内燃機関燃料噴射制御装置
【課題】直噴インジェクタと吸気通路インジェクタとの間の燃料噴射比率を内燃機関運転状態に応じて調節する内燃機関燃料噴射制御装置において、アルコールなどの易揮発性の燃料成分の濃度変化によりベーパの発生程度が異なる場合にも、燃料噴射量の不足を抑制し、かつ燃料昇圧に伴う作動音の発生を極力抑制できるようにすることを目的とする。
【解決手段】アルコールの濃度Cohに基づいて選択したマップ(S158,S160)により燃料に含まれるベーパ量Vpを推定し(S162)、このベーパ量Vpに応じて始動時における直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間に対して加算する遅延時間DTinjを算出している(S164〜S168)。このことでアルコール濃度Cohの変化が生じて燃料供給系に発生するベーパの程度が異なった場合にも、燃料噴射量の不足を抑制し、かつ燃料昇圧に伴う作動音の発生を極力抑制できるようになる。
【解決手段】アルコールの濃度Cohに基づいて選択したマップ(S158,S160)により燃料に含まれるベーパ量Vpを推定し(S162)、このベーパ量Vpに応じて始動時における直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間に対して加算する遅延時間DTinjを算出している(S164〜S168)。このことでアルコール濃度Cohの変化が生じて燃料供給系に発生するベーパの程度が異なった場合にも、燃料噴射量の不足を抑制し、かつ燃料昇圧に伴う作動音の発生を極力抑制できるようになる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室内に高圧燃料を噴射する直噴インジェクタと、燃焼室へ空気を供給する吸気通路内に低圧燃料を噴射する吸気通路インジェクタとを有し、これらインジェクタ間の燃料噴射比率を内燃機関運転状態に応じて調節する燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃焼室内に高圧燃料を直接噴射する直噴インジェクタと吸気通路内に低圧燃料を噴射する吸気通路インジェクタとを備え、それら各インジェクタによる燃料噴射形態を内燃機関運転状態に基づいて適宜切り替えるようにした内燃機関が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、内燃機関の停止中において、燃料供給系では燃料は流れずに停滞し、この停滞した燃料が内燃機関からの熱を受ける。このことから燃料が気化して、燃料供給経路などからなる燃料供給系にベーパ(気化燃料)が発生する可能性がある。ベーパを多く含む燃料が内燃機関再始動時に噴射されると、必要な燃料噴射量が確保できなくなるおそれがある。
【0004】
特に、吸気通路インジェクタが噴射対象とする燃料は、直噴インジェクタの噴射対象の燃料に比較して低圧である。このため吸気通路インジェクタが噴射する燃料にベーパが生じ易くなる。このことからベーパによる燃料噴射量不足は吸気通路インジェクタにおいて特に顕著となる傾向にある。
【0005】
そこで、燃料供給系にベーパが発生している可能性が大きい高温始動時には、良好な始動性を確保するため、直噴インジェクタによる燃料噴射を主体とするように制御する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この技術では、直噴インジェクタの燃料噴射比率が吸気通路インジェクタの燃料噴射比率よりも大きくなるようにしている。
【0006】
しかしながら、直噴インジェクタの燃料圧を高圧となるように昇圧する際には、昇圧動作に伴って高圧燃料供給系(特に高圧燃料ポンプ)から作動音が発生する場合がある。このような作動音は内燃機関運転状態が始動完了後にアイドル運転に移行して内燃機関機関始動に伴う振動や騒音が低下すると知覚され易いものとなる。
【0007】
一方、上述のように直噴インジェクタの燃料噴射を主体とする内燃機関始動時には、吸気通路インジェクタによる燃料噴射も実行されるため、吸気通路インジェクタの燃料に含まれるベーパは、その多くが内燃機関始動時の燃料噴射に際して排出されると考えられる。したがって、内燃機関運転状態がアイドル状態へ移行するときには、吸気通路インジェクタによる噴射燃料に含まれるベーパ量は少なくなっていると考えられる。
【0008】
そこで、内燃機関運転状態がアイドル状態へ移行すると、直噴インジェクタの燃料噴射比率を減少させ吸気通路インジェクタの燃料噴射比率を増大させるようにして、作動音の発生を抑制するようにする技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
ところで、ベーパの発生し易さは、易揮発性の燃料成分の濃度により異なる。具体的には易揮発性の燃料成分として、アルコールが含まれる燃料を用いた内燃機関の場合、アルコールの濃度の差異により、同じ熱雰囲気でも燃料供給系に生じるベーパ量が異なる。
【0010】
更に給油後においては、内燃機関運転経過により次第に燃料タンク内でアルコールが蒸発してキャニスタやパージにより奪われて、燃料中のアルコール濃度が希薄化する。そして再度給油が行われると燃料中のアルコール濃度が復帰することになる。このことによっても燃料供給系に生じるベーパ量が異なる。
【0011】
更にアルコール濃度が異なる種類の燃料が給油された場合も給油時にアルコール濃度が変化すると共に、その後の内燃機関運転経過においても上述したごとくアルコール濃度が変化する。
【0012】
したがって燃料中のアルコール濃度を考慮して、ベーパ発生時には燃料高圧化やバイパス弁によるベーパ排出によりベーパ対策を行う技術が知られている(例えば、特許文献4,5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−364409号公報(第4−5頁、図1−2)
【特許文献2】特開平11−44236号公報(第4−6頁、図1−4)
【特許文献3】特開2007−9815号公報(第12−13頁、図2,6−8)
【特許文献4】特開2006−322401号公報(第9−10頁、図1−3)
【特許文献5】特開平07−127542号公報(第2−3頁、図1−3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし特許文献1〜3に述べた直噴インジェクタと吸気通路インジェクタとを備えた燃料供給系では、アルコール濃度などの易揮発性の燃料成分の濃度変化に対応する処理は行われておらず、一定濃度を前提として、直噴インジェクタと吸気通路インジェクタとの燃料噴射比率を調節していた。
【0015】
このため内燃機関運転状態が同一状態でも、給油などによって易揮発性の燃料成分の濃度変化があると、ベーパの発生程度は異なることになる。このため、直噴インジェクタの燃料噴射比率を大きくする期間が、易揮発性の燃料成分濃度に伴うベーパの発生し易さに比較して短いと、低圧燃料系のベーパが未だ十分に排出されていない状態で、吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射に移行するおそれがある。このような場合には、実際の燃料噴射量が不足し、内燃機関の燃焼性の悪化を招くおそれがある。
【0016】
逆に、直噴インジェクタの燃料噴射比率を大きくする期間が、易揮発性の燃料成分濃度に伴うベーパの発生し易さに比較して長いと、低圧燃料系のベーパが全て排出された状態となった後も、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射が継続することになる。したがって、吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射を実行できる内燃機関運転状態となっていても、このような燃料噴射が実行できないので、内燃機関の燃焼性を悪化することなく作動音を減少できる機会を失っていることになる。
【0017】
本発明は、直噴インジェクタと吸気通路インジェクタとの間の燃料噴射比率を内燃機関運転状態に応じて調節する内燃機関燃料噴射制御装置において、易揮発性の燃料成分の濃度変化によりベーパの発生程度が異なる場合にも、燃料噴射量の不足を抑制し、かつ燃料昇圧に伴う作動音の発生を極力抑制できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用・効果について記載する。
請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置は、燃焼室内に高圧燃料を噴射する直噴インジェクタと、燃焼室へ空気を供給する吸気通路内に低圧燃料を噴射する吸気通路インジェクタとを有する内燃機関に対して、これらインジェクタ間の燃料噴射比率を内燃機関運転状態に応じて調節する燃料噴射制御装置であって、内燃機関始動開始時から所定期間が経過するまで、前記直噴インジェクタの燃料噴射比率を前記吸気通路インジェクタの燃料噴射比率よりも大きくして、前記直噴インジェクタと前記吸気通路インジェクタとの両方で燃料噴射させる始動時燃料噴射設定手段と、燃料に含まれるベーパ量を推定し、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節する所定期間調節手段とを備え、前記所定期間調節手段は、燃料に含まれるベーパ量の推定を、易揮発性の燃料成分の濃度に基づいて行うことを特徴とする。
【0019】
所定期間調節手段は、易揮発性の燃料成分の濃度に基づいて燃料に含まれるベーパ量を推定し、このベーパ量に応じて、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射を確保するための所定期間を調節している。
【0020】
このように直噴インジェクタを主体とする燃料噴射を確保するための所定期間を調節できることから、易揮発性の燃料成分の濃度がベーパを発生し易い側に変化した場合には、易揮発性の燃料成分の濃度状態に伴うベーパの発生程度に応じて直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を長くできる。したがって、低圧燃料系のベーパが未だ十分に排出されていない状態で吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射が実行される事態を防止できる。このため実際の燃料噴射量が不足しないようにでき、内燃機関の燃焼性の悪化を防止できる。
【0021】
逆に、易揮発性の燃料成分の濃度がベーパを発生しにくい側に変化した場合には、易揮発性の燃料成分の濃度状態に伴うベーパの発生程度に応じて直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を短くできる。したがって低圧燃料系のベーパが十分に排出されている状態であって、しかも内燃機関が吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射に移行できる運転状態であるにもかかわらず、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射が継続してしまう事態を防止できる。このことから内燃機関の燃焼性に影響させずに燃料昇圧に伴う作動音を減少できる機会を極力利用できる。
【0022】
したがって易揮発性の燃料成分の濃度変化により燃料供給系に発生するベーパの程度が異なる場合にも、燃料噴射量の不足を抑制し、かつ燃料昇圧に伴う作動音の発生を極力抑制できるようになる。
【0023】
請求項2に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記ベーパ量が基準量以上である場合に、前記所定期間を長くする側に調節することを特徴とする。
【0024】
このように所定期間設定のためのベーパ量の基準量を設定して、推定されるベーパ量が基準量以上である場合に所定期間を長くする側に調節するようにしても良い。
このことにより、推定されるベーパ量が基準量未満であれば、ベーパの発生程度が低いので、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を短くできる。したがって低圧燃料系のベーパが十分に排出されている状態で、かつ内燃機関が吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射に移行できる運転状態であるにもかかわらず、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射が継続してしまう事態を防止できる。このことから内燃機関の燃焼性に影響させずに燃料昇圧に伴う作動音を減少できる機会を極力利用できる。
【0025】
推定されるベーパ量が基準量以上であれば、ベーパの発生程度が高いので、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を長くできる。したがって低圧燃料系のベーパが未だ十分に排出されていない状態で、吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射が実行される事態を防止できる。このことから実際の燃料噴射量を不足させないようにでき、内燃機関の燃焼性の悪化を防止できる。
【0026】
請求項3に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記ベーパ量が多いほど前記所定期間を長くする側に調節することを特徴とする。
【0027】
このように推定されるベーパ量が多いほど所定期間を長くする側に調節するようにしても良い。
このことにより、推定されるベーパ量が少なければ、この少なさに対応させて、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を短くできる。したがって前述したごとく内燃機関が吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射に移行できる運転状態であれば、内燃機関の燃焼性に影響させずに燃料昇圧に伴う作動音を減少できる機会を極力利用できる。
【0028】
推定されるベーパ量が多ければ、この多さに対応させて、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を長くできる。したがって前述したごとく実際の燃料噴射量を不足させないようにでき、内燃機関の燃焼性の悪化を防止できる。
【0029】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記易揮発性の燃料成分の濃度として、燃料に含まれるアルコール成分の濃度を求めて、この濃度に基づいて前記ベーパ量の推定を行うことを特徴とする。
【0030】
低圧燃料系におけるベーパの発生程度に影響する易揮発性の燃料成分としては、アルコール成分が挙げられる。したがってベーパ量の推定を、燃料に含まれるアルコール成分の濃度に基づいて行うことにより、適切なベーパ量の推定ができる。このように推定されたベーパ量に応じて前記所定期間を調節することで前述した作用・効果を生じさせることができる。
【0031】
請求項5に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を、前記アルコール成分の濃度に応じて切り替え、この対応関係から内燃機関の温度及び温度履歴に基づいて求められるベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0032】
ベーパの発生程度は内燃機関の温度及び温度履歴によって変化する。したがって内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を設定し、この対応関係をアルコール成分の濃度に応じて切り替える。すなわち、前記対応関係の切り替えにより、燃料に含まれるアルコール成分の濃度に基づいたベーパ量の推定を行っていることになる。
【0033】
このことより、より適切なベーパ量を推定できる。
請求項6に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が燃料成分として存在しない場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0034】
ベーパの発生程度は内燃機関の温度及び温度履歴によって変化する。したがって、まずアルコール成分が燃料に含まれていない状態で内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定する。そして、この対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行する。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0035】
請求項7に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が基準濃度で存在する場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0036】
ベーパの発生程度は内燃機関の温度及び温度履歴によって変化する。したがって、まずアルコール成分が基準濃度で燃料に含まれる場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定する。そして、この対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行する。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0037】
請求項8に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を、前記アルコール成分の濃度に応じて切り替え、この対応関係から内燃機関の温度に基づいて求められるベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0038】
ベーパの発生程度は主として内燃機関の温度によって変化する。したがって内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を設定し、この対応関係をアルコール成分の濃度に応じて切り替える。すなわち、前記対応関係の切り替えにより、燃料に含まれるアルコール成分の濃度に基づいたベーパ量の推定を行っていることになる。
【0039】
このことより、より適切なベーパ量を推定できる。
請求項9に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が燃料成分として存在しない場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0040】
ベーパの発生程度は主として内燃機関の温度によって変化する。したがって、まずアルコール成分が燃料に含まれていない場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定する。そして、この対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行する。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0041】
請求項10に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が基準濃度で存在する場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0042】
ベーパの発生程度は主として内燃機関の温度によって変化する。したがって、まずアルコール成分が基準濃度で燃料に含まれる場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定する。そして、この対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行する。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0043】
請求項11に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項6、7、9及び10のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記対応関係に対する実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正は、前記対応関係に対して実際の前記アルコール成分の濃度に応じた係数を掛け算する処理を加えるものであることを特徴とする。
【0044】
前記対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた係数を掛け算する処理を加えることで、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行できる。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0045】
請求項12に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4〜11のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、アルコール濃度センサにより測定することを特徴とする。
【0046】
このようにアルコール成分の濃度はアルコール濃度センサにより直接的な測定を行って求めても良く、この測定の結果に対応して、燃料に含まれるベーパ量の推定を適切に実行できる。
【0047】
請求項13に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4〜11のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、内燃機関の燃焼状態から推定することを特徴とする。
【0048】
燃料噴射量が同一でもアルコール成分の濃度の違いにより完全燃焼に必要な酸素量が変化する。このためアルコール成分の濃度は、空燃比などの内燃機関の燃焼状態に現れる。したがってアルコール成分の濃度は、アルコール濃度センサを用いなくても、内燃機関の燃焼状態から推定できる。そして、この推定値に基づいて、燃料に含まれるベーパ量の推定を適切に実行できる。
【0049】
請求項14に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項13に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、給油直後の内燃機関の燃焼状態から推定することを特徴とする。
【0050】
易揮発性の燃料成分は給油直後に最も濃く、その後、低下する。したがって給油直後の内燃機関の燃焼状態から推定することにより、アルコール成分の濃度に対して直ちに対処できることになる。
【0051】
請求項15に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項13又は14に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記内燃機関の燃焼状態として、燃焼室にて燃焼される混合気の空燃比を用いることを特徴とする。
【0052】
より具体的には、燃焼される混合気の空燃比を、内燃機関の燃焼状態として用いることで、アルコール成分の濃度を推定できる。
請求項16に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項13〜15のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度の推定処理の実行と、アルコール成分の濃度に基づく前記ベーパ量の推定の実行とを、給油後の所定内燃機関運転回数内又は給油後の所定累積内燃機関運転時間内での内燃機関運転時に限定していることを特徴とする。
【0053】
給油後に内燃機関の運転中に前述したごとく次第に燃料中のアルコール成分は希薄化してほぼ一定化する。したがって継続的にアルコール成分の濃度の推定処理を実行しなくても、給油後の所定内燃機関運転回数内又は給油後の所定累積内燃機関運転時間内で十分に燃料成分の推定は可能である。したがってアルコール成分の濃度の推定処理を、給油後の所定内燃機関運転回数内又は給油後の所定累積内燃機関運転時間内での内燃機関運転時に限定することで、推定処理の処理負荷を極力抑制して、内燃機関の燃焼状態からアルコール成分の濃度を推定できる。
【0054】
請求項17に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項1〜16のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記始動時燃料噴射設定手段及び前記所定期間調節手段による処理は、内燃機関の温度が所定温度以上である場合に実行されることを特徴とする。
【0055】
実際に燃料中のベーパが問題となるのは、或る程度、内燃機関の温度が高い場合である。したがって始動時燃料噴射設定手段及び所定期間調節手段による処理は、内燃機関の温度が所定温度以上である場合に実行するものとしても良い。このことにより内燃機関の温度が所定温度未満の場合には、始動開始時から直噴インジェクタと吸気通路インジェクタとの燃料噴射比率を自由に設定することができる。例えば始動時には吸気通路インジェクタのみの燃料噴射とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施の形態1の内燃機関及び電子制御装置の概略構成図。
【図2】実施の形態1の電子制御装置が実行するインジェクタ燃料噴射比率設定処理のフローチャート。
【図3】同じく始動時遅延時間設定処理のフローチャート。
【図4】(a),(b)実施の形態1のベーパ推定量マップの構成図。
【図5】実施の形態1の遅延時間マップの構成図。
【図6】実施の形態1の処理の一例を示すタイミングチャート。
【図7】実施の形態1の処理の一例を示すタイミングチャート。
【図8】実施の形態3の始動時遅延時間設定処理のフローチャート。
【図9】(a),(b)実施の形態3の基本ベーパ推定量マップの構成図。
【図10】実施の形態3のアルコール濃度補正係数マップの構成図。
【図11】(a),(b)実施の形態4の基本ベーパ推定量マップの構成図。
【図12】実施の形態4のアルコール濃度補正係数マップの構成図。
【図13】実施の形態5のアルコール濃度学習実行判定処理のフローチャート。
【図14】実施の形態5のアルコール濃度学習実行判定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0057】
[実施の形態1]
図1に本実施の形態における内燃機関2及びその制御装置である電子制御装置4についての概略構成を示す。この内燃機関2は車両走行用として車両に搭載されているものである。
【0058】
尚、図1では、内燃機関2については1気筒分の構成を示しているが、4気筒内燃機関でも良く、あるいは6気筒内燃機関でも良く、その他の気筒数の内燃機関でも良い。更に直列型、V型などの内燃機関でも良い。
【0059】
内燃機関2の各気筒6の内部には、ピストン8が往復動可能に設けられており、このピストン8の頂面と気筒6の内周面とにより燃焼室10が区画形成されている。この燃焼室10には、吸気通路12及び排気通路14がそれぞれ接続されている。吸気通路12の途中にはスロットルバルブ16が設けられており、スロットルバルブ16により燃焼室10に導入される吸入空気が調量される。
【0060】
内燃機関2に設けられた燃料供給系18には、気筒6毎に設けられた直噴インジェクタ20、気筒6毎に設けられた吸気通路インジェクタ22、高圧燃料デリバリパイプ24、低圧燃料デリバリパイプ26、高圧燃料ポンプ28、フィードポンプ30及び燃料タンク32を備えている。
【0061】
直噴インジェクタ20は、燃焼室10内に燃料を直接噴射するものである。吸気通路インジェクタ22は、吸気通路12内に燃料噴射を行うものであり、スロットルバルブ16よりも下流側、ここでは各気筒6の吸気ポート12aにて燃料噴射を行う。
【0062】
直噴インジェクタ20により噴射された燃料は、吸気バルブ34の開弁時に燃焼室10内に導入された吸入空気と混合されて混合気となる。一方、吸気通路インジェクタ22により噴射された燃料は、吸気通路12内を流れる吸入空気と混合されて混合気となった状態で吸気バルブ34の開弁時に燃焼室10内へ導入される。
【0063】
このようにして燃焼室10内に形成された混合気は、点火プラグ36によって点火されて燃焼してピストン8を駆動した後、排気バルブ38が開弁するときに排気通路14に排出される。
【0064】
各気筒6に設けられた直噴インジェクタ20は高圧燃料デリバリパイプ24に接続され、各吸気ポート12aに設けられた吸気通路インジェクタ22は低圧燃料デリバリパイプ26に接続されている。このことにより高圧燃料デリバリパイプ24からは高圧燃料が直噴インジェクタ20に供給され、低圧燃料デリバリパイプ26からは低圧燃料が吸気通路インジェクタ22に供給される。
【0065】
低圧燃料デリバリパイプ26には、低圧燃料ポンプであるフィードポンプ30を通じて低圧燃料が燃料タンク32から供給されている。一方、高圧燃料デリバリパイプ24には、フィードポンプ30によって昇圧された燃料が更に高圧燃料ポンプ28により高圧化されて高圧燃料として供給されている。
【0066】
内燃機関2には、その内燃機関運転状態を検出するための各種センサが設けられている。ここでは、クランクシャフトの回転速度(機関回転数NE)を検出するための内燃機関回転センサ40や、シリンダブロック等に形成されたウォータジャケットを流通する冷却水の冷却水温THWを内燃機関2の温度として検出するための水温センサ42が取り付けられている。
【0067】
この他に、燃焼室10から排出される排気成分に基づいて燃焼室10にて燃焼された混合気の空燃比A/Fを検出する空燃比センサ44が排気通路14に設けられている。吸入空気量GAを検出する吸入空気量センサ46が吸気通路12に設けられている。燃料に含まれる易揮発性の燃料成分であるアルコール成分の濃度を検出するアルコール濃度センサ48が燃料タンク32に設けられている。
【0068】
これら各センサ40,42,44,46,48の検出状態、及びイグニションスイッチ50の状態は、電子制御装置4に取り込まれる。電子制御装置4は、マイクロコンピュータを中心として構成された内燃機関制御装置である。電子制御装置4は、これらセンサ40,42,44,46,48の検出状態及びイグニションスイッチ50の状態に基づいて各インジェクタ20,22の燃料噴射比率やその噴射量、噴射時期を調整する燃料噴射制御をはじめとする各種制御を、内燃機関2の運転状態に応じて実行する。更に電子制御装置4は、イグニションスイッチ50がスタート位置に操作されると、スタータの回転駆動によりクランクシャフトのクランキングを実行すると共に、各インジェクタ20,22による燃料噴射及び点火プラグ36による点火を実行することにより、内燃機関2を始動させる。
【0069】
次に電子制御装置4により実行されるインジェクタ燃料噴射比率設定処理を図2に、始動時遅延時間設定処理を図3のフローチャートに示す。これらの処理は、所定時間周期あるいは所定クランク角周期で繰り返し割り込み処理として実行されている。
【0070】
尚、本実施の形態において、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)は、高温始動時において実行される処理である。すなわち内燃機関2の温度(ここでは冷却水温THW)が、60℃〜90℃の間に設定した高温始動時を判定するための所定温度以上である場合に、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)が実行されるものとする。このため冷却水温THWが所定温度未満であれば、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)には拘束されずに始動時に行われる2つのインジェクタ20,22間での燃料噴射比率を設定できる。実際には、始動時には吸気通路インジェクタ22からの燃料噴射のみとすることができる。
【0071】
高温始動時に行われるインジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)について説明する。本処理が開始されると、まず内燃機関2が始動開始時か否かが判定される(S100)。ここで始動開始時とは始動時の最初のタイミングであり、始動時とは、イグニションスイッチ50が操作されることによりスタータが回転させられてクランキングが開始してから、燃焼室10にて混合気の燃焼により機関回転数NEが始動判定回転数以上となるまでの期間である。
【0072】
ここで始動開始時であれば(S100でYES)、直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との間の燃料噴射比率Rinjに対して、予め設定されている始動時燃料噴射比率STinjの値が設定される(S102)。
【0073】
例えば燃料噴射比率Rinjは、式1に示すごとくに表されているものとする。
[式1] Rinj = 100×Dfi/(Dfi+Pfi)
ここで燃料噴射量Dfiは直噴インジェクタ20が分担して噴射する燃焼1回当たりの燃料噴射量(mm3)、燃料噴射量Pfiは吸気通路インジェクタ22が分担して噴射する燃焼1回当たりの燃料噴射量(mm3)を表している。したがって式1の燃料噴射比率Rinjは直噴インジェクタ20の燃料噴射比率(%)を表している。
【0074】
そして始動時燃料噴射比率STinj=90%が設定されているものとする。すなわち直噴インジェクタ20が分担する燃料噴射量Dfi:吸気通路インジェクタ22が分担する燃料噴射量Pfi=9:1である。
【0075】
このことは直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両方で燃料噴射が実行されると共に、直噴インジェクタ20の燃料噴射比率が吸気通路インジェクタ22の燃料噴射比率よりも十分に大きく設定されることで、直噴インジェクタ20による燃料噴射が主体となっている状態を示している。
【0076】
こうして一旦本処理を出る。したがって、以後の始動時の期間においては直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が実行されることになる。
次の制御周期では、始動時ではあるが、始動開始時ではないので(S100でNO)、始動後にて更に遅延時間DTinjが経過したか否かが判定される(S104)。この遅延時間DTinjは、後述するごとく始動時遅延時間設定処理(図3)にて算出される時間である。始動開始時から始動完了までの期間と、この遅延時間DTinjとの合計が、請求項の所定期間に相当する。
【0077】
始動後にて遅延時間DTinjが経過していなければ(S104でNO)、始動後であっても、燃料噴射比率Rinjとして始動時燃料噴射比率STinjが用いられる状態が継続する(S102)。
【0078】
したがって始動開始時から始動完了タイミングを経過し、更に遅延時間DTinjが経過するまでの期間は、燃料噴射量Dfi:燃料噴射量Pfi=9:1にて、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が実行される。すなわち直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射の終了が遅延することになる。
【0079】
そして始動完了タイミングから遅延時間DTinjが経過すると(S104でYES)、次に徐変処理が完了したか否かが判定される(S106)。この徐変処理とは、燃料噴射比率Rinj=始動時燃料噴射比率STinjに設定されている状態から、内燃機関運転状態に応じた燃料噴射比率Rinjに徐々に切り替えるために行われる処理である。
【0080】
初期においては徐変処理は完了していないので(S106でNO)、始動時燃料噴射比率STinjから、内燃機関運転状態(ここではアイドル状態か否か、あるいは負荷率KL及び機関回転数NEの状態)に基づいて燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率へ、燃料噴射比率Rinjを徐々に変化させる処理が行われる(S108)。
【0081】
ここで負荷率KLは、内燃機関2の負荷を表す指標の1つであり、内燃機関2の1回転当たりの基準最大吸入空気量に対する実際の1回転当たりの吸入空気量GA/NEの割合(%)である。このような負荷としては、負荷率KL以外に、スロットルバルブ16より下流側のサージタンク12b内の吸気圧を測定して、この吸気圧を用いても良い。
【0082】
したがって、このタイミングで例えば内燃機関2がアイドル状態であって、燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率が、吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射を実行する状態であったとしても、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射状態から即時に吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射状態に変化することはない。直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射状態から、吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射状態に徐々に変化することになる。
【0083】
したがって、以後の制御周期で、ステップS100でNO、ステップS104でYESと判定されても、徐変処理が完了するまで、徐変処理未完了であるので(S106でNO)、上述した徐変処理(S108)が継続することになる。すなわち直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射状態から、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率へ、徐々に切り替わる処理(S108)が継続することになる。
【0084】
そして吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射状態に完全に切り替わることで徐変処理が完了すると(S106でYES)、燃料噴射比率Rinjは、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率が、そのまま設定される(S110)。
【0085】
これ以後における内燃機関2の運転継続中は、ステップS100でNO、ステップS104でYES、ステップS106でYESと判定されて、燃料噴射比率Rinjは、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率が燃料噴射比率Rinjに設定される処理(S110)が継続する。
【0086】
次に始動時遅延時間設定処理(図3)について説明する。本処理が開始されると、まず始動開始時か否かが判定される(S150)。この始動開始時については、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)にて説明したごとくである。
【0087】
ここで始動開始時であれば(S150でYES)、水温センサ42にて検出されている現在の冷却水温THWを読み込む(S152)。更に前回トリップ(車両走行に伴う内燃機関運転)終了時に電子制御装置4内の不揮発メモリに記憶しておいた冷却水温THWpを読み込む(S154)。
【0088】
これら冷却水温THWと冷却水温THWpとから、内燃機関2の温度履歴に相当する温度差ΔTを、式2に示すごとく算出する(S156)。
[式2] ΔT ← THW − THWp
この温度差ΔTは、内燃機関始動開始時において、前回の内燃機関停止時からの冷却水温THWの上昇分を表している。
【0089】
次に現在の燃料中のアルコール濃度Cohを読み込む(S158)。そしてこのアルコール濃度Cohに応じたベーパ推定量マップを選択する(S160)。
ベーパ推定量マップの一例を図4に示す。図4の(a)は温度差ΔT=10℃における冷却水温THWからベーパ量を求めるマップである。図4の(b)は温度差ΔT=20℃における冷却水温THWからベーパ量を求めるマップである。それぞれアルコール濃度0%、20%、80%でのマップを表している。
【0090】
したがってアルコール濃度Coh=0%であれば実線で示したマップが、図4の(a)及び(b)から選択され、アルコール濃度Coh=20%であれば一点鎖線で示したマップが選択され、アルコール濃度Coh=80%であれば二点鎖線で示したマップが選択されることになる。
【0091】
尚、これらの中間のアルコール濃度である場合、近いアルコール濃度のマップが選択される。例えばアルコール濃度Coh=10%であれば、アルコール濃度0%と20%とのマップが選択される。
【0092】
このように選択されたマップを用いて、冷却水温THW及び温度差ΔTに基づいて、ベーパ量Vpが算出される(S162)。すなわちアルコール濃度Coh=20%、冷却水温THW=T1、ΔT=10℃ならば、図4の(a)に示すアルコール濃度20%のマップが選択されて、ベーパ量としてVp1が求められる。
【0093】
アルコール濃度Coh=20%、冷却水温THW=T1、ΔT=20℃ならば、図4の(b)に示すアルコール濃度20%のマップが選択されて、ベーパ量としてVp2が求められる。
【0094】
アルコール濃度Cohや温度差ΔTが図4の(a)、(b)の中間に属する値であれば、値に近いマップが選択されているので、そのマップを利用して比例計算にてベーパ量Vpを算出する。
【0095】
このようにアルコール濃度Coh、冷却水温THW及び温度差ΔTに基づいて推定されたベーパ量Vpが基準値A以上か否かが判定される(S164)。
この基準値Aは、始動後に、吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射を実行する内燃機関運転状態、例えばアイドル状態となった場合に、燃焼室10内での燃焼性に問題を生じる程度にベーパが低圧燃料系に生じているか否かの境界を示す値である。
【0096】
したがってベーパ量Vp<Aであれば(S164でNO)、ベーパが発生していたとしても、そのベーパ量Vpは問題ない程度に少ないものとして、遅延時間DTinjは0(s)に設定される(S166)。すなわち直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射は始動完了時から直ちに徐変処理(図2:S108)を実行して終了するように設定される。
【0097】
ベーパ量Vp≧Aであれば(S164でYES)、図5に示す遅延時間マップによりベーパ量Vpに応じて遅延時間DTinjが設定される(S168)。
例えば図4の(a)にて示したベーパ量Vp1が、Vp1<Aであれば(S164でNO)、遅延時間DTinjは0(s)に設定される(S166)。
【0098】
図4の(b)にて示したベーパ量Vp2が、Vp2≧Aであれば(S164でYES)、図5のマップから、遅延時間DTinjはDT2(s)に設定される(S168)。
このようにして遅延時間DTinjが内燃機関2の始動開始時に設定されることで、前述したインジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)のステップS104の判定に用いられることになる。
【0099】
以後の制御周期では、始動開始時ではないので(S150でNO)、始動時遅延時間設定処理(図3)での実質的な処理は終了する。したがって以後に内燃機関2が停止されて、再度始動操作がなされた場合に、上述した始動時遅延時間設定処理(図3)が実行されて、新たに遅延時間DTinjを設定し、この再始動時での前記インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)のステップS104にて用いられることになる。
【0100】
図6,7のタイミングチャートに、上述した処理によりなされる遅延時間DTinj設定の例を示す。図6は燃料中のアルコール濃度が低い場合であり、図7はアルコール濃度が高い場合である。各図において(a)は機関回転数NEを、(b)は吸気通路インジェクタ22の燃料噴射比率、(c)は直噴インジェクタ20の燃料噴射比率を表している。(b)及び(c)においては実線は、ベーパ量Vpに与える温度要因(冷却水温THWや温度差ΔTの値)が小さい場合であり、一点鎖線は温度要因が大きい場合である。
【0101】
図6において、実線にて示すごとくベーパ量Vpに与える温度要因が小さい場合には、アルコール濃度Cohも低いので、始動時遅延時間設定処理(図3)では推定されるベーパ量Vpが基準値Aより小さく(S164でNO)、遅延時間DTinjは0(s)が設定されている(S166)。
【0102】
したがって内燃機関2の始動開始時(t0)から、内燃機関2が始動時とされている期間が経過するまでは(t0〜t1)、始動時燃料噴射比率STinj(図6の例では90%)にて直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両者から燃料噴射が行われる。すなわち直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射であり、その燃料噴射比率は90%に設定され、吸気通路インジェクタ22の燃料噴射比率は10%に設定される。
【0103】
始動が完了すると(t1)、遅延時間DTinj=0、すなわち遅延がなされないので、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)では始動時燃料噴射比率STinjの状態から、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる値へと燃料噴射比率Rinjが徐々に変化する(t1〜t2)。図6の例では、始動以後に内燃機関2はアイドル状態となる。アイドル状態では燃料噴射比率マップは、燃料噴射比率Rinj=0%に設定される。このため、燃料噴射比率Rinjの徐変処理終了後には、直噴インジェクタ20からは燃料噴射は行われず、吸気通路インジェクタ22から全ての燃料が噴射される状態(吸気通路インジェクタ22の燃料噴射比率が100%)となる(t2〜)。
【0104】
尚、以後、車両が走行を開始するなどによりアイドル状態を脱することで、内燃機関運転状態に応じて燃料噴射比率Rinjは変化する。
図6において、一点鎖線にて示すごとくベーパ量Vpに与える温度要因が大きい場合には、アルコール濃度Cohは低いが、始動時遅延時間設定処理(図3)で推定されるベーパ量Vpが基準値A以上となり(S164でYES)、遅延時間DTinjが遅延時間マップ(図5)から設定される(S168)。
【0105】
したがって内燃機関2の始動開始時(t0)から、始動後(t1〜)になっても、遅延時間DTinjが経過するまでは(t0〜t3)、始動時燃料噴射比率STinjに基づき、直噴インジェクタ20の燃料噴射を主体として、この直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両者から燃料噴射が行われる。
【0106】
遅延時間DTinjが経過すると(t3)、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)では、始動時燃料噴射比率STinjの状態から、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる値へと燃料噴射比率Rinjが徐々に変化する(t3〜t4)。そして燃料噴射比率Rinjの徐変処理後には、内燃機関運転状態によって、直噴インジェクタ20からは燃料噴射は行われず、吸気通路インジェクタ22から全ての燃料が噴射される状態となる(t4〜)。
【0107】
図7においては、実線にて示すごとくベーパ量Vpに与える温度要因が小さい場合に、アルコール濃度Cohは高いので、始動時遅延時間設定処理(図3)では推定されるベーパ量Vpは基準値A以上となり(S164でYES)、遅延時間DTinjは遅延時間マップ(図5)から設定される(S168)。したがって内燃機関2の始動開始時(t10)から始動後になっても、遅延時間DTinjが経過するまでは(t10〜t11)、始動時燃料噴射比率STinjに基づき、直噴インジェクタ20の燃料噴射を主体として、直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両者から燃料噴射が行われる。
【0108】
図7において一点鎖線にて示すごとくベーパ量Vpに与える温度要因が大きい場合には、同時にアルコール濃度Cohについても高いので、始動時遅延時間設定処理(図3)で推定されるベーパ量Vpは基準値A以上となり(S164でYES)、遅延時間DTinjが遅延時間マップ(図5)から設定される(S168)。ただし温度要因が大きい分、ベーパ量Vpも大きくなり、これに応じて遅延時間DTinjも長くなる。
【0109】
したがって内燃機関2の始動開始時(t10)から始動後となっても、遅延時間DTinjが経過するまでは(t10〜t13)、始動時燃料噴射比率STinjに基づき、直噴インジェクタ20の燃料噴射を主体として、直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両者から燃料噴射が行われる。
【0110】
そして図7の実線の場合も一点鎖線の場合も、遅延時間DTinjが経過すると(t11又はt13)、始動時燃料噴射比率STinjの状態から、内燃機関運転状態に基づいて得られる値へと燃料噴射比率Rinjが徐々に変化する(t11〜t12、又はt13〜t14)。そして燃料噴射比率Rinjの徐変処理後には、吸気通路インジェクタ22から全ての燃料が噴射される状態となる(t12〜、又はt14〜)。
【0111】
上述した構成において、請求項との関係は、電子制御装置4が始動時燃料噴射設定手段及び所定期間調節手段を備えた内燃機関燃料噴射制御装置に相当する。インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)が始動時燃料噴射設定手段としての処理に、始動時遅延時間設定処理(図3)が所定期間調節手段としての処理に相当する。
【0112】
以上説明した本実施の形態1によれば、以下の効果が得られる。
(1)易揮発性の燃料成分であるアルコールの濃度Cohに基づいて燃料に含まれるベーパ量Vpを推定し、このベーパ量Vpに応じて、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射を確保するための所定期間を調節している。本実施の形態では、始動時における直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射期間に対して、ベーパ量Vpに応じて設定される遅延時間DTinjを加算することにより、全体としての前記所定期間を調節している。
【0113】
このように直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射を確保するための所定期間を調節できることから、アルコール濃度Cohがベーパの発生し易い側に変化した場合には、アルコール濃度Cohに伴うベーパの発生程度に対応して直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射期間を長くできる。したがって低圧燃料デリバリパイプ26などの低圧燃料系におけるベーパが未だ十分に排出されていない状態で、吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射が実行される事態を防止できる。このため実際の燃料噴射量が不足しないようにでき、内燃機関2の燃焼性の悪化を防止できる。
【0114】
逆に、アルコール濃度Cohがベーパの発生しにくい側に変化した場合には、アルコール濃度Cohに伴うベーパの発生程度に対応して直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射期間を短くできる。したがって低圧燃料系におけるベーパが十分に排出されている状態であって、しかも内燃機関運転状態が吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射に移行できる状態であるにもかかわらず、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が継続してしまう事態を防止できる。このことから内燃機関2の燃焼性に影響させずに高圧燃料ポンプ28の作動音を減少できる機会を極力利用できることになる。
【0115】
したがってアルコール成分と他の燃料成分との間の蒸発性の違いにより、あるいはアルコール濃度Cohが異なる燃料が給油された場合などにより、アルコール濃度Cohの変化が生じて燃料供給系18に発生するベーパの程度が異なった場合も、燃料噴射量の不足を抑制し、かつ燃料昇圧に伴う作動音の発生を極力抑制できる。
【0116】
(2)推定されたベーパ量Vpが、基準値Aより少ない場合には、ベーパ量Vpが十分に少ないので、遅延時間DTinj=0としている。そして、ベーパ量Vpが基準値A以上の場合には、燃焼性を確保したままベーパを排出させる必要があるので、遅延時間DTinj>0に設定すると共に、ベーパ量Vpに応じて遅延時間DTinjを長くしている。
【0117】
このようにベーパ量Vp<基準値Aであれば、始動後にアイドル状態となると、直ちに吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射に移行することになる。このため内燃機関2の燃焼性に影響させずに高圧燃料ポンプ28の作動音を減少できる。
【0118】
ベーパ量Vp≧基準値Aでは、ベーパ量Vpに対応させて遅延時間DTinjの長さを調節している。このためベーパを排出するのに必要で十分な長さの遅延時間DTinjを設定でき、内燃機関2の燃焼性に影響させずに高圧燃料ポンプ28の作動音を適切に減少できる。
【0119】
(3)本実施の形態では、内燃機関2の温度(ここでは冷却水温THW)及び温度履歴(ここでは温度差ΔT)と、ベーパ量Vpとの対応関係であるベーパ推定量マップ(図4)を、アルコール濃度Cohに応じて複数備えている。図4の例では各温度差ΔTにおいて3つ(Coh=0%,20%,80%)を備えている。
【0120】
このように複数備えられたベーパ推定量マップ(図4)を、アルコール濃度Cohに応じて切り替えて用いることで、燃料に含まれるアルコール濃度Cohに基づいたベーパ量Vpの推定を行っている。
【0121】
このため、容易にアルコール濃度Cohに応じて低圧燃料系に発生するベーパ量Vpを推定できる。
(4)アルコール濃度Cohはアルコール濃度センサ48により直接的に測定しているので、高精度にアルコール濃度Cohが得られ、より適切なベーパ量Vp及び遅延時間DTinjを得ることができる。
【0122】
[実施の形態2]
本実施の形態では、アルコール濃度センサ48の代わりに、アイドル時などにて行われる空燃比フィードバック制御により判明する内燃機関2の燃焼状態からアルコール濃度を推定している。
【0123】
具体的には空燃比センサ44で検出された排気空燃比と目標空燃比との間の偏差量である空燃比偏差量に補正ゲインを掛けて燃料内のアルコール濃度Cohを算出する。空燃比偏差量と燃料内のアルコール濃度Cohとは比例関係があり、この比例関係の傾きを前記補正ゲインとしている。
【0124】
このように燃料中のアルコール濃度Cohは、内燃機関運転時の空燃比フィードバック制御時に得られるため、前記図3のステップS158においては、前回以前の内燃機関運転時に得られて、不揮発メモリに記憶されているアルコール濃度Cohを読み込む処理となる。他の構成は前記実施の形態1と同じである。
【0125】
以上説明した本実施の形態2によれば、アルコール濃度センサ48を設けることなく、前記実施の形態1の効果が得られる。
[実施の形態3]
本実施の形態では、前記実施の形態1又は2の構成において、始動時遅延時間設定処理(図3)の代わりに、図8に示す始動時遅延時間設定処理を実行するものである。
【0126】
始動時遅延時間設定処理(図8)において、ステップS250〜S256,S264〜S268は図3のステップS150〜S156,S164〜S168と同じである。
以下、図3と異なるステップS258〜S262を中心に説明する。
【0127】
前記図3にて説明したごとく、始動開始時(S250でYES)にて現在の冷却水温THWと前回トリップ終了時の冷却水温THWpとが読み込まれ(S252,S254)、温度差ΔTが算出される(S256)。
【0128】
次に冷却水温THW及び温度差ΔTに基づいて、図9に示す基本ベーパ推定量マップにより基本ベーパ量Vpbを算出する(S258)。
図9の基本ベーパ推定量マップは、前記図4にて示したベーパ推定量マップにおいて、アルコール濃度=0%のみを用いたマップであり、(a)に示す温度差ΔT=10℃のマップと、(b)に示す温度差ΔT=20℃のマップとの2つが設けられている。
【0129】
例えば、冷却水温THW=T1であり、ΔT=10℃ならば、図9の(a)に示すΔT=10℃のマップが選択されて、基本ベーパ量Vpb1が求められる。
冷却水温THW=T1、ΔT=20℃ならば、図9の(b)に示すΔT=20℃のマップが選択されて、基本ベーパ量Vpb2が求められる。
【0130】
温度差ΔTが図9の(a)、(b)の中間に属する値であれば、2つの基本ベーパ量Vpb1,Vpb2を用いた比例計算にて基本ベーパ量Vpbを算出する。
次にアルコール濃度Cohを読み込む(S260)。このアルコール濃度Cohは、前記実施の形態1のごとくアルコール濃度センサ48にて検出した現在値、あるいは前記実施の形態2のごとく前回の内燃機関運転時におけるアルコール濃度推定値を用いる。
【0131】
次にステップS258にて求められた基本ベーパ量Vpbに対して、アルコール濃度Cohに応じた補正処理ftを実行してベーパ量Vpを算出する(S262)。
具体的には、アルコール濃度Cohに対応する補正係数pohを、図10に示すごとくのアルコール濃度補正係数マップから求め、式3に示すごとく、基本ベーパ量Vpbと補正係数pohとの積により、ベーパ量Vpを算出する。
【0132】
[式3] Vp ← Vpb×poh
そして前記図3にて説明したごとく、ベーパ量Vp<基準値Aであれば(S264でNO)、遅延時間DTinjは0(s)に設定され(S266)、ベーパ量Vp≧基準値Aであれば(S264でYES)、遅延時間DTinjは、ベーパ量Vpに基づいて前記図5に示した遅延時間マップにより算出される(S268)。
【0133】
以上説明した本実施の形態3によれば、前記実施の形態1又は実施の形態2の効果を生じると共に、アルコール濃度Cohに対応して複数のベーパ推定量マップを設けなくても良く、電子制御装置4におけるメモリが節約できる。
【0134】
[実施の形態4]
本実施の形態では、前記実施の形態3にて用いた図9の基本ベーパ推定量マップの代わりに図11に示すごとくのマップを用いている。このマップは、0%ではないアルコール基準濃度(例えば20%)でのベーパ推定量を表すものである。更にアルコール濃度補正係数マップとして、図12のマップを用いている。他の構成は前記実施の形態3と同じである。
【0135】
したがってステップS258では、冷却水温THW及び温度差ΔTに基づいて、図11に示す基本ベーパ推定量マップにより、アルコール基準濃度における基本ベーパ量Vpbを算出する。
【0136】
例えば、冷却水温THW=T1であり、ΔT=10℃ならば、図11の(a)に示すΔT=10℃のマップが選択されて、基本ベーパ量Vpb21が求められる。
冷却水温THW=T1、ΔT=20℃ならば、図11の(b)に示すΔT=20℃のマップが選択されて、基本ベーパ量Vpb22が求められる。
【0137】
温度差ΔTが図11の(a)、(b)の中間に属する値であれば、2つの基本ベーパ量Vpb21,Vpb22を用いた比例計算にて基本ベーパ量Vpbを算出する。
次にアルコール濃度Cohを読み込み(S260)、ステップS258にて求められた基本ベーパ量Vpbに対して、アルコール濃度Cohに応じた補正処理ftを実行してベーパ量Vpを算出する(S262)。
【0138】
ここではアルコール濃度Cohに対応する補正係数pohを、図12に示すごとくのアルコール濃度補正係数マップから求め、前記式3と同様に、基本ベーパ量Vpbと補正係数pohとの積により、ベーパ量Vpを算出する。
【0139】
そして前記図3に説明したごとく、ベーパ量Vp<基準値Aであれば(S264でNO)、遅延時間DTinjは0(s)に設定され(S266)、ベーパ量Vp≧基準値Aであれば(S264でYES)、遅延時間DTinjは、ベーパ量Vpに基づいて前記図5に示した遅延時間マップにより算出される(S268)。
【0140】
以上説明した本実施の形態4によれば、アルコール基準濃度として0%以外の濃度の基本ベーパ推定マップのみでも、前記実施の形態1又は実施の形態2の効果を生じる。したがって前記実施の形態3と同様な効果を生じる。
【0141】
[実施の形態5]
本実施の形態では、図1に示した構成において、アルコール濃度センサ48は設けられておらず、アルコール濃度Cohは前記実施の形態2にて説明したごとく、空燃比フィードバック制御時に学習されて不揮発メモリに記憶されているものとする。
【0142】
更に燃料タンク32の蓋に対するロック解除用のフューエルリッドオープナーには、給油時検出スイッチが設けられている。このため、給油時にフューエルリッドオープナーのレバーを操作した際には、電子制御装置4が給油時であることを検出できる。
【0143】
尚、フューエルリッドオープナーに設けたスイッチではなく、直接、燃料タンク32の蓋にスイッチを設けて給油時であることを検出しても良い。この他に、燃料タンク32内に液面レベルセンサを設けて燃料の液面レベルの変化により給油時であることを検出しても良い。
【0144】
このような構成において、前述した空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習は、図13に示すごとくのアルコール濃度学習実行判定処理によって、学習実行許可か禁止かが決定される。他の構成は前記実施の形態1,3,4のいずれかと同じである。
【0145】
アルコール濃度学習実行判定処理(図13)は、内燃機関2の始動時に一度実行される処理である。本処理(図13)が開始されると、まず始動直前に給油有りか否かが判定される(S300)。
【0146】
ここで給油時検出スイッチの作動を検出したことにより始動直前に給油されたことが判明すれば(S300でYES)、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は許可される(S302)。したがって次回の始動開始時には、始動時遅延時間設定処理(図3又は図8)では、新たに学習されて更新されたアルコール濃度Cohを読み込んでベーパ量Vpが推定されて、遅延時間DTinjが設定されることになる。
【0147】
給油時検出スイッチが作動しておらず始動直前に給油されていなければ(S300でNO)、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は禁止される(S304)。したがって次回の始動開始時には、始動時遅延時間設定処理(図3又は図8)では、前回トリップ時と同じ値のアルコール濃度Cohにてベーパ量Vpが推定されて、遅延時間DTinjが設定されることになる。
【0148】
尚、図13の処理の代わりに、図14に示すごとく、内燃機関2の始動直前の給油のみでなく、所定トリップ回数以前から今回の始動の間に始動直前給油が有れば、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行を許可するようにしても良い。
【0149】
すなわち、アルコール濃度学習実行判定処理(図14)では、まず直前給油無しの状態のトリップ回数が所定トリップ回数B以下か否かが判定される(S310)。所定トリップ回数Bとしては例えば「2〜3」の値が設定される。
【0150】
ここで給油時検出スイッチの作動により始動直前〜所定トリップ回数Bのトリップ間に一度でも給油されていた場合には(S310でYES)、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は許可される(S312)。したがって次回の始動開始時には、始動時遅延時間設定処理(図3又は図8)では、新たに学習されて更新されたアルコール濃度Cohを読み込んでベーパ量Vpが推定されて、遅延時間DTinjが設定されることになる。
【0151】
トリップ回数が所定トリップ回数Bを越えても給油時検出スイッチが作動しておらず、給油が一度もなされていなければ(S310でNO)、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は禁止される(S314)。したがって次回の始動開始時には、始動時遅延時間設定処理(図3又は図8)では、前回トリップ時と同じ値のアルコール濃度Cohを読み込んでベーパ量Vpが推定されて、遅延時間DTinjが設定されることになる。
【0152】
以上説明した本実施の形態5によれば、以下の効果を生じる。
(1)アルコール濃度センサ48を設けることなく、前記実施の形態1,3,4にて述べたごとくの効果を生じさせることができる。
【0153】
(2)給油からのトリップ回数が所定トリップ回数B以内の場合には、内燃機関運転時に高圧燃料デリバリパイプ24及び低圧燃料デリバリパイプ26に流れ込む燃料内のアルコール濃度が大きく変化する可能性が高い。このため、このような内燃機関運転時には、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は許可している。
【0154】
しかし給油からトリップ回数が所定トリップ回数Bを越えた場合には、一旦大きくなったアルコール濃度は低下すると共に、その濃度も安定化している。このため空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は禁止している。
【0155】
すなわち空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習を、給油から所定トリップ回数B内に限定している。このことから電子制御装置4の不要な処理を省いて、処理負荷を低下させることができる。
【0156】
[その他の実施の形態]
・前記各実施の形態の始動時遅延時間設定処理(図3,図8)で求められる遅延時間DTinjは始動完了からの時間として設定されていたが、始動開始時から行われる直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射期間の全体を設定する時間を求めても良い。例えば、図6,7では、内燃機関始動開始時t0,t10〜遅延時間DTinjの終了タイミングまでの期間を求めても良い。
【0157】
・前記各実施の形態の始動時遅延時間設定処理(図3,図8)で求められた遅延時間DTinjの期間では、始動時と同じ燃料噴射、すなわち始動時燃料噴射比率STinjで直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が行われていた。遅延時間DTinjの期間では、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が行われれば良いので、同一の燃料噴射比率Rinjで噴射する必要はない。すなわち遅延時間DTinjの期間では、燃料噴射比率Rinjを始動時燃料噴射比率STinjよりも少し低くしたり高くしたりしても良い。
【0158】
・前記実施の形態1にて述べたごとく、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)は高温始動時において実行される処理としたが、高温始動時に限らずにインジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)を実行しても良い。この場合でも高温始動時では、遅延時間DTinjが0(s)を越える値に設定されることで、前記各実施の形態にて説明したごとくの効果を生じる。
【0159】
・前記各実施の形態では、アルコール濃度Cohと共に、冷却水温THWと温度差ΔTとに基づいてベーパ量Vpを推定したが、冷却水温THWと温度差ΔTとの両方を用いるのではなく、アルコール濃度Cohと共に冷却水温THWのみを用いてベーパ量Vpを推定しても良い。
【0160】
・前記実施の形態5の図14では直前給油無しの継続状態を給油後のトリップ回数にて判定したが、内燃機関運転の累積運転時間にて判定しても良い。すなわち給油後に運転している累積時間が所定累積運転時間以下であれば、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習を許可し、所定累積運転時間を越えていれば、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習を禁止する。
【0161】
・前記実施の形態においては、図1に示したごとく、吸気通路インジェクタ22は、吸気通路12の内で吸気ポート12aの位置に設けられていた。これ以外に吸気通路12が気筒6毎に分岐する前の集合部分(サージタンク12bなど)に、吸気通路インジェクタ22を設けることで、全気筒につき1本の吸気通路インジェクタ22にて吸気通路12での燃料噴射を実行しても良い。
【0162】
・始動時遅延時間設定処理(図3,図8)にてステップS164,S264の判定は実行せずに、ステップS162,S262から直ちにステップS168,S268の処理を実行しても良い。すなわち遅延時間マップ(図5)のみによって、遅延時間DTinjをベーパ量Vpに対応した設定としても良い。
【0163】
あるいは、ステップS168,S268においては、一定の遅延時間DTinjを設定するものとしても良い。すなわち基準値Aのみでベーパ量Vpを判定することで遅延時間DTinjをステップ的に設定しても良い。
【0164】
・前記各実施の形態では、内燃機関の温度及び温度履歴としては、冷却水温THW及びその温度差ΔTを用いたが、冷却水温THW及びその温度履歴以外に、潤滑オイル温度や燃料温度とその温度履歴とを用いても良い。又は潤滑オイル温度や燃料温度のみでも良い。
【符号の説明】
【0165】
2…内燃機関、4…電子制御装置、6…気筒、8…ピストン、10…燃焼室、12…吸気通路、12a…吸気ポート、12b…サージタンク、14…排気通路、16…スロットルバルブ、18…燃料供給系、20…直噴インジェクタ、22…吸気通路インジェクタ、24…高圧燃料デリバリパイプ、26…低圧燃料デリバリパイプ、28…高圧燃料ポンプ、30…フィードポンプ(低圧燃料ポンプ)、32…燃料タンク、34…吸気バルブ、36…点火プラグ、38…排気バルブ、40…内燃機関回転センサ、42…水温センサ、44…空燃比センサ、46…吸入空気量センサ、48…アルコール濃度センサ、50…イグニションスイッチ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室内に高圧燃料を噴射する直噴インジェクタと、燃焼室へ空気を供給する吸気通路内に低圧燃料を噴射する吸気通路インジェクタとを有し、これらインジェクタ間の燃料噴射比率を内燃機関運転状態に応じて調節する燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃焼室内に高圧燃料を直接噴射する直噴インジェクタと吸気通路内に低圧燃料を噴射する吸気通路インジェクタとを備え、それら各インジェクタによる燃料噴射形態を内燃機関運転状態に基づいて適宜切り替えるようにした内燃機関が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、内燃機関の停止中において、燃料供給系では燃料は流れずに停滞し、この停滞した燃料が内燃機関からの熱を受ける。このことから燃料が気化して、燃料供給経路などからなる燃料供給系にベーパ(気化燃料)が発生する可能性がある。ベーパを多く含む燃料が内燃機関再始動時に噴射されると、必要な燃料噴射量が確保できなくなるおそれがある。
【0004】
特に、吸気通路インジェクタが噴射対象とする燃料は、直噴インジェクタの噴射対象の燃料に比較して低圧である。このため吸気通路インジェクタが噴射する燃料にベーパが生じ易くなる。このことからベーパによる燃料噴射量不足は吸気通路インジェクタにおいて特に顕著となる傾向にある。
【0005】
そこで、燃料供給系にベーパが発生している可能性が大きい高温始動時には、良好な始動性を確保するため、直噴インジェクタによる燃料噴射を主体とするように制御する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この技術では、直噴インジェクタの燃料噴射比率が吸気通路インジェクタの燃料噴射比率よりも大きくなるようにしている。
【0006】
しかしながら、直噴インジェクタの燃料圧を高圧となるように昇圧する際には、昇圧動作に伴って高圧燃料供給系(特に高圧燃料ポンプ)から作動音が発生する場合がある。このような作動音は内燃機関運転状態が始動完了後にアイドル運転に移行して内燃機関機関始動に伴う振動や騒音が低下すると知覚され易いものとなる。
【0007】
一方、上述のように直噴インジェクタの燃料噴射を主体とする内燃機関始動時には、吸気通路インジェクタによる燃料噴射も実行されるため、吸気通路インジェクタの燃料に含まれるベーパは、その多くが内燃機関始動時の燃料噴射に際して排出されると考えられる。したがって、内燃機関運転状態がアイドル状態へ移行するときには、吸気通路インジェクタによる噴射燃料に含まれるベーパ量は少なくなっていると考えられる。
【0008】
そこで、内燃機関運転状態がアイドル状態へ移行すると、直噴インジェクタの燃料噴射比率を減少させ吸気通路インジェクタの燃料噴射比率を増大させるようにして、作動音の発生を抑制するようにする技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
ところで、ベーパの発生し易さは、易揮発性の燃料成分の濃度により異なる。具体的には易揮発性の燃料成分として、アルコールが含まれる燃料を用いた内燃機関の場合、アルコールの濃度の差異により、同じ熱雰囲気でも燃料供給系に生じるベーパ量が異なる。
【0010】
更に給油後においては、内燃機関運転経過により次第に燃料タンク内でアルコールが蒸発してキャニスタやパージにより奪われて、燃料中のアルコール濃度が希薄化する。そして再度給油が行われると燃料中のアルコール濃度が復帰することになる。このことによっても燃料供給系に生じるベーパ量が異なる。
【0011】
更にアルコール濃度が異なる種類の燃料が給油された場合も給油時にアルコール濃度が変化すると共に、その後の内燃機関運転経過においても上述したごとくアルコール濃度が変化する。
【0012】
したがって燃料中のアルコール濃度を考慮して、ベーパ発生時には燃料高圧化やバイパス弁によるベーパ排出によりベーパ対策を行う技術が知られている(例えば、特許文献4,5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−364409号公報(第4−5頁、図1−2)
【特許文献2】特開平11−44236号公報(第4−6頁、図1−4)
【特許文献3】特開2007−9815号公報(第12−13頁、図2,6−8)
【特許文献4】特開2006−322401号公報(第9−10頁、図1−3)
【特許文献5】特開平07−127542号公報(第2−3頁、図1−3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし特許文献1〜3に述べた直噴インジェクタと吸気通路インジェクタとを備えた燃料供給系では、アルコール濃度などの易揮発性の燃料成分の濃度変化に対応する処理は行われておらず、一定濃度を前提として、直噴インジェクタと吸気通路インジェクタとの燃料噴射比率を調節していた。
【0015】
このため内燃機関運転状態が同一状態でも、給油などによって易揮発性の燃料成分の濃度変化があると、ベーパの発生程度は異なることになる。このため、直噴インジェクタの燃料噴射比率を大きくする期間が、易揮発性の燃料成分濃度に伴うベーパの発生し易さに比較して短いと、低圧燃料系のベーパが未だ十分に排出されていない状態で、吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射に移行するおそれがある。このような場合には、実際の燃料噴射量が不足し、内燃機関の燃焼性の悪化を招くおそれがある。
【0016】
逆に、直噴インジェクタの燃料噴射比率を大きくする期間が、易揮発性の燃料成分濃度に伴うベーパの発生し易さに比較して長いと、低圧燃料系のベーパが全て排出された状態となった後も、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射が継続することになる。したがって、吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射を実行できる内燃機関運転状態となっていても、このような燃料噴射が実行できないので、内燃機関の燃焼性を悪化することなく作動音を減少できる機会を失っていることになる。
【0017】
本発明は、直噴インジェクタと吸気通路インジェクタとの間の燃料噴射比率を内燃機関運転状態に応じて調節する内燃機関燃料噴射制御装置において、易揮発性の燃料成分の濃度変化によりベーパの発生程度が異なる場合にも、燃料噴射量の不足を抑制し、かつ燃料昇圧に伴う作動音の発生を極力抑制できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用・効果について記載する。
請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置は、燃焼室内に高圧燃料を噴射する直噴インジェクタと、燃焼室へ空気を供給する吸気通路内に低圧燃料を噴射する吸気通路インジェクタとを有する内燃機関に対して、これらインジェクタ間の燃料噴射比率を内燃機関運転状態に応じて調節する燃料噴射制御装置であって、内燃機関始動開始時から所定期間が経過するまで、前記直噴インジェクタの燃料噴射比率を前記吸気通路インジェクタの燃料噴射比率よりも大きくして、前記直噴インジェクタと前記吸気通路インジェクタとの両方で燃料噴射させる始動時燃料噴射設定手段と、燃料に含まれるベーパ量を推定し、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節する所定期間調節手段とを備え、前記所定期間調節手段は、燃料に含まれるベーパ量の推定を、易揮発性の燃料成分の濃度に基づいて行うことを特徴とする。
【0019】
所定期間調節手段は、易揮発性の燃料成分の濃度に基づいて燃料に含まれるベーパ量を推定し、このベーパ量に応じて、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射を確保するための所定期間を調節している。
【0020】
このように直噴インジェクタを主体とする燃料噴射を確保するための所定期間を調節できることから、易揮発性の燃料成分の濃度がベーパを発生し易い側に変化した場合には、易揮発性の燃料成分の濃度状態に伴うベーパの発生程度に応じて直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を長くできる。したがって、低圧燃料系のベーパが未だ十分に排出されていない状態で吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射が実行される事態を防止できる。このため実際の燃料噴射量が不足しないようにでき、内燃機関の燃焼性の悪化を防止できる。
【0021】
逆に、易揮発性の燃料成分の濃度がベーパを発生しにくい側に変化した場合には、易揮発性の燃料成分の濃度状態に伴うベーパの発生程度に応じて直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を短くできる。したがって低圧燃料系のベーパが十分に排出されている状態であって、しかも内燃機関が吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射に移行できる運転状態であるにもかかわらず、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射が継続してしまう事態を防止できる。このことから内燃機関の燃焼性に影響させずに燃料昇圧に伴う作動音を減少できる機会を極力利用できる。
【0022】
したがって易揮発性の燃料成分の濃度変化により燃料供給系に発生するベーパの程度が異なる場合にも、燃料噴射量の不足を抑制し、かつ燃料昇圧に伴う作動音の発生を極力抑制できるようになる。
【0023】
請求項2に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記ベーパ量が基準量以上である場合に、前記所定期間を長くする側に調節することを特徴とする。
【0024】
このように所定期間設定のためのベーパ量の基準量を設定して、推定されるベーパ量が基準量以上である場合に所定期間を長くする側に調節するようにしても良い。
このことにより、推定されるベーパ量が基準量未満であれば、ベーパの発生程度が低いので、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を短くできる。したがって低圧燃料系のベーパが十分に排出されている状態で、かつ内燃機関が吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射に移行できる運転状態であるにもかかわらず、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射が継続してしまう事態を防止できる。このことから内燃機関の燃焼性に影響させずに燃料昇圧に伴う作動音を減少できる機会を極力利用できる。
【0025】
推定されるベーパ量が基準量以上であれば、ベーパの発生程度が高いので、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を長くできる。したがって低圧燃料系のベーパが未だ十分に排出されていない状態で、吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射が実行される事態を防止できる。このことから実際の燃料噴射量を不足させないようにでき、内燃機関の燃焼性の悪化を防止できる。
【0026】
請求項3に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記ベーパ量が多いほど前記所定期間を長くする側に調節することを特徴とする。
【0027】
このように推定されるベーパ量が多いほど所定期間を長くする側に調節するようにしても良い。
このことにより、推定されるベーパ量が少なければ、この少なさに対応させて、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を短くできる。したがって前述したごとく内燃機関が吸気通路インジェクタを主体とする燃料噴射に移行できる運転状態であれば、内燃機関の燃焼性に影響させずに燃料昇圧に伴う作動音を減少できる機会を極力利用できる。
【0028】
推定されるベーパ量が多ければ、この多さに対応させて、直噴インジェクタを主体とする燃料噴射期間を長くできる。したがって前述したごとく実際の燃料噴射量を不足させないようにでき、内燃機関の燃焼性の悪化を防止できる。
【0029】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記易揮発性の燃料成分の濃度として、燃料に含まれるアルコール成分の濃度を求めて、この濃度に基づいて前記ベーパ量の推定を行うことを特徴とする。
【0030】
低圧燃料系におけるベーパの発生程度に影響する易揮発性の燃料成分としては、アルコール成分が挙げられる。したがってベーパ量の推定を、燃料に含まれるアルコール成分の濃度に基づいて行うことにより、適切なベーパ量の推定ができる。このように推定されたベーパ量に応じて前記所定期間を調節することで前述した作用・効果を生じさせることができる。
【0031】
請求項5に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を、前記アルコール成分の濃度に応じて切り替え、この対応関係から内燃機関の温度及び温度履歴に基づいて求められるベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0032】
ベーパの発生程度は内燃機関の温度及び温度履歴によって変化する。したがって内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を設定し、この対応関係をアルコール成分の濃度に応じて切り替える。すなわち、前記対応関係の切り替えにより、燃料に含まれるアルコール成分の濃度に基づいたベーパ量の推定を行っていることになる。
【0033】
このことより、より適切なベーパ量を推定できる。
請求項6に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が燃料成分として存在しない場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0034】
ベーパの発生程度は内燃機関の温度及び温度履歴によって変化する。したがって、まずアルコール成分が燃料に含まれていない状態で内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定する。そして、この対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行する。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0035】
請求項7に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が基準濃度で存在する場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0036】
ベーパの発生程度は内燃機関の温度及び温度履歴によって変化する。したがって、まずアルコール成分が基準濃度で燃料に含まれる場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定する。そして、この対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行する。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0037】
請求項8に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を、前記アルコール成分の濃度に応じて切り替え、この対応関係から内燃機関の温度に基づいて求められるベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0038】
ベーパの発生程度は主として内燃機関の温度によって変化する。したがって内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を設定し、この対応関係をアルコール成分の濃度に応じて切り替える。すなわち、前記対応関係の切り替えにより、燃料に含まれるアルコール成分の濃度に基づいたベーパ量の推定を行っていることになる。
【0039】
このことより、より適切なベーパ量を推定できる。
請求項9に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が燃料成分として存在しない場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0040】
ベーパの発生程度は主として内燃機関の温度によって変化する。したがって、まずアルコール成分が燃料に含まれていない場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定する。そして、この対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行する。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0041】
請求項10に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が基準濃度で存在する場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする。
【0042】
ベーパの発生程度は主として内燃機関の温度によって変化する。したがって、まずアルコール成分が基準濃度で燃料に含まれる場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定する。そして、この対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行する。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0043】
請求項11に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項6、7、9及び10のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記対応関係に対する実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正は、前記対応関係に対して実際の前記アルコール成分の濃度に応じた係数を掛け算する処理を加えるものであることを特徴とする。
【0044】
前記対応関係に対して、実際のアルコール成分の濃度に応じた係数を掛け算する処理を加えることで、実際のアルコール成分の濃度に応じた補正を実行できる。このことで対応関係は1つ設定したのみでも、実際のアルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めることができる。
【0045】
請求項12に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4〜11のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、アルコール濃度センサにより測定することを特徴とする。
【0046】
このようにアルコール成分の濃度はアルコール濃度センサにより直接的な測定を行って求めても良く、この測定の結果に対応して、燃料に含まれるベーパ量の推定を適切に実行できる。
【0047】
請求項13に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項4〜11のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、内燃機関の燃焼状態から推定することを特徴とする。
【0048】
燃料噴射量が同一でもアルコール成分の濃度の違いにより完全燃焼に必要な酸素量が変化する。このためアルコール成分の濃度は、空燃比などの内燃機関の燃焼状態に現れる。したがってアルコール成分の濃度は、アルコール濃度センサを用いなくても、内燃機関の燃焼状態から推定できる。そして、この推定値に基づいて、燃料に含まれるベーパ量の推定を適切に実行できる。
【0049】
請求項14に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項13に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、給油直後の内燃機関の燃焼状態から推定することを特徴とする。
【0050】
易揮発性の燃料成分は給油直後に最も濃く、その後、低下する。したがって給油直後の内燃機関の燃焼状態から推定することにより、アルコール成分の濃度に対して直ちに対処できることになる。
【0051】
請求項15に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項13又は14に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記内燃機関の燃焼状態として、燃焼室にて燃焼される混合気の空燃比を用いることを特徴とする。
【0052】
より具体的には、燃焼される混合気の空燃比を、内燃機関の燃焼状態として用いることで、アルコール成分の濃度を推定できる。
請求項16に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項13〜15のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度の推定処理の実行と、アルコール成分の濃度に基づく前記ベーパ量の推定の実行とを、給油後の所定内燃機関運転回数内又は給油後の所定累積内燃機関運転時間内での内燃機関運転時に限定していることを特徴とする。
【0053】
給油後に内燃機関の運転中に前述したごとく次第に燃料中のアルコール成分は希薄化してほぼ一定化する。したがって継続的にアルコール成分の濃度の推定処理を実行しなくても、給油後の所定内燃機関運転回数内又は給油後の所定累積内燃機関運転時間内で十分に燃料成分の推定は可能である。したがってアルコール成分の濃度の推定処理を、給油後の所定内燃機関運転回数内又は給油後の所定累積内燃機関運転時間内での内燃機関運転時に限定することで、推定処理の処理負荷を極力抑制して、内燃機関の燃焼状態からアルコール成分の濃度を推定できる。
【0054】
請求項17に記載の内燃機関燃料噴射制御装置では、請求項1〜16のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記始動時燃料噴射設定手段及び前記所定期間調節手段による処理は、内燃機関の温度が所定温度以上である場合に実行されることを特徴とする。
【0055】
実際に燃料中のベーパが問題となるのは、或る程度、内燃機関の温度が高い場合である。したがって始動時燃料噴射設定手段及び所定期間調節手段による処理は、内燃機関の温度が所定温度以上である場合に実行するものとしても良い。このことにより内燃機関の温度が所定温度未満の場合には、始動開始時から直噴インジェクタと吸気通路インジェクタとの燃料噴射比率を自由に設定することができる。例えば始動時には吸気通路インジェクタのみの燃料噴射とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施の形態1の内燃機関及び電子制御装置の概略構成図。
【図2】実施の形態1の電子制御装置が実行するインジェクタ燃料噴射比率設定処理のフローチャート。
【図3】同じく始動時遅延時間設定処理のフローチャート。
【図4】(a),(b)実施の形態1のベーパ推定量マップの構成図。
【図5】実施の形態1の遅延時間マップの構成図。
【図6】実施の形態1の処理の一例を示すタイミングチャート。
【図7】実施の形態1の処理の一例を示すタイミングチャート。
【図8】実施の形態3の始動時遅延時間設定処理のフローチャート。
【図9】(a),(b)実施の形態3の基本ベーパ推定量マップの構成図。
【図10】実施の形態3のアルコール濃度補正係数マップの構成図。
【図11】(a),(b)実施の形態4の基本ベーパ推定量マップの構成図。
【図12】実施の形態4のアルコール濃度補正係数マップの構成図。
【図13】実施の形態5のアルコール濃度学習実行判定処理のフローチャート。
【図14】実施の形態5のアルコール濃度学習実行判定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0057】
[実施の形態1]
図1に本実施の形態における内燃機関2及びその制御装置である電子制御装置4についての概略構成を示す。この内燃機関2は車両走行用として車両に搭載されているものである。
【0058】
尚、図1では、内燃機関2については1気筒分の構成を示しているが、4気筒内燃機関でも良く、あるいは6気筒内燃機関でも良く、その他の気筒数の内燃機関でも良い。更に直列型、V型などの内燃機関でも良い。
【0059】
内燃機関2の各気筒6の内部には、ピストン8が往復動可能に設けられており、このピストン8の頂面と気筒6の内周面とにより燃焼室10が区画形成されている。この燃焼室10には、吸気通路12及び排気通路14がそれぞれ接続されている。吸気通路12の途中にはスロットルバルブ16が設けられており、スロットルバルブ16により燃焼室10に導入される吸入空気が調量される。
【0060】
内燃機関2に設けられた燃料供給系18には、気筒6毎に設けられた直噴インジェクタ20、気筒6毎に設けられた吸気通路インジェクタ22、高圧燃料デリバリパイプ24、低圧燃料デリバリパイプ26、高圧燃料ポンプ28、フィードポンプ30及び燃料タンク32を備えている。
【0061】
直噴インジェクタ20は、燃焼室10内に燃料を直接噴射するものである。吸気通路インジェクタ22は、吸気通路12内に燃料噴射を行うものであり、スロットルバルブ16よりも下流側、ここでは各気筒6の吸気ポート12aにて燃料噴射を行う。
【0062】
直噴インジェクタ20により噴射された燃料は、吸気バルブ34の開弁時に燃焼室10内に導入された吸入空気と混合されて混合気となる。一方、吸気通路インジェクタ22により噴射された燃料は、吸気通路12内を流れる吸入空気と混合されて混合気となった状態で吸気バルブ34の開弁時に燃焼室10内へ導入される。
【0063】
このようにして燃焼室10内に形成された混合気は、点火プラグ36によって点火されて燃焼してピストン8を駆動した後、排気バルブ38が開弁するときに排気通路14に排出される。
【0064】
各気筒6に設けられた直噴インジェクタ20は高圧燃料デリバリパイプ24に接続され、各吸気ポート12aに設けられた吸気通路インジェクタ22は低圧燃料デリバリパイプ26に接続されている。このことにより高圧燃料デリバリパイプ24からは高圧燃料が直噴インジェクタ20に供給され、低圧燃料デリバリパイプ26からは低圧燃料が吸気通路インジェクタ22に供給される。
【0065】
低圧燃料デリバリパイプ26には、低圧燃料ポンプであるフィードポンプ30を通じて低圧燃料が燃料タンク32から供給されている。一方、高圧燃料デリバリパイプ24には、フィードポンプ30によって昇圧された燃料が更に高圧燃料ポンプ28により高圧化されて高圧燃料として供給されている。
【0066】
内燃機関2には、その内燃機関運転状態を検出するための各種センサが設けられている。ここでは、クランクシャフトの回転速度(機関回転数NE)を検出するための内燃機関回転センサ40や、シリンダブロック等に形成されたウォータジャケットを流通する冷却水の冷却水温THWを内燃機関2の温度として検出するための水温センサ42が取り付けられている。
【0067】
この他に、燃焼室10から排出される排気成分に基づいて燃焼室10にて燃焼された混合気の空燃比A/Fを検出する空燃比センサ44が排気通路14に設けられている。吸入空気量GAを検出する吸入空気量センサ46が吸気通路12に設けられている。燃料に含まれる易揮発性の燃料成分であるアルコール成分の濃度を検出するアルコール濃度センサ48が燃料タンク32に設けられている。
【0068】
これら各センサ40,42,44,46,48の検出状態、及びイグニションスイッチ50の状態は、電子制御装置4に取り込まれる。電子制御装置4は、マイクロコンピュータを中心として構成された内燃機関制御装置である。電子制御装置4は、これらセンサ40,42,44,46,48の検出状態及びイグニションスイッチ50の状態に基づいて各インジェクタ20,22の燃料噴射比率やその噴射量、噴射時期を調整する燃料噴射制御をはじめとする各種制御を、内燃機関2の運転状態に応じて実行する。更に電子制御装置4は、イグニションスイッチ50がスタート位置に操作されると、スタータの回転駆動によりクランクシャフトのクランキングを実行すると共に、各インジェクタ20,22による燃料噴射及び点火プラグ36による点火を実行することにより、内燃機関2を始動させる。
【0069】
次に電子制御装置4により実行されるインジェクタ燃料噴射比率設定処理を図2に、始動時遅延時間設定処理を図3のフローチャートに示す。これらの処理は、所定時間周期あるいは所定クランク角周期で繰り返し割り込み処理として実行されている。
【0070】
尚、本実施の形態において、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)は、高温始動時において実行される処理である。すなわち内燃機関2の温度(ここでは冷却水温THW)が、60℃〜90℃の間に設定した高温始動時を判定するための所定温度以上である場合に、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)が実行されるものとする。このため冷却水温THWが所定温度未満であれば、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)には拘束されずに始動時に行われる2つのインジェクタ20,22間での燃料噴射比率を設定できる。実際には、始動時には吸気通路インジェクタ22からの燃料噴射のみとすることができる。
【0071】
高温始動時に行われるインジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)について説明する。本処理が開始されると、まず内燃機関2が始動開始時か否かが判定される(S100)。ここで始動開始時とは始動時の最初のタイミングであり、始動時とは、イグニションスイッチ50が操作されることによりスタータが回転させられてクランキングが開始してから、燃焼室10にて混合気の燃焼により機関回転数NEが始動判定回転数以上となるまでの期間である。
【0072】
ここで始動開始時であれば(S100でYES)、直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との間の燃料噴射比率Rinjに対して、予め設定されている始動時燃料噴射比率STinjの値が設定される(S102)。
【0073】
例えば燃料噴射比率Rinjは、式1に示すごとくに表されているものとする。
[式1] Rinj = 100×Dfi/(Dfi+Pfi)
ここで燃料噴射量Dfiは直噴インジェクタ20が分担して噴射する燃焼1回当たりの燃料噴射量(mm3)、燃料噴射量Pfiは吸気通路インジェクタ22が分担して噴射する燃焼1回当たりの燃料噴射量(mm3)を表している。したがって式1の燃料噴射比率Rinjは直噴インジェクタ20の燃料噴射比率(%)を表している。
【0074】
そして始動時燃料噴射比率STinj=90%が設定されているものとする。すなわち直噴インジェクタ20が分担する燃料噴射量Dfi:吸気通路インジェクタ22が分担する燃料噴射量Pfi=9:1である。
【0075】
このことは直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両方で燃料噴射が実行されると共に、直噴インジェクタ20の燃料噴射比率が吸気通路インジェクタ22の燃料噴射比率よりも十分に大きく設定されることで、直噴インジェクタ20による燃料噴射が主体となっている状態を示している。
【0076】
こうして一旦本処理を出る。したがって、以後の始動時の期間においては直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が実行されることになる。
次の制御周期では、始動時ではあるが、始動開始時ではないので(S100でNO)、始動後にて更に遅延時間DTinjが経過したか否かが判定される(S104)。この遅延時間DTinjは、後述するごとく始動時遅延時間設定処理(図3)にて算出される時間である。始動開始時から始動完了までの期間と、この遅延時間DTinjとの合計が、請求項の所定期間に相当する。
【0077】
始動後にて遅延時間DTinjが経過していなければ(S104でNO)、始動後であっても、燃料噴射比率Rinjとして始動時燃料噴射比率STinjが用いられる状態が継続する(S102)。
【0078】
したがって始動開始時から始動完了タイミングを経過し、更に遅延時間DTinjが経過するまでの期間は、燃料噴射量Dfi:燃料噴射量Pfi=9:1にて、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が実行される。すなわち直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射の終了が遅延することになる。
【0079】
そして始動完了タイミングから遅延時間DTinjが経過すると(S104でYES)、次に徐変処理が完了したか否かが判定される(S106)。この徐変処理とは、燃料噴射比率Rinj=始動時燃料噴射比率STinjに設定されている状態から、内燃機関運転状態に応じた燃料噴射比率Rinjに徐々に切り替えるために行われる処理である。
【0080】
初期においては徐変処理は完了していないので(S106でNO)、始動時燃料噴射比率STinjから、内燃機関運転状態(ここではアイドル状態か否か、あるいは負荷率KL及び機関回転数NEの状態)に基づいて燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率へ、燃料噴射比率Rinjを徐々に変化させる処理が行われる(S108)。
【0081】
ここで負荷率KLは、内燃機関2の負荷を表す指標の1つであり、内燃機関2の1回転当たりの基準最大吸入空気量に対する実際の1回転当たりの吸入空気量GA/NEの割合(%)である。このような負荷としては、負荷率KL以外に、スロットルバルブ16より下流側のサージタンク12b内の吸気圧を測定して、この吸気圧を用いても良い。
【0082】
したがって、このタイミングで例えば内燃機関2がアイドル状態であって、燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率が、吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射を実行する状態であったとしても、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射状態から即時に吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射状態に変化することはない。直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射状態から、吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射状態に徐々に変化することになる。
【0083】
したがって、以後の制御周期で、ステップS100でNO、ステップS104でYESと判定されても、徐変処理が完了するまで、徐変処理未完了であるので(S106でNO)、上述した徐変処理(S108)が継続することになる。すなわち直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射状態から、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率へ、徐々に切り替わる処理(S108)が継続することになる。
【0084】
そして吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射状態に完全に切り替わることで徐変処理が完了すると(S106でYES)、燃料噴射比率Rinjは、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率が、そのまま設定される(S110)。
【0085】
これ以後における内燃機関2の運転継続中は、ステップS100でNO、ステップS104でYES、ステップS106でYESと判定されて、燃料噴射比率Rinjは、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる燃料噴射比率が燃料噴射比率Rinjに設定される処理(S110)が継続する。
【0086】
次に始動時遅延時間設定処理(図3)について説明する。本処理が開始されると、まず始動開始時か否かが判定される(S150)。この始動開始時については、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)にて説明したごとくである。
【0087】
ここで始動開始時であれば(S150でYES)、水温センサ42にて検出されている現在の冷却水温THWを読み込む(S152)。更に前回トリップ(車両走行に伴う内燃機関運転)終了時に電子制御装置4内の不揮発メモリに記憶しておいた冷却水温THWpを読み込む(S154)。
【0088】
これら冷却水温THWと冷却水温THWpとから、内燃機関2の温度履歴に相当する温度差ΔTを、式2に示すごとく算出する(S156)。
[式2] ΔT ← THW − THWp
この温度差ΔTは、内燃機関始動開始時において、前回の内燃機関停止時からの冷却水温THWの上昇分を表している。
【0089】
次に現在の燃料中のアルコール濃度Cohを読み込む(S158)。そしてこのアルコール濃度Cohに応じたベーパ推定量マップを選択する(S160)。
ベーパ推定量マップの一例を図4に示す。図4の(a)は温度差ΔT=10℃における冷却水温THWからベーパ量を求めるマップである。図4の(b)は温度差ΔT=20℃における冷却水温THWからベーパ量を求めるマップである。それぞれアルコール濃度0%、20%、80%でのマップを表している。
【0090】
したがってアルコール濃度Coh=0%であれば実線で示したマップが、図4の(a)及び(b)から選択され、アルコール濃度Coh=20%であれば一点鎖線で示したマップが選択され、アルコール濃度Coh=80%であれば二点鎖線で示したマップが選択されることになる。
【0091】
尚、これらの中間のアルコール濃度である場合、近いアルコール濃度のマップが選択される。例えばアルコール濃度Coh=10%であれば、アルコール濃度0%と20%とのマップが選択される。
【0092】
このように選択されたマップを用いて、冷却水温THW及び温度差ΔTに基づいて、ベーパ量Vpが算出される(S162)。すなわちアルコール濃度Coh=20%、冷却水温THW=T1、ΔT=10℃ならば、図4の(a)に示すアルコール濃度20%のマップが選択されて、ベーパ量としてVp1が求められる。
【0093】
アルコール濃度Coh=20%、冷却水温THW=T1、ΔT=20℃ならば、図4の(b)に示すアルコール濃度20%のマップが選択されて、ベーパ量としてVp2が求められる。
【0094】
アルコール濃度Cohや温度差ΔTが図4の(a)、(b)の中間に属する値であれば、値に近いマップが選択されているので、そのマップを利用して比例計算にてベーパ量Vpを算出する。
【0095】
このようにアルコール濃度Coh、冷却水温THW及び温度差ΔTに基づいて推定されたベーパ量Vpが基準値A以上か否かが判定される(S164)。
この基準値Aは、始動後に、吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射を実行する内燃機関運転状態、例えばアイドル状態となった場合に、燃焼室10内での燃焼性に問題を生じる程度にベーパが低圧燃料系に生じているか否かの境界を示す値である。
【0096】
したがってベーパ量Vp<Aであれば(S164でNO)、ベーパが発生していたとしても、そのベーパ量Vpは問題ない程度に少ないものとして、遅延時間DTinjは0(s)に設定される(S166)。すなわち直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射は始動完了時から直ちに徐変処理(図2:S108)を実行して終了するように設定される。
【0097】
ベーパ量Vp≧Aであれば(S164でYES)、図5に示す遅延時間マップによりベーパ量Vpに応じて遅延時間DTinjが設定される(S168)。
例えば図4の(a)にて示したベーパ量Vp1が、Vp1<Aであれば(S164でNO)、遅延時間DTinjは0(s)に設定される(S166)。
【0098】
図4の(b)にて示したベーパ量Vp2が、Vp2≧Aであれば(S164でYES)、図5のマップから、遅延時間DTinjはDT2(s)に設定される(S168)。
このようにして遅延時間DTinjが内燃機関2の始動開始時に設定されることで、前述したインジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)のステップS104の判定に用いられることになる。
【0099】
以後の制御周期では、始動開始時ではないので(S150でNO)、始動時遅延時間設定処理(図3)での実質的な処理は終了する。したがって以後に内燃機関2が停止されて、再度始動操作がなされた場合に、上述した始動時遅延時間設定処理(図3)が実行されて、新たに遅延時間DTinjを設定し、この再始動時での前記インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)のステップS104にて用いられることになる。
【0100】
図6,7のタイミングチャートに、上述した処理によりなされる遅延時間DTinj設定の例を示す。図6は燃料中のアルコール濃度が低い場合であり、図7はアルコール濃度が高い場合である。各図において(a)は機関回転数NEを、(b)は吸気通路インジェクタ22の燃料噴射比率、(c)は直噴インジェクタ20の燃料噴射比率を表している。(b)及び(c)においては実線は、ベーパ量Vpに与える温度要因(冷却水温THWや温度差ΔTの値)が小さい場合であり、一点鎖線は温度要因が大きい場合である。
【0101】
図6において、実線にて示すごとくベーパ量Vpに与える温度要因が小さい場合には、アルコール濃度Cohも低いので、始動時遅延時間設定処理(図3)では推定されるベーパ量Vpが基準値Aより小さく(S164でNO)、遅延時間DTinjは0(s)が設定されている(S166)。
【0102】
したがって内燃機関2の始動開始時(t0)から、内燃機関2が始動時とされている期間が経過するまでは(t0〜t1)、始動時燃料噴射比率STinj(図6の例では90%)にて直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両者から燃料噴射が行われる。すなわち直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射であり、その燃料噴射比率は90%に設定され、吸気通路インジェクタ22の燃料噴射比率は10%に設定される。
【0103】
始動が完了すると(t1)、遅延時間DTinj=0、すなわち遅延がなされないので、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)では始動時燃料噴射比率STinjの状態から、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる値へと燃料噴射比率Rinjが徐々に変化する(t1〜t2)。図6の例では、始動以後に内燃機関2はアイドル状態となる。アイドル状態では燃料噴射比率マップは、燃料噴射比率Rinj=0%に設定される。このため、燃料噴射比率Rinjの徐変処理終了後には、直噴インジェクタ20からは燃料噴射は行われず、吸気通路インジェクタ22から全ての燃料が噴射される状態(吸気通路インジェクタ22の燃料噴射比率が100%)となる(t2〜)。
【0104】
尚、以後、車両が走行を開始するなどによりアイドル状態を脱することで、内燃機関運転状態に応じて燃料噴射比率Rinjは変化する。
図6において、一点鎖線にて示すごとくベーパ量Vpに与える温度要因が大きい場合には、アルコール濃度Cohは低いが、始動時遅延時間設定処理(図3)で推定されるベーパ量Vpが基準値A以上となり(S164でYES)、遅延時間DTinjが遅延時間マップ(図5)から設定される(S168)。
【0105】
したがって内燃機関2の始動開始時(t0)から、始動後(t1〜)になっても、遅延時間DTinjが経過するまでは(t0〜t3)、始動時燃料噴射比率STinjに基づき、直噴インジェクタ20の燃料噴射を主体として、この直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両者から燃料噴射が行われる。
【0106】
遅延時間DTinjが経過すると(t3)、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)では、始動時燃料噴射比率STinjの状態から、内燃機関運転状態に基づいて燃料噴射比率マップから得られる値へと燃料噴射比率Rinjが徐々に変化する(t3〜t4)。そして燃料噴射比率Rinjの徐変処理後には、内燃機関運転状態によって、直噴インジェクタ20からは燃料噴射は行われず、吸気通路インジェクタ22から全ての燃料が噴射される状態となる(t4〜)。
【0107】
図7においては、実線にて示すごとくベーパ量Vpに与える温度要因が小さい場合に、アルコール濃度Cohは高いので、始動時遅延時間設定処理(図3)では推定されるベーパ量Vpは基準値A以上となり(S164でYES)、遅延時間DTinjは遅延時間マップ(図5)から設定される(S168)。したがって内燃機関2の始動開始時(t10)から始動後になっても、遅延時間DTinjが経過するまでは(t10〜t11)、始動時燃料噴射比率STinjに基づき、直噴インジェクタ20の燃料噴射を主体として、直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両者から燃料噴射が行われる。
【0108】
図7において一点鎖線にて示すごとくベーパ量Vpに与える温度要因が大きい場合には、同時にアルコール濃度Cohについても高いので、始動時遅延時間設定処理(図3)で推定されるベーパ量Vpは基準値A以上となり(S164でYES)、遅延時間DTinjが遅延時間マップ(図5)から設定される(S168)。ただし温度要因が大きい分、ベーパ量Vpも大きくなり、これに応じて遅延時間DTinjも長くなる。
【0109】
したがって内燃機関2の始動開始時(t10)から始動後となっても、遅延時間DTinjが経過するまでは(t10〜t13)、始動時燃料噴射比率STinjに基づき、直噴インジェクタ20の燃料噴射を主体として、直噴インジェクタ20と吸気通路インジェクタ22との両者から燃料噴射が行われる。
【0110】
そして図7の実線の場合も一点鎖線の場合も、遅延時間DTinjが経過すると(t11又はt13)、始動時燃料噴射比率STinjの状態から、内燃機関運転状態に基づいて得られる値へと燃料噴射比率Rinjが徐々に変化する(t11〜t12、又はt13〜t14)。そして燃料噴射比率Rinjの徐変処理後には、吸気通路インジェクタ22から全ての燃料が噴射される状態となる(t12〜、又はt14〜)。
【0111】
上述した構成において、請求項との関係は、電子制御装置4が始動時燃料噴射設定手段及び所定期間調節手段を備えた内燃機関燃料噴射制御装置に相当する。インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)が始動時燃料噴射設定手段としての処理に、始動時遅延時間設定処理(図3)が所定期間調節手段としての処理に相当する。
【0112】
以上説明した本実施の形態1によれば、以下の効果が得られる。
(1)易揮発性の燃料成分であるアルコールの濃度Cohに基づいて燃料に含まれるベーパ量Vpを推定し、このベーパ量Vpに応じて、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射を確保するための所定期間を調節している。本実施の形態では、始動時における直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射期間に対して、ベーパ量Vpに応じて設定される遅延時間DTinjを加算することにより、全体としての前記所定期間を調節している。
【0113】
このように直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射を確保するための所定期間を調節できることから、アルコール濃度Cohがベーパの発生し易い側に変化した場合には、アルコール濃度Cohに伴うベーパの発生程度に対応して直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射期間を長くできる。したがって低圧燃料デリバリパイプ26などの低圧燃料系におけるベーパが未だ十分に排出されていない状態で、吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射が実行される事態を防止できる。このため実際の燃料噴射量が不足しないようにでき、内燃機関2の燃焼性の悪化を防止できる。
【0114】
逆に、アルコール濃度Cohがベーパの発生しにくい側に変化した場合には、アルコール濃度Cohに伴うベーパの発生程度に対応して直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射期間を短くできる。したがって低圧燃料系におけるベーパが十分に排出されている状態であって、しかも内燃機関運転状態が吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射に移行できる状態であるにもかかわらず、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が継続してしまう事態を防止できる。このことから内燃機関2の燃焼性に影響させずに高圧燃料ポンプ28の作動音を減少できる機会を極力利用できることになる。
【0115】
したがってアルコール成分と他の燃料成分との間の蒸発性の違いにより、あるいはアルコール濃度Cohが異なる燃料が給油された場合などにより、アルコール濃度Cohの変化が生じて燃料供給系18に発生するベーパの程度が異なった場合も、燃料噴射量の不足を抑制し、かつ燃料昇圧に伴う作動音の発生を極力抑制できる。
【0116】
(2)推定されたベーパ量Vpが、基準値Aより少ない場合には、ベーパ量Vpが十分に少ないので、遅延時間DTinj=0としている。そして、ベーパ量Vpが基準値A以上の場合には、燃焼性を確保したままベーパを排出させる必要があるので、遅延時間DTinj>0に設定すると共に、ベーパ量Vpに応じて遅延時間DTinjを長くしている。
【0117】
このようにベーパ量Vp<基準値Aであれば、始動後にアイドル状態となると、直ちに吸気通路インジェクタ22を主体とする燃料噴射に移行することになる。このため内燃機関2の燃焼性に影響させずに高圧燃料ポンプ28の作動音を減少できる。
【0118】
ベーパ量Vp≧基準値Aでは、ベーパ量Vpに対応させて遅延時間DTinjの長さを調節している。このためベーパを排出するのに必要で十分な長さの遅延時間DTinjを設定でき、内燃機関2の燃焼性に影響させずに高圧燃料ポンプ28の作動音を適切に減少できる。
【0119】
(3)本実施の形態では、内燃機関2の温度(ここでは冷却水温THW)及び温度履歴(ここでは温度差ΔT)と、ベーパ量Vpとの対応関係であるベーパ推定量マップ(図4)を、アルコール濃度Cohに応じて複数備えている。図4の例では各温度差ΔTにおいて3つ(Coh=0%,20%,80%)を備えている。
【0120】
このように複数備えられたベーパ推定量マップ(図4)を、アルコール濃度Cohに応じて切り替えて用いることで、燃料に含まれるアルコール濃度Cohに基づいたベーパ量Vpの推定を行っている。
【0121】
このため、容易にアルコール濃度Cohに応じて低圧燃料系に発生するベーパ量Vpを推定できる。
(4)アルコール濃度Cohはアルコール濃度センサ48により直接的に測定しているので、高精度にアルコール濃度Cohが得られ、より適切なベーパ量Vp及び遅延時間DTinjを得ることができる。
【0122】
[実施の形態2]
本実施の形態では、アルコール濃度センサ48の代わりに、アイドル時などにて行われる空燃比フィードバック制御により判明する内燃機関2の燃焼状態からアルコール濃度を推定している。
【0123】
具体的には空燃比センサ44で検出された排気空燃比と目標空燃比との間の偏差量である空燃比偏差量に補正ゲインを掛けて燃料内のアルコール濃度Cohを算出する。空燃比偏差量と燃料内のアルコール濃度Cohとは比例関係があり、この比例関係の傾きを前記補正ゲインとしている。
【0124】
このように燃料中のアルコール濃度Cohは、内燃機関運転時の空燃比フィードバック制御時に得られるため、前記図3のステップS158においては、前回以前の内燃機関運転時に得られて、不揮発メモリに記憶されているアルコール濃度Cohを読み込む処理となる。他の構成は前記実施の形態1と同じである。
【0125】
以上説明した本実施の形態2によれば、アルコール濃度センサ48を設けることなく、前記実施の形態1の効果が得られる。
[実施の形態3]
本実施の形態では、前記実施の形態1又は2の構成において、始動時遅延時間設定処理(図3)の代わりに、図8に示す始動時遅延時間設定処理を実行するものである。
【0126】
始動時遅延時間設定処理(図8)において、ステップS250〜S256,S264〜S268は図3のステップS150〜S156,S164〜S168と同じである。
以下、図3と異なるステップS258〜S262を中心に説明する。
【0127】
前記図3にて説明したごとく、始動開始時(S250でYES)にて現在の冷却水温THWと前回トリップ終了時の冷却水温THWpとが読み込まれ(S252,S254)、温度差ΔTが算出される(S256)。
【0128】
次に冷却水温THW及び温度差ΔTに基づいて、図9に示す基本ベーパ推定量マップにより基本ベーパ量Vpbを算出する(S258)。
図9の基本ベーパ推定量マップは、前記図4にて示したベーパ推定量マップにおいて、アルコール濃度=0%のみを用いたマップであり、(a)に示す温度差ΔT=10℃のマップと、(b)に示す温度差ΔT=20℃のマップとの2つが設けられている。
【0129】
例えば、冷却水温THW=T1であり、ΔT=10℃ならば、図9の(a)に示すΔT=10℃のマップが選択されて、基本ベーパ量Vpb1が求められる。
冷却水温THW=T1、ΔT=20℃ならば、図9の(b)に示すΔT=20℃のマップが選択されて、基本ベーパ量Vpb2が求められる。
【0130】
温度差ΔTが図9の(a)、(b)の中間に属する値であれば、2つの基本ベーパ量Vpb1,Vpb2を用いた比例計算にて基本ベーパ量Vpbを算出する。
次にアルコール濃度Cohを読み込む(S260)。このアルコール濃度Cohは、前記実施の形態1のごとくアルコール濃度センサ48にて検出した現在値、あるいは前記実施の形態2のごとく前回の内燃機関運転時におけるアルコール濃度推定値を用いる。
【0131】
次にステップS258にて求められた基本ベーパ量Vpbに対して、アルコール濃度Cohに応じた補正処理ftを実行してベーパ量Vpを算出する(S262)。
具体的には、アルコール濃度Cohに対応する補正係数pohを、図10に示すごとくのアルコール濃度補正係数マップから求め、式3に示すごとく、基本ベーパ量Vpbと補正係数pohとの積により、ベーパ量Vpを算出する。
【0132】
[式3] Vp ← Vpb×poh
そして前記図3にて説明したごとく、ベーパ量Vp<基準値Aであれば(S264でNO)、遅延時間DTinjは0(s)に設定され(S266)、ベーパ量Vp≧基準値Aであれば(S264でYES)、遅延時間DTinjは、ベーパ量Vpに基づいて前記図5に示した遅延時間マップにより算出される(S268)。
【0133】
以上説明した本実施の形態3によれば、前記実施の形態1又は実施の形態2の効果を生じると共に、アルコール濃度Cohに対応して複数のベーパ推定量マップを設けなくても良く、電子制御装置4におけるメモリが節約できる。
【0134】
[実施の形態4]
本実施の形態では、前記実施の形態3にて用いた図9の基本ベーパ推定量マップの代わりに図11に示すごとくのマップを用いている。このマップは、0%ではないアルコール基準濃度(例えば20%)でのベーパ推定量を表すものである。更にアルコール濃度補正係数マップとして、図12のマップを用いている。他の構成は前記実施の形態3と同じである。
【0135】
したがってステップS258では、冷却水温THW及び温度差ΔTに基づいて、図11に示す基本ベーパ推定量マップにより、アルコール基準濃度における基本ベーパ量Vpbを算出する。
【0136】
例えば、冷却水温THW=T1であり、ΔT=10℃ならば、図11の(a)に示すΔT=10℃のマップが選択されて、基本ベーパ量Vpb21が求められる。
冷却水温THW=T1、ΔT=20℃ならば、図11の(b)に示すΔT=20℃のマップが選択されて、基本ベーパ量Vpb22が求められる。
【0137】
温度差ΔTが図11の(a)、(b)の中間に属する値であれば、2つの基本ベーパ量Vpb21,Vpb22を用いた比例計算にて基本ベーパ量Vpbを算出する。
次にアルコール濃度Cohを読み込み(S260)、ステップS258にて求められた基本ベーパ量Vpbに対して、アルコール濃度Cohに応じた補正処理ftを実行してベーパ量Vpを算出する(S262)。
【0138】
ここではアルコール濃度Cohに対応する補正係数pohを、図12に示すごとくのアルコール濃度補正係数マップから求め、前記式3と同様に、基本ベーパ量Vpbと補正係数pohとの積により、ベーパ量Vpを算出する。
【0139】
そして前記図3に説明したごとく、ベーパ量Vp<基準値Aであれば(S264でNO)、遅延時間DTinjは0(s)に設定され(S266)、ベーパ量Vp≧基準値Aであれば(S264でYES)、遅延時間DTinjは、ベーパ量Vpに基づいて前記図5に示した遅延時間マップにより算出される(S268)。
【0140】
以上説明した本実施の形態4によれば、アルコール基準濃度として0%以外の濃度の基本ベーパ推定マップのみでも、前記実施の形態1又は実施の形態2の効果を生じる。したがって前記実施の形態3と同様な効果を生じる。
【0141】
[実施の形態5]
本実施の形態では、図1に示した構成において、アルコール濃度センサ48は設けられておらず、アルコール濃度Cohは前記実施の形態2にて説明したごとく、空燃比フィードバック制御時に学習されて不揮発メモリに記憶されているものとする。
【0142】
更に燃料タンク32の蓋に対するロック解除用のフューエルリッドオープナーには、給油時検出スイッチが設けられている。このため、給油時にフューエルリッドオープナーのレバーを操作した際には、電子制御装置4が給油時であることを検出できる。
【0143】
尚、フューエルリッドオープナーに設けたスイッチではなく、直接、燃料タンク32の蓋にスイッチを設けて給油時であることを検出しても良い。この他に、燃料タンク32内に液面レベルセンサを設けて燃料の液面レベルの変化により給油時であることを検出しても良い。
【0144】
このような構成において、前述した空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習は、図13に示すごとくのアルコール濃度学習実行判定処理によって、学習実行許可か禁止かが決定される。他の構成は前記実施の形態1,3,4のいずれかと同じである。
【0145】
アルコール濃度学習実行判定処理(図13)は、内燃機関2の始動時に一度実行される処理である。本処理(図13)が開始されると、まず始動直前に給油有りか否かが判定される(S300)。
【0146】
ここで給油時検出スイッチの作動を検出したことにより始動直前に給油されたことが判明すれば(S300でYES)、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は許可される(S302)。したがって次回の始動開始時には、始動時遅延時間設定処理(図3又は図8)では、新たに学習されて更新されたアルコール濃度Cohを読み込んでベーパ量Vpが推定されて、遅延時間DTinjが設定されることになる。
【0147】
給油時検出スイッチが作動しておらず始動直前に給油されていなければ(S300でNO)、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は禁止される(S304)。したがって次回の始動開始時には、始動時遅延時間設定処理(図3又は図8)では、前回トリップ時と同じ値のアルコール濃度Cohにてベーパ量Vpが推定されて、遅延時間DTinjが設定されることになる。
【0148】
尚、図13の処理の代わりに、図14に示すごとく、内燃機関2の始動直前の給油のみでなく、所定トリップ回数以前から今回の始動の間に始動直前給油が有れば、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行を許可するようにしても良い。
【0149】
すなわち、アルコール濃度学習実行判定処理(図14)では、まず直前給油無しの状態のトリップ回数が所定トリップ回数B以下か否かが判定される(S310)。所定トリップ回数Bとしては例えば「2〜3」の値が設定される。
【0150】
ここで給油時検出スイッチの作動により始動直前〜所定トリップ回数Bのトリップ間に一度でも給油されていた場合には(S310でYES)、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は許可される(S312)。したがって次回の始動開始時には、始動時遅延時間設定処理(図3又は図8)では、新たに学習されて更新されたアルコール濃度Cohを読み込んでベーパ量Vpが推定されて、遅延時間DTinjが設定されることになる。
【0151】
トリップ回数が所定トリップ回数Bを越えても給油時検出スイッチが作動しておらず、給油が一度もなされていなければ(S310でNO)、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は禁止される(S314)。したがって次回の始動開始時には、始動時遅延時間設定処理(図3又は図8)では、前回トリップ時と同じ値のアルコール濃度Cohを読み込んでベーパ量Vpが推定されて、遅延時間DTinjが設定されることになる。
【0152】
以上説明した本実施の形態5によれば、以下の効果を生じる。
(1)アルコール濃度センサ48を設けることなく、前記実施の形態1,3,4にて述べたごとくの効果を生じさせることができる。
【0153】
(2)給油からのトリップ回数が所定トリップ回数B以内の場合には、内燃機関運転時に高圧燃料デリバリパイプ24及び低圧燃料デリバリパイプ26に流れ込む燃料内のアルコール濃度が大きく変化する可能性が高い。このため、このような内燃機関運転時には、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は許可している。
【0154】
しかし給油からトリップ回数が所定トリップ回数Bを越えた場合には、一旦大きくなったアルコール濃度は低下すると共に、その濃度も安定化している。このため空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習実行は禁止している。
【0155】
すなわち空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習を、給油から所定トリップ回数B内に限定している。このことから電子制御装置4の不要な処理を省いて、処理負荷を低下させることができる。
【0156】
[その他の実施の形態]
・前記各実施の形態の始動時遅延時間設定処理(図3,図8)で求められる遅延時間DTinjは始動完了からの時間として設定されていたが、始動開始時から行われる直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射期間の全体を設定する時間を求めても良い。例えば、図6,7では、内燃機関始動開始時t0,t10〜遅延時間DTinjの終了タイミングまでの期間を求めても良い。
【0157】
・前記各実施の形態の始動時遅延時間設定処理(図3,図8)で求められた遅延時間DTinjの期間では、始動時と同じ燃料噴射、すなわち始動時燃料噴射比率STinjで直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が行われていた。遅延時間DTinjの期間では、直噴インジェクタ20を主体とする燃料噴射が行われれば良いので、同一の燃料噴射比率Rinjで噴射する必要はない。すなわち遅延時間DTinjの期間では、燃料噴射比率Rinjを始動時燃料噴射比率STinjよりも少し低くしたり高くしたりしても良い。
【0158】
・前記実施の形態1にて述べたごとく、インジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)は高温始動時において実行される処理としたが、高温始動時に限らずにインジェクタ燃料噴射比率設定処理(図2)を実行しても良い。この場合でも高温始動時では、遅延時間DTinjが0(s)を越える値に設定されることで、前記各実施の形態にて説明したごとくの効果を生じる。
【0159】
・前記各実施の形態では、アルコール濃度Cohと共に、冷却水温THWと温度差ΔTとに基づいてベーパ量Vpを推定したが、冷却水温THWと温度差ΔTとの両方を用いるのではなく、アルコール濃度Cohと共に冷却水温THWのみを用いてベーパ量Vpを推定しても良い。
【0160】
・前記実施の形態5の図14では直前給油無しの継続状態を給油後のトリップ回数にて判定したが、内燃機関運転の累積運転時間にて判定しても良い。すなわち給油後に運転している累積時間が所定累積運転時間以下であれば、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習を許可し、所定累積運転時間を越えていれば、空燃比フィードバック制御時のアルコール濃度学習を禁止する。
【0161】
・前記実施の形態においては、図1に示したごとく、吸気通路インジェクタ22は、吸気通路12の内で吸気ポート12aの位置に設けられていた。これ以外に吸気通路12が気筒6毎に分岐する前の集合部分(サージタンク12bなど)に、吸気通路インジェクタ22を設けることで、全気筒につき1本の吸気通路インジェクタ22にて吸気通路12での燃料噴射を実行しても良い。
【0162】
・始動時遅延時間設定処理(図3,図8)にてステップS164,S264の判定は実行せずに、ステップS162,S262から直ちにステップS168,S268の処理を実行しても良い。すなわち遅延時間マップ(図5)のみによって、遅延時間DTinjをベーパ量Vpに対応した設定としても良い。
【0163】
あるいは、ステップS168,S268においては、一定の遅延時間DTinjを設定するものとしても良い。すなわち基準値Aのみでベーパ量Vpを判定することで遅延時間DTinjをステップ的に設定しても良い。
【0164】
・前記各実施の形態では、内燃機関の温度及び温度履歴としては、冷却水温THW及びその温度差ΔTを用いたが、冷却水温THW及びその温度履歴以外に、潤滑オイル温度や燃料温度とその温度履歴とを用いても良い。又は潤滑オイル温度や燃料温度のみでも良い。
【符号の説明】
【0165】
2…内燃機関、4…電子制御装置、6…気筒、8…ピストン、10…燃焼室、12…吸気通路、12a…吸気ポート、12b…サージタンク、14…排気通路、16…スロットルバルブ、18…燃料供給系、20…直噴インジェクタ、22…吸気通路インジェクタ、24…高圧燃料デリバリパイプ、26…低圧燃料デリバリパイプ、28…高圧燃料ポンプ、30…フィードポンプ(低圧燃料ポンプ)、32…燃料タンク、34…吸気バルブ、36…点火プラグ、38…排気バルブ、40…内燃機関回転センサ、42…水温センサ、44…空燃比センサ、46…吸入空気量センサ、48…アルコール濃度センサ、50…イグニションスイッチ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に高圧燃料を噴射する直噴インジェクタと、燃焼室へ空気を供給する吸気通路内に低圧燃料を噴射する吸気通路インジェクタとを有する内燃機関に対して、これらインジェクタ間の燃料噴射比率を内燃機関運転状態に応じて調節する燃料噴射制御装置であって、
内燃機関始動開始時から所定期間が経過するまで、前記直噴インジェクタの燃料噴射比率を前記吸気通路インジェクタの燃料噴射比率よりも大きくして、前記直噴インジェクタと前記吸気通路インジェクタとの両方で燃料噴射させる始動時燃料噴射設定手段と、
燃料に含まれるベーパ量を推定し、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節する所定期間調節手段とを備え、
前記所定期間調節手段は、燃料に含まれるベーパ量の推定を、易揮発性の燃料成分の濃度に基づいて行うことを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記ベーパ量が基準量以上である場合に、前記所定期間を長くする側に調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記ベーパ量が多いほど前記所定期間を長くする側に調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記易揮発性の燃料成分の濃度として、燃料に含まれるアルコール成分の濃度を求めて、この濃度に基づいて前記ベーパ量の推定を行うことを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を、前記アルコール成分の濃度に応じて切り替え、この対応関係から内燃機関の温度及び温度履歴に基づいて求められるベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が燃料成分として存在しない場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項7】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が基準濃度で存在する場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項8】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を、前記アルコール成分の濃度に応じて切り替え、この対応関係から内燃機関の温度に基づいて求められるベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項9】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が燃料成分として存在しない場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項10】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が基準濃度で存在する場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項11】
請求項6、7、9及び10のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記対応関係に対する実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正は、前記対応関係に対して実際の前記アルコール成分の濃度に応じた係数を掛け算する処理を加えるものであることを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項12】
請求項4〜11のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、アルコール濃度センサにより測定することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項13】
請求項4〜11のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、内燃機関の燃焼状態から推定することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項14】
請求項13に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、給油直後の内燃機関の燃焼状態から推定することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記内燃機関の燃焼状態として、燃焼室にて燃焼される混合気の空燃比を用いることを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度の推定処理の実行と、アルコール成分の濃度に基づく前記ベーパ量の推定の実行とを、給油後の所定内燃機関運転回数内又は給油後の所定累積内燃機関運転時間内での内燃機関運転時に限定していることを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記始動時燃料噴射設定手段及び前記所定期間調節手段による処理は、内燃機関の温度が所定温度以上である場合に実行されることを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項1】
燃焼室内に高圧燃料を噴射する直噴インジェクタと、燃焼室へ空気を供給する吸気通路内に低圧燃料を噴射する吸気通路インジェクタとを有する内燃機関に対して、これらインジェクタ間の燃料噴射比率を内燃機関運転状態に応じて調節する燃料噴射制御装置であって、
内燃機関始動開始時から所定期間が経過するまで、前記直噴インジェクタの燃料噴射比率を前記吸気通路インジェクタの燃料噴射比率よりも大きくして、前記直噴インジェクタと前記吸気通路インジェクタとの両方で燃料噴射させる始動時燃料噴射設定手段と、
燃料に含まれるベーパ量を推定し、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節する所定期間調節手段とを備え、
前記所定期間調節手段は、燃料に含まれるベーパ量の推定を、易揮発性の燃料成分の濃度に基づいて行うことを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記ベーパ量が基準量以上である場合に、前記所定期間を長くする側に調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記ベーパ量が多いほど前記所定期間を長くする側に調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記易揮発性の燃料成分の濃度として、燃料に含まれるアルコール成分の濃度を求めて、この濃度に基づいて前記ベーパ量の推定を行うことを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を、前記アルコール成分の濃度に応じて切り替え、この対応関係から内燃機関の温度及び温度履歴に基づいて求められるベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が燃料成分として存在しない場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項7】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が基準濃度で存在する場合の内燃機関の温度及び温度履歴とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項8】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を、前記アルコール成分の濃度に応じて切り替え、この対応関係から内燃機関の温度に基づいて求められるベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項9】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が燃料成分として存在しない場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項10】
請求項4に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記アルコール成分が基準濃度で存在する場合の内燃機関の温度とベーパ量との対応関係を予め設定し、この対応関係に対して、実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正を実行することで、実際の前記アルコール成分の濃度に応じたベーパ量を求めて、このベーパ量に応じて前記所定期間を調節することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項11】
請求項6、7、9及び10のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記対応関係に対する実際の前記アルコール成分の濃度に応じた補正は、前記対応関係に対して実際の前記アルコール成分の濃度に応じた係数を掛け算する処理を加えるものであることを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項12】
請求項4〜11のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、アルコール濃度センサにより測定することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項13】
請求項4〜11のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、内燃機関の燃焼状態から推定することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項14】
請求項13に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度を、給油直後の内燃機関の燃焼状態から推定することを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、前記内燃機関の燃焼状態として、燃焼室にて燃焼される混合気の空燃比を用いることを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記所定期間調節手段は、燃料におけるアルコール成分の濃度の推定処理の実行と、アルコール成分の濃度に基づく前記ベーパ量の推定の実行とを、給油後の所定内燃機関運転回数内又は給油後の所定累積内燃機関運転時間内での内燃機関運転時に限定していることを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の内燃機関燃料噴射制御装置において、前記始動時燃料噴射設定手段及び前記所定期間調節手段による処理は、内燃機関の温度が所定温度以上である場合に実行されることを特徴とする内燃機関燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−7552(P2012−7552A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144981(P2010−144981)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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