説明

変位検出装置、露光装置、及びデバイス製造方法

【課題】変位量への換算を迅速に処理する。
【解決手段】 対物レンズ18は、光源13が発した光束を被検面23a上に微小スポットとして投射する。シリンドリカルレンズユニット21は、曲率半径の異なる2つのシリンドリカルレンズ30,31をもっており、それぞれに被検面23aで反射した反射光束に異なる量の非点収差を与える。受光センサ19は、非点収差が与えられた反射光束を入射させて受光パターンに応じた出力変化が得られるように受光面が複数に分割されている。信号処理部24は、受光面から得られる出力信号に基づいて被検面23aの変位を検出する。選択部33は、被検面23aの検出範囲に応じて、いずれか一方のシリンドリカルレンズ30,31を光路上にセットするように移動機構22を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的非点収差法を用いて対物レンズと被検面との間の変位を検出する変位検出装置、及びこれを用いる露光装置、並びにこの露光装置を用いるデバイス製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対物レンズを介して被検面に光源からの光を投光し、対物レンズを介した被検面からの反射光に基づいて対物レンズに対する被検面の面位置(被検面の法線方向に沿った位置)の変位を検出する変位検出装置が知られている(特許文献1)。この変位検出装置では、対物レンズを介して被検面にレーザ光を集光し、被検面で反射されて上記対物レンズを経た光を4分割センサで受光する。そして、非点収差法を用いて4分割センサから得られる出力信号に基づいて差分信号(変位信号)値を生成し、この差分信号値を被検面の変位量に換算して出力する。
【0003】
非点収差法による被験面の変位検出において、迅速に処理を行うためには、4分割センサから読み出された差分信号値から被検面の変位量が直接換算することができるように構成することが好ましい。そのためには、換算前の差分信号値の変位幅(最大値と最小値との差)と換算後の変位量の変位幅とが同じスケール(1対1に対応する範囲)に収まるように検出範囲を合わせておくことが必要になる。また、検出ノイズ量が一定であるものとすると、変位量を精密に検出するためには、変位あたりの差分信号値の変化率を大きくするとことが必要である。これは、一定の面位置の変位に対する差分信号値の変化量(信号値変化率)が大きいことに相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−366711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、差分信号値の検出範囲と被検面の変位に対する信号値変化率とは共に、シリンドリカルレンズによって与えられる非点収差量により規定されるものであり、両者は相反するように応答する。このため、差分信号値の検出範囲を広げようとすれば、信号値変化率が小さくなり、信号値変化率を大きくしようとすれば、差分信号値の検出範囲が小さくなってしまう不都合が生じる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、差分信号値の検出範囲と信号値変化率とが共に合うに非点収差量を与えることで、被検面の変位量への換算を迅速に処理することができる変位検出装置、露光装置、及びデバイス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明を例示する変位検出装置の一態様は、光源と、光源が発した光束を被検面上に微小スポットとして投射させる対物レンズと、被検面で反射した反射光束に非点収差を与える非点収差光学部材と、非点収差が与えられた反射光束を入射させて受光パターンに応じた出力変化が得られるように受光面を複数に分割した受光センサと、受光面から得られる変位信号に基づいて被検面のうちの基準面からの変位量を求める信号処理部と、変位量の変位幅(検出範囲)に基づいて非点収差光学部材が与える非点収差量を変化させる非点収差量変更手段と、を備えたものである。
【0008】
本発明を例示する他の態様によれば、前述した変位検出装置を、マスクに設けた所定のパターンを感光性基板に露光する露光装置に使用してもよい。露光装置は、感光性基板を支持する基板ステージと、基板ステージを平面内で移動して感光性基板の露光領域を露光位置にセットする移動手段と、基板ステージの傾きを補正する傾き補正手段と、を備える。さらに、本発明を例示する他の態様によれば、前述した露光装置を用いるデバイス製造方法としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の変位検出装置によれば、非点収差量を変える非点収差量変更手段を備えているため、非点収差量を大きくすれば、変位量の分解能が下がるものの変位量の検出範囲を拡大することができ、また、逆に非点収差量を小さくすれば、変位量の検出範囲が小さくなるものの変位量の分解能を上げることができる。これにより、非点収差量を変化させることで、被検面の変位に応じた適切な変位検出能力を得ることができ、よって、被検面の変位量への換算を迅速に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の変位検出装置の概略を示す斜視図である。
【図2】対物レンズと被検面との間の距離が対物レンズの焦点距離に一致したときの受光センサに入射するスポット光を示す説明図である。
【図3】対物レンズと被検面との距離が対物レンズの焦点距離を超える距離になるときの受光センサに入射するスポット光を示す説明図である。
【図4】対物レンズと被検面との距離が対物レンズの焦点距離未満の距離になったときの受光センサに入射するスポット光を示す説明図である。
【図5】第1及び第2シリンドリカルレンズを使用したときの受光センサの変位信号と被検面の変位量との関係を示す特性図である。
【図6】本実施形態の変位検出装置を用いた露光装置の概略を示す説明図である。
【図7】露光装置の基板ステージを示す平面図である。
【図8】本実施形態の変位検出装置の動作手順を説明するフローチャートである。
【図9】プレ検出時に信号処理部が算出する変位信号を示すグラフである。
【図10】変位信号を換算した被検面の変位量を示すグラフである。
【図11】非点収差量に応じた変位信号と被検面の変位量との特性を示すグラフである。
【図12】半導体デバイスの製造工程の手順を示すフローチャートである。
【図13】液晶表示素子等の液晶デバイスの製造工程の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本実施形態の変位検出装置10は、図1に示すように、非接触センサ部11、及び検出部12で構成されている。非接触センサ部11は、光源13、コリメートレンズ14、光調整部材15、偏光ビームスプリッタ16、λ/4板17、対物レンズ18、受光センサ19、集光レンズ20、シリンドリカルレンズユニット21、及び移動機構22等で構成されており、被検面23aを非接触で検出する。
【0012】
検出部12は、信号処理部24、及び表示部25で構成されており、非接触センサ部11から得られる変位信号に基づいて被検面23aの変位量を求める。
【0013】
光源13は、例えば半導体レーザダイオードやスーパールミネッセンスダイオード、発光ダイオード等から発光されるレーザ光をコリメートレンズ14に向けて出射する。コリメートレンズ14は、光源13から射出された出射光Lを平行光に変換する。平行光に変換された出射光Lは光調整部材15に入射される。
【0014】
光調整部材15は、コリメートレンズ14と偏光ビームスプリッタ16との間の光路上に配置され、被検面23aに結像される出射光Lのビーム径を光調整部材15が無い場合と比べて広げると共に、出射光Lの解像度を低くする。
【0015】
光調整部材15は、円形のガラス基板26上に金属層を成膜し、成膜した金属層をフォトリソグラフィ等により所定形状にパターニングすることにより、円形の遮光部27とその周りに配される環状の透過部28とを有する。遮光部27は、出射光Lの近軸光線を遮光する。透過部28は、出射光Lを被検面23aに向けて通過させる。透過部28の開口径を調整することで、コリメートレンズ14から出射する平行光の通過光量の調整が可能となる。
【0016】
コリメートレンズ14を通過して光調整部材15に入射した出射光Lは、出射光Lのうち近軸光線(第1の出射光)が遮光部27によって遮光され、近軸光線の周辺の周辺光(第2の出射光)が透過部28を介してガラス基板26を通過する。
【0017】
偏光ビームスプリッタ16は、光調整部材15を通過した出射光Lを透過させてλ/4板17に入射させる。λ/4板17は、入射した直線偏光である出射光Lを右向きの円偏光に変換する。λ/4板17を通過した出射光Lは、対物レンズ18に入射される。
【0018】
対物レンズ18は、所定の開口数を有するレンズ等からなる光学素子であり、焦点距離f1になっている。対物レンズ18に入射した出射光Lは、被検面23aに集光される。被検面23aに集光した出射光Lは、被検面23aで反射される。被検面23aで反射した反射光Lrは、対物レンズ18を通過してλ/4板17に入射する。
【0019】
λ/4板17は、入射された右向きの偏光光である反射光をさらに右向きに回転させて、出射光Lと偏光方向が直交する直線偏光からなる反射光Lrに変換する。λ/4板17を通過した反射光Lrは、偏光ビームスプリッタ16に再び入射される。
【0020】
偏光ビームスプリッタ16は、入射した反射光Lrが出射光Lに対して偏光方向が直交しているため、反射光Lrを集光レンズ20に向けて透過させる。
【0021】
集光レンズ20は、所定の開口数を有するレンズ等からなる光学素子であり、入射された反射光Lrを所定のビーム径でシリンドリカルレンズユニット21に集光させる。
【0022】
シリンドリカルレンズユニット21は、曲率の異なる第1及び第2シリンドリカル面30a,30bをそれぞれもつ第1及び第2のシリンドリカルレンズ30,31を、シリンドリカル面30a,30bの曲率を持たない一方向(レンズ面を直線上)に繋げて一体的に形成したものである。第1シリンドリカル面30aは、第2シリンドリカル面30bよりも曲率が小さくなっている。このため、第1シリンドリカルレンズ30は、第2シリンドリカルレンズ31よりも焦点距離が長く、非点収差量が小さい。
【0023】
移動機構22は、信号処理部24から得られる選択信号に基づいてシリンドリカルレンズユニット21を前記一方向に移動して、いずれか一方のシリンドリカルレンズ30,31を、受光センサ19と集光レンズ20との間の光路上に設けた挿入位置32にセットする。これにより、シリンドリカルレンズユニット21は、第1シリンドリカルレンズ30を挿入位置32にセットする第1位置と、第2シリンドリカルレンズ31を挿入位置32セットする第2位置との間で移動する。
【0024】
シリンドリカルレンズ30又は31は、曲率がある断面では光を集光・発散させ、平面の断面内では光をそのまま透過させる。シリンドリカルレンズ30又は31に入射した反射光Lrは受光センサ19に集光される。なお、シリンドリカルレンズユニット21を集光レンズ20と偏光ビームスプリッタ16との間に配置してもよい。
【0025】
受光センサ19は、シリンドリカルレンズ30又は31により集光された反射光Lrに基づいて変位信号(変位情報)を生成して出力する。受光センサ19は、4分割されたフォトダイオードにより構成されている。4分割ダイオードA〜Dは、図2に示すように、方形を4分割した構成になっており、それぞれが光量を検出する。4分割ダイオードA〜Dに集光される反射光Lrのビーム径は、被検面23aが対物レンズ18の焦点距離f1にあるときに、図2に示すような光スポットになる。また、対物レンズ18が被検面23aに対して焦点距離f1より遠ざかると、図3に示すように、横に広がった楕円形の光スポットになり、また、焦点距離f1より近づくと図4に示すように、縦に広がった楕円形の光スポットになる。
【0026】
ここで、各ダイオードA〜Dから出力される光量に応じた出力信号をa,b,c,dとすると、焦点距離f1のずれを表す変位信号Sは、例えば[数1]に示すような規格化された式を用いて求めることができる。
【0027】
[数1]
S=(a−b−c+d)/(a+b+c+d)
第1及び第2シリンドリカルレンズ30(SL1),31(Sl2)の非点収差量に応じた変位信号Sと変位量とは、図5のグラフに示すような特性を有する。図5に示す変位量「0」は、被検面23aが予め設定した基準面にあることを示している。
【0028】
第1シリンドリカルレンズ30(SL1)を使用した場合には、変位量に変位幅(検出範囲)「X1」をもつ。第2シリンドリカルレンズ31を使用した場合には、第1シリンドリカルレンズ30の変位幅X1よりも広い変位幅(検出範囲)「X2」になる。本実施形態では、2つのシリンドリカルレンズ30,31のうちのいずれか一つを選択するため、変位幅X1を閾値として使用する。
【0029】
信号処理部24は、[数1]の式を用いて算出した変位信号Sに基づいて、被検面23aの変位を前記基準面からの変位量として求めることができる。信号処理部24は、換算部33、及び選択部34を備えている。換算部33は、変位信号値Sから被検面23aの変位量を、その時点で与えられている非点収差量(変位信号の検出範囲と分解能)に基づいて換算する。
【0030】
選択部34は、変位信号の変位幅と予め決めた閾値X1とを比較して換算前の変位信号の変位幅と換算後の被検面の変位量の変位幅とが同じスケールに収まる非点収差量を与えるシリンドリカルレンズを、第1及び第2シリンドリカルレンズ30,31の中から選択するように移動機構22を制御する。
【0031】
具体的には、被検面23aの変位量のうち最大値と最小値との差(変位幅)X3と図5で説明した閾値X1とを比較して、その変位幅X3が閾値X1以下の場合にシリンドリカルレンズ30を選択し、また閾値X1を超える場合には、曲率が大きい(焦点距離の短い)シリンドリカルレンズ31を選択するように移動機構22を制御する。なお、変位幅X3が閾値X1未満の場合にシリンドリカルレンズ30を選択し、閾値X1以上の場合にはシリンドリカルレンズ31を選択してもよい。
【0032】
信号処理部24は、所定の画像信号処理を行い、換算した変位量に基づく画像信号を生成して表示部25に出力する。表示部25は、例えばLCD等から構成されており、信号処理部24から出力される画像信号に基づいて表示を行い、画面に被検面23aの変位を表示する。
【0033】
このような変位検出装置10は、図6に示す露光装置40に、基板ステージ41の傾きを補正するための傾き検出手段として用いられる。周知のように、露光装置40は、照明部42に設けた光源から出射される光によりパターンが形成されたマスク43を照明し、マスク43のパターン像を投影光学部44によりレジストが塗布されたウエハ(感光性基板)45上に縦横に設定された複数の単位露光領域に転写する。
【0034】
ウエハ45は、基板ステージ41に保持されている。基板ステージ41は、X−Yテーブル46に設けられている。X−Yテーブル46は、X−Yテーブル駆動機構47の駆動によりウエハ45をX及びY方向に移動させる。
【0035】
制御部48は、照明部42、及びX−Yテーブル駆動機構47等を統括的に制御する。露光は、X−Yテーブル46をXY平面に沿ってステップ移動させることにより、ウエハ45上の単位露光領域を露光位置に位置決めし、マスク43のパターン像を単位露光領域に露光する。以下前述した動作を繰り返すことで、マスク43のパターン像を全部の単位露光領域に露光していく。
【0036】
複数の変位検出装置10は、詳しくは図7に示すように、基板ステージ41の表面のうちのウエハ45を保持する領域以外を検出する。なお、図7に示す符号55は単位露光領域、符号49〜54は基板ステージ41が停止中の検出エリアである。
【0037】
露光中に制御部48は、複数の変位検出装置10を作動させ、基板ステージ41の表面の変位を検出する。基板ステージ41は、X−Yテーブル46の移動と一緒にX及びY方向に移動して、複数の変位検出装置10の検出位置を変えていく。各変位検出装置10から得られる変位量は、制御部48に連続的に送られる。
【0038】
制御部48は、各変位検出装置10から得られる変位量に基づいて基板ステージ41の傾きを求め、その傾きを補正するようにドライバ56を介して複数の押圧手段57,58の押圧量の押圧量を制御することで、基板ステージ41の傾きが水平になるように補正する。
【0039】
ここで、本実施形態の変位検出装置10を用いる場合の動作手順を図8に示す。最初に、選択部34は、移動機構22を制御していずれかい一方のシリンドリカルレンズ30,31を挿入位置にセットしておく。なお、ここでは、第1シリンドリカルレンズ30を最初に挿入位置にセットしておく(S−1)。
【0040】
その後、露光装置40の制御部48は、事前にX−Yテーブル46をX及びY方向に粗くステップ駆動(プレスキャン)して、基板ステージ41の表面(被検面)の変位量を粗くプレ検出する(S−2)。
【0041】
換算部33は、プレスキャンにより得られた変位信号S(図9)から変位量(図10)を換算する。選択部34は、図10に示すように、換算後の変位量の変位幅X3が閾値X1以下の場合にはSL1選択信号を、また変位幅X3が閾値X1を超える場合にはSL2選択信号を移動機構22に送る(S−3)。
【0042】
移動機構22は、SL1選択信号を受けることに応答して第1シリンドリカルレンズ30を挿入位置にセットした状態を維持し、またSL2選択信号を受けることに応答してシリンドリカルレンズユニット21を第2位置に移動して、第2シリンドリカルレンズ31を挿入位置にセットする(S−4)。
【0043】
このように、各変位検出装置10は、事前にプレ検出を行うことで、換算前の前記変位信号の変位幅と換算後の前記被検面の変位量の変位幅とが同じスケールに収まる非点収差量を与えるシリンドリカルレンズをセットする。その後、制御部48は、前述した露光を開始するとともに、その露光中の基板ステージ41の移動中に複数の変位検出装置10を作動して基板ステージ41の傾き補正を開始する(S−5)。
【0044】
これによれば、換算前の前記変位信号の変位幅と換算後の前記被検面の変位量の変位幅とが同じスケールに収まるため、変位量の検出処理を高速に行え、よって、露光装置40での基板ステージ41の傾き補正を迅速に行うことができる。
【実施例】
【0045】
図1で説明した光源13の波長を650nm、透過部28の外径(絞り直径)4mm、遮光部27の直径3mm、対物レンズ18の焦点距離を5mm、集光レンズ20の焦点距離を20mm、第1シリンドリカルレンズ30の焦点距離を1600mm、第2シリンドリカルレンズ31の焦点距離を400mmとしたときの変位信号Sと被検面23aの変位量との関係を図11に示す。SL1(実線)が第1シリンドリカルレンズ30を使用したときの特性を、SL2(点線)が第2シリンドリカルレンズ31を使用したときの特性を示している。
【0046】
第1シリンドリカルレンズ30を使った場合、変位量の変位幅X4(変位信号Sと変位量との1対1に対応している範囲)が約±8μm以内、変位量0付近における信号値変化率が約0.25/μmになっている。一方、第2シリンドリカルレンズ31を使った場合には、変位幅X5(変位信号Sと変位量との1対1に対応している範囲)が約±24μm以内、変位量0付近での信号値変化率は約0.15/μmになっている。このように、焦点距離の異なるシリンドリカルレンズ30,31を入れ変えることにより、変位量の検出範囲を広げたり、検出精度(分解能)を上げたりすることが可能となる。
【0047】
上記実施形態では、2種類の曲率の異なるシリンドリカルレンズ30,31を入れ替えるようにしているが、本発明では2種類に限らず、3種類以上の曲率が異なるシリンドリカルレンズを入れ替えるように構成してもよい。この場合には、プレ検出時に得た変位量の変位幅X3が、図5で説明した閾値(基準の変位幅)X1、X2・・・と順に比較していずれの範囲に入るかを求めて、変位量の変位幅X3が収まる変位幅(検出範囲)になる非点収差量を与えるシリンドリカルレンズを選択すればよい。
【0048】
また、上記各実施形態では、プレ検出を行うことでシリンドリカルレンズの選択を行っているが、本発明ではこれに限らず、露光中の途中で切り替えるように構成してもよい。この場合には、変位量の変位幅を監視する監視手段と、変位幅を予め決めた閾値と比較して適合する非点収差量を与えるシリンドリカルレンズに切り替える切り替え手段と、を設ければよい。
【0049】
さらに、上記各実施形態では、シリンドリカルレンズユニット21を使用しているが、本発明ではこれに限らず、シリンドリカルレンズユニット21に代わりに、液体レンズを使用してレンズ面の曲率を変化させる構成にしてもよい。
【0050】
この場合には、例えば、導電性又は有極性を有する第1の液体と;この第1の液体と混合することのない第2の液体と;光軸方向を向いた第1の内面およびこの第1の内面に交わって互いに対向配置された一対の第2の内面を少なくとも有して構成され、前記第1および第2の液体を収容する容器と;を有し、前記第1の内面および前記第2の内面に、前記第2の液体に対して吸着性を有する吸着層を形成して、前記第1の液体と前記第2の液体との少なくとも前記第2の内面の吸着層に交わる界面を形成させ、前記第1の液体に通電するための第1の電極と前記容器側に設けられた第2の電極との間への印加電圧の変化に応じて前記界面の形状が変化するように構成すればよい。
【0051】
そして、前記第2の内面の吸着層における前記第1の面とは反対側の外縁を略円弧状に形成し、前記界面を略シリンドリカル面にすればよい。また、前記第2の電極を、前記容器の内面のうち前記第2の内面以外の面側に設ければよい。
【0052】
そして、前記第2の電極を、前記容器の内面のうち前記第1の内面側に設け、前記第1および第2の電極間への印加電圧の変化に応じて、前記一方の液体の前記第1の内面に形成された吸着層上での面積を変化させることにより、前記界面の形状が変化するように構成すればよい。
【0053】
また、前記第2の電極を、前記容器の内面のうち前記第1および前記第2の内面に交わる第3の内面側に設け、前記第1および第2の電極間への印加電圧の変化に応じて、前記界面のうち前記第3の内面に形成した吸着層に交わる部分が光軸方向に移動することにより、前記界面の形状が変化するようにすればよい。前記第1および第2の電極間への印加電圧を変化させる給電回路を備える。
【0054】
さらに、シリンドリカルレンズに代えてLCOS(Liquid crystal on silicon)デバイス(液晶による空間位相変調素子)を使用し、実効的に焦点距離を変えてもよい。この場合、LCOSによって透過光の位相を変調し、回折型のシリンドリカルレンズ(回折レンズ)として使用する。LCOSを使って、位相分布を変化させることで、機械的な可動部分なしに、回折レンズの焦点距離を変えることが可能である。
【0055】
なお、露光装置40を用いたデバイス製造方法、例えば半導体デバイスの製造方法を、図12を参照しながら説明する。半導体デバイスの製造工程では、半導体デバイスの基板となるウエハ45に金属膜を蒸着し(S−6)、この蒸着した金属膜上に感光性材料であるフォトレジストを塗布する(S−7)。つづいて、前述した露光装置40を用い、マスク(レチクル)43に形成されたパターンをウエハ45上の各単位露光領域55に転写し(S−8:露光工程)、この転写が終了したウエハ45の現像、つまりパターンが転写されたフォトレジストの現像を行う(S−9:現像工程)。その後、ウエハ45の表面に生成されたレジストパターンをマスクとし、ウエハ45の表面に対してエッチング等の加工を行う(S−10:加工工程)。
【0056】
ここで、レジストパターンとは、前述した露光装置40によって転写されたパターンに対応する形状の凹凸が生成されたフォトレジスト層であって、その凹部がフォトレジスト層を貫通しているものである。加工工程では、このレジストパターンを介してウエハ45の表面の加工を行う。この工程で行われる加工には、例えばウエハ45の表面のエッチング、又は金属膜等の成膜の少なくとも一方が含まれる。なお、露光工程では、前述した露光装置40は、フォトレジストが塗布されたウエハ45を感光性基板としてパターンの転写を行う。
【0057】
また、露光装置40を用いたデバイス製造方法、例えば液晶表示素子等の液晶デバイスの製造方法を、図13を参照しながら説明する。液晶デバイスの製造工程では、パターン形成工程(S−11)、カラーフィルタ形成工程(S−12)、セル組立工程(S−13)、及びモジュール組立工程(S−14)を順次行う。
【0058】
パターン形成工程では、感光性基板としてフォトレジストが塗布されたガラス基板上に、前述した露光装置40を用いて回路パターン、及び電極パターン等の所定のパターンを形成する。このパターン形成工程には、露光装置40を用いてフォトレジスト層にパターンを転写する露光工程と、パターンが転写されたガラス基板上のフォトレジスト層の現像を行い、パターンに対応する形状のフォトレジスト層を生成する現像工程と、この現像されたフォトレジスト層を介してガラス基板の表面を加工する加工工程とが含まれている。
【0059】
カラーフィルタ形成工程では、R(Red)、G(Green)、B(Blue)に対応する3つのドットの組をマトリックス状に多数配列するか、またはR、G、Bの3本のストライプのフィルタの組を水平走査方向に複数配列したカラーフィルタを形成する。
【0060】
セル組立工程では、パターン形成工程によって所定パターンが形成されたガラス基板と、カラーフィルタ形成工程により形成されたカラーフィルタとを用いて液晶パネル(液晶セル)を組み立てる。
【0061】
具体的には、例えばガラス基板とカラーフィルタとの間に液晶を注入することで液晶パネルを形成する。モジュール組立工程では、セル組立工程により組み立てられた液晶パネルに対し、この液晶パネルの表示動作を行わせる電気回路、及びバックライト等の各種部品を取り付ける。
【0062】
以上説明したように、本発明の非点収差光学部材は、曲率の異なる複数のシリンドリカル面をもっており、非点収差量変更手段は、複数のシリンドリカル面の中から一つのシリンドリカル面を選択する。
【0063】
また、非点収差光学部材は、焦点距離の異なる複数のシリンドリカルレンズをもっており、非点収差量変更手段は、複数のシリンドリカルレンズの中から一つを選択して選択したシリンドリカルレンズを、反射光束に非点収差を与える光路上の挿入位置にセットする。
【0064】
具体的には、複数のシリンドリカルレンズを平面状に並べて一体的に取り付けたシリンドリカルレンズユニットとしてもよい。この場合には、非点収差変更手段は、シリンドリカルレンズユニットを移動させて複数のうちのいずれか一つのシリンドリカルレンズを挿入位置にセットする移動手段を備えればよい。
【0065】
複数のシリンドリカルレンズは、曲率をもたない方向(レンズ面が直線状に並ぶように)一列に設けても良いし、曲率をもつ方向(レンズ面が横に並ぶように)設けても良い。
さらには、ターレット板に複数のシリンドリカルレンズを設けてターレット板を回転させて選択するように構成してもよい。
【0066】
また、非点収差光学部材として、通電電圧を変えることでシリンドリカル面の曲率半径を変えることができる液体レンズや、位相分布を変えることで回折レンズの焦点距離を変えることができるLCOSデバイスを、シリンドリカルレンズユニットの代わりに用いても良い。
【0067】
信号処理部は、受光面から得られる変位信号値を被検面のうちの基準面からの変位量に換算する換算手段と、前記変位信号の変位幅と予め決めた閾値とを比較して換算前の前記変位信号の変位幅と換算後の前記被検面の変位量の変位幅とが同じスケールに収まる非点収差量を選択する選択手段と、を備えている。そこで、非点収差量変更手段は、非点収差光学部材の非点収差量を選択手段で選択した非点収差量に変更する。
【0068】
本願発明の変位検出装置は、基板ステージの表面のうちの基準面からの変位量を検出し、傾き補正手段にフィードバックする。この場合、露光装置は、基板ステージを事前に移動して、その事前移動中に、基板ステージの変位量を検出することで、事前に非点収差光学部材の非点収差量を変化させておけばよい。また、基板ステージの傾き補正の途中で非点収差量を変化させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、半導体デバイス製造用の露光装置への適用に限定されることなく、例えば、角型のガラスプレートに形成される液晶表示素子、若しくはプラズマディスプレイ等のディスプレイ装置用の露光装置や、撮像素子(CCD等)、マイクロマシーン、薄膜磁気ヘッド、及びDNAチップ等の各種デバイスを製造するための露光装置にも広く適用できる。さらに、本発明は、各種デバイスのマスクパターンが形成されたマスク(フォトマスク、レチクル等)を、フォトリソグラフィ工程を用いて製造する際の、露光工程(露光装置)にも適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 変位検出装置
13 光源
19 受光センサ
21 シリンドリカルレンズユニット
23 被検物
23a 被検面
40 露光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源が発した光束を被検面上に微小スポットとして投射させる対物レンズと、
前記被検面で反射した反射光束に非点収差を与える非点収差光学部材と、
前記非点収差が与えられた反射光束を入射させて受光パターンに応じた出力変化が得られるように受光面を複数に分割した受光センサと、
前記受光面から得られる変位信号に基づいて前記被検面のうちの基準面から変位量を求める信号処理部と、
前記変位量の変位幅に基づいて前記非点収差光学部材が与える非点収差量を変化させる非点収差量変更手段と、
を備えたことを特徴とする変位検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の変位検出装置において、
前記非点収差光学部材は、曲率の異なる複数のシリンドリカル面をもっており、
前記非点収差量変更手段は、前記複数のシリンドリカル面の中から一つのシリンドリカル面を選択する
ことを特徴とする変位検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の変位検出装置において、
前記非点収差光学部材は、焦点距離の異なる複数のシリンドリカルレンズをもっており、
前記非点収差量変更手段は、前記複数のシリンドリカルレンズの中から一つを選択して選択したシリンドリカルレンズを、前記反射光束に非点収差を与える光路上の挿入位置にセットすることを特徴とする変位検出装置。
【請求項4】
請求項3記載の変位検出装置において、
前記複数のシリンドリカルレンズは、平面状に並べて一体的に取り付けたシリンドリカルレンズユニットになっており、
前記非点収差量変更手段は、前記シリンドリカルレンズユニットを移動させて複数のシリンドリカルレンズのうちのいずれか一つのシリンドリカルレンズを前記挿入位置にセットする移動手段を備えている、
ことを特徴とする変位検出装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の変位検出装置において、
前記非点収差光学部材は、互いに不溶で異なる屈折率を有する第1の液体と第2の液体とを容器に封止した液体レンズとなっており、
前記非点収差量変更手段は、前記一方の液体に電圧を印加して2液界面の形状を変化させることで複数のシリンドリカル面の中から一つのシリンドリカル面を選択する
ことを特徴とする変位検出装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の変位検出装置において、
前記信号処理部は、前記受光面から得られる変位信号を前記変位量に換算する換算手段と、
前記変位信号の変位幅と予め決めた閾値とを比較して換算前の前記変位信号の変位幅と換算後の前記被検面の変位量の変位幅とが同じスケールに収まる非点収差量を選択する選択手段と、を備え、
前記非点収差量変更手段は、前記非点収差光学部材の非点収差量を前記選択手段で選択した非点収差量に変更することを特徴とする変位検出装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の変位検出装置を備えた露光装置において、
マスクに形成した所定のパターンを露光するための感光性基板を保持する基板ステージと、
前記基板ステージを平面内のX及びY方向に移動させて前記感光性基板上の露光領域を露光位置にセットする移動機構と、
前記基板ステージの移動中に、前記変位検出装置で検出される、前記基板ステージの表面のうちの基準面からの変位量に基づいて、前記基板ステージの傾きを補正する傾き補正手段と、
を備えていることを特徴とする露光装置。
【請求項8】
請求項7に記載の露光装置において、
前記変位検出装置は、前記基板ステージの事前の移動中に前記変位量を検出しておくことで、前記非点収差光学部材の非点収差量を変化させることを特徴とする露光装置。
【請求項9】
請求項7に記載の露光装置において、
前記変位検出装置は、露光中に前記変位量を検出し、その検出中に前記非点収差光学部材の非点収差量を変化させることを特徴とする露光装置。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項に記載の露光装置を用いるデバイス製造方法において、
前記所定のパターンを前記感光性基板に露光する露光工程と、
前記所定のパターンが転写された前記感光性基板を現像し、前記所定のパターンに対応する形状のマスク層を前記感光性基板の表面に形成する現像工程と、
前記マスク層を介して前記感光性基板の表面を加工する加工工程と、
を含むことを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−149984(P2012−149984A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8594(P2011−8594)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】