説明

基板作製方法およびモールド製造方法

【課題】ハードマスクパターンを用いたドライエッチングで基板の表面に凹凸のパターンを形成する場合に、パターンの側面をボーイング形状にしないで垂直面に近づける。
【解決手段】基板上にハードマスク層を形成する第1工程(S2)と、ハードマスク層を覆う状態でレジスト層を形成した後、レジスト層をパターニングしてレジストパターンを形成する第2工程(S3〜S5)と、レジストパターンをマスクに用いてハードマスク層をエッチングしてハードマスクパターンを形成する第3工程(S6)と、ハードマスクパターンをマスクに用いて基板をドライエッチングすることにより、基板に凹凸のパターンを形成する第4工程(S8)と、を含み、第4工程(S8)においては、ハードマスクパターンの後退に寄与するガスを添加したエッチングガスを用いて基板をドライエッチングすることにより、基板のエッチングの進行とともにハードマスクパターンを後退させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板作製方法およびモールド製造方法に関する。さらに詳しくは、凹凸のパターンを有する基板を作製する場合に適用される基板作製方法およびモールド製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に凹凸のパターンを形成する方法として、以下の方法が知られている。まず、基板上にハードマスク層を介してレジストパターンを形成する。次に、このレジストパターンをマスクに用いてハードマスク層をパターニングすることにより、ハードマスクパターンを形成する。次に、このハードマスクパターンをマスクに用いて基板をエッチングする。
【0003】
このような方法でシリコン基板に凹凸のパターンを形成する場合、ハードマスク層として酸化シリコン膜を用いる技術が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。ただし、酸化シリコン膜によってハードマスク層を形成すると、ハードマスク材料とシリコンとのエッチング選択比をあまり大きく確保できない。
【0004】
また従来においては、酸化シリコン膜をエッチングする場合、エッチング用のマスク材料として、クロムまたはクロム合金を用いる技術が提案されている(たとえば、特許文献2、3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−208484号公報
【特許文献2】特開平6−2991090号公報
【特許文献3】特開2003−86513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、シリコン基板に凹凸のパターンを形成するにあたって、ハードマスク層をクロム等の金属膜で形成すると、酸化シリコン膜を用いる場合に比べて、ハードマスク層を薄くしてパターンの微細化および高精度化を図ることが可能となる。
【0007】
ただし、ハードマスクパターンをマスクに用いてシリコン基板をドライエッチングする場合は、シリコン基板に形成されるパターンの側面が「ボーイング形状」になることがある。ボーイング形状とは、次のように定義される形状である。すなわち、シリコンの表面にエッチングによって断面凹形状の円孔パターンを形成する場合は、当該円孔パターンの入口部分の孔径(開口径)に比べて当該円孔パターンの中間深さ部分の孔径が大きくなる形状をいう。また、シリコンの表面にエッチングによって断面凹形状の溝パターンを形成する場合は、当該溝パターンの入口部分の溝幅に比べて当該溝パターンの中間深さ部分の溝幅が広くなる形状をいう。
【0008】
シリコン基板に形成されるパターンの側面がボーイング形状になる主な理由は、シリコンのエッチングが等方的に進行することによって、ハードマスクパターンの下でシリコンがサイドエッチングされるためである。具体的には、たとえば、ハロゲンガスを用いてシリコンをエッチングする場合、プロセス圧力(エッチングチャンバー内の圧力)の設定によってはシリコンのエッチングが等方的に進む。このため、シリコンがサイドエッチングされ、最終的に得られるパターンの側面がボーイング形状になる。また、これを回避するために、プロセス圧力を低くすると、シリコンのエッチングレートが低下してしまう。
【0009】
また、シリコン基板を高いアスペクト比でエッチングする、いわゆる深掘りエッチングでは、パターンの側面の垂直性を維持するために、サイドエッチングの抑制が重要な課題となっている。サイドエッチングの影響は、高い精度で微細なパターンを形成する必要があるインプリント用のモールド(原盤)を製造する場合に、特に大きくなる。その理由は、次のような事情による。すなわち、インプリント法においては、被転写基板に形成した未硬化状態のレジスト層にモールドのパターンを押し付けた状態で、たとえば、熱の印加や光の照射により、レジストを硬化させる。このとき、モールドの押し付けによってパターンのへこみ部分に充填されたレジストは、そのパターンの形状にならって硬化する。このため、モールドのパターンの側面がボーイング形状になっていると、レジスト硬化後に被転写基板からモールドを剥離するときに、モールドのパターンにレジストが引っ掛かり、被転写基板からモールドを剥離することが困難になる。また、被転写基板からモールドを剥離できたとしても、被転写基板に形成されるパターンの形状が崩れたり、パターンそのものが壊れたりするおそれがある。
【0010】
本発明の主な目的は、ハードマスクパターンをマスクに用いたドライエッチングによって基板の表面に凹凸のパターンを形成する場合に、最終的に得られるパターンの側面を垂直面に近づけることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、
基板上にハードマスク層を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記基板上に前記ハードマスク層を覆う状態でレジスト層を形成した後、当該レジスト層をパターニングすることにより、前記基板上にレジストパターンを形成する第2工程と、
前記第2工程の後に、前記レジストパターンをマスクに用いて前記ハードマスク層をエッチングすることにより、前記基板上にハードマスクパターンを形成する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記ハードマスクパターンをマスクに用いて前記基板をドライエッチングすることにより、前記基板に凹凸のパターンを形成する第4工程と、を含み、
前記第4工程においては、前記ハードマスクパターンの後退に寄与するガスを添加したエッチングガスを用いて前記基板をドライエッチングすることにより、前記基板のエッチングの進行とともに前記ハードマスクパターンを後退させる
ことを特徴とする基板作製方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、
前記第2工程においては、前記第3工程で前記レジストパターンをマスクに用いて前記ハードマスク層をエッチングしたときに得られる前記ハードマスクパターンの開口寸法が規定の寸法よりも小さくなるように、前記レジストパターンを形成しておき、
前記第4工程においては、前記ハードマスクパターンの開口寸法が当該ハードマスクパターンの後退によって前記規定の寸法となるように、前記基板をエッチングする
ことを特徴とする上記第1の態様に記載の基板作製方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、
前記第1工程においては、前記基板にシリコン基板を用いるとともに、前記ハードマスク層をクロムまたはクロム合金で形成し、
前記第4工程においては、前記ハードマスクパターンの後退に寄与するガスとして酸素ガスを添加する
ことを特徴とする上記第1または第2の態様に記載の基板作製方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、
上記第1、第2または第3の態様に記載の基板作製方法を適用して前記基板に凹凸のパターンを形成することにより、インプリント用のモールドを得る
ことを特徴とするモールド製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハードマスクパターンをマスクに用いたドライエッチングによって基板の表面に凹凸のパターンを形成する場合に、最終的に得られるパターンの側面を垂直面に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る基板作製方法の基本的な手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態に係る基板作製方法の各工程の処理内容を説明する図(その1)である。
【図3】本発明の実施の形態に係る基板作製方法の各工程の処理内容を説明する図(その2)である。
【図4】ハードマスクパターンの後退の事例を説明する図である。
【図5】シリコン基板のエッチングの進行状態を時系列に示す模式図である。
【図6】実験結果で得られたパターンの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.基板作製方法の基本的な手順
2.特徴的な工程の説明
3.実験結果
4.実施の形態による効果
5.変形例等
【0018】
<1.基板作製方法の基本的な手順>
まず、本発明の実施の形態に係る基板作製方法の基本的な手順について説明する。
本発明の実施の形態に係る基板作製方法は、大きくは、図1に示すように、基板準備工程S1と、ハードマスク層形成工程S2と、レジスト層形成工程S3と、レジスト露光工程S4と、レジスト現像工程S5と、ハードマスクパターン形成工程S6と、レジストパターン除去工程S7と、基板エッチング工程S8と、ハードマスクパターン除去工程S9と、を含むものである。
以下、各工程について、図2および図3を用いて説明する。
【0019】
(基板準備工程S1)
まず、図2(A)に示すように、加工の対象物となる基板1を用意する。この基板1は、たとえば、平面視円形の平らな基板であって、適度な剛性を奏する程度の厚みを有する。基板1としては、後述する基板エッチング工程S8でドライエッチングが可能な基板を用いる。具体的には、シリコン基板、石英基板などを用いることができる。本実施の形態においては、一例として、基板1にシリコン基板を用いることとする。また、以降の説明では、「基板1」を「シリコン基板1」と記述する。
【0020】
(ハードマスク層形成工程S2)
次に、図2(B)に示すように、シリコン基板1上にハードマスク層2を形成する。具体的には、シリコン基板1の表面を覆うようにハードマスク層2を形成する。ここで記述するシリコン基板1の表面とは、酸化シリコンをほとんど含まない、シリコンによって構成される面をいう。ただし、シリコン基板1を構成しているシリコンの表面には、シリコン基板1の取り扱い上またはプロセス上、特に意図しなくても、大気中やエッチングチャンバー内に存在する酸素との結合によって薄い酸化シリコン膜(自然酸化膜)が形成される。この場合、シリコン基板1の表面を覆う酸化シリコン膜は、非常に薄い膜となる。このため、後述する基板エッチング工程S8でシリコン基板1のエッチングを開始すると、すぐに酸化シリコン膜が除去され、これに引き続いてシリコンがエッチングされる。したがって、本実施の形態に係る基板作製方法は、シリコン基板1の表面がシリコンのみで構成されている場合にかぎらず、このシリコン表面が上記の薄い酸化シリコン膜で覆われている場合、あるいはエッチングに支障のない薄膜で覆われている場合にも同様に適用されるものとする。
【0021】
ハードマスク層2は、後述する基板エッチング工程S8でシリコン基板1をエッチングするときのマスクパターンの元になるものである。ハードマスク層2は、ハードマスク材料を用いて形成する。ハードマスク材料としては、金属(合金を含む)材料を用いることができる。具体的には、たとえば、クロムまたはクロム合金(窒化クロムなど)を好適に用いることができる。また、ハードマスク層2の形成は、たとえば、スパッタ法を用いて行うことができる。その際、ハードマスク層2の厚さは、最終的にシリコン基板1に形成される凹凸のパターンの精度を考慮すると、なるべく薄くすることが好ましい。具体的には、たとえば、5nm以下の厚さとする。
【0022】
(レジスト層形成工程S3)
次に、図2(C)に示すように、シリコン基板1上にハードマスク層2を覆う状態でレジスト層3を形成する。レジスト層3の形成は、たとえば、スピンコート法を用いて行う。レジスト材料としては、たとえば、α−クロロメタクリレートとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト材料のように、電子線描画用のレジスト材料として一般的なもの(具体的には日本ゼオン社製ZEP520A)を用いることができる。そして、このようなレジスト材料をハードマスク層2の上面にスピンコート法により所定の厚さに成膜し、その後、ベーク処理を行うことで、レジスト層3を形成する。レジスト層3の厚さは、後述するハードマスクパターン形成工程S6でハードマスク層2をエッチングするときに、このエッチングが完了するまでレジスト層3(レジストパターン3P)が残存する厚さとする。
【0023】
(レジスト露光工程S4)
次に、レジスト層3をパターニングするための処理として、レジスト層3の露光および現像を順に行う。具体的には、図2(D)に示すように、シリコン基板1上のレジスト層3を電子線の照射により露光する。このレジスト露光工程においては、たとえば、電子線描画装置を用いてレジスト層3の所定部位に電子線を照射することにより、レジスト層3を所定のパターンで露光する。このとき、レジスト層3がポジ型のレジスト材料を用いて形成されている場合は、電子線を照射した部分(露光部分)が可溶化する。また、レジスト層3がネガ型のレジスト材料を用いて形成されている場合は、電子線を照射した部分が不溶化する。本実施の形態においては、一例として、ポジ型のレジスト材料を用いてレジスト層3を形成するものとする。
【0024】
(レジスト現像工程S5)
次に、図3(A)に示すように、シリコン基板1上のレジスト層3を現像することにより、レジストパターン3Pを形成する。このレジスト現像工程においては、たとえば、露光済みのレジスト層3に対して現像剤を供給することにより、レジスト層3の露光部分を現像剤で溶融し除去する。現像剤としては、たとえば、フルオロカーボンを含む溶媒(具体的には、バートレルXF(登録商標)、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)を含む溶液、酢酸−n−アミル、酢酸エチル若しくはそれらの混合物からなる溶媒(具体的には、ZED−N50(日本ゼオン社製))を含む溶液、または、これら溶液の混合液等を用いることができる。これにより、シリコン基板1上にハードマスク層2を介してレジストパターン3Pが形成された状態となる。
以降の説明では、レジスト層形成工程S3、レジスト露光工程S4およびレジスト現像工程S5を含む、レジストパターン3Pの形成工程を、「レジストパターン形成工程」と記述する。
【0025】
(ハードマスクパターン形成工程S6)
次に、図3(B)に示すように、レジストパターン3Pをマスクに用いてハードマスク層2をエッチングすることにより、ハードマスクパターン2Pを形成する。このハードマスクパターン形成工程においては、たとえば、ハードマスク層2がクロムまたはクロム合金からなる金属膜である場合に、塩素ガスと酸素ガスからなる混合ガスを用いて行うことができる。これにより、ハードマスク層2のレジストパターン3Pによって覆われていない部分が除去される。このため、レジストパターン3Pのパターン形状にならってハードマスク層2がパターニングされる。その結果、シリコン基板1上にハードマスクパターン2Pとレジストパターン3Pとが重なって形成された状態となる。
【0026】
(レジストパターン除去工程S7)
次に、図3(C)に示すように、シリコン基板1上から上記のレジストパターン3Pを除去する。レジストパターン3Pの除去は、たとえば、レジスト剥離液によって行う。
【0027】
(基板エッチング工程S8)
次に、図3(D)に示すように、ハードマスクパターン2Pをマスクに用いてシリコン基板1をドライエッチングする。具体的には、反応性イオンエッチング(RIE)法によってシリコン基板1をエッチングする。これにより、ハードマスクパターン2Pのパターン形状にならってシリコン基板1上に凹凸のパターン5が形成される。このとき、シリコン基板1の表面において、エッチングでへこんだ部分が凹状のパターン5aとなり、それ以外の部分が凸状のパターン5bとなる。そして、それらのパターン5a,5bの組合せによって、全体的に凹凸のパターン5が形成される。
【0028】
(ハードマスクパターン除去工程S9)
次に、図3(E)に示すように、シリコン基板1上から上記のハードマスクパターン2Pを除去する。ハードマスクパターン2Pの除去は、たとえば、ハードマスク材料としてクロムを用いた場合は、クロムエッチング液によって行う。
【0029】
<2.特徴的な工程の説明>
続いて、上記複数の工程(S1〜S9)のなかで特徴的な工程について説明する。
【0030】
まず、レジストパターン形成工程(S3〜S5)においては、その後のハードマスクパターン形成工程S6で形成されるハードマスクパターン2Pの開口寸法が「規定の寸法」よりも小さくなる条件でレジストパターン3Pを形成しておく。具体的には、レジスト露光工程S4において、そのような寸法条件を満たすようにレジスト層3を露光する。たとえば、電子線描画装置を用いてレジスト層3を露光する場合は、レジスト層3に対して電子線を照射する時期と照射しない時期とを、電子線描画装置が備えるブランキング電極等を用いて制御することにより、上記の寸法条件を満たすようにレジスト層3を露光しておく。そして、その後のレジスト現像工程S5でレジスト層3を現像し、これによって得られたレジストパターン3Pをマスクに用いてハードマスク層2をエッチングしたときに、ハードマスクパターン2Pの開口寸法が規定の寸法よりも小さくなるようにする。
【0031】
ここで記述する「規定の寸法」とは、最終的にシリコン基板1に形成される凹凸のパターンにおいて、上述した凹状のパターン5aの開口寸法として規定される設計上の寸法をいう。より具体的には、凹状のパターン5aが円孔パターンである場合は、その孔径が当該凹状のパターン5aの開口寸法となるため、当該孔径をもって規定される寸法が「規定の寸法」となる。また、凹状のパターン5aが溝パターンである場合は、その溝幅が当該凹状のパターン5aの開口寸法となるため、当該溝幅をもって規定される寸法が「規定の寸法」となる。
【0032】
一方、基板エッチング工程S8においては、シリコン基板(シリコン)のエッチングに寄与する反応ガスとして、たとえば、ハロゲンガスを用いることができる。具体的には、フッ素系のガス、さらに詳しくは、CFなどを用いることができる。ここで用いるハロゲンガス等の反応ガスは、エッチングガスに含まれるガスのなかで最も混合割合の多いガスとなる。また、基板エッチング工程S8においては、ハードマスクパターン2Pの後退に寄与するガスをエッチングガスに添加する。たとえば、ハードマスクパターン2Pの元になるハードマスク層2をクロムまたはクロム合金で形成した場合は、ハードマスクパターン2Pの後退に寄与するガスとして、酸素ガスを用いることができる。この酸素ガスに関しては、エッチングチャンバーにエッチングガスを導入するときの流量割合が、上述したハロゲンガスよりも少ないものとする。たとえば、酸素ガスの割合は、20%以下とするのが好ましい。
【0033】
ちなみに、シリコン基板1のエッチングに使用するドライエッチング装置(RIE装置)の構成上、酸素ガスの添加は、主なエッチングガスとなるハロゲンガスとは別系統の配管を通して行われる。具体的には、エッチングチャンバーにハロゲンガスを導入する配管(ガス管)と、エッチングチャンバーに酸素ガスを導入する配管とが、別系統になっている。そして、ガス種の系統ごとに設けられた流量制御弁等を別々に駆動することにより、ハロゲンガスの導入と酸素ガスの導入を個別に制御し得るようになっている。このため、エッチングチャンバーに対して酸素ガスを導入(添加)するタイミングは、ハロゲンガスの導入とは別個に設定することができる。本実施の形態においては、シリコン基板1のドライエッチングの開始から終了まで継続的に酸素ガスを添加するものとする。
【0034】
ここで、ハードマスクパターンの後退について説明する。「ハードマスクパターンの後退」とは、ハードマスクパターンの開口寸法が拡大する方向でハードマスクパターンの開口縁の位置が変化することをいう。たとえば、ハードマスクパターンの開口が円孔であれば、この孔径が拡大する方向でハードマスクパターンの開口縁の位置が変化することをいう。また、ハードマスクパターンの開口が溝であれば、この溝幅が拡大する方向でハードマスクパターンの開口縁の位置が変化することをいう。
【0035】
より具体的には、ハードマスクパターンの開口が円孔である場合は、図4(A)〜(C)に示すように、ハードマスクパターン2Pの開口部分の孔径がD1→D2→D3と変化する方向で、ハードマスクパターン2Pの開口縁の位置が変化する現象を「後退」という。この場合、シリコン基板1のエッチング終了時におけるハードマスクパターン2Pの開口部分の孔径がD3であり、このD3が上記の「規定の寸法」となる。このため、ハードマスクパターン形成工程S6で形成されるハードマスクパターン2Pの開口部分の孔径については、D3よりも小さいD1となるように、レジストパターン形成工程(S3〜S5)でレジストパターン3Pを形成しておく。
【0036】
このような特徴的な工程にしたがってシリコン基板1上に凹凸のパターン5を形成すると、基板エッチング工程S8において、シリコン基板1のエッチングが次のように進行する。ここでは、説明の便宜上、エッチングの開始から終了までの期間を、前期、中期、後期といった3つの期間に分けて説明する。これら3つの期間は、たとえば、エッチング時間を3等分して区分される。また、エッチングの開始時期は、エッチングガスの導入を開始した時期で規定し、エッチングの終了時期は、エッチングガスの導入を停止した時期で規定するものとする。
【0037】
まず、前期においては、図5(A)に示すように、シリコン基板1のエッチングがプロセス圧力等の条件によって等方的に進むことにより、ハードマスクパターン2Pの下にサイドエッチングによるアンダーカットが生じる。また、シリコン基板1の表面がエッチングの進行によって徐々にへこんでいき、そのへこみ形状がボーイング形状またはそれに近似した形状に近づいていく。さらに、シリコン基板1のサイドエッチングの進行によってハードマスクパターン2Pの下のアンダーカット量が増えると、パターン5の深さ方向でサイドエッチングの進行度合いに差が生じる。具体的には、ハードマスクパターン2Pの開口部分の張り出しによって遮蔽されるパターン5の上部(深さの浅い部分)に比べて、それよりも深いパターン5の中間深さ部分のほうが、より多くサイドエッチングされる。
【0038】
その後の中期においては、図5(B)に示すように、シリコン基板1のエッチングが深さ方向に進行し、それとともにハードマスクパターン2Pが後退する。ハードマスクパターン2Pの後退は、主として、エッチングガスに添加した酸素ガスとハードマスク材料との反応によって進行する。つまり、本実施の形態においては、ハードマスクパターン2Pを意図的に後退させている。また、ハードマスクパターン2Pの後退は、中期だけでなく、前述した前期でも、後述する後期でも生じる。
【0039】
このようにシリコン基板1のエッチング中に酸素ガスとの反応によってハードマスクパターン2Pが後退すると、それまでハードマスクパターン2Pの開口部分の張り出しによって遮蔽されていたパターン5の上部にエッチングガスが効率良く入射するようになる。また、パターン5の上部は、それよりも深い部分に比べて、エッチングガスが入射しやすい部分となる。このため、パターン5の上部でエッチングが顕著に進む。
【0040】
したがって、その後の後期においては、図5(C)に示すように、ハードマスクパターン2Pの更なる後退とともに、パターン5の開口寸法が次第に拡大する方向で、パターン5の断面形状が変化する。その結果、最終的に得られるパターン5の形状としては、ハードマスクパターン2Pの後退を抑制するようにエッチングした場合に比べて、パターン5の側面が垂直面に近いものとなる。つまり、シリコン基板1のエッチングの途中では、パターン5のへこみ部分が一旦、ボーイング形状に近づくものの、ハードマスクパターン2Pの後退によってパターン5の形状が徐々に矯正される。そして、エッチングを終えた段階では、そのようなボーイング形状等が十分に矯正されてパターン5の側面が垂直面に近い形状となる。なお、本書で記述する「垂直面」とは、基板の主面(表面)に対して垂直な面をいう。
【0041】
<3.実験結果>
上述した点は、本発明者による実験結果でも明らかになっている。図6(A)〜(C)に実験結果で得られたパターンの形状を示す。以下、各実験結果について説明する。
【0042】
(実験結果1)
図6(A)はエッチングガスに酸素ガスを添加しないでシリコン基板をエッチングしたときに得られたパターンの形状を示している。この実験では、CrN(窒化クロム)の金属層をパターニングしてハードマスクパターン2Pを形成した後、エッチング時間を600秒、エッチングガスの流量をCF=100sccm(100%)として、ピッチ90nmの溝パターンをシリコン基板1に形成した。その結果、深さ60nm程度の溝パターンが形成された。ただし、溝パターンの断面形状は、サイドエッチングの影響でボーイング形状となった。
【0043】
(実験結果2)
図6(B)はエッチングガスに酸素ガスを添加してシリコン基板をエッチングしたときに得られたパターンの形状を示している。この実験では、CrNの金属層をパターニングしてハードマスクパターン2Pを形成した後、エッチング時間を300秒、エッチングガスの流量をCF=95sccm、酸素ガス=5sccm(トータル流量は100sccm)として、ピッチ90nmの溝パターンをシリコン基板1に形成した。その結果、深さ40nm程度の溝パターンが形成された。また、溝パターンの断面形状は、上記の「実験結果1」に比べてパターン上部(開口部側)が拡張した形状となった。
【0044】
(実験結果3)
図6(C)はエッチングガスに酸素ガスを添加してシリコン基板をエッチングしたときに得られたパターンの形状を示している。この実験では、上記の「実験結果2」と比較して、エッチング時間だけを変えた。具体的には、エッチング時間を600秒とした。その結果、深さ60nm程度の溝パターンが形成された。また、溝パターンの断面形状は、上記の「実験結果2」に比べてパターン上部(開口部側)が更に拡張した形状となった。
【0045】
上記の実験結果からも分かるように、エッチングガスに酸素ガスを添加すると、パターンの側面を、ボーイング形状にすることなく、垂直面に近づけることができる。さらに詳述すると、上記図6(C)に示す溝パターンにおいては、パターンの上部から底部に向かって徐々(連続的)に溝幅が縮小し、これにしたがってパターンの側面が傾斜している。これからして、シリコン基板1の深掘りエッチングでは、最終的にこのようなパターン形状になる途中で、パターンの側面が垂直面又はこれに近い状態となる時期が存在する。したがって、その時期に合わせてエッチング時間を600秒よりも短い時間に設定したり、そのような状態でエッチングが終了するようにプロセス条件を設定したりすることにより、パターンの側面を垂直面に近づけることができる。その場合に設定の対象となるプロセス条件としては、エッチングガスに添加する酸素ガスの量(割合)はもちろんであるが、これ以外にも、たとえば、基板バイアスなどを挙げることができる。
【0046】
これに対して、エッチングガスに酸素ガスを添加しない場合は、シリコン基板1のエッチングが進行するにつれて、パターンの側面がボーイング形状に近づき、このボーイング形状を維持しながらシリコンの深掘りが進行する。このため、パターンの側面を垂直面に近づけることはできない。
【0047】
<4.実施の形態による効果>
本発明の実施の形態によれば、次のような効果が得られる。
【0048】
すなわち、シリコン基板1の表面に凹凸のパターン5を形成するにあたって、シリコン基板1上にハードマスクパターン2Pを形成した後、ハードマスクパターン2Pの後退に寄与する酸素ガスをエッチングガスに添加してシリコン基板1をエッチングしている。このため、ハードマスクパターン2Pの後退によってパターン5の形状を矯正することができる。その結果、シリコン基板1に形成されるパターン5の側面を垂直面に近づけることができる。
【0049】
また、エッチングガスに酸素を添加すると、シリコン基板1のエッチングの途中でパターンの側面に酸化シリコン膜が形成される。この酸化シリコン膜は側壁保護膜として機能する。このため、サイドエッチングの抑制に有効な側壁保護効果が得られる。したがって、前述したパターン形状の矯正効果と、側壁保護効果とを同時に得ることが可能となる。
【0050】
<5.変形例等>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0051】
たとえば、基板エッチング工程S8に関して、エッチングガスに添加するガスは、酸素ガスに限らず、シリコンのエッチングに寄与する反応ガスに比べて、ハードマスクパターン2Pの後退に寄与する度合いが大きいガスであればよい。具体的には、シリコンのエッチングに悪影響を及ぼすおそれのないガス種の中から、上記の条件を満たすガスをハードマスク材料に応じて適宜選択すればよい。
【0052】
また、上記実施の形態においては、シリコン基板1のドライエッチングの開始時から終了時まで継続的に酸素ガスを添加するものとしたが、本発明はこれに限らない。たとえば、シリコン基板1のドライエッチングを開始するタイミングよりも後のタイミングで酸素ガスの添加を開始してもよい。また、シリコン基板1のドライエッチングを終了するタイミングよりも前のタイミングで酸素ガスの添加を停止してもよい。さらには、シリコン基板1のドライエッチングを開始するタイミングよりも後のタイミングから、当該ドライエッチングを終了するタイミングよりも前のタイミングまで(つまり途中の期間だけ)、酸素ガスを添加してもよい。さらに、エッチングの開始から終了までの間に、酸素ガスの添加量を連続的に、または段階的に変更(増加または減少)してもよい。
【0053】
また、上記実施の形態においては、基板作製方法に係る一連の工程の中で、ハードマスクパターン形成工程S6と基板エッチング工程S8との間に、レジストパターン除去工程S7を設けたが、これに限らず、基板エッチング工程S8とハードマスクパターン形成工程S9との間に、レジストパターン除去工程S7を設けるようにしてもよい。
【0054】
また、上記実施の形態で説明した基板作製方法は、インプリント用のモールドを製造する場合に好適に適用可能である。特に、インプリント用のモールド製造に適用した場合は、パターンの側面が垂直面に近づくことにより、被転写基板からモールドを剥離しやすくなる。したがって、離型性に優れたモールドを得ることが可能となる。
【0055】
さらに、本発明に係る基板作製方法は、インプリント用のモールド製造以外の用途にも適用可能である。具体的には、たとえば、半導体装置用フォトマスク、半導体製造、マイクロ電気機械システム(MEMS)、センサ素子、光ディスク、回折格子や偏光素子等の光学部品、ナノデバイス、有機トランジスタ、カラーフィルター、マイクロレンズアレイ、免疫分析チップ、DNA分離チップ、マイクロリアクター、ナノバイオデバイス、光導波路、光学フィルター、フォトニック結晶等の製造にも適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…基板(シリコン基板)
2…ハードマスク層
2P…ハードマスクパターン
3…レジスト層
3P…レジストパターン
5…パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にハードマスク層を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記基板上に前記ハードマスク層を覆う状態でレジスト層を形成した後、当該レジスト層をパターニングすることにより、前記基板上にレジストパターンを形成する第2工程と、
前記第2工程の後に、前記レジストパターンをマスクに用いて前記ハードマスク層をエッチングすることにより、前記基板上にハードマスクパターンを形成する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記ハードマスクパターンをマスクに用いて前記基板をドライエッチングすることにより、前記基板に凹凸のパターンを形成する第4工程と、を含み、
前記第4工程においては、前記ハードマスクパターンの後退に寄与するガスを添加したエッチングガスを用いて前記基板をドライエッチングすることにより、前記基板のエッチングの進行とともに前記ハードマスクパターンを後退させる
ことを特徴とする基板作製方法。
【請求項2】
前記第2工程においては、前記第3工程で前記レジストパターンをマスクに用いて前記ハードマスク層をエッチングしたときに得られる前記ハードマスクパターンの開口寸法が規定の寸法よりも小さくなるように、前記レジストパターンを形成しておき、
前記第4工程においては、前記ハードマスクパターンの開口寸法が当該ハードマスクパターンの後退によって前記規定の寸法となるように、前記基板をエッチングする
ことを特徴とする請求項1に記載の基板作製方法。
【請求項3】
前記第1工程においては、前記基板にシリコン基板を用いるとともに、前記ハードマスク層をクロムまたはクロム合金で形成し、
前記第4工程においては、前記ハードマスクパターンの後退に寄与するガスとして酸素ガスを添加する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の基板作製方法。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の基板作製方法を適用して前記基板に凹凸のパターンを形成することにより、インプリント用のモールドを得る
ことを特徴とするモールド製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−200982(P2012−200982A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67412(P2011−67412)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】