説明

内燃機関の制御方法及び制御装置

【課題】EGRバルブの弁開度と可変ノズルタービンのガイドベーンの開度とを、相互に協調させて制御干渉の回避と制御性の向上を図りながら制御することができると共に、運転条件の変化に伴う非線形性に対応するフィードバックゲインを数学的な処理により求めることができて、最適サーボ制御における適合化のための工数を著しく低減できる内燃機関の制御方法及び制御装置を提供する。
【解決手段】空気流量Vと吸気圧力Pの検出値Vm、Pmを入力してEGRバルブ22の弁開度Vegrと可変ノズルタービン13aのガイドベーンの開度Vvntの制御を行う内燃機関10の制御を、2入力2出力の積分型最適サーボ系で制御すると共に、該積分型最適サーボ系の状態フィードバックゲインKF(h)と積分ゲインKI(h)を、内燃機関10の運転条件hに対応させて変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR装置(排気再循環装置)と可変ノズルターボチャージャ(VNT装置)及びこれらの装置を制御する制御装置を備えた内燃機関の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されるディーゼルエンジン等の内燃機関の多くは、図1の内燃機関の吸排気系の概略図に示すように、排気ガスG中の有害物質の排出量を低く抑えるために、EGR通路20とEGRクーラ21とEGRバルブ22とからなるEGR装置と、可変ノズルターボチャージャ13を備えて構成されている。これらのEGR装置20,21,22と可変ノズルターボチャージャ13では、吸入空気流量や吸気圧力等の検出可能な物理量をフィードバックして、空気流量センサ31で検出された吸入空気流量Vmや圧力センサ32で検出された吸気圧力Pmを予め設定された物理量の目標値と一致させるように制御している。
【0003】
EGR装置20,21,22を制御するEGR制御装置は、ECMと呼ばれるエンジンの制御装置30内に組み込まれている。このEGR制御では、EGRバルブ22の弁開度Vegrを制御することにより排気通路11からシリンダ16内へ再循環されるEGRガスGeの流量を調整する。このEGRガスGeの流量そのものは、現時点の技術では検出が困難であるため、吸入空気(新気)Aの流量Vを制御量とする場合が多い。
【0004】
また、可変ノズルターボチャージャ13を制御するVNT制御装置も制御装置30内に組み込まれている。このVNT制御では、可変ノズルタービン13aに取り付けられたガイドベーンの開度Vvntを制御することによりタービン仕事量を調整し、シリンダ16への圧送空気量を制御する。このVNT制御装置では、吸気圧力Pを制御量とする場合が多い。
【0005】
従来技術においては、これらの吸入空気流量Vを制御するEGR制御と吸気圧力Pを制御するVNT制御とは、図9及び図10に示すように、それぞれお互いに独立したフィードバック制御を行っていることが多い。
【0006】
図9のEGR制御では、空気流量Vの目標値Vtと検出量Vmを入力したPID制御などのフィードバック制御に、エンジン回転数Neと負荷を代表する燃料噴射量Qfを基にしたフィードフォーワード制御を加えて、EGR制御値であるEGRバルブの弁開度Vegrを算出し、この弁開度VegrでEGRバルブを制御している。
【0007】
また、図10のVNT制御では、吸気圧力Pの目標値Ptと検出量Pmを入力したPID制御などのフィードバック制御に、エンジン回転数Neと負荷を代表する燃料噴射量Qfを基にしたフィードフォーワード制御を加えて、VNT制御値である可変ノズルタービンのガイドベーンの開度Vvntを算出し、この開度Vvntで可変ノズルタービンを制御している。
【0008】
これに関連して、VNT可変翼角度とEGRバルブの弁開度を、内燃機関の運転状態に基づいて決定する内燃機関の吸入空気量制御装置及び制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この制御では、内燃機関の運転領域を燃料供給量の多少によって3つに分けて、燃料供給量が少ない第1領域ではVNT可変翼角度とEGR開度の両方をオープンループ制御で制御し、燃料供給量が中間の第2領域ではVNT可変翼角度をオープンループ制御で、EGR開度をフィードバック制御で制御し、燃料供給量が多い第3領域ではVNT可変翼角度をフィードバック制御で、EGR開度をオープンループ制御で制御している。
【0009】
更に、内燃機関の運転領域を燃料供給量の多少によって4つに分けて、上記の制御に加えて、燃料供給量が最も多い第4領域でVNT可変翼角度とEGR開度の両方をフィードバック制御で制御している(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
しかしながら、EGR制御とVNT制御の双方を独立した制御で行うと、制御干渉が起こり、強いフィードバック制御を行うと目標値追従性の不良や制御が収束せずに発振する恐れが生じるという問題がある。つまり、EGR制御を行うと、EGRバルブの開閉により可変ノズルタービン側へ流れる排気ガスの流量が変化し、タービン仕事に影響を及ぼすために、吸入空気流量のみならず吸気圧力にも変化がもたらされる。同様にVNT制御を行うと吸気圧力のみの変化にならず吸入空気流量にも変化が生じる。そのため、従来技術では、この干渉を避けるために、どちらか一方の制御のフィードバックゲインを小さくして、フィードバックを弱めて、制御性を犠牲にしている。また、特許文献1の制御方法のように、どちらか一方の制御をオープンループ制御にするという方法も干渉を避けるための手法の一つであるが、この手法の場合もフィードバック制御に比べて制御性が悪くなる。
【0011】
また、制御入力から制御量までの内燃機関の感度・応答性はエンジン回転数や負荷等の運転条件によって一様ではなく非線形性を有しており、線形制御理論をそのまま適用できない。そのため、より良い制御を行うためには運転条件ごとにフィードバックゲインを適合させることが望ましいが、この適合作業においては、運転条件の範囲内における制御の安定性と応答性を確認する必要があり、適合のための工数が膨大となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−214152号公報
【特許文献2】特開2005−214153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、EGR制御とVNT制御において、EGRバルブの弁開度と可変ノズルタービンのガイドベーンの開度とを、相互に協調させて制御干渉の回避と制御性の向上を図りながら制御することができると共に、運転条件の変化に伴う非線形性に対応するフィードバックゲインを数学的な処理により求めることができて、最適サーボ制御における適合化のための工数を著しく低減できる内燃機関の制御方法及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するための本発明の内燃機関の制御方法は、EGR装置と可変ノズルターボチャージャを備えて、吸入空気流量の検出値と吸気圧力の検出値を入力して前記EGR装置のEGRバルブの弁開度と前記可変ノズルターボチャージャの可変ノズルタービンのガイドベーンの開度の制御を行う内燃機関の制御方法であって、前記吸入空気流量と前記吸気圧力を制御量とし、前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度を操作量とする2入力2出力の積分型最適サーボ系で制御すると共に、該積分型最適サーボ系の状態フィードバックゲインと積分ゲインを、内燃機関の運転条件に対応させて変化させることを特徴とする方法である。
【0015】
この方法によれば、EGR制御とVNT制御の2つの制御を協調して制御する2入力2出力の積分型最適サーボ系の制御で、EGR制御とVNT制御を同時に行うので、2つの独立した制御方法に比べて、制御干渉を回避でき、吸入空気流量と吸気圧力をお互いに協調して制御することができる。また、積分型最適サーボ系の状態フィードバックゲイン等を、内燃機関の運転条件に対応させて変化させるので、その運転条件に適合した積分型最適サーボ系で制御でき、目標値追従性の不良や発振する恐れを回避しながら、制御性の向上を図ることができる。
【0016】
また、上記の内燃機関の制御方法で、前記積分型最適サーボ制御において、制御対象のモデルを線形化フィルタと2次の状態空間モデルで構成し、該状態空間モデルを前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度を入力とする状態方程式と、前記吸入空気流量と前記吸気圧力を出力とする観測方程式で構成すると共に、前記線形フィルタを用いて前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度に関する非線形性を線形化することにより、内燃機関の運転条件に関して前記状態空間モデルを線形化する。
【0017】
この線形化フィルタは、入出力の関係が静的に線型になるような線形入力と実入力の関係を求めたものであり、実入力と応答出力の関係の逆特性で表される。このように入出力の関係を線形化することにより、線形のモデルとして取り扱うことができるため、線形制御理論の適用が容易となり、システム同定(モデル同定)ステップ応答試験もステップ幅の水準別試験を行わなくて済む利点がある。
【0018】
つまり、内燃機関の運転条件に関して線形化した制御対象モデルを使用して、積分型最適サーボ制御の設計を容易化する。この適合化により、非線形計算の計算を線形計算にして計算を単純化することができる。
【0019】
更に、上記の内燃機関の制御方法において、内燃機関の運転条件の中から複数の設計点を選択し、選択された各々の設計点において、状態変数と出力が等しくなるように、前記線形化された状態空間モデルをシステム同定して、最適化された状態フィードバックゲインと積分ゲインを求め、この最適化された状態フィードバックゲインと積分ゲインを運転条件に関してマップデータ化して記憶しておくと共に、制御時においては、制御時の内燃機関の運転条件を検出し、この検出された運転条件における状態フィードバックゲインと積分ゲインを前記マップデータから算出して、積分型最適サーボ系の制御を行う。
【0020】
つまり、内燃機関の運転条件(エンジン回転数と負荷、又は負荷を代表する燃料噴射量)に対応させるため、選択された運転条件(設計点)における状態フィードバックゲイン等を、状態変数と出力が等しくなるようシステム同定された数値モデルを基に、ILQ設計法等の最適サーボ系設計法により求め、設計点間の状態フィードバックゲイン等を運転条件で補間しマッピングする。
【0021】
これにより、設計から状態フィードバックゲイン等のマッピングまでの殆どを数学的処理によって行い、任意の運転条件に対応させるための状態フィードバックゲイン等の適合工数を少なくする。
【0022】
あるいは、上記の内燃機関の制御方法において、任意の運転条件に対応するマッピング化された数値モデルを制御器内に持ち、制御時の内燃機関の運転条件に即した状態フィードバックゲインと積分ゲインを前記数値モデルから逐次算出して、この算出された状態フィードバックゲインと積分ゲインで積分型最適サーボ制御をする。
【0023】
この「マッピング化された数値モデル」とは、各設計点で求めた同定モデルのシステム行列を任意の運転条件に対応できるようにマッピングし、マッピング化されたシステム行列を用いて任意の運転条件における動特性を表現する状態空間モデルのことを指す。
【0024】
この方法では、設計点における状態フィードバックゲイン等をマッピングする代わりに、数値モデルを構築してこの数値モデルからの逐次算出で状態フィードバックゲイン等を算出する。この場合には、状態フィードバックゲイン等のマップデータが無くなるというメリットがあるが、数値モデルの構築のために計算が必要になる。しかし、一旦数値モデルが構築できれば、任意の運転条件に対応する上記と状態フィードバックゲイン等を数値モデルの計算で算出できるので、任意の運転条件に対応させるための状態フィードバックゲイン等を適合させるための工数を少なくすることができる。
【0025】
上記の目的を達成するための本発明の内燃機関の制御装置は、EGR装置と可変ノズルターボチャージャを備えて、吸入空気流量の検出値と吸気圧力の検出値を入力して前記EGR装置のEGRバルブの弁開度と前記可変ノズルターボチャージャの可変ノズルタービンのガイドベーンの開度の制御を行う内燃機関の制御装置であって、前記吸入空気流量と前記吸気圧力を制御量とし、前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度を操作量とする2入力2出力の積分型最適サーボ系で制御すると共に、該積分型最適サーボ系の状態フィードバックゲインと積分ゲインを、内燃機関の運転条件に対応させて変化させるように構成される。
【0026】
上記の内燃機関の制御装置で、前記積分型最適サーボ制御において、制御対象のモデルを線形化フィルタと2次の状態空間モデルで構成し、該状態空間モデルを前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度を入力とする状態方程式と、前記吸入空気流量と前記吸気圧力を出力とする観測方程式で構成すると共に、前記線形フィルタを用いて前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度に関する非線形性を線形化することにより、内燃機関の運転条件に関して前記状態空間モデルを線形化するように構成される。
【0027】
上記の内燃機関の制御装置において、内燃機関の運転条件の中から複数の設計点を選択し、選択された各々の設計点において、状態変数と出力が等しくなるように、前記線形化された状態空間モデルをシステム同定して、最適化された状態フィードバックゲインと積分ゲインを求め、この最適化された状態フィードバックゲインと積分ゲインを運転条件に関してマップデータ化して記憶しておくと共に、制御時においては、制御時の内燃機関の運転条件を検出し、この検出された運転条件における状態フィードバックゲインと積分ゲインを前記マップデータから算出して、積分型最適サーボ系の制御を行うように構成する。
【0028】
あるいは、上記の内燃機関の制御装置において、任意の運転条件に対応するマッピング化された数値モデルを制御器内に持ち、制御時の内燃機関の運転条件に即した状態フィードバックゲインと積分ゲインを前記数値モデルから逐次算出して、この算出された状態フィードバックゲインと積分ゲインで積分型最適サーボ制御をするように構成される。
【0029】
これらの内燃機関の制御装置によれば、上記の内燃機関の制御方法を実施することができ、同様な効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る内燃機関の制御方法及び制御装置によれば、EGR制御とVNT制御をそれぞれ独立した制御でなく、2入力2出力の一つの積分型最適サーボ制御として制御するので、制御干渉を回避でき、吸入空気流量と吸気圧力をお互いに協調して制御することができる。また、積分型最適サーボ制御のフィードバックゲインを、内燃機関の運転条件に対応させて変化させるので、その運転条件に適合した積分型最適サーボ制御で制御でき、目標値追従性の不良や発振する恐れを回避しながら、制御性の向上を図ることができる。
【0031】
また、積分型最適サーボ制御において、制御対象モデルを線形フィルタを用いてEGRバルブの弁開度と可変ノズルタービンのガイドベーンの開度に関する非線形性を線形化することにより、内燃機関の運転条件に関して前記制御対象モデルを線形化する。これにより、非線形計算による複雑な適合化が不要になり、計算を線形計算にして計算を単純化することができ、積分型最適サーボ制御の設計を容易化することができる。
【0032】
また、内燃機関の運転条件の中から選択された複数の設計点において、線形化された制御対象モデルを表す状態空間モデルをシステム同定して、最適サーボ系設計法により最適化されたフィードバックゲインを求め、マップデータ化にしておいて、このマップデータから制御時に検出された運転条件におけるフィードバックゲインを算出したり、任意の運転条件に対応するマッピング化された数値モデルから、制御時の内燃機関の運転条件に即したフィードバックゲインを逐次算出したりすることにより、運転条件の変化に伴う吸気糸と排気系と統合した制御システムの非線形性に対応するフィードバックゲインを数学的な処理により求めることができ、適合工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の内燃機関の構成を示した概略図である。
【図2】制御システムの概要を示した図である。
【図3】積分型適応最適サーボ系の制御を示したブロック線図である。
【図4】積分型最適サーボ系の制御を示したブロック線図である。
【図5】設計点の一例とJE05モードとフルロードにおける運転条件を示した図である。
【図6】フィードバックゲインのマッピングの一例を示した図である。
【図7】線形化前の線形入力に対する非線形な応答出力の状態を示した図である。
【図8】線形化後の線形入力に対する線形名応答出力の状態を示した図である。
【図9】従来技術のEGR制御を示したブロック線図である。
【図10】従来技術のVNT制御を示したブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関の制御方法及び制御装置について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の実施の形態の内燃機関の制御装置を備えて、本発明の実施の形態の内燃機関の制御方法を行う内燃機関(エンジン)10の吸排気系の概略の構成を示す。
【0035】
この内燃機関10は、排気通路11に、可変ノズルターボチャージャ(VNT装置)13の可変ノズルタービン13aを備えており、この可変ノズルタービン13aで駆動されるコンプレッサ13bを吸気通路12に備えている。この可変ノズルタービン13aの可変ノズルの弁開度Vvntは、ECMと呼ばれる内燃機関10を運転制御するための制御装置30によって制御される。
【0036】
また、吸気通路12に空気流量センサ31が設けられ、この空気流量センサ31で検出された吸入空気流量Vmは制御装置30に入力される。また、コンプレッサ13bの下流側の吸気通路12には、インタークーラ14と吸気スロットル15が設けられている。また、吸気マニホールド12aには圧力センサ32が設けられ、この圧力センサ32で検出された圧力はエンジン制御装置30に入力される。
【0037】
吸気通路12に吸入された空気Aは、コンプレッサ13bで圧縮された後、インタークーラ14で冷却され、また、吸気スロットル15でその流量を制御されて、シリンダ16に流入する。このシリンダ16の内部で燃料が燃焼し排気ガスGが発生する。この排気ガスGは排気マニホールド11aから排気通路11に排出され、排気通路11に設けられた可変ノズルタービン13aを駆動した後、図示しない排気ガス浄化装置やサイレンサを通過して大気中に排出される。
【0038】
また、可変ノズルタービン13aの上流側の排気マニホールド11aとコンプレッサ13bの下流側の吸気マニホールド12aとの間に、EGR通路20が設けられている。このEGR通路20には、EGRクーラ21とEGRバルブ22が設けられている。排気マニホールド11aにおいてEGR通路20に分岐したEGRガスGeは、EGRクーラ21で冷却されてEGRバルブ22によりその流量を調整されて吸気マニホールド12aに入る。
【0039】
本発明においては、EGRバルブ22の開度Vegrの制御で行うEGR制御と可変ノズルタービン13aのガイドベーンの開度Vvntの制御で行うVNT制御とを統合させた積分型最適サーボ系で行う。つまり、吸入空気流量Vと吸気圧力Pを制御量とし、EGRバルブ22の弁開度Vegrとガイドベーンの開度Vvntを操作量とする2入力2出力の積分型最適サーボ制御で制御する。それと共に、この積分型最適サーボ制御のフィードバックゲインを、内燃機関10の運転条件に対応させて変化させるように構成する。
【0040】
次に、この積分型適応最適サーボ系について説明する。制御対象の内燃機関10はエンジン回転数Ne、負荷を代表する燃料噴射量Qf等で決定される運転条件hに依存した非線形性を有するものとする。また、この制御において、入力uと内部状態xの間の動的な関係を表すものとして、可制御な2入力の状態方程式(1)を設け、内部状態xと出力yの間の動的な関係を表すものとして、可観測な2出力の観測方程式(2)を設ける。この状態方程式(1)と観測方程式(2)とで状態空間モデルが構成される。
dx/dt=A(h)x+B(h)u ・・・・・(1)
y=C(h)x ・・・・・(2)
【0041】
ここで、A(h),B(h),C(h)は運転条件hに依存する係数行列であり、xは内部状態量(状態変数)であり、uは入力(入力変数)で、具体的にはEGR開度VegrとVNT開度Vvntであり、yは出力(出力変数)で、具体的には空気流量Vと吸気圧力Pである。
【0042】
この(1)、(2)式を考慮して、図3に示すような積分型適応最適サーボ系を導入する。この図3において、rは目標値であり、eは目標値rと出力yの誤差であり、uは入力であり、yは出力である。また、KF(h)は状態フィードバックゲインであり、KI(h)は積分ゲインである。
【0043】
この積分型適応最適サーボ系の制御器は、2入力2出力で構成され、状態フィードバックゲインKF(h)と積分ゲインKI(h)は制御対象のシステムの特性を示す状態方程式(1)と観測方程式(2)を用いて最適サーボ系設計法により導出される。そのため、この制御器は干渉項も考慮された協調した構成となる。なお、状態フィードバックゲインKF(h)と積分ゲインKI(h)は運転条件hに依存する。そのため、これらのゲインKF(h)とKI(h)は、例えば、運転条件hの関数等で表されて、運転条件hの変化に応じて、その運転条件hに適切に対応する値に逐次変更させる必要がある。
【0044】
次に、これらの状態フィードバックゲインKF(h)と積分ゲインKI(h)の導出方法について説明する。元来、運転条件hに対して非線形な特性を示す2入力の状態方程式(1)と2出力の観測方程式(2)に対して、最適サーボ系設計法のような線形制御理論をそのまま適用することはできないので、本発明では、以下のような導出方法を用いる。
【0045】
先ず、制御を行うシステムを図2に示すように考える。制御対象のシステムをモデル化したシステム40を線形化フィルタ41と2次の状態空間モデル42により構成する。
【0046】
EGR制御の入力であるEGRバルブ22の弁開度Vegr、及び、VNT制御の入力である可変ノズルタービン13aのガイドベーンの開度Vvntに関する非線形性を線形化フィルタ41を用いて、運転条件hに関して線形化することにより、この運転条件hの範囲内では、状態空間モデル42を線形状態空間モデルとして扱うことにする。
【0047】
この線形化フィルタ41は、入出力の関係が静的に線型になるような線形入力と実入力の関係を求めたものであり、実入力と応答出力の関係の逆特性で表される。このように入出力の関係を線形化することにより、線形のモデルとして取り扱うことができるため、線形制御理論の適用が容易となり、システム同定(モデル同定)ステップ応答試験もステップ幅の水準別試験を行わなくて済む利点がある。説明を分かり易くするために、図7に線形化前の線形入力に対する非線形な応答出力の状態を示し、図8に、線形化後の線形入力に対する線形名応答出力の状態を示す。
【0048】
この線形化された状態空間モデル42を入出力信号から同定する。この同定はシステム同定(若しくはモデル同定)にて求める。このシステム同定とは、実験を行って、実験結果における測定データである入力と出力を用いて状態空間モデルを同定するものである。
【0049】
このシステム同定は内燃機関10の全ての運転条件hにおいて求めることが好ましいが、内燃機関10の運転条件hは多岐に亘る。そのため、全ての運転条件hにおける状態空間モデル42を実験的に求めようとすると膨大な同定のための工数が必要となる。
【0050】
そこで、本発明においては、内燃機関10の特性を代表すると考えられる設計点hpを複数(数点から十数点程度)設けて、この設計点hpにおける線形状態空間モデル42をシステム同定により求める。この設計点hpの選択の一例を図5に示す。図中の大きな白丸印が設計点hpを示す。小さい丸は、自動車のエンジンの排出ガス試験モードのJE05モード(市内の走行実態を踏まえた過渡走行モード)の運転で遭遇する運転条件を示す。
【0051】
次に、この設計点hpにおける線形状態空間モデル42の同定について説明する。設計点hpにおける線形状態空間モデル42は、次の(3)、(4)式となる。
dx/dt=Ax+Bu ・・・・・(3)
y=Cx ・・・・・(4)
【0052】
ここで、y=xとなるようにCを単位行列として同定する。これにより検出可能な物理量(出力y)と状態変数xとが等しくなり、この設計点hpによるシステムの動特性の変化を、システム行列(A,B)に関連付けられるとする。つまり、これの設計点hp同士の間における動特性の変化幅がさほど大きくない場合では、システム行列(A,B)の各要素を設計点hpに関してマップデータ化し、必要な運転条件hにおけるシステム行列(A,B)の各要素は、このマップデータを基に算出する。このマッピング手法を採用することにより、(1)、(2)式に示すようなシステム全体を表現するモデルを作成する。
【0053】
次に、(3)、(4)式で表される線形状態空間モデル42を用いて、設計点hpにおける、図4に示す積分型最適サーボ系の状態フィードバックゲインKFoと積分ゲインKIoとゲイン調整パラメータΣを、周知のILQ(Inverse Linear Quadratic)最適サーボ設計法により求める。
【0054】
このILQ最適サーボ設計法の特徴は、簡単な代数演算でコントロールゲインが求まり、制御設計パラメータが目標から出力までの閉ループ伝達関数であり、工学的仕様に合わせて設計できる点と、(3)式の状態方程式と(4)式の観測方程式を制御対象モデルとする場合、導出したフィードバックゲインをマッピング処理することにより、運転条件の変化に伴うシステムの非線形特性に対応できる点にある。
【0055】
ただし、本発明における制御設計法としては、上記の理由でILQ最適サーボ系設計法を用いることが好ましいが、このILQ最適サーボ系設計法に限定されず、例えば、任意の制御問題に基づいて、図4に示す制御系のフィードバックゲインKFo、積分ゲインKIo、Σを求めることができる設計方法であれば、その設計方法を用いることができる。
【0056】
この各設計点hpで求めた状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoを、任意の運転条件hに対応できるようにマッピングする。つまり、〔KF,KI〕=Σ〔KFo,KIo〕としたKF,KIを設計点hpに関してマップデータ化し、制御器に記憶させる。任意の運転条件hにおける状態フィードバックゲインKF、積分ゲインKIは、このマッピングされたデータ(例えば、図6)に基づいて、各設計点hp間の補間処理等を用いて求める。
【0057】
このように(3)、(4)式で表される線形状態空間モデル42を用いてILQ最適サーボ系設計法により求めた状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoは、補間等の数学的処理でゲインマップを求めることが可能なため、状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoを予めマップ化し、運転条件hに即した、状態フィードバックゲインKF、積分ゲインKIを逐次読み取るように構成する。これにより、工数を大幅に削減できる。
【0058】
また、上記のマップデータから状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoを逐次読み取る代わりに、任意の運転条件hに対応する、マッピング化された数値モデル((1)式と(2)式)を制御器内に持ち、運転条件hに即した線形数値モデルを逐次読み取る。この線形数値モデルを基に状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoをILQ最適サーボ系設計法により逐次算出する方法を採用することもできる。
【0059】
この「マッピング化された数値モデル」とは、各設計点hpで求めた同定モデル((3)式)のシステム行列A,Bを任意の運転条件hに対応できるようにマッピングし、マッピング化されたシステム行列を用いて任意の運転条件hにおける動特性を表現する状態空間モデル((1)式)のことを指す。
【0060】
また、図3及び図4に示すようなフィードバック制御のみでなく、フォードフォワード制御も加えた2自由度積分型最適サーボ系を構成すれば、閉ループ系においてより高い追従性能および安定性を確保することができる。
【0061】
上記の内燃機関10の制御方法及び制御装置によれば、EGR制御とVNT制御をそれぞれ独立した制御でなく、2入力2出力の一つの積分型最適サーボ制御として制御するので、制御干渉を回避でき、吸入空気流量Vと吸気圧力Pをお互いに協調して制御することができる。また、積分型最適サーボ制御の状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoを、内燃機関10の運転条件hに対応させて変化させるので、その運転条件hに適合した積分型最適サーボ制御で制御でき、目標値追従性の不良や発振する恐れを回避しながら、制御性の向上を図ることができる。
【0062】
また、積分型最適サーボ制御において、制御対象モデルを線形フィルタ41を用いてEGRバルブ22の弁開度Vegrと可変ノズルタービン13aのガイドベーンの開度Vvntに関する非線形性を線形化することにより、内燃機関10の運転条件hに関して制御対象モデルを線形化する。これにより計算を単純化することができ、積分型最適サーボ制御の設計を容易化することができる。
【0063】
また、内燃機関10の運転条件hの中から選択された複数の設計点hpにおいて、線形化された制御対象モデルを表す状態空間モデル42をシステム同定して、最適サーボ系設計法により最適化された状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoを求め、マップデータ化にしておいて、このマップデータから制御時に検出された運転条件における状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoを算出したり、任意の運転条件に対応するマッピング化された数値モデルから、制御時の内燃機関の運転条件に即した状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoを逐次算出したりすることにより、運転条件hの変化に伴う吸気糸と排気系と統合した制御システムの非線形性に対応する状態フィードバックゲインKFo、積分ゲインKIoを数学的な処理により求めることができ、適合工数を削減することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 内燃機関(エンジン)
13 VNT装置(可変ノズルターボチャージャ)
13a 可変ノズルタービン
13b コンプレッサ
22 EGRバルブ
30 制御装置
31 空気流量センサ
32 圧力センサ
40 制御対象のモデル
41 線形化フィルタ
42 状態空間モデル
A 吸入空気
Am 吸入空気の検出値
At 吸入空気の目標値
A(h),B(h),C(h) 係数行列
A,B,C 係数行列
e 目標値と出力の誤差
G 排気ガス
Ge EGRガス
h 運転条件
hp 設計点
F(h) 状態フィードバックゲイン
FO 最適状態フィードバックゲイン
I(h) 積分ゲイン
IO 最適積分ゲイン
Ne エンジン回転数
P 吸気圧力
Pm 吸気圧力の検出値
Pt 吸気圧力の目標値
Qf 負荷に対応する燃料噴射量
r 目標値
u 入力
V 空気流量
Vegr EGRバルブの弁開度
Vvnt 可変ノズルタービンのガイドベーンの開度
x 内部状態量
y 出力
Σ ゲイン調整パラメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGR装置と可変ノズルターボチャージャを備えて、吸入空気流量の検出値と吸気圧力の検出値を入力して前記EGR装置のEGRバルブの弁開度と前記可変ノズルターボチャージャの可変ノズルタービンのガイドベーンの開度の制御を行う内燃機関の制御方法であって、
前記吸入空気流量と前記吸気圧力を制御量とし、前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度を操作量とする2入力2出力の積分型最適サーボ系で制御すると共に、該積分型最適サーボ系の状態フィードバックゲインと積分ゲインを、内燃機関の運転条件に対応させて変化させることを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
前記積分型最適サーボ制御において、制御対象のモデルを線形化フィルタと2次の状態空間モデルで構成し、該状態空間モデルを前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度を入力とする状態方程式と、前記吸入空気流量と前記吸気圧力を出力とする観測方程式で構成すると共に、前記線形フィルタを用いて前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度に関する非線形性を線形化することにより、内燃機関の運転条件に関して前記状態空間モデルを線形化することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御方法。
【請求項3】
内燃機関の運転条件の中から複数の設計点を選択し、
選択された各々の設計点において、状態変数と出力が等しくなるように、前記線形化された状態空間モデルをシステム同定して、最適化された状態フィードバックゲインと積分ゲインを求め、
この最適化された状態フィードバックゲインと積分ゲインを運転条件に関してマップデータ化して記憶しておくと共に、
制御時においては、制御時の内燃機関の運転条件を検出し、この検出された運転条件における状態フィードバックゲインと積分ゲインを前記マップデータから算出して、積分型最適サーボ系の制御を行うことを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御方法。
【請求項4】
任意の運転条件に対応するマッピング化された数値モデルを制御器内に持ち、制御時の内燃機関の運転条件に即した状態フィードバックゲインと積分ゲインを前記数値モデルから逐次算出して、この算出された状態フィードバックゲインと積分ゲインで積分型最適サーボ制御をすることを特徴とする請求項3記載の内燃機関の制御方法。
【請求項5】
EGR装置と可変ノズルターボチャージャを備えて、吸入空気流量の検出値と吸気圧力の検出値を入力して前記EGR装置のEGRバルブの弁開度と前記可変ノズルターボチャージャの可変ノズルタービンのガイドベーンの開度の制御を行う内燃機関の制御装置であって、
前記吸入空気流量と前記吸気圧力を制御量とし、前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度を操作量とする2入力2出力の積分型最適サーボ系で制御すると共に、該積分型最適サーボ系の状態フィードバックゲインと積分ゲインを、内燃機関の運転条件に対応させて変化させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記積分型最適サーボ制御において、制御対象のモデルを線形化フィルタと2次の状態空間モデルで構成し、該状態空間モデルを前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度を入力とする状態方程式と、前記吸入空気流量と前記吸気圧力を出力とする観測方程式で構成すると共に、前記線形フィルタを用いて前記EGRバルブの弁開度と前記ガイドベーンの開度に関する非線形性を線形化することにより、内燃機関の運転条件に関して前記状態空間モデルを線形化することを特徴とする請求項5記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
内燃機関の運転条件の中から複数の設計点を選択し、
選択された各々の設計点において、状態変数と出力が等しくなるように、前記線形化された状態空間モデルをシステム同定して、最適化された状態フィードバックゲインと積分ゲインを求め、
この最適化された状態フィードバックゲインと積分ゲインを運転条件に関してマップデータ化して記憶しておくと共に、
制御時においては、制御時の内燃機関の運転条件を検出し、この検出された運転条件における状態フィードバックゲインと積分ゲインを前記マップデータから算出して、積分型最適サーボ系の制御を行うことを特徴とする請求項6記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
任意の運転条件に対応するマッピング化された数値モデルを制御器内に持ち、制御時の内燃機関の運転条件に即した状態フィードバックゲインと積分ゲインを前記数値モデルから逐次算出して、この算出された状態フィードバックゲインと積分ゲインで積分型最適サーボ制御をすることを特徴とする請求項7記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−249057(P2010−249057A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100324(P2009−100324)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】