説明

内燃機関の制御装置

【課題】 この発明は、内燃機関の制御装置に関し、減速燃料カット時に排気ガス再循環量を増量制御する内燃機関において、減速燃料カットからの復帰時の排気ガス再循環量の状態に関わらず、当該復帰時の空燃比を狙いの値に精密に制御することを目的とする。
【解決手段】 減速時の燃料カット実行中に、バルブオーバーラップ期間の変更によってEGRガスを増量制御する。当該燃料カットからの復帰時におけるバルブオーバーラップ量が所定の判定値X以下である場合には、吸気非同期噴射を選択する(噴射終期60°BTDC)。一方、当該復帰時におけるバルブオーバーラップ量が判定値Xより大きい場合には、吸気同期噴射を選択する(噴射終期30°ATDC)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、減速時の燃料カット実行中に排気ガスを還流させる内燃機関を制御する装置として好適な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、減速燃料カットからの復帰時に燃料噴射量を増量する制御を行う内燃機関において、吸気弁の閉時期に応じて当該復帰時の燃料増量値を大きくする技術が開示されている。より具体的には、この従来技術では、吸気弁の閉時期が遅いほど、減速燃料カットからの復帰時の燃料増量値を大きくすることにより、当該復帰時に空燃比を適切に維持できるものとしている。
【0003】
【特許文献1】実開平3−54257号公報
【特許文献2】特開平5−141293号公報
【特許文献3】特開平11−257130号公報
【特許文献4】特開平10−331612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、減速燃料カット時に排気ガス再循環量を増量制御する内燃機関が知られている。このような制御が行われている内燃機関では、燃料カット復帰時の排気ガス再循環量の減衰量に応じて、バックブローによる吹き返し量の影響が変化する。吹き返し量が多くなると、噴射された燃料のうちの吸気ポート等への壁面付着燃料量が増加する。従って、上記従来技術の手法によって燃料カット復帰時の燃料量を単純に増量させただけでは、吹き返し量が多い状況下では、壁面付着燃料量も増加してしまい、当該復帰時の空燃比を精密に制御することができない。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、減速燃料カット時に排気ガス再循環量を増量制御する内燃機関において、減速燃料カットからの復帰時の排気ガス再循環量の状態に関わらず、当該復帰時の空燃比を狙いの値に精密に制御することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料の供給を停止する燃料カット手段と、排気ガス再循環量を制御するEGR制御手段とを備え、減速時に燃料カットを実施し前記排気ガス再循環量を増量する内燃機関の制御装置であって、
前記排気ガス再循環量の減衰量を取得するEGR減衰量取得手段と、
燃料の供給時期を制御する燃料供給時期制御手段とを備え、
前記燃料供給時期制御手段は、前記燃料カットから燃料の供給を再開する場合に、前記排気ガス再循環量の減衰量に応じて、燃料の供給時期を定めることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記EGR制御手段は、
吸気弁開弁期間と排気弁開弁期間とが重なるバルブオーバーラップ期間を可変とする可変動弁機構を駆動して内部排気ガス再循環量を増減させる可変バルブタイミング制御手段と、吸気通路と排気通路とを連通する排気ガス還流通路の途中に設けられるEGR弁の開度を調整して外部排気ガス再循環量を増減させるEGR弁制御手段の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第2の発明において、前記EGR制御手段は、前記可変バルブタイミング制御手段であり、
前記EGR減衰量取得手段は、バルブタイミングの進角値を取得するバルブタイミング制御量取得手段を含み、
前記燃料供給時期制御手段は、前記バルブタイミングの進角値に基づいて前記燃料供給再開時における前記排気ガス再循環量の減衰量の状態を判断するEGR量判断手段を含むことを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第2または第3の発明において、前記EGR制御手段は前記可変バルブタイミング制御手段であって、
前記燃料供給時期制御手段は、前記燃料供給再開時における前記排気ガス再循環量の減衰量が小さいほど、前記燃料供給再開時の燃料の供給時期を吸気同期側に、より大きく遅角制御することを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第2の発明において、吸入空気量を制御する吸入空気量制御手段を更に備え、前記燃料カット時に吸入空気量を減衰させると共に、前記EGR制御手段が前記EGR弁制御手段である場合であって、
前記燃料供給時期制御手段は、前記燃料供給再開時における前記排気ガス再循環量の減衰量が大きい場合には、前記燃料供給再開時の燃料の供給時期を吸気同期側に制御することを特徴とする。
【0011】
また、第6の発明は、第3乃至第5の発明の何れかにおいて、前記燃料供給時期制御手段は、燃料の供給時期を吸気同期側に制御することを終了した場合に、吸気同期側への前記制御前の供給時期に燃料の供給時期を徐々に戻すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、燃料カット復帰時に供給される燃料がバックブローの影響を受けにくくなるようにすることができ、当該復帰時に空燃比を狙いの値に精密に制御することができる。このため、本発明によれば、燃料カット復帰時の空燃比のリーン化を抑制することができ、機関のストール等を回避することができる。
【0013】
第2の発明によれば、内部排気ガス再循環量、或いは外部排気ガス再循環量の減衰の状況に応じて、燃料カット復帰時の燃料の供給時期を定めることにより、当該復帰時の空燃比を精密に制御することができる。
【0014】
第3の発明によれば、バルブタイミングの進角値に基づいて排気ガス再循環量の減衰量の状態を判断することにより、可変バルブタイミング制御手段によるバルブタイミングの制御遅れを加味して燃料供給再開時における当該減衰量を判断することができる。このため、本発明によれば、バルブオーバーラップ量の戻り量に応じて燃料の供給時期をより精密に設定することができる。
【0015】
第4の発明によれば、燃料カット復帰時の排気ガス再循環量の減衰量が小さいほど、燃料の供給時期がより大きく吸気同期側に遅角制御されることで、当該復帰時に燃料をダイレクトに燃焼室に送り込むことができるので、当該復帰時に供給される燃料が受けるバックブローの影響を抑えることができる。
【0016】
第5の発明によれば、燃料復帰時の排気ガス再循環量の減衰量が大きく、その結果として吸気管負圧が大きい場合には、吸気同期噴射によって当該復帰時に燃料をダイレクトに燃焼室に送り込むことができるので、当該復帰時に供給される燃料が受けるバックブローの影響を抑えることができる。
【0017】
第6の発明によれば、燃料の供給時期を吸気同期側に制御した後に、燃料の供給時期を吸気同期側への制御する前の供給時期に向けて徐々に戻していくことにより、空燃比の急激な変動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態1の構成を説明するための図を示す。図1に示すように、本実施形態のシステムは、内燃機関10を備えている。内燃機関10の筒内には、燃焼室12が形成されている。燃焼室12には、吸気通路14および排気通路16が連通している。
【0019】
吸気通路14には、スロットルバルブ18が配置されている。スロットルバルブ18は、アクセル開度に基づいてスロットルモータにより駆動される電子制御式のバルブである。スロットルバルブ18の近傍には、スロットル開度TAを検出するためのスロットルポジションセンサ20が配置されている。
【0020】
内燃機関10は、複数の気筒を有する多気筒式の機関であり、図1は、そのうちの一気筒の断面を示している。内燃機関10が備える個々の気筒には、吸気通路14に通じる吸気ポート、および排気通路16に通じる排気ポートが設けられている。吸気ポートには、その内部に燃料を噴射するための燃料噴射弁22が配置されている。また、吸気ポートおよび排気ポートには、それぞれ、燃焼室12と吸気通路14、或いは燃焼室12と排気通路16を導通状態または遮断状態とするための吸気弁24および排気弁26が設けられている。
【0021】
吸気弁24および排気弁26は、それぞれ吸気可変動弁(VVT)機構28および排気可変動弁(VVT)機構30により駆動される。可変動弁機構28、30は、それぞれ、クランク軸の回転と同期して吸気弁24および排気弁26を開閉させると共に、それらの開弁特性(開弁時期、作用角、リフト量など)を変更することができる。
【0022】
内燃機関10は、クランク軸の近傍にクランク角センサ32を備えている。クランク角センサ32は、クランク軸が所定回転角だけ回転する毎に、Hi出力とLo出力を反転させるセンサである。クランク角センサ32の出力によれば、クランク軸の回転位置や回転速度、更には、機関回転数NEなどを検知することができる。また、内燃機関10は、吸気カム軸の近傍にカム角センサ34を備えている。カム角センサ34は、クランク角センサ32と同様の構成を有するセンサである。カム角センサ34の出力によれば、吸気カム軸の回転位置(進角値)などを検知することができる。
【0023】
内燃機関10の排気通路16には、排気ガスを浄化するための上流触媒(SC)36および下流触媒(UF)38が直列に配置されている。また、上流触媒36の上流には、その位置で排気空燃比を検出するための空燃比センサ40が配置されている。更に、上流触媒36と下流触媒38との間には、その位置の空燃比がリッチであるかリーンであるかに応じた信号を発生する酸素センサ42が配置されている。
【0024】
図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50には、上述した各種センサに加え、アクセル開度PAを検出するためのアクセルポジションセンサ52や、上述した各種アクチュエータが接続されている。ECU50は、それらのセンサ出力に基づいて、内燃機関10の運転状態を制御することができる。燃料噴射弁22により噴射される燃料の供給時期は、ECU50により制御されている。より具体的には、上記の構成によれば、燃料の供給時期は、通常は、噴射された燃料が排気上死点の到来前に吸気弁24に到達するように設定される(吸気非同期噴射)。また、上記の構成によれば、噴射された燃料が吸気行程中のピストンの下降と同期して行われるように、言い換えれば、排気上死点の到来後に吸気弁24に到達するように、燃料の供給時期を設定することもできる(吸気同期噴射)。
【0025】
[触媒劣化抑制制御の概要]
上記のように構成された本実施形態のシステムは、内燃機関10の運転中にスロットル開度TAがアイドル開度とされた場合に、燃料の供給を停止する処理、つまり、燃料カット(F/C)を実行する。F/Cの実行中は、燃料噴射が行われないことから、触媒(上流触媒36および下流触媒38)に流れ込むガスは極端にリーンに偏ったものとなる。そして、高温の触媒にリーンなガスが流入すると、触媒の劣化が進行し易い。
【0026】
図1に示すシステムによれば、吸気可変動弁機構28により吸気弁24の開弁位相を進角(より具体的には開弁タイミングを進角)することにより、バルブオーバーラップ期間、つまり、吸気弁24と排気弁26が共に開弁状態となる期間を延ばすことができる。そして、吸気管圧力が負圧状況下にある減速時のF/C実行中に、バルブオーバーラップ期間が延びれば、吸気弁24の開弁後に吸気通路14に吹き返される既燃ガス量、つまり、内部EGR量が増加する。
【0027】
従って、十分なバルブオーバーラップを発生させた状態でスロットル開度TAを十分に絞ることとすれば、十分な排気ガス再循環量(以下、EGRガス量)を生じさせることができる。そこで、本実施形態のシステムでは、F/Cの実行中には、EGRガスを燃焼室12に導入させつつ、スロットルバルブ18を全閉位置に制御することとしている。このような制御によれば、吸気管圧力の過大な負圧化を抑制しつつ、触媒の劣化進行を有効に抑制することが可能である。以下、そのような制御、すなわち、減速時のF/C実行中にスロットルバルブ18を全閉に維持しつつ、かつ燃焼室12にEGRガスを導入することにより触媒の劣化を抑制させる制御を、「触媒劣化抑制制御」と称する。
【0028】
[実施の形態1の特徴部分]
ポート噴射式の内燃機関において一般的な吸気非同期噴射モードが用いられている場合、噴射された燃料の一部は、バックブロー(吹き返し)によって吹き飛ばされて吸気ポート等に付着し、その後、その壁面付着燃料の一部が吸気行程時に燃焼室12内に持ち去られる。減速F/Cの実行中は、燃料噴射が実行されていないので、壁面付着燃料が順次持ち去られていく。このため、F/Cからの復帰時には、基本的に壁面付着燃料がない状態となる。従って、F/Cからの復帰時の初回のサイクルでは、噴射された燃料の一部が壁面付着燃料のない状態の壁面に付着したときの持ち去り量が少なくなるため、当該サイクルにおける空燃比はリーン化してしまう。
【0029】
そして、そのF/C復帰時の初回のサイクル時に壁面に付着する燃料量は、バルブオーバーラップ期間の長短に応じてバックブローによる吸気の吹き返し量が変化するのに伴って変化する。より具体的には、上記触媒劣化抑制制御が実行されている場合にF/Cからの復帰がなされる際には、F/Cからの復帰要求の検出時点からバルブオーバーラップ量を通常の運転時の値に戻していくことになるが、吸気VVT機構28には制御遅れがあるため、燃料噴射再開時におけるバルブオーバーラップ量の戻り量が十分でない場合がある。より具体的には、そのような場合には、バルブオーバーラップ量が大きくされているほど、吸気の吹き返し量が多くなることで、壁面付着燃料量が増加する。
【0030】
従って、減速F/Cからの復帰時の空燃比のリーン化を回避するために、燃料噴射量を単純に増量する手法では、吹き返しによる壁面付着燃料量の増加を招くことになる。また、そのような吹き返しにより増大した壁面付着燃料量を正確に推定することは困難であり、更に、燃料増量により増加した壁面付着燃料量が次第に剥離して燃焼室12内に持ち去られていくことで、その後の燃焼サイクルにおける空燃比を乱してしまう。そこで、本実施形態のシステムでは、バルブオーバーラップ期間の長短に関わらず、すなわち、EGRガス量の減衰量に関わらず、減速F/Cからの復帰時の空燃比を精密に制御すべく、以下の図3に示すルーチンをECU50に実行させることとした。
【0031】
次に、図2乃至図4を参照して、実施の形態1における具体的な処理について説明する。
図2は、上記の要求を充足させるために、本実施の形態1においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。尚、本ルーチンは、各気筒に対して、一定のクランク角毎に周期的に実行されるものとする。図2に示すルーチンでは、先ず、減速時のF/C実行中であるか否かが判別される(ステップ100)。
【0032】
その結果、F/C中であると認められた場合には、F/C復帰要求があるか否かが判別される(ステップ102)。具体的には、加速要求があるか否かが、アクセル開度PAに基づいて判別される。次に、当該復帰要求検出時における吸気弁24のVVT進角値に基づいて、バルブオーバーラップ量が取得される(ステップ104)。次いで、上記ステップ104において取得されたバルブオーバーラップ量が判定値Xより大きいか否かが判別される(ステップ106)。
【0033】
図3は、図2に示すルーチンにおいて、F/C復帰時の初回に設定される燃料の供給時期を説明するための図である。より具体的には、図3の縦軸は、燃料の供給時期の終期を示している。図3に示すように、本実施形態では、F/C復帰時のバルブオーバーラップ量の値に応じて、当該F/C復帰時の初回の燃料供給時期を切り換えることとしている。図3に示す設定では、バルブオーバーラップ量が判定値X以下の場合には、吸気非同期噴射を実行するために、燃料の供給時期の終期は通常時と同様の60°BTDCとしている。一方、バルブオーバーラップ量が判定値Xより大きい場合には、吸気同期噴射を実行するために、当該終期は30°ATDCとしている。バルブオーバーラップ期間中は、正に吹き返しが行われている最中であり、そのような吹き返しの影響が大きいときに燃料を噴射したとしても、吹き飛ばされて壁面付着燃料量が増加してしまう。図3におけるバルブオーバーラップ量の判定値Xは、そのような吹き返しの影響が非同期噴射を実行するうえで問題のないレベルかどうかを判定するための値である。
【0034】
上記ステップ106において、F/C復帰時のバルブオーバーラップ量>判定値Xが不成立であると判定された場合には、F/C復帰時における初回の燃料供給時期の終期は、60°BTDCとされる(ステップ108)。すなわち、この場合は、燃料供給時期の遅角が実行されない。次いで、F/Cからの復帰処理が実行、すなわち、燃料噴射が再開される(ステップ110)。
【0035】
一方、上記ステップ106において、F/C復帰時のバルブオーバーラップ量>判定値Xが成立すると判定された場合には、F/C復帰時における初回の燃料供給時期の終期は、30°ATDCとされる(ステップ112)。すなわち、燃料供給時期が吸気同期側に遅角される。次いで、噴射時期遅角フラグがONとされる(ステップ114)。次いで、F/Cからの復帰処理が実行される(ステップ116)。
【0036】
上記のステップ106、および、108または112の処理によれば、VVT進角値に基づいてEGRガス量の減衰量の状態を判断することにより、VVT制御遅れの分も加味してF/Cからの復帰時における当該減衰量を判断することができる。このため、バルブバルブオーバーラップ量の戻り量に応じて燃料の供給時期をより精密に設定することができる。
【0037】
図2に示すルーチンでは、F/C実行中でない場合、および、F/C実行中であって復帰要求があった後の処理サイクルである場合には、噴射時期遅角フラグがONとされている限り、ステップ118の判定が不成立となる。このようにステップ118の判定が不成立となった場合と、上記ステップ116においてF/Cからの復帰処理が実行された後は、次いで、現時点でのバルブオーバーラップ量が再取得される(ステップ120)。
【0038】
次に、上記ステップ112の処理によって吸気同期側に遅角された噴射時期(燃料の供給時期)が、上記ステップ112の処理前の噴射時期に復帰しているか否かが判別される(ステップ122)。その結果、噴射時期の復帰が完了していないと判定された場合には、噴射時期の復帰量が算出される(ステップ124)。図4は、噴射時期の復帰量を取得するためにECU50が記憶しているマップの一例である。図4に示すマップによれば、バルブオーバーラップ量が小さくなるほど、すなわち、EGRガスの減衰が進んでいるときほど、噴射時期の遅角量が次第に小さい値に設定される。本ステップ124では、ECU50は、そのようなマップを参照して、上記ステップ120において再取得されたバルブオーバーラップ量に基づく噴射時期の復帰量(遅角量)を算出する。
【0039】
次いで、噴射時期が上記ステップ124において算出された復帰量に基づく噴射時期に設定される(ステップ126)。
一方、上記ステップ122において、噴射時期の復帰が完了していると判定された場合には、噴射時期遅角フラグがOFFとされる(ステップ128)。
【0040】
以上説明した通り、図2に示すルーチンによれば、F/C復帰時のバルブオーバーラップ量が判定値X以下の場合、すなわち、EGRガスの減衰量が大きい場合には、吹き返しの影響が少ないと判断し、燃料と新気とがより良好にミキシングされた混合気を得ることのできる吸気同期噴射が選択される。その一方で、F/C復帰時のバルブオーバーラップ量が判定値Xより大きい場合、すなわち、EGRガスの減衰量が小さい場合には、燃料供給時期が吸気同期側に遅角される。吸気同期噴射によれば、吸気非同期噴射と比較して、吹き返しによる壁面付着燃料量の増加という問題が生じにくく、よりダイレクトに燃料を燃焼室12内に供給することができる。このため、本実施形態のシステムによれば、減速F/Cからの復帰時の空燃比を狙いの値に精密に制御することが可能となる。これにより、当該復帰時に空燃比がリーン化するのを効果的に抑制することができ、機関のストール等の不具合の発生を回避することができる。
【0041】
また、図2に示すルーチンによれば、吸気同期側への燃料供給時期の遅角が終了した後に、その遅角前の供給時期となるように、当該燃料供給時期が本ルーチンの処理サイクル毎に徐々に復帰されていく。このような手法によれば、燃料供給時期を戻す際に急激な空燃比変動が生ずるのを抑制することができる。
【0042】
ところで、上述した実施の形態1においては、F/C復帰時のバルブオーバーラップ量を判定値Xと比較して、燃料供給時期を吸気同期側に遅角させるか否かを決定することにより、EGRガスの減衰量に応じた燃料供給時期の設定を行っているが、本発明においてEGRガスの減衰量に応じて燃料の供給時期の決定手法はこれに限定されるものではない。例えば、バルブオーバーラップ量が大きいほど、すなわち、EGRガスの減衰量が小さいほど、燃料の供給時期を吸気同期側により大きく遅角させるようにしてもよい。
【0043】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU50が、内燃機関10の減速時にF/Cを実行することにより前記第1の発明における「燃料カット手段」が、吸気可変動弁機構42を駆動して内部EGR量を増減させることにより前記第1の発明における「EGR制御手段」および前記第2の発明における「可変バルブタイミング制御手段」が、上記ステップ104または120の処理を実行することにより前記第1の発明における「EGR減衰量取得手段」が、上記ステップ106、および、108または112の処理を実行することにより前記第1の発明における「燃料供給時期制御手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が、上記ステップ104の処理を実行することにより前記第3の発明における「バルブタイミング制御量取得手段」が、上記ステップ106の処理を実行することにより前記第3の発明における「EGR量判断手段」が、それぞれ実現されている。
【0044】
実施の形態2.
次に、図5乃至図7を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
図5は、本発明の実施の形態2の構成を説明するための図である。尚、図5において、上記図1に示す構成要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0045】
図5に示す内燃機関60のシステムは、吸気通路14と排気通路16とを連通する排気ガス還流通路62を備えている。排気ガス還流通路62の途中には、EGR弁64が設けられている。更に、排気ガス還流通路62には、吸気通路14に還流される排気ガスを冷却する排気ガス冷却器(EGRクーラ)66が設けられている。図5に示すシステムは、これらの構成を備え、かつ、吸気弁24および排気弁26を、図示しないそれぞれの動弁機構によって、それぞれ単一の開弁特性が得られるように開閉駆動している点を除き、図1に示すシステムと同様の構成を有している。そして、ECU68が減速時のF/C実行中にEGR弁64の開度を適当に調整することにより、吸気通路14を介して燃焼室12に排気ガスを還流させる制御(いわゆる外部EGR制御)を用いて、本実施形態においても、触媒劣化抑制制御が実行されている。
【0046】
[実施の形態2の特徴部分]
スロットル開度TAを十分に絞った状態で、外部EGR制御を用いて上記の触媒劣化抑制制御が実行されている場合には、EGR弁64の開度がより小さく制御されるほど、吸気通路14へのEGRガス導入量がより少なくなるため、吸気管圧力はより大きく負圧化される。吸気管圧力がより大きく負圧化されると、吸気通路14への吹き返し量がより大きくなる。従って、減速F/Cからの復帰時にEGRガス量を減衰させるべく、EGR弁64の開度が小さく制御されていく状況下では、EGR弁64の開度がより小さく制御されることでEGRガスの減衰がより十分になされている場合ほど、吹き返し量がより大きくなる。
【0047】
その結果、EGRガスの減衰量が大きいときほど、F/C復帰時における初回の燃料噴射時の壁面付着燃料量が増加することとなり、当該復帰初回のサイクルにおける空燃比がリーン化してしまう。そして、壁面付着燃料量の付着と筒内への持ち去り量が安定化するまでは、空燃比を乱してしまう。そこで、本実施形態のシステムでは、EGRガスの減衰量の状態に関わらず、減速F/Cからの復帰時の空燃比を精密に制御すべく、以下の図6に示すルーチンをECU68に実行させることとした。
【0048】
次に、図6および図7を参照して、実施の形態2における具体的な処理について説明する。
図6は、上記の要求を充足させるために、本実施の形態2においてECU68が実行するルーチンのフローチャートである。尚、本ルーチンは、各気筒に対して、一定のクランク角毎に周期的に実行されるものとする。また、図6において、実施の形態1における図2に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0049】
図6に示すルーチンでは、減速時のF/C実行中に復帰要求が検出された場合には(ステップ102)、当該復帰要求検出時における実EGR弁開度が取得される(ステップ200)。本ステップ200の処理により実EGR弁開度を取得することで、F/C復帰要求検出時のEGRガスの減衰量を把握することができる。次いで、上記ステップ200において取得された実EGR弁開度に基づいて、F/C復帰時における初回の燃料噴射の際に用いる噴射時期の遅角量が算出される(ステップ202)。ECU68は、噴射遅角量を実EGR弁開度との関係で定めたマップを記憶している。図7は、そのようなマップの一例である。図7に示すマップによれば、実EGR弁開度がより小さいときほど、噴射遅角量がより大きくなるように設定される。
【0050】
次に、上記ステップ202において算出された噴射遅角量に基づいて、噴射時期の遅角が実行される(ステップ204)。次いで、噴射時期遅角フラグがONとされ(ステップ114)、かつ、燃料噴射が再開された後(ステップ116)、現時点での実EGR弁開度が再取得される(ステップ206)。それ以後は、遅角前の噴射時期への復帰が完了するまでは、上記ステップ206において再取得された実EGR弁開度に基づき算出される噴射時期の復帰量(遅角量)(ステップ208)に従って、噴射時期が徐々に復帰される(ステップ210)。
【0051】
以上説明した通り、図6に示すルーチンによれば、実EGR弁開度が小さいほど、すなわち、EGRガスの減衰量が大きいほど、燃料供給時期が吸気同期側により大きく遅角される。このため、本実施形態のシステムによれば、スロットル開度TAを十分に絞った状態で、外部EGR制御を用いて上記の触媒劣化抑制制御が実行されている場合であっても、減速F/Cからの復帰時のEGRガスの減衰量の相違に伴う吹き返しの影響の変化に関わらず、当該復帰時の空燃比を狙いの値に精密に制御することが可能となる。
【0052】
尚、上述した実施の形態2においては、ECU68がEGR弁64の開度を調整して外部EGRガス量を増減させることにより、前記第2の発明における「EGR弁制御手段」が実現されており、また、ECU68が内燃機関60の減速時のF/C実行中にスロットルバルブ18を全閉位置に制御することにより、前記第5の発明における「吸入空気量制御手段」が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図3】図2に示すルーチンにおいて、F/C復帰時の初回に設定される燃料の供給時期を説明するための図である。
【図4】噴射時期の復帰量を取得するために、図2に示すルーチンにおいて参照されるマップの一例である。
【図5】本発明の実施の形態2の構成を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図7】噴射時期の復帰量を取得するために、図6に示すルーチンにおいて参照されるマップの一例である。
【符号の説明】
【0054】
10、60 内燃機関
14 吸気通路
16 排気通路
18 電子制御式スロットルバルブ
22 燃料噴射弁
28 吸気可変動弁(VVT)機構
50、68 ECU(Electronic Control Unit)
62 排気ガス還流通路
64 EGR弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の供給を停止する燃料カット手段と、排気ガス再循環量を制御するEGR制御手段とを備え、減速時に燃料カットを実施し前記排気ガス再循環量を増量する内燃機関の制御装置であって、
前記排気ガス再循環量の減衰量を取得するEGR減衰量取得手段と、
燃料の供給時期を制御する燃料供給時期制御手段とを備え、
前記燃料供給時期制御手段は、前記燃料カットから燃料の供給を再開する場合に、前記排気ガス再循環量の減衰量に応じて、燃料の供給時期を定めることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記EGR制御手段は、
吸気弁開弁期間と排気弁開弁期間とが重なるバルブオーバーラップ期間を可変とする可変動弁機構を駆動して内部排気ガス再循環量を増減させる可変バルブタイミング制御手段と、吸気通路と排気通路とを連通する排気ガス還流通路の途中に設けられるEGR弁の開度を調整して外部排気ガス再循環量を増減させるEGR弁制御手段の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記EGR制御手段は、前記可変バルブタイミング制御手段であり、
前記EGR減衰量取得手段は、バルブタイミングの進角値を取得するバルブタイミング制御量取得手段を含み、
前記燃料供給時期制御手段は、前記バルブタイミングの進角値に基づいて前記燃料供給再開時における前記排気ガス再循環量の減衰量の状態を判断するEGR量判断手段を含むことを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記EGR制御手段は前記可変バルブタイミング制御手段であって、
前記燃料供給時期制御手段は、前記燃料供給再開時における前記排気ガス再循環量の減衰量が小さいほど、前記燃料供給再開時の燃料の供給時期を吸気同期側に、より大きく遅角制御することを特徴とする請求項2または3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
吸入空気量を制御する吸入空気量制御手段を更に備え、前記燃料カット時に吸入空気量を減衰させると共に、前記EGR制御手段が前記EGR弁制御手段である場合であって、
前記燃料供給時期制御手段は、前記燃料供給再開時における前記排気ガス再循環量の減衰量が大きい場合には、前記燃料供給再開時の燃料の供給時期を吸気同期側に制御することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記燃料供給時期制御手段は、燃料の供給時期を吸気同期側に制御することを終了した場合に、吸気同期側への前記制御前の供給時期に燃料の供給時期を徐々に戻すことを特徴とする請求項3乃至5の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−307784(P2006−307784A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133348(P2005−133348)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】