説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の制御装置に関し、燃料の吹き抜けを抑制してエンジン出力,排気性能を向上させる。
【解決手段】気筒20内に燃料を噴射する筒内噴射弁11と、吸気ポート17に燃料を噴射するポート噴射弁12とを有する内燃機関10の制御装置1に、筒内噴射弁11から噴射される筒内噴射量を算出する噴射量算出手段5を設ける。また、ポート噴射弁12から噴射されるポート噴射量を制御するポート噴射制御手段2と、吸気弁27及び排気弁28がともに開弁状態となる重複期間を制御する重複期間制御手段4とを設ける。
さらに、筒内噴射量に基づいて、ポート噴射弁12からのポート噴射量及び重複期間をともに変更する変更手段6を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁と、前記気筒の吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁とを有する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筒内噴射とポート噴射との二種類の燃料噴射方式を両立させたエンジン(内燃機関)が開発されている。このような内燃機関では、筒内での燃料混合気の濃度分布を均質にした状態で燃焼させる均質燃焼と、高濃度の混合気が点火プラグの近傍に層状に偏った状態で燃焼させる成層燃焼とが実施される。
典型的な燃料噴射制御では、均質燃焼時に主にポート噴射が利用され、成層燃焼時には主に筒内噴射が利用される。エンジンの運転状態や負荷に応じて燃料噴射方式を使い分けることで、エンジン出力や安定性を確保しながら燃費を向上させることが可能となる。
【0003】
ところで、上記のようなエンジンには、筒内から排出される排気の掃気効率や吸気の効率を改善させるといった観点から、吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とを重複させたものが存在する。特に、吸排気系に過給機を搭載したエンジンでは、バルブオーバーラップ(重複期間)を大きくすることで充填効率が向上し、エンジン出力が増大する。そこで、エンジンの吸気弁や排気弁の開閉タイミングを可変とし、エンジン負荷等に応じてバルブオーバーラップを制御する技術も開発されている。
【0004】
一方、バルブオーバーラップを大きく設定するほど、吸気通路から流入した吸気が直接的に排気通路側へと通り抜けるいわゆる「吹き抜け」が発生しやすくなる。そのため、吸気系に燃料を噴射するポート噴射方式のエンジンでは、噴射された燃料が筒内を通過して排気通路側へと流出し、エンジン出力や排気性能が低下するおそれが生じる。
【0005】
上記のような課題に対し、ポート噴射による燃料噴射量を制限することで燃料の吹き抜けを抑制する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、燃料の吹き抜けが発生する運転状態であるか否かを判定し、判定結果に応じてポート噴射を禁止する制御が記載されている。この技術では、吸気圧力,排気圧力及びエンジン回転数に基づいて、燃料の吹き抜けが発生する運転状態であるか否かが判定される。このような判定に基づく制御により、バルブオーバーラップに起因する燃料吹き抜けの発生を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−133632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の制御では、ポート噴射による燃料噴射が禁止されるため、燃料の吹き抜けが発生すると判定された運転状態の間は筒内噴射のみで燃料が供給されることになる。したがって、燃焼状態を均質燃焼とするような運転状態では適用することが難しく、燃料の吹き抜けを抑制することが困難となる。
【0008】
また、エンジンの制御上、ポート噴射による燃料噴射に制限を加えることができない状況も存在する。例えば、筒内噴射とポート噴射とがともに実施されている運転状態で、筒内噴射による燃料噴射量が低下する場合がある。筒内噴射による燃料噴射量は燃料燃圧に応じて変化するため、何らかの理由で燃料燃圧が低下すると、燃料噴射量が低下してしまう。あるいは、筒内噴射弁の噴射口近傍へのデポジットの付着により、燃料噴射量が低下することも考えられる。この場合、燃料噴射量の制御指令値を増大させることで実際の噴射量を確保することが可能であるものの、噴射期間の制約により実際の噴射量を増加させることができない場合がある。
上記のような理由から筒内噴射による燃料噴射量が低下した場合には、低下分の噴射量をポート噴射で補う制御が実施される。つまり、ポート噴射による燃料噴射を増加させることが要求されるため、燃料の吹き抜けの抑制がさらに困難となる。
【0009】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、内燃機関の制御装置に関し、燃料の吹き抜けを抑制してエンジン出力,排気性能を向上させることである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)ここで開示する内燃機関の制御装置は、気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁と、前記気筒の吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁とを有する内燃機関の制御装置である。
この制御装置は、前記筒内噴射弁から噴射される筒内噴射量を算出する噴射量算出手段と、前記ポート噴射弁から噴射されるポート噴射量を制御するポート噴射制御手段と、前記気筒の吸気弁及び排気弁がともに開弁状態となる重複期間を制御する重複期間制御手段とを備える。また、前記筒内噴射量に基づいて、前記ポート噴射量及び前記重複期間をともに変更する変更手段を備える。
【0011】
(2)前記変更手段は、前記筒内噴射量が低下したときに、前記筒内噴射量の低下量に相当する量の前記ポート噴射量を増加させるとともに前記重複期間を短縮させることが好ましい。
(3)また、前記変更手段が、前記ポート噴射量の増加量が大きいほど前記重複期間をより短縮させることが好ましい。
【0012】
(4)さらに、過給機と、前記過給機の作動状態を検出する過給検出手段とを備えることが好ましい。この場合、前記変更手段は、前記過給機が作動していることを前記過給検出手段が検出したときに前記ポート噴射量及び前記重複期間をともに変更することが好ましい。
(5)また、前記変更手段が、前記内燃機関の回転数が低いほど前記重複期間をより短縮させることが好ましい。
【0013】
(6)また、前記変更手段が、前記過給機が作動状態であり、かつ、前記筒内噴射量が低下したときに、前記ポート噴射弁の開弁時期を遅角させることが好ましい。
(7)また、前記変更手段が、前記内燃機関の回転数が低いほど前記開弁時期の遅角量を増大させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
開示の内燃機関の制御装置によれば、ポート噴射が排気弁から吹き抜けやすい運転状態で、その吹き抜けを防止することができ、内燃機関の出力,排気性能を向上させることができる。また、ポート噴射の吹き抜けが発生しにくい非過給時にはバルブオーバーラップ期間が変更されないため、内燃機関の充填効率,燃焼効率を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に係る内燃機関の制御装置のブロック構成及びこの制御装置が適用されたエンジンの構成を例示する図である。
【図2】本制御装置による筒内噴射及びポート噴射の実施領域を説明するためのグラフである。
【図3】本制御装置で実施される制御内容を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0017】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態の内燃機関の制御装置は、図1に示す車載ガソリンエンジン10(以下、単にエンジン10と呼ぶ)に適用される。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数の気筒のうちの一つを示し、これをシリンダー20と呼ぶ。シリンダー20内を往復摺動するピストン19は、コネクティングロッドを介してクランクシャフト21に接続される。
シリンダー20の周囲には、冷却水の流路となるウォータージャケット23が設けられる。このウォータージャケット23には図示しない冷却水通路が接続され、これらのウォータージャケット23及び冷却水通路の内部を冷却水が循環する。
【0018】
シリンダー20の天井面には、吸気ポート17及び排気ポート18が接続される。吸気ポート17のシリンダー20側の開口部には吸気弁27が設けられ、排気ポート18には排気弁28が設けられる。吸気弁27が開閉することで吸気ポート17と燃焼室(シリンダー20の内部側)とが連通又は閉鎖され、排気弁28が開閉することで排気ポート18と燃焼室とが連通又は遮断される。
吸気ポート17と排気ポート18との間には、点火プラグ22がその先端を燃焼室側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ22での着火のタイミングは、後述するエンジン制御装置1で制御される。
【0019】
吸気弁27及び排気弁28の上端部はそれぞれ、可変動弁機構40内のロッカーアーム35,37に接続され、ロッカーアーム35,37の揺動に応じて個別に上下方向に往復駆動される。また、各ロッカーアーム35,37の他端には、カムシャフトに軸支されたカム36,38が設けられる。カム36,38の形状(カムプロファイル)に応じて、ロッカーアーム35,37の揺動パターンが定められる。吸気弁27及び排気弁28のバルブリフト量,バルブタイミングは、可変動弁機構40を介してエンジン制御装置1で制御される。
【0020】
[1−2.燃料噴射系]
シリンダー20への燃料供給用のインジェクターとして、シリンダー20内に直接的に燃料を噴射する直噴インジェクター11(筒内噴射弁)と、吸気ポート17内に燃料を噴射するポート噴射インジェクター12(ポート噴射弁)とが設けられる。直噴インジェクター11から噴射された燃料は、例えば筒内に形成される層状の空気流に乗って点火プラグ22の近傍に誘導され、吸入空気中に不均一に分布する。一方、ポート噴射インジェクター12から噴射された燃料は、例えば吸気ポート17内で霧化し、吸入空気とよく混ざった状態でシリンダー20内に導入される。
【0021】
これらの二種類のインジェクターは、エンジン10に設けられる図示しない他の気筒にも設けられる。直噴インジェクター11及びポート噴射インジェクター12から噴射される燃料量及びその噴射タイミングは、エンジン制御装置1で制御される。例えば、エンジン制御装置1から各インジェクター11,12に制御パルス信号が伝達され、その制御パルス信号の大きさに対応する期間だけ、各インジェクター11,12の噴射口が開放される。これにより、燃料噴射量は制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)に応じた量となり、噴射タイミングは制御パルス信号が伝達された時刻に対応したものとなる。
【0022】
直噴インジェクター11は、高圧燃料供給路13Aを介して高圧ポンプ14Aに接続される。一方、ポート噴射インジェクター12は、低圧燃料供給路13Bを介して低圧ポンプ14Bに接続される。直噴インジェクター11には、ポート噴射インジェクター12よりも高圧の燃料が供給される。
高圧ポンプ14A及び低圧ポンプ14Bはともに、燃料を圧送するための機械式の流量可変型ポンプである。これらのポンプ14A,14Bは、エンジン10や電動機などから駆動力の供給を受けて作動し、燃料タンク15内の燃料を各供給路13A,13Bに吐出する。なお、各ポンプ14A,14Bから吐出される燃料量及び燃圧は、エンジン制御装置1で可変制御される。
【0023】
[1−3.動弁系]
本エンジン10には、ロッカーアーム35,37又はカム36,38の動作を制御する可変動弁機構40が設けられる。可変動弁機構40は、吸気弁27及び排気弁28のそれぞれについて、最大バルブリフト量及びバルブタイミングを個別に、又は、連動させつつ変更するための機構である。この可変動弁機構40には、ロッカーアーム35,37の揺動量及び揺動のタイミングを変化させるための機構として、バルブリフト量調整機構41とバルブタイミング調整機構42とが設けられる。
【0024】
バルブリフト量調整機構41は、吸気弁27や排気弁28の最大バルブリフト量を連続的に変更する機構であり、カム36,38からロッカーアーム35,37に伝達される揺動の大きさを変更する機能を持つ。ロッカーアーム35,37の揺動の大きさを変更するための具体的な構造は任意とする。
バルブリフト量に対応する制御用パラメーターは、制御角θVVLと呼ばれる。バルブリフト量調整機構41は、制御角θVVLが大きいほど、バルブリフト量を増大させる特性を持つ。この制御角θVVLは、エンジン制御装置1のバルブ制御部4で演算され、バルブリフト量調整機構41に伝達される。
【0025】
バルブタイミング調整機構42は、吸気弁27や排気弁28の開閉のタイミング(バルブタイミング)を変更する機構であり、ロッカーアーム35,37に揺動を生じさせるカム36,38又はカムシャフトの回転位相を変更する機能を持つ。なお、カム36,38又はカムシャフトの回転位相を変更することで、クランクシャフト21の回転位相に対するロッカーアーム35,37の揺動のタイミングを連続的にずらすことが可能となる。
【0026】
バルブタイミングに対応する制御用のパラメーターは、位相角θVVTと呼ばれる。この位相角θVVTは、基準となるカムシャフトの位相に対するカム36,38の位相がどの程度進角又は遅角しているかを示す量であり、吸気弁27,排気弁28のそれぞれの開弁時期,閉弁時期に対応する。また、位相角θVVTは、エンジン制御装置1のバルブ制御部4で演算され、バルブタイミング調整機構42に伝達される。バルブタイミング調整機構42は、カム36,38のそれぞれの位相角θVVTを調整することでバルブタイミングを任意に制御する。
【0027】
[1−4.吸排気系]
また、このエンジン10の吸排気系には、排気圧を利用してシリンダー20内に吸気を過給するターボチャージャー30(過給機)が設けられる。ターボチャージャー30は、吸気ポート17の上流側に接続された吸気通路24と、排気ポート18の下流側に接続された排気通路29との両方にまたがって介装される。
【0028】
ターボチャージャー30のタービン30Aは、排気通路29内の排気圧で回転し、その回転力を吸気通路24側のコンプレッサー30Bに伝達する。コンプレッサー30Bは、吸気通路24側の吸気を下流側へと圧縮し、エンジン10への過給を行う。なお、吸気通路24上におけるコンプレッサー30Bよりも吸気流の下流側にはインタークーラー26が設けられ、圧縮された空気が冷却される。ターボチャージャー30による過給操作は、エンジン制御装置1で制御される。
【0029】
[1−5.検出系]
クランクシャフト21の一端には、その中心軸がクランクシャフト21の回転軸と一致するように設けられた円盤状のクランク板21aと、クランク板21aの回転角を検出するクランク角センサー31が設けられる。クランク板21aの外縁部には、例えば凹凸21bが形成される。一方、クランク角センサー31は、クランク板の外縁部の近傍に固定され、クランク板21aの凹凸21bの形状を検出してクランクパルス信号を出力する。ここで出力されたクランクパルス信号は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0030】
クランク角センサー31から出力されるクランクパルス信号の周期は、クランクシャフト21が速く回転するほど短くなり、クランクパルス信号の時間密度はエンジンの実回転数Ne(エンジン回転数)やクランクシャフト21の角速度に対応したものとなる。したがって、クランク角センサー31は、エンジン回転数Neやクランク角度,角速度を検出する手段として機能する。
排気通路29上の任意の位置には、排気中に含まれる酸素濃度を計測する酸素濃度センサー32が設けられる。ここで検出された酸素濃度の情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0031】
吸気通路24には、空気の流量を検出するエアフローセンサー43が設けられる。ここで検出される流量の情報は、シリンダー20に導入される吸気量に対応するものであり、エンジン制御装置1に伝達される。また、高圧燃料供給路13A上には、直噴インジェクター11に導入される燃圧(燃料圧力)を検出する燃圧センサー33が設けられる。ここで検出された燃圧の情報も、エンジン制御装置1に伝達される。
【0032】
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量に対応する操作量を検出するアクセルペダルセンサー34が設けられる。アクセルペダルの踏み込み操作量は、運転者の加速要求に対応するパラメーターであり、すなわちエンジン10への出力要求に対応する。ここで検出された操作量の情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0033】
[1−6.制御系]
この車両には電子制御装置として、エンジン制御装置1(エンジンECU)が設けられる。エンジン制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、専用通信線や車載ネットワークの通信網を介して他の電子制御装置,可変動弁機構40,クランク角センサー31,酸素濃度センサー32,燃圧センサー33及びアクセルペダルセンサー34等の各種センサー類と接続される。
【0034】
このエンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを制御する。エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、直噴インジェクター11及びポート噴射インジェクター12から噴射される燃料噴射量とその噴射時期,点火プラグ22での点火時期,吸気弁27及び排気弁28のバルブリフト量及びバルブタイミング,ターボチャージャー30の作動状態,図示しないスロットルバルブの開度等が挙げられる。
【0035】
本実施形態では、直噴インジェクター11からの燃料噴射とポート噴射インジェクター12からの燃料噴射とを統括的に管理してトータルの燃料噴射量を制御する「噴射領域制御」、ターボチャージャー30の作動状態を制御する「過給制御」、直噴インジェクター11の燃料噴射能力の低下を判断する「噴射能力算出制御」、バルブオーバーラップ時における燃料の排気通路29側への吹き抜けを抑制する「吹き抜け抑制制御」の四種類の制御について詳述する。
【0036】
[2.制御の概要]
[2−1.噴射領域制御]
噴射領域制御とは、エンジン10の運転状態やエンジン10に要求される出力の大きさに応じて燃料噴射方式を使い分ける制御である。ここでは、例えばエンジン回転数Neやエンジン負荷,空気量,充填効率Ec(目標充填効率,実充填効率など)に基づき、ポート噴射のみを実施するポート噴射モードと、筒内噴射を優先的に実施する筒内噴射優先モードとの何れか一方が選択される。
【0037】
なお、充填効率Ecとは、一回の吸気行程(ピストン19が上死点から下死点に移動するまでの一行程)の間にシリンダー20内に充填される空気の体積を標準状態での気体体積に正規化したのちシリンダー容積で除算したものである。実充填効率はその行程でシリンダー20内に導入された空気量に対応し、目標充填効率は充填効率Ecの目標値であって目標空気量に対応する。
【0038】
ポート噴射モードは、エンジン10が低負荷,低回転のときに選択される噴射モードである。ポート噴射モードでは、直噴インジェクター11からの燃料噴射が禁止され、要求される出力を得るために噴射すべき全ての燃料がポート噴射インジェクター12から噴射される。以下、ポート噴射インジェクター12から噴射される燃料量のことを、ポート噴射量とも呼ぶ。
【0039】
筒内噴射優先モードは、エンジン10の運転状態が低負荷低回転でないとき(ポート噴射モード以外のとき)に選択される噴射モードである。筒内噴射優先モードでは、筒内噴射がポート噴射よりも優先して実施される。すなわち、要求される出力を得るために噴射すべき燃料のすべてを直噴インジェクター11からの噴射で賄うことができる場合には、直噴インジェクター11のみで燃料を噴射する。以下、直噴インジェクター11から噴射される燃料量のことを、筒内噴射量とも呼ぶ。
【0040】
一方、直噴インジェクター11には、噴射期間の制約による最大噴射量が設定されており、これを超える量の燃料を一回の燃焼サイクル内で噴射することができない。そこで、噴射すべき筒内噴射量の目標値が直噴インジェクター11の最大噴射量を超える場合には、不足分をポート噴射インジェクター12から噴射し、トータルの燃料噴射量を確保する制御を実施する。この場合、同一の燃焼サイクル内で直噴インジェクター11とポート噴射インジェクター12とがともに作動し、筒内噴射及びポート噴射の両方が実施される。
【0041】
[2−2.過給制御]
過給制御とは、エンジン10の運転状態やエンジン10に要求される出力の大きさに応じてターボチャージャー30の作動状態(オン/オフ状態やその作動量等)を定める制御である。ここでは、例えばエンジン回転数Neやエンジン10に作用する負荷に基づき、ターボチャージャー30を作動させるか否かが判定され、判定結果に応じてターボチャージャー30が駆動される。
典型的な過給機の制御手法としては、エンジン10に要求される負荷が所定負荷よりも大きい場合にターボチャージャー30が駆動される。過給によりシリンダー20内に導入される吸気量が増大し、エンジン出力が増大する。
【0042】
[2−3.噴射能力算出制御]
直噴インジェクター11の先端は、常にシリンダー20内の燃焼ガスに曝されるため、噴孔の近傍にデポジットが付着,堆積する場合がある。デポジットの付着量が増大すると、直噴インジェクター11から実際に噴射される燃料量が、制御パルス信号で指示された目標燃料噴射量よりも減少する。噴射能力算出制御では、このような直噴インジェクター11の燃料噴射能力の低下を算出(判定,推定)し、これを制御指令値にフィードバックすることで必要な燃料噴射量を確保する。直噴インジェクター11から実際に噴射された燃料量は、例えば、酸素濃度センサー32で検出された排気中の酸素濃度に基づいて算出される。
【0043】
また、直噴インジェクター11の燃料噴射能力が低下したと判定されたときには、実際の燃料噴射量が不足しないように、能力低下に伴う燃料の不足分が目標燃料噴射量に加算される。このとき、能力低下を補うために加算される燃料量に関する情報は、各シリンダー20に設けられた直噴インジェクター11毎に記憶されて学習される。なお、燃料噴射能力の低下を補正した後の目標燃料噴射量が直噴インジェクター11の最大噴射量を超える場合には、ポート噴射インジェクター12からの燃料噴射量にその補正分が加算される。これにより、直噴インジェクター11の噴射能力が低下した場合であっても、トータルの燃料噴射量が確保される。
【0044】
[2−4.吹き抜け抑制制御]
吹き抜け抑制制御は、過給運転時にポート噴射燃料がシリンダー20を通り抜けて排気通路29側へ流出することを防止,抑制する制御である。吹き抜け制御の開始条件は例えば、過給制御によりターボチャージャー30が作動している状態であり、かつ、噴射能力判定制御で判定された直噴インジェクター11の噴射能力の低下が基準値を超えたこと、とされる。
【0045】
また、吹き抜け抑制制御では、以下の三種類の具体的な制御が実施される。
(1)筒内噴射量の減少を補うためのポート噴射量の増加割合を演算する。
(2)ポート噴射量の増加割合に応じてバルブオーバーラップ期間を短縮する。
(3)ポート噴射時期を遅らせる。
【0046】
この吹き抜け抑制制御では、排気行程から吸気行程にかけてのバルブオーバーラップの期間が短縮されるため、吸気ポート17から排気ポート18への混合気の吹き抜け量が抑制される。また、ポート噴射量の増加割合(筒内噴射量の減少度合い)に応じてバルブオーバーラップ期間が短縮されると、混合気の吹き抜け量がより少なくなる。さらに、ポート噴射時期を遅らせることで、燃料噴射の開始時刻から排気弁28の閉弁時刻までの時間が短縮され、混合気の吹き抜け量が減少する。
【0047】
[3.制御構成]
上記の制御を実施するためのソフトウェア又はハードウェアとして、エンジン制御装置1には、噴射領域制御部2,過給制御部3,バルブ制御部4,噴射能力算出部5,及び吹き抜け抑制部6が設けられる。
エンジン制御装置1の入力側には、クランク角センサー31,酸素濃度センサー32,燃圧センサー33及びアクセルペダルセンサー34が接続され、回転角(又は回転角に基づいて演算されたエンジン回転数Ne),排気中の酸素濃度,燃圧,アクセルペダルの操作量がそれぞれ入力される。また、エンジン制御装置1の出力側には、直噴インジェクター11,ポート噴射インジェクター12,可変動弁機構40が接続される。
【0048】
噴射領域制御部2(ポート噴射制御手段)は、噴射領域制御を実施するものである。ここには、エンジン10の運転状態と噴射モードとの対応関係が予め設定される。例えば、図2に示すように、エンジン回転数Neが所定回転数Ne0未満であり、かつ、充填効率Ecが所定充填効率Ec0未満であるときには、ポート噴射モードが選択される。一方、これ以外の運転状態のときには、筒内噴射優先モードが選択される。
なお、ここで用いられる充填効率Ecの値は、例えばエアフローセンサー43で検出された流量から算出される実充填効率(実吸気量)であってもよいし、あるいはアクセルペダルの踏み込み操作量やエンジン回転数Neから算出される目標充填効率(目標吸気量)であってもよい。
【0049】
ここでポート噴射モードが選択された場合、噴射領域制御部2はポート噴射インジェクター12に制御パルス信号を出力し、ポート噴射のみを実施する。一方、筒内噴射優先モードが選択された場合、噴射領域制御部2は直噴インジェクター11に制御パルス信号を出力し、必要に応じてポート噴射インジェクター12にも制御パルス信号を出力する。このように、噴射領域制御部2は、ポート噴射インジェクター12から噴射されるポート噴射量を制御するポート噴射制御手段としての機能を持つ。
【0050】
直噴インジェクター11に出力される制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)は、エンジン回転数Neや充填効率Ecに基づいて演算される目標筒内噴射量に対応する大きさに設定される。ただし、目標筒内噴射量は、直噴インジェクター11の最大噴射量によってその上限を制限される。また、ポート噴射インジェクター12に出力される制御パルス信号の大きさは、上記の目標筒内噴射量から直噴インジェクター11の最大噴射量を減じた量に対応する大きさに設定される。直噴インジェクター11の目標筒内噴射量が最大噴射量以下の場合には、ポート噴射インジェクター12に制御パルス信号が出力されない。このような制御パルス信号の設定により、直噴インジェクター11が優先的に駆動される。
【0051】
過給制御部3(過給検出手段)は、過給制御を実施するものである。ここでは、エンジン回転数Neやエンジン10に作用する負荷の大きさが判定され、過給が必要な運転状態であると判定されたときにターボチャージャー30を駆動するための制御信号が出力される。
ここで判定される負荷の大きさは、アクセルペダルの踏み込み操作量やスロットル開度に基づいて算出してもよいし、空気量(目標吸気量,目標充填効率,実吸気量,実充填効率など)に基づいて算出してもよい。なお、過給を実施するための条件は、噴射モードを選択するための条件とは別個に設定されるものとしてもよいし、図2に示すグラフ上の所定領域として定義してもよい。
【0052】
バルブ制御部4(重複期間制御手段)は、可変動弁機構40の動作を制御するものである。ここでは、エンジン10の運転状態やエンジン回転数Ne,エンジン負荷等に応じて、吸気弁27,排気弁28のそれぞれの制御角θVVL,位相角θVVTが設定される。これらの制御角θVVL,位相角θVVTの情報は、バルブ制御部4から可変動弁機構40のバルブリフト量調整機構41,バルブタイミング調整機構42に伝達される。
【0053】
噴射能力算出部5(噴射量算出手段)は、噴射能力判定制御を実施するものである。この噴射能力算出部5には、実筒内噴射量算出部5a,学習部5b及び補正部5cが設けられる。
実筒内噴射量算出部5aは、酸素濃度センサー32で検出された排気中の酸素濃度に基づき、実筒内噴射量を算出するものである。ここでは、排気中の酸素濃度と外気の酸素濃度との差から、燃焼反応を通じて消費された酸素量が推定され、この酸素量に対応する燃料量が消費燃料量として算出される。
【0054】
筒内噴射とポート噴射とが同時に実施されたときには、算出された消費燃料量からポート噴射燃料量を減じた量の燃料が、直噴インジェクター11から噴射された実筒内噴射量と算出される。また、筒内噴射のみが実施されたときには、算出された消費燃料量がそのまま実筒内噴射量として算出される。ここで算出された実筒内噴射量は、学習部5bに伝達される。
【0055】
学習部5bは、噴射領域制御部2から出力された制御パルス信号に対応する目標筒内噴射量に対して、実筒内噴射量算出部5aで算出された実筒内噴射量がどの程度低下したかを演算するものである。ここでは、各シリンダー20に設けられた直噴インジェクター11毎に不足分の筒内噴射量と、噴射能力の低下量とが演算される。噴射能力の低下量は、例えば目標筒内噴射量に対する実筒内噴射量の割合として演算してもよいし、不足分の筒内噴射量から推定されるデポジット付着量として演算してもよい。ここで演算された不足分の筒内噴射量は補正部5cに伝達され、噴射能力の低下量は学習部5b内の記憶装置に記録される。
【0056】
補正部5cは、不足分の筒内噴射量を補填した制御パルス信号を噴射領域制御部2に出力させるものである。ここでは、噴射領域制御部2が演算した直噴インジェクター11の筒内噴射量に、不足分の筒内噴射量を加算させる制御信号が出力される。これにより、直噴インジェクター11の噴射能力の低下が学習部5bで検出された場合には、次回以降の筒内噴射量が増量するように補正される。また、この補正後の直噴インジェクター11の筒内噴射量が最大噴射量を超えたときには、ポート噴射量が増量補正される。
【0057】
吹き抜け抑制部6(変更手段)は、吹き抜け抑制制御を実施するものである。ここでは、吹き抜け抑制制御の開始条件が成立したときに、上記の三種類の制御が実施される。開始条件の一つは、過給が必要な運転状態であると過給制御部3で判定されていることであり、もう一つは、学習部5bで演算された直噴インジェクター11の噴射能力の低下量が基準値を超えたこと(噴射能力が基準値を下回るほどデポジットが堆積したこと)である。吹き抜け抑制部6は、これらの二つの条件がともに成立したときに、上記の三種類の制御を実施する。この三種類の制御に対応するように、吹き抜け抑制部6にはポート噴射増加割合演算部6a,バルブオーバーラップ変更部6b及びポート噴射時期変更部6cが設けられる。
【0058】
ポート噴射増加割合演算部6aは、ポート噴射インジェクター12から噴射されるポート噴射量の増加割合を演算するものである。ここでは、補正部5cでポート噴射量が増量補正されたときに、補正前のポート噴射量に対する増分の割合が増加割合として演算される。ここで演算された増加割合の情報は、バルブオーバーラップ変更部6bに伝達される。
【0059】
バルブオーバーラップ変更部6bは、ポート噴射量の増加割合に応じてバルブオーバーラップ(VOL)の期間を短縮する制御を実施するものである。ここでは、ポート噴射増加割合演算部6aで演算された増加割合と、エンジン回転数Neとに応じてバルブオーバーラップ期間の縮小量が設定される。縮小量の設定例を以下の表1「VOL制限マップ」に示す。この設定例では、ポート噴射量の増加割合が大きいほど、あるいはエンジン回転数Neが低速であるほど、バルブオーバーラップ期間の縮小量が増大する(バルブオーバーラップ期間がより短くなる)。
【表1】

【0060】
ポート噴射時期変更部6cは、ポート噴射インジェクター12からの燃料噴射のタイミングを遅角させる制御を実施するものである。ここでは、エンジン回転数Neに応じてポート噴射の遅角量が設定される。遅角量の設定例を以下の表2「ポート噴射時期マップ」に示す。この設定例では、エンジン回転数Neが低速であるほど、ポート噴射の開始時刻が遅れる。なお、表中の数字は圧縮行程後の上死点を基準(0[°CA])として、ポート噴射を開始する時点のクランク角度が基準よりも何度前の角度に相当するかを示すものである。
【表2】

【0061】
[4.フローチャート]
エンジン制御装置1で実施される各種制御のうち、吹き抜け抑制制御に関するフローチャートを図3に例示する。ここでは、噴射モードが筒内噴射優先モードであって筒内噴射後に吹き抜け抑制制御を実施する場合の制御内容を説明する。
【0062】
ステップA10では、エンジン制御装置1に排気中の酸素濃度,直噴インジェクター11の燃料燃圧,目標筒内噴射量等の情報が入力される。ステップA20では、噴射能力算出部5において、排気中の酸素濃度に基づいて消費燃料量が算出されるとともに、直噴インジェクター11から噴射された実筒内噴射量が算出される。
ステップA30では、学習部5bにおいて、目標筒内噴射量から実筒内噴射量がどの程度低下しているのかが演算され、不足分の筒内噴射量が演算される。ここで把握された噴射能力の低下量は、学習部5b内の記憶装置で各シリンダー20に設けられた直噴インジェクター11毎に記憶されて学習される。学習結果は、次回以降の演算周期での筒内噴射に利用される。
【0063】
ステップA40では、過給制御部3において、過給運転中であるか否かが判定される。ここで、過給運転中である場合にはステップA50へ進む。一方、過給運転中でない場合にはステップA120へ進み、非過給時のバルブオーバーラップ量が設定されてこのフローを終了する。このフローでは、非過給時には燃料の吹き抜けが生じないものとして、通常のバルブオーバーラップ設定が使用されることになる。
【0064】
ステップA50では、ステップA30で演算された実筒内噴射量の低下量が所定量以上であるか否かが判定される。なお、エンジン10が多気筒エンジンである場合には、各シリンダー20に設けられた直噴インジェクター11の噴射量のばらつきをこのステップで判定してもよい。例えば、それぞれの直噴インジェクター11についての低下量の偏差が所定値以上であるかを判定することが考えられる。
ステップA50の判定条件が成立したときには、直噴インジェクター11の噴射能力が基準値を下回るほどデポジットが堆積したものと判断され、ステップA70に進む。一方、ステップA50の条件が成立しない場合には、ステップA60へ進む。
【0065】
ステップA60では、直噴インジェクター11の燃料燃圧が所定値以上であるか否かが判定される。直噴インジェクター11の噴射能力の低下は、例えば高圧燃料供給路13Aや高圧ポンプ14Aに原因がある場合もある。このステップでは、燃料燃圧が適正値であるか否かを確認することで、これらの燃料系の不具合に由来する噴射能力の低下の有無が判定される。
ここで、燃料燃圧が所定値以上である場合には、直噴インジェクター11の噴射能力が低下していないものと判断され、ステップA110に進む。このステップA110では、過給時における通常のバルブオーバーラップ量が設定されてステップA100に進む。一方、燃料燃圧が所定値未満である場合には、ステップA70に進む。
【0066】
ステップA70では、ポート噴射増加割合演算部6aにおいて、ポート噴射インジェクター12から噴射されるポート噴射量の増加割合が演算される。ここでは、例えばステップA50で演算された実筒内噴射量の低下量や燃料燃圧に基づいてポート噴射量の増加分が演算され、補正前のポート噴射量に対する増分の割合が増加割合として演算される。
【0067】
ステップA80では、バルブオーバーラップ変更部6bにおいて、ポート噴射量の増加割合とエンジン回転数Neに基づき、バルブオーバーラップ期間の縮小量が設定される。バルブオーバーラップ期間は、ポート噴射量の増加割合が大きいほど、あるいはエンジン回転数Neが低速であるほど短縮される。また、バルブオーバーラップ期間の短縮量はバルブ制御部4に伝達され、短縮量に応じて吸気弁27及び排気弁28の位相角θVVTが制御される。なお、具体的な各位相角θVVTの制御手法は任意であり、例えば吸気弁27の開弁時期を遅らせてもよいし、排気弁28の閉弁時期を早めてもよい。
【0068】
ステップA90では、ポート噴射時期変更部6cにおいて、エンジン回転数Neに基づきポート噴射の開始タイミングが設定される。ポート噴射の開始タイミングは、エンジン回転数Neが低速であるほど遅く設定される。その後、ステップA100では、過給制御部3からターボチャージャー30に制御信号が出力され、過給が実施される。
上記の制御で学習部5bに記憶された筒内噴射量の低下分や、ポート噴射量の増加分,ポート噴射のタイミングに関する情報は、直噴インジェクター11,ポート噴射インジェクター12に伝達される制御パルス信号に反映される。
【0069】
[5.作用,効果]
上記の実施形態によれば、以下のような作用,効果を得ることができる。
(1)上記のエンジン制御装置1では、ターボチャージャー30の作動状態と直噴インジェクター11の噴射能力との双方に基づいて、ポート噴射量とバルブオーバーラップ期間とがともに変更される。これにより、ポート噴射が排気弁から吹き抜けやすい運転状態で、その吹き抜けを防止することができ、エンジン10の出力を確保しながら、排気性能を向上させることができる。また、ポート噴射の吹き抜けが発生しにくい非過給時にはバルブオーバーラップ期間が変更されないため、充填効率や燃焼効率を最適化することができる。
【0070】
(2)上記のエンジン制御装置1では、筒内噴射量の低下量に相当する量のポート噴射量が増量されるため、トータルでの燃料噴射量を一定にすることができ、エンジン出力を維持することができる。また、これと同時にバルブオーバーラップ期間が短縮されるため、ポート噴射量の増加による吹き抜けが発生することもない。したがって、エンジン出力と排気性能とをともに維持しながら、効率よくエンジン10を稼働することができる。
【0071】
(3)また、上記のエンジン制御装置1では、表1に示すようにポート噴射量の増加量が大きいほどバルブオーバーラップ期間が短縮される。つまり、ポート噴射量の増加割合に応じてバルブオーバーラップ期間の縮小量が設定されることになり、燃料の吹き抜け抑制効果を高めることができる。
(4)さらに、表1に示すように、エンジン回転数Neが低いほどバルブオーバーラップ期間が短縮される。つまり、バルブオーバーラップの実時間が長いときほど、バルブオーバーラップが短く設定されることになり、燃料の吹き抜け抑制効果をさらに高めることができる。
【0072】
(5)上記のエンジン制御装置1では、ポート噴射のタイミングを遅角させる制御が実施される。これにより、吸気ポート17に燃料が噴射されてから排気弁28が閉鎖するまでの期間を短くすることができ、燃料の吹き抜け抑制効果をさらに高めることができる。
(6)また、上記のエンジン制御装置1では、表2に示すように、エンジン回転数Neが低いほどポート噴射弁の開弁時期の遅角量が大きくなるように制御される。つまり、吸気ポート17に燃料が噴射されてから排気弁28が閉鎖するまでの実時間が長い低回転運転のときほど、開弁時期を遅らせている。これにより、燃料の吹き抜け抑制効果をさらに高めることができる。
【0073】
(7)直噴インジェクター11の噴射能力の推定演算に関して、上記のエンジン制御装置1では、実筒内噴射量が目標筒内噴射量に対してどの程度低下したかが演算される。このように、制御指令値に対する実噴射量の低下量を参照することで、エンジン制御装置1内での演算誤差の影響を排除することができ、噴射能力の低下を精度よく把握することができる。
(8)また、上記のエンジン制御装置1では、排気中の酸素濃度に基づいて実筒内噴射量が算出される。これにより、燃焼反応を通じて消費された酸素量を正確に推定することが可能となり、延いては直噴インジェクター11から噴射された実筒内噴射量の演算精度を向上させることができる。
【0074】
(9)さらに、上記のエンジン制御装置1では、燃料燃圧が所定値以上でない場合には、たとえデポジット量が少量であったとしても吹き抜け抑制制御が実施される。このように、燃圧を参照することで、筒内噴射量が低下した原因を特定することができる。例えば、直噴インジェクター11に付着したデポジットが多いのか、それとも燃料配管系に原因があるのかを区別することができる。これにより、筒内噴射量の低下を精度よく検出することができる。
【0075】
[6.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述の実施形態では、吹き抜け抑制制御の開始条件が、過給制御によりターボチャージャー30が作動している状態であり、かつ、噴射能力判定制御で判定された直噴インジェクター11の噴射能力の低下が基準値を超えたこと、であるものを例示したが、具体的な制御開始条件はこれに限定されない。少なくとも、ポート噴射の燃料が吹き抜けやすい状態であると判断されたときには、吹き抜け抑制制御を実施してもよい。
なお、上述の実施形態では、多気筒のガソリンエンジン10に本発明を適用したものを例示したが、エンジン10の気筒数や燃焼方式は任意である。
【符号の説明】
【0076】
1 エンジン制御装置(制御装置)
2 噴射領域制御部(ポート噴射制御手段)
3 過給制御部(過給検出手段)
4 バルブ制御部(重複期間制御手段)
5 噴射能力算出部(噴射量算出手段)
5a 実筒内噴射量算出部
5b 学習部
5c 補正部
6 吹き抜け抑制部(変更手段)
6a ポート噴射増加割合演算部
6b バルブオーバーラップ変更部
6c ポート噴射時期変更部
10 エンジン(内燃機関)
11 直噴インジェクター(筒内噴射弁)
12 ポート噴射インジェクター(ポート噴射弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁と、前記気筒の吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と、を有する内燃機関の制御装置において、
前記筒内噴射弁から噴射される筒内噴射量を算出する噴射量算出手段と、
前記ポート噴射弁から噴射されるポート噴射量を制御するポート噴射制御手段と、
前記気筒の吸気弁及び排気弁がともに開弁状態となる重複期間を制御する重複期間制御手段と、
前記筒内噴射量に基づいて、前記ポート噴射量及び前記重複期間をともに変更する変更手段と
を備えたことを特徴とする、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記筒内噴射量が低下したときに、前記筒内噴射量の低下量に相当する量の前記ポート噴射量を増加させるとともに前記重複期間を短縮させる
ことを特徴とする、請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記変更手段が、前記ポート噴射量の増加量が大きいほど前記重複期間をより短縮させる
ことを特徴とする、請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
過給機と、
前記過給機の作動状態を検出する過給検出手段とを備え、
前記変更手段は、前記過給機が作動していることを前記過給検出手段が検出したときに前記ポート噴射量及び前記重複期間をともに変更する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記変更手段が、前記内燃機関の回転数が低いほど前記重複期間をより短縮させる
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記変更手段が、前記筒内噴射量が低下したときに、前記ポート噴射弁の開弁時期を遅角させる
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記変更手段が、前記内燃機関の回転数が低いほど前記開弁時期の遅角量を増大させる
ことを特徴とする、請求項6記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−108399(P2013−108399A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253046(P2011−253046)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】