説明

基板処理方法および基板処理装置

【課題】基板表面を乾燥させる前に該基板表面に未使用の有機溶剤を供給して基板表面を乾燥に適した表面状態に調整した後に基板表面を乾燥させる基板処理方法および装置において、有機溶剤の消費量を抑制する。
【解決手段】基板処理した際に発生する使用済みのIPAを回収し、再利用IPAとして貯留タンク71に貯留している。そして、基板Wに乾燥処理の実行前に2段階のIPA供給を行っている。つまり、リンス処理を受けた基板Wに対して再利用IPAを供給して基板表面Wfに付着しているリンス液(DIW)を再利用IPAに置換した後に未使用のIPAを基板表面Wfに供給して乾燥処理に適した表面状態を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を乾燥させる基板処理方法および基板処理装置に関するものである。なお、乾燥処理対象となる基板には、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
薬液による薬液処理および純水などのリンス液によるリンス処理が行われた後、基板表面に付着するリンス液を除去すべく、数多くの乾燥方法が従来より提案されている。そのうちのひとつとして、純水よりも表面張力が低いIPA(イソプロピルアルコール:isopropyl alcohol)などの有機溶剤を用いた乾燥方法が知られている。この乾燥方法としては、例えば特許文献1に記載された乾燥方法がある。この乾燥方法を実行する基板処理装置では、基板表面に対してフッ酸処理を行った後、純水を基板表面に供給してリンス処理を施している。次いで、純水の供給停止後に途切れることなくあるいは純水を供給している途中から基板の表面にIPAを供給している。これにより、基板表面上の純水にIPAが溶解して純水がIPAにより置換される。このように乾燥処理を行う前に基板表面を基板乾燥に適した表面状態に調整している(乾燥前処理)。そして、基板表面の全面がIPAで濡れた状態のまま、基板が高速回転される。この基板回転によって基板表面からIPAが除去され、基板表面の乾燥処理が行われる。
【0003】
【特許文献1】特開平9−38595号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、IPAなどの有機溶剤を使用する場合、有機溶剤のランニングコストや排液処理にかかる負担などを考慮して有機溶剤の消費量をできるだけ抑制したいと要請がある。しかしながら、従来技術では、乾燥性能のみに重点が置かれ、有機溶剤の消費量を抑制するための十分な検討がなされていなかった。
【0005】
また、基板表面に形成されるパターンの微細化が近年急速に進められており、高アスペクト比のホールやトレンチなどの凹部が基板表面に形成されることが多くなっている。このような基板表面に対してIPAを供給して凹部内部にまでIPAを行き渡らせるためには、ある程度の時間IPAを供給し続ける必要があった。その結果、近年のパターン微細化の進行に伴って、IPAの使用量が増大する傾向にあった。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板表面を乾燥させる前に該基板表面に有機溶剤を供給して基板表面を乾燥に適した表面状態に調整した後に基板表面を乾燥させる基板処理方法および装置において、有機溶剤の消費量を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる基板処理方法は、基板の表面を乾燥させる基板処理方法であって、上記目的を達成するため、再利用有機溶剤を基板の表面に供給する第1工程と、再利用有機溶剤で濡れた基板表面に未使用の有機溶剤を供給して基板表面を基板乾燥に適した表面状態に調整する第2工程と、第2工程後に基板表面から有機溶剤を除去して基板表面を乾燥する第3工程とを備え、第2工程は、基板表面から排出される余剰の有機溶剤を回収するとともに、当該回収後に実行される第1工程において使用される再利用有機溶剤として余剰の有機溶剤を貯留することを特徴としている。
【0008】
また、この発明にかかる基板処理装置は、基板の表面を乾燥させる基板処理装置であって、上記目的を達成するため、再利用有機溶剤を貯留するタンクを有し、当該タンク内の再利用有機溶剤を基板表面に供給する第1供給手段と、再利用有機溶剤で濡れた基板表面に未使用の有機溶剤を供給して基板表面を基板乾燥に適した表面状態に調整する第2供給手段と、上記表面状態を有する基板表面から有機溶剤を除去して基板表面を乾燥させる乾燥手段と、第2供給手段により未使用有機溶剤を基板表面に供給した際に基板表面から排出される有機溶剤を再利用有機溶剤として回収してタンクに貯留する回収手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明(基板処理方法および装置)では、従来技術と同様に、基板表面を乾燥させる前に基板表面に有機溶剤が供給され、これによって基板表面に付着している液体成分(有機溶剤)の表面張力が低下して基板乾燥に適した表面状態が形成される。ただし、この発明では、従来技術とは異なり、有機溶剤の供給が2段階に分けて行われている。すなわち、一度使用された有機溶剤が再利用有機溶剤として基板の表面に供給された後、再利用有機溶剤で濡れた基板表面に未使用の有機溶剤が供給されて基板表面が基板乾燥に適した表面状態に調整される。そして、基板表面から有機溶剤が除去されて基板表面が乾燥される。このように未使用有機溶剤の供給によって基板表面は最終的に基板乾燥に適した状態となり、その表面状態のまま基板乾燥が実行されるため、優れた乾燥性能で基板を乾燥させることができる。しかも、この発明では、未使用有機溶剤を基板表面に供給した際に基板表面から排出される有機溶剤が回収され、その回収後に再利用有機溶剤として利用される。このように未使用有機溶剤を再利用することで有機溶剤の消費量が低減される。
【0010】
ここで、再利用有機溶剤を基板表面に供給した際に基板表面から排出される余剰の有機溶剤を再利用有機溶剤として回収し、その回収後に使用される再利用有機溶剤として貯留しておき、再利用してもよい。このように再利用有機溶剤を再度利用することで有機溶剤の消費量がさらに低減される。
【0011】
再利用有機溶剤を基板表面に供給することで、基板表面に付着している液体を再利用有機溶剤に置換してもよい。この場合、未使用有機溶剤の供給前に液体が基板表面から除去されているため、基板表面を基板乾燥に適した表面状態に調整するために要する未使用有機溶剤の量(以下「調整必要量」という)を低減させることができる。
【0012】
ところで、このように基板表面に付着している液体を再利用有機溶剤に置換すると、回収貯留される再利用有機溶剤に液体が混入して有機溶剤の濃度が低下していく。そして、濃度低下した再利用有機溶剤をそのまま用いると、未使用有機溶剤の調整必要量が増大して有機溶剤の消費量が増える。そこで、上記のようにして余剰の有機溶剤をタンクに再利用有機溶剤として回収することによりタンク内での再利用有機溶剤の濃度が所定濃度未満となると、タンクに貯留されている再利用有機溶剤の一部または全部を排出するとともに、未使用の有機溶剤をタンクに補充してタンクに貯留される再利用有機溶剤の濃度を所定濃度以上に高めるように構成してもよい。これにより、再利用有機溶剤の濃度が所定濃度以上に維持される。その結果、調整必要量を抑制して有機溶剤の消費量を抑制することができる。
【0013】
また、有機溶剤の回収貯留により、タンクでの再利用有機溶剤の貯留量が増大していく。そこで、タンク内での再利用有機溶剤の貯留量が所定量を超えると、タンクに貯留されている再利用有機溶剤の一部を排出して貯留量を所定値以下に低減させてもよい。これによって、タンクから再利用有機溶剤がオーバーフローするのを確実に防止することができる。
【0014】
また、基板を回転させて基板乾燥を行ってもよい。この場合、基板回転に伴って発生する遠心力によって基板から有機溶剤が振り切られるが、その有機溶剤を回収するとともに当該回収後に使用される再利用有機溶剤として貯留しておき、再利用してもよい。このように再利用有機溶剤を再度利用することで有機溶剤の消費量がさらに低減される。
【0015】
有機溶剤としては、純水などの基板表面に付着している液体よりも表面張力が低いもの、例えばアルコール系有機溶剤を用いることができる。アルコール系有機溶剤としては、安全性、価格等の観点からイソプロピルアルコール、エチルアルコールまたはメチルアルコールを用いることができるが、特にイソプロピルアルコールが好適である。
【0016】
なお、この明細書における「有機溶剤」とは濃度100%のみならず、他の液体成分を含むものも含まれ、濃度が異なるものを示す場合には、「100%IPA」や「90%IPA」などのように濃度と溶剤成分とを併記して有機溶剤を特定している。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、一度使用された有機溶剤を再利用有機溶剤として基板の表面に供給した後、再利用有機溶剤で濡れた基板表面に未使用の有機溶剤を供給して基板表面を基板乾燥に適した表面状態に調整している。このため、基板表面を良好に乾燥させることができるとともに、その際に消費される有機溶剤の量を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1はこの発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。また、図2は図1の基板処理装置の主要な制御構成を示すブロック図である。この基板処理装置は半導体ウエハ等の基板Wの表面Wfに付着している不要物を除去するための洗浄処理に用いられる枚葉式の基板処理装置である。より具体的には、基板表面Wfに対してフッ酸などの薬液による薬液処理および純水やDIW(脱イオン水:deionized
water)などのリンス液によるリンス処理を施した後、リンス液で濡れた基板表面Wfを乾燥させる装置である。なお、この実施形態では、基板表面Wfとはpoly−Si等からなるデバイスパターンが形成されたパターン形成面をいう。
【0019】
この基板処理装置は、基板表面Wfを上方に向けた状態で基板Wを略水平姿勢に保持して回転させるスピンチャック1と、スピンチャック1に保持された基板Wの表面Wfに向けて薬液を吐出する薬液吐出ノズル3と、スピンチャック1の上方位置に配置された遮断部材9とを備えている。
【0020】
スピンチャック1は、回転支軸11がモータを含むチャック回転機構13の回転軸に連結されており、チャック回転機構13の駆動により回転軸J(鉛直軸)回りに回転可能となっている。これら回転支軸11、チャック回転機構13は、円筒状のケーシング2内に収容されている。回転支軸11の上端部には、円盤状のスピンベース15が一体的にネジなどの締結部品によって連結されている。したがって、装置全体を制御する制御ユニット4からの動作指令に応じてチャック回転機構13を駆動させることによりスピンベース15が回転軸J回りに回転する。また、制御ユニット4はチャック回転機構13を制御して回転速度を調整する。
【0021】
スピンベース15の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持するための複数個のチャックピン17が立設されている。チャックピン17は、円形の基板Wを確実に保持するために3個以上設けてあればよく、スピンベース15の周縁部に沿って等角度間隔で配置されている。チャックピン17のそれぞれは、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持部と、基板支持部に支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持部とを備えている。各チャックピン17は、基板保持部が基板Wの外周端面を押圧する押圧状態と、基板保持部が基板Wの外周端面から離れる解放状態との間を切り替え可能に構成されている。
【0022】
スピンベース15に対して基板Wが受渡しされる際には、複数個のチャックピン17を解放状態とし、後述する基板処理を基板Wに対して行う際には、複数個のチャックピン17を押圧状態とする。押圧状態とすることによって、複数個のチャックピン17は基板Wの周縁部を把持してその基板Wをスピンベース15から所定間隔を隔てて略水平姿勢に保持することができる。これにより、基板Wはその表面(パターン形成面)Wfを上方に向け、裏面Wbを下方に向けた状態で支持される。なお、基板保持手段としてはチャックピン17に限らず、基板裏面Wbを吸引して基板Wを支持する真空チャックを用いてもよい。
【0023】
薬液吐出ノズル3は、薬液バルブ31を介して薬液供給源と接続されている。このため、制御ユニット4からの制御指令に基づいて薬液バルブ31が開閉されると、薬液供給源から薬液が薬液吐出ノズル3に向けて圧送され、薬液吐出ノズル3から薬液が吐出される。なお、薬液にはフッ酸またはBHF(バッファードフッ酸)などが用いられる。また、薬液吐出ノズル3にはノズル移動機構33(図2)が接続されており、制御ユニット4からの動作指令に応じてノズル移動機構33が駆動されることで、薬液吐出ノズル3を基板Wの回転中心の上方の吐出位置と吐出位置から側方に退避した待機位置との間で往復移動させることができる。
【0024】
遮断部材9は、板状部材90と、内部が中空に仕上げられ、板状部材90を支持する回転支軸91と、回転支軸91の中空部に挿通された内挿軸95とを有している。板状部材90は、中心部に開口部を有する円盤状の部材であって、スピンチャック1に保持された基板Wの表面Wfに対向配置されている。板状部材90は、その下面(底面)90aが基板表面Wfと略平行に対向する基板対向面となっており、その平面サイズは基板Wの直径と同等以上の大きさに形成されている。板状部材90は略円筒形状を有する回転支軸91の下端部に略水平に取り付けられ、回転支軸91は水平方向に延びるアーム92により基板Wの中心を通る回転軸J回りに回転可能に保持されている。内挿軸95の外周面と回転支軸91の内周面との間にはベアリング(図示せず)が介在して取り付けられている。アーム92には、遮断部材回転機構93と遮断部材昇降機構94が接続されている。
【0025】
遮断部材回転機構93は、制御ユニット4からの動作指令に応じて回転支軸91を回転軸J回りに回転させる。回転支軸91が回転させられると、板状部材90が回転支軸91とともに一体的に回転する。遮断部材回転機構93は、スピンチャック1に保持された基板Wの回転に応じて基板Wと同じ回転方向でかつ略同じ回転速度で板状部材90(下面90a)を回転させるように構成されている。
【0026】
また、遮断部材昇降機構94は、制御ユニット4からの動作指令に応じて遮断部材9をスピンベース15に近接して対向させたり、逆に離間させることが可能となっている。具体的には、制御ユニット4は遮断部材昇降機構94を作動させることで、基板処理装置に対して基板Wを搬入出させる際には、スピンチャック1の上方の離間位置に遮断部材9を上昇させる。その一方で、基板Wに対して所定の処理を施す際には、スピンチャック1に保持された基板Wの表面Wfのごく近傍に設定された所定の対向位置(図1に示す位置)まで遮断部材9を下降させる。この実施形態では、リンス処理が開始されてから遮断部材9を離間位置から対向位置に下降させ、乾燥処理が完了するまで継続して遮断部材9を対向位置に位置させる。
【0027】
回転支軸91の中空部に内挿された内挿軸95は、横断面が円形に形成されている。これは、内挿軸95(非回転側部材)と回転支軸91(回転側部材)との隙間の間隔を全周にわたって均等にするためであり、該隙間にシールガスを導入することで内挿軸95と回転支軸91との隙間を外部からシールされた状態としている。内挿軸95には3本の流体供給路(図示省略)が鉛直軸方向に延びるように形成されている。すなわち、リンス液の通路となるリンス液供給路、再利用IPAの通路となる第1溶剤供給路および未使用IPAの通路となる第2溶剤供給路が内挿軸95に形成されている。リンス液供給路、第1溶剤供給路および第2溶剤供給路はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン:polytetrafluoroethylene)からなる内挿軸95にそれぞれ、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂:polymer of tetrafluoroethylene and perfluorovinylether)製のチューブ(図示省略)を軸方向に挿入することによって形成されている。そして、リンス液供給路、第1溶剤供給路および第2溶剤供給路の下端がそれぞれ、リンス液吐出口、第1溶剤吐出口および第2溶剤吐出口となってスピンチャック1に保持された基板Wの表面Wfと対向している。
【0028】
また、回転支軸91の内壁面と内挿軸95の外壁面との間に形成される空間部分がガス供給路99を構成しており、ガス供給路99の下端が環状のガス吐出口となっている。このため、窒素ガスの用途に応じて適切な流量および流速で窒素ガスを基板表面Wfに向けて供給することができる。なお、内挿軸95に対し、上記3種類の流体供給路以外に、窒素ガスを供給する流体供給経路をさらに設けて基板表面Wfの中央部に窒素ガスを供給するように構成してもよい。
【0029】
リンス液供給路の上端部はリンス液バルブ41を介して工場のユーティリティ等で構成されるDIW供給源に接続されており、リンス液バルブ41が開かれることにより、リンス液吐出口からDIWをリンス液として吐出可能となっている。
【0030】
また、第1溶剤供給路の上端部には、本発明の「第1供給手段」に相当する第1溶剤供給ユニット7が接続されている。第1溶剤供給ユニット7は、後述するようにしてIPAを回収して再利用IPAとして貯留する貯留タンク71を有している。この貯留タンク71には後述する排出口から伸びる回収配管72の一端が取り込まれている。また、貯留タンク71には、その一端が第1溶剤供給路に接続された第1溶剤供給管73の他端が挿入され、貯留タンク71に貯留されている再利用IPAをバルブ74を介して第1溶剤供給路に供給可能に構成されている。この第1溶剤供給管73には、貯留タンク71に貯留されている再利用IPAを第1溶剤供給管73に送り出す定量ポンプ75や、定量ポンプ75により第1溶剤供給管73に送り出される再利用IPA中の異物を除去するフィルタ76が設けられている。さらに、第1溶剤供給管73にはIPA濃度を監視するための濃度計77が介装されている。濃度計77としては、近赤外線液体成分濃度計が用いられる。近赤外線液体成分濃度計は、液中に赤外線を照射し、液中の成分濃度に応じた赤外線の吸収現象から吸収量を検知器で捉えることにより液中の目的とする成分濃度を求めるものである。
【0031】
また、第1溶剤供給管73には、バルブ74と濃度計77との間に溶剤循環管78の一端が分岐接続される一方、溶剤循環管78の他端が貯留タンク71に接続されている。この溶剤循環管78には循環用バルブ79が介装されている。そして、装置の稼動中は、定量ポンプ75が常に駆動され、基板Wに再利用IPAを供給しない間は、バルブ74が閉じられる一方、循環用バルブ79が開かれる。これにより、貯留タンク71から定量ポンプ75により送り出される再利用IPAが溶剤循環管78を通じて貯留タンク71に戻される。つまり、基板Wに再利用IPAを供給しない間は、貯留タンク71、第1溶剤供給管73および溶剤循環管78からなる循環経路を再利用IPAが循環する。その一方で、基板Wに再利用IPAを供給するタイミングになると、バルブ74が開かれる一方、循環用バルブ79が閉じられる。これにより、貯留タンク71から送り出される再利用IPAが第1溶剤供給路に供給される。このように、基板Wに再利用IPAを供給しない間は、再利用IPAを循環させておくことによって、DIWとIPAとが攪拌され、DIWとIPAとを十分に混ざり合った状態とすることができる。また、バルブ74の開成後、異物が除去された再利用IPAを速やかに第1溶剤供給路に供給することができる。なお、同図中の符号701は貯留タンク71の下方側面に取り付けられた排出管であり、この排液管701にバルブ702が介挿されている。また、符号703は貯留タンク71内に貯留された再利用IPAの貯留レベルを検出するセンサであり、貯留レベルが一定値に達して再利用IPAが所定量を超えたことを検出すると、その検出結果を示す信号がセンサ703から制御ユニット4に与えられる。そして、その信号に基づき制御ユニット4が開成指令をバルブ702に与えると、バルブ702が開いて貯留タンク71内の再利用IPAを排液管701を介して排出する。
【0032】
第2溶剤供給路の上端部には、本発明の「第2供給手段」に相当する第2溶剤供給ユニット8が接続されている。第2溶剤供給ユニット8は、未使用のIPAを貯留する貯留タンク81を有している。この貯留タンク81には、その一端が第2溶剤供給路に接続された第2溶剤供給管82の他端が挿入され、貯留タンク81に貯留されている未使用IPAをバルブ83を介して第2溶剤供給路に供給可能に構成されている。この第2溶剤供給管82には、貯留タンク81に貯留されている未使用IPAを第2溶剤供給管82に送り出す定量ポンプ84や、定量ポンプ84により第2溶剤供給管82に送り出される未使用IPA中の異物を除去するフィルタ85が設けられている。そして、基板Wに未使用IPAを供給しない間はバルブ83が閉じられる。その一方で、基板Wに未使用IPAを供給するタイミングになると、バルブ83が開かれる。これにより、貯留タンク81から送り出される未使用IPAが第2溶剤供給路に供給される。このように、バルブ83の開成後、異物が除去された未使用IPAを速やかに第2溶剤供給路に供給することができる。なお、この実施形態では、未使用IPAとして100%IPAを用いている。
【0033】
ガス供給路99の上端部はガス供給ユニット18(図2)と接続されており、制御ユニット4の動作指令に応じてガス供給ユニット18からガス供給路99に窒素ガスを圧送可能となっている。これにより、対向位置に位置決めされた遮断部材9(板状部材90)と基板表面Wfとの間に形成される間隙空間SPに窒素ガスを供給することができる。
【0034】
ケーシング2の周囲には、受け部材21が固定的に取り付けられている。受け部材21には、円筒状の仕切り部材23a,23b,23cが立設されている。仕切り部材23aの内壁と仕切り部材23bの外壁との間の空間が第1排液槽25aを形成し、仕切り部材23bの内壁と仕切り部材23cの外壁との間の空間が第2排液槽25bを形成し、ケーシング2の外壁と仕切り部材23cの内壁との間の空間が第3排液槽25cを形成している。
【0035】
第1排液槽25a、第2排液槽25bおよび第3排液槽25cの底部にはそれぞれ、排出口27a,27b,27cが形成されている。これらのうち排出口27bは回収配管72に接続される一方、残りの排出口27a,27cは相互に異なるドレインに接続されている。例えばこの実施形態では、第1排液槽25aは使用済みの薬液およびリンス液を回収するための槽であり、薬液およびリンス液を回収するための回収ドレインに連通されている。また、第2排液槽25bは使用済みのIPAを回収するための槽であり、排出口27bおよび回収配管72を介して貯留タンク71に連通されている。
【0036】
排液槽25a〜25cの上方にはスプラッシュガード6が設けられている。スプラッシュガード6はスピンチャック1に水平姿勢で保持されている基板Wの周囲を包囲するようにスピンチャック1の回転軸Jに対して昇降自在に設けられている。このスプラッシュガード6は回転軸Jに対して略回転対称な形状を有しており、スピンチャック1と同心円状に径方向内側から外側に向かって配置された3つのガード61,62,63を備えている。3つのガード61,62,63は、最外部のガード61から最内部のガード63に向かって、順に高さが低くなるように設けられるとともに、各ガード61,62,63の上端部が鉛直方向に延びる面内に収まるように配置されている。
【0037】
スプラッシュガード6は、ガード昇降機構65と接続され、制御ユニット4からの動作指令に応じてガード昇降機構65の昇降駆動用アクチェータ(例えばエアシリンダーなど)を作動させることで、スプラッシュガード6をスピンチャック1に対して昇降させることが可能となっている。この実施形態では、ガード昇降機構65の駆動によりスプラッシュガード6を段階的に昇降させることで、回転する基板Wから飛散する処理液を分別して排液させることが可能となっている。
【0038】
スプラッシュガード6を最も低い位置(以下「退避位置」という)に位置させて、スピンチャック1をスプラッシュガード6の上端部から突出させることで、基板搬送手段(図示せず)が未処理の基板Wをスピンチャック1に載置したり、処理済の基板Wをスピンチャック1から受け取ることが可能となっている。
【0039】
ガード61の上部には、断面くの字形で内方に開いた溝状の第1案内部61aが形成されている。そして、薬液処理時にスプラッシュガード6を退避位置よりも高い位置(以下「第1高さ位置」という)に位置させることで、回転する基板Wから飛散する薬液が第1案内部61aで受け止められ、第1排液槽25aに案内される。具体的には、第1高さ位置として、第1案内部61aがスピンチャック1に保持された基板Wの周囲を取り囲むようにスプラッシュガード6を配置させることで、回転する基板Wから飛散する薬液やリンス液がガード61を介して第1排液槽25aに案内される。
【0040】
また、ガード62の上部には、径方向外側から内側に向かって斜め上方に傾斜した傾斜部62aが形成されている。そして、リンス処理時にスプラッシュガード6を第1高さ位置よりも高い位置(以下「第2高さ位置」という)に位置させることで、回転する基板Wから飛散するIPAが傾斜部62aで受け止められ、第2排液槽25bに案内される。具体的には、第2高さ位置として、傾斜部62aがスピンチャック1に保持された基板Wの周囲を取り囲むようにスプラッシュガード6を配置させることで、回転する基板Wから飛散するIPAがガード61の上端部とガード62の上端部との間を通り抜けて第2排液槽25bに案内される。そして、IPAは排出口27bおよび回収配管72を介して貯留タンク71に回収貯留される。このように、本実施形態では、ガード62、第2排液槽25bおよび回収配管72が本発明の「回収手段」として機能している。
【0041】
なお、この実施形態では、スプラッシュガード6を第1高さ位置に移動させて薬液およびリンス液を排出するが、薬液とリンス液を個別に分離して排出してもよい。つまり、スプラッシュガード6を第1高さ位置に移動させて薬液を排出し、スプラッシュガード6を第2高さ位置に移動させてリンス液を排出してもよい。この場合、スプラッシュガード6を第3高さ位置に移動させてIPAを回収することができる。つまり、ガード63の上部には、径方向外側から内側に向かって斜め上方に傾斜した傾斜部63aが形成されている。そして、スプラッシュガード6を第2高さ位置よりも高い位置(以下「第3高さ位置」という)に位置させることで、回転する基板Wから飛散するIPAが傾斜部63aで受け止められ、第3排液槽25cに案内される。具体的には、第3高さ位置として、傾斜部63aがスピンチャック1に保持された基板Wの周囲を取り囲むようにスプラッシュガード6を配置させることで、回転する基板Wから飛散するIPAがガード62の上端部とガード63の上端部との間を通り抜けて第3排液槽25cに案内される。ただし、この場合には、回収配管72の他端を排出口27cに接続する必要があり、ガード63、第3排液槽25cおよび回収配管72が本発明の「回収手段」として機能している。
【0042】
次に、上記のように構成された基板処理装置の動作について図3および図4を参照しつつ詳述する。図3は図1の基板処理装置の動作を示すタイミングチャートである。また、図4は図1の基板処理装置の動作を示す模式図である。この装置では、制御ユニット4はメモリ(図示省略)に記憶されているプログラムにしたがって装置各部を制御して基板Wに対して一連の処理を施す。すなわち、制御ユニット4はスプラッシュガード6を退避位置に位置させて、スピンチャック1をスプラッシュガード6の上端部から突出させる。そして、この状態で基板搬送手段(図示せず)により未処理の基板Wが装置内に搬入されると、基板Wに対して一連の基板処理(薬液処理+リンス処理+置換処理+乾燥前処理+乾燥処理)を実行する。基板表面Wfには例えばpoly−Siからなる微細パターンが形成されている。そこで、この実施形態では、基板表面Wfを上方に向けた状態で基板Wが装置内に搬入され、スピンチャック1に保持される。なお、遮断部材9はスピンチャック1の上方の離間位置にあり、基板Wとの干渉を防止している。
【0043】
続いて、制御ユニット4はスプラッシュガード6を第1高さ位置に配置して、基板Wに対して薬液処理を実行する(図4(a))。すなわち、薬液吐出ノズル3を吐出位置に移動させるとともに、チャック回転機構13の駆動によりスピンチャック1に保持された基板Wを200〜1200rpmの範囲内で定められる回転速度(例えば800rpm)で回転させる。そして、薬液バルブ31を開いて薬液吐出ノズル3から基板表面Wfに薬液としてフッ酸を供給する(HF供給)。基板表面Wfに供給されたフッ酸は遠心力により広げられ、基板表面Wf全体がフッ酸により薬液処理される。基板Wから振り切られたフッ酸は第1排液槽25aに案内され、回収ドレインに送られる。
【0044】
薬液処理が終了すると、薬液吐出ノズル3が待機位置に移動される。そして、スプラッシュガード6が第1高さ位置のまま基板Wに対してリンス処理が実行される。すなわち、リンス液バルブ41を開いて、離間位置に位置する遮断部材9のリンス液吐出口からリンス液を吐出させる(DIW供給)。また、リンス液の吐出と同時に遮断部材9を対向位置に向けて下降させ、該対向位置に位置決めする。このように、薬液処理後、すぐに基板表面Wfにリンス液を供給することで基板表面Wfを継続して濡れた状態としておく。これは次のような理由による。すなわち、薬液処理後、フッ酸が基板Wから振り切られると、基板表面Wfの乾燥がはじまる。その結果、基板表面Wfが部分的に乾燥し、基板表面Wfにシミ等が発生することがある。したがって、このような基板表面Wfの部分的な乾燥を防止するため、基板表面Wfを濡れた状態としておくことが重要となっている。また、遮断部材9のガス吐出口から窒素ガスを吐出させる。
【0045】
リンス液吐出口から基板表面Wfに供給されたリンス液は基板Wの回転に伴う遠心力により広げられ、基板表面Wf全体がリンス処理される。つまり、基板表面Wfに残留付着するフッ酸がリンス液によって洗い流され基板表面Wfから除去される。また、基板Wから振り切られた使用済みのリンス液は第1排液槽25aに案内され、回収ドレインを介して廃棄される(図4(b))。また、間隙空間SPに窒素ガスが供給されることで基板表面Wfの周囲雰囲気が低酸素濃度雰囲気に保たれている。このため、リンス液の溶存酸素濃度の上昇を抑制することができる。なお、リンス処理時における基板Wの回転速度は前半において例えば600rpmに設定され、リンス処理の後半において例えば300rpmに減速される(図3)。このようにしてリンス処理を受けた基板Wでは、基板表面Wf上にDIW液膜が回転速度に応じた膜厚で形成されている。
【0046】
また、上記したリンス処理および後述の処理(置換処理、乾燥前処理、乾燥処理)を実行する際には、遮断部材9の板状部材90を基板Wと同じ回転方向でかつ略同じ回転速度で回転させる。これにより、板状部材90の下面90aと基板表面Wfとの間に相対的な回転速度差が発生するのを防止して、間隙空間SPに巻き込み気流が発生するのを抑制することができる。このため、ミスト状のリンス液および低表面張力溶剤が間隙空間SPに侵入して基板表面Wfに付着するのを防止できる。また、板状部材90を回転させることで下面90aに付着するリンス液や次に説明するIPAを振り切り、下面90aにリンス液やIPAが滞留するのを防止できる。
【0047】
所定時間のリンス処理が終了すると、制御ユニット4はスプラッシュガード6を第2高さ位置に配置する(図4(c))。それに続いて、再利用IPAを用いた置換処理が実行される。すなわち、制御ユニット4は、リンス処理の終了後に、バルブ74を開く一方、循環用バルブ79を閉じる。これにより、貯留タンク71から送り出される再利用IPAが第1溶剤供給路に供給され、第1溶剤吐出口から基板表面Wfに向けて吐出される(図4(d))。ここで用意される再利用IPAの濃度は後述する。この再利用IPA供給によって、基板Wの表面中央部ではDIW液膜の中央部が再利用IPAに置換されて置換領域がDIW液膜に形成され、さらに再利用IPA供給が継続されることで、置換領域が基板Wの径方向に拡大して基板表面Wfの全面が再利用IPAに置換される(置換処理)。なお、基板Wから振り切られた使用済みのIPAは第2排液槽25bに案内され、さらに排出口27bおよび回収配管72を介して貯留タンク71に回収される。こうして回収されたIPAは次の基板Wに対する置換処理時に使用する再利用IPAとして貯留タンク71に貯留される。
【0048】
こうして、置換処理が完了すると、制御ユニット4は、バルブ74を閉じる一方、循環用バルブ79を開く。これにより、貯留タンク71、第1溶剤供給管73および溶剤循環管78からなる循環経路を再利用IPAが循環して上記のようにして回収したIPAを既に貯留されている再利用IPAと混合させる。また、置換処理の開始時においては基板表面WfにDIWが存在しており、置換処理の初期段階にDIWが微量(DIW液膜を構成するDIW量)ながら貯留タンク71に回収されることとなるが、上記循環動作によりDIWとIPAとが攪拌され、DIWとIPAとを十分に混ざり合った状態とすることができる。
【0049】
また、制御ユニット4は、上記のようにバルブ74、79を開閉制御するとともに、バルブ83を開いて乾燥前処理を行う。この乾燥前処理では、貯留タンク81内の未使用IPAが第2溶剤供給路に供給され、第2溶剤吐出口から基板表面Wfに向けて吐出される(図4(e))。この未使用IPA供給によって、基板表面Wfが未使用のIPAで濡れて次の基板乾燥に適した表面状態となる。なお、基板Wから振り切られた使用済みのIPAは、置換処理と同様に、第2排液槽25bに案内され、さらに排出口27bおよび回収配管72を介して貯留タンク71に回収される。こうして回収されたIPAは次の基板Wに対する置換処理時に使用する再利用IPAとして貯留タンク71に貯留される。
【0050】
乾燥前処理においては、基板表面Wf上に形成されている再利用IPAを未使用IPAに置換するのが望ましい。ただし、後述するように基板表面Wf上の再利用IPAの全部を未使用IPAに置換することが乾燥処理にとって必須条件というわけではなく、未使用IPAの供給によって次の乾燥処理に適した表面状態を形成することが重要であり、未使用IPAの供給目的および意義はこの点にある。
【0051】
このようにして乾燥処理に適した表面状態に基板表面Wfが調整されると、制御ユニット4はバルブ83を閉じて乾燥前処理を終了し、次の乾燥処理を実行する。すなわち、制御ユニット4はチャック回転機構13の回転速度を高めて基板Wを高速回転(例えば1000rpm)させる。これにより、基板表面Wfに付着するIPAが振り切られ、基板Wの乾燥処理(スピンドライ)が実行される(乾燥処理)。この乾燥処理の初期段階では、基板表面Wfに付着している余剰のIPAが基板Wから振り切られるが、この使用済みのIPAは、置換処理や乾燥前処理と同様に、第2排液槽25bに案内され、さらに排出口27bおよび回収配管72を介して貯留タンク71に回収される。こうして回収されたIPAは次の基板Wに対する置換処理時に使用する再利用IPAとして貯留タンク71に貯留される。また、パターンの間隙にはIPAが入り込んでいるので、パターン倒壊やウォーターマーク発生を防止できる。また、間隙空間SPはガス吐出口から供給される窒素ガスで満たされていることから、乾燥時間を短縮するとともに基板Wに付着するIPAへの被酸化物質の溶出を低減してウォーターマークの発生をさらに効果的に抑制することができる。このように、本実施形態では、いわゆるスピン乾燥により基板乾燥を行っており、チャック回転機構13が本発明の「乾燥手段」に相当している。
【0052】
基板Wの乾燥処理が終了すると、制御ユニット4はチャック回転機構13を制御して基板Wの回転を停止させる。そして、スプラッシュガード6を退避位置に位置させて、スピンチャック1をスプラッシュガード6の上方から突出させる。その後、基板搬送手段が処理済の基板Wを装置から搬出して、1枚の基板Wに対する一連の基板処理が終了する。そして、次の基板Wについても、上記と同様の処理が実行されるが、上記のようにして回収されたIPAが次の基板Wに対する置換処理において再利用IPAとして使用される。
【0053】
以上のように、基板表面Wfを乾燥させる前に基板表面WfにIPAを供給して基板表面Wfに付着している液体成分をDIWからIPAに置換して表面張力を低下させている。すなわち、乾燥前処理(基板表面Wfに未使用IPAを供給する処理)を行うことで基板表面Wfは常に最終的に基板乾燥に適した表面状態に調整されている。そして、その表面状態のまま基板乾燥が実行されるため、優れた乾燥性能で基板を乾燥させることができる。
【0054】
しかも、この実施形態では、リンス処理を受けた基板Wに対して乾燥前処理を直ちに行うのではなく、再利用IPAを基板表面Wfに供給して基板表面Wfに付着しているリンス液(DIW)をIPAに置換した上で乾燥前処理を行っている。この再利用IPAは、当該基板Wよりも先に基板処理した際に発生する使用済みのIPAを回収し、貯留タンク71に貯留したものである。したがって、本実施形態では、新たに消費するIPAは乾燥前処理で使用されるIPA量のみであり、リンス処理後に未使用IPAを基板Wに供給していた従来技術に比べ、本実施形態によれば、再利用IPAを用いる分だけIPAの消費量を低減することができる。
【0055】
特に、近年ではパターンの微細化に伴い基板表面Wfに高アスペクト比のホールやトレンチなどの凹部が形成されることが多くなっており、凹部の内部にまでIPAを行き渡らせるためには、ある程度の時間IPAを供給し続ける必要があり、このことが従来、IPA消費量を増大させる主要因のひとつとなっていた。しかしながら、本実施形態では、再利用IPAを供給する時間を増大させて凹部の内部にまでしっかりとIPAを送り込んだとしても、その処理により未使用のIPAが新たに消費されるわけではなく、IPA消費量は増えない。したがって、高アスペクト比のホールやトレンチなどの凹部を有する基板Wに対して少ないIPA消費量で良好な基板処理を行うことができる。
【0056】
また、この実施形態では、置換処理において基板Wから排出される余剰のIPAを回収しているが、その置換処理の初期段階でDIWが微量(DIW液膜を構成するDIW量)ながら貯留タンク71に回収されることとなり、再利用IPAの濃度を低下させる方向に作用する。しかしながら、本実施形態では、乾燥前処理において供給された未使用IPAを乾燥前処理中や乾燥処理において貯留タンク71に回収しており、これが再利用IPAの濃度を高める方向に作用する。したがって、再利用IPAの濃度が急激に低下することはなく、再利用IPAを用いて上記基板処理を繰り返して行うことができる。
【0057】
ここで、IPA濃度の重要性を検討するため、IPA濃度の変化がパターン倒壊を引き起こす力に与える影響を調べた結果について図5を参照しつつ説明する。パターン倒壊を引き起こす力は
2γ×cosθ・・・式(1)
であり、パターンの間隙に付着する液体の表面張力γ(以下、単に「表面張力γ」という)と、基板表面と液体との間の接触角θ(以下、単に「接触角θ」という)に応じた値cosθとの積の大きさに依存する。そこで、本願発明者は、IPA濃度と表面張力γとの関係およびIPA濃度と接触角θとの関係についてそれぞれ評価した。ここでは、リンス液として用いられるDIWとIPAとを混合して混合液を生成した。そして、混合液(DIW+IPA)中のIPAの体積百分率、つまりIPA濃度を変化させたときの表面張力γおよび接触角θを測定した。
【0058】
図5は、表面張力γおよび接触角θと、IPA濃度との関係を示すグラフである。図5に記載される横軸はIPA濃度を表しており、IPA濃度が0(vol%)はDIW単体であることを、IPA濃度が100(vol%)はIPA液体単体であることを示している。これら表面張力γと接触角θは、協和界面科学株式会社製LCD−400Sを用いて測定した。ここで、表面張力γの測定は懸滴法(ペンダント・ドロップ法)により、接触角θは液滴法により測定した。なお、接触角θの測定には表面にpoly−Siが形成された基板を用いて最終的にHF処理された基板表面と液体(混合液、DIW単体、またはIPA液体単体)との間の接触角を測定している。
【0059】
図5から明らかなように、パターン倒れを防止するためには100%IPAを用いるのが最も好ましく、本実施形態では上記したように未使用IPAとして100%IPAを用いている。一方、IPA濃度が数十%低下したとしても、表面張力γの増大は比較的小さい。このことは再利用IPAの濃度が多少低下したとしても、微細パターンの凹部に介在することでパターン倒れを効果的に防止可能であることを示しており、再利用IPAを用いることの有効性が明らかとなっている。
【0060】
また、IPA濃度が低下するにしたがって表面張力γが増加することから、最初の基板Wに対して一連の基板処理を実行する際(イニシャル時)には、図6(a)に示すように、貯留タンク71には未使用のIPAを最小限だけ貯留しておくのが好適である。そして、基板処理を繰り返して実行する間に、同図(b)に示すように、貯留タンク71に再利用IPAが貯まっていき再利用IPAの液面が上昇していく。なお、同図中の符号704は1回の置換処理に必要なIPA量を検出する下限センサであり、この下限センサ704により検出される液面位置がイニシャル時の液面位置に相当している。また、符号705は許容される再利用IPA量を検出する上限センサであり、符号706は再利用IPAのオーバーフローを検出するためのセンサである。
【0061】
ところで、上記したように基板処理を繰り返して実行する間に、貯留タンク71に再利用IPAが貯まっていき再利用IPAの液面が上昇していく。また、IPA濃度も徐々に低下していく。したがって、基板処理を良好に行うためには、次に説明するように、再利用IPAの量および濃度を適当なタイミング、例えば1枚の基板Wに対する基板処理が完了する毎に検出し、その検出結果に基づき適切に対応するのが望ましい。
【0062】
図7はこの発明にかかる基板処理装置の他の実施形態を示す図である。この実施形態では、制御ユニット4は基板Wに対する基板処理が完了して基板Wが搬出されるタイミングでメモリに記憶されているプログラムにしたがって以下のステップS1〜S6を実行する。この実施形態では、ステップS1で濃度計77により再利用IPAの濃度が検出される。そして、その検出結果(IPA濃度)が予め設定した濃度、つまり表面張力γが十分に低くパターン倒れを効果的に防止することができる濃度以上であるか否かを制御ユニット4は判定している。ここで、再利用IPAの濃度が設定濃度未満となっている(ステップS2で「NO」)場合には、バルブ702が開いて貯留タンク71内の再利用IPAの一部を排液管701を介して排出するとともに、未使用IPAの補充をユーザに促して貯留タンク71内の再利用IPAの濃度を高める(ステップS3)。この動作は、再利用IPAの濃度が設定濃度以上となるまで繰り返して行われる。なお、この実施形態では、未使用IPAの補充をユーザによるマニュアル操作により行うように構成しているが、例えば図8に示すように構成して自動補充するように構成してもよい。すなわち、図8に示す装置では、フィルタ85の下流側で第2溶剤供給管82から配管86が分岐され、貯留タンク71に連通されている。また、この分岐配管86にはバルブ87が介挿されている。そして、制御ユニット4が、未使用IPAの補充が必要であると判断した際に、バルブ87を開いて貯留タンク81内の未使用IPAを配管86を介して貯留タンク71に補充してもよい。
【0063】
図7に戻って説明を続ける。再利用IPAの濃度が設定濃度以上であると判定した際には、貯留タンク71に貯留されている再利用IPA量が検出される(ステップS4)。この実施形態では、センサ703からの信号に基づき制御ユニット4は、貯留タンク71内での再利用IPAが所定の設定量未満であるか否かを判定する(ステップS5)。ここで、再利用IPAの量が設定量以上となっている、つまりセンサ703から検出信号が与えられている場合、制御ユニット4は貯留タンク71内での再利用IPAが所定の設定量以上となっている(ステップS2で「NO」)と判定し、バルブ702が開いて貯留タンク71内の再利用IPAの一部を排液管701を介して排液して貯留タンク71内の再利用IPA量を設定量未満に減少させる。
【0064】
上記実施形態において、再利用IPAの濃度は15〜95%の濃度範囲で設定され、好ましくは70〜95%の濃度である。
【0065】
以上のように、この実施形態によれば、再利用IPAの量および濃度が常に設定範囲に調整され、この調整状態で基板処理が行われる。その結果、基板処理を良好に行うことができる。ここでは、センサ703のみを設けてIPA量を制御しているが、図6に示すように、下限センサ704、上限センサ705および/またはオーバーフローセンサ706をさらに設けることで貯留タンク71内での再利用IPA量をさらに高精度に検出してIPA量のさらなる適正化を図ってもよい。
【0066】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、リンス液で濡れた基板表面Wfを乾燥させているが、リンス液以外の液体で濡れた基板表面Wfを乾燥させる基板処理方法および基板処理装置に対しても本発明を適用することができる。
【0067】
また、上記実施形態では、乾燥前処理に使用する有機溶剤としてIPAを用いているが、他のアルコール系有機溶剤、例えばエチルアルコール(Ethanol)やメチルアルコール(methanol)などを用いることができる。また、アルコール系有機溶剤以外に、DIWなどの基板表面に付着している液体よりも表面張力が低い有機溶剤を乾燥前処理に使用する有機溶剤として用いることができる。
【0068】
また、上記実施形態では、リンス液としてDIWを用いているが、炭酸水(DIW+CO2)など乾燥前処理に使用する有機溶剤と反応しない液体をリンス液として用いるようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態において、再利用IPAの濃度調整は未使用IPAの補充によって行なわれているが、純水やDIWの供給によって行なってもよい。また再利用IPAD中のIWの濃度を近赤外線液体成分濃度計で求めることで、DIWを自動補充するように構成してもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、リンス処理以後、遮断部材を基板表面に近接対向位置させる構成としているが、遮断部材が無い構成としてもよい。例えば図9に示すように、それぞれスピンベース側部の待機位置と基板の回転中心の上方とを揺動可能に構成された2本の吐出ノズル910、920を設け、吐出ノズル910から再利用IPAを、吐出ノズル920から未使用IPAを吐出するようにしても良い。この場合、リンス液の吐出は薬液吐出ノズル3を含めた3本のうち一体において共有させて、切り替えて吐出するようにしても良いし、別途4本目の吐出ノズルを専用に設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0071】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などを含む基板全般の表面に対して乾燥処理を施す基板処理装置および基板処理方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】この発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1の基板処理装置の主要な制御構成を示すブロック図である。
【図3】図1の基板処理装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】図1の基板処理装置の動作を示す模式図である。
【図5】表面張力および接触角と、IPA濃度との関係を示すグラフである。
【図6】この発明にかかる基板処理装置の別の実施形態を示す図である。
【図7】この発明にかかる基板処理装置の他の実施形態を示す図である。
【図8】この発明にかかる基板処理装置のさらに別の実施形態を示す図である。
【図9】この発明にかかる基板処理装置のさらに他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
6…スプラッシュガード(回収手段)
7…第1溶剤供給ユニット(第1供給手段)
8…第2溶剤供給ユニット(第2供給手段)
13…チャック回転機構(乾燥手段)
27b…排出口(回収手段)
27c…排出口(回収手段)
71…貯留タンク
72…回収配管(回収手段)
73…第1溶剤供給管(第1供給手段)
75…定量ポンプ(第1供給手段)
81…貯留タンク(第2供給手段)
82…第2溶剤供給管(第2供給手段)
84…定量ポンプ(第2供給手段)
Wf…基板表面
W…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面を乾燥させる基板処理方法であって、
再利用有機溶剤を基板の表面に供給する第1工程と、
前記再利用有機溶剤で濡れた前記基板表面に未使用の有機溶剤を供給して前記基板表面を基板乾燥に適した表面状態に調整する第2工程と、
前記第2工程後に前記基板表面から前記有機溶剤を除去して前記基板表面を乾燥する第3工程とを備え、
前記第2工程は、前記基板表面から排出される余剰の有機溶剤を回収するとともに、当該回収後に実行される前記第1工程において使用される前記再利用有機溶剤として前記余剰の有機溶剤を貯留することを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記第1工程は、前記基板表面から排出される余剰の有機溶剤を回収するとともに、当該回収後に実行される前記第1工程において使用される前記再利用有機溶剤として前記余剰の有機溶剤を貯留する請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
表面が液体で濡れている、基板を乾燥させる請求項2記載の基板処理方法であって、
前記第1工程は、前記基板表面に付着している前記液体を前記再利用有機溶剤に置換する工程である基板処理方法。
【請求項4】
前記余剰の有機溶剤をタンクに前記再利用有機溶剤として回収することにより前記タンク内での再利用有機溶剤の濃度が所定濃度未満となると、前記タンクに貯留されている再利用有機溶剤の一部または全部を排出するとともに、未使用の有機溶剤を前記タンクに補充して前記タンクに貯留される再利用有機溶剤の濃度を前記所定濃度以上に高める請求項3記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記余剰の有機溶剤をタンクに前記再利用有機溶剤として回収することにより前記タンク内での再利用有機溶剤の貯留量が所定量を超えると、前記タンクに貯留されている再利用有機溶剤の一部を排出して貯留量を前記所定値以下に低減させる請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記第3工程は、表面が有機溶剤で濡れた基板を回転させて乾燥させる工程である請求項1ないし5のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記第3工程は、基板回転により前記基板から振り切られた有機溶剤を回収するとともに、当該回収後に実行される前記第1工程において使用される前記再利用有機溶剤として前記有機溶剤を貯留する請求項6記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記有機溶剤はイソプロピルアルコールである請求項1ないし7のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項9】
基板の表面を乾燥させる基板処理装置において、
再利用有機溶剤を貯留するタンクを有し、前記タンク内の再利用有機溶剤を基板表面に供給する第1供給手段と、
前記再利用有機溶剤で濡れた前記基板表面に未使用の有機溶剤を供給して前記基板表面を基板乾燥に適した表面状態に調整する第2供給手段と、
前記表面状態を有する前記基板表面から前記有機溶剤を除去して前記基板表面を乾燥させる乾燥手段と、
前記第2供給手段により前記未使用有機溶剤を前記基板表面に供給した際に前記基板表面から排出される有機溶剤を前記再利用有機溶剤として回収して前記タンクに貯留する回収手段と
を備えたことを特徴とする基板処理装置。
【請求項10】
前記回収手段は前記第1供給手段により前記再利用有機溶剤を前記基板表面に供給した際に前記基板表面から排出される有機溶剤を前記再利用有機溶剤として回収して前記タンクに貯留する請求項9記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−110984(P2009−110984A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278448(P2007−278448)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】