説明

成膜方法およびコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体

【課題】CVD法において、500℃未満の低い成膜温度でも異常成長のない良質の金属窒化膜を成膜することが可能な成膜方法を提供すること。
【解決手段】成膜温度に加熱された被処理基板に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより被処理基板上に金属窒化膜を直接堆積させる期間を含む第1段階と、同様に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより前記第1段階で堆積された初期の金属窒化膜の上にさらに金属窒化膜を堆積させて所定の膜厚とする第2段階とを含み、前記第1段階および前記第2段階ともに、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVDによる成膜方法に関し、特に、半導体装置において例えばバリア層、キャパシタ上部電極、ゲート電極、コンタクト部等として用いられるTiN系薄膜等の金属窒化膜を成膜する成膜方法、およびこのような方法を実行するためのコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造においては、最近の高密度化および高集積化の要請に対応して、回路構成を多層配線構造にする傾向にあり、このため、下層の半導体デバイスと上層の配線層との接続部であるコンタクトホールや、上下の配線層同士の接続部であるビアホールなどの層間の電気的接続のための埋め込み技術が重要になっている。また、高集積化にともない、例えばDRAMメモリー部のキャパシタ材としてTa、HfO等の高誘電率材に対応した上部電極を高カバレージで成膜する技術が重要となっている。
【0003】
また、近時、上述したようなコンタクトホール、ビアホールの埋め込み金属のバリア層や、キャパシタの上部電極としてTiN膜が用いられつつある。
【0004】
このような、TiN膜は従来PVDにより成膜されていたが、最近のようにデバイスの微細化および高集積化に伴って、より良質の膜を高カバレージで成膜可能なCVDが多用されるようになってきた。
【0005】
CVDのTiN膜を成膜する際には、反応ガスとしてTiClと窒素含有還元ガスであるNHまたはMMH(モノメチルヒドラジン)とを用いて、500〜600℃の温度で成膜される。
【0006】
ところで、TaやHfO等の高誘電率材は温度に敏感であり、その上にTiN膜を上部電極として成膜する場合、下地層の熱的ダメージを防止するためには500℃未満というより低温での成膜が要求される。
【0007】
また、コンタクト材料としてNiSi等を用いる場合、NiSiは耐熱性が低く、このNiSiを下地として金属窒化膜を成膜する場合もさらに低温成膜が望まれている。
【0008】
しかしながら、500℃未満の低温でCVDによりTiN膜を成膜すると、Clを十分に除去することができず、抵抗値が高くなるという問題がある。
【0009】
このような低温成膜に対応可能な技術として、特許文献1には、原料ガスであるTiClガスおよび還元ガスであるNHガスの両方を供給して膜形成を進行させる工程と、還元ガスであるNHガスのみを供給して還元反応を進行させる還元工程とを交互に繰り返し、450℃程度の低温成膜を可能にした技術が提案されている(特許文献1)。この技術を用いることにより、Clの残留が少ない良質の膜が得られるとしている。
【0010】
しかしながら、最近はTiN膜等に要求される品質が益々厳しくなっており、外観上、異常成長等の異常部分が僅かでもあると不良と判断され、上述の特許文献1に記載された技術でも500℃未満、例えば450℃において異常成長を完全になくすことができない。また、最近では450℃未満、例えば400℃というさらなる低温成膜が望まれており、上記特許文献1に開示された技術ではこのような低温成膜では比抵抗値が増大し、全く対応することができない。
【特許文献1】特開2003−77864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、CVD法において、500℃未満、さらには450℃未満の低い成膜温度でも異常成長のない良質の金属窒化膜を成膜することが可能な成膜方法、およびそのような方法を実行するためのコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点では、成膜温度に加熱された被処理基板に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより被処理基板上に金属窒化膜を直接堆積させる期間を含む第1段階と、同様に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより前記第1段階で堆積された初期の金属窒化膜の上にさらに金属窒化膜を堆積させて所定の膜厚とする第2段階とを含む成膜方法であって、前記第1段階は、前記金属化合物ガスが、金属窒化膜の堆積が局部的に生じないように均一に還元される条件で実施されることを特徴とする成膜方法を提供する。
【0013】
本発明の第2の観点では、成膜温度に加熱された被処理基板に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより被処理基板上に金属窒化膜を直接堆積させる期間を含む第1段階と、同様に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより前記第1段階で堆積された初期の金属窒化膜の上にさらに金属窒化膜を堆積させて所定の膜厚とする第2段階とを含む成膜方法であって、前記第1段階および前記第2段階ともに、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すことを特徴とする成膜方法を提供する。
【0014】
本発明の第3の観点では、コンピュータに制御プログラムを実行させるソフトウエアが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、前記制御プログラムは、実行時に、成膜温度に加熱された被処理基板に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより被処理基板上に金属窒化膜を直接堆積させる期間を含む第1段階と、同様に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより前記第1段階で堆積された初期の金属窒化膜の上にさらに金属窒化膜を堆積させて所定の膜厚とする第2段階とを含む成膜方法を実施する際に、前記第1段階は、前記金属化合物ガスが、金属窒化膜の堆積が局部的に生じないように均一に還元される条件で実施されるように、コンピュータが成膜装置を制御するソフトウエアを含む、コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体を提供する。
【0015】
本発明の第4の観点では、コンピュータに制御プログラムを実行させるソフトウエアが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、前記制御プログラムは、実行時に、成膜温度に加熱された被処理基板に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより被処理基板上に金属窒化膜を直接堆積させる期間を含む第1段階と、同様に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより前記第1段階で堆積された初期の金属窒化膜の上にさらに金属窒化膜を堆積させて所定の膜厚とする第2段階とを含む成膜方法を実施する際に、前記第1段階および前記第2段階ともに、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すように、コンピュータが成膜装置を制御するソフトウエアを含む、コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体を提供する。
【0016】
上記第1の観点において、前記第1段階は、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すことが好ましい。この場合に、前記第1段階において、前記第2ステップの窒素含有還元ガスの流量は、前記第1ステップの窒素含有還元ガスの流量以上であることが好ましい。
【0017】
前記金属窒化膜としてはTiN膜を挙げることができる。この場合に、前記金属化合物ガスとしてTiClガス、前記窒素含有還元ガスとしてNHガスを好適に用いることができる。これらのガスを用いる際には、前記第1段階において、前記第2ステップのNHガスの流量は、前記第1ステップのNHガスの流量以上であることが好ましい。この場合に、前記第2ステップのNHガスの流量は、500mL/min以上であることが好ましい。NHガスを供給する前記第2ステップの時間は2秒以上であることが好ましい。
【0018】
さらに、上記第1の観点は、成膜の際の被処理基板の温度が500℃未満の場合に有効であり、特に450℃未満の場合に有効である。さらにまた、前記第2段階は、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すことが好ましい。さらにまた、前記第1段階は、前記金属化合物ガスを供給する第3ステップと、窒素含有還元ガスを供給する第4ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すことが好ましい。
【0019】
上記第2の観点において、前記第1ステップの条件および前記第2ステップの条件が前記第1段階および前記第2段階で同じすることができる。また、前記第1段階の第1ステップの時間が、前記第2段階の第1ステップよりも短くしてもよいし、前記第1段階の第2ステップの時間が、前記第2段階の第2ステップよりも長くしてもよい。この場合に、窒素含有還元ガスの流量は、前記第1ステップのよりも前記第2ステップのほうが多いことが好ましい。
【0020】
また、前記金属窒化膜はTiN膜を挙げることができる。この場合に、前記金属化合物ガスとしてTiClガス、前記窒素含有還元ガスとしてNHガスを好適に用いることができる。これらのガスを用いる際には前記第2ステップのNHガスの流量は、前記第1ステップのNHガスの流量以上であることが好ましい。この場合に、前記第2ステップのNHガスの流量は、500mL/min以上であることが好ましい。NHガスを供給する前記第2ステップの時間は2秒以上であることが好ましい。
【0021】
さらに、上記第2の観点は、成膜の際の被処理基板の温度が500℃未満の場合に有効であり、特に450℃未満の場合に有効である。この場合に、前記第1ステップおよび前記第2ステップとからなるサイクルは、前記第2段階において1サイクル当たり1.0nmの厚さ以下となる条件に設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、成膜初期の第1段階において、従来のように単にインキュベーションタイムを設けるのではなく、金属化合物ガスが、金属窒化膜の堆積が局部的に生じないように均一に還元される条件で第1段階を実施するので、成膜速度が遅い成膜初期の第1段階が長い500℃未満の低温成膜であっても、異常成長のない良質の金属窒化膜を成膜することが可能となる。具体的には、前記第1段階を、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すものとすることにより、金属化合物ガスを十分に還元して、金属窒化膜の堆積が局部的に生じないように均一に還元することができ、異常成長のない良質の金属窒化膜を成膜することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。
以下の説明においては、金属化合物ガスとしてTiClガスを用い、窒素含有還元ガスとしてNHガスを用いて、熱CVDで窒化チタン(TiN)の薄膜を成膜する場合について説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る成膜方法を実施する成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【0025】
成膜装置100は、気密に構成された略円筒状のチャンバー1を有しており、その中には被処理体であるウエハWを水平に支持するためのサセプタ2がその中央下部に設けられた円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。このサセプタ2はAlN等のセラミックスからなり、その外縁部にはウエハWをガイドするためのガイドリング4が設けられている。また、サセプタ2にはヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5はヒーター電源6から給電されることにより被処理基板であるウエハWを所定の温度に加熱する。さらに、サセプタ2には、下部電極として機能する電極8がヒーター5の上に埋設されている。
【0026】
チャンバー1の側面部には搬入出口21が開口され、この搬入出口21は、ゲートバルブ22を介して外部の図示しない真空状態のウエハ搬送室から図示しないウエハ搬送装置によりサセプタ12との間におけるウエハWの搬入出が行われる構成となっている。
【0027】
サセプタ2のウエハWの載置領域には、図示しない前記ウエハ搬送装置との間におけるウエハWの受け渡しを行う際に、当該ウエハWを昇降させるための複数の昇降ピン39が貫通して設けられ、これらの昇降ピン39は、駆動アーム40を介して昇降機構41にて昇降駆動される。
【0028】
チャンバー1の底部には、排気室36が設けられ、この排気室36は排気管37を介して排気装置38に接続されており、チャンバー1の内部を所望の真空度に均一に排気することが可能になっている。
【0029】
チャンバー1の天壁1aには、シャワーヘッド10が設けられている。このシャワーヘッド10は、上段ブロック体10a、中段ブロック体10b、下段ブロック体10cで構成されている。
【0030】
下段ブロック体10cにはガスを吐出する吐出孔17と18とが交互に形成されている。上段ブロック体10aの上面には、第1のガス導入口11と、第2のガス導入口12とが形成されている。上段ブロック体10aの中では、第1のガス導入口11から多数のガス通路13が分岐している。中段ブロック体10bにはガス通路15が形成されており、上記ガス通路13が水平に延びる連通路13aを介してこれらガス通路15に連通している。さらにこのガス通路15が下段ブロック体10cの吐出孔17に連通している。また、上段ブロック体10aの中では、第2のガス導入口12から多数のガス通路14が分岐している。中段ブロック体10bにはガス通路16が形成されており、上記ガス通路14がこれらガス通路16に連通している。さらにこのガス通路16が中段ブロック体10b内に水平に延びる連通路16aに接続されており、この連通路16aが下段ブロック体10cの多数の吐出孔18に連通している。そして、上記第1および第2のガス導入口11,12は、それぞれ後述するガス供給機構60に接続されている。
【0031】
ガス供給機構60は、クリーニングガスであるClFガスを供給するClFガス供給源61、Ti含有ガスであるTiClガスを供給するTiClガス供給源62、Nガスを供給する第1のNガス供給源63、窒化ガスであるNHガスを供給するNHガス供給源64、Nガスを供給する第2のNガス供給源65を有している。そして、ClFガス供給源61にはClFガス供給ライン66が、TiClガス供給源62にはTiClガス供給ライン67が、第1のNガス供給源63には第1のNガス供給ライン68が、NHガス供給源64にはNHガス供給ライン69が、第2のNガス供給源65には第2のNガス供給ライン70が、それぞれ接続されている。また、図示しないがArガス供給源も有している。そして、各ガス供給ラインにはマスフローコントローラ72およびマスフローコントローラ72を挟んで2つのバルブ71が設けられている。
【0032】
シャワーヘッド10の第1のガス導入口11にはTiClガス供給源62から延びるTiClガス供給ライン67が接続されており、このTiClガス供給ライン67にはClFガス供給源61から延びるClFガス供給ライン66および第1のNガス供給源63から延びる第1のNガス供給ライン68が接続されている。また、第2のガス導入口12にはNHガス供給源64から延びるNHガス供給ライン69が接続されており、このNHガス供給ライン69には、第2のNガス供給源65から延びる第2のNガス供給ライン70が接続されている。
【0033】
したがって、プロセス時には、TiClガス供給源62からのTiClガスが第1のNガス供給源63からのNガスとともにTiClガス供給ライン67を介してシャワーヘッド10の第1のガス導入口11からシャワーヘッド10内に至り、ガス通路13,15を経て吐出孔17からチャンバー1内へ吐出される一方、NHガス供給源64からの窒素含有還元ガスであるNHガスが第2のNガス供給源65からのNガスとともにNHガス供給ライン69を介してシャワーヘッド10の第2のガス導入口12からシャワーヘッド10内に至り、ガス通路14,16を経て吐出孔18からチャンバー1内へ吐出される。
【0034】
すなわち、シャワーヘッド10は、TiClガスとNHガスとを全く独立してチャンバー1内に供給するポストミックスタイプとなっており、これらは吐出後に混合され熱エネルギーによって反応が生じる。
【0035】
成膜装置100の各構成部は、プロセスコントローラ80に接続されて制御される構成となっている。プロセスコントローラ80には、工程管理者が成膜装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、成膜装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース81が接続されている。
【0036】
また、プロセスコントローラ80には、成膜装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ80の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じてプラズマエッチング装置の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわちレシピが格納された記憶部82が接続されている。レシピはハードディスクや半導体メモリに記憶されていてもよいし、CDROM、DVD等の可搬性の記憶媒体に収容された状態で記憶部82の所定位置にセットするようになっていてもよい。さらに、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0037】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース81からの指示等にて任意のレシピを記憶部82から呼び出してプロセスコントローラ80に実行させることで、プロセスコントローラ80の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0038】
次に、以上のように構成される装置を用いた本発明の一実施形態の成膜方法について説明する。
まず、チャンバー1内を排気装置38により引き切り状態とし、第1のNガス供給源63および第2のNガス供給源65からNガスをシャワーヘッド10を介してチャンバー1内に導入しつつ、ヒーター5によりチャンバー1内を予備加熱する。温度が安定した時点で、第1のNガス供給源63、NHガス供給源64およびTiClガス供給源62からそれぞれNガス、NHガスおよびTiClガスをシャワーヘッド10を介して所定流量で導入し、チャンバー内圧力を所定値に維持しつつTiClガスをプリフローライン(図示せず)を介して排気して流量を安定化させ、ヒーター5による加熱によりチャンバー1内壁、サセプタ2、ガイドリング4およびシャワーヘッド10等のチャンバー内部材表面にTiN膜をプリコートする。
【0039】
プリコート処理が終了後、NHガスおよびTiClガスを停止し、第1および第2のNガス供給源63および65からNガスをパージガスとしてチャンバー1内に供給してチャンバー1内のパージを行い、その後、必要に応じて、NガスおよびNHガスを流し、プリコートしたTiN薄膜の表面の窒化処理を行い、プリコート膜を安定化させる。
【0040】
その後、排気装置38によりチャンバー1内を急激に真空排気して引き切り状態とし、ゲートバルブ22を開にして、搬入出口21を介してウエハWをチャンバー1内へ搬入する。そして、チャンバー1内にNガスを供給してウエハWを予備加熱する。ウエハの温度が成膜温度にほぼ安定した時点で、TiN膜の成膜を開始する。
【0041】
TiN膜の成膜においては、加熱環境下において原料ガスであるTiClガスを、還元ガス兼窒化ガスであるNHガスで還元・窒化して下地上にTiNを堆積させるが、この際に、成膜初期のTiNの堆積速度が極めて遅い第1段階と、その後のTiN膜の堆積が定常的に進行する第2段階とが存在する。
【0042】
このように成膜初期にTiNの堆積速度が遅い段階が存在するのは、初期においては、TiClガスおよびNHガスの下地上への吸着反応が支配的であり、この際の吸着力は弱く一部が脱離するため、供給したガスのうちの一部しか膜形成に寄与しないからである。
【0043】
上記特許文献1に記載しているような、TiClガスおよびNHガスの両方を供給する膜形成工程と、NHガスのみを供給する還元工程とを交互に繰り返してTiN膜の低温成膜を指向する場合、実プロセスにおいては、1サイクルに堆積する膜厚が一定になるように膜形成工程の時間を設定するため、成膜速度の遅い第1段階に対応する最初の膜形成工程をその分長くする必要があった。すなわち、図2に示すように、最初の膜形成工程では、第2段階の膜形成工程の時間aに対して所定の付加時間(インキュベーションタイム)bを加える必要がある。
【0044】
上記インキュベーションタイムは成膜温度が低下するほど長時間化し、例えば、TiClガスおよびNHガスの流量を30mL/minの等量とし、第2段階の定常状態において1回の膜形成工程が4secで1サイクル0.5nmの厚さのTiN膜がSiO下地上に堆積される条件では、最初の膜形成工程で0.5nmの第1層の膜を形成するために必要なインキュベーションタイムは、成膜温度が600℃では3.2sec、550℃では4.2sec、500℃では7.5secであるのに対し、450℃では10.5secと長く、さらに400℃では図3に示すように23secと極端に長くなる。そして、このような最初の膜形成工程で0.5nmの第1層の膜を形成する期間は成膜速度が極端に遅い。
【0045】
本発明者の実験結果によれば、第1段階にインキュベーションタイムを加える場合、成膜温度(ウエハ温度)が500℃未満ではサイクル数を増加させても異常成長が残存していることが確認された。このことから、本発明者は、500℃未満、特に450℃未満で成膜した際にTiN膜の成膜時に異常成長が生じるのは、上述したようなインキュベーションタイムが長いことに起因していると推定した。
【0046】
すなわち、図4のモデルに示すように、インキュベーションタイムにおいて、TiClガスおよびNHガスを等量で流すと、最初にNHとTiClとが下地上に到達するが、TiClが到達した部分にはNHが必ずしも存在しない。したがって、NHが存在する部分にTiClが到達することにより下地上にTiNが堆積されるが、TiClが吸着した部分にNHが存在しない場合には、TiClの吸着力が弱く脱離しやすいから、その部分ではTiNは堆積し難い。この状態でTiClガスおよびNHガスが供給され続けるから、下地にTiNが堆積した部分では次々とTiNが堆積して急激に成長するが、TiNが堆積しなかった部分ではTiNの堆積が極めて遅くなる。このようにしてインキュベーションタイムにおいて局部的に成長した部分が存在することにより、成膜過程で異常成長が生じることとなる。このことは、成膜初期の第1段階において還元ガスであるNHガスが下地の全面に十分に供給されないため、還元反応が局部的に生じることを意味する。
【0047】
そこで、本実施形態では、成膜初期の第1段階において、NHガスをTiClガスに対して十分に供給して下地全面において均一にTiNが生成するようにする。そのための手法としては、図5に示すように、成膜初期の第1段階において、インキュベーションタイムを設ける代わりに、第2段階と同様にTiClガスおよびNHガスの両方を供給する工程と、NHガスのみを供給する工程とを交互に行うことを挙げることができる。これにより、NHガスの還元作用が格段に高まり、異常成長のない良好な膜質のTiN膜を形成することができる。
【0048】
このことを図6のモデルを使って具体的に説明する。最初にTiClガスおよびNHガスを流すと、NHとTiClとが下地上に到達し、NHが存在する部分にTiClが到達することにより下地上にTiNが堆積される。下地に吸着した未反応のTiClについても、次のNHガスのポストフローにより還元され、TiNとなって下地上に堆積する。すなわち、TiClガスおよびNHガスを短時間流した後、NHガスのポストフローを行うことにより、TiClを十分に還元・窒化することができ、局部的なTiNの堆積は生じない。そして、TiClガスおよびNHガスを流す工程と、NHガスのポストフローを行う工程とを繰り返すことにより、均一にTiNが堆積する。したがって、次の第2段階においても均一にTiNが堆積され、500℃未満、例えば400℃という低温成膜においても異常成長のない良好な膜質のTiN膜を得ることができる。
【0049】
この場合に、TiClをより十分に還元・窒化する観点からは、ポストフローの際のNHガスの流量は、膜形成の際のNHガスの流量よりも多いことが好ましい。
【0050】
次に、本実施形態の成膜条件について詳細に説明する。
本実施形態においては、成膜初期の第1段階および次の第2段階の両方において、交互的なガスフローによりTiN成膜を行う。すなわち、図7のタイミングチャートに示すように、最初に、TiClガス供給源62、NHガス供給源64から、TiClガス、NHガスを、第1および第2のNガス供給源63,65からのNガスにキャリアさせてチャンバー1内に供給し、熱CVDによりTiNを堆積させる第1ステップを行い、次いで、TiClガス、NHガスを停止し、Nガスをチャンバー1内に導入し、チャンバー1内のパージを行い、その後、NHガス供給源64からNHガスを、第2のNガス供給源65からのNガスにキャリアさせてチャンバー1内に供給してポストフローを行う第2ステップを行う。引き続き、NHガスを停止し、図示しないパージガスラインからパージガスとしてNガスをチャンバー1内に導入し、チャンバー1内のパージを行う。
【0051】
以上の工程を1サイクルとして複数サイクル繰り返して第1段階および第2段階の成膜を行う。この際のサイクル数は成膜温度によって異なるが、第1段階および第2段階それぞれ1サイクル以上、例えば合計で12〜36回程度繰り返す。なお、第1段階と第2段階は同じ条件で実施してもよいし、条件を異ならせてもよい。第1段階における還元力を高くする観点からは、第1段階の第1ステップの時間が、第2段階の第1ステップよりも短い、または第1段階の第2ステップの時間が、第2段階の第2ステップよりも長いことが好ましい。
【0052】
このように以上の工程を繰り返すことにより、目的の厚さのTiN膜をウエハW上に成膜する。このTiN膜の膜厚は、たとえば、5〜100nm、好ましくは10〜50nmである。
【0053】
なお、TiN膜を成膜する前に、窒素原子または水素原子を含むガスを導入し、絶縁膜表面を軽く窒化してもよい。
【0054】
各ガスの供給流量については、TiClガスは5〜100mL/minが例示される。また、NHガスは、第1ステップの膜形成時:5〜100mL/min、第2ステップのポストフロー時:30mL/min以上が例示される。また、パージ用のNガスは、50〜5000mL/min、望ましくは50〜1000mL/minが例示される。上述したように、少なくとも第1段階において、TiClをより十分に還元・窒化するために、ポストフロー時のNHガスの流量は、膜形成時よりも多い流量とすることが好ましい。ポストフローの際の具体的な流量としては500mL/min以上が好ましく、5000mL/min以上がより好ましい。もちろん、第2段階においてもこのような条件が好ましい。膜生成の際のチャンバー内の圧力は20〜800Paが例示され、NHガスポストフローの際のチャンバー内圧力は20〜1000Paが例示される。
【0055】
TiN膜の成膜に際し、図7に示す第1ステップの膜形成の時間としては2〜8secが例示され、その後のパージの時間としては0.5〜20secが例示され、第2ステップのNHガスポストフローの時間としては0.5〜20secが例示され、その後のパージの時間としては0.5〜20secが例示される。500℃未満の低温成膜の場合には、NHガスポストフローの時間は2sec以上が好ましい。図8に成膜温度(ウエハ温度)が400℃で、1サイクル当たり0.5nm相当の条件で第1段階および第2段階合計36サイクルで16nmのTiN膜の成膜を行った場合であって、TiClガス流量を30mL/min、NHガスの流量を膜形成時:30mL/min、ポストフロー時:5000mL/minとし、横軸に1サイクル当たりのNHガスポストフロー時間をとり、縦軸にTiN膜の抵抗値およびスループットをとってこれらの関係を示すグラフを示す。この図に示すように、ポストフローが5secの場合には、Cl濃度が4.6%と高く還元が不十分であるため抵抗値が高く、図9の(a)にその表面状態を示すように異常成長が生じているが、ポストフローが7secになると抵抗値が低下し、10secの場合には図9の(b)にその表面状態を示すように良好な表面モホロジーとなることがわかる。したがって、このような条件の場合には、7sec以上であることが好ましい。ただし、ポストフローの時間が長くなるとスループットが低下するから、異常成長が生じない範囲で適正なスループットになるように適切な時間を選択することが好ましい。
【0056】
TiN膜の成膜における第2段階では、成膜温度によって1サイクルの好ましい膜厚が変化する。成膜温度が500℃未満であれば、1サイクルの膜厚が1.0nm以下であることが好ましい。例えば、400℃においては、1サイクルの膜厚が0.5nm以下であることが好ましい。第1段階においても第2段階における膜厚相当の条件を採用することが好ましい。
【0057】
このようにして、第1段階および第2段階を通じてTiClガスおよびNHガスの両方を供給する膜形成工程と、NHガスのみを供給するポストフロー工程とを交互に所定サイクルを行うことにより、所定厚さのTiN膜を形成することができる。
【0058】
なお、上記NHガスのポストフローの条件は、1サイクル当たりの膜厚にも依存する。すなわち、1サイクル当たりの膜厚が薄いと、NHガスのポストフローの時間が短くてもよく、NHガスのポストフローの時間を長くすれば、1サイクル当たりの膜厚は厚くてもよい。
【0059】
具体的には、400℃での成膜において、ポストフローのNHガス流量を5000mL/minにした場合には、1サイクル当たりの膜厚が0.33nmでポストフロー時間が4.5sec以上、0.40nmで5.5sec以上、0.5nmで7.0sec以上、0.57nmで8.0sec以上、0.67nmで11.0secである。
【0060】
次に、成膜温度(ウエハ温度)が400℃の際におけるTiN膜成膜のための実シーケンス例について説明する。図10はそのシーケンスを示す図である。まず、Nガスでチャンバーのパージを行う。パージとしては、最初のNガスをトータルで例えば1100mL/min程度流すパージ(1)と、その後Nガス流量を例えば200mL/min程度まで落とすパージ(2)との2段階で行い、例えば各0.5sec合計1sec行う。その後、チャンバー内圧力を膜形成の際の圧力、例えば260Paまで上昇させて安定化を例えば1.5sec行う。その後、その圧力を維持したまま、TiClガスを例えば30mL/minの流量で流してTiClガスのプリフローを例えば0.5sec行い、引き続きTiClの流量を維持したまま、NHガスを例えば30mL/min流して膜形成(デポ)を例えば4sec行う。その後、TiClガス流量を維持したままNHガスを停止し、排気により圧力を低下させてTiClガスのポストフローを例えば0.5sec行う。その後、Nガスでパージを行う。パージとしては、Nガスをトータルで例えば200mL/min程度流すパージ(3)と、その後Nガス流量を例えば1100mL/min程度まで上昇させるパージ(4)との2段階で行い、例えば各0.5sec合計1sec行う。その後、Nガスの流量を維持したまま、NHガスのポストフローを行う。NHガスのポストフローとしては、NHガスを例えば5000ML/minで流し、圧力を例えば260Paに維持するNHポストフロー(1)と、ガス流量を維持したまま、排気により圧力を低下させるNHポストフロー(2)との2段階で行い、NHポストフロー(1)を例えば10sec行い、NHポストフロー(2)を例えば0.5sec行う。
【0061】
以上のサイクルを従来のインキュベーションに対応する第1段階の成膜として4サイクル、第2段階の成膜として32サイクル、合計で36サイクル実施することにより、厚さ16nmの異常成長のない良好な膜質のTiN膜を得ることができる。この場合には、1サイクル当たり0.5nmの厚さ成膜されることとなる。
【0062】
実際にこのような条件で形成したTiN膜の透過顕微鏡(TEM)写真を図11に示す。この図に示すようにTiNの表面が滑らかであることがわかる。これに対して上記シーケンスの最初の4サイクルを行う代わりに、TiClガスおよびNHガスの流量を30mL/minとして23secのインキュベーションタイムを設けて成膜したTiN膜の透過顕微鏡写真を図12に示すが、異常成長のために表面状態が悪くなっているのがわかる。
【0063】
以上のようなTiN成膜工程が終了後、ナイトライド処理を行ってもよい。NHガスおよびTiClガスを停止し、Nガスをパージガスとして好ましくはそれぞれ0.5〜10L/minの流量で流して、チャンバー51内のパージを行い、その後、NガスおよびNHガスを流し、ウエハWに成膜したTiN薄膜の表面のナイトライド処理を行ってもよい。この際のNガスの供給は、第1および第2のNガス供給源63および65のいずれか、または両方から行われる。
【0064】
このように、本実施形態では、成膜速度が遅い成膜初期の第1段階において、従来のようなインキュベーションタイムを設ける代わりに、第1段階においても定常状態と同様のTiClガスおよびNHガスの両方を供給する膜形成工程と、NHガスのみを供給するポストフロー工程とを交互に行うことにより、従来、膜の表面状態を十分に改善できなかった成膜温度(ウエハ温度)500℃未満、特に450℃未満、例えば400℃において異常成長のない良好なTiN膜を成膜することが可能となった。
【0065】
このため、DRAMメモリー部のキャパシタゲート材として用いられるTa、HfO、HfSiO、PZT、BST、RuO、ReO等の高誘電率材のような熱的に不安定な下地上に、上部電極としてTiN膜を形成する場合、および耐熱性の低いNiSi膜上にバリア材料としてTiN膜を形成する場合に好適である。
【0066】
なお、全体のTiN薄膜の途中の厚さまで上述のような成膜を500℃未満の低温で行い、下地に対して影響を与えない厚さまで成膜後、連続して、温度500℃以上で通常の連続的なCVD−TiN成膜(連続成膜)、または図7のサイクルを実施する成膜を行うようにしてもよい。これにより、スループットを向上させることができる。この場合に、最初の成膜工程によるTiN膜の膜厚は、たとえば5〜50nmであり、次の成膜工程によるTiN膜の膜厚は、たとえば5〜95nmである。
【0067】
次に、本発明によって形成したTiN薄膜をDRAM等のキャパシタ構造に用いた例について図13を参照しながら説明する。この図13の例では、Si基板120の不純物拡散領域120aには、表面が凹凸をなすことで大きな表面積(すなわちキャパシタの大きな電荷蓄積量)を実現するHSG(hemispherical grained)多結晶シリコンからなる下部電極層121が接続されており、この下部電極層121の上部は、RTN(Rapid
Thermal Nitrization)処理を施すことにより極薄いSiNバリア層122が形成され、その上にTaからなる誘電体層123が形成され、さらに、その上には本発明の成膜方法で形成されたTiN薄膜からなる上部電極層124が誘電体層123の凹部内を含み高カバレージで形成されている。そして、上部電極層124の上にはメタル配線層(図示せず)が形成される。
【0068】
TiN薄膜からなる上部電極層124の成膜に際して下地となるTaからなる誘電体層123は、熱的に不安定でダメージを受けやすいが、本発明では、上部電極層124を構成するTiN膜の成膜の際に450℃未満の低温成膜が可能であるため、熱に敏感なTaからなる絶縁層123がダメージを受けることがなく、良好なキャパシタンスを維持することができ、キャパシタ部、延いてはメモリ素子全体の歩留りが向上する。
【0069】
次に、本発明に係るTiN薄膜をDRAM等のキャパシタ構造に用いた他の例について図14を参照しながら説明する。この図14の例では、大きな表面積(すなわちキャパシタの大きな電荷蓄積量)を実現できるように高アスペクト比のフィン状をなす多結晶シリコンからなる下部電極121′がSi基板の不純物拡散領域(図示せず)上に形成されている。このフィン状の下部電極121′のアスペクト比は12以上であり、好ましくは15〜100である。この下部電極層121の上部は、RTN(Rapid Thermal Nitrization)処理を施すことにより極薄いSiNバリア層122′が形成され、その上にTaからなる誘電体層123′が形成され、さらに、その上には本発明の成膜方法で形成されたTiN薄膜からなる上部電極層124′が誘電体層123′の凹部内を含み高カバレージで形成されている。そして、上部電極層124′の上にはメタル配線層(図示せず)が形成される。
【0070】
この構造の場合にも、上部電極層124′を構成するTiN膜の成膜の際に500℃未満の低温成膜が可能であるため、熱に敏感なTaからなる誘電体層123′がダメージを受けることがなく、良好なキャパシタンスを維持することができ、キャパシタ部、延いてはメモリ素子全体の歩留りが向上する。
【0071】
次に、本発明に係るTiN薄膜をDRAM等のキャパシタ構造に用いたさらに他の例について図15を参照しながら説明する。この図15の例では、Si基板130の不純物拡散領域130aには、アモルファスSiからなる下部電極層131が接続されており、この下部電極層131の上には、シリコンにRTN(Rapid Thermal Nitrization)処理を施して形成されたSiNバリア層132を介してTaからなる誘電体層133が形成され、その上には本発明の方法により低温成膜されたTiN膜からなる上部電極層134が形成されている。そして、上部電極層134の上にはメタル配線層(図示せず)が形成されている。
【0072】
この構造の場合にも、上部電極層134を構成するTiN膜の成膜の際に450℃未満の低温成膜が可能であるため、熱に敏感なTaからなる誘電体層133がダメージを受けることがなく、良好なキャパシタンスを維持することができ、キャパシタ部、延いてはメモリ素子全体の歩留りが向上する。
【0073】
次に、本発明に係る成膜方法によって成膜されたTiN薄膜をメタル配線層のコンタクト部に用いた例について図16を参照しながら説明する。この図16の例では、Si基板上に形成された配線層等のNiSi膜140上に層間絶縁膜141が形成されており、層間絶縁膜141にはNiSi膜140に達するコンタクトホール142が形成されている。層間絶縁膜141およびコンタクトホール142にはTi薄膜143が形成され、Ti薄膜143とNiSi膜140の接合部には、Ti薄膜143側からのTiと、NiSi膜140側からのSiが相互に拡散し合うことでTiSi部140aが形成されている。Ti薄膜143の上には本発明の方法で低温成膜されたTiN薄膜144が積層されている。
【0074】
TiN薄膜144の下地となるNiSi膜140は耐熱性が低く熱に敏感であるが、本発明ではTiN薄膜144を500℃未満の低温で形成するため、NiSi膜140は熱的なダメージを受けることがなく、良好なコンタクトを形成することができる。
【0075】
このTiN薄膜144の上には例えばCuまたはWからなるメタル配線層146が形成される。このメタル配線層146はコンタクトホール142内にも充填され、TiSi部140aを介してNiSi膜140とメタル配線層146とが導通される。上述のようにTiSi部140aの低抵抗値を維持しつつ、TiN薄膜144が形成できるため、TiSi部140aを介したメタル配線層146とNiSi膜140との良好な電気的導通が達成される。なお、下地がCoSi膜の場合にも適用可能である。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限らず種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、成膜速度が遅い成膜初期の第1段階において、従来のようなインキュベーションタイムを設ける代わりに、TiClガスおよびNHガスの両方を供給する膜形成工程と、NHガスのみを供給するポストフロー工程とを交互に行っているが、局部的な成長が生じないようにTiClを還元することができれば、これに限るものではない。例えば、成膜初期の第1段階において単に還元ガスであるNHガスを所定量に増加させるだけでもよい。また、第1段階でより還元性を強化する観点から、TiClガスを流す工程と、NHガスを流す工程とを交互に行うALDの手法を用いてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、第2段階において、TiClガスおよびNHガスの両方を供給する膜形成工程と、NHガスのみを供給するポストフロー工程とを交互に行っているが、これに限るものではない。
【0078】
さらに、上記実施の形態ではTi含有化合物ガスとしてTiClを用いたが、例えば有機Ti化合物等、他のガスを用いても良い。また窒素含有還元ガスとしてNHを用いたが、MMH等の他のガスを用いても良い。さらに、上記実施の形態では、TiNの成膜に適用した場合について示したが、TaNやWN等の他の金属窒化膜にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の成膜方法は、低温でTiN膜等の金属窒化膜を成膜することができるので、DRAM等のキャパシタ構造における電極や、メタル配線層のコンタクト部等において、下地が熱的安定性や耐熱性が悪い場合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る成膜方法を実施する成膜装置の一例を示す概略構成図。
【図2】従来の付加時間(インキュベーションタイム)を加えたシーケンスを説明するための図。
【図3】従来のインキュベーションタイムを加えたシーケンスの際のトータル成膜時間と膜厚との関係を示すグラフ。
【図4】成膜温度が400℃でインキュベーションタイムを設けた場合の第1段階の成膜の状態を説明するためのモデル図。
【図5】本発明に係る成膜方法のシーケンスの一例を概略的に示す図。
【図6】成膜温度が400℃で図5のシーケンスを採用した場合の第1段階の成膜の状態を説明するためのモデル図。
【図7】本発明に係る成膜方法の一実施形態におけるガス供給シーケンスを示すタイミングチャート。
【図8】成膜温度(ウエハ温度)が400℃で、横軸に1サイクル当たりのNHガスポストフロー時間をとり、縦軸にTiN膜の抵抗値およびスループットをとってこれらの関係を示すグラフ。
【図9】(a)はNHポストフローが5secの場合のTiN膜の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真、(b)はNHポストフローが10secの場合のTiN膜の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真。
【図10】成膜温度(ウエハ温度)が400℃の際におけるTiN膜成膜のための実シーケンス例を示すタイミングチャート。
【図11】図10のシーケンスで成膜したTiN膜の断面を示す透過型顕微鏡(TEM)写真。
【図12】図10のシーケンスの第1段階を23secのインキュベーションタイムに変えたシーケンスで成膜したTiN膜の断面を示す透過型顕微鏡(TEM)写真。
【図13】本発明に係る成膜方法によるTiN薄膜をDRAM等のキャパシタ構造に用いた例を示す断面図。
【図14】本発明に係る成膜方法によるTiN薄膜をDRAM等のキャパシタ構造に用いた他の例を示す断面図。
【図15】本発明に係る成膜方法によるTiN薄膜をDRAM等のキャパシタ構造に用いたさらに他の例を示す断面図。
【図16】本発明に係る成膜方法によるTiN薄膜をメタル配線層のコンタクト部に用いた例を示す断面図。
【符号の説明】
【0081】
1…チャンバー
10…シャワーヘッド
60…ガス供給機構
62…TiClガス供給源
63…第1のNガス供給源
64…NHガス供給源
65…第2のNガス供給源
100…成膜装置
W…ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜温度に加熱された被処理基板に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより被処理基板上に金属窒化膜を直接堆積させる期間を含む第1段階と、同様に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより前記第1段階で堆積された初期の金属窒化膜の上にさらに金属窒化膜を堆積させて所定の膜厚とする第2段階とを含む成膜方法であって、
前記第1段階は、前記金属化合物ガスが、金属窒化膜の堆積が局部的に生じないように均一に還元される条件で実施されることを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記第1段階は、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記第1段階において、前記第2ステップの窒素含有還元ガスの流量は、前記第1ステップの窒素含有還元ガスの流量以上であることを特徴とする請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記金属窒化膜はTiN膜であることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記金属化合物ガスがTiClガスであり、前記窒素含有還元ガスがNHガスであることを特徴とする請求項4に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記第1段階において、前記第2ステップのNHガスの流量は、前記第1ステップのNHガスの流量よりも多いことを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記第2ステップのNHガスの流量は、500mL/min以上であることを特徴とする請求項6に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記第2ステップの時間は2秒以上であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項9】
前記第1段階は、前記金属化合物ガスを供給する第3ステップと、窒素含有還元ガスを供給する第4ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項10】
成膜の際の被処理基板の温度が500℃未満であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項11】
前記第2段階は、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項12】
成膜温度に加熱された被処理基板に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより被処理基板上に金属窒化膜を直接堆積させる期間を含む第1段階と、同様に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより前記第1段階で堆積された初期の金属窒化膜の上にさらに金属窒化膜を堆積させて所定の膜厚とする第2段階とを含む成膜方法であって、
前記第1段階および前記第2段階ともに、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すことを特徴とする成膜方法。
【請求項13】
前記第1ステップの条件および前記第2ステップの条件が前記第1段階および前記第2段階で同じであることを特徴とする請求項11に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記第1段階の第1ステップの時間が、前記第2段階の第1ステップよりも短いことを特徴とする請求項12に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記第1段階の第2ステップの時間が、前記第2段階の第2ステップよりも長いことを特徴とする請求項12に記載の成膜方法。
【請求項16】
前記第2ステップの窒素含有還元ガスの流量は、前記第1ステップの窒素含有還元ガスの流量以上であることを特徴とする請求項12に記載の成膜方法。
【請求項17】
前記金属窒化膜はTiN膜であることを特徴とする請求項12から請求項16に記載の成膜方法。
【請求項18】
前記金属化合物ガスがTiClガスであり、前記窒素含有還元ガスがNHガスであることを特徴とする請求項17に記載の成膜方法。
【請求項19】
前記第2ステップのNHガスの流量は、前記第1ステップのNHガスの流量以上であることを特徴とする請求項18に記載の成膜方法。
【請求項20】
前記第2ステップのNHガスの流量は、500mL/min以上であることを特徴とする請求項19に記載の成膜方法。
【請求項21】
前記第2ステップの時間は2秒以上であることを特徴とする請求項12から請求項20のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項22】
成膜の際の被処理基板の温度が500℃未満であることを特徴とする請求項12から請求項21のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項23】
前記第1ステップおよび前記第2ステップとからなるサイクルは、前記第2段階において1サイクル当たり1nm以下の厚さとなる条件に設定されることを特徴とする請求項22に記載の成膜方法。
【請求項24】
コンピュータに制御プログラムを実行させるソフトウエアが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、
前記制御プログラムは、実行時に、成膜温度に加熱された被処理基板に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより被処理基板上に金属窒化膜を直接堆積させる期間を含む第1段階と、同様に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより前記第1段階で堆積された初期の金属窒化膜の上にさらに金属窒化膜を堆積させて所定の膜厚とする第2段階とを含む成膜方法を実施する際に、前記第1段階は、前記金属化合物ガスが、金属窒化膜の堆積が局部的に生じないように均一に還元される条件で実施されるように、コンピュータが成膜装置を制御するソフトウエアを含む、コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体。
【請求項25】
コンピュータに制御プログラムを実行させるソフトウエアが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、
前記制御プログラムは、実行時に、成膜温度に加熱された被処理基板に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより被処理基板上に金属窒化膜を直接堆積させる期間を含む第1段階と、同様に金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給してCVDにより前記第1段階で堆積された初期の金属窒化膜の上にさらに金属窒化膜を堆積させて所定の膜厚とする第2段階とを含む成膜方法を実施する際に、前記第1段階および前記第2段階ともに、前記金属化合物ガスおよび窒素含有還元ガスを供給する第1ステップと、前記金属化合物ガスを停止して前記窒素含有還元ガスを供給する第2ステップとからなるサイクルを1サイクル以上繰り返すように、コンピュータが成膜装置を制御するソフトウエアを含む、コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2006−332139(P2006−332139A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150186(P2005−150186)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】