説明

差動制限機構の制御装置

【課題】差動制限機構の制御装置に関し、差動制限機構の作動時に発生する操舵反力変化を操舵アシスト力によって抑制するものにおいて、操舵アシスト力を付与できない操舵アシスト側のインタロック作動時にも操舵反力変化を抑制することができるようする。
【解決手段】車両の左右輪4FR,4FLの差動を制限する差動制限機構5と、車両の操舵に対しアシストトルクを付加するパワーステアリング機構8とを有し、差動制限機構5の動作に応じて、パワーステアリング機構8の制御量を増減制御する制御手段10とを有すると共に、パワーステアリング機構8のインタロックの作動を検出するインタロック作動検出手段を有し、制御手段10は、インタロック作動検出手段によりインタロックの作動を検出した際には、差動制限機構5の制御量を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の左右輪の差動を制限する差動制限機構の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両(自動車)には、左右輪の差動を許容する差動機構(Differential)に、差動を制限する差動制限機構(LSD:Limited Slip Differential)を備えたものがあり、このような車両では、LSDにより、片方の車輪(駆動輪)が無負荷になった際の空転を防止し、残る車輪(駆動輪)へ駆動力を伝達することができる。
このようなLSDには、トルク感応式,回転感応式,電子制御式の3つの種類がある。トルク感応式はエンジンからのトルクに応じてLSDが作動し、回転感応式は左右輪の回転速度差に応じてLSDが作動する。そして、電子制御式はLSDの制御器により任意のタイミングでLSDを作動させることができる。
【0003】
いずれの種類のLSDにおいても、クラッチやギアやオイルなどの摩擦力により、左右輪の回転速度の速い方から遅い方へ駆動力を移動させることで、車輪の空転(左右の回転速度の著しい差)を抑えることができ、悪路などの加速性の向上が期待できる。
また、車輪が空転していない状態でのLSDの作動においては、回転速度の速い旋回外輪から、回転速度の遅い旋回内輪へ駆動力が移動する、即ち、旋回を抑える方向に駆動力が移動するため、直進安定性の向上が期待できる。
【0004】
しかし、特に、フロントデフにLSDを備える車両では、LSDの作動による左右輪の駆動力の違いからトルクステアが発生し、ドライバの感じる操舵トルクが変化する。例えば、旋回外輪が空転した場合はLSDの作動によって旋回外輪から旋回内輪へ駆動力が移動し、左右の駆動輪に空転が生じない通常旋回時よりも操舵トルクが増加しステアリング操作が重くなる。また、旋回内輪が空転した場合には旋回内輪から旋回外輪へと駆動力が移動し、左右の駆動輪に空転が生じない通常旋回時よりも操舵トルクが減少し、ステアリング操作が軽くなる。このように、フロントデフにLSDを備える車両においては、ステアリング操作が重くなったり軽くなったりするために、操縦性が悪化するという課題もある。
【0005】
この点、特許文献1には、かかる課題に着目して、フロントデフにLSDを備える車両において、旋回走行中やスプリット路走行中等にLSDが作動した場合のステアリング操舵力の増加を車両の走行条件に応じて適宜抑制し、運転者のステアリング操作時の違和感の解消を図る技術が提案されている。この技術では、LSDの作動を検知する手段と、車両の左右の前輪の路面への接地状態を検知する手段と、両検知手段からの検知結果に基づいて操舵補助力を制御する制御手段とを備え、制御手段は、LSDの作動中に旋回内側の前輪が一旦空転し、その後再度路面に接地したことを検知したら、操舵補助力を接地前に比べて大きく設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3401336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、左右輪に回転速度差が生じているときに、操舵時にLSDを作動させると、高速回転していた車輪側から低速回転していた車輪側に駆動力が移動し、左右輪の駆動力差によるトルクステアが発生するため、これに起因して操舵反力変化が発生し、操舵トルクに違和感が生じてしまう。
特に、旋回内輪の空転時にLSDを強く作動させた場合、旋回外輪の駆動力が増加してこれによるトルクステアが旋回方向へ発生するため、ドライバに要求される旋回方向への操舵トルクが大きく減少し、このトルクステアが大きいとドライバには旋回方向と逆向きの操舵トルクが要求される。つまり、ステアリングホイールが操舵しようとする方向に勝手に回ってしまい、ドライバに対して大きな違和感を与える。このため、LSDの作動量を任意に制御できる電子制御式LSDにおいて、操舵性の悪化を防ぐために、電子制御式LSDの制御量を大きくすることができないのが現状である。
【0008】
特許文献1の技術によってこれを抑制することが考えられるが、操舵補助力、即ち、操舵アシスト力を付加する機構(いわゆる、パワーステアリング機構)には、操舵アシスト力がドライバの入力する操舵力と逆向きに発生しないように規制するインタロックの機能が備えられているが、特許文献1では、このインタロックによってパワーステアリング機構によって操舵トルク付加が困難な状況になる場合については考慮していない。このため、インタロック作動時には、LSD作動時に発生する操舵反力変化を操舵アシスト力によって抑制することはできない。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたもので、電子制御式LSDの制御の観点から差動制限機構の作動時に発生する操舵反力変化を操舵アシスト力によって抑制するものにおいて、操舵アシスト側のインタロック作動時には他の手段によって操舵反力変化を抑制することができるようにした、差動制限機構の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の差動制限機構の制御装置は、車両の左右輪の差動を制限する差動制限機構と、前記車両の操舵に対しアシストトルクを付加するパワーステアリング機構とを有し、前記差動制限機構の動作に応じて、前記パワーステアリング機構の制御量(アシストトルク)を増減制御する制御手段とを有すると共に、前記パワーステアリング機構のインタロックの作動を検出するインタロック作動検出手段を有し、前記制御手段は、前記インタロック作動検出手段により前記インタロックの作動を検出した際には、前記差動制限機構の制御量(差動制限量)を減少させることを特徴としている。
【0011】
前記車両の各輪制動力に差を与える制動力調整機構と、前記車両の各輪の空転を検出する各輪空転検出手段と、をさらに有し、前記制御手段は、前記差動制限機構の制御量を減少した際に、前記各輪空転検出手段により前記車両のいずれかの車輪の空転を検出すると、空転した車輪に対し前記制動力調整機構により制動力を付加させることが好ましい。
この場合、前記制御手段は、前記空転した車輪に対し前記制動力調整機構により制動力を付加させる際に、前記空転車輪の空転状態に応じた大きさの制動力を付加させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の差動制限機構の制御装置によれば、差動制限機構の動作に応じて、パワーステアリング機構の制御量(アシストトルク)を増減制御するので、例えば、差動制限機構の差動制限により操舵反力変化が大きくなる場合に操舵アシスト力によってこれを抑制することができ、操舵フィーリングを良好に維持することができる。ただし、パワーステアリング機構のインタロックが作動すると、操舵アシスト力によって操舵反力変化を抑制することができないが、この場合には、差動制限機構の制御量(差動制限量)を減少させるので、操舵反力変化が抑えられ、操舵フィーリングを良好に維持することができる。
【0013】
また、差動制限機構の制御量を減少した際に、車輪の空転を検出すると、空転した車輪に対し制動力調整機構により制動力を付加させることにより、差動制限の不足分を補うことができる。
この場合、空転車輪の空転状態に応じた大きさの制動力を付加させることにより、空転車輪の回転を適正に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両の駆動系の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるパワーステアリング機構のインタロック領域を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる差動制限機構の制御装置の制御ブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる差動制限機構の制御装置による制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態について説明する。
図1〜図4は本実施形態を説明するもので、図1はその車両の駆動系の構成図、図2はそのパワーステアリング機構のインタロック作動領域を説明する図、図3はその制御ブロック図、図4はその制御を説明するフローチャートである。これらの図を参照して説明する。
【0016】
<車両の駆動系の構成>
図1に示すように、本実施形態にかかる車両は、車両の前部にエンジン(内燃機関)1を備えると共に、前輪4FR,4FLを駆動輪として構成された前輪駆動車(FF車)として構成されている。エンジン1の出力軸1aには、変速機(トランスミッション)2が接続され、変速機2の出力軸2aに差動制限機構付きの差動機構(Differential)3を介して前輪4FR,4FLが接続されている。
この例では、差動機構3には、デフケース31に装備された入力ベベルギア32,32と、入力ベベルギア32,32と噛み合い右前輪4FR,左前輪4FRにそれぞれ結合された出力ベベルギア33R,33Lとからなるベベルギア式のものが使われている。また、変速機2の出力軸2aに装備されたベベルギア2bは、デフケース31に装備されたリングギア31aと噛合している。
【0017】
これにより、エンジン1の回転は、エンジン出力軸1aから変速機2に伝達され変速されて変速機出力軸2aから、ギア2b,31aを通じてデフケース31に伝達され、デフケース31が回転する。このデフケース31の回転は、入力ベベルギア32,32及び出力ベベルギア33R,33Lを通じて左右の駆動輪である前輪4FL,4FRに差動を許容されて伝達される。
【0018】
なお、この差動機構3には、例えば遊星ギア式のものなど他の方式のものを用いても良い。
差動機構3に備えられる差動制限機構(LSD:Limited Slip Differential)5は、片輪(ここでは、右前輪)4FRとデフケース31との間に介装され、本実施形態では電磁式の多板クラッチ51が用いられ、制御量(例えば制御電流)に応じて発生する磁力に応じて、多板クラッチ51が係合し、片輪(右前輪)4FRとデフケース31との間の差動を制限する。右前輪4FRとデフケース31との間の差動が制限されれば、当然ながら、左前輪4FLとデフケース31との間の差動も制限されることになる。
【0019】
LSD5を制御するために、LSDコントローラ11が装備され、本LSD5は電子制御LSDとして構成される。LSDコントローラ11は、左右の駆動輪4FL,4FRのうち何れかが空転状態になったら、LSD5を作動させ差動を制限する。
LSDコントローラ11では、この駆動輪の空転の判定は、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサ21FR〜21RLの検出結果VWFR〜VWRLに基づいて、従動輪である後輪4RR,4RLから基準の車輪速(車体速)VWSを得て、駆動輪4FL,4FRの車輪速VWFR,VWFLとこの基準の車輪速VWSとを比較して行なう。つまり、後輪4RR,4RLの車輪速VWRR,VWRLの平均値VWA等を基準の車輪速VWSとし、駆動輪4FL,4FRの何れかの車輪速VWFR,VWFLが基準の車輪速VWSよりも予め設定された車輪速差以上大きくなったら空転状態であると判定する。ただし、旋回時には、旋回半径に応じて、旋回内輪の車輪速は小さくなり、旋回外輪の車輪速は大きくなるので、この点は補正して判定する。
【0020】
また、LSD5による差動制限は、車輪の空転状態の程度(例えば、空転車輪の車輪速/基準の車輪速)に応じた制御量で行なう。
LSD5を作動させる条件としては、空転状態の場合に替えて、左右駆動輪に所定以上のトルク差が発生した場合や、左右輪の回転数差が所定値以上になった場合としてもよい。或いは、空転状態,所定以上のトルク差,所定値以上の回転数差の各条件の中の複数を設けて、これらのいずれかが成立したらLSD5を作動させるものと設定しても良い。
【0021】
また、左右駆動輪のトルク差については、各車輪のトルクを検出して差分を算出して得るほか、ギアの歯面抵抗等のトルク差に応じて生じる機械的な特性の変化に応じて多板クラッチ51が係合するように構成することで実現できる。
左右駆動輪の回転数差については、各車輪の車輪速を検出して差分を算出して得ることができる。この場合も、旋回時には、旋回半径に応じて、旋回内輪の車輪速は小さくなり、旋回外輪の車輪速は大きくなるので、この点は補正して判定する。
また、LSD5による差動制限は、上記の車輪の空転状態の程度に応じた制御量で行なう場合と同様に、左右駆動輪のトルク差の程度に応じた制御量で行なうこと、或いは、左右駆動輪の回転数差の程度に応じた制御量で行なうことが好ましい。
【0022】
<車両の制動系の構成>
前輪4FR,4FL及び後輪4RR,4RLの各ブレーキ機構6FR,6FL及び6RR,6RLは、それぞれ独立して作動を制御できるようになっている。つまり、各ブレーキ機構6FR〜6RLは車輪と共に回転するブレーキロータ6aとブレーキロータ6aを挟み込み係止するブレーキキャリパー6bとを有し、ブレーキキャリパー6bが各車輪のブレーキ機構毎に独立して作動を制御される。なお、ブレーキ機構6FR〜6RLを個々に、或いは統合して制動力調整機構とも呼ぶ。
【0023】
各ブレーキ機構6FR〜6RLを制御するために、ブレーキコントローラ12が装備され、ブレーキコントローラ12は、ドライバの操作するブレーキペダルの踏み込み量に応じて各車輪4FR〜4RLのブレーキ機構6FR〜6RLを作動させるが、通常は各車輪4FR〜4RLをブレーキペダル操作に応じて各輪同時に制動するが、車両の旋回時等に車体のヨー方向制御(ステア制御)が必要な場合には、各車輪4FR〜4RLを個別に制動し、車体のヨー運動を制御する。
【0024】
<車両の操舵系の構成>
前輪4FR,4FLは、ステアリングホイール7のシャフト7a先端に接続されたラックアンドピニオン等の機構7bを通じて、ステアリングホイール7の操舵角に応じて転舵される。ステアリングシャフト7aにはパワーステアリング機構(パワステ機構、又はパワステとも言う)8が装備されており、パワステ機構8によってステアリングホイール7に加わる操舵トルクに応じた操舵アシストトルクがステアリングシャフト7aに加えられ操舵力をアシストする。
このパワステ機構8は、パワステコントローラ13によって、作動を電子制御される電子制御パワステ(EPS)として構成される。ここでは、電動モータ(EPSモータ)8aによって操舵アシストトルクを発生する電動パワステが用いられている。パワステ機構は電動式のものに限らず、油圧式のものも適用可能ではあるが、電動式のものは制御応答性に優れており、電子制御する上で有利である。
【0025】
この電子制御パワステでは、操舵アシストトルクがドライバの入力する操舵トルクと逆向きに発生しないように規制するインタロックの機能が備えられている。
つまり、この電子制御パワステでは、図2に実線P1,P2で示すように、ステアリングホイール7に加わる操舵トルクに対応してEPSモータ電流(操舵アシストトルク)が加えられる。図示するように、操舵トルクが小さい領域では中立保舵感を重視しEPSモータ電流は加えないが、操舵トルクが一定以上になると操舵トルクの大きさに比例した大きさのEPSモータ電流を加え、操舵トルクが大きい領域では操舵トルクの大きさにかかわらず一定のEPSモータ電流を加える。実線P1は低速時であり、P2は高速時であり、車速に対応して操舵トルクの大きさに対して加えるEPSモータ電流の大きさの特性を変えている。
【0026】
このようなEPSモータ電流(操舵アシストトルク)を加える方向は、当然ながらドライバの入力する操舵トルクと同方向であるためドライバの操舵を助けることができるが、万一、ドライバの入力する操舵トルクと逆向きにEPSモータ電流(操舵アシストトルク)が発生すると、ドライバの操舵を助けるどころかドライバの操舵を妨げることになってしまう。
【0027】
そこで、図2に「インタロック」と記載して示すように、ドライバの入力する操舵トルクと逆向きのEPSモータ電流(操舵アシストトルク)の領域をインタロック作動領域に設定し、この領域では、EPSモータ電流(操舵アシストトルク)を加えないインタロックを作動させるようにしている。ただし、ここでは、ドライバの入力する操舵トルクが0の近傍やEPSモータ電流(操舵アシストトルク)が0の近傍は不感帯としてインタロック作動領域から除外している。
【0028】
ただし、これらの不感帯領域は必須ではない。操舵トルクが0近傍の不感帯(図2の縦軸付近の不感帯)がないと、操舵角が中立状態の付近でインタロックの作動と非作動とが頻繁に生じて操舵フィーリングが悪化するため、この点から、この操舵トルクが0近傍の不感帯はより重要であり、ある程度の不感帯巾を要する。これに比べて、EPSモータ電流が0近傍の不感帯(図2の横軸付近の不感帯)は、操舵トルクが0近傍の不感帯ほど悪影響がなく、不感帯巾を小さくしたり、不感帯を省略したりすることができる。
【0029】
また、操舵時にLSDを強く作動させると、左右輪の駆動力差によるトルクステアが発生してこれが操舵反力変化となって操舵トルクに違和感を生じさせるので、パワステコントローラ13では、この操舵反力変化を相殺するように、EPSモータ電流(操舵アシストトルク)を出力して操舵アシストトルクを増減させる制御を加える。例えば、旋回内輪側のグリップ力がほとんどない状態(車輪が浮いた状態)でLSDが作動し、その後内輪が旋回後半で再度路面に接地すると、接地時には、左右輪の速度差がなくなっているために、極端に操舵に要する力が重くなり操縦性が悪化する。この場合、操舵時に旋回内輪が空転し、これを受けてLSDが作動し空転が治まった場合、空転が治まったことを車輪速センサ21FR,21FLの情報から判定し、空転が治まった時点でパワステアシスト力を増加補正することにより、ステアリング7が重くなり操縦性が悪化することを回避する。
【0030】
<LSD統合制御>
ところで、上述のLSD5の作動による操舵反力変化を、電子制御パワステを用いて相殺する技術は、パワステのインタロック作動領域では適用できない。
そこで、本装置では、図3に示すように、制御手段としての車両ECU(車両電子制御ユニット)10が、操舵トルクセンサ23から入力される操舵トルクτに対応するインタロック作動領域(EPSモータ電流が下限値IIL_min以下の領域及び上限値IIL_max以上の領域)を求めて、パワステコントローラ13により設定されたEPSモータ電流IEPSを、下限値IIL_min及び上限値IIL_maxと比較してインタロック作動領域であるか否かを判定する。なお、この車両ECU10によるインタロック作動領域の判定機能をインタロック作動判定手段10aとする。また、操舵トルクセンサ21とこのインタロック作動判定手段10aとからインタロック作動検出手段10Aが構成される。
【0031】
インタロック作動判定手段10aは、EPSモータ電流IEPSが下限値IIL_min以下であるか或いはEPSモータ電流IEPSが上限値IIL_max以上の場合には、インタロック作動領域であると判定する。また、インタロック作動判定手段10aは、EPSモータ電流IEPSが下限値IIL_min以上で且つ上限値IIL_max以下の場合(つまり、モータ電流IEPSが電流範囲IIL_min〜IIL_maxに含まれる場合)は、インタロック作動領域でないと判定する。
【0032】
インタロック作動領域であると判定されるインタロック判定時には、LSD5の制御量(差動制限量)に制御ゲイン(<1)を乗算し減少させるようにしている。一方、インタロック作動領域でないと判定される時には、LSD5の制御量(差動制限量)の減少は行なわない。
また、車両ECU10は、このインタロック判定時のLSDの制御量を抑制している際に、各車輪速センサ21FR,21FLで検出した車輪速VWFR,VWFLからいずれかの車輪が空転しているかを判定する。いずれかの車輪が空転していることが判明した場合には、空転した車輪に対し制動力調整機構(ブレーキ機構)6FR〜6RLにより制動力を付加させる。この制動力を付加させる際には、空転車輪の空転状態に応じた大きさの制動力を付加させる。なお、この車両ECU10による車輪が空転しているかを判定する機能を各輪空転判定手段10bとする。また、輪速センサ21FR,21FLとこの各輪空転判定手段10bとから各輪空転検出手段10Bが構成される。
【0033】
<作用及び効果>
本発明の一実施形態にかかる差動制限機構の制御装置は、上述のように構成されているので、LSD5の動作に応じて、パワステ制御量(アシストトルク)を増減制御して、LSD5による差動制限により操舵反力変化が大きくなる場合に操舵アシスト力によってこれを抑制することができ、操舵フィーリングを良好に維持することができる。
そして、パワーステアリング機構のインタロックの作動を考慮して、例えば図4に示すように制御が行なわれる。
まず、ドライバの入力する操舵トルクτ及びEPSモータ8aに出力すべきEPSモータ電流IEPS(ステップS10)を読み込む。そして、操舵トルクτから、これに対応するパワステのインタロック作動領域を規定するEPSモータの電流範囲IIL_min〜IIL_max(つまり、EPSモータ電流の下限値IIL_min及び上限値IIL_max)を計算し(ステップS12)、ステップS10で読み込んだEPSモータ電流IEPSがインタロック作動領域のEPSモータ電流の下限値IIL_min以下又は上限値IIL_max以上であるか否か、換言すれば、EPSモータ電流IEPSがインタロック作動領域に含まれるか否かを判定する(ステップS14)。EPSモータ電流IEPSがインタロック作動領域に含まれれば電動LSD5を通常よりも制御量を低下させて動作させる(動作制限、ステップS16)。EPSモータ電流IEPSがインタロック作動領域のEPSモータ電流の下限値IIL_min以下又は上限値IIL_max以上でなければ、つまり、EPSモータ電流IEPSがインタロック非作動領域に含まれれば、LSD5を通常の制御量で動作させる(ステップS18)。
【0034】
また、LSD5を動作制限した場合には、いずれかの車輪が空転しているかを判定し(空転車輪ありか、ステップS20)、空転車輪があれば、空転した車輪に対し制動力調整機構(ブレーキ機構)6FR〜6RLによりブレーキを作動させる(ステップS22)。
パワステのインタロックが作動する領域では、操舵アシスト力によって操舵反力変化を抑制することができないが、この場合には、上記のように、LSD5の制御量(差動制限量)を減少させるので、操舵反力変化が抑えられ、操舵フィーリングを良好に維持することができる。
【0035】
また、LSD5の制御量を減少した際に、車輪の空転を検出すると、空転した車輪に対し制動力調整機構6FR〜6RLにより制動力を付加させることにより、差動制限の不足分を補うことができる。
この場合、空転車輪の空転状態に応じた大きさの制動力を付加させるので、空転車輪の回転を適正に制御することができる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施の形態を適宜変更して実施しうるものである。
例えば、上記実施形態では、FF車について説明したが、FR車(フロントエンジン・リアドライブ車),RR車(リヤエンジン・リヤドライブ車)及び4WD車(4輪駆動)についても、左右輪LSDが装備されている車両であればいずれも本発明を適用することができる。
【0037】
また、上記の実施形態では、LSD5の直接的な制御はLSDコントローラ11により、各車輪4FR〜4RLの直接的な制動制御はブレーキ装置コントローラ12により、パワステ8の制御はパワステコントローラ13により、それぞれ行なっているが、車両ECU10にLSDコントローラ11の機能やブレーキ装置コントロータ12の機能やパワステコントローラ13の機能を持たせて何れの制御も車両ECU10により一括して行なうなど、制御装置(制御手段)の構成は種々考えられる。
【符号の説明】
【0038】
1 エンジン(内燃機関)
2 変速機
3 差動機構
4FR,4FL 前輪
5 差動制限機構(LSD)
6FR,6FL,6RR,6RL ブレーキ機構
7 ステアリングホイール
8 パワーステアリング機構(パワステ機構、又はパワステ)
10 制御手段としての車両ECU(車両電子制御ユニット)
10A インタロック作動検出手段
10a インタロック作動判定手段
10B 各輪空転検出手段
10b 各輪空転判定手段
11 LSDコントローラ
12 ブレーキコントローラ
13 パワステコントローラ
21FR,21FL 車輪速センサ
23 操舵トルクセンサ
31 デフケース
32,32 入力ベベルギア
33R,33L 出力ベベルギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右輪の差動を制限する差動制限機構と、前記車両の操舵に対しアシストトルクを付加するパワーステアリング機構とを有し、前記差動制限機構の動作に応じて、前記パワーステアリング機構の制御量を増減制御する制御手段とを有すると共に、
前記パワーステアリング機構のインタロックの作動を検出するインタロック作動検出手段を有し、
前記制御手段は、前記インタロック作動検出手段により前記インタロックの作動を検出した際には、前記差動制限機構の制御量を減少させる
ことを特徴とする、差動制限機構の制御装置。
【請求項2】
前記車両の各輪制動力に差を与える制動力調整機構と、
前記車両の各輪の空転を検出する各輪空転検出手段と、をさらに有し、
前記制御手段は、前記差動制限機構の制御量を減少した際に、前記各輪空転検出手段により前記車両のいずれかの車輪の空転を検出すると、空転した車輪に対し前記制動力調整機構により制動力を付加させる
ことを特徴とする、請求項1記載の差動制限機構の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記空転した車輪に対し前記制動力調整機構により制動力を付加させる際に、前記空転車輪の空転状態に応じた大きさの制動力を付加させる
ことを特徴とする、請求項2記載の差動制限機構の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−57639(P2012−57639A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198178(P2010−198178)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】