説明

作業車両の走行駆動装置

【課題】作業車両の燃費を向上する。
【解決手段】原動機1により駆動される油圧ポンプ11と油圧ポンプ11に閉回路接続された油圧モータ12とを有するHST駆動装置10と、 原動機1の駆動により発生した電力を用いて駆動される電動モータ23と、HST駆動装置10により駆動される第1の駆動輪113と、電動モータ23により駆動される第2の駆動輪123と、車速を検出する車速検出手段51と、検出された車速の増加に伴い、HST駆動装置10で発生する第1の動力Pw1の割合が小さくなり、電動モータ23で発生する第2の動力Pw2の割合が大きくなるように、原動機1の出力をHST駆動装置10と電動モータ23に分配する制御手段50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダやホイール式油圧ショベル等の作業車両の走行駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業車両においては、従来より、油圧ポンプと走行用油圧モータとを閉回路接続してHST走行回路を形成し、走行用油圧モータの駆動力をプロペラシャフトを介して車輪に伝達し、車両を走行駆動するようにした走行駆動装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−306768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した走行駆動装置は、HSTの特性上、低速走行時には大きな牽引力を発揮できるが、その反面、高速走行時にギヤの伝達ロスが大きくなり、燃費が悪化するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による作業車両の走行駆動装置は、原動機により駆動される油圧ポンプ、およびこの油圧ポンプに閉回路接続された油圧モータを有するHST駆動装置と、原動機の駆動により発生した電力を用いて駆動される電動モータと、HST駆動装置により駆動される第1の駆動輪と、電動モータにより駆動される第2の駆動輪と、車速を検出する車速検出手段と、車速検出手段により検出された車速の増加に伴い、HST駆動装置に分配する第1の動力の割合が小さくなり、電動モータに分配する第2の動力の割合が大きくなるように、原動機の出力をHST駆動装置と電動モータに分配する制御手段とを備えることを特徴とする。
電動モータの代わりに、原動機の駆動により発生した電力を用いて駆動され、電動モータとして機能する一方、走行時の運動エネルギにより駆動され、発電機として機能するモータ発電機を設けるとともに、車両の加速/減速指令の出力を判定する判定手段を設け、判定手段により加速指令が出力されていると判定されると、モータ発電機を電動モータとして機能させ、車速検出手段により検出された車速の増加に伴い、HST駆動装置に分配する第1の動力の割合が小さくなり、モータ発電機に分配する第2の動力の割合が大きくなるように、原動機の出力をHST駆動装置とモータ発電機に分配し、判定手段により減速指令が出力されていると判定されると、モータ発電機を発電機として機能させるようにしてもよい。
この場合、判定手段により減速指令が出力されていると判定されると、その減速指令値が大きいほどモータ発電機の発電量を増加させることもできる。
加速指令値を検出する加速検出手段を備え、加速指令値が大きいほど、第1の動力と第2の動力が大きくなるように、原動機の動力をHST駆動装置と電動モータに分配することもできる。
第1の駆動輪を前輪、第2の駆動輪を後輪とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、第1の駆動輪をHST駆動装置で駆動し、第2の駆動輪を電動モータで駆動するとともに、車速の増加に伴いHST駆動装置に分配するエンジン出力の割合を小さくしたので、HST駆動装置を効率よく作動することができ、燃費を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
−第1の実施の形態−
以下、図1〜図7を参照して本発明による走行駆動装置の第1の実施の形態について説明する。
図1は、第1の実施の形態に係る走行駆動装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ(前輪)113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ(後輪)123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により俯仰動し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動によりダンプまたはクラウドする。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。前輪113および後輪123は、以下のような走行駆動装置により駆動され、車両が走行する。
【0008】
図2は、第1の実施の形態に係る走行駆動装置の構成を示す図である。走行駆動装置は、前輪113を駆動する前輪駆動装置10と、後輪123を駆動する後輪駆動装置20とを有する。
【0009】
前輪駆動装置10は、エンジン1により駆動される可変容量型の油圧ポンプ11と、油圧ポンプ11からの圧油により駆動する可変容量型の油圧モータ12とを有する。油圧ポンプ11と油圧モータ12とは閉回路接続され、いわゆるHST走行回路を形成する。油圧モータ12の回転は、減速機13、車軸14を介して前輪113に伝達され、HST走行駆動装置により前輪113が駆動される。減速機13は、複数段(例えばロー/ハイ)に切換可能なギア機構を有する。
【0010】
このようなHST走行駆動装置(以下、単にHSTとも呼ぶ)は、低速走行時にとくに大きな牽引力を発揮できるため、牽引力に見合うようにアクスルやプロペラシャフトをローギア向けの堅牢な構造とする必要があり、シャフトサイズやギアサイズが大きくなる傾向にある。このため、ギアをハイギアに切り換えて高速走行した場合、ギヤの伝達ロスが大きくなり、燃費の悪化を伴う。そこで、本実施の形態では、以下のように電動モータにより後輪駆動装置20を構成し、高速走行時に後輪123を電動モータで駆動する。
【0011】
後輪駆動装置21は、エンジン1により駆動されるジェネレータ21と、ジェネレータ21で発電した電気を蓄電するバッテリ22と、ジェネレータ21によって発電された電力により駆動される電動モータ23と、電動モータ23の駆動を制御するインバータ24とを有する。電動モータ23の回転は、減速機25,車軸26を介して後輪123に伝達され、電動モータ23により後輪123が駆動される。減速機25は、減速機13と同様、複数段(ロー/ハイ)に切換可能なギア機構を有する。
【0012】
インバータ24はコントローラ50からの制御信号により制御される。コントローラ50には、車速vを検出する車速検出器51と、アクセルペダルの操作量Aを検出する操作量検出器52とが接続されている。コントローラ50は、これらからの信号に基づき、後述するように電動モータ23の出力トルクTをモータ23の目標出力Pw2(図6)に応じて制御する。
【0013】
ここで、前輪駆動装置10の構成をより詳しく説明する。図3は、HST走行回路の詳細を示す図である。図3に示すようにエンジン1の出力軸にはチャージポンプ15が接続され、チャージポンプ15の下流には絞り16が設けられている。アクセルペダルの踏み込みによりエンジン回転数が増加すると、チャージポンプ15の吐出圧が増加する。このチャージポンプ15からの圧油は、前後進切換弁17を介して傾転シリンダ18に導かれ、傾転シリンダ18が駆動される。これによりエンジン回転数の増加に伴い油圧ポンプ11の傾転角qpが大きくなり、ポンプ吐出量が増加し、油圧モータ12の回転数が増加する。前後進切換弁17は、前後進切換レバー19の操作に応じたコントローラ50からの制御信号により切り換えられ、油圧ポンプ11から油圧モータ12への圧油の流れ方向が制御される。
【0014】
ポンプ傾転角qは、アクセルペダルの踏み込みだけでなく、油圧ポンプ11に作用する負荷の大きさによっても変化する。例えばアクセルペダルを最大に踏み込み、エンジン1がフル馬力を出力しているときに、走行負荷が増加すると、エンジン回転数が低下してポンプ傾転角が小さくなり、ポンプ吐出量が減少する。この場合の負荷(モータ駆動圧P)とポンプ傾転角qpとの関係は、図4(a)に示すようになる。図4(a)の特性f1〜f3は、それぞれ動力一定の馬力線図を示しており、HSTに分配される動力Pw1(図6)が小さくなると、馬力線図はf1→f2→f3のようにシフトする。なお、モータ駆動圧の最大値Pmaxは図示しないリリーフ弁により制限され、ポンプ傾転角の最大値qpmaxはポンプ自体の構造により物理的に制限される。
【0015】
図3において、油圧モータ12の駆動圧Pは傾転シリンダ12aに導かれ、モータ駆動圧Pに応じてモータ傾転角qmが変化する。すなわちモータ駆動圧Pが所定値Pa以上になると、傾転シリンダ12aが大傾転側に駆動され、図4(b)に示すようにモータ傾転qmが小傾転qm1から大傾転qm2へと変化する。傾転シリンダ12aには、ソレノイド12bの励磁によって所定値Paの値を調整する調整機構が設けられている。所定値Paは、後述するコントローラ50からの制御信号により、HSTの目標動力Pw1に応じて制御される。すなわち目標動力Pw1が大きくなると、所定値Paは特性g1→g2→g3のように大きくなる。
【0016】
図4(a)のf1〜f3と図4(b)のg1〜g3は、それぞれ同一の動力Pw1に対応している。例えば動力Pw1が最大のときのポンプ傾転角qpの特性はf1、モータ傾転角qmの特性はg1であり、所定値Paは、ポンプ傾転角が最大qpmaxのときのモータ駆動圧P1と等しくなるように設定される。これによりHSTの動力Pw1が最大、モータ傾転角が小傾転qm1で走行中に、走行負荷が大きくなると、まずモータ傾転角qmが特性g1に沿ってqm2まで増加し、その後、ポンプ傾転角qpが特性f1に沿って減少する。
【0017】
図5(a)〜(c)は、車両の走行速度vと駆動力(牽引力)Fとの関係を示す図である。図5(a)のaは、アクセルペダルを最大に踏み込んだときの車両全体の牽引力の特性である。この特性aは、車両が最大動力を発揮しているとき、つまりエンジン1がフルパワーを出力しているときの車両全体の牽引力Faを示しており、車速vの増加に伴い牽引力Faは減少する。すなわち車両の動力Pは、一般にP=F×vで表せるため、Pが最大動力で一定であれば、車速vが増加した分、牽引力Faが減少する。
【0018】
図5(a)のb1,c1は、それぞれアクセルペダル最大踏み込み時における前輪駆動装置10(HST駆動装置)による前輪113の牽引力Fbと、後輪駆動装置20(電動モータ23)による後輪123の牽引力Fcの特性であり、特性b1と特性c1を足すと特性aとなる。本実施の形態では、前輪113の牽引力Fbの特性と後輪123の牽引力Fcの特性を、図5(b),(c)のように設定する。なお、図5(b),(c)では、異なるアクセルペダルの操作量に対応した複数の特性b1〜b3,c1〜c3を示しており、ペダル操作量が増加すると牽引力Fbの特性はb3→b2→b1に、牽引力Fcの特性はc3→c2→c1にそれぞれ変化する。
【0019】
特性b1,c1は、それぞれアクセルペダルの最大踏み込み時の特性である。アクセルペダル最大踏み込み時には、図5(b)に示すように、車速がv1に至るまで前輪113の牽引力Fbは一定であり、以降、Fbは徐々に減少し、車速v2で0になる。一方、図5(c)に示すように、後輪123の牽引力Fcは、車速がv2に至るまで一定であり、以降、Fcは徐々に減少し、車速v3で0になる。このように牽引力Fbが0になるときの車速v2と牽引力Fcが減少し始めるときの車速v2とを等しく設定することで、車両全体の牽引力Faが車速に応じてなだらかに減少し、ショックを低減できる。
【0020】
本実施の形態では、前輪113の牽引力Fbと後輪123の牽引力Fcが、それぞれ図5(b),(c)の特性に沿って変化するように電動モータ23の出力トルクTを制御する。また、図4(b)の所定値Paを制御する。以下、この点について説明する。
【0021】
図6は、コントローラ50内の構成を示すブロック図である。目標動力演算部51には、予めHST駆動装置の目標動力Pw1の特性と、電動モータ23の目標動力Pw2の特性が記憶されている。これらの特性は、エンジン出力を車速vに応じていかにHSTと電動モータ23に配分するかを示したものである。Pw1とPw2の合計値Pw0は、車両全体の動力を示しており、動力Pw0は車速vに拘わらず一定である。なお、アクセルペダルの操作量Aの増加によりエンジン出力が増加するため、目標動力Pw1,Pw2はアクセルペダル操作量Aが大きいほど大きくなるように設定されている。
【0022】
目標動力Pw1,Pw2は、車速vに応じた大きさに設定される。すなわちv≦vaの低速域では、HSTの目標動力Pw1が電動モータ23の目標動力Pw2よりも大きくなるように設定される。va<v<vbの中速域では、目標動力Pw1の割合が徐々に減少し、目標動力Pw2の割合が徐々に増加するように設定される。v≦vbの高速域では、目標動力Pw1が0、目標動力Pw2が最大(=Pw0)となるように設定される。目標動力演算部51は、この設定された特性に基づき、車速vとアクセルペダル操作量Aに応じて目標動力Pw1,Pw2を演算し、目標動力Pw1,Pw2を、それぞれ所定値演算部54とトルク演算部53に出力する。
【0023】
トルク演算部53には、予め電動モータ23の目標トルクTとモータ23の回転数Nm、および動力Pw2の関係が記憶されている。現在のモータ回転数Nmはコントローラ自身が把握しており、トルク演算部53は、図示の特性に基づき、目標動力Pw2とモータ回転数Nmに対応した目標トルクTを演算する。そして、電動モータ23が目標トルクTを出力するようにインバータ24を制御する。これにより電動モータ23の動力Pw2が、目標動力演算部51にて設定した値となる。
【0024】
このようにエンジン出力の一部を電動モータ23の動力Pw2として取り出すと、残りがHSTに分配され、HSTの動力Pw1は、目標動力演算部51で設定した目標動力Pw1となる。所定値演算部54には、予め目標動力Pw1と所定値Paとの関係が記憶されている。所定値演算部54は、この関係に基づき目標動力Pw1に対応した所定値Paを演算し、油圧モータ12のソレノイド12aに制御信号を出力する。これにより所定値Paを制御する。
【0025】
図5(b)のHST牽引力Fbと図6のHST目標動力Pw1との関係について説明する。図7は、HST牽引力FbとHST動力Pw1の関係を示す図であり、図中b1は、図5(b)に示したのと同一の特性である。図7のb11〜b14はそれぞれ動力一定の曲線であり、b11>b12>b13>b14の関係がある。車速v<vaの範囲では動力Pw1は一定であるため(図6)、牽引力Fbは動力一定の曲線b11に沿って変化する。車速がvaを超えると動力Pw1が徐々に減少するため、牽引力Fbは曲線b11上の点P11から曲線b12上の点P12→曲線b13上の点P13→曲線b14上の点P14へと推移する。その結果、図6の動力Pw1の特性から、図5(b)の牽引力Fbの特性が得られる。
【0026】
第1の実施の形態に係る走行駆動装置の動作の一例を説明する。
車両の発進時にアクセルペダルを最大に踏み込むと、油圧ポンプ11から油圧モータ12に圧油が供給され、HSTにより前輪113が駆動される。また、インバータ24からの信号により電動モータ23が回転し、電動モータ23により後輪123が駆動される。このときエンジン出力はHSTと電動モータ23に分配されるが、車速vが所定値vaに達するまでは、図6に示すようにHSTに分配される動力Pw1は電動モータ23に分配される動力Pw2よりも大きい(Pw1>Pw2)。このため、HSTが効果的に働いて、図5に示すように低速時に高牽引力の走行性能が得られる。
【0027】
車速vがva以上vb以下の領域では、車速vが速くなるに伴い、電動モータ23に配分される動力Pw2が増加し、HSTに配分される動力Pw1が減少する。車速vがvb(=v2)以上では、Pw1=0であり、ポンプ傾転角qpが0になる。これにより図5に示すように牽引力Fbが0となり、高速低牽引力の走行性能が得られる。この場合は、電動モータ23の牽引力Fcのみで車両が牽引される。このためHSTにより車両を高速走行する必要がないため、高速走行時のHST駆動装置における動力損失が小さくなり、燃費を向上できる。
【0028】
以上の第1の実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)HST走行駆動装置により前輪113を、電動モータ23により後輪123を駆動するとともに、車速vがva以上vb以下の領域では、車速vの増加に伴いHSTに配分される動力Pw1を車速に応じて低減し、車速vがvbより大きくなるとPw1=0とした。これにより車速がv2以上の高速走行時には電動モータ23の牽引力Fcのみが車両に作用することとなり、HST駆動装置の動力ロスが小さくなって燃費が向上する。
(2)電動モータ23により後輪123を駆動するので、車両全体として大きな牽引力Faを得ることができる。このためHSTのみによって牽引力Faを得るものに比べ、HSTのポンプ11やモータ12を小型化することができる。
(3)操作量検出器52によりアクセルペダルの操作量Aを検出し、操作量Aが多いほどHSTの動力Pw1と電動モータ23の動力Pw2を大きくするようにしたので(図6)、エンジン出力を常にHSTと電動モータ23に効率よく配分できる。
(4)車軸に作用する荷重の大きい前輪113をHSTにより駆動し、軸荷重の小さい後輪123を電動モータ23により駆動するようにしたので、電動モータ23による牽引力Fcが小さくて済み、HSTと電動モータ23によって最適な走行システムを構築できる。
(5)車速vに応じて動力Pw1の配分が変更されると、その動力Pw1に対応したポンプ傾転角qpとモータ傾転角qmに自動的に変化するので、コントローラ50により傾転角qp,qmを直接制御する必要がなく、構成が容易である。
【0029】
−第2の実施の形態−
図8,9を参照して本発明による走行駆動装置の第2の実施の形態について説明する。
第2の実施の形態では、後輪駆動装置20として電動モータ23の代わりにジェネレータモータを設け、減速時に車両の持つ運動エネルギを回収する。図8は、第2の実施の形態に係る走行駆動装置の構成を示す図である。なお、図2と同一の箇所には同一の符号を付し、以下ではその相違点を主に説明する。
【0030】
コントローラ50には、車速検出器51とアクセル操作量検出器52の他に、ブレーキペダルの操作量Bを検出する操作量検出器57が接続されている。コントローラ50は、操作量検出器52の操作量Aから操作量検出器57の操作量Bを減算し、その減算値がプラスであれば加速指令を、マイナスであれば減速指令を出力する。加速指令が出力されると、ジェネレータモータ55は電動モータとして機能し、減速指令が出力されると発電機として機能する。なお、ホイールローダのエンジン出力軸には作業用ポンプが連結され、アクセルペダルは作業時には作業馬力を調節するためにも操作される。このため、ホイールローダのような産業車両はアクセルペダルとブレーキペダルが同時に操作されることがある。
【0031】
ジェネレータモータ55が電動モータとして機能するときは、コントローラ50からの制御信号に応じた駆動電流がインバータ/コンバータ56を介してジェネレータモータ55に供給され、ジェネレータモータ55が駆動する。この点については第1の実施の形態と同様であり、例えばブレーキペダルが非操作のとき、ジェネレータモータ55の動力Pw2は、図6に示したようにアクセルペダル操作量Aと車速vに応じて変化する。ジェネレータモータ55が発電機として機能するときは、ジェネレータモータ55で発電した電力はインバータ/コンバータ56を介してバッテリ22に充電される。
【0032】
図9(a)〜(c)は、第2の実施の形態における車速vと牽引力Fとの関係を示す図であり、それぞれ第1の実施の形態の図5(a)〜(c)に対応する。車両走行時に減速指令(ブレーキ指令)が出力されると、ジェネレータモータ55は発電機として機能するため、牽引力Fcはマイナスとなり、車両にブレーキ力が作用する。これにより減速時の運動エネルギをバッテリ22に回収することができる。この場合、減速指令値が大きいほど、発電量が多くなり、ブレーキ力が増加する。車速vが低くなると、HSTによる油圧ブレーキが同時に作動する。この場合、まずジェネレータモータ55によるブレーキを作動し、それでも足りない場合にHSTによる油圧ブレーキを作動する。こうすることで、ジェネレータモータ55によって優先的に発電がなされ、運動エネルギを効率よく回収できる。
【0033】
このように第2の実施の形態によれば、ジェネレータモータ55により後輪123を駆動するとともに、減速時に発電するようにしたので、減速時に不要となった運動エネルギを電気エネルギとして回収することができ、燃費を改善できる。アクセルペダルの操作量Aとブレーキペダルの操作量Bを検出し、その操作量A,Bの差により減速指令を判定するとともに、減速指令値が大きいほど、ジェネレータモータ55の発電量を増大し、ブレーキ力を大きくしたので、車両に適切なブレーキ力を付与できる。
【0034】
なお、上記実施の形態では、モータ発電機としてのモータジェネレータ55を発電機として用いることにより車両にブレーキ力を作用するようにしたが、ブレーキディスクを駆動してブレーキ力を作用する、いわゆるメカブレーキを併用してもよい。アクセルペダルの操作量Aとブレーキペダルの操作量Bの差からコントローラ50で加速/減速指令を判定するようにしたが、判定手段はこれに限らない。
【0035】
HST走行駆動装置のポンプ傾転角qpとモータ傾転角qmをメカ的に変更するようにHST油圧回路を形成したが、電子制御によって傾転角qp,qmを直接制御してもよい。HSTにより第1の駆動輪としての前輪113を駆動し、電動モータ23により第2の駆動輪としての後輪123を駆動するようにしたが、前輪113を電動モータ23で、後輪123をHSTで駆動してもよく、車輪113,123の駆動方式の組み合わせは上述したものに限らない。操作量検出器51によりアクセルペダルの操作量Aを検出したが、他の加速検出手段を用いてもよい。
【0036】
車速v>v2の条件でHSTの動力Pw1(第1の動力)を0とし、電動モータ23の動力Pw2(第2の動力)を最大(Pw0)としたが、車速vの増加に伴い、HSTに分配する動力の割合が小さくなり、電動モータ23に分配する動力の割合が大きくなるように、エンジン出力をHSTと電動モータ23に分配するのであれば、制御手段としてのコントローラ50の構成は上述したものに限らない。したがって、牽引力Fa〜Fcの特性も図5,9に示したものに限らない。
【0037】
上記実施の形態は、ホイールローダに適用したが、他の作業車両(例えばホイール式油圧ショベル等)にも本発明は同様に適用可能である。すなわち本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の走行駆動装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る走行駆動装置が適用されるホイールローダの側面図。
【図2】第1の実施の形態に係る走行駆動装置の構成を示す図。
【図3】図2のHST走行回路の詳細を示す油圧回路図。
【図4】(a)は図3の回路に用いられる油圧ポンプのポンプ傾転角とモータ駆動圧の関係を示す図、(b)は油圧モータのモータ傾転角とモータ駆動圧の関係を示す図。
【図5】(a)〜(c)はそれぞれ第1の実施の形態に係る走行駆動装置によって得られる車両全体の牽引力、HST駆動装置による牽引力、電動モータによる牽引力の特性を示す図。
【図6】図2のコントローラ内の構成を示すブロック図。
【図7】牽引力と動力の関係を示す図。
【図8】第2の実施の形態に係る走行駆動装置の構成を示す図。
【図9】(a)〜(c)はそれぞれ第2の実施の形態に係る走行駆動装置によって得られる車両全体の牽引力、HST駆動装置による牽引力、電動モータによる牽引力の特性を示す図。
【符号の説明】
【0039】
10 前輪駆動装置
23 電動モータ
50 コントローラ
51 車速検出器
52,57 操作量検出器
55 ジェネレータモータ
113 前輪
123 後輪
Pw1,Pw2 動力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により駆動される油圧ポンプ、およびこの油圧ポンプに閉回路接続された油圧モータを有するHST駆動装置と、
前記原動機の駆動により発生した電力を用いて駆動される電動モータと、
前記HST駆動装置により駆動される第1の駆動輪と、
前記電動モータにより駆動される第2の駆動輪と、
車速を検出する車速検出手段と、
前記車速検出手段により検出された車速の増加に伴い、前記HST駆動装置に分配する第1の動力の割合が小さくなり、前記電動モータに分配する第2の動力の割合が大きくなるように、前記原動機の出力を前記HST駆動装置と前記電動モータに分配する制御手段とを備えることを特徴とする作業車両の走行駆動装置。
【請求項2】
原動機により駆動される油圧ポンプ、およびこの油圧ポンプに閉回路接続された油圧モータを有するHST駆動装置と、
前記原動機の駆動により発生した電力を用いて駆動され、電動モータとして機能する一方、走行時の運動エネルギにより駆動され、発電機として機能するモータ発電機と、
前記HST駆動装置により駆動される第1の駆動輪と、
前記モータ発電機により駆動される第2の駆動輪と、
車速を検出する車速検出手段と、
車両の加速/減速指令の出力を判定する判定手段と、
前記判定手段により加速指令が出力されていると判定されると、前記モータ発電機を電動モータとして機能させ、前記車速検出手段により検出された車速の増加に伴い、前記HST駆動装置に分配する第1の動力の割合が小さくなり、前記モータ発電機に分配する第2の動力の割合が大きくなるように、前記原動機の出力を前記HST駆動装置と前記モータ発電機に分配し、
前記判定手段により減速指令が出力されていると判定されると、前記モータ発電機を発電機として機能させる制御手段とを備えることを特徴とする作業車両の走行駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の作業車両の走行駆動装置において、
前記制御手段は、前記判定手段により減速指令が出力されていると判定されると、その減速指令値が大きいほど前記モータ発電機の発電量を増加させることを特徴とする作業車両の走行駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車両の走行駆動装置において、
加速指令値を検出する加速検出手段を備え、
前記制御手段は、加速指令値が大きいほど、前記第1の動力と前記第2の動力が大きくなるように、原動機の動力を前記HST駆動装置と前記電動モータに分配することを特徴とする作業車両の走行駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の作業車両の走行駆動装置において、
前記第1の駆動輪は前輪、第2の駆動輪は後輪であることを特徴とする作業車両の走行駆動装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−137524(P2008−137524A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326694(P2006−326694)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】