説明

作業車用変速機構

【課題】トラクタ等の作業車では、移動のために路上を高速走行する際の運転操作性や走行安定性の向上に対する要請が高まっているが、従来の技術では、依然として煩雑な変速操作自体はなくすことができず、運転操作性等が悪い、という問題があった。
【解決手段】前記エンジン2とギア式変速装置33との間にトルクコンバータ4を介設し、該トルクコンバータ4を介して前記ギア式変速装置33にエンジン動力を伝達して変速を行う高速走行モードと、前記ギア式変速装置33にエンジン動力を直接伝達して変速を行う作業走行モードとを設け、該作業走行モードと前記高速走行モードのいずれか一方の走行モードに、前記ギア式変速装置33の各速度段、例えば副変速装置9の高速段、低速段、クリープ段を設定可能な変速制御構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから出力されるエンジン動力を変速して車軸に伝達する有段式変速装置を備えた作業車用変速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業車用変速機構においては、有段式変速装置に二つのクラッチを設け、変速操作が行われている間に、一方のクラッチの離間作動と他方のクラッチの接合作動とがオーバーラップする二重伝動状態を発生させ、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく、連続的に走行変速を行う技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−314679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在、トラクタ等の作業車にあっては、次の作業場まで移動するための移動時間を短縮して作業車の効率的な利用を図るべく、移動のために路上を高速走行する際の運転操作性や走行安定性の向上に対する要請が高まってきている。これに対し、前述の作業車用変速機構では、変速によるショックは軽減できるものの、一般の乗用自動車のような滑らかな加速・変速が難しく、必ずしも良好な運転操作性や走行安定性が得られない、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、エンジンから出力されるエンジン動力を変速して車軸に伝達する有段式変速装置を備えた作業車用変速機構において、前記エンジンと有段式変速装置との間にトルクコンバータを介設し、該トルクコンバータを介して前記有段式変速装置にエンジン動力を伝達して変速を行う高速走行モードと、前記有段式変速装置にエンジン動力を直接伝達して変速を行う作業走行モードとを設け、該作業走行モードと前記高速走行モードのいずれか一方の走行モードに、前記有段式変速装置の各速度段を設定可能な変速制御構成としたものである。
請求項2においては、前記トルクコンバータには、前記有段式変速装置にエンジン動力を直接伝達するロックアップ機構を設けるものである。
請求項3においては、前記有段式変速装置には、作業車を発進させる際に使用する発進用の低速系ギア列を設け、発進時には該低速系ギア列を選択するものである。
請求項4においては、前記有段式変速装置には、奇数段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備え、奇数段と偶数段それぞれの変速駆動列が選択された状態で該第一クラッチ及び第二クラッチのうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせる主変速装置を設けるものである。
請求項5においては、前記有段式変速装置には、前記主変速装置からの主変速動力を複数の副速度段に変速する副変速装置を設け、各副速度段を選択すると前記高速走行モードと作業走行モードのうちの所定の走行モードに自動的に振り分ける切替手段を備えるものである。
請求項6においては、前記トルクコンバータの伝動下手側に、進行方向を前後に切り替える前後進切替装置を配設し、該前後進切替装置の伝動下手側に、前記第一クラッチと第二クラッチを配設するものである。
請求項7においては、前記第一クラッチと第二クラッチは、共通の伝動軸上に背中合わせに配設するものである。
請求項8においては、前記作業車用変速機構には、エンジン動力を変速してPTO軸に伝達するPTO変速装置を備え、該PTO変速装置に、前記トルクコンバータを介さずにエンジン動力を直接伝達するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1においては、エンジンから出力されるエンジン動力を変速して車軸に伝達する有段式変速装置を備えた作業車用変速機構において、前記エンジンと有段式変速装置との間にトルクコンバータを介設し、該トルクコンバータを介して前記有段式変速装置にエンジン動力を伝達して変速を行う高速走行モードと、前記有段式変速装置にエンジン動力を直接伝達して変速を行う作業走行モードとを設け、該作業走行モードと前記高速走行モードのいずれか一方の走行モードに、前記有段式変速装置の各速度段を設定可能な変速制御構成としたので、有段式変速装置の速度段が高速走行モードに設定されている場合、該速度段に一度設定すると、トルクコンバータによってトルクを高速走行に適したトルクに自動的に変更することができ、加速・変速を極めて滑らかに行って十分な運転操作性や走行安定性が得られる。一方、有段式変速装置の速度段が作業走行モードに設定されている場合は、有段式変速装置のみで変速されるため、走行抵抗の大きな軟弱な圃場等を走行してトルクが大きく変動しても一定速度で作業することができ、更に、流体によるトルクコンバータ使用時に比べて動力伝達ロスを小さく抑えることができ、作業速度の安定化や動力伝達効率の向上によって高い作業効率を確保することができる。
請求項2においては、前記トルクコンバータには、前記有段式変速装置にエンジン動力を直接伝達するロックアップ機構を設けるので、該ロックアップ機構のロックアップクラッチのクラッチ入操作によって、特殊な迂回伝達経路を別途設けることなくエンジン動力を前記有段式変速装置に直接伝達することができ、部品点数を減少させて、部品コストの低減、変速機構のコンパクト化、メンテナンス性の向上等を図ることができる。
請求項3においては、前記有段式変速装置には、作業車を発進させる際に使用する発進用の低速系ギア列を設け、発進時には該低速系ギア列を選択するので、前記トルクコンバータを介さずに出力されたエンジン動力によって走行する場合であっても、この発進用の低速系ギア列を用いることにより、エンストを起こすことなく作業車を確実に発進させることができ、常に安定した発進性能を得ることができる。更に、低速系ギア列を使って発進するので、発進時の負荷が軽減され、小さなクラッチパックでも十分な耐久性を得ることができる。
請求項4においては、前記有段式変速装置には、奇数段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備え、奇数段と偶数段それぞれの変速駆動列が選択された状態で該第一クラッチ及び第二クラッチのうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせる主変速装置を設けるので、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく連続的に走行変速を行うことができ、通常の有段式変速装置を使用する場合に比べて運転操作性や走行安定性を更に向上させることができる。
請求項5においては、前記有段式変速装置には、前記主変速装置からの主変速動力を複数の副速度段に変速する副変速装置を設け、各副速度段を選択すると前記高速走行モードと作業走行モードのうちの所定の走行モードに自動的に振り分ける切替手段を備えるので、副速度段の選択に連動して走行モードをいずれかに設定することができ、トラクタ等の作業車で速度段が多い場合に煩雑になりがちな走行モードの選択操作を簡略化し、変速操作性を向上させることができる。
請求項6においては、前記トルクコンバータの伝動下手側に、進行方向を前後に切り替える前後進切替装置を配設し、該前後進切替装置の伝動下手側に、前記第一クラッチと第二クラッチを配設するので、前後進の切替をトルクコンバータからの出力軸上またはその近くの伝動軸上で行い、大きなトルク変動を伴う前後進切替時の動力伝達ロスを大幅に軽減して、動力伝達効率を向上できると共に、前後進切替装置と第一クラッチ・第二クラッチを互いに近設して、これらの設置に必要な空間を小さくして、変速機構のコンパクト化を図ることができる。
請求項7においては、前記第一クラッチと第二クラッチは、共通の伝動軸上に背中合わせに配設するので、通常のように各クラッチを別体で離間させて配置する場合と比べ、クラッチ配置のための空間を狭くし、クラッチ部品の共通化も図ることができ、部品コストの低減、変速機構のコンパクト化を更に推し進めることができる。
請求項8においては、前記作業車用変速機構には、エンジン動力を変速してPTO軸に伝達するPTO変速装置を備え、該PTO変速装置に、前記トルクコンバータを介さずにエンジン動力を直接伝達するので、いずれの走行モードであっても常にPTO軸にエンジン動力を直接伝達し一定速度で駆動させることができ、作業走行モード時であってもPTO軸にエンジン動力を直接伝達するための迂回伝達経路を別途に設ける必要がなく、更には、PTO軸への伝達動力の断接が不要となった分だけロックアップ機構を小型化することができ、部品コストの低減、変速機構のコンパクト化、メンテナンス性の向上等を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の実施例1に係わる作業車の全体構成を示すスケルトン図、図2は実施例1の主変速装置の平面一部断面図、図3は実施例1の変速操作やクラッチ操作のための油圧回路図、図4は同じくブロック図、図5はクラッチの係合構成の説明図であって、図5(a)は係合部分の側面断面図、図5(b)は係合部分の平面断面図、図6は本発明の実施例2に係わる作業車の全体構成を示すスケルトン図、図7は実施例2の主変速装置の平面一部断面図、図8は実施例2の変速操作やクラッチ操作のための油圧回路図、図9は同じくブロック図、図10は発進時の使用するギア列を示す説明図、図11は実施例2の別形態の作業車の全体構成を示すスケルトン図である。なお、図1、図6、図11で向かって下方を機体前方とする。
【実施例1】
【0007】
本発明の実施例1に係わる作業車1の全体構成について、図1により説明する。
該作業車1は四輪駆動型の農業用トラクタであって、エンジン2と、該エンジン2からの回転動力(以下、「エンジン動力」とする)を変速するギア式変速装置33とを備えている。そして、前記エンジン2のクランク軸40は入力軸3に接続され、該入力軸3には円筒状の出力軸5が相対回転自在に外嵌され、該出力軸5と入力軸3との間には、ロックアップ機構付きのトルクコンバータ4が介設されており、前記エンジン動力が、入力軸3、トルクコンバータ4、出力軸5を介して、前記ギア式変速装置33に出力されるようにしている。
【0008】
ここで、該トルクコンバータ4においては、前記入力軸3がフロントカバー34に固着され、該フロントカバー34にはポンプインペラー35が連結され、タービンランナー36に前記出力軸5が連結され、更に、ミッションケース23の前部にはワンウエイクラッチ38を介してステータ37が支持されている。そして、前記フロントカバー34とタービンランナー36との間には、ロックアップクラッチ39が配置されている。そして、該ロックアップクラッチ39等から成る後述のロックアップ機構80によって、入力軸3と出力軸5との接続状態を変更するようにしている。
【0009】
更に、前記フロントカバー34に固着された入力軸3は、そのままミッションケース23内に延出され、その延出端には油圧多板式で摩擦式のPTOクラッチ10が備えられており、該PTOクラッチ10を介して、入力軸3は、小径ギア12を固設した伝動軸11に接続されている。該伝動軸11に平行にPTO軸14が設けられ、該PTO軸14上に固設された大径ギア13は前記小径ギア12と噛合して減速用のPTO変速装置6が構成されており、該PTO変速装置6によって、エンジン動力が、入力軸3、PTOクラッチ10、PTO変速装置6を介して断接可能に減速され、PTO軸14に伝達されるようにしている。
【0010】
また、前記出力軸5は、ミッションケース23内に連設した前後進切換装置7、主変速装置8、副変速装置9から成るギア式変速装置33を介して、副変速出力軸19に接続されており、エンジン動力が、その回転方向と速度が切り替えられた後、変速動力として副変速出力軸19に伝達される。該副変速出力軸19は、その後端にベベルギア24が固設され、該ベベルギア24と噛合するブルギア25と一体のデフケージ26内には、伝動軸27・27上に固設したサイドギア41と該両サイドギア41に噛合するベベルピニオン42とによって構成されるベベルギアクラッチ機構28を介して、左右両伝動軸27・27が嵌入され、デフギア装置43が形成されている。更に、この伝動軸27・27の外端には、減速装置31を介して左右の後車軸32・32が連結され、該後車軸32・32の外端に後輪21・21が固設されている。これにより、前記副変速出力軸19からベベルギア24を介してブルギア25に入力された回転を、差動回転として後車軸32・32から後輪21・21に伝達するようにしている。
【0011】
なお、前記デフギア装置43には、前記差動回転をロックするためのデフロック機構44が設けられており、該デフロック機構44では、デフケージ26のボス部に対してスプライン嵌合されたデフロックスライダ45にデフロックピン46を設け、該デフロックピン46を、デフロックスライダ45の摺動操作によって、前記サイドギア41に穿孔したピン孔に係合させることによりデフロックし、直進性やぬかるみでの走行性を向上させるようにしている。また、同様にして、図示せぬ前輪にも、前記副変速出力軸19からの変速動力が図示せぬデフギア装置や減速装置等の機構を介して伝達されるようにしている。
【0012】
以上のようにして、変速動力が前後輪に伝達され、該前後輪によって走行しながら、前記PTO軸14に連結連動する図示せぬ作業機によって各種作業が行えるようにしている。
【0013】
次に、前記ギア式変速装置33について、図1乃至図3、図5により説明する。
前記ミッションケース23内には、前記出力軸5や副変速出力軸19と平行に、クラッチ入力軸15、第一走行変速軸16、第二走行変速軸17、主変速出力軸18が機体前後方向に回動可能に横架されている。
【0014】
このうちの出力軸5上には、後から順に、同径の前進駆動ギア47と後進駆動ギア48が固設されている。そして、出力軸5の左方に前記クラッチ入力軸15が配置され、該クラッチ入力軸15上には、後から順に、前進従動ギア49と後進従動ギア50が相対回転可能に環設されており、このうちの前進従動ギア49は、前記前進駆動ギア47に噛合されると共に、後進従動ギア50については、機体前後方向に設けられた中間軸52上のアイドルギア53と噛合し、該アイドルギア53は前記後進駆動ギア48と噛合されている。
【0015】
更に、前記クラッチ入力軸15上において、前記前進従動ギア49と後進従動ギア50との間には、スプラインハブ54を相対回転不能に係合し、該スプラインハブ54には、シフタ54aが軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合され、そして、前進と後進の従動ギア49・50でスプラインハブ54側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部49a・50aが形成されて、前記前後進切替装置7が形成されている。
【0016】
これにより、クラッチ歯部49a・50aを前記シフタ54aに係合させることで、その該当する従動ギアをクラッチ入力軸15に相対回転不能に係合させることができ、前記出力軸5からクラッチ入力軸15に前進動力か後進動力を伝達できるようにしている。
【0017】
また、前記出力軸5の右方には前記第一走行変速軸16が配置され、前記クラッチ入力軸15の左方に前記第二走行変速軸17が配置され、これら第一走行変速軸16・第二走行変速軸17の上には、それぞれ摩擦多板式の第一クラッチ55と第二クラッチ56が配設されている。このうちの第一走行変速軸16上で第一クラッチ55後方には、第一クラッチ入力ギア57が回転自在に設けられており、第一クラッチ55が入ると、第一クラッチ入力ギア57は、この第一クラッチ55を介して第一走行変速軸16に相対回転不能に係合される。このクラッチ入切のために第一クラッチ油圧シリンダ59が設けられている。
【0018】
同様に、第二走行変速軸17上で第二クラッチ56の後方には、第二クラッチ入力ギア58が回転自在に設けられており、第二クラッチ56が入ると、第二クラッチ入力ギア58は、この第二クラッチ56を介して第二走行変速軸17に相対回転不能に係合される。このクラッチ入切のために第二クラッチ油圧シリンダ60が設けられている。そして、これら第一クラッチ油圧シリンダ59と第二クラッチ油圧シリンダ60は、後述のようにして、第一クラッチ55と第二クラッチ56が切状態から入状態までの伝達トルクを徐々に連続的に変化させることができるようにしている。更に、前記第一クラッチ入力ギア57と第二クラッチ入力ギア58は、いずれも、前記クラッチ入力軸15上で前進従動ギア49後方に固設された分岐ギア51と常時噛合されている。
【0019】
これにより、第一クラッチ55と第二クラッチ56の入切操作を行うことで、該入切操作によって選択した走行変速軸16・17のいずれか一方に、前記クラッチ入力軸15からの前進動力か後進動力を伝達できるようにしている。
【0020】
すなわち、以上のように、前記トルクコンバータ4の伝動下手側に、進行方向を前後に切り替える前後進切替装置7を配設し、該前後進切替装置7の伝動下手側に、前記第一クラッチ55と第二クラッチ56を配設するので、前後進の切替をトルクコンバータ4からの出力軸5近くの伝動軸であるクラッチ入力軸15上で行い、大きなトルク変動を伴う前後進切替による動力伝達ロスを大幅に軽減して、動力伝達効率を向上できると共に、前後進切替装置7と第一クラッチ55・第二クラッチ56を互いに近設して、これらの設置に必要な空間を小さくして、変速機構のコンパクト化を図ることができる。
【0021】
また、前記ミッションケース23内の空間は、軸受壁69を挟んで前方の第一室71、後方の第二室72、及び軸受け壁70を挟んで更に後方の第三室73によって仕切られており、このうちの第一室71に、前記前後進切替装置7、第一クラッチ55、第二クラッチ56等が配設され、第二室72には、主変速装置8が配設されている。
【0022】
該主変速装置8においては、前記第一走行変速軸16上で軸受壁69を隔てた部分に、前から順に、1速駆動ギア61、3速駆動ギア63、5速駆動ギア65、7速駆動ギア67が相対回転可能に環設されると共に、前記第二走行変速軸17上で軸受壁69を隔てた部分にも、前から順に、2速駆動ギア62、4速駆動ギア64、6速駆動ギア66、8速駆動ギア68が相対回転可能に環設されている。このうちの1速駆動ギア61と2速駆動ギア62、3速駆動ギア63と4速駆動ギア64、5速駆動ギア65と6速駆動ギア66、7速駆動ギア67と8速駆動ギア68は、それぞれ、前記主変速出力軸18上の第1ギア81、第2ギア82、第3ギア83、第4ギア84に噛合されている。これにより、ギア61・81より成る1速ギア列、ギア62・81より成る2速ギア列、ギア63・82より成る3速ギア列、ギア64・82より成る4速ギア列、ギア65・83より成る5速ギア列、ギア66・83より成る6速ギア列、ギア67・84より成る7速ギア列、及びギア68・84より成る8速ギア列といった複数の主変速駆動列が形成されている。
【0023】
更に、前記第一走行変速軸16上において、前記1速駆動ギア61と3速駆動ギア63との間にはスプラインハブ91を、前記2速駆動ギア62と4速駆動ギア64との間にはスプラインハブ92を、前記5速駆動ギア65と7速駆動ギア67との間にはスプラインハブ93を、前記6速駆動ギア66と8速駆動ギア68との間にはスプラインハブ94を、それぞれ相対回転不能に係合している。このうちのスプラインハブ91にはシフタ91aが、スプラインハブ92にはシフタ92aが、スプラインハブ93にはシフタ93aが、スプラインハブ94にはシフタ94aが、それぞれ、軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。
【0024】
そして、1速と3速の駆動ギア61・63でスプラインハブ91側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部61a・63aが形成され、2速と4速の駆動ギア62・64でスプラインハブ92側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部62a・64aが形成され、5速と7速の駆動ギア65・67でスプラインハブ93側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部65a・67aが形成され、6速と8速の駆動ギア66・68でスプラインハブ94側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部66a・68aが形成されている。
【0025】
これにより、クラッチ歯部61a・63a・65a・67aを、前記シフタ91a・93aのいずれかに係合させることで、その該当する駆動ギアを第一走行変速軸16に相対回転不能に係合させ、一方、クラッチ歯部62a・64a・66a・68aを、前記シフタ92a・94aのいずれかに係合させることで、その該当する駆動ギアを第二走行変速軸17に相対回転不能に係合させることができ、これら走行変速軸16・17に伝達されてきていた前進動力か後進動力を、前記各主変速駆動列で1速段乃至8速段に変速した後、主変速動力として主変速出力軸18に伝達できるようにしている。
【0026】
ここで、前記シフタ91a乃至94aのスリーブ内面に形成されたドグと、各クラッチ歯部61a乃至68aに形成されたドグとの係合構成について説明する。なお、いずれの係合構成も同じであるため、ここではシフタ92aとクラッチ歯部62aについて説明する。図5に示すように、該シフタ92aのドグ92bがクラッチ歯部62aのドグ62bと互いに係合することで、二速駆動ギア62をクラッチ歯部62aからシフタ92a及びスプラインハブ92を介して第二走行変速軸17に結合するようにすると共に、隣接するシフタ92aのドグ92bとクラッチ歯部62aのドグ62bは、間隔166を大きく開けるように構成されている。これにより、ドグ92bが矢印167の方向にドグ62b側に向かって摺動しても、ドグ92bとドグ62bとが衝突しにくいようにしている。
【0027】
すなわち、前記主変速装置8において、変速駆動列の切り替えを行うスプラインハブ92上のシフタ92aの内面には凹凸部であるドグ92bを形成し、前記シフタ92aに係合するギアである2速駆動ギア62のクラッチ歯部62aの外面には凹凸部であるドグ62bを形成し、隣接するドグ62b・92bは円周方向に互いに離間して設けるので、シフタとクラッチ歯部の係合時にドグ同士の衝突を回避することができ、従来のように、ドグの先端に先細に面取りした斜面であるチャンファーを設けた上で該チャンファーにガイドさせながら係合を進める同期装置を、シフタとクラッチ歯部との間に別途設ける必要がなくなり、該同期装置による係合時に発生していた摩擦熱をなくして各部品の寿命を長くすることができると共に、構造も簡略化できて主変速装置8の小型化や部品数削減によるコスト低減を図ることができる。
【0028】
また、該主変速出力軸18の後部は、前記軸受壁70を貫通して第三室73内に突出されて、前記副変速装置9に接続されている。該副変速装置9においては、前記変速出力軸18の後端部には、一端が開口した円筒状の高速軸74の底面部が固設され、該高速軸74の開口部には、前記副変速出力軸19前端が回動可能に軸支されている。そして、該副変速出力軸19上には、前から順に、作業時に低速で使用する低速ギア75と、更に遅い微低速で使用するクリープギア76とが、相対回転可能に環設されている。
【0029】
ここで、前記入力軸3の途中部には円筒状の副変速軸78が相対回転可能に外嵌されており、該副変速軸78上には、前から順に、大径ギア85、中径ギア86、小径ギア87が環設固設され、このうちの大径ギア85は、前記高速軸74の前部に環設固定されたギア77に噛合され、中径ギア86は前記低速ギア75に噛合され、小径ギア87は減速装置79を介して前記クリープギア76に接続されている。これにより、後述するようにして主変速出力軸18を副変速出力軸19に直結可能な高速軸74より成る高速ギア列、ギア77・大径ギア85・中径ギア86・低速ギア75から成る低速ギア列、ギア77・大径ギア85・小径ギア87・減速装置79・クリープギア76から成るクリープギア列といった複数の副変速駆動列が形成されている。
【0030】
更に、前記副変速出力軸19上において、前記高速軸74と低速ギア75との間にはスプラインハブ88を、低速ギア75とクリープギア76との間にはスプラインハブ89を、それぞれ相対回転不能に係合している。このうちのスプラインハブ88にはシフタ88aが、スプラインハブ89にはシフタ89aが、それぞれ、軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。そして、高速軸74と低速ギア75でスプラインハブ88側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部74a・75aが形成され、クリープギア76でスプラインハブ89側に向かう部分にはクラッチ歯部76aが形成されている。
【0031】
これにより、クラッチ歯部74a・75a・76aを、前記シフタ88a・88aのいずれかに係合させることで、その該当する軸やギアを副変速出力軸19に相対回転不能に係合させることができ、主変速出力軸18に伝達されてきた主変速動力を、前記各副変速駆動列で高速段・低速段・クリープ段に変速した後、副変速動力として副変速出力軸19に伝達できるようにしている。該副変速動力は、前述したように、デフギア装置43や減速装置31を介して各車軸に伝達され、前後輪を走行駆動させるのである。
【0032】
次に、前記ギア式変速装置33の主変速装置8におけるシフタ及びクラッチの作動機構とその制御について、図1乃至図3により説明する。
前記シフタ91a・92a・93a・94aには、第一フォーク101、第二フォーク102、第三フォーク103、第四フォーク104の先部がそれぞれ係合され、該第一フォーク101、第二フォーク102、第三フォーク103、第四フォーク104基部の各ボス部にはシフタ軸90がそれぞれ挿通固定されている。該シフタ軸90は、前記ミッションケース23のシフタケース95から突設された前後の軸受壁96・97の間に、互いに平行に前後摺動可能に挿通され、水平方向に並設されており、前記第一フォーク101、第二フォーク102、第三フォーク103、第四フォーク104が、各シフタ軸90とそれぞれ一体となった上で、ガイドされながら機体前後方向に移動されるようにしている。
【0033】
これにより、前記シフタ軸90を摺動させると、第一フォーク101がシフタ91aを動かして、該シフタ91aがスプラインハブ91に対して駆動ギア61・63のいずれかを係合させ、該駆動ギア61を含む1速と駆動ギア63を含む3速とから成る奇数段のギア列のうちから、一つのギア列を選択することができる。同様にして、第二フォーク102によってシフタ92aを動かすと、該シフタ92aがスプラインハブ92に対して駆動ギア62・64のいずれかを係合させ、該駆動ギア62を含む2速と駆動ギア64を含む4速とから成る偶数段のギア列のうちから、一つのギア列を選択することができ、第三フォーク103によってシフタ93aを動かすと、該シフタ93aがスプラインハブ93に対して駆動ギア65・67のいずれかを係合させ、該駆動ギア65を含む5速と駆動ギア67を含む7速とから成る奇数段のギア列のうちから、一つのギア列を選択することができ、第四フォーク104によってシフタ94aを動かすと、該シフタ94aがスプラインハブ94に対して駆動ギア66・68のいずれかを係合させ、該駆動ギア66を含む6速と駆動ギア68を含む8速とから成る偶数段のギア列のうちから、一つのギア列を選択することができるのである。
【0034】
更に、前記シフタケース95内には、第一油圧シリンダ111、第二油圧シリンダ112、第三油圧シリンダ113、第四油圧シリンダ114が平行に機体前後方向に配設され、これら第一油圧シリンダ111、第二油圧シリンダ112、第三油圧シリンダ113、第四油圧シリンダ114の各ロッド115の一端からは連結アーム105がそれぞれ突設され、更に、該連結アーム105の先端は、前記各シフタ軸90の一端にそれぞれ連結されている。
【0035】
そして、このうちの第一油圧シリンダ111においては、前記ロッド115の他端には、大径部98aと小径部98bからなる第一ピストン98が固設され、該小径部98bには、前記大径部98aよりも大きな外径を有する円筒状の第二ピストン99が、小径部98b上を軸芯方向に摺動可能に外嵌されている。該第二ピストン99は、バネ等によって大径部98a側に常時付勢され、小径部98bから軸芯方向に脱着しないようにしている。これら第一ピストン98と第二ピストン99とからなるピストン100を挟んで機体前後方向には、油室109・110が形成され、該油室109・110は、電磁切替弁121に、油路125a・125bを介して接続されている。
【0036】
中立状態の場合には、該電磁切替弁121から油路125a・125bを介して両油室109・110にそれぞれ圧油が供給されるが、ピストン100の油室110側の受圧面積の方が油室109側の受圧面積よりも大きいため、ピストン100は、油室109側に押動され、第二ピストン99の内側外周角部が前記シフタケース95の肩部95aに当接した位置で保持される。この保持位置を中立位置と規定する。これにより、ピストン100を中立位置に精度良く位置決めすることができるのである。
【0037】
1速の場合には、前記電磁切替弁121による油室109への圧油の供給のみを停止することにより、ピストン100が油室110内の油圧によって油室109側に押動され、前記肩部95aに阻まれて移動不能な第二ピストン99を残した状態で第一ピストン98だけが油室109の最外端に相当する1速位置まで摺動して保持される。3速の場合には、前記電磁切替弁121による油室110への圧油の供給のみを停止することにより、ピストン100が油室109内の油圧によって油室110側に押動され、該油室110の最外端に相当する3速位置に保持される。
【0038】
残りの油圧シリンダ112・113・114についても、それぞれ電磁切替弁122・123・124が設けられると共に、該電磁切替弁122・123・124は、油路126a・126b、油路127a・127b、油路128a・128bを介して、前記油圧シリンダ112・113・114の各油室109・110にそれぞれ連通されており、前記第一油圧シリンダ111の場合と同様にして、第二油圧シリンダ112による2速位置、中立位置、4速位置の位置決め、第三油圧シリンダ113による5速位置、中立位置、7速位置の位置決め、第四油圧シリンダ114による6速位置、中立位置、8速位置の位置決めを行うことができる。
【0039】
以上のような構成において、エンジン始動時は、全ての電磁切替弁121乃至124が図3のように非励磁位置にあって、主変速装置8は停止時の中立に保持されているが、前記電磁切替弁121乃至124のうちの所定の電磁切替弁に変速指令信号が送られると、前述のようにして所定の変速位置にピストン100が移動し、該ピストン100に固設されたロッド115が、連結アーム105を介して、シフタ軸90にガイドされながらフォーク101・102・103・104を移動させ、前記シフタ91a・92a・93a・94aを各速度段の駆動ギア61・62・63・64・65・66・67・68のいずれかに係合させる。すると、前記走行変速軸16・17まで伝達されてきた前進動力や後進動力は、スプラインハブからシフタを介していずれかの前記主変速駆動列に伝達され、そこで主変速されてから前記主変速出力軸18に伝達され、更に前記副変速装置9で副変速された後に各車軸に伝達され、作業車1が各種速度段で走行されることとなる。
【0040】
また、前記ミッションケース23にはポンプ106が固設され、該ポンプ106はエンジン2からの入力軸3によって駆動できるようにしている。このポンプ106によってタンク107からオイルフィルター108を介して吸入された油は、ラインフィルター116を介してポンプポート117に流入し、分岐して一方は変速制御用の変速油路118に、他方はクラッチ制御用のクラッチ油路119に流れ込む。そして、該クラッチ油路119内の圧油は、高圧リリーフ弁120によって回路保護のために最高圧が規制された状態で、ラインフィルター129、電磁比例減圧弁130、ラインフィルター131、作動油路137を介して、前記第一クラッチ油圧シリンダ59に供給されると共に、ラインフィルター132、電磁比例減圧弁133、ラインフィルター134、作動油路139を介して、前記第二クラッチ油圧シリンダ60にも供給される。
【0041】
これにより、前記電磁比例減圧弁130・133を使って、前記第一クラッチ油圧シリンダ59・第二クラッチ油圧シリンダ60のピストン141・142を徐々に連続的に移動させることができ、例えば、前記第一クラッチ55・第二クラッチ56が多板式の摩擦クラッチの場合には、ピストン141・142によって摩擦板間の挟持力を連続的に変化させ、クラッチの切状態から入状態までの伝達トルクを連続的に変化させることができるのである。
【0042】
なお、前記リリーフ弁120の下流側の油路143にはリリーフ弁144が設けられ、該リリーフ弁144によって潤滑油としての最高圧が規制された状態で、前記主変速装置8に含まれる前記第一クラッチ55・第二クラッチ56に、それぞれ潤滑油路138・140を介して潤滑油として供給される。
【0043】
また、以上のようなシフタ及びクラッチの作動機構の主変速制御について、現在の速度段が前進高速1速で、次の速度段が前進高速2速の場合を例に説明する。このうちの前進高速1速とは、前記前後進切替装置7で前進段、副変速装置9で高速段、主変速装置8で1速段から成る速度段であり、前進高速2速とは、前記前後進切替装置7と副変速装置9はそのままで、主変速装置8でのみ1速段から2速段に変速した速度段である。なお、ここでは簡単に、前進高速1速は前進1速、前進高速2速は前進2速とする。
【0044】
前進1速で走行中は、前記第一クラッチ55は入状態にある。この時、第一フォーク101のシフタ軸90は1速位置に保持されているため、第一フォーク101を介してシフタ91aが1速駆動ギア61に係合されており、前記主変速出力軸18が、前記1速ギア列61・81を介して、第一クラッチ55を備えた第一走行変速軸16と接続されている。これにより、前記前後進切替装置7からの前進動力は、クラッチ入力軸15、第一クラッチ55、第一走行変速軸16の順に伝達された後、1速ギア列61・81で前進1速に変速され、この前進1速の動力が、主変速出力軸18から主変速動力として前記副変速装置9に伝達されている。一方、前記第二クラッチ56は切断されて切状態にある。この時、第二フォーク102のシフタ軸90は中立位置に保持されており、第二フォーク102を介してシフタ92aも中立位置に保持されている。
【0045】
そして、後述するアクセルペダル20を踏み込み操作して、前進1速から前進2速への変速指令信号が図示せぬ制御装置から発せられると、第一クラッチ55の入状態、該第一クラッチ55に接続された第一走行変速軸16と1速ギア列61・81との係合状態、及び第二クラッチ56の切状態はそのままで変更されることなく、該第二クラッチ56に接続される第二走行変速軸17が2速ギア列62・81と係合状態になる。つまり、前記電磁切替弁122が切り替え制御されて第二油圧シリンダ112のピストン100が移動され、シフタ軸90が2速位置まで移動されると、前記第二フォーク102を介してシフタ92aが中立位置から2速駆動ギア62まで摺動し係合され、その結果、主変速出力軸18が、前記2速ギア列62・81を介して、第二クラッチ56を備えた第二走行変速軸17と接続される。ただし、該第二クラッチ56自体は依然切状態にあり、前記前後進切替装置7から第二走行変速軸17への前進動力は切断されたままであるため、該第二走行変速軸17と2速ギア列62・81との係合に伴う、伝達系への過剰な負荷は発生しない。
【0046】
変速指令信号が発せられてから若干時間が経過すると、第一クラッチ55は徐々に切断が進み、第二クラッチ56は徐々に接続が進む内容のクラッチ断接指令信号が制御装置から発せられる。すると、前記電磁比例減圧弁130・133が比例減圧制御されて、前記第一クラッチ油圧シリンダ59のピストン141と第二クラッチ油圧シリンダ60のピストン142が徐々に連続的に移動し、第一クラッチ55は現在の入状態から切状態に離間作動が進み、第二クラッチ56は現在の切状態から入状態に接合作動が進み、これら離間作動と接合作動とが並行して行われる。
【0047】
更に、クラッチ断接指令信号が継続して発せられ続けて所定の時点になると、前記第一クラッチ55は完全に切状態、第二クラッチ56は完全に入状態となる。つまり、このクラッチ断接指令信号が発せられている間は、1速ギア列61・81は第一走行変速軸16と、2速ギア列62・81は第二走行変速軸17と常時係合状態にあることから、第一クラッチ55に接続された第一走行変速軸16から1速ギア列61・81への前進動力は徐々に減少していく一方、第二クラッチ56に接続された第二走行変速軸17から2速ギア列62・81への前進動力は徐々に増加していくこととなる。これにより、1速ギア列61・81と2速ギア列62・81から主変速出力軸18への動力は、徐々に前進1速から前進2速に切り替わっていき、最後には前進2速に変速され、この間は、前後進切替装置7からの前進動力は途切れることがない。
【0048】
更に、若干時間が経過すると、変速完了信号が制御装置から発せられ、第二クラッチ56の入状態、該第二クラッチ56に接続された第二走行変速軸17と2速ギア列62・81との係合状態、及び第一クラッチ55の切状態はそのままで変更されることなく、該第一クラッチ55に接続された第一走行変速軸16と1速ギア列61・81とを非係合状態にする。つまり、前記電磁切替弁121が切り替え制御されて第一油圧シリンダ111のピストン100が移動され、シフタ軸90が中立位置まで移動され、前記第一フォーク101を介してシフタ91aが1速駆動ギア61から中立位置まで摺動される。これにより、第一クラッチ55を切状態、第二クラッチ56を入状態とした上で、第一クラッチ55に接続された第一走行変速軸16を1速ギア列61・81と非係合状態とすることができ、前進1速から前進2速への変速が完了する。ただし、第一クラッチ55は切状態にあり、前後進切替装置7から第一走行変速軸16への前進動力は切断されたままであるため、該第一走行変速軸16と1速ギア列61・81との非係合に伴う、伝達系への過剰な負荷は発生しない。
【0049】
他の速度段間の変速制御も上記と同様なプロセスで実施される。すなわち、有段式変速装置であるギア式変速装置33には、奇数段の変速駆動列である1速、3速、5速、7速のギア列への動力断接用の第一クラッチ55と、偶数段の変速駆動列である2速、4速、6速、8速のギア列への動力断接用の第二クラッチ56とを備え、奇数段と偶数段それぞれの変速駆動列が選択された状態で該第一クラッチ55及び第二クラッチ56のうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせる主変速装置8を設けるので、エンジン2から車軸である後車軸32への動力伝達を途切れさせることなく連続的に走行変速を行うことができ、通常の有段式変速装置を使用する場合に比べて運転操作性や走行安定性を更に向上させることができる。
【0050】
次に、以上のような、トルクコンバータ4とギア式変速装置33による変速制御構成について、図1、図4、図10により説明する。
トルクコンバータ4において、前記ロックアップ機構80は、ロックアップクラッチ39と、該ロックアップクラッチ39に油路149を介して作動制御用の圧油を供給する電磁弁150とを備え、該電磁弁150は、変速制御等を行うコントローラ151に接続されている。そして、該コントローラ151には、前記ロックアップクラッチ39の入切を設定するロックアップスイッチ145が接続されており、該ロックアップスイッチ145のロックアップレバー145aを操作することで、電磁弁150から油路149を介してロックアップクラッチ39に作動油が給排される。これにより、ロックアップクラッチ39がフロントカバー34に密着してトルクコンバータ4を介することなく入力軸3が出力軸5と直結するロックアップ入状態(位置146)と、ロックアップクラッチ39がフロントカバー34から離間しトルクコンバータ4を介して入力軸3が出力軸5と接続するロックアップ切状態(位置147)と、これらロックアップ入状態とロックアップ切状態のいずれかを任意に選択するマニュアル選択モードに対し両状態間を自動的に切り替える自動選択モード(位置148)のうちの一つを選択できるようにしている。
【0051】
そして、前記コントローラ151には、前述した主変速装置8の各電磁弁121・122・123・124・130・133が接続されると共に、アクセルペダル20が接続されており、該アクセルペダル20の踏み込み量とそのときの車速との関係で1速から8速まで自動的に変速されるようにしている。もちろん、1速乃至8速のうちの一つを選択可能な主変速レバーを設け、該主変速レバーによって手動で変速できるようにしてもよい。
【0052】
前記前後進切替装置7においては、シフタ54aが油圧シリンダ152、電磁弁153を介してコントローラ151に接続されており、該コントローラ151に接続された前後進切替スイッチ154の前後進レバー154aを操作することで、シフタ54aがクラッチ歯部49aに係合して前進従動ギア49からクラッチ入力軸15に前進動力を伝達する前進段(位置155)と、シフタ54aがいずれのクラッチ歯部とも係合せずクラッチ入力軸15に動力を伝達しない中立段(位置156)と、シフタ54aがクラッチ歯部50aに係合して後進従動ギア50からクラッチ入力軸15に後進動力を伝達する後進段(位置157)のうちの一つを選択できるようにしている。
【0053】
前記副変速装置9においては、シフタ88aは油圧シリンダ158、電磁弁159を介してコントローラ151に接続され、シフタ89aも油圧シリンダ164、電磁弁165を介してコントローラ151に接続されており、該コントローラ151に接続された副変速スイッチ160の副変速レバー160aを操作することで、シフタ88aがクラッチ歯部74aに係合して主変速出力軸18から副変速出力軸19に主変速動力をそのまま伝達する高速段(位置161)と、シフタ88aがクラッチ歯部75aに係合して主変速出力軸18から前記低速ギア列を介して副変速出力軸19に主変速動力を減速して伝達する低速段(位置162)と、シフタ89aがクラッチ歯部76aに係合して主変速出力軸18から前記クリープギア列を介して副変速出力軸19に主変速動力を大きく減速して伝達する超低速のクリープ段(位置163)のうちの一つを選択できるようにしている。
【0054】
このような構成において、まず、作業車1を停止した状態で、前後進切替装置7を前進段か後進段に、副変速装置9を高速段・低速段・クリープ段のいずれかに設定した後、ブレーキペダルの解放操作とアクセルペダル20の踏み込み操作を順番に行って作業車を発進させる。そして、車速が増加していくと、副変速出力軸19等に取り付けた図示せぬ車速センサからの車速信号に基づいて各電磁弁121・122・123・124・130・133が作動し、主変速装置8の1速乃至8速のうちで車速に適した速度比を有する速度段に自動的に変速される。
【0055】
このような走行時に、ロックアップスイッチ145を操作してロックアップ入状態に設定すると、前述の如く、ロックアップクラッチ39がフロントカバー34に密着して、入力軸3がトルクコンバータ4を介することなく出力軸5と直結し、エンジン2からのエンジン動力を下流側にある主変速装置8・副変速装置9等のギア式変速装置33にそのまま伝達することができ、トルク変動によって速度が変動したり動力伝達ロスが増加しがちなトルクコンバータ4を用いることなく、作業時に適した低速走行が可能となる(以下、「作業走行モード」とする)。逆に、ロックアップスイッチ145を操作してロックアップ切状態に設定すると、ロックアップクラッチ39がフロントカバー34から離間して、トルクコンバータ4を介して入力軸3が出力軸5と接続し、エンジン2からのエンジン動力を高速走行に適したトルクに自動的に変更してギア式変速装置33に伝達することができる(以下、「高速走行モード」とする)。
【0056】
更に、自動選択モードに設定すると、前記高速走行モードか作業走行モードのいずれかに自動的に振り分ける制御構成としている。例えば、運転者が副変速装置9で高速段を選択した場合には高速走行モードに設定され、低速段かクリープ段を選択した場合には作業走行モードに設定されるようにすることができる。これにより、運転者は、発進前に前後進と副速度段の設定をした後は、走行中はアクセルペダル20の踏み込み操作を行うだけでよく、ロックアップクラッチ39の入切状態を特に意識することなく作業を行うことができる。もちろん、この自動選択モードでは、このような副変速装置9の速度段(以下、「副速度段」とする)ではなく、前後進切替装置7や主変速装置8の速度段について、高速走行モードと作業走行モードのいずれかに自動的に振り分けるようにしてもよい。
【0057】
すなわち、エンジン2から出力されるエンジン動力を変速して車軸に伝達する有段式変速装置であるギア式変速装置33を備えた作業車用変速機構において、前記エンジン2とギア式変速装置33との間にトルクコンバータ4を介設し、該トルクコンバータ4を介して前記ギア式変速装置33にエンジン動力を伝達して変速を行う高速走行モードと、前記ギア式変速装置33にエンジン動力を直接伝達して変速を行う作業走行モードとを設け、該作業走行モードと前記高速走行モードのいずれか一方の走行モードに、前記ギア式変速装置33の各速度段、例えば副変速装置9の高速段、低速段、クリープ段を設定可能な変速制御構成としたので、ギア式変速装置33の速度段が高速走行モードに設定されている場合、該速度段に一度設定すると、トルクコンバータ4によってトルクを高速走行に適したトルクに自動的に変更することができ、加速・変速を極めて滑らかに行って十分な運転操作性や走行安定性が得られる。一方、ギア式変速装置33の速度段が作業走行モードに設定されている場合は、ギア式変速装置33のみで変速されるため、走行抵抗の大きな軟弱な圃場等を走行してトルクが大きく変動しても一定速度で作業することができ、更に、流体によるトルクコンバータ4使用時に比べて動力伝達ロスを小さく抑えることができ、作業速度の安定化や動力伝達効率の向上によって高い作業効率を確保することができる。
【0058】
更に、前述の如く、前記トルクコンバータ4には、前記有段式変速装置であるギア式変速装置33にエンジン動力を直接伝達するロックアップ機構80を設けるので、該ロックアップ機構80のロックアップクラッチ39のクラッチ入操作によって、特殊な迂回伝達経路を別途設けることなくエンジン動力を前記ギア式変速装置33に直接伝達することができ、部品点数を減少させて、部品コストの低減、変速機構のコンパクト化、メンテナンス性の向上等を図ることができる。
【0059】
加えて、前記有段式変速装置であるギア式変速装置33には、前記主変速装置8からの主変速動力を複数の副速度段である高速段、低速段、クリープ段に変速する副変速装置9を設け、各副速度段を選択すると前記高速走行モードと作業走行モードのうちの所定の走行モードに自動的に振り分ける切替手段であるロックアップスイッチ145を備えるので、副速度段の選択に連動して走行モードをいずれかに設定することができ、トラクタ等の作業車1で速度段が多い場合に煩雑になりがちな走行モードの選択操作を簡略化し、変速操作性を向上させることができる。
【0060】
また、図10に示すように、マニュアル選択モードでロックアップ入状態を選択した場合、あるいは自動選択モードで低速段かクリープ段を選択して作業走行モードに自動設定された場合のいずれにおいても、前述の如く、ロックアップクラッチ39が入状態となり、トルクコンバータ4を介さずにエンジン動力がギア式変速装置に直接伝達されることとなるが、このような場合には、主変速装置8のどの速度段にあっても、作業車1の発進時には低速系ギア列である1速ギア列が自動的に選択され、該1速ギア列によって発進する制御構成としている。これにより、発進前がどの速度段であっても、発進時には作業車1の発進に必要な大きな起動トルクを発生させることができる。
【0061】
すなわち、前記有段式変速装置であるギア式変速装置33、本実施例では主変速装置8には、作業車1を発進させる際に使用する発進用の低速系ギア列である1速ギア列61・81を設け、発進時には該1速ギア列61・81を選択するので、前記トルクコンバータ4を介さずに出力されたエンジン動力によって走行する場合であっても、この発進用の1速ギア列を用いることにより、エンストを起こすことなく作業車1を確実に発進させることができ、常に安定した発進性能を得ることができる。更に、低速系ギア列を使って発進するので、発進時の負荷が軽減され、小さなクラッチパックでも十分な耐久性を得ることができる。なお、この低速系ギアは主変速装置8の段数が多い場合には2速ギア列や3速ギア列としてもよい。
【0062】
また、前述の如く、エンジン2のクランク軸40に連結された入力軸3は、前記トルクコンバータ4を介することなく、PTO変速装置6からPTO軸14に直接連結できるようにしている。このため、PTO軸14については、いずれの走行モードであっても、トルクコンバータ4を介することなくエンジン動力が伝達され、常に一定速度で回動されるようにしており、該PTO軸14に連動連結される作業機の安定駆動を可能としている。
【0063】
すなわち、前記作業車用変速機構には、エンジン動力を変速してPTO軸14に伝達するPTO変速装置6を備え、該PTO変速装置6に、前記トルクコンバータ4を介さずにエンジン動力を直接伝達するので、いずれの走行モードであっても常にPTO軸14にエンジン動力を直接伝達し一定速度で駆動させることができ、作業走行モード時であってもPTO軸14にエンジン動力を直接伝達するための迂回伝達経路を別途に設ける必要がなく、更には、PTO軸への伝達動力の断接が不要となった分だけロックアップ機構80を小型化することができ、部品コストの低減、変速機構のコンパクト化、メンテナンス性の向上等を図ることができる。
【実施例2】
【0064】
本発明の実施例2に係わる作業車201の全体構成について、図6により説明する。
該作業車201では、実施例1とは異なり、エンジン2のクランク軸40に連結された入力軸203は、トルクコンバータ204を介して、PTO変速装置6からPTO軸14に連結されるようにしている。なお、以下の説明において、実施例1と同等な構成のものは同じ符号で表記する。
【0065】
作業車201は、エンジン2と、エンジン動力を変速するギア式変速装置233とを備えると共に、前記エンジン2のクランク軸40は入力軸203に接続され、該入力軸203は、ロックアップ機構付きのトルクコンバータ204を介して出力軸205に接続され、前記エンジン動力が、入力軸203、トルクコンバータ204、出力軸205を介して、前記ギア式変速装置233に出力されるようにしている。
【0066】
ここで、該トルクコンバータ204においては、前記入力軸203がフロントカバー234に固着され、該フロントカバー234にはポンプインペラー235が連結され、タービンランナー236に前記出力軸205が連結され、更に、ミッションケース223の前部にはワンウエイクラッチ38を介してステータ237が支持されている。そして、前記フロントカバー234とタービンランナー236との間には、ロックアップクラッチ239が配置されている。そして、該ロックアップクラッチ239等から成る後述のロックアップ機構280によって、入力軸203と出力軸205との接続状態を変更するようにしている。
【0067】
ただし、実施例1とは異なり、ミッションケース223内には、入力軸203ではなく出力軸205が延出され、その延出端は、実施例1と同様に、前記PTOクラッチ10、PTO変速装置6を介してPTO軸14に連結されており、エンジン動力が、入力軸203、トルクコンバータ204、出力軸205、PTOクラッチ10、PTO変速装置6を介して、断接可能に減速され、PTO軸14に伝達されるようにしている。
【0068】
また、前記出力軸205は、ミッションケース223内に連設した前後進切換装置207、主変速装置208、副変速装置209から成るギア式変速装置233を介して、副変速出力軸219に接続されており、エンジン動力が、その回転方向と速度が切り替えられた後、変速動力として副変速出力軸219に伝達される。該副変速出力軸219は、実施例1と同様にして、副変速出力軸219からベベルギア24を介してブルギア25に入力された回転を、デフロック機構44付きのデフギア装置43により差動回転として後車軸32・32から後輪21・21に伝達するようにしている。
【0069】
次に、前記ギア式変速装置233について、図6乃至図8により説明する。
前記ミッションケース223内には、前記出力軸205と副変速出力軸219に平行に、クラッチ入力軸215、第一走行変速軸216、第二走行変速軸217、主変速出力軸218が互いに平行に機体前後方向に横架されている。
【0070】
このうちの出力軸205上には、後から順に、前進駆動ギア249と後進駆動ギア250が相対回転可能に環設され、これら前進駆動ギア249と後進駆動ギア250との間には、スプラインハブ254が相対回転不能に係合され、該スプラインハブ254には、シフタ254aが軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。そして、前記駆動ギア249・250でスプラインハブ254側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部249a・250aが形成されている。
【0071】
更に、前記クラッチ入力軸215上には、後から順に、同径の前進従動ギア247と後進従動ギア248が固設され、このうちの前進従動ギア247は、前記前進駆動ギア249に噛合されると共に、後進従動ギア248については、機体前後方向に設けられた中間軸252上のアイドルギア253と噛合し、該アイドルギア253は前記後進駆動ギア250と噛合されて、前後進切替装置207が形成されている。
【0072】
これにより、クラッチ歯部249a・250aを前記シフタ254aに係合させることで、その該当する駆動ギアを出力軸205に相対回転不能に係合させることができ、前記出力軸205からクラッチ入力軸215に前進動力か後進動力を伝達できるようにしている。
【0073】
また、前記クラッチ入力軸215上で前進従動ギア247の後方には、摩擦多板式の主変速クラッチ256が配設され、該主変速クラッチ256は前から順に第一クラッチ部256aと第二クラッチ部256bとから成り、これら第一クラッチ部256aと第二クラッチ部256bとは、背中合わせに隣接して設けられ、しかも共通のクラッチ板部256c等を使用する構成となっている。
【0074】
すなわち、第一クラッチである第一クラッチ部256aと第二クラッチである第二クラッチ部256bは、共通の伝動軸であるクラッチ入力軸215上に背中合わせに配設するので、通常のように各クラッチを別体で離間させて配置する場合と比べ、クラッチ配置のための空間を狭くし、クラッチ部品の共通化も図ることができ、部品コストの低減、変速機構のコンパクト化を更に推し進めることができる。
【0075】
そして、前記クラッチ入力軸215上で第一クラッチ部256aの前方には、第一クラッチ出力ギア257が回転自在に設けられており、前記第一クラッチ部256aが入ると、この第一クラッチ出力ギア257は第一クラッチ部256aを介してクラッチ入力軸215に相対回転不能に係合される。このクラッチ入切のために第一クラッチ油圧シリンダ259が設けられている。同様に、前記クラッチ入力軸215上で第二クラッチ部256bの後方には、第二クラッチ出力ギア258が回転自在に設けられており、前記第二クラッチ部256bが入ると、この第二クラッチ出力ギア258は第二クラッチ部256bを介してクラッチ入力軸215に相対回転不能に係合される。このクラッチ入切のために第二クラッチ油圧シリンダ260が設けられている。そして、これら第一クラッチ油圧シリンダ259と第二クラッチ油圧シリンダ260は、実施例1の場合と同様に、第一クラッチ部256aと第二クラッチ部256bが切状態から入状態までの伝達トルクを徐々に連続的に変化させることができるようにしている。
【0076】
更に、前記クラッチ入力軸215を挟んで、右方には前記第一走行変速軸216が配置され、左方には前記第二走行変速軸217が配置されており、これら第一走行変速軸216・第二走行変速軸217の上には、それぞれ第一入力ギア251・第二入力ギア255が固設されている。そして、このうちの第一入力ギア251は前記第一クラッチ出力ギア257に、第二入力ギア255は前記第二クラッチ出力ギア258に常時噛合されている。これにより、第一クラッチ部256aと第二クラッチ部256bの入切操作を行うことで、該入切操作によって選択した走行変速軸216・217のいずれか一方に、前記出力軸205からの前進動力か後進動力を伝達できるようにしている。
【0077】
すなわち、以上のように、前記トルクコンバータ204の伝動下手側に、進行方向を前後に切り替える前後進切替装置207を配設し、該前後進切替装置207の伝動下手側に、前記第一クラッチである第一クラッチ部256aと第二クラッチである第二クラッチ部256bを配設するので、実施例1の場合と同様に、前後進の切替をトルクコンバータ204からの出力軸205上で行い、大きなトルク変動を伴う前後進切替による動力伝達ロスを大幅に軽減して、動力伝達効率を向上できると共に、前後進切替装置207と第一クラッチ部256a・第二クラッチ部256bを互いに近設して、これらの設置に必要な空間を小さくして、変速機構のコンパクト化を図ることができる。
【0078】
なお、第一クラッチ部256aと第二クラッチ部256bとは主変速クラッチ256として一箇所に集中配置されているため、これら第一クラッチ部256aと第二クラッチ部256bには、前記リリーフ弁120とリリーフ弁144との間から分かれて前記クラッチ部256a・256b近傍まで延設された単一の油路343と、クラッチ部256a・256b近傍で該油路343から二つに分岐した油路338・340とを介して、潤滑油を供給することができ、これにより、実施例1に比べて、潤滑油供給に必要な油路を短くすることができ、部品数や加工部数の減少によるコスト低減やメンテナンス性の向上を図るようにしている。
【0079】
また、前記ミッションケース223内の空間は、軸受壁269を挟んで前方の第一室271、後方の第二室272、及び軸受け壁270を挟んで更に後方の第三室273によって仕切られており、このうちの第一室271に、前記前後進切替装置207、主変速クラッチ256等が配設され、第二室72には、主変速装置208が配設されている。該主変速装置208の構成、及びそこでのシフタ及びクラッチの作動機構とその制御は、前記実施例1の主変速装置8と同様であるので、詳細な説明は省略するが、この主変速装置208においても、走行変速軸216・217に伝達されてきていた前進動力か後進動力を、各主変速駆動列で1速乃至8速に滑らかに変速した後、主変速動力として前記主変速出力軸218に伝達できるようにしている。
【0080】
また、この主変速出力軸218の先部は、前記軸受壁270を貫通して第三室273内に突出され、前記副変速装置209に接続されている。該副変速装置209では、実施例1の副変速装置9と同様に、前記変速出力軸218の突出部には、一端が開口した円筒状の高速軸74の底面部が固設され、該高速軸74の開口部には、前記副変速出力軸219の前端が回動可能に軸支されている。そして、該副変速出力軸219上には、前から順に、前記低速ギア75とクリープギア76とが、相対回転可能に環設されている。
【0081】
ただし、実施例1とは異なり、前記高速軸74の前部に環設固定されたギア77に噛合する大径ギア285、前記低速ギア75に噛合する中径ギア286、及び減速装置79を介して前記クリープギア76に噛合する小径ギア287は、いずれも、前記副変速出力軸219と平行に第三室273内に回転可能に軸支された副変速軸278に環設固定されている。
【0082】
これにより、実施例2においても、主変速出力軸218を副変速出力軸219に直結可能な高速軸74より成る高速ギア列、ギア77・大径ギア285・中径ギア286・低速ギア75から成る低速ギア列、ギア77・大径ギア285・小径ギア287・減速装置79・クリープギア76から成るクリープギア列といった複数の副変速駆動列が形成されている。
【0083】
更に、副変速出力軸19上における副変速構成は、前記実施例1の副変速装置9と同様であるので、詳細な説明は省略するが、実施例2の副変速装置209においても、主変速出力軸218に伝達されてきた主変速動力を、前記各副変速駆動列で高速段・低速段・クリープ段に変速した後、副変速動力として副変速出力軸219に伝達できるようにしている。
【0084】
次に、トルクコンバータ204とギア式変速装置233による変速制御構成について、図6、図9により説明する。
トルクコンバータ204において、前記ロックアップ機構280は、ロックアップクラッチ239と、該ロックアップクラッチ239に油路349を介して作動制御用の圧油を供給する電磁弁350とを備え、該電磁弁350は、変速制御等を行うコントローラ351に接続されている。そして、該コントローラ351には、前記ロックアップクラッチ239の入切を設定する前記ロックアップスイッチ145が接続されており、該ロックアップスイッチ145のロックアップレバー145aを操作することで、電磁弁350から油路349を介してロックアップクラッチ239に作動油が給排される。これにより、ロックアップクラッチ239がフロントカバー234に密着してトルクコンバータ204を介することなく入力軸203が出力軸205と直結するロックアップ入状態(位置146)と、ロックアップクラッチ239がフロントカバー234から離間しトルクコンバータ204を介して入力軸203が出力軸205と接続するロックアップ切状態(位置147)と、これらロックアップ入状態とロックアップ切状態のいずれかを任意に選択するマニュアル選択モードに対し両状態間を自動的に切り替える自動選択モード(位置148)のうちの一つを選択できるようにしている。
【0085】
そして、前記コントローラ351には、主変速装置208の各電磁弁121・122・123・124・130・133が接続されると共に、アクセルペダル20が接続されており、該アクセルペダル20の踏み込み量とそのときの車速との関係で1速から8速まで自動的に変速されるようにしている。
【0086】
前記前後進切替装置207においては、シフタ254aが油圧シリンダ352、電磁弁353を介してコントローラ351に接続されており、該コントローラ351に接続された前後進切替スイッチ154の前後進レバー154aを操作することで、シフタ254aがクラッチ歯部249aに係合して前進駆動ギア249からクラッチ入力軸215に前進動力を伝達する前進段(位置155)と、シフタ254aがいずれのクラッチ歯部とも係合せずクラッチ入力軸215に動力を伝達しない中立段(位置156)と、シフタ254aがクラッチ歯部250aに係合して後進駆動ギア250からクラッチ入力軸215に後進動力を伝達する後進段(位置157)のうちの一つを選択できるようにしている。
【0087】
前記副変速装置209においては、シフタ88aは油圧シリンダ358、電磁弁359を介してコントローラ351に接続され、シフタ89aも油圧シリンダ364、電磁弁365を介してコントローラ351に接続されており、該コントローラ351に接続された副変速スイッチ160の副変速レバー160aを操作することで、シフタ88aがクラッチ歯部74aに係合して主変速出力軸218から副変速出力軸219に主変速動力をそのまま伝達する高速段(位置161)と、シフタ88aがクラッチ歯部75aに係合して主変速出力軸218から前記低速ギア列を介して副変速出力軸219に主変速動力を減速して伝達する低速段(位置162)と、シフタ89aがクラッチ歯部76aに係合して主変速出力軸218から前記クリープギア列を介して副変速出力軸219に主変速動力を大きく減速して伝達する超低速のクリープ段(位置163)のうちの一つを選択できるようにしている。
【0088】
このような構成において、実施例1と同様に、まず、作業車201を停止した状態で、前後進切替装置207を前進段か後進段に、副変速装置209を高速段・低速段・クリープ段のいずれかに設定した後、ブレーキペダルの解放操作とアクセルペダル20の踏み込み操作を順番に行って作業車を発進させる。そして、車速が増加していくと、副変速出力軸219等に取り付けた図示せぬ車速センサからの車速信号に基づいて各電磁弁121・122・123・124・130・133が作動し、主変速装置208の1速乃至8速のうちで車速に適した速度比を有する速度段に自動的に変速される。
【0089】
このような走行時に、ロックアップスイッチ145を操作してロックアップ入状態に設定すると、ロックアップクラッチ239がフロントカバー234に密着して、入力軸203がトルクコンバータ204を介することなく出力軸205と直結し、エンジン2からのエンジン動力を下流側にある主変速装置208・副変速装置209等のギア式変速装置233にそのまま伝達することができ、作業時に適した低速走行が可能な前記作業走行モードに設定され、逆に、ロックアップ切状態に設定すると、ロックアップクラッチ239がフロントカバー234から離間して、トルクコンバータ204を介して入力軸203が出力軸205と接続し、エンジン2からのエンジン動力を高速走行に適したトルクに自動的に変更可能な前記高速走行モードに設定される。
【0090】
更に、前記自動選択モードに設定すると、前記高速走行モードか作業走行モードのいずれかに自動的に振り分ける制御構成としており、運転者は前後進と副速度段の設定をした後は、走行中はアクセルペダル20の踏み込み操作を行うだけでよく、ロックアップクラッチ239の入切状態を特に意識することなく作業を行うことができる。これにより、運転者が走行状態に適した走行モードを自在に選択することができ、実施例1の場合と同様に、ギア式変速装置233の速度段が高速走行モードに設定された場合、該速度段に一度設定すると、トルクコンバータ204によってトルクを高速走行に適したトルクに自動的に変更することができ、路上走行時におけるペダルやレバー等による煩雑な変速操作が不要となって、運転操作性が向上し、更に、加速・変速も極めて滑らかに行うことができ、十分な走行安定性が得られる。一方、ギア式変速装置233の速度段が作業走行モードに設定された場合は、ギア式変速装置233のみで変速されるため、走行抵抗の大きな軟弱な圃場等を走行してトルクが大きく変動しても一定速度で作業することができ、更に、流体によるトルクコンバータ204使用時に比べて動力伝達ロスを小さく抑えることができ、作業速度の安定化や動力伝達効率の向上によって高い作業効率を確保することができるのである。また、実施例1と同様に、主変速装置208には、作業車201を発進させる際に使用する発進用の低速系ギア列である1速ギア列61・81を設け、発進時には該1速ギア列を選択するようにしており、トルクコンバータ204を介さずに出力されたエンジン動力によって走行する場合であっても、この発進用の1速ギア列を用いることにより、エンストを起こすことなく作業車201を確実に発進させることができ、常に安定した発進性能を得ることができる。更に、低速系ギア列を使って発進するので、発進時の負荷が軽減され、小さなクラッチパックでも十分な耐久性を得ることができる。
【0091】
なお、前記PTO軸14にPTOクラッチ10、PTO変速装置6を介して連結される出力軸205は、実施例1とは異なり、エンジン2からの入力軸203とはトルクコンバータ204を介して連結されている。このため、PTO軸14は、ロックアップ入状態の作業走行モードでは、エンジン2に直結されて常に一定速度で回動されるが、ロックアップ切状態の高速走行モードでは、トルクコンバータ204によりトルクに応じて変化する回転速度で回動されることから、負荷は小さいが走行速度に応じて自動変速する必要のある作業、例えば播種作業や散布作業を高速で行いたい場合等に適した構成となっている。
【0092】
次に、実施例2の別形態について、図11により説明する。
本形態の作業車401は、ギア式変速装置433の副変速装置409のみが前記実施例2と異なり、それ以外の、エンジン2、トルクコンバータ204、前後進切替装置207、主変速クラッチ256、主変速装置208、PTO変速装置6、及びデフギア装置43等は、前記実施例2と同じ構成から成るものである。具体的には、本形態の副変速装置409には、副変速ギア列の伝動上手側に、主変速装置208からの主変速動力を断接するための摩擦多板式の副変速クラッチ402が設けられている。
【0093】
該副変速装置409においては、前記主変速出力軸218の後端に、一端が開口した円筒状の軸403の底面部が固設され、該軸403の開口部には、前記副変速出力軸219の前端が回動可能に軸支され、該副変速出力軸219上には、前から順に、低速ギア404と高速ギア405とが相対回転可能に環設されている。そして、副変速出力軸219に平行に副変速軸406が回転可能に軸支され、該副変速軸406の前部にはギア408が固設され、該ギア408は前記軸403に環設固定されたギア407に噛合されて、これらギア407・408を介して、主変速動力が副変速軸406に伝達されるようにしている。
【0094】
該副変速軸406上で前記ギア408の後方には、前記副変速クラッチ402が配設され、該副変速クラッチ402の更に後方の副変速軸406上には、円筒状のクラッチ軸410が相対回転可能に外嵌されており、副変速クラッチ402が入ると、クラッチ軸410は、この副変速クラッチ402を介して前記副変速軸406に相対回転不能に係合される。
【0095】
更に、このクラッチ軸410上には、前から順に、小径ギア411と大径ギア412が環設固定され、このうちの小径ギア411は前記低速ギア404に噛合され、大径ギア412は前記高速ギア405に噛合されており、低速ギア列411・404と高速ギア列412・405から成る副変速駆動列が形成されている。そして、低速ギア404と高速ギア405との間の副変速出力軸219にはスプラインハブ407が相対回転不能に係合され、該スプラインハブ407にはシフタ407aが軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されると共に、前記低速ギア404と高速ギア405でスプラインハブ407側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部404a・405aが形成されている。
【0096】
このような構成において、前記前後進切替装置207を前進段か後進段に、副変速装置409を低速段か高速段に設定し、副変速クラッチ402を入状態とした上で、ブレーキペダルの解放操作とアクセルペダル20の踏み込み操作を順番に行って作業車を発進させると、実施例1や実施例2と同様にして、前記作業走行モードや高速走行モードで走行することができる。
【0097】
更に、本実施例では、副変速段を変更する際に、走行中に副変速クラッチ402を一旦切状態にしてから所定の副速度段に設定した後、副変速クラッチ402の摩擦板間の挟持力を図示せぬアクチュエータによって連続的に変化させることができ、切状態から入状態までの伝達トルクも連続的に変化させる。これにより、走行中に副変速を行う場合であっても、低速ギア列411・404や高速ギア列412・405と副変速出力軸219との係合に伴う、伝達系への過剰な負荷が発生しないようにすることができる。
【0098】
すなわち、前記有段式変速装置であるギア式変速装置433には、前記主変速装置208からの主変速動力を複数の副速度段に変速する副変速装置409を設け、該副変速装置409と前記主変速装置208との間に伝達トルクの連続的変化が可能なクラッチである摩擦多板式の副変速クラッチ402を設け、該副変速クラッチ402の入切状態を徐々に変化可能な変速制御構成とするので、走行中であっても滑らかな副変速を可能とすることができ、副変速をシフト操作する度に作業車を停止させる必要がなくなり、作業効率の向上や運転負荷の軽減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、エンジンから出力されるエンジン動力を変速して車軸に伝達する有段式変速装置を備える全ての作業車用変速機構に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施例1に係わる作業車の全体構成を示すスケルトン図である。
【図2】実施例1の主変速装置の平面一部断面図である。
【図3】実施例1の変速操作やクラッチ操作のための油圧回路図である。
【図4】同じくブロック図である。
【図5】クラッチの係合構成の説明図であって、図5(a)は係合部分の側面断面図、図5(b)は係合部分の平面断面図である。
【図6】本発明の実施例2に係わる作業車の全体構成を示すスケルトン図である。
【図7】実施例2の主変速装置の平面一部断面図である。
【図8】実施例2の変速操作やクラッチ操作のための油圧回路図である。
【図9】同じくブロック図である。
【図10】発進時の使用するギア列を示す説明図である。
【図11】実施例2の別形態の作業車の全体構成を示すスケルトン図である。
【符号の説明】
【0101】
1 作業車
2 エンジン
4・204 トルクコンバータ
6 PTO変速装置
7・207 前後進切替装置
8・208 主変速装置
9・209 副変速装置
14 PTO軸
33・233 有段式変速装置
55・256a 第一クラッチ
56・256b 第二クラッチ
61・81 低速系ギア列
80・280 ロックアップ機構
145 切替手段
215 共通の伝動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから出力されるエンジン動力を変速して車軸に伝達する有段式変速装置を備えた作業車用変速機構において、前記エンジンと有段式変速装置との間にトルクコンバータを介設し、該トルクコンバータを介して前記有段式変速装置にエンジン動力を伝達して変速を行う高速走行モードと、前記有段式変速装置にエンジン動力を直接伝達して変速を行う作業走行モードとを設け、該作業走行モードと前記高速走行モードのいずれか一方の走行モードに、前記有段式変速装置の各速度段を設定可能な変速制御構成としたことを特徴とする作業車用変速機構。
【請求項2】
前記トルクコンバータには、前記有段式変速装置にエンジン動力を直接伝達するロックアップ機構を設けることを特徴とする請求項1記載の作業車用変速機構。
【請求項3】
前記有段式変速装置には、作業車を発進させる際に使用する発進用の低速系ギア列を設け、発進時には該低速系ギア列を選択することを特徴とする請求項1または請求項2記載の作業車用変速機構。
【請求項4】
前記有段式変速装置には、奇数段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備え、奇数段と偶数段それぞれの変速駆動列が選択された状態で該第一クラッチ及び第二クラッチのうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせる主変速装置を設けることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちのいずれか一項に記載の作業車用変速機構。
【請求項5】
前記有段式変速装置には、前記主変速装置からの主変速動力を複数の副速度段に変速する副変速装置を設け、各副速度段を選択すると前記高速走行モードと作業走行モードのうちの所定の走行モードに自動的に振り分ける切替手段を備えることを特徴とする請求項4記載の作業車用変速機構。
【請求項6】
前記トルクコンバータの伝動下手側に、進行方向を前後に切り替える前後進切替装置を配設し、該前後進切替装置の伝動下手側に、前記第一クラッチと第二クラッチを配設することを特徴とする請求項4または請求項5記載の作業車用変速機構。
【請求項7】
前記第一クラッチと第二クラッチは、共通の伝動軸上に背中合わせに配設することを特徴とする請求項4または請求項5または請求項6記載の作業車用変速機構。
【請求項8】
前記作業車用変速機構には、エンジン動力を変速してPTO軸に伝達するPTO変速装置を備え、該PTO変速装置に、前記トルクコンバータを介さずにエンジン動力を直接伝達することを特徴とする請求項1乃至請求項7のうちのいずれか一項に記載の作業車用変速機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−180255(P2008−180255A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13041(P2007−13041)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【Fターム(参考)】