強度とGバンド強度とが合成された成分であり、そのうち、破線が、抽出されたDバンド強度成分であり、二点鎖線が、抽出されたGバンドの強度成分である。
【0059】
このようにして、1333cm-1近傍をピークとしたDバンドと、1580cm-1近傍をピークとしたGバンドの面積比から、比(Dバンド強度)/(Gバンド強度)が求められる。比(Dバンド強度)/(Gバンド強度)は、換言すれば、比(膜中のsp3結合の数)/(膜中のsp2結合の数)であり、すなわち、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)である。
【0060】
したがって、カーボンナノウォール21上の炭素膜は、全体として見かけ上、一層の膜形状であるが、これを微視的にみると、Dバンドとして示されるsp3結合を有する炭素であり、粒径が概ね5nm〜10nmのダイヤモンド微粒子22の集合体と、ダイヤモンド微粒子22の隙間に介在し、Gバンドとして示されるsp2結合を有する無定形炭素膜23と、の複合膜の構造となっている。
【0061】
ここで電子放出膜の厚さを3μmとすると、粒径が概ね5nm〜10nmのダイヤモンド微粒子22は、暑さ方向に数百個連続して積層されることになる。これらダイヤモンド微粒子は、それぞれ絶縁体であるが、隙間に介在するsp2結合の炭素が導電性を示すために、全体として電気伝導性を帯びている。
【0062】
基板1上に設けられたカーボンナノウォール21上にダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23の層を形成した電子放出膜20を有する電界放出型電極は、電流密度が1mA/cm2での電界放出時の電界強度が、0.84V/μmであり、図10に比較例として示したように、基板上にカーボンナノウォール21と同じ構造のカーボンナノウォールのみが形成された電界放出型電極よりも、より低い電圧で電界放出し、より優れた電子放出特性を備えていることが確認された。また、電子放出膜20を有する電界放出型電極は、基板1上に直接ダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23の層を形成した場合よりも若干電子放出特性が優れていることが確認された。
【0063】
このような電子放出膜では、個々のダイヤモンド微粒子は、負性電子親和力を有し、その粒径が10nm以下と極めて微小なためにトンネル効果により電子を放出することができる。また、sp2結合の炭素がダイヤモンド微粒子同士の隙間に所定の存在比で介在することによって、膜全体として導電性を付与して電界放出しやすくするばかりでなく、ダイヤモンド微粒子が、トンネル効果が得られないほど連続して重ならないようにしている。つまり10nmのダイヤモンド微粒子が所定方向に100個程度ほとんど隙間なく堆積してしまうと、見かけ上ダイヤモンドの厚さは、1000nmになってしまい、強電界をかけてもほとんどトンネル効果をもたらさなくなってしまうが、導電性のsp2結合の炭素が介在することによって、ダイヤモンド微粒子は個々に分離されるので、それぞれのダイヤモンド微粒子がトンネル効果を発現することが可能となる。
【0064】
このため、電圧を印加することによって基板から放出された電子は、最も近いダイヤモンド微粒子に一旦注入され、このダイヤモンド微粒子によって電界放出されて、電界方向に隣接するダイヤモンド微粒子に再び注入され、このような電子放出が電子放出膜の電界方向に繰り返し起こり、最終的には、電子放出膜の最表面から放出されることになる。
【0065】
ここで、図11(a)は、生成された電子放出膜20の画像であり、図11(b)は、図11(a)の電子放出膜20の上方に蛍光体及び透明導電体を配置させ、電子放出膜20の電界放出によりこの蛍光体から励起光を発したときの画像である。
【0066】
そして、図12(a)は、図11(a)の領域R1の拡大画像である。
図12(b)は、図12(a)の矢印で示す位置であり、電子放出膜20において、後述する図12(c)、図12(d)、図12(e)よりも内側に位置する箇所のSEM像であり、基板1上にカーボンナノウォール21が堆積し、カーボンナノウォール21上に複数のダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23が緻密に集合してなる膜であり、最も電界放出性が良好な箇所である。この箇所では、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.55であり、ダイヤモンド微粒子の粒径は5nm〜10nmであった。
【0067】
図12(c)は、図12(a)の矢印で示す位置であり、電子放出膜20において、図12(b)や後述する図12(d)、図12(e)よりも外側に位置する箇所のSEM像である。
この箇所の基板1上にはほとんどカーボンナノウォール21のみが成膜されており、最も電界放出性が劣っていた箇所である。その電界放出特性は、図10の比較例とほぼ同等であった。この箇所では、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が0.1であった。
【0068】
図12(d)は、図12(a)の矢印で示す位置であり、図12(b)で示される箇所より外側で、図12(c)で示される箇所より内側に位置している箇所のSEM像である。
この箇所では、基板上に形成されたカーボンナノウォール21の花弁状のグラフェンシートに多数のダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23が堆積してそれらが球状に群集している。つまり1つの球状体は、多数のダイヤモンド微粒子で構成されている。これは、成長した花弁状のグラフェンシートの先端部分にダイヤモンド微粒子が生長したものであり、電子放出特性は、図12(c)のカーボンナノウォールより優れているが、図12(b)のダイヤモンド微粒子22が緻密に集合してなる膜より劣っていた。この箇所では、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が0.5であった。ここでもダイヤモンド微粒子の粒径は5nm〜10nmであった。
【0069】
図12(e)は、図12(a)の矢印で示す位置であり、図12(b)で示される箇所より外側で、図12(d)で示される箇所より内側に位置している箇所のSEM像である。ここでは、図12(d)の箇所よりもさらにダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23の結晶生長が進み、球状体が連結して膜の表面が比較的平滑になってきているが、球状体間にところどころ隙間がある。ここでの電子放出特性は、図12(d)カーボンナノウォールより優れており、図12(b)のダイヤモンド微粒子22及び無定形炭素23が緻密に集合してなる膜よりやや劣っているが、電子放出膜20として十分であった。この箇所では、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.50であった。ダイヤモンド微粒子の粒径は5nm〜10nmであった。
【0070】
図13は、電子放出膜20の各位置における比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)を求めたものであり、図12(a)に示す位置P(0)を相対位置の”0”とし、位置P(0)に対して図12(b)に示す位置側にそれぞれ1mm、2mm移動した位置が位置P(1)、P(2)とし、位置P(0)に対して図12(d)に示す位置側にそれぞれ1mm、2mm、3mm移動した位置が位置P(−1)、P(−2)、P(−3)とした。
【0071】
比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.5前後では低い電圧でも十分発光したが、0.5では、発光するのに比較的高い電圧を要した。電子放出特性が特に優れている箇所は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.50以上であった。
【0072】
図14は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)をより高い方向にシフトするように成膜した場合の抵抗率を求めたグラフである。
比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.6の電子放出膜20は、抵抗率が0.6×104(Ω・cm)であり、その電子放出特性は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.50〜2.55の電子放出膜20aよりも優れていた。
【0073】
比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.7の電子放出膜20は、抵抗率が1.8×104(Ω・cm)であり、その電子放出特性は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.6の電子放出膜20より劣っていたが、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.55と同等であり、電界放出型電極としては十分であった。
【0074】
比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が3.0の電子放出膜20は、抵抗率が5.6×104(Ω・cm)であり、その電子放出特性は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が2.50の電子放出膜20より劣っていた。これは、sp2結合の炭素の存在比が少なくなることで電導性が低くなることに加え、ダイヤモンド微粒子22同士の隙間にsp2結合の無定形炭素23が介在しなくなることで見かけ上、ダイヤモンドの膜厚が厚くなってしまい、効率的にトンネル電子を放出する箇所の割合が減ってしまったためである。
【0075】
図15(a)〜(d)は、本発明における電子放出膜20を有するカソード電極に対して距離を4.5mm離した位置にアノード電極を設け、アノード電極、カソード電極間に6kVパルス電圧(1kHz,duty比1%)を印加して、アノード電極側に設けられた蛍光体を発光させた状体を示す画像である。
【0076】
図15(a)は電子放出膜20の抵抗率が1kΩ・cmのものであり、図15(b)は電子放出膜20の抵抗率が6kΩ・cmのものであり、図15(c)は電子放出膜20の抵抗率が18kΩ・cmのものであり、図15(d)はダイヤモンド膜の抵抗率が56kΩ・cmのものである。図15(d)の電子放出膜20は、より強電界をかけることにより発光することが確認されている。なお、図15(a)の電子放出膜20の比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)は、2.5であった。
【0077】
このような電子放出膜20を繰り返し製造した結果、良好な電子放出特性を得られた電子放出膜20は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)を2.5〜2.7であり、特にしきい値電界強度が1.5V/μm以下となるような、より優れた電子放出特性を得られた電子放出膜20は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が、2.55〜2.65であり、さらに、最も安定して且つ電子放出性が良好な電子放出膜20は、比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)が、2.60〜2.62であった。
また抵抗率の観点から、抵抗率が1kΩ・cm〜18kΩ・cmの電子放射膜20の電子放出特性が良好であった。
【0078】
本発明における電界放射型電極を備えた光源は、FED(フィールドエミッションディスプレイ)に適用可能であり、また、液晶パネルのバックライトやその他家庭用光源にも適用でき、さらには、パソコン、デジタルカメラ、携帯電話等の光源、車載用光源にも適用することが可能である。
【0079】
以上のように、本実施形態の直流プラズマCVD装置は、冷却部材12をステージ11に当接させて陽極11aを急冷する構成にしたので、炭素膜質を速やかに変えることができ、電子放出特性に優れた電界放出電極の形成することができる。さらに、冷却部材12は陽極11aに当接させたり、離したりすることにより、水冷よりも簡単且つ速く陽極11aを冷却でき、基板1の温度制御が容易である。
【0080】
また、陰極13を水冷できる構成にしたので、基板1の温度を放射温度計15で計測し、その結果をフィードバックした基板1の温度を制御する際に、陰極13の温度の影響を軽減でき、基板1の温度を適正に制御することができる。
なお、上記実施形態では、冷却部材12によって基板1を冷却しているのに対し、以下に説明するように、冷却部材12及び冷却気体によって基板1を冷却してもよい。
【0081】
図16(a)は、直流プラズマCVD装置の冷却部材12の変形例を示す上面図であって、図16(b)は、図16(a)のXVIB-XVIB線に沿った直流プラズマCVD装置の略断面図であり、上記実施形態と実質的に同じ構成については同一符号を付しその一部は説明を省略する。
【0082】
ステージ11で仕切られた空間11b内には冷却部材12が設けられ、冷却部材12の面12Aには、中央に通気口12bが開口されており、通気口12bは、冷却部材12内に設けられた配管31に連通している。三方弁34は、配管31に連結されるとともにヘリウムガスが封入されているヘリウムガス封入部32と流量調節部33を介して連結されており、さらに乾燥された窒素ガスが封入されている窒素ガス封入部35と流量調節部36を介して連結されている。
【0083】
量調節部33は、ヘリウムガス封入部32から排出されるヘリウムガスの量を制御するポンプを有し、室温のヘリウムガスの流量を0〜1(l/min)に制御できる。流量調節部36は窒素ガス封入部35から排出され窒素ガスの量を制御するポンプを有し、室温の窒素ガスの流量を0〜22(l/min)に制御できる。流量調節部33、流量調節部36及び三方弁34は、出力設定部18の制御部18aによって制御されている。
【0084】
冷却部材12内の流路19bは、面12aが均等な温度に冷却されるように、面12aの形状に合わせて略円状(弧状)となっており、且つ通気口12bを中心とした同心円状に複数設けられている。このように、管路19aから冷却部材12内の流路19bに入った冷却媒体が矢印の通りに移動して冷却部材12内を均等且つ全体に行きわたることで面12aを均等に冷却し、ひいては基板1を面方向で均等に冷却することができる。管路19cから排出された冷却媒体は、冷却装置30によって再び冷却されて、再び管路19aに搬送されるように循環される。
【0085】
さらに、通気口32からヘリウムガス及び/又は窒素ガスを送出することによって、ステージ11の陽極11aを速やかに冷却することができる。
図17は、通気口12bから送出されるガス種がヘリウムガスのみの場合と、窒素ガスのみの場合の基板1の表面温度の比較を示したグラフである。いずれも、送出された気体種が異なる以外、両者のDCプラズマの放電電流、原料ガス、電極形状等の条件は全て同じであり、基板1の温度測定には放射温度計を用いている。横軸において時刻5分直前までは冷却部材12が、ステージ11に当接していない状態でDCプラズマを発生して基板1にカーボンナノウォール21を形成しており、時刻5分になったところで冷却部材12を100mm上昇させて冷却部材12の面12aをステージ11に当接させる。
【0086】
このとき、通気口12bから送出された冷気ガスはステージ11に吹き付けられながら面12aとステージ11との間の隙間を移動してステージ11及び基板1の冷却の補助を行う。この冷却によってカーボンナノウォール21の生成が停止し、その上に複数のダイヤモンド微粒子22とを含む層が成長し始める。冷気ガスがヘリウムガスの場合、冷却時の放射率は約0.5であった。
【0087】
ヘリウムガス(熱伝導率が150×10−3(W/m・K))は、窒素ガス(熱伝導率が260×10−4(W/m・K))より熱伝導性に優れており、速やかに冷却することができる。上記冷気ガスは室温であったが、カーボンナノウォール21を成膜時の基板1の加熱温度より低ければこれに限らない。また冷気ガスの放出は、冷却部材12の面12aがステージ11に当接する直前であっても、冷却部材12の面12aがステージ11に当接時であっても、冷却部材12の面12aがステージ11の当接する直後であってもよい。
【0088】
図18(a)は、直流プラズマCVD装置の冷却部材12の他の変形例を示す上面図であって、図18(b)は、図18(a)のXVIIB-XVIIB線に沿った直流プラズマCVD装置の略断面図であり、図19(a)は、図18Aの冷却部材12の上面図であって、図19(b)は、図19(a)のXIXB-XIXB線に沿った直流プラズマCVD装置の冷却時の動作を示す略断面図である。
図16(a)、図16(b)に示すプラズマCVD装置では、冷却部材12の面12aが平坦であったが、図18(a)、図18(b)に示すプラズマCVD装置では、冷却部材12の面12aに、通気口12bから冷却部材12の側面12dまで連通する溝12cが形成されている。このため、図19(b)に示すように、冷却部材12の面12aがステージ11に当接しても、冷気ガスは溝12cとステージとの隙間にできた流路によって矢印の通りに移動することによって効率よく通気して冷却することができる。
また上記各実施形態では、冷気ガスを直接、ステージ11の当接面に吹き付けたが、これに限らず、ステージ11で仕切られた空間11b内に封入することでも同様の効果を得ることができる。
【0089】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。
例えば、基板1は、ニッケル以外でも希土類、銅、銀、金、白金、アルミニウムのうち少なくともいずれか一種を含んでもよい。
また、原料ガスである水素ガスと炭素含有化合物の混合比も、適宜選択的に変更可能である。
【0090】
さらに、上記実施形態では、電子放出型電極を形成したが、他の電子部品を連続的なプラズマCVDで形成する場合にも適用でき、膜質の異なる複合膜を連続的に形成する場合等に有効である。
【0091】
また上記実施形態では、基板1を載置する電極が陽極であり、その上方に陰極を配置したが、代わりに基板1を載置する電極を陰極とし、その上方に陽極を配置してもよい。この場合、冷却部材12が陰極を冷やすことで良質の電子放出膜を製造することができる。
【0092】
また、例えば図16(a),(b)、図18(a),(b)のプラズマCVD装置において、その冷気ガスの冷却能力を十分に確保できる場合には、冷却部材12の面12aを完全にステージ11に全体を当接させる代わりに、冷却部材12の面12aの一部を当接するとともに他部を当接しない程度に接近させて、或いは面12a全体を当接しない程度に接近させて陽極11aを冷却してもよい。
さらに、上記各実施形態では、陽極11aをステージと一体型に形成し、ステージ兼陽極を冷却部材で冷却してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態に係る直流プラズマCVD装置の概要を示す構成図である。
【図2】電子放出膜の表面を走査型顕微鏡で走査した画像である。
【図3】図2の電子放出膜を拡大した画像である。
【図4】電子放出膜の断面を示す画像である。
【図5】電界放出電極を示す図である。
【図6】電子放出膜のX線回折のパターンを示す図である。
【図7】カーボンナノウォールのスペクトルを示す図である。
【図8】基板側の表面温度、放射率及びプラズマ励起パワーの時間変化を示す図である。
【図9】複数のダイヤモンド微粒子の集合体を含む炭素膜でのラマンスペクトルを示す図である。
【図10】本発明のダイヤモンド膜及び比較例のカーボンナノウォールの電界放出特性を示す図である。
【図11】ダイヤモンド膜の拡大画像を示す図である。
【図12】ダイヤモンド膜の各領域の拡大画像を示すである。
【図13】ダイヤモンド膜の各位置における比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)を示す図である。
【図14】比(sp3結合の炭素)/(sp2結合の炭素)と抵抗率との相関関係を示した図である。
【図15】抵抗率の異なる各ダイヤモンド膜の発光状態を示す図である。
【図16】冷却部材から気体を送出するプラズマCVD装置の概要を示す構成図である。
【図17】冷却部材から気体を送出したときの基板の温度依存性を示す図である。
【図18】冷却部材から気体を送出するプラズマCVD装置の概要を示す構成図である。
【図19】プラズマCVD装置において冷却部材が冷却しながら気体を送出する動作を示す構成図である。
【符号の説明】
【0094】
10・・・チャンバー、11・・・ステージ、11a・・・陽極、12・・・冷却部材、13・・・陰極、13a・・・流路、13b,13c・・・管路、14・・・窓、15・・・放射温度計、16・・・ガス供給用管路、17・・・排気用管路、18・・・出力設定部、18a・・・制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象体が載置される載置面及び第1の電極を有する載置台と、
前記第1の電極に対向し、前記第1の電極との間でプラズマを発生させる第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加する電圧設定部と、
前記処理対象体から熱を奪う冷却部材と、
を備えることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記処理対象体の温度を測定する温度測定部を備えることを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に近づけて前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪う前にプラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を生長させ、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪ってからプラズマによって前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させることを特徴とする請求項3又は4に記載のプラズマCVD装置。
【請求項6】
前記第一の膜はカーボンナノウォールを有していることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項7】
前記第二の膜はダイヤモンド微粒子を含むことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項8】
前記冷却部材は、前記処理対象体の温度を10℃以上下げることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項9】
前記載置台の前記載置面とは反対の面に対して前記冷却部材を移動させる冷却部材移動機構を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項10】
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長してから、前記冷却部材移動機構は、前記冷却部材を前記載置台に近づけ又は当接させ、前記載置台が所定の温度まで冷却されたときに前記冷却部材を前記載置台から離すことを特徴とする請求項9に記載のプラズマCVD装置。
【請求項11】
第1の電極と第2の電極との間でプラズマを発生して、載置台の載置面に載置した処理対象体の表面に第一の処理を行い、
冷却部材で前記処理対象体から熱を奪い、前記処理対象体の表面に第二の処理を行うことを特徴とするプラズマ表面処理方法。
【請求項12】
前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることを特徴とする請求項11に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項13】
前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に近づけて前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させることを特徴とする請求項11に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項14】
前記第一の処理は、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪う前にプラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を生長させ、前記第二の処理は、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪ってからプラズマによって前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項15】
前記第一の膜はカーボンナノウォールを有していることを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項16】
前記第二の膜はダイヤモンド微粒子を含むことを特徴とする請求項12乃至15のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項17】
前記第二の処理は、前記冷却部材により前記処理対象体の温度を10℃以上下げることを含むことを特徴とする請求項11乃至16のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項18】
前記第2の処理は、前記載置台の前記載置面とは反対の面に対して前記冷却部材を移動させる冷却部材移動処理を含むことを特徴とする請求項11乃至17のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項19】
前記冷却部材移動処理は、プラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を成長させてから前記冷却部材を前記載置台に近づけ或いは当接させ、前記載置台が所定の温度まで冷却されたときに前記冷却部材を前記載置台から離すことを特徴とする請求項18に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項20】
第1の電極と第2の電極との間でプラズマを発生して、載置台の載置面に載置した処理対象体の表面にカーボンナノウォールを有する第一の膜を生成し、
冷却部材が前記処理対象体から熱を奪い、前記第一の膜上にダイヤモンド微粒子を含む第二の膜を生成することを特徴とするプラズマ表面処理方法。
【請求項1】
処理対象体が載置される載置面及び第1の電極を有する載置台と、
前記第1の電極に対向し、前記第1の電極との間でプラズマを発生させる第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加する電圧設定部と、
前記処理対象体から熱を奪う冷却部材と、
を備えることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記処理対象体の温度を測定する温度測定部を備えることを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に近づけて前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪う前にプラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を生長させ、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪ってからプラズマによって前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させることを特徴とする請求項3又は4に記載のプラズマCVD装置。
【請求項6】
前記第一の膜はカーボンナノウォールを有していることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項7】
前記第二の膜はダイヤモンド微粒子を含むことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項8】
前記冷却部材は、前記処理対象体の温度を10℃以上下げることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項9】
前記載置台の前記載置面とは反対の面に対して前記冷却部材を移動させる冷却部材移動機構を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項10】
プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長してから、前記冷却部材移動機構は、前記冷却部材を前記載置台に近づけ又は当接させ、前記載置台が所定の温度まで冷却されたときに前記冷却部材を前記載置台から離すことを特徴とする請求項9に記載のプラズマCVD装置。
【請求項11】
第1の電極と第2の電極との間でプラズマを発生して、載置台の載置面に載置した処理対象体の表面に第一の処理を行い、
冷却部材で前記処理対象体から熱を奪い、前記処理対象体の表面に第二の処理を行うことを特徴とするプラズマ表面処理方法。
【請求項12】
前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に当接して前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる第二の膜を生長させることを特徴とする請求項11に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項13】
前記第二の処理は、プラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜が生長しているときに、前記冷却部材を前記載置台に近づけて前記載置台を冷却して、前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させることを特徴とする請求項11に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項14】
前記第一の処理は、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪う前にプラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を生長させ、前記第二の処理は、前記冷却部材が前記処理対象体から熱を奪ってからプラズマによって前記第一の膜上に前記第一の膜と異なる前記第二の膜を生長させることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項15】
前記第一の膜はカーボンナノウォールを有していることを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項16】
前記第二の膜はダイヤモンド微粒子を含むことを特徴とする請求項12乃至15のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項17】
前記第二の処理は、前記冷却部材により前記処理対象体の温度を10℃以上下げることを含むことを特徴とする請求項11乃至16のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項18】
前記第2の処理は、前記載置台の前記載置面とは反対の面に対して前記冷却部材を移動させる冷却部材移動処理を含むことを特徴とする請求項11乃至17のいずれか1項に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項19】
前記冷却部材移動処理は、プラズマによって前記処理対象体に前記第一の膜を成長させてから前記冷却部材を前記載置台に近づけ或いは当接させ、前記載置台が所定の温度まで冷却されたときに前記冷却部材を前記載置台から離すことを特徴とする請求項18に記載のプラズマ表面処理方法。
【請求項20】
第1の電極と第2の電極との間でプラズマを発生して、載置台の載置面に載置した処理対象体の表面にカーボンナノウォールを有する第一の膜を生成し、
冷却部材が前記処理対象体から熱を奪い、前記第一の膜上にダイヤモンド微粒子を含む第二の膜を生成することを特徴とするプラズマ表面処理方法。
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図15】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図15】
【公開番号】特開2007−119908(P2007−119908A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247972(P2006−247972)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(397070439)財団法人高知県産業振興センター (47)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(397070439)財団法人高知県産業振興センター (47)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
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